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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007890149 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y09
管理番号 1248072 
審判番号 無効2008-890066 
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-08-29 
確定日 2011-12-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5072102号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成21年8月17日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10297号、平成22年8月19日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 登録第5072102号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5072102号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、商標法第68条の32に規定する国際登録の取消し後の商標登録出願の特例に基づく出願として、平成15年9月18日(同条第2項の規定によってみなされた出願の日)に登録出願、第9類「半導体,コンピュータ用メインボード,プリント回路基板,コンピュータ用プログラムを記憶させた記録媒体,パーソナルコンピュータ」を指定商品として、同19年7月9日に登録査定がなされ、同年8月24日に設定登録されたものである。
なお、本件商標に係る取り消された国際登録第818186号(以下「原国際登録」という。)は、韓国の商標登録(第4005596830000号)を基礎登録(以下「原基礎登録」という。)とするものである。

第2 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する商標は、甲第10号証外に表示されている別掲(2)のとおりの構成からなる商標(以下「引用商標」という。)である(なお、ウェブサイトや雑誌等の記事においては、通常の書体で表された欧文字「ASRock」が用いられている。)。

第3 請求人の主張(要旨)
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第134号証(枝番号を含む。なお、平成22年11月17日付け回答書添付の証拠を甲第94号証ないし甲第134号証とする。甲第87号証ないし甲第93号証は欠番とする。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号、同第19号及び同法第3条第1項柱書に違反してされたものであり、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
(1)利害関係について
請求人は、台湾に本社を置くASRock Inc.(以下「ASRock社」という。)から商標「ASRock」の付されたマザーボードを輸入し、日本で販売している。しかしながら、被請求人から商標権侵害であるとの警告を受けている(甲2、甲3)。したがって、請求人が本件審判を請求することにつき利害関係を有していることは明らかである。なお、ASRock社は、自己の使用する商標「ASRock」を出願(商願2003-115253)していたが、本件商標が先願で存在していることを理由に拒絶されている。
(2)商標法第4条第1項第7号について
ア 他人の名称のような場合、他人が選択した又は選択しようとしている商標を剽窃的に出願することは公正な取引秩序を乱すものであり、公序良俗を害するおそれがある出願であって、商標法の目的に沿った実質的な判断がなされるべきである。最近の審判決例にはその趣旨に沿った判断が散見される(甲4ないし甲9)。
イ ASRock社について
請求人である株式会社ユニスターは、ASRock社の日本における正規の輸入代理店として、ASRock社のマザーボードの輸入販売を行っている。ASRock社は、台湾に本社を置くコンピュータのマザーボードの製造メーカーであり、同じく台湾に本社を置くASUSTeK Computer Inc.(以下「ASUSTeK社」という。)の子会社として2002年に設立された会社である。ASRock社は、主にマザーボードの製造販売を行っており(甲10)、ASUSTeK社は、マザーボードやビデオカードなどのパソコン向けパーツをはじめ、ノートパソコンやPDA、サーバー製品、ネットワーク機器、携帯電話などを開発・販売している台湾の総合パーツメーカーである。その開発部門は、世界的にも有名で、マザーボードやビデオカード、ノートパソコン、光学ドライブ、ブロードバンドモデムの分野では、常に世界で上位10社にランキングされている有名企業である。特に、マザーボードの分野で高い評価を得ており、マザーボードの世界シェアでは1位であって、全体の約30パーセントを占める極めて著名なメーカーである(甲11ないし甲16)。ASRock社は、系列会社としてASUSTeK社では製造しないようなイレギュラーなマザーボードを開発・販売するなどして注目を集めており、ASUSTeK社と共にその関連マザーボードメーカーとして著名である。
ウ 韓国での訴訟及び韓国での無効審判について
被請求人は、韓国で得た商標登録に基づき、台湾のASRock社から輸入した正規の商品を取り扱う関連会社に対して差止請求を提起し、結果的に敗訴している。被請求人は、商標権者ではあっても、事業活動を行っていないものであり、将来においても行うであろうと認められる証拠もないとして、差止請求は棄却されている(甲17)。
また、原基礎登録は、無効審判により先願先登録商標と類似するという理由によって無効審判で無効とされている(甲18)。
エ 被請求人の悪意について
被請求人は、商標「Asrock」を使用し、事業を行う意思が全くないにもかかわらず、ASUSTeK社が子会社を立ち上げることを知り、不正な利益を得ることを目的とし、ASRock社の商標の使用及び商標権の利用を妨害するために韓国で商標権を取得したものと考えられる。また、ASRock社が日本に輸出販売を行っている事実を知り、日本国を指定した国際商標登録出願をして権利化を画策し、国内出願に変更して商標権を取得している。
ASUSTeK社が子会社としてASRock社及びASRockブランドを立ち上げたことは、被請求人が原基礎登録商標の出願をした2002年7月3日以前の2002年7月2日に、台湾のニュースメディア「DIGITIMES」が取り上げている。「DIGITIMES」は、IT関連の情報を新聞及びウェブサイトで配信しているメディアであり、英語版ウェブサイトには毎日3万件の訪問者がある。また、その他のIT関連のウェブサイトにおいても取り上げられており、翌日には韓国のIT情報ウェブサイトである「K-BENCH」でも情報が伝えられた(甲19ないし甲22)。また、メディアにおける情報の配信の他にも、インターネット上ではパソコン関連機器等についての情報のやり取りがユーザーの間でも頻繁に行われている現状がある。
したがって、インターネットにおける情報等により、被請求人が「ASRock」の名称を原基礎登録商標の出願前から知っていたことは容易に推認できる。被請求人は、請求人の使用している商標を変形した態様で故意に出願したものと考えざるを得ない。
