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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y14
管理番号 1216389 
審判番号 無効2007-890002 
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-01-15 
確定日 2010-04-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第4877069号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4877069号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4877069号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成17年2月24日に登録出願、第14類「貴金属,キーホルダー,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製針箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製宝石箱,貴金属製の花瓶及び水盤,記念カップ,記念たて,身飾品,貴金属製のがま口及び財布,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,貴金属製コンパクト,貴金属製靴飾り,時計,貴金属製喫煙用具」を指定商品として、平成17年7月1日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録第4245432号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(2)のとおりの構成からなり、平成9年8月4日に登録出願、平成11年3月5日に設定登録されたものであり、同じく、登録第4582053号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(3)のとおりの構成からなり、平成13年8月8日に登録出願、平成14年7月5日に設定登録されたものである。
そして、いずれの引用商標も、第14類「貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶・水盤・針箱・宝石箱・ろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口・靴飾り・コンパクト及び財布,貴金属製喫煙用具,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,時計,記念カップ,記念たて」、第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類」及び第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服・運動用特殊靴」を指定商品とするものである。
以下、引用商標1及び引用商標2を一括していうときは、「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第14号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第10号について
ア 故ガボール・ナギー(以下、「ガボール・ナギー」という。)は、1988年より彼の工房で「シルバーアクセサリー」を製造し、販売してきた。1994年からは彼の会社ガボラトリー・インクを設立、同会社名で製造・販売している。ガボール・ナギーは、当初より、彼のシルバー製品の全てに、彼のデザインへの自信と誇りの証として甲第3号証の王冠付きGロゴマークを刻印しており、それは現在に至るまで変わっていない(甲第5号証1ないし5)。王冠を掲げるGロゴマーク刻印はスターリングシルバーを表す925の刻印と共にまさに品質保証の印なのである。彼のデザインによるハンドメイドのシルバーアクセサリーはその独創性に魅せられたハリウッド男性スター達に愛用されたこともあって、高級男性シルバージュエリーとして一躍有名になり、彼のファーストネームの「ガボール」という名称と共に、甲第3号証の王冠付きGロゴマークあるいはその要部をなすGロゴマークは、現在に至るまで常にシルバーアクセサリーの中心的ブランドである。それは数々の雑誌等の記事からも明らかである(甲第6号証の1ないし5)。
