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審決分類 審判 一部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X353644
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X353644
管理番号 1258311 
審判番号 無効2011-890018 
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-02-25 
確定日 2012-06-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第5381652号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5381652号商標(以下「本件商標」という。)は、「健遊館」の文字を標準文字で表してなり、平成22年8月9日に登録出願、同年11月16日に登録査定され、第35類、第36類、第39類及び第44類に属する別掲に記載のとおりの役務を指定役務として、同23年1月7日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定役務中の第35類全指定役務、第36類全指定役務及び第44類全指定役務の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第11号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求の理由
(1)請求人の業務及び請求人が使用する「健遊館」について
本件商標の登録出願日の50日以前の平成22年6月19日に、岐阜県加茂郡白川町河岐488番地の2所在の請求人によって、高齢者専用賃貸住宅「健遊館」が開所された(以下、本件商標「健遊館」と請求人の上記「健遊館」とを明確化するために、請求人の上記「健遊館」を「健遊館(高専賃)」という。)。
請求人使用の「健遊館(高専賃)」に係る標章は、本件商標と同一の漢字であり、その称呼も「ケンユウカン」又は「ケンユーカン」で本件商標と同一であって、全体の外観、観念においても観念的に同一の繋がりを持つものである。
また、「健遊館(高専賃)」の役務内容は、「健遊館(高専賃)」が開所する前の入居募集及びスタッフ募集の新聞の折り込みチラシ(甲第6号証の1)にも記載があるように、医療法人白水会白川病院がスタッフ募集を行っていることから、請求人「株式会社白水館」がそれを除く役務を行っているのは容易に推認できる。
甲第6号証の1の折り込みチラシには、「高齢者住宅」及び「(医)白川病院隣接で24時間・夜間対応可能。医療・看護・介護・生活でサポート」と記載され、「健遊館(高専賃)」が高齢者専用賃貸住宅との表現がなされている。さらに、平成22年6月20日付けの「岐阜新聞(中濃版)」及び「中日新聞(中濃版)」には、「健遊館(高専賃)」の開所について掲載されている(甲第2及び第3号証)。
これらの記事から分かるように、「健遊館(高専賃)」は、平成22年6月19日に開所している。また、入居募集用パンフレット「健遊館のご案内」(甲第4号証)の第2頁に記載されているように、その入居費用には「家賃」、「管理費」、「敷金・礼金」と記載されている。同様のパンフレット「健遊館のご案内」(甲第5号証)には、「くらしのしおり」(第3及び第4頁)」に、「お食事について」、「ご入浴について」、「お洗濯について」、「お掃除について」、「ゴミ出しについて」で記載されているように、「健遊館(高専賃)」が直接食事、入浴、洗濯、掃除、ゴミ出し、外出・外泊・宿泊のサービスを行っていないものの、入居者の管理を行っていることは明らかである。
上記甲第4及び第5号証のパンフレットは、岐阜県加茂郡白川町を中心に岐阜県内及び愛知県内の保健所、病院、医院、公的施設の一部に頒布したが、パソコン管理として出力しているので、印刷頒布の正確な値は不明であり、推定では1万部程度と思われる。
そして、「健遊館(高専賃)」が開所する前の入居募集及びスタッフ募集の新聞の折り込みチラシ(甲第6号証の1)は、甲第6号証の2及び3に示すように、「健遊館(高専賃)」の開所(平成22年6月19日)前の、平成21年12月26日及び平成22年4月29日だけでも約11万部印刷し、岐阜県加茂郡白川町を中心に岐阜県内及び愛知県内に頒布した。
さらに、インターネットに掲載された財団法人高齢者住宅財団の「高齢者専用賃貸住宅の規定」(甲第7号証の1)及び岐阜県の「高齢者専用賃貸住宅」のリスト及び(株)白水館経営の「健遊館の詳細情報」(甲第7号証の2)に示されるように、「健遊館(高専賃)」開所前の入居予約においても、「健遊館(高専賃)」の入居者を募集していた。
すなわち、「健遊館(高専賃)」では、「建物の貸与」のみではなく、「建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介」及び「高齢者用入所施設の提供」が業として行われていた。
また、甲第6号証の4は、「健遊館(高専賃)」が開所後の平成22年12月23日にも、入居募集及びスタッフ募集の新聞の折り込みチラシを約5.8万部印刷し、岐阜県加茂郡白川町を中心に岐阜県内及び愛知県内に頒布し、請求人の役務が継続されていることを示している。
したがって、高齢者専用賃貸住宅「健遊館(高専賃)」は建物の名称であることが明らかであるが、当然、「健遊館(高専賃)」の開所によって、それにまつわる本件商標に係る第36類の指定役務「建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、建物の貸与」、第43類の指定役務「高齢者用入所施設の提供」が業として行われ、現在に至るまで継続されている。
してみれば、「健遊館(高専賃)」では、開所以来、「建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、建物の貸与」、「高齢者用入所施設の提供」が業として行われていることになる。
(2)「健遊館(高専賃)」が周知であることについて
