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審決分類 審判 全部無効 観念類似 無効としない X05
審判 全部無効 称呼類似 無効としない X05
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X05
管理番号 1228245 
審判番号 無効2010-890004 
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-01-20 
確定日 2010-11-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第5277917号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5277917号商標(以下「本件商標」という。)は、「草刈大王」の文字を標準文字で表してなり、平成21年3月3日に登録出願、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,医療用腕環,失禁用おしめ,はえ取り紙,防虫紙」を指定商品として、同年9月24日に登録査定がなされ、同年11月6日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び弁駁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第74号証を提出した。
1 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の登録の無効の理由に引用する登録第3337942号商標(以下「引用商標」という。)は、「クサカリテイオー」の片仮名を横書きしてなり、平成7年1月12日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同9年8月8日に設定登録され、同19年3月13日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
2 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
商標は、称呼、観念、外観のいずれかが類似する場合に、類似の商標であると判断されるものであるが、本件商標と引用商標は、観念及び称呼が類似するため、類似商標と判断されるべきものである。
ア 観念の類似性について
本件商標は、「草刈大王」の漢字よりなり、これよりは「草刈りの王様、草を刈る王様」といった観念が生ずる。
一方、引用商標は、「クサカリテイオー」の片仮名よりなるが、該片仮名文字は、「クサカリ」部分が「草刈り」に、「テイオー」部分が「帝王」にも通じるものであり、これよりは、「草刈りの王様、草を刈る王様」との観念が生じ得る。
よって、両商標は、「草刈りの王様、草を刈る王様」という観念において共通するのであり、本件商標と引用商標とは観念上類似の商標である。
両商標をより厳密に比較すると、両者は後半部分が「大王」と「帝王」の点で違いはあるが、「大王」と「帝王」は、いずれも「王様、君主」の呼称・称号の一つであり、需要者においては、「王様」を表す一つの言い回しとして漠然と理解されるものであり、いずれも厳密な意味合いで把握され、異なるものとして明瞭に区別して理解される性質のものではない。
このことは、例えば、漫画雑誌「月刊コミック電撃大王」(アスキー・メディアワークス刊)の増刊号として年4回刊行されていたものに「電撃帝王」というものがあり(甲第5号証)、「大王」と「帝王」は、「王様」シリーズとも呼べる形で現実に密接な関係で使用されているのであり、これは正に両者が共通の観念をもって需要者に捉えられていることを示すーつの証左ということができる。
また、SF漫画「ジャイアントロボ」に登場する宇宙人「ギロチン帝王」は、しばしば「ギロチン大王」と誤解して理解・記憶され、インターネットで検索すると「ギロチン大王」と表記するウェブページが発見される(甲第6号証)。
イ 称呼の類似性について
本件商標は、「草刈大王」の漢字よりなるところ、これよりは「クサカリダイオウ(ー)」の称呼を生ずるものではあるが、加えて、第5音を濁音「ダ」ではなく清音「タ」と発音する「クサカリタイオウ(ー)」の称呼も生じ得るものである。
「大王」の漢字は、通常は「ダイオウ(ー)」と称呼されるものではあるが、例えば、地名として、新潟県糸魚川市に「大王(タイオウ)」があり(甲第7号証)、三重県志摩市に「大王崎(タイオウザキ)」というものがあり(甲第8号証)、更に、金大王(コンタイオウ)という仏様が存在する(甲第9号証)。
このように、「大王」の漢字を「タイオウ(ー)」と称呼することは複数の場面で散見されるのであり、そもそも「大」の字は、「大切」(タイセツ)、「大安」(タイアン)、「大病」(タイビョウ)など「タイ」と発音することは一般的であることから、本件商標「草刈大王」から「クサカリタイオウ(ー)」の称呼が生ずるとするのはあながち不自然なものではない。
一方、引用商標は、「クサカリテイオー」の片仮名よりなり、これよりはそのまま「クサカリテイオー」の称呼を生ずる。
そこで、本件商標の称呼「クサカリダイオウ(ー)」、「クサカリタイオウ(ー)」と引用商標の称呼「クサカリテイオー」とを比較するに、語尾音を含めていずれも8音であるところ、その7音までを共通にし、称呼上埋もれがちになる中間音の「ダ(タ)」と「テ」のわずか1音のみが相違するものであって、称呼上類似の商標と十分に判断されてしかるべきものである。
そして、本件商標の称呼「クサカリタイオウ(ー)」についてみると、本件、引用商標の相違音は「タ」と「テ」の音であり、これは同行に属する音であって、わずかに母音「ア(A)」と「エ(E)」の相違にすぎず、この「ア」と「エ」の音は母音の中にあっては非常に近しく、紛らわしい称呼となることが良く理解されている。
したがって、両商標は、称呼類似の商標である。
ウ 指定商品の類似性について
本件商標の指定商品は「薬剤」を含むが、これは引用商標の指定商品「薬剤」と共通するものであり、本件商標は、引用商標と同一の商品に使用されるものである。
エ 小括
商標の類否判断については、取引の実情も考慮されるべきところ、後述する引用商標の周知性、需要者の特質、除草剤という商品の特性といった点からも、本件商標と引用商標は、出所の混同のおそれが高く類似の商標と判断されるべきものといえる。
したがって、本件商標は、引用商標に観念及び称呼が類似し、同一又は類似の商品に使用されるものであるから、商標法第4条第1項第11号に違反して商標登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
引用商標は、その指定商品に含まれる「除草剤(水稲用一発処理除草剤)」の商標として需要者において広く知られているところとなっており、これと相紛らわしい本件商標は、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標である。
ア 引用商標の周知性
