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審決分類 審判 全部取消 商53条使用権者の不正使用による取消し 無効としない 042
管理番号 1243252 
審判番号 取消2009-300987 
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2009-09-01 
確定日 2011-09-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第3303268号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3303268号商標(以下「本件商標」という。)は、「NTT」の欧文字を書してなり、平成4年7月31日登録出願、第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として、同9年5月9日に設定登録され、その後、商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「商標法第53条の規定により本件商標の登録を取り消す。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし第19号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)不正使用の事実
本件商標は、その指定役務について、本件商標の通常使用権者であると推認される株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズによって使用されたが、広告等において役務の質に関する記載に偽りがあり、その結果、需要者に役務の質の誤認を生じさせた。
以下、本件商標の通常使用権者による不正使用の事実を証拠に基づき明らかにする。
(2)通常使用権者による本件商標の使用について
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下「参加人A」という。)は、被請求人の内部組織であったデータ通信事業本部を前身とし、被請求人から分離独立した後、平成10年8月1日に現在の商号に社名変更された(甲第3号証)。したがって、被請求人の内部組織を前身とし、かつ商号に「エヌ・ティ・ティ」を含むことから、参加人Aは本件商標の事実上の通常使用権者であると推認される。
また、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ(以下「参加人B」という。)は、参加人Aの資本参加により平成17年1月に設立された(甲第4号証)。したがって、参加人Aが資本参加し、かつ商号に「エヌ・ティ・ティ」を含むことから、参加人Bは本件商標の事実上の通常使用権者であると推認される。
参加人Bは、甲第4号証のウェブページ左上部分に「NTT」、「Data」を2段に表示する文字と全体が三角形状になるように配した10個の白点からなる商標(以下「結合標章」という。)を表示し、また、参加人Bの作業員の名刺(甲第16号証の1ないし12)にも同様の結合標章を表示しており、参加人Bが本件商標の指定役務について本件商標を使用していることは明らかである。
(3)参加人A及びBが広告する役務の質
参加人A及びBは、本件商標の指定役務に含まれる第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」(以下「本件役務」という。)に関して、役務の質を需要者に伝達する目的で甲第5号証ないし第7号証の広告等を実施した。
ア 甲第5号証は、平成21年1月27日時点において参加人Aのウェブページに公開されている情報に基づいた報告書である。甲第5号証によると、本件商標に基づいて提供される参加人Aのサービスは、少なくとも以下の8つの取り組みを含むものである。
(ア)全体最適の視点でプロジェクトを管理するための取り組み
(イ)システム開発プロセスを標準化し生産性を高める取り組み
(ウ)ご要望を正確に把握し品質設計を向上させる取り組み
(エ)高品質で低価格を目指す海外でのソフト開発への取組み
(オ)工期短縮と品質向上を目指す試験プロセス改善への取り組み
(カ)CMMI(Capability Maturity Model Integration)によるプロセス改善活動への取り組み
(キ)システムの品質向上への取り組み
(ク)日本のソフトウェア産業の国際競争力向上に向けた取り組み
イ 甲第6号証は、平成20年1月に日刊工業新聞社より出版された書籍(「ひと目でわかる! 図解NTTデータ」)の78頁ないし88頁の写しである。この書籍は、本件商標をタイトルに含み、かつ参加人Aの社員のコメントが記載されていることから、この出版にあたって参加人Aの許諾及び関与があったことは明らかである。甲第6号証によると、本件商標に基づいて提供される参加人Aのサービスは、少なくとも以下の6つの特徴を備えるものである。
(ア)システム開発 「極めつけの一品」を提供するモノづくり
施主である顧客が満足する“極め付けの一品”を提供する。
(イ)企画・要件定義 システムのグランドデザイン
IT(Information Technology)戦略の立案、システム戦略の策定、業務プロセスの分析を行う。
(ウ)設計 発注者にとって「見える」「わかる」設計へ
発注者と開発者双方が理解できる設計書づくりが大切。
(エ)製造・試験 徹底した試験により、品質を確保
ありとあらゆる事態を想定し、システムを試していく。
(オ)運用保全 完成したシステムをチェックし、見守る
ユーザーの要求通りにシステムが問題なく運用されているか、また問題があればそれを解決するにはどうするか、そのためにはどういったメンテナンスが必要かまで手がけている。
(カ)品質マネジメント どんな小さなバグも見逃さない
さまざまな施策を通じて、品質へのこだわりを徹底している。
ウ 甲第7号証(NTTデータグループ「CSR報告書2006」)は、平成18年12月22日に参加人Aのウェブページに公開された同名の報告書である。この報告書の第44頁によると、参加人Aの「主な連結子会社」には参加人Bが含まれている。また、この報告書によると、本件商標に基づいて提供される参加人A及びBのサービスは、少なくとも以下の企業理念等に基づくものである。
(ア)企業理念[NTTデータグループの使命]より
NTTデータグループは、情報技術で、新しい「しくみ」や「価値」を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する。
(イ)グループビジョン[10年後に目指す姿]より
「生活者起点」宣言/常にシステムやサービスを使う人の発想から、新しいコンセプトを生み出し、お客様に最適な提案を行っていきます。
(ウ)NTTデータグループ倫理綱領(企業倫理に関する基本姿勢/役員・社員の行動指針)より
原則 信頼される企業グループを目指します
・情報システムやサービスの開発・提供を通じて豊かな社会生活を実現する。
・法令・契約を遵守するとともに、社会的良識に基づき行動する。
・企業の社会的責任を自覚し、公正透明な事業活動を行う。お客様に対して品質の高いサービスを提供します。
・創造性のある情報システムやサービスの開発・提供に努める。
・お客様の情報について、契約・個人情報保護法等に基づく管理を徹底する。
(4)参加人Bが請求人に対して提供した役務の質
参加人Bは、請求人に対して、平成19年6月1日以降、本件役務を提供した(請求人と参加人Bとの「国内出願業務支援システム開発第1段階(サーバ開発)」に関する個別契約書:甲第8号証)。
以下、参加人Bが請求人に対して提供した本件役務の質について、各証拠に基づいて説明する。
ア 甲第9号証の1は、平成19年12月25日に、請求人の事実上の従業員NBが参加人Bの代表取締役社長NS(以下「社長NS」という。)に発信した電子メールの写しである。甲第9号証の1によると、本件商標に基づいて参加人Bが請求人に対して実際に提供した本件役務は、少なくとも以下の(ア)ないし(オ)の不都合を含んでいた。
(ア)本件役務を通じて参加人Bが開発したシステム(以下「本件システム」という。)は、各特許案件の「最終処分」が登録できないため、「特許査定」、「みなし取下」、「出願中止」等のステータスが把握できず、案件管理上大変な不都合があった。より具体的には、本件システムにおいて、「最終処分」は特許出願等の案件の恒久的なステータス変更を意味し、これなくしては上記のような出願から特許登録或いは取下、中止といったライフサイクルの管理が完結できず、システム全体としては致命的な仕様上の欠陥と認められるものである。
(イ)本件システムは、「国内優先権主張出願」や「分割出願」等の親子関係が登録できないため、基礎出願等を不完全にしか検索することができず、これも案件管理上致命的な問題であった。より具体的には、本件システムにおいて、特許出願等は一群の出願案件グループをなすことがあり、これを一体的に検索し把握することは請求人の基本的なニーズである。
(ウ)本件システムは、「現地代理人」等が登録できないため「外内」案件が管理できない、また「19条補正」等が保持できないため「PCT」案件が管理できない、という問題があった。ここで、本件システムにおいて「現地代理人」は外国の出願人による日本国における特許出願等を管理する「外内」案件において「依頼者」「顧客」に相当し、料金を請求する相手方を示す基本的な項目である。この項目なくして「外内」案件を全く管理できないことは明白である。
また、本件システムにおいて「19条補正」は国際出願を管理する「PCT」案件において条文上規定された出願人がなすことが出来る手続項目である。この項目なくして「PCT」案件を全く管理できないことは明白である。
なお、上記(ア)ないし(ウ)の各機能は、従来から請求人が使用しており、本件システムの開発の仕様設計の参考として参加人Bが把握していたシステムにも当然備えられている基本機能である。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)でも述べたとおり、このような本件システムが当然備えておくべき基本機能については、コスモテック特許情報システム株式会社が製造し、従来から請求人が当該業務に使用し、参加人Bが少なくともシステム設計時においてその存在を知り得ていたソフトウェアである「PatData World Version」(以下「PDW」という。)の仕様から容易に確認可能であるにも関わらず欠落しており、そもそも本件役務における最も基本的な工程である業務要件定義の段階で欠陥が存在していたことになる。
(オ)参加人Bの従業員であるI(以下「従業員I」という。)は、平成19年11月29日及び同年12月13日に実施した本件システムの使用に係る説明会において、本件システムを利用した業務フローについて適切に説明することができず、甲第6及び第7号証に示された参加人Aが提供する役務の質とは明らかに異なる印象を請求人に対して与えていたことが甲第9号証の1からも認められる。
ここで、甲第9号証の1における「業務フロー」とは、甲第6号証における「業務プロセス」と同義であると考えられる。さらに、甲第6号証では、「業務プロセス」について次のように記載されている。「業務プロセスとは、顧客が今回システム化しようと検討している業務と、その流れのことであり、それがどのように遂行されているかをしっかり見極めるのだ。もし、この上流工程であいまいな部分を残していたり、実態に合わない前提があると、矛盾が発生し、開発工程で再び設計からやり直す『手戻り』が起こる。」。
現実に、本件システムの開発において、この「矛盾」が発生していたために、参加人Bの従業員Iは説明会において「業務フロー」について適切に説明することができず、その結果、次に述べるとおり、この「手戻り」が発生することになる。
甲第9号証の2は、同号証の1の電子メールに対し、平成19年12月25日に参加人Bの社長NSが返信した電子メールの写しである。
甲第9号証の2によると、同号証の1に示された電子メールに対する返答として、「お詫び」の言葉があることから、同号証の1の電子メールが社長NSに送達されたことが裏付けられ、また、社長NSは「至急最終製品に対して不完全な部分を調査し対策を立てるよう指示」をしたとのことであった。その後、実際に調査が行われた結果、参加人Bは請求人に追加費用を請求することなく本件役務を仕切り直すという対策を講じることとなった。この事実から、参加人Bが甲第9号証の1に記載の請求人の主張を認めたことが裏付けられる。
したがって、本件商標に基づいて参加人Bが請求人に対して実際に提供した本件役務は、少なくとも以下の4点で広告等とは異なっていた。
1)ご要望を正確に把握し品質設計を向上させる取り組み(甲第5号証)の欠如
2)施主である顧客が満足する“極め付けの一品”(甲第6号証)を提供できていない
3)IT戦略の立案、システム戦略の策定、業務プロセスの分析(甲第6号証)が極めて不十分
4)発注者と開発者双方が理解できる設計書づくり(甲第6号証)に失敗している
イ 甲第10号証の1ないし5は、平成20年2月13日に参加人Bの社員Yが請求人の事実上の従業員NBに送信した電子メール及びその添付書類である。甲第10号証の1ないし5によると、請求人が求めるシステムを開発するためには、ステップ1ないし4の工程を要し、これらの工程を実施するためには、総額で約1億円の工費と2年間以上の工期を要するとのことである。このような全体計画に係る提案書は、仕切り直し前には参加人Bから請求人に対して一切提示されず、請求人の強い要望により初めて作成されたものであった。したがって、この事実から、本件商標に基づいて参加人Bが請求人に対して実際に提供した本件役務の質は、少なくとも以下の6点で広告等とは異なっていた。
1)全体最適の視点でプロジェクトを管理するための取り組み(甲第5号証)の欠如
2)ご要望を正確に把握し品質設計を向上させる取り組み(甲第5号証)の欠如
3)施主である顧客が満足する“極め付けの一品”(甲第6号証)を提供できていない
4)IT戦略の立案、システム戦略の策定、業務プロセスの分析(甲第6号証)が極めて不十分
5)常にシステムやサービスを使う人の発想から、新しいコンセプトを生み出し、お客様に最適な提案(甲第7号証)を行っていない
6)創造性のある情報システムやサービスの開発・提供(甲第7号証)に努めていない
ウ 甲第11号証は、本件商標に基づいて参加人Bが請求人に対して実際に提供した本件役務のうち、平成20年6月に実施された、システムの本番稼動前の本番データ移行支援等に係る役務の報告書である。甲第11号証によると、本件商標に基づいて参加人Bが請求人に対して実際に提供した本件役務は、少なくとも以下の(ア)ないし(エ)の不都合を含んでいた。