「健遊館(高専賃)」の開所について平成22年6月20日付け新聞で報道されたこと(甲第2及び第3号証)、開所前の入居募集及びスタッフ募集の新聞の折り込みチラシを11万部印刷し、岐阜県加茂郡白川町を中心に新聞の折り込み広告として岐阜県内及び愛知県内に頒布したこと、「健遊館のご案内」のパンフレット(甲第4及び第5号証)を岐阜県加茂郡白川町を中心に岐阜県内及び愛知県内の保健所、病院、医院、公的施設の一部に頒布したこと(パソコン管理として出力しているので、印刷頒布の正確な値は不明であるが、推定では1万部程度と思われる。)、「健遊館(高専賃)」の開所前にあっても入居者を募集していたこと(甲第7号証の1及び2)、等から、平成22年6月19日付けで「健遊館(高専賃)」が開所し、営業開始に入ったことは、少なくとも岐阜県内、愛知県内はもちろん、東海地方で需要者の間に広く認識されるに至って周知の事実になっていたことが明らかである。
(3)被請求人が不正の目的をもって本件商標を取得したことについて
被請求人は、平成22年8月10日付けで請求人に対して「警告書」(甲第1号証)を送付し、該「警告書」において、請求人が高齢者専用賃貸住宅「健遊館(高専賃)」を建設したことを記載し、また、その「健遊館(高専賃)」に係る「高齢者用入所施設事業の管理及び運営、高齢者専用賃貸住宅の賃貸、建物の貸与・・・等」の役務についても商標登録出願中としている。
この被請求人の警告内容からすれば、被請求人は、請求人が「高齢者用入所施設事業の管理及び運営、高齢者専用賃貸住宅の賃貸、建物の貸与・・・等」の役務を業として行っていたことを十分に認識していたとみるのが合理的である。
また、商標登録第4797745号(審決注:商標の構成「健遊館」、指定役務「国際分類第8版第43類に属する役務」)を所有し、名古屋市に在住する被請求人は、上記警告書における「最近のマスコミ報道によりますと、貴会は高齢者専用賃貸住宅『健遊館』を建設され、同住宅内では飲食物の提供、介護事業が業として提供されているようです。そのような貴会の行為は、当社が所有する上記の商標権を侵害するものと考えられます。また『健遊館』なる商標は、当社の営業を表示するものとして広く知られておりますので、不正競争防止法に違反している可能性もあります。」との記載内容から、上記新聞記事を当然目にしていたことが明らかである。
なお、念のため付言すると、商品役務区分第43類の「宿泊施設の提供」は、「ホテル、旅館等の宿泊施設を利用させる役務」であり、高齢者専用賃貸住宅の提供は、この警告を受けている商標の使用に該当しない。この件は、判定請求(判定2010-600061)で明確に主張し、それが認められている事実がある。
さらに、被請求人は、甲第1号証の警告書で「現在商標『健遊館』に関し、『高齢者用入所施設事業の管理及び運営、高齢者専用賃貸住宅の賃貸、建物の貸与、車いすの貸与、入浴施設の提供等』の役務についても商標登録出願中であります。」と記載し、「高齢者専用賃貸住宅の賃貸」等の役務を補っていることから、本件商標の出願日(平成22年8月9日)前に被請求人が「健遊館(高専賃)」の上記マスコミ報道を知っていたことに疑う余地はない。
加えて、請求人が本件商標の出願日前に高齢者専用賃貸住宅「健遊館(高専賃)」を開所し、その「健遊館」が行っていた「高齢者用入所施設事業の管理及び運営、高齢者専用賃貸住宅の賃貸、建物の貸与・・・等」の役務については、被請求人は、何ら権利を有していなかったことから、それが後日権利化されたとしても、請求人に先使用権が存在することは明らかである。
にもかかわらず、被請求人が、請求人の上記先使用権をも無視し、本件商標の出願を行い、請求人に警告を行うことは、商標法第4条第1項第15号又は同第19号に違反する不正目的で商標権を取得(商標法第79条の詐欺の行為の罪)したものであることは明らかである。
すなわち、本件商標は、請求人が「高齢者用入所施設事業の管理及び運営、高齢者専用賃貸住宅の賃貸、建物の貸与、・・・等」の役務を実行していることをマスコミ報道で知ったうえでの商標出願であったことは明らかである。
したがって、被請求人は、「健遊館(高専賃)」の開所についての新聞記事により、「高齢者用入所施設事業の管理及び運営、高齢者専用賃貸住宅の賃貸、建物の貸与」を当然請求人が行っているとの認識に立って、本件商標の出願を行い、また、その翌日の平成22年8月10日に甲第1号証の「警告書」を送付したものである。
(4)本件商標の第36類指定役務についての無効理由
請求人使用の「健遊館(高専賃)」に係る標章と本件商標とは、称呼が「ケンユウカン」又は「ケンユーカン」で同一であり、かつ、全体の外観、観念においても観念的繋がりを持ち、同一である。
また、上記(2)のとおり、平成22年6月19日付けで「健遊館(高専賃)」が開所し、営業開始に入ったことは、少なくとも岐阜県内、愛知県内はもちろん、東海地方で需要者の間に広く認識されるに至って周知の事実になっていたことが明らかである。
一方、被請求人も、甲第1号証で「最近のマスコミ報道によりますと、貴会は高齢者専用賃貸住宅『健遊館』を建設され、同住宅内では飲食物の提供、介護事業が業として提供されているようです。」と、請求人の高齢者専用賃貸住宅「健遊館(高専賃)」の営業を認めている。
殊に、甲第1号証で「現在商標『健遊館』に関し、『高齢者用入所施設事業の管理及び運営、高齢者専用賃貸住宅の賃貸、建物の貸与、車いすの貸与、入浴施設の提供等』の役務についても商標登録出願中であります。」と記載し、請求人の「健遊館(高専賃)」で行っている「高齢者専用賃貸住宅の賃貸」等が加わっていることから、本件商標の出願日前に、商標権者(被請求人)が「健遊館(高専賃)」の当該マスコミ報道等を知っていたことに疑う余地はない。
したがって、請求人の「健遊館(高専賃)」は、少なくとも岐阜県内、愛知県内はもちろん、東海地方で周知になっていたことから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当し、同法第46条第1項第1号により無効にされるべきものである。
