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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない 115
管理番号 1219905 
審判番号 取消2009-300221 
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2009-02-16 
確定日 2010-07-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第2015101号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第2015101号商標(以下、「本件商標」という。)は、「SEMIE MOSELEY」の欧文字を書してなり、第24類「ギター、その他の楽器、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和60年10月28日に登録出願、昭和63年1月26日に設定登録され、その後、2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ、さらに、平成20年12月10日に第15類「ギター,楽器,演奏補助品,音さ」を指定商品とする書換登録がなされたものである。
なお、本件審判の請求の登録日は、平成21年3月3日である。

2 請求人の主張
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標の登録を取消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び弁駁の要旨を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証を提出している。
(1)請求人の調査によれば、本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用していないのみならず、使用していないことについて正当な理由が存在することも認められないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
(2)本件商標の原簿甲区の1番に記載されている者はセミー・モズレイであったところ、この人物は平成4年(1992)8月7日に死亡した。それ以来、本件商標権は移転登録されることなく放置され、商標権の存続期間の1回目の更新登録が、相続人によってなされることなく何人かによってなされたことは、疑問である。まして、2回目の更新登録においてをや。
このような更新登録行為は、死者の代理人によってなされたということになり、すでに商標権者の死亡によって消滅したはずの商標権が現在も存続していることは、おかしな事実である。
(3)請求人の代表者は個人経営時代に、セミー・モズレイが我が国特許庁で有していた登録商標第2627878号「Mマーク semie/moseley」と登録商標第2633685号「MOSELEY」に対し、商標法第50条の規定に基づく登録取消しの審判請求をしたところ、いずれも平成10年4月20日に「請求の趣旨」のとおり、登録取消しの審決がなされ、これは確定した。
ここに2つの審判請求事件の審決書(甲第3号証、甲第4号証)を提出する。
この2つの登録商標は、本件商標と連合商標の関係にあったものであるが、被請求人は何らの答弁もしなかったのである。
(4)ところが、セミー・モズレイが1992年(平成4)8月7日に死去した後、16年も経過した2008年(平成20)7月11日に「超遅滞して」相続による商標権の登録手続がされたことは、商標法第35条で準用する特許法第98条第2項の規定に違反しているというべきである。
しかも、セミー・モズレイには4人の妻がいたから、相続手続をするとすれば、きわめて複雑なことになる。少なくとも、現在、本件商標の登録原簿に記載されているロレッタ・モズレイ(セミー・モズレイの4番目の妻)なる者は、偽造した遺言書によって登録手続をしたのであるから、それに基づく商標権の移転登録は無効であるというべきである。
前記した4人の妻の名前をあげるならば、1番目はVirgie(バージイ)、2番目はDiana、3番目はChristina、4番目がLoretta(ロレッタ)であり、セミー・モズレイと1番目と2番目の妻との間にはそれぞれ子供や孫が多数いるが、ロレッタには1人もいない。
