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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない X03
管理番号 1224913 
審判番号 無効2009-890135 
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-12-14 
確定日 2010-09-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第5204861号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5204861号商標(以下「本件商標」という。)は、「IST」及び「イスト」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成19年8月29日に登録出願され、第3類「化粧品」を指定商品として同21年1月19日に登録査定、同年2月20日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録商標は、次の(1)ないし(5)に掲げるとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第2176893号商標(以下「引用商標1」という。)
商標 :エスト
EST
登録出願日:昭和62年3月23日
設定登録日:平成1年10月31日
書換登録日:平成21年10月21日
指定商品 :第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類」
(2)登録第3371266号(以下「引用商標2」という。)
商標 :EST
登録出願日:平成4年6月19日
設定登録日:平成11年4月9日
指定商品 :第3類「せっけん類,植物性天然香料,動物性天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料,化粧品,つや出し剤」
(3)登録第4347556号商標(以下「引用商標3」という。)
商標 :エスト
EST
登録出願日:平成10年11月16日
設定登録日:平成11年12月24日
指定商品 :第3類「せっけん類,香料類,化粧品,つけづめ,つけまつ毛,歯磨き,つや出し剤,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤」
(4)登録第5016820号商標(以下「引用商標4」という。
商標 :別掲のとおり
登録出願日:平成17年12月5日
設定登録日:平成19年1月12日
指定商品 :第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き,つけづめ,つけまつ毛」、第21類「化粧用具(「電気式歯ブラシ」を除く)」
(5)登録第5027188号商標(以下「引用商標5」という。)
商標 :est(標準文字)
登録出願日:平成18年7月7日
設定登録日:平成19年2月23日
指定商品及び指定役務:第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き,つけづめ,つけまつ毛」、第21類「化粧用具(「電気式歯ブラシ」を除く)」、第44類「美容,理容,入浴施設の提供,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),あん摩・マッサージ及び指圧,カイロプラクティック,きゅう,柔道整復,はり,医業,医療情報の提供,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導,植木の貸与,農業用機械器具の貸与,医療用機械器具の貸与,漁業用機械器具の貸与,美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与,芝刈機の貸与」
上記、引用商標1ないし引用商標5をまとめていうときは、「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第57号証(枝番を含む。)を提出している。
1 無効事由
本件商標は、以下の理由から明らかなように、商標法第4条第1項第10号、第11号及び第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定によって、その登録を無効とされるべきものである。
2 引用商標の周知・著名性について
(1)請求人の化粧品「est」(エスト)ブランドについて
ア 請求人は、1940(昭和15)年5月に設立され、化粧品、スキンケア・ボディケア製品、ヘアケア製品、ヘアスタイリング剤、健康機能性食品・飲料、サニタリー製品、オーラルケア製品、入浴剤、衣料用洗剤や柔軟仕上げ剤等のファブリックケア製品、食器用洗剤、住居用洗剤等のホームケア製品を中心に扱う、我が国で屈指の総合日用品メーカーである(甲第12号証の1)。
同時に、これら日用品に加えて、油脂関連製品をはじめ、それを原料とする、油脂誘導体や界面活性剤、高機能ポリマー、香料など、多岐にわたる工業用製品も扱い、幅広い事業を展開する巨大企業である。
イ 「est」(エスト)は、デパート専門の高級ラインとして請求人が2000年10月に立ち上げた化粧品ブランドであり、「est(エスト)」に関して引用商標を登録している。
英語で形容詞・副詞の語尾につける最上級表現である「est」を冠したこのブランド名は、「essence of sofina technology」、すなわち、請求人がこれまで長年にわたり培ってきた技術のエッセンスという意味を込めて、「essence」、「sofina」及び「technology」の各語の頭文字から略して命名された請求人の造語商標である。
ウ 請求人は、「est」(エスト)ブランドの下で、洗顔料、化粧水、美容液、クリーム等のスキンケア用化粧品から、ファンデーションや化粧下地といったメーキャップ化粧品や、ボディマッサージ用クリーム等のボディケア用品まで、様々な商品を開発・販売している(甲第12号証の2及び甲第38号証ないし甲第42号証)。最近も2009年の8月、9月、10月、12月に新商品を次々と発売しており、現在も成長を続ける請求人の高級化粧品ブランドである。また、「est」(エスト)は、従来は、花王ソフィーナのカウンターで販売されていたが、2006年以降、全国の百貨店で「est」単独の販売カウンターが次々と設けられるようになり(甲第13号証)、このような百貨店での売場を通じて、引用商標は百貨店を訪れる一般需要者の間にも高級ブランドとして広く知られることとなった。