引用商標は、「除草剤(水稲用一発処理除草剤)」について2005年度より使用されており、現在4種の製剤が販売されている(甲第10号証ないし甲第17号証)。なお、これらは、請求人のほか、その成分の一部の供給者であるクミアイ化学工業株式会社と三井化学アグロ株式会社からも販売されている。
(ア)販売実績
「クサカリテイオー」の出荷数量・金額を示す資料として、財団法人日本植物調節剤研究協会が作成した統計資料である「平成20年度水稲除草剤出荷数量・金額 推定使用面積一覧表」(甲第18号証)及び「平成21年度 同 一覧表」(甲第19号証)を提出する。
4種の「クサカリテイオー」は、平成20年度版(甲第18号証)においては、No45-No48に、平成21年度版(甲第19号証)においては、No52-No55に記載されており、4種合わせて、出荷の総金額は4億1259万4千円(平成20年度)、3億4518万4千円(平成21年度)であり、推定使用面積は17,001ha(平成20年度)、13,806ha(平成21年度)となっている。3?4億円超という出荷の総金額が非常に高額であることに疑いはない。
そして、推定使用面積について農林水産省の統計による平成21年産水稲の作付面積(甲第20号証)と比較すると、平成20年度の「クサカリテイオー」4種合計の推定使用面積は、静岡県1県全体の水稲の作付面積(子実用 これは青刈り用の面積を除いた面積である)に匹敵し、平成21年度のそれは、徳島県や高知県1県全体の水稲の作付面積(子実用)を上回るものであり、いかに「クサカリテイオー」が水稲農家において広く使用されているかが理解できる。
(イ)都道府県のガイドラインにおける推奨状況
農薬の使用に関しては、環境への負荷や安全性等の問題から、どのような商品を使用すべきか個々の農家には判断が非常に難しい面があり、農業従事者等の判断に資するために、各都道府県が農薬の効果等を検証した上でガイドラインを作成し、推奨する農薬(商品名)を公表している(甲第21号証ないし甲第35号証)。
「クサカリテイオー」については、北海道、東北、北陸、関東、東海、近畿、中国、四国、九州と、地域により隔たることなく日本全国隈なく、都道府県の推奨を受けており、農業従事者にとって「除草剤」のブランドとして広く知られている点は疑いのないところである。
なお、請求人は、全国に代理店を有しており(甲第36号証)、これら代理店を通じて「クサカリテイオー」を全国の需要者に提供している。
(ウ)宣伝広告状況
「クサカリテイオー」は、専門紙において積極的に宣伝広告がなされている。2009年(平成21年)のものだけを取り上げても、3月5日付け新農林技術新聞(甲第37号証)、3月11日付け日本農業新聞(甲第38号証)、3月18日付け農業共済新聞(甲第39号証)、3月25日付け農業共済新聞(甲第40号証)、11月20日付け新農林技術新聞(甲第41号証)等で宣伝広告が掲載されている。とりわけ11月20日付け新農林技術新聞(甲第41号証)では、「クサカリテイオー」について特集が組まれており、広告部分と合わせて1面全体を使って商品の特長が詳しく紹介されている。
イ 商標の相紛らわしさ
先にも述べたとおり、引用商標と本件商標とは、観念が共通し、称呼が非常に近しいことから、混同を生ずるおそれがあるものであるが、商標の紛らわしさについては、以下の点も考慮されるべきである。
まず、請求人の販売する「クサカリテイオー」は、そのパンフレット(甲第10号証ないし甲第13号証)や商品説明(甲第14号証ないし甲第17号証)からも明らかなように、片仮名からなるものであるが、一方、本件商標は、漢字からなるものである。これまで、「クサカリテイオー」を購入したことがある需要者のほか、その名前をガイドラインや宣伝広告で目にした需要者あるいは広く知られた「クサカリテイオー」を聞き覚えている需要者が、販売店において「草刈大王」と表示された商品を目にした場合、「片仮名表示から漢字表示に変更した新商品」が追加されたと判断したり、あるいは、単なる誤解により、「草刈大王」を「クサカリテイオー」と間違えて購入してしまう可能性が大いに考えられる。
さらに、「除草剤」の「クサカリテイオー」は、主に水稲農家が使用するものであるが、我が国における農業従事者の平均年齢は非常に高く(甲第42号証)、こうした高齢者は、年齢と共に視力や聴力が低下し、青年や壮年、中年の人々よりも注意力が落ちる点は否めない。そうすると、本件商標と引用商標とを取り違えてしまうおそれは高いものといえる。
ウ 商品「除草剤」の特性
「除草剤」は、雑草の種類や生育ステージ、土性、地域性などを考慮して選定する必要があるため、その種類により、使用時期、適用土壌、適用地帯などが細かく分かれている。
したがって、需要者の保護という観点からも、「除草剤」は、使用条件が細かく規定されている中で、需要者の商品選別の負担を軽減し、誤購入を避けるために、商品の名称は明瞭に区別できるようにすべきであり、近しい商品名称は避けなければならない商品であるということがいえる。
また、農薬のーつである「除草剤」は、使い方を間違うと生物や環境に大きな影響を与えてしまう薬剤であるため、その安全性は農林水産省における登録制度によって審査され、安全性が確保されるよう作物への残留や水産動植物への影響に関する基準が設定され、この基準を超えないよう使用方法が定められており、農薬取締法により、基準外使用が固く禁じられている(農薬取締法第12条第3項;甲第43号証)。
もしも、水稲農家が本件商標と「クサカリテイオー」を誤認混同し、基準の異なる農薬を水田に散布してしまった場合、その水田1反をまるまる駄目にしてしまう悲劇が生じてしまう。
また、「除草剤」は、一般家庭においても庭園・園芸用に用いられる商品であるが、一般需要者は、1本ないし1袋の除草剤を一度に使い切ることはなく、何年かに1度といった割合で購入するものとなる。このような場合、商品の名称はうろ覚えとなり、自分の買い求めようとする商品の呼び名が「クサカリダイオー」であったか「クサカリテイオー」であったかは記憶が曖昧となるのは必然であり、似たネーミングであることから、どちらも同じ効果・効能であろうと誤解し、間違って他方を購入してしまう危険性は非常に高い。
そして、間違って購入した商品を使用した場合、人体、生態系に多大な影響を与える商品であるが故に、たとえ家庭の庭や菜園であっても甚大な被害が生じ得る。「除草剤」による事故が過去に発生していることは周知のとおりである。
「除草剤」については、そうした安全性の確保、需要者保護の観点からも相紛らわしい商標の登録は厳に否定されてしかるべきである。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、請求人の業務に係る除草剤を表示するものとして需要者の間に広く知られた商品「クサカリテイオー」と商標の相紛らわしさ、需要者の特質、商品の特性等にかんがみると出所の混同を生ずるおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して商標登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第16号について
