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審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Y41
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y41
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Y41
管理番号 1214507 
審判番号 無効2009-890023 
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-03-06 
確定日 2009-11-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第4756427号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4756427号商標(以下「本件商標」という。)は、「新極真会」の漢字を標準文字で表してなり、平成14年1月16日に登録出願、第41類「当せん金付証票の発売,技芸・スポーツ又は知識の教授,献体に関する情報の提供,献体の手配,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,ゴルフの興行の企画・運営又は開催,相撲の興行の企画・運営又は開催,ボクシングの興行の企画・運営又は開催,野球の興行の企画・運営又は開催,サッカーの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,音声周波機械器具・映像周波機械器具の貸与,図書の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画の貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,カメラの貸与,光学機械器具の貸与,絵画の貸与,美術用モデルの提供」を指定役務として、同15年12月1日に登録査定、同16年3月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張(要旨)
1 請求の趣旨
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第27号証(枝番を含む。但し、甲第7号証は欠番)を提出した。

2 請求の理由
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号に該当するから、商標法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。

(2)「極真関連標章」の著名性
確定した無効2004-35027審決(甲第3号証)では、筆文字で表された「極真会」の文字を縦書きにしてなる商標、「極真会」の文字からなる商標、「KYOKUSHIN」の文字からなる商標、「極真会館」の文字からなる商標、「極真空手/KYOKUSHIN KARATE」の文字からなる商標を「極真関連標章」としたうえで、「…大山倍達死亡後の一連の経緯及び事実を総合してみれば、極真関連標章は、遅くとも大山倍達が死亡した平成6年4月の時点では、少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では、『極真会館』、『極真空手』を表す標章として広く認識されるに至っていたことが認められる。」と判示した。
また、無効2004-35028審決(甲第4号証)、無効2004-35029審決(証拠略)、無効2004-35030審決(証拠略)、無効2004-35031審決(証拠略)、無効2004-35032審決(証拠略)にても同一の判断が示され、これらの審決は、審決取消訴訟・上告審を経ていずれも確定した。

(3)「極真関連標章」の帰属について
ア 極真関連標章の生成
大阪地裁平成14年(ワ)第1018号判決(商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件)(甲第5号証)及び東京地裁平成14年(ワ)第16786号(商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件)(甲第6号証)、「極真への道 私の空手哲学」大山倍達著(1976年10月20 (株)日貿出版社)(甲第14号証)及び「大山倍達 わが空手修行」大山倍達著(1975年3月10日徳間書店)(甲第8号証)によれば、大山倍達が空手の修行の結果、「真を極める」ことを念願して、「極真空手」を創設し一門に「極真会」との名前を付けたものであり、「極真会(縦筆書)」、「極真会」、「極真会館」、「極真空手/KYOKUSHIN KARATE」、「KYOKUSHIN」等の「極真関連標章」の識別の要部である「極真」は、大山倍達が作り出した造語であり、極真関連標章はすべて大山倍達が生成したものである。
イ 極真関連標章の使用状況
「巨人大山倍達の肖像」(1984年11月20日(株)コア出版)(甲第9号証)、「KYOKUSHIN KARATE 世界を征く」(昭和50年11月8日(株)講談社(甲第10号証)、「パワー空手1994年1月号」(甲第11号証)、「極真カラテ 21世紀への道 出てこい、サムライ」(甲第12号証)、「わがカラテ日々研鑛」大山倍達著(株)講談社(甲第13号証)、「極真への道-私の空手哲学-」大山倍達著(株)日貿出版社(甲第14号証)及び東京地裁平成14年(ワ)第16786号(商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件)(甲第6号証)によれば、極真関連標章の使用実態は、大山倍達個人が自らの空手に名付けた「極真」を、自らが権利者として使用しているものであることを示すものであり、「極真関連標章」は大山倍達個人の空手であるとの出所を表示するものである。

(4)商標法第4条第1項第8号該当性
前述のとおり、極真関連標章は、大山倍達個人に帰属するものであり、大山倍達存命中は大山倍達に帰属し、平成6年4月26日相続発生後は、極真関連標章に関する権利義務の一切の法的地位は、相続人に包括承継されたものである(民法882条)。
一方、特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会は、大山倍達没後6年余を経た平成12年10月10日、当初の名称「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」として設立された法人であり、その後、平成15年10月14日「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」と名称変更されたものである(甲第20号証)。
被請求人は、名称をはじめ事業目的においても「極真」を名乗っているものの、大山倍達没後に設立された法人であり、大山倍達個人あるいはその包括承継人となんらの関係のない他人の関係にある。
本件商標は、「新極真会」からなり、極真関連標章の識別の要部であり、かつ、略称である「極真」を含む商標であり、その帰属主体である大山倍達個人あるいはその包括承継人の承諾を得ていない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。

(5)商標法第4条第1項第10号該当性
本件商標は、標準文字で構成された「新極真会」からなるところ、「新」は「新しいこと」示す接頭辞であるから(甲第15号証「講談社カラー版日本語大辞典」、甲第16号証「大辞林」)、その要部は「極真会」あるいは「極真」にある。
一方、極真関連標章の自他商品・役務の識別標識として機能を有する部分は、「極真会」あるいは「極真」である。
してみれば、本件商標と極真関連標章とは、「極真会」あるいは「極真」の要部を共通にする類似の商標である。
そして、極真関連標章は、大山倍達が空手の教授にかかる役務等に使用したものであることは顕著な事実であり、本件商標は、「技芸・スポーツ又は知識の教授」等を指定役務とするものであるから、互いの役務は類似する。
したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。