なお、ここにおいて、「本番データ移行」とは開発した本件システムを実際に稼動させるために最終工程である。具体的には、従来から請求人が当該業務に使用していたPDWの業務データを本件システムにコピーし、従来と矛盾することなく業務を継続させるための準備作業のことである。
(ア)「本番データ移行」の準備に係る工数見積が大幅に過小であり、想定外に多大な工数を割いた結果、重要な「本番データ移行」に余裕を持って望むことができなかった。
具体的には、以下のとおりである。当初、参加人Bは、請求人に対して、平成20年6月14日の本番データ移行日当日(以下「移行日」という。)に、「本番データ移行」の前提である「本番環境構築」を実施し、引き続き「本番データ移行」を実施することを提案していた。
例えていえば、「本番データ移行」は家畜を旧い畜舎から新しい畜舎に移動させる作業であり、「本番環境構築」は新しい畜舎の受入準備を整える作業である。すなわち、参加人Bは、請求人に対して、受入準備作業と移動作業の両者を移行目に実施することを提案していた。
しかしながら、この移動作業予定日の数日前になっても、参加人Bによるこれらの一連の作業の段取りに関する説明が要領を得ず、請求人から提起された質問に対する回答にも長時間を要することが多くあったため、請求人として無事に移動作業が完了できるのか、移動作業後も、業務を引き続き継続することが出来るのか、不安にならざるを得ない状況に追い込まれた。
本件システムの開発において、最も重要なイベントのひとつであるこの移動作業を直前に控え、参加人Bからの適切な指示やアドバイスが受けられず、このような極限状態に追い込まれた請求人は、「本番データ移行」を確実に実行するために「本番環境構築」を移行日前日までに完了しておくことを決断した。
その結果、この「本番環境構築」には請求人の従業員2人がそれぞれ7時間以上のべ14時間以上の作業時間を要した。すなわち、仮に参加人Bの提案に従って、移行日に「本番環境構築」を実施していた場合、移行日には「本番データ移行」は完了しておらず、作業の完了が出来ないばかりか、翌日以降の業務の遂行が不可能になるおそれが生じていたことは明白である。このように、最も重要なイベントの前日に、請求人は、参加人Bの役務の質が広告でうたわれているレベルからはるかに低いレベルであることを知るに至るのである。
(イ)本番データ移行を失敗した場合の切り戻し計画を作業当日まで全く考慮しておらず、注意喚起することもなかった。
ここで、「切り戻し」とは「本番データ移行」が失敗した場合に、本件システムを業務に使用することを中止して、従来のPDWで当該業務が実施できる状態に戻すことを意味する。当該業務は請求人の主要業務であり、当該業務が実施できない場合、請求人は多大な経済的損失を被るため、「切り戻し」の検討及びその支援は本件役務において極めて重要であった。
しかしながら、実際には、「本番データ移行」の当日まで参加人Bから請求人に対してこの「切り戻し」に関する説明及び注意喚起は一切無かっかために、不安を覚えた請求人が参加人Bの従業員Iに尋ねたところ、その検討がなされていなかったことが判明した。そして、「本番データ移行」の当日になって、この重要な項目に関する検討を実施することになった。この事実も、参加人Bが提供すべき役務の質が広告されたレベルからかけ離れて低いものであったことを示していることはいうまでもない。
甲第6号証の記載によると、「システムづくりの成功の鍵は、顧客とのコミュニケーションである。コミュニケーションを十分に取れないと、品質悪化や作業のやり直しの原因になる。」とある。また、同じく甲第6号証の記載によると、「情報システムはNTTデータのようなSIerに任せればうまくいくというものではなく、発注者である顧客と受注するNTTデータとで協力して初めて、成功する難事業なのだ。」とある。
すなわち、「情報システムづくり」においては、顧客との「コミュニケーション」及び顧客の「協力」が重要であり、この「難事業」を成功させるためには、情報システムづくりの専門家として、受注者側による顧客のコントロール及び作業に対する注意義務が発生することが見て取れる。
したがって、上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、「本番データ移行」の段取り説明や請求人の質問への回答が出来ず、「切り戻し」に関する説明及び注意喚起が一切無かった事実は、上記広告のとおり参加人Bが本件役務の提供者として当然有しているべき注意義務を欠いていたことを裏付けている。
(ウ)請求人が細かく指摘しないと、自らは何もしないという姿勢が終始見られ、請求人に示唆を与えるという行為や姿勢が残念ながら殆どなかった。
上記のような姿勢は枚挙にいとまが無く、例えば移行日より更に前のテストの工程においても、本来は参加人Bによる本件役務に含まれるところのテストシナリオの作成やテスト環境構築手順において、実質的に請求人がその作業を代行する局面も多々あった。一例を挙げると、甲第10号証の2に示すとおり、第21頁に記載の作業項目「システムテスト項目の抽出」及び「システムテスト計画書の作成」は、参加人Bの担当業務であり、請求人は作業内容のチェックを行う役割分担となっている。
しかしながら、実際には、参加人Bの従業員Iは予定の期日になっても当該作業はいっこうに行わず、また、そのためのヒアリングを行うこともなかった。こうした状況に不安を覚えた請求人の事実上の従業員NBは、その作業を肩代わりして、「システムテスト項目の抽出」を自ら行い、「システムテスト計画書」を自ら作成せざるを得ない状況に追い込まれているのである。
これらの事実は、平成20年3月14日に上記「システムテスト項目の抽出」及び「システムテスト計画書の作成」を行なった成果物を含む「システムテスト計画」(甲第12号証の1)及び、請求人が参加人Bに同システムテスト計画を添付ファイルとして参加人Bに送付した電子メール(甲第12号証の2)により明確に示されている。
この例に示すとおり、参加人Bは、自らの分担として提案した業務すら行なうことがなく、顧客である請求人にその作業を肩代わりさせているのである。このように、参加人Bが請求人に対して提供した役務の質は、広告されたレベルに比べて著しく低いと認められるばかりか、それ以前に、当然に提供すべき役務の一部を提供していないのである。
(エ)参加人Bの管理者は部下の作業内容を把握しておらず、システムの重要な仕様についてプロジェクトのメンバーの認識が相違し、さらに、このような事情を請求人に晒して請求人にシステムの品質について疑念を抱かせた。
具体的には、移行日に次のような事象が発生した。従業員Iは、本件システムに含まれる「本番データ移行機能」について、まさに当該機能を使用して本番データ移行を実行している最中に、「当該機能を使用すると移行元のPDWのデータが元の状態では無くなる」旨の発言を行った。この発言内容は、移行元のPDWのデータは元の状態のままであるとしていた従業員Iの上司である社員Yの認識とは異なるものであった。この発言が正しければ、直前に検討した「切り戻し」プラン及びひいては請求人が本件システムを受入れるために実施してきた膨大なテストの信憑性を揺らがせることになるため、社員Yは、この従業員Iの発言を受けて、大変驚いて従業員Iに発言の真意を質したが、それに対して従業員Iからは満足な説明をすることができなかった。
このように、請求人は、参加人Bの本件システムに関する理解の程度の低さと担当者間のコミュニケーションの欠落とから、本件システムの品質及び本件役務の質が広告されたレベルに対してはるかに低いものであることを認識するに至った。
すなわち、本件商標に基づいて参加人Bが請求人に対して実際に提供した本件役務は、少なくとも以下の7点て広告等とは異なっていた。
1)全体最適の視点でプロジェクトを管理するための取り組み(甲第5号証)の欠如
2)施主である顧客が満足する“極め付けの一品”(甲第6号証)を提供できていない
3)発注者と開発者双方が理解できる設計書づくり(甲第6号証)に失敗している
4)ユーザーの要求通りにシステムが問題なく運用されているか、また問題があればそれを解決するにはどうするか、そのためにはどういったメンテナンスが必要か(甲第6号証)まで手がけていない
5)さまざまな施策を通じて、品質へのこだわりを徹底(甲第7号証)していない
6)法令・契約を遵守するとともに社会的良識に基づき行動(甲第7号証)していない
7)創造性のある情報システムやサービスの開発・提供(甲第7号証)に努めていない
エ 甲第13号証の1及び2は、平成20年4月25日の本件システム納品後に、請求人が発見した本件システムに係る障害記録である。本件システムには、極めて次元の低いシステムログに係る障害や、考慮が足りないことに起因する障害が散見される。
ここで、ログとは、「コンピュータの利用状況やデータ通信の記録を取ること。また、その記録。操作やデータの送受信が行われた日時と、行われた操作の内容や送受信されたデータの中身などが記録される。」であり、本件システムのような業務システムは、日時データを含むこのような記録を残すことが常識的に行なわれている。
しかしながら、参加人Bが作成したシステムにおいて出力されるシステムログは、「時刻」は記録されるものの、「日付」が出力されないものがあり、上述のログの必須の要件を欠いていることは明白である。
更に、参加人Bが作成したシステムにおいては、何らのメッセージも残さずにシステムダウン(コンピュータシステムが予期せず動作停止状態になること。狭義には、アプリケーションソフトやOSが異常終了すること。)を引き起こす不具合が発見されている。本件システムにおいては特定のボタンを複数回押すなどの単純な操作でシステムダウンが発生する。
一例を挙げると、甲第13号証の1に記載のとおり、本件システムの「業務期限タブ」において、「業務区分」を複数回選択するという単純な操作により、このシステムダウンは発生する。また、甲第13号証の2において、項目番号第26番に記載のとおり、「マスタ管理」において、「進捗ステータスマスタで、新規行の『削除』をチェックしてからチェックをはずす」という単純な操作を行なうと、復旧不能なシステムダウンが発生する。
ここで、システムダウンする場合であっても、一般には利用者に対してシステムダウンの原因に関する情報を提供するメッセージを残し、利用者の利便性に資する設計を行うことが多いが、本件システムにおいてはそのような配慮がほとんど見られず、ログを出力しない。このため、システムダウンの原因を早期に特定し、早期にシステムを復旧するための手がかりが何もなく、業務停止の期間が長期間に及ぶことになることは明白である。
他方、参加人Aは、甲第7号証において、実際に銀行におけるATMシステムを開発した実績を広告しているため、需要者に対して参加人Aはシステムダウンに対する配慮があるシステムを開発する事業者であると誤認させているといえる。
したがって、本件商標に基づいて参加人Bが請求人に対して実際に提供した本件役務は、少なくとも以下の7点で広告等とは異なっていた。
1)システム開発プロセスを標準化し生産性を高める取り組み(甲第5号証)の欠如
2)工期短縮と品質向上を目指す試験プロセス改善への取り組み(甲第5号証)の欠如
3)CMMIによるプロセス改善活動への取り組み(甲第5号証)の欠如
4)システムの品質向上への取り組み(甲第5号証)の欠如
5)施主である顧客が満足する“極め付けの一品”(甲第6号証)を提供できていない
6)ありとあらゆる自体を想定し、システムを試して(甲第6号証)いない
7)さまざまな施策を通じて、品質へのこだわりを徹底(甲第6号証)していない
オ 甲第14号証は、上述の参加人Bとの間における個別契約書に係る役務の対価の支払いに関して、平成21年3月12日に行われた請求人との話し合いにおける使用権者(審判(注):単に「使用権者」となっているが、「参加人B」か「参加人A」か、それとも「両者」を指しているか明らかでないので、このまま「使用権者」とする。以下同じ。)の代理人弁護士であるMN(以下「弁護士MN」という。)の発言の録音のディクテーションである。甲第14号証に記録されているように、請求人が、使用権者が平成20年6月14日に納品した納品物(以下「6月14日版」という。)について、重大な欠陥の存在を指摘したところ、弁護士MNは「請求人が指摘した7つの欠陥のうち、5つは、6月14日版の納品の後に行われた社内テストで確認されており、少なくとも同年6月24日には改修を終えていたもの(以下「6月24日版」という。)の、その後、請求人の態度が硬化したため単に納品の機会を逸していたものである旨発言している。
その一方で、上述の話し合いにも同席した使用権者の取締役SHを含めた使用権者の役員及び従業員並びにその代理人弁護士MNは、平成20年10月24日から平成21年1月19日にかけて断続的(合計4回)に実施された請求人及びその代理人弁護士NY(以下「弁護士NY」という。)との間の話し合いの席で、使用権者が納品した納品物(6月14日版を指している)には重大な欠陥は存在せず、かつ請求人は検収をしたのであるから、直ちにその対価としての金員を払うべきである旨、一貫して要求し続けている。即ち、少なくとも最初の話し合いである平成21年1月19日に実施された話し合いのはるか以前の少なくとも平成20年6月24日までには社内で重大な欠陥を含む5つの欠陥を自ら確認してその改修を終えていたにもかかわらず、その後少なくとも平成21年3月12日までの約9月間に渡り、6月24日版が存在した事実を隠し続けたうえで、請求人に対して、重大な欠陥があるというなら指摘するように主張していたのである。
このように、参加人Bは、請求人との一連の話し合いの中で交渉を有利に進める、という図利加害目的を持って自ら確認済みの納品物の欠陥に関する重要な事実を隠蔽する一方で納品物に重大な欠陥は存在しないという虚偽の事実を主張し続け、請求人に不当な支払いを強要せんとしたことは明らかであることが、参加人Bを代表して、代理人弁護士MNの自白によって明らかになったのである。
上述した参加人Bの態度は甲第7号証に示された参加人Bの役務の質と明らかに異なるものである。即ち、具体的には、基本姿勢としている「お客様本位」を否定し、「お客様の価値を向上させるシステムを提供」するという記載を信じた請求人からの苦情やクレームに虚偽の事実を主張することで反論している。
これら一連の使用権者の態度は、本件商標を信用したお客様の期待を裏切り、「お客様満足度No1」の企業を目指すどころか、不当な支払いを要求するに及んでいるのである。
カ 甲第15号証は、取消2009-300343号事件における審判事件答弁書である。
当該事件においても、使用権者に対する本件の商標権者の監督責任が問題となっており、本件の参加人Bによる品質劣悪なサービスが基礎となっており、本件の参加人Bが「補助参加人」として参加申請をしており、本件の代理人である弁護士MNが代理人となっている。当該答弁書において、当該事件の被請求人は、「補助参加人2を含め、補助参加人1のグループ全体では、毎年、顧客からの依頼に応じて、膨大な数のソフトウェア(プログラム)が作成されているところ、請求人は、その中のわずか1例について種々主張しているというものにすぎない。」と主張しているという事実がある。上記主張中、「補助参加人1」は本件の参加人Aであり、「補助参加人2」は本件の参加人Bである。