本件商標中「草刈」の部分は「草刈り」を意味するが、「草刈り」と同様の効果をもたらす「除草剤」以外の「薬剤」に本件商標を使用すると、需要者に対し、「草刈り」と同様の効果をもたらす商品であると、その商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に違反して商標登録されたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第16号に違反して商標登録されたものであるから、本件商標の登録は、商標法第46条第1項の規定により無効とされるべきものである。
3 弁駁の理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 観念について
被請求人は、本件商標は、不可分一体の構成からなる特定の意味合いを理解することのできない一種の造語と主張する。
しかし、本件商標は、「草刈」、「大王」という誰もが容易に意味を想起できる既成語の組合せからなることから、これに接した需要者が何らの意味のない造語と理解するとは思われない。表意文字である漢字の性質上、「草刈」、「大王」の既成語からは、何らかの意味を思い浮かべると考えるのが極めて自然であり、本件商標は、「草刈りの王様」、「草を刈る王様」程度の意味合いとなると考えるのが自然である。
また、被請求人は、引用商標は、不可分一体の構成からなる特定の意味合いを理解することのできない一種の造語とし、仮に、「クサカリ」の部分より「草刈り」の意味を理解する場合があるとしても、「テイオー」の部分は「帝王」の他に、欧文字の「T」「O」の読みにも通ずるものであり、いずれの文字の読みであるかを特定することはできず、「テイオー」の文字部分を「帝王」と特定したとしても、その全体の「クサカリテイオー」の文字からは「草刈りの帝王、草を刈る帝王」の如き意味合いに止まると主張する。
しかし、引用商標の「テイオー」の部分が「T」「O」の読みに通ずるとの主張は強引であり、「テイ」が「T」に通ずるとは考え難い。
ところで、「大王」と「帝王」は、辞書的意味合いでは厳密には多少異なる意味を有しているが、本件商標の需要者からはかけ離れた、よほど言葉に詳しい人でなければ両者を使い分けることはできないと考えられる。「広辞苑 第六版」において、「大王」は「古代日本で、天皇号成立以前の君主の称号」とあるのに対し、「帝王」は「一国の君主」とあり、両者の意味は区別できないほど非常に近似しているということが理解され、本件商標の需要者が「大王」と「帝王」の違いをはっきりと理解しているとはとても思えない。
イ 称呼について
被請求人は、本件商標から「クサカリタイオウ(-)」の称呼が生じないと主張する。
しかし、その主張は、「大王」の文字が「ダイオウ」と読まれる事例と辞書の記載を引用するのみであり、「大王」の文字が「タイオウ(-)」と読まれないことの説明には一切なっていない。請求人の主張に係る「大王」の文字が「タイオウ(-)」と読まれる事例に間違いや問題があることを、被請求人は明らかにすべきである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 甲第10号証ないし甲第17号証について
甲第10号証ないし甲第13号証のパンフレットの2009年3月以前の印刷数の集計表(甲第44号証)と本件商標の登録出願日以前に製作されたパンフレット(甲第45号証ないし甲第57号証)を提出する。
2005年10月以降2009年までに累計で40万冊近くの「クサカリテイオー」ブランドの「除草剤」のパンフレットが製作されている(甲第44号証)。
次に、2006年2月20日ないし2008年5月19日に製作されたパンフレット(甲第45号証ないし甲第57号証)は、いずれも1万部以上印刷されたものであり、販売代理店、展示会等で配布されることにより、請求人の業務に係る「除草剤」の引用商標が、本件商標の登録出願時に既に広く知られていたことは明白である。
また、被請求人は、甲第14号証ないし甲第17号証は、本件商標の登録出願日後のものと主張するが、これらは、常識的な判断からいって印刷した日に作成されたものではない。
イ 甲第18号証及び甲第19号証について
甲第18号証及び甲第19号証が財団法人日本植物調節剤研究協会(以下「協会」という。)に係るものであることを立証するため、同号証を受領した際の協会の担当者から請求人の担当者にあてた電子メール(甲第58号証)を提出する。
なお、甲第18号証及び甲第19号証の製本版である「農薬要覧-2009-」の写し(甲第59号証)を提出する。
ウ 甲第21号証ないし甲第35号証について
甲第21号証ないし甲第35号証の農作物雑草防除指針(ガイドライン)は、引用商標が多数の都道府県において推奨されている農薬であることを示しており、被請求人の指摘する、同ガイドラインにおける「クサカリテイオー」の文字の表示のされ方は何ら問題となるものではなく、同ガイドラインに掲載されていること自体が重要なのである。多数の都道府県のガイドラインに掲載された「クサカリテイオー」は、その事実をもってして、需要者に広く知られていると十分に認められる。
なお、このガイドラインに採用されるための手続の流れについて、甲第60号証を提出する。
エ 甲第37号証ないし甲第41号証について
甲第37号証ないし甲第41号証は、引用商標の周知性を裏付ける資料であるが、新たに2007年1月26日から2008年3月までの間に発行された専門誌、雑誌において引用商標の広告宣伝を行った証拠を提出する(甲第61号証ないし甲第74号証)。これらの専門誌、雑誌の抜粋より明らかなように、請求人は、本件商標の登録出願日前より、「除草剤」の引用商標について継続して宣伝広告を行っている。
(3)商標法第4条第1項第16号について
被請求人は、「草刈」の文字を含む登録例を挙げて、本件商標は、商品の品質誤認を生じさせるおそれがないと主張する。
しかし、単に「草刈」の文字を含む商標が「薬剤」を指定商品として登録されている例があるからといって、過去の登録例とは事案の異なる本件商標を「除草剤」以外の商品に使用した場合に、商品の品質誤認を生じさせるおそれがない理由の説明となっていない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)外観について
本件商標と引用商標とは、その文字種・文字数等を明らかに相違するものであるから、外観上明確に区別し得る差異を有する。
(2)観念について
本件商標は、「草刈大王」の文字からなるところ、仮に、「草刈」の文字より「草刈り、草を刈る」の意味が生じ、「大王」の文字より「王を敬っていう語」、「親王・諸王を敬っていう語」の意味を理解する場合があるとしても、その構成各文字は、同一の書体、同一の大きさ、同一の間隔をもって外観上バランスよく一体的に表され、しかも、その全体より生ずると認められる「クサカリダイオウ」の称呼も格別冗長なものともいえず、よどみなく一連に称呼し得るものであることからすると、いずれの文字部分をもってしても分離することのできない不可分一体の構成からなる特定の意味合いを理解することのできない一種の造語と認められるものである。
あえて、本件商標より観念的なものを導き出せば、「草刈りの大王、草を刈る大王」の如き意味合いに止まり、請求人の述べる「草刈りの王様、草を刈る王様」といった観念は生じない。このことは、「大王」が「親王・諸王を敬っていう語」、「王を敬っていう語」を意味し、英語でいうところの「Great king」「Padishah」であるのに対し、「王様」は、「その分野で最高位にあるもの」、「王」、「同類のうちで最も高い地位を占めるもの」を意味し、英語でいうところの「King」であることからも認められるものである。
