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審決分類 審判 一部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない X06
管理番号 1259826 
審判番号 無効2011-890051 
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-23 
確定日 2012-06-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第5252132号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第5252132号商標(以下「本件商標」という。)は、「EDDIES」の文字を標準文字で表してなり、平成20年9月8日に登録出願、第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料,手すり,金属製水栓柱,バルブ,金属製管継ぎ手,金属製フランジ,金属製栓,金属製ふた,金属製のタオル用ディスペンサー」、第11類「便所ユニット,浴室ユニット,水道用栓,タンク用水位制御弁,パイプライン用栓,給水栓,混合水栓,太陽熱利用温水器,浴槽類,シャワー器具,シャワーヘッド,洗面台用シャワー器具,シャワー室,洗浄機能付き便座,洗面所用消毒剤ディスペンサー,便器,和式便器用いす」、第20類「プラスチック製バルブ(機械要素に当たるものを除く。),コルク製栓,プラスチック製栓,プラスチック製ふた,木製栓,木製ふた,タオル用ディスペンサー(金属製のものを除く。),家具,洗面化粧台,化粧棚,タオル棚」及び第21類「湯かき棒,浴室用腰掛け,浴室用手おけ,浴室用石けん台,寝室用簡易便器,トイレットペーパーホルダー,紙タオル取り出し用金属製箱,靴脱ぎ器,せっけん用ディスペンサー,タオル掛け,タオルリング,タオルハンガー」を指定商品として、同21年6月10日に登録査定、同年7月31日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の指定商品中、『第6類 建築用又は構築用の金属製専用材料,手すり,金属製水栓柱』について、その登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。
(1)利害関係
請求人は、チリ国法人の建築会社であり、建築用又は構築用の金属製専用材料を主に扱っており、「EDYCE」の標準文字からなる商標を第6類に属する「建築用又は構築用の金属製専用材料」などの商品を指定商品として平成22年4月9日に登録出願した(甲第2号証)ところ、本件商標が引用され、商標法第4条第1項第11号に該当する旨の拒絶理由通知を受けている。
したがって、請求人は、本件商標について、その指定商品中「第6類 建築用又は構築用の金属製専用材料,手すり,金属製水栓柱」について、無効審判を請求する具体的な法的利益を有する。
(2)請求の理由
本件商標の登録は、以下の理由により、商標法第3条第1項柱書に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。
ア 商標法は、第3条第1項柱書きにおいて「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる」と定め、特許庁の審査基準において「『自己の業務に係る商品又は役務について使用』をしないことが明らかであるときは、原則として、第3条第1項柱書により登録を受けることができる商標に該当しないものとする。」とされている。
イ 本件商標は、「EDDIES」の文字を横書きした商標であり、本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)は、株式会社三栄水栓製作所であるから、「EDDIES」は、本件商標権者の商号でも略称でもなく、本件商標権者の社名とは全く無関係な文字からなる商標と認められる。また、商品を指定商品にしていることから、自社商品に使用することを想定した商品商標と思われる。事実、本件商標権者のホームページにアクセスすると、「デザイン水栓シリーズラインアップ」という項目があり、そこに、本件商標が渦巻状の図形と共に表示されていることが確認できる(甲第3号証)。この事実から、本件商標は、本件商標権者の商品の一部であるデザイン性に優れた水栓について使用されていることが認められる。
もし商号商標であれば、当該商標権者の業務全般について使用される可能性があると考えるのが自然である。自社商品には必ずと言ってよいほど商号商標が付され、その商品がどの会社を出所とするものであるかを示す目的で使用されることが一般的といえるからである。
