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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X03
管理番号 1234917 
審判番号 無効2010-890043 
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-05-21 
確定日 2011-03-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第5261390号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5261390号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成21年1月21日に登録出願、第3類「自動車用芳香剤,自動車用消臭芳香剤」を指定商品として、同年8月4日に登録査定、同年8月28日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第150号証を提出した。
1 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用する商標は、後掲のとおりの登録商標であり、いずれの商標権も現に有効に存続している(審決注:引用商標4及び引用商標15は、平成22年4月14日にいずれも、その商標権の存続期間が満了している。)ものである。以下、請求人の引用する商標を順次「引用商標1」ないし「引用商標20」といい、これらの商標を総称するときは「引用各商標」という。
2 請求人の主張の要点
(1)請求人及び「シャネルマーク、カンボンマーク」の著名性について
請求人は、著名なデザイナーである「Gabrielle coco CHANEL」により創設され、高級婦人服、靴、帽子、ハンドバッグ、ベルトの他、アクセサリー等の宝飾品、時計、香水等の化粧品などのデザイン・企画並びにこれらの商品の製造販売を業とするトータル・ファッション・メーカーである。請求人の業務に係る商品は、極めて高い知名度を有しており、世界の超一流品としての極めて高い信用が日本においても形成されているものである。
引用商標1ないし引用商標18は、請求人の創業者であるデザイナー「Gabrielle coco CHANEL」のイニシャルを図案化したものであって「シャネルマーク」と称されており、引用商標19及び引用商標20は、2004年から使用されている請求人の新ラインであって、ガブリエル・シャネルが1910年にパリ・カンボン通りに初めて店を開いたことにちなんで「カンボンマーク」と称されているものである。
「シャネルマーク」が付された請求人の商品は、日本を含め世界中で超一流品としての信用が形成されており、数々の刊行物(甲第49号証ないし甲第57号証及び甲第59号証ないし甲第91号証)等によって紹介されているばかりでなく、引用商標3、引用商標5、引用商標11及び引用商標13には防護標章登録が認められており、横浜地裁昭和58年(ワ)386号判決(甲第95号証)や東京高裁平成9年(行ケ)279号判決(甲第96号証)、さらには、多数の審査例、審決例及び異議決定例において、「シャネルマーク」の著名性が認められている(甲第93号証、甲第95号証ないし甲第128号証)。また、諸外国においてもこの「シャネルマーク」は商標登録されており、請求人の業務にかかる商品又は役務に使用される商標として広く認識されている(甲第79号証)。
また、「カンボンマーク」についても、2004年の発売からわずか1年後の2005年に発行されたファッション書籍「CHANEL SUPER COLLECTION」(甲第137号証)において、請求人の人気のラインとして掲載されているように、請求人のバッグや財布等について使用される商標として、我が国で広く知られた商標となっている。
以上のことから、本件商標の出願時はもちろんのこと、本件商標の査定時においても、「シャネルマーク」及び「カンボンマーク」は、請求人の業務にかかる香水、化粧品、被服、履物、かばん類、身飾品等のファッション関連商品に使用される商標として、世界的に著名な商標となっていたことは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標と引用各商標との類似性について
本件商標は、欧文字の「D」と「C」の一部を交差させた図形商標である。一方、引用商標1ないし引用商標18は、欧文字の「C」字状の文字を左右対称に背中合わせに一部を交差させた特徴的な構成態様の図形商標であり、引用商標19及び引用商標20は、アルファベットの「C」とそれを反転させた図形の左側約半分を省略した図形を交差させた商標である。
