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審決分類 審判 全部無効 商8条先願 無効としない X14
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X14
審判 全部無効 観念類似 無効としない X14
審判 全部無効 称呼類似 無効としない X14
管理番号 1271176 
審判番号 無効2011-890084 
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-09-28 
確定日 2013-03-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第5300235号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
登録第5300235号商標(以下「本件商標」という。)は、「Deep Sea Driver」及び「ディープシードライバー」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成21年7月16日に登録出願、第14類「時計,時計の部品及び付属品」を指定商品として、同21年12月11日に登録査定、同22年2月12日に設定登録されたものである。

2 引用商標
請求人が引用する登録商標は、以下のものであり、現に有効に存続するものである。
(1)登録第4146855号商標(以下「引用商標1」という。)は、「DEEP SEA」の文字を書してなり、平成8年9月10日に登録出願、第14類「時計,貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶・水盤・針箱・宝石箱・ろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口・靴飾り・コンパクト及び財布,貴金属製喫煙用具,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,記念カップ,記念たて」を指定商品として、同10年5月22日に設定登録されたものである。
(2)登録第5394156号商標(以下「引用商標2」という。)は、「ROLEX DEEPSEA」の文字を標準文字で表してなり、平成20年4月7日に登録出願、第14類「時計,貴金属,身飾品,宝玉及びその模造品,貴金属製靴飾り,宝石箱」及び第35類「広告,時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定商品及び指定役務として、同23年2月25日に設定登録されたものである。
以下、これらの登録商標をまとめて「引用商標」という。

3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第129号証を提出した。
(1)本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当すること
本件商標は、「Deep Sea Driver」の欧文字と、「ディープシードライバー」の片仮名を横書きで二段に書してなり、その構成全体から生じる称呼「ディープシードライバー」が10音と冗長であり、その一部分である「ディープシー」によって簡略化される可能性があるばかりでなく、「Deep Sea」「ディープシー」と「Driver」「ドライバー」の両語間に特に意味上の関連性は存在しないことから、本件商標を構成する「Deep Sea」「ディープシー」と「Driver」「ドライバー」の各構成部分がそれを分離観察することが取引上不自然であると思われるほど一体不可分となっているとはいえない。
そうすると、需要者の注意は引用商標1と実質的に同一と認められる「Deep Sea」「ディープシー」の部分に集中し、この部分から生ずる「ディープシー」の称呼をもって取引に当たる場合も決して少なくないと考えるのが簡易迅速を尊ぶ取引の経験則に照らして相当である。
したがって、本件商標は、引用商標1と「ディープシー」の称呼を共通にする類似の商標であり、また、本件商標の指定商品が引用商標1の指定商品と抵触することは明らかである。
よって、本件商標と引用商標1は、互いに相紛れるおそれのある類似の商標であり、指定商品も抵触することから、本件商標は引用商標1との関係で、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
(2)本件商標が商標法第8条第1項に該当すること
ア 本件商標と引用商標2の出願日
本件商標は、上記1のとおり、平成21年7月16日に出願され、同22年2月12日に登録された。引用商標2は、上記2のとおり、同20年4月7日に出願され、同23年2月25日に登録された。つまり、本件商標は、引用商標2の後願先登録商標にあたる。
イ 商標の類否判断
本件商標から「ディープシー」の称呼を生じることは、上記(1)で述べたとおりである。
