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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 X09162541
審判 全部申立て  登録を維持 X09162541
審判 全部申立て  登録を維持 X09162541
管理番号 1228563 
異議申立番号 異議2008-900243 
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2011-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2008-06-09 
確定日 2010-11-15 
異議申立件数
事件の表示 登録第5116209号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについてされた平成21年8月5日付け決定に対し、知的財産高等裁判所において、その決定のうち商標登録を取り消した部分を取り消す旨の判決(平成21年(行ケ)第10274号、平成22年1月13日判決言渡)があったので、決定が取り消された部分について、さらに審理のうえ、次のとおり決定する。 
結論 登録第5116209号商標の指定商品及び指定役務中、第9類「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」についての商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5116209号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(A)の構成よりなり、平成19年6月12日に登録出願、第9類「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」、第16類「文房具類,印刷物,写真」、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物」及び第41類「書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」を指定商品及び指定役務として、同20年1月29日に登録査定、同年3月7日に設定登録されたものである。

第2 手続の経緯
本件商標登録について、平成20年6月9日付けで、「本件商標登録は、取消されるべきである。」旨の登録異議の申立てがあり、同21年8月5日付けで、「本件商標の指定商品及び指定役務中、結論掲記の商品及び役務についての商標登録を取り消す。本件登録異議の申立てに係るその余の指定商品及び指定役務についての商標登録を維持する。」旨の決定(以下「第一決定」という。)がなされた。
この第一決定に対し、商標権者は、その決定のうち、商標登録を取り消した部分の取り消しを求め、知的財産高等裁判所に出訴し、これが平成21年(行ケ)第10274号事件として審理された結果、平成22年1月13日に「特許庁が異議2008-900243号事件について平成21年8月5日にした決定のうち,商標登録を取り消した部分を取り消す。」との判決がなされ、当該判決は確定した。
なお、本件登録異議の申立てに係る指定商品及び指定役務中、第一決定で商標登録を維持するとされた指定商品及び指定役務、すなわち、第16類「文房具類,印刷物,写真」、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物」及び第41類「書籍の制作,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,放送番組の制作」についての決定は、これに対して不服を申し立てることができない(商標法第43条の3第5項)から、該決定が商標権者に送達された日である平成21年8月24日に確定したものである。

第3 引用商標
登録異議申立人「ムジドール・ビー・ブイ」(以下「申立人」という。)が引用する登録商標は、以下のとおりである。
1 登録第1411158号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(B)の構成よりなり、昭和50年9月16日に登録出願、第24類「レコード、カセット式録音済テープ、その他の録音済テープ、その他本類に属する商品」を指定商品として、同55年3月28日に設定登録され、その後、平成2年8月29日、同12年1月18日及び同21年11月10日の3回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、指定商品につては、同22年1月27日に第9類「音声を記憶させた記録媒体,レコード,SPレコード,LPレコード,EPレコード,ステレオレコード,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD?ROM,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,メトロノーム」とする書換登録がされ、現に有効に存続するものである。
2 登録第2574649号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(C)の構成よりなり、平成2年3月28日に登録出願、第26類「印刷物、書画、写真、その他本類に属する商品」を指定商品として、同5年9月30日に設定登録され、その後、同15年5月20日に商標権の存続期間の更新登録がされ、指定商品については、同年8月13日に第9類「映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」及び第16類「印刷物,書画,写真,写真立て」とする書換登録がされ、現に有効に存続するものである。
3 登録第2520526号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲(C)の構成よりなり、平成2年3月28日に登録出願、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品として、同5年3月31日に設定登録され、その後、同15年5月13日に商標権の存続期間の更新登録がされ、指定商品については、同年6月25日に第25類「被服」とする書換登録がされ、現に有効に存続するものである。
4 登録第1373677号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲(D)の構成よりなり、昭和49年10月29日に登録出願、第21類「装身具、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品として、同54年2月27日に設定登録され、その後、平成元年5月26日、同11年3月9日及び同20年10月7日の3回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、指定商品については、同21年10月14日に第25類「ベルト」及び第26類「衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。),腕止め,衣服用バックル,衣服用ブローチ,ワッペン,ボタン類」とする書換登録がされ、現に有効に存続するものである。
5 登録第4374481号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲(E)の構成よりなり、平成10年11月13日に登録出願、第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,ディスコ・ナイトクラブ・その他の娯楽施設の提供」を指定役務として、同12年4月7日に設定登録され、同21年12月15日に商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続するものである。
以下、これらをまとめていうときは、「引用商標」という。

