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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X19
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X19
管理番号 1271190 
審判番号 無効2011-890041 
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-02 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第5332443号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5332443号商標(以下「本件商標」という。)は、「靱性モルタルTYPE-1」の文字を標準文字で表してなり、平成20年5月19日に登録出願、第19類「ポリマーセメントモルタル,ポリマーコンクリート,強化繊維入りポリマーセメントモルタル,強化繊維入りポリマーコンクリート」を指定商品として、同22年6月4日に登録査定、同年6月25日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第19号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標の登録は、以下の理由により、商標法第4条第1項第10号及び同第19号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。
2 商標法第4条第1項第10号該当性
(1)「靱性モルタル TYPE-I」の説明
「靭性モルタル TYPE-I」は、請求人の主要商品(技術)である靭性モルタルライニング工法(以下「本件工法」という。)に使用される靭性モルタルの名称である。本件工法の概要は、靭性モルタル(高靭性繊維補強セメント複合材)で用水路の劣化表面を被覆するものであって、その最大の特徴は、モルタル基材・混和材・繊維の配合量の調整によって、高耐久性能が実現された靭性モルタル(靭性モルタル TYPE-I)を使用することにある。従来のポリマーセメントモルタルに用いられていた材料では、一本のひび割れが発生すると、ぜい性的な耐力の低下及びひび割れ幅の進展により耐久性が低下していた。しかし、「靭性モルタル TYPE-I」は、曲げ靭性係数が大きい材料であるため、ひび割れ抵抗性に優れ、0.05mm以下の微細なひび割れが高密度に発生することによりぜい性的な破壊や耐久性の低下が軽減され、劣化原因となる有害なひび割れがほとんど発生しないようになっている(甲第1号証)。
(2)請求人が本件工法に用いる靭性モルタルに「靭性モルタル TYPE-I」との名称を社内的に使用し始めた時期
平成17年12月8日に実施された丹野支店長、松田との打ち合わせでは、靭性モルタルの「仮名称」のうち、吹き付けて使用する材料の名称は、「靭性モルタル TYPE-I」とされ(旧DF-A)、その配合は「靭性モルタルNo.1」及び「DOM-12」とされた(甲第2号証)。
平成17年12月26日の打ち合わせでは、吹き付けて使用する高靭性微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材につき、製品名を「靭性モルタルTYPE-I」、同製品の配合物は、ポリマーとして「靭性モルタルDI」、繊維として「DOM-16D-1」とすることが決定された(甲第3号証)。
記録上、上記平成17年12月26日が、請求人が、靭性モルタルに「靭性モルタル TYPE-I」という名称を社内的に正式に使用し始めた日である。
(3)請求人が、本件工法に用いる靭性モルタルに対して「靭性モルタル TYPE-I」との名称を社外的に表示し始めた時期
ア 平成18年1月発行の請求人のパンフレット
請求人は、平成18年1月発行の本件工法のパンフレットにおいて、本件工法に使用するのは、「靭性モルタル(TYPE-I)」という名称の靭性モルタルであることを明らかにした(甲第4号証)。
平成18年1月発行のパンフレットに記載された「靭性モルタル(TYPE-I)」(以下「使用標章1」という場合もある。)は、括弧は称呼上発音されず、「靱性モルタルTYPE-1」(本件商標)及び「靭性モルタル(TYPE-I)」(使用標章1)の称呼は同一又は類似であるといえる。また、外観上の差異も、括弧の有無にすぎず、本件商標と使用標章1は同一又は類似の外観を有しているといえる。さらに、括弧の有無によって観念上の差異も生じない。したがって、本件商標は、請求人が既に社外的に表示していた使用標章1と同一又は類似の商標であるといえる。
イ 平成20年1月発行の請求人のパンフレット
請求人が平成20年1月に発行したパンフレットには、「靭性モルタル TYPE-I」(以下「使用標章2」という場合もある。)との記載がある(甲第5号証)。仮に、上記アのパンフレットに記載の使用標章1が本件商標と同一又は類似とは認められなくとも、使用標章2は、本件商標と同一であることが明らかである。
ウ 品質証明のための試験
請求人は、公共工事の受注に必要な「靭性モルタル TYPE-I」の材料承認を得るための公的な品質証明試験を、以下のとおり実施してきた。
平成18年1月23日の曲げ試験結果の資料では、「・靭性モルタル TYPE-I」、「靭性モルタルD1」、「DOM-16D-1」が記載されており(甲第6号証)、同年2月の試験報告書では、「靭性モルタル TYPE-I」の配合が「靭性モルタルDI」及び「DOM-16D-1」と記載されている(甲第7号証)。
また、平成18年10月10日の「(株)デーロスの靭性モルタルの現状」と題する書面では、公的試験に合格した材料の製品名が「靭性モルタル TYPE-I」と記載されている(甲第8号証)。
さらに、平成18年11月2日のメーカーとの打ち合わせ記録では、「靭性モルタル TYPE-I(靭性モルタルDI+繊維250g)」と記載されている(甲第9号証)。
以上のとおり、請求人が公的な品質証明試験を実施してきた対象は、一貫して「靭性モルタル TYPE-I」であり、請求人が本件工法に使用する靭性モルタルについて、上記ア、イのパンフレット以外でも、「靭性モルタル TYPE-I」との名称を第三者に表示してきたことが明らかである。
(4)本件商標の出願時における使用標章2の周知の程度
本号の需要者とは、当該商品又は役務に係る需要者、取引者であって、必ずしも一般的な消費者までの周知を要せず、その需要者のうち半数程度の周知が必要である。また、周知の地域については、一地方における周知で足りる。
ア 公共事業の実績