このような主張をしている事実自体、被請求人が使用権者に対する監督責任を果たしていない証左である。上記主張には、「参加人Aのグループ全体では問題のないソフトウェアを提供しているのであるから、参加人Bだけが劣悪なソフトウェアを提供しても全体として問題がない」という趣旨、及び、「膨大な数のソフトウェアを提供しているのだから1つくらい劣悪なものがあっても当然」という趣旨を内在していることは明らかである。このため、上記主張がなされた事実は、被請求人が、グループ全体を監督できていないこと、膨大な数のソフトウェアのすべてを品質良好なものにするような監督ができていないことの証左である。
(5)役務の質の誤認
参加人A及びBは、本件役務に関して、役務が高質であることを需要者に伝達する目的で甲第5号証ないし第7号証の広告等を実施した。
しかしながら、参加人Bが請求人に対して提供した本件役務は、甲第9号証ないし第11号証に示すように、上記広告等に記載される内容とは乖離した低質の役務であった。
上記の広告等とともに本件商標を視認した請求人は、上記役務について説明される高い質を、本件商標に対して期待していた。しかし、本件商標を上記役務に使用する参加人Bが、期待された役務を提供できなかったことで、本件商標が、役務の質の誤認を生じさせていた。そして、請求人のみならず一般世人であれば、上記の広告等の内容から、上記役務について説明される高い質を、本件商標に対して期待するものであるから、このような本件商標の使用は、需要者保護の観点から到底許されるべきではない。
(6)商標権者の監督義務
請求人は、上記役務の提供を受けた期間において、商標権者からの指揮監督により、参加人Bの上記役務の質が向上する措置を受けたことはなく、さらに、本件審判の請求日である2009年9月1日現在まで、参加人Bに対して、商標権者から何らの上記役務の向上についての対応案は提示されていないことから、商標権者は参加人Bの監督義務を怠っていたと推認できる。
(7)まとめ
以上のように本件商標は、上記の広告等により、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守及びこれらに関する助言・指導」の役務において高質であるという印象を、需要者に対して与えていた。これに対して、事実上の通常使用権者である参加人Bが請求人に対して提供した役務の質は、上記にて説明したように極めて低質であった。したがって、本件商標は、一般需要者に対し、役務の質の誤認を生ぜしめたことは明白である。

2 答弁に対する弁駁
(1)答弁書の「1 はじめに」の項について
被請求人は、答弁書の「1 はじめに」の項において、請求人はシステム開発委託契約(甲第8号証、乙第1号証及び第2号証)に係るプログラムの納品を受け、検収書(乙第3号証の1及び2)を発行しておきながら、開発委託料の支払いを拒んだ上で本件審判を請求した旨主張している。被請求人はさらに、本件を審判請求の濫用である旨主張する。
しかし、以下に詳述するとおり、納品されたプログラムは品質が劣悪であり、実際に使用に耐えないものであったにもかかわらず、参加人Bは検収書の受領という形式的な根拠のみに基づいて、システムの稼動前に請求書の発行を行なったものである。
そして、参加人Bが請求人に提供した役務の質は、本件商標又は本件商標に類似する商標が付された参加人Bの広告を信用してシステム開発を委託した請求人の期待を大きく下回る劣悪なものであった。このために、参加人Bによるその指定役務についての本件商標又は本件商標に類似する商標の使用により役務の質の誤認が生じている。
さらに、被請求人は、当該事実について、商標法第53条第1項に規定する「相当の注意をしていた」旨の主張をしていない。このため、被請求人の主張は、「相当の注意をしていた」事実はない旨を認める趣旨と思料される。
したがって、答弁書の「1 はじめに」の項における被請求人の主張には理由がなく、全て失当である。
以上を勘案すると、請求人による本件審判の請求は、商標法第53条に規定された審判請求の要件を全て満たしている。
(2)参加人Bによる本件商標の使用及び通常使用権について
ア 被請求人は、「参加人Bにおいて、自己の名称ないし略称として、本件商標を使用することは、事実として存在していない。」と主張する。
しかし、参加人Bのウェブページの写し(甲第17号証の1及び2)及び参加人Bの名刺の写し(甲第16号証の1ないし12)に示すとおり、参加人Bは、本件商標「NTT」を含む「NTTデータセキスイシステムズ」及び本件商標と同一の称呼「エヌティティ」を生じる結合標章を、ウェブページ及び名刺のそれぞれ見やすい位置に表示することにより使用をしている。標章「NTTデータセキスイシステムズ」の使用は、本件商標「NTT」の使用であるか、あるいは、本件商標に類似する商標の使用であることは明らかである。また、上記結合標章と本件商標とは、同一の称呼を生じるから、互いに類似するものであり、上記結合標章の使用は本件商標に類似する商標の使用であることは明らかである。
したがって、標章「NTTデータセキスイシステムズ」及び上記結合標章の使用は、本件商標又は本件商標に類似する商標の使用である。
一方、被請求人はさらに、「NTTデータセキスイシステムズ」と本件商標「NTT」とは互いに同一ではなく、類似していることもない旨主張する。
しかし、「NTTデータセキスイシステムズ」は本件商標「NTT」を含むから、標章「NTTデータセキスイシステムズ」の使用は本件商標の使用であり、あるいは、標章「NTTデータセキスイシステムズ」と本件商標が互いに類似していることは明らかであるから、被請求人の主張は独自の論理というほかなく、失当であることは明らかである。
イ 被請求人は、「参加人Bは、顧客に役務を提供することに関連しても、本件商標を使用することはない。」と主張する。
しかし、上述のように、参加人Bは、そのウェブページ及び名刺において本件商標に類似する商標を広告的使用態様で使用しつつ、当該広告的使用態様における広告の対象であるシステム開発に係る役務を請求人に提供したのであるから、参加人Bは、本件商標又は本件商標に類似する商標をその指定役務である本件役務に使用していることは明らかである。
また、被請求人は、「名刺上での標章の表示が、基本的に商標の使用に該当するものではないことは、裁判所の判決においても確認されている(乙第14号証)」と主張する。しかし、被請求人が証拠として提示する「判例時報」なる雑誌が引用する判決においては、そのような判示はなされていない。当該判決においては、名刺上の標章の表示が商標の使用に該当するか否かは、表示態様や名刺における記載のされ方に依拠する旨が判示されているのである。例えば、平成20年(行ケ)第10244号、平成20年11月19日判決においては、名刺における標章の使用が商標の使用と認められている。本件取消審判の前提となる事実においては、参加人Bは、プログラム開発という具体的な役務の提供に際して、請求人に名刺を差し出したのであるから、当該名刺に記載の標章の使用は、広告としての商標の使用に該当するのは当然である。
なお、被請求人は、NTT/DATAが登録3084129に係る商標で、本件商標とは別個である旨を主張している。しかし、NTT/DATAが登録商標であろうとなかろうと、本件商標「NTT」と商標「NTT/DATA」が類似することは明らかであるから、NTT/DATAが登録商標であるか否かは、商標法第53条の該当性に影響しない。
ウ 被請求人は、「参加人Bは、被請求人から本件商標の通常使用権の許諾を受けていることはない」と主張する。
しかし、商標法第53条において規定されている「通常使用権者」は、文書による使用許諾契約に基づくものだけではなく、事実上の使用許諾に基づくものも含まれる。
ここで、被請求人は、参加人Aを介して参加人Bの株式を間接的に保有しており、両者はいるいわゆるグループ企業の関係にある。したがって、被請求人は、参加人Bによる本件商標に類似する商標の使用について、当然認識しているはずであるにもかかわらず、参加人Bに対して何ら権利行使をしていない。このため、被請求人が参加人Bを事実上の使用権者として認識していることは明らかである。
(3)甲第5号証ないし第7号証による役務の質に関する主張について
ア まず、被請求人は、請求人の甲第5号証に基づく主張は失当であるとし、甲第5号証に示された文書は請求人の作成に係る文書であり、参加人Aの作成に係るものではない旨主張している。さらに、当該文書に含まれるシステムの品質向上への「システムの品質向上への取り組み」は「今後」の「取り組み」として、一般的ないしは抽象的な内容が記載されているだけ」とし、上記「取り組み」においては、今後目指すべき目標が記載されているに過ぎない旨主張している。
しかし、そもそも当該書面は参加人Aのウェブページの写し(甲第18号証の1及び2)を材料として、当該ウェブページの記載に基づいて作成されている(例えば甲第5号証の2頁から5頁にかけて掲載されている「システム品質向上への取り組み」。)。したがって、参加人Aの作成に係るものではない旨の主張は形式的には妥当であるとしても、実質的には不当である。
イ 当該ウェブページにおいて、例えば、「NTTデータは品質マネジメントの対象を全社レベルと事業本部、プロジェクトの3つのレイヤーに分け、レベルに応じた活動を展開しています。品質マネジメントの中心となる思想はPDCAの徹底です。このPDCA(Plan-Do-Check-Action)プロセスに基づき、全社、事業本部、プロジェクトがそれぞれの役割を果たします。例えばプランニング・フェーズ(P)では全社レベルの品質方針・改善目標の設定(全社)?事業本部ごとの改善目標の設定(事業本部)、プロジェクト計画の作成(プロジェクト)とNTTデータ全体の品質マネジメントが個々のプロジェクトにそのまま反映できる仕組みを構築しています。」との記載がある。
上記記載から明らかなように、甲第5号証で引用するウェブページは「今後」の「取り組み」や「一般的ないしは抽象的な内容」ではなく、「具体的」な取り組み内容が現在形の文体で記載されている。したがって、「今後目指すべき目標が記載されているに過ぎない」との被請求人の主張は事実誤認に基づくものであり、失当である。
ウ 被請求人は、顧客以外の者を含む不特定多数者の閲覧を前提としているウェブページ上において、役務の内容や質が規定されたり、約定されたりするものでない旨主張する。
しかしながら、参加人Aは、甲第18号証の1及び2に示されたウェブページにおいて、本件商標に類似する商標を広告的使用態様(商標法第2条第3項第8号)で使用しているのであるから、当該広告に接した需要者は、そこに記載された事項に基づいて、役務の内容や質に期待をするのは当然である。したがって、被請求人による当該主張は独自の論理にすぎず、失当である。
エ 被請求人は、請求人の甲第6号証に基づく主張は失当であるとし、甲第6号証に示された書籍は参加人A自身の著作ではないから参加人Aの広告足りえない旨を主張している。
しかし、当該書籍は、参加人Aに関して第三者が執筆し、出版されたものである。しかも、執筆者は参加人Aの従業員であるSIコンピテンシー本部企画部長自身の発言「我々の仕事はモノづくり。品質には強いこだわりを持っている」を引用して当該書籍を執筆している。
さらに、甲第6号証が示す書籍の記載中、「仕様管理、品質管理、進捗管理の観点からシステム開発のプロセスを顧客企業にわかりやすく説明する『プロセス透明化ガイドライン』を制定した」(78頁?79頁)の記載、及び「発注者にとって『見える』『わかる設計へ』」(82頁?83頁)の項の記載は、甲第5号証で引用するウェブページの「システム開発の見える化」に対応している。
また、甲第6号証が示す書籍の記載中、「どんなバグも見逃さない」の項の記載である「NTTデータでは、全社を挙げて『品質マネジメント』に取り組んでいる。具体的には『プロセス改善』『システム開発の見える化』『開発標準策定』『プロジェクトリスク審査』『ソリューション確立・提供』『組織的支援』『情報提供』など、さまざまな施策を通じて、品質へのこだわりを徹底している。」の記載(88頁)は、甲第5号証で引用するウェブページの「(1)プロセス改善」「(2)システム開発の見える化」「(3)開発標準制定」「(4)プロジェクトリスク審査」「(5)ソリューション確立・適用」「(6)組織的支援」「(7)情報共有」にそれぞれ対応する内容である。
また、甲第6号証が示す書籍の記載中、「品質マネジメント体系図」(89頁)は、甲第5号証が引用するウェブページに含まれるチャートとほぼ同一の内容である。
このように、第三者の執筆による参加人Aに関する書籍の内容が、参加人Aのウェブページの内容の裏打ちあるいは取材元であるから、甲第6号証に示された書籍は、これに触れた需要者にとって甲第5号証が引用する参加人A自身のウェブページの広告と同様の効果を有するものであり、被請求人の上記主張は形式的には妥当であるとしても、実質的には不当である。
なお、被請求人は、甲第6号証について、本件商標が第16類を指定するものではない旨主張している。
しかしながら、そもそも請求人は、甲第6号証について、本件商標が当該「書籍」(印刷物)の識別標識として使用をされたものとの主張はしていない。
すなわち請求人は、本件商標「NTT」を含み、その書籍の内容を示すと考えられる「図解ひと目でわかるNTTデータ」なる書籍の題号は、甲第5号証が引用する参加人Aのウェブページの広告を補強する効果を有するものであるから、広告としての使用である旨を主張しているのである。
以上のことから、本項における被請求人の主張は、当該出版社に対して本件商標の使用許諾がなされたと決め付けることなどできない旨の主張も含め、審判請求書の誤解あるいは曲解に基づく支離滅裂なものであり、全て失当である。
オ 被請求人は、請求人の甲第7号証に基づく主張は失当であるとし、甲第7号証に示された「CSR報告書2006」に記載された「企業理念」等の内容は、現在の個別の役務の内容や質を規定するものとはいえない旨主張する。
しかし、甲第7号証が示す「CSR報告書2006」には、「報告期間/報告範囲ほか」として「対象期間:NTTデータグループにおける2005年度(2005年4月1日?2006年3月31日)の活動実績を中心とし、同期間前後の活動内容も含まれています。」(第2頁下段)とあり、実際に「実績」、すなわち「現在の個別の役務の内容や質」を期待させる根拠となる事実が記載されている。
ここで重要な事項は、本件商標又はそれに類似する商標が付されたCSR報告書に記載された理念やビジョンあるいは計画等は、そこに記載された実績と共に、CSR報告書全体を広告として機能させ、それに触れた需要者に商品の品質や役務の質に対する期待を抱かせる、という事実であるが、被請求人はこの事実を看過しているようである。