(6)商標法第4条第1項第15号該当性
大山倍達の弟子である者が創設した空手の団体においては、極真関連商標を営業目的に冒用してないところがあるところ(甲第17号証「大道塾のウェブページ」、甲第18号証「士道館のウェブページ」)、被請求人は、「大山倍達総裁」の氏名を冒用し、大山倍達の著作である「極真」の由来の記述を冒用したうえで、「大山倍達総裁の意思を受け継ぎ」、「極真空手の誇りと精神を継承し」などと表示して、空手の教授という営業活動を行うものであり(甲第19号証「被請求人のウェブページ」)、本件商標は、取引者・需要者をして、大山倍達が創設した極真空手の業務に係る役務であると認識され、あるいは、大山倍達の権利義務を承継した宗家及びその承継人の業務に係る役務と誤認・混同を来す商標であることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

(7)結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号に該当するものであり、商標法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。

3 答弁に対する弁駁(要旨)
(1)被請求人は、「…極真関連標章は、大山倍達以下極真会館の構成員によって極真会館及び極真空手を表示するものとして使用されてきたものであり、需要者等は、大山倍達個人を示す商標であるというよりはむしろ大山倍達の主催する極真会館及び極真空手を表示するものとして認識されていたものである。」旨主張するが誤りである。
商標が周知・著名となり、顧客吸引力を持つに至る過程においては、商標の権利者、ライセンシー、商標権者の下で働く従業員、ライセンシーの従業員、広告関係者など商標権者を取り巻く多数の者の努力によって、はじめて達成できるものである。商標が周知・著名になる過程における関係者の努力と、その商標の権利の帰属は全く関係がない。商標権者以外の者がいかに大変な努力をし、その結果、商標の周知性が高まっても、それによって、商標権が共有になったり、あるいは、商標権を総有することなどあり得ない。

(2)大山倍達存命中の極真関連標章に関連する事実関係は、以下のとおりである。
ア 平成15年4月15日付松井章圭作成の「陳述書」
この陳述書は、大阪地裁平成14年(ワ)第1018号(商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件)において、証拠として提出された陳述書である。松井陳述書は、大山倍達存命中の極真関連標章の使用の実態を明らかにするものである。すなわち、大山倍達は、全国をいくつかの支部に分け、支部長という地位を創設し、各支部長に認められた支部のテリトリー内で極真空手の道場を開くことを許諾したものである。
また、大山倍達は、支部長としての義務(本部への認可料、支部会費、昇段者登録料等の納入義務や支部長会議への出席義務)が履行されることが極真関連標章の使用の条件であり、このような義務を果たさない者に極真の名前を使って道場を開くことが認められるはずがなかったものである。
以上のとおり、大山倍達自身が、支部長という地位とともに、極真空手の道場を開くことを許諾し、「極真」の名称、極真関連標章の使用を許諾したものである。
イ 平成15年4月17日付松井章圭の「本人調書」
この本人調書は,大阪地裁平成14年(ワ)第1018号(商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件)における当事者本人尋問調書である。
この本人調書は、大山倍達存命中の極真関連標章の使用の実態を明らかにするものである。
すなわち、大山倍達存命中に、「極真会」あるいは「極真会館」を離脱した者については、大山倍達は「極真」の名称の使用を許諾しなかったものであり、「極真会」あるいは「極真会館」を離脱した者は全く独自の名称を使用せざるをえなかったものである。
以上、述べたとおり、全ての「極真」関連商標の使用は、大山倍達の許諾に由来するものであり、大山倍達が極真関連標章の使用の許諾の権限を有していたものであるから、極真関連標章は、遅くとも大山倍達が死亡した平成6年4月の時点では、少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では、大山倍達個人の空手の出所を表示する標章として広く認識されるに至っていたものである。

