• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X03
管理番号 1211374 
審判番号 無効2008-890131 
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-05 
確定日 2010-01-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第5102508号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5102508号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成19年6月14日に登録出願、第3類「ローション,クリーム,ジェル状の化粧品,バーム状の化粧品,皮膚・身体の手入れ用のオイル状及びパウダー状の化粧品,香水類,香りつきのスプレー式ボディ用化粧品,制汗用化粧品,身体防臭用化粧品,口紅,リップグロス,唇用軟膏クリーム,アイシャドウ,アイペンシル,アイライナー,マスカラ,まゆ毛用鉛筆,つめ手入れ用化粧品,あま皮用クリーム,マニキュア,つめ用トップコート,マニキュア除去液,クリーム状ヘアートリートメント,ムース状・ジェル状・ワックス状・スプレー状頭髪用化粧品,バスオイル,バスソルト,バスクリスタル,ジェル状・クリーム状シャワー用化粧品,ひげそり用剤,その他の化粧品,シャンプー,コンディショナー,せっけん,クレンザー,その他のせっけん類,歯磨き,精油」を指定商品として、同年12月7日に登録査定、同年12月28日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用する商標
請求人は、本件商標の登録の無効の理由に以下の2件の登録商標を引用しており、いずれも、現に有効に存続しているものである。
登録第831590号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(2)のとおりの構成からなり、また、登録第831592号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(3)のとおりの構成からなり、いずれも、昭和41年9月21日に登録出願、第4類「せつけん類、歯みがき、美爪エナメル、美爪エナメル除去液、頭髪用化粧品、その他の化粧品、香料類」を指定商品として、同44年9月12日に設定登録されたものである(以下、まとめて「引用商標」という。)。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第206号証を提出した。
1 請求人の理由(要旨)
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標は、中央に星を描き、その周りに5つの円を黒抜きで描いた構成からなるが、中央の星の図形は、白い線で縁取られ、黒色で描かれており、その周りの5つの円は、互いに隣の円と接しているから、本件商標は、中央に白い線で縁取られた星を描いた5弁の花柄の図形として認識される。
これに対し、引用商標の図形は、共に半円形で、5弁の花弁を図案化したものであると容易に認識される。しかも、これらの商標の中央の円は白い縁取りがされ、黒抜きで表されており、中央の円とその周りの5つのそれぞれの花弁は互いに隣の花弁と接し、これらの花弁は黒く塗りつぶされている。
このように、本件商標と引用商標は、中央に白い縁取りをした黒色の星又は円の回りに黒塗りをした花弁を有する5弁の花柄の図形である。すなわち、本件商標は、単に、引用商標の中央部の円の部分を星の図形に変えたに過ぎないものであるから、これらの商標は、その基本的着想及び構成が極めて近似したものである。
したがって、本件商標と引用商標は、中央の図形が星と円という違いがあるが、これらの商標に接する者は、これらの商標が5弁の花柄図形であることと、中央の図形が白い線で縁取りされているということに印象付けられるというべきである。その結果、両商標に接する需要者・取引者は、これらを極めて近似した5弁の花弁を図案化した図形商標として認識することは疑いない。さらに後述するように、引用商標が審判請求人の著名な商標であり、本件商標は、請求人の主力商品である「化粧品」を指定商品とすることに照らせば、本件商標が店のドアや看板等に使用され、さらに、商品が棚に陳列され、本件商標が遠くから眺められた場合を想定すると、より一層、本件商標中の黒塗りの5枚の花弁と中央の白い縁取りが際立って強調され、本件商標に接する者は、当該商標と引用商標を混同することは疑いない。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観上類似する商標である。