第4 登録異議申立ての理由(要旨)
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取消されるべきものである、旨申立て、証拠方法として甲第1号証ないし甲第32号証を提出している。
1 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、軽蔑や拒絶に気持ちを表す表情の「あかんべえ」の口元部を表した印象を受けるものであり、引用商標の構成からもまた、軽蔑や拒絶の気持ちを表す表情の「あかんべえ」の口元部を表した印象を受けるものであるから、本件商標と引用商標とは、外観において、互いに相紛らわしく、また、「あかんべえ」、「舌」若しくは「ベロ」の観念及び「あかんべえ」マーク、「ベロ」マークの称呼を共通にする類似する商標であり、かつ、本件商標の指定商品等は、引用商標の指定商品等と同一又は類似の商品又は役務を含むものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
2 商標法第4条第1項第15号について
引用商標は、本件商標に係る指定商品等の取引界において、需要者等に認知された著名商標である。これらの著名商標と基調を同じくする本件商標を、その本件商標の指定商品等に使用されたならば、著名ないずれかの引用商標と関連を有する商標としての広義の出所の誤認混同が生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 商標法第4条第1項第19号について
本件商標の図形の構成は、著名な引用商標と同じ「開放された人の口から、舌根が見えるほどに舌が出された図案を基調としている点」と、「ローリングストーンズ」がロックバンドであることからの「音符らしき図案の付加」及び「ローリングストーンズ」が英語圏所在である事実からの「アルファベットらしき表記」からなることを察すると、本件商標が偶然にも、このような図形で創案されたとは考えにくく、「ローリングストーンズ」の人気又は彼らがこれまで培ってきた業務上の信用にフリーライドしようとする不正の目的がある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標
本件商標は、別掲(A)のとおり、上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった赤色の上唇、開放された人の口から大きく張り出した赤色の舌、その舌の上部に配された白色の前歯状のもの、黒色の口内、舌上に中央部からの大きな3本の黒色の図形同図形の左端及び中央部の黒丸部分にはデザイン化された「AB」及び「C」の文字がそれぞれ描かれ、また、上唇の右上に黒い丸が描かれ、全体としてみると、人の口を正面から見た図形である。
(2)引用商標
引用商標は、別掲(B)ないし(E)のとおり、上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった上唇(その上唇の2か所の盛り上がった部分にそれぞれ白色の部分が設けられている((D)を除く)。)、開放された人の口から大きく張り出した舌(舌上の左右に舌の起伏を表すように記載された白色の2本の筋が描かれている。)、その舌の上部に配された白色の前歯状のもの、黒色の口内がそれぞれ描かれ((E)を除く。)、全体としてみると、人の口をやや右斜め方向から見た図形である。
(3)本件商標と引用商標の類否
ア まず、外観についてみると、両者は、上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった上唇、開放された人の口から大きく張り出した舌及び舌の上部に配された白色の前歯状のものが描かれているという点では、少なくとも構成を共通するということができる。
しかしながら、両者は、本件商標では正面方向から見た平面的な図形であるのに対して、引用商標ではやや右斜め方向から見た立体的な図形であってかなり印象を異にするものである点、本件商標では舌上に大きな3本の黒色の図形が描かれているのに対して、引用商標では舌上に白色の2本の筋が描かれている点、また、本件商標にのみ上唇右上に黒い丸が描かれている点などにおいて相違していることは否定し得ない。
イ 次に、称呼についてみると、本件商標の舌上の3本の黒色の図形中の「AB」及び「C」の文字がデザイン化されているとしてもデザイン化が過ぎる余り一見して文字が記載されているとは判読し難い状態になっているため、そのことから、本件商標については、明確に「エイビイシイ」との称呼が生ずるとまではいい難いが、本件商標登録においては、「AB」及び「C」の文字が、「エイビイシイ」と読むことが全くできないわけではない。これに対して、引用商標については、その形状から「リップ&タン(タン&リップ)」、「ベロロゴ」、「ベロマーク」等と通称されているが(甲第24号証、乙第8号証、乙第11号証)、確立した称呼が存在するものでない。
ウ 次に、観念についてみると、引用商標では、開放された人の口から舌を大きく張り出すものとの観念が生ずる。これに対して、本件商標では、上記のとおり、中央部から大きな3本の黒色の図形が存在することなどの点があることをみると、特定の観念が生じているということはできない。
(4)小括
以上のことから、本件商標と引用商標の類否についてみるに、称呼及び観念の共通性がないことに加え、外観においても、本件商標では正面方向から見た平面的な図形であるのに対して、引用商標ではやや右斜め方向から見た立体的な図形である点でかなり印象を異にするものである点、本件商標では舌上に3本の黒色の図形が描かれているのに対して、引用商標ではそのようなものがない点において相違していることも看過し得ない構成の特徴がある。
してみれば、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1) 判断基準
商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品等に使用したときに、当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等がその他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信される広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当であり、そして、同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照。)
そこで、上記の観点から、本件商標が同号に該当するか否かについて検討する。
(2)本件商標と他人の表示との類似性の程度
上記1(4)のとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるから、本件商標と引用商標との類似性の程度は、低いものである。
(3)引用商標の周知著名性及び独創性
ア 証拠(甲第7号証、甲第8号証、甲第11号証、甲第12号証、甲第20号証、甲第22号証)によれば、次の事実が認められる。
引用商標は、昭和46年(1971年)に発売されたローリングストーンズのレコードアルバム「ステッキー・フィンガーズ」のジャケットに採用されて登場したものである。
ところで、ローリングストーンズは、昭和38年(1963年)にレコードデビューし、ロック草創期の1960年代から現在まで40年以上にわたり、第一線で創作を続ける著名な英国のロックバンドであり、ビートルズと並び称されており、全世界でのレコードアルバムの総売上げは2億枚以上であって、その活躍は、我が国においても報道されてきた。
また、ローリングストーンズは、平成2年から平成18年にかけて幾度となく来日し、東京、大阪、横浜、福岡、名古屋、札幌及びさいたまにおいて公演を行っており、それぞれの公演には多数の観客が来場し、また、これらの公演は、テレビ放映されるなどし、最近に至るまでローリングストーンズの話題がしばしば新聞記事等で採り上げられている。そして、該公演において、引用商標に係る商品が多数販売されている。
イ 以上の事実によると、引用商標は、我が国においては、ローリングストーンズの業務に係る商品又は役務を表示するものとして、平成19年以前から継続的に使用されて認識が広められてきたものと認めることができ、遅くとも本件商標の登録出願時までには、ローリングストーンズの業務に係る商品又は役務を表示するものとして、音楽関連の取引者・需要者の間に広く認識され、かつ、著名となっていたものであって、その状態は、本件商標の登録査定時においても、なお継続していたということができる。
ウ また、引用商標は、上記1(2)のとおりの構成からなるものであって、斬新な図形であって、その独創性の程度は高いものであるということができる。
(4)指定商品及び指定役務とローリングストーンズの業務に係る商品等との関連性
本件指定商品等は、上記(3)のとおりの音楽バンドであるローリングストーンズの業務に係る商品又は役務と関連するものであって、ロックバンドであるローリングストーンズの業務に係る引用商標の商品及び役務は、本件指定商品等に含まれるものである。
(5)引用商標に係る取引者及び需要者
ローリングストーンズは、上記(3)アのとおり、昭和38年(1963年)にレコードデビューして以来、現在まで40年以上にわたり第一線で活躍し続けてきた著名なロックバンドであって、その音楽は、代表的なロック音楽の1つとされている(甲第11号証、甲第12号証、甲第23号証)。
ローリングストーンズは、平成2年から幾度となく来日して公演も行っており、我が国においても幅広い年齢層のファンがいるが、その中心は50歳代及び60歳代であって(商標権者の提出に係る乙第6号証)、ローリングストーンズの音楽に係る商品及び役務の需要者もこのような者が想定される。
(6)本件商標の使用による引用商標と誤信する可能性
上記1(1)ないし(3)及び2(3)によると、本件商標と引用商標とは、いずれも、上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった上唇、開放された人の口から大きく張り出した舌及び舌の上部に配された白色の上前歯状のものが描かれているという点で構成を共通にする。また、引用商標は、音楽関係の商品及び役務分野において、ローリングストーンズに係る商品又は役務を表示するものとして、取引者・需要者の間において著名で、かつ、独創性がある。
しかしながら、本件商標と引用商標とでは、称呼及び観念の共通性がないことに加え、外観においても、本件商標では正面方向から見た平面的な図形であるのに対して、引用商標等ではやや右斜め方向から見た立体的な図形である点でかなり印象を異にするものである点、本件商標では舌上に3本の黒色の図形が描かれているのに対して、引用商標ではそのようなものがない点において相違していることも看過し得ない構成の特徴である。そして、引用商標がローリングストーンズの業務に係る商品又は役務を表示するものとして音楽関係の取引者・需要者の間で周知・著名であることは、また、それ故に、引用商標と本件商標との上記の相違点は、看者にとってより意識されやすいものであると解されるところである。しかも、需要者についてみると、音楽は嗜好性が高いものであって、音楽CD等の購入、演奏会への参加等をしようとする者は、これらの商品又は役務が自らの対象とするもので間違いないかをそれなりの注意力をもって観察することが一般的であると解されること、取引者についてみるに、音楽について通暁していることが一般であるレコード店や音楽業界関係者等である本件指定商品等の取引者が、本件指定商品等において、本件商標をローリングストーンズの業務に係る商品又は役務と混同することは考え難いことなどの事情が認められるのである。
これらの事情を総合考慮すると、引用商標に係る商品又は役務は本件商標に係る本件指定商品等に含まれるものであるとしても、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標を本件指定商品等に使用した場合、これに接する取引者・需要者が、著名な商標である引用商標を連想・想起して、本件指定商品等がローリングストーンズ若しくはローリングストーンズとの間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品又は役務であると誤信するおそれがあるものと認めることはできないといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号について
上記1のとおり、本件商標と引用商標は、非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標は、その指定商品及び指定役務中、結論掲記の指定商品及び指定役務について、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号のいずれにも違反して登録されたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきものである。
なお、申立人は、本件商標に係る指定商品及び指定役務のすべてについての商標登録の取り消しを求めていたところ、前記第2に記載したとおり、結論掲記の商品及び役務以外の指定商品及び指定役務についての商標登録は維持すべき旨の決定が既に確定している。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲
(A)本件商標