本件商標と引用商標1ないし引用商標18とを比較すると、本件商標は、「D」と「C」の欧文字を交差させており、欧文字の「C」と「C」を背中合わせに交差させてなる引用商標1ないし引用商標18とは、その構成の軌を同じくする商標である。そして、二つのアルファベット文字がバランス良く背中合わせに配されている点、図形部分が特定の事物を表現したものとは直ちに認識されないほどに構成上顕著な特徴を持っている点、同一半径の二つの文字を組み合わせた図形から構成されている点など、本件商標及び引用商標1ないし引用商標18において共通した点が多くみられる。
また、引用商標19及び引用商標20と本件商標を対比した場合には、本件商標は、引用商標19及び引用商標20の構成態様、すなわち、アルファベットの「C」とそれを反転させた図形の左側約半分を省略した図形を交差させた態様をそっくりそのまま含み、引用商標19及び引用商標20の左側の図形部分に縦線を付け加えたに過ぎない。
本件商標は、このように、引用各商標と構成の軌を同じくする商標というべきであり、その他にも共通点が多く見受けられることから、全体として外観上、引用各商標と極めて近似した印象を与える商標であり、外観上相紛れる商標として認識されるというべきである。
そして、「商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、そのためには、そのような商品に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況にもとづいて判断すべきである」と判示した最高裁昭和39年(行ツ)第110号判決(甲第129号証)等に照らしてみれば、本件商標と引用各商標との類似性の判断においても、引用各商標の著名性が考慮されて然るべきであり、引用各商標の著名性という取引の実情を考慮すれば、本件商標と引用各商標との類似性はより高くなり、本件商標は、創作的な引用各商標と構成の軌を一にする相似た商標と判断されて然るべきである。
なお、引用各商標は、図形のみから構成された商標であることから特定の称呼及び観念が生ずるとはいえず、本件商標と引用各商標は、称呼及び観念においては比較すべくもない。
イ 指定商品の比較
本件商標の指定商品は、第3類「自動車用芳香剤、自動車用消臭芳香剤」であり、これは「香料類」に包含される商品である。
一方、引用各商標中、引用商標3、引用商標10及び引用商標11は、第3類「香料類」を指定商品に含むものである。
したがって、本件商標は、引用商標3、引用商標10及び引用商標11の指定商品「香料類」と類似する商品をその指定商品とする商標である。
ウ 小括
以上のとおり、本件商標は、引用各商標に類似し、その指定商品は、引用商標3、引用商標10及び引用商標11に係る指定商品に包含される商品であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
商標法第4条第1項第15号の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものとされている(最高裁平成10年(行ヒ)第85号判決)。
そこで、本件商標が引用各商標との間で「混同を生ずるおそれ」があるか否かについて、上記の基準に照らし検討する。
ア 当該商標と他人の表示との類似性の程度
著名な引用各商標と主たる構成が共通する図形部分を構成に含む本件商標と引用各商標とは、両商標を離隔観察した場合、視覚上、特に強く需要者の印象に残る部分が共通する商標である。よって、本件商標と引用各商標との類似性は非常に高いといえる。
イ 他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
引用商標1ないし引用商標18の「シャネルマーク」は、請求人の別件商標「CHANEL」と共に請求人の業務に係る商品又は役務に使用されるハウスマークとして著名な商標であり、引用商標19及び引用商標20は、「カンボンマーク」とネーミングされた図形商標であって、引用商標19及び引用商標20が使用されたバッグ、財布、洋服等のラインは「カンボンマーク」と称され広く知られている。
そして、引用各商標の特徴的な構成は、請求人以外の第三者により商標として採択される可能性の低い創造標章であることは明白である。
ウ 互いの商品の関連性の程度及び取引者・需要者の共通性
請求人が引用各商標を長年にわたって使用している製品中の「香水、化粧品」と本件商標の指定商品「自動車用芳香剤、自動車用消臭芳香剤」との関連性についてみるに、本件商標の指定商品は、「自動車用」という用途が限定される芳香剤であるが、原材料として、ムスクやローズといった香料原料が必ず使用されるものである。一方、「香水、化粧品」も香料原料が使用されている。したがって、両商品は、商品の性質において共通性を有するものである。
そして、自動車用芳香剤や自動車用消臭芳香剤は、空間の香りを良くしたり又は改善するための商品であり、「香水、化粧品」は、顔や身体の香りを良くしたり又は改善するための商品であるから、商品の目的においてもある程度の共通性を有するものである。