イ 本件商標は、前述のように、その図形部分が5弁の花弁を図案化した商標であることは容易に認識できるから、これから「5弁の花弁のマーク」の観念が生じるということができる。一方、引用商標も前述の構成からなるから、これからも「5弁の花弁のマーク」の観念が生じる。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観及び観念において類似する商標である。
ウ そして、本件商標は、引用商標よりも後願にかかるものであり、かつ、その指定商品も抵触するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するというべきである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア デイジーマークの著名性
審判請求人の創設者であるマリー クワント(MARY QUANT)は、ミニスカートを世界的に流行させた英国の著名な女性デザイナーであり、1950年代後半から1960年代のモードを独占し、「ミニの女王」の名声のもとにファッション界の旧体制を打破し、ファッション界に新風を吹き込んだものとして高く評価されており、わが国でも広く知られている(甲第4号証及び同第6号証)。しかし、マリー クワントの活動は、これにとどまらず、本件商標の指定商品である化粧品をはじめ、かばん類、袋物、ドレス類、コート類、化粧用具、靴、サングラス、時計、文房具等について広範囲なデザイン活動を行い、英国のマリー クワント リミテッド及びマリー クワント コスメチックス リミテッド(Mary Quant Cosmetics Limited)を通じて、これらの商品を世界各国において販売している(甲第8号証)。
わが国においては、マリー クワント リミテッドの関連会社である株式会社マリー クワント ジャパン及び株式会社マリー クワント コスメチックス ジャパンが設立されて、1971年より同社によるマリー クワント リミテッド等の化粧品、衣料品を中心とする広範囲な販売活動がわが国で開始された。同社の扱う商品は、さまざまな雑誌、週刊誌、新聞、商品カタログ等に掲載され(甲第7号証、同第9号証ないし同第160号証)、その取扱商品の宣伝活動、販売活動が活発に行われており、全国で189店もの店舗で販売されている(甲第159号証、同第160号証及び同第163号証)。
その結果、化粧品についての販売高は、1975年度には約11億5000万円であったものが1994年度には約98億円となり、2002年度には77億円にも上っている。また、衣料雑貨品についての販売高は、1987年度には約6億円であったものが1994年度には約35億円となり、2002年度には23億円にも上っている(甲第163号証及び同第164号証)。
しかして、審判請求人は、わが国における販売の当初から「MARY QUANT」等の商標とともに引用商標の花弁の図形商標を採用し、これを「デイジー」あるいは「デイジーマーク」の愛称で呼び、化粧品、被服、かばん、袋物、化粧用具、スカート、ドレス、水着、下着、書籍、手帳、カレンダー等について商品自体に付したり、商品のタッグ等に付したり、カタログ等に印刷して広範に使用している(甲第9号証ないし同第160号証、同第194号証ないし同第204号証)。さらに、審判請求人及びマリー クワント リミテッド以外が発行する雑誌、新聞等においても審判請求人の花弁の図形のマークは「デイジー」「デイジーマーク」と特定され、これが審判請求人の「花弁のマーク」を示すものとして広く、広汎に一般第三者によっても認識されている。
さらに、審判請求人は、全国放送のテレビ番組でもコマーシャルを行い,自己の商品及びデイジーマークの宣伝広告に努めている(甲第166号証ないし同第168号証)。