このうち、実際にセミー・モズレイ伝来のモズライト・ギターの製作技術を有し、現に米国で同ギターの製作を行っているのは、1番目のバージイとの間の長女Dana Mose1ey(ダーナ・モズレイ)だけである。彼女と請求人とは、協力してモズライト・ギターの製作、販売を行っているのである。ダーナは、昨年10月に東京で開かれた楽器ショーや今年1月に米国カリフォルニア州で開かれたNAMショーに出展した請求人会社のブースにおいて、モズライト・ギターの実演をしたり、母親とは別れても父親に引き取られて生涯行動を共にしていたセミー・モズレイについての講演をしたのである。
これに対し、被請求人はモズライト・ギターの製作技術は全く持っていないし、本件商標を使用した事実も全くないのである。
(5)本件商標は、以上のとおりの事情を有する故人の名称から成るものであるところ、少なくとも商標権者である被請求人その他によって使用された事実はないから、請求の趣旨のとおりの審決を求める。
(6)答弁に対する弁駁
答弁書では、本件商標の不使用を自認する主張と証拠だけである。
したがって、被請求人による答弁にはもともと理由がない。

3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由の要旨を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第26号証を提出している。
(1)ロレッタ・モズレーによるギターに関する広告を内容とする情報の提供
商標権者であるロレッタ・モズレーは、本件商標の指定商品であるギターに関する広告を内容とする情報に本件商標を付したものを、電磁的方法により提供している。
本件商標を付した付したエレキギターの提供の時期は、少なくともこの審判請求の日(平成21年2月16日)より前である平成20年8月である。
(ア)モズライトのトップページ(乙第1号証)
セミー・モズレーの製作により、周知となった「モズライトギター」に関する情報は、モズライトのウェブサイトとして以下のように開示されている。
トップページ左側の写真の人物が本件商標「SEMIE MOSELEY」の本人である故セミー・モズレーである。右側の写真の女性が、故セミー・モズレーの妻であり、本件商標権者であるロレッタ・モズレーである。
そして写真の右には、「WELCOME FRIENDS ロレッタ・モズレーより皆様ヘ モズライトの公式ウェブサイトヘようこそ。モズライトファンの方々によりよい情報をお届けできますよう、日々、コンテンツの充実に努めてまいります。どうぞご期待ください。」との記載がある。
(イ)ロレッタ・モズレーからのメッセージ(乙第2号証)
トップページの右下には「ロレッタ・モズレーからのメッセージ」のリンクボタンがある。このリンクボタンを押すと、「ロレッタ・モズレーからのメッセージ」のページが現れる。ロレッタ・モズレーは本件商標権者である。
(a) ここに現れるメッセージは次のとおりである。
夫セミーは16年前の8月7日に他界しました。私はセミーの遺志を継ぎ、モズライトの完全復活をメモリアルディの8月7日と定め、予約の受付を開始することに致しました。mosriteは発売当時より日本での人気が高く、ファンが多かったこと、またホームページでは日本のファンの皆様から沢山のご要望をいただいたこと、また気候や風土の関係も考慮し、カスタムショップを日本に設置することに致しました。ギター製造につきまして担当しますのは、セミーの一番弟子であったMr Jesus Daiが京都の工房にて請け負います。彼はモズライト工場がノースキャロライナ州ジョイナスリッジにあったころから工場長を務めておりまして、お客様のカスタムオーダーを材料から厳選し、ひとつひとつ丁寧に完成させてお届けすることができます。しかし全ての工程がハンドメイドになりますので量産はできません。従ってお客様には多少お時間を頂くこととなりますが、ご了承頂きますようお願いいたします。なお予約が一定数に達しましたら、予約受付を終了させて頂きます。
ロレッタ・モズレー
平成20年8月
サイン
この記載のとおり、この記事は平成20年8月に掲載されたものである。
(b) さらにこのページを下の方にスクロールしてゆくと、次の記事が現れる(乙第3号証)。
モズライトウェブサイトに訪問いただいている皆様こんにちは。完全なモズライストーリーとセミーの愛が入魂された完璧な真正モズライトアンプを捧げる準備が整いつつあることを何よりも嬉しく思っています。貴重な時間を割いてメッセージをくださった方々に大変感謝しています。できる限り私からメッセージを返信するよう日々心がけております。ご存知のように当ウェブサイトは充実を図るためシステムと内容の更新を頻繁に行っております。私たちは豊富なアイディアと計画を準備しており、今後積極的にアップデートを重ねる予定ですが、その関係でサイトが時々不安定な状態になる場合もありますが、ご理解頂き今後とも皆様からのアクセスをお持ちしている次第でございます。また皆様から心温まる応援メッセージを頂き大変感謝しております。心より御礼申し上げます。