一方、引用商標2は、「ROLEX DEEPSEA」の欧文字を横書きにしてなるところ、「ROLEX」と「DEEPSEA」には観念上の結びつきはないため分離して観察され、引用商標1と同様に「ディープシー」の称呼を生じるものである。
したがって、本件商標は、引用商標2と「ディープシー」の称呼を共通にする類似の商標であり、また、本件商標の指定商品が引用商標2の指定商品と抵触することは明らかである。
よって、本件商標と引用商標2は、互いに相紛れるおそれのある類似の商標であり、指定商品も抵触することから、本件商標は、引用商標2との関係で、商標法第8条第1項に該当するものである。
(3)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当すること
ア 請求人商標の周知・著名性
(ア)請求人であるロレックス ソシエテ アノニム(以下「ロレックス社」という。)は、世界的に著名な腕時計のブランドであり、ダイバーズウォッチ(潜水用の腕時計)の開発にも力を注いでいる(甲39、甲42、甲49、甲54、甲64)。
1950年代、ロレックス社は深海での使用に耐えうる腕時計を開発すべく、「ディープシースペシャル」と呼ばれる試作品を作成した。1作目、2作目の試作品で水深1000メートルから3000メートルでの実験を繰り返した後、1960年には3作目の「ディープシースペシャル」が米海軍の実験用バスカチーフ(潜水艇)「トリエステ号」の外側に取り付けられ、水深10,916メートルのチャレンジャー海溝でも正確に作動していたことが確認された(甲4、甲26、甲66、甲68)。
(イ)バーゼルワールド(バーゼルフェア)は、スイス・バーゼルにおいて毎年3月下旬?4月上旬頃に行われる、宝飾と時計の見本市である。各ブランドがその年の新作を発表する場ともなっていることから、商談を目的とする腕時計の取引業者のみならず、一般の時計愛好家あわせて10万人以上が来場し、その規模は世界最大と言われる(甲5)。
バーゼルワールドに参加する高級ブランドの中でも、「時計業界に不動の地位を築く名門」(甲13)、「王者」(甲18、甲23、甲40、甲60、甲81)、「圧倒的な知名度と人気」(甲48)、「憧れのウォッチブランド」(甲49)等と評されるロレックス社への注目度は特に高く、「ロレックスの新作は、バーゼルワールド全体の来場者数を左右する」(甲11)とまで言われている。
(ウ)ロレックス社は、2008年4月3日?4月10日まで開催された「バーゼルワールド2008」(甲6、甲7)において、その年の新作時計として「SEA DWELLER DEEPSEA(シー ドゥエラー ディープシー)」(以下「ディープシー腕時計」ないし「使用商品」ということがある。)を発表した(甲7、甲8ないし甲71)。なお、この製品は、上述の「ディープシースペシャル」へのオマージュモデルである(甲40、甲66、甲68)。
バーゼルワールドでディープシー腕時計が発表されると、3900メートル防水という従来にない高い防水機能が評判となり(甲8ないし甲87)、2008年のバーゼルワールドで最も注目を集めた製品として、我が国の時計愛好家の間でディープシー腕時計が広く知られることとなった。
このことは、雑誌記事において「今年のバーゼルワールドで最も注目され、話題となったのが『シードゥエラー ディープシー』。」(甲15)、「今年、バーゼルワールドでの話題をさらった『シードゥエラーディープシー』」(甲16)、「今季の最注目アイテム」(甲19)、「会場で話題騒然!!」(甲22)、「バーゼルワールド2008で最も注目を集めたのが『シードゥエラー ディープシー』と言っても過言ではない」(甲24)、「今年最大の話題作『シードゥエラー ディープシー』」(甲34)、「今年のバーゼルワールド、S.I.H.H.(注:国際高級時計サロン。バーゼルワールドとは別のブランドが参加する時計の見本市)をとおして最も注目を集めた時計といえるのが、ロレックスのシードゥエラー ディープシーだ」(甲43)、「今年のバーゼルワールドで、これほど注目を集めた時計はほかにはないだろう」(甲46)、「…中でも衝撃的なニュースは、ロレックスが発表した新作『シードゥエラー ディープシー』」(甲50)、「多くの時計評論家が“正しき定番の進化”と評し、賛辞を欲しいままにした新モデル『シードゥエラー ディープシー』」(甲56)、「今春のバーゼルワールドで最も注目を集めたのが、ロレックスの『オイスター パーペチュアル シードゥエラー ディープシー』」(甲57)、「今年のバーゼルワールドをはじめ、(中略)とびきりの話題を呼んでいるのがこのモデルである」(甲62)、「…中でも話題はロレックスの『ディープシー』」(甲70)等と紹介されていることからも明らかである。
(エ)広告
ロレックス社の日本法人である日本ロレックス株式会社は、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞等の全国紙の他、有力地方紙、有名雑誌に広告を掲載した(甲88ないし甲121)。