しかして、審判請求人は、上記5弁の花弁のマークに関し、多数の商品区分において出願し、登録を得ている(甲第169号証)。その結果、審判請求人の花弁の図形の商標は、特に女性を需要者とする化粧品、衣料品、アクセサリーの分野において独占的に使用されてきた。したがって、特に女性の間では、花弁の図形といえば、審判請求人の商標であると広く認識されているというべきである。甲第171号証ないし同第187号証は、昭和61年に作成された審判請求人のデイジーマークが著名であることを証明する証明書であるが、昭和61年の時点ですでにデイジーマークは審判請求人の商標として我が国において周知著名な商標となっていたことを示すものである。 甲第188号証及び同第189号証は、審判請求人がリサーチ会社を通じて行った調査であるが、審判請求人であるマリークワントは、特に18?19歳の間ではシャネル、無印良品に次ぐ認知度であり、34歳に至るまで90%前後という極めて高い認知度を誇っている。また、甲第170号証に示すように審判請求人のデイジーマークは、日本国際知的財産保護協会発行の「日本有名商標集」にも有名商標として掲載されており、さらに、審判請求人は、デイジーマークと類似するマークを使用する者に対して警告状を送り(甲第190号証)、業界紙等でデイジーマークが審判請求人の商標である旨広く一般に知らしめ、侵害者に対しては厳しい処置をとる旨警告し、自己のブランド管理に努めている(甲第191号証)。
以上述べたように、5弁の花弁のマークといえば、特に若い女性間では審判請求人であるマリー クワントのシンボルマークとして遅くとも昭和50年代以降から我が国において知られており、今日では極めて著名な商標となっていることは疑いない。
イ 混同の可能性
しかして、本件商標は、一見して明らかに5弁の花柄の図形と認識される審判請求人の周知著名な上記花弁の商標と外観及び観念において極めて酷似する類似商標であり、しかも、審判請求人が広範に販売を行い、審判請求人の商標が著名となっている分野の「化粧品、せっけん」等を指定商品とするものであるから、需要者、取引者が全く一致する。
そうとすれば、これらについて、審判請求人の周知、著名な花弁の商標と基本的な着想が同一の図形である本件商標が指定商品について使用された場合には、需要者・取引者は、審判請求人あるいはその関連会社によって製造販売されている商品であるかのごとく、商品の出所について誤認、混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
さらに、本件商標の商標権者であるレン リミテッドは英国の化粧品会社であり、本件商標は化粧品に使用されているところ、甲第205号証に示す態様で使用されており、少し離れて見た場合、5弁の花弁に強く印象付けられ、中央の部分はあたかも円のように認識される。
したがって、このような商標の登録が維持されると、審判請求人の商標に化体された業務上の信用が不当に害され、著名な「デイジーマーク」を希釈化させ、そのブランド価値を損なわせることとなる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するというべきである。
2 請求人の弁駁(要旨)
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 被請求人は、本件商標と引用商標の花弁の配置が異なることを主張している。
しかしながら、現実に商標が商品について使用された場合を想定すると、商品は常にまっすぐに立てられているとは限られず、斜めに置かれたり、手に取って様々な角度から商品や商標は見られるから、それに付された商標は常に登録された状態と同じ状態で眺められるものではない。
したがって、時には、引用商標の花弁の配列状態も本件商標のような状態で眺められることは当然に起こることである。
イ 被請求人は、本件商標と引用商標の相違点である星と円の違いは小学生でも間違えないから、両商標は区別できる、と主張する。
しかしながら、本件においては、中央に描かれている図形が星と円であるが、これらが黒色の5弁の花柄の中央に白い線で描かれているところに特徴があるのであり、しかも、引用商標は特に化粧品の分野において著名な商標である。
したがって、まず、5弁の花弁で中央に白い線が描かれた図形からなる商標が化粧品について使用された場合、これに接する者は、まず請求人の商標を想起する。本件商標の中央に描かれたものは星の図形であるが、本件商標に接する者は、黒色の5弁の花弁とその中央の白い線に印象付けられ、請求人の著名商標である引用商標を想起する、というべきである。
(2)商標法第4条第1項第15号に関する主張
被請求人は、甲第205号証に関して「実際の化粧品の瓶はこんなに小さくなく、この7倍くらいあるであろう。・・・・・・・、これは需要者の通常の注意力、判断力といったものを無視あるいは軽視している。需要者は識別できるまで近づいてみるのであり、商標を物理的に識別できない状況で商標を選択するような軽率な需要者はここで想定する需要者ではない。とくに、本件商標を使用している化粧品等の需要者は、商品の品質、特性において感心が高く、注意を払う層である。」と、述べている。