また、商号商標ではなく自社商品用の商標の場合であっても、いずれの商品にも使用を開始していない場合であれば、当該商標権者の業務範囲及びその隣接領域において使用される可能性があるという考え方は合理的であると思われる。しかし、既に特定の自社商品に使用されている場合は別である。同種か異種を問わず、それ以外の自社商品に同一商標を使用するというのは、本件無効審判に係る商品分野において一般的に行われているという事実を請求人は知らない。
商品商標について、同一商標をそれ以外の自社製品に使用するということは、本件無効審判に係る指定商品に限らず、一般的に行われていないと言える。例えば、自動車、家電製品、薬など、身近な商品について考えれば、納得頂けるであろう。一方、宝飾品の場合、指輪や時計といった商品をシリーズものとして商品商標を使用する例が存在する。しかし、それは共通のデザインコンセプトの下でシリーズ化された商品群であり、一見して分かるデザインの共通性と宣伝方法によって、明確に需要者に理解できるようになっている。
このように多種にわたる商品に同一商標を使用する場合は、常に多種にわたる商品間に共通する要素が存在し、その共通する要素は、決定的に重要な要素という傾向が認められ、その商品において非常に重要な要素において共通性が認められない場合は、多種商品にわたって同一商標を使用することは、一般的には考えられない。本件商標は、水栓に使用されており、その水栓はデザイン性に優れたものである。一方、排水管(本件では金属製のものを指す)といった商品は、使用時において使用者の目に触れることがなく、デザイン性よりも機能性が重視されると考えるのが自然である。水栓と排水管は関連性があるが、セットで扱えば、水栓がインテリアとしての要素が高いことから水栓に需要者の注目が集まり、需要者は排水管を水栓の付属品程度にしか認識せず、このような場合、排水管についての商標の使用は付属品への使用となり、排水管ではなく水栓についての使用と解するのが商取引の実情に合致していると考えられる。よって、ここで議論している同一商標の多種の商品にわたる使用には該当しないというべきであろう。水栓と排水管の間で決定的に重要な要素の共通性が認められないことから、水栓と排水管との間で、互いに独立の商品として認識される状況で、同一商標を使用するのが普通であるとする合理的理由を見出すことは不可能である。
ウ 以上の検討から、本件商標は、水栓に使用する目的で出願され、本件請求に係る指定商品に使用する予定なく、類似群コードが7つ以下なら使用可能性を疑わないという審査実務慣行を利用して出願されたと疑う合理的理由が存在すると考えるが、具体的根拠は、これだけではない。本件商標権者のホームページで、本件商標が実際に使用されている商品と同様、デザイン性に優れた商品としてセットで紹介されている商品に使用されている商標が存在するところ、これらの商標は、第11類の商品のみを指定商品とし、第6類の商品を指定していない登録商標が多数存在する(甲第4号証ないし甲第11号証)。これらの商標はすべて「デザイン水栓シリーズ」として広告及び販売されており、デザイン水栓シリーズを構成する10種類の商標のうちの半分以上の6つの商標が第11類のみを指定していることと考え合わせれば、本件商標は、水栓に使用する目的で出願されたものであり、本件請求に係る指定商品に使用する予定なく、類似群コードが7つ以下なら使用可能性を疑わないという審査実務慣行を利用して、使用予定のない本件請求に係る指定商品について出願されたと疑うのは、極めて自然である。
エ 前述のように、指定商品に係る類似群コードが7つ以下の場合は、使用の意思の有無を問わず、広範囲の商品を指定している場合は出願人の業務に着目するのが審査事務であるが、この手法では、出願人は、自己の業務範囲で使用予定のないストック商標を溜め込むことが可能となり、我が国の商標法の趣旨に反することは明らかである。審査実務が上記手法を採用しているのは膨大な出願件数を処理するためのものであるが、無効審判の場合は、出願審査のように大量の件数を処理しなければならないという事情がないことに加え、排除しなければならない立場にいる者によって請求されるものであることから、本来採用されるべき判断手法、すなわち、指定商品について現在使用している、あるいは、問題の商標を使用する事業計画を有しているかを確認する手法でもって商標法第3条第1項柱書きの要件を審理するのが妥当であると考える。使用するかもしれないというのではなく、使用する意思があるというのであれば、その商標を使用する事業計画が存在しているはずであるから、そのような事業計画を示すことを求めることは、商標権者に不用意に重い負担を強いることにはならない。
また、本件のように、外国法人が海外で使用している商標を出願しているような場合は、他社がすでに使用している登録商標と抵触しているのであれば仕方がないが、使用予定のない登録商標のために、海外で使用している商標の変更を余儀なくさせられるというのは不合理というほかなく、このような不合理を解消する方法が具体的に存在し、商標権者に対して過度な負担にすらならないにもかかわらず、審査段階と同じ手法で審理が行われるというのは、正当化できないであろう。
