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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない X25
管理番号 1248044 
審判番号 取消2010-300760 
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2010-07-08 
確定日 2011-11-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5214180号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5214180号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成20年7月11日に登録出願、第25類「靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を指定商品として、平成21年3月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標等
1 請求人が引用する登録商標(以下「引用各商標」という。)は、次の(1)ないし(4)のとおりである。
(1)登録第5304112号商標は、別掲(3)の1のとおりの構成からなり、平成20年11月20日に登録出願、第25類「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,その他の履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」を指定商品として、同22年2月26日に設定登録されたものである。
(2)登録第2676550号商標は、別掲(3)の1のとおりの構成からなり、平成4年2月5日に登録出願、第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同6年6月29日に設定登録されたものであり、その後、同16年11月24日に指定商品を第3類「せっけん類(薬剤に属するものを除く。),歯磨き,化粧品(薬剤に属するものを除く。),香料類」及び第30類「食品香料(精油のものを除く。)」とする指定商品の書換登録がなされたものである。
(3)登録第4848055号商標は、別掲(3)の1のとおりの構成からなり、平成16年4月8日に登録出願、第14類「貴金属及びその合金,宝飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,金製又は銀製の食器類(刃物・フォーク及びスプーンを除く。),貴金属製のゴブレット,貴金属製の皿,その他の貴金属製食器類,計時用具,時計鎖,時計ケース,その他の時計,イヤリング,ネックレス,ブレスレット,ブローチ,メダル,ロケット,指輪,装飾用ピン,鎖用宝飾品,その他の身飾品,貴金属製宝石箱,貴金属製の花瓶及び水盤,貴金属製喫煙用具,貴金属製の胸像及び小立像,貴金属製キーリング,キーホルダー,家庭用貴金属製器具,貴金属製調理用器具,貴金属製針箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,記念カップ,記念たて,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製コンパクト,貴金属製靴飾り,家庭用貴金属製容器」を指定商品として、同17年3月18日に設定登録されたものである。
(4)登録第5217920号商標は、別掲(3)の1のとおりの構成からなり、平成20年7月9日に登録出願、第18類「カード入れ,財布,がま口,キーケース,会議用の書類入れかばん,傘,ビーチバック,ハンドバッグ,旅行かばん,スポーツバッグ,旅行用衣服かばん,スーツケース,旅行用具入れ,擬革,皮革」を指定商品として、同21年3月27日に設定登録されたものである。
2 請求人が使用する引用各商標の現実の使用態様は、別掲(3)の1ないし7のとおりである。(以下、請求人が使用する商標を順次「請求人使用商標1」ないし「請求人使用商標7」といい、これらをまとめていうときは「請求人使用商標」という。)