(2)国内での販売高、市場シェア・人気ランキング
このような「est」(エスト)の化粧品の人気は、以下のデータからも明らかである。
ア 雑誌・インターネット情報サイトでの紹介
「est」(エスト)の化粧品は、特に女性の間で人気が高く、女性雑誌が調査するコスメランキングでも常に上位で掲載されており、需要者や美容専門家の間で「est」(エスト)の化粧品等が満足度の高い商品であることが高く評価されている。
(ア)講談社発行「Voce」2005年8月号では、全国のデパート25店舗での2005年度の1月から4月の間で売上個数が高かった商品を部門別で紹介しており、「est」(エスト)の化粧品は、ローション部門で4位、スペシャルケア部門で2位にランクされている(甲第14号証)。
(イ)同じく「Voce」2006年1月号では、2005年の秋冬の人気化粧品を紹介しており、クレンジング部門では、「est」(エスト)の洗顔料が1位にランクされている(甲第15号証)。
(ウ)同じく「Voce」2009年1月号では、2008年秋のマッサージ部門で「エストエターナルフローマッサージ」が1位を受賞した(甲第16号証)。
(エ)集英社発行「MAQUIA」2009年1月号では、2008年ベストコスメオブザイヤーでのベストオブベストコスメ個入賞を「エストエターナルフローマッサージ」が受賞し、美容ジャーナリストから絶賛されている(甲第17号証)。
(オ)ウェブサイト「@コスメ」では、2006年度化粧水部門で「エスト/エスト ザ・ローション」が2年連続で第1位を受賞した(甲第18号証)。
(カ)集英社発行「MAQUIA」2007年1月号では、2006年ベストコスメにおいて、「エスト リフトインプレッション」がメーキャップアーティストの「山本浩未賞」を受賞した(甲第19号証)。
(キ)講談社発行「FRaU」2006年11月5日号では、2006年ベストコスメにおいて、「エスト ポアソリューション」が「毛穴部門」第2位を受賞した(甲第19号証)。
(ク)講談社発行「STYLE」2005年8月号では、2005年上半期ベストコスメにおいて、「エスト リキッドメイクアッププリズミーホワイト」が「ファンデーション部門」で第1位を受賞し、「エスト ホワイトニングエステ」が「スキンケア部門」で第1位を受賞した(甲第20号証)。
(ケ)ウェブサイト「@コスメ」では、2008年度化粧水部門で「エスト/インナーアクティベート コンディショニング ローションIII」が4年連続で第1位を受賞した(甲第35号証)。
(コ)同じく「@コスメ」では、2005年度化粧水部門で「エスト/エスト ザ・ローション」が第1位を受賞した(甲第36号証)。
(サ)講談社発行「Voce」2006年1月号では、2005年秋冬「クレンジング部門」で「エスト ウォッシングエッセンスエンリッチド」が第1位を受賞した(甲第37号証)。
さらに、人気女性雑誌「Voce」や「美的」とのタイアップイベントを東京、大阪の大都市で開催しており(甲第21号証及び甲第22号証)、有名メーキャップアーティストやモデルが「est」(エスト)の商品を用いて参加者に向けてメーキャップアドバイスを行ったイベントの様子は雑誌でも大きく紹介され、女性層への「est」(エスト)の化粧品の認知度の上昇に大きく貢献した。
また、女性雑誌の化粧品ページでは、「est」(エスト)の美白ファンデーションや集中美容液、ボディケア用クリーム等の新商品が美容専門家や美容師により紹介され、女性雑誌で「est」特集が組まれるなど(甲第23号証及び甲第24号証)、需要者から注目されている化粧品であることが理解できる。
その他、請求人は、女性雑誌を中心に、「est」(エスト)の化粧品等の宣伝・広告活動を定期的に行っている(甲第14号証ないし甲第37号証)。
イ 売上高・宣伝・広告活動に関する費用
「est」(エスト)の化粧品の我が国での2000年から2008年度までの販売額は、毎年増加しており、その売上高は、2005年度が66億円、2006年度が71億円、2007年度が80億円、2008年度が78億円に達する(甲第43号証)。
さらに、請求人は、2001年度から2008年度までの間に、新聞広告(新聞折り込みマガジンやフリーペーパー等も含む。)については2002年度から2008年度の間に総額9300万円以上、雑誌における単発広告(MG臨時)については同期間に35億1500万円以上、その他媒体(テレビ・ラジオを除く)広告については同期間に2億800万円以上もの宣伝広告費を投じ、「est」(エスト)ブランドの周知化を図ってきた。かかる全ての媒体での宣伝広告費は、2002年度が約3億9000万円であり、その後毎年増加し、2002年度から2008年度までの宣伝広告費の総額は、約38億1600万円にものぼる(甲第43号証)。
(3)小括
以上のとおり、発売当時から現在に至るまで、請求人は、巨額の宣伝費用を投じ、引用商標「est」(エスト)ブランドの普及に努めてきた結果、本件商標の出願時である平成19年8月29日及び遅くとも査定時である平成21年1月19日(審決注:26日は誤記と認める。)までには、引用商標は、請求人の業務に係る「化粧品」を表示する商標として、我が国において周知・著名に至っていたというべきである。
3 本件商標と引用商標との類似性について
(1)本件商標について
本件商標は、「IST」及び「イスト」の文字を二段書きしてなり、そのカタカナ部分より、「イスト」との称呼が生じるほか、アルファベットの「I」「S」「T」の各文字から、「アイエスティー」の称呼も生じ得るものといえる。
なお、本件商標は、「?の創作家、演奏家、学問における研究者」の意味の接尾語「-ist」と同じ文字からなる(甲第44号証)。しかしながら、「IST」は、「pianist」、「economist」等の単語で使用される場合があるとしても、単独で使用されることは希であるから、本件商標に接する需要者・取引者は、むしろ、特定の観念を有さない造語商標と認識することが通常であると考える。
(2)引用商標について
引用商標1及び引用商標3は、「エスト」及び「EST」の文字を二段書きにしてなり、引用商標2は欧文字の「EST」を書してなる外観を有する。また、引用商標4は、「est」とダイヤモンド形状の図形を組み合わせてなり、引用商標5は「est」を書してなる外観を有する。引用商標は、その構成からいずれも「エスト」の称呼のほか、アルファベットの「E(e)」「S(s)」「T(t)」の各文字から、「イーエスティー」の称呼も生じ、請求人が商品「化粧品」等に使用して周知・著名な「est」ブランドの観念が生じる。