その結果、引用商標は、本件商標の出願時である2009年7月16日時点において、ロレックス社の業務に係る商品を表示するものとして日本における腕時計の需要者に広く知られていたというべきである。
イ 本件商標と請求人商標の混同のおそれ
(ア)「DEEPSEA」及び「ディープシー」が請求人の商標として周知・著名であること
請求人が使用する商標は、「オイスター パーペチュアル シードゥエラー ディープシー」及びその欧文字表記である「OYSTER PERPETUAL SEA DWELLER DEEPSEA」又は「シードゥエラー ディープシー」及びその欧文字表記である「SEA DWELLER DEEPSEA」(以下これらをまとめて「請求人商標」という。)である。
これらの構成中、「オイスター」「OYSTER」は、高い防水性を持ち堅牢な「オイスターケース」を(甲123)、「パーペチュアル」は長時間ゼンマイの巻き上げを必要としない自動巻機構を(甲124)を表すものであり、ロレックス社の腕時計の大半に使用されている。
また、「シードゥエラー」「SEA DWELLER」は、飽和潜水に対応可能な防水性能1220メートルの製品であり、ディープシー腕時計は、この製品の後継と位置づけられる(甲125)。
このように請求人商標の構成中、「DEEPSEA」「ディープシー」以外の部分は、従来からロレックス社の製品に使用されていたものであるため、取引者・需要者の注意を惹くのは専ら「DEEPSEA」「ディープシー」の部分である。
このことは、「DEEPSEA」「ディープシー」のみにおいて使用されている例がある(甲9、甲36、甲53、甲61、甲65、甲66、甲70、甲80、甲125)ことからも明らかである。また、甲第126号証、甲第127号証は、インターネット検索エンジン「Google」「Yahoo」で「ディープシー」をキーワード検索した結果の上位10件を表示したものであるが、いずれも10件中7件がロレックス社のディープシー腕時計に関するものである。
してみれば、「DEEPSEA」「ディープシー」のみでもロレックス社の業務に係る商品を表示するものとして日本の腕時計の取引者・需要者に広く知られていると言うことができ、「DEEPSEA」「ディープシー」が単独で請求人の商品を表すものとして機能しているということができる。
(イ)本件商標と請求人商標の類似性
本件商標は、「Deep Sea Driver」の欧文字及び「ディープシードライバー」の片仮名よりなるものであるところ、これより生ずる「ディープシードライバー」の称呼は冗長であること、「Deep Sea」「ディープシー」と「Driver」「ドライバー」の語の間に関連性が無く、全体として何らかの意味を生ずるものでもないことから、構成中の「Deep Sea」「ディープシー」のみにおいて独立して取引に資される場合もある。よって、一連の「ディープシードライバー」の称呼の他、単に「ディープシー」の称呼を生ずる。
他方、請求人商標が「DEEPSEA」「ディープシー」のみでも日本の腕時計の取引者・需要者に広く知られていることは上述のとおりである。
そうすると、本件商標と請求人商標は、ともに「ディープシー」の称呼を同じくする類似の商標であると言える。
(ウ)本件商標の指定商品と請求人の使用商品
被請求人は、本件商標を請求人の使用商品と同じく「腕時計」に使用している(甲128、甲129)。
(エ)以上のとおりであるから、本件商標は、請求人商標と類似するものであり、その指定商品も請求人の使用商品と同一であり、請求人の使用商標の周知性・著名性は、本件商標の出願時である平成21年(2009年)7月16日時点において認められる。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反してなされたものである。
(4)むすび
上述のように、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第8条第1項の規定に違反してされたものであり、同法46条第1項第1号の規定により、その登録は無効とされるべきものである。

4 被請求人の主張
被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第14号証を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号
ア 本件商標と引用商標1との類否について
本件商標は、上段に「Deep Sea Driver」の欧文字を、下段に「ディープシードライバー」の片仮名をそれぞれ同書、同大、等間隔に横書きしてなるところ、下段の片仮名は、上段の欧文字の読みを表記したものと無理なく読めるものである。
そして、これより生じる称呼も7音(長音を含めても10音)と冗長ともいえず、よどみなく一連に称呼し得るものであるし、また、これを「Deep Sea」(ディープシー)と「Driver」(ドライバー)とに分離すべき特段の事情も存しない。
