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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2011900117 審決 商標
無効2009890004 審決 商標

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審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X2930
管理番号 1263065 
審判番号 無効2011-890096 
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-11-02 
確定日 2012-09-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第5358375号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5358375号の指定商品中、第29類「全指定商品」及び第30類「全指定商品」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5358375号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成21年2月20日に登録出願され、第3類「ココナッツオイルを主原料とする化粧品,ココナッツオイルを主原料とするローション,ココナッツオイルを主原料とする石鹸,ココナッツオイルを主原料とするマッサージオイル,ココナッツオイルを主原料とするベビーオイル,ココナッツオイルを主原料とする日焼け用オイル,ココナッツオイルを主原料とするリップクリーム,ココナッツオイルを主原料とするシャンプー,ココナッツオイルを主原料とするリンス,ココナッツオイルを主原料とするボディーソープ,ココナッツオイルを主原料とする洗剤,ココナッツオイルを主原料とするアロマオイル,ココナッツオイルを主原料とする犬用シャンプー,ココナッツオイルを主原料とする香料類,ココナッツオイルを主原料とする精油からなる食品香料」、第29類「ココナッツオイルを使用した加工野菜及び加工果実,ココナッツオイルを使用した乳製品,ココナッツオイルを主原料とするカプセル状の加工食品,ココナッツオイルを使用した液状の加工食品,ココナッツオイルを主原料とするてんぷら油,ヴァージンココナッツオイル,その他のココナッツオイル,やし油,ココナッツオイルを主原料とするパン練込用の食用油脂,ラウリン酸入りの食用油脂,中鎖脂肪酸入りの食用油脂,飽和脂肪酸入りの食用油脂,加工油脂(食用),植物性油脂,油揚げ,チョコレート用油脂」及び第30類「ココナッツオイルを使用したチョコレート,ココナッツオイルを使用したクッキー,ココナッツオイルを使用したホットケーキ,ココナッツオイルを使用したドーナツ,その他のココナッツオイルを使用した菓子およびパン,ココナッツオイルを使用したマヨネーズ,ココナッツオイルを使用したドレッシング,その他のココナッツオイルを使用した調味料,ココナッツオイルを使用したアイスクリーム用凝固剤,ココナッツオイルを使用したホイップクリーム用安定剤,ココナッツオイルを使用したコーヒー及びココア,ココナッツオイルを使用したアイスクリームのもと,ココナッツオイルを使用したシャーベットのもと,ココナッツオイルを使用した食品香料(精油のものを除く。)」を指定商品として、同22年6月11日に登録査定、同年10月8日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録商標は次に掲げるとおりである。
1 登録第262256号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:ANGEL/エンゼル
(二段書き、構成中「エ」の文字は旧仮名遣い)
登録出願日:昭和9年4月26日
設定登録日:昭和10年2月14日
書換登録日:平成17年10月12日
指定商品 :第30類「菓子(甘栗・甘酒・氷砂糖・みつ豆・ゆで小豆を除く。)及びパン,粉末あめ,水あめ(調味料),もち」
2 登録第417791号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:エンゼル
登録出願日:昭和26年12月10日
設定登録日:昭和27年10月31日
書換登録日:平成15年4月30日
指定商品 :第5類「乳児用粉乳」及び第29類「牛乳,やぎ乳,羊乳,粉乳(乳児用のものを除く。),バター,マーガリン,チーズ」
3 登録第2404766号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:ANGEL/エンゼル (二段書き)
登録出願日:平成元年3月10日
設定登録日:平成4年4月30日
書換登録日:平成14年6月19日
指定商品 :第30類「菓子及びパン」
4 登録第2643444号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:ANGEL/エンゼル (二段書き)
登録出願日:平成3年4月5日
設定登録日:平成6年4月28日
書換登録日:平成17年10月12日
指定商品 :第30類「茶,コーヒー及びココア,氷」及び第32類「清涼飲料,果実飲料」
5 登録第2652059号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:ANGEL/エンゼル (二段書き)
登録出願日:平成3年3月25日
設定登録日:平成6年4月28日
書換登録日:平成17年11月9日
指定商品 :第29類「食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実(メロンを除く。),肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物」、第30類「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」、第31類「食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,野菜,糖料作物,果実(メロンを除く),コプラ,麦芽」及び第32類「飲料用野菜ジュース」
6 登録第4524970号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の構成:ANGEL/エンゼル
(二段書き、構成中「エ」の文字は旧仮名遣い)
登録出願日:平成12年12月25日
設定登録日:平成13年11月22日
指定商品 :第32類「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」
7 登録第4688389号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の構成:ANGEL (標準文字)
登録出願日:平成14年9月18日
設定登録日:平成15年7月4日
指定商品 :第29類「食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,豆,食用たんぱく,植物を主原料とする粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状・ゼリー状の加工食品」及び第30類「茶,コーヒー及びココア,氷,菓子及びパン,調味料,香辛料,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物(豆を除く。)を主原料とする粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状・ゼリー状の加工食品」
8 登録第4737545号商標(以下「引用商標8」という。)
商標の構成:ANGEL
登録出願日:平成15年5月7日
設定登録日:平成15年12月26日
指定商品 :第31類「果実,野菜,ドライフラワー」及び第32類「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」
9 登録第5013648号商標(以下「引用商標9」という。)
商標の構成:Angel (標準文字)
登録出願日:平成18年4月13日
設定登録日:平成18年12月22日
指定商品 :第31類「果実,野菜,ドライフラワー」及び第32類「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」
10 登録第4105597号商標(以下「引用商標10」という。)
商標の構成:エンジェル
登録出願日:平成8年6月27日
設定登録日:平成10年1月23日