(3)本件商標と引用商標の称呼及び外観上の類似性について
ア 称呼上の類似性
上述のとおり、本件商標からは「イスト」又は「アイエスティー」の称呼が生じる一方、引用商標からは「エスト」又は「イーエスティー」の称呼が生じるものであるが、上記「イスト」の称呼と「エスト」の称呼を対比すると、両者は共に3音である点を共通にし、また語頭の「エ」と「イ」以外の他の各音「スト」を同じくするものである。
ここで、両称呼における差異音である「エ」と「イ」は、ともに50音図の同行に属する母音であって、いずれも口を横に広げて発する近似音であることよりすれば、その差異が称呼の全体に及ぼす影響は、決して大きいものとはいえず、両称呼を全体として、それぞれ一連に称呼するときは、語調、語感が極めて近似し、称呼上相紛れるおそれがあり、したがって、本件商標と引用商標とは、互いに紛れるおそれのある称呼上類似の商標といわざるを得ない。
なお、以下の異議決定・審決例において、冒頭の「エ」と「イ」音で相違する商標が互いに類似する商標であると認められており、かかる過去の異議決定・審決例からも、両商標の類似性は明らかである(甲第45号証ないし甲第55号証)。
例えば、甲第46号証の昭和55年審判第19389号で対象となった商標「IRSA」から生ずる称呼「イルザ」と「ELSA/エルザ」から生ずる「エルザ」とは、本件商標と引用商標と同様に、称呼が3音であり、冒頭の「イ」と「エ」の音のみで相違しているが、「両音は近以した音であるから、両者をそれぞれ一連に称呼するときは、語感、語調が似たものとなり、彼此聴き誤るおそれのあるものといわざるを得ない。」と判断されている。
したがって、かかる過去の異議決定・審決にかんがみれば、本件商標から生ずる称呼である「イスト」と引用商標から生ずる称呼である「エスト」についても同様に、称呼において類似する商標と判断されるべきである。
特に、「化粧品」等についての引用商標の著名性にかんがみると、化粧品は対面販売のみならず、電話による通信販売も広く行われているところ、該商品が電話で取引されることとなった場合、本件商標の名称を聞いた需要者は、請求人の「エスト」を想起し、「エスト」と聞き間違えて購入する事態が生じる懸念は否定できない。
さらに、本件商標から生ずる称呼である「アイエスティー」と引用商標から生じうる称呼である「イーエスティー」についても、以下に述べるとおり、互いに紛れるおそれのある称呼上類似の商標と言うべきである。
すなわち、両称呼は、全体で6音という音数にあって語頭の「ア」音と「イ」音のみで相違し、残りの5音においては同じ称呼を有するものである。また、両音は同行音であり、必ずしも明瞭に聴別できる音ではない。
加えて、本件商標が口を大きく開けて発音する「ア」に続けて口を半開きにして「イ」と発音し、これに続けて「エスティー」と発音するのに対し、引用商標は口を半開きにして「イ」と発音し、これに続けて「エスティー」と発音するのであるから、両商標の調音方法は近似したものといわざるを得ない。
以上の点から、両商標が一連に称呼された場合、通常の注意力では、「アイ」と「イー」の音が明瞭に聴別されるわけではなく、「イーエスティー」であったか「アイエスティー」であったか混同してしまい、彼此聞き誤るおそれが高いというべきである。
イ 外観上の類似性
引用商標1及び引用商標3「エスト/EST」と本件商標「IST/イスト」は、いずれも、欧文字3文字とカタカナ3文字を二段書きにしてなる構成よりなり、それぞれの冒頭において、「E」と「I」又は「エ」と「イ」の差異を有するにすぎず、それを除いた他の部分、すなわち「ST」及び「スト」の文字部分については、全く同じ構成となっている。
また、引用商標2「EST」と本件商標の欧文字部分「IST」は、その冒頭において「E」と「I」の差異を有するに過ぎず、それを除いた他の欧文字2文字、すなわち「ST」については、双方の綴り字の羅列を全く同じくするものである。
引用商標4は、小文字「est」と立体のダイヤモンド図形を組み合わせてなるが、該小文字部分と本件商標の欧文字部分「IST」は、全体で大文字と小文字の違いがあるとしても、それぞれの冒頭において「e」と「I」の差異を有するに過ぎず、それを除いた他の2文字について双方の綴り字の羅列を全く同じくするものである。
引用商標5「est」と本件商標の欧文字部分「IST」は、全体で大文字と小文字の違いがあるとしても、それぞれの冒頭において「e」と「I」の差異を有するに過ぎず、それを除いた他の2文字について双方の綴り字の羅列を全く同じくするものである。
しかるに、該冒頭の「E」と「I」、「e」と「I」、及び「エ」と「イ」にしても、比較的近似した外観を呈しているものであり、いずれもこれといった特徴を有しない欧文字3字のうちのわずか1文字同士の差異にすぎないことよりすれば、本件商標と引用商標のそれぞれに接する取引者、需要者は、これより外観上極めて近似した印象を看取する場合が決して少なくないと見るのが相当である。
してみると、両商標は、文字部分の外観において、互いに紛れるおそれがある類似する商標というべきである。
ウ 具体的取引実情の考慮
上記ア及びイに述べたとおり、本件商標と引用商標とは称呼及び外観上類似することが明らかであるが、以下に述べる取引の具体的実情をも考慮するならば、本件商標と引用商標間における出所の混同のおそれはより一層、高まるというべきであり、両者は類似するというべきである。
すなわち、商標の類否については、「対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、そのためには、そのような商品に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況にもとづいて判断すべき」とするのが最高裁判決であり、類否判断の際に考慮すべき具体的取引の実情として、他人の商標の著名性を考慮すべきであることは、判決においても認められている(甲第56号証及び甲第57号証)。
そして、上述したとおり、引用商標は、請求人の業務に係る商品に使用される商標として周知・著名なものであるから、本件商標と引用商標の類否判断の際には引用商標の周知・著名性を具体的取引の実情として考慮すべきであり、その場合、本件商標と引用商標との類似性はより高くなるというべきである。
(4)小括
以上のことから、本件商標と引用商標とは、称呼及び外観上、互いに類似する商標である。
また、本件商標の指定商品「化粧品」は、引用商標の指定商品に含まれる「化粧品」と同一の商品であり、また、本件商標の登録出願前から周知・著名な引用商標が使用される商品「化粧品」と同一の商品である。