(色彩についての詳細は、原本を参照されたい。)

(B)引用商標1



(C)引用商標2及び3


(D)引用商標4


(E)引用商標5



**********************************
(参考)
平成21年8月5日付け決定

異議の決定

異議2008-900243

東京都渋谷区円山町3-2
商標権者 有限会社アップライズ・プロダクト
東京都中央区八重洲2-1-6八重洲Kビル2階 真和総合法律事務所
代理人弁護士 東谷 隆夫
東京都中央区八重洲2-1-6八重洲Kビル2階 真和総合法律事務所
代理人弁護士 相川 裕
東京都中央区八重洲2-1-6八重洲Kビル2階 真和総合法律事務所
代理人弁護士 田村 彰浩
東京都中央区八重洲2-1-6八重洲Kビル2階 真和総合法律事務所
代理人弁護士 渡邊 竜行
東京都中央区八重洲2-1-6八重洲Kビル2階 真和総合法律事務所
代理人弁護士 佐藤 健太
オランダ国; 1017 シー・エイチ アムステルダム,ヘレングラツヒト 566
商標異議申立人 ムジドール・ビー・ブイ
大阪府吹田市江坂町1丁目23番101号 大同生命江坂ビル13階 小笠原特許事務所
代理人弁理士 小笠原 史朗
大阪府吹田市江坂町1丁目23番101号 大同生命江坂ビル13階 小笠原特許事務所
代理人弁理士 石川 達久