指定商品 :第3類「せっけん類,つけまつ毛用接着剤,歯磨き,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用漂白剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,つや出し剤,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤」
なお、上記引用商標1ないし10は、以下、これらを一括して単に「引用商標」ということがある。

第3 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第66号証(枝番を含む。)を提出している。
1 無効理由
本件商標は、以下の理由から明らかなように、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号に基づき、その指定商品中、第29類「全指定商品」及び第30類「全指定商品」について、その登録を無効にされるべきである。
2 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)指定商品の類否
本件商標に係る第29類及び第30類の指定商品は、引用商標の指定商品との関係において、生産部門、販売部門、流通経路、用途、及び需要者の範囲が一致する。
したがって、本件商標の指定商品(以下「本件指定商品」という。)は、引用商標の指定商品と同一又は類似するものを含んでいる。
(2)本件商標と引用商標との類否
(ア)本件商標の構成
本件商標を構成する「ANGEL」は、「神の使者として派遣され、神意を人間に伝え、人間を守護するもの」の意味合いを有する「天使」を表す英語として、我が国で広く一般に知られているものである(甲第12号証)。また、同「COCO」は、第29類及び第30類の商品が分類される飲食料品の分野においては、原材料となるココナッツ(COCONUT)として知られるココヤシ又はその実を表す語(甲第13号証の1及び2)であり、後に詳述するとおり、ココナッツを原材料とする商品の名称の一部を構成するものとして、広く一般に用いられているものである。
したがって、本件商標は、「天使」の意味合いを有する「ANGEL」及びココナッツを意味する「COCO」の2語を結合してなる結合商標と自然に理解・認識されるものである。
(イ)結合商標類否判断
本件商標は、裁判例(甲第14ないし第16号証)で示された考え方や特許庁の商標審査基準(甲第17号証)に従って考察すると、以下に述べるとおり、「ANGEL」を要部とする商標であり、この要部から生じる称呼・観念と引用商標から生じる称呼・観念との類似の有無を考慮するべきこととなる。
(ウ)本件商標の要部
上記(ア)で述べたとおり、本件商標は「ANGEL」と「COCO」の2語からなる結合商標であるところ、「ANGEL」が意味する「天使」は、宗教に基礎をおく想像上の存在であって、本来、飲食料品とは全く関連性のない語であるから、本件商標の「ANGEL」は、商品の品質、原材料や等級などを表す形容詞的な部分でなく、本件商標の指定商品との関係において、自他商品識別機能(識別力)を十分に果たす部分であることは明らかである。これに対して、「COCO」は、飲食料品の分野では、原材料となるココナッツ(COCONUT)を表す普通名称(甲第13号証の1及び2)であり、ココナッツから作られるココナッツオイルやココナッツミルクを始めとして、ココナッツを使用した商品や、ココナッツを主原料とする商品について広く用いられるという取引の実情がある。かかる実情を勘案すれば、本件商標の「COCO」は、自他商品の識別標識としての機能を発揮しないか又は極めて微弱な部分といえるものである。
したがって、本件商標は、互いに何ら観念的な結びつきを有しない「ANGEL」と「COCO」の2語を単純に結合させただけのものであり、上記2語が「分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標」(甲第15号証)にあたる。
本件商標の「COCO」が、飲食料品との関係において、自他商品の識別標識としての機能を発揮し得ない部分である点は、インターネットや各種書籍の掲載記事等に照らすことでより明白となる。甲第19号証の1ないし25は、そのほんの一例であるが、いずれも、ココナッツ(ココナツ)を使用した飲食料品の商品名に「COCO」の欧文字を採用した用例であって、飲食料品の分野において、主原料にココナッツを使用した商品に「COCO」の欧文字が好んで用いられるという取引の実情が窺えるものである。
これら多数の用例にみられるように、「COCO」の欧文字は、飲食料品との関係において、主原料であるココナッツを表す語として広く用いられているものである。「COCO」の欧文字は、平成5年頃、我が国でブームがみられた「ナタ・デ・ココ(nata de coco)」(甲第13号証の1及び第20号証)のように、従前より、原材料を表す文字として用いられるものであったが、指定商品をココナッツに関連した商品としている本件商標にあっては、「COCO」は自他商品識別標識としての機能を果たし得ない形容詞的な部分であることは明らかである。
この点、本件商標の出願人は、本件商標は「エンゼル(エンジェル)」の称呼が生じる他人の登録商標(請求人の引用商標も含まれている。)に類似するとの拒絶理由通知に対して意見書を提出し、本件商標の「COCO」の部分はココナッツ(COCONUT)の略であり、本件商標は、日本語の「天使のココヤシ」を英語にしたものであって、ココナッツオイルに対して使用する一連一体不可分の文字列として、常にココナッツを想起させるものであることを明確に述べている(甲第21号証)。また、登録査定後に本件商標の登録名義人となった被請求人も、自身のウェブサイトを通じて本件商標を使用したココナッツオイルを販売しており、同サイトにおいて、「名称:ココナッツオイル原材料:ココヤシ」と表示し(甲第22号証)、商品の原材料を表すものとして「COCO」の欧文字を使用している。こうした本件商標に関する出願経緯や使用状況に照らすと、出願人は、「COCO」の部分が本件商標において自他商品識別標識として機能し得ない部分であることを自認しており、被請求人も、その認識、意思を引き継いで本件商標を使用しているといえる。
このように、本件商標は、互いに何ら観念的な結びつきを有しない「ANGEL」と「COCO」の2語を単純に結合させただけのものであり、各語の識別力において軽重の差を生ずるものであるから、上記2語が「分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標」(甲第15号証)として、「ANGEL」及び「COCO」の各部分に分離して観察されるべきものである。また、指定商品との関係において、「ANGEL」が自他商品識別標識として強く機能する部分であるのに対し、「COCO」が、一般的な取引の実情においても、また、本件商標の出願人ないし被請求人が企図するところに照らしても、自他商品識別機能を果たし得ない記述的な部分といえることから、「取引者や一般の需要者が商品購入時に通常払うであろう注意を基準として」考察すれば、「COCO」は、本件商標において「商品識別機能を有するとは認められないような付記や付飾部分」(甲第16号証)にあたることは明らかである。
よって、本件商標は、「ANGEL」を要部とする商標である。
(エ)本件商標と引用商標との類否
そこで、本件商標の要部である「ANGEL」を引用商標と対比すると、両者からは、いずれも「エンゼル」又はこれに類似する「エンジェル」の称呼が生じ、また、「神の御使い」を表す「天使」の同一観念が生じる。
したがって、本件商標は、引用商標とは、要部から生じる称呼及び観念が同一である類似商標である。
(オ)裁判例、審決例及び特許庁の商標登録実務
本件商標と引用商標が互いに類似する商標である点は、過去の裁判例、特許庁の審決及び商標出願において示された判断に照らすことでさらに明確となる。甲第23号証の1ないし32に示す裁判例及び審決等は、一例であるが、いずれも、指定商品等との関係上、要部を構成する部分と識別力を発揮しないと考えられる部分とからなる結合商標の類否について判断を示した事案であり、商標構成上、本件商標と引用商標の類否を検討するにあたって、大いに参考とすべきものである。
その他、「ANGEL」又は「エンゼル(エンジェル)」の文字を先頭に有する商標出願であって、審判や訴訟で争われるまでもなく、「エンゼル(エンジェル)」の称呼が生じる他人の登録商標に類似すると判断され、商標法第4条第1項第11号に該当するとして拒絶査定となった商標出願は、多数存在する。甲第24号証の1ないし14では、その一例を示す。
上記の裁判例、審決、及び商標出願は、いずれも指定商品等との関係において、商標の構成中に識別力を有するとは認められないような付記や付飾部分が存在する場合には、これを除いた部分を要部として特定すべき点を明確に示しており、甲第14号証ないし甲第16号証の最高裁判決及び東京高裁判決が明らかにした商標の類否判断の考え方に沿った判断をしたものである。