4 混同のおそれについて
(1)「混同のおそれ」の判断基準
商標法第4条第1項第15号の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである、とするのが最高裁判例である(最高裁平成12年7月11日判決、最高裁平成13年7月6日判決参照)。
かかる基準に照らし合わせた場合、本件商標に接した取引者・需要者は、あたかも請求人若しくは請求人と何等かの関係がある者の業務に係る役務であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることについては、以下に述べるとおり明らかである。
(2)当該商標と他人の表示との類似性の程度
上述のとおり、本件商標と請求人の業務に係る商品に使用される商標として周知・著名な引用商標とを比較すると、両者は称呼・外観において類似するものである。
(3)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
上述のとおり、請求人の業務にかかる商品に使用される商標として周知・著名な引用商標は、英語で形容詞・副詞の語尾につける最上級表現である「est」と「essence of sofina technology」を略して命名された独創性の高い商標であり、請求人以外の第三者により商標として採択される可能性の低い標章であることは明白である。
(4)当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度及び商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情
本件商標の指定商品は「化粧品」であり、引用商標が使用される「化粧品」とは同一の商品であるから、「当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度」及び「商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情」における関連性も高いことは明白である。
(5)小括
以上述べたとおり、本件商標と引用商標との外観及び称呼上の類似性、引用商標が周知・著名性を獲得していること、引用商標の独創性の高さ、本件商標と引用商標が使用される商品が同じ「化粧品」である点に照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断した場合、本件商標に接した取引者・需要者は、あたかも著名な請求人若しくは請求人と何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。
5 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、請求人の周知・著名な引用商標と類似し、本件商標出願日前の商標登録出願にかかる請求人の先行登録商標である引用商標と類似する商標であって、引用商標に係る指定商品と同一の商品「化粧品」について使用する商標であるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
6 商標法第4条第1項第15号について
本件商標は、請求人による独創的な商標であり請求人の営業表示及び請求人の業務に係る商品「化粧品」及び「せっけん類」等に使用される商標として周知・著名な引用商標と類似するから、本件商標がその指定商品である「化粧品」に使用された場合、これに接する取引者・需要者は、あたかも請求人若しくは請求人と何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきであり、商標法第4条第1項第15号に該当する。
7 商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、本件商標の登録出願前から請求人の業務に係る「化粧品」に使用するものとして周知・著名な引用商標と類似する商標であり、「化粧品」と同一の商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
8 結論
以上から、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、第11号及び第15号に該当するというべきであって、同法第46条第1項第1号の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第21号証及び参考資料1ないし参考資料5を提出している。
1 引用商標の周知・著名性について
請求人は、引用商標が、本件商標の出願時である平成19年8月29日及び査定時である平成21年1月19日(審決注:26日は誤記と認める。)までには、請求人の業務に係る「化粧品」を表示する商標として我が国において周知・著名に至っていた旨主張する。
しかしながら、以下に述べるとおり、請求人の主張は失当である。
(1)「est」販売カウンター
請求人は、「2006年以降、全国の百貨店で『est』単独の販売カウンターが次々と設けられるようになり(甲第13号証)、このような百貨店での売場を通じて、引用商標は百貨店を訪れる一般需要者の間にも高級ブランドとして広く知られることとなった。」と述べている。
しかしながら、請求人は、本件商標の出願時及び査定時に、何店舗の百貨店に「est」の販売カウンターが存在していたのかを示す証拠を何ら提出していない。また、「化粧品」の販売チャネルは多様化している。近年、インターネットや薬局・ドラッグストアで「化粧品」を購入する需要者がかなりの比率を占めている事実にかんがみると、百貨店に「est」単独の販売カウンターが設けられるようになったからといって、それをもって、一般需要者の間にも高級ブランドとして広く知られることとなったとまではいえない。
(2)雑誌・インターネット情報サイトでの紹介記事
ア まず、請求人が提出する雑誌やインターネットの口コミサイト(甲第15号証ないし甲第20号証及び甲第35号証ないし甲第37号証)におけるランキングや評価は、何を根拠として導き出したのか定かではないため、証拠としての信用性に欠ける。また、雑誌「Voce」2005年8月号に掲載されている化粧品ランキング(甲第14号証)についても、当該雑誌が独自に行った調査に基づくものであり、調査対象のデパートも恣意的に選択されたものであるため、公正な調査結果とはいえない。したがって、当該調査結果についても、証拠としての信用性に欠けると思料する。