さらに、自動車用芳香剤や自動車用消臭芳香剤の購入者は、空間の良い香りを楽しむから、身体の良い香りを楽しむ「香水、化粧品、せっけん類」の購入者との間で、嗜好において関連性が高いといえる。実際、自動車用芳香剤の宣伝においては、香りの説明文において、「有名香水の香りをモチーフに・・」、「有名香水をアレンジした香り」、「香りは人気の香水フレグランスを集め・・」、「人気の香水調も選べる4種類の香り」といった香水をイメージさせた記載で芳香剤の香りを紹介している事例が多数ある(甲第140号証)。また、「ケンゾーの香水ローパーケンゾータイプ」、「ランコムの香水トレゾアタイプ」、「ザボディショップの香水ホワイトムスクタイプ」、「カルバンクラインの香水エタニティタイプ」、「アランドロンの香水サムライタイプ」等と、特定の有名香水の名称を挙げることで、自動車用芳香剤と香水との関連性を需要者に強く意識させる宣伝文句も存在する(甲第140号証)。
本件商標の使用態様においても、同様であり、被請求人(商標権者)は、本件商標を紹介する自社のホームページにおいて、「有名香水ブランドのエッセンスを加え、ひと際ゴージャスなワンランク上の車内空間を演出します。」と記載しており、本件商標に係る自動車用芳香剤と香水との関連性を需要者に印象付ける宣伝文句を使用しているものである(甲第141号証)。
上記に加えて、本件商標の指定商品分野では、関連グッズとして、コロンや香水を染み込ませて使用する車内用のフレグランスケース等が販売されていたり、車内空間でも使用できるボディスプレーが実際に市場で販売されている(甲第140号証)。このように、香水が自動車用芳香剤としても使用されている取引実情に鑑みれば、両商品は、商品の用途の面でも共通性が高いというべきである。
エ その他の取引の実情
さらに、請求人の経営は、フレグランス、化粧品のみならず、被服、身飾品を含むファッション・アパレル業界全体に及び、世界的なトータル・ファッション・メーカーとして著名であり、ファッション・アパレルに関する分野で多角経営を行なっている。それゆえ、本件商標が使用される商品に接した取引者・需要者が当該商品を請求人または請求人と関連のある者に係る商品であるかのごとく、商品の出所について誤認・混同を起こすおそれが高いというべきである。かかる請求人の主張が妥当であることは、過去の審決及び異議決定においても認められている(甲第97号証、甲第93号証)。
オ 小括
以上のように、著名な引用各商標を容易に想起し得る本件商標がその指定商品に使用された場合、これに接する取引者・需要者は、あたかも請求人若しくは請求人と何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると言うべきである。
さらに、最高裁平成10年(行ヒ)第85号審決取消請求事件(レールデュタン判決)においては、本号の趣旨が「周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の稀釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護すること」と判示されている。
本件においても、本件商標の引用各商標に対する稀釈化を防止し、引用各商標が有する自他商品識別機能を保護すべきであり、本号の趣旨から考えても本件商標はその商品の出所について混同を生ずるおそれがあると判断されるべきである
したがって、本件商標は、商標法第4条第1号第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標は、上述したように、独自性の高い著名な引用各商標とその構成及び態様が極めて酷似する商標として認識され、本件商標と引用各商標とは類似する商標というべきである。また、引用各商標は、前述のように、請求人による多年にわたる努力の積み重ねの結果、需要者間において広く知られ、高い名声・信用・評判を獲得するに至っており、本件商標の出願時には、引用各商標は既に請求人の業務に係る商品又は役務に使用される商標として極めて広く知られていた著名商標というべきである。
そして、本件商標は、偶然に著名な引用各商標と類似する商標を出願したものとは考え難く、引用各商標の有する高い名声・信用・評判にフリーライドする目的をもって出願したものというべきであり、あるいは、引用各商標の出所表示機能を稀釈化させ、その名声を毀損させる目的をもって出願されたものというべきであり、このような本件商標は、信義則に反する不正の目的でなされた出願というべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(5)むすび
以上のことから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に該当するから、商標法第46条第1項の規定によりその登録を無効とされるべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
1 引用各商標の著名性に対する反論
(1)「シャネルマーク」の著名性について
引用商標1ないし引用商標18は、いずれも、2つのC字形状の弧を一方を反転させ弧状部分が他方と交叉するように組み合わせてなるものであって、世界的に広く認識されていることは、甲第97号証(昭和57年審判第14209号審決)3頁右8行目以降の認めるとおりである。