登録第5116209号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。

結 論
登録第5116209号商標の指定商品及び指定役務中、第9類「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」についての商標登録を取り消す。
本件登録異議の申立てに係るその余の指定商品及び指定役務についての商標登録を維持する。

理 由
第1 本件商標
本件登録第5116209号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(A)のとおりの構成よりなり、平成19年6月12日に登録出願、第9類「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」、第16類「文房具類,印刷物,写真」、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物」及び第41類「書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」を指定商品及び指定役務として、同20年3月7日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人「ムジドール・ビー・ブイ」(以下「申立人」という。)が引用する登録商標は、以下のとおりである。
(1)登録第1411158号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(B)のとおりの構成よりなり、昭和50年9月16日に登録出願、第24類「レコード、カセット式録音済テープ、その他の録音済テープ、その他本類に属する商品」を指定商品として、同55年3月28日に設定登録され、その後、平成2年8月29日及び同12年1月18日の2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続するものである。
(2)登録第2574649号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(C)のとおりの構成よりなり、平成2年3月28日に登録出願、第26類「印刷物、書画、写真、その他本類に属する商品」を指定商品として、同5年9月30日に設定登録され、その後、同15年5月20日に商標権の存続期間の更新登録がされ、同年8月13日に指定商品を、第9類「映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」及び第16類「印刷物,書画,写真,写真立て」とする書換登録がされ、現に有効に存続するものである。
(3)登録第2520526号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲(C)のとおりの構成よりなり、平成2年3月28日に登録出願、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品として、同5年3月31日に設定登録され、その後、同15年5月13日に商標権の存続期間の更新登録がされ、同年6月25日に指定商品を、第25類「被服」とする書換登録がされ、現に有効に存続するものである。
(4)登録第1373677号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲(D)のとおりの構成よりなり、昭和49年10月29日に登録出願、第21類「装身具、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品として、同54年2月27日に設定登録され、その後、平成元年5月26日、同11年3月9日及び同20年10月7日の3回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続するものである。
(5)登録第4374481号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲(E)のとおりの構成よりなり、平成10年11月13日に登録出願、第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,ディスコ・ナイトクラブ・その他の娯楽施設の提供」を指定役務として、同12年4月7日に設定登録され、現に有効に存続するものである。以下、これらをまとめていうときは、「引用商標」という。