イ 女性は10代あたりから美容に興味を待ち始めるため、「化粧品」の需要者は、10代以上の女性一般であるといえる。仮に、上記雑誌及びインターネットの口コミサイトにおけるランキングが、当該雑誌の読者及びウェブサイトの訪問者のアンケートに基づくものであるとしても、そのアンケートが、どのような需要者層を対象に、どのように行われたのかが明らかにされていない以上、このようなアンケート結果を証拠として採用すべきではない。
ウ 請求人が証拠として提出している雑誌やウェブサイトはいずれも発行部数やアクセス数が示されていない(甲第14号証ないし甲第37号証)。したがって、いくつかの雑誌やウェブサイトで「est」の化粧品が紹介された事実は存在しているのかもしれないが、その事実をもって、引用商標が周知・著名であるということにはならない。
エ さらに、請求人が提出する雑誌の中には、美容研究家や美容ジャーナリスト等が請求人の商品を紹介しているものもいくつか見られる(甲第17号証及び甲第19号証)。しかしながら、これらの専門家は、化粧品会社からの依頼を受けて当該会社の製品を紹介することが多く、美容ジャーナリスト等が雑誌の中である商品を紹介したり、自身の名を冠した賞を与えたからといって、それは美容ジャーナリスト等の個人的な主観に基づく評価にすぎなかったり、請求人の単なる宣伝広告活動の一貫にすぎないものであるから、これらの事実をもって引用商標が周知又は著名であるということにはならない。
オ なお、請求人の提出する雑誌の一部(甲第23号証及び甲第25号証)は発行年が不明である。また、その他の一部の雑誌(甲第16号証、甲第17号証、甲第19号証及び甲第20号証)については、表紙及び奥付が付されていない。このような資料を証拠として採用すべきではない。
カ なお、引用商標1ないし引用商標3が化粧品の商標として使用されている事実は確認できない。
(3)売上高、宣伝・広告活動に関する費用
請求人は、「est」の化粧品の売上高、宣伝・広告活動に関する費用を示す証拠として、陳述書を提出している(甲第43号証)。
しかしながら、当該陳述書は、請求人の社員によって作成されたものにすぎず、客観的に「est」の化粧品の売上高、宣伝・広告活動費用を示す証拠は何ら提出されていない。
また、仮に、陳述書(甲第43号証)で述べられている売上高、宣伝・広告活動に関する費用が事実に合致しているとしても、「化粧品」の市場における請求人商品のマーケットシェアを把握できない以上、上記金額のみをもって、引用商標が需要者の間で周知・著名であったということはできない。
以上のとおり、請求人が提出した証拠はいずれも信用性に欠けるものであり、引用商標の周知・著名性に関する請求人の主張は失当である。
2 本件商標と引用商標との類否について
請求人は、本件商標と引用商標が、称呼及び外観上、互いに類似する商標であると主張している。
(1)外観について
まず、本件商標は、欧文字「IST」と片仮名文字「イスト」を上下二段に書してなる商標である。一方、引用商標1及び引用商標3は、片仮名文字「エスト」と欧文字「EST」を上下二段に書してなる商標である。両商標には語頭の「I」と「E」、「イ」と「エ」という明確な差異を有するものであるから、両商標が外観上異なることは明らかである。
引用商標2及び引用商標5は、欧文字「EST」又は「est」を横書きにしてなる商標である。本件商標と引用商標2及び引用商標5とは、語頭の「I」と「E」又は「e」の差異の他、片仮名文字「イスト」の有無という差異を有する。また、本件商標と引用商標5との間には、大文字のみから構成されているか、小文字のみで構成されているかという差異も存在する。これらの差異は外観上明確に区別できるため、両商標が外観上異なることは明らかである。
引用商標4は、欧文字「est」とダイヤモンド図形が一体的に構成されている。当該ダイヤモンド図形は引用商標4の中央に大きく表わされているので、当該図形が引用商標4全体の外観に与える影響はかなり大きい。このように、本件商標と引用商標4との間には、ダイヤモンド図形の有無という明らかな差異が存在するため、両商標が外観上区別可能であることは明らかである。
以上より、本件商標と引用商標とは、相互に明確な差異を有しているため、区別可能であり、外観上相紛れるおそれがないことは明らかである。
この点につき、請求人は、2文字目及び3文字目、すなわち「ST」部分の綴りが共通することをもって、本件商標と引用商標が外観上類似すると主張する。
しかしながら、同書同大等間隔にまとまりよく表わされている欧文字3文字から構成される商標の一部分を殊更に分離して観察しなければならない特段の事情はない。
(2)観念について
本件商標を構成する「IST」という言葉は、請求人も指摘するように、英語で「?をする人」という意味を有し(乙第1号証)、このような意味を有する接尾語として我が国の需要者に親しまれている。
例えば、「アーチスト(art+ist)」、「エッセイスト(essay+ist)」、「スタイリスト(style+ist)」、「セラピスト(therapy+ist)」、「バイオリニスト(violin+ist)」、「ピアニスト(piano+ist)」等の言葉が日本語として定着している(乙第2号証)。また、女優、吉永小百合のファンのことを、「小百合」と「IST」を結合させて「サユリスト」(乙第3号証)と称したり、ジーンズが似合う著名人に贈られる賞のことを、「ジーンズ(JEANS)」の単数形である「ジーン(JEAN)」と「IST」を結合させて「ベストジーニスト」(乙第4号証)と称したりしている。また、「自転車通勤」と「IST」を組み合わせた「自転車ツーキニスト」(乙第5号証及び甲第6号証)という言葉も作り出されている。このような造語が作られてきたという事実は、「IST」が、「?をする人」という意味を有する接尾語であると我が国の需要者に一般的に親しまれていることを示すものに他ならない。以上より、「IST」とその読み仮名である「イスト」から構成される本件商標からは、「?をする人」という明確な観念が生じることは明らかである。
一方、「est」には、「establishment(設立、創立)」との意味があり(乙第7号証)、そのような意味で一般的に使用され、我が国の需要者に親しまれている。したがって、引用商標の「EST」又は「est」からは「設立、創立」との観念が生じる。
したがって、本件商標と引用商標が観念上相紛れるおそれがないことは明らかである。
この点、請求人は、引用商標の「EST」又は「est」からは、周知・著名な請求人の「est」ブランドの観念が生じると述べているが、前述のとおり、「est」ブランドは「化粧品」について周知・著名であるとはいえないため、引用商標からそのような観念が生じるはずがない。