ここに示されるとおり、「シャネルマーク」は、請求人の創設者である「COCO CHANEL」の頭文字「C・C」を組み合わせて図案化したものである。このため、商品に接した取引者・需要者は、同一形状のピアスを、「CCマーク」と表現したり(甲第94号証「交通タイムス社2002年発行 CHANEL SUPER COLLECTION」31頁)、「シャネルのシンボル、CCを象ったココマーク」と表現しており(乙第1号証「ブランドジョイ平成17年9月増刊号」58頁6行目)、いずれも「シャネルマーク」とは異なった表現をしているのである。
つまり、引用商標1ないし引用商標18を請求人が「シャネルマーク」と呼ぶとしても、特定の称呼を持たない図形であるために、商品に接した取引者・需要者は、「CCマーク」や「ココマーク」などのように、「シャネルマーク」と異なる呼び方もしているのである。
以上のように、引用商標1ないし引用商標18は、請求人の主張と異なる表記でも認識されているのである。
(2)「カンボンマーク」の著名性について
請求人は、引用商標19及び引用商標20について「カンボンマーク」と称され、請求人のバッグや財布等に使用されている商標として、我が国で広く知られた商標となっている旨主張している。
しかしながら、甲第137号証に掲載のバッグが乙第1号証64、65頁に掲載されており、これら「カンボンライン」商品に共通の説明文として、乙第1号証63頁左下の記事中段に「ボディーのサイドにデザインされたインパクトのあるココマークが、存在感を主張してくれます。」と記載されている。
つまり、請求人が「カンボンマーク」と称するマークは、乙第1号証では「シャネルマーク」と同義であるところの「ココマーク」と認識されているのである。
同様に、請求人が「カンボンマーク」と称するマークは、甲第137号証3枚目(頁番号不明)左上の説明文においても、「光沢のあるラムスキンにキルティング加工、そして何よりCCマーク!」と記載され、「シャネルマーク」と同義であるところの「CCマーク」と認識されているのである。
さらに、乙第2号証は、請求人が2004年から2005年にかけて営業の基盤とするフランス本国において実施した広告であり、甲第137号証に掲載のバッグ等に関する広告及び拡大写真が記載されているところ、本広告中には、「バッグを正面に向けた写真」と「シャネルマークを正面に向けた写真」が混在しているが、いずれの写真も請求人が「カンボンライン」を広告表現したものである。
一方で、請求人は、引用商標19及び引用商標20は、アルファベットの「C」とそれを反転させた図形の左側約半分を省略した図形を交差させた商標である旨主張している。しかし、アルファベットの「C」とそれを反転させた図形の左側約半分を省略した図形を交差させた商標こそが「カンボンライン」であるとの請求人の主張は、乙第2号証の請求人自身による広告の主旨と明らかに矛盾するのである。なぜならば、乙第2号証の広告には、省略部分のない完全なシャネルマークを正面に向けた写真が含まれているからである。
以上のことから、請求人の広告表現によってのみ「カンボンライン」を認識する立場にあるところの取引者・需要者は、アルファベットの「C」とそれを反転させた図形の左側約半分を省略した図形を交差させた商標が付されたバッグも「著名なシャネルマークが商品の左端部に配置されたデザインを特徴とするバッグ」としてしか認識できないのである。
このことは、甲第137号証7枚目(頁番号不明)左中段の財布の説明文において、「4分の1ほどが隠れたCCマークの配置バランスが絶妙。」と記載されていることや甲第137号証2枚目(頁番号不明)の記事を担当した編集者が右上の写真において、「モデルの女性が肩から下げる黒いバックに付された金色の図形が、請求人が省略した左側約半分のみしか写っていない写真である」にもかかわらずカンボンラインの記事に採用したことからも明白である。
したがって、請求人が「カンボンマーク」と称する引用商標19及び引用商標20のマークは、取引者・需要者においては、「シャネルマーク」、「CCマーク」又は「ココマーク」と同一に認識されているのであって、未だに我が国で広く知られた商標とはなっていないのである。
2 商標法第4条第1項第11号について
本件商標から「デイシイ」なる称呼が生じることは明らかである。一方、請求人も認めているとおり、引用各商標については特定の称呼を生じないものであり、本件商標及び引用各商標から何等の観念も生じないことも明白である。
また、外観についてみるに、本件商標は、単純な「D」の文字と「C」の文字を重ねた図形であることは明白であって、「C・C」を図案化してなる引用商標1から引用商標18や、そこからさらに「左側約半分を省略した」と請求人が主張する引用商標19及び引用商標20とは、請求人の主張する図案化の基礎となるアルファベットが相違するのであるから、本件商標と引用各商標が外観上類似しないことは明らかである。
したがって、本件商標は、引用各商標とは外観、称呼、観念のいずれの点においても類似しない商標であって、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。