被請求人は、個人であり、韓国に所在するものであるため、我が国で事業を行うことは困難である。したがって、被請求人の商標は、単に他人である請求人に買わせることが目的の商標であり、将来的にも業務上の信用が蓄積する可能性は全くない。
また、原基礎登録商標の出願日から本件商標の出願日(2003年9月18日)の間でも、インターネット等において、ASRock社及びASRock社製品に関する情報が複数掲載されている(甲23ないし甲56)。本件商標の出願日を基準に考えると、少なくともASRock社の商標「ASRock」の発表を知ってから悪意を持って日本で商標権を取得するために本件商標を出願したと考えることができる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。
(3)商標法第4条第1項第8号について
本件商標「Asrock」は、ASRock社の著名な略称「ASRock」と同一または極めて類似する商標である。
ASRock社は、台湾に本社を置く大手パソコン機器メーカーであるASUSTek社の子会社として設立され、ASUSTeK社と共にマザーボードの製造販売を行っている。世界各国で「ASRock」の商標権を取得しており(甲57)、多くの国でASRock社のマザーボードを販売している(甲58ないし甲64)。我が国においては、ASRock社のマザーボードは、2002年末から輸入され、2003年の年初から販売が開始されている(甲65ないし甲68)。なお、送金依頼書等に記載されている株式会社ユニティは、請求人の関連会社である。
ASRock社は、世界で重要なシェアを占めて極めて著名であるASUSTeK社の子会社として注目され、また、ASUSTeK社では取り扱わない仕様や異なる価格帯の製品を販売していることから、固有のブランドとしての地位も確立している。また、製品には「ASRock」の商標が付されていることから、需要者・取引者の間には、商標「ASRock」がASRock社のマザーボードを表示するものとして広く知られるとともに、「ASRock」がASRock社自身を指す略称としても広く知られていると考えられる。
我が国において、ASRock社のマザーボードは、2003年1月から販売されており、本件商標の出願日である2003年9月18日には短期間であっても既にその名は知られてマザーボード市場において一定の地位を得ていたと考えられるので、本件商標の出願時及び査定時において、「ASRock」の標章は、ASRock社の著名な略称に該当するものであると考える。また、被請求人は、ASRock社とは全くの無関係の他人であり、許諾を得ることなく本件商標の出願を行っている。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号に違反してされたものである。
(4)商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、ASRock社が使用する商標「ASRock」と欧文字の綴りを全く同じくし、「アスロック」の同一の称呼を生じることから極めて近似する同一に近い商標であることは明らかである。また、本件商標の指定商品中の第9類「コンピュータ用メインボード」とASRock社が商標「ASRock」を使用しているマザーボードは同一の商品である。
そして、パソコン及びその周辺機器等の情報通信産業の分野では、台湾の企業が世界的に圧倒的なシェアを持っており、台湾の企業は世界的にも注目されている。
マザーボードの分野では、ASUSTeK社が圧倒的なシェアを誇っているが、その子会社であるASRock社も設立当初から注目されていたもので、ASUSTeK社には出荷台数は及ばないものの、奇抜な仕様のマザーボードを取り扱っていることでも有名であり独自の商品展開により人気を集め、ASRock社のマザーボードは多数の国において販売され、一定のシェアを有している(甲69、甲70)。インターネット等でもASRock社のニュースや製品の紹介がされており、また、ユーザー間でもASRock社やその製品についての情報交換が頻繁になされている(甲19ないし甲56)。我が国においてもメディア等に取り上げられており(甲71ないし甲77)、一定の人気も得ている(甲78)。
ASRock社が使用する商標「ASRock」は、海外及び我が国の需要者の間でも広く認識され、当時からその動向が注目されていたものであり、2002年の設立当初から注目され、その後各国において使用が継続されているので、本件商標の出願時において既に周知性を獲得しており、現在まで維持されているものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものである。
(5)商標法第4条第1項第15号について
上述のような事情のもとに、被請求人が本件商標を第9類の指定商品に使用すると、需要者は、ASRock社の商品であると誤認し、あるいは、請求人等のように正規の代理店として事業を行う輸入業者等の業務と混同を生じるか、又は何等かの関連がある輸入業者が併存すると誤解されるか、若しくは偽物も輸入されていると誤解されることは明らかである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものである。
(6)商標法第4条第1項第19号について
本件商標は、台湾等の外国で周知な商標「ASRock」と類似する本件商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、台湾から日本への輸出を阻止する等の不正の目的、または高額で買い取らせるため等を目的に出願したものと考えられる。現に、商標権者は、台湾からの輸入に関し、請求人に対して商標権侵害を理由に輸入の中止を求めてきている(甲2、甲3)。このことは、不正の目的が実在することの証明と考えられる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号に違反してされたものである。
(7)商標法第3条第1項柱書について
本来的に現在または将来について、自らが使用しない商標については登録を受けることができない。台湾のASRock社の商品を日本で専ら輸入販売することを独占したい意思が見受けられるが、このような趣旨で商標を取得することは出来ないとするのが本規定の柱書の内容と考えられる。
韓国における関連する訴訟では、被請求人が業務を行う実体がなく、また将来においても事業を行うということが認められないとも認定されている(甲17)。したがって、訴訟の時点では明らかに韓国においては使用の意思はなかったと考えられる。更に、被請求人は、個人であり、韓国に在住していることから、我が国において商品に商標を付すような業務を行うことは困難と考えられる。韓国において使用の意思がなかったものが我が国において使用の意思があるとは到底考えられない。
これらの点に鑑みると、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものである。
(8)結語
上記のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号、同第19号及び同法第3条第1項柱書に反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項第1号に該当するため、その登録は無効とされるべきものである。

2 答弁に対する弁駁(要旨)
(1)商標法第4条第1項第7号について