また、請求人の「健遊館(高専賃)」は、それが新聞等で大衆報道され、需要者の間に広く認識されるに至っていたにもかかわらず、かつ、先に請求人(他人)の業務に係る役務との認識があるにもかかわらず、警告によって何らかの利益を得るか、優位な立場を得る等の不正の目的をもって本件商標の出願を行い、請求人の先使用権を無視し、商標権侵害、不正競争防止法違反をちらつかせているものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効にされるべきものである。
(5)本件商標の第35類指定役務についての無効理由
商品役務区分第35類は、「広告、事業の管理又は運営、事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」であり、注釈として「この類には、主として、人または組織が提供する役務であって、(1)商業に従事する企業の運営若しくは管理に関する援助又は(2)商業若しくは工業に従事する企業の事業若しくは商業機能の管理に関する援助を主たる目的とするもの及び広告事業所であって、すべての種類の商品又は役務に関するあらゆる伝達手段を用いた公衆への伝達または発表を主に請け負うものが提供する役務を含む。」とされている。
ゆえに、上記第35類に本件商標の指定役務「高齢者用入所施設事業の管理及び運営」の役務が入る理由が不明である。
すなわち、「高齢者用入所施設事業の管理及び運営」の役務は、「・・・事業の管理及び運営」と表現されているものの、商品役務区分第43類の「高齢者用入所施設の提供(介護を伴うものを除く。)」には、その管理運営が付きものである。狭義には高齢者用入所施設の提供であるが、その入所の記録を残さないということはあり得ない。通常、被請求人が行った「高齢者用入所施設事業の管理及び運営」は、商品役務区分第43類の「高齢者用入所施設の提供(介護を伴うものを除く。)」に取り込まれるべきであり、単純に、「・・・事業の管理及び運営」と表現されているからといって、それを尊重すると、「医療事業の管理及び運営」、「飲食物の提供事業の管理及び運営」等全役務がこの類に含まれることになり、妥当性を欠くことになる。仮に、ここに妥当性があるとしても、商品役務区分第43類の「高齢者用入所施設の提供(介護を伴うものを除く。)」の類似役務となる。
してみれば、請求人の「健遊館(高専賃)」について、「建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、建物の貸与」及び「高齢者用入所施設の提供」が業として行われていたから、本件商標は、その指定役務中の第35類の「高齢者用入所施設事業の管理及び運営」について、第36類の指定役務中の「高齢者専用賃貸住宅の賃貸、建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、建物の貸与」と同一又は類似する役務であり、他人(「健遊館(高専賃)」)の業務に係る標章と称呼が同一であって、外観、観念においても同一のイメージを持ち、かつ、役務についても類似の範疇を脱し得ないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当し、また、警告によって何らかの利益を得るか、優位な立場を得る等の不正の目的をもって本件商標の出願を行い、請求人の先使用権を無視し、商標権侵害、不正競争防止法違反をちらつかせているものであるから、同法第4条第1項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効にされるべきものである。
(6)本件商標の第44類指定役務についての無効理由
被請求人は、既に、平成16年(2004年)8月27日付けで登録された商標登録第4797745号を所有していた。
上記商標権は、第43類「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ、飲食物の提供、動物の宿泊施設の提供、保育所における乳幼児の保育、老人の養護、会議室の貸与、展示施設の貸与、布団の貸与、業務用加熱調理機械器具の貸与、業務用食器乾燥機の貸与、業務用食器洗浄機の貸与、加熱器の貸与、調理台の貸与、流し台の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与、タオルの貸与」(国際分類第8版)を指定役務とするものである。ゆえに、被請求人は、商品役務区分第44類(国際分類第9版)に係る「老人の養護」の役務について権利化していた。
商品役務区分第44類(国際分類第9版)の「介護」の概念には、高齢者・病人等を介抱し、日常生活を助ける介護に関する役務が含まれる。また、介護を伴わず、主として健常な高齢者のための一時滞在施設を提供するための役務は、この概念に含まれず、第43類「高齢者用入所施設の提供(介護を伴うものを除く。)」に属することになる。
ところが、被請求人は、法律的に「高齢者・病人等の介抱」ができないにもかかわらず、上記商品役務区分第44類(国際分類第9版)の「介護」を権利化したことになる。
請求人が甲第1号証の「警告書」の宛先を医療法人白水会と認識していたことから、被請求人は、警告人としての立場を有利にするために、重複して権利化したものと推定される。
してみれば、本件商標の指定役務中、第44類「介護」は、請求人(他人)の業務に係る役務であると誤認し、その役務の需要者が役務の出所について混同するおそれがあり、かつ、請求人(他人)と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し、その役務の需要者が役務の出所について混同する可能性があるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当し、また、警告によって何らかの利益を得るか、優位な立場を得る等の不正の目的をもって本件商標出願を行ったものであるから、同法第4条第1項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効にされるべきものである。
(7)指定商品役務区分第36類に係る違法行為について
上記(4)で述べたように、請求人の「健遊館(高専賃)」に係る標章は、本件商標の「健遊館」と称呼が同一であり、かつ、外観、観念においても相違点がなく、また、少なくとも岐阜県内、愛知県内はもちろん、東海地方で需要者の間に広く認識されるに至って周知になっていたことは明らかである。