3 商標法第4条第1項第15号について
引用各商標は、全体として一種の抽象的図形を表したとの印象を与えるものであるから、前述のとおり、本件商標とは相違するものであって、本件商標に接する取引者・需要者が引用各商標を想起することはできない。
したがって、本件商標をその指定商品について使用しても、該商品が請求人または請求人と経済的、組織的に関係のある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。
4 商標法第4条第1項第19号について
本件商標は、前述のとおり、引用各商標とは非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものではないことは明白である。
5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に違反してされたものではない。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標の登録が商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に違反してされたものである旨主張して本件審判を請求している。
1 引用各商標の著名性について
引用各商標の著名性についてみると、請求人は、引用商標1ないし引用商標18は「シャネルマーク」と称されて著名であり、引用商標19及び引用商標20は「カンボンマーク」と称されて著名である旨述べている。
請求人の提出に係る講談社発行の各年版「世界の一流品大図鑑」(甲第49号証ないし甲第57号証、甲第59号証ないし甲第70号証)、読売新聞社発行「The一流品PART 3(1988年発行)」(甲第71号証)、世界文化社発行「Made in EUROPE ヨーロッパの一流品女性版(1982年発行)」(甲第72号証)、毎日新聞社発行「パリ大図鑑(1983年発行)」(甲第73号証)、日本交通公社出版事業局発行「メイド・イン・フランス大図鑑(1984年発行)」(甲第74号証)、主婦と生活社発行「別冊ジュノン 世界の逸品百科事典」(甲第75号証)、サンケイマーケティング発行「’82ザ・ブランド(1982年発行)」(甲第76号証)、講談社発行「世界の一流ブランド 本物・ニセモノ大図鑑(1986年発行)」(甲第77号証)、世界文化社発行「家庭画報編 世界の特選品’84 LADIES’(1983年発行)」(甲第78号証)をはじめとする甲各号証の刊行物等によれば、請求人は、請求人の創業者であるデザイナー「Gabrielle coco CHANEL」により創設され、香水等の化粧品の他、高級婦人服、ハンドバッグ、ベルト、靴、時計、アクセサリー等の宝飾品等のデザイン・企画並びにこれらの商品の製造販売を業とするトータル・ファッション・メーカーであることが認められる。
そして、請求人の使用に係る引用商標1ないし引用商標18は、請求人の創業者である「COCO CHANEL」の頭文字「C・C」を組み合わせて図案化したものであり、「C」字状の文字を左右対称にして、その一部が重なり合うように、背中合わせに交差させた構成の図形を要部とするものであり、「シャネルマーク」と称され、「CHANEL」の文字よりなる商標とともに、請求人の取扱いに係る上記商品について永年にわたり使用され、本件商標の出願前には既に、我が国における取引者・需要者の間において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く知られていたものと認めることができる(但し、引用商標2及び引用商標7は、色彩をもって表されているが、提出に係る証拠は白黒のコピーが多いため、この態様の色彩からなる商標として実際に使用されていたものであるか否かを確認することができない。)。
一方、引用商標19及び引用商標20は、いわゆる「シャネルマーク」と称される上記した図形商標のうち、左側を構成する反転させた「C」字状図形を半円状の如くに表した態様の商標であるところ、請求人の提出に係る甲第137号証(株式会社交通タイムス発行「CHANEL SUPER COLLECTION 2005」)や被請求人の提出に係る乙第1号証(ネコ・パブリッシング発行「ブランドジョイ」平成17年9月号増刊)及び乙第2号証(請求人がフランスにおいて実施した広告)の使用状況に照らしてみれば、上記した態様の商標として表されているものもあるが、見方によっては、上記した態様の商標のように見えるにすぎないものもあるのであって、これらが「シャネルマーク」の一形態として認識されるとはいえても(その限りにおいては、他の「シャネルマーク」と同様に、「シャネルマーク」として著名であることは認められるとしても)、提出に係る証拠をもってしては、本件商標の出願当時において、「カンボンマーク」と称される該図形自体が独自の形態の商標として周知・著名になっていたものとは認められない。
2 本件商標と引用各商標との類否について
(1)本件商標の構成