皆様に神のご加護を
ロレッタ・モズレー
平成20年6月
この記載のとおり、この記事は平成20年6月に掲載されたものである。
(c) さらにこのページを下の方にスクロールしてゆくと、次の記事が現れる(乙第3号証)。
こんにちは、ロレッタ・モズレーです。2008年が皆様にとって、平和で素晴らしい1年でありますように心からお祈り申し上げます。
皆様のために造られたギターから、亡き夫であるセミーの愛を今も感じることができます。彼が永眠してから15年間、彼がギターに愛をこめたように、皆様も言葉では表現しきれないくらいモズライトギターを想い、愛し続けて下さいました。Built in Soulという言葉には「末永く皆様の一部、又は家族のよう・・・」という想いも込められています。そんな想いを胸に、今後はモズライトギターの全ての情報を皆様に公開し、ギターの歴史の中のセミーと真正モズライトを守り続けることを保証致します。今後とも温かく見守っていただければ幸いです。
ロレッタ・モズレー(サイン)
この記載の「2008年が皆様にとって、平和で素晴らしい1年でありますように心からお祈り申し上げます」の部分から、この記事は平成20年の新年に掲載されたものであることが分かる。
以上の「ロレッタ・モズレーからのメッセージ」の記載から、少なくとも平成20年8月には本件商標権者が、本件商品「ギター」に関する広告を内容とする情報を、電磁的方法により提供する行為を行っていたことが明らかとなった。
(ウ)「ショッピング」へ
この、商標権者からのメッセージを読んでモズライトギターの入手に魅力を感じたファンをどのように誘導するか。そのために、「ロレッタ・モズレーからのメッセージ」の上の行には複数のリンクボタンが配置してある。その内で「ショッピング」のリンクボタンを押してもらう。すると、「カスタムショップへようこそ」のページが現れる(乙第4号証)。そのページで再び本件商標権者であるロレッタ・モズレーのあいさつと写真が現れる。
その挨拶文を読んで、いよいよ「セミー・モズレー」という故人の魅力に引き付けられたファンのために同ページの左上に「商品カテゴリー一覧」の記載があり、その下に「モズライトギター」のリンクボタンが配置してある。そこで「モズライトギター」のリンクボタンを押してもらう。
(エ)商品一覧(乙第5、6号証)
モズライトギターのリンクボタンを押すと、「商品一覧」が現れ、その下に大きく3枚の写真が並ぶ。
(a)上段が「Mosrite’63 Model サンバースト」[#125]の写真である。
(b)中段が「Mosrite’63 Model キャンディアップルレッド」[#125]の写真である。
(c)下段が「Mosrite’65 Model」[#110]「パールホワイト」の写真である。
(オ)サンバーストの広告
上記の「商品一覧」の3点のモズライトギターの中から、例えば「サンバースト」に興味のあるファンは、その写真をクリックする(乙第7号証)。
すると「商品詳細」として、サンバーストの大きな写真が現れ、その下には「仕様」が現れる。(乙第8号証)。
ファンはこの広告の「仕様」を読んで自分の求めるものとの一致点を探し、納得のゆくものか否かを判断するのである。
特にその「仕様」の最下行には、セミー・モズレーのファン、モズライトギターのファンにこの商品に格別の魅力を感じさせる次のような記載がある。
「ヘッドロゴ
SEMIE MOSELEY サイン入り」
この乙第8号証に記載の「SEMIE MOSELEY」は本件商標である。
この広告での商標は、登録商標と同一の活字体で明確に「SEMIE MOSELEY」と明記してある。
以上のクリックのステップを経て、ファンが登録商標と同一の活字体で明確に「SEMIE MOSELEY」に到着する点は、他の2点のモズライトギターでも同様である。
すなわち、「キャンディアップル」の仕様(乙第9号証)でも、「パールホワイト」でもその「仕様」(乙第10号証)の仕様でも、その最下行には、上記と同様に「ヘッドロゴ SEMIE MOSELEY」の記載がある。
(カ)結論
以上のとおり、本件商標権者は、少なくとも平成20年8月には、自己の商品「ギター」に関する広告を内容とする情報に、本件標章そのものを付して電磁的方法によって提供する行為(商標法第2条第3項第8号)を行っていたことが明らかである。