すなわち、後述のとおり、本件商標中の「Deep Sea」(ディープシー)又は「Driver」(ドライバー)の各文字のいずれかが出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとも認められないし、また、いずれかが出所識別標識としての称呼、観念が生じないというような事情もない。
よって、本件商標からは、「ディープシードライバー」の称呼のみを生じるものというべきである。
他方、引用商標1は、「DEEPSEA」の欧文字よりなるから、これより「ディープシー」の称呼を生じることは明らかである。
そうすると、「ディープシードライバー」の称呼を生じる本件商標と「ディープシー」の称呼を生じる引用商標1とは、その構成音数を著しく異にするから、それぞれを一連に称呼しても、互いに相紛れるおそれがない称呼上非類似の商標というべきである。
また、両商標の観念及び外観についても、本件商標からは、直ちに特定の観念を生じない造語商標であるのに対し、引用商標1からは「深海」の観念を生じるものであるから、両商標は、観念的にも類似するものとは言えない。
さらに、両商標は、外観上も相違することは明らかである。
したがって、本件商標と引用商標1とは、その外観、称呼及び観念の何れの点においても相紛れることのない非類似の商標であるから、本件商標が商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたとする主張は誤りある。
イ 審決例について
本件商標と引用商標1とが類似しない商標であることは、最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決(「つつみのおひなっこや」事件、乙第7号証)によっても、また、多数の審決例・異議決定例(乙8ないし乙12)によっても首肯されるところである。
以上のとおり、本件商標と引用商標1とは、非類似の商標であり、よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号には該当しない。
(2)商標法第8条第1項(引用商標2との商標の類否について)
請求人は、本件商標は商標法第8条第1項に違反して登録されたものであると主張するので、以下、この点について反論する。
ア 本件商標
本件商標は、上記1のとおり、平成21年7月16日に登録出願され、同年12月11日に登録査定、翌22年2月22日に設定登録されたものである。
イ 引用商標2
引用商標2は、上記2のとおり、平成20年4月7日に登録出願、平成23年1月13日に登録査定、同年2月25日に設定登録されたものであるから、引用商標2が先願に係るものであることに疑いの余地はない。
ウ 両商標の類否
本件商標は、「Deep Sea Driver」と「ディープシードライバー」の文字とを同書、同大、等間隔に上下二段に横書きしてなり、これを「Deep Sea」(ディープシー)と「Driver」(ドライバー)とに分離すべき特段の事情も存しないから、これより、「ディープシードライバー」の称呼のみを生じ、特定の観念を有しない造語商標というべきである。
他方、引用商標2は、「ROLEX DEEPSEA」の欧文字を標準文字で表してなり、これより「ロレックスディープシー」の称呼のほか、前半部の「ROLEX」は請求人の代表的出所標識と認められるから、当該文字部分より「ロレックス」の称呼をも生じるものといえる。
一方、後半部の「DEEPSEA」の文字部分であるが、特に指定商品「時計」との関係においては、後述のとおり、該語は「深海」の意味を有し、「深海用の時計」あるいは「深海での使用に耐え得る時計」の意味合いを暗示させ、決して自他商品の識別力の強い語とは言えない。
してみれば、「ディープシードライバー」の称呼を生じる本件商標と「ロレックスディープシー」又は「ロレックス」の称呼を生じる引用商標2とは、その構成音数や「ドライバー」と「ロレックス」の音の相違等により、称呼上相紛れるおそれはないし、また、仮に引用商標2から「ディープシー」の称呼を生じるとしても、本件商標とは称呼上類似するものではない。
さらに、両者は、観念及び外観においても相違することは明らかである。
したがって、本件商標と引用商標2とは、その外観、称呼及び観念の何れの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標が商標法第8条第1項に違反して登録されたとする主張は失当というべきである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
請求人の主張は、請求人の「ディープシー」「DEEPSEA」(以下これらをまとめて「DEEPSEA商標」という。)は、「腕時計」について使用された結果、本件商標の出願時には需要者に広く知られており、かつ、本件商標と類似するから、請求人以外の者が本件商標を「時計」について使用すると商品の出所について混同を生じるおそれがある、というものと解される。
しかし、DEEPSEA商標は、周知、著名な商標ではないし、本件商標とDEEPSEA商標とは、類似する商標ではない。
ア DEEPSEA商標は周知、著名な商標でないこと
(ア)DEEPSEA商標のみの使用例は極めて少ないこと