本件商標は、別掲(1)のとおり、アルファベットの「D」と「C」の文字を縁取り線をもって太字でモノグラム状に表したものであり、「D」の文字については、右上部分の一部を切り欠き、「C」の文字については、左下部分の一部を切り欠いて、「D」と「C」の文字が重なり合うことなく交差して連結しているように配置された構成からなるものである。
(2)引用各商標の構成
引用商標1ないし引用商標18は、別掲(2)ないし別掲(7)のとおり、細線で表されているものや太線で表されているもの、あるいは、円状輪郭を伴うもの(引用商標4、5、11、13、15、17)、四角状輪郭をともなうもの(引用商標6)もあるが、いずれも「C」字状の文字を左右対称にして、その一部が重なり合うように、背中合わせに交差させた構成の図形を要部とするものである。そして、引用商標2及び引用商標7は、該図形のうち、右側部分は薄い銀色で表されており、左側部分は薄い茶色で表されている。
また、引用商標19及び引用商標20は、別掲(8)のとおり、アルファベットの「C」字状の図形を右側に配し、左側には反転させた「C」字状図形の開口部近くをカットして半円状のごとくに表した図形を配し、互いの一部が重なり合うように、背中合わせに交差させた構成からなるものである。
(3)本件商標と引用各商標との類否
ア 外観の類否について
本件商標と引用各商標(又はその要部)とを比較するに、本件商標は、一見して、アルファベットの「D」と「C」の文字をモノグラム状に組み合わせて表したものであることを把握し得るのに対して、引用各商標は、「C」字状の文字の組合せを基調とするものであるということができる。そして、その描出方法をみても、本件商標は、縁取り線をもって太字で表されており、両文字の結合も、「D」と「C」の文字を並列に並べ、かつ、「D」の文字の右上部分の一部と「C」の文字の左下部分の一部を切り欠いて「D」と「C」の文字が重なり合うことなく交差して連結しているように配置された構成からなるのに対して、引用商標1ないし引用商標18は、「C」字状の文字を左右対称にして、その一部が重なり合うように、背中合わせに交差させた構成からなるものであり、また、引用商標19及び引用商標20は、上記した図形構成中の左側部分を構成する反転させた「C」字状図形を半円状のごとくに表したものである。
そうとすれば、本件商標と引用各商標とは、構成の半分を占める左側部分における形状(字形)を異にするばかりでなく、その描出方法にも明らかな差異を有するものであるから、その差異が構成全体の視覚的印象に与える影響は大きく、全く別異のものというべきである。
してみれば、本件商標と引用各商標とは、これらを時と処を異にして離隔的に観察しても、外観において相紛れるおそれはないものといわなければならない。
イ 称呼及び観念の類否について
次に、両商標の称呼及び観念の類否についてみると、本件商標は、上記したとおり、モノグラム状の図形商標ではあるが、明らかに、その構成からアルファベットの「D」と「C」の文字を読み取ることの出来るものであるから、これより「デイシイ」の称呼を生ずるものといえるが、これより特定の親しまれた観念を生ずるものとはいえない。
一方、引用各商標は、称呼の点については、請求人も認めているように、特定の称呼を生ずるものとはいえないが、観念の点については、ブランドとしての「シャネルのマーク」なる観念を生ずるものとみるのが相当である。
そうとすれば、本件商標と引用各商標とは、称呼及び観念については、比較すべくもないものである。
ウ 以上のとおり、本件商標と引用各商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
3 商標法第4条第1項第11号について
請求人は、本件商標が引用商標3、引用商標10及び引用商標11との関係において、商標法第4条第1項第11号に該当する旨主張している。
確かに、本件商標の指定商品は、第3類「自動車用芳香剤、自動車用消臭芳香剤」であり、これは、引用商標3、引用商標10及び引用商標11の指定商品中の第3類「香料類」に包含される商品と認められるものである。
しかしながら、上記2において認定したとおり、本件商標と引用商標3、引用商標10及び引用商標11とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
そうとすれば、本件商標は、上記各商標との関係において、商標法第4条第1項第11号に規定されている要件を満たすものとはいえない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものということはできない。
4 商標法第4条第1項第15号について
前記1において認定したとおり、引用商標19及び引用商標20が「カンボンマーク」と称される独自の形態の商標として周知・著名になっていたものとは認められないが、引用商標1ないし引用商標18は「シャネルマーク」と称されて、本件商標の登録出願前より、我が国においても、香水等の化粧品の他、高級婦人服、ハンドバッグ、ベルト、靴、時計、アクセサリー等の宝飾品等の商標として、取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