仮に、請求人が主張するとおり、引用商標から「est」ブランドの観念が生じることがあったとしても、前述のとおり、本件商標からは「?する人」という明確な観念が生じるため、本件商標と引用商標が観念上明確に区別できる点に変わりはない。
(3)称呼について
請求人が主張するとおり、本件商標からは「イスト」及び「アイエスティー」の各称呼が生じ得る一方、引用商標からは「エスト」及び「イーエスティー」の各称呼が生じ得る。
まず、上記「イスト」の称呼と「エスト」の称呼とを比較すると、両者は共に3音の構成からなり、語頭音の「イ」と「エ」の音に差異を有する。「イ」の音は、唇を平たく開き、舌の先を下方に向け、前舌面を高めて硬口蓋に接近させ、声帯を振動させて発せられるものであって、澄んだ音として聴取される。これに対し、「エ」の音は、前舌面を平らにして歯茎の後ろに近づけ、舌の先をややひっこめ、声を口腔内に響かせて発せられるものであって、くすんだ音として聴取される。このように「イ」と「エ」の音は調音方法、音質を異にしており、両音が比較的強く発音され聴取しやすい語頭音に位置していること及び本件商標と引用商標が3音という短い音構成からなることにかんがみると、本件商標と引用商標を一連に称呼したとき、全体の音感・音調が異なり、両商標が明瞭に聴別できることは明らかである。
この点につき、請求人は、過去の異議決定・審決(甲第45号証ないし甲第55号証)にかんがみれば、本件商標から生ずる称呼である「イスト」と引用商標から生ずる「エスト」についても、称呼において類似する商標と判断されるべきであると主張する。
しかしながら、請求人が指摘する異議決定・審決のほとんどがかなり過去に出された判断であり、同様の事例における近年の審査・審理の傾向を無視して、本件商標と引用商標を類似と判断すべきであるとの主張自体、無理がある。
次に、本件商標から生じ得る「アイエスティー」と引用商標から生じ得る「イーエスティー」の称呼とを比較すると、両者は、共に6音の構成からなり、語頭部において「アイ」と「イー」の音に差異を有する。アルファベットを一音一音区切って発音する場合、各々の音が比較的明瞭に称呼されることに加え、語頭部の「アイ」と「イー」は明らかに異なる音であるといえる。したがって、本件商標と引用商標それぞれを全体として称呼した場合においても、音感、音調が異なり、称呼上相紛れるおそれはない。
この点につき、請求人は、両商標が一連に称呼された場合、通常の注意力では、「アイ」と「イー」の音が明瞭に聴別されるわけではなく、「イーエスティー」であったか、「アイエスティー」であったか混同してしまい、彼此聞き誤るおそれが高いと主張しているが、語頭音は比較的強く称呼される傾向にあることに加えて、長音の前音は強く聴取されるため、語頭の「ア」と「イ」の差異は明確に聴取されるはずである。
以上より、本件商標と引用商標は、称呼上も相紛れるおそれがないことは明らかである。
(4)具体的取引の実情について
請求人は、引用商標は、請求人の業務に係る商品に使用される商標として、周知・著名なものであるから、本件商標と引用商標の類否判断の際には引用商標の周知・著名性を具体的取引の実情として考慮すべきであると主張する。
しかしながら、前述のとおり、引用商標は、本件商標の出願時及び査定時に周知・著名なものとなっていたとはいえないから、このような商標の類否判断に際して考慮すべき特段の事情は存在しない。
仮に、引用商標が「化粧品」について周知又は著名となっている場合であっても、前述のとおり、外観・称呼・観念の点で明確に異なる本件商標との間で商品の出所につき誤認混同が生ずるおそれはない。
(5)過去の登録例及び審決例
以下に示すとおり、商標「IST」と商標「EST」については、比較的最近の登録例も含め、多数の並存登録例が存在している(乙第8号証ないし乙第21号証)。
このように、多数並存登録例が存在している事実は、「IST」と「EST」が商標として非類似であるという被請求人の主張を裏付けるものであると思料する。
また、以下に示すとおり、最近の審決によると、語頭音において「イ」と「エ」の差異を有する商標(比較的称呼の短いもの)は、非類似であると判断される傾向にある(参考資料1ないし参考資料4)。
さらに、語尾のアルファベット「I」と「E」の差異の例ではあるが、「GCI」と「GCE」が非類似であると判断された審決も存在する(参考資料4)。
これらの審決例は、被請求人の上記主張を裏付けるものであると思料する。
(6)小括
以上より、本件商標と引用商標とは、外観、観念及び称呼のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、本件商標と引用商標が類似する旨の請求人の主張は失当である。
3 商標法第4条第1項第10号について
前述のとおり、引用商標は、本件商標の出願時及び査定時に、請求人の業務に係る「化粧品」を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていないことに加え、本件商標と引用商標とは相互に非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第11号について
前述のとおり、本件商標は、引用商標と非類似の商標であることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第15号について
前述のとおり、引用商標は、本件商標の出願時及び査定時に「化粧品」の需要者の間に広く認識されていたものとはいえない。その上、本件商標と引用商標は、商標において全く類似するところがない非類似の商標である。したがって、本件商標に接する需要者は、これより引用商標を想起又は連想するものとみることができないから、本件商標を指定商品商品「化粧品」に使用しても、当該商品が請求人又は請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務にかかる商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれは全く存在しない。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない。
6 結論
以上のとおり、本件審判請求には理由がないことは明らかであるから、本件審判請求は成り立たない。

第5 当審の判断
1 引用商標の周知・著名性について