(2)ロレッタ・モズレーによる譲渡
(ア)以上の説明は、本件商標が本件審判請求日以前に、商標法第2条第3項第8号に該当する行為がなされていたことの証明である。
次に本件商標権者は、商品に標章を付したものを、電気通信回線を通じて提供する行為(商標法第2条第3項第2号)を行っていたことも証明する。
(イ)商品「サンバースト」の提供
上記の手続きに進み、仕様を読んで納得したファンが、さらに興味を感じたらどうするか。
ファンはこの広告を下にスクロールしてゆく。
すると、この広告によって提供する商品であるモズライトギターの「サンバースト」の首の部分の拡大写真が現れる(乙第11号証)。
(ウ)首部に本件商標が
この拡大写真によれば、「サンバースト」の首の最も上の位置には、横書きでセミー・モズレーのサインが付されている。
このサインは分かりやすい英文字の筆記体で記載してあり、かつこのモズライトギターを購入する人々は元来、セミー・モズレーのファンである。
したがってこのサインを見た場合に、消費者であるファンは、これが「SEMIE MOSELEY」と記載してあり、「セミーモズレー」と称呼するであろうことは容易に推認できる。
元来、ファンはこのサインの描かれたモズライトギターが欲しいために、高価な「モズライトギター」を購入しているのだから当然である。
以上のとおりであるから、この使用商標と本件商標とは、称呼において「社会通念上同一と認められる商標」である。
称呼だけではない。観念においても同様である。
なぜなら使用商標も、本件商標も、同一人に係るものであり、かつこの人物はエレキギターの分野での著名人であるからである。
以上のように、「Mosrite’63 Model サンバースト」[#125]の広告写真からすると、本件商標権者は、少なくとも平成20年8月には、自己の商品「ギター」に本件商標と、称呼においても観念においても、「社会通念上同一と認められる商標」を付したものを、電気通信回線を通じて提供する行為(商標法第2条第3項第2号)を行っていたことが明らかである。
(エ)他のギター
上記においてモズライトギターの中で「サンバースト」に関する使用の事実があったことを説明した。その点は、他のモズライトギター、すなわち「Mosrite’63 Model キャンディアップルレッド」[#125](乙第12号証)、及び「Mosrite’65 Model」[#110]「パールホワイト」(乙第13号証)においても同様である。
(オ)結論
以上のとおり、少なくとも平成20年8月には、自己の商品「ギター」に本件標章を付したものを、電気通信回線を通じて提供する行為(商標法第2条第3項第2号)を行っていたことが明らかである。
(3)バスウッド65への納入
株式会社スウィングサイエンス(以下「スウィング社」という。)は、平成20年8月7日に、大阪市の「バスウッド65」へ下記のモズライトギターを納入している。モズライトギターは、乙第24号証の確定判決でも認められているとおり、日本国内においてその分野の人々の間ではきわめて著名な商品である。そのためにモズライトギターに関しては膨大な情報が、長期間にわたって供給されており、ホームページに限らずいろいろなルートから注文が来ている。
(ア)納入したギター
スウィング社が、バスウッド65へ供給したギターは、納品書(乙第14号証)、および「物品受領書」(乙第15号証)の記載によれば次のとおりである。
mosriteギター #125 63年モデル(semie Moseleyサイン入り)2本
mosriteギター #110 65年モデル(semie Moseleyサイン入り)1本
(a)#125とは、
「mosriteギター #125 63年モデル(semie Moseleyサイン入り)」とは、ロレッタ・モズレーのホームページの写真(乙第6号証の上の写真)に示すとおりである。その首部には「semie Moseley」のサインが入っている。そして、サインの文字については前記(2)(ウ)で検討したが、称呼においても観念においても、本件商標と、「社会通念上同一と認められる商標」である。
(b)#110とは、
「mosriteギター #110 65年モデル(semie Moseleyサイン入り)」とは、ロレッタ・モズレーのホームページの写真(乙第6号証の下の写真)に示すとおりである。その首部には「semie Moseley」のサインが入っている。これらの情報は乙第10号証で説明したとおりである。このサインの文字も、称呼においても観念においても、本件商標と「社会通念上同一と認められる商標」である。