例えば、甲第6号証の2の雑誌では、王冠付きGロゴマークを(ガボール・ナギーの)“アトリエマーク”と呼んでいる。甲第6号証の4の雑誌では“クラウンと「G」マークが描かれる人気アイテム”と王冠と「G」の著名性を表現している。甲第6号証の5の雑誌では“リングの部分にはクラウンと「G」の文字からなるガボールのロゴが入り、アクセントに”と前記ロゴがガボールのロゴであることが記述されている。なお、シルバージュエリーデザイナーとしてのガボール・ナギーの名称の周知性は特許庁においても顕著な事実として認められている(甲第7号証)。これらの事実より、「ガボール」の名称と共にガボールのイニシャルGをデザイン化したGロゴマークは、王冠付きGロゴマークとして、あるいはGロゴマークとして単独で、ガボール・ナギーが作るシルバーアクセサリーの標章として需要者、取引者において広く認識されており、ガボール・ナギーあるいは請求人と関係のない第三者である本件商標権者がこのGロゴマークを指定商品に使用すれば、需要者、取引者はその第三者の商品がガボール・ナギー即ち請求人の商品であると誤認混同することは必至である。
イ 現に、本件商標の権利者である、シーディーエム・エクスチェンジ・インク(被請求人)は、ネット上に本件商標のGロゴマークを掲げて、ガボール・インク・ユーエスエー(シーディーエム・エクスチェンジ・インク(被請求人)の関連会社で、ガボール・ナギーあるいは請求人とは全く無関係)と勝手に名乗り(両者の代表者は同一人物)、ガボール・ナギーデザインのシルバーアクセサリーのコピー製品のカタログを掲載し、その関係店舗を通して、その製品を販売している(甲第8号証1及び2)。また、被請求人は、上記の著名な名称[ガボール]についても商標登録を試みて、特許庁により出願を拒絶されている(甲第7号証、同第9号証)。なお、商標「GABOR」 は、正当の権利者であるマリア・ナギーの名前で登録第4962301号として登録されるに至っている(甲第10号証)。被請求人の製品は、ガボラトリー・インクが製造販売しているガボール・ナギーのデザインを盗用した不法製品である。被請求人は同社のシルバー・アクセサリーをあたかもガボール・ナギーの真正品であるかのように偽って販売し、市場を混乱させ、正統な出所であるガボラトリー・インクに多大な損害を与えている。してみれば、被請求人は他人の周知著名商標と同一または類似の商標を明らかに不正の目的を持って使用するために本件商標を出願したものであり、これは商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は請求人が長年使用し、かつ本件商標の出願前に既に請求人名義で登録されている引用商標の一部(独創的デザインのGロゴマーク部分)を全くそのまままの形で盗用して出願したものである。請求人の上記引用商標のGロゴマークは、請求人であるガボラトリー・インクの創設者であり、同社製のシルバーアクセサリーのデザイナーである、ガボール・ナギーが、自分のイニシャルである「G」を自分自身でデザインしたオリジナルである。引用商標2は、王冠をかぶったGロゴマークを表しており、Gロゴマークがいわば顔であり、もっとも顕著性のある主要部分となっている。当該Gロゴデザインについては、ガボール・ナギーの妻であり、今はガボラトリー・インクの社長として彼の事業を継いでいるマリア・ナギーが述べているように(甲第4号証)、ガボール・ナギーの特別な思い入れを込めてデザインされたもので決して誰もが容易に創作できるものではない。このGロゴマークは独創性のあるデザインとして特別顕著性を有するとともに、ガボール・ナギーのデザインしたシルバーアクセサリーを識別する機能を有し、引用商標2の要部をなすこと明らかである。然るに、本件商標はこのGロゴマークを全くそのままの形で登録出願しており、したがって、この商品識別性を有するGロゴマークを共通にする両商標が同一あるいは類似の商品に使用されれば一般的出所の混同を生ずること明らかである。
また、現実に、被請求人及びその関連会社はガボール・ナギーのデザインを盗用したシルバーアクセサリーに本件商標を付して市販しており、かかる被請求人商品は市場において請求人のディストリビューターの販売する引用商標を付したシルバーアクセサリーとその商標の類似性及び製品デザインの同一性の故に、一般的のみならず具体的出所の混同を生じており、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
2 弁駁の理由