(3)被請求人は、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号に規定する「他人」には該当しない旨主張するが全く根拠がない。
被請求人は、大山倍達没後6年余を経た平成12年10月10日、当初の名称「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」として設立された法人であり、その後、平成15年10月14日「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」と名称変更された法人である(甲第20号証)。「大山倍達存命中の極真会館に所属していた支部長ら構成員全体に共有的ないし総有的に帰属し、支部長ら構成員は、その利益を享受し得る」との判断(請求人は首肯するものではないが)を前提にしても、被請求人は、大山倍達没後に設立された法人であり、「大山倍達存命中の極真会館に所属していた極真会館に所属していた支部長らの構成員」には該当せず、他人であることは明らかである。
大山倍達の主催する極真会館は、法人格がないだけではなく、大山倍達の独断で運営していたものであり、権利能力なき社団としての実態もない。すなわち、大山倍達そのものと同視できるものである。この点、東京地裁平成14年(ワ)第16786号判決(甲第6号証)において、「極真会館が設立されると、次第にその規模が拡大し、それに応じて、組織やその運営に関する基本的な定めが、「道則」、「支部規約」及び「極真会館国内支部規約」等の形で定立されたが、同規定中には、館長ないし総裁たる地位の決定や承継等に関する規定はなく、また、実際の組織運営は、必ずしも同規定どおりに行われていたわけではなく、具体的な場面においては、大山倍達の個人的な判断にゆだねられており、その裁量は広範であった。」(甲第6号証17頁12行目)と事実認定されているように、極真会館設立後においても、大山倍達個人の広範な裁量によって、極真会館は運営されており、極真関連標章も等しく、大山倍達個人に全ての権利が帰属していたものである。
すなわち、極真関連標章は、大山倍達個人に帰属するものであり、大山倍達存命中は大山倍達に帰属し、平成6年4月26日相続発生後は、極真関連標章に関する権利義務の一切の法的地位は、相続人に包括承継されたものであり(民法882条)、現在、全ての権利義務は、本件審判請求人である大山喜久子に相続されている(甲第24号証ないし甲第27号証)。
被請求人は、被請求人の新名称及び商標権の取得に関して、松井章圭の商標権に対する複数の無効審判や差止請求権不存在確認訴訟において、平成15年に最終的な和解の合意が成立し、その中で定められたものである旨主張している。
しかし、被請求人は、極真関連標章に関する抜本的解決のために、上記訴訟において、請求人の参加を求めることができたのに、かかる手続を履践することもなかった。かかる和解は、極真関連標章を正当に継承した請求人が参加しない、被請求人と松井章圭との間の馴れ合い的解決に過ぎない。かかる和解が被請求人の商標登録の根拠となったり、あるいは、商標無効事由を治癒させるものではない。
本件商標の権利主体は、大山倍達没後に「極真関連標章」を冒用して創設された団体であり、大山倍達あるいはその極真会館とは全く別個の無縁・無関係の団体であって、極真関連標章を使用できる正当性を見出すことはできない。
すなわち、被請求人は、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号に規定する「他人」であることは明らかである。

第3 被請求人の答弁
1 答弁の趣旨
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。

2 答弁の理由
(1)「他人」に該当しないこと
請求人は、極真関連標章は大山倍達個人の空手であるとの出所を表示するものであって大山倍達個人に全ての権利が帰属し、その後、相続人に包括承継されたと主張しているが、かかる主張は失当である。
以下詳述するように、被請求人は、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号に規定する「他人」には該当しないため、本件商標は無効理由を有するものではない。
ア 極真関連標章の表示する出所について
極真関連標章については、請求人が提出した審決において大山倍達存命中の「極真会館」または「極真空手」を表す標章であると認定されており(甲第3号証、甲第4号証)、その他の審決においても同様の判断がなされていることは請求人自らも認めている。また、請求人が提出した甲第5号証、甲第6号証の判決においても、極真関連標章には、「極真会館」または「極真空手」を表す標章であると認定されている。
極真会館の支部長等は、許可の下に極真会館の活動趣旨に沿う限りにおいて、極真関連標章を使用することができたものである。極真関連標章が広く認識されるに至ったのは、創始者である大山倍達の努力を抜きには考えられないが、極真会館という団体が極真空手の教授や大会の開催等の活動をした結果であり、極真会館の各構成員の努力を無視することはできないものであった。すなわち、極真関連標章は、大山倍達以下極真会館の構成員によって極真会館及び極真空手を表示するものとして使用されてきたものである。したがって、需要者等は、大山倍達個人を示す商標であるというよりはむしろ、大山倍達の主催する極真会館及び極真空手を表示するものとして認識していたものである。
なお、請求人は、大山倍達が自らの著書に「極真」の語を使用している例を挙げて、大山倍達個人が「極真」の語を商標として使用している旨主張しているが、その記載のみをもって、「極真」を識別標識たる商標として商品・役務に使用したとは言えない。
イ 極真関連標章の帰属主体について
大山倍達の死後、極真会館は内部の分裂や離脱等が起こり、現在では分裂した複数の団体が極真関連標章を使用しており、「極真」または「極真」を一部に含む標章を用いて空手の教授等を行っているのが現状である。それらは、大山倍達存命中は極真会館に属し、大山倍達の教えを受け、極真関連標章を使用する地位にあったものである。大山倍達の死後は組織の形式は異なるがそれまで行っていた空手の教授等を継続する形で従来より極真会館という団体の行っていた業務を継続して行っているものであるから、実質的には同一主体の商標等を継続的に使用するものであり、むしろ、それまで商標に化体した信用等を維持するものであると考えられる。それらの大山倍達の死後における商標の使用は大山倍達の存命中と同様に保護されるべきである。
極真空手の教授等の極真会館が行っていた業務に極真関連標章を使用する権限は、極真会館の構成員に帰属しているものと考えられる。上述の審決においても極真関連標章は、極真会館に所属する支部長ら構成員全体に共有的ないし総有的に帰属していると判断されている。需要者においても、分裂した後も複数の団体により分裂前の極真会館において行われていた業務が継続的に行われているという実態は概ね把握されていると考えられ、極真関連標章が大山倍達の遺族のみに帰属し、遺族の出所を示すものであるとは認識されていない。
ウ 請求人による事業の承継について
請求人は、極真関連標章に係る権利は大山倍達から包括承継された旨主張している。
しかしながら、大山倍達の死後、大山倍達存命中の極真会館により行われていた空手の教授等の事業は、分裂した複数の団体がそれぞれ独自に行っているのが実情であり、大山倍達の遺族は、極真会館及び極真会館が行っていた事業を承継して遂行してはいない。大山倍達の遺族が極真会館を実質的に承継しているのであれば、請求人において容易に立証可能であるにもかかわらず、本件審判請求においても何等の立証もなされていない。
エ 被請求人の活動について
被請求人は、大山倍達存命中の極真会館に所属していた構成員の多くの者が参加して、極真会館を真に承継するものとして新たに設立した団体であって、大山倍達の死後、極真会館内部が分裂した後においても、「国際空手道連盟極真会館」として極真空手の教授等の活動を継続して行っていた。その後、同じく極真会館の構成員であって別団体を主催していた松井章圭との和解により、名称を「新極真会」と変更したが、名称変更後においても名称変更前と同様に、分裂前の極真会館が行っていた業務である極真空手の普及に努め、極真空手の教授や大会の開催等、商標「新極真会」の商標権者として盛んに活動を行っている。分裂前の極真会館の活動は、分裂後も実質的には複数の団体によって継続されており、それぞれの団体は、極真関連標章を使用できる地位にあるものと考えられ、被請求人が「新極真会」と名称変更しても、「新極真会」の商標が使用できるだけではなく、「極真会」または「極真」を含む極真関連標章を使用することができる地位にあるものである。
オ 松井章圭との和解について
被請求人の新名称及び商標権の取得に関しては、松井章圭の商標権に対する複数の無効審判や差止請求権不存在確認訴訟において、長期の審理を経て、平成15年に最終的な和解の合意が成立し、その中で定められたものである。和解の内容は、乙第4号証の和解調書に示すとおりである。
和解は、真に極真空手の普及拡大を目指す上で紛争の長期化と相互の疲弊を回避し、被請求人ないしその構成員が妨害されることなく安心して極真を含む商標を使用することができるようにするため私欲を排し裁判官諸氏の賢明な判断と相手方当事者への説得により最終判断として成立したものである。和解では、登録商標「極真会」と被請求人の商標「新極真会」が類似することを前提とした上で、被請求人が商標権を取得する方法について明記されており、極真関連標章と被請求人の商標「新極真会」が併存して登録されることが前提となっている。商標法の趣旨に照らし、他人の権利や需要者の利益を不当に害することになるものであったならば、裁判上の和解でわざわざ類似と判断される「新極真会」の採用が認められることはなかったものと考えられる。極真関連標章との関係で、被請求人が「他人」であるとして、将来無効とされるような商標であれば、敢えて「新極真会」に変更する内容の和解を裁判所が提案するようなことは考えられない。被請求人と極真関連標章が表示する出所である極真会館とは他人と解することができないからこそ、「極真会」と形式的に類似し、登録するにあたって複雑な手続きを経る必要がある本件商標の採用が認められたものである。
カ 小括
以上のように、大山倍達氏存命中の極真会館が行っていた業務については、極真会館から分裂した複数の団体が実質的に業務を遂行しているという特殊事情があり、被請求人は、極真会館とは形式的には全く同一の団体とは評価されないとしても、極真会館において使用されていた極真関連標章を使用する地位にあったものであることが充分に理解できるものと考えられる。被請求人の団体は、分裂前の極真会館の構成員の多くの者が参加し、極真会館と同様の活動をしており、被請求人と分裂前の極真会館とは密接な関係性を有するものであって、被請求人は極真関連標章が表示する極真会館との関係においてはむしろ主体を構成する者であったと評価できるため、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号に規定する「他人」であると判断することはできないものである。