被請求人は、本件商標の出願日前に、「健遊館(高専賃)」のマスコミ報道等を知っていたことに疑う余地がなく、「健遊館(高専賃)」に係る標章が請求人によって使用されていることを知りながら本件商標権を取得したことになる。
殊に、被請求人の代理人弁理士が請求人の高齢者専用賃貸住宅の営業の開始を甲第1号証の「警告書」にしたためていることから、被請求人は、本件商標権の取得行為が商標法第79条の「詐欺の行為により商標登録・・・・を受けた者」に該当する行為である旨の忠告を聞いていると解釈するのが自然である。
したがって、本件商標権の取得は、本件商標権者による商標法第79条に該当する行為であることが明らかである。
2 被請求人の答弁に対する弁駁の理由
(1)被請求人は、甲第2及び第3号証によっては「健遊館(高専賃)」が周知著名とはいえないと主張している。
「中日新聞」、「朝日新聞」、「岐阜新聞」の新聞各社が自主公表した購読者数は、甲第2号証の中日新聞中濃版の発行部数は52,000部、甲第3号証の岐阜新聞中濃版の発行部数は20,000部、甲第9号証の朝日新聞岐阜版の発行部数は60,000部と回答している。
そして、被請求人は掲載記事が一回だけであると主張しているが、地方において、その地域のメイン道路である交通量の多い国道41号線沿いで請求人所有の「健遊館(高専賃)」の建築工事がなされ、建物が完成し、それが新聞記事となって「健遊館(高専賃)」の開設のニュース報道がされれば、情報量の少ない住民の記憶に鮮明に残ることになるから、新聞広告のように紙面下に複数回重ねて広告を掲載する意味がない。新聞広告とニュース記事とは基本的に相違し、新聞又はテレビのニュースとして商標が使用されれば、それだけで周知著名な商標となり得る。
(2)被請求人は、甲第4及び第5号証について、「請求人は発行部数を記載しているが、証拠が一切ない。発行日も不明である。」旨主張しているが、該証拠は、審判請求書に記載のとおり、岐阜県加茂郡白川町を中心に岐阜県内及び愛知県内の保健所、病院、医院、公的施設の一部に頒布したが、パソコン管理として出力しており、印刷頒布の正確な値は特定できないことから、担当者の記憶に基づき「推定では、1万部程度と思われる。」と記載した。また、甲第4及び第5号証には、入居条件が記載されているから、入居前に説明されるものであることは自明であるが、更新したごみ収集日程表を除き、2009年11月に完成していた。甲第4及び第5号証の「健遊館のご案内」を頒布した担当者の証明書を提出する(甲第10号証)。
(3)被請求人は、甲第6号証の2及び3は、品名に「B4チラシ両面カラー4色」と記載されているのみであり、甲第6号証の1のチラシとは特定できないと主張し、各請求書や各領収書に甲第6号証の1のチラシの縮小版を印刷せよとでも言わんばかりのことを主張している。
しかし、商慣習上そのようなことは行われていないし、株式会社白水館としては、医療法人白水会白川病院の仕事は受けていたが、直接市民に宣伝する役務はしていなかった。高齢者専用賃貸住宅「健遊館(高専賃)」に関する入居者募集及びスタッフ募集が最初の新聞の折り込みチラシである。特に、甲第6号証の2ないし4の各請求書には、折り込み日が12月26日、4月29日、12月23日と記載されている。被請求人が、請求人に他のチラシ配布が存在すると主張するならば、証拠を提示すべきである。甲第6号証の1のチラシと甲第6号証の2ないし4の各請求書及び各領収書が対応することの担当者の証明書を提出する(甲第10号証)。
(4)被請求人は、甲第7号証について、ホームページが運用された日付が不明であり、アクセス数も不明であると主張しているが、高齢者円滑入居賃貸住宅に係る登録通知書(甲第8号証の2)の登録年月日が平成22年5月19日付けになっていることから、ホームページに「健遊館(高専賃)」が掲載されたのは同日である。甲第8号証の1及び2から甲第7号証の日付は特定できる。
請求人は、ホームページのみで周知性を主張しているものではない。
(5)被請求人は、甲第8号証の1及び2の書面は、いずれにも、「健遊館(高専賃)」の記載がなく、「健遊館(高専賃)」のものであるか不明であると主張しているが、甲第8号証の1の第2頁に賃貸住宅の位置が記載されており、これは、「健遊館(高専賃)」の建造物の敷地表示である。念のため、防火対象物が「健遊館(高専賃)」である公的機関が発行した消防用設備等検査済証を提出する(甲第11号証)。甲第8号証の1及び2の書面は、住所表示から「健遊館(高専賃)」の情報であることが特定できる。
(6)被請求人は、「請求人の提出した程度で周知著名の立証が足りるのであれば、ほんのわずかな使用例をわずかな発行部数の新聞やチラシ等を提出して立証すればよく、世間で使用されている商標のほとんどが周知著名な商標となってしまうものである。」と主張する。
被請求人の主張は、「マスコミ報道(ニュース報道)」と「新聞広告」を、また、商標法第4条第1項第15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」と「周知著名」とを区別できていない。
また、被請求人は、本件商標の役務の取引者及び需要者について何ら特定することなく漠然と反論しているにすぎない。特に、高齢者専用賃貸住宅に入居する高齢者、すなわち多くの需要者は、インターネットのホームページを検索するすべを理解していない者が多く、旧態依然とした新聞、チラシが主な情報源である。地方の高齢者においては、幾種類ものニュース情報が行き交っていないから、そのニュース情報は1度あれば、隅々まで行き渡ることになる。
(7)被請求人は、「『健遊館』を『通所介護、介護予防通所介護』等に大々的に使用しており、これらの役務については、少なくとも請求人の『健遊館(高専賃)』より周知である。」旨主張している。
被請求人が提出した乙第12号証が本件無効審判の何を立証しようとするのか、その立証の趣旨が不明である。被請求人は、本件審判請求後に作為的にホームページを開設したか、又はホームページを開設したかのごとく装っているにすぎない。