第3 請求人の主張
請求人は、商標法第51条第1項の規定により、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第168号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)取消事由の要点
本件商標は別掲(1)のとおりの構成からなるところ、被請求人は、第25類「靴類」に含まれるサンダルについて、別掲(2)に示すとおりの標章(以下「本件使用標章」という。)を使用している。かかる本件使用標章は、本件商標と類似するものであって、また、請求人、及び請求人の関連会社の業務に係る商標として周知・著名な引用各商標と極めて類似するものであり、請求人のデザインに係る商品等のブランドとして周知・著名な「agnes b.(アニエスベー)」(「agnes」の「e」にはアクサンテギュが付されている。以下同じ。)を容易に連想される態様からなるものとなっている。
したがって、請求人とは何らの関係もない被請求人が、本件使用標章を本件商標の指定商品であるサンダルに使用した場合には、あたかも請求人らの業務に係る商品であるかのごとく誤認混同を生ずるものというべきである。また、被請求人が上記行為を故意に行ったことは明らかである。
よって、本件商標は商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきである。
(2)取消事由
ア 本件商標について
本件商標は、別掲(1)のとおり茶色のゴシック体で大きく横書きされた「OKA」のアルファベットの大文字と、「b.」の部分からなるものであり、該「b.」の部分の「b」の文字は、カーキ色のやや細めの線により手書き風筆記体で表したアルファベットの小文字の「b」であって、上記「OKA」の「A」の文字の左斜線の下から、右斜め上方向に向かって書き出され、途中「A」の右斜線の下部と交差するように書され、該「b」の文字の末尾の右はらいの下に、小さな赤色のピリオドが配されている。
また、本件商標は、その指定商品を第25類「靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)、靴合わせくぎ、靴くぎ、靴の引き手、靴びょう、靴保護金具」とし、サンダルを含むものである。
上記の構成からなる本件商標の「OKA」の文字部分と「b.」の部分は、書体、文字の大きさ、色の著しい相違から、外観上分離して看取されるのみならず、これらは、観念上密接な関係を有するものとも認められないものである。したがって、本件商標の構成中の「OKA」の文字部分と「b.」の部分は、それぞれ分離して把握、認識され、各々が独立して自他商品の識別標識として機能する本件商標の要部である。
したがって、本件商標からは、その全体から生じる「オカビー」あるいは「オカベー」の称呼のほかに、各要部から「オカ」、及び「ビー」と「ベー」の称呼が各々生じるものである。なお、本件商標の「OKA」の文字部分と「b.」の部分がそれぞれ独立して認識、把握され、各々が独立して自他商品の識別標識として機能する点については、請求人が本件商標に対して申し立てた別件異議申立事件(異議2009-900222)の異議決定(以下「本件異議決定」という。)においても認められている(甲第161号証)。また、本件商標のうち、「b.」の部分が、独立して自他商品の識別標識として機能するものである点は、現に被請求人が、被請求人の取扱いに係る「サンダル」に、「b.」の部分を単独で自他商品の識別標識として使用している事実からも明らかである。
イ 本件使用標章について
被請求人が同人の販売に係るサンダルの中底かかと部分に使用する本件使用標章は、以下のとおり、本件商標のうち単独で自他商品識別標識として機能する部分である手書き風筆記体の「b.」の部分の文字の書き出し部分の長い線を、本件商標中の書き出し線の7分の1程の長さに短く切断し、末尾の右払いも、本件商標中の右払い線の3分の1程で「b」の底部には届かない長さに短く切断し、該末尾の右はらいの下に、小さな赤色のピリオドを配した構成からなるものである。
被請求人は、本件使用標章を少なくとも平成21年9月から現在に至るまで使用しており(甲第6号証、甲第7号証の1ないし甲第7号証の3、甲第159号証)、かかる本件使用標章からは、その構成文字がアルファベットの「b」であるため「ビー」の称呼が生じる。また、後述のように、本件使用標章は、請求人のデザインに係る「agnes b.(アニエスベー)」ブランドの商品に付された周知・著名な商標である引用各商標とほぼ同一の構成からなるものであるため、引用各商標の称呼と同一の「ベー」の称呼も生じるものである。
したがって、本件使用標章は、前記のとおり、外観上は、本件商標の構成文字であり、それ自体独立して自他商品の識別標識として機能する本件商標の要部の一つである「b.」の部分のうち、アルファベットの「b」の書き出し線と末尾を本件商標のそれらより短く切断することにより、引用各商標と酷似するように再構成したにすぎないものであり、かつ、称呼の観点からも、本件使用標章と該「b.」の部分からは、何れも「ベー」または「ビー」の称呼を共通にするものであるから、本件使用標章は、本件商標と類似の商標といえる。
なお、被請求人は、本件使用標章を、本件商標の指定商品である第25類「靴類」に含まれる商品「サンダル」について使用している。
ウ 本件使用標章と引用各商標及び請求人使用商標との混同の有無について
商標法第51条第1項における混同の有無に関しては、需要者保護を目的とする法の趣旨にかんがみて、現実に混同が生じている場合のみならず、混同を生ずるおそれがある場合を含むと解される(最判昭60・2.15 昭59(行ツ)8号)。
ここで、「混同を生じるおそれ」の有無は、(i)当該商標と他人の表示との類似性の程度、(ii)他人の表示の周知・著名性及び(iii)独創性の程度や、(iv)当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者・需要者の共通性(v)その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者・需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものであるとされている。(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。上記の最高裁判例は、商標法第4条第1項第15号における混同を生じるおそれについて、その判断基準が提示されたものであるが、商標法第4条第1項第15号における混同の生じるおそれと、商標法第51条第1項におけるそれとの間に異なるところはないため、商標法第51条第1項における混同のおそれについても、上記最高裁判例と同様の解釈がなされるべきと考える。そこで、以下のとおり詳述する。
(ア)本件使用標章と引用各商標の類似性について
本件使用標章は、前記イのとおりの構成からなり、後述のように、請求人のデザインに係る「agnes b.(アニエスベー)」ブランドの商品に付された周知・著名な商標とほぼ同一の構成からなるものであるため、「ベー」の称呼が生じ得るものである。また、その構成文字「b」より、「ビー」の称呼も生じるものである。
これに対して、引用各商標は、黒色の手書き風筆記体で表したローマ字の「b」の右下に、黒色のピリオドを表した構成からなり、後述のように、請求人のデザインに係る「agnes b.(アニエスベー)」ブランドの商品に付された周知・著名な商標であるため、その構成文字「b」より、「ベー」の称呼が生じるものであり、英語読みの「ビー」の称呼も生じ得るものである。
前記構成からなる本件使用標章と引用各商標は、その外観構成において、文字の色、ピリオドの位置、「b」の末尾のはらいの向き(上向きか下向きか)等の微差はあるものの、いずれも手書き風筆記体で表したローマ字の「b」と、その右下に表したピリオドから構成されるという点において同じである。また、前記の様に、本件使用標章は、書き出し線と末尾右払いの長さも、引用各商標とほぼ同じになっている。さらに、かかる外観における類似性に加えて、本件使用標章と引用各商標は、何れもその構成文字より「ベー」または「ビー」の称呼が生じるものであるため、称呼上も類似する。
上記の差異点についてみても、商標の類否は、対比する2つの商標を並べて見て判断する対比観察ではなく、時と所を異にして商標に接した需要者・取引者が出所混同をきたすか否かを判断する離隔観察により判断されるものであるから、ピリオドの位置、「b」の末尾のはらいの向き等の細部における相違は、対比観察の場合であればともかく、離隔観察によっては、到底彼此明確に区別しうるものではない。簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、本件使用標章と引用各商標に触れた一般的な需要者は、それぞれローマ字の「b」とピリオドで構成されている商標という程度に商標の構成を認識し、記憶すると考えられ、ピリオドの位置、「b」の末尾のはらいの向き等の細部に至るまで正確に認識し、記憶するものとは到底考えられない。また、商標の色彩の変更は、商標の使用上普通に行われる程度の変更として、商標法上でも想定されている変更であるため(商標法第70条第1項)、本件使用標章と引用各商標の文字の色彩の差異は、本件使用標章と引用各商標の類似性の程度に影響を及ぼすものではない。