一方、引用商標は、「クサカリテイオー」の片仮名からなるところ、構成各文字は、同一の書体、同一の大きさ、同一の間隔をもって外観上バランスよく一体的に表され、しかも、その全体より生ずる「クサカリテイオー」の称呼も格別冗長なものともいえず、よどみなく一連に称呼し得るものであることからすると、いずれの文字部分をもってしても分離することのできない不可分一体の構成からなる特定の意味合いを理解することのできない一種の造語と認められるものである。
仮に、「クサカリ」の部分より「草刈り」の意味を理解する場合があるとしても、「テイオー」の部分は「帝王」の他に、欧文字の「T」「O」の読みにも通ずるものであり、いずれの文字の読みであるかを特定することはできない。
あえて、「テイオー」の文字部分を「帝王」と特定したとしても、その全体の「クサカリテイオー」の文字からは「草刈りの帝王、草を刈る帝王」の如き意味合いに止まり、請求人の述べる「草刈りの王様、草を刈る王様」といった観念は生じない。このことは「帝王」が「国の君主、君主国の元首」、「天子」、「ある分野、世界の中でもっともすぐれ、絶対的な力で支配するもの」等を意味し、英語でいうところの「Emperor」「Sovereign」「Monarch」であるのに対し、「王様」は「その分野で最高位にあるもの」、「王」、「同類のうちで最も高い地位を占めるもの」を意味し、英語でいうところの「King」であることからも認められるものである。
そうとすると、本件商標と引用商標とは、共に特定の意味合いを理解することのできない一種の造語と認められるものであるから、観念において相紛れるところはない。
(3)称呼について
本件商標は、「草刈大王」の文字よりなるところ、その構成中の「大王」の文字が「親王・諸王を敬っていう語」、「王を敬っていう語」を意味し「ダイオウ」と読まれることは、閻魔大王(エンマダイオウ)、草鞋大王(ワラジダイオウ)、大王烏賊(ダイオウイカ)、大王松(ダイオウマツ)、大王椰子(ダイオウヤシ)等の事例からばかりでなく、各種辞書をもって示すまでもなく明らかなところである。
したがって、本件商標からは「クサカリダイオウ」の称呼のみが生ずる。
一方、引用商標は、「クサカリテイオー」の文字に相応し「クサカリテイオー」の称呼が生ずる。
そこで、本件商標から生ずる「クサカリダイオウ」の称呼と引用商標から生ずる「クサカリテイオー」の称呼を比較するに、両称呼は、「ダ」と「テ」及び語尾における「ウ」の音と長音とを相違させるものである。
しかして、相違する「ダ」と「テ」の音は音質・音感を著しく異にするものであり、加えて、語尾において相違する「ウ」の音と長音も語尾における近似音とはいえ、その発音の特徴をもって区別し得る差異を有するものである。
そうとすると、「クサカリダイオウ」と「クサカリテイオー」の両称呼は、これをそれぞれ一連に称呼した場合、各音の相違に加え、両者から生ずるそれぞれの意味合いをも想起しつつ発音するものでもあることからすると、全体の語韻、語調が明らかに異なり、彼此聞き誤るおそれはない。
(4)小括
したがって、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれの点よりみても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)請求人提出の証拠について
ア 甲第10号証ないし甲第17号証について
甲第10号証ないし甲第13号証のパンフレットは、発行日、発行部数、使用時期、使用回数等が不明であり、また、請求人のHPであると述べている甲第14号証ないし甲第17号証の作成日は、平成21年(2009)年12月25日であって、本件商標の登録出願後のものである。
イ 甲第18号証及び甲第19号証について
請求人は、甲第18号証及び甲第19号証が「除草剤」に使用されている各社の商品名(商標)であって、財団法人日本植物調節剤研究協会が作成した統計資料であると述べているが、当該証拠資料より「クサカリテイオー」の出荷数量、総金額、推定使用面積が認められるとしても、当該証拠資料が財団法人日本植物調節剤研究協会により作成された統計資料であるとする事実を確認することができない。
ウ 甲第20号証について
甲第20号証が農林水産省の統計による水稲の作付面積及び予想収穫量であるとしても、当該証拠資料には「クサカリテイオー」の記載(表示)がなく、当該証拠資料をもって「クサカリテイオー」の文字が「除草剤」に使用されていると認めることはできない。
エ 甲第21号証ないし甲第35号証について
甲第21号証ないし甲第35号証の「雑草防除ガイド」等の資料に「クサカリテイオー」の文字が使用されているとしても、当該証拠資料には「クサカリテイオー」の文字と共に各社の商標も均等に表記されており、「クサカリテイオー」の文字のみが際だって表示されているものとは認められない。
オ 甲第36号証について
甲第36号証が請求人の主要代理店の一覧であるとしても、それら代理店が「クサカリテイオー」の文字が表示されている「除草剤」を取り扱っているものであるかが明記されておらず、当該証拠資料をもって「クサカリテイオー」の文字が「除草剤」に使用されていると認めることはできない。
カ 甲第37号証ないし甲第41号証について
甲第37号証ないし甲第41号証に「クサカリテイオー」の文字が「除草剤」を示す広告として表示されていることは認められるものであるが、甲第37号証ないし甲第41号証は、いずれも本件商標の登録出願後のものであるから、当該証拠資料のみをもって、「クサカリテイオー」の文字が「除草剤」に使用され取引者・需要者の間に広く認識されているものとは認められない。
キ 甲第42号証について
甲第42号証が年齢別農業従事者数の統計表であるとしても、当該証拠資料には「クサカリテイオー」の記載(表示)がなく、当該証拠資料をもって「クサカリテイオー」の文字が「除草剤」に使用されていると認めることはできない。
ク 甲第43号証について
甲第43号証が農薬取締法であるとしても、当該証拠資料をもって「クサカリテイオー」の文字が「除草剤」に使用されていると認めることはできない。
(2)小括
以上のとおり、請求人の提出に係る引用商標に関する証拠は、その掲載や使用時期が本件商標の登録出願前のものか否か認定できないもの、又は、登録出願後のものであり、該証拠のみをもってしては、本件商標の登録出願時に引用商標が請求人の業務に係る商品「除草剤」について使用する商標として取引者・需要者の間に広く認識されているものとは認められない。しかも、上述したとおり、本件商標と引用商標とは、十分に区別し得る別異の商標であるから、商標権者が本件商標をその指定商品に使用しても、商品の出所について混同を生じさせるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、不可分一体の造語として把握、認識されるものである。しかも、構成中に「草刈」の文字を含む「草刈無用」(登録第5025976号)の商標が「除草剤」に縮減・特定されることなく登録されている。