(イ)スウィング社とは(乙第16号証)
スウィング社とは、中華民国台湾省の高雄市に本社を有し、日本の京都府亀岡市に支店を有する輸出入業者である。本件の対象となっている「モズライトギター」の場合には、スウィング社の日本支店が製造をして日本国内の楽器店に卸し、あるいはホームページによって個人への販売を行っている。
(ウ)商標権者との関係
本件商標権者であるロレッタ・モズレーは、スウィング社の「履歴事項全部証明書」(乙第16号証)の「役員」の欄にあるように、スウィング社の監査役である。
そしてロレッタ・モズレーとスウィング社と間には、「AGREEMENT」が締結されて次のような条項が取り交わされている(乙第17号証)。
なおこの契約書で「MOSELEY」とは本件商標権者であり、「TEMMEI」とはスウィング社の代表取締役社長である岩堀天明のことである。
「1.商標MOSRITE及び商標印Mの現在及び未来における正当な所有者であるMOSELEYと、優れたビジネスマンであるTEMMEIとが、共にビジネスベンチャーを行う取り決めをした。
2.MOSELEYは、TEMMEIに現在のMOSELEYの財務運営と、世界市場においてMOSELEYの代理として行動することを許可し、TEMMEIはここに決意を示し、当事者にとって有益なMOSRITE/MOSELEYの名称を高め、即ち製品の品質を高め、MOSRITEギター及び関連製品の生産、営業、販売等に係る全財務行為を完全に開示する。無論、如何なる行為も決定事項もMOSELEYとTEMMEIの相互間の合意に基づき行われる。
本契約書は善意と敬意を持って交わされたものである。我々はチームである故に、心から夫々が最善の行動をするものと確信している。」
ここには、たとえば「共にビジネスベンチャーを行う取り決めをした。」あるいは、「当事者にとって有益なMOSRITE/MOSELEYの名称を高め、」あるいは最終段の「我々はチームである故に、心から夫々が最善の行動をするものと確信している。」との契約条項がみられる。
これらの条項から、本件商標権者であるロレッタ・モズレーが、自己が関与しているあらゆる商標について、テンメイ、すなわちスウィング社に使用許諾を与えていることは明白である。
もしロレッタ・モズレーが、スウィング社に、本件商標の使用を禁ずる訴訟でも提起しているのであれば別である。
しかし、前記のホームページの記載、およびこの契約から判断して、ロレッタ・モズレーが全面的にスウィング社を信頼し、自己の製造したモズライトギターの販売をスウィング社に一任していること、その販売に際しては本件商標も含めて、あらゆる関連する商標について黙示の使用許諾をスウィング社に与えていることは明らかである。
すなわち、本件の販売を行ったスウィング社は、本件商標権者から通常使用権の許諾を受けた通常使用権者である。
(エ)バスウッド65とは
バスウッド65とは大阪市北区天神橋2丁目北1-15-2Fに所在する楽器の販売店である。楽器の中でも特にエレキギターを中心に扱い、その中でモズライトギターも主要な位置を占めている。そのホームページの写真の上には、「モズライトカスタムモデル‘63/’65モデル試奏できます。」との文字が読め、三種類のモズライトギターが飾ってあることがわかる(乙第18号証)。
この三種類のモズライトギターが、スウィング社から仕入れた、乙第15号証の「物品受領書」記載の3本のモズライトギターであり、当店の看板商品であることが分かる。
(オ)結論
この「納品書」や「物品受領書」で明らかなとおり、本件商標権の使用権者は、「バスウッド65」からの注文を受けて、平成20年8月7日には、商品「ギター」に本件標章「SEMIE MOSELEY」を付したものを譲渡する行為(商標法第2条第3項第2号)を行っていたものである。
(4)ロレッタ・モズレーからの輸出
本件商標権者であるロレッタ・モズレーは、本件商標の商品「ギター、その他の楽器、その他本類に属する商品」のひとつであるギターケースに、本件商標を付して、米国から日本へ輸出した。すなわち証拠によれば、
(a)ロレッタ・モズレーは、スウィング社宛てに、2008年(平成20年)5月19日、色彩が「ブラウン」で「アリゲータ模様」の「ギターケース」6本を、合計500ドルとして発送したことが分かる(乙第19号証)。
(b)次に同年5月22日の「輸入許可通知書」によれば、輸出者が「LORETTA MOSELEY」、輸入者が「SWING SCIENCE CO.,LTD.」、輸入の代理人を「DHL JAPAN」として、品名が「プラスッチックシートや布で構成したある種のケース」を貨物個数2個口(6本を木枠で梱包して2個口)、重量72.7kgとして輸入許可を与えたことが分かる(乙第20号証)。