このように解すれば、本件商標権者が本件商標を本件請求に係る指定商品について現在使用している、あるいは使用する事業計画の提示を求め、被請求人が資料を提出できない場合は商標法第3条第1項柱書き違反であるとして、無効理由を有すると判断すべきである。

3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、乙第1号証ないし乙第15号証を提出した。
(1)請求人の主張については、一括してその全てを否認する。
(2)商標法第3条第1項柱書き
ア 商標法第3条第1項柱書により、自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標であることが、登録要件とされているところ、「自己の業務」とは、当該指定商品に関する自己の業務が現在又は将来において存在しないのに、その商標の使用は論理的にありえないとして登録要件とされたものであり、自己の業務が現に存在するか将来の具体的な予定がなければならないとされる。「使用する」とは、現在使用をしているもの及び使用をする意思があり、かつ、近い将来において信用の蓄積があるだろうと推定されるものの両方を含むと解されている。
イ 被請求人の業務
(ア)被請求人(商標権者)は、昭和29年9月、水道用品の組立、卸販売を開始し創立された。本件商標の登録査定時、被請求人は、本件請求に係る第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料、手すり、金属製水栓柱」の商品の製造、販売に関する業務を行っていた(乙第2号証及び乙第3号証)。
(イ)被請求人は、「建築用又は構築用の金属製専用材料」に属する金属製の下水管・排水管、金属製戸当り、金属製棚板、金属製水圧管、金属製配管パイプ、建築用排水口金具、金属製排水管、金属製排水管用ストレーナ、水道管、洗面台用の金属製排水管などに関する商品の製造販売を行い、当該商品に関する業務を行っている(乙第1号証)。
(ウ)以上のとおり、乙第1号証ないし乙第3号証により、本件商標の出願時、登録査定時において、被請求人は「第6類 建築用又は構築用の金属製専用材料、手すり、金属製水栓柱」に関する業務を行っていたことが証明された。
ウ 被請求人の本件商標の使用の意思
(ア)本件商標は、被請求人が「EDDIES」シリーズとして広範な商品への展開を図るべく企画、採択した商標である。「EDDIES」は、被請求人と建築デザイナー鈴木エドワード氏(以下「鈴木氏」という。)との提携を基礎に、鈴木氏のデザインを中心に展開するシリーズであり、鈴木氏の名前EDWARDに由来するその呼び名、愛称的な言い方に近い「EDDIES」を採択したものである。
(イ)被請求人のマーケティング課(現在「広報課」に部署名変更)が2006年11月6日付けで作成した「鈴木エドワード氏デザインシリーズ概要計画(案)」(乙第4号証)に本件商標に関する企画時のコンセプトが示されている。
乙第4号証に示すとおり、「EDDIES」シリーズの商品アイテムについて、バス、キッチン、洗面、建築アクセサリーと広範な商品群の展開を当初から計画していた。特に、「●建築アクセサリー」として、タオルバー、タオルフック、タオル棚、ドアストッパーなどの商品展開の方向性が明記されている。そして、「8その他」として、当時から「手すり」、「金属製水栓柱」などが想定されていた(乙第1号証)。
かかる経緯により、本件商標の出願に際して、これらの商品が指定商品として、特に明記されたのである(乙第1号証)。
なお、乙第4号証には、商標「EDDIES」の記載はないが、被請求人と鈴木氏が提携した企画は、「EDDIES」シリーズ以外にはなく、乙第4号証は、「EDDIES」シリーズについての企画に関するものである(乙第1号証の5項)。
以上のとおり、乙第4号証、乙第1号証により、本件商標の出願時(2008年9月)及び登録時(2009年7月)、本件商標を「第6類 建築用又は構築用の金属製専用材料、手すり、金属製水栓柱」に使用する意思があり、それらを含む建築関係の商品をも展開する意思があったことが証明された(乙第1号証)。
(ウ)被請求人業務について、上記建築デザイナーとの提携に示されるとおり、各種建築関係への展開をも積極的に図っている。この点を、その出願に係る特許関係資料で示すと、特開2007-313073「洗面器を備えたシャワ装置」(乙第6号証)は、商品「金属製水栓柱」及び「洗面台用の金属製排水管」と一体化した被請求人の発明に関するものである。また、意匠登録第1264217「手すり型湯水混合栓」(乙第7号証)は、本件請求に係る商品「手すり」の機能をも有する混合水栓についての被請求人の出願である。