第3 登録異議申立ての理由(要旨)
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取消されるべきものである、旨申立て、証拠方法として甲第1号証ないし甲第32号証を提出している。
1 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、軽蔑や拒絶に気持ちを表す表情の「あかんべえ」の口元部を表した印象を受けるものであり、引用商標の構成からもまた、軽蔑や拒絶の気持ちを表す表情の「あかんべえ」の口元部を表した印象を受けるものであるから、本件商標と引用商標とは、外観において、互いに相紛らわしく、また、「あかんべえ」、「舌」若しくは「ベロ」の観念及び「あかんべえ」マーク、「ベロ」マークの称呼を共通にする類似する商標であり、かつ、本件商標の指定商品等は、引用商標の指定商品等と同一又は類似の商品または役務を含むものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。
2 商標法第4条第1項第15号について
引用商標は、本件商標指定商品等の取引界において、需要者等に認知された著名商標である。これらの著名商標と基調を同じくする本件商標を、その本件商標の指定商品等に使用されたならば、著名ないずれかの引用商標と関連を有する商標としての広義の出所の誤認混同が生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 商標法第4条第1項第19号について
本件商標の図形の構成は、著名な引用商標と同じ「開放された人の口から、舌根が見えるほどに舌が出された図案を基調としている点」と、「ローリングストーンズ」がロックバンドであることからの「音符らしき図案の付加」、および、「ローリングストーンズ」が英語圏所在である事実からの「アルファベットらしき表記」からなることを察すると、本件商標が偶然にも、このような図形で創案されたとは考えにくく、「ローリングストーンズ」の人気、または、彼らがこれまで培ってきた業務上の信用にフリーライドしようとする不正の目的がある。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 本件商標に対する取消理由(要旨)
当審において、平成21年3月24日付けで商標権者に対し通知した取消理由は次のとおりである。
1 引用商標について
申立人の提出した甲各号証によれば、以下の事実が認められる。
(1)申立人は、引用商標の商標権者であり(甲第2ないし第6号証)、英国の音楽グループである「ローリングストーンズ」に関し、「Rolling Stones」及び「Tounge and Lip Design」の商標を所有するとの記載がある(甲第13号証)。また、申立人が、「Rolling Stones」の名称を、全ての区分及び全ての国において商標として使用しかつ登録する権利を有するとの記載がある(甲第14号証)。
上記ローリングストーンズは、英国ロンドンで結成され、1963年にレコードデビューしたロックバンドであって、現在に至るまで一度も解散することなく世界の第一線で活躍し、ビートルズと並び称され、デビュー当初より順調にヒット曲を出し、2007年現在もスポンサーのバックアップ等により大規模なツアーを行い、全世界でのレコードアルバムの総売上は2億枚以上であると記載されている(甲第11、第12、第23号証)。
日本においても、ローリングストーンズは、1990年に東京、1995年の東京及び福岡、1998年に東京及び大阪、2003年に東京、横浜及び大阪、2006年に東京、札幌、さいたま及び名古屋においてそれぞれ公演を行い、公演の一部はテレビ放送されたとの記載がある(甲第11及び第27号証)。
(2)引用商標1ないし3とほぼ同様の態様の図形に赤色又は橙色で着色した標章(以下「使用商標」という。)は、1970年に、ローリングストーンズのリーダーであるミック・ジャガーの発案によるヒンドゥー教のカーリー神の舌をモチーフに、デザイナーであるジョン・パッシュに作成させたとの記載がある(甲第21号証)。そして、使用商標は、1971年に発売されたローリングストーンズのレコードアルバム「ステッキー・フィンガーズ」のアルバムジャケットに採択され(甲第22ないし第24、第26号証)、先行シングルとして、「ブラウン・シュガー」が70年代初のNo.1ヒットになったとの記載がある(甲第23号証)。
(3)使用商標は、「ローリングストーンズ」をキーワードとしてインターネットにおいて検索すると、ローリングストーンズの名称とともに検索結果画面の最初に表示されている(甲第19号証)。
インターネットのローリングストーンズオフィシャルストアにおいて、ローリングストーンズのコンサートや音楽を収録したブルーレイディスクやDVD・CD・LPレコード、ピンバッジ、ぼたん、キーホルダー、財布、バッグ、ベルト、カレンダー、ポスター、ツアープログラム、ステッカー、ワッペン、T-シャツ、靴下、サングラス、帽子、パンツ、パジャマ、ジャケット、スエットシャツ、バンダナ、サンダル、時計、コンサートツアープログラム、カレンダー、ツアーポスター、灰皿等の各種商品の販売において、「the rolling stones official store」の文字の右横に使用商標が表示されている(甲第7、第8、第9号証)。
インターネットの「NEWS TICKETS COMMUNITY VIRTUAL TICKET MUSIC FILMS ARCHIVE STORE」において、ローリングストーンズのワールドツアーを見ることができると記載され、サイトの左上に使用商標が表示されている(甲第10号証)。