また、被請求人は、「通所介護、介護予防通所介護」という役務を突然持ち込んであるが、本件商標の何に関するものかも不明である。「通所介護、介護予防通所介護」等の役務は、「デイサービス」と推定される。
3 むすび
以上のように、本件商標は、請求人が建設した「健遊館(高専賃)」が指定役務区分第35類、第36類及び第44類に相当する役務を行っていることを知りながら登録出願されたこと、また、「健遊館(高専賃)」が少なくとも高齢者専用賃貸住宅の提供を業としており、少なくとも岐阜県内、愛知県内はもちろん、東海地方で需要者の間に広く認識されるに至り、周知になっていたことは明らかである。
したがって、本件商標は、少なくとも商標法第4条第1項第15号に該当し、また、同第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第12号証を提出している。
1 「健遊館(高専賃)」の周知性について
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同項第19号の規定に該当すると主張しているが、これらの規定に該当するためには、請求人の「健遊館」(以下、審判請求書に倣って「健遊館(高専賃)」という。)が条文上等からも明らかなように周知著名である必要がある。
ところが、「健遊館(高専賃)」が周知著名であることは、請求人が提出した証拠の内容、量では到底認められないものである。以下に、その内容の問題点と量の不足について詳述する。
(1)甲第2及び第3号証について
甲第2及び第3号証が有効な証拠であるとしても、発行部数の証明もない。岐阜県の中濃地方は、岐阜県の中心部に位置するものではなく、人口の規模からみても、岐阜県総人口約208万人中40万人に満たず、極めて限定された地域にすぎない(乙第2及び第3号証)。
このような、限定的な地域で発行されている「中濃版」に記事として1回記載されたのみで、周知著名になるとは到底考えられないものである。
このような全国紙に比べて発行部数の少ない地方紙において、更に限定的な「中濃版」に1回のみ記事として記載されたものが周知著名であるならば、一地方で使用されたほとんどの商標は周知著名な商標となってしまう。
(2)甲第4及び第5号証について
発行部数が不明である。請求人は発行部数を記載しているが、証拠が一切ない。また、発行日も不明である。したがって、証拠として極めて不適切である。
(3)甲第6号証について
甲第6号証の1のチラシは、病院のスタッフの募集、他の介護施設の紹介の一部として「健遊館(高専賃)」が記載されているにすぎず、需要者・取引者の目に付くものでもない。また、甲第6号証の2及び3は、品名に「B4チラシ 両面カラー4色」と記載されているのみであり、甲第6号証の1のチラシとは特定できない。同じような時期に使用した他のチラシの代金の可能性も否定できないものである。
甲第6号証の4の日付は、本件商標の出願後の日付である。商標法第4条第1項第15号及び同第19号の判断時期は、出願時であるため、証拠とはならないものである。
(4)甲第7号証について
ホームページが運用された日付が不明である。ホームページを印刷した日付は2010年9月21日であり、本件商標の出願後の日付である。
また、このホームページ中の「健遊館(高専賃)」(甲第7号証の2)に対するアクセス数も不明である。
(5)甲第8号証について
甲第8号証の1及び2の書面は、いずれにも、「健遊館(高専賃)」の記載がなく、「健遊館(高専賃)」のものであるか不明である。
(6)請求人の提出した程度で周知著名の立証が足りるのであれば、ほんのわずかな使用例をわずかな発行部数の新聞やチラシ等を提出して立証すればよく、世間で使用されている商標のほとんどが周知著名な商標となってしまうものである。
無効審判は、行政処分によって、被請求人の財産権である商標権を無効にする強制的なものであるから、周知著名性の判断については厳格に運用すべきであり、審査基準においても、その量が問題となることが明示されている。
したがって、請求人の提出した程度の証拠では、証拠の量が極めて少なく、しかも新聞の発行部数、パンフレットやチラシの発行部数、ホームページの運用日、アクセス数が全く不明であるため、周知著名性は到底認められないものである。被請求人の商標を無効にしようとする以上、その証拠は厳格に有効性が問われるべきものである。
(7)ところで、請求人は、被請求人が甲第1号証の記載から新聞報道によって、「健遊館(高専賃)」を知っていたことが、岐阜県内及び愛知県内において周知であったことのような主張もしている。
しかし、この点については、同業者として、同業他社の営業活動を注視するのは、当然のことであって、一般の需要者の注意力、認識とは著しく異なるものである。
介護関連のニュースをピックアップして観察している以上、同業者として被請求人が知っていたからといって、周知著名とは到底いえないものである。
2 本件商標の周知性について
被請求人は、被請求人のホームページ写し(乙第12号証)に示すように、本件商標「健遊館」を「通所介護、介護予防通所介護」等に大々的に使用しており(既に数多くの店舗で使用しており、各種イベントや著名人の来館も多い。)、これらの役務については、少なくとも請求人の「健遊館(高専賃)」より周知であると考える。
このように、被請求人は、本件商標「健遊館」を介護関連の役務に使用しており、さらに業務の拡大を図っているといった事情がある。
このため、直営の事業だけでなく、フランチャイズとして本件商標を使用させるために(一部の施設は、既にフランチャイズとして運営中)、第35類「高齢者用入所施設事業の管理及び運営」や介護と関連した第36類「高齢者専用賃貸住宅の賃貸」、第44類「入浴施設の提供」、「介護」について出願し、登録を図ったものである。
したがって、被請求人は、自己の業務に使用あるいは近い将来使用する意思を持って本件商標を出願したものであり、請求人から不正の利益を得る目的や損害を加える目的等、何ら不正の目的をもって出願したものではない。
それどころか、前述のように被請求人の本件商標が周知であるため、需要者が誤認混同するおそれがあり、やむなく甲第1号証の警告書を送付したものである。
3 むすび