(2)商標法第4条第1項第8号について
被請求人は、極真関連標章との関係において「他人」というべきでないことは上記したとおりであるが、本号に関する請求人のその他の主張についても以下の通り否定する。
請求人は、本件商標を極真関連標章の略称である「極真」を含む商標であって承諾を得ていないから本号の規定に該当する旨主張しており、また、「極真関連標章」は大山倍達個人の空手であるとの出所を表示するものである」と主張している。
しかし、商標法第4条第1項第8号の趣旨は、人格的な利益を保護することであると解されているところ、請求人の主張する「空手の出所」を表示する標章は、人格権が認められる個人や法人そのものを指し示すものでないことから、人格的な利益を有するものでないことは明らかであって、「肖像、氏名、名称、雅号、芸名、筆名」のいずれにも該当しないものであるといわざるを得ない。また、大山倍達個人が自己の氏名等として極真関連標章を使用していた事実もない。
なお、「極真」の語を含む商標は、被請求人以外の極真空手の教授を行う者により登録されている事実もある(乙第5号証ないし乙第13号証)。

(3)商標法第4条第1項第10号について
請求人は、「極真関連標章は、大山倍達が空手の教授にかかる役務等に使用したものであることは、顕著な事実である」から商標法第4条第1項第10号に該当する旨主張している。
しかし、上述のように、少なくとも、極真会館の業務及び極真関連標章に関しては、宗家なるものが存在するか否かも判然としないうえ、その承継人が業務を正当に承継したと解することもできないものであり、極真関連標章は、分裂前の極真会館を表示するものとして需要者に認識されているところ、極真会館や極真関連標章との関係において、被請求人は、「他人」というべきでないから、商標の類否を判断するまでもなく、商標法第4条第1項第10号に該当しないことは明らかである。