本件使用標章は、外観構成において、微差はあるものの、全体としてみれば引用各商標と似通った印象を与えるものであり、本件使用標章は、本件商標を、引用各商標に酷似する方向へ変更しているものである。さらに、本件使用標章は、引用各商標の「b」と酷似する態様の「b」を使用しているばかりでなく、これに引用各商標の特徴的な構成要素の一つであるピリオドまでも配しているものであり、両構成要素の組み合わせが、引用各商標との類似性をより際立たせているといえる。それに加えて、当該変更の結果、本件使用標章から生じる称呼は、引用各商標から生じる称呼と同一となっているものである。これらの事実を勘案すれば、本件使用標章は、引用各商標に酷似した態様を有するべく変更されたものであり、かかる変更は、商標の使用上普通に行われる程度の変更の範囲を著しく逸脱するものである。このように外観及び称呼の点において、引用各商標に酷似した態様を有するべく変更された本件使用標章を、ファッション関連商品のサンダルに使用した場合には、彼此相紛れて出所の混同が生じるおそれがあり、本件使用標章と引用各商標の類似性は極めて高いものといわざるを得ない。
(イ)引用各商標と請求人使用商標は、請求人の周知・著名な商標である
a デザイナー「agnes b.(アニエスベー)」と彼女のデザインするブランド
請求人は、世界的に有名なファッションブランドである「agnes b.(アニエスベー)」の創設者であり、該ブランドのデザイナーである。「agnes b.(アニエスベー)」ブランドは、請求人が、1973年に立ち上げ、1975年にフランスのパリに第一号のブティックをオープンして以来、そのデザインと品質において大変人気を博したことから、フランス国内のみならず、世界各国に商品が輸出されるようになった。1980年にはニューヨークに、1983年にオランダに、1987年にはイギリスに、1995年には香港、1996年にドイツ、2002年に台湾、2004年にシンガポール及び中国、2006年にベルギーに、と世界各国に次々と進出し、請求人のデザインに係る婦人服、雑貨等を販売する店舗を相次いでオープンした。直近では2009年にドバイに出店し、現在では世界に全286店のブティックを抱えるグローバルブランドとなっている(甲第8号証及び甲第9号証)。中でも、女性用の衣服については、世界的に注目を浴びるようになり、例年、世界のファッションショーの檜舞台ともいうべきパリコレクションで、シャネルやルイ・ヴィトン等の世界的著名ブランドと肩を並べて、最新のコレクションを発表している(甲第10号証ないし甲第14号証)。また、その人気の拡大に伴い、主軸ブランドの「agnes b.(アニエスベー)」に続いて、1981年には紳士服の「agnes b.HOMME(アニエスベー オム)」1号店をオープンし、その後も、子供服の「agnes b.ENFANT(アニエスベー アンファン)」、大人と子供の間の少女向けラインとして「agnes b.LOLITA(アニエスベー ロリータ)」、革製品とバックの「agnes b.VOYAGE(アニエスベー ボヤージュ)」、スポーツファッションの「SPORT b.(スポーツベー)」、妊婦向けの「POUR ATTENDRE(プールアタンドル)」等、数多くの「アニエスベー」関連ブランドを展開し、婦人服・紳士服だけでなく、靴・靴下・帽子・手袋・眼鏡・時計等の他、一般にこれらの商品と同一の流通経路、販売店で取扱われるバッグ、財布、化粧ポーチ等のファッション雑貨、ブローチ、イアリング等の貴金属類、更には香水や口紅をはじめとした化粧品等、老若男女問わず幅広い需要者を対象とした、ファッション関連全般に及ぶ商品を取扱っている(甲第9号証)。2008年には、請求人のデザイナーとしてのこうした活躍が認められ、フランス政府よりフランス芸術文化勲章が授与された(甲第15号証)。また、フランス文化省による、ヴェルサイユ宮殿スタッフの制服デザイン一新を目指したデザイン・コンペティションで優勝し、2008年7月から請求人のデザインした新ユニフォームがヴェルサイユ宮殿で着用されている(甲第15号証)等、数多くの有名ブランドを擁するフランスにおいて、国を代表するデザイナー及びブランドとなっているものである。
b 日本における周知・著名性について
日本においては、請求人の許諾の下、日本法人の株式会社アニエスベーサンライズが、請求人のデザインに係る商品を独占的に販売しており、1984年に青山に一号店をオープンした後、流行に流されないシンプルかつ洗練されたスタイリッシュなデザインが、若者を中心とする我が国の消費者に人気を博し、90年代にかけて、我が国におけるフレンチカジュアルブームを起こした(甲第98号証)。その後は、かかるフレンチカジュアルブームの火付け役としての「agnes b.(アニエスベー)」の圧倒的な人気により、順調に店舗数を拡大し、現在では、伊勢丹新宿店、松屋銀座店、西武池袋店、松坂屋名古屋店、大丸神戸店、そごう広島店、大丸博多店等、全国の主要百貨店内、お台場アクアシティやららぽーと横浜店等の郊外型ショッピングセンター等に、合計135店舗を擁している(甲第8号証)。中でも、1996年には、東急百貨店が東京渋谷の本店別館を、アニエスベーの専門館としているが(甲第50号証)、徹底したマーケティング戦略の下、テナントの選定やフロア内の各テナントの配置等を、ブランドの人気・注目度等の分析に基づいて決定し、実績の上がらないテナントには退去を要請し、新たなテナントと入れ替える等、厳しいテナント管理を行っていることで知られている百貨店が、単一ブランド用に専門館を設けるという異例の待遇は、アニエスベーの高い人気と圧倒的な集客力を証する事実である。また、本業であるファッション関連商品の好調な人気に伴って、1996年には南青山のアニエスベー オム南青山店2階に、ブティックと併設してカフェをオープンするなど(甲第61号証)、独自のマーケティング戦略と厳格な品質管理により、高いプレステージが形成され、数ある海外ブランドの中でも格別の人気を誇っており、本件商標の出願時である2008年の売上高は約160億円、宣伝広告費は約5億円に上っている。
日本における人気を裏付ける事実として、1993年には、雑誌「流行通信」による「デザイナー人気アンケート」において、世界に名立たるブランドのシャネルやジバンシィ、クリスチャン・ディオールを抑えて、第3位にランクインされている(甲第36号証)。また、2002年には、女性が「クリスマスに欲しい腕時計」として、アニエスベーの時計が、シャネルやグッチ等の世界的著名ブランドを抑えて、第6位にランクインされており(甲第92号証)、2005年10月には、日経MJ(流通新聞)集計の「ストアブランド構成要素別ランキング」の「存在感(プレゼンス)ランキング」において、業種の垣根を越えた全てのストアブランドが対象とされる中、バーバリー等の著名ブランドを抑えて第26位にランクインされている(甲第105号証)。更に、2005年3月には、特に若い女性に圧倒的人気を誇る百貨店の松屋銀座本店において、デパート主催の「アニエスベー 永遠のアイテムコレクション」が開催され(甲第104号証)、同年10月には、東京都内でファッションショーを開催する(甲第106号証)など、1984年に日本に出店して以来、25年以上経過した現在もなお、高い人気を保ち続けている。
また、上記のような、ブランドとしての「agnes b.(アニエスベー)」の人気に加えて、我が国では、デザイナーであるアニエスベー自身も、現代アートの収集家、写真家、映画製作の支援者(映画製作会社を設立)等の複数の顔を持ち、雑誌の編集を経てデザイナーになり、三度の結婚、出産、離婚を経験しながらも長年に渡って活躍し続けているという生き方が、女性の社会進出が急速に進展した時代の下、若い女性の間で人気を得て、新聞、雑誌等の多数のメディアで数多くとりあげられており(甲第65号証、甲第95号証ないし甲第97号証、甲第108号証及び甲第109号証)、デザイナー「アニエスベー」も、若い女性を中心とした需要者の間に広く認識されるに至っているといえる。
c 日本における引用各商標と請求人使用商標の使用実績