してみれば、その構成中に「草刈」の文字を有するとしても、これが商品の具体的な品質を表わすものであるとはいい難いから、本件商標をその指定商品について使用しても、商品の品質の誤認を生じさせるおそれはない。
なお、仮に、請求人の主張を前提とするならば、引用商標は、その構成中に「草刈」を認識する「クサカリ」の文字を有するので「除草剤」以外の商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあることとなり、そもそも、引用商標は、その指定商品である「薬剤」では登録を受けることのできない商標になるはずであり、この点に関する請求人の主張は矛盾を呈するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第16号に該当するものでないから、商標法第46条第1項の規定により無効とすべきでない。

第4 当審の判断
(1)商標の類否の判断手法について
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。
また、商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、上記3点のうち1点において類似するものでも、他の2点において著しく相違するなどして、取引の実情等によって、商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標とすべきではない(最高裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照。)
以下、これを踏まえて、本件商標と引用商標の類否について判断する。
なお、本件商標の指定商品中「薬剤」は、引用商標の指定商品と同一のものであり、この点について、当事者間に争いはない。
(2)観念について
請求人は、本件商標と引用商標とは観念において類似する商標である旨主張しているので、まず、両商標の観念の類否について判断する。
ア 本件商標
本件商標は、前記したとおり、「草刈大王」の漢字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「草刈」の文字に関しては、(ア)「くさかり【草刈(り)】草を刈ること。また、草を刈る人。」(前出「大辞泉 増補・新装版」)、(イ)「くさかり【草刈】草を刈ること。特に、飼料や肥料とするために草を刈りとること。また、その人。」(前出「広辞苑 第六版」)、(ウ)「くさかり【草刈(り)】家畜の飼料や肥料にするために草を刈ること。また、草を刈る人。」(前出「大辞林 第三版」)、(エ)「くさかり【草刈(り)】雑草をかまで刈り取ること。」(前出「講談社 カラー版 日本語大辞典」)の意味を有する語として各種辞書に記載されていることが認められ、かかる「草刈」の語は、一般に知られているものというべきである。
また、本件商標の構成中の「大王」の文字については、(ア)「だいおう【大王】勢力や功績のある王に対する敬称。」(前出「大辞泉 増補・新装版」)、(イ)「だいおう【大王】王の敬称。古代日本で、天皇号成立以前の君主の称号。親王の称。」(前出「広辞苑 第六版」)、(ウ)「だいおう【大王】王を敬っていう語。親王・諸王を敬っていう語。大和朝廷の首長のこと。『閻魔大王』の略。」(前出「大辞林 第三版」)、(エ)「だいおう【大王】王をいう敬語。偉大な王」(前出「講談社 カラー版 日本語大辞典」)の意味を有する語として各種辞書に記載されていることが認められ、かかる「大王」の語は、一般に知られているものというべきである。
そうすると、本件商標は、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものではあるが、その構成文字からみれば、「草を刈ること」の意味を理解させる「草刈」の漢字と「王」の意味を有する「大王」の漢字からなる結合商標と理解されるものである。
以上によれば、本件商標は、その構成文字全体から「草を刈る王」ほどの観念を生ずるとみるのが相当である。
イ 引用商標
(ア)引用商標は、前記したとおり、「クサカリテイオー」の片仮名を同じ書体、同じ大きさ、等間隔をもって、まとまりよく一体的に表してなるものであり、その構成文字全体に相応して生ずると認められる「クサカリテイオー」の称呼は、よどみなく一気一連に称呼し得るものである。
そして、かかる構成からなる引用商標は、構成全体をもって親しまれた特定の事物、事象を表すとみるべき格別の事情を見いだし得ないものであることをも勘案すると、直ちに特定の親しまれた観念を理解、把握させるものではないとみるのが相当である。
そうすると、引用商標は、特定の観念を生ずるものではないということができる。
(イ)請求人は、引用商標は、「クサカリ」の部分は「草刈り」に通じ、「テイオー」の部分が「帝王」に通じるから、「草刈りの王様」の観念が生ずると主張する。
引用商標は、上記のとおり、外観上まとまりよく一連に表してなるものであって、直ちに特定の観念を生ずるものではないが、その構成中の「クサカリ」の文字部分は、「草刈」の語の読みを表し、「テイオー」の文字部分は、「帝王」に通じるものとみた場合に、本件商標の観念と類似するか否かについて検討する。
「草刈」の語については、前記アのとおり、「草を刈ること」等の意味をもって一般に知られているものということができる。
また、「帝王」の語については、(a)「ていおう【帝王】君主国の元首。天子。皇帝。ある分野・社会で、非常に大きな権力や支配力をもつ人。」(前出「大辞泉 増補・新装版」)、(b)「ていおう【帝王】一国の君主。天子。比喩的に、ある社会で強大な支配力をもつ人。」(前出「広辞苑 第六版」)、(c)「ていおう【帝王】君主国の元首。皇帝。ある分野・社会で絶対的な力や権威をもつもの。」(前出「大辞林 第三版」)、(d)「ていおう【帝王】君主国の元首。皇帝。」(前出「講談社 カラー版 日本語大辞典」)の意味を有する語として各種辞書に記載されていることが認められ、かかる「帝王」の語は、「元首」等のほか、「ある分野・社会で、非常に大きな権力や支配力をもつ人」の意味をもって一般に知られているものということができる。
以上によれば、引用商標は、これを「クサカリ」と「テイオー」の各文字の組合わせからなるものとした場合には、「草を刈る元首」ほどの観念を生ずるほかに、「草を刈る、ある分野・社会で、非常に大きな権力や支配力をもつ人」の観念を看取し得なくはないといえる。
ところで、類否判断要素としての観念は、多くの取引者、需要者がその商標自体から直ちに一定の意義を想起させるものであることを要する(平成2年(行ケ)第213号平成5年3月30日判決言渡)ところ、「草を刈る王」の観念を生ずる本件商標と「草を刈る元首」又は「草を刈る、ある分野・社会で、非常に大きな権力や支配力をもつ人」の観念を生ずる引用商標とは、引用商標から生ずる観念が前者の場合における比較においては、たとえ、「草を刈る」という点で共通するとしても、両商標の指定商品において共通する「薬剤」に係る取引者、需要者において、「王」と「元首」の語が直ちに同義語として理解、把握されるものとみるべき格別の事情を見いだし得ないものであるから、観念において、同一又は類似するということはできず、また、引用商標から生ずる観念が後者の場合における比較においては、明らかに異なるものといえる。