本件商標の出願人は、上記(ウ)で述べたとおり、意見書において、本件商標は日本語の「天使のココヤシ」を英語にしたものであって、ココナッツオイルに対して使用する一連一体不可分の文字列として、常にココナッツを想起させるものであると述べている(甲第21号証)が、同書、同大、等間隔で書した標準文字による商標(甲第23号証の1及び2、甲第23号証の10及び11、甲第23号証の17ないし19)を始め、上記先例(甲第24号証の1ないし14)は、いずれも外観構成上、一体にのみ観察されるべき商標に対して判断が下された事案である。こうした多数の判決や審決等に照らせば、文字列として一連一体不可分であるとしても、本件商標全体としてまで一連一体不可分に観察しなければならない理由はないことは明らかである。
また、「天使のココヤシ」との観念についても、「天使」と「ココヤシ」は、互いに観念上のつながりを有する語ではなく、想像上の存在にすぎない「天使」と飲食料品の原材料である「ココヤシ」の各語を結合させても纏まった観念が生じる訳ではないから、その意味内容は不明確ないし不明である。むしろ、商標「さくらサブレー」について、「サクラ」のサブレーであるとの意味で称呼され観念される事態や外観上も同様の事態が発生しうると判示した東京高裁平成11年12月16日判決(甲第23号証の8)、商標「爽美もろみ酢」について、「爽美(印)のもろみ酢を主原料とする加工食品」という理解の下で取引にあたることも決して少なくないと説示した平成14年3月13日付け審決(甲第23号証の18)や、商標「桂花にごり酢」について、「桂花(印)のにごり酢を主原料とする加工食品」という理解の下で取引にあたることも決して少なくないと説示した平成14年3月13日付け審決(甲第23号証の19)の各説示に照らせば、本件商標は、「エンゼル印のココナッツ」といった意味合いに理解されると考えるのが自然である。なお、この場合の「エンゼル印」とは、後に詳述するとおり、請求人の著名なエンゼルマークを指称することとなる。
このような多数の先例に、「ANGEL」及び「COCO」の語彙や、飲食料品の分野における「COCO」の欧文字に関する一般的な取引実情、さらには、本件商標に関する出願人の使用意図、及びこれを引き継いだ被請求人の本件商標の使用状況等の具体的な取引実情をあてはめれば、本件商標は、「ANGEL」の欧文字に、指定商品との関係上、識別力がないか又は極めて微弱な「COCO」の欧文字を結合させたにすぎないことが当然に導き出されるから、本件商標は、「ANGEL」を要部として観察すべき商標であることは明白である。
したがって、本件商標は、要部観察に基づいて類否を検討することが許される典型的な商標であり、引用商標とは要部から生じる称呼及び観念が同一である類似商標にあたるとして、その登録は排除されなければならない。
(カ)小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標とは、要部から生じる称呼及び観念が同一である類似商標であり、引用商標に係る指定商品と類似する商品を指定商品とするものであって、引用商標の後願に係るものであるから、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
3 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
仮に本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当しないとしても、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、その登録は無効とされなければならない。以下、詳述する。
(1)出所の混同のおそれ
商標法第4条第1項第15号は、商品又は役務の同一・類似を要件とすることなく、混同を生ずるおそれを要件として、後願を排除する規定であるところ、同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者・需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者・需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものであるとされている(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁、甲第26号証)。
そこで、上記最高裁判決が判示する判断基準に沿って、本件商標が請求人の業務に係る商品との間で出所の混同を生じさせるおそれについて検討する。
(2)請求人のエンゼルマーク及び企業シンボルたる「エンゼル(天使)」の著名性
(ア)請求人の業務とエンゼルマーク
請求人は、明治32年(1899年)の会社創立以来、キャラメル、チョコレート、ビスケット、スナック、キャンディ、アイスクリームなどの菓子類を製造販売している老舗の食品メーカーであり、「エンゼル(天使)」を創業の精神を体現するシンボルとして、明治38年(1905年)に天使の図柄を使用した商標(以下「エンゼルマーク」という。)を採用した(甲第27号証)。エンゼルマークは、明治32年創業時、請求人の主力商品であったマシマロー(マシュマロ)が英語で「エンゼルフード(ANGEL FOOD)」と呼ばれていたこと、及びキリスト教徒であった創業者の森永太一郎が製菓を天職としながらキリスト教の布教を志すことを自己の使命と考えたことから、天使を図案にして採用されたものである(甲第28号証の1)。以来、請求人は、大正、昭和と時代の変遷とともに態様を少しずつ変化させながら、エンゼルマークを1世紀以上の永きにわたって自社が提供する製品に使用し、その商標出願も積極的に行って自社製品の商標による保護の強化を図ってきた(甲第31号証の1ないし78)。請求人が採用したエンゼルマークは過去に複数の種類(甲第28号証の1)が存在するが、昭和26年から昭和61年までの35年間にわたって使用されたエンゼルマーク(甲第29号証の1)、及び昭和61年から現在に至るまで用いられているエンゼルマーク(甲第30号証の1)は特に有名で、我が国の有名企業のマークのひとつとして、新聞、書籍等で度々取り上げられ紹介されている(甲第32号証の1ないし10)。かかる紹介記事では、森永太一郎の生い立ちやエンゼルマークの変遷などが説明されるとともに、エンゼルマークについて、「日本で一番ポピュラーな天使のヒストリー」、「『森永』の象徴はエンゼル・マーク」、「森永製菓といえばエンゼルのマーク」、「エンゼルマークのパワーで爆発的ヒット」、「幸福と希望を与える『天使』は最高のシンボルだった。」、「おなじみの『エンゼルマーク』は明治38年に誕生」、「一目で他の製品と区別できるようにするために、トレードマ-クを作成した。重視したのは、子供に夢を与える図柄にすること。」、「天使は逆立ちでなく、”舞い降りる”イメージ!」、「マスコット界の重鎮!?明治から現在まで現役バリバリのマスコットが登場だ!」といった見出しや説明が付されており(甲第32号証の1ないし9)、エンゼルマークが広く一般に浸透している事実が窺える。エンゼルマークは、特許庁においても防護標章登録が認められ、その著名性が認定されている(甲第29号証の2及び第30号証の2)。
請求人の業務は、主たる商品であるチョコレート、キャンディ、ビスケット、ケーキ、アイスクリーム等の菓子類、ココア等の飲料、ホットケーキ(のもと)等の食品、サプリメントとよばれる栄養補助食品等といった飲食料品の製造販売にとどまらず、関係会社を含めると、飲食店経営などの外食産業、ゴルフ場経営などのリゾート開発産業、研究実験用試薬などの製造販売等、極めて多岐に及んでいる(甲第28号証の2)。
(イ)請求人の宣伝広告活動
請求人は、戦前より新聞紙面を利用した宣伝広告を早くから実施し、我が国で民間によるラジオ放送やテレビ放送が開始されるや、その情報伝播力と訴求力に注目して当初よりこれを積極的に活用した(甲第28号証の3ないし5、甲第33号証の1ないし8)。
その他、請求人は、現在に至るまで数々の人気番組を提供し、人気歌手や俳優など多数の人気タレントを起用したテレビCMを流しており(甲第28号証の5)、また、その最後には原則としてエンゼル(天使)のマークをアイキャッチャーとして画面上に表示するよう努めている(甲第33号証の9ないし11)。請求人は、このように、広告の最後にエンゼル(天使)のマークをアイキャッチャーとして表示した商品毎のテレビCMを1年間で数十本制作しオンエアしている(甲第33号証の12ないし14)。
(ウ)「エンゼル(天使)」の語を使用したブランドイメージのアピール
請求人は、天使を創業の精神を体現するシンボルとしてエンゼルマークを採用したことから、「エンゼル(ANGEL、天使)」を自己の商品名やキャッチコピーに積極的に使用している(甲第34号証の1ないし12)。
請求人は、「エンゼルパイ」の商品パッケージ上で、商標登録表示記号(「○にR記号」)を付した「エンゼルパイ」の商標だけでなく、エンゼルマークや天使の図形とともに、「○にR記号」を付した「天使」の商標を使用しており(甲第34号証の13)、「エンゼル(天使)」が請求人の企業シンボルであること、「天使」が請求人の業務に係る商品を表す重要な登録商標及びその類似商標であることを取引者及び需要者にアピールするよう鋭意努めている。