以上のとおり、請求人の主張は妥当なものではなく、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第19号に該当しないものである。
よって、本件審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 請求人の使用に係る標章の周知性について
請求人は、請求人が開所した「健遊館(高専賃)」は、その開所につき新聞で報じられ、かつ、新聞の折り込みチラシ等の頒布により、少なくとも岐阜県及び愛知県内はもちろん、東海地方で需要者の間に広く認識されるに至って周知になっていたとして、本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当する旨主張しているところ、請求人の主張からは、請求人のいう「健遊館(高専賃)」が「健遊館(高専賃)」なる施設自体を指す場合と「健遊館」の文字からなる標章を指す場合とがあると認められ、商標法第4条第1項第15号及び同項第19号の適用上、標章の周知性が要点となるので、以下、「健遊館」の文字からなる標章(以下「請求人使用標章」という。)が請求人の業務に係る役務を表示する商標として周知になっていたか否かについて検討する。
(1)請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)甲第2及び第3号証(審判請求書に添付の甲第2及び第3号証は、弁駁書に添付の当該号証に差し替えられたことを認める。)は、いずれも新聞記事の抜粋写しと認められるところ、甲第2号証には、「岐阜新聞」、「中濃地域」及び「2010年(平成22年)6月20日 日曜日」の文字が印刷され、甲第3号証には、「中日新聞」、「中濃」及び「2010年(平成22年)6月20日(日曜日)」の文字が印刷されている。
甲第2号証には「高齢者専用の住宅開設」、甲第3号証には「高齢者に安心、憩い」の見出しの記事が有り、これらの記事内容は、いずれも、高齢者専用賃貸住宅「健遊館」が白川町坂ノ東に完成し、19日にその開所式典が同館で行われたことを写真付きで報道するものであり、請求人使用標章について格別強調して記述されているものでもない。
そして、高齢者専用賃貸住宅「健遊館」の開設について新聞報道されたのは、上記「岐阜新聞」及び「中日新聞」の2紙において各1回のみであり、しかも、上記2紙は、いずれも「中濃版」であることから、岐阜県の中濃地方というごく限られた地域に向けて発行される新聞であり、その発行部数もさほど多いものではない。
また、甲第9号証も新聞記事の抜粋写しと認められ、「朝日新聞」、「岐阜」及び「2010年(平成22年)7月16日 金曜日」の文字が印刷されており、「増える高齢者専用住宅」等の見出しの下、「入居者を高齢者に限り、安否確認などのサービスを提供する『高齢者専用賃貸住宅』が県内で増えており、『自宅』と『施設』の中間に位置する物件として、需用が伸びそうだ。」旨を伝える内容の記事が存在するが、そのような施設の一つとして「白川町でオープンした高齢者専用賃貸住宅などが入った施設『健遊館』。」が紹介されているものであり、請求人使用標章が格別強調されているものではない。
(イ)甲第4及び第5号証は、いずれも請求人の発行に係る「健遊館のご案内」と題するパンフレットの写しと認められ、これらには請求人使用標章が表示されていることが認められるものの、それぞれの発行日、発行部数、頒布場所、頒布方法等は明らかでない。もっとも、甲第5号証のパンフレットには、「平成22年度ごみ収集日程表」として4月から3月までの1年間の日程が掲載されていることからすると、同パンフレットは平成22年4月頃までには作成されていたものと推認することができる。
請求人は、甲第4及び第5号証のパンフレットは、岐阜県加茂郡白川町を中心に岐阜県内及び愛知県内の保健所、病院、公的施設の一部に頒布したがパソコン管理として出力しているので、印刷頒布の正確な値は特定できない旨主張すると共に、甲第4及び第5号証のパンフレットを頒布した担当者の証明書(甲第10号証)を提出しており、該証明書には、「健遊館が落成するまではモデルルームで、健遊館が落成した後は健遊館内で、訪問される個人及び団体に甲第4号証及び甲第5号証を対にして計7000部以上、また、岐阜県加茂郡白川町を中心に岐阜県内及び愛知県内の保健所、病院、公的施設の一部に計3000部以上頒布致しました。」等の記載があるが、それを客観的に示す証左はない。
たとえ、上記パンフレットが請求人の主張のとおりに頒布されたとしても、その頒布は、対象者や地域的範囲が限られ、数量もそれ程多いものではない。さらに、本件商標の登録出願前に限ってみれば、これらは更に限定されることが推認される。
(ウ)甲第6号証の1は、請求人の高齢者専用賃貸住宅「健遊館」に関する入居予約とスタッフ募集のための新聞折込チラシと認められるところ、その表面には、最上段に「入居予約中」、「健遊館」及び「2010年春オープン!!」の文字が大きく表示されているほか、「健遊館」はじめ、「白川病院」、「グループハウス百日草」、「白川在宅総合ケアセンター」及び「特別養護老人ホームサンシャイン美濃白川」の各施設の写真、地図、家賃等が掲載されている。その裏面には、「地域医療充実と高齢者住宅開設のため」及び「スタッフ募集!!」の文字が大きく表示されているほか、募集内容等が掲載され、下部に「白川病院」の文字が大きく表示されているが、表面のような「健遊館」の記載は見当たらない。
甲第6号証の2ないし4は、いずれもイープランズコミュニケーションから請求人あてに発行された平成21年12月26日付け、平成22年4月29日付け又は同年12月23日付けの請求書並びに平成22年1月13日付け、同年5月11日付け又は平成23年1月13日付けの領収書の写しと認められるところ、各請求書には、商品名欄に「B4チラシ両面カラー4色」の文字と共に、「12月26日折込」、「4月29日折込」又は「12月23日折込」の文字が記載され、各数量及び金額が記載されている。各領収書には、折込チラシ代金として、上記各請求書に対応した金額が記載されている。
そして、請求人は、甲第6号証の1のチラシと甲第6号証の2及び3の各請求書及び各領収書が対応することの担当者の証明書(甲第10号証)を提出しており、該証明書には、甲第6号証の2及び3の請求書及び領収書は、「甲第6号証の1のチラシであると特定でき、健遊館は他にチラシを入れたことがない。」旨の記載がある。