そして、商標法第53条が問題とするのは、このようにして需要者に抱かせた商品の品質や役務の質に対する期待が、実際に需要者に提供された商品の品質や役務の質の劣悪により裏切られたか否かである。
したがって、答弁書における被請求人の「個別の役務の内容や質を規定するものとはいえない」旨の主張は、同法第53条の趣旨を全く理解せず、あるいは誤解・曲解に基づいてなされたものであり、的外れであるので失当である。
(4)参加人Bの提供に係る役務の質に関する主張について
ア 被請求人は、本件開発対象が特許出願支援プログラムである点、担当者が弁理士である点、参加人B側が専門知識を有していない点等を挙げて責任逃れを試みている。
しかしながら、そもそも要求仕様を漏れなくヒアリングしたり把握したりする業務は、逆にシステム開発の専門家である参加人Bの基本業務である。しかも、「最終処分」、「国内優先権主張出願」、「分割出願」等の親子関係、「現地代理人」、「19条補正」の各項目については重要事項であり、いずれも記録できなければ致命的な仕様上の欠陥となる項目である。これらの項目は、少なくとも従前に請求人が使用しているPDWの仕様から容易に確認可能であったのであるにもかかわらず、参加人Bはこの確認を怠ったのである。
被請求人は、このような参加人Bの基本的な業務範囲に属する部分の致命的なヒアリングミス・把握ミスについて、請求人側の担当者、弁理士S(以下「弁理士S」という。)から指示を受けておらず、「業務支援システム基本設計書第1.0版」(乙第6号証)について弁理士Sの確認を受けている旨主張して、責任逃れを試みているようである。
このように、参加人Bの基本的な業務領域である要求仕様のヒアリング・把握業務に関する致命的なミスを頻発させること自体、本件商標を信用した請求人の期待を裏切る行為であるが、そのうえ、その責任をシステムの専門家ではない請求人側に転嫁せしめんとする行為は、システムの専門家である参加人Bにシステム開発業務を委託する請求人の期待を完全に裏切るものである。これらの点からも、商標法第53条に規定された「役務の質の誤認」が生じていることは明らかである。
なお、被請求人は、「弁理士Sの指示によれば、請求人が主張する項目類はPDW側で管理するから、開発対象のシステムにおいて登録は不要とのことであった。」旨主張しているが、事実無根である。これらの項目は案件の管理上重要なものばかりであり、そのような指示を行なうことはあり得ない。
被請求人はさらに、社長NSの返信メールは単に顧客に「丁寧」に接していたことを単に示しているに過ぎない旨主張している。
しかし、社長NSの当該返信メールは、顧客から納期直前になって「致命的な問題」を指摘されていながら「不完全な部分」を社内ですぐに把握できない事実を認めるものであることは明らかである。
イ 被請求人は、「参加人Bは弁理士Sから、当初はPDWと併行運用する予定と聞かされ、後になって併行運用を行わずに開発対象のシステムだけの単独運用を行う方針転換の旨を聞かされた。」旨を主張し、全体計画を当初から提示していなかったのは当然、とまで主張している。
しかし、そもそも本件システムの開発はPDWという従来使用しているシステムの乗り換えを意図して始まっており、途中で「方針転換」があった事実はない。システム開発の専門家である参加人Bは、その最終形態を確認してシステム設計に当たるのが当然である。
したがって、被請求人は、システム開発の専門家であれば当然の行為を、顧客から言われなければ行わなくとも当然、と言い逃れんとする事実自体が、需要者たる請求人の期待を完全に裏切るものである。
ウ 被請求人は、乙第7号証の2を引用して、本番データ移行作業前に先行して実施できる作業については、移行当日前までに極力実施することが確認されている旨及び「本番環境構築」作業は移行当日前までに実施する作業に含まれることが確認されている旨主張している。
しかし、乙第7号証の2には、「本番環境構築」作業が移行当日前までに実施する作業に含まれる旨の記載は一切含まれておらず、被請求人の主張には根拠がない。
さらに、既述のとおり、移行予定日の数日前になっても、請求人は参加人Bによる本番環境構築作業の段取りに関する説明を受けられなかったのである。
被請求人はこのような事実関係を誤認しているか、あるいは意図的に事実関係を歪曲せんとしているのである。
被請求人はさらに、乙第8号証を引用し、システムテスト設計書を請求人側で作成することを合意した旨主張している。
しかし、システムテスト設計書は、開発したシステムがシステム設計どおりに稼動していることをチェックするものであり、システム設計を行った参加人Bがシステムテスト設計書を作成することが効率的であることは、いわゆるシステム開発に係る業界においては常識的事実であり、システム開発に関して専門家ではない顧客である請求人側で作成することは通常は考えられないことである。
事実、甲第10号証の2に記載されているとおり、当初は当該業務は参加人Bの責任範囲であったところ、従業員Iが「システムテスト項目の抽出」及び「システムテスト計画書の作成」を予定の期日になっても実施せず、提供する役務の質があまりに劣悪であるために、やむにやまれず請求人が負担せざるを得なかったのである。被請求人は、このような重要な事実関係について何ら言及・釈明していない。このため、被請求人の主張は、参加人Bの提供する役務の質が劣悪であることを自白する趣旨と思料される。
被請求人はさらに、本番データ移行作業を平成20年6月14日に行い、同日中にその本番データ移行作業を完了した旨、請求人側の担当者が、登録に至っていない出願案件について、権利満了日の欄に具体的日時が表示されている例があることを確認した旨、同担当者が本番データ移行作業が正確に行われておらず、同作業に失敗したものと早合点した旨、同担当者があわてて切り戻し作業を行った旨を主張している。
しかし、甲第11号証の第4頁に示されるとおり、データ移行の際の参加人Bの役務の質が劣悪であることを基礎付ける事実が存在するにもかかわらず、被請求人は当該事実について何ら言及していない。具体的には、登録に至っていない出願中の案件であるにもかかわらず、権利満了日の欄に具体的日時が表示されている例が出現する異常な現象が発生した。そして、請求人が参加人Bの担当者に対して、その現象が発生する理由をただしても明確な回答ができなかったという事実がある。そのような事実が存在するにもかかわらず、被請求人は当該事実について何ら言及していない。
なお、請求人が、データ移行中に起きたこのような現象に関して明確な説明をすることができなかった参加人Bの役務の質に不安を覚え、切り戻し作業を行う旨の決定をした過程には何ら問題はない。
被請求人は、上記切り戻し作業について、請求人の「早合点」による「軽率な判断」であった旨を何らの根拠なく主張しており、このような主張は請求人にその責任を転嫁せんとするものにすぎず、反論の体をなしていない。
そして、被請求人は、上述したデータ移行の際の参加人Bの役務の質が劣悪であった事実関係に一切言及もしなければ釈明もしていない。このため、被請求人の主張は、参加人Bの提供する役務の質が劣悪であることを自白する趣旨であると思料される。
被請求人はさらに、切り戻し計画は請求人側で検討すべきものと主張している。
しかし、システム設計を行った参加人Bから何ら情報の提供を受けずに切り戻し計画を策定することなど不可能であるにもかかわらず、本番データ移行の当日まで参加人Bから請求人に対してこの「切り戻し」に関する説明及び注意喚起は一切無かったために、不安を覚えた請求人が参加人Bの従業員Iに尋ねたところ、その検討がなされていなかったことが判明した、というのが実態である。
被請求人の主張は、このような事実関係に一切言及・釈明せず、切り戻し計画の策定についてあたかも全てが請求人の責任であるかのような言い逃れをしているにすぎず、被請求人自身が、参加人Bの提供する役務の質が劣悪であることを自白するものである。
エ 被請求人は、東京地裁平成9年2月18日判決(平成4年(ワ)第14387号、平成5年(ワ)第16569号、損害賠償等請求、売買代金等請求事件)を引用して本件システムにおけるバグの存在は許容すべき旨主張している。
しかし、本件においては、本件システムが実稼動に至る前段階において、数時間試しに使用を試みただけで重大なバグが次々と発見されているのである。
このことから、本件は、同判決においてもシステム開発者側の責任を認めるべきケースである。すなわち、本件は、「バグといえども、システムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせる」ものであり、「その数が著しく多い」ことが容易に推認されるケースである。
被請求人はさらに、ログ出力について、「故障発生の際の確認等の場合を除けば、格別必要となるものではなく」と主張している。
しかし、ログは、システム障害が発生し、迅速に障害の原因を究明して対策を講じなければならない場合に、原因の究明の足がかりとなるものであり、急を要する事態が発生した場合に効力を発揮する非常に重要な機能であることはシステム開発における常識である。
被請求人は、このような本件システムの重要な機能にかかる欠陥を、「定常運用」に影響を与えず、故障発生時以外は「格別必要」ではないものであるから、「程度として極めて軽微であることが明らかである」と主張しているものである。
被請求人の上記主張は、自らの提供する役務の質が劣悪なものであることを自白しているものである。
ところで、被請求人は、答弁書において「甲第13号証の1を引用したうえで、本件システムにおいて、何らのメッセージも残さずにシステムダウンを引き起こす例があることが確認されたと主張するが、この点に関しては、参加人Bにおいて、請求人からの今回の指摘を受ける以前の平成20年6月中に確認している。」と自白している。
参加人Bは、このような重大なバグの存在を確認しながらも、それ以降、断続的に行われている請求人との交渉において、その事実を隠蔽し続け、「検収を受けた本件システムにバグなど存在しない」、と主張し続けているのである。
この事実は、同交渉において請求人代理人であった弁護士NYが確認しているところである。
また、被請求人は、答弁書において、「参加人Bは、平成20年6月23日に、これを修補し…修補済のプログラムを請求人に納めようとしたが、請求人は、前述した軽率な判断により行ったデータの『切り戻し』につき、参加人Bに責があるかのように主張している最中であり、上記修補済のプログラムの受領などに非協力の態度を示していた。」と主張している。
しかし、何ら証拠を示していないばかりか、事実に反する。被請求人は、別件の不正使用取消審判である取消2009-300343号事件における答弁書においても、同様の主張をしており、当該主張が事実に反することは、当該事件において提出された弁護士NYの陳述書(甲第19号証)から明らかである。
参加人Bの請求人に対するこのような態度及び姿勢は、広告された品質レベルはおろか、顧客を愚弄するものであり、社会通念に照らしても到底許されるものではない。参加人Bのこのような態度及び姿勢は、本件商標権者である日本電信電話株式会社の監督責任がまったく果たされていないことの証左である。
オ 被請求人は、「請求人は、参加人Bが平成20年10月24日から平成21年1月19日にかけて実施された本件システムの開発委託料の支払交渉の際に、納品物に重大な欠陥があるとの事実を隠し、納品物に重大な欠陥は存在しないと主張し続け、請求人に不当な支払を強要しようとした旨主張しているが、およそ理由がない。」旨主張する。
しかし、被請求人の主張は、検収書(乙第3号証の1及び2)以外は、何ら証拠が示されていないから、理由がない。
カ 被請求人は、「請求人は、被請求人が取消2009-300343事件の答弁書中で、『参加人Bを含め、参加人Aのグループ全体では、毎年、顧客からの依頼に応じて、膨大な数のソフトウェア(プログラム)が作成されているところ、請求人は、その中のわずか1例について種々主張しているというものにすぎない。』(甲第15号証)と主張したとして、同主張を前提にする限り、(a)参加人Aは、グループ全体では問題のないソフトウェアを提供しているのであるから、参加人Bだけが劣悪なソフトウェアを提供していたとしても全体として問題はなく、(b)これと共に、膨大な数のソフトウェアを提供しているのだから、1つくらい劣悪なものがあっても当然という趣旨が内在されており、(c)被請求人は補助参加人らに対する監督責任を果たしていない、などと主張しているが、およそ理由がない。」旨主張する。
しかし、被請求人の主張は、別事件における被請求人自身の主張を甲号証と称して証拠としているだけであり、実質的な証拠は、何ら提示されていないから、理由がない。
(5)参加人Bの提供に係る役務の質の誤認に関する主張について
上述のとおり、答弁書における被請求人の主張は理由がなく、当該主張は全て失当である。
(6)以上、被請求人の答弁全体を通じて、被請求人の主張は理由を欠くものである。参加人Bが提供する役務の質は、「NTT」という我が国で超一流とされる企業名を含む広告から当然に期待されるレベルと比べてはるかに劣悪なものであり、需要者たる請求人に役務の質の誤認を生じさせている。このことは、本件商標権者である日本電信電話株式会社の参加人に対する監督責任が果たされていないためである。
したがって、商標法第53条の趣旨に照らし、本件商標は当然に取り消されるべきものである。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第53条第1項の規定により、その登録を取り消されるべきである。

第3 被請求人の答弁(要旨)
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし第14号証(枝番を含む。)を提出した。
1 はじめに
本件は、商標法第53条に基づく登録商標の取消審判請求に係る事案である。もっとも、本件の実態は、以下に述べるとおりである。
すなわち、参加人Bは、請求人との間でシステム(プログラム)開発委託契約を締結し(甲第8号証、乙第1号証及び第2号証)、同契約に基づきプログラムを作成したうえで、請求人に納品した。請求人は、これを検査し、検査に合格したことから、参加人Bに検収書(乙第3号証の1及び2)を発行した。そこで、参加人Bが請求人に対し、システム(プログラム)の開発委託料の請求を行ったところ、請求人は、同開発委託料の支払を故なく拒み、支払を免れんとして、本件審判の請求に及んだ、というものである。
上述したとおり、請求人(請求人の代理人であるである弁理士Mは、請求人の代表取締役を兼ねており、かつ同弁理士の氏を冠した正林国際特許商標事務所の代表者でもある。請求人と正林国際特許商標事務所とは、同一場所に所在しており、前者は後者の特許商標事務所の事務処理を受託する法人という関係にある)は、参加人Bに対し、特許出願業務の支援システム(プログラム)の開発を委託し、これを受託した参加人Bが、プログラムを作成したうえで請求人に納品したところ、請求人はこれを検査し、検査に合格したことから、参加人Bに対して検収書を発行した(乙第3号証の1及び2)。