請求人が登録商標「天使」の商標権者である事実は、ウェブページ内の「天使のレシピカレンダー」などにおいても告知されている。同ページでは、「天使のレシピカレンダー」の「天使」の部分の右隅に「○にR記号」が付されるとともに、画面の下方に「『天使』は森永製菓株式会社の登録商標です。」の文字が表示されている(甲第35号証)。
また、請求人は、平成16年(2004年)には、中高年の人々の健康的な生活をサポートするため、新規性、独自性のある健康食品を提供する、通信販売形式による「天使の健康」シリーズの販売を開始した(甲第36号証の1ないし2の9)。請求人は、「天使の健康」の顧客に対しては、会員登録により「エンゼル通信」を発行し、健康的な生活を送るための情報を掲載するほか、「エンゼルのおはなし」、「エンゼル広場」、「エンゼル掲示板(ANGEL’S FORUM)」といった「エンゼル」をタイトルに冠したコーナーを設けるとともに、エンゼル(天使)のキャラクターを掲載するなどして、エンゼル(天使)のブランドイメージを顧客に対して強く印象付けるよう常に心がけている(甲第36号証の4の1ないし4の7)。
その他、20代から30代の女性をターゲットにした本格生チョコレートの「エンゼルスイーツ(ANGEL SWEETS)」や、「エンゼルレリーフ(ANGEL RELIEF)」、「エンゼルパティシエ」など、枚挙に暇がないほど多数の「エンゼル(ANGEL)」を商標の一部に使用している(甲第37号証の1ないし3)。さらに、「天使が微笑む贈りもの!」、「贈る人、贈られる人に天使が微笑みます。」、「エンゼルバレンタイン 贈るとき、贈られるとき、いつもそこに、エンゼルがいてほしい。そんな気持ちがエンゼルバレンタイン。」、「天使の微笑み『やさしい気持ち、伝えます』エンゼルほのぼのとしたやさしさをパッケージで繊細に表現」、「天使も微笑む、すてきなチョコレート-それがエンゼルブランド」、「エンゼルのやさしいイメージを基調に、一つ一つが存在感をアピールしているエンゼルブランド」といったように、請求人は、キャッチコピーにも「エンゼル」、「天使」の語を頻繁に使用し、天使の図形を表示するなどして、取引者及び需要者に自己の「エンゼル(天使)」のブランドイメージを常にアピールするように鋭意努めている(甲第37号証の4ないし7)。
(エ)「エンゼル(ANGEL、天使)」による請求人のキャンペーン等販促活動
請求人は、自社商品の販売、宣伝広告だけでなく、「エンゼル(ANGEL、天使)」を冠した名称のキャンペーン、企画やイベント等も積極的に行っている。
「エンゼル(天使)」の名にちなんだキャンペーンとして、「夢のエンゼル便!おいしさ たのしさとどけ隊」、「エンゼルお菓子の国」フェア、「天使の素敵な贈りもの」など、数々のキャンペーンやイベントを活発に実施している(甲第38ないし第40号証の1)。
請求人は、これらのキャンペーンでも当然に「エンゼル(天使)」を重要なキーワードとして大々的に使用するとともに、100周年記念マークとして「100th ANNIVERSARY」の文字をあしらった天使の図形商標(甲第40号証の1)を新たに創作し、これを商品、宣伝広告、販促等に使用して、総合性、一貫性のあるプランを展開した。また、100周年事業の一環として、創業者・森永太一郎の出身地である佐賀県伊万里市の森永公園に、エンゼル(天使)をあしらった時計台を設置した(甲第40号証の2)。
請求人は、消費者向けのキャンペーン(甲第41号証ないし甲第45号証)や企画を、特に最近になって始めたわけでなく、例えば、昭和40年代には、自社商品に1点ないし2点のクーポン券を封入し、顧客が集めた点数に応じて大手百貨店で好きな商品に交換してもらえる「森永エンゼルクーポン」サービスをも実施し(甲第46号証)、また、昭和42年に販売開始の「チョコボール」における「おもちゃのかんづめ」は、40年以上もの間継続実施されている企画(甲第28号証の6)で現在でも人気を博している。
一方、商品の販促活動では、昭和20年代後半から昭和40年代前半にかけて、優良直接小売店の育成等を目的として、地区別に「森永エンゼル会」を設け、同会に加盟することで、取引上特別優遇、店舗の改善援助、販売用具・販促グッズの斡旋・提供、同会用特選品の製造、従業員の教育、情報誌の提供などの特典が受けられる「森永エンゼルストア」を全国各地で展開した(甲第28号証の7並びに第47号証の1及び2)。森永エンゼルストア各店は、その店頭に「森永エンゼル会の店」や「森永エンゼルストア」の看板(甲第47号証の2)を掲げ、請求人商品の直接小売店であることとともに、「エンゼル(天使)」ブランドを一般消費者に対してアピールする役割を大いに担った。森永エンゼル会に参加することは、当時の小売店にとっても、請求人の数々の人気商品を取り扱うことができるひとつのステータスであり、森永エンゼルストアは、最盛期の昭和30年には全国で約4,500店舗が存在した(甲第28号証の7)。
昭和61年6月には、セールスマンによる店頭フォロー活動を開始し、取引の促進や陳列提案などの支援をするため、パート制の婦人販促員の「エンゼルメイト」の導入を行った(甲第28号証の8)。
このように、請求人は、商品の販売やそのキャンペーン等においてことあるごとに「エンゼル(天使)」を使用し、これが自己のブランドイメージであることを取引者及び需要者に対して印象付けることを常に心がけている。
(オ)「エンゼル(ANGEL、天使)」による請求人の社会貢献活動
自己のブランドイメージとして「エンゼル(天使)」を印象付ける請求人の企業活動は、商品販売、宣伝広告やキャンペーンといった直接的な営業活動にとどまるものではない。
請求人は、ベルマーク運動(甲第48号証の1ないし3)や「1チョコfor1スマイル」活動(甲第49号証)を、菓子を通して世界の子どもたちの明るい未来を応援する社会貢献活動の一環と位置付け、これらの活動を「エンゼル(天使)」を冠した「エンゼル・スマイル・プロジェクト」の名称で実施している(甲第50号証の1)。「エンゼル・スマイル・プロジェクト」では、先の東日本大震災における被災地支援にも取り組んでおり、例えば、平成23年4月から5月にかけ、首都圏5箇所の「ららぽーと」及び磐田市の「ららぽーと磐田」において、「エンゼル・スマイル・プロジェクト supported by ららぽーと」と称するイベントを開催した(甲第50号証の2ないし5)。
さらに、請求人は、「子供たちに天の恵みを分け与えたい」という創業者の精神を「子供のすこやかな成長」というフレーズに込め、これを推し進める一環として、「森永リトルエンゼル無人島探検隊」や「伊賀・エンゼル自然塾」を環境教育型のCSR活動として実施している(甲第51号証の1ないし16及び第52号証の1ないし9)。
請求人は、平成8年7月19日から同年10月13日まで佐賀県で催されたジャパンエキスポ’96(吉野ヶ里サテライト会場)に、菓子情報及び来訪者参加型クイズの提供を中心とするパビリオンの「MORINAGAエンゼル館」を出展した(甲第53号証の1ないし5の11)。
請求人は、全国各所の工場のうち、昭和30年代より一般消費者のための工場見学を実施しており、現在でも、鶴見工場(神奈川県横浜市)、小山工場(栃木県小山市)、中京工場(愛知県安城市)及び塚口工場(兵庫県尼崎市)の4ヶ所で事前予約の上、継続して実施している(甲第54号証)。そこでは、請求人は、来場者に工場見学用のパンフレット類を配布しているところ、そのタイトルには、昭和30年代から平成18年度まで使用していた「エンゼルランド(ANGEL LAND)」(甲第55号証の1ないし5)のほか、「ようこそエンゼルの国へ」(甲第56号証の1ないし5)、「エンゼル見学マップ」(甲第57号証の1ないし4)といったように、「エンゼル(天使)」の語を冠したものを永年にわたって使用してきた。
(カ)飲食料品以外の分野における実績及び他業種とのコラボレーション
飲食料品以外の分野における実績として、請求人は、昭和40年に株式会社森永エンゼルボウル(後に、株式会社エンゼル・レジャーに改称)を設立してボウリング場経営等のレジャー産業へ進出し、昭和52年には、森永エンゼルカントリー株式会社を設立してゴルフ場経営を開始した(甲第28号証の9)。また、エンゼル(天使)を共通のイメージコンセプトとする「天使のブラ」を、大手ランジェリーメーカーのトリンプ・インターナショナル・ジャパンと提携して共同で販売した(甲第58号証の1ないし3)。
平成13年には、創業者の森永太一郎の半生を描いた舞台劇の「天使が微笑んだ男?森永太一郎伝?」が佐賀県と東京都で上演され(甲第59号証の1ないし3)、請求人はこれに協賛し、請求人の「エンゼル(天使)」のブランドイメージをアピールする宣伝効果において非常に有益な興業となった。