請求人は、平成17年度以前に13件、平成18年度に14件、平成19年度に15件、本件工法を用いた事業を受注した実績がある(甲第10号証)。これらの公共事業は、和歌山県、滋賀県、富山県、石川県など複数県で行われており、施主も多数であり、本件工法を用いた公共事業は相当広範囲に及んでいて、多くの需要者により支持されていた。具体的には、請求人は、平成18年度及び平成19年度に、国及び和歌山県が発注した和歌山県内での水路表面被覆工事のほぼ100%を受注した。さらに、請求人は、平成18年度の滋賀県内の特記がある水路表面被覆工事についても100%受注した。
前記(3)アのとおり、請求人は、平成18年1月に「靭性モルタル TYPE-I」との名称をパンフレットで使用し始めている。このパンフレットは、農政事務所・コンサルタンツ・土地改良区・地場ゼネコン・都道府県(農村整備課)・市町村他多数に配布された。その後、請求人は、材料承認を得るための公的な品質証明試験の対象を「靭性モルタル TYPE-I」としてきた。そして、本件工法は、前記(1)で述べたとおり、画期的な農水路補修方法であって、本件工法に用いられる靭性モルタルの名称が、「靭性モルタル TYPE-I」であることも、需要者の中で周知の程度が高かったものと推測できる。
イ 社団法人農業農村整備情報総合センター(以下「農業農村整備情報総合センター」という。)のホームページ及び水土里ネットでの広報
農業農村整備情報総合センターのホームページの新技術関連情報の項目において、平成18年1月24日付けで、本件工法が請求人の技術として掲載された(甲第11号証)。本件工法の新技術候補技術概要書では、本件工法に使用される靭性モルタルは、高耐久性を持った靭性モルタル(高靭性繊維補強セメント複合材)であることが明示されていた。
また、平成19年4月発行の広報水土里ネット藤崎井第8号では、和歌山県の藤崎井水路改修に、本件工法を実施することが記載された(甲第12号証)。上記広報は、水土里ネット藤崎井改良区の全組合員に配布されるものであり、その組合員数は、平成23年1月1日時点で1946名にのぼり(甲第13号証)、広報水土里ネット藤崎井第8号が配布された平成19年4月時点でもほぼ同数の組合員が存在して配布を受けたものと推測できる。
上述のとおり、平成18年1月以降、本件工法に係る靭性モルタルの名称が、「靭性モルタル TYPE-I」であることが社外的に明らかにされていた。したがって、農業農村整備情報総合センターのホームページに記載された靭性モルタルの名称や水土里ネットに記載された本件工法に使用される靭性モルタルの名称が「靭性モルタル TYPE-I」であることも、第三者が容易に知り得る状態となっていた。
よって、請求人がパンフレットを発行した平成18年1月以降に、請求人が本件工法に使用する靭性モルタルとして、「靭性モルタル」や「靭性モルタルライニング工法」の用語を用いれば、それに用いられる靭性モルタルは、「靭性モルタル TYPE-I」を指すことになるし、第三者においてもそのように認識される。本件工法が平成18年1月24日に、第三者が閲覧することが容易なインターネットのホームページに掲載され、さらに、平成19年4月に、広報誌に本件工法が掲載されることで、「靭性モルタル TYPE-I」が、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、周知の程度が一層高まったといえる。
ウ 以上のとおり、平成18年1月に、請求人の業務である本件工法に係る商品を表示するものとして「靭性モルタル TYPE-I」が最初に社外的に表示されてから、本件商標の商標出願をした平成20年5月19日までのおよそ2年半の期間中、請求人は、本件工法を用いた公共事業の受注を継続し、さらに、その後も、本件工法を紹介する平成19年1月発行のパンフレットに「靭性モルタル(TYPE-I)」(使用標章1)、平成20年1月発行のパンフレットに「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)の表示をしているのであるから、平成20年5月19日の本件商標の出願時点において、既に相当広範囲の需要者、取引者間において、本件工法に用いる靭性モルタルの名称として、「靭性モルタル TYPE-I」は周知であったといえる。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
3 商標法第4条第1項第19号該当性
仮に、本件商標が、商標法第4条第1項第10号に該当しないとしても、本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標であって、本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)が不正の目的をもって使用をするものである。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(1)使用標章2の周知性について
使用標章2は、前記2(4)のとおり、本件商標の出願日においては、近畿・北陸地方の需要者の間で広く認識されていたといえる。
(2)本件商標権者の不正目的について
ア 森井氏の地位
本件商標権者の代表取締役である森井直治氏(以下「森井氏」という。)は、平成16年6月1日から平成19年12月24日までの間、請求人の代表取締役であった(甲第14号証)。森井氏は、前記2(3)アのパンフレットの発行(平成18年1月)、ウの公的な品質証明試験の実施、同(4)アの公共事業の受注(平成17年から平成19年にかけて)及びイのホームページ及び広報誌への掲載(平成18年1月24日及び平成19年4月)について、最終的な確認をしており、「靭性モルタル TYPE-I」が請求人の業務に係る商品を表示するものであることを当然に熟知していた。
イ 森井氏の行動
森井氏は、請求人の代表取締役を退任したわずか5か月後に、本件商標権者を出願人として、本件商標を出願した(甲第15号証)。さらに、本件商標が登録されるや5か月も経過しないうちに、本件商標権者を通じて、請求人に対して警告書を送付した(甲第16号証)。以上の同氏の行動は、本件商標の出願が不正目的によって行われたことを推測させるものである。すなわち、同氏は、以下の経緯で請求人の代表取締役を退任しており、かかる経緯によれば、同氏が代表取締役を務める本件商標権者の出願が不正目的によって行われたものと考えるのが相当である。
(ア)請求人は、土木建設業等を目的とする株式会社であり、田中建設株式会社(以下「田中建設」という。)が株式会社デーロス(以下「旧デーロス」という。)を吸収合併して、平成16年6月1日に設立されたものである。田中建設社長の田中氏が合併後の請求人の代表取締役会長、旧デーロスを設立した森井氏が請求人の代表取締役社長に就任した。