(エ)平成21年3月、特許庁の作成に係る「平成20年度意匠出願動向調査報告書」(乙第8号証)では、洗面分野の特徴として、「4システム化の時代」、「5トータル化の時代」、「6パーソナルユースの時代」として、洗面分野について広範な範囲の商品に広がっていることが示されており、被請求人のみならず、同業各社においても、建築関係商品などへの広範な展開の方向性が示されている。
(オ)被請求人は、他の同業企業よりも進んだ先端的なデザイン化、建築化の方向性を模索しており、デザイン性に優れた広範な商品を統一ブランドで展開すべく本件「EDDIES」シリーズを企画したものである。乙第9号証は、被請求人の方向性、建築への広がりを示す新聞記事であるが、「EDDIES」での展開を念頭に記事が作られている。
(カ)以上のとおり、被請求人は、「EDDIES」を含む各種ブランドについて、水栓用品、洗面用品から、さらなる建築用品化の方向で広範に展開する方向であったことが示されている(乙第2号証及び乙第10号証)。
(キ)以上のとおり、被請求人は、本件商標の出願時、登録時、本件商標を第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料,手すり,金属製水栓柱」について使用する意思があったことが明らかである。
エ 請求人の主張に対する反論
(ア)商号商標以外でも業務全般について使用される点
請求人は、商号商標であれば業務全般について使用され得るが、これ以外の場合、異種商品について使用することはないと主張する。
しかしながら、商標戦略、マーケティング戦略が多様化している現在の取引社会において、商号商標以外であっても、多種類の商品群に使用することは活発に行われており、請求人の主張は事実に反する。
例えば、トヨタ自動車が基本ブランド「TOYOTA」の他に高級ブランド「LEXUS」を展開し、「SEIKO」が「SEIKO」を中心としつつも「クレドール」、「DOLCE」といった高級品から普及品「ALBA」シリーズなどのサブブランドのシリーズを展開し、あるいは、「D’URBAN」を基本商標としつつ、「INTERMEZZO」、「IXI:Z」その他の別ブランドの展開もしている。そして、例えば、商号に由来しない「IXI:Z」が衣料品、バッグ類、各種アクセサリー、文具、各種娯楽用品に至る総合的なブランドとして展開していることも公知の事実である。現在のブランド戦略は、多様かつ広範な商品に複数のブランドをそのコンセプトに沿って並行して展開している。請求人の主張は、現在のブランドの実態とかけ離れた主張であり、誤っている。
(イ)本件商標が第6類など多数区分を指定した点
請求人は、甲第4号証ないし甲第10号証を提出し、これらに示される各登録商標は第11類の商品のみを指定しているところ、本件商標のみ多区分であることをもって、本件商標について使用の意思がない「具体的根拠」であると主張する。
しかしながら、被請求人の多数の商標登録中、恣意的に甲第4号証ないし甲第10号証の登録例を指摘したことをもって、同一人の全てのブランドについて、使用する商品の範囲が当然に第11類の商品のみに限定される、との請求人の主張は、何らの合理性がない不可解な主張といわざるをえない。
本件商標について、その指定商品を広く指定したということは、出願に際し、機械的、画一的に広範な商品を指定しているものではなく、使用の意思、計画の有無を基礎に、出願する商標毎に、商品の範囲を具体的、個別的に検討し、必要な区分のみ指定していることを示している。
本件商標については、その出願、登録の時点で、第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料、手すり、金属製水栓柱」についても使用する意思があったため、これらの商品を指定したのである(乙第1号証)。
請求人は、本件商標では多数の区分を指定していることをもって、第11類についてしか使用する意思はないと主張し、本件審判においては、この点の主張、立証が唯一の具体的な主張、立証となっているようである。しかしながら、本件商標が広い区分を指定して出願したのは、本件商標については多種多様な商品を展開する計画、使用の意思があったことによるのであって(乙第1号証)、請求人の主張は失当である。
(ウ)水栓シリーズが広範な商品に広がっていること
請求人は、甲第3号証を提示し、「デザイン水栓シリーズラインアップ」を指摘し、本件商標を含む甲第4号証ないし甲第10号証の商標が水栓及びその付属品程度の使用しかあり得ないと主張する。
しかしながら、乙第2号証の278頁には、甲第3号証の「デザイン水栓シリーズラインアップ」で例示された商標「TOH」「mare」「column」などのシリーズが、タオル棚、タオル掛け、水栓柱、ハンガー、ドアストッパーなどの広範な商品を展開していることが示されている。