インターネットの「PGS ONGAKU-ICHIBA」のウエブサイトにおいて、ローリングストーンズに関連した商品として、キーホルダー、バッジ、ワッペン、ステッカー、小物雑貨、食器類、スウェット・パーカー、パンフレット、ポスター、写真集、DVD、CD、ライター、T-シャツ、書籍、食器類、バッグ、ネクタイ、時計、帽子、財布、カレンダー、アクセサリー等の各種商品の販売において、該ウエブサイトの最後の頁に記載されている店舗内の写真の右側に、「GIMME SHELTER」の文字及びそのすぐ右横に使用商標が表示され、また、「ローリング・ストーンズ・オフィシャル・ストア」、「ROLLING STONES OFFICIAL STORE SINCE 1986」の文字が記載されていることから、1986年以降、ローリング・ストーンズ・オフィシャル・ストアにおいて、前記各種商品が販売されていることが推認される(甲第20号証)。そして、該ウエブサイトにおいて、「JAMGROUP直営店舗のご案内」として、「GIMME SHELTER 東京原宿(ローリング・ストーンズ専門店)」、「上記店舗にて商品をお求め頂けます。」と記載されていることから、インターネットでの販売に加えて、GIMME SHELTER 東京原宿(ローリング・ストーンズ専門店)において、前記各種商品が販売されていることが推認される(甲第20号証)。
(4)使用商標は、使用する商品に応じて構成中の色彩を異にしたものが存在するほか、ローリングストーンズに関する記念商品や日本のみの限定商品を販売する際には、使用商標の構成中の舌の部分の上に桜の花などの図案を付加して用いられている(甲第8ないし第10、第19、第20、第28ないし第30及び第32号証)。
(5)2006年のローリングストーンズの日本公演において、上記各種商品が販売され、その販売に係る請求金額として、東京ドーム3月22日開催695,819.28ドル(請求番号RSBB-1353 甲第27号証)、同211,694.70ドル(請求番号RSBB-1354 甲第27号証)、東京ドーム3月24日開催738,840.53ドル(請求番号RSBB-1358 甲第27号証)、同205,208.55ドル(請求番号RSBB-1359 甲第27号証)、札幌ドーム3月29日開催310,626.17ドル(請求番号RSBB-1364 甲第27号証)、同109,936.71ドル(請求番号RSBB-1365 甲第27号証)、埼玉アリーナ4月2日開催174,312.27ドル(請求番号RSBB-1371 甲第27号証)、同80,191.87ドル(請求番号RSBB-1372 甲第27号証)、名古屋ドーム4月5日開催419,357.64ドル(請求番号RSBB-1376 甲第27号証)、同114,800.22ドル(請求番号RSBB-1377 甲第27号証)と記載され、合計306万ドルに達する。
また、前記の各種商品について、申立人から日本におけるローリングストーンズのオフィシャル・ライセンシーである株式会社ジャパン・オールラウンド・ミュージックに対する請求書には、2005年7月13日付け4,623ドル(請求番号RSBB-26 甲第28号証)、同年8月19日付け78,830ドル(請求番号RSBB-58 甲第28号証)、同年8月26日付け57,911ドル(請求番号RSBB-63 甲第28号証)、同28,722ドル(請求番号RSBB-64 甲第28号証)、同年9月16日付け18,828ドル(請求番号RSBB-91 甲第28号証)、2007年9月1日付け15,159.5ドル(請求番号RSBB-431 甲第28号証)、同年9月4日付け5,887ドル(請求番号RSBB-447 甲第28号証)、同5,887.5ドル(請求番号RSBB-448 甲第28号証)、同14,328.5ドル(請求番号RSBB-446 甲第28号証)と記載され、納入された商品の実績は、被服約1万5千枚、ピンバッジ250個、履物132個と記載されている(商標登録異議申立書に係る手続補正書24頁)。
2 商標法第4条第1項第15号の該当性について
上記1の事実によれば、使用商標及び引用商標は、本件商標の登録出願時には、ローリングストーンズの世界的な人気と相俟って、ローリングストーンズに係る商標として取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきである。そして、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
他方、本件商標は、別掲(A)のとおりの構成からなるところ、開放された人の口、その口から舌根が見える程に出た舌、その舌の上部に配された前歯状のものを基本的構成要素とする点に特徴を有する特異な図形である。
しかして、本件商標と使用商標及び引用商標とは、子細にみれば、口の開き角度、唇右上のホクロの有無、舌上の音符状図形の有無、色彩等において相違する所があるものの、いずれも、上記基本的構成要素を共通にし構成の軌を一にするものであって、他に類を見ない斬新な図形として看者に近似した印象を与え、かつ、その印象が深く残るものといえる。また、使用商標が色彩を異にしたりその構成中の舌部分に図案が付加して使用されることがある点に鑑みると、本件商標と使用商標とはより近似した印象を与えるものといえる。
さらに、前記のとおり、ローリングストーンズは音楽の演奏活動を行っているのみならず、それに関連して、コンサートを収録したDVDなどの録画済みビデオディスクやコンサートプログラムなどの印刷物、被服、ベルト等の種々の商品がインターネットやローリングストーンズ専門店において販売されているものであり、本件商標の指定商品及び指定役務は、ローリングストーンズに係る商品及び役務とは、需要者、用途、目的等を共通にするものであり、密接な関係を有するものといえる。
3 まとめ
以上を総合すると、本件商標をその指定商品及び指定役務について使用した場合、これに接する取引者、需要者は周知著名となっている使用商標及び引用商標を連想、想起し、該商品及び役務がローリングストーンズ、申立人又はこれらと経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから取消しを免れない。