請求人は、上記のとおり我が国でも著名なファッションブランドである「agnes b.(アニエスベー)」及びその関連ブランドにおいて、婦人服や紳士服のみならず、靴、バッグ、財布、ポーチ、時計、貴金属、化粧品等、多種多様なファッション関連商品との関係で、引用各商標を使用しており、引用各商標は、「agnes b.」「アニエスベー」の商標とともに、ブランドを象徴するマークとして広く需要者の間に浸透している。また、請求人は、引用各商標以外にも、引用各商標と他の文字・図形等を結合した、請求人使用商標2ないし7等、様々な構成態様の商標を、上記の各種ファッション関連商品との関係で使用しており、これらの商標が付された商品は、いずれも請求人のデザインした商品として高い信用を得ているものである(甲第9号証ないし甲第165号証)。
また、アニエスベーの服ばかり着る登場人物を描いた「b.とその愛人」という小説が存在するが(甲第153号証)、この小説のタイトルの「b.」も手書きサイン風に表されており、このような例からも「b.」が「agnes b.(アニエスベー)」を表すものとして広く認知されていることがわかる。
さらに、前述した「agnes b.(アニエスベー)」のカフェでは、請求人使用商標3が使用されているが、ここでも「b.」が使用されている(甲第61号証)。
「b.」は、単独での使用ではなく、他の文字等を結合したいずれの使用態様においても、「b.」と他の文字の書体をあえて変える等の手法を採用することにより、「b.」が強調される態様になっているため、「b.」が独立して認識されるものであり、筆記体の「b」とピリオド、といえば、「agnes b.(アニエスベー)」のロゴ(商標)であると需要者に認識されるに至っているものである。
請求人使用商標7を構成する「agnes」と「b.」の文字の間には、2文字以上の間隔が設けられており、一般的に2語を結合した商標の場合よりも、各語が離れた構成をとっている。一文字又は半角程度のスペースを設けた結合商標の場合ですら、各語が外観上分離可能で、各々独立して認識され得るとの判断が多数されている点にかんがみれば、請求人使用商標7のように、各語の間が通常より離れた構成からなる商標であればなおさら、各文字が独立して認識され、各々が自他商品識別標識として機能しうる場合があり得ると考えられる。かかる状況に加えて、引用各商標と他の文字等を結合した請求人使用商標等の態様での使用においても、独特なサイン風の筆記体という特異な構成からなる「b.」が、前記のように一貫して独立して認識され得る態様で使用されていること、「b」は請求人が最初に結婚した夫の姓のイニシャルを表したものであるというエピソードも広く知られていること(甲第65号証及び甲第108号証)、請求人が実際に請求人使用商標7と同時に、「b.」も自他商品識別標識として使用していること、等を併せ考慮すれば、請求人による「b.」単独での使用実績のみならず、「b.」と他の文字を結合した態様での使用によっても、「b.」が需要者に印象付けられているのであり、「b.」は「agnes b.(アニエスベー)」を表すものとして広く知られるところとなっているものである。
なお、商願平6-73670異議決定(甲第160号証)では、「agnes b.」のうち「b.」の部分のみに注目し、該部分をもって取引に資される場合も少なくないものといわなければならないと述べられ、「agnes b.」から「b.」も独立して認識されると判断されている。
以上に述べたフランスのデザイナー「agnes b.(アニエスベー)」、ブランドとしての「agnes b.(アニエスベー)」、及び引用各商標の周知・著名性は、特許庁における異議決定(甲第161号証ないし甲第164号証)において認められていることからも明らかである。
また、異議2005-90481(甲第162号証)においては、引用各商標と請求人使用商標(5)について、「いずれも筆記体の『b』とピリオドが一体のものとなって、看者に印象づけられるというのが相当であって、構成全体をもって、『ベー』と称呼され、ファッション関連商品の分野における需要者にある程度知られているものと認められる。」として、引用各商標および請求人使用商標(5)の周知性が認められている。
以上より、「アニエスベー」が1984年に日本に初出店し、90年代にかけて我が国で「アニエスベー」の一大ブームを巻き起こして以降、現在に至るまで、ブランドとしての「アニエスベー」、デザイナーとしての「アニエスベー」、そして彼女のデザインする各ブランドに係る商品に付された引用各商標は、いずれも本件商標の出願時である平成20年7月11日には、我が国において、請求人のデザインする商品を表示するものとして需要者・取引者の間に広く知られるに至っていたものであり、本件商標の査定時(平成21年2月17日)、本件使用標章の使用時(少なくとも平成21年9月から審判請求日現在)においても、継続してその周知・著名性を維持していたものと確信する。
(ウ)引用各商標の独創性
引用各商標は、請求人の最初の夫の姓であるローマ字の「b」を、黒色の手書き風筆記体で表し、黒色のピリオドと組み合わせたという点において、構成上の独創性がある。また、引用各商標は、請求人のファーストネーム(名)である「agnes」と、請求人の最初の夫の姓のイニシャルである「b」と、ピリオドとからなり、請求人自身のサイン(署名)をモチーフにした手書き風の筆記体で表してなる請求人の著名商標(請求人使用商標7)中の、姓の部分だけを取り出したものであるが、各人特有の特徴(癖)がある「サイン(署名)」という特性上、他人が類似の字体を商標に採用することは、模倣を除いては考えにくく、その意味で非常に特異な外観的特徴を有するものである。よって、引用各商標は、高い独創性を有するとみるのが相当である。
(エ)本件商標(使用標章)と引用各商標の役務の関連性及び需要者の共通性について
本件使用標章が使用されている商品は、「サンダル」であり、いわゆるファッション関連商品である。これに対して、引用各商標が使用されている靴、被服、鞄、財布、メガネ、サングラス、時計、ネックレス、香水、化粧品等も、同じくファッション関連商品である。
これらファッション関連商品である靴、被服、鞄、財布、時計等は、請求人自身が、自己の「アニエスベー」ブランドのもとで、これらの商品全てを取扱っている事実からも伺えるように、一つのファッションメーカーの取扱いにかかることが多い商品であり、また、ファッション関連の商品として、同一店舗で販売されることも多々ある。また、本件使用標章が使用されている「サンダル」と、引用各商標が使用されている前記商品とは、ともにファッション関連の商品であって、両者はその需要者層を共通にする。よって、両商標に係る各商品の間には、非常に強い関連性がある。
(オ)まとめ
以上の事情を総合勘案すれば、被請求人が使用する本件使用標章の態様は、ローマ字の「b」とピリオドとで構成されるという点で、引用各商標と構成を全く同じくし、かつ、そのレタリング手法(文字の書き方)も、何れも手書き風の筆記体である点で同じである。また、本件使用標章は、書き出し部分が引きずるように長く表され、末尾の右払いも余韻を残した態様で「b.」の底部に届く程に右下に向かって延びた態様で表されている本件商標の「b.」の部分を、前記書き出し部分の長い線を7分の1程の長さに短く切断し、末尾の右払いも3分の1程で「b」の底部には届かない長さに短く切断する変更を行うことにより、引用各商標の書き出し部分及び末尾の右払い部分とほぼ同じ長さにしているものであり、かかる変更の結果、本件使用標章の態様は、引用各商標に酷似するものとなっている。引用各商標と本件使用標章では、ピリオドの位置や「b」の末尾の右はらいの向き等の微差はあるものの、かかる微差は簡易迅速を尊ぶ取引の実際において取引者・需要者において通常払われる注意力の下では、到底一見して認識され彼此区別され得るものではない。むしろ、本件使用標章と引用各商標は、全体として外観の印象が極めて近似した彼此相紛らわしいものである。加えて、本件使用標章と引用各商標は、前記のとおり称呼も同一である。引用各商標のような手書き筆記体でサイン風に表された「b.」の商標で、引用各商標以外に広く知られた商標は他になく、「手書き筆記体サイン風のb.」といえば「agnes b.(アニエスベー)」という認識が定着している現状においては、前記本件使用標章の態様は、一見して請求人に係る周知・著名なブランド「agnes b.(アニエスベー)」を容易に連想させる態様であるといわざるを得ない。かかる態様の本件使用標章が、請求人が取扱うファッション関連商品に含まれる「サンダル」に使用された場合、これに接した取引者・需要者は、前記事情よりして、当該商品があたかも請求人若しくはアニエスベー又はその関連会社の取り扱いに係る商品であるかのごとく、或いは、請求人等と何らかの経済的・組織的関連がある者の取り扱いに係る商品であるかのごとく認識し、出所混同を生ぜしめる蓋然性が極めて高いものである。
エ 商標権者(被請求人)の故意について