請求人は、「腕時計」についてDEEPSEA商標を使用しているとして、甲第4号証ないし甲第127号証を提出しているが、「ディープシー」、「DEEPSEA」のみが商標として使用されている証拠は極めて極めて少ない。
すなわち、請求人も自認するとおり、その使用態様は、以下のように他の語に付して使用している例がほとんどである。
「THE ROLEX DEEPSEA」、「ロレックスディープシー」(甲4)、「SEA DWELLER DEEPSEA」、「シードゥエラー ディープシー」(甲7、甲73)、「オイスターパーペチュアルシードゥエラーディープシー」(甲10ないし甲18、甲35ないし甲37、甲39、甲40、甲42、甲49、甲83、甲87)、「シードゥエラーディープシー」(甲21、甲22、甲48、甲56)、「ロレックスオイスターパーペチュアルシードゥエラーディープシー」(甲27、甲45、甲54、甲69、甲74、甲79、甲80)、「シードゥエラー」(甲27)、「ROLEX オイスターパーペチュアルシードゥエラーディープシー」(甲33、甲35、甲43、甲53、甲60、甲61、甲71、甲72、甲76、甲78)、「ROLEXシードゥエラーディープシー」(甲38)、「SEA-DWELLERDEEPSEA」(甲88ないし甲121)
また、請求人は、「ディープシー」、「DEEPSEA」のみが使用されているとして、甲第9、36、53、61、65、66、70、80号証及び甲第125号証を挙げている。
しかし、上記各号証を観察すると、その使用態様は、前述のとおり、主に他の語と結合して使用されているものであって、「ディープシー」、「DEEPSEA」のみが単独で記載されているのは、何れも商品の紹介や説明文中に小さく記載されている例がほとんどである。
DEEPSEA商標のみが単独で使用されている例は、極めて少ないのみならず、上記のような使用例をもってしては、DEEPSEA商標が本件商標の出願時に「時計」について、請求人の周知、著名な商標となっていたとは到底いうことができない。
さらに、請求人は、DEEPSEA商標が需要者に広く認識されたものとなっていた根拠として、甲第126号証及び甲第127号証を挙げている。
甲第126号証は、インターネット情報の「Google」の検索結果を打ち出したものであり、また、甲第127号証は、「Yahoo」の検索結果であって、何れも「ディープシー」の検索結果において、10件中7件が請求人のものであることをもって、DEEPSEA商標が周知、著名な商標であるとの根拠としている。
しかし、上記証拠の作成日(打ち出し日)は、何れも2011年7月14日であるから、これらが本件商標の出願日である2009年7月16日に周知、著名であったことの証拠となり得ないことはいうまでもない。
よって、上記証拠によっては、DEEPSEA商標が本件商標の出願時に需要者に広く認識されていたことは、到底認めることはできない。
(イ)「ディープシー」「DEEPSEA」は「腕時計」について強い識別力を有する語ではないこと
そもそも、「DEEPSEA」の語は、「DEEP」が「深い」の意を、また「SEA」が「海」を表す語としてそれぞれ親しまれ、これらを結合した「DEEPSEA」の語も、「深海」を意味する語として容易に理解できるものであって、例えば、研究社発行の「新英和大事典」にも「DEEPSEA」が「深海の」等を意味する語として掲載されている(乙13)ほか、大修館書店発行の「ジーニアス英和辞典」などにも「深海」を意味する語として掲載されている(乙14)。
一方、請求人も述べているとおり、1950年代から潜水用の腕時計が開発され、特に「深海」と言われるような水深200メートル以上の深い海でも耐えられる時計の開発が進み、「DEEP SEA」の文字は、まさにこの「深海」用の時計であること、あるいは深海の圧力にも耐えられる時計であることを指称するために、用いられてきたと容易に理解されるものである。
事実、上記「深海用」の腕時計のみに「DEEP SEA」の文字が使用されているのであり、このことは、例えば、請求人提出の甲各号証のうち、以下の記述からも窺えるところである。
a 「深海探索のために開発されたロレックスディープシーは、深海3,900mでの巨大な水圧にも耐えられる」(甲4)。
b 「実用を超えた3900メートル防水で…新製品『SEA DWELLER DEEPSEA』」(甲7)
c 「深い海と戦う精神に心惹かれてロレックスシードゥエラー ディープシー」(甲22)
d 「バーゼル2008で最も注目を集めたのが、シードゥエラー ディープシーといっても過言でない。深海の平均深度である3700メートルを凌ぐ3900メートルもの…」(甲24)
e 深度記録をぶっちぎりで更新した新作ダイバーズウォッチ(甲27)
f 「『シードゥエラー』が世界最深(3900m)記録樹立!」(甲29)