第5 商標権者の意見(要旨)
上記第4の取消理由に対し、商標権者は、次のように意見を述べている。 1 CDの売上、映画の興行収入、ローリングストーンズのグッズの販売戦略からすると、使用商標及び引用商標は、本件商標の出願登録時にはすでにローリングストーンズに係る商標として需要者に認識されていない。
2 本件商標の基本的構成要素として、開放された人の口、その口から舌根が見えるほどに出た舌、その舌の上部に配された前歯状のものが取消理由通知に記載されている。
(1)しかし、顔面に存在するほくろ及び本件商標の舌の部分に乗っているABCの文字が刻印された黒いさくらんぼ(Black Cherry)も本件商標の基本的構成要素である。
一方、引用商標の基本的構成要素は単なる口や唇ではなく、大きな口、分厚いたらこ唇であることから、本件商標と使用商標及び引用商標とは、唇や口、舌の形状や特徴が大きく異なる。したがって、本件商標と使用商標及び引用商標は、基本的構成要素を共通にし、軌を一にするものではない。
(2)使用商標及び引用商標の唇の右上にほくろが付くことは絶対にあり得ない。加えて、引用商標の舌の上にABCと刻まれた黒いさくらんぼが乗ったことはなく、今後も乗る見込みはない。したがって、唇の右上のほくろとABCが刻印された黒いさくらんぼは、本件商標と引用商標との関連性を打ち消す要素である。
(3)以上のように、本件商標と引用商標との関連性を打ち消す要素の存在からすれば、本件商標と引用商標は、明確に区別が可能であり、申立人又はこれらと経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれは存在しない。
3 本件商標の指定商品及び指定役務は、ローリングストーンズに係る商品及び役務とは、需要者、用途、目的等を共通にするものであり、密接な関係を有すると、取消理由通知に記載されている。
(1)しかし、本件商標の指定商品の需要者は、 Acid Black CherryのCDやDVDがCD販売店においては、邦楽として販売されること、音楽には明確かつ詳細な分類がなされていること、 Acid Black Cherryのその他の商品がライブ会場とAcid Black Cherryのホームページ上にあるオンラインストアでのみ販売されていることからすると、Acid Black Cherryのファンに限定される。
(2)本件商標の指定商品の用途、目的は、Acid Black Cherryのファンが本件商標の指定商品を購入することで、アーティストとの一体感やライブ会場にいた記念、といった精神的欲求を満たすことにあり、消耗品のように本件商標の指定商品を購入するものではない。
(3)ローリングストーンズのCDやDVDがCD販売店等では洋楽として扱われ、Acid Black CherryのCDやDVDは邦楽として扱われること、引用商標の指定商品及び役務も専門店で販売されていることからすれば、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは明確な区別がなされた上で販売されている。
(4)以上のように、本件商標の指定商品及び指定役務は、ローリングストーンズに係る商品及び役務とは、需要者、用途、目的等を共通にするとは到底言えず、両者に密接な関係は認められない。
4 本件商標を使用するAcid Black Cherryことyasuは、ビジュアル系ロックバンド、Janne Da Arcのボーカルとして10年、ソロ活動を開始してから2年以上活動しており、日本の音楽業界において確固たる地位を築いている。したがって、引用商標のもつ顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)やその希釈化(ダイリューション)を生じるおそれは存在しない。
5 総合衡量にもとづく検討
以上をもとに、総合的に判断すると、本件商標の需要者はAcid Black Cherryことyasuのファンと限定されていることから、高い注意力が認められる。
そして、この注意力を基準とすると、引用商標の独創性は決して低いものではないが、本件商標とは明確な区別が可能であり、類似性は低く、また、邦楽と洋楽ということで関連性も低く、需要者も異なり、取引方法も明確に区別されている。
したがって、本件商標をその指定商品及び役務に使用したとしても、これに接する取引者、需要者は周知著名となっている使用商標及び引用商標を連想、想起し、当該商品及び役務がローリングストーンズ、申立人又はこれらと経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれは存在せず、商標法第4条第1項第15号には該当しない。