商標法51条1項にいう「故意」があるというためには、他人の利益を侵害する意思や不正競争の目的のように悪意があることを必要とするものではなく、使用の結果により商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していれば足りると解される(最高裁昭和56年2月24日第三小法廷判決・裁集民132号175頁)。そして、引用各商標のような周知・著名商標については、それが使用されていた事実を認識し、それにもかかわらず当該周知・著名商標と類似する表示を採用したことをもって、故意は当然存在したものと認められるべきである。
本件において、引用各商標が周知・著名であることは上記のとおりであり、請求人と同一のファッション関連商品を扱う被請求人であれば、引用各商標の使用の事実について当然認識していたものというべきである。それにもかかわらず、被請求人は、本件商標からその主要な構成要素である「OKA」の文字部分を省除して、手書き風の筆記体で表したローマ字の「b」とピリオドからなる、引用各商標と類似の本件使用標章を使用したのであるから、本件サンダルを発売した時点において、被請求人には商標法51条1項にいう「故意」が存在していたものである。また、前記のように、本件使用標章は、本件商標の「b.」の部分だけを取り出した上に、書き出し線と末尾の払いの長さを敢えて短く切断して、引用各商標に酷似する態様をもつべく修正が加えられているものであるので、単に周知・著名な引用各商標が使用されていた事実を認識していたのにもかかわらず引用各商標と類似する表示を採用したという程度を超えて、引用各商標に近似させたいとの意図をもってこれを使用したものとも推認され得るものであり、被請求人に「故意」があったことは明白である。
なお、請求人は、平成21年9月17日付け内容証明郵便により、被請求人による本件使用標章の使用に対して警告状を送付しており(甲第165号証)、これに対して被請求人は、平成21年9月24日付け回答書及び平成21年10月28日付け内容証明郵便による回答書において、それぞれ、被請求人は本件商標登録並びに意匠登録(第1367492号)を有する旨、被請求人としては、請求人が当時本件商標登録に対して申立を行っていた異議2009-900222(甲161号証)に関する特許庁の審判を待ちたい旨の回答を行っている(甲第166号証の1及び甲166号証の2)。そして、被請求人は、当該警告状を受領した後も本件使用標章を付したサンダルの販売を中止しなかったのであるから、少なくとも請求人が警告状を送付した平成21年9月17日以降においては、被請求人に故意があったことは明らかである。
オ むすび
以上の理由により、本件商標は、商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきものと確信する。
2 弁駁の理由
(1)本件商標と本件使用標章の類似性
ア 本件異議決定では、異議申立手続における主張並びに提出された証拠に基づいて、あくまでも請求人の商標「agnes b.」と本件商標及びその構成の一部である「b.」の部分とが非類似であると認定されたにすぎないのであって、商標法第51条第1項の取消審判の要件である、登録商標と使用商標の類似性、すなわち、本件商標と本件商標の要部の一つである「b.」の部分に変更を加えた態様の本件使用標章とが類似か否かについて判断したものではない。本件商標の要部の一つである「b.」の部分と請求人の商標「agnes b.」が非類似の商標であることと、本件商標と本件使用商標が類似の商標であることは全く別の問題であり、本件商標と本件使用標章が類似の商標であるとの請求人の主張は、本件異議決定に何ら矛盾するものではない。
なお、被請求人が我が国において本件商標の出願をするにあたって承諾を得ていると主張するアメリカ合衆国のOKA b.社、即ち、OKABASHI BRANDS,INC.を名義人とする、本件商標と色彩のみが異なる同一の構成からなる商標についての国際登録第1001865号(甲第167号証)は、中国において、請求人による異議申立の結果、取り消し決定となっている(甲第168号証)。
イ 本件異議決定では、請求人の商標「agnes b.」全体と、本件商標又は本件商標の構成の一部である「b.」の部分とが、外観、称呼、及び観念の何れの点においても互いに紛れるおそれのない非類似の商標であると認定されたのであり、本件商標と本件使用標章の類似性については、当然のことながら何ら検討・判断されていない。
したがって、本件異議決定のとおり、「agnes b.」商標と、本件商標の構成の一部である「b.」の部分とが非類似であるとしても、本件商標と本件使用標章とでは対比する2つの商標が全く異なる以上、当該決定での認定が本件商標と本件使用標章が非類似であることの根拠には到底なり得ない。
(2)故意について
ア 本件異議決定では、異議申立手続において請求人(異議申立人)が提出した証拠によっては、本件商標の登録出願及び登録査定の時点において、「agnes b.」商標中の「b.」の文字部分のみが独立して、請求人の業務に係る商品等を表示するものとして、我が国において周知・著名性を獲得していたことを認めることはできないと認定されたにすぎない。
この点、請求人は、本件審判において、異議申立手続において提出した証拠に加えて、甲第8号証ないし甲第156号証を提出しており、そもそも判断の前提たる証拠が異なっている以上、同列に判断されるものではない。
かかる甲第8号証ないし甲第156号証によれば、請求人が、被服、鞄類、時計、化粧品等のファッションに関連する幅広い商品との関係で、請求人の商標「agnes b.」に加えて「agnes b.」商標中の「b.」の文字部分のみからなる請求人使用商標1及び、「b.」の文字部分のみが独立して認識され得る態様の請求人使用商標2ないし7を含む請求人使用商標を、我が国において長年にわたり使用し続けていることがわかる。したがって、これらの証拠により、請求人の商標「agnes b.」のみならず、「agnes b.」商標中の「b.」の文字部分のみが、独立して請求人の業務に係る商品等を表示するものとして、本件商標の登録出願及び登録査定の時点において、我が国において周知・著名性を獲得していたことは明らかになったものである。
なお、甲第8号証ないし甲第156号証には、「b.」の文字部分が単独で使用されている引用各商標及び請求人使用商標1の使用を示す雑誌記事等だけでなく、「b.」の文字と他の文字等を結合した請求人使用商標2ないし7等の商標が使用されている雑誌記事等も含まれている。
しかし、これらの雑誌記事等であっても、「b.」の文字部分が独立して我が国において周知・著名性を獲得していたことを示す証拠に十分なり得るものである。すなわち、請求人は、「agnes b.」商標の使用と併せて、「b.」単独で、又は「b.」と他の文字等を結合した請求人使用商標2ないし7等に示す態様で、一貫して「b.」の文字を使用している。請求人が「アニエスベー」関連ブランドで使用している商標は、請求人使用商標1ないし7のとおり複数存在し、それぞれ商標全体の態様は異なるものの、手書き風の筆記体で表した非常に特徴的な「b.」の文字は、それら複数の商標において、共通して、独立して認識し得る顕著な態様で長年にわたって使用され続けている。
したがって、甲第8号証ないし甲第156号証のうち、「b.」の文字単独での使用の事実を示す雑誌記事等のみならず、「b.」の文字と他の文字等を結合した請求人使用商標2ないし7等の商標の使用の事実を示す証拠によっても、「b.」の文字部分が、商標を構成する他の要素とは独立して認識し得る顕著な態様で、我が国において長年使用されている事実が十分に示されており、これらの証拠から「b.」の文字部分が独立して、請求人の業務に係る商品等を表示するものとして、本件商標の登録出願及び登録査定の時点において、我が国において周知・著名性を獲得していたことが十分伺えるものである。
イ 以上のとおり、「agnes b.」商標中の「b.」の文字部分のみが周知・著名性を獲得している事実を証する多数の証拠を追加提出している本件審判において、本件異議決定において「agnes b.」商標中の「b.」の文字部分のみの周知・著名性が認められなかったことを根拠に、被請求人による本件使用標章の使用に商標法第51条第1項に規定する「故意」は認められないとする被請求人の主張は、本件審判とは全く別の手続及び主張・証拠に基づいて行われた特許庁の過去の判断に基づいた主張であり失当である。
ウ なお、被請求人が本件使用標章の使用を開始した時点(遅くとも平成21年9月)において、既に引用各商標は、婦人服、雑貨、化粧品等、本件使用標章が使用されているサンダル等の履物類も含むファッションに関連する幅広い商品との関係で我が国の若い女性を中心とした需要者の間に広く認識された周知の商標であったのであり、請求人の「b.」商標の出願前に被請求人が本件使用標章の使用を開始したという被請求人主張の事実は、被請求人に故意が無かったことを証する事実とはなり得ない。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 結論