(イ)本件商標権者は、平成7年5月15日に森井氏らによって設立された会社であり、同氏が平成11年12月より現在に至るまで代表取締役を務めている(甲第17号証)。
(ウ)合併後、請求人は、本件工法及び本件工法に用いる「靭性モルタル TYPE-I」の開発のために、多くの人的・物的資源を投入した(甲第18号証)。
(エ)森井氏は、請求人の上記補修用製品の調達に関し、原材料メーカーと請求人との間に本件商標権者を介在させる契約を締結し、本来支払わなくてよいはずの利益が、請求人の負担において本件商標権者に流れるような仕組みを作り出した。すなわち、同氏は、本件商標権者が原材料メーカーから製品を一旦購入して、その製品を本件商標権者が請求人に販売するという契約を締結し、全くのペーパーカンパニーであり実際には何もしない本件商標権者が、請求人が本来得るべき利益の大半を得られるような仕組みを作り上げた。
(オ)平成19年1月ないし3月ころ、請求人の第47期(平成18年6月1日ないし平成19年5月31日)のメンテナンス事業部の損益が、大幅な赤字決算になることがほぼ確実となった。その原因を社内で探っていたところ、本件商標権者との取引が要因の一つであることがほぼ明らかになった(甲第19号証)。
平成19年7月ころ、請求人の代表取締役会長の田中氏が、森井氏に対して、本件商標権者との取引が背任行為になる可能性を指摘し、田中氏の指示により、請求人の社内で、原材料メーカーから直接材料を購入することが検討された。しかし、当時、請求人は、水路ライニング工法を用いた公共工事の発注を目前に控えており、材料調達上のトラブルを避けなければならない状況にあり、即座に本件商標権者を排除することは困難であった。そこで、請求人の経営陣は、森井氏に、請求人と本件商標権者との間で業務提携契約を締結するという互いに譲歩する方向での問題解決を持ちかけたが、これに対し、同氏は一向に応じず、同氏が請求人の代表取締役に留まっていれば問題解決が見込めないことから、平成19年10月ころ、田中氏は、森井氏に対して、代表取締役退任の意向を伝えた。平成19年12月、森井氏は、請求人の代表取締役を退任した。
取締役は、株式会社を代表するのであるから(会社法第349条第1項)、本件商標権者の出願行為は、森井氏が本件商標権者を代表して行った行為であって、株式会社である本件商標権者の出願時の内心は、会社代表者である同氏の内心により決せられる。
以上の森井氏が代表取締役退任に至る経緯から、同氏は、請求人の現経営陣に対して不満を持ち、請求人の主力工法である本件工法の実施及び拡販を阻害して、請求人及びその経営陣に対して損害を与える目的で、本件商標権者を通じて出願したと考えられる。すなわち、請求人は、「靭性モルタル TYPE-I」の材料承認を得るための公的な品質証明試験を、多くの時間と費用をかけて実施しており、「靭性モルタル TYPE-I」が請求人以外の者に商標登録されると、請求人は、材料承認を得られず、公共工事の受注が困難となり、同人に多大な損害が発生することになる。
加えて、出願時に既に周知となっていた「靭性モルタル TYPE-I」は、従来の繊維入りポリマーセメントモルタルよりも耐久性に優れた画期的な製品であるため、森井氏が、自己の業務に係る商品を表示するものとして当該商標を登録すれば、本件商標権者は、当該商標が有する商品識別機能、出所表示機能にただ乗りすることができる。したがって、森井氏には、他人に損害を加える目的のみならず、自らが代表取締役を務める本件商標権者を通じて不正の利益を得る目的も認められる。よって、本件商標権者にも、不正の利益を得る目的が認められる。
さらに、森井氏は、それまで原材料メーカーと請求人との間に本件商標権者を介在させて、本件商標権者を通じて利益を得ていたが、それが明るみに出て、今後、利益が得られる見込みがなくなることがわかると、請求人からの取引形態を改善するための業務提携の持ちかけにも応じていない。さらに、請求人としても、同人の主力工法である本件工法の実施及び拡販を阻害するような行動を、それまで同人の代表取締役を務めていた森井氏がとるとは想定し得ない。したがって、森井氏は、取引上の信義則にも違反している。よって、本件商標権者の取引上の信義則違反も認められる。
以上より、本件商標権者を通じた森井氏の行動からして、本件商標権者には、請求人の主力工法の実施及び拡販を阻害して同社及びその幹部に損害を与えるという目的、周知商標である当該商標を自己の商標として登録して不正の利益を得る目的並びに取引上の信義則違反が認められるため、本件商標は、不正使用目的で出願されたものといえる。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、乙第1号証及び乙第2号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標の出願時である平成20年5月19日において、使用標章1又は使用標章2が請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されているとは認められない。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当せず、本件審判請求は成り立たない。
2 使用標章について
請求人は、平成18年1月発行の「靭性モルタルライニング工法」のパンフレット(甲第4号証)で使用標章1を、平成20年1月発行の「靭性モルタルライニング工法」のパンフレット(甲第5号証)で使用標章2をそれぞれ社外的に表示したと主張し、さらに、甲第6号証ないし甲第9号証を挙げて、材料承認を得るための公的な品質証明試験において、使用標章2を第三者に表示してきたと主張する。
確かに、使用標章2は、本件商標と類似する商標である。
しかしながら、使用標章1は、本件商標とは非類似の商標である。すなわち、使用標章1は、括弧により敢えて「靭性モルタル」と「TYPE-I」とを分離する態様であり、一連一体の本件商標とは外観、称呼、観念のいずれにおいても非類似の商標だからである。また、同様の理由で、使用標章1は、使用標章2とは非類似の商標である。
したがって、使用標章1は、本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当するか否かの判断において何ら関係がない。
また、請求人の「使用標章1の使用」と「使用標章2の使用」とは別個独立に判断されるべきものである。
3 引用商標の使用態様について
(1)請求人は、平成18年1月発行のパンフレット(甲第4号証)で使用標章1を、平成20年1月発行のパンフレット(甲第5号証)で使用標章2をそれぞれ社外的に表示したと主張する。