(1)本件商標は、 「Gothic and Old English Alphabets」に掲載される「Teutonic Text(チュートン文字)の「G」を下敷きに全く独自にデフォルメした結果、「G」の形が、偶然にも、ガボール・ナギーがデザインしたGロゴマークと寸分違わず同一の形になったという被請求人の主張を誰が納得できるであろうか。しかも、被請求人は、ガボール・ナギーのアクセサリー製品やロゴマークを全く知らない者ではなく、ガボール・インク・ユーエスーエーというあたかもガボール・ナギーの関連会社であるかのような会社名をかたって日本でガボール・ナギー製品のコピーを販売しているその当人なのである。
(2)請求人は、平成19年2月27日、ガボール・インク・ユーエスーエーの製品の日本に於ける総販売元である株式会社トムス・ジャパンを被告として、「商標権侵害差止等請求事件」を東京地方裁判所に提訴している(甲第11号証)が、同事件の被告代理人(被請求人代理人を含む)はその被告準備書面1(甲第12号証の6頁)において、「米国商標権をガボラトリー・インターナショナル社から譲り受けたシーデーエム社は、別紙商標権(注記:本件商標権のこと)、すなわち、米国商標権の図形商標の一部であるGマークを日本国特許庁に出願登録した(乙1号証)」と述べており、これは「本件商標は請求人の登録商標(甲第2号証及び同第3号証)のGロゴマークをそのままの形で出願した」という請求人の主張を被請求人自ら認めているということで、被請求人の創作物であるとする被請求人の上記の主張と明らかに矛盾している。
(3)被請求人が日本でガボール・インク・ユーエスーエーの製品(ガボールデザインのアクセサリーのコピー品)を販売する以前より、請求人は、自社が製造販売するガボール・ナギーデザインのアクセサリーに「王冠付きGロゴマーク(アトリエマーク)」を付して、請求人の日本に於ける代理店を通じて販売しており、それは現在まで続いている。1996年から2000年までは有限会社ワキサカ、2000年から2002年まではShin Ando、2002年から現在までは有限会社ムーンワークスが請求人の日本代理店であり、甲第6号証の雑誌記事が示すとおり、被請求人が請求人の製品のコピー品を日本で販売し始めた頃(2003年)までには、既に、請求人の「王冠付きGロゴマーク(アトリエマーク)」は日本で著名であったといえる。また、ガボール・ナギーもガボラトリー・インクも、その商標及び事業をガボラトリー・インターナショナル・インクを含む第三者に譲渡した事実はない。
(4)被請求人は、パスカル・ザザがマリア・ナギーを提訴した旨言及して、訴状の写しを添付しているが、同訴訟は2004年7月に提訴されたが、被告であるマリア・ナギーに通知(訴状が送達)されること無く、同年11月には取り下げられている(甲第13号証)。 また、パスカル・ザザがガボラトリー・インクの筆頭株主と述べているが、ガボール・ナギー(死亡後はその権利を相続したマリア・ナギー)が同社の株式の51%、残りの49%をパスカル・ザザが所有しており、同社の筆頭株主はマリア・ナギーである。(乙第3号証の第5項)
(5)被請求人は、請求人の米国においての商標を含む諸事情を縷々述べている。本件には直接関係していないが、誤解を避けるため、簡単に説明する。
被請求人の主張する権利の根拠は、ガボラトリー・インターナショナル・インクがガボール・ナギーまたはガボラトリー・インクから、本件商標権及び引用商標等の商標権を含むシルバーアクセサリー事業を承継し(事業譲渡を受け)たことにより、本件商標を使用し、登録する権利を取得した点にあると解せられる。しかし、被請求人は、上記権利の譲渡があったことを示す如何なる証拠も提出しておらず、ただ、単に権利の継承があったと主張するのみである。事実、現在、本件商標の使用差止めを求め東京地方裁判所で継続中の訴訟において、担当裁判官はガボラトリー・インターナショナル・インクが商標権等の権利承継者であるという被告(株式会社トムスジャパン)の主張は、権利譲渡を証明する証拠がない以上、問題にならないという立場をはっきりさせている。ガボラトリー・インターナショナル・インクとは、ガボール・ナギーが亡き後、その弟子の1人が2001年5月設立した会社であり、同社は、ガボール・ナギーまたはガボラトリー・インクから何の許諾を受けることなく、ガボラトリー・インクのシルバーアクセサリーのコピーを製造・販売し、ガボラトリー・インクが使用してきた商標(1)「GABOR」、(2)「王冠付きGロゴマーク十GABORATORY」 )を勝手に使用し、さらに、同(1)、(2)商標及び商標(2)に「INTERNATIONAL」を加えた商標を勝手に米国商標局に出願したのである。