本件商標と被請求人使用の「b.」図形は、本件異議決定のとおり、「agnes b.」と請求人の「b.」図形が非類似であるのと同じく、外観、称呼、観念が異なり非類似の商標であるので、商標法第51条第1項に規定する登録商標と類似の商標の使用ではない。
したがって、被請求人は「OKA b.」商標の使用と共に「b.」図形を使用しているので、商標法第51条第1項に規定する「登録商標に類似する商標の使用」に該当しない。
また、本件異議決定のとおり、「agnes b.」の商標の「b.」図形は周知・著名とは認められないので、被請求人の「b.」図形の使用に商標法第51条第1項に規定する「故意」は認められない。
よって、被請求人の「b.」図形の使用は、商標法第51条第1項の要件を満たさないので本件審判請求は成り立たない。
また、請求人の平成20年(2008年)11月20日出願、平成22年2月26日登録の商標登録第5304112号「b.」図形は、先登録の本件商標の「b.」図形が存在しながら非類似の商標として登録されたものである。
2 理由
(1)商標法第51条第1項は、商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは登録商標を取り消す旨を規定している。
この規定は、商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用をして一般公衆を害したような場合についての制裁規定である。
ア 本条は指定商品、指定役務に使用している場合において、登録商標に類似する商標の使用についてのみ適用があり、たとえある程度登録商標との関連が認められていても、これと非類似の商標の使用についての適用はない。非類似の範囲についてはもはやその登録商標となんらの関係もなく、登録商標と関係づけられない商標の使用にまで干渉するいわれはないからである。
さすれば、被請求人が使用している「b.」図形は本件商標に類似する商標ではなく、全く別の商標であることは、次のとおり本件異議決定の理由からも容易に推察できる。
(ア)本件異議決定謄本(甲第161号証)第6頁(3)商標法第4条第1項第15号及び同第19号について、
「agnes b.」商標は、その構成中の「b.」の文字部分のみが独立して、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国で周知・著名性を獲得していたとする事実を認めるに足りる証拠の提出はない。そして、「agnes b.」商標は、本件商標とは、外観、称呼、及び観念のいずれの点においても互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
そうすると、本件商標は、これをその指定商品について使用した場合、その需要者をして、該商品が申立人又は申立人と営業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがある商標と認めることはできない。又、本件商標は、不正の目的をもって使用するものということもできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第19号に該当しないものと認める、との異議の決定がされた。
(イ)同異議決定謄本第8頁(エ)商標法第4条第1項第11号について
被請求人の本件「b.」図形と引用商標1ないし15とは、いずれも外観上著しく相違するのみならず、本件「b.」図形は、特定の称呼、観念を生ずるものではないから、引用商標1ないし15とは、称呼、観念において比較することができない。
してみれば、本件「b.」図形と引用商標1ないし15とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても互いに紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。その他、本件商標と引用商標1ないし15とが類似する商標とみるべき特段の理由は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しないものと認める、との異議の決定がされた。
イ 「agnes b.」商標と請求人の「b.」図形が外観、称呼、観念のいずれの点においても互いに紛れるおそれのない非類似の商標であるとの上記の異議決定の理由からも明らかなように、被請求人の「b.」図形は本件商標に類似する商標ではなく全く別の商標である。したがって、被請求人の「b.」図形は商標法第51条第1項にいう類似商標ではなく、「b.」図形の使用は、商標法第51条第1項に違反しない。
(2)商標法第51条第1項にいう「故意」について、
ア 「agnes b.」商標は、その構成中の「b.」の文字部分のみが独立して、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国で周知・著名性を獲得していたとする事実を認めるに足りる証拠の提出はない。そして、「agnes b.」商標は、本件商標とは、外観、称呼、及び観念のいずれの点においても互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきである、との本件異議決定(第6頁(3))から被請求人の「b.」図形の使用に故意は認められない。
イ 被請求人の「b.」図形の使用について、
(ア)被請求人はアメリカOKA b.社から「b.」図形を踵に付したサンダルを、平成20年(2008年)8月23日アメリカから発送し、2008年OKA b.サマーコレクションのカタログに掲載して広く営業活動を開始し、「b.」図形の使用を開始した。
被請求人がアメリカOKA b.社の「b.」図形を踵に付したサンダルを広告・販売した後に、アニエス・ベーは平成20年(2008年)11月20日付けで「b.」の図形商標を出願した。
そして、被請求人の「b.」図形はアニエス・ベー社の周知・著名商標であり不正競争防止法違反であると主張して、平成21年9月17日付けで被請求人に対し、アメリカOKA b.社から輸入した「b.」図形を鍾に付したサンダルの販売中止を要求した。
被請求人は、平成21年9月24日及び10月28日付けで、請求人が申立てた異議2009-900222(甲第161号証)の決定を待ちたいと回答した(甲第166号証の1及び甲第166号証の2)。平成22年2月15日付け異議2009-900222の異議の決定により、アニエス・ベーの「b.」図形は周知・著名ではないと確認された。
したがって、請求人の「b.」図形の出願前より使用を開始した被請求人の「b.」図形は広く顧客に周知させたので被請求人に故意はない。
(イ)また、被請求人に「故意」がないことは次の経緯からも明らかである。
被請求人は、アメリカOKA b.社のアメリカ合衆国の出願日2007年6月26日、登録商標第3,255,602号「OKA b.」の商標(乙第1号証)と「b.」の図形を踵に付したサンダルを日本において販売するために、アメリカOKA b.社の承諾を得て、平成20年(2008年)7月11日、日本に「OKA b.」の商標登録出願をした(甲第1号証)。
アメリカOKA b.社の「b.」の図形を踵に付したサンダルを、平成20年(2008年)7月25日付けでアメリカOKA b.社に発注し(乙第2号証)、平成20年(2008年)8月23日付け船荷証券に示すようにアメリカから日本に第1回分を輸入した(乙第3号証)。
オンライン・ショップ販売の準備のためにドメインネームを2008年7月2日に申込み、2008年7月3日に登録を完了した(乙第4号証)。
「OKA b.」社の「b.」図形を踵に付したサンダルを、2008年OKA b.サマーコレクション及びその価額表(乙第5号証及び乙第5号証の1)に基づき営業活動を開始した。
2008年9月29日付け、SENKEN h vol.87、スマートでコンフォートなサンダルが日本に上陸、OKA b.オカビー15頁の広告(甲第6号証)にて広く宣伝した。
2008年より打ち合わせを開始し、JAL World Shopping Club Midsummer 2009 No.159 真夏スベシャル号の23頁に、「OKA b.」ブランドと「b.」の図形を付した(オカビー)サンダル「マジソン」を7色掲載した(乙第6号証)。
盛夏臨時号2009カタログ有効期限2009年9月30日、ANNグループのGoodsForest第11頁に、「OKA b.」ブランドと「b.」の図形を付した(オカビー)サンダル「マジソン」を6色掲載した(乙第7号証)。
株式会社ムトウ発行のカタログ紙「アールデコ」RdECO2009 summerの表紙を飾る10色のサンダルを掲載した(乙第8号証)。
2009年6月19日(金曜日)発行、日経流通新聞の一面に「ビーサンと街に出よう」のタイトルで各色のサンダルが紹介された(乙第9号証)。

