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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない 029
管理番号 1219897 
審判番号 取消2009-300979 
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2009-08-28 
確定日 2010-06-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第3031218号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3031218号商標(以下「本件商標」という。)は、「ペプチドエース」の文字を横書きしてなり、平成4年9月4日に登録出願、第29類「生鮮魚肉を主原料とする液状の加工食品,生鮮魚肉を主原料とする粉末状の加工食品,生鮮魚肉を主原料とする顆粒状の加工食品」を指定商品として、平成7年3月31日に設定登録され、その後、平成17年3月1日に商標権存続期間の更新登録がされ、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を取り消す。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証?甲第6号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても使用された事実がないから、商標法第50条第1項の規定により、その登録を取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)通常使用権者について
被請求人は、乙第9号証の1?4及び乙第10号証の1、2により、通常使用権者である三菱商事フードテック株式会社(以下「三菱商事FT」という。)が、少なくとも平成21年6月から同年8月にかけて、本件商標をその商標権者である仙味エキス株式会社(以下「商標権者」という。)が製造する「生鮮魚肉を主原料とする液状の加工食品」である魚肉エキス調味液(以下「使用商品」という。)に使用していた旨を主張する。また、乙第16号証の1?乙第22号証により、通常使用権者が、本件審判の請求の登録(平成21年9月11日)前3年以内に本件商標を使用商品に使用していた旨を主張する。
しかし、三菱商事FTは通常使用権者ではない。この点につき、被請求人は、本件商標に関し、商標権者と三菱商事FTとの間に書面で取り交わした使用許諾契約書は存在しないが、商標権者と三菱商事FTとの間には、本件商標の通常使用権について黙示の許諾が存在する旨を主張し、三菱商事FTの執行役員の陳述書(乙第8号証)を提出する。確かに、商標法は、通常使用権の許諾について商標登録原簿への登録を効力発生要件としていないから、登録申請時に提出を要求される使用許諾証書が存在しなくても、契約自由の原則に従い、当事者間の合意があれば、使用許諾契約が成立する可能性があるかもしれない。しかし、三菱商事FTが通常使用権者であるといえるためには、その合意が立証されなければならないにもかかわらず、何ら立証されていない。
かかる合意を立証することができない被請求人は、立証できないからこそ、商標権者と三菱商事FTとの間に黙示の許諾が存在するという苦し紛れの主張をするが、一般的な商取引の慣行に鑑みれば、何の資本関係もない他人同士が、商標の通常使用権に限らず何らかの契約を交わすときは、将来のトラブルなどを想定して、文書で契約を交わすのが常識である。三菱商事FTは、三菱商事株式会社の完全子会社であり(甲第3号証)、契約については極めて敏感かつ厳密な総合商社の一員である三菱商事FTが、商標権者との間で、本件商標について文書で交わした使用許諾契約書が存在しないというのは極めて疑わしい。
商標権者と通常使用権者との間の黙示の許諾の存在について、誰が見ても納得できるように客観的に立証されなければならないことは、過去の審判決例が示すところである(甲第4号証の1?5)。しかし、商標権者と三菱商事FTとの間にはこのような客観的に立証できる関係は存在しない。唯一、三菱商事FTの執行役員の陳述書(乙第8号証)を提出するが、これは陳述者である執行役員石井が前記のように理解していることを主観的に述べたにすぎず、客観性が担保されていない。したがって、これをもって商標権者と三菱商事FTとの間に黙示の許諾が存在していることを立証したことにならない。さらに、前記陳述者石井は、代表権限を有しておらず(甲第5号証)、執行役員とはいえ三菱商事FTの一従業員にすぎない。また、代表権限が委譲されていることについての立証もなされていない。このような一従業員の行った陳述については、信憑性にはなはだ疑問がある。
以上のとおり、三菱商事FTは、本件商標についての通常使用権者ではないので、乙第9号証の1?4、乙第10号証の1、2及び乙第16号証の1?乙第22号証によっては、本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標が使用商品について通常使用権者により使用されたことを立証したことにならない。
(2)取引書類について
ア 被請求人は、乙第14号証及び乙第15号証を提出し、これらの書類は取引書類であり、当該書類に本件商標を付する行為は、商標法第2条第3項第8号に該当するから、商標権者が少なくとも平成19年8月から平成20年8月にかけて、本件商標を使用商品に使用していた旨を主張する。
乙第14号証及び乙第15号証は、「品質規格書」であり、「品名」、「製造方法」、「製品仕様」、「備考欄」の各欄が設けられ、「品名」欄に「ペプチドエース」と記載され、欄外右上に商標権者の住所、名称及び電話番号が記載され、社印が捺印されていることが認められる。しかし、商標法第2条第3項第8号は、商標を使用する行為は、取引書類に商標を付するのみではなく、商標を付した取引書類を展示し、若しくは頒布し、又は取引書類を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為であることを規定したものである(甲第6号証)。したがって、本件商標が使用されたというためには、「品質規格書」が展示され、若しくは頒布され、又はその内容の情報が電磁的方法により提供されたことが立証されなければならないが、乙第14号証及び乙第15号証によっては立証されていない。