ガボラトリー・インターナショナル・インクによるこの無権限商標登録及び出願行為については、2003年7月29日、請求人がガボラトリーインターナショナル・インクをカリフォルニア地方裁判所に提訴し、同地方裁判所を通じて2004年8月ガボラトリー・インターナショナル・インク及び被請求人両者間で和解契約が締結され、ガボラトリー・インターナショナル・インクは、当時既に登録済みの(1)「GABOR」商標についてはガボラトリー・インク側に譲渡すること;他の2出願については出願取下すること;今後、ガボールのコピー製品を一切製造・販売しないこと;ガボラトリー・インクが「GABOR」もしくは 「GABORATORY」の語句を含む標章を登録出願することについて異議申立をしないこと;ガボール・ナギーのデザインに係る宝飾品及びアクセサリーの製造に使用される金型をガボラトリー・インク代理人に引渡すこと;その他が約定された(甲第14号証)。商標(1)「GABOR」の譲受人をパスカル・ザザにするかマリア・ナギーにするか会社名にするかが決まらず、登録商標(1)「GABOR」の譲渡先はエスクロー(弁護士預かり)となった。ところが、上記3件の商標が本年4月に被請求人の名義に変更されたこと(乙第5号証、乙第6号証、乙第7号証)で、ガボラトリー・インターナショナル・インクは請求人との和解契約締結時点で既に被請求人と上記商標3件の条件付譲渡契約(乙第4号証)を秘密裡に締結していたということが明らかになった。ガボラトリー・インターナショナル・インクは二重に譲渡契約を締結したことになる。米国の商標登録に関しての不正行為についてはいずれ、公正な審判が下されるものと考える。現在の米国での商標登録状況がどうであるかに拘わらず、一連の「GABOR」関連商標の正当な権利者は、ガボール・ナギーの唯一の相続人であるマリア・ナギー、もしくは、同商標を、最初に使い始め、現在まで継続的に使用している、ガボール・ナギーが創設したガボラトリー・インクであることに変わりはない。要は、上記和解契約により、ガボラトリー・インターナショナル・インクが本件商標、引用商標1等ガボール・ナギー関連商標の権利承継者ではないということが明確になり、したがって、かかる商標権の無権利者から商標登録の移転や、登録商標に基づく使用許諾を受けても、真の権利者となることはあり得ないのであるから、被請求人の主張は成り立たないこと明らかである。
(6)本件審判事件の原点に戻れば、被請求人が自ら認めているように、本件商標は請求人の登録商標の一部であるGロゴマークをそのまま出願したものである。本件商標は誰の目にも明らかに、ガボール・ナギーが独特にデフォルメしたGロゴマークと同一であり、引用商標に類似するものである。
また、ガボール・ナギーと全く関係の無い第三者が、ガボール・ナギーがデザインしたシルバーアクセサリーが日本で著名であり、人気があることにフリーライドする目的で、本件商標を出願したものであり、商標法第4条第1項第10号に該当し、本件商標の登録は無効である。なお、(2)で述べたように請求人及びマリア・ナギーは請求人の引用商標1の一部である「王冠付きGロゴマーク」に基づき被請求人の日本における本件商標の使用、及びマリア・ナギー所有の登録第4962301号商標「GABOR」に基づき商標「GABOR」の使用に関して、被請求人の日本総販売元である株式会社トムスジャパンを相手に東京地方裁判所に商標権侵害差止等請求事件を提訴し、現在、同事件は審理中である。

第4 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第7号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号について
引用商標1は、広島県広島市安佐南区川内2丁目27番地10号所在の有限会社ワキサカが平成9年8月4日に出願し、平成11年3月5日に登録されたもので、ガボラトリー・インクの経営者の一人であるガボール・ナギー(1999年1月16日死亡)の死亡後2ヶ月後に登録されたものであり、上部に王冠を戴き、中央に小さく変形のGロゴマークを設け、その下緑から唐草模様で囲み、更にその外縁にチュートン文字のアルファベットで、「GABORATORY」と書した図形商標である。
日本における最初の出願人及び商標権者は、広島県広島市安佐南区川内2丁目27番地10号所在の有限会社ワキサカであり(甲第2号証の2)、ガボラトリー・インクは、平成14年4月25日同社より使用許諾を受けて専用使用権を設定し、翌平成15年3月4日譲渡を受け初めて商標権者となったものである。
また、引用商標2は、BIG BOOK OF GRAPHIC DESIGNS AND DEVICES Typony Inc.社発行の、「著作権の無いグラフィックディザインの貴重な宝物」として収容する21の基本主題部門に1200以上の鮮明に描かれたイラストレーション(乙第2号証及び第2号証の1)頁の右上の盾の上部の同形状に現れる「王冠」を上部に戴き、下部に大さく変形のGロゴマークを描いた図形商標であり、平成13年8月8日に出願され、平成14年7月5日に登録されたものである。