ア 被請求人は、外国の企業が将来外国で使用されると予想される商標について保護する根拠はないと主張している。しかし、ASRock社の商標は、現に各国で使用され、製品が流通しているにもかかわらず、使用意思のない被請求人の登録により使用が妨げられることは妥当ではない。また、被請求人は、韓国出願時には、ASRock社の商標が将来広く知られるか判らない状態であったと述べているが、たとえ韓国出願時にはASRock社の製品が現在ほど市場に出回っていなかったとしても、将来的に生ずるであろう利益を見越して他人の商標を取ることに悪意は認められるべきである。
そして、本件出願までの期間に、商標「ASRock」を付した製品が各国に流通していた事情やASUSTeK社の製品が日本でも多く流通していたことを考慮すれば、仮に、本件出願時において、ASRock社の製品が日本において流通していた事実を確認できる証拠が提出されていないとしても、今後、日本において更に需要が高まると考えられる。したがって、ASRock社の商標と欧文字の綴りを同じくする本件商標を出願した被請求人の悪意が認定されるべきである。
イ 被請求人の使用の証拠について
被請求人は、本件商標を使用している証拠として乙第20号証及び乙第21号証を提出している。乙第20号証は、事業者登録証明及び韓国のオークションにおける本件商標が付された製品の出品画面、情報通信機器認証書であり、乙第21号証は、YAHOO!JAPANのオークションにおける本件商標が付された製品の出品画面である。しかし、オークションには市場に流通した製品だけでなく、さまざまな物品が出品されるものであるから、オークションに出品されているからといって、商品が業として生産され、市場に流通していたことにはならない。
なお、被請求人は、請求人が提出した甲第10号証の中の「asrock」の文字列でのインターネット検索結果について、検索結果の全てがASRock社の製品と関連するものでない旨の主張を展開しているが、ヒットした案件を調べても、殆んど全てがASRock社の商品に関するヒットであり、その中には全く被請求人の商品に関するヒットは存在していない。
商標法第4条第1項第7号の無効理由については、被請求人による本件商標の使用は直接的な要件ではない。しかし、現実に製造・販売を事業としている者でもなく、本件商標を本来の業務について使用する意思も使用もしていないにもかかわらず、本件商標の取得が正当な使用意思に基づくものであるかのごとく敢えて装っている点で悪意があると考えざるを得ない。
ウ 商標「ASRock」の創作性について
被請求人は、「ASRock」が基礎英単語である「as」と「rock」から成るものである旨の主張を展開している。確かに、「as」と「rock」が結合した商標であるとも考えられるが、比較的平易な英単語を2語組み合わせて商標を作成するとした場合でも、その組み合わせは膨大な数に上るのであり、更に、指定商品と関連のある語が含まれていたり、指定商品を暗示させるような語でもないから、全くの偶然に同時期に同一の商標を採用する可能性は、限りなくゼロに近く否定できる範囲にあり、被請求人は、ASRock社の商標を出願前に知り得る情況であり、むしろ知っていたと考えるのが自然である。
エ 被請求人のその他の商標について
被請求人の韓国における商標を調べてみると、「parhelia」(第9類)の商標登録がある(甲79)。「parhelia」は、カナダのMatrox社のGPU及びそれを搭載したビデオカードの名称である(甲80、甲81)。Matrox社が「parhelia」を発表したのと同じ2002年に出願している。偶然に同一の商標を同時期に出願したとは考えられず、本件商標の他にも悪意をもって出願していることが認められる。
オ 警告書の送付による悪意について
被請求人は、請求人を始めとするASRock社の製品の取扱業者に対し、使用を中止するよう再三警告書を多数箇所に送付してきている(甲2及び甲3、甲82ないし甲84、甲86)。本来の業務であるべき商品の製造・販売を行った形跡もなく、単にオークションへの形式的な出品に過ぎないので、他人に対し、商標権侵害を理由に差止めを要求することに正当性があるとは考えられない。被請求人は、不当な権利行使の目的で商標権を横取りしたにすぎないと考えられ、被請求人の悪意が証明されていると考えられる。
(2)周知・著名性について
ア 市場占有率と周知性について
被請求人は、ASRock社の商標の周知性が認められない理由として市場占有率が低いことを挙げている。しかし、需要者に認識されているか否かは、市場占有率のみで判断できるものではない。ASRock社の製品は、一般的なマザーボードとは異なり、イレギュラーな仕様のものであることがその特徴であり、そのような特異な製品の場合には、一般的な仕様の製品よりも占有率が低くなるのは当然のことであり、特殊な製品の場合には、市場占有率が低いことをもって直ちに周知性が認められないものではない。
イ ASUSTeK社との関係と周知性について
被請求人は、ASUSTeK社とASRock社の関係性について否定しているが、請求人がASUSTeK社との関係を主張したのは、ASUSTeK社が著名であるからその子会社であれば当然に著名であると主張しているのではなく、著名であるASUSTeK社と関連性があることにより、需要者の間で注目され、自己の製品の流通等によらない一定の周知性を獲得する場合があるということを主張しているものである。
ウ 請求人の証拠について
被請求人は、甲第19号証の「DIGITIMES」の記事は有料サイトであるから一般消費者に広く知られたサイトではない旨主張している。しかし、有料でありながら、毎日3万件のアクセスがあり、台湾の業界メディアとして良く知られており、「DIGITIMES」でのニュースが他のニュースに引用されることもたびたび行われ(甲20ないし甲22)、業界内では有料であるが故に情報性・信頼性の高いメディアであると考えられている。また、被請求人は、記事の内容について第三者の不確実な未来の予想に過ぎないと主張しているが、むしろメディアという立場の第三者である「DIGITIMES」がASRockについて言及していることは、ASRock社自身が発表するものよりも格段に、需要者に対して報道することの有用性が認められるものである。また、内容の正確性によって周知性が否定されることはないと考えられる。

第4 被請求人の答弁(要旨)
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第49号証を提出した。
原基礎登録商標が韓国で出願されてから、商標「ASRock」が中国で初めて使用され始めたものであり、本件商標の出願時に、商標「ASRock」が日本国内で周知であったという証拠が示されていないので本件請求は棄却されるべきである。
(1)基礎的事項について
ア 請求人について
請求人である株式会社ユニスターは、2003年10月17日に設立された企業であり(乙2)、台湾の華○(○は敬の下に手)科技有限公司(ASRock INC.)の製品を輸入し、2003年11月から国内で販売している(甲72)。
イ ASRock社について
ASRock社は、2002年5月14日に設立され(乙3)、商標「ASRock」を使用している台湾の企業である。中国及び台湾では、「華○(○は敬の下に手)科技」又は「○(○は化の下に十)○(○は敬の下に手)」という名称(略称)を使用している(甲34ないし甲45、乙4ないし乙7)。中国では、2002年10月末からマザーボード製品を販売し始め(乙23)、2003年以降は外国で製品を販売し始めたものである。日本には、2003年1月に40個のマザーボード製品を輸出したが(甲65ないし甲67)、商標「ASRock」を付した製品が2003年9月以前に日本国内で販売された証拠はない。