しかしながら、そもそも使用標章1は、本件商標とは非類似の商標である。
加えて、甲第4号証及び甲第5号証は、いずれも「靭性モルタルライニング工法」という請求人の役務の名称を公示するのみである。すなわち、これらパンフレットに記載の「靭性モルタル(TYPE-I)」(使用標章1)及び「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)は、請求人の役務(工法)に用いる材料(靭性モルタル)の名称を示したにすぎず、「請求人の役務」についての使用ではない。さらに、甲第4号証及び甲第5号証は、「靭性モルタル」の販売等を目的としたパンフレットでないことは明らかであり、該パンフレットヘの使用標章1又は使用標章2の記載は「請求人の商品」についての使用でもない。
よって、甲第4号証及び甲第5号証において、請求人が使用標章1又は使用標章2を商標として使用していた事実は見出せず、請求人は、使用標章1又は使用標章2を単に自身の役務に使用する材料名として記載したにすぎない。
(2)また、請求人は、甲第6号証ないし甲第9号証を挙げて、材料承認を得るための公的な品質証明試験において、使用標章2を第三者に表示してきたと主張する。
しかしながら、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証は、いかなる第三者に表示したものか不明である。さらに、甲第7号証は、社団法人建築研究振興協会(以下「建築研究振興協会」という。)に対して「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)に関する試験を依頼した事実がうかがえるが、当該試験の対象が「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)という名称の材料であることが表示されているのみで、この表示は何ら商標の使用に当たらない。すなわち、上記建築研究振興協会等の試験機関は「請求人の役務(工法)」や「請求人の商品(靭性モルタル)」の取引者でも需要者でもなく、いくら本件工法で使用する材料名を試験機関に表示しても商標としての使用とはなり得ないからである。
よって、甲第6号証ないし甲第9号証において、請求人が使用標章2を商標として使用していた事実は見いだせない。
(3)なお、請求人は、甲第1号証を挙げ、本件工法で使用する「靭性モルタル」の名称が「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)であることを説明しているが、甲第1号証には「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)の記載は全く発見できない。また、甲第2号証及び甲第3号証は、請求人の社内文書であり、内容の真偽が不明であると共に、商標の使用を証明する証拠とはなり得ない。
4 引用商標の周知の程度について
(1)前記2及び3で述べたように、そもそも使用標章1は、本件商標とは非類似の商標である。
加えて、請求人は、使用標章1又は使用標章2を商標として使用しておらず、当然に使用標章1又は使用標章2は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして周知となり得ない。
(2)請求人は、本件工法に関する「公共事業の実績」(甲第10号証)を挙げて周知の程度が高かったものと推測すると主張する。
しかしながら、請求人は、甲第10号証で示す各公共事業において使用標章1又は使用標章2を商標として使用した事実を何ら証明していない。
請求人は、パンフレット(甲第4号証、甲第5号証)又は材料承認試験の資料(甲第6号証ないし甲第9号証)における使用標章1又は使用標章2の記載を主張するのみであり、これらの記載は、前記のとおり、商標としての使用ではなく、単に請求人の役務に使用する材料の公示であり、上記パンフレット等への記載の一事をもって周知ということはできない。
よって、請求人が何ら使用標章1又は使用標章2の商標としての使用事実を証明していない公共事業の実績をいくら挙げたとしても、使用標章1又は使用標章2の周知性を立証することはできない。
(3)請求人は、農業農村整備情報総合センターのホームページ(甲第11号証)及び水土里ネットでの広報(甲第12号証、甲第13号証)で、本件工法が紹介されたことを挙げて、使用標章2の周知の程度が一層高まったと主張する。
しかしながら、甲第11号証ないし甲第13号証のいずれにも「靭性モルタルTYPE-I」(使用標章2)の記載は全く発見できない。
また、請求人は、本件工法に係る「靭性モルタル」の名称が「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)であることが社外的に明らかにされていたとし、本件工法に使用される靭性モルタルの名称が「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)であることを第三者が容易に知り得る状態となっていたと主張する。
しかしながら、上記主張は「公知」と「周知」とを混同しており、明らかに失当である。
よって、甲第11号証ないし甲第13号証によって、使用標章1又は使用標章2の周知性を立証することはできない。
(4)仮に請求人が使用標章1又は使用標章2を商標として使用していたとしても、使用標章1については、平成18年1月から使用を開始し、平成20年1月には使用をしていなかったと考えられるため、使用期間は多く見積もっても2年間ほどであり、かつ、本件商標の出願時には使用していない。
また、使用標章2については、平成20年1月に使用を開始し、本件商標の出願時の平成20年5月19日までにはわずか4月間ほどの使用である。
よって、請求人が使用標章1又は使用標章2を商標として使用していたと仮定しても、それぞれの使用期間はわずかであり、この期間で使用標章1又は使用標章2が周知性を獲得するとは考え難い。
(5)付言すると、請求人の前身である田中建設と本件商標権者とは、平成16年6月1日の請求人の設立より以前から材料取引を行っており、「合併に伴う確認書」(乙第1号証)に示すように、田中建設の代表者である田中氏と本件商標権者の代表者である森井氏との間で、請求人の設立後も本件商標権者は取扱い商品等の供給を行うと共に、田中氏が本件商標権者の継続的な事業展開に協力する旨が確認されている。上記確認書に基づき、請求人は、販売元の本件商標権者から本件商標を付した靭性モルタルを購入し(乙第2号証)、本件工法に使用していたにすぎず、使用標章1又は使用標章2が請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識される根拠は全く存在しない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標の出願時である平成20年5月19日において、使用標章1又は使用標章2が請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されている事実は見いだせない。