しかしながら、前記2において認定したとおり、本件商標と引用各商標とは、十分に区別し得る別異の商標というべきものであり、他に商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとすべき格別の事情も見いだし得ないから、商標権者(被請求人)が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者をして引用各商標を連想又は想起させるものとは認められず、その商品が請求人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものというべきである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものということはできない。
5 商標法第4条第1項第19号について
前記2のとおり、本件商標と引用各商標とは、非類似の商標であるから、その余の要件について判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
なお、請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に該当するものとして、判決例、審決例及び異議決定例を数多く提出しているが、それらの審判決例等で争われている商標は、本件商標とは商標の構成を異にするものであって、事案を異にするものというべきであるから、上記認定に影響を及ぼすものとは認められない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。

後掲

引用各商標
(ア)引用商標1(登録第1727592号商標)
商標の構成 別掲(2)のとおり
登録出願日 昭和54年1月29日
登録設定日 昭和59年11月27日
指定商品 第18類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとお りの商品(平成17年1月26日書換登録)
(イ)引用商標2(登録第1811253号商標)
商標の構成 別掲(3)のとおり
登録出願日 昭和57年10月13日
登録設定日 昭和60年9月27日
指定商品 第18類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとお りの商品(平成18年3月1日書換登録)
(ウ)引用商標3(登録第4964605号商標)
商標の構成 別掲(4)のとおり
登録出願日 平成18年2月2日
登録設定日 平成18年6月23日
指定商品及び指定役務 第3類、第5類、第6類、第8類、第9類、 第11類、第12類、第14類、第16類、第18類、第20類、第2 1類、第23類ないし第28類、第34類、第41類、第43類及び第 44類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
(エ)引用商標4(登録第4376900号商標)
商標の構成 別掲(5)のとおり
登録出願日 平成11年6月4日
登録設定日 平成12年4月14日
指定商品 第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(オ)引用商標5(登録第1263242号商標)
商標の構成 別掲(6)のとおり
登録出願日 昭和48年4月26日
登録設定日 昭和52年4月11日
指定商品 第5類、第9類、第10類、第16類、第17類、第2 0類、第21類、第22類、第24類及び第25類に属する商標登録原 簿記載のとおりの商品(平成19年7月18日書換登録)
(カ)引用商標6(登録第4567433号商標)
商標の構成 別掲(7)のとおり
登録出願日 平成13年7月19日
登録設定日 平成14年5月10日
指定商品 第3類、第9類、第14類、第18類、第25類及び第 28類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(キ)引用商標7(登録第1932457号商標)
商標の構成 別掲(3)のとおり
登録出願日 昭和57年10月13日
登録設定日 昭和62年2月25日
指定商品 第14類、第25類及び第26類に属する商標登録原簿 記載のとおりの商品(平成19年6月27日書換登録)
(ク)引用商標8(登録第1531366号商標)
商標の構成 別掲(2)のとおり
登録出願日 昭和53年9月6日
登録設定日 昭和57年8月27日
指定商品 第14類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品(平 成16年5月19日書換登録)
(ケ)引用商標9(登録第3106543号商標)
商標の構成 別掲(2)のとおり
登録出願日 平成4年8月18日
登録設定日 平成7年12月26日
指定商品 第18類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(コ)引用商標10(登録第1806610号商標)
商標の構成 別掲(2)のとおり
登録出願日 昭和54年1月29日
登録設定日 昭和60年9月27日