本件商標は、平成17年2月24日に出願され、平成17年7月1日に登録されたものである。
本件商標は、Gothic and Old English Alphabets(1984年出版、Dover publication社) (乙第1号証及び第1号証の1)の「Teutonic Text(チュートン文字)の『G』を下敷きにして、細い曲線を廃し、太い線でデフォルメして創作した独自の商標」であり上部に王冠を有さない商標でその形状は全く異なる。本件商標は、以上のように引用商標1及び2とは明らかに形状が相違するものである。
したがって、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標ではないので、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものではない。
2 商標法第4条第1項第11号について
商標法第4条第1項第11号の規定は、他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品又はこれに類似する商品について使用するものであり、特許庁発行の商標の審査基準に依れば、商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならないとされ、本件商標は、Gothic and Old English Alphabetsの「Teutonic Text(チュートン文字)の『G』を下敷きにして、細い曲線を廃し、太い線でデフォルメして創作した独自の商標」であり、王冠を有さないので、引用商標1及び2とは全く異なる独自の形状であり、外観が相違し、特別な称呼及び観念が生じないので、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。
3 引用商標1及び引用商標2は、もともと、ガボール・ナギーがシルバーアクセサリー鋳造技術を出資し、筆頭株主パスカル・ザザが資金を出資して、共同で設立した米国法人ガボラトリー・インク(請求人)からシルバーアクササリー事業を継承したガボラトリー・インターナショナル・インクが日本において広く知らしめた商標を、マリア・ナギーが故ガボールの妻であったというだけの理由で正当な相続人と認定され、商標権を取得したものである。
ガボール・ナギーと筆頭株主パスカル・ザザが設立したアメリカ合衆国法人ガボラトリー・インク(請求人)は、ガボール・ナギーの死後、妻のマリア・ナギーが代わって役員として会社の運営に参加した。
マリア・ナギーは販売利益を会社を通さずに私し、また販売担当重役ピーター・ストハノフも商品を横流しして私服を肥やし、両者は会社の経理内容を筆頭株主たるパスカル・ザザに知らせず会社に損害を与えたとして、パスカル・ザザは、マリア・ナギー及びピーター・ストハノフを背任横領と詐欺の容疑で告発した。(乙第3号証及び第3号証の1)
ガボラトリー・インターナショナル・インクの創立者、スティーブガーラックは、ガボラトリー・インクでガボール・ナギーのパートナーとして働いていた人物で、ガボール・ナギーから「GABOR」「王冠とGの図形とGABORATORY」「王冠とGの図形とGABORATORYとINTERNATIONAL」の商標を受け継ぎ、アメリカ合衆国特許庁に商標登録出願して商標権を取得し、マリア・ナギーの異議申立にも拘わらず権利者として確定したものである。
ガボール・インク・ユーエスエーの筆頭株主である被請求人は、ガボラトリー・インターナショナル・インクから、日本及びアジア全域に亘る 「GABOR」「王冠とGの図形とGABORATORY」「王冠とGの図形とGABORATORYとINTERNATIONAL」商標の使用、商品の製造・販売の独占権を契約により取得した。(乙第4号証及び第4号証の1)
その後、ガボラトリー・インクとガボラトリー・インターナショナル・インクは商標権の帰属について争い、ガボラトリー・インターナショナル・インクの一部役員・株主との訴訟上の和解が成立し、和解契約書には空白の商標権の譲渡証が添付されてエスクローに預託された。
和解契約書には、ガボラトリー・インターナショナル・インクのアメリカの商標権「GABOR」 「王冠とGの図形とGABORATORY」「王冠とGの図形とGABORATORYとINTERNATIONAL」は、前記パスカル・ザザが告発したマリア・ナギーとピーター・ストハノフの背任横領と詐欺の容疑の判決の結果によって、空白の商標権の譲渡証の譲受人名義欄をパスカル・ザザにするかマリア・ナギーにするか他の会社名にするとの条項があった。