(c)次にDHLの送り状を見れば、「LORETTA MOSELEY」からの、重量が73kgの「ギターケース」の2個口を「SWING SCIENCE CO.,LTD.」に送ったことが分かる(乙第21号証)。
(d)上記の条件に該当するギターケース、すなわち色彩が「ブラウン」で「アリゲータ模様」の「ギターケース」には、二か所にマルMマークと、mosriteの文字が描かれており、その一部には、本件商標である「SEMIE MOSELEY」の文字が印刷されていることが分かる(乙第22号証)。
(e)以上のとおり、本件商標権者は、平成20年5月には、本件指定商品であるギターケースに、本件商標を付して米国から日本へ輸出していたことが明らかである。
(5)総括
以上、検討したように、本件審判の請求の登録の日より以前の3年以内に、日本国内において、本件商標権者、使用権者は、指定商品「ギター」について、登録商標そのものと、その書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、あるいは本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用しているものである。
さらに本件審判の請求の登録の日より以前の3年以内に、日本国内において、本件商標権者は、指定商品に含まれる「ギターケース」について、登録商標を使用しているものである。
したがって本件商標は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものではない。

4 当審の判断
本件商標は、上述したとおり「SEMIE MOSELEY」の文字を横書きした構成よりなるところ、当該語は、エレキギターの製造・販売者として知られるSEMIE MOSELEY(セミー・モズレー)の氏名を表すものである。
商標登録原簿によれば、本件商標の商標権者は、当初セミー・モズレー自身であったが、平成4年(1992年)8月7日に死亡したため、平成20年9月3日に一般承継による移転登録がなされ、現在、被請求人ロレッタ・バリア・モズレーとされている。
甲各号証によれば、以下の事実が認められる。
モズライトのウェブサイトのウェブページ「ロレッタ・モズレーからのメッセージ」(乙第2号証)によれば、「夫セミーは16年前の8月7日に他界しました。私はセミーの遺志を継ぎ、モズライトの完全復活をメモリアルディの8月7日と定め、予約の受付を開始することに致しました。・・・なお予約が一定数に達しましたら、予約受付を終了させて頂きます。ロレッタ・モズレー 平成20年8月 サイン」の旨掲載されている。
乙第2号証の「ロレッタ・モズレーからのメッセージ」の文字の上に存在するリンクボタンのうち左から2番目の「ショッピング」をクリックすると、「Welcome!! カスタムショップへようこそ」と題する乙第4号証が表れる。
乙第4号証の左上の「モズライトギター」をクリックすると商品一覧(乙第5号証及び乙第6号証)が表れる。商品一覧には、「Mosrite’63 Model サンバースト」[#125]、「Mosrite’63 Model キャンディアップルレッド」[#125]及び「Mosrite’65 Model」[#110]「パールホワイト」の商品の写真が掲載され、価格が表示されているほか、「カートにいれる」「詳細を見る」「お問い合わせ」のボタンが設定されている。
商品の写真(乙第5号証及び乙第6号証)をクリックすると、商品の拡大写真(乙第7号証)、商品の詳細が記載された仕様(乙第8号証ないし乙第10号証)、ギター首部(以下「ギターヘッド部」という。)の拡大写真(乙第11号証ないし乙第13号証)を見ることができる。
乙第8号証ないし乙第10号証の仕様の末尾には「ヘッドロゴ/SEMIE MOSELEY サイン入り」の記載がある。
乙第11号証ないし乙第13号証のギターヘッド部には「SEMIE MOSELEY」のサインが表示されている。
バスウッド65あての平成20年8月7日付け納品書(控)(乙第14号証)には、mosriteギター#125(63年モデル)Semie Moseleyサイン入り2本、mosriteギター#110(65年モデル)Semie Moseleyサイン入り1本が納品された旨が記載されている。
大阪市北区在の楽器店バスウッド65が京都府亀岡市在のスウィング社あての平成20年8月7日付け物品受領書(乙第15号証)には、mosriteギター#125(63年モデル)Semie Moseleyサイン入り2本、mosriteギター#110(65年モデル)Semie Moseleyサイン入り1本を受領した旨が記載されている。