指定商品 第3類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品(平成 18年2月22日書換登録)
(サ)引用商標11(登録第1285553号商標)
商標の構成 別掲(6)のとおり
登録出願日 昭和48年4月26日
登録設定日 昭和52年7月20日
指定商品 第3類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品(平成 19年7月18日書換登録)
(シ)引用商標12(登録第3326557号商標)
商標の構成 別掲(2)のとおり
登録出願日 平成6年8月26日
登録設定日 平成9年6月27日
指定商品 第24類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(ス)引用商標13(登録第1314571号商標)
商標の構成 別掲(6)のとおり
登録出願日 昭和48年4月26日
登録設定日 昭和52年12月2日
指定商品 第17類、第24類及び第26類に属する商標登録原簿 記載のとおりの商品(平成19年7月4日書換登録)
(セ)引用商標14(登録第4258117号商標)
商標の構成 別掲(4)のとおり
登録出願日 平成9年11月27日
登録設定日 平成11年4月2日
指定商品 第9類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(ソ)引用商標15(登録第4376832号商標)
商標の構成 別掲(5)のとおり
登録出願日 平成11年2月19日
登録設定日 平成12年4月14日
指定商品 第9類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(タ)引用商標16(登録第4507077号商標)
商標の構成 別掲(4)のとおり
登録出願日 平成12年10月18日
登録設定日 平成13年9月14日
指定商品 第28類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(チ)引用商標17(登録第4475741号商標)
商標の構成 別掲(5)のとおり
登録出願日 平成12年5月17日
登録設定日 平成13年5月18日
指定商品 第4類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(ツ)引用商標18(登録第5140748号商標)
商標の構成 別掲(4)のとおり
登録出願日 平成19年4月27日
登録設定日 平成20年6月13日
指定役務 第35類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務
(テ)引用商標19(登録第4885606号商標)
商標の構成 別掲(8)のとおり
登録出願日 平成17年4月8日(2004年12月23日にスイス 連邦においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を 主張)
登録設定日 平成17年8月5日
指定商品 第18類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(ト)引用商標20(登録第5067629号商標)
商標の構成 別掲(8)のとおり
登録出願日 平成19年2月8日
登録設定日 平成19年8月3日
指定商品 第8類、第9類、第14類、第16類、第18類、第2 0類、第21類、第24類、第25類、第26類及び第34類に属する 商標登録原簿記載のとおりの商品
別掲 別掲
(1)本件商標






(2)引用商標1、引用商標8、引用商標9、引用商標10、引用商標12




(3)引用商標2、引用商標7




(色彩については原本参照)

(4)引用商標3、引用商標14、引用商標16、引用商標18





(5)引用商標4、引用商標15、引用商標17





(6)引用商標5、引用商標11、引用商標13





(7)引用商標6





(8)引用商標19、引用商標20





審理終結日 2010-10-22 
結審通知日 2010-10-27 
審決日 2010-11-10 
出願番号 商願2009-3257(T2009-3257) 
審決分類 T 1 11・ 26- Y (X03)
T 1 11・ 222- Y (X03)
T 1 11・ 271- Y (X03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前山 るり子 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 瀧本 佐代子
小畑 恵一
登録日 2009-08-28 
登録番号 商標登録第5261390号(T5261390) 
商標の称呼 デイシイ 
復代理人 田中 景子 
代理人 田中 克郎 
復代理人 佐藤 俊司 
代理人 稲葉 良幸 
復代理人 宮川 美津子 

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