また、世界的に大ヒットしたハリウッド映画「ダ・ヴィンチ・コード」の続編である「天使と悪魔」の劇場公開にあわせて、ソニー・ピクチャーズエンターテインメント株式会社と特別優待割引券付きエンゼルパイを発売するタイアップキャンペーン(甲第60号証の1ないし3)を実施するなど、「エンゼル(天使)」をキーワードとする異業種企業とのコラボレーションも積極的に行っている。
他方、請求人は、21世紀に生きる人類の幸せづくりに貢献するシンクタンクとして、平成3年に経済企画庁(現・内閣府)の認可のもとに「財団法人エンゼル財団」を設立し、生涯学習ニーズにあわせた動画コンテンツの「森永エンゼル・カレッジ」を提供しているほか、「エンゼルのように地球にやさしく!!」をスローガンとする環境企業理念を提唱し、社会活動を積極的に行っている(甲第61号証の1ないし3)。
(キ)インターネット等でみられる請求人のブランドイメージ
インターネット上には、「エンゼル(天使)」を請求人に結び付けて説明している各種ウェブサイトが見受けられる(甲第62号証の1ないし7)。
このように、エンゼル(天使)の説明に「森永」(請求人)が引き合いに出されることは、今に始まったことではない。古くは、我が国の児童文学作家であり、「日本のアンデルセン」や「日本児童文学の父」と呼ばれた小川未明は、大正時代に発表した著書「飴チョコの天使」で、請求人のミルクキャラメルを題材に、そのパッケージに描かれたエンゼル(天使)を主人公にした童話を書いている(甲第63号証の1及び2)。新潟県上越市に所在する「小川未明文学館」には、請求人の「森永ミルクキャラメル」のパッケージの巨大オブジェやエンゼル(天使)の像が展示されており、また、そのウェブページにはエンゼル(天使)のシルエット図形が表示され(甲第63号証の3及び4)、「飴チョコの天使」発表当時、すでに「エンゼル(天使)」が請求人と強く結びついて認識されていたことを示唆している。
さらに、90年代の前半にアメリカで起こったと言われる「天使ブーム」の際には、エンゼル(天使)関連商品(天使グッズ)を取り扱う店舗として、請求人の「森永ラヴ銀座店」の「エンゼルコーナー」が新聞で紹介されたことがある(甲第64号証の1ないし3)。
(ク)小括
上記の諸事実は、請求人のエンゼルマークはもちろんのこと、「森永といえばエンゼル(天使)」、「エンゼル(天使)といえば森永」との認識が広く世間一般にすでに確立されていることを如実に示している。すなわち、我が国における一般的な「エンゼル(天使)」のイメージは請求人が定着させたといえ、100年以上にわたって「エンゼル(天使)」を企業シンボルとして一貫して使用してきた請求人の企業努力の結果、「エンゼル(天使)といえば森永」、「森永といえばエンゼル(天使)」といわれるほど、老若男女を問わず、「森永製菓=エンゼル(天使)」は人々の記憶の中に深く刷り込まれているのである。「エンゼル(天使)」が、請求人及びその関連会社に係る商品や業務を指称する著名な企業シンボルとして、取引者及び需要者の間に広く知られたところとなっている事実は、もはや疑いようがない。
(3)本件商標とエンゼルマーク及び企業シンボルとしてのエンゼル(天使)との類似性の程度
既述のとおり、本件商標は、「ANGEL」と「COCO」の2語を結合してなる結合商標と自然に認識されるものであり、「COCO」は識別力がないか又は極めて微弱な部分である。したがって、本件商標からは「ANGEL」が要部として認識され、ここから「エンゼル(エンジェル)」の称呼及び「天使」の観念が生じる。一方、請求人のエンゼルマークから「エンゼル(エンジェル)」の称呼及び「天使」の観念が自然に生じることは明らかであり、また、引用商標は、いずれも「エンゼル(天使)」の企業シンボルを象徴する請求人及び請求人のグループ会社の代表的な商標である。
そうすると、本件商標は、請求人のエンゼルマーク及び企業シンボルたる「エンゼル(天使)」とは、要部から生じる称呼及び観念が同一又は類似の商標であるから、本件商標とエンゼルマーク及び企業シンボルとしてのエンゼル(天使)との類似性の程度は、相当程度高いといえる。
(4)エンゼルマークの独創性の程度
エンゼル(天使)はキリスト教やユダヤ教を始めとする西洋宗教に基礎を置く存在であり、請求人が最初にエンゼルマークを採用した明治38年当時、我が国における西洋宗教の普及度を考えれば、エンゼル(天使)の概念は一般に知られたものでなかった。
したがって、天使をモチーフにした図案が一般に用いられることはなかったのであるから、請求人のエンゼルマークは、他に類例をみないほど斬新かつ独創的な商標であったことは明白である。
(5)商品間の関連性、取引者、需要者の共通性
商品間の関連性、取引者、需要者の共通性について、請求人がエンゼルマーク及び企業シンボルたる「エンゼル(天使)」の著名性を獲得した商品は、キャラメル、チョコレート、キャンデー、アイスクリーム、スナック菓子等の菓子を中心とする食料品であるのに対し、被請求人が本件商標を使用し又は使用を企図している第29類及び第30類の指定商品も食料品に分類される商品である。
食料品は、広く一般消費者を需要者としている点はいうまでもなく、陳列販売方式を採用するスーパーマーケットなどの同一の店舗で取り扱われ、同一事業者により販売されるから、需要者及び取引者としての共通性は決して小さなものではない。
したがって、請求に係る指定商品は、請求人のエンゼルマーク及び企業シンボルたるエンゼル(天使)が著名性を獲得した商品とは、極めて強い商品間の関連性を有するといえるから、当然にその需要者及び取引者の範囲は一致する。
(6)本件商標の指定商品の需要者において普通に払われる注意力その他取引の実情
本件商標の指定商品は日常的に消費される商品であり、その購入者には必ずしも商標について詳細な知識を持たない者も多数含まれる。このような商品については、商品の購入に際し、消費者がメーカー名などについて常に注意深く確認するとは限らず、小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないことからすれば、需要者が商品購入時に払う注意力は高いものではなく(甲第65号証)、商標構成中の覚えやすく親しみやすい印象及び過去に購買した際の記憶に基づいてその商品を選択ないし購買すると考えられる。
また、「エンゼル(天使)」は、幼児、年少者から高齢者に至るまで広く一般に知られた語であるのみならず、請求人の企業イメージに直結するほど人々の記憶に深く刷り込まれたものであることからすれば、需要者において普通に払われる注意力としては、本件商標に接した需要者は、「ANGEL」の部分に着目して、「エンゼル」の称呼及び「天使」の意味合いを想起し、ここから慣れ親しんだ請求人のエンゼルマークや請求人の企業シンボルとしての「エンゼル(天使)」を連想して、当該商品が請求人の業務に係るものと認識するであろうことは容易に想像される。
(7)特許庁における審査基準
商標法第4条第1項第15号に関する商標審査基準上、「他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して取り扱うものとする」とされている(商標審査基準〔改訂第9版〕十三の5、甲第66号証)。エンゼルマーク及び企業シンボルたる「エンゼル(天使)」が請求人及び請求人のグループ会社の取り扱いに係る商品及び役務を表すものとして需要者及び取引者の間に広く認識されている事情に鑑みれば、「ANGEL」の欧文字を含む本件商標は、上記審査基準上にいう「他人の著名な商標と他の文字又は図形を結合した商標」にあたり、その外観構成がまとまりよく一体に表されていると否とにかかわらず、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標として商標法第4条第1項第15号に該当するものとして排除されなければならない。
(8)まとめ
(ア)本件商標とエンゼルマーク及び企業シンボルたるエンゼル(天使)が、いずれも需要者の注意を惹き印象に残りやすい「エンゼル」の称呼及び「天使」の観念を生じる点において高い類似性を有する。
(イ)請求人及び請求人のグループ会社の業務に係る商品であることを表す著名なエンゼルマークが我が国において1世紀以上の永きにわたって使用された結果、エンゼルマーク及びエンゼル(天使)の企業シンボルは、本件商標の出願時及び登録査定時には、請求人及び請求人のグループ会社の業務に係る商品であることを指称する著名性を獲得していた。
(ウ)エンゼルマークは、我が国で最初に採用された明治38年当初において、極めて斬新かつ独創的なものであった。
(エ)本件商標の指定商品とエンゼルマーク及びエンゼル(天使)の企業シンボルが使用されて著名性を獲得した商品が、飲食料品としての関連性をもって認識されるものである。
(オ)飲食料品は日常的に売買費消される商品であって、需要者がその取引にあたって払う注意力はさほど高いものではなく、また、エンゼルマーク及び企業シンボルたるエンゼル(天使)に通じる「ANGEL」の欧文字を有する本件商標に接した多くの需要者が、当該商品等が請求人及び請求人のグループ会社の業務に係るものと認識すると考えられる取引の実情がある。