ウ ASUSTeK社について
ASUSTeK社は、商標「ASRock」とは別の商標「ASUS」を登録して使用する台湾企業であり(乙8及び乙9)、商標「ASRock」を台湾、日本又は外国で出願あるいは使用したという事実は全くない。請求人は、ASUSTeK社の周知性を主張して、甲第11号証ないし甲第16号証を提出しているが、それらは、ASRock社又は商標「ASRock」の周知性を立証するための資料ではなく、本件とは全く関連のないものである。
そして、ASRock社とASUSTeK社との間に何らかの関係性があったとしても、本件とは全く関係の無い事項であり、そもそも、商標の周知・著名性については、商標の使用方法、使用期間、売上高、市場占有率などの資料を総合的に判断するものであり、特定企業との関連性の有無によって判断されるものではない。
エ 商標「ASRock」の周知性立証の資料について
甲第10号証の資料は、全て2008年を基準として作成された資料であるため、これらの資料を証拠として採用することは認められない。甲第10号証の資料中の「ocworkbench ウェブサイト写し」において「GIGABYTE Responds to computer Energe..」という文章をクリックすると、これらが2008年5月22日に作成されたものであることがわかる(乙45の1)。また、「Intel X48」は、2008年の第一四半期に発売された製品である(乙45の2)。さらに、甲第10号証の資料中のGoogle.comの検索結果は、2008年5月5日以降に検索した結果であり(乙46)、また、検索された結果が全て商標「ASRock」の製品と関連するものではないことがわかる。
(2)商標法第4条第1項第7号について
本件商標の出願日である2003年9月18日以前に、日本で商標「ASRock」が使用された証拠は全く無く、また、外国の場合でも台湾の企業が商標「ASRock」を使用した2002年10月以前(乙23)に、原基礎登録商標が韓国で出願(2002年7月3日)されていることから、本号が適用される余地は無く、請求人の主張は認められない。
ア 韓国での無効審判について
前述のとおり、韓国での無効審決の理由は、原基礎登録商標が他人の先登録商標「Slock」と類似しているというものであり、商標「ASRock」の周知性を認めるものではない(甲18)。また、上級審の最終判決も「原基礎登録商標が『SLock』と類似し、登録無効となったので請求を棄却する」というものである(乙19)。
イ 韓国での訴訟について
請求人は、原基礎登録商標が韓国で使用された事実が無いと主張して、甲第17号証(判決文)を提出している。しかし、甲第17号証は、商標「ASrock」の使用禁止請求に対する最終判決ではない。原基礎登録商標の使用証拠は乙第20号証のとおりである。
ウ 本件商標の出願当時のASRock社製品の韓国市場占有率について
韓国関税庁統計によると、2003年のマザーボード製品の輸入金額は2億7千万ドルである(乙24)。また、韓国情報通信協会の資料によると、2003年のマザーボード製品の内需市場規模は総3425億ウォンであり、2003年1月から9月までの内需市場規模は2370億ウォンである(乙25)。コンピューターマザーボードは、PCに1つずつ装着されるものであり、2003年に韓国で販売されたPCの数量は329万台であるため(乙26)、2003年1月から9月までのマザーボード市場規模は、数量基準としておよそ247万個と推算することができる。
請求人が提出した資料及び韓国での審判当時、ASRock社の代理人が提出した資料を総合すれば、2003年9月(本件商標の出願日、原基礎登録の登録決定日)を基準に、ASRock社製品が韓国市場で占める比重は、輸入金額基準で0.3%、内需金額基準では0.4%、内需数量基準では0.5%に過ぎない数値である。同時に、製品が販売された期間も2003年3月から(甲27)2003年9月(本件商標の出願日)までの数か月に過ぎないため、周知商標として判断することができる要件を満たしているとは言えない。
また、2003年当時、韓国で発行された日刊紙「電子新聞」には、主要電子製品の価格表(乙27)が掲載されており、マザーボード製品の場合、約10以上のメーカー(総数30余りのモデル)の製品が表示されているが、商標「ASRock」を表示した製品はただの1つも掲載されていない。
したがって、本件商標の出願時において、商標「ASRock」は、韓国で周知商標として判断する要件を満たしていないことを客観的に確認することができる。
請求人は、インターネット掲示物(甲27ないし甲33)が存在するため、商標「ASRock」が韓国では周知であると主張しているが、数個のインターネット掲示物が存在するという理由だけで周知であると認めることはできない。
エ 本件商標の出願当時のASRock社製品の世界市場占有率について
韓国で原基礎登録の無効審判当時に提出された資料によると、ASRock社は、2002年10月からマザーボード製品を販売し始め、販売数量は2002年10月(5千個)、同年11月(11万3千個)、同年12月(12万3千個)、2003年1月(20万7千個)、同年2月(15万2千個)、同年3月(21万5千個)、同年4月(20万3千個)、同年5月(26万4千個)、同年6月(26万8千個)、同年7月(31万1千個)、同年8月(34万4千4百個)となっている(乙23)。
ところが、台湾の企業ASUSTeK社の会社紹介資料(乙28)によれば、同社が2003年に3千万個のマザーボードを販売して世界市場の20%(デスクトップコンピューター5台のうち1台に装着)を占有すると主張したため、2003年の世界市場規模は、1億5千万個であることがわかる(電波新聞の資料によると1億5千5百万個 乙29)。
ASRock社は、2002年10月から2003年8月末までの数か月間で月平均20万個を販売したため、ASRock社の製品が世界市場で占める比重は、月平均約1.6%に過ぎないものである。また、僅か数か月にしか過ぎない取引期間を勘案すると、本件商標の出願日(2003年9月18日)を基準に、商標「ASRock」を付した商品は、外国で周知著名の段階に至ったと判断することができるだけの要件を満たしていない。
オ OEM製品の製造、販売について
マザーボードを生産する大多数の台湾企業では、OEM用製品を生産して販売している(乙34)。2002年5月に設立されたASRock社も初期には主にOEM用マザーボード製品を販売していた(乙33)。OEM用製品の販売は、独自的な商標を消費者にしっかりと知らしめることができない販売方式である(乙32)。
韓国で、商標「ASRock」を付した製品を取り扱う代理店間の契約書内容の文中にもASRock社の製品がコンピューター完製品製造社にOEM販売されていると表されており(乙35)、韓国の代理店であるディーエヌディーコム(DNDCOM)株式会社の会社紹介資料(乙36)にも、ASRock社の製品がPC製造社及びPC組立企業にOEM納品されたことが表されている。
上記事実を総合して判断してみれば、ASRock社が販売した数量(乙23)の中には、OEM方式により販売された数量が含まれているため、2003年当時に、商標「ASRock」が消費者に知られるように販売された製品数量は、より微々たる水準であると判断することができる。
カ 本件商標の出願当時の商標「ASRock」の日本市場占有率について