したがって、乙第14号証及び乙第15号証は、本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標が使用商品について商標権者により使用されたことを立証したことにならない。
イ 被請求人は、乙第11号証?乙第13号証を提出し、これらの書類は取引書類であり、当該書類に本件商標を付する行為は、商標法第2条第3項第8号に該当するから、商標権者が少なくとも平成19年10月から平成21年3月にかけて、本件商標を使用商品に使用していた旨を主張する。
乙第12号証は「原材料調査書(1)?(4)」であり、乙第13号証は「原材料規格書A?C」である。いずれの書類も、商品名と題して「ペプチドエース」と記載され、物質名と題して「魚肉エキス」と記載され、かつ、書類の上部又は下部に設けられた枠内に「製造者または販売者」として商標権者の住所及び名称が記載され、社印が捺印されていることが認められる。前記アで述べた、商標法第2条第3項第8号の規定からすれば(甲第6号証)、本件商標が使用されたというためには、「原材料調査書」及び「原材料規格書」が展示され、若しくは頒布され、又はその内容の情報が電磁的方法により提供されたことが立証されなければならない。被請求人は、「原材料調査書」(乙第12号証)は、「商品仕様確認のために、商標権者が三菱商事FTに提出した」旨を主張し、「原材料規格書」(乙第13号証)は、「商標権者が、三菱商事FTの前身であるMCフードテックに提出した」旨を主張する。しかし、いずれの書類も右下欄外に「三菱商事フードテック株式会社2007年8月作成フォーマット」又は「MCフードテック(株)品質規格書」の記載があり、それぞれの会社作成のフォーマットであるらしいことは認められるものの、「納入者」欄には納入者の住所及び名称が一切記載されておらず、これらの書類が実際に展示若しくは頒布され、又はその内容の情報が電磁的方法により提供された事実が確認できない。
また、乙第11号証(納入仕様書(1)?(4))も、商品名と題して「ペプチドエース」と記載され、物質名と題して「食品 魚肉エキス」と記載され、かつ、書類の上部に設けられた枠内に製造者として商標権者の住所及び名称が記載され、社印が捺印されていることが認められることは、乙第12号証及び乙第13号証と同様であり、記載内容は、乙第11号証も、乙第12号証及び乙第13号証とほぼ同じである。唯一異なるのは、「納入者」欄に「三菱商事株式会社東京都千代田区丸の内2丁目3-1」と記載され、納入仕様書(4)を除き「三菱商事化学品グループ」と判読できる職印が捺印されている点である。被請求人が、乙第11号証について、「このような商品仕様確認のための書類は、ほぼ毎年提出が求められ」と述べているように、乙第11号証は、食品である使用商品の仕様を確認するために、三菱商事FTからほぼ毎年提出を求められる重要な書類であることが推察される。前記のように納入仕様書(4)には納入者である三菱商事株式会社の職印の捺印が欠落しているが、前記のような重要な書類に捺印が欠落していることは常識的には考えづらい。しかも、一般的に書類の捺印や署名などに極めて敏感かつ厳密であると考えられる総合商社である三菱商事株式会社が、捺印が欠落していることを看過することなど到底考えられないのである。
さらに、納入仕様書(3)の「表示内容・包装形態・表示関係」欄の記載について、ラベル貼付箇所に「※商品のラベルに沿ってご記入下さい。又は商品ラベルのコピーを貼り付けて下さい。」と注意書きがされている。かかるラベル貼付箇所には、縮小コピーされたラベルが貼付されている。そこで、ラベルの記載内容について検討すると、上から順にすべて横書きで「08.12.18」、「食品用原料 魚肉エキス調味液」、「ペプチドエース」、「原材料名 魚肉エキス、食塩、還元水あめ」、「賞味期限 2009年6月」、「内容量 20kg」、「販売者 三菱商事フードテック株式会社YL」、「東京都千代田区神田紺屋町17番地」と記載されている。これらの内容に沿って、「表示内容・包装形態・表示関係」の詳細が記載されているが、最上段に記載された「08.12.18」は、被請求人が、乙第9号証の1?4について「当該商品の製造年月日は、ラベル右上に『09.6.26』と表示されるとおり、2009年(平成21年)6月26日である」と述べているとおり、使用商品の製造年月日が「2008年(平成20年)12月18日」であることを示している。これに対し、「表示関係」の「ロットNo.の読み方」の欄には「09.3.03=2009年3月3日製造」と記載されており、ラベルに記載された製造年月日と矛盾しているのである。すなわち、ラベル貼付箇所の「※商品のラベルに沿ってご記入下さい。」という注意書きに従って記載されていないのである。
この点につき、乙第12号証(原材料調査書(1)?(4))及び乙第13号証(原材料規格書A?C)は、それぞれ「原材料調査書(3)」及び「原材料規格書B」のラベル貼付箇所に「別紙添付」と記載され、ラベル見本が添付されている。「原材料調査書」に添付されたラベル見本のロットNo.は「07.9.25」と記載され、「原材料調査書(3)」の「表示関係」の「ロットNo.の読み方」欄には「Lot No.07.9.25=2007年9月25日製造」と記載されており、両者の記載は一致しており、ラベル貼付箇所の「※製品のラベルに沿ってご記入下さい。」という注意書きに従って記載されているのである。また、「原材料規格書」に添付されたラベル見本のロットNo.は「06.10.26」と記載され、「原材料規格書B」の「表示関係」の「ロットNo.の読み方」の欄には「Lot No.06.10.26=2006年10月26日製造」と記載されており、両者の記載は一致しており、ラベル貼付箇所の「※製品のラベルに沿ってご記入下さい。」という注意書きに従って記載されているのである。
このように乙第11号証は、実際の取引に使用された書類であるという心証を抱かせるには、不自然な点が多く、信憑性に疑念を抱かざるを得ない。
したがって、乙第11号証?乙第13号証は、本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標が使用商品について商標権者により使用されたことを立証したことにならない。
(3)本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標が使用商品について、商標権者及び通常使用権者によって使用された事実がないことは、上述のとおりであるが、被請求人の主張と証拠及び参考資料とにおいて矛盾する点が多数存在するので、それらについて言及する。