(カ)特許庁の商標審査基準を総合して考慮する。
上記(ア)ないし(カ)からすると、本件商標をその指定商品等に使用するときは、これに接する取引者・需要者は、本件商標の「ANGEL」に着目し、ここから著名なエンゼルマークやエンゼル(天使)の企業シンボルを想起・連想し、あたかも請求人若しくはそのグループ会社が取り扱う業務に係る商品であるかの如く認識して取引にあたると考えられるため、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 結び
以上より、本件商標は、その指定商品中、第29類「全指定商品」及び第30類「全指定商品」について、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するというべきであるから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効にすべきである。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は、請求人の主張は理由がないものとする、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第7号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求人は、判決例等をいろいろ述べているが、請求人の主張を要約すると「『ANGEL』は『天使』を表す英語として我が国では広く一般に知られているものであり、宗教に基礎を置く想像上の存在であって、本来、飲食とは全く関係ない語であるから、本件商標の『ANGEL』は、商品の品質、原材料や等級など示す形容詞的な部分でなく、本件商標の指定商品との関係において、自他商品識別機能(識別力)を有する部分であることは明らかである。一方『COCO』は飲食料品の分野ではココナッツを原材料とする商品の名称の一部を構成するものとして、広く一般に用いられているものであり、指定商品をココナッツに関連した商品としている本件商標にあっては、『COCO』は自他商品識別標識としての機能を果たし得ない形容詞的な部分であることは明らかであるから、本件商標のうち、取引上自他商品の識別標識としての機能を有する部分は、『ANGEL』である。したがって、本件商標については、『ANGELCOCO』の称呼が生ずるとともに、その要部から、単に『ANGEL』の呼称をも生ずるとすることが、社会通念からみて、取引の実情に適合する。本件商標がその指定商品に用いられた場合、取引者、需要者はこれを『ANGELCOCO』と称呼するだけではなく、その前半部『ANGEL』と称呼する場合も決して少なくないというべきであるから、本件商標からは『ANGEL』の称呼も生ずると解するのが適当である。そうすると、引用商標『ANGEL』等と本件商標とは『ANGEL』の称呼を共通にするものであり、称呼が同一であるにもかかわらず、その使用により商品の出所の混同を生じないという特別の事情も認められないから、両商標は類似商標というべきである。本件商標は、そもそも引用商標『ANGEL』等そのものと同じなのであり、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に反し、違法に登録査定されたものであるから、その登録は取り消されるべきである。」とのことである。
2 しかしながら、本件商標は、決して「ANGEL」と「COCO」とに分離され、考察されるべきではなく、あくまで「ANGELCOCO」全体で一連不可分の固有の観念を有する語と考察されるべきものと思料する。
ココナッツ成分研究は、近年、漸く米国の最新科学と医学研究により明らかになり始めたばかりのものであり、旧来のココナッツに対する認識である「ココナッツ=不飽和脂肪酸=高コレストロール=不健康」とのこれまでの概念を覆すような結果が、乙第1号証に示すように、近年急速に進歩した「コレステロールと脂肪酸の研究」によりもたらされている。中でも注目すべきは、乙第2号証に示すように、フィリピン国ココナッツ庁発表の「ココナッツシュガーはグリセミック・インデックス・バリュー(GI値)35」とあるように、GI値の低い天然糖である事実である。GI値とは「炭水化物が消化されて糖に変化する速さを相対的に表す数値」であり、通常のブドウ糖がGI値100であるのに対しココナッツシュガーのGI値はわずか35と、低インシュリンの代表格として、その数値は注目に値するものである。このような学術研究を背景として、乙第3号証に示すとおり、近年、欧米ではココナッツは「セレブ向けの美容と健康の為の飲料としての良好なイメージ」が定着しつつあり、さらに米国での「ココナッツウォーター人気」は世界のココナッツ需給に影響を与えるほどの現象となっている。
本件商標は、日本語の「天使のココヤシ」を英語にしたものであるが、日本では乙第4号証に示すとおり、従来よりココナッツを「南国の果実」、「ココナッツ=不飽和脂肪酸=高コレストロール=不健康」とのイメージが既に定着しており、最新医学研究を母体とした米国イメージである「セレブ向けの美容と健康の為の飲料としての良好なイメージ」とはかけ離れたところにある。「天使」=「神の使者として派遣され、神意を人間に伝え、人間を守護するもの」=「天が与えてくれた、糖質の吸収が穏やかで身体に優しい果実で、美容と健康の為の天然素材」は、このイメージ解離を埋め合わせる為には必要不可欠な語彙であり、故に「天使のココヤシ」の英語表記「ANGELCOCO」なる語は一連不可分の強いメッセージ性を帯びた固有の観念を有する語であると考える。
したがって、「ANGELCOCO」の語から、「ANGEL」の語のみを分離してしまうと、米国の最新科学と医学研究によってもたらされた、ココナッツが本来有する「天が与えてくれた糖質の吸収が穏やかで身体に優しい果実で、美容と健康の為の天然素材」との意味とは全く異なる、旧来の誤認識を含む意味を取引者、需要者に対し与えてしまう可能性を非常に危惧する。
このことは、「スーパーマン」(人間離れした能力を持っている人、超人)というような語からも、明らかなものであり、「スーパー」本来の「優れている」、「すばらしい」という意味がなくなり、全体で一連不可分の一つの固有観念を有する語とみなされているものである。この点については、「BIG COPING MACHINE」(大きな複写機)、「BIG FAX」(大きなファクシミリ)等において使用される「BIG」が有する意味とは異なるものである。
3 特許庁においては、いろいろの商品区分に本件商標と同一態様の「ANGEL+〇〇〇」又は「エンジェル+〇〇〇」等の商標が登録となっているが、これらのうち、以下に示すものは、「ANGEL」、「エンジェル」又は「エンゼル」の称呼を生じる「エンジェル」又は「エンゼル」と併存して登録されている(乙第5号証)。
(1)第3類「ANGELCOAT」と「ANGEL\エンジェル」
(2)第3類「エンジェルゴート\angel goutte」と「エンジェル」
(3)第9類「エンジェルコール」と「エンジェル」
(4)第14類「Angel Call」と「L.A.ANGEL」
(5)第24類「ホワイト エンゼル\White Angel」と「ANGEL」
(6)第25類「ANGEL COOKY」と「エンゼル\ANGEL」
(7)第25類「ANGEL COOKIE\エンゼルクッキー」と「ANGEL」
(8)第30類「ANGEL TWEETY」と「ANGEL\エンゼル」
(9)第30類「エンジェルオリーブ\ANGEL OLIVE」と「ANGEL\アンジェロ」
このことも、「ANGELCOCO」なる語は、いずれも全体で一連不可分の語と判断された事を示している。
4 次に、特許庁においては、いろいろな商品区分において、「○○○+COCO」又は「○○○+ココ」の形態からなる語が登録となっているが、これらのうち、以下に示すものは、「○○○」と併存して登録となっている(乙第6号証)。
(1)第3類「SHIELDCOCOMASK」と「GN-SHIELD」
(2)第29類「ココアミノ」と「AMINO」
(3)第32類「VITACOCO」と「VITA」
このことからも、これら「○○○+COCO」又は「○○○+ココ」の形態からなる語が使用されている「COCO」又は「ココ」の語は必ずしも、飲食料品の分野ではココナッツを原材料とする商品の名称の一部を構成するものとして、広く一般に用いられているものであり、指定商品をココナッツに関連した商品としている商標にあっては、自他商品識別標識としての機能を果たし得ない形容詞的な部分であるとは判断されず、「○○○+COCO」又は「○○○+ココ」全体で一連不可分の一つの固有の観念を有する語と判断されたことを示すものであり、本件商標についても、「ANGELCOCO」は全体で一連不可分の語とみるのが妥当であるとする被請求人の主張を充分裏付けるものである。
5 さらに、特許庁においては、食品分野において、「○○○+COCO」又は「○○○+ココ」の形態からなる語が、以下に示すように、数多く登録されている(乙第7号証)。