(4)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、本件商標は「大山倍達が創設した極真空手の業務に係る役務であると認識され、あるいは、大山倍達の権利義務を承継した宗家及びその承継人の業務に係る役務と誤認・混同を来す商標である」と主張している。
しかし、上述のとおり、極真会館との関係において、被請求人は、「他人」というべきでないから、混同を生ずるおそれはなく、商標法第4条第1項第15号の規定に該当しないことは明らかであり、そもそも、極真関連商標は、宗家なるものの出所のみを表示するものとして需要者に認識されてはおらず、本件商標は、宗家なるものの業務に係る役務と誤認・混同を来たすことはない。
また、需要者の間には、極真会館が分裂し、複数の団体が極真関連標章及び「極真」の文字を使用した表示を用いていると把握されており、しかも、本件商標は、「新」の文字を頭に付すことにより、他の極真団体と一目瞭然に、かつ、明確に棲み分けができるように意図して創作した名称である。空手の分野においては、自己の名称を流派名の前後等に文字を付加した態様とすることが行われている事情もあり、混同は全く生じていないのが実情である。本件商標は、商標に関する訴訟等でその後の行方が注目される最中の2003年7月に発表された当時から、当然に極真会館から派生した正統な一派の商標として認識されていたと考えられ、残存する極真会館とは全く別の団体と評価されており、被請求人の活発な活動により更に本件商標の周知性は高まっているものと考えられるため、混同は生じていない。
なお、請求人は、被請求人が「大山倍達総裁」の氏名を冒用し、大山倍達の著作である「極真」の由来の記述を冒用した上で営業活動を行うものであると主張しているが、それらの記述は、被請求人が「極真会館」の流れを汲む団体であること及びその由来を尊敬の念をもって説明的に表示しているにすぎないものであり、被請求人が自己の団体を説明する上での通常の範囲の使用である。

(5)結語
以上のとおり、被請求人は、極真会館とは密接な関連性を有するものであって、他人というべきものでないから、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号に反して登録されたものではない。

第4 当審の判断
1 前提事実
(1)大山倍達は、「極真空手」の創始者であり、昭和39年、同空手に関する団体として極真会館を設立し、死亡した平成6年4月まで、極真会館の館長ないし総裁と呼ばれ、代表者として、同団体を運営していた。極真会館は、法人格はないものの、大山倍達の下で規模を拡大し、世界各地に多数の支部等を置くほか、日本国内においても、総本部のほか、全国各地に支部等を置いた。支部は、それぞれ担当する地区が定められており、大山倍達によって任命された支部長が、各担当の地区において、道場を開設し、極真空手の教授を行っていた。

(2)支部長は、担当地区内に道場を開設して、極真空手に入門した道場生に対し、極真空手の教授を行い、極真空手の級位や初段の段位を与えることができ、また、担当地区内に、分支部を設けることができた。極真空手を学ぶ者は、本部直轄道場や各支部の道場に入門して、極真会館の会員となり、道場生として、極真空手の教授を受けた。大山倍達が死亡した平成6年4月当時、極真会館は、日本国内において、総本部、関西本部のほか、55支部、550道場、会員数50万人を有し、世界130か国、会員数1200万人を超える勢力に達していた。極真会館は、毎年、「全日本空手道選手権大会」及び「全日本ウェイト制空手道選手権大会」の名称を付した極真空手の大会を開催すると共に、4年に1度、「全世界空手道選手権大会」の名称を付した極真空手の大会を開催していた。

(3)極真会館は、次第にその規模が拡大し、規模の拡大に応じて、組織やその運営に関して、「道則」、「支部規約」及び「極真会館国内支部規約」等の基本的な規定が定められたものの、館長ないし総裁たる地位の決定や承継等に関する規定はなく、また、現実の組織運営は、必ずしも同規定どおりに実施されていたのではなく、具体的な状況に応じて、大山倍達が、個別的に裁量によって判断していた例もあった。
支部長の認可を受けた者は、認可料、支部会費等を総本部に納入すること、全日本選手権大会等の各種大会へ選手を派遣し、同大会の運営に協力すること、支部長会議及び支部長講習会へ出席すること等が義務づけられており、極真会館を表示するマークを無断で使用することが禁止されていた。しかし、極真会館の支部長は、前記義務を果たす限り、道場や各種大会等において極真関連標章を使用することができたし、分支部長も、支部長の個別の許可等を要することなく、道場において、極真関連標章を使用することができた。極真会館において、極真関連標章の使用態様等を明確に規制していたことをうかがわせるに足りる証拠はない。
また、支部長が上記の義務、規律に違反した場合は、支部長認可の取消しや除名等の処罰を受けることとされていた。なお、極真会館は、法人格を取得することはなく、また、その代表者である館長ないし総裁の地位の決定や承継等に関する規定はなかった。