以上のとおり、「深海」の意味を有する語として親しまれた「DEEP SEA」の文字を、「腕時計」等に使用した場合、該商品が「深海」用であること、あるいは深海でも耐えうる製品であることを表すために使用されていると理解される可能性が高いものと思われる(但し、知的財産高等裁判所の平成21年(行ケ)第10141号審決取消訴訟において、判決は、「DEEP SEA」は、深い水深の場所でも使用できる腕時計の品質を表示する語として一般的に使用されているものではないこと、及び原告商品に自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられている、等の認定判断がなされていること等からすれば、識別力がないとまではいえない。)。
そうすると、DEEPSEA商標は、必ずしも強い識別力を有する語ではないし、また、請求人もその使用に当たっては、常に他の語に付して使用してきた事実を考え併せれば、DEEPSEA商標が請求人の商標として需要者に広く認識されていたとは、認め難いものである。
以上のとおりであるから、DEEPSEA商標が単独の商標として、商品「腕時計」について使用され、本件商標の出願時である2009年7月16日に需要者に広く認識されていたということはできない。
イ 本件商標とDEEPSEA商標との類似性の誤り
請求人は、本件商標とDEEPSEA商標とは類似の商標であると主張するが、誤りである。
本件商標は、前記1のとおり、同書、同大、等間隔で一連一体に横書きしてなり、これを「Deep Sea」(ディープシー)と「Driver」(ドライバー)とに分離すべき特段の理由もないから、「ディープシードライバー」の称呼のみを生じるものであり、「ディープシー」の称呼を生じるDEEPSEA商標とは、称呼上類似しない。
また、両商標は、観念及び外観についても相紛れるおそれはない。
よって、本件商標とDEEPSEA商標は、類似商標であるとする請求人の主張は誤りである。
ウ 出所の混同について
以上のとおり、DEEPSEA商標は、周知・著名商標ともいえないし、また、本件商標とDEEPSEA商標とは、非類似の商標であるから、たとえ、本件商標をその指定商品である「時計」等について使用しても、請求人の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生じるおそれはない。
したがって、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとの請求人の主張は誤りというべきである。
(4)むすび
以上述べたとおり、本件商標は、引用商標1「DEEPSEA」及び引用商標2「ROLEX DEEPSEA」とは、非類似の商標であるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同法第8条第1項のいずれにも違反して登録されたものではない。
また、DEEPSEA商標は、本件商標の登録出願時はもとより、今日に至るまで「腕時計」について使用して周知・著名な商標となっているとは到底いえない。
さらに、本件商標とDEEPSEA商標とは、非類似の商標であるから、本件商標をその指定商品に使用しても、請求人の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について誤認混同を生じるおそれはなく、よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものでもない。

5 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、「Deep Sea Driver」及び「ディープシードライバー」の文字からなるものであり、片仮名は欧文字の表音として自然なものである。
そして、その構成中の欧文字は、語間に空白を有するため、視覚上「Deep」「Sea」「Driver」の各文字部分からなると容易に認識し得るものである。
しかしながら、本件商標を構成する各文字は、いずれも、同じ書体で纏まり良く一連に表されたものであり、各文字の間で主従の関係や軽重の差を有するとすべき格別の理由もみいだせないから、いずれかの文字部分をして、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとすることはできない。
してみれば、本件商標は、一連に表された造語として看取されるとみるのが相当というべきものであり、また、構成文字に相応して生じる「ディープシードライバー」の称呼も冗長とはいえず、一気に称呼し得るものである。
したがって、本件商標は、「ディープシードライバー」の一連の称呼のみを生じるものであり、特定の観念を看取させない一連の造語からなるというべきものである。
他方、引用商標1は、「DEEP SEA」の文字からなるものであり、構成文字に相応して「ディープシー」の称呼を生じるものである。
そして、「DEEP」が「深い」、「SEA」が「海」の意を表す英語として広く親しまれたものであり、これらの両語の意を併せてみれば、全体として容易に「深い海」の意を看取させるというのが相当であるから、これより「深い海」の観念が生じるものというべきである。
そこで、本件商標と引用商標1とを比較すると、両者の外観構成は、明らかに相違するものであるから、外観上相紛れるおそれはないというべきである。