上記検収に伴い、開発成果物であるプログラムの引渡が終了したため、参加人Bが、その後に請求人に対して、開発委託料の請求をしたところ、請求人は、上記のとおり検査合格に伴う検収書まで発行しておきながら、その支払を拒んだうえで、本件取消審判の請求に及んだ、というのが本件の実態である。
本件は、本来は当事者間の協議により解決すべき開発委託料の支払請求に関する事案であり、参加人Bと請求人との間で、それぞれ代理人を介して支払のための交渉が行われていたが、請求人は、自らが委任した代理人弁護士を事実上解任したうえで、交渉相手であった参加人Bではなく、これとは異なる被請求人を相手方として、本件審判の請求に及んだというものである。
なお、本事件に関連する取消審判の請求事件としては、先行して取消2009-300343及び取消2009-300523が存在している。
これらの先行事件は、本事件の請求人を請求人としており、前者は本事件と同じく日本電信電話(株)を被請求人とするもの、後者は積水化学工業(株)を被請求人とするものであるが、請求人は、本事件と同様の理由に基づき、それぞれの事件で登録商標「NTTデータ」、同「セキスイ」の取消審判を請求している。
請求人は、これらの事件においても、本件同様に自己が本来負担すべき前記開発委託料の支払を回避せんとして、システム開発委託契約を締結した相手方である参加人Bではなく、これとは別法人であって、当該システム開発とは無関係な日本電信電話(株)(取消2009-300343及び本事件)や積水化学工業(株)(取消2009-300523)を被請求人として、根拠なく登録商標の取消審判請求に及んでいるものである。
上記一連の取消審判請求事件のうちで、取消2009-300343は2009年3月に請求され(被請求人は本事件と同一、取消対象登録商標は「NTTデータ」)、取消2009-300523は2009年5月に請求され(被請求人は積水化学工業(株)、取消請求にかかる登録商標は「セキスイ」)、本事件は2009年9月に請求されているが、これらの請求は、短期間のうちに立て続けに脈絡なくなされてきており、本請求をも含め、文字どおり審判請求の濫用と評価される事案である。

2 参加人Bによる本件商標の使用及び本件商標の通常使用権について
本件審判の請求は、参加人Bが本件商標を使用していることを前提としてなされているが、参加人Bにおいては、以下に述べるとおり、本件商標を、自己を特定するための名称としても、役務の提供に関連する商標としても使用していることはなく、また、被請求人から通常使用権の許諾を受けていることもない。
(1)参加人Bにおいて、自己の名称ないし略称として本件商標を使用することは、事実として存在していない
ア 本件審判の請求は、参加人Bが、その役務の提供に関連して、本件商標を使用していることを前提としているが、参加人Bにおいては、本件商標を使用していることはない。
すなわち、本件商標「NTT」は、被請求人の商号を英語表記したもの(NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION)の略称であるところ、参加人Bは、自己を特定するための名称としても(この場合には、商標としての使用には該当しないが)、役務提供に関連する商標としても、本件商標を使用している事実はない。
参加人Bは、参加人Aが60%を、積水化学工業(株)が40%を出資する法人(合弁会社)であり、その商号は「(株)エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」である。
イ 参加人Bは、自己の商号もしくはその略称を、商標として使用することは基本的に行っていないが、ここで仮に議論のために、何らかの意味において商標として使用する場合を想定したとしても、当該商号「(株)エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」、若しくはその略称である「エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」、「エヌティティデータセキスイシステムズ」、「NTTデータセキスイシステムズ」は、本件商標「NTT」とは何ら類似していない。
ウ 本件商標「NTT」と参加人Bの上記商号又はその略称とを対比した場合には、文字数にして後者が前者の3ないし5倍以上に及んでいる。これと共に、前者と後者の実質的な相違部分である「データ」、「セキスイ」並びに「システムズ」の部分のうちで、「セキスイ」の部分は、それ自体で識別力が認められる部分であり(「セキスイ」は、参加人Bの発行済の株式の40%を保有する東証1部上場企業の積水化学工業(株)の“積水”に由来している)、併せて「データ」及び「システムズ」の部分の相違点をも勘案した場合には、両者は、外観、称呼、観念のいずれにおいても、明らかに類似していない。
この場合に、参加人Bの商号または上記略称が、比較的長い称呼を有していることから、これらの短縮形を略称として使用することも、考えられないわけではない。
もっとも、この場合にも、仮に短縮形として冒頭の「エヌ・ティ・ティ」または「エヌティティ」、「NTT」の部分を使用する場合を想定してみると、上記「エヌティティ」等と、本件商標「NTT」とは相互に識別が付かなくなることから、参加人Bにおいて、自己を特定するための商号の略称として、上記「エヌティティ」等を使用することは、およそ考えられることではなく、現にそのような使用の事実もない。
そうすると、これ以外の短縮形として「セキスイシステムズ」、「データセキスイ」等を使用する場合が考えられないことはないが(参加人Bは、これらの短縮形も実際には使用していないが)、これらも本件商標「NTT」とは明らかに類似していない。
上記のとおりであるが、参加人Bが、自己の商号の略称として、現実に使用することがある略称は「NDiS」である。
エ 参加人Bが、その商号の略称として「NDiS」を使用していることについては、請求人も認めている(請求人の作成にかかる甲第5号証1枚目の表題部分には、参加人Bを示すものとして「『NDiS』が提供したサービス」と記載されている。甲第11号証においても同様である。)。
そして、この「NDiS」が、本件商標「NTT」と同一ではなく、類似もしていないことは、あえて指摘するまでもなく明らかである。
よって、上記のとおりであるから、参加人Bの商号「(株)エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」、またはその略称である「エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」、「エヌティティデータセキスイシステムズ」、「NTTデータセキスイシステムズ」は、いずれも本件商標とは同一ではなく、類似していることもない。
したがって、参加人Bにおいて、自己の商号や上記略称「NDiS」を、自己を特定するための名称として(この場合には、そもそも商標としての使用に該当しないが)、あるいは仮に自己の役務の提供に関連して商標として使用することがあるとしても、これらは本件商標とは同一ではなく、類似していることもない。
オ 上記のとおりであるから、参加人Bにおいて、自己を特定するための名称ないし略称として本件商標を使用することは、事実として存在していない。
(2)参加人Bは、顧客に役務を提供することに関連しても、本件商標を使用することはない。
ア 請求人は、参加人Bが本件商標をその指定役務である第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」(本件役務)について使用したと主張している。
しかし、参加人Bは、前述のとおり、本件商標を、自己を特定するため名称として使用することはなく(この場合には、そもそも商標としての使用には該当しないが)、上記役務の提供に関連して使用することもない。
本件商標は、前述したとおり、参加人Bではなく、被請求人の商号の略称であるところ、事業者が第三者の商号やその略称を、自己の役務の提供に関連して使用することは一般論としてもあり得ることではない。
イ 請求人は、この点につき甲第4号証を引用して、参加人Bのウェブサイト中で、結合標章の一部として、本件商標が使用されていると主張している。
結合標章は、NTTとDaTaとを独特の文字書体で上下二段に表示した文字部分(左側部分)と、楕円を三角形状に積み上げた図形部分(右側部分)とを一体に結合した表示である。同結合標章は、参加人Bが、参加人Aのグループ企業の一員であることを表示するものであるところ、当該表示が直ちに商標として使用されていることを示すものとは何ら言えない。
請求人は、さらに甲第16号証の1ないし12を引用して、上記結合標章が、参加人Bの従業員の名刺上に表示されているから、参加人Bは本件商標を使用していると主張している。
しかし、請求人が引用する名刺は、「役務を提供するに当たりその提供を受ける者の利用に供する物」や「役務の提供の用に供する物」ではなく(商標法第2条第3項3ないし6号、同8号)、名刺によって役務を広告しているものでもないから、そもそも役務について使用されるものとはいえず、甲第16号証の1ないし12の名刺上の当該結合標章が、商標としての使用に当たることはない。なお、名刺上での標章の表示が、基本的に商標の使用に該当するものでないことは、裁判所の判決においても確認されている(乙第14号証)。
ウ 上記のとおりであるところ、商標法第53条にかかる取消審判の制度は、取消請求に係る登録商標が使用されたことを前提にしているが、本事件においては、これが認められないのであるから、本件審判の請求は、その前提において失当というべきである。
なお、ここで仮に議論のために、上記結合標章が商標として使用される場合があることを想定したとしても、当該結合標章は、NTTとDaTaとを独特の文字書体で上下二段に表示した文字部分(左側部分又は上側部分)と、楕円を三角形状に積み上げた図形部分(右側部分又は下側部分)とを、同一の青色の長方形の背景上で一体に結合した表示であって、以下の2件の登録商標からなる結合表示であるから、本件商標とは明らかに異なる標章である。
左(上)側の文字部分 登録第3084129号 商標権者:被請求人(乙第4号証の1及び2)
右(下)側の図形部分 登録第3086207号 商標権者:参加人A(乙第5号証の1及び2)
請求人は、この点につき、NTTとDaTaの文字が上下二段に表示されている部分だけを引用して、本件商標に類似していると主張している。
しかし、上記結合標章は、NTT/DaTaの文字部分と楕円を三角形上に積み上げた図形部分とが結合して、全体として一体表示されているものであるから、この中から一部のみを抽出して、類否につき主張すること自体が失当である。
ここで、仮に議論のために、上記文字部分だけを分離して抽出したとしても、NTT/DaTaの文字部分は一体表示されているものであるから、当該一体表示(結合標章)と本件商標との類否が検討されて然るべきである。
エ そして、この場合には、両者を対比すると、相互に同一ではなく、これと共に、両者は外観、称呼、観念のいずれにおいても相互に識別可能であるから(被請求人と参加人Aとは、いずれも東証1部の上場企業である)、類似していることもない。
これに加えて、本件商標は、登録第3303268号に係る登録商標であるのに対して(甲第1号証及び第2号証)、NTT/DaTaは登録3084129号にかかる登録商標である(乙第4号証の1及び2)。
したがって、両者は別個の登録商標ということになるが、請求人は、登録第3084129号に係る登録商標であるNTT/DaTaにつき不正使用がなされたと主張することにより(このことは後述するとおり事実ではないが)、これとは異なる登録第3303268号に係る本件商標の取消を請求しているものである。
オ 請求人の上記主張を前提とした場合には、A登録商標の不正使用が認められると、その結果として、これとは異なるB登録商標の登録の取消が認められるということになりかねないが、これは商標法53条の規定内容を逸脱しており、明らかに失当である。
カ 上記のとおりであるから、参加人Bにおいて、本件商標を指定役務である第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」において使用していることは、事実として存在していない。
(3)参加人Bは、被請求人から本件商標の通常使用権の許諾を受けていることはない
ア 本件商標については、商標権者である被請求人から参加人B対する通常使用権の許諾も何らなされていない。
イ 請求人は、この点につき、参加人Bは、「本件商標の事実上の通常使用権者であると推認される。」と主張しているが、事実に基づかない主張である。
すなわち、請求人による本件審判の請求は、誤った事実認識に基づくものという他はなく、それ自体において失当というべきである。
(4)小括
上記のとおりであるから、参加人Bにおいては、自己を特定するための名称としても自己の役務の提供に関連する商標としても本件商標を使用することは、もともと予定されておらず、現に使用している事実もなく、これと共に、参加人Bが、被請求人から本件商標の通常使用権の許諾を受けていることもない。
したがって、本件審判請求が成り立たないことは、上記のことからも明らかである。

3 請求人が甲第5号証ないし第7号証を引用した上でなす役務の質に関する主張について
上記2のとおり、参加人Bにおいては、役務の提供に関連して本件商標を使用することは、もともと予定されておらず、本件商標を保有する被請求人から本件商標の通常使用権を許諾されたこともない。したがって、本件審判の請求が成り立たないことは、このことからしても自明というべきである。
そうすると、請求人によるこれ以外の主張に対しては、反論の必要もないということになるが、以下においては、念のため請求人の上記以外の主張が失当であることについて、その要点を指摘しておくこととする。
(1)請求人の甲第5号証に基づく主張について
ア 請求人は、甲第5号証を引用した上で、参加人Aが提供するサービスは、少なくとも「8つの取り組み」を含むものであると主張している。
しかし、甲第5号証を一見すれば明らかなとおり、同号証は請求人の作成に係る文書であって、参加人Aの作成に係るものではない。
したがって、これを参加人Aの広告と称すること自体が、およそ失当というべきである。
イ なお、請求人は、甲第5号証中の2ないし5頁において、参加人Aのウェブサイト上の記載の一部を引用している。同引用部分には「システムの品質向上への取り組み」について記載がなされているが、同部分には、今後の「取組み」として、一般的ないしは抽象的な内容が記載されているだけのことである。
すなわち、上記「取り組み」においては、今後目指すべき目標が記載されているにすぎず、その内容も一般的ないし抽象的なものに止まるものであるから、これを以て、顧客に対して個別に提供される役務の内容や質が記載されているなどと到底いえるものでない。