請求人は、商標「ASRock」に関し、当該商標を付した製品が2002年末から輸入され、2003年1月から販売されており、2003年9月(本件商標の出願日)には短期間であっても日本国内の需要者らに商標「ASRock」が周知されていた旨主張している。
ところが、本件商標の出願日以前に台湾の企業が日本に販売した商標「ASRock」を付した製品の数量は、2003年1月14日に20個(甲66)、2003年1月27日に20個(甲67)の計40個であり、総金額は1960ドルに過ぎない。マザーボードは、デスクトップPCごとに1つずつ必須で装着されるものであり、2003年当時の日本におけるマザーボードの市場規模は、数量基準で1078万個(月平均90万個)であるから(乙30)、ASRock社の製品40個が日本市場で占める比重は限りなく0%に近い微々たる数量であることがわかる。
また、輸入された製品が消費者に販売されたのか、或いは、PC組立企業にOEMとして供給されて消費者が商標「ASRock」が分からない状態で流通されたのかを確認することができず、実際に日本国内で2003年9月以前に販売されたという証拠も無い。
キ Yahoo!ジオシティーズウェブサイト(甲56)について
請求人は、商標「ASRock」が本件商標の出願日(2003年9月)以前に日本国内で周知であったと主張しているが、証拠資料として提出しているのは、甲第56号証が唯一のものである(他の証拠資料は、本件商標の出願日後に作成されたものや輸出入書類なので、商標の使用証拠ではない)。請求人は、甲第56号証に「2003年7月31日22時16分」という表示があるため、本件商標の出願日から1か月前に商標「ASRock」が日本で使用されたと主張している。
しかしながら、Yahoo!ジオシティーズは、ヤフーが無料で提供している個人ホームページであり、個人が自由に掲示物を作成して修正することができるため、「2003年7月31日22時16分」という表示もYahoo!ジオシティーズで一括的に付与するものではなく、個人が掲示日付を直接作成することができるものであるから、例え、甲第56号証が虚偽資料ではないとしても、個人のホームページに掲示された1つの掲示物のみをもって、商標「ASRock」が周知であったとする請求人の主張を認めることはできない。
ク 甲第19号証ないし甲第22号証について
「digitimes.com」は、台湾の英文有料サイトであり(乙48)、全ての内容を無料で一般公開しているサイトではないため、一般消費者らに広く知られたサイトではない。甲第19号証を見ると、掲示物のタイトルのみが分かるだけであり、有料会員だけが詳しい内容を閲覧できるという表示(「Member only」表示)がある。そして、ここに掲載される記事は、当事者が直接発表した事項ではなく、第三者が記述したものであって確定された事実ではなく、単に未来の予想を記述したものであり、しかも、韓国や日本ではない中国に対する予想であって、製品の種類も示されていない。
また、甲第21号証は、当該サイトで過去の資料を皆削除した状態なので、証拠資料の存在を概観的に確認することができない。「ocworkbench.com」は、個人が一人で運営しているサイトであり、運営者はASRock社から広告費の支援を受けている特殊関係人であるため、証拠の信頼性に疑問がある(乙44)。更に、甲第20号証及び甲第22号商標は、全て原基礎登録商標の出願よりも先に掲示された資料ではない。
ケ 商標「ASRock」の創作性について
商標「ASRock」は、独特な態様の商標ではなく、単純に英文字でのみ構成されたものである。ASRock社の会社紹介にも「ASRock is solid as rock」という文章を使っており(乙16)、韓国における無効審判当時、ASRock社は、英語辞典に出てくる一般的な英熟語「solid as rock」(堅固な、信頼できる)を利用して商標「ASRock」を構成したものだと自ら明らかにしたことがある。構成単語である「as」と「rock」は、どちらも基礎英単語としてよく使われる単語であり、相当な創作性が認められる商標だとは考えられない。商標「ASRock」と創作動機の等しい類似商標「AZROCK」は、古くは1932年からアメリカ、韓国、台湾といった国々で既に他人によって出願されたことがある(乙17)。
被請求人は、本人の名前の最後の文字と同じ発音であるROCKと英語辞典に出てくる一般的な単語を結合して本件商標を構成したものであり、プリント回路基板の一種であるVGAカード製品に使用している(乙20及び乙21)。
(3)商標法第4条第1項第8号について
商標「ASRock」を使用する台湾の企業は、2002年5月に華○(○は敬の下に手)科技有限公司という名称で設立され(乙3)、設立当時には「ASRock」という名称を使用していなかった。2008年現在でも台湾及び中国では、華○(○は敬の下に手)科技、○(○は化の下に十)○(○は敬の下に手)という略称を使っており(甲34ないし甲45、乙4ないし乙7)、「ASRock」という略称を使用していない。韓国では、原基礎登録商標が出願された2002年7月以後、2003年3月からASRock社の製品が販売され始めた(甲27)。
甲第57号証は、様々な国に商標を出願したという事実のみを確認することができるにすぎないものであり、実際に「ASRock」の周知可否は分からない。また、それらの出願日は一件の例外もなく全て本件商標の原基礎登録商標の出願後のものである。
甲第58号証ないし甲第64号証は、主に2003年7月から2003年9月初めの間に作成された輸出入関連書類であるが、輸出入書類は、商標の使用証拠とすることができず、ただマザーボードの輸出入の事実のみを確認することができるものである。書類上に表示された製品の数量は、10910個である。2003年当時の世界市場規模が1億5千万個(乙28)であることを勘案すれば極めて少ない数量であり、2003年9月以前に消費者に販売された数量も分からない。また、取引期間も2003年9月まで(本件商標の出願日)の数か月間に過ぎないため、台湾のASRock INC.が有名な名称である、又は、有名な略称であると判断する要件を満たしていない。
さらに、日本には、2003年1月に、総数40個のマザーボードが輸入されたが(甲66及び甲67)、2003年9月以前に日本国内で販売された証拠はない。一方、アメリカには1932年からAZROCK社が存在している(乙17)。
(4)商標法第4条第1項第10号及び同第15号について
本件商標の出願日以前に、商標「ASRock」の製品が日本の需要者間で周知であるという証拠が提示されていないため、本号が適用される余地は無く、請求人の主張は認められない。
甲第69号証及び甲第70号証は、いずれも2007年(本件商標の出願日から4年経過後)の資料であるため、証拠として認めることはできない。
甲第19号証ないし甲第55号証は、いずれも外国のウェブサイトの写しであり、最初の掲示日付は2003年3月からである。インターネット掲示物は、一日に数千万ページが作成されるが、わずか数か月の間で30件余りのインターネット掲示物が存在するという理由だけで、商標「ASRock」の周知性を認めることはできない。
(5)商標法第4条第1項第19号について
本件商標の原基礎登録商標が出願された当時(2002年7月)、商標「ASRock」は、外国または日本国内で全く使用されていなかったので、本号が適用される余地は無く、請求人の主張は認められない。