日本及びアジア全域に亘る商標の使用、製造販売の独占権を取得した被請求人は、積極的に日本国内に「GABOR」「王冠とGの図形とGABORATORY」「王冠とGの図形とGABORATORYとINTERNATIONAL」の商標を付したガボール・インク・ユーエスエー社製造のシルバーアクセサリーの商品を積極的に展開して広く周知させた。
被請求人は、アメリカ合衆国ネバダ州89703カーソンシティスイート3、ジーンネル デイー アール.,251所在、ガボラトリー・インターナショナル・インク所有であった下記(1)ないし(3)の商標の譲渡を受け(2006年1月10日アメリカ合衆国特許庁登録済乙第5号証ないし第7号証)アメリカ合衆国では名実共に商標権者となった。
(1)商標「GABOR」
2001年6月13日出願、2003年3月11日登録、アメリカ合衆国商標登録第2,695,716号、指定商品 第14類(U.S.国内分類2,27,28及び50)銀、ゴシックスタイルの宝飾類、即ちブレスレット、チェーン、チョーカース及びリング(乙第5号証及び第5号証の1)
(2)「GABORATORY」
2001年5月29日出願、2006年1月10日登録、アメリカ合衆国商標登録第3,039,819号、指定商品第14類(U.S.国内分類2,27,28及び50)銀、ゴシックスタイルの宝飾類、即ちブレスレット、チェーン、チョーカース及びリング(乙第6号証及び第6号証の1)
(3)「GABORATORY INTERNATIONAL」
2001年7月30日出願、2006年1月10日登録、アメリカ合衆国商標登録第3,039,823号、指定商品 第14類(U.S.国内分類2,27,28及び50)銀、ゴシックスタイルの宝飾類、即ちブレスレット、チェーン、チョーカース及びリング(乙第7号証及び第7号証の1)
現在マリア・ナギーは、単にガボールナギーの妻としての相続人であり、アメリカにおいても、日本においても、「GABOR」関連商標のシルバーアクセサリー事業の相続人ではない。
商標法第4条第1項第10号において、所謂商標を周知させた者とは「継続的使用により獲得出来るものであるが、その間の使用者は必ずしも同一のものでなくとも、当該商品又は役務に係る業務の承継があった場合には承継した者が本号の他人に該当し、周知の獲得は当業者の承継者にも認められている」と解されている。
被請求人は、日本において商標「GABOR」関連商標を周知せしめたもので、アメリカにおける商標「GABOR」関連の商標権者であり、「GABOR」関連の商標事業の真の承継人である。
したがって、被請求人は、商標の不登録事由を定める商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであるとして、マリア・ナギーの商標登録第4962301号商標「GABOR」に対して同時に登録無効の審判(2007年審判第890062号)を請求するものである。

第5 当審の判断
1 引用商標の周知性について
(1)請求人提出の証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 雑誌「Popeye(ポパイ)(1997年4月10日発行)」(甲第6号証の1)には、引用商標2を付した商品(スカルリング)が掲載され、同頁にガボール・ナギーの写真と、同人について「ハンガリー・ブタペスト出身。18年前にアメリカに渡って、キャリアを積んだ後に、88年にスタジオ設立。以来シルバーアクセサリーの大御所として不動の地位を誇っている。」とする紹介が掲載され、また、「いくらコピーが増殖しても 本物を超えるコトは不可能だ。ガボールさん ジュエリー・デザイナー」として、「数限りないコピーや模造品に悩まされるのは、カリスマにとって避けられない道。中でも〈ガボール〉ほど、ヒステリックにコピーされるジュエリーもないだろう。」との記述がある。
イ 雑誌「シルバーアクセサリーバイブル(1999年1月1日発行)」(甲第6号証の2)には、引用商標2が刻印されたブレスレットが掲載され、「GABOR ガボール」の表題のもと、「高貴な無骨シルバー」として「・・・。ガボールのシルバーを付けているとアメリカでは一目も二目も置かれる。なぜなら、いくら金があってもコネクションがなければガボールの作品は買えないからだ。」とあり、その最終の2行に「ここに掲載しているガボールの商品は、・・・全て参考商品です。(made by Gaboratory inc.California U.S.A.)」との記載がある。また、引用商標が刻印されたリングが掲載され、これらの商標をいずれも「アトリエマーク」と称している。