ウ 請求人が主張するところの本件役務の内容は、個別契約において、顧客との間で依頼内容に応じて規定されるものであり、顧客以外の者を含む不特定多数者の閲覧を前提としているウェブサイト上において、役務の内容や質が規定されたり、約定されたりするものでないことはいうまでもない。
したがって、参加人Aが提供するサービスは、上記「取り組み」を内容とするとの請求人の主張は、全て失当である。
エ 上記のとおりであるが、請求人は、この点に関連して、甲第5号証の6頁及び7頁において、参加人Bによる「1 移行作業前対応」、「2 移行当日対応」につき問題があったかのように記載している。
しかし、後に述べるとおり、「移行作業前対応」、「移行当日対応」においては、移行当日後の請求人側の軽率な判断によって、データの「切り戻し」作業が行われ、データ移行作業後のシステム運用が中止されたというものにすぎず、これを参加人Bの責任に転嫁しようとすることは本末転倒というべきであり、これに先行する「移行作業前対応」、「移行当日対応」についても、甲第5号証により、その内容の当否が判断されるものとは到底いえない。
いずれにしても、請求人作成の単なる報告書(甲第5号証)に基づき、参加人Aが顧客に提供する個別の役務の内容や質を特定しようとすることは、およそ失当である。
(2)請求人の甲第6号証に基づく主張について
ア 請求人は、甲第6号証を引用した上で、参加人Aが提供するサービスは、少なくとも6つの特徴を備えていると主張している。
しかし、甲第6号証は第三者である日刊工業新聞社の刊行に係る書籍であり、著者も八木澤徹氏という被請求人や参加人らとは全く独立の第三者である。同書籍は、参加人Aの作成に係るものではなく、参加人Aの広告などといえるものでないことは明らかである。
イ 上記のとおり、甲第6号証の書籍は、参加人A以外の第三者が、独自の観点から作成したものであるから、これが直ちに、参加人Aが、顧客に対し個別に提供する役務の内容や質を特定することなど、およそあり得ないことである。
ウ なお、付言すれば、請求人は、甲第6号証の書籍の題号中に本件商標が使用されているとして、参加人Aの許諾及び関与があったことは明らかと主張している。
しかし、書籍の題号は、それ自体で特定の内容を示すに過ぎない場合には、商標登録が困難であることに加えて、本件商標は、もともと第16類を指定商品として含んでいないから、題号中で登録商標を使用したとする上記請求人の主張はおよそ失当である。
加えて、甲第6号証は、「図解ひと目でわかるNTTデータ」という題号の書籍なのであるから、題号中に参加人Aの略称が含まれていたとしても、これにより、当該出版社に対して本件商標の使用許諾がなされたと決めつけることなどできないことは、およそ自明というべきである。
エ したがって、請求人による甲第6号証に基づく主張も全て失当である。
(3)請求人の甲第7号証に基づく主張について
ア 請求人は、甲第7号証を引用した上で、参加人A及びBが提供するサービスは、少なくとも3点にわたる企業理念等に基づくものと主張している。
しかし、まずここで指摘しておくべきことは、請求人の上記主張は、「企業理念等」により、参加人らが顧客に対し提供する個別の役務(サービス)の内容や質が直ちに決定されることを前提としているかのようであるが、上記はおよそ失当な主張である。
「企業理念等」は、文字どおり企業の目標や方針を示すものであるから、これが直ちに個別の役務の内容や質を特定することになるものでないことは、ここで指摘するまでもないことである。
イ 上記のとおりであるが、甲第7号証は、参加人Aの2006年度のCSR報告書であるところ、CSRとはCorporate Social Responsibilityの略語であることからも明らかなとおり、対社会に向けて、企業の理念や目標を掲げているものである。
このことからも明らかなとおり、CSR報告書は、個別の取引において顧客に提供する役務の内容や質を特定するものでないことは、いうまでもない。
加えて、甲第7号証の10頁には、大別して「企業理念[NTTデータグループの使命]」、「グループビジョン[10年後に目指す姿]」、「NTTデータグループ倫理綱領」の3点が記載されている。これらの3点のうちで、「企業理念」が、個別の役務の内容や質を規定するものでないことは、上述のとおりである。また、「グループビジョン」についても、[10年後に目指す姿]と付記されているとおり、現在の個別の役務の内容や質を規定するものとは、ほど遠いものであることが明らかである。さらには、「倫理綱領」についても、その中で「お客様に対して、品質の高いサービスを提供します」と謳われていて、そのための取り組みにつき「創造性のある情報システムやサービスの開発・提供に努める」と記載されていたとしても、このような一般的な内容の文言が、個別の取引においての役務の内容や質を具体的に規定するものでないことはいうまでもない。
ウ 上記のとおり、企業が発行するCSR報告書に基づき、当該企業が顧客に対して提供する個別の役務の内容や質を特定しようとすることは、一般論としても無理があり、主張自体において失当というべきである。
(4)小括
上記のとおり、請求人による甲第5号証ないし第7号証に基づく役務の質に関する主張は全て失当である。

4 参加人Bの提供に係る役務の質に関する請求人の主張について
(1)請求人は、請求人が参加人Bに対して委託し、参加人Bが受託したうえで制作した本件システムにおいては、特許案件の「最終処分」や「国内優先出願」等の親子関係、国外の「現地代理人」や「19条補正」を登録することができない内容であったが、これらの登録項目は、請求人がそれ以前から使用していた同種システムであるPDWの仕様から確認が可能であったのにもかかわらず、登録項目から漏れていたものであり、これと共に、参加人Bの担当者が業務フローにつき適切に説明することもできず、結果として同業務を仕切り直すこととなった旨主張している。しかし、この主張は、以下のとおり、理由がなく失当である。
ア 請求人が問題としているのは、当該システム(プログラム)において、どのような項目を登録可能にするかという、プログラムの機能にかかる要件を特定するための作業についてである。
本件システム(プログラム)は、特許出願支援に関するプログラムであるところ、プログラム中にどのような機能を盛り込むのかは、受託者である参加人Bが一方的に決定することができるものではなく、委託者である請求人からの要求ないし指示に基づいて行われる。
イ 請求人側の担当者となった弁理士Sは、当時も現在も、正林国際特許商標事務所に所属する弁理士である(前述したとおり、請求人は、正林国際特許商標事務所から事務処理を受託している法人であるため、この関係から、請求人ではなく、同事務所所属の弁理士Sが、請求人側の担当者となった。)。弁理士Sは、いうまでもなく特許の専門家であり、他方で参加人Bは、システム構築に関して経験を有してはいるものの、特許に関して格別の専門的知見を有するものではない。
このため、本件システムにおいて、どのような項目を登録可能とするのかについては、弁理士Sからの指示に基づき作業が行われた。
ウ 弁理士Sからの指示によれば、本件システムは、請求人が、それ以前から使用していたシステムであるコスモテック特許情報システム(株)の販売に係るPDWと並行して運用する予定とのことであり、PDW側で管理することを予定している項目については、開発対象の本件システムにおいては登録可能とすることは不要というものであった。
参加人Bは、特許の専門家である弁理士Sからの指示に従い、当該指示等を前提として「業務支援システム基本設計書第1.0版」(乙第6号証)を作成し、弁理士Sから確認を受けている。
エ これに対して、請求人が、上記のとおり登録項目の欠落を主張することは、自己の指示の責任を参加人Bに対し転嫁しようとするものであり、本末転倒というべきである。また、請求人は、参加人Bの担当者が業務フローにつき適切な説明をすることができなかったと主張しているが、上記のとおり複数の項目につき登録が可能でないこと等を前提とした論難であるので、上記同様に失当である。
オ なお、付言すれば、請求人は、甲第9号証の1及び2に基づき上記のとおり主張しているが、請求人から参加人Bに対する甲第9号証の1のメールの内容それ自体が、上記のとおり自己の指示の責任を参加人Bに転嫁しようとしているにすぎず、これに対する参加人Bから請求人に対する甲第9号証の2のメールは、参加人Bが自己の顧客である請求人に対し、丁重に接していたことを単に示しているにすぎないものである。
(2)請求人は、請求人が求めるシステムを開発するためには、ステップ1ないし4の工程を要し、総額で約1億円の工費と2年間以上の工期を要するにもかかわらず、このような全体計画に係る提案書が上記仕切り直し前には参加人Bから請求人に対して提示されておらず、請求人からの要望により初めて作成された旨主張している。しかし、この主張も、以下のとおり、理由がなく失当である。
ア 参加人Bは、上述のとおり、弁理士Sから、参加人Bが開発する本件システムは、PDWと並行して運用する予定との指示を受けていた。
これに対して、請求人が主張している全体計画(ステップ1ないし4の工程を要し、総額で1億円の工費と2年間以上の工期)は、本件システムとPDWとの並行運用を行わずに、PDWの使用を中止したうえで、本件システムだけの単独運用を行うことを前提としている。
イ 請求人は、当初は弁理士Sを通じて並行運用の指示をしていたが(このため弁理士Sから確認を受けている「業務支援システム基本設計書第1.0版」(乙第6号証)中には、PDWとの並行運用を前提とした記載がなされている。一例を挙げれば同設計書3頁にPDWサーバーの記載があり、新システムのサーバーとデータ連係する旨の図示があるし、同設計書6頁には、新システム導入後の業務フローの説明としてPDWに関する記載がある)、その後に参加人Bに対し、並行運用から単独運用へと方針転換する旨を指示してきたために、参加人Bの担当者が、平成20年2月に請求人、正確には正林国際特許商標事務所に対して、単独運用を前提とした全体計画を提示したものである(甲第10号証の1ないし5)。
ウ 上記のとおりであるから、参加人Bが、単独で運用可能な本件システムの開発にかかる全体計画を、当初、請求人に対し提示していなかったのは当然ともいうべきことであり、参加人Bが、その後に請求人からの依頼を受けて、同計画を作成したことに、何らの問題もない。
(3)請求人は、参加人Bが「本番データ移行の支援」において、「本番データ移行」作業の前提である「本番環境構築」作業につき、両作業を同日中に行うことを提案していたが、参加人Bによる「本番環境構築」作業の工数見積が過少であったため、請求人が、同作業を「本番データ移行」作業の前日に行わざるを得ず、同作業につき想定外の工数を割くことを余儀なくされた。これと共に、参加人Bは、テストシナリオの作成やテスト環境構築において行うべき作業、具体的には「システムテスト項目の抽出」や「システムテスト計画書の作成」を行わず、請求人が、同作業を肩代わりせざるを得なかった。加えて、参加人Bにおいては、「本番データ移行」に失敗した場合の「切り戻し」計画が検討されておらず、「本番データ移行」時において、移行元のシステムであるPDW上のデータが書き戻されることについても、参加人Bの担当者が把握していなかった、旨主張している。しかし、この主張は、以下のとおり、明らかに失当であり、かつ事実に反している。
ア まず、請求人が上記「本番環境構築」、「本番データ移行」の両作業を行ったのは、平成20年6月13及び14日の両日であるところ、請求人は、それより以前に、参加人Bから本件システム(プログラム)の納品を受け、その検査を行い、検査合格であるとして、平成20年5月29日付にて検収書を発行している(乙第3号証の1及び2)。
したがって、請求人による上記「本番データ移行」、「本番環境構築」の両作業に関する主張は、上記検収後に請求人自ら実施をすべきである作業につき、参加人Bに対して色々と主張しているにすぎず、まずこの点において失当である。
イ これと共に、請求人の主張は明らかに事実に反している。すなわち、乙第7号証の1電子メールに添付されている同号証の2は、平成20年6月3日に行われた参加人Bと請求人との打ち合わせ議事録であるが、同号証2枚目3項の上から3つ目の黒丸部分には、「移行準備は、サーバーH/Wの貴所への納品が前週末であることから、それ以降、先行して実施できる作業は移行当日前までに極力実施し、当日はデータ移行及び移行後の設定や動作確認に作業内容を限定する方針で実施することを確認した。」と記載されており、「本番データ移行」作業(実際には6月14日に実施された。)に先行する作業(「本番環境構築」作業も、これに含まれている。)については、「移行当日前までに極力実施」することが確認されている。
上記のとおり、「本番環境構築」作業については、「本番データ移行」作業よりも前の日に行うことが請求人と参加人Bとの間で確認されていたものであるから、「本番データ移行」作業と「本番環境構築」作業を同日中に行うことが予定されていたことを前提とする請求人の主張は、全て失当である。
ウ なお、付言すれば、請求人の上記主張は、「本番データ移行」作業の前後の作業の実施に関する些細な点を誇張して主張しているものにすぎず、それ自体で失当というべきものである。
エ 請求人は、参加人Bは、テストシナリオの作成やテスト環境構築につき行うべき作業、具体的には「システムテスト項目の抽出」や「システムテスト計画書の作成」を行わず、請求人が肩代わりせざるを得なかったと主張している。
しかし、乙第8号証の1電子メールに添付されている同号証の2は、平成20年3月5日に行われた参加人Bと請求人間の打ち合わせ議事録であるが、同号証1枚目1項の上から4番目の黒丸部分には、「システムテスト項目の洗い出し作業を来週中に貴所にて完了し、その後それに従ってシステムテスト設計書を弊社にて作成することを確認した。」と記載されている。
上記のとおりであるから、システムテスト項目の作成は、「貴所」、すなわち請求人(正林国際特許商標事務所)側で作成すべきであったことが、上記の記載からも明らかである。
なお、システムテスト仕様書、すなわち「システムテスト計画書」については、上記に記載されているとおり、参加人Bにおいて作成済である(乙第9号証)。
よって、請求人の上記の点に関する主張も失当である。
オ 請求人は、参加人Bにおいて、「本番データ移行」に失敗した場合の「切り戻し」計画が検討されていなかったと主張している。
ここで「本番データ移行」とは、請求人が従前から使用していた特許管理システムであるPDW上で蓄積されていた特許出願関連の諸データを、参加人Bが作成して請求人に納品し、同人が検収済のシステム(プログラム)上で使用できるように、検収済のシステム(プログラム)上へと移動させることを内容としている。