本件商標の出願(2003年9月)を基準としてみると、本件商標の出願日以前に、商標「ASRock」の製品が日本国内で販売されたという証拠は無い。外国でも、商標「ASRock」の使用期間については、中国では2003年初頭から数か月間であり(甲34)、韓国では2003年3月から数か月間(甲27)、ロシアでは2003年6月から数か月間に過ぎず(甲48)、世界市場の市場専有率も月平均1.6%に過ぎない。2003年9月当時、商標「ASRock」は、外国で極めて初期の商標使用段階にあり、周知商標として判断する要件を満たしていない。
(6)結語
以上詳述した通り、商標「ASRock」は、原基礎登録商標が韓国に出願された後、中国で初めて使用され始めたものであり、本件商標の出願時、商標「ASRock」が日本国内で周知されていたという事実や証拠は一切無く、外国でも周知商標として判断する要件も満たしていない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号、同第19号及び同法第3条第1項柱書のいずれの規定にも違反するものではない。

第5 当審の判断
請求人は、本件審判を請求することの利益について述べているが、この点については、被請求人も争っていないので、本案に入って判断する。
1 商標法第4条第1項第7号の適否について
(1)証拠(甲1ないし3、10ないし16、18ないし86、94ないし97、100、104、乙1、3、7ないし11、20、21、23、29、30、48〔枝番のあるものは枝番も含む。〕)及び主張の全趣旨によれば、次の事実が認められる(なお、各文末尾には、その認定の根拠となった主要な証拠を掲記した。)。
ア ASRock社設立の経緯及びASUSTeK社との関係
ASUSTeK社は、台湾において平成2年(1990年)に設立された、台湾で最大手のコンピューターのマザーボード製造メーカーであり、平成10年(1998年)に米国のニューズウィーク誌において「世界のベストIT企業」の18位に選ばれ、平成14年度(2002年)度の電子・通信・メディア企業の純利益ランキングでは世界57位の企業であり、マザーボード、ビデオカード、ノートパソコン、光学ドライブ、ブロードバンドモデム等の分野では、常に世界で上位10社にランキングされおり、特に、マザーボードの世界シェアは1位であって、平成15年(2003年)における世界の総販売量は3000万ピースであり、世界市場の約30パーセント以上を占めていた(甲10ないし16、乙8、9)。
ASRock社は、平成14年(2002年)5月10日に設立された台湾に本社を置くコンピュータのマザーボードの製造メーカーであるが(甲10、乙3)、ASUSTeK社の法律上の子会社であるかどうかはともかく、同社の関連企業、役員等が株を保有する同社の関連会社であって(甲85、104、乙7、10、11)、マザーボードの分野において、ASUSTeK社の第二のブランドを扱う会社として設立され、ASUSTeK社では取り扱わない特異な仕様や低価格帯の製品を製造・販売してきた(甲10)。なお、ASRock社は、台湾及び中国においては、主に「華○科技股○有限公司」(先の○は「敬」の下に「手」、後の○は「イ」に「分」と記載)の名称を用いており、「華○科技」(○は「敬」の下に「手」と記載)又は「○(○は「化」の下に「十」と記載)○(○は「敬」の下に「手」と記載)」という略称を使用している(甲34ないし45、乙3)。
なお、請求人は、ASRock社の正規輸入代理店として、我が国において、引用商標の付されたASRock社製のマザーボード等の輸入販売を行っている。
イ 本件ニュース報道の状況及びその内容
被請求人による商標「Asrock」の韓国における原基礎登録商標の出願日の前日である平成14年(2002年)7月2日、台湾のニュースメディアである「DIGITIMES」によって、ASUSTeK社が、同月中に、中国において、同社の第二のブランドとして「ASRock」というブランドの製品をデビューさせると見込まれる旨の報道が流された(本件ニュース。甲19、94、95、乙48)。
「DIGITIMES」は、IT関連の情報を新聞及びウェブサイトで配信している有料のメディアである。そして、同日即座に、本件ニュースが、他のウェブサイト上のニュースにおいて引用され、例えば、「ASUSTeK社のHua Chingによる子会社が製造したマザーボードは、ASROCKというブランド名とともに、今月中に中国において出回ることが期待される」、「ASUSTeK社の会長であるAは、ブランドネームASROCKについて、ASUSTeKを基にして自ら選んだと言っている。」、「スケジュールから判断すると、ASROCKブランドは、7月下旬には中国に登場し、8月にはインド、中央アメリカ、南アメリカの市場で発売されるとみられる」などの記事で紹介された。また、翌7月3日には韓国のIT情報ウェブサイトである「K-BENCH」でも韓国語で本件ニュースが伝えられた(甲20ないし22)。
また、上記原基礎登録商標の出願日から本件商標の出願日(平成15年(2003年)9月18日)の間においても、ASRock社及びASRock社製品に関する情報は、我が国、台湾、韓国、中国、インドネシア、ロシア等の複数の国のウェブサイトに掲載された(甲23ないし甲56)。
ウ ASRock社による商品の製造・販売及び流通の状況
(ア)ASRock社は、会社設立後、マザーボードの製造・販売を開始し、平成15年(2003年)7月ないし9月のマザーボードの取引書類によれば、その間、韓国、南アフリカ、中東、インド、マレーシア、オーストラリアなどに合計約1万個のマザーボードを輸出している(甲58ないし64)。
ASRock社のマザーボードの販売数量は、平成14年(2002年)10月では5000個であったが、平成15年(2003年)8月には34万4400個となっており、この間の月平均は約20万個であった(乙23)。
なお、平成15年(2003年)におけるパソコンの世界市場規模は約1億5500万台であった(乙29)。
(イ)ASRock社の我が国に対する輸出は、本件商標の出願日前のものとしては、平成15年(2003年)1月2日付け及び同月21日付けの請求明細書によれば、いずれも各20ピースであり、また、本件商標の出願日後のものとしては、同年10月11日付けの請求明細書によれば、1800ピースであった(甲65ないし68)。なお、平成15年度における我が国におけるパーソナルコンピュータの出荷実績は約1078万台であった(乙30)。
(ウ)その後、ASRock社は販売実績を伸ばして、急成長し、平成15年以降同社のマザーボードの記事がコンピューター関係のウェブサイトや雑誌に頻繁に掲載されるようになり(甲71ないし78)、平成19年(2007年)の第11週には世界のマザーボード市場の10.1%、同年の第22週には7.5%のシェアを占めるまでになった(甲69、70)。
エ ASRock社による引用商標及び標章「ASRock」の出願・登録状況ASRock社は、本件ニュースが報道された翌日である平成14年(2002年)7月3日に、台湾において、商標「ASRock」を出願したのを皮切りに、平成16年(2004年)1月12日までの間に、アメリカ、カナダ、EU、中国、ロシア、香港、シンガポール等世界27の国と地域において、引用商標と同一の商標を出願し、登録された(甲57)。
なお、ASRock社は、我が国においても、平成15年(2003年)12月25日に引用商標と同一の商標を登録出願したが、本件商標が先願として存在していたことを理由に登録出願は拒絶査定されている(甲2、主張の全趣旨)。
オ 本件商標と引用商標の構成の相違
本件商標は、別掲(1)に示したとおり、太字で表された「As」の文字と灰色の長方形内に太字で表された白抜きの「rock」の文字からなるものであり、「As」と「Rock」というそれ自体単独で意味を有する英単語の結合商標と見ることができ、全体を一体の文字とみると、英大文字1字と英小文字5文字から構成されている(甲1)。