ウ 雑誌「シルバーアクセサリー」(甲第6号証の3)には、「最強の人気ブランド」「2001年最終スクープ13連発!」とあり、その1として「GABOR」が採り上げられ、「故ガボールの妻、そして現ガボールオーナーのマリア・ナギーが来日した。・・」とする記事及び同女史の写真とともに、引用商標2を刻したスカルリングやキーホルダーの写真が掲載されている。
エ 雑誌「Men’s Brand(2002 JAN)」(甲第6号証の4)には、引用商標を刻した種々の形状のリングが掲載され、引用商標2を刻したリングの下に「クラウンと『G』マークが描かれる人気アイテム。」「クラウン&『G』の両サイドに・・。」と記されている。また、「再び動き出したシルバー界の巨人ガボールの魂は永遠に死なない。」との表題の記事中には、「・・突然の訃報。その後、様々な憶測が飛び交ったが、ガボールは婦人のマリアさんが存続させていくという。日本でも新生ガボラトリーが東京・恵比寿にオープン。・・・。」との記述がある。
オ 雑誌「ゲットオン!シルバー7」(甲第6号証の5)は、発行日が不明ではあるが、引用商標2を刻したスカルリングが掲載され、「リングの部分にはクラウンとGの文字からなる、ガボールのロゴがはいり・・・」と記されている。そして、65頁に、ガボールの製品を掲載し、「世界的なブランドに成長したガボールだが、ガボール永眠後の今日でも、妻マリアが信頼する一流に限られたスタッフが丁寧なハンドメイド仕上げにこだわって、シルバー界の首領であり続けている。彼女が信頼するガボラトリーのスタッフが制作する新作は、ガボールが遺した数千枚に及ぶデッサンを基に考案される『遺産』でもある。」との記載がある。
(2)以上を総合すれば、本件商標の出願時の相当以前から、ガボール・ナギーはアクセサリーデザイナーのカリスマ的存在であり、同人に係るシルバーアクセサリーは米国をはじめ我が国においても多大の人気を博していたと認められる。そして、引用商標は、ガボール・ナギー亡き後においても、上記アクセサリー等に使用され、本件商標の登録時はもとよりその出願時において既に、我が国のシルバーアクセサリーをはじめとする身飾品の取引者や需要者の間で、ガボール・ナギーに由来する身飾品(シルバーアクセサリー)の商標として、広く認識されるに至っていたものと認められる。
2 商標の類否について
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察して、判断するのが相当と解される(最高裁判所・昭和39年(行ツ)第110号・昭和43年2月27日第3小法廷判決・参照)。
そこで、本件商標と引用商標2との類否について検討するに、 本件商標は、別掲(1)のとおり、Gを図案化したと思しき図形からなり、特定の称呼及び観念を生じさせないものである。これに対して、引用商標2は、別掲(3)のとおり、王冠を図案化したと思しき図形と、その下に、「G」を図案化したと思しき図形を配した構成からなるものであり、特定の称呼及び観念を生じさせない図形からなるものである。
しかして、本件商標を構成する図形は、引用商標2を構成する図形のうち、王冠を図案化したと思しき図形を除いた残余の図形部分(以下「G図形」という。)と、その構成において同一のものと認められる。
なお、被請求人は、乙第1号証を提出して、本件商標の図形が、チュートン文字の「G」を下敷きにし細い曲線を廃して太い線でデフォルメして独自に創作したものであるという。しかし、当該チュートン文字の「G」の細線を廃しても「G図形」と同じ形状のものとはならないうえ、それをデフォルメした結果、引用商標2の「G図形」と寸分と違わぬものが偶然に創作されたとするのは、いかにも不自然といわざるを得ないから、被請求人の主張は採用し難いものである。
そして、前記1のとおり、引用商標2は、シルバーアクセリー等の身飾品について、本件商標の出願時には既に需要者の間で広く認識されるに至っていた商標ということができるうえ、その構成において、王冠を図案化したと思しき図形部分とG図形部分とは、その態様からみて不離に融合したとまではいえず、視覚上分離して看取し得るものであり、前記1においても、例えば「クラウンと『G』マーク」と紹介されているように、需要者が、そのうちの、ガボール・ナギー(Gabor Nagy)のイニシャル「G」に由来し、独特の構成態様を有するG図形に強く印象を留め、記憶し、取引に資する場合も決して少なくないとみるのが相当というべきである。