請求人は、平成20年6月14日に「本番データ移行」作業を行い、同日中にこれを終了した。これにより「本番データ移行」作業は終了したため、翌日の6月15日に、請求人の担当者は、検収済のシステム(プログラム)上で前日に移行済のデータを使用して、システムを試験稼働させていた。その際に、請求人の担当者が、画面上で操作結果を確認していたところ、特許登録に到っていない出願案件について、権利満了日の欄に具体的日時が表示されている例があることが確認された。
驚いた同担当者は、特許登録に到っていない出願案件につき、権利満了日の欄に具体的日時が表示されているということは、前日に行われた「本番データ移行」作業が正確に行われておらず、同作業に失敗したものと早合点した。そこで、同担当者は、慌てて元のPDWのシステム(プログラム)上でデータを使用できるようにするための「切り戻し」作業を行ったものである。
上記のとおりであるが、請求人が行った「本番データ移行」作業は、実際には成功裡に終了していたものであり、上記の特許登録に到っていない案件につき権利満了日の欄の日時が表示されていたことは、もともとPDW上に蓄積されていたデータ中に誤データが混入していたことによるものであった。この点については、請求人側で本来把握していたはずの事項であり、このような誤データも含めて、PDW上の諸データが、正確に同?性を維持したままの状態でデータ移行されていたものであった(請求人も、現時点ではこの点を争っていないものと考えられる。)。
したがって、請求人が実施した「本番データ移行」作業は正確に行われていたものであり、「切り戻し」作業など何ら必要がなかったものである(請求人は、この点も争わないものと考えられる。)。
上記のとおりであるにもかかわらず、請求人は、自らが使用していたPDW上のデータについて、十分に確認することもなく、本来不要であるはずの「切り戻し」作業を軽率にも行ったものである。
カ 上記のとおりであるところ、請求人は、参加人Bにおいて「切り戻し」計画が検討されていなかったと主張しているが、同主張は、上記のとおり、請求人の担当者が、本来必要のない「切り戻し」作業を行ったことにつき、担当者の軽率な判断を棚上げにしたうえで、上記のとおり主張しているというにすぎず、前同様におよそ失当である。
加えて、本件システム開発においては、切り戻し計画を検討すべき者は、請求人であったものであるから(乙第10号証の「業務支援システム ステップ1作業のご提案第1.1版」20頁のD-1「移行設計」の項目には、お客様の欄に◎印が付されており、これは、請求人が、切り戻し計画を含めた移行設計を主体となって実施することを示している。)、「切り戻し計画」が検討されていなかったという請求人の主張は、この点からしても、そもそも失当である。
キ 請求人は、参加人Bの担当者は、「本番データ移行」時において、移行元のシステムであるPDW上の蓄積データが、元のデータではなくなること、すなわち書き戻されることを把握していなかったと主張している。
しかし、「本番データ移行」時に、移行元のデータの一部が書き戻されることについては、基本設計書中に明記されており、実際に書き戻されるデータは、移行元の全データではなく、「技術担当コード」という1データだけである(この事実については、基本設計書中に明記されており、請求人も争わないものと考えられる。なお、ここでの「技術担当コード」とは、個別の特許出願案件において、当該案件毎に技術担当者として登録される者のコード番号を内容としている。)。しかも、「本番データ移行」作業は、2008年6月14日(土曜日)に行われており、「技術担当コード」の内容についても、書き戻し前のデータと同一のデータが書き込まれるにすぎず、そもそも変更されることはなかったものである。
よって、請求人の上記の点に関する主張も、およそ理由がない。
(4)請求人は、参加人Bが作成したシステム(プログラム)にかかるログ中には、「時刻」は記録されているものの、「日付」が出力されないものが含まれており、これと共に、何らのメッセージを残さずにシステムダウンを引き起こす例があることが確認された旨主張している。
しかし、この主張は、以下のとおり、事実誤認であったり、ソフトウェア開発において通常生ずる範囲内の事項について、殊更これが問題であるかのように主張しているにすぎず、全て失当である。
ア 請求人は、参加人Bが作成したプログラム中に障害ないし不具合、すなわちバグが存在すると主張し、このことを以て、参加人Bが提供したプログラムに瑕疵があり、役務の質に問題があるかのように主張しているが、仮に作成したプログラム中にバグの存在が確認されたとしても、このことから直ちにプログラムに瑕疵があることにはならない。
このことは、プログラムの作成にかかる業務においては、常識ともいえることである。ちなみに、このことは、裁判所の判決中でも確認されているので、その一例を示すと、営業管理システムの開発におけるプログラムの瑕疵の有無が争われた訴訟(東京地方裁判所 平成9年2月18日判決、平成4年(ワ)第14387号、平成5年(ワ)第16569号、損害賠償等請求、売買代金等請求事件)において、東京地方裁判所は、以下のとおり判示している。
「原告はソフトウェア開発においては検収(納品)前に何重ものシステムのプログラムのチェックを行うものであり、検収後、実際に使用していく過程でユーザーの指摘に基づいてプログラムの不整合を発見修正していくことなど契約上予定されていないと主張する。確かに、一般の物品に関する売買契約ないし請負契約に基づく納品の場合には、原告主張のとおりであるが、いわゆるオーダーメイドのコンピューターソフトのプログラムで、本件システムにおいて予定されているような作業を処理するためのものであれば、人手によって創造される演算指示が膨大なものとなり、人の注意力には限界があることから、総ステップ数に対比すると確率的には極めて低い率といえるが、プログラムにバグが生じることは避けられず、その中には、通常の開発態勢におけるチェックでは補修しきれず、検収後システムを本稼働させる中で初めて発現するバグもありうるのである。多数の顧客が実際に運用することによりテスト済みの既成のソフトウェアを利用し、又はこれを若干手直ししてコンピューターを稼働させる場合には、そのような可能性が極めて低くなるが、顧客としては、そのような既成ソフトのない分野についてコンピューター化による事務の合理化を図る必要がある場合には、構築しようとするシステムの規模及び内容によっては、一定のバグの混入も承知してかからなければならないものといえる。(二)コンピューターソフトのプログラムには右のとおりバグが存在することがありうるものであるから、コンピューターシステムの構築後検収を終え、本稼働態勢となった後に、プログラムにいわゆるバグがあることが発見された場合においても、プログラム納入者が不具合発生の指摘を受けた後、遅滞なく補修を終え、又はユーザーと協議の上相当と認める代替措置を講じたときは、右バグの存在をもってプログラムの欠陥(瑕疵)と評価することはできないものというべきである。これに対して、バグといえども、システムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせる上、遅滞なく補修することができないものであり、又はその数が著しく多く、しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生じるような場合には、プログラムに欠陥(瑕疵)があるものといわなければならない。」
すなわち、ソフトウェア開発においては、通常、プログラム中にバグが内在しうるものであるから、プログラムにバグが存在するとの一事をもって、プログラムに瑕疵があるとは到底みなせないものである。
イ 請求人は、この点につき、本件システムのログの中には、時刻は出力されるものの、日付が出力されないものがあったと主張している。
そこで、この点について検討すると、本件システム中には、全部で5種類のログ出力が存在しているところ、請求人が指摘しているものは、これら5種類のうちの1種類のログに関してのみである(この点については、請求人も争っていない。)。ログは、故障発生の際の確認等の場合を除けば、格別必要となるものではなく、システムの定常運用にも影響を与えるものではない。しかも、本件においては、5種類のログのうちの4種類のログについては何らの問題もなく、1種類についてのみ、請求人も認めるとおり、操作の内容、操作にかかわる時刻は出力するものの、日付を出力しないことが確認されているというにすぎず、程度としても極めて軽微であることが明らかである。
上記ログは、過分な労力を要することなく直ちに修補可能であり、また、上述のとおり程度としても軽微であるから、プログラムの瑕疵などと評価されるものとは到底いえず、ソフトウェア開発において通常生ずる範囲内の事項である。
ウ 次に、請求人は、本件システムにおいて、何らのメッセージも残さずにシステムダウンを引き起こす例があることが確認されたと主張するが(甲第13号証の1)、この点については、以下に述べるとおりである。
すなわち、甲第13号証の1中に示された例においては、データ入力画面(ウィンドウ)が動作終了するという事象が発生したということであるが、この点に関しては、参加人Bにおいて、請求人からの今回の指摘を受ける以前の平成20年6月中に確認している。
そこで、参加人Bは、平成20年6月23日に、これを修補し(乙第13号証中の項番?No.142の部分?修補は30分程で終了した。)、修補済のプログラムを請求人に納めようとしたが、請求人は、前述した軽率な判断により行ったデータの「切り戻し」につき、参加人Bに責があるかのように主張している最中であり、上記修補済のプログラムの受領などに非協力の態度を示していた。
上記のとおり、参加人Bは、上記事象の確認後に直ちに修補を行い、いつでも納品可能な状態にしていたものである。
したがって、上記についても、プログラムの瑕疵などと到底いえるものではない。
エ なお、付言すれば、上記事象は、極めて限定された条件においてのみ発生するにすぎず、これに加えて、当該画面を再起動すれば(デスクトップ上のアイコンをダブルクリックすればよい。)、直ちに通常の状態に復帰する。請求人は、当該事象は、銀行のATMシステム全体のダウンや航空管制システム全体のダウンに比するものであるかのように主張しているが、1台のクライアント端末(PC)の1ウィンドウ上でのみ生ずる事象にすぎず(ちなみに参加人Bが今回作成したプログラムにおいては、全部で89種類のウィンドウが存在している。)、これ以外のクライアント端末に対して影響を及ぼすことはなく、サーバに対しても同様であるから、およそ針小棒大な主張というべきである。
オ これと共に、請求人は、上記事象は、動作終了時に何らのメッセージも残さないとも主張しているが、事実に反する。本件システムは、上記の動作終了時にログを出力しており、参加人Bが上記修補を行った際にも、当該ログを参照することにより確認を行っている。
したがって、請求人が挙げる本件システム中の特定画面の動作終了は、極めて限定されたものであるにすぎず、修補も容易であり、現実にも直ちに修補済であるから、プログラムの瑕疵と評価されるものではなく、ソフトウェア開発において通常生ずる範囲内の事項というべきである。
カ 上記のとおりであるが、請求人は、甲第13号証の2の表中の項番26を引用して、「マスタ管理」においてもシステムダウンが発生したと主張している。
しかし、甲第13号証の2にかかる一覧表は、各頁右上部に「保守修正管理表」と記載されているとおり、プログラムの補正修正記録を示す一覧表であるが、これによれば、項番26に関しては、平成20年5月19日に修正が終了している(「修正日」欄参照)。
したがって、請求人指摘の項番26に関しては、参加人Bにおいて確認後直ちに修正済であり、修正時期も、請求人の検収書発行日(5月29日)よりも前のことである。
上記のとおり、請求人による前記(4)の主張は、請求人の指摘にかかる事項を含め、いずれの事項についても、事実誤認であったり、修補済であったり、または軽微であって過分な労力を要することなく修補可能なものばかりであったものであり、ソフトウェア開発において通常生ずる範囲内の事項について、殊更これが問題であるかのように主張しているにすぎず、全て失当である。
(5)請求人は、参加人Bが平成20年10月24日から平成21年1月19日にかけて実施された本件システムの開発委託料の支払交渉の際に、納品物に重大な欠陥があるとの事実を隠し、納品物に重大な欠陥は存在しないと主張し続け、請求人に不当な支払を強要しようとした旨主張している。
しかし、以下のとおり、およそ理由がない。
ア 先ず、請求人は、参加人Bが開発委託料の支払交渉の際に不誠実な態度を示したとして(このことが事実に相違することは、後述するとおりである)、参加人Bが提供する役務の質に問題があるかのように主張している。
しかし、請求人の上記主張は、参加人Bと請求人とが、いずれも代理人を介して行った開発委託料の支払交渉の際の態度に関するものであり、参加人Bが請求人に対し提供した役務、すなわちシステム開発の内容に関するものではない。
したがって、請求人の主張は、参加人Bが提供した役務の質に関して主張するとしながら、これとは的外れな内容を主張しているものであり、この点でおよそ失当である。
イ 次に、請求人の上記主張は、以下に述べるとおり、事実にも相違している。
すなわち、参加人Bは、請求人からの開発委託に基づき開発したプログラムを請求人に納品し、これを受けて請求人が当該プログラムを検査し、検査に合格したので、参加人Bに対して検収書を発行した(乙第3号証の1及び2)。
ところが、その後に参加人Bが請求人に対し開発委託料を請求したところ、請求人が故なく支払を拒否したために、参加人Bと請求人とは、いずれも代理人弁護士を介して、上記支払に関する交渉を行った。
当該交渉において、参加人Bは請求人に対し、開発委託料の支払を拒むのであれば、検収にかかるプログラムに瑕疵が存在すること等を具体的に主張して欲しいと申し入れたが、請求人は抽象的不満を繰り返すのみであって、瑕疵と言えるような具体的な指摘を行わなかった。
このようにして交渉を続けていくうちに、請求人は、平成21年1月、自らが依頼していた代理人弁護士を事実上解任してしまい、これにより交渉が中断してしまった。
ウ そこで、参加人Bは、平成21年3月12日に、請求人の代理人弁護士を介することなく直接同人と協議を行ったが、この協議の際に提示してきたのが、請求人が主張するところの上記(5)の「欠陥」なるものである。
もっとも、上記指摘にかかる「欠陥」なるものについては、参加人Bは、前述したとおり、前年の平成20年6月23日に修補済であり、請求人に対し、いつでも納品可能な状態にあった(納品できなかったのは、請求人が支払を故なく拒み、修補済のプログラムの受領に協力的でなかったからである。この点に関する経緯については、本答弁書を参照)。
エ このため、参加人Bは、平成21年3月12日の協議において、請求人からの「欠陥」なるものに関する申し入れに対して、既に修補済であること等を指摘したものである。