以上のことから、甲第6号証の2ないし4の請求書及び領収書にいう「チラシ」は、甲第6号証の1のチラシを指すものとみても不自然ではない。
これらを総合すると、甲第6号証の1のチラシは、平成21年12月26日に99,500枚、平成22年4月29日に11,150枚、同年12月23日に58,500枚が印刷され折り込まれたものと推認されるから、本件商標の登録出願(平成22年8月9日)前には、前2回の合計11万余枚が印刷され折り込まれたものと推認される。
請求人は、上記証明書(甲第10号証)を提出すると共に、上記チラシを岐阜県加茂郡白川町を中心に岐阜県内及び愛知県内に頒布した旨主張するが、上記チラシを岐阜県加茂郡白川町を中心に岐阜県内及び愛知県内に頒布したことを具体的かつ客観的に示す証左はない。
たとえ、上記チラシが請求人の主張のとおりに頒布されたとしても、本件商標の登録出願前に上記チラシが頒布されたのは2回だけであり、しかも、その頒布の地域的範囲が限られ、数量もそれ程多いものではない。
(エ)甲第7号証の1及び2は、財団法人高齢者住宅財団のウェブサイトの写しと認められるところ、各ページの右下隅に記載された「2010/09/21」の数字に照らし、本件商標の登録出願後である2010年9月21日にプリントアウトされたものといえるから、これらから直ちに本件商標の登録出願時における事情を示したものということはできない。もっとも、その掲載内容をみると、岐阜県のページに請求人が掲載され、詳細情報のページには、請求人につき、登録年月日欄に「2010年05月19日」と、更新年月日欄に「2010年05月26日」とそれぞれ記載されていることからすると、本件商標の登録出願前における事情を示すものともいえる。
しかしながら、「健遊館」の文字は最終ページにおける「参考事項<任意>」欄の「物件情報」中に「名称」として記載されているのみであり、「最寄りの公益施設の状況(所要時間等)」、「特定施設入居者生活介護の指定」、「連絡先」及び「その他」の欄はすべて空欄になっているばかりでなく、上記ウェブサイトのアクセス数等も一切不明である。
(オ)甲第8号証の1及び2は、請求人による岐阜県知事あての「高齢者円滑入居賃貸住宅登録申請書」と、それに対する岐阜県知事による登録通知書の各写しと認められるが、いずれにも「健遊館」の文字は一切記載されていない。
もっとも、平成22年5月26日付けの消防用設備等検査済証(甲第11号証)における「防火対象物」欄の所在地及び名称「健遊館」の記載によれば、甲第8号証の1及び2の書面は、「健遊館(高専賃)」の情報であることは認められる。
(カ)他に、請求人使用標章の使用事実、例えば、使用の期間・地域・態様・方法、使用役務の規模・売上高・市場占有率・需要者の範囲、宣伝広告の方法・媒体・期間・回数・内容等を具体的に示す証左は一切ない。
(2)以上のとおりであるから、請求人の提出に係る証拠によっては、請求人使用標章が、請求人の業務に係る役務を表示する商標として、本件商標の登録出願時に取引者・需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
その他、本件商標の登録出願時において、請求人使用標章が、請求人の業務に係る役務を表示する商標として、取引者・需要者の間に広く認識されているものと認めるに足る証拠はない。
(3)なお、上記(1)の事実に照らし、「健遊館」が高齢者専用賃貸住宅たる施設そのものを表す名称として、取引者・需要者の間に広く認識されているものと認めることもできない。
2 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
請求人は、請求人の「健遊館(高専賃)」が少なくとも岐阜県内、愛知県内はもちろん、東海地方で周知になっていたことから、本件商標は商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当する旨主張している。
しかしながら、「健遊館」の文字からなる請求人使用標章が、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、取引者・需要者の間に広く認識されているものとはいえないことは、上記1のとおりである。
かかる事情の下においては、本件商標と請求人使用標章が同一の文字から構成されることや、本件商標の指定役務中の第35類、第36類及び第44類に属する役務の一部と請求人使用標章が使用されている役務とが類似し又は関連性があることなどを考慮したとしても、本件商標をその指定役務中の上記役務について使用した場合に、これに接する取引者・需要者が請求人使用標章ないしは請求人を連想、想起するようなことはないというべきであり、該役務が請求人又は請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれはないものと判断するのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について
請求人は、被請求人が請求人の「健遊館(高専賃)」開設をマスコミ報道で知った上で、請求人に「警告書」(甲第1号証)を送付し、警告によって何らかの利益を得るか優位な立場を得る等の不正の目的をもって本件商標の出願を行ったものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する旨主張している。