ア 被請求人は、「使用商品は、商標権者が、平成3年に、三菱商事FTの前身であり、当時の取引先であった株式会社ヨシオカ(以下「ヨシオカ」という。)向けの『止め型商品』として開発した商品であり、製造は商標権者が行い、販売はヨシオカが行うという合意の下に、平成4年から顧客への販売が開始された商品である。本件商標は、使用商品の製造者である商標権者はもちろん、その販売者であるヨシオカが使用することを前提にして、取得された登録商標である」と述べている。したがって、使用商品は、本件商標を付して平成4年からヨシオカが独占的に販売してきたことになる。
しかし、乙第3号証によれば、魚肉分解物(出願当初の指定商品)は、商標権者が製造し、仙味エキス販売株式会社(以下「仙味エキス販売」という。)が販売したことになっている。前記のように、使用商品は、本件商標を付して平成4年からヨシオカが独占的に販売してきたにもかかわらず、1年以上(ヨシオカが魚肉エキス調味液の販売を平成4年末ころに開始した場合は、少なくとも6ヵ月以上)経過した平成5年6月時点では、仙味エキス販売が販売していたのである。したがって、当初ヨシオカにより独占販売されていた使用商品は、一旦仙味エキス販売による販売を経て、その後(時期は不明)、ヨシオカ(若しくは名称変更後の株式会社ヨシオカ・フードミックスなど)又はその承継会社により販売され、最終的に三菱商事FTにより販売されることになったはずである。それにもかかわらず、被請求人は、答弁書においてこの事実について一切言及していない。反対に、仙味エキス販売が使用商品の販売に一切関わることなく、被請求人が答弁書において言及しているとおり、使用商品の販売が当初の販売者であるヨシオカから三菱商事FTに最終的に継承されたのであれば、乙第3号証における仙味エキス販売が販売したという記載は虚偽であることになる。
イ 被請求人は、乙第9号証の2及び乙第10号証の2に示すラベルにおいて、販売者である「三菱商事フードテック株式会社」の右横に表示される記号「YL」について、商品の製造所が商標権者であることを示すために、参考資料2及び3を提出する。参考資料2は、「食品衛生法施行規則第5条第10項の規定による製造所固有の記号の届出について」(以下「製造所固有記号の届出」という。)であるが、届出日は、平成19年7月19日であり、申請者は、製造者である商標権者と販売者である三菱商事FTである。この点につき、被請求人が「三菱商事FTは平成19年8月1日に設立された会社である」と述べているにもかかわらず、まだ設立されていない三菱商事FTが平成19年7月19日に製造所固有記号の届出を行っているのである。したがって、参考資料2の有効性及び信憑性に疑念を抱かざるを得ない。
(4)以上述べたように、被請求人の主張にかかわらず、本件商標は、本件審判の請求登録前3年以内に日本国内において、商標権者又は通常使用権者により請求に係る指定商品について使用されたことが充分に立証し得たとはいえない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証?乙第22号証(枝番を含む。)を提出し、さらに、参考資料として、参考資料1?3を提出した。
1 本件商標の指定商品について
本件商標の指定商品は、第29類「生鮮魚肉を主原料とする液状の加工食品、生鮮魚肉を主原料とする粉末状の加工食品、生鮮魚肉を主原料とする顆粒状の加工食品」とするものである(甲第2号証)ところ、出願当初の指定商品は、「魚肉分解物」とするものであった(乙第1号証)。すなわち、本件商標の指定商品は、審査の段階で、「魚肉分解物」の表示が不明確であるとの物件提出命令書(乙第2号証)が発せられ、これに対して、商標権者(出願人)は、「魚肉分解物」の原料、製法等を説明する物件提出書(乙第3号証)を提出したところ、手続補正命令書(乙第4号証)により、「本願の指定商品は、いわゆる健康食品と称されるものであるが、その表示としては『生鮮魚肉を主原料とする液状の加工食品』とするのが適切であり、指定商品をこの旨に補正する書面」を提出するようにとの指示を受けたので、商標権者(出願人)は、手続補正書(乙第5号証)をもって、本件商標の指定商品を「生鮮魚肉を主原料とする液状の加工食品、生鮮魚肉を主原料とする粉末状の加工食品、生鮮魚肉を主原料とする顆粒状の加工食品」と補正したのであり、その結果、本件商標は登録されたのである。
ちなみに、上記物件提出書(乙第3号証)に記載された「魚肉分解物」の原料、製法等は、後述する「納入仕様書」(乙第11号証)等に記載されている現在の魚肉エキス調味液(使用商品)の原料、製法等と実質的に変わりがない。
2 使用の事実
(1)使用商品について
商標権者及び通常使用権者である三菱商事FTは、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標を、商標権者が製造し、三菱商事FTが販売する使用商品(魚肉エキス調味液)に使用していた。
使用商品は、商標権者が、平成3年に、三菱商事FTの前身であり、当時の取引先であったヨシオカ向けの「止め型商品」として開発した商品であり、製造は商標権者が行い、販売はヨシオカが行うという合意の下に、平成4年から顧客への販売が開始された商品である。本件商標は、使用商品の製造者である商標権者はもちろん、その販売者であるヨシオカが使用することを前提にして、取得された登録商標である。
使用商品の当初の販売者であったヨシオカは、その後、株式会社ヨシオカ・フードミックスを経て、平成11年に株式会社ヨシオカ・フードテックに社名変更し、さらに、平成12年には、グループ会社であった株式会社ヨシオカ・フードサイエンス及び株式会社東京ヨシオカの2社を統合して、新たに株式会社ヨシオカ・フードテックとなり、平成15年には、MCフードテック株式会社(以下「MCフードテック」という。)に社名変更した(乙第6号証の4枚目参照)。三菱商事FTは、このMCフードテック、東和化成工業株式会社及び中央フーズマテリアル株式会社の3社を統合して、平成19年8月1日に設立された会社である(乙第7号証)。
商標権者が使用商品を製造し、これをヨシオカが販売するという関係は、ヨシオカが、上記のような変遷を経て、三菱商事FTとなった今も継承されており、使用商品は、現在、「ペプチドエース」の名の下に、三菱商事FTによって顧客に販売されている。
このように、本件商標は、使用商品を製造する商標権者自身はもとより、その時代時代における使用商品の販売者による使用のために、一度の更新を経て、現在に至るまで維持されている。
(2)商標権者と三菱商事FTとの関係について