第5 当審の判断
1 商標法第51条第1項は、商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる旨定めている。すなわち、本規定は、登録商標と同一またはこれに類似する商標についてのみ適用があり、たとえある程度登録商標との関連が認められるものであっても、登録商標と非類似の商標については適用がない。
また、同項にいう「商標の使用であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには、使用に係る商標の具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との間で具体的に混同を生ずるおそれを有するものであることが必要というべきであり、そして、その混同を生ずるおそれの有無については、商標権者が使用する商標と引用する他人の商標との類似性の程度、当該他人の商標の周知著名性及び独創性の程度、商標権者が使用する商品等と当該他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである(知財高裁 平成21年(行ケ)第10183号判決)。
以上のような観点から、本件において、請求人が指摘する被請求人の商標の使用行為が、上記規定に該当するものであるか否かについて判断する。
2 本件商標と本件使用標章との類否について
(1)本件商標は、別掲(1)に示すとおり、茶色の「OKA」の文字と、その「A」の右下で一部に重なるように、筆記体で薄茶色の「b」を表し、その下部に赤色の「.」を配した標章からなるものである。そして、「b」の下部の赤色の「.」は、その配置からみて「b」と一体のもの(以下「本件b.」という。)として看取されるものというのが相当である。
そして、本件商標は、「OKA」と「本件b.」の書体、線の太さや色彩が異なるものの、両者がその一部を重ねてまとまりよく一体的に表されているものである。また、商標の構成文字(語)の一部を反転させたり、図案化させたり、あるいは色彩を変えたりして、それらを一の語として表わすことや通常の文字として称呼することが普通に行われている事情を考慮すれば、本件商標は、全体が一体不可分のものとして認識されるものと判断するのが相当である。さらに、本件商標は、その構成中「本件b.」が商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと、あるいは「本件b.」以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないものと認めるに足る事情は見いだせない。
そうとすれば、本件商標は、その構成中の「本件b.」の部分を抽出し他の商標と比較してそのものの類否を判断することは許されないというべきである。
したがって、本件商標は、その構成全体が一体不可分のものであって、その構成文字全体に相応し、親しまれた英語読み風に「オカビー」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じさせないものといわなければならない。
(2)他方、本件使用標章は、別掲(2)に示すとおり、縦長の楕円輪郭内に筆記体で「b」を表わし、その下部に「.」を配したものであるから、「b」の文字に相応して英語読み風に「ビー」と称呼され、特定の観念を生じないものというのが相当である。
また、本件使用標章は、その構成中「b.」の文字が商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものといえるものであって、該文字部分が独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当である。そして、該文字部分も上記と同様に「ビー」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものというべきである。
(3)本件商標と本件使用標章とは、両者の構成、態様から同一のものといえないこと明らかである。そこで、両者の類否について検討すると、両者は、外観においてはその構成、態様が明らかに相違し、称呼においては「オカビー」と「ビー」の称呼の比較において、語頭における「オカ」の有無という差異を有するから十分聴別し得るものである。さらに、観念においては比較し得ないものであるから、両者は、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても非類似のものというべきである。また、両者を同一又は類似の商品に使用しても、同一の事業者の製造販売に係る商品であるかのごとく、商品の出所について誤認混同されるおそれがあるものといえないものである。
また、本件商標と本件使用標章の構成中の「b.」の文字部分との比較においても、両者は上記と同様の理由によって非類似の商標といわなければならないものである。
したがって、本件使用標章は、本件商標に類似するものと認めることはできない。
(4)請求人は、本件商標のうち「本件b.」の部分が独立して自他商品の識別標識として機能するものである点は、現に被請求人が同人の取扱いに係る「サンダル」に、「b.」の部分を単独で自他商品の識別標識として使用している事実からも明らかである旨主張している。
しかしながら、本件商標は、その構成全体が一体不可分のものと認識されること上記のとおりであるし、また、ある文字を自他商品識別標識と使用していることと、商標の構成中に含まれる当該文字がその商標から独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得ることとは全く別の問題であるから、請求人の主張は採用できない。
(5)以上によれば、本件使用標章が本件商標と同一またはこれに類似するものとは認められないから、被請求人による本件使用標章の使用は、商標法第51条第1項の要件を欠くといわざるを得ないものである。
しかしながら、本件事案の性質にかんがみ、以下検討する。
3 本件商標の指定商品と本件使用標章が使用されている商品について
(1)本件商標の指定商品は、上記第1のとおり「靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」であり、他方、本件使用標章が使用されている商品は、「サンダル」であって、その使用は遅くとも2008年夏以降に開始され、2010年まで使用されたものと認め得るものである(乙第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第159号証)。
(2)本件使用標章が使用されている商品「サンダル」は、本件商標の指定商品中「靴類」の範ちゅうに含まれる商品であるから、本件商標の指定商品と同一又は類似の商品である。
4 混同のおそれの有無について
(1)本件使用標章と請求人使用商標1(引用各商標)との類似の程度について
本件使用標章は、上記2(2)のとおりの構成からなり、「ビー」の称呼を生じ、特定の観念を生じさせないものである。
他方、請求人使用商標1(引用各商標)は、別掲(3)の1に示すとおり、筆記体で欧文字「b」を表わし、その下部に「.」を配したものであって、該文字に相応して「ビー」の称呼を生じるほか、後述するように、これが請求人の業務に係る商品を表示するものとして、「べー」と称呼され、需要者の間で広く認識されているものと認められるものであることから、「べー」の称呼も生じるものというべきである。そして、本件商標は特定の観念を生じさせないものである。
そこで、本件使用標章の構成中「b.」の文字部分と請求人使用商標1を比較すると、両者は、外観において、子細にみれば前者が後者に比して縦長であること、色彩が施されていること等の差異を有するものの、いずれも、手書き風筆記体で表した「b」と、その右下にピリオドを配した基本的な構成を共通にしているものであり、両者の外観から受ける印象は極めて酷似したものであって、時と所を異にして観察したときには、外観上互いに紛らわしいものである。
また、両者は、称呼において「ビー」の称呼を共通にするものであり、観念においては特定の観念を生じないから、観念の違いによって明確に区別し得るものでもない。
そうとすれば、本件使用標章と請求人使用商標1とは、その外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、互いに類似のものというべきものであって、その類似性は高いといえる。
(2) 請求人使用商標1の周知著名性及び独創性の程度について
ア 筆記体で表された「agnes b.」から構成される請求人使用商標7は、請求人提出の証拠(甲第8号証ないし同第124号証)によって、「アニエスベー」の称呼とともに、本件商標の出願時及び登録査定時において請求人の商品を表示する商標として周知・著名なものとなっていたものと認められる(この点について被請求人は争っていない。)。
イ そして、前記周知・著名と認められる商標の構成の一部でもある請求人使用商標1については、本件使用標章の使用以前のものと認められる請求人提出の甲各号証によれば、次のとおりである。
(ア)雑誌「CanCam(1989年3月号)」には、ステータスブランド「アニエスb.」として、婦人服、カーディガン、靴下、シューズ、ベルト等各種商品が掲載され、「“b.ボタン“と“1番ボタン“」として、「新作カーデガンの第1ボタンだけを“b.ボタン“にしたり」との記載があり、請求人使用商標1が表されたボタンの写真が掲載された(甲第17号証)。