また、請求人が主張する「本件工法に使用する靭性モルタルとして、『靭性モルタル』や『靭性モルタルライニング工法』の用語を用いれば、それに用いられる靭性モルタルは、『靭性モルタル TYPE-I』を指すことになる」との認識は全く定着していない。本件工法には様々な材料を用いた工法が存するのであり、請求人の上記主張は明らかに失当である。
したがって、使用標章1又は使用標章2は、本件商標の出願時において周知性を有するものではなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当しないことは明白である。
なお、請求人は、甲第14号証ないし甲第19号証を挙げて、本件商標権者に不正目的がある旨主張するが、実態は乙第1号証及び乙第2号証に示すとおりであり、また、使用標章1又は使用標章2が周知性を有するものでない以上、判断するまでもないことである。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第10号について
(1)使用標章1及び使用標章2の周知性について
ア 甲第1号証ないし甲第14号証及び甲第18号証によれば、以下のとおりである(なお、上記証拠中の本件工法等における「靭性」の文字について、「靭」の文字と「靱」の文字が混在しているが、「靱」は「靭」の俗字であり、また、当事者の主張のほとんどにおいても「靭」の文字が用いられているから、本件商標の構成を述べるとき以外は、以下、「靭」の文字で表す。)。
(ア)「靭性モルタルライニング工法/高靭性繊維補強セメント複合材を利用した農業用水路補修工法/株式会社デーロス」と題する書面(甲第1号証)には、「靭性モルタル(高靱性繊維補強セメント複合材)」について「高靭性繊維補強セメント複合材は、土木学会『コンクリート小委員会』で研究開発された最新技術の材料です。セメント系材料と短繊維を用いた複合材であり、微細で高密度の複数ひび割れを形成する高靭性材料です。」と記載(2ページ)され、本件工法の施工実績が記載(12ページ)されている。
(イ)請求人が2006年(平成18年)1月に作成した「農業用水路補修工法 靭性モルタルライニング工法」と題するパンフレット(甲第4号証)の2枚目の左には、「靭性モルタルライニング工法とは」「靭性モルタルライニング工法は、特殊軽量ポリマーセメントモルタルにビニロン繊維を混入した靭性モルタルを使用することにより、高い耐久性・耐摩耗性を発揮する新しいライニング工法です。」と記載され、1枚目の左には、「靭性モルタルの社内規格値」「名称:靭性モルタル(TYPE-I)」と記載されている。
また、請求人が2008年(平成20年)1月に作成した「農業用水路補修工法 靭性モルタルライニング工法」と題するパンフレット(甲第5号証)の「靭性モルタルライニング工法の概要」(2ページ)には、「靭性モルタルライニング工法は、高靭性繊維補強セメント複合材を用いた、無機系農業用水路ライニング工法です。主材料である靭性モルタルは、高い耐久性と耐磨耗性を有し、吹付け施工で凹凸部へ確実に充填する工法です。」と記載され、また、「仕様」の項目(3ページ)に、「《物性値》(靭性モルタルTYPE-I)」と記載されている。
(ウ)請求人が平成22年4月1日改訂として作成した「靭性モルタルライニング工法/施工実績表」(甲第10号証1)には、平成17年度から平成21年度にかけて約70件の事業が記載されている。
(エ)社団法人農業農村整備情報総合センターのホームページの新技術関連情報の項(甲第11号証)には、「技術の名称:靭性モルタルライニング工法」、「会社名:株式会社デーロス」、「新技術掲載日:2006年1月24日」として、本件工法が紹介されている。
また、平成19年4月発行の「広報 水土里ネット 藤崎井」(甲第12号証)において、和歌山県の藤崎井水路改修に平成17年から本件工法が用いられていることが掲載された。
しかしながら、これらには、使用標章1及び使用標章2の表示は見当たらない。
(オ)平成23年5月20日付けの請求人の「閉鎖事項全部証明書」(甲第14号証)には、「役員に関する事項」欄に「石川県金沢市(以下略)代表取締役 森井直治」の記載があり、平成16年6月1日に就任し、平成19年12月24日に退任した旨の記載がある。
(カ)平成23年5月13日付けの被請求人の「履歴事項全部証明書」(甲第17号証)には、「役員に関する事項」欄に「石川県金沢市(以下略)代表取締役 森井直治」の記載があり、平成19年8月3日に就任し、前記の日まで在籍している旨の記載がある。
(キ)請求人は、本件工法に使用される高靭性繊維補強セメント複合材について、以下のように、販売体制の検討、品質証明試験、試験施工等を行い、また、その製品名についても変更をしてきた。
a 平成16年7月6日付け「主力商品販売戦略(案)」(甲第18号証1)には、「1.商品名:『高靭性モルタル』の一般名称としたい。『デーロスNO.1』でも良い・・?」などと記載されている。
b 「当社の商品」(甲第18号証2)の2枚目には、右上に「株式会社デーロス」、左に「大区分」として「2 断面修復工法」、「自社施工工法」として「高靭性モルタル打ち替え工法」「高靭性モルタル吹付け工法」「高靭性モルタル注入充填工法」、右下に「2004/7/9」などと記載されている。
c 平成16年7月16日付け社内間でのFAX2ページの「農業水路コンクリート断面修復材 一覧表」(甲第18号証3)には、様々な材料を用いた商品の特長、作業性、物性などが記載されている。
d 2004年8月4日付け「事業所連絡会」(甲第18号証4)には、「1 製品販売価格案」「2 販売仕切(案)」、その2ページには、「レンダロックHB25M販売価格設定(案)検討について」「平成16年7月」などと記載されている。
e 平成16年8月28日付け「メンテナンス事業部 販売体制の整備について 第2回」(甲第18号証5)の1ページには「1.5 DOM-FRCC(ビニロン繊維)の流通」の項に「特殊繊維をセメント(レンダロックHB25(M)→レンダロックDF)に混入したモルタルを販売商品とする この商品を『靭性モルタル』と称する。H16.8.28決定」と記載されている。さらに、「4.※商標登録の件」の項(4ページ)には、「H16.8.28決定」「下記の名称は、商標登録できるかどうか?/靭性モルタル・高靭性モルタル・超靭性モルタル」「※社長、8/27弁理士相談の結果、『靭性モルタル』は一般名称であり登録できない。ただし、その後に何かを加えればOKである。よって、他社も登録できないのでこのまま『靭性モルタル』の名称を使用する。」と記載されている。