本件商標に関し、商標権者と三菱商事FTとの間に、書面で取り交わした使用許諾契約書は存在しない。しかし、上述した事情からして、商標権者と三菱商事FTとの間には、本件商標の通常使用権についての黙示の許諾が存在するのは明らかである。この事実を裏付けるため、被請求人は、三菱商事FTの執行役員である石井康弘の陳述書を提出する(乙第8号証)。石井康弘の陳述書のとおり、「当社(被請求人注:三菱商事FTのこと)が本件商標を使用商品に継続して使用しているのは、当然に、商標権者から本件商標についての使用許諾を受けてのこと」なのである。
(3)使用商品の受注から出荷までの流れ
参考資料1に示すとおり、使用商品は、三菱商事FTからの製造依頼を受けて商標権者が製造し、製造後、製造依頼者である三菱商事FTの名義で、倉庫に保管される。顧客から三菱商事FTに使用商品の発注があると、三菱商事FTから商標権者に出荷依頼書が発信され、商標権者は、これを受けて、三菱商事FTの名義で、顧客に使用商品を出荷する。
(4)使用の事実を示す証拠
ア 使用商品の外観写真
(ア)乙第9号証の1?4は、使用商品の外観を示す写真である。
乙第9号証の1は、商品の包装容器であるダンボール箱の外観写真、乙第9号証の2は、そのラベル部分の拡大写真、乙第9号証の3は、ダンボール箱の上部を開封して中の商品の状態を示した写真、乙第9号証の4は、商品をダンボール箱から取り出して横に置いた状態を示す写真である。
乙第9号証の1?4に示すとおり、使用商品は、液状品であるため、バッグインボックスと呼ばれる可撓性の容器に詰められ、ダンボール箱に入れられた状態で出荷される。バッグインボックスに直接ラベルを貼るのは困難であるので、それを収容するダンボール箱にラベルが貼付されている。
乙第9号証の2に示すとおり、ラベルには「ペプチドエース」の表示があり、本件商標が使用商品の包装に付されていることは明らかである。
使用商品の販売者は、ラベル下方に表示されているとおり、三菱商事FTであり、使用商品の製造年月日は、ラベル右上に「09.6.26」と表示されているとおり、2009年(平成21年)6月26日である。
(イ)乙第10号証の1、2は、2009年(平成21年)8月26日に製造された使用商品の外観を示す写真である。製造年月日を除いて、乙第9号証の1、2と同じである(なお、乙第9号証の1?4及び乙第10号証の1、2の写真は、平成21年9月30日に、在庫品を愛媛県大洲市平野町野田779番地2所在の商標権者社屋内において、商標権者業務部課長竹中春吉が撮影したものである。)。
乙第9号証の2及び乙第10号証の2に示すラベルにおいて、販売者である「三菱商事フードテック株式会社」の右横に表示されている記号「YL」は、参考資料2(製造所固有記号の届出)に示すとおり、使用商品の製造所が、愛媛県大洲市平野町野田779番地2所在の仙味エキス株式会社、すなわち、商標権者であることを表している。製造所固有記号に関する資料として、参考資料3(厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課による【製造所固有記号に関する手引き(Q&A)】(平成21年4月一部改正)「製造所固有記号制度、具体的な表示方法等について(問1?問2)」)を併せて提出する。
(ウ)乙第9号証の1?4及び乙第10号証の1、2に示すとおり、使用商品は、ダンボール箱に収容された状態で取引されており、当該ダンボール箱は商品の包装に当たるから、当該ダンボール箱に本件商標が表示されたラベルを貼付し、販売する行為は、商標法第2条第3項第1号及び第2号に該当する。
したがって、通常使用権者である三菱商事FTが、少なくとも平成21年6月から同年8月にかけて、本件商標を使用商品に使用していたことは明らかである。
イ 乙第11号証?乙第13号証について
(ア)乙第11号証は、使用商品の製造者である商標権者が、販売者である三菱商事FTからの求めに応じて、商品仕様確認のために作成して提出した「納入仕様書(1)?(4)」であり、作成日は、2009年(平成21年)3月12日である(このような商品仕様確認のための書類は、ほぼ毎年提出が求められ、その都度、提出要請者である三菱商事FTによって、書類の名称や書式の変更がなされる。後述の乙第12号証及び乙第13号証が、内容的には同じでありながら、書類の名称や書式が異なるのはこのためである。)。
「納入仕様書」の各頁の左上の「商品名」欄には「ペプチドエース」の表示があり、その下又は右に、製造者として商標権者の名前が記載されている。
納入仕様書(2)には、使用商品の物質名が「魚肉エキス」であることと、その品質規格が記載され、納入仕様書(3)には、使用商品の製造工程図等が、また、納入仕様書(4)には、原材料名等が示されている。ちなみに、納入仕様書(3)、(4)に示す使用商品の製造工程及び原材料等は、乙第3号証(物件提出書)に記載の「魚肉分解物」の製造工程及び原材料と実質的に変わるところがない。
(イ)乙第12号証は、乙第11号証(納入仕様書)と同様に、商品仕様確認のために、商標権者が2007年(平成19年)10月1日に作成して、同年に、三菱商事FTに提出した「原材料調査書(1)?(4)」である。書類の名称や書式は、乙第11号証と異なっているが、内容はほぼ同じである。「原材料調査書」の各頁の左上の「商品名」欄には「ペプチドエース」の表示があり、その下又は右若しくは頁下部に、製造者として商標権者の名前が記載されている。
(ウ)乙第13号証は、商標権者が2006年(平成18年)10月26日に作成し、同年に、三菱商事FTの前身であるMCフードテックに提出した「原材料規格書A?C」であり、これは、乙第11号証(納入仕様書)及び乙第12号証(原材料調査書)と同様に、使用商品の商品仕様確認のための書類である。「原材料規格書」の各頁には、商品名として「ペプチドエース」の表示と、製造者として商標権者の記載がある。
(エ)乙第11号証?乙第13号証に示す「納入仕様書」、「原料調査書」及び「原材料規格書」は、使用商品に関する取引書類に当たり、これらの書類に本件商標を付する行為は、商標法第2条第3項第8号に該当するから、商標権者が、少なくとも平成19年10月から平成21年3月にかけて、本件商標を使用商品に使用していたことは明らかである。
ウ 乙第14号証及び乙第15号証について
これらは、使用商品に関する平成20年8月11日付け及び平成19年8月4日付けの「品質規格書」であり、使用商品の品名として「ペプチドエース」の表示がある。同「品質規格書」は、使用商品の取引書類に当たり、当該書類に本件商標を付する行為は、商標法第2条第3項第8号に該当するから、商標権者が、少なくとも平成19年8月から平成20年8月にかけて、本件商標を使用商品に使用していたことは明らかである。