さらに、被請求人の商品が広範な商品、各種インテリア商品に及ぶこと、商品の建築化の方向が示され、それを示す証拠が多数提出されている。請求人の水栓を基本とする商号商標以外の商標を使用する商品は限定的であるとの主張は根拠がなく、この分野における商品の実態に反する主張である。
(エ)無効審判における使用意思の証明
請求人は、使用意思について、無効審判の請求があった場合は、被請求人が使用意思を立証すべきであると主張する。
しかしながら、そもそも、請求をなすについて、要証事実についての立証責任は、主張することで利益を有する側である請求人にあることが多くの規定を民事訴訟法を援用している審判事件における基本原則である(不使用取消審判における使用事実の立証責任のようにその責任が明確に転換されている場合を除く)。
後述の判決例、審決例においても、この種の主張をなすには、請求人で、当該業務が禁止されているあるいは具体的に業務を行っておらず将来における意思もありえないことを示す客観的事実を示さなければならない、と判断している。
しかるに、請求人の主張は、被請求人の有する多数の商標登録中、一部であるにすぎない登録例を甲第4号証ないし甲第10号証として提示し、これらの登録例に比して、本件商標は広範の指定商品を指定しているというだけである。使用意思の存在に疑念を抱かせるような合理性のある主張を何ら具体的に行っていない。
オ 判決例、審決例
(ア)平成22年(行ケ)第10005号知財高裁判決(乙第11号証)では、商標法3条1項柱書について、使用する意思があり、近い将来において使用する予定のある商標も含まれるとしている。そして、その判断に際しては、当該商品に関する「業務」を行っていること、「将来、使用する意思がある旨述べていること(弁論の全趣旨)」で足りると判断している。かかる判断法則を基礎に、原告側主張について、上記事実を左右する証拠もなく、その主張は憶測の域を出るものではないとして排斥している。
(イ)審決においても使用意思の有無の立証については、商標権者の意思が示されればよく、その立証も、ある程度の蓋然性の存在、関連する商品に使用する意思程度でよいとしている(乙第12号証ないし乙第15号証)。
そして、請求人側で、それがないことを示す客観的事実、資料を提示しえない限り、その存在が肯定されるべきと判断され、この点の判断に関する基準が確立されている。
(ウ)上記判決例、審決例の趣旨よりして被請求人の主張、乙各号証による立証を基礎に被請求人が本件商標を第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料、手すり、金属製水栓柱」について使用する意思があったと認定され、本件商標が商標法第3条第1項柱書の規定に違反して登録されたものでないとされるべきことが明らかである。
カ むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の規定に違反して登録されたものではない。したがって、本件商標の登録は、同法第46条第1項第1号により無効にすることはできない。

4 当審の判断
(1)利害関係について
請求人が本件審判を請求にするにつき、当事者間に利害関係の有無について争いがあると認められるので、この点について検討する。
ある登録商標の存在によって直接不利益を被る関係にある者は、それによって利害関係人として当該商標の登録を無効にする審判を請求することにつき、利害関係を有する者に該当すると解するのが相当である。
そして、職権調査によれば、請求人が登録出願した商願2010ー28303について、平成22年9月16日付けで、本件商標が引用された拒絶理由通知が発せられていることを認めることができるから、請求人は、本件商標の存在により、直接不利益を被る立場にあるということができる。
したがって、請求人は、本件審判を請求するにつき、法律上の利益を有する者であり、利害関係を有するというべきである。
(2)商標法第3条第1項柱書について
ア 商標法第3条第1項は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」と規定し、登録出願に係る商標がその出願人において、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標の登録要件として定めている。
そして、商標法3条1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標」として登録を受けられる商標は、現に使用している商標だけでなく、使用する意思があり、かつ、近い将来において使用する予定のある商標も含まれるものと解すべきである(平成22年(行ケ)第10005号、乙第11号証)。
イ 本件商標について