f 平成16年9月8日付け「メンテナンス事業部 販売体制の整備について 第3回」(甲第18号証6)の「7 農業関係材料.工法営業について」の項(3ページ)には、「農業用水路に使用する場合、『磨耗試験』が必要である。靭性モルタルを試験してほしい。」と記載されている。
g 「平成17年1月メンテナンス事業部会(材料研究室)」の「6.農業水路補修用靭性モルタル試験」(甲第18号証8、3ページ)には、「課題2.耐摩耗性以外の性能 資料検討中」と記載されている。
h 平成17年2月20日付け「靭性モルタルの製品販売について」(甲第18号証9)には、「1.レンダロックHB25Mの名称はもうない。/・・当社では、靭性モルタルの繊維混入量を分かりやすくするため、靭性モルタル(DF-15)と名称を変更しています。」と記載されている。
i 平成17年2月8日作成の「靭性モルタルの繊維混入量について」(甲第18号証10)には、繊維等の混入量別に「靭性モルタルDF-15」「靭性モルタル(コテタイプ)」「靭性モルタル(?)」「靭性モルタル(サイバー用)」の4種類があることが記載されている。
j 「中央幹線水路試験施工計画書/株式会社デーロス」(甲第18号証11)の「1.試験施工の目的」(2ページ)には、「材料特性の異なる3種類の無機系材料を用いて、施工性や耐久性の比較・検討も行うものとする。今回試験施工に用いる材料は以下に示す3タイプの材料を使用する。」として、「TYPE-1」「TYPE-2」「TYPE-3」と記載され、そのうちの「TYPE-1」の「材料名」には、「靭性モルタル」と、「TYPE-2」の「材料名」には、「ライオンGRLC」と、「TYPE-3」の「材料名」には、「CF-1000」と、それぞれ記載されている。
k 「芹谷野用水路(Cブロック)試験施工計画書/平成17年3月/砺波工業株式会社」(甲第18号証12)の「1.試験施工の目的」(2ページ)には、「最近土木構造物の補修用新材料として高耐久性の無機材料である『靭性モルタル』が注目されており、この『靭性モルタル』を水路内面のライニング材として用いた場合の可能性を検討するために試験施工を行う。」と記載され、「5.使用材料・使用機械」(5ページ)の「1)使用材料」には、「名称」欄に「無機ライニング材」、「製品名」欄に「靭性モルタル」、「規格」欄に「高耐久性軽量ポリマーセメントモルタル」と記載されている。
l 「平成17年4月 メンテナンス事業部会(材料研究室)」(甲第18号証13)には、「1.農業用水路ライニング工法に関する研究」として、様々な試験が実施された、あるいは実施予定であることが記載されている。
m 平成17年6月8日作成の「靭性モルタルの書類提出要領」(甲第18号証15)の「1)名称」には、「靭性モルタルは、工種により種別する。/靭性モルタル DF(断面修復用)、靭性モルタル DF-S(剥落防止工法 サイバーメッシュ工法)、靭性モルタル DF-A(農業用水工法 靭性モルタルライニング工法)」と記載されている。
また、平成17年10月1日作成の「靭性モルタル種類・販売価格・取扱いについて」(甲第18号証17)の「3)販売について」の項(2ページ)における別紙(平成17年8月1日付け「靭性モルタル販売価格」)には、「農業用水路用」として「靭性モルタル(DF-A)」の販売価格が記載され、その下段には、「注)※靭性モルタルは、レンダロックDFと繊維のセット販売です。単品販売はしません。(厳守)」と記載されている。
n 請求人は、平成17年10月に「虎姫支線水路 変更試験施工計画書/(靭性モルタルライニング工法)」(甲第18号証18)を、また、平成17年11月に「東播用水合流幹線水路開水路補修、更正工法実験展示/施工計画書」(甲第18号証23)を作成した。
o 「平成17年12月8日打合せ事項」(甲第18号証24 甲第2号証と同一の証拠)には、「靭性モルタル仮名称」の「使用」欄の「吹付け」の項には、「一般名称」欄に「高靭性繊維補強セメント複合材」、「材料名称」欄に「靭性モルタルTYPE-I」、「配合」欄に「靭性モルタルNo.1 DOM-12」、「備考」欄に「旧DF-A」と記載されている。
また、「靭性モルタルライニング工法の打合せ」(甲第18号証25 甲第3号証と同一の証拠)には、「日時:平成17年12月26日」の記載があり、「6)材料の名称変更について」(2ページ)には、「一般名称」として「高靭性微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材」、「仕様」として「吹付け」、「製品名」として「靭性モルタルTYPE-I」、「配合物名称/ポリマー」として「靭性モルタルDI」、「配合物名称/繊維」として「DOM-16D-1」、「備考」として「断面/農業/薄塗り」と記載されている。また、同一の一般名称で「仕様」が「流し込み」の製品名として、「靭性モルタルTYPE-II」と記載されている。
p 「カタログの打合せについて」(甲第18号証26)には、「打合日:平成18年2月7日」の記載があり、靭性モルタルの総合カタログを作成すること、農水用TYPE-1は、「靭性モルタルライニング工法」のカタログを使用することなどが記載されている。
q 2006年(平成18年)10月10日付けの「(株)デーロスの靭性モルタルの現状」(甲第18号証30 甲第8号証と同一の証拠)の「1.公的試験に合格した材料」の項には、「製品名」として「靭性モルタルTYPE-I」と記載されている。
r さらに、「靭性モルタルTYPE-I(「TYPE-1」と記載されている場合もある。)」の文字が、平成18年6月ころまでの様々な品質証明試験結果や報告書等に記載されている(甲第18号証31ないし34、38ないし44、47ないし49及び51ないし60。なお、甲第18号証31は甲第9号証と、甲第18号証39は甲第6号証と、甲第18号証44は甲第7号証と、それぞれ同一の証拠である。)。
イ 前記アによれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)請求人は、土木学会「コンクリート小委員会」で研究開発された高靭性繊維補強セメント複合材を利用した「靭性モルタルライニング工法」(本件工法)によって農業用水路補修工事を行っていた(前記ア(ア))。
(イ)平成19年8月3日に被請求人の代表取締役に就任した森井氏は、平成16年6月1日ないし平成19年12月24日まで請求人の代表取締役であった(前記ア(オ)、(カ))。