そうすると、本件商標と引用商標2とは、外観において、その構成全体としては相違するとしても、その共通するG図形において相似た印象をもって看取されることもあるというべきものであり、G図形の外観によって取引者に与える印象・記憶・連想等を総合勘案すれば、時と所を異にする取引の実際において、シルバーアクセリー等の身飾品を含む引用商標2の指定商品と同一又は類似の商品に、本件商標を使用するときには、引用商標2を使用した同商品との間において、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれが優にあると判断するのが相当である。
そして、本件商標の指定商品は、引用商標2の指定商品と同一又は類似の商品と認められるものである。
したがって、本件商標は、引用商標2に類似する商標であり、引用商標2の指定商品と同一又は類似する商品に使用をするものであるから、本件商標と引用商標1との類否について言及するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
3 被請求人の主張について
被請求人は、同人が日本において「GABOR」関連の商標を周知せしめたものであり、「GABOR」関連の商標事業の真の承継人である旨主張する。
「GABOR」関連の商標とは、「GABOR」の文字のみからなる商標、引用商標1と同じ構成からなる商標、及び引用商標1の下に「INTERNATIONAL」の文字を書してなる商標であり、米国において登録あるいは出願されたものを指すと解される。
そして、証拠によれば、2003年8月24日に、被請求人とガボラトリー・インターナショナル・インクとの間で、「GABOR」関連の商標について、被請求人に日本を含むアジアにおける商標の使用、商品の製造・販売の独占権を与える契約が締結されたことが認められる(乙第4号証)。
また、米国において、請求人とガボラトリー・インターナショナル・インク外1名との間で、「GABOR」関連の商標及びガボール・ナギーに係るシルバーアクセサリー事業に関して、遅くとも2004年8月19日に和解合意がされたと認め得ること、その合意の内容として、「GABOR」の文字からなる商標については請求人側に譲渡することとし、請求人代理人は、裁判所の命令やパスカル・ザザ及びマリア・ナギーの合意書による指示・許可があるまで、その譲渡証書を預託物とすること、他の2つの商標については出願取下すること、今後、被請求人は請求人商品と同じか酷似した宝飾品及びアクセサリー類を一切製造・販売しないこと、ガボール・ナギーのデザインに係る宝飾品及びアクセサリーの製造に使用される金型すべてを請求人の代理人に引渡すこと等が約定されたと認められる(甲第14号証)。
さらに、前記和解合意にも拘わらず、その後、ガボラトリー・インターナショナル・インクが被請求人に対し「GABOR」関連の商標について権利の譲渡をしたこと(乙第5号証ないし同第7号証)が認められるところである。
しかし、引用商標2が、本件商標の出願よりも前の時期に既に我が国において広く認識されるに至っていたことについては、前記1の認定のとおりであり、「GABOR」関連の商標を周知の商標とすることに被請求人が係わり我が国において周知に至らしめるのに寄与した旨の主張、及び被請求人がガボール・ナギーに係るシルバーアクセサリー事業を真に承継する者であるとの主張を首肯し得るに足りる的確な証拠はない。また、本件商標が、その登録時に、前記シルバーアクセサリー事業に関して、我が国において引用商標2とは別異の出所を表示するものとして認識される商標であったとすべき証拠もない。
したがって、米国における「GABOR」関連の商標の登録や権利帰属等が如何様であれ、被請求人の当該主張によって、前記2の認定及び判断が左右されることはないというべきである。

第4 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、同第10号の規定に言及するまでもなく、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲

(1)本件商標




(2)引用商標1




(3)引用商標2





審理終結日 2007-10-16 
結審通知日 2007-10-22 
審決日 2007-11-05 
出願番号 商願2005-16049(T2005-16049) 
審決分類 T 1 11・ 261- Z (Y14)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田口 玲子 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 杉山 和江
鈴木 修
登録日 2005-07-01 
登録番号 商標登録第4877069号(T4877069) 
代理人 中川 康生 
代理人 若林 拡 

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