(1)第29類及び第30類「ココパイン」、「ココアメリカン」
(2)第30類「ココマンゴー\cocomango」、「ハニーココ\HONEYCOCO」、「Cocotea」、「COCO」、「アラレココ」(3)第32類「Coco\ココ」
このことからも、これら「○○○+COCO」又は「○○○+ココ」の形態からなる語が使用されている「COCO」又は「ココ」の語は必ずしも、飲食料品の分野ではココナッツを原材料とする商品の名称の一部を構成するものとして、広く一般に用いられているものであり、自他商品識別標識としての機能を果たし得ない形容詞的な部分であるとは判断されず、「○○○+COCO」又は「○○○+ココ」全体で一連不可分の一つの固有の観念を有する語と判断されたことを示すものであり、本件商標についても、「ANGELCOCO」は全体で一連不可分の語とみるのが妥当であるとする被請求人の主張を充分裏付けるものである。
6 本件商標の登録を無効にすることは、権利関係にも大きな影響をきたすものである。
請求人は、本件商標に対し公告の段階で、登録異議の申立てもしなかったものであり、被請求人が述べた上記理由からも明らかなように、本件商標と引用商標とは外観、観念はもとより、称呼上も全く非類似のものであるから、本件商標は充分に登録適格性を具備した商標であるというべきものである。
7 以上述べたことから明らかなように、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当せず、登録適格性を具備した商標であるというべきものである。
よって、本件審判の請求は成り立たない。

第5 当審の判断
1 本件商標について
(1)本件商標は、別掲のとおり、「ANGELCOCO」の文字を同書、同大、同間隔で一連に横書きした構成からなるものであるところ、前半の「ANGEL」部分が角張った形状の文字が多いのに対し、後半の「COCO」部分は丸い形状の文字が多いことから、視覚上「ANGEL」部分と「COCO」部分とが分離しているような印象を与えるものである。
(2)「ANGEL」の文字は、「天使」を意味する親しまれた英語であり、その表音である「エンゼル」又は「エンジェル」は、同義の外来語として広く一般に知られているものである(甲第12号証)。
また、「COCO」の文字は、「ココヤシ」又は「ココヤシの実」を意味する英語及び仏語であり(甲第13号証の1及び2)、飲食料品の分野においては、商品の原材料たる「ココナッツ(coconut)」を示すものとして普通に使用されており、例えば、飲食料品を扱うインターネットショッピングサイトにおいては、以下(甲第19号証の1ないし25)のような記述が見受けられる。
(ア)商品「チョコレート」につき、「【Coco】ココナッツ」との表題の下、「甘い南国の香りが特徴のココナッツとまろやかなミルクチョコレートが女性に大人気。」。
(イ)商品「マカロン(洋菓子の一種)」につき、「COCO-MACARON:ココナッツ マカロン」との表題の下、「ココナッツを合わせカリッと焼き上げました」。
(ウ)商品「洋菓子」につき、「Coco Cube(ココナッツ)」との表題の下、「国産小麦と天然酵母、ココナッツをたっぷり配合。」。
(エ)商品「ベーグル(パンの一種)」につき、「coco bagel キャラメルココナッツベーグル」との表題の下、「生地にはロングココナッツファインを練りこみ、お腹にやさしいてんさい糖で手作りした・・・」。
(オ)商品「ウエハース」につき、「Barquillos de Coco-ココナッツウエハース-HACENDADO」との表題の下、「パッケージを開けるとふんわりとココナッツの香りがただよいます。」。
(カ)商品「砂糖」につき、「ココシュガー1kg」との表題の下、「貴重なココナッツの花蜜をじっくり丹精込めて煮詰めた天然糖です」。
(キ)商品「ココナッツパウダー」につき、「お料理にお菓子作りに便利!横浜中華街 COCOMAXI ココナッツパウダー☆お湯で溶かせばココナッツミルクに☆25g」。
(ク)商品「ジュース」につき、「ココナッツウォーター みかん(タンジェリン)味 ソココ200ml」、「Agua De Coco Mais Tangerina Sococo」。
(ケ)商品「菓子」につき、「Manjar de coco ココナッツのパンナコッタ(6個)」との表題の下、「ブラジルの代表的なデザートのひとつ、Manjar de cocoは、・・・生クリームではなく、ココナッツで作ります。」。
(コ)商品「菓子」につき、「Coco-Passion(パッションフルーツとココナッツのケーキ)」との表題の下、「ココナッツを散らしてシート状に焼き上げたパータジェノワーズにパッションフルーツ風味の・・・」。
(サ)商品「アイスクリーム」につき、「Glace au coco-ココナッツのアイスクリーム」との表題の下、「ココナッツミルクと刻んだココナッツをたっぷり使ったアイスクリームです。」。
加えて、本件商標は、上記第1のとおり、ココナッツオイルを使用した商品を指定商品とするものである。
(3)本件商標は、全体として親しまれた既成の観念を有する成語を表したものとは認められない。
この点に関し、被請求人は、本件商標は「天使のココヤシ」の意味合いを英語表記したものであって固有の観念を有する語である旨主張するが、これを裏付ける証左はなく、本件商標が上記意味合いを有する成語として広く一般に知られているものとは到底認められない。
(4)以上によれば、本件商標は、「ANGEL」と「COCO」の2語からなるものとして認識し理解されるものであり、また、「COCO」の語は、本件商標の指定商品との関係において、商品の原材料、品質等を表示するものとして認識されることが少なくないといえるから、自他商品の識別力がないか極めて弱いものといわざるを得ない。
そうすると、本件商標は、その構成中の「ANGEL」の文字部分が、自他商品識別標識たる要部として、看者の注意を強く惹くものというべきである。
2 エンゼルマーク及び請求人の企業シンボルたる「エンゼル(天使)」の周知著名性について
(1)請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人は、明治32年(1899年)創業に係る会社であり、主たる商品であるキャラメル、チョコレート、ビスケット、スナック、キャンディ、アイスクリーム等の菓子類、飲料等の食品の製造販売のみならず、関係会社を含めると、飲食店経営、ボーリング場経営、ゴルフ場経営、研究実験用試薬の製造販売等、その業務は多岐に及んでいる(甲第28号証の1ないし3及び9)。
(イ)請求人は、創業時、主力商品であったマシマロー(マシュマロ)が米国では「エンゼルフード(天使の糧)」と呼ばれていることなどから、「エンゼル(天使)」を創業の精神を体現するシンボルとして、明治38年にエンゼルマークを採用し、商標登録を受けた(甲第27及び第28号証の1)。
エンゼルマークは、その採択以来、時代の変遷と共にその態様を少しずつ変化させながら、一世紀以上にわたり請求人の製品に使用されており、そのことが新聞、雑誌、書籍等でも度々取り上げられ紹介されている(甲第28号証の1、第29号証の1、第30号証の1及び第32号証の1ないし10)。
(ウ)請求人は、明治37年に初めての新聞広告を掲載して以来、新聞、雑誌、ポスター等による広告宣伝を行ったほか、ラジオ放送、テレビ放送が開始されると、これらをいち早く活用して積極的に宣伝広告活動を行った(甲第28号証の1及び3ないし7)。
ラジオ放送では、プロ野球中継、連続ドラマ「永遠に答えず」、美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみの「歌う三人娘」、「森永エンゼルタイム」などを提供して話題となり、「森永エンゼルタイム」におけるエンゼルのテーマ曲「エンゼルはいつでも」を制作、「エンゼルのうた」は小学校の音楽教材の一つにもなった(甲第28号証の4及び5、第33号証の1及び2)。
テレビ放送では、「怪人二十面相」、「怪傑ゾロ」、「コルト45」、「狼少年ケン」、「人間の條件」等の番組を提供したほか、昭和34年の皇太子殿下御成婚式の模様を朝6時台から夕方5時まで中継した。また、チューインガム広告に起用したメキシコのボーカルトリオ「トリオ・ロス・パンチョス」の2ヶ月にわたる日本公演の実況中継を行った。最近では、平成15年から平成21年まで日本テレビ系列で「エンゼルのいる星?あなたの1番たいせつなもの?」を提供した。その他、現在に至るまで数々の人気番組を提供し、また、人気歌手や俳優など多数の人気タレントを起用したテレビコマーシャルを行っている。これらの多くには、エンゼル(天使)を描いた標章がアイキャッチャーとして表示されている(甲第28号証の5及び第33号証の5ないし14)。