(ウ)本件工法に使用される高靭性繊維補強セメント複合材は、請求人社内で、本件工法の材料として使用検討が開始された当初の平成16年7月ころは、「高靭性モルタル」であったが、同年8月28日に、「靭性モルタル」と変更した(前記ア(カ)a、e)。
なお、「靭性モルタル」の名称に変更した当時、請求人は、「靭性モルタル」が一般的な名称であると理解していたことがうかがえる(前記ア(カ)e)。
さらに、平成17年12月8日付け社内打合せにおいて、高靭性繊維補強セメント複合材について、「靭性モルタル TYPE-I」と仮称し、同月26日付けの社内打合せにおいて、「高靭性微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材」について、製品名を「靭性モルタル TYPE-I」とした(前記ア(カ)o)。
なお、請求人が2008年(平成20年)1月に作成した「農業用水路補修工法 靭性モルタルライニング工法」と題するパンフレット(甲第5号証)には、「靭性モルタルライニング工法は、高靭性繊維補強セメント複合材を用いた、無機系農業用水路ライニング工法です。」との記載があり、「高靭性微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材」と「高靭性繊維補強セメント複合材」とは、同種のものと推測される。
(エ)請求人は、本件工法に使用される高靭性繊維補強セメント複合材について、平成16年ころから材料の配合などの研究・品質証明試験・試験施工を行い、その製品名が「靭性モルタル TYPE-I」となった平成17年12月以降から平成18年6月ころまでの間にも、様々な試験を繰り返し行った(前記ア(カ)r)。
(オ)請求人は、本件工法に使用する材料の製品名として、「靭性モルタル(TYPE-I)」と記載された「農業用水路補修工法 靭性モルタルライニング工法」と題するパンフレットを2006年(平成18年)1月に、「靭性モルタルTYPE-I」と記載された「農業用水路補修工法 靭性モルタルライニング工法」と題するパンフレットを、2008年(平成20年)1月にそれぞれ作成した(前記ア(イ))。
しかしながら、同パンフレットの作成部数や頒布方法などは明らかではない。
(カ)請求人は、本件工法を用いた農業用水路補修工事を、平成17年度以前から平成21年度にかけて、約70件の事業を受注したと推認することができる(前記ア(ウ))。
しかしながら、本件工法に使用される「高靭性繊維補強セメント複合材(高靭性微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材)」の製品名を、「靭性モルタルTYPE-I」と変更した平成17年12月26日から本件商標の登録出願の日(平成20年5月19日)までに、上記工事において、使用標章1又は使用標章2が表示された「高靭性繊維補強セメント複合材(高靭性微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材)」が使用されたと認め得る証拠の提出はない。
また、農業農村整備情報総合センターのホームページの新技術関連情報や「広報 水土里ネット 藤崎井」において、本件工法が紹介されているものの、これらには、使用標章1又は使用標章2の記載はない(前記ア(エ))。
(キ)請求人は、甲第18号証1、5、6、9、15及び17等に示すとおり、他社が施工する農業用水路補修工事等において、自社製品である「高靭性繊維補強セメント複合材」の販売を検討していたと推認することができる。
しかしながら、使用標章1又は使用標章2が表示された商品「高靭性繊維補強セメント複合材(高靭性微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材)」の販売実績を示す証拠の提出はない。
ウ 以上を総合すると以下のとおりである
(ア)請求人が本件商標の登録出願の日(平成20年5月19日)前に、本件工法に使用される「高靭性繊維補強セメント複合材」について使用標章1又は使用標章2を用いて需要者に示したと推認し得るのは、2006年(平成18年)1月及び2008年(平成20年)1月に作成したパンフレットのみであり、それらにおける使用標章1及び使用標章2の表示は、小さく目立たないものであるし、また、それらの作成部数や頒布方法などは明らかではない。
その他、請求人が、「高靭性繊維補強セメント複合材」について使用標章1又は使用標章2を用いて需要者に示したと認めるに足りる証拠の提出はない。
そうすると、請求人は、「高靭性繊維補強セメント複合材」について、材料の配合などの研究・品質証明試験・試験施工等を行ってきたことは認め得るものの、これに使用される使用標章1又は使用標章2を需要者に示したと認めるに足りる証拠は極めて乏しいものといわざるを得ない。
さらに、使用標章1及び使用標章2が、請求人の業務に係る役務「農業用水路補修工事」の用に供する材料又は商品「高靭性繊維補強セメント複合材」を表示するものとして、本件商標の登録出願の時ないし登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたと認めるに足りる証拠の提出はない。
そうとすれば、「靭性モルタル(TYPE-I)」(使用標章1)及び「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)は、請求人の業務に係る商品「高靭性繊維補強セメント複合材」又は役務「農業用水路補修工事」の用に供する材料を表示するものとして、本件商標の登録出願の時ないし登録査定時に需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
(イ)請求人の主張について
請求人は、平成18年1月に、請求人の業務である本件工法に係る商品を表示するものとして「靭性モルタル TYPE-I」が最初に社外的に表示されてから、本件商標の商標出願の日までおよそ2年半が経過し、この間、請求人は、本件工法を用いた公共事業の受注を継続し、その後も、本件工法を紹介する平成18年1月発行のパンフレットに「靭性モルタル(TYPE-I)」(使用標章1)、平成20年1月発行のパンフレットに「靭性モルタル TYPE-I」(使用標章2)の表示をしているから、「靭性モルタルTYPE-I」は、本件商標の出願時点で既に相当広範囲の需要者、取引者間において、本件工法に用いる靭性モルタルの名称として周知であった旨主張する。