エ 乙第16号証の1?乙第17号証の3について
(ア)乙第16号証の1?3は、三菱商事FTから商標権者に宛てた使用商品の製造依頼書であり、それぞれ平成21年8月7日、平成20年10月31日及び平成20年9月8日の日付がある。
(イ)乙第17号証の1?3は、三菱商事FTから商標権者に宛てた使用商品の出荷依頼書であり、それぞれ平成21年7月28日、平成21年7月9日及び平成21年6月30日の日付がある。
オ 乙第18号証及び乙第19号証について
乙第18号証は、三菱商事FTが現在使用している使用商品のパンフレットであり、乙第19号証は、三菱商事FTが平成20年まで使用していた使用商品のパンフレットである。
カ 乙第20号証の1?乙第22号証について
(ア)乙第20号証の1?3は、三菱商事FTが2008年(平成20年)8月から2009年(平成21年)5月にかけて、それぞれ顧客ユーザーである一番食品株式会社、株式会社しいの食品及び株式会社ニチレイフーズに頒布した「品質規格書」及び「製品付属情報証明書」(但し、株式会社ニチレイフーズ宛のものは「品質規格書」のみ)であり、各書類には、三菱商事FTの名称とともに、製品名として「ペプチドエース」の記載がある。
(イ)乙第21号証の1?5は、2006年(平成18年)10月18日から2009年(平成21年)7月2日にかけての、三菱商事FTから顧客であるショクザイ新潟株式会社宛の使用商品の納品書と運送会社の送り状である。
(ウ)乙第22号証は、2009年(平成21年)5月22日付けの、三菱商事FTから顧客である株式会社豊食宛の使用商品の納品書と運送会社の送り状である。
キ 乙第16号証の1?乙第22号証に示す「製造依頼書」、「出荷依頼書」、「商品パンフレット」、「品質規格書」、「製品付属情報証明書」及び「納品書」が、使用商品に関する広告ないし取引書類であることは明らかであり、これらの書類に本件商標を付する行為は、商標法第2条第3項第8号に該当する。そして、これら書類の頒布日は、上記乙各号証に示すとおり、いずれも、本件審判の請求の登録前3年以内である。
したがって、通常使用権者である三菱商事FTが、本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標を使用商品に使用していたことは明らかである。
3 むすび
以上、乙各号証に示すとおり、商標権者及び通常使用権者は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標を使用商品に使用しており、使用商品が本件商標の指定商品中の「生鮮魚肉を主原料とする液状の加工食品」に該当することは、上記乙各号証から明らかである。

第4 当審の判断
1 乙第1号証?乙第13号証、乙第16号証?乙第18号証及び乙第20号証?乙第22号証(枝番を含む。)並びに答弁の理由によれば、以下の事実を認めることができる。
(1)本件商標の指定商品は、生鮮魚肉を主原料とし、食塩、糖類、アミノ酸等を副原料とする液状・粉末状・顆粒状の商品であって、様々な加工食品に添加する、いわゆる調味料としての用途を有する商品である。商標権者は、当該商品の表示を「魚肉分解物」として平成4年9月4日に登録出願したところ、平成5年8月6日付け手続補正命令書により、指定商品の表示を「生鮮魚肉を主原料とする液状の加工食品」に補正すべきとの補正命令に基づき、出願人(商標権者)は、平成5年9月21日付け手続補正書をもって、その表示を前記第1のとおり、「生鮮魚肉を主原料とする液状の加工食品,生鮮魚肉を主原料とする粉末状の加工食品,生鮮魚肉を主原料とする顆粒状の加工食品」と補正した結果、本件商標は登録に至ったものである(乙第1号証?乙第5号証)。
(2)本件商標が登録出願された当時において、商標権者と使用商品の取引があったヨシオカは、2003年(平成15年)4月に三菱商事株式会社傘下のグループ会社となり、同年8月にMCフードテックと社名変更をした。三菱商事株式会社は、2007年(平成19年)5月18日に、その関連会社である東和化成工業株式会社、MCフードテック及び中央フーズマテリアル株式会社の3社を統合し、総合食品化学会社である三菱商事FTを同年8月1日に設立することを決定した(乙第6号証、乙第7号証)。
(3)三菱商事FTの執行役員である石井康弘は、平成21年10月16日付け陳述書をもって、三菱商事FTは、設立当初から現在に至るまで、商標権者の製造する使用商品を「ペプチドエース」の名のもとで販売している旨及び商標権者と三菱商事FTとの間には、本件商標の使用許諾に関する契約書はないが、三菱商事FTが継続して「ペプチドエース」を使用商品に使用しているのは商標権者から本件商標の使用についての許諾を受けているものと理解している旨の陳述をした(乙第8号証)。
(4)使用商品が梱包された包装用段ボール箱には、以下の記載(上段から順に記載されたもの)があるラベルが貼付されている。
ア 「09.6.26」、「食品用原料 魚肉エキス調味液」、「ペプチドエース」、「原材料名 魚肉エキス、食塩、還元水あめ」、「賞味期限 2009年12月」、「内容量 20kg」、「販売者 三菱商事フードテック株式会社YL」、「東京都千代田区神田紺屋町17番地」(乙第9号証の1、2)
イ 「09.8.26」、「食品用原料 魚肉エキス調味液」、「ペプチドエース」、「原材料名 魚肉エキス、食塩、還元水あめ」、「賞味期限 2010年2月」、「内容量 20kg」、「販売者 三菱商事フードテック株式会社YL」、「東京都千代田区神田紺屋町17番地」(乙第10号証の1、2)
(5)商標権者は、2009年(平成21年)3月12日に、「納入仕様書(1)?(4)」を作成し、三菱商事FTに提出した(乙第11号証。当該書類が使用商品に関するものであり、三菱商事FTに提出したものであることについては、請求人は争うことを明らかにしていない。)。
納入仕様書(1)?(4)の各上部には、「商品名:ペプチドエース」と記載され、その下には、「製造者/住所」として、商標権者の名称と住所が記載され、社印が押されている。さらに、その下には、商標権者の記入担当者の氏名及び捺印がある。また、「納入者/住所」として、三菱商事株式会社とその住所等が記載され、判読し難いが、社印が押されているものと推認できる(ただし、(4)は除く。)。そして、(1)?(4)の各欄外下部には、「三菱商事フードテック(株)担当部署」などの文字が記載されている。