(4)大山倍達の死亡
ア 大山倍達は、平成6年4月26日に死亡した。同人が入院中の同年4月19日付けで同人の危急時遺言(以下「本件危急時遺言」という。)が作成され、本件危急時遺言には、大山倍達の後継者を松井章圭(文章圭)とすること、極真会館の本部直轄道場責任者、各支部長及び各分支部長らは松井章圭に協力すべきこと並びに大山倍達の相続人は極真会館に一切関与しないこと等が記載されていた。
大山倍達は、生前に、極真会館に属する者に対して、自己の死後に自己の館長たる地位を誰に承継させるかについて、その意思を示したということはなかった。
大山倍達の葬儀は、同月27日に行われた。出棺の際、本件危急時遺言の証人の一人から、大山倍達が遺言で松井章圭を後継館長に指名した旨の発表がされ、同日開催された支部長会議においても、本件危急時遺言の内容についての説明がされ、松井章圭も、自ら後継館長に就任する意思を表明した。その後、同年5月10日に開催された支部長会議において、全員一致で松井章圭の極真会館館長就任が承認された。
イ 本件危急時遺言の証人の一人である弁護士は、平成6年5月9日、東京家庭裁判所に対し、本件危急時遺言の確認を求める審判申立てをしたが、大山倍達の相続人らは、同遺言に疑義を表明して争った。上記審判申立てに対して、東京家庭裁判所は、平成7年3月31日、これを却下した。
上記決定に対して、該弁護士は東京高等裁判所に対して抗告したが、同裁判所は、平成8年10月16日、抗告を棄却し、最高裁判所も、特別抗告を棄却した。
ウ 大山倍達の死亡により、妻C、長女F、二女G、大山喜久子(本件審判請求人)ら5名が相続し、その後、上記長女が平成8年9月21日に死亡し、平成17年12月29日、大山倍達に係る遺産分割協議書及び他に相続人がいないことの証明書が作成され、大山倍達のすべての権利義務はCに相続された。そして、Cは平成18年6月6日に死亡し、すべての権利義務については本件審判請求人が相続した。

(5)極真会館の分裂
ア 大山倍達の相続人らは、松井章圭が極真会館の館長の地位を承継したと主張して大山倍達の後継者として活動したことに対して反発した。大山倍達の妻Cは、平成6年5月26日に、各支部長に対して、極真会館、極真空手等の名称や標章は自ら管理する旨を通知し、平成7年2月15日には、Cが、記者会見を開催して、自ら極真会館2代目館長を襲名することを発表した。なお、大山倍達の遺族が、極真会館又は極真空手の活動に従事したことはなかった。
イ 極真会館の支部長の中にも、松井章圭に対して反感を持つ者が多数おり、相互に連絡を取り合って、松井章圭が極真会館を私物化したなどの批判をし、松井章圭に対する反発は高まっていった。このような状況の下で、平成7年4月5日、全国の各地区の代表者による支部長協議会が開催される予定であったが、その会場には支部長協議会の構成員ではない支部長も参集していた。そして、臨時に支部長会議が開催され、同支部長会議において、松井章圭の館長解任の緊急動議が提出され、松井章圭の館長解任が決議された。この解任動議に賛成した支部長らは、支部長協議会議長を中心に極真会館を運営すると主張した。
これに対し、松井章圭及び松井章圭を支持する支部長らは、平成7年4月6日、記者らと懇談し、大山倍達が決めたものを支部長会議で覆すことはできず、上記の解任決議は効力がない旨反論し、松井章圭が引き続き極真会館の館長の地位にある旨を宣言した。
このように、大山倍達の死後、極真会館は、いくつかの分派が形成されたが、支部長会議において松井章圭の解任決議がされた時点での極真会館の勢力関係は、松井章圭を支持する支部長又は直轄道場責任者は松井章圭を含めて12人(「松井章圭派」と呼ばれた。)、Cを支持する支部長は9人(「遺族派」と呼ばれた。)、前記の支部長会議において、松井章圭を解任した勢力を支持する支部長又は直轄道場責任者は30人であった(「支部長協議会派」と呼ばれた。)。
ウ 上記各派は、いずれも自派が極真空手を正当に承継するものであるとして、極真会館を名乗って、道場の運営を行ない、従前、極真会館が行なっていたのと同一名称の極真空手の大会を開催するなどした。
その後、支部長協議会派は、平成12年10月10日付けで「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」との名称で法人登録をし、本件審判事件における被請求人を設立、その後、平成15年10月14付けで、名称を「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」と変更した(甲第20号証)。また、遺族派の一部、支部長協議会派の一部等は、平成13年12月、「日本空手道連盟極真会館全日本極真連合会」と称する団体を組織したり、平成15年11月には、松井章圭派の支部長の一部が同派から脱退し、「極真館」と称する団体を組織したりした。
このように、大山倍達の生前の極真会館における支部長等は、各派に分かれ、それぞれが、本部、支部等を設け、道場で極真空手の教授等を行なったり、極真空手の大会を開催したりしており、大山倍達の生前における、団体としての極真会館は、それぞれの支部長らが、これを承継すると主張して、複数の団体に分かれるに至った。