したがって、引用商標は、観念が生ずるとしても、本件商標とは、観念において類似しないというべきである。
また、請求人は、甲第5号証及び甲第6号証を挙げて、漫画雑誌の題号や漫画の登場人物において、「帝王」と「大王」の各語は、共通の観念をもって需要者に捉えられていると主張する。
しかし、甲第5号証及び甲第6号証は、漫画雑誌に関するものであり、引用商標の指定商品と同一の本件商標の指定商品中「薬剤」に係る需要者が通常有する注意力と漫画雑誌に係る一般消費者の注意力が同じとみるべき格別の事情は見いだし得ないから、かかる証左をもって、本件商標の指定商品に係る需要者において、「帝王」と「大王」の各語が共通の観念をもって捉えられているということはできない。
さらに、請求人は、「大王」と「帝王」は、辞書的意味合いでは厳密には多少異なる意味を有しているが、「広辞苑 第六版」において、「大王」は「古代日本で、天皇号成立以前の君主の称号」とあるのに対し、「帝王」は「一国の君主」とあり、両者の意味は区別できないほど非常に近似していると主張する。
確かに、「広辞苑 第六版」によれば、「帝王」の語は、「一国の君主」の意味を有し、「大王」の語は、「古代日本で、天皇号成立以前の君主の称号」の意味をも有するものであるが、たとえ、引用商標の構成中の「テイオー」の文字部分から「帝王」の語を想起し、「一国の君主」の観念を生ずる場合があるとしても、本件商標の指定商品中「薬剤」の取引者、需要者がその構成中の「大王」の語から、「王の敬称」の観念を越えて、直ちに「古代日本で、天皇号成立以前の君主の称号」の観念を想起する場合が多いとみるべき格別の事情は見いだし得ないから、「帝王」と「大王」の各語は、直ちに同じ観念を生ずるということはできない。
したがって、これらの点に関する請求人の主張は、いずれも採用できない。
ウ 本件商標と引用商標の観念における類否
以上のとおり、引用商標は、特定の観念を生ずるものとはいえず、仮に、特定の観念を生ずるとしても、本件商標から生ずる観念とは異なるものである。
したがって、本件商標と引用商標とは、観念において類似する商標ということはできない。
(3)称呼について
本件商標と引用商標とは、それぞれ前記したとおりの構成からなるものであるから、その構成文字に相応して、本件商標からは「クサカリダイオウ」の称呼を生ずるものと認められ、引用商標からは「クサカリテイオー」の称呼を生ずるものと認められる。
そこで、本件商標から生ずる「クサカリダイオウ」の称呼と引用商標から生ずる「クサカリテイオー」の称呼を比較するに、両称呼は、いずれも8音構成からなるものであるが、第5音において「ダ」と「テ」の音、末尾において、「ウ」と「ー(長音)」の音の各差異を有するものである。
しかして、相違音である第5音の「ダ」の音は、舌尖を上前歯のもとに密着して破裂させて声帯の振動を伴って発する有声子音〔d〕と母音〔a〕との結合した濁音であるのに対し、「テ」の音は、舌尖を上前歯のもとに密着して破裂させて声帯の振動を伴わないで発する無声子音〔t〕と母音〔e〕との結合した清音であり、両音は、その音質・音感において明らかな差異を有するばかりでなく、「ダ」の音が濁音にして強く響く音であることから、「テ」の音との差異は一層明らかであるということができる。
そうとすれば、末尾における「ウ」と「ー(長音)」の音の差異に論及するまでもなく、第5音における音の差異が両称呼全体に与える影響は決して小さいものとはいえず、両者は、これをそれぞれ一連に称呼するも、称呼上十分に区別し得るものということができる。
この点について、請求人は、甲第7号証ないし甲第9号証を挙げて、本件商標からは「クサカリタイオー」の称呼をも生ずる旨主張している。
しかし、「大王」の漢字は、前記(2)アのとおり、「ダイオウ」と読むことは「広辞苑 第六版」をはじめとする各種辞書の記載に照らしても明らかであり、請求人が挙げている特殊な読み方をする地名等の例をもって、本件商標においても、その構成中の「大王」の文字部分を「タイオウ」と発音するとみるべき格別の事情は見いだせず、本件商標から生ずる称呼は、上記のとおり認定することが適切であるから、請求人の主張は、採用することができない。
したがって、本件商標と引用商標とは、称呼において類似する商標ということはできない。
(4)外観について
本件商標は、「草刈大王」の漢字4文字からなり、引用商標は、「クサカリテイオー」の片仮名8文字からなるものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、漢字4文字と片仮名8文字からなるものであるから、外観上顕著な差異を有するものである。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観において類似する商標ということはできない。
(5)取引の実情等
本件商標と引用商標は、これらを商品「薬剤」に使用した場合に、商品の出所の混同を生ずるおそれがあるとみるべき格別の取引の実情は見いだし得ない。
(6)小括
以上によれば、本件商標と引用商標とは、観念、称呼及び外観のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の周知著名性について
ア 請求人が引用商標の周知著名性を証明するものとして提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)パンフレット
請求人に係る1枚紙からなるパンフレット(甲第10号証ないし甲第13号証及び甲第45号証ないし甲第57号証)の表面には、「水稲用一発処理除草剤」の文字ともに、別掲に示すとおりの緑色に着色した「クサカリテイオー」の文字(以下、黒色で表されているものを含め「使用商標」という。)が表示され、各パンフレットには、「1キロ粒剤75」、「1キロ粒剤51」、「フロアブル」、「Lフロアブル」の4種類の表示が併記されており、裏面には、商品の特徴や適用雑草、使用方法、使用上の注意等が記載されている。
各パンフレットには発行日が記載されていないが、裏面の下部に「この資料は2009年10月現在の登録内容に基づいたものです。」(甲第10号証、甲第11号証)のような記載が認められるほか、以下のパンフレットに係る印刷数の集計表を併せてみれば、上記甲各号証は、2006(平成18)年2月(甲第46号証、甲第49号証)に納品され、それ以降に発行されたものと推認される。
パンフレットに係る印刷数の集計表(甲第44号証)によれば、2009(平成21)年3月以前のパンフレットの印刷数の総計は、341,500冊であり、その内訳は以下のとおりである(括弧内は、版番号を表す。)。
甲12(TOFH/INF/OO2-J) 10,000冊
甲13(TOFL/INF/OO3-J) 10,000冊
甲45(TOG75TOFH/INF/001-J) 30,000冊
甲46(TOG75/INF/OO2-J) 58,500冊
甲47(TOG75/INF/OO3-J) 20,000冊
甲48(TOG75/INF/OO4-J) 68,000冊
甲49(TOG51/INF/OO2-J) 10,000冊
甲50(TOG51/INF/OO3-J) 20,000冊