(ア)被請求人提出の2007年(平成19年)4月頃に発行された「SANEI/2007/General Catalogue」(乙第2号証)及び2009年(平成21年)に発行されたと認められる「SANEI/GENERAL CATALOG 2009」(乙第3号証)によれば、本件商標の商標権者(被請求人、以下「本件商標権者」という。)は、ステンレス水栓柱、ステンレス製手すり、その他配管用品、キッチン用品、バス用品、洗面用品、トイレ用品など、いわゆる家庭用の水回りに関連する様々な商品を取り扱う企業であって、本件商標の登録査定日である平成21年6月10日の時点において、「ステンレス水栓柱」及び「ステンレス製手すり」を販売などしていたものと推認して差し支えない。
そして、商標法施行規則別表の第6類に「四 建築用又は構築用の金属製専用材料」として、「水道管 手すり 扉とっ手」などが例示されていることからすれば、「ステンレス水栓柱」「ステンレス製手すり」は、「建築用又は構築用の金属製専用材料」の範ちゅうに含まれるものというのが相当である。
そうすると、本件商標権者は、本件商標の登録査定時において、本件請求に係る指定商品である「第6類 建築用又は構築用の金属製専用材料、手すり、金属製水栓柱」の販売などを行っていたというべきである。
したがって、本件商標は、被請求人の業務に係る商品を指定商品としたものである。
(イ)また、雑誌「I’m home」2009年(平成21年)11月号(乙第10号証)の2枚目の「2.混合栓の新シリーズ『EDDIES』」の項に、「2009年4月より発売開始された建築家、鈴木エドワードによるデザイン混合水栓の新シリーズ『EDDIES(エディース)』。」の記載によれば、本件商標権者は、本件商標の登録査定前である2009年(平成21年)4月から、本件請求に係る指定商品ではないものの、商品「水栓」について本件商標の使用を開始したことが認められる。
(ウ)さらに、本件商標権者は、「EDDIES」を含む各種ブランドについて、水栓用品、洗面用品から、建築用品化の方向で広範に展開する方向であり、本件商標の出願時、登録時に本件商標を第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料,手すり,金属製水栓柱」について使用する意思があった旨主張している(上記3(2)ウ(カ)(キ))。
(エ)してみれば、たとえ、本件商標権者が本件商標をその登録査定時に本件請求に係る指定商品についてその使用をしていなかったとしても、本件商標権者が、手すり(金属製)及び金属製水栓柱など建築用又は構築用の金属製専用材料を販売などする企業であること、特に「金属製水栓柱」と関連性の強い「水栓」について、本件商標の登録査定前から本件商標を使用していること、及び本件商標の出願時、登録時に本件商標を第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料,手すり,金属製水栓柱」について使用する意思があった旨主張していることからすれば、本件商標権者は、本件請求に係る指定商品について本件商標を使用する意思があり、かつ、近い将来において使用する予定のある商標ということができる。
そして、これに反する証拠はない。
したがって、本件商標が商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないということはできない。
なお、請求人は、本件商標が商号商標でないことや本件商標の指定商品が多区分にわたることを挙げ、本件商標権者が本件請求に係る指定商品について、本件商標を使用する意思がないなどと主張するが、請求人の主張は、憶測の域を出ない独自の見解に基づくものであり、採用することはできない。
(3)むすび
したがって、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書きに違反してされたものと認めることはできないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすべきものではない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2012-02-07 
結審通知日 2012-02-09 
審決日 2012-02-21 
出願番号 商願2008-73597(T2008-73597) 
審決分類 T 1 12・ 18- Y (X06)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正樹 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 瀧本 佐代子
小畑 恵一
登録日 2009-07-31 
登録番号 商標登録第5252132号(T5252132) 
商標の称呼 エディス、エディーズ 
代理人 高橋 康夫 
代理人 浅村 皓 
代理人 浅村 肇 
代理人 土屋 良弘 
代理人 高原 千鶴子 
代理人 岡野 光男 
代理人 特許業務法人浅村特許事務所 

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