同(3)の「表示内容・包装形態」欄の左には、「※商品のラベルに沿ってご記入下さい。又は商品ラベルのコピーを貼り付けて下さい。」と記載され、その下には、「08.12.18」、「食品用原料 魚肉エキス調味液」、「ペプチドエース」、「原材料名 魚肉エキス、食塩、還元水あめ」、「賞味期限 2009年6月」、「内容量 20kg」、「販売者 三菱商事フードテック株式会社YL」、「東京都千代田区神田紺屋町17番地」と記載されたラベルの見本が記載されている。同右には、「食品に使用した表示例」、「内装」、「外装」、「総重量」、「内容量」が具体的に記載され、その下の「表示関係」欄には、「品質保持期間:製造後 6ヶ月(未開封)」、「ロットNo.の有無:有」、「ロットNo.の読み方:09.3.03=2009年3月3日製造」、「開封前/後の保管条件」等が記載されている。
(6)商標権者は、2007年(平成19年)10月1日に、「原材料調査書(1)?(4)」を作成し、三菱商事FTに提出した(乙第12号証。当該書類が使用商品に関するものであり、三菱商事FTに提出したものであることについては、請求人は争うことを明らかにしていない。)。
原材料調査書(1)?(4)の各上段には、「商品名:ペプチドエース」と記載されている。また、(1)?(4)の各「製造者または販売者/住所」欄には、商標権者の住所と名称が記載され、商標権者の社印が押され、その下には、商標権者の記入担当者の氏名及び捺印がある(ただし、(4)には、商標権者の記入担当者の記載はない。)。「納入者」欄は、空欄である。さらに、(1)?(4)の各欄外下部には、「三菱商事フードテック株式会社/2007年8月作成フォーマット」と記載されている。
同(1)は、例えば、「本資料の内容は食品衛生法に従い記入してありますか。」などの質問に対する回答を要求する文書であり、「担当部署」として「三菱商事フードテック株式会社 関東支社」と記載されている。
同(2)は、使用商品の品質保証規格の一覧表である。
同(3)は、使用商品の製造工程図並びに「表示内容」、「包装形態」及び「表示関係」が具体的に記載され(ただし、「表示内容」は、「ラベル見本」として添付された別紙に記載のとおりである。)、「表示内容」、「包装形態」及び「表示関係」の様式は、納入仕様書(3)(乙第11号証)の「表示内容・包装形態」及び「表示関係」の各欄に記載されたものと同様である。
(7)商標権者は、2006年(平成18年)10月26日に「原材料規格書A?C」を作成し、MCフードテックに提出した(乙第13号証。当該書類が使用商品に関するものであり、MCフードテックに提出したものであることについては、請求人は争うことを明らかにしていない。)。
原材料規格書A?Cの各上段には、「商品名:ペプチドエース」と記載されている。また、A?Cの各「製造者または販売者/住所」欄には、商標権者の住所と名称が記載され、商標権者の社印が押され、その下には、商標権者の記入担当者の氏名及び捺印がある(ただし、Cには商標権者の記入担当者の氏名及び捺印はない。)。「納入者」欄は、空欄である。さらに、A?Cの各欄外下部には、「MCフードテック(株)品質規格書」と記載されている。
同Aは、使用商品の品質保証規格の一覧表である。
同Bは、使用商品の製造工程図並びに「表示内容」、「包装形態」及び「表示関係」が具体的に記載され(ただし、「表示内容」は、「ラベル見本」として添付された別紙に記載のとおりである。)、「表示内容」、「包装形態」及び「表示関係」の様式は、納入仕様書(3)(乙第11号証)の「表示内容・包装形態」及び「表示関係」の各欄に記載されたものと同様である。
(8)商標権者は、三菱商事FTより、平成21年8月7日、平成20年10月31日及び同年9月8日に使用商品についての製造依頼を受け(乙第16号証の1?3)、さらに、平成21年7月28日、同年同月9日及び同年6月30日に使用商品についての出荷依頼を受けた(乙第17号証の1?3)。上記依頼に関する各書類には、「商品名」又は「製品名」として「ペプチドエース」の文字が記載されている。
(9)三菱商事FTは、「エキス調味料/ペプチドエース」と大きく表示した使用商品に関するパンフレットを作成した。該パンフレットには、使用商品の特徴等のほか、右下に小さく「2008.02.26」の文字が記載され、該パンフレットが2008年(平成20年)2月26日に作成されたものと認めることができる(乙第18号証)。
(10)三菱商事FTは、2009年(平成21年)5月25日に作成した使用商品に関する「品質規格書」及び「製品付属情報証明書」をその顧客である一番食品株式会社に頒布し、また、2008年(平成20年)11月27日に作成した使用商品に関する「品質規格書」及び「製品付属情報証明書」をその顧客である株式会社しいの食品に頒布し、さらに、2008年(平成20年)8月8日に作成した使用商品に関する「品質規格書」をその顧客である株式会社ニチレイフーズに頒布した。該「品質規格書」及び「製品付属情報証明書」には、「製品名:ペプチドエース」と記載されている(乙第20号証の1?3)。
(11)三菱商事FTは、2009年(平成21年)7月2日、同年5月11日及び2006年(平成18年)10月28日に、その顧客であるショクザイ新潟株式会社に対し、また、2006年(平成18年)年11月8日及び同年10月18日に、その顧客である株式会社北陸ショクザイに対し、それぞれ「商品名/ペプチドエース」との表示のある使用商品を出荷した(乙第21号証の1?5)。さらに、三菱商事FTは、2009年(平成21年)5月22日に、その顧客である株式会社豊食に対し、「商品名/ペプチドエース」との表示のある使用商品を出荷した(乙第22号証)。
2 前記1で認定した事実よれば、以下のとおり判断するのが相当である。
(1)通常使用権者について
一般的に通常使用権に関する契約は、商標権者又は専用使用権者との間で交わされる商標権使用許諾契約に基づいて発生するものであって、同契約は、商標権者等と使用者との意思表示の合意によって成立するものであるから、必ずしも書面による必要はないと解されるところ、本件審判における商標権者と三菱商事FTとの関係についてみると、商標権者が使用商品の製造者であり、三菱商事FTがその販売者であることについては、請求人は争うことを明らかにしていない。