甲51(TOG51/INF/OO4-J) 10,000冊
甲52(TOG51/INF/OO5-J) 10,000冊
甲53(TOG51/INF/OO6-J) 55,000冊
甲54(TOG51/INF/OO7-J) 10,000冊
甲55(TOG51/INF/OO8-J) 10,000冊
甲56(TOFH/INF/OO1-J) 10,000冊
甲57(TOFL/INF/OO1-J) 10,000冊
(イ)新聞、雑誌における宣伝広告等
請求人は、「水稲用一発処理除草剤」の文字ともに使用商標を表示した宣伝広告を、2007(平成19)年1月26日から2009(平成21)年11月20日の間に発行された新農林技術新聞(甲第37号証、甲第41号証、甲第71号証、甲第72号証)、日本農業新聞(甲第38号証、甲第61号証ないし甲第67号証)、農業共済新聞(甲第39号証、甲第40号証、甲第69号証、甲第70号証)、全国農業新聞(甲第68号証)、雑誌「今月の農業」(甲第73号証)、雑誌「技術と普及」(甲第74号証)において行った。
なお、2009(平成21)年11月20日発行の新農林技術新聞(甲第41号証)には、「水稲用一発処理除草剤クサカリテイオー」の見出しの下、「クサカリテイオー」についての特徴等とともに、「科研製薬(株)、三井化学アグロ(株)は、平成十七年九月二十一日付けで農薬登録を取得したクサカリテイオー1キロ粒剤75/51。また、1キロ粒剤と同一有効成分量を含有するフロアブル製剤であるクサカリテイオーフロアブル及びLフロアブルも登録を取得し、本格販売を目指す。・・・」と記載されており、かかる記事内容からみれば、使用商標を使用した除草剤は、本件商標の登録出願日までの使用期間が3年半程度と推測される。同旨の記事は、2007(平成19)年11月25日発行の新農林技術新聞にも掲載されている(甲第71号証)。
(ウ)ウェブページにおける宣伝広告
請求人は、同人に係るウェブページ(写し)においても使用商標を表示した「1キロ粒剤75」、「1キロ粒剤51」、「フロアブル」、「Lフロアブル」の4種類の除草剤について、商品の特徴や適用雑草、使用方法、使用上の注意等掲載している(甲第14号証ないし甲第17号証)。
これらのウェブページの写しには、2009年12月25日印刷したものと解される「2009/12/25」の表示が右下に記載されている。
(エ)各種資料
(a)財団法人日本植物調節剤研究協会に係る「平成20年度、同21年度水稲除草剤出荷数量・金額 推定使用面積一覧表」(抜粋:甲第18号証、甲第19号証)によれば、平成19年10月から同20年6月末(平成20年度)までにおける出荷金額及び推定使用面積は、クサカリテイオーが1億9780万円、7912ha、クサカリテイオーLが734万4千円、306ha、クサカリテイオー1キロ75が1億3046万4千円、5436ha、クサカリテイオー1キロ51が7698万6千円、3347haとなっており、平成20年10月から平成21年6月末(平成21年度)までにおける出荷金額及び推定使用面積は、クサカリテイオーが1億3035万3千円、5057ha、クサカリテイオーLが1080万8千円、436ha、クサカリテイオー1キロ75が1億1515万2千円、4605ha、クサカリテイオー1キロ51が8887万1千円、3708haとなっている。
以上によれば、使用商標に係る水稲除草剤の出荷金額は、4種合わせて、平成20年度は4億1259万4千円、平成21年度は3億4518万4千円であり、推定使用面積は、平成20年度は1万7001ha、平成21年度は1万3806haであったことが認められる。
なお、「平成20年度水稲除草剤出荷数量・金額 推定使用面積一覧表」(甲第18号証)は、左端の「No」の欄をみると、1から72までが記載されているが、中間の4から43までは省略されているばかりでなく、商品名の欄をみれば、この一覧表は、商品名のアイウエオ順に掲載されていると推察されるところ、No72は「クサホープD」であり、その後に掲載されているであろう商品については添付されていない。このことは、「平成21年度水稲除草剤出荷数量・金額 推定使用面積一覧表」(甲第19号証)についても同様に、1から79までが記載されているが、中間の4から50までは省略されている。
よって、平成20年度及び平成21年度における水稲除草剤全体についての出荷総金額を把握することができないから、使用商標を使用した水稲除草剤の出荷金額の水稲除草剤全体に占める位置付けは不明である。
そして、平成20年度において、請求人に係るものとは認められない1億円以上の出荷金額のものだけをみても、「アクト」(No2)が2億5733万5千万円、「クサトリーDX H」(No57)が5億1396万7千円、「クサトリーDX L」(No58)が4億3636万8千円、「クサトリーDX H」(No59)が3億3881万3千円、「クサトリーDX L」(No60)が1億1331万8千円、「クサトリーDX1キロ75」(No61)が3億3405万6千円、「クサトリーDX1キロ51」(No62)が1億4853万7千円、「クサトリエースL」(No65)が4億4164万7千円、「クサホープD」(No72)が1億966万円の9銘柄が認められ(甲第18号証)、平成21年度では、「アクト」(No2)が2億2952万1千円、「クサトリーDX H」(No63)が3億9587万7千円、「クサトリーDX L」(No64)が4億6346万9千円、「クサトリーDX H」(No65)が2億3516万1千円、「クサトリーDX L」(No66)が1億1745万円、「クサトリーDX1キロ75」(No67)が1億7289万8千円、「クサトリーDX1キロ51」(No68)が1億3259万6千円、「クサトリエースL」(No69)が3億7535万8千円、「クサホープD」(No76)が1億1396万9千円、「クサメッシュL」(No77)が1億842万1千円、「クラッシュEX」(No78)が1億581万円の11銘柄が認められる(甲第19号証)。
また、平成20年度の使用商標を使用した水稲除草剤の推定使用面積1万7001haは、静岡県全体の水稲の作付面積(1万7700ha)に相当し、同じく平成21年度の推定使用面積1万3806haは、徳島県(1万3700ha)あるいは高知県(1万3500ha)全体の水稲の作付面積に相当していることが認められるが、平成21年産水稲の全国の作付面積は162万1000haとなっており、この全国の作付面積との割合からみれば、平成20年度は、約1.05%、平成21年度は、約0.85%である(甲第20号証)。
(b)各都道府県作成の農薬使用のガイドライン
「農作物病害虫・雑草防除ガイド」、「農作物病害虫防除指針」、「農作物等病害虫雑草防除の手引き」、「病害虫・雑草管理の手引き」等の名称で北海道(甲第21号証)、青森県(甲第22号証)、福島県(甲第23号証)、栃木県(甲第24号証)、埼玉県(甲第25号証)、富山県(甲第26号証)、静岡県(甲第27号証)、岐阜県(甲第28号証)、三重県(甲第29号証)、兵庫県(甲第30号証)、広島県(甲第31号証)、愛媛県(甲第32号証)、福岡県(甲第33号証)、熊本県(甲第34号証)、鹿児島県(甲第35号証)が作成している農薬使用のガイドライン(抜粋)には、除草剤に使用する使用商標が各社の除草剤とともに、使用時期や使用上の注意等と合わせて一覧表の形で掲載されている。