これに対して、引用商標は、別掲(2)のとおり、英大文字3文字と英小文字3文字から構成されている「ASRock」という1つの単語のように構成された文字を、一部文字同士を接続したり、「O」の字の中央に黒丸をあしらうなどデザイン化してなるものである(甲2、57)。
カ 被請求人の韓国及び我が国における事業の有無及びその内容
韓国中部税務署長作成に係る平成20年(2008年)8月29日付け「事業者登録証明」(乙20の1)によれば、被請求人は「エンティエス」若しくは「NTS」という商号の法人の代表者として、コンピューター及び周辺機器並びに電子製品の卸、小売りを業種とし、平成14年(2002年)3月22日に事業者登録をし、同年4月1日から開業している旨記載されている。また、電波研究所長作成に係る平成17年(2005年)7月28日付け「情報通信機器認証書」(乙20の3)によれば、被請求人は、「エンティエス」の商号で、基本モデル名を「Asrock」とする「VGA Card」に関し、平成16年(2004年)12月24日に、電磁波適合登録を受けていることが認められる。
また、被請求人の事業活動状況については、まず、韓国のインターネットオークションに、競売期間平成16年(2004年)12月28日から同月31日として、「Asrock ATI RADEON VGAカード」という製品名の本件商標を付したマザーボードが写真付きで出品されており(乙20の2)、平成21年(2009年)1月13日付けで、我が国における「Yahoo!オークション」に「新品GeForce 9600GT 512MB PCI-E」及び「新品RADEONHD 3850 512MB PCI-E」という製品名の本件商標を付したビデオカードがそれぞれ出品されていることが認められるが(乙21の1、2)、これ以外に、被請求人の事業活動内容を証明する証拠は提出されておらず、特に、我が国における事業活動を証明する証拠は一切提出されていない。
一方、平成21年(2009年)9月24日付け「業体及び商標調査結果報告書」(甲97、100)によれば、作成者が2度にわたり、「事業者登録証明」(乙20の1)に記載されている被請求人の事業場の住所地を訪ねたが、同住所地には「エンティエス」若しくは「NTS」等の業務案内表示板などはなく、被請求人もおらず、少なくとも、同住所地において、「エンティエス」若しくは「NTS」の商号で事業を行っている形跡は確認されなかった。
キ 被請求人の商標の出願及び登録の状況
被請求人は、韓国において、本件商標の対応商標及び類似商標を含め、「NetPhone」、「WebPhone」、「parhelia」、「GALE」など13件のコンピューターやソフトウェアを収録した電子機器等の分野に関連する様々な商標の出願をしているが(甲96)、例えば、商標「parhelia」はカナダのMatrox社のGPU及びそれを搭載したビデオカードの名称と同一の商標であり、同社が商標「parhelia」を発表した平成14年(2002年)5月14日から2か月も経過していない同年7月6日に出願されたものであり(甲79ないし81)、また、「GALE」は、イギリスのGale Limited社がスピーカー等に使用している商標と同一の商標である。
ク 請求人及び他の取扱業者等に対する被請求人の警告文の送付及びその内容
(ア)被請求人は、遅くとも、平成19年(2007年)2月以降、我が国において、請求人を含め、引用商標を付したAsrock社の製品を取り扱う多数の取扱業者に対し、被請求人が本件商標を保有していることを理由として、引用商標及び標章「Asrock」又はこれと類似する商標の使用の即時中止を要求し、中止しなければ刑事告訴し、販売で得た利益を損害賠償として請求する旨の「通知書」あるいは「回答書」を送付している(甲2、3、82ないし84、86の1ないし7)。
(イ)被請求人は、韓国において、Asrock社の販売代理店であるAswin社に対して、上記と同内容の警告状を送付し、同社に対して、本件商標の過度な譲渡金額を要求したと報告されている(甲97、100)。
(2)上記認定に対する被請求人の主張について
ア 上記(1)オの認定について
(ア)被請求人は、引用商標及び標章「ASRock」には独創性はない旨主張する。
しかしながら、引用商標は、別掲(2)のとおり、英大文字3文字と英小文字3文字から構成されている「ASRock」の文字を、一部文字同士を接続し、「O」の字の中央に黒丸をあしらうなどしてデザイン化してなるものであり、それ自体意味を有する単語ではなく、また、一般的に使用される名称でもない。確かに、同商標を分解すると、「AS」と「Rock」というそれ自体単独で意味を有する英単語の結合商標と見ることができること、ASRock社は、自らのウェブサイト上で、「ASRock is solid AS Rock」と表記して、自らその語源を明らかにし(乙16の3)、実際、英語辞書(乙16の1)によれば、英語の成句として、「solid as rock(「岩のようにしっかりした、信頼できる」の意)」のように用いられる場合があることが認められるが、上記成句は必ずしも親しまれた成語とはいえないばかりか、上記成句から「solid」を省略して「as rock」のみで、そのような意味がある成句として使用されているわけではなく、ましてや、電子機器分野において一般的に使用されるような文字構成とはいえないこと、以上の点を考慮すると、引用商標あるいは標章「ASRock」という文字構成は、一般的でありふれたものとはいえず、それ自体独創性を有する商標であるというべきである。
この点について、被請求人は「ROCK」を含む地名や人名を挙げ、さらには、それらを含む多くの商標が登録されている旨主張するが、「ASROCK」という構成の地名、人名及び商標は全く存在していない。確かに、アメリカ合衆国には「AZROCK INDUSTRIES INC」という会社が存在し、また、各国で「AZROCK」という商標を登録していることが認められるが(乙17の1ないし5)、引用商標及び標章「ASRock」とはそもそも綴りが異なり、また、事業分野も全く異なっていると認められるから、「AZROCK」という商標の存在は上記認定を左右するものではない。
イ 上記(1)カの認定について
被請求人は、本件商標を付した製品はヤフーオークションで販売され、日本のグーグル社の広告を代行する企業を通じて被請求人の日本語ホームページ及び本件商標の製品が広告されている(乙21)のであるから、被請求人が自己の事業において本件商標を使用していることは証明されていると主張する。
しかしながら、例え事業者会員として登録されていることを考慮しても、通常、電子機器の製造販売を行っている事業者において、その販売経路がインターネットオークションのみであるとは考えにくいばかりか、本件においては、商標の使用に関し、インターネットオークションへの2、3度程度の出品しか証拠として提出されていないのであって、このこと自体、事業としての販売状況を示す証拠として極めて不自然であるといわざるを得ない。
被請求人は、請求人から事業の実体がないと指摘、主張されているのであるから、本来であれば、自ら、本件商標を付した製品を製造あるいは販売している事業所の所在地、事業の規模、商品の種類、販売の実績、通信販売等のための宣伝広告の有無等を、事業を紹介した案内書、各種取引書類、工場あるいは販売所の写真等によって、容易に証明することが可能であるにもかかわらず、そのような証拠を一切提出していない点を考慮すると、被請求人が本件商標を使用した製品の製造販売を業としていること自体が疑わしいといわざるを得ず、少なくとも、我が国において、事業活動をしていた形跡はなく、また、現在においても、事業活動をしているとは認められない。