(6)極真関連商標をめぐる紛争について
ア 前記のとおり、大山倍達ないし極真会館は、大山倍達の生存中、極真会館の構成員が極真関連商標を使用することについて特段の制限を設けなかった。また、大山倍達から任命された支部長や、さらに支部長によって任命された分支部長が道場での極真空手の教授等の極真会館の活動を行なうに際して、極真関連標章を使用していた。
イ 大山倍達は、その生存中、極真関連標章について、自己名義で商標権を有していなかった。もっとも、財団法人極真奨学会により、昭和51年から昭和59年にかけて、第24類「空手道衣及びその帯を含む運動用特殊衣服、その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号による改正前のもの)を指定商品とする「極真会館」の文字からなる商標等合計12件の商標登録がされたが、そのうちの9件は、更新登録の手続がされなかったために失効し、大山倍達の死亡時までには登録が抹消されていた。そして、昭和59年に登録された3件の商標については、松井章圭が平成6年6月1日譲渡を原因として、同年10月24日、自己名義への移転登録手続を行なった。
ウ 極真関連商標については、極真会館が法人格を有さず、極真会館の名義により商標登録出願を行なうことができないことから、松井章圭が極真会館の代表者として個人名義で平成6年ないし7年に商標登録出願し、登録を受けた。これに対し、本件審判請求人は、極真関連商標のうち4件の商標(登録第4027345号商標「KYOKUSHIN」、登録第4027346号商標「極真会館」、登録第4041083号商標「極真空手/KYOKUSHIN KARATE」、登録第4027344号商標「極真会」)に対して無効審判を請求し(無効2004-35028ないし35030号、35032号事件)、特許庁は、平成16年9月22日、いずれの商標についても登録を無効とするとの審決をした。これに対し、松井章圭は審決取消訴訟を提起したが(平成17年(行ケ)第10029ないし10031号、10033号審決取消請求事件)、知的財産高等裁判所は、平成18年12月26日、上記請求を棄却する旨の判決をしたので、さらに松井章圭は上告を提起し上告受理申立てをしたが、最高裁判所は、平成19年6月28日、松井章圭の上告を棄却すると共に上告不受理の決定をし、上記審決は確定した。
エ 松井章圭は、極真関連商標の登録後、平成11年から平成12年にかけて、NTTに対し、極真関連商標を使用した広告の掲載の禁止を申し入れたため、松井章圭派以外の極真会館を名乗る団体の支部長らは、NTTが発行したタウンページに掲載する広告に極真関連商標を使用することができなくなった。
これに対し、平成11年及び12年、本件審判被請求人(当時の名称は「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」)外7名が、松井章圭外8名を相手として、使用差止不存在確認請求訴訟を提起し(東京地方裁判所平成11年(ワ)第12483号外1件)、平成15年4月15日、同裁判所において、本件審判被請求人外7名及び利害関係人47名と松井章圭外8名との間において、裁判上の和解(乙第4号証)が成立した。
オ 和解についての主な条項は、次のとおりである。
(ア)本件審判被請求人らと松井章圭らとは、ともに、大山倍達の創設した極真空手を指導、教授、普及することをめざしていることを相互に認めるとともに、過去における相互の確執関係を解消させ、かつ、互いにその存在を尊重し合うこと、(イ)本件審判被請求人は、平成15年7月15日限り、その名称を「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」から「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」に変更すること、(ウ)本件商標については、松井章圭は、本件審判被請求人の費用により本件審判被請求人が指定する弁理士を代理人として、和解成立後、本件審判被請求人の要請に応じて商標登録出願手続をし、同商標が商標登録出願後は同商標が商標登録されるために必要不可欠な手続を行い、同商標が商標登録された後は速やかに同商標登録による商標権を本件審判被請求人に移転するとともに、同移転登録を本件審判被請求人が単独申請することを承諾すること、(エ)本件審判被請求人は、「極真」の文字が入る語を商標として用いる場合には、必ず同様の字体及び字の大きさにより「新」を直前に付して用いるものとすること
カ また、平成14年には、極真会館の支部長であった者が原告となり、松井章圭を相手として、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所に、原告が空手の教授等を行なうに際して極真関連商標を使用することについて、被告(松井章圭)は、被告の有していた商標権に基づく差止めを求める権利を有しない旨の「差止請求権不存在確認等請求事件」を提起した(東京地方裁判所平成14年(ワ)第16786号、大阪地方裁判所平成14年(ワ)第1018号)。平成15年9月、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所は、いずれも、支部長らの松井章圭に対する差止請求権不存在確認請求を認容した。

(7)本件商標及びその手続の経緯について
本件商標は、「新極真会」の文字を標準文字で表してなるものであるところ、平成14年1月16日、本件審判被請求人(当時の名称は、「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」)によって出願され、同年4月25日付けで上記出願は、極真関連商標に類似するので商標法第4条第1項第11号に該当するとの拒絶理由通知を受けた。これに対し、本件審判被請求人は、上記和解に基づき、「本件商標につきましては、平成15年4月15日に引用商標権者との間で訴訟上の和解が成立し、本件商標を引用商標権者に、一旦譲渡して引用商標権者が本件商標権を登録することになりました。」との平成15年6月18日付け意見書及び同日付けで出願人名義人を本件審判被請求人から松井章圭に変更する旨の出願人名義変更届を提出した。そして、本件商標は、平成15年12月1日、登録査定がされ、平成16年1月7日、出願人名義変更届の提出により、名称を本件審判被請求人(特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会)に変更し、本件審判被請求人が本件商標を承継した。