そして、本件商標の称呼「ディープシードライバー」と引用商標1の称呼「ディープシー」とを対比しても、両者は、構成音数が明らかに異なり、後半で「ドライバー」の音の有無という顕著な差異を有するものであるから、相紛れることなく区別し得るものである。
また、本件商標と引用商標1とは、観念について比較できないから、観念上相紛れるおそれはないものである。
してみれば、本件商標は、外観、称呼及び観念のいずれからみても、引用商標1に類似する商標であると判断することはできないものである。
したがって、本件商標は、引用商標1をもって、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであると認めることはできない。
(2)商標法第8条第1項について
本件商標は、前記(1)のとおり、その構成文字に相応して「ディープシードライバー」の一連の称呼を生じるものであり、特定の観念を看取させない一連の造語からなるものというべきである。
他方、引用商標2は、「ROLEX DEEPSEA」の文字からなるものであり、視覚上「ROLEX」と「DEEPSEA」とに分離して看取される標章であるところ、「ROLEX」は、請求人の代表的な出所標識であり、かつ、指定商品である時計等を取り扱う業界において著名な商標となっているとの事情があることを斟酌すれば、引用商標2は、構成文字に相応して「ロレックスディープシー」と一連に称呼されるほかに、前記「ROLEX」に相応して「ロレックス」の称呼をも生じるというのが相当である。
しかし、その構成中の「DEEPSEA」の文字部分のみが殊に強く印象され記憶されるとすべき理由はみいだせないから、当該部分に相応して「ディープシー」の称呼が生じるとは認められないものである。
しかして、本件商標と引用商標2とを比較すると、両者の外観構成は、明らかに相違するものであるから、外観上相紛れるおそれはないというべきである。
また、本件商標の称呼「ディープシードライバー」と引用商標2の称呼「ロレックスディープシー」「ロレックス」とを対比しても、両者は、構成音数が相違する上、相違する各音の音質の相違により、これらをそれぞれ一連に称呼しても、全体の音感が全く異なっており、相紛れることなく判然と区別し得るものである。
さらに、本件商標と引用商標2とは、観念について比較できないから、観念上相紛れるおそれはないものである。
してみれば、本件商標は、外観、称呼及び観念のいずれからみても、引用商標2と類似の商標であるとは認められないから、引用商標2が本件商標より先の登録出願に係るものであったとしても、商標法第8条第1項に違反して登録されたものとはいえない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
ア 請求人商標の周知、著名性
(ア)請求人提出の証拠及び主張に徴すると、請求人は世界的に著名な腕時計の製造会社であり、潜水用の腕時計の開発にも力を注いでいる。1950年代、深海での使用に耐え得る腕時計を開発すべく、「ディープシースペシャル」と呼ばれる試作品を作成し、1960年には3作目の「ディープシースペシャル」が、チャレンジャー海溝でも正確に作動していたことを確認し得た。
請求人は、その規模が世界最大と言われる宝飾と時計の見本市である「バーゼルワールド(2008年)」において、新作時計として「SEA DWELLER DEEPSEA(シー ドゥエラー ディープシー)」を発表した(甲4ないし甲7ほか)。当該製品は、上記「ディープシースペシャル」へのオマージュモデルとされるものであり、当該製品がバーゼルワールドで発表されると、高い防水機能が評判となり、バーゼルワールドで注目を集めた。このことは、「今年のバーゼルワールドで最も注目され、話題となったのが『シードゥエラー ディープシー』。」(甲15)、「今年、バーゼルワールドでの話題をさらった『シードゥエラーディープシー』」(甲16)、「バーゼルワールド2008で最も注目を集めたのが『シードゥエラー ディープシー』と言っても過言ではない」(甲24)、「今年最大の話題作『シードゥエラー ディープシー』」(甲34)等として、本件商標の出願日前に発行された各種の雑誌で紹介されている。
そして、これらの各種雑誌等には、「ROLEX」「ロレックス」とともに、「OYSTER PERPETUAL SEA DWELLER DEEPSEA」「オイスター パーペチュアル シードゥエラー ディープシー」「シードゥエラー ディープシー」の請求人商標が使用されていることが認められる(甲8ないし甲87)。
また、請求人の日本法人が、前記商標を表示した請求人に係る商品(腕時計)について、「SEA-DWELLER DEEPSEA」「ROLEX」を表示して、本件商標の出願日前に発行された各種新聞や雑誌に広告を掲載したことが認められる(甲88ないし甲121)。