そして、使用商品に貼付されるラベル(乙第9号証の1、2、乙第10号証の1、2)には、「販売者 三菱商事フードテック株式会社YL」と記載されているところ、「厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課による製造所固有記号に関する手引き(Q&A)(平成21年4月一部改正)『製造所固有記号制度、具体的な表示方法等について(問1?問2)』」(参考資料3)によれば、食品衛生法では、食品又は添加物を販売する場合、製造所所在地、製造者の氏名等の表示を義務づけているが、表示面積が小さいため、製造者と販売者を併記できない等の理由により、以下(a)及び(b)場合に、あらかじめ厚生労働大臣(平成21年9月1日より消費者庁長官)に届け出た製造所固有の記号をもって、製造所所在地及び製造者の表示に代えることができ、この制度が製造所固有記号であることが認められる。(a) 本社とは異なる所在地の自社工場で製造した食品に、本社の名称、所在地を表示したい場合、製造所固有記号の表示により、自社工場の所在地に代えて、本社の所在地を表示できる。(b) 製造を他社工場(製造所)に委託している販売者が、自社の名称、所在地を表示したい場合、製造所固有記号の表示により、委託先他社工場の名称、所在地に代えて、販売者の名称、所在地を表示できる。
また、製造所固有記号の届出(参考資料2)によれば、商標権者と三菱商事FTは、平成19年7月19日に、販売者を三菱商事FTとする食品(添加物)についての製造者である商標権者の住所と名称は、「YL」の記号をもって代えることの届け出をしたことが認められる。
上記製造所固有記号制度及び製造所固有記号の届出に照らすと、本件審判における三菱商事FTは、製造所固有記号制度における(b)の「製造を他社工場(製造所)に委託している販売者」ということができ、その他、「納入仕様書」(乙第11号証)、「原料調査書」(乙第12号証)、「原材料規格書」(乙第13号証)、「製造依頼書」(乙第16号証の1?3)、「出荷依頼書」(乙第17号証の1?3)、「パンフレット」(乙第18号証)、「品質規格書」(乙第20号証の1?3)等の記載に照らしても、三菱商事FTは、その独占的販売に係る使用商品についての製造を商標権者に委託していたものと認めることができる。
そうすると、商標権者と三菱商事FTとは、業務上密接な関係にある者といえるものであり、両者の間に、本件商標の商標権についての使用許諾に関する契約書がないとしても、商標権者は、三菱商事FTに対し、本件商標の使用を黙示的に許諾していたものと推認するのが自然というべきである。このように解釈しなければ、商標権者は、自己の生産した使用商品の販売が行えない事態に陥る可能性がないとはいえず、商取引上極めて不合理な結果を導くことになるからである。
したがって、三菱商事FTは、本件商標の商標権の通常使用権者と認めることができる。
(2)商標権者及び通常使用権者による本件商標の使用
ア 前記(1)認定のとおり、通常使用権者である三菱商事FTと商標権者とは、三菱商事FTの販売に係る使用商品の製造を商標権者に委託していたという関係にあったといえる。そして、包装用段ボール箱に「ペプチドエース」と大きく表示された使用商品は、本件審判の請求の登録(平成21年9月11日)前3年以内である、少なくとも平成20年9月8日から平成21年8月7日にかけて、販売元の三菱商事FTから製造元である商標権者に対し製造依頼があり(乙第16号証の1?3)、さらに、平成21年6月30日から平成21年7月28日にかけて、販売元の三菱商事FTから製造元である商標権者に対し、三菱商事FTの顧客に出荷するよう依頼があったことが明らかである(乙第17号証の1?3)。
通常使用権者は、本件審判の請求の登録前3年以内である2008年(平成20年)2月26日に作成したパンフレットに、「エキス調味料/ペプチドエース」と大きく表示し、使用商品についての宣伝、広告をしたことが認められ(乙第18号証)、該パンフレットは、その顧客に頒布されたと優に推認することができる。また、通常使用権者は、平成20年8月8日から平成21年5月25日にかけて作成した「製品名:ペプチドエース」と表示した使用商品についての品質規格書、製品付属情報証明書を顧客に送付し、宣伝、広告をした(乙第20号証の1?3)ことが認められる(これらの点について、請求人は争うことを明らかにしていない。)。
通常使用権者は、本件審判の請求の登録前3年以内である平成18年10月から平成21年7月にかけて、「商品名/ペプチドエース」の表示のもとに、使用商品をその顧客に出荷した(乙第21号証の1?5、乙第22号証)。
エ 使用商品は、本件請求に係る指定商品に含まれる商品であり、使用に係る商標「ペプチドエース」は、本件商標と実質的に同一の商標と認めることができる。
(3)以上によれば、商標権者及び通常使用権者は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件請求に係る指定商品中に含まれる「魚肉エキス調味液」(使用商品)について、本件商標を使用していたものと認めることができる。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、商標権者と三菱商事FTとの間には、本件商標の使用許諾に関する合意が立証されておらず、また、商標権者と通常使用権者との間の黙示の許諾の存在について、誰が見ても納得できるように客観的に立証されなければならないところ、被請求人は、これを立証していないから、三菱商事FTは、本件商標の商標権の通常使用権者ではない旨主張し、審判決例を挙げる。
しかし、前記2(1)認定のとおり、三菱商事FTは、その独占的販売に係る使用商品についての製造を商標権者に委託していたものと認めることができるから、商標権者と三菱商事FTとは、業務上密接な関係にあり、両者の間に、本件商標の商標権についての使用許諾に関する契約書がないとしても、商標権者は、三菱商事FTに対し、本件商標の使用を黙示的に許諾していたとみるべきである。したがって、請求人の上記主張は理由がなく、その他、通常使用権者に関する請求人の主張はいずれも理由がないものであるから、採用することができない。
(2)請求人は、「原材料調査書」(乙第12号証)及び「原材料規格書」(乙第13号証)の「納入者」欄には納入者の住所及び名称が一切記載されておらず、これらの書類が実際に展示若しくは頒布され、又はその内容の情報が電磁的方法により提供された事実が確認できないから、使用にあたらない旨主張する。