しかしながら、前記イの認定のとおり、農業農村整備情報総合センターのホームページの新技術関連情報や「広報 水土里ネット 藤崎井」には、本件工法が紹介されているものの、これらには、使用標章1又は使用標章2の掲載はなく、また、本件工法に使用される「高靭性繊維補強セメント複合材(高靭性微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材)」の製品名を、「靭性モルタル TYPE-I」と変更した平成17年12月26日から本件商標の登録出願の日(平成20年5月19日)までに請求人が施工した工事においても、使用標章1又は使用標章2が表示された「高靭性繊維補強セメント複合材(高靭性微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材)」が使用されたと認め得る証拠の提出はない。
さらに、パンフレットにおける使用標章1及び使用標章2は、本件工法等の記載に比べ、小さく表示されているばかりでなく、パンフレットの作成部数や頒布方法等明らかではないことを併せて考慮すれば、前記認定のとおり、使用標章1及び使用標章2は、本件商標の登録出願の時ないし登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
したがって、上記に関する請求人の主張は、採用することができない。
(2)本件商標と使用標章1及び使用標章2の類否
本件商標は、前記第1のとおり「靱性モルタルTYPE-1」の文字からなり、その構成全体に相応し「ジンセイモルタルタイプワン」の称呼を生じ、「粘り強いモルタルのタイプ1」のごとき意味合い(観念)を認識させるものである。
一方、使用標章1及び使用標章2は、「靭性モルタル(TYPE-I)」及び「靭性モルタルTYPE-I」の文字からなり、その構成文字に相応しいずれも「ジンセイモルタルタイプワン」の称呼を生じ、「粘り強いモルタルのタイプ1」のごとき意味合い(観念)を認識させるものである。
そして、本件商標と使用標章1及び使用標章2とは、外観において、それぞれ上記のとおりの構成からなるものであり、「()」の有無、「1」と「I」の差異を有するものの、他の構成文字を共通にするものであるから外観上類似するものといえる。
また、両者は、「ジンセイモルタルタイプワン」の称呼、「粘り強いモルタルのタイプ1」のごとき意味合い(観念)を共通にするものである。
してみれば、本件商標と使用標章1及び使用標章2とは類似のものというべきである。
(3)本件商標の指定商品と使用標章1及び使用標章2を使用する商品の類否
本件商標の指定商品は、「ポリマーセメントモルタル,ポリマーコンクリート,強化繊維入りポリマーセメントモルタル,強化繊維入りポリマーコンクリート」であり、使用標章1及び使用標章2を使用する商品は、「高靭性繊維補強セメント複合材」である。
そうとすれば、使用標章1及び使用標章2を使用する商品は、本件商標の指定商品に含まれるとみて差し支えない。
(4)まとめ
本件商標と使用標章1及び使用標章2が商標において類似し、かつ、本件商標の指定商品と使用標章1及び使用標章2を使用する商品「高靭性繊維補強セメント複合材」とが商品において類似するとしても、前記(1)認定のとおり、使用標章1及び使用標章2は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標と認められないから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものということはできない。
2 商標法第4条第1項第19号について
(1)使用標章1及び使用標章2の周知性
使用標章1及び使用標章2が、請求人の業務に係る役務「農業用水路補修工事」の用に供する材料又は商品「高靭性繊維補強セメント複合材」を表示するものとして、本件商標の登録出願の時ないし登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたと認められないことは、前記1(1)認定のとおりである。
(2)不正の目的
ア 乙第1号証及び乙第2号証によれば、以下のとおりである。
(ア)田中建設の代表取締役であった田中氏と旧デーロスの代表取締役であった森井氏との間で森井氏が所有する有限会社ビルドランド(本件商標権者)は、田中建設が旧デーロスを吸収合併した後、新会社(請求人)発展のため取扱い商品等の供給を行うことを平成19年10月25日に合意した(乙第1号証)。
(イ)本件商標権者から請求人に宛てた平成19年10月ないし平成20年3月までの「総括請求書」に添付された各工事の納品「名称」欄には、「靭性モルタルTYPE-1」の記載があることから本件商標権者は、前記確認書に基づき、請求人に「靭性モルタルTYPE-1」(高靭性繊維補強セメント複合材)を少なくとも平成19年10月から平成20年3月まで供給していたと認められる(乙第2号証)。
イ してみると、本件商標権者は、確認書に基づき、本件商標の登録出願前から請求人に「靭性モルタルTYPE-1」(高靭性繊維補強セメント複合材)を供給していたのであるから、森井氏及び本件商標権者が本件工法の実施及び販売を阻害して請求人等に対して損害を与える目的で本件商標の出願をしたと認めることはできない。
また、本件商標が不正の利益を得る目的、請求人に損害を加える目的、その他の不正の目的をもって使用するものであると認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、本件商標は、不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものということはできない。
3 むすび
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号及び同第19号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2011-12-28 
結審通知日 2012-01-10 
審決日 2012-02-01 
出願番号 商願2008-38259(T2008-38259) 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (X19)
T 1 11・ 222- Y (X19)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 敏 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 小畑 恵一
瀧本 佐代子
登録日 2010-06-25 
登録番号 商標登録第5332443号(T5332443) 
商標の称呼 ジンセーモルタルタイプイチ、ジンセーモルタルタイプ、ジンセーモルタル、ジンセー、モルタルタイプ、タイプ 
代理人 大塚 千代 
代理人 安田 嘉太郎 
代理人 市橋 俊一郎 
代理人 片山 裕介 
代理人 三田 大智 
代理人 中畑 孝 

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