(イ)雑誌「SPUR」(1990年10月号)」には、「アニエス b.」特集の中で、請求人使用商標7が付された商品と共に、請求人使用商標2が付された香水が掲載され、また、口紅のキャップの上部に請求人使用商標1が表された写真が掲載され、その下に「トップにb.のロゴが入っただけ。」との記載がある(甲第18号証)。
(ウ)「MEN’S NON-NO」(1992年4月号)」には、「アニエスb.オムのすべて」として、帽子、靴等が掲載され、その中には文字盤に請求人使用商標1が表示された腕時計、請求人使用商標2が付された香水がある(甲第28号証)。
(エ)「日経トレンディ」(1992年12月号)」には、「アニエスb.」の商品として、胸部に請求人使用商標5が付されたシャツが掲載された(甲第35号証)。
(オ)雑誌「non-no」(1993年)」には、「non-no創刊22周年記念企画」の中で、プレゼント対象品として、請求人使用商標5が付されたリックやショルダーバッグが掲載された(甲第37号証)。
(カ)雑誌「SPUR」(1996年3月号)」には、「アニエスb.’96の新しいナチュラル」として、胸部に請求人使用商標1が表示されたTシャツ、及び円輪郭内に「b.」を配した形状の金属のタグが付されたコインケースが掲載された(甲第51号証)。
(キ)雑誌「MORE」(1996年5月号)」には、請求人使用商標3が付されたシュガーポットやカップが、請求人使用商標7が付された商品とともに紹介され(甲第53号証)、また、雑誌「mcSister(1996年6月号)」(甲第54号証)及び雑誌「an an(1997年4月号)」(甲第64号証)にも、上記シュガーポットやカップと同様の商品が掲載された。
(ク)雑誌「SEVENTEEN」(1997年2月号)」には、「女子高生のブランド時計大調査」の中で、「やっぱり大好き!!アニエス ベー」と題して、「ST読者の人気時計ランキングでもダントツ1位のagnes b.。」の記載があり、文字盤に請求人使用商標1及び請求人使用商標4を表示した目覚まし時計の写真が掲載された(甲第63号証)。
(ケ)雑誌「non-no」(1997年10月号)」には、請求人使用商標1を付したプチバッグの写真が掲載された(甲第69号証)。
(コ)「株式会社ニコン」のホームページには、2002年9月10日付けプレスリリースに、「agnes b.とニコンのコラボレーションによる『ニコン U』の限定モデル」として、一眼レフカメラ「b.Nikon」を発売する旨の記事と、ボデイ上部に請求人使用商標1を表したカメラの写真が掲載され(甲第90号証)、また、2002年9月11日付け日本経済新聞には、上記カメラについて「アニエスbの一眼レフ」として、「若い女性を中心に人気のブランド『アニエス・ベー』との共同企画」である旨の記事が掲載された(甲第91号証)。
(サ)「AllAbout for F」と称するウェブページには、掲載日2007年7月17日の記事に、請求人使用商標1または請求人使用商標5が表示されたキーホルダーの写真が掲載され、その下に「アニエスベーを象徴するロゴb.が施された・・キーホルダー」と紹介され、さらに「アニエスベーを代表するb.のアルファベットが中央に大きく刻印され、・・・」との説明が記載されている(甲第152号証)。
(シ)「livedoor Blog」と称するウエブページの2008年8月11日付けのブログ記事に、「有名なアニエスベーのロゴマークといえばbの筆記体の文字です・・・」との記述がある(甲第154号証)。
ウ 上記イによれば、請求人使用商標1は、前記著名な商標(請求人使用商標7)の構成の一部をなすばかりでなく、単独で、あるいは、他の文字等が付加されてはいるが請求人使用商標1の部分が商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える態様で継続的に使用された結果、「agnes b.」(アニエスベー)を象徴するロゴマークとしての位置付けを確立し、遅くとも本件使用標章の使用時には、請求人の業務に係る商品を表示する商標として、「べー」と称呼され、需要者の間で広く認識されるに至っており、その認識は本件審判請求時においても継続していたと判断するのが相当である。
なお、被請求人は、請求人使用商標1(引用各商標)について、本件異議決定においては周知性が認められなかった旨主張しているが、上記の判断は本件審判において提出された証拠に基づいて判断したのであるから、本件と証拠を異にする本件異議決定における判断によって、上記判断が左右されるものではない。
エ また、請求人使用商標1は、筆記体「b」のみからなるものでなく、それに「.」を配した構成において独創性があるといい得るものである。
(3)本件使用標章の使用に係る商品と請求人使用商標1の使用に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情について
本件使用標章は履物の一種である「サンダル」に使用され、請求人使用商標1は上記(2)イのとおり、被服、口紅、時計、袋物、キーホルダー等の商品に使用されている。
そして、これらの商品は、いずれもファッション関連商品であって、需要者も共通にするものといえる。
(4)上記(1)ないし(3)を総合してみると、被請求人による本件使用標章の使用は、請求人の業務に係る商品と混同を生じさせるおそれがある行為といわざるを得ないものである。
5 故意について
(1)商標法第51条第1項に規定する「故意」とは、当該商標を使用するにあたり、その使用の結果、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り、必ずしも他人の登録商標又は周知商標に近似させたいとの意図をもってこれを使用していたことまでを必要としないと解される(最高裁判所昭和55年(行ツ)第139号、昭和56年2月24日第三小法廷判決)。
(2)本件において、請求人使用商標1は請求人の業務に係る商品を表示するものとしてサンダルの需要者を含む需要者の間で広く認識されていたこと、被請求人が現に商品サンダルを販売する事業者であること、及び本件使用標章は請求人使用商標1との間で商品の出所について混同を生じさせるおそれがあることは、いずれも上記のとおりである。
しかしながら、被請求人は、本件使用標章を本件商標の設定登録以前から使用していたと認められる(乙第5号証)ことから、使用開始時においてみれば、本件使用標章が登録商標(本件商標)の構成態様を変更して使用したものということはできず、被請求人が、本件使用標章の使用により請求人の業務に係る商品と混同を生じさせるおそれのあることを認識していたと認めることはできないというべきである。そして、これを覆すに足る理由、証拠は見いだせない。
また、被請求人は、請求人からの通知(甲第165号証)を受領した以降においても、従前からの使用態様で本件使用標章の使用を継続していたとみるのが相当である。
したがって、被請求人による本件使用標章の使用について、商標法第51条第1項所定の「故意」を認めることはできないといわなければならない。
(3)なお、被請求人は、引用各商標の出願前から本件使用標章の使用を開始し広く顧客に周知させた旨主張しているが、本件使用標章の使用が、引用各商標の出願日前から開始されたことは認められる(乙第5号証)ものの、被請求人提出の全証拠(乙第1号証ないし乙第9号証)によっては、本件使用標章が、請求人使用商標1と明確に区別され得るほどに、被請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間で周知なものとなっていると認めることはできないから、被請求人の上記主張は採用できない。
6 結語
以上のとおり、本件使用標章は、本件商標と同一又は類似するものとはいえず、また、被請求人(商標権者)による本件使用標章の使用は、故意に他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたと認めることはできない。
したがって、被請求人による本件使用標章の使用は、商標法第51条第1項の要件を欠くものというべきであるから、本件商標の登録は、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標

(色彩は原本参照)

(2)本件使用標章

(色彩は原本参照)

(3)の1(引用各商標、請求人使用商標1)


(3)の2(請求人使用商標2)


(3)の3(請求人使用商標3)

(色彩は原本参照)

(3)の4(請求人使用商標4)


(3)の5(請求人使用商標5)


(3)の6(請求人使用商標6)


(3)の7(請求人使用商標7)




審理終結日 2011-07-06 
結審通知日 2011-07-08 
審決日 2011-07-20 
出願番号 商願2008-56768(T2008-56768) 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (X25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅沼 結香子金子 尚人 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 小畑 恵一
瀧本 佐代子
登録日 2009-03-13 
登録番号 商標登録第5214180号(T5214180) 
商標の称呼 オカビー、オカビイ、オカ、オオケイエイ 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 若林 拡 
代理人 宮川 美津子 
代理人 太田 雅苗子 
代理人 田中 克郎 

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