しかしながら、被請求人は、甲第1号証の「警告書」(請求人代理人から医療法人白水会理事長にあてた平成22年8月10日付け書簡)にも記載されているように、請求人の「健遊館(高専賃)」開設前に既に「健遊館」の文字からなる登録第4797745号商標(指定役務:国際分類第8版第43類に属する役務)を所有していたほか、被請求人の提出に係る証拠(乙第12号証)によれば、被請求人は、2001年創業の、介護保険法に基づく通所介護事業、介護保険法に基づく介護予防通所介護事業を主な事業内容とする法人であって、関東地区、中部地区及び近畿地区に「健遊館」を冠した名称の営業施設を有しており、少なくとも、請求人の「健遊館(高専賃)」開設前に既に、関東地区では、文京区目白台、文京区千駄木、台東区松が谷、荒川区東日暮里、荒川区荒川、北区滝野川、板橋区南常盤台、板橋区板橋、板橋区志村、板橋区若木、墨田区墨田、墨田区立川、墨田区立花、江戸川区南小岩に、中部地区では、名古屋市熱田区切戸町、名古屋市緑区倉坂、名古屋市北区東大曽根町、名古屋市守山区小幡、名古屋市瑞穂区中山町、半田市瑞穂町に、近畿地区では、天理市稲葉町に、それぞれデイサービスセンターを開設し、営業を行っていたことが認められる。そして、請求人の「健遊館(高専賃)」開設後も各地に同様の施設が開設されており、被請求人の業務の拡大が窺えるのであって、本件商標もその一環として登録出願し、登録を受けたものとみても不自然ではない。
そうすると、被請求人が同業他社の動きに注目することや、他人との誤認混同を防ぎ、自己の商標に化体した信用や名声の毀損、希釈化汚染等を防止するために、自己の商標権に基づき、関連する役務について使用する他人の同一又は類似の商標に対して、警告することは当然の権利であり、何ら不正の目的はないものといわなければならない。
他に、本件商標について、請求人から不正の利益を得る目的、請求人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものとすべき理由は見いだすことはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。
4 その他の請求人の主張について
請求人は、本件商標の登録出願前に請求人の「健遊館(高専賃)」が開設されており、請求人には先使用権が存在しているにもかかわらず、被請求人が該先使用権を無視し、本件商標の登録出願を行い、請求人に警告を行うことは、商標法第79条に規定する詐欺の行為に該当するものである旨主張している。
しかしながら、本件は、商標法第46条に基づく商標登録の無効の審判であり、同法第32条(先使用による商標の使用をする権利)及び同法第79条(詐欺の行為の罪)の各規定に違反することが無効理由とされていないことは、同法第46条第1項の規定から明らかであるから、請求人の主張は、的外れといわざるを得ず、採用することはできない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、その指定役務中の第35類、第36類及び第44類に属する別掲に記載のとおりの役務について、商標法第4条第1項第15号及び同第19号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(本件商標に係る指定役務)
第35類「広告,高齢者用入所施設事業の管理及び運営,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,職業のあっせん,書類の複製,文書又は磁気テープのファイリング,建築物における来訪者の受付及び案内,求人情報の提供」
第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定着物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,信用購入あっせん,ガス料金又は電気料金の徴収の代行,商品代金の徴収の代行,有価証券の売買,有価証券指数等先物取引,有価証券オプション取引,外国市場証券先物取引,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券市場における有価証券の売買取引・有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,外国有価証券市場における有価証券の売買取引及び外国市場証券先物取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券先渡取引・有価証券店頭指数等先渡取引・有価証券店頭オプション取引若しくは有価証券店頭指数等スワップ取引又はこれらの取引の媒介・取次ぎ若しくは代理,有価証券等精算取次ぎ,有価証券の引受け,有価証券の売出し,有価証券の募集又は売出しの取扱い,株式市況に関する情報の提供,商品市場における先物取引の受託,生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係る損害の査定,損害保険の引受け,保険料率の算出,高齢者専用賃貸住宅の賃貸,建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供」
第39類「車両による輸送,自動車の運転の代行,主催旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く。)の代理・媒介又は取次ぎ,他人の携帯品の一時預かり,配達物の一時預かり,倉庫の提供,駐車場の提供,車いすの貸与,自転車の貸与」
第44類「美容,理容,入浴施設の提供,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),介護,植木の貸与」

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審理終結日 2011-09-06 
結審通知日 2011-09-08 
審決日 2011-11-21 
出願番号 商願2010-62847(T2010-62847) 
審決分類 T 1 12・ 271- Y (X353644)
T 1 12・ 222- Y (X353644)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 椎名 実 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 田中 敬規
酒井 福造
登録日 2011-01-07 
登録番号 商標登録第5381652号(T5381652) 
商標の称呼 ケンユーカン、ケンユーヤカタ、ケンユー 
代理人 足立 勉 
代理人 特許業務法人 Vesta国際特許事務所 

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