第6 当審の判断
1 本件商標と使用商標との対比について
本件商標は、別掲(A)のとおりの構成からなるところ、開放された人の口、その口から舌根が見える程に出た赤色の舌、その舌の上部に配された白色の前歯状のもの(口内は黒色で表されている)を基本的構成要素とする点に特徴を有する特異な図形である。
一方、使用商標は、引用商標1ないし3とほぼ同様の図形に赤色又は橙色で着色してなり、開放された人の口、その口からでた舌、その舌の上部に配された前歯状のものを基本的構成要素とし、赤色及び黒色を基調として表された他に類を見ない斬新な図形であり、その独創性の程度は高いものといえる。
しかして、本件商標と使用商標とは、子細にみれば、口の開き角度、唇右上のホクロの有無、舌上の音符状図形の有無において外観上相違する所があるものの、いずれも、上記基本的構成要素を共通にし構成の軌を一にするものであって、かつ、使用商標の色彩は、本件商標と同様の赤色又は橙色及び黒色を基調として使用していることからすれば、看者に対して両者が近似した印象を強く与えるものといえ、上記外観上の相違があるとしても、これらの相違は、構成の軌を一にするという両者の近似性を凌駕するほど顕著であるとまではいえない。
2 使用商標の周知・著名性等について
申立人の提出にかかる証拠(甲第10号証ないし13号証、22号証、23号証、27号証、29号証)によれば、使用商標は、1971年に発売されたローリングストーンズのレコードアルバム「ステッキー・フィンガーズ」のアルバムジャケットに採択されたものである。そして、ローリングストーンズは、1963年にレコードデビューしたロックバンドであって、ビートルズと並び称され、全世界でのレコードアルバムの総売上は2億枚以上ととされている。また、ローリングストーンズは、2007年現在もスポンサーのバックアップ等により大規模なワールドツアーを行っており、該ツアーの公演はビデオに収録され、収録された公演の動画や写真はインターネットのウエブサイトにおいて配信されており、該ウエブサイトには、使用商標が表示されている。
日本におけるローリングストーンズの公演は、1990年に東京、1995年に東京及び福岡、1998年に東京及び大阪、2003年に東京、横浜及び大阪、2006年に東京、札幌、さいたま及び名古屋においてそれぞれ開催され、公演の一部はテレビ放映されるとともに、2006年の公演を収録したCD、ツアーパンフレット及びポスターには使用商標が使用されるとともに、上記商品はインターネットのウエブサイトにおいても販売され、該ウエブサイトでは、使用商標が表示されている。
してみると、申立人に係る使用商標は、申立人の業務に係る商品「レコード,CD,DVD,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル・画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び役務「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,娯楽用ビデオの制作」を表示する標章として、本件商標の登録出願には上記商品及び役務分野の取引者、需要者の間に広く認識されるに至っており、前記商品及び役務を表示する標章として既に著名な標章となっていたものであり、その状態は登録査定時においても継続していたということができる。
3 本件商標の指定商品及び指定役務と使用商標の指定商品及び指定役務との関連性等について
本件商標の指定商品及び指定役務は、使用商標の周知・著名性が取引者、需要者に認識されている前記商品中「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル・画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び役務「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,娯楽用ビデオの制作」を含むものである。
4 出所混同のおそれについて
以上によれば、本件商標と使用商標とは、看者に対して両者が近似した印象を強く与えること、使用商標が、商品「レコード,CD,DVD,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル・画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び役務「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,娯楽用ビデオの制作」に係るローリングストーンズを表示するものとして、レコード等の商品や音楽の演奏等の提供に関する役務の分野において、取引者、需要者の間において周知・著名であること、本件商標の指定商品及び指定役務は、使用商標の著名性が取引者、需要者に認識されている商品及び役務を含み、かつ、使用商標に係る役務「音楽の演奏の興行の企画又は運営」及び「娯楽用ビデオの制作」は、本件商標の指定役務中、「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営」及び「教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」と、それぞれ用途、取引者、需要者等を共通にする場合が多いといえ、互いに密接な関連を有するものであることからすれば、本件商標をその指定商品又は指定役務中、第9類「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」に使用する場合には、これに接する取引者、需要者は、著名商標である使用商標を連想、想起して、当該商品又は役務がローリングストーンズ又は同人との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業等を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品又は役務であると混同するおそれがあるとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標といわなければならない。
5 商標権者の主張について
(1)商標権者は、CDの売上、映画の興行収入、ローリングストーンズのグッズの販売戦略からすると、使用商標は、本件商標の出願登録時にはすでにローリングストーンズに係る商標として需要者に認識されていない旨主張し、乙第1号証ないし同第12号証を提出している。
しかしながら、ローリングストーンズに係る1枚のCDの売上(乙第1号証ないし2号証)のみをとらえて、申立人の使用商標が周知・著名ではないということはできず、むしろ、該CDが最高10位までランクされていること(乙第1号証)、さらに、ローリングストーンズは現在も継続して公演をを行い、その公演を収録したCD、DVDが発売され、その販売において使用商標が使用されていることからすれば、申立人に係る使用商標が、本件商標の出願時から登録時までの間に、ローリングストーンズに係る商標として需要者に認識されていないとはいえない。
(2)商標権者は、本件商標の基本的構成要素には、顔面に存在するほくろ及び本件商標の舌の部分に乗っているABCの文字が刻印された黒いさくらんぼ(Black Cherry)も含まれ、これらの基本的構成要素は、両商標の出所の混同を打ち消す要素である旨述べる。
しかしながら、本件商標の舌に配された図形が、黒いさくらんぼであることを直ちに認識させるともいえず、また、「AB」及び「C」を想起させる文字も外観上、音符らしき図形とデザイン的に相当程度一体化されて描かれていること、さらに、唇の右上部分の黒丸についても、格別な印象を与えるデザインとはいえないことからすれば、これらの相違が、需要者に対して、その出所の混同を打ち消すような強烈な印象を与えるとまではいえない。
(3)商標権者は、本件商標の指定商品の需要者は、Acid Black Cherryのファンに限定されることから、本件商標の指定商品及び指定役務と、ローリングストーンズに係る商品及び役務とは、需要者、用途、目的等を共通にするとはいえず、両者に密接な関係は認められない旨主張する。
しかしながら、例えば,CDやDVDは、洋楽や邦楽という分類方法があるにしても、一般的にこれらは同一の販売店舗において取り扱われているものであって、また、ローリングストーンズとAcid Black Cherryはいずれもロック音楽という点においてそのジャンルを共通にするものである。そして、これらの商品は、インターネット上のオンラインストアにおいて購入が可能であり、そのアクセスが特定の者に限定されているとの証左もないことからすれば、その用途、目的が必ずしも特定の需要者のみを対象としているとはいえず、むしろ、主としてロック音楽に関連する商品として、その需要者の相当部分を共通にするものであり、本件商標の指定商品及び指定役務と、ローリングストーンズに係る商品及び役務とは互いに密接に関係するものというべきである。
(4)商標権者は、本件商標を使用するAcid Black Cherryことyasuは、ビジュアル系ロックバンド、Janne Da Arcのボーカルとして10年、ソロ活動を開始してから2年以上活動しており、日本の音楽業界において確固たる地位を築いている。したがって、使用商標のもつ顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)やその希釈化(ダイリューション)を生じるおそれは存在しない旨主張する。
しかしながら、本件商標は、商標権者であるアップライズ・プロダクトに所属するアーティスト、Acid Black Cherryが使用する商標であるとしても、本件商標のみが単独で使用されているというよりも、Acid Black Cherryの文字と併記された態様で使用されていること(乙第33号証、乙第36号証)、そして、指定商品及び指定役務における本件商標の使用の状況及び使用態様そのものが明らかではない(乙第34号証、同第35号証、同第37号証ないし第87号証)ことから、本件商標そのものがその指定商品及び指定役務との関係において、需要者に広く認識されているとの証左は見出せず、本件商標をその指定商品及び指定役務中、第9類「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び第42類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」について使用した場合は、申立人の使用商標のもつ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化が生じるおそれがないということはできない。
以上のとおり、商標権者の主張は、いずれも採用することはできない。
6 まとめ
本件商標の登録は、登録異議の申立てに係る指定商品及び指定役務中、前記の第9類「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び第42類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」については、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものである。
しかしながら、その他の指定商品及び指定役務については、商品又は役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるとまではいえないから、商標法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
平成21年 8月 5日
審判長 特許庁審判官 石田 清
特許庁審判官 小林 由美子
特許庁審判官 木村 一弘


別掲(色彩については、原本参照。)
(A)本件商標



(B)引用商標1



(C)引用商標2及び3



(D)引用商標4



(E)引用商標5


異議決定日 2010-10-28 
出願番号 商願2007-65321(T2007-65321) 
審決分類 T 1 651・ 271- Y (X09162541)
T 1 651・ 222- Y (X09162541)
T 1 651・ 26- Y (X09162541)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久我 敬史 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 酒井 福造
大島 勉
登録日 2008-03-07 
登録番号 商標登録第5116209号(T5116209) 
権利者 有限会社アップライズ・プロダクト
商標の称呼 エイビイシイ 
代理人 田村 彰浩 
代理人 石川 達久 
代理人 佐藤 健太 
代理人 相川 裕 
代理人 渡邊 竜行 
代理人 小笠原 史朗 
代理人 東谷 隆夫 

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