(3)以上の事実を前提に、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性を検討する。
ア 本件商標の出願における被請求人の悪意について
前記認定のとおり、平成14年(2002年)7月2日、当時、マザーボードの分野における台湾の最大手の製造メーカーであり、マザーボードの世界シェア1位のASUSTeK社が、同月中に、中国において、同社の第二のブランドとして「ASRock」というブランドの製品をデビューさせると見込まれる旨の本件ニュース報道がウェブサイト上で流され、その後即座に、多数の関連ニュースが報道され、その翌日には韓国においても同様のニュースが報道されたこと、本件商標の韓国における原基礎登録商標の出願はその翌日であること、その後、ASRock社が、引用商標及び標章「ASRock」を使用した製品を実際に製造・販売し、本件商標の出願日である平成15年9月18日までの間に、台湾、韓国、中国等を始めてとして世界各地で引用商標を付した製品が販売されていたこと、引用商標の「ASRock」という文字構成は、それ自体意味を有する一般的な単語ではなく、「AS」と「Rock」という英単語の結合商標とみたとしても、その組合せも一般的とはいえず、ましてや電子機器分野において一般的に使用されるような言葉ではないことからすれば、「ASRock」という文字構成自体にある程度の独創性が認められ、少なくとも、電子機器関連の製品に使用する商標として容易に思いつくものとは考えられないこと、被請求人はコンピューター及びソフトウェアを登載した電子機器等の分野に精通している人物であると認められ、同分野の「事業者登録証明」(乙20の1)及び「情報通信機器認証書」(乙20の3)を有して電子機器関連の分野に携わり、実際に商品をインターネットオークションにおいて出品していることからすれば、同分野のウェブサイトを頻繁に閲覧していたものと思われること、被請求人は、韓国において、本件商標を含め、コンピューターやソフトウェアを収録した電子機器分野に関連する様々な商標を13件も出願しており、その中にはカナダのMatrox社が同社のGPU及びそれを搭載したビデオカードに商標として「parhelia」を付すことを公表してから2か月も経過していない時期に出願されたのと同一の商標やイギリスのGale Limited社がスピーカー等に使用している商標である「GALE」と同一の商標も含まれていること、これら多数の商標を出願している理由について、被請求人は何ら主張立証をしていないこと、以上の点を総合考慮すれば、被請求人による本件商標の韓国における原基礎登録出願は、本件ニュース報道の翌日に偶然に被請求人が独自に選択して韓国において出願されたものとは考えられず、むしろ、被請求人は、上記一連の報道を知り、将来「ASRock」という商標を付した電子機器関連製品が市場に出回ることを想定し、ASUSTeK社あるいはASRock社に先んじて「ASRock」という商標を自ら取得するために、本件商標の原基礎登録商標を出願したと推認するのが相当であり、少なくとも、本件商標の出願日(平成15年9月18日)においては、ASRock社が同社の製造販売する製品に引用商標を使用していることを知りつつ、本件商標の国際出願をしたと認めるのが相当である。
イ 本件商標の出願の目的について
そして、被請求人の韓国における事業の実体は明らかではなく、実際に電子機器関連の製造・販売業を行っているか疑わしく、仮に真実事業を行っているとしても、個人営業であると認められ、事業の規模も極めて小規模と思われること、証拠上、製品の販売形態はインターネットオークションへの出品という特異な形態に限られていること、被請求人は、韓国在住であり、過去我が国において事業を行っていた形跡はなく、本件商標の出願から既に7年2か月が経過し、また、本件商標の登録後3年3か月が経過している現在においても、我が国で事業を行っている証拠は存在しないことから(なお、「Yahoo!オークション」というインターネットオークションへの商品の出品をもって我が国における事業の実施と認めるのは相当ではない。)、今後近い将来、我が国において本件商標の指定商品に関する事業を行う意思があるとは思われず、少なくとも、その可能性は限りなく低いと思われること、事業の実体がほとんどないにもかかわらず、電子機器関連の多数の商標を出願し、その中には、前述のとおり、他社が海外で使用する商標と同一類似の商標を故意に出願したとしか考えられない商標も複数含まれていること、被請求人は我が国で事業を行っていないにもかかわらず、本件商標登録後、請求人を含め、引用商標を付したASRock社の製品を取り扱う複数の業者に対して、輸入販売中止を要求し、要求に応じなければ刑事告発・損害賠償請求を行う旨の多数の警告書を送付していること、韓国においては、ASRock社の製品の販売代理店に対して、過度な譲渡代金を要求していたこと、以上の事実を総合考慮すると、本件商標は、商標権の譲渡による不正な利益を得る目的あるいはASRock社及びその取扱業者に損害を与える目的で出願されたものといわざるを得ない。
ウ 以上のとおり、被請求人の本件商標の出願は、ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し、やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を、先回りして、不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから、商標登録出願について先願主義を採用し、また、現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても、そのような出願は、健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり、また、商標法の目的(商標法第1条)にも反し、公正な商標秩序を乱すものというべきであるから、出願当時、引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず、本件商標は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。

2 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、他の無効理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標


(2)引用商標


審理終結日 2009-07-24 
結審通知日 2010-12-09 
審決日 2009-08-17 
出願番号 商願2007-20089(T2007-20089) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (Y09)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安達 輝幸 
特許庁審判長 鈴木 修
特許庁審判官 内山 進
旦 克昌
登録日 2007-08-24 
登録番号 商標登録第5072102号(T5072102) 
商標の称呼 アスロック、アズロック 
代理人 中嶋 伸介 
代理人 広瀬 文彦 

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