しかし、上記の宣伝広告においては、請求人の「DEEPSEA」「Deepsea」「ディープシー」が他の標章(文字)と結合して、例えば、「SEA-DWELLER DEEPSEA」等のように商品の広告に使用されているのを認めることができるけれども、「DEEPSEA」「Deepsea」あるいは「ディープシー」が単独で商品に表示されたことを窺わせる証左はみいだせない。
また、その使用態様は、「DEEPSEA」「Deepsea」あるいは「ディープシー」のみが殊更に印象強く看取される構成態様で表示されているものは認められない。
(イ)この点に関して、請求人は、取引者、需要者の注意を惹くのは専ら「DEEPSEA」「ディープシー」の部分である旨主張して、「DEEPSEA」あるいは「ディープシー」のみにおいて使用されている事例として、甲第9、36、53、61、65、66、70、80号証及び125号証を示している。
しかしながら、これらにおいては、「DEEPSEA」「Deepsea」あるいは「ディープシー」が、単独で商品に表示されたものはみいだせないばかりか、それのみで表されている場合はいずれも、請求人商標を表示した請求人商品(時計)の紹介記事において、現物写真の掲載と共に、さらには「ロレックス オイスター パーペチュアル シードゥエラー ディープシー」等の表題の下、その記述の中で、括弧内に表されている場合もあるとはいえ、「高性能モデルのシードゥエラーは、独自開発のケース構造により、劇的に向上させた発展型の『ディープシー』を発表。」(甲9)、「このディープシーの防水検査機を、共同開発したところも、…」(甲36)、「1220m防水のシードゥエラーをパワーアップさせたのが新作のディープシー。…」(甲65)のように、「ディープシー」が小さく記述されたものである上、商品の販売時期である平成21年(2008年)に宣伝広告が集中していること、商品が高価なものであって、販売数量が限られていることから、請求人商標を決して需要者が頻繁に目にし、強く記憶するといえる程に多いものであるとはいえない。
(ウ)してみれば、上記の使用形態及び頻度等をもって、本件商標の登録出願時において、「DEEPSEA」「Deepsea」あるいは「ディープシー」が、単独で、請求人の商品を表示する商標として需要者の間で広く認識されるに至っていたものであると認めることはできないものである。
イ 本件商標と引用商標との類似性について
本件商標が引用商標に類似する商標でないことは、前記(1)及び(2)のとおりである。そして、上記によれば、本件商標の構成中に「Deep Sea」あるいは「ディープシー」が含まれているとしても、それが含まれているとの一事によって、本件商標が請求人の商品(腕時計)に表示された商標と関連あるものとして把握されることはないというのが相当であるから、結局、本件商標は、引用商標及び請求人商標とは別異の出所を表示するものとして看取されるものというべきである。
ウ 本件商標とDEEPSEA商標との誤認混同のおそれについて
上記の請求人商標の周知性の程度及び商標間の類似性の程度を勘案してみれば、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する需要者が、本件商標の「Deep Sea」「ディープシー」の文字部分から直ちに、引用商標を含むDEEPSEA商標を想起し連想して、当該商品を請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く誤信するとは認め難く、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあったとすることはできないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同法第8条第1項に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定によって、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2012-03-21 
結審通知日 2012-03-26 
審決日 2012-04-06 
出願番号 商願2009-54203(T2009-54203) 
審決分類 T 1 11・ 263- Y (X14)
T 1 11・ 4- Y (X14)
T 1 11・ 262- Y (X14)
T 1 11・ 271- Y (X14)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正樹 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 小川 きみえ
鈴木 修
登録日 2010-02-12 
登録番号 商標登録第5300235号(T5300235) 
商標の称呼 ディープシードライバー、ディープシー、ドライバー 
代理人 笠松 直紀 
代理人 萼 経夫 
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト 
代理人 山田 清治 
代理人 山崎 和香子 

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