オ 上記のとおりであるのにもかかわらず、請求人は、参加人Bが「重大な欠陥は存在しないと虚偽の事実を主張」であるとか、「請求人に不当な支払を強要せんとした」と主張しているが、およそ的外れである。
上述したとおり、参加人Bにおいては、請求人の指摘事項につき、それよりはるか以前に修補済であり、請求人が受領に協力の態度を示しさえすれば、いつでも納品する用意があったのであるから、上記主張は、事実としてもおよそ的外れなものである。
(6)請求人は、被請求人が取消2009-300343事件の答弁書中で、「参加人Bを含め、参加人Aのグループ全体では、毎年、顧客からの依頼に応じて、膨大な数のソフトウェア(プログラム)が作成されているところ、請求人は、その中のわずか1例について種々主張しているというものにすぎない。」(甲第15号証)と主張したとして、同主張を前提にする限り、
(a)参加人Aは、グループ全体では問題のないソフトウェアを提供しているのであるから、参加人Bだけが劣悪なソフトウェアを提供していたとしても全体として問題はなく
(b)これと共に、膨大な数のソフトウェアを提供しているのだから、1つくらい劣悪なものがあっても当然という趣旨が内在されており、
(c)被請求人は参加人らに対する監督責任を果たしていない、などと主張している。
しかし、請求人の上記主張は、以下に述べるとおり、およそ理由がない。
ア 請求人の上記主張は、取消2009-300343事件での被請求人らの主張を意図的に曲解したうえで反論を試みているにすぎず、失当というほかはない。
被請求人らは、上記答弁書中で、参加人Aのグループ全体では、参加人Bを含めて、顧客に対し良質のソフトウェアを提供してきたものであり、請求人のみが、その中のわずか一例について、合理的な根拠を伴わない主観的な不満を表明しているだけであることを指摘したものである。
このことは、被請求人が、請求人による上記引用箇所の直後の部分で、「請求人の主張にかかる内容が失当であることについては、これまで具体的に指摘してきたとおりであるが、このこととは別に、商標法第53条第1項所定の取消審判制度は、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害される事態が生ずることを防止することを制度趣旨としているところ、本事件での請求人の主張は、上記のただの1例について、根拠を伴わない主観的不満をただ表明しているというにすぎず、商標法第53条が本来適用を予定している事態とは明らかに異なるものである。」と主張していることからも明らかである(甲第15号証)。
イ 被請求人は、参加人Bが請求人に対して提供した役務には、同人が主張するような問題は全く存在していないが、これとは別に、請求人が同人の主観的不満を解消するために、商標法第53条第1項所定の取消審判制度を利用することは、制度趣旨からしても誤りであることを指摘したものである。
請求人は、被請求人の主張を曲解するも甚だしく、当該主張はおよそ失当である。
参加人Bは、毎年、顧客からの依頼に応じて多数のソフトウェア(プログラム)を作成しているところ、当該成果物について根拠を伴わない主観的不満を表明しているのは請求人だけであることを、併せて指摘しておく。
(7)小括
上記のとおり、参加人Bが請求人に対して提供した役務の質に関する主張は全て失当である。
請求人は、参加人Bから本件システム(プログラム)の納品を受け、これを検査したうえで検査合格とし、その後に検収書(乙第3号証の1及び2)を発行しているものであるから、さらにその後に、上記のような主張を行うこと自体が、およそ失当というべきである。

5 参加人Bの提供に係る役務の質の誤認に関する請求人の主張について
上記のとおりであるから、参加人Bが請求人に対し提供した役務の質に関しては、請求人が主張するような問題は何ら認められない。
したがって、請求人が、上記役務の質に関する主張を前提としたうえでなす役務の質の誤認に関する主張も、全て失当である。
なお、請求人は、参加人Bにおいて、本件商標を、被請求人の企業グループを示すものとして、通常使用権者の立場で使用しているかのように主張しているが、参加人Bは、本件商標の使用許諾など受けておらず、かつ、本件商標を使用している事実が存在しないことについては、前述したとおりである。
したがって、請求人が、商標法第53条第1項に基づいてなす本件審判請求は、同条同項を適用するための前提要件が充足されていない点において、およそ失当である。これと共に、参加人Bが請求人に対し提供した役務の質に関しても、請求人が主張するような問題が存在しているものでないことは、前述したとおりである。
これに加えて、本事件での請求人の主張を前提にする限り、本件商標は、参加人Bが、自己の役務の提供に関連して使用したことになるようであるが(このことが事実に反することは前述した)、参加人Bは、毎年、顧客からの依頼に応じて、多数のソフトウェア(プログラム)を作成しているところ、請求人は、その中の請求人を開発委託者とするわずか1例について、種々主張しているというものにすぎない。
請求人の主張にかかる内容が失当であることについては、これまで具体的に指摘してきたとおりであるが、このこととは別に、商標法第53条第1項所定の取消審判制度は、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害される事態が生ずることを防止することを制度趣旨としているところ、本事件での請求人の主張は、上記のただの1例について、根拠を伴わない主観的不満をただ表明しているというにすぎず、商標法第53条が本来適用を予定している事態とは明らかに異なるものである(請求人が、開発委託料の支払を回避するために、同様の主張のもとで、別件の取消2009-300343及び取消2009-300523を請求していることも、このことを裏付けている)。
したがって、請求人による本件審判請求は、この点からしても、明らかに失当と言うべきである。

6 請求人による被請求人の監督義務の懈怠に関する主張について
次に請求人は、商標法第53条第1項但し書きの適用との関係において、被請求人が参加人Bに対する監督義務を怠っていたと推認できると主張している。
しかし、上記主張も失当である。
すなわち、被請求人は、これまで述べてきたとおり、参加人Bに対し、本件商標の使用許諾を行っておらず、本件商標を使用していることもないため、商標法第53条第1項本文の要件を充足しておらず、同条第1項但書の適用の余地は存在していない。
これに加えて、本件では、参加人Bが請求人に提供した役務には、その質につき誤認を来す事実は何ら存在していない。
したがって、このことからしても、被請求人が監督義務を懈怠したのか否かについては、現実には問題とはなり得ないものである(なお、被請求人においては、実際に使用許諾を行った登録商標については、十分な監督を行っていることは、いうまでもない)。
上記のとおりであるから、請求人の上記主張は全て失当である。

第4 当審の判断
1 本件審判について
本件審判は、商標法第53条第1項の規定に基づく商標登録の取消しを求める審判であるところ、同規定によれば、「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品(指定役務)又はこれに類似する商品(役務)についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって、商品の品質(役務の質)の誤認又は他人の業務に係る商品(役務)と混同を生ずるものをしたときは、何人も、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。ただし、当該商標権者がその事実を知らなかった場合において、相当の注意をしていたときは、この限りでない。」とされる。
そこで、先ず本件商標又はその類似商標を使用する主体が、専用使用権者又は通常使用権者であるか否かが問題になるが、この点に関し、当事者間に争いがあるので、以下に検討する。
(1)本件商標に係る通常使用権について
請求人は、参加人A及びBが本件商標の事実上の通常使用権者であると推認されると主張し、その根拠として、参加人Aは、被請求人の内部組織であったデータ通信事業本部を前身とし、かつその商号に「エヌ・ティ・ティ」を含むこと、参加人Bは、参加人Aが資本参加し、かつその商号に「エヌ・ティ・ティ」を含むこと、を挙げている。
また、請求人は、商標法第53条に規定する「通常使用権者」は文書による使用許諾契約に基づくものだけでなく、事実上の使用許諾に基づくものも含まれるとし、被請求人は参加人Aを介して参加人Bの株式を間接的に保有し、両者はいわゆるグループ企業の関係にあり、参加人Bによる本件商標の類似商標の使用について当然認識しているにも拘わらず、参加人Bに対し何ら権利行使をしていないから、被請求人が参加人Bを事実上の使用権者として認識していることは明らかである旨主張している。
確かに、通常使用権の許諾は、文書による使用許諾契約に基づくものに限られず、口頭による許諾等も含まれるものと解される。
しかしながら、通常使用権は、使用権設定契約に基づいて発生し、通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内において指定商品(役務)について登録商標の使用をする権利を有する(商標法第31条第2項)ものであるから、商標権者と通常使用権者との間には、何らかの契約ないしは意思表示が必要である。
しかるに、被請求人は、参加人A及びBに対して本件商標に係る通常使用権を許諾していないと主張しているのであるから、被請求人による上記意思表示はなかったものといわざるを得ない。
そして、参加人A及びBが通常使用権者であるという法律効果を導くためには、その要件に該当する具体的事実(例えば、使用権設定登録契約)が存在することが立証されなければならず、その立証責任は、参加人A及びBを通常使用権者であると主張する請求人が負担すべきものであるが、提出に係る甲第3号証及び同第4号証を勘案しても、上記法律効果を導くための具体的事実とはいい難く、また、他に参加人A及びBが本件商標に係る通常使用権者であることを認めるに足る証拠の提出はない。
そうとすれば、参加人A及びBは、本件商標に係る通常使用権者であると認めることはできない。
(2)小括
以上のとおり、参加人A及びBが本件商標に係る通常使用権者でない以上、商標法第53条第1項所定の要件を欠くものであり、本件審判の請求は、成り立たないものである。

2 参加人による本件商標又はこれに類似する商標の使用について、念のため検討する。
請求人は、参加人Bのウェブサイトの写し(甲第4号証)及び参加人Bの名刺の写し(甲第16号証の1ないし12)を提出し、該ウェブサイトの第1頁の左上隅と名刺の会社名・役職・氏名等の左側とにそれぞれ表示された、二段書きの「NTT/Data」の文字と「10個の白点を三角形状に配した図形」からなる標章(以下「結合標章」という。)並びに「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」の文字(名刺中には、「株式会社」と「NTTデータセキスイシステムズ」が二段に書されている。以下「使用標章」という。)を以て、本件商標又は本件商標に類似する商標が使用されている旨主張している。
(1)本件商標と上記使用標章の類否について
使用標章は、参加人Bのウェブサイト及び名刺に表された「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」の文字よりなるものであり、これよりは、構成全体として参加人Bの商号を表したものと認識、理解されるというべきである。
そうとすると、使用標章は、その構成全体から「カブシキガイシャエヌティティデータセキスイシステムズ」の称呼を生ずるほか、使用標章の構成中、法人格を表す「株式会社」を捨象した「NTTデータセキスイシステムズ」の文字部分に相応して、「エヌティティデータセキスイシステムズ」の称呼をも生ずるというべきであり、法人としての「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」の観念を生ずるものである。
他方、本件商標は、その構成文字に相応して「エヌティティ」の称呼を生ずること明らかであり、特定の観念は生じないものである。
してみれば、本件商標と使用標章とは、それぞれの構成に照らし外観上区別し得るものであり、また、その称呼及び観念においても非類似のものといわなければならない。
(2)参加人Bのウェブサイト及び名刺中に表示された結合標章について
甲第3号証によれば、参加人Bは、参加人Aのグループに属する一企業ということができるから、これらに表示された結合標章は、参加人Bの使用に係る標章というよりは、「NTTDATAグループ」を表象する標章と判断するのが相当である。
よって、前記表示をもって参加人Bの商標としての使用と認めることはできない。
(3)商標としての使用か否かについて
さらに、参加人Bのウェブサイト及び名刺には具体的な業務等の記載がないことから、具体的役務の提供等に関する宣伝広告ということはできず、使用標章及び結合標章は、単に参加人Bを表象するものというべきであるから、前記表示をもって参加人Bの商標としての使用と認めることはできない。
(4)小括
以上からすれば、使用標章及び結合標章の上記事実をもって、参加人Bが、自己の業務に係る役務について本件商標及びこれに類似する商標を使用したものと認めることはできない。

3 まとめ
以上のとおり、参加人Bは、本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるといえず、また、使用標章又は結合標章は、本件商標と同一又はこれと類似する商標ともいえないから、その余について論及するまでもなく、本件審判請求は、成り立たない。
したがって、参加人Bによる使用標章又は結合標章の使用は、商標法第53条第1項の要件を欠くものであるから、本件商標の登録は、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2010-07-08 
結審通知日 2010-07-12 
審決日 2010-07-26 
出願番号 商願平4-149042 
審決分類 T 1 31・ 5- Y (042)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 修 
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 田中 亨子
野口 美代子
登録日 1997-05-09 
登録番号 商標登録第3303268号(T3303268) 
商標の称呼 エヌテイテイ 
代理人 曽我部 高志 
代理人 曽我部 高志 
代理人 水谷 直樹 
代理人 正林 真之 
代理人 水谷 直樹 
代理人 水谷 直樹 
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