(c)社団法人日本植物防疫協会発行に係る「農薬要覧2009」
「農薬要覧2009」(抜粋:甲第59号証)の194ページないし197ページには、農薬(除草剤)の出荷数量等が一覧形式で表示されているところ、使用商標に係る商品の出荷数量は、以下のとおりである。
なお、出荷数量は、「lまたはkl」と記載(101ページ)されているところ、以下に示す出荷数量の単位は、いずれも「kl」として表すこととする。
クサカリテイオー1キロ粒剤75(商品コード:45129)48.1kl
クサカリテイオー1キロ粒剤51(商品コード:45130)30.0kl
クサカリテイオーLフロアブル (商品コード:45182) 1.5kl
クサカリテイオーフロアブル (商品コード:45183)43.9kl
これら使用商標に係る除草剤の総出荷数量は、123.5klとなる。
また、194ページないし197ページに掲載された請求人に係る商品とは認められない除草剤において、50kl以上の商品(以下「商品コード」をもって表す。)と出荷数量は、以下のとおりである。
商品コード:45112 154.1kl
商品コード:45113 172.4kl
商品コード:45118 56.2kl
商品コード:45119 67.6kl
商品コード:45120 159.8kl
商品コード:45121 61.9kl
商品コード:45122 174.9kl
商品コード:45125 88.7kl
商品コード:45128 269.5kl
商品コード:45132 840.6kl
商品コード:45133 115.7kl
商品コード:45134 68.9kl
商品コード:45135 199.7kl
商品コード:45136 66.0kl
商品コード:45137 148.3kl
商品コード:45138 99.1kl
商品コード:45143 96.6kl
商品コード:45144 88.6kl
商品コード:45145 246.9kl
商品コード:45146 78.3kl
商品コード:45149 66.2kl
商品コード:45154 108.9kl
商品コード:45160 71.6kl
商品コード:45165 4,273.6kl
商品コード:45175 116.1kl
商品コード:45178 159.7kl
商品コード:45180 69.3kl
商品コード:45181 225.8kl
商品コード:45192 53.7kl
上記のとおり、クサカリテイオー1キロ粒剤75の出荷数量を上回る農薬は、29品目に上り、使用商標に係る除草剤の総出荷数量123.5klを上回る農薬は、12品目に上ることが認められるが、194ぺーじないし197ページのほかに掲載された農薬の出荷数量は不明である。
イ 以上の認定事実によれば、使用商標は、本件商標の登録出願日の約3年半ほど前から農薬(除草剤)に使用され、その後、本件商標の登録査定時に至るまで継続してパンフレット、新聞・雑誌等における宣伝広告(前記ア(ア)ないし(ウ))がされたほか、15の道・県の農薬使用のガイドライン(前記ア(エ)(b))にも掲載されていることが認められるが、平成21年産水稲の全国の作付面積に対する割合(前記ア(エ)(a))、除草剤の出荷数量(前記ア(エ)(c))等に照らすと、使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、一定の取引者、需要者に知られていたということができるとしても、その周知著名性が相当高いものであったとはいえない。
(2)本件商標と使用商標の類似性の程度
使用商標は、引用商標とは、若干書体を異にするものであるが、「クサカリテイオー」の片仮名を表してなるものであるから、前記1と同様の理由により、本件商標と使用商標は、観念、外観及び称呼のいずれにおいても非類似の商標と認められる。
(3)本件商標の指定商品と使用商標の使用に係る商品との関連性等
本件商標は、前記第1のとおり、商品「薬剤」を含むものであり、一方、使用商標の使用に係る商品は、薬剤の範ちゅうに含まれる「除草剤」と認められるから、両商品は、同一又は類似するものである。
そして、除草剤を含む農薬は、農薬取締法によって、「使用の時期及び方法、その他の事項について農薬を使用する者が遵守すべき基準が定められており、農薬使用者は、その基準に違反して農薬を使用してはならないとされている(甲第43号証:同法第12条第1項及び第3項)ことをもかんがみれば、かかる基準に反する使用をした場合には、生態系や環境等に影響を与えるものであるから、その取引者、需要者において普通に払われる注意力は、ある程度高いということができる。
(4)出所の混同のおそれについて
以上によれば、使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る「除草剤」に使用する商標として、この種商品の取引者、需要者の間において広く認識されていたものとは認められないばかりでなく、本件商標と使用商標とは、十分に区別し得る別異の商標というべきものである。
してみれば、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者をして、使用商標を連想又は想起させるものとは認められず、請求人が主張している除草剤についての諸事情を考慮したとしても、その商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、前記1のとおり、その構成全体をもって、特定の意味合いを認識させることのない不可分一体の造語と認められるものである。
そうすると、本件商標は、たとえ、その構成中に「草を刈ること」を意味する「草刈」の文字を有しているとしても、特定の商品の品質を理解・把握させるものとはいえないから、これをその指定商品中のいずれの商品について使用しても、商品の品質について誤認を生ずるおそれはないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第16号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
使用商標

(色彩は、原本参照)

審理終結日 2010-08-30 
結審通知日 2010-09-01 
審決日 2010-09-29 
出願番号 商願2009-18957(T2009-18957) 
審決分類 T 1 11・ 263- Y (X05)
T 1 11・ 262- Y (X05)
T 1 11・ 271- Y (X05)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前山 るり子 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 末武 久佳
小畑 恵一
登録日 2009-11-06 
登録番号 商標登録第5277917号(T5277917) 
商標の称呼 クサカリダイオー 
代理人 小栗 昌平 
代理人 井上 博人 
代理人 伊東 美穂 
代理人 市川 利光 
代理人 奥村 陽子 
代理人 小谷 武 
代理人 木村 吉宏 

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