しかし、「原材料調査書」及び「原材料規格書」とは別に、三菱商事FTに毎年提出する「納入仕様書」(乙第11号証)が存在し、該「納入仕様書」には納入者が記載されているのであり、加えて、「原材料調査書」及び「原材料規格書」は、商標権者が、三菱商事FT又はMCフードテックより使用商品の製造委託を受けた会社として、製造に係る使用商品の原材料等についての情報を提供するための書類といえるものであり、いわば、製造元たる商標権者と販売元たる三菱商事FT又はMCフードテックとの間でのみでやりとりする取引書類であって、商標権者が使用商品に関し、三菱商事FT又はMCフードテックから製造委託を受けていた事実を明らかにする証拠といえるから、これらの書類の「納入者」欄に納入者の住所及び名称が記載されていないとしても、格別不自然なものとはいえず、また、これらの書類は、広く展示したり、頒布したりする性質のものとはいえない。
したがって、「原材料調査書」及び「原材料規格書」の「納入者」欄に納入者の住所及び名称が記載されていないことをもって、これらが使用にあたらないとする請求人の上記主張は理由がない。
(3)請求人は、「納入仕様書」(乙第11)について、(4)における納入者の捺印が欠落していること及び(3)の「表示内容・包装形態」欄の左に記載された「08.12.18」は、2008年12月18日製造を意味するところ、右の記載された「ロットNo.の読み方:09.3.03=2009年3月3日製造」と一致しないことから、「納入仕様書」は、取引書類として不自然な点が多く、信憑性に疑念を抱かざるを得ない旨主張する。
しかし、「納入仕様書」は、前記「原材料調査書」及び「原材料規格書」と同様に、三菱商事FTより使用商品の製造委託を受けた商標権者が、三菱商事FTに使用商品を納入するにあたっての仕様を示す書類であり、製造元たる商標権者と販売元たる三菱商事FTとの間でのみでやりとりする取引書類といえるから、(1)?(4)の書類中、わずかに(4)の納入者欄に納入者の捺印がないとしても、取り立てて問題視するほどのものとはいえないし、また、(3)における「表示内容・包装形態」欄の左に記載された「※商品のラベルに沿ってご記入下さい。又は商品ラベルのコピーを貼り付けて下さい。」は、その下の空欄に記載する事項に関し、ラベルに記載された事項に沿って記入するか、又は、ラベルのコピーを貼付するかのいずれかを選択するという意味であるのに対し、右の「表示関係」に記載の「ロットNo.の読み方:09.3.03=2009年3月3日製造」は、あくまでもロットの読み方を解説するための一例を挙げたにすぎないとみることができるから、(3)におけるラベル中の「08.12.18」と「表示関係」中の「ロットNo.の読み方:09.3.03=2009年3月3日製造」とが一致しないとしても、何ら不自然なものとはいえない。なお、「原材料調査書」及び「原材料規格書」におけるラベル見本に記載された製造日と「ロットNo.の読み方」に記載された製造日とが一致しているのは、当該書類の閲覧者がわかりやすいように記入したものと解される。したがって、ラベル見本に記載された製造日と「ロットNo.の読み方」に記載された製造日とが一致しているか否かを問題視する請求人の上記主張は理由がなく、失当である。
(4)請求人は、使用商品は平成4年からヨシオカが独占的に販売してきたにもかかわらず、平成5年6月29日に提出された物件提出書(乙第3号証)においては、仙味エキス販売が販売していた、と記載されているが、当初ヨシオカにより独占販売されていた使用商品は、一旦仙味エキス販売による販売を経て、ヨシオカ又はその承継会社により販売され、最終的に三菱商事FTにより販売されることになったはずであるにもかかわらず、被請求人は、答弁書においてこの事実について一切言及していないし、また、仙味エキス販売が使用商品の販売に一切関わることなく、被請求人が答弁書において言及しているとおり、使用商品の販売が当初の販売者であるヨシオカから三菱商事FTに最終的に継承されたのであれば、乙第3号証における仙味エキス販売が販売したという記載は虚偽ということになる旨を主張する。
しかし、使用商品の販売経緯において、中間業者と認められる仙味エキス販売が介入していたか否かは、商標法第50条に基づく本件審判において、さほど重要な事柄ではなく、問題は、本件審判の請求の登録前3年以内に、商標権者や使用権者により本件商標が請求に係る指定商品について使用されていたか否かであって、前記認定のとおり、本件においては、商標権者及び通常使用権者より、本件審判の請求の登録前3年以内に、本件商標が請求に係る指定商品について使用されていたことが明らかである。したがって、請求人の上記主張は理由がない。
(5)請求人は、三菱商事FTは平成19年8月1日に設立された会社であるにもかかわらず、平成19年7月19日に厚生労働大臣に製造所固有記号の届出を行っているのであるから、参考資料2の有効性及び信憑性に疑念を抱かざるを得ない旨主張する。
前記1(2)認定のとおり、三菱商事株式会社は、2007年(平成19年)5月18日に、その関連会社3社を統合して三菱商事FTを同年8月1日に設立することを決定した(乙第7号証)のであり、一方、一般的に、企業の経営は、営業の承継等があった場合においても、その業務が滞ることなく継続して行われることが重要視されるといえる。以上を併せ考慮すれば、三菱商事FTがその業務に係る使用商品の販売についての準備の一つとして、「製造所固有記号の届出」をその設立前の平成19年7月19日にしていたとしても、これをもって、直ちに「製造所固有記号の届出」が無効であるという結論を導き出すことはできない。したがって、請求人の上記主張は理由がない。
4 むすび
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者及び通常使用権者が本件請求に係る指定商品中の「魚肉エキス調味料」について、本件商標を使用していたことを証明したというべきである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2010-04-26 
結審通知日 2010-04-28 
審決日 2010-05-12 
出願番号 商願平4-171338 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (029)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 芦葉 松美
特許庁審判官 岩崎 良子
内山 進
登録日 1995-03-31 
登録番号 商標登録第3031218号(T3031218) 
商標の称呼 ペプチドエース、ペプチド 
代理人 藤森 洋介 
代理人 須磨 光夫 
代理人 朝日奈 宗太 

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