2 上記において認定したところによれば、(1)「極真会館」は、大山倍達が創設し、代表として活動していた団体・組織であり、法人格は取得していないものの、運営・組織についての規定が存在し、原則的にその規定に沿って、団体活動を継続していた一つのまとまった団体であったこと、(2)極真関連標章は、遅くとも大山倍達が死亡した平成6年4月には、少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では、大山倍達が代表者として運営していた団体・組織である「極真会館」又はその空手の流派である「極真空手」を表す標章として広く知られていたこと、(3)しかし、大山倍達は、その生存中、極真関連商標につき自己名義で商標登録出願をしていなかったこと、(4)支部長や支部長によって任命された分支部長が、道場での極真空手の教授等の極真会館の活動を行なう限りにおいては、極真関連商標を使用することができ、それぞれの支部長は、極真関連商標を使用してきた実情があったこと、(5)大山倍達の死亡後、極真会館は分裂し、各支部長が、複数の分派に分かれて、それぞれが、「極真」ないし「極真会館」を承継する団体として、極真関連標章又はこれに類似する標章を使用していた状況にあったこと、(6)大山倍達の遺族は、極真会館及び極真空手の活動に従事したことはなかったこと、(7)被請求人は、その一分派として、「極真会館」の10数名の支部長により構成され、全国に支部を設けて、活動を行っていた団体であるが、平成12年10月10日付けで「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」との名称(後に、「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」と名称変更)で法人登録をし、被請求人を設立し、自己の分派と他の分派とを区別する目的をもって、「新極真会」との標章を用いて、団体としての活動を継続し、その活動の過程で、本件商標を出願したものであること等の事実が認められる。
ちなみに、甲第20号証(「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」の現在事項全部証明書)の「目的等」の欄には、次のように記載されている。
「この法人は、老若男女、国内外を問わず、広く社会に対して、極真空手道の普及に関する事業を行い、青少年育成、国際交流、社会貢献等の実現を図ることを目的とする。・・・この法人は、上記の目的を達成するため、特定非営利活動に係る事業として、次の事業を行う。(1)極真空手道の普及・広報事業、(2)極真空手道に関する研究会、競技会の開催、(3)極真空手を通じての国際交流事業、(4)極真空手道に関する助成及び顕彰、(5)極真空手道の技芸教授、(6)昇級・昇段審査会の開催、(7)昇級・昇段状の発行、(8)極真空手道に係わる出版物の制作・普及啓発、(9)その他、目的を達成するために必要な事業」

3 商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号該当性について
(1)本件商標は、前記したとおり、「新極真会」の漢字を標準文字で表してなるものであるところ、請求人は、極真関連標章は大山倍達個人に帰属するものであり、大山倍達存命中は大山倍達に帰属し、相続発生後は、極真関連標章に関する権利義務の一切の法的地位は相続人に包括承継されたものであることを前提として、極真関連標章との関連において、本件商標が上記各法条に該当する旨主張している。
確かに、本件商標と極真関連標章のうち、例えば、「極真会」の商標とを商標の類否の観点のみからみれば、互いに類似の商標であることを一概に否定することはできない。
しかしながら、本件商標「新極真会」及び「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」は、極真空手に係る紛争の長期化を回避し、全体的な紛争解決の方策として、前記裁判上の和解に従い、被請求人にその採択が認められたものであって、当時、松井章圭(文章圭)が所有していた「極真関連商標」との峻別を目的に、また、極真空手に関わる各会派との峻別を目的に、裁判所の主導のもとにとられた措置であるということができる。
そして、前記したとおり、大山倍達存命中の極真会館が行っていた業務については、極真会館から分裂した複数の団体が実質的に業務を遂行しているという特殊事情があり、被請求人は、極真会館とは形式的には全く同一の団体とは評価されないとしても、極真会館において使用されていた極真関連標章を使用する地位にあったものであり、被請求人の団体は、分裂前の極真会館の構成員の多くの者が参加し、極真会館と同様の活動を継続して行っていたことが認められる。
そうとすれば、被請求人は、分裂前の極真会館とは密接な関連性を有する団体であり、極真関連標章が表示する極真会館との関係においては、むしろ、主体を構成する者の一員とも評価できるものであって、被請求人と極真関連標章が表示する極真会館とは「他人」の関係とはいえないものであるから、極真関連標章が表示する極真会館をもって、上記法条に規定する「他人」とみることはできない。
してみれば、被請求人が本件商標を使用することを妨げる事情は存在しないものというべきであり、被請求人が本件商標をその指定役務について使用しても、需要者をして、大山倍達が創設した極真空手に携わる者の業務に係る役務であると認識させるものの、その出所について混同を生じさせるおそれはないものというべきである。

(2)この点について、請求人は、極真関連標章は、大山倍達ないしその相続人の許諾なくして使用することはできない旨主張して、松井章圭(文章圭)作成の陳述書(甲第21号証)及び松井章圭(文章圭)の本人尋問調書(甲第22号証)等を提出している。
しかしながら、上記各証拠によっても、極真会館の支部長は、その支部長として在任しその義務を果たす限り、極真関連標章を使用することができたというにとどまり、それを超えて、極真関連標章の使用に関して、大山倍達の許諾を要するものであったということはできない。のみならず、大山倍達の死後、極真関連標章の使用に関して、極真会館の事業に従事していない相続人(請求人)の許諾を要するとの経緯が存在したことを認めるに足りる証拠もない。
また、請求人は、極真関連標章は大山倍達の死亡後、請求人が相続したことを前提として、極真関連標章に係る権利は、極真会館及び各支部長に共有的に帰属していたとの被請求人の主張は誤りである旨主張している。
しかしながら、極真関連標章に係る権利を請求人が承継したものといえないことは前記認定判断のとおりであるから、請求人の主張は、その主張自体失当である。

4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号のいずれの規定にも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2009-09-29 
結審通知日 2009-10-02 
審決日 2009-10-14 
出願番号 商願2002-2125(T2002-2125) 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (Y41)
T 1 11・ 271- Y (Y41)
T 1 11・ 25- Y (Y41)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩本 明訓 
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 小川 きみえ
野口 美代子
登録日 2004-03-19 
登録番号 商標登録第4756427号(T4756427) 
商標の称呼 シンキョクシンカイ、キョクシンカイ、キョクシン、シンキョクシン 
代理人 鈴木 正勇 
代理人 今井 秀智 
代理人 日野 修男 
代理人 木村 晋介 
代理人 広瀬 文彦 

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