(1)請求人は、本件商標の登録出願の時(平成19年8月29日)及び査定時(平成21年1月19日)には既に引用商標が請求人の業務に係る商品「化粧品」を表示する商標として我が国において周知・著名になっていた旨主張し、証拠(甲第12号証ないし甲第43号証)を提出しているので、該証拠について検討する。
ア 甲第12号証の1及び2は、請求人のウェブページの写しと認められるところ、各頁の右下の日付によれば、これらは本件商標の登録出願後である2009年12月4日及び同月8日にプリントアウトされたものであり、また、その掲載内容を見ても、本件商標の登録出願の時における事情を具体的に記述するものは見当たらないから、本件商標の登録出願の時における引用商標の周知性を立証する証拠とはいえない。
イ 甲第13号証は、「化粧品業界NOW!☆コスメティック・インダストリー☆」と称するウェブページの写しと認められるところ、これらは各頁の右下の日付によれば、本件商標の登録出願後である2009年12月4日にプリントアウトされたものであるが、その内容に、「2006年10月24日」の日付けと、「花王のカネボウ統合において、・・・百貨店の花王コーナーが変わってきています。花王の化粧品といえば『花王ソフィーナ』がブランドであり、・・・そこでは、花王の百貨店専門化粧品である『est(エスト)』の他にも『AUBE』や『VERY VERY』など他チャネルでも販売しているソフィーナ商品が販売されていました。そのため、百貨店にあっても花王のコーナーはあくまでもソフィーナのコーナーであり、周りの高級ブランドと比較して大衆寄りの印象が拭えませんでした。ところが、今年、・・・百貨店の化粧品フロアから『ソフィーナ』のコーナーが消え、代わって『エスト』単独のコーナー(エストサイエンスプラザ)が次々と誕生しています。『ソフィーナ』は主力チャネルである量販店、ドラッグストアに特化し、百貨店での販売は『エスト』へ一本化する動きが進んでいます。」との記述があることからすると、本件商標の登録出願の日前である2006年(平成18年)頃から、百貨店で販売される請求人の化粧品は、徐々に従前の「ソフィーナ」商品から「est(エスト)」商品への一本化が進められたものといえる。
ウ 甲第14号証ないし甲第37号証は、各種雑誌又はウェブページの写しと認められるところ、これらのうち、甲第16号証、甲第17号証、甲第23号証、甲第25号証及び甲第35号証に示す雑誌又はウェブページは、その記載内容や請求人の主張から本件商標の登録出願後に発行又は掲載されたものとみるのが自然であるから、本件商標の登録出願の時における引用商標の周知性を立証するものとはいえない。
そこで、本件商標の登録出願前の証拠についてみると、2005年8月から2007年7月までの間に、講談社発行の雑誌「Voce」に8回(甲第14号証、甲第15号証、甲第21号証、甲第27号証ないし甲第30号証及び甲第37号証)、集英社発行の雑誌「MAQUIA」に3回(甲第19号証、甲第24号証及び甲第26号証)、小学館発行の雑誌「美的」に5回(甲第22号証及び甲第31号証ないし甲第34号証)、講談社発行の雑誌「FRaU」に1回(甲第19号証)、「STYLE」に1回(甲第20号証)、ウェブページ「@コスメ」に2回(甲第18号証及び甲第36号証)、容器等に引用商標5が付された各種化粧品について、広告、宣伝されていることが認められ、また、甲第21号証、甲第26号証ないし甲第28号証及び甲31号証ないし甲第33号証には引用商標4が表示されている。
そして、引用商標5を付した各種化粧品が、「@cosmeベストコスメ大賞」の化粧水部門において2005年及び2006年に第1位であったこと(甲第18号証)、「MAQUIA 06年ベストコスメ リフトインプレッション」の「山本浩未賞」を受賞したこと、「FRaU 06年ベストコスメ ポアソリューション」の「毛穴部門」で第2位であったこと(甲第19号証)、2008年の「@cosmeベストコスメ大賞」の化粧水部門において4年連続第1位になったこと(甲第35号証)、及び2006年の「VOCE『2005年秋冬 ベストコスメ』」のクレンジング部門賞第1位になった(甲第37号証)ことが掲載されている。
エ 甲第38号証ないし甲第42号証は、請求人の発行に係る商品パンフレットの写しと認められるところ、これらには、引用商標4が表示され、容器等に引用商標5が付された各種化粧品が掲載されている。そして、甲第40号証ないし甲第42号証は、それぞれの裏表紙に記載された「2004.3」、「2005.07」又は「2006.10」の数字から、2004年ないし2006年に発行されたものと認め得るものの、甲第38号証及び甲第39号証には、発行日を示す記載は見あたらない。また、これらの発行部数や具体的な頒布状況等は明らかでない。
オ 甲第43号証は、請求人の「est/エスト」ブランドの担当者による陳述書と認められるところ、その陳述内容によれば、商標「est」が付された化粧品の店頭売上高は、2000年度の8億円から年々増加し、2007年度は80億円、2008年度は78億円に達し、また、同化粧品の宣伝費は、2002年度から2008年度の間に総額約38億1600万円になるとされている。しかしながら、具体的な商品や店舗の数、所在地は不明であるし、上記店頭売上高や宣伝費の根拠を客観的に示す証拠はない。
カ なお、引用商標1ないし引用商標3が化粧品の商標として使用されている事実は確認できない。
(2)以上によれば、容器等に引用商標5が付された各種化粧品(以下「est商品」という。)は、遅くとも2004年頃には、百貨店専門の化粧品として販売されたこと、当初は「花王ソフィーナ」のコーナーで販売されていたが、2006年頃には、est商品単独のコーナーで販売されるようになったこと、est商品は、2005年頃から雑誌等で広告され、その広告の一部や商品パンフレットには、引用商標4が表示されていたこと、及びest商品の一部は、2005年ないし2008年に、女性雑誌のコスメランキングで1位、2位になったことが認められる。
しかしながら、est商品を取扱う店舗の数や所在地は不明であり、売上高や宣伝等の根拠を示す証拠もなく、さらに、雑誌のランキングも、それがどのような需要者層を対象に、どのように行われたのかが明らかでなく、何を根拠として導き出したのかも定かでない。
そうとすれば、引用商標4及び引用商標5は、本件商標の登録出願の日前には、請求人の業務に係る化粧品を表示する商標として、一部の需要者の間にある程度知られているとしても、両引用商標を含め引用商標は、いずれも広く一般の需要者に周知になっていたとまでは認めることはできないと判断するのが相当である。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は「IST」及び「イスト」の文字からなり、その構成文字に相応して、「イスト」及び「アイエスティー」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。