(エ)請求人は、創業の精神を体現するシンボルとしてエンゼルマークを採用したことから、「エンゼル」及び「天使」の語を自己の商品名やキャッチコピーに積極的に採用している。例えば、昭和33年に発売開始したチョコレート菓子「エンゼルパイ」は、現在まで継続販売されている異例ともいえるロングセラー商品であって、高い人気を得ており、平成22年11月10日から平成23年2月14日まで開催されたイルミネーションイベント「Super Light City 2010?present for you?」では、展示施設内の請求人エリア「エンゼル・スポット」に本物そっくりの巨大エンゼルパイをモチーフにした高さ7mの「エンゼルツリー」が設置され、エンゼル・スポットの各所が「エンゼル」(天使)で装飾され、話題となり、各種雑誌、ウェブページ、テレビ等で紹介されたほか、会場に隣接するホテルでは「エンゼル」(天使)をモチーフにしたスイーツやエンゼルパイなどが提供された(甲34号証の1ないし13)。
また、請求人のチョコレート等の商品には「エンゼルスイーツ/Angel Sweet」、「エンゼルレリーフ/ANGEL RELIEF」、「エンゼルパティシェ/Angel Patissier」等の商標がエンゼルマークと共に使用されているほか、バレンタインデー等に合わせたギフト製品等についてもキャッチコピーに「エンゼル」又は「天使」の語が頻繁に使用されている(甲第37号証の1ないし7)。
その他、請求人は、自己のウェブサイトにおける「天使のレシピカレンダー」の掲載、「天使の健康」ブランドとして中高年をターゲットとした新規栄養補助食品の通販事業、会員登録による「エンゼル通信」の発行等を行うとともに、「エンゼルのおはなし」、「エンゼル広場」、「エンゼル掲示板(ANGEL’S FORUM)」といった「エンゼル」を冠したコーナーを設け、エンゼル(天使)の図形を掲載し、情報提供を行っている(甲第35、第36号証の1、第36号証の2の1ないし9及び第36号証の4の1ないし7)。
(オ)請求人は、商品の販売だけでなく、「夢のエンゼル便!おいしさたのしさとどけ隊」、「エンゼルお菓子の国」、「天使の素敵な贈りもの」、「『エンゼル体操』ソノシートプレゼント」、「『天使のグッズ』プレゼント」、「エンゼルが丘三丁目」、「エンゼル放送局」、「エンゼル新聞」、「小沢くんの『エンゼルの鍵』プレゼント」、「ありさの電気自転車『エンゼル号』プレゼント」、「森永エンゼルクーポン」といった、「エンゼル(ANGEL)」、「天使」を冠した名称のキャンペーン、企画、イベント等も行っている(甲第38ないし第46号証(枝番を含む。))。
また、商品の販促活動として、昭和20年代後半から昭和40年代前半にかけて、優良直接小売店の育成等を目的として「森永エンゼル会」を設け、「森永エンゼルストア」を全国各地で展開し、森永エンゼルストア各店は、その店頭に「森永エンゼル会の店」、「森永エンゼルストア」の看板を掲げていた(甲第28号証の7並びに第47号証の1及び2)。昭和61年6月には、パート制の婦人販促員「エンゼルメイト」を導入し、店頭訪問活動を行った(甲第28号証の8)。
(カ)請求人は、商品の販売、宣伝広告、キャンペーンといった直接的な営業活動のみならず、財団法人ベルマーク教育助成財団によるベルマーク運動に参画し、右手に鈴(ベル)を持ったエンゼル(天使)の図形を採用し「スクールエンゼル」と称し、学校教育機関でも「スクールエンゼル」の名称が用いられている。請求人は毎年ベルマーク運動の協賛金を上記財団に納めており、昭和50年には上記財団より表彰を受けている(甲第48号証の1ないし3)。また、請求人は、十分な教育環境が整っていない国の子供達を支援するために「1チョコfor1スマイル」活動を実施している(甲第49号証)。
請求人は、上記ベルマーク運動や1チョコfor1スマイル活動を社会貢献活動の一環と位置付け、「エンゼル・スマイル・プロジェクト」の名称で実施しており、「エンゼル・スマイル・プロジェクト」では、平成23年の東日本大震災における被災地支援にも取り組み、イベントを開催している(甲第50号証の1ないし5)。
その他、請求人は、「森永リトルエンゼル無人島探検隊」、「伊賀・エンゼル自然塾」といった子供達を対象とした環境教育型のキャンペーン活動や、ジャパンエキスポ佐賀’96に「エンゼル館」の出展を行っており、これらの説明書、看板等にはエンゼルマークが掲載されている(甲第51ないし第53号証(枝番を含む。))。また、請求人が実施している一般消費者のための全国各地の工場見学においても、「エンゼルランド」、「ようこそエンゼルの国へ」、「エンゼル見学マップ」といったタイトルやエンゼルマークを使用したパンフレットが頒布されている(甲第54ないし第57号証(枝番を含む。))。
(キ)請求人は、「エンゼル」及び「天使」との関係で、トリンプ・インターナショナル・ジャパン、ソニー・ピクチャーズ エンターテインメント等の異業種企業とのコラボレーションを行い、これらにおいてもエンゼルマークが使用されている(甲第58ないし第60号証(枝番を含む。))。また、請求人は、「エンゼルのように地球にやさしく!!」を環境理念とする企業活動も行っている(甲第61号証の1ないし3)。
(ク)インターネットのウェブサイトや雑誌等においても、請求人と「エンゼル」及び「天使」とを結びつけて説明されている(甲第62ないし第64号証(枝番を含む。))。
(2)上記(1)の事実によれば、飲食料品の分野においては、エンゼルマークはもとより、「エンゼル」及び「天使」の語は、請求人の商品及び業務を示す商標及び企業シンボルとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、取引者・需要者の間に広く認識されていたものというべきである。
3 商品の混同のおそれについて
(1)前示のとおり、本件商標は、「ANGEL」の文字部分が自他商品識別標識しての機能を有する要部として看者の注意を強く惹くものであり、これより「エンジェル」又は「エンゼル」の称呼及び「天使」の観念を生ずる場合が少なくないものといえる。
他方、請求人の商標及び企業シンボルであるエンゼルマーク、「エンゼル」及び「天使」(以下、まとめて「使用標章」という。)が取引者・需要者の間に広く認識されていることは上記2のとおりであり、これらは、いずれも「エンゼル」の称呼及び「天使」の観念を生ずるものといえる。
そうすると、本件商標と使用標章とは、称呼及び観念を共通にし、互いに相紛らわしいものといわなければならない。
(2)本件商標の指定商品中の請求に係る商品(第29類及び第30類に属する商品)と、使用標章が使用されている商品とは、いずれも食料品に分類される商品であり、密接な関連性を有するものであって、それぞれの取引者・需要者も共通することが多いものである。
(3)かかる事情の下において、本件商標をその指定商品中の請求に係る商品に使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、その構成中の「ANGEL」の文字部分に着目し、周知著名となっている使用標章ないしは請求人を連想、想起するというべきであり、該商品が請求人又は請求人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるものと判断するのが相当である。
4 被請求人の主張について
被請求人は、本件商標は「天使のココヤシ」の英語表記であって一連不可分の強いメッセージ性を帯びた固有観念を有する語である旨主張し、証拠を提出している。
しかしながら、被請求人の提出に係る証拠を精査するも、本件商標が一連の成語として使用されている事実はもとより、本件商標が被請求人の業務に係る商品を表示する商標として使用されている事実は一切見当たらず、本件商標が「天使のココヤシ」の意味合いを有する一連不可分の成語として一般に親しまれているものとは到底認められない。
そして、本件商標は、前示のとおり、「ANGEL」と「COCO」の2語からなるものとして認識し把握されるとみるのが自然である。
よって、被請求人の主張は採用することができない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、その指定商品中、請求に係る「第29類の全指定商品及び第30類の全指定商品」について、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標



審理終結日 2012-07-11 
結審通知日 2012-07-13 
審決日 2012-07-25 
出願番号 商願2009-11653(T2009-11653) 
審決分類 T 1 12・ 271- Z (X2930)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石戸 円堀内 真一蛭川 一治古森 美和 
特許庁審判長 寺光 幸子
特許庁審判官 田中 敬規
酒井 福造
登録日 2010-10-08 
登録番号 商標登録第5358375号(T5358375) 
商標の称呼 エンジェルココ、エンゼルココ、エンジェル、エンゼル、ココ 
代理人 関 真也 
代理人 阪田 至彦 
代理人 鳥海 哲郎 
代理人 小林 彰治 

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