ロレッタ・バリア・モズレー(MOSELEY)と台湾高雄市に本店があり京都府亀岡市に支店があってロレッタ・バリエア・モズレーが監査役を務めるスウィング社(乙第16号証)の最高責任者岩堀天明(TEMMEI)との2008(平成20)年2月19日付け契約書(乙第17号証)によれば、「1.商標MOSRITE及び商標印Mの現在及び未来における正当な所有者であるMOSELEYと、優れたビジネスマンであるTEMMEIとが、共にビジネスベンチャーを行う取り決めをした。2.MOSELEYは、TEMMEIに現在のMOSELEYの財務運営と、世界市場においてMOSELEYの代理として行動することを許可し、TEMMEIはここに決意を示し、当事者にとって有益なMOSRITE/MOSELEYの名称を高め、即ち製品の品質を高め、MOSRITEギター及び関連製品の生産、営業、販売等に係る全財務行為を完全に開示する。無論、如何なる行為も決定事項もMOSELEYとTEMMEIの相互間の合意に基づき行われる。・・・本契約書は善意と敬意を持って交わされたものである。我々はチームである故に、心から夫々が最善の行動をするものと確信している。」旨を主な内容とする契約を締結した事実が認められる。
以上によれば、本件商標の商標権者は、本件審判請求が登録された平成21年3月3日前3年以内である平成20年8月には、モズライトのウェブサイトに「夫セミーは16年前の8月7日に他界しました。私はセミーの遺志を継ぎ、モズライトの完全復活をメモリアルディの8月7日と定め、予約の受付を開始することに致しました。」との広告をするとともに、商品「ギター」について、その商品写真ギターヘッド部に「SEMIE MOSELEY」のサインを表示し、また商品仕様説明の末尾には「ヘッドロゴ/SEMIE MOSELEY サイン入り」の記載をして、ホームページに掲載している。
そうしてみると、本件商標と「セミーモズレー」の称呼、観念を共通にする社会通念上同一と認められる商標を付した商品の「ギター」に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為をしていたものと認めることができる。
また、商標権者とスウィング社との間には、商標権者がスウィング社の代表者に現在の商標権者の財務運営と、世界市場において商標権者の代理として行動することを許可する旨の契約をしていることからすれば、少なくとも本件商標について黙示の通常使用権設定契約があるものと推測される。
そして、通常使用権者と認められる京都府在のスウィング社は、本件審判請求の登録前3年以内である平成20年8月7日に大阪市北区在の楽器店バスウッド65に本件商標の付されたギター3本を販売、納品していることが認められるものであって、その納品書(控)(乙第14号証)及び物品受領書(乙第15号証)によれば、スウィング社が、商品「ギター」について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標「Semie Moseley」を使用していたものと認めることができる。
したがって、商標権者及び通常使用権者は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内においてその請求に係る指定商品中「ギター」について本件商標を使用をしていたものと認められる。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すべきではない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2009-08-28 
結審通知日 2009-09-02 
審決日 2009-09-15 
出願番号 商願昭60-108740 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (115)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井岡 賢一 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 鈴木 修
井出 英一郎
登録日 1988-01-26 
登録番号 商標登録第2015101号(T2015101) 
商標の称呼 セミーモゼリー 
代理人 牛木 理一 
代理人 山口 朔生 

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