(2)引用商標について
引用商標1及び引用商標3は「エスト」及び「EST」の文字から、引用商標2は「EST」の文字から、引用商標4は別掲のとおりの構成から、及び引用商標5は「est」の文字からそれぞれなるものであり、いずれもそれぞれの構成文字に相応して「エスト」及び「イーエスティー」の称呼を生ずるものである。
そして、引用商標は、いずれも特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標の類否について
ア 称呼について
本件商標から生じる「イスト」の称呼と引用商標から生じる「エスト」の称呼を比較すると、両者は、共に3音という短い音構成において、称呼の識別上重要な要素を占める語頭において「イ」と「エ」の差異を有し、その差異音「イ」は、唇を平たく開き、舌の先を下方に向け、前舌面を高めて硬口蓋に接近させ、声帯を振動させて発する音であって、澄んだ音として聴取されるのに対し、「エ」は、前舌面を平らにして歯茎の後ろに近づけ、舌の先をややひっこめ、声を口腔内に響かせて発する音であって、くすんだ音として聴取されるものであるから、両音は調音方法、音質を異にするものである。そうとすると、かかる差異が両称呼の全体に与える影響は大きく、両称呼は、これをそれぞれ一連に称呼するときは、全体の音感・音調が異なり、明瞭に区別することができるというのが相当である。
次に、本件商標から生じる「アイエスティー」と引用商標から生じる「イーエスティー」の称呼を比較すると、両者は、共に6音の構成からなり、称呼の識別上重要な要素を占める語頭において「アイ」と「イー」の差異を有し、かつ、アルファベット3文字を各文字の読みで称呼する場合、一文字一文字を区切って比較的明瞭に称呼されるといえるから、該差異音が称呼全体に及ぼす影響は大きく、両称呼をそれぞれ一連に称呼しても、相紛れるおそれはないというのが相当である。
さらに、他の称呼の比較においては、相紛れるおそれのないこと明らかである。
イ 外観について
本件商標と引用商標1及び引用商標3とは、いずれも3文字の仮名文字と3文字の欧文字とを二段に書してなる構成からなるものであるが、両者は最も看者の注意を引く語頭部分において、「I」「イ」と「エ」「E」の差異を有していることから、全体として別異の印象を与えるものであり、外観において相紛れるおそれはない。また、両者の仮名文字部分「イスト」と「エスト」及び欧文字部分「IST」と「EST」をそれぞれ抽出して対比したとしても、それぞれ3文字という短い文字構成において、「イ」と「エ」及び「I」と「E」の差異を有することから、両者は別異の印象を与え、外観において相紛れるおそれはない。
本件商標と引用商標2、引用商標4及び引用商標5とは、それぞれ上述のとおりの構成からなるものであるから、その構成全体の比較においては、相紛れるおそれのないこと明らかであり、また、前者の構成中「IST」「イスト」と後者の構成中「EST」「est」とのそれぞれの比較においては、「IST」と「EST」が相紛れるおそれがないこと上述のとおりであるから、それらはいずれも相紛れるおそれはないというべきである。
ウ 観念について
本件商標及び引用商標は特定の観念が生じないものであるから、両者は観念上相紛れるおそれはない。
エ 以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれ
の点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものとはいえない。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
引用商標がいずれも本件商標出願前から周知になっていたものと認められないこと上記1のとおりであり、また、上記2のとおり本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものとはいえない。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標がいずれも本件商標出願前から周知になっていたものと認められないこと上記1のとおりであり、また、上記2のとおり本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標であるから、商標権者(被請求人)が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者が引用商標又は請求人等を想起するようなことはなく、当該商品が請求人又は請求人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものといわざるをえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものとはいえない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(引用商標4)


審理終結日 2010-07-16 
結審通知日 2010-07-28 
審決日 2010-08-02 
出願番号 商願2007-92658(T2007-92658) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (X03)
T 1 11・ 25- Y (X03)
T 1 11・ 26- Y (X03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深沢 美沙子 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 瀧本 佐代子
小畑 恵一
登録日 2009-02-20 
登録番号 商標登録第5204861号(T5204861) 
商標の称呼 イスト、アイエステイ 
代理人 田中 景子 
代理人 中田 和博 
代理人 中村 勝彦 
代理人 青島 恵美 
代理人 柳生 征男 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 田中 克郎 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 青木 博通 
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