しかしながら、現実の商品取引においては、需要者は常に商品を手にとって商品や商標を識別できるまで近づいて見るわけではない。特に今日においては、商品をインターネットのショッピングサイトから直接購入することが広く一般に行われている。これは被請求人ついても同様であり、被請求人も自らのウェブページにおいてショッピングサイトを設け、インターネットで商品の販売を行っている(甲第206号証)。
すなわち、インターネットのショッピングサイトから被請求人の商品を購入する者は、ここに掲載されている情報に基づいて商品を購入するのである、そして、当該ウェブページに掲載された商品には、一見してただちに5弁の花柄と認識できる商標が付されているが、その中央部分にどのような図形が描かれているか否かは容易には判別できない。その結果、当該図形に接する者は、当該図形が5弁の花柄図形であるということに特に印象付けられるというべきである。
しかして、被請求人も認めているとおり、化粧品の分野において5弁の花柄といえば、請求人の商標が最も著名な商標であるから、被請求人のウェブページを見た者は、当該5弁の花柄図形を請求人の商標であると認識し、当該商品が請求人の商品であるかのごとく、誤認する可能性が高いというべきである。
よって、現実の商取引においても本件商標と引用商標が混同される可能性が高いというべきである。

第4 被請求人の答弁(要旨)
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第4号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号に関する主張について
本件商標と引用商標が外観上類似するか否かについてみるに、両商標は、黒塗りをした花弁を有する5弁の花柄の図形をその構成要素とする点では共通するが、両者は、まず、花弁の配置が異なる。本件商標は、上から2:2:1であるのに対し、引用商標は、1:2:2である。この配置の違いは本件商標は重心が中央からやや上方ではつらつ感があるのに対し、引用商標は中央からやや下方に重心が置かれ、安定感を需要者に与える。そして、最も大きな相違点は、中央の星と円の違いである。このような図形の中央に明瞭に表示されている構成要素が全く違う場合、「その基本的着想及び構成が極めて近似した」とはいえない。星や円は、それぞれの5弁の花柄と一体となって全体で1個の図形商標を構成するものであり、それぞれの図形全体に占める割合においても、視覚上与えるインパクトという点においても、それぞれの商標の基本的着想及び構成の主要な要素だからである。
これらの商標に接した需要者は、両商標とも5弁の花弁を図案化した商標である点では共通すると認識するとしても、それと同時に、即座に、この星と円で、それぞれを別個の商標と認識し得るものであり、混同することなどはないものと考えるのが自然である。
このことは、本件商標の商品区分の第3類において、本件商標より外観的に引用商標に近似する商標が引用商標と併存して登録されている事実からも首肯し得るものである(乙第1号証)。
また、請求人は、本件商標と引用商標とも「5弁の花弁のマーク」の観念が生じると主張するが、そもそも、「5弁の花弁のマーク」といった認識を観念というのが適切かどうか疑問である。「観念」とは商標の有する意義のことをいうが、ここでの意義とは商標を識別するための知覚的要素と考えられる。本件でいえば、図形商標に接する需要者が4弁や5弁や6弁からなる花弁の商標をいちいち「4弁の花弁からなるマーク」や「5弁の花弁からなるマーク」と認識し、商標を識別するための知覚的要素とするとは考え難いからである。また、このような認識が観念を意味するとしたら、「5弁の花弁」の構成要素からなる図形商標が最初に登録されれば、後に第三者が全く異なる「5弁の花弁」の構成要素からなる図形商標を出願してもすべて拒絶され、第三者の商標採択の自由を不当に狭めるおそれがあるからである。
このように、「5弁の花弁のマーク」を観念と考え、対比することは適切でなく、いずれも特定の観念が生じないので、観念の対比は考えられないとするのが相当である。
以上のように、本件商標は、引用商標には類似しない商標であり、商標法第4条第1項第11号に該当するものではないことは明らかである。
なお、本国の英国でも、本件商標は、引用商標と併存しているものである。
2 商標法第4条第1項第15号に関する主張について
引用商標の著名性については、被請求人も争うところではない。
5弁の花弁や星や円それぞれの図形要素はありふれたものであるが、5弁の花弁図形に星や円を結合した、それぞれ独自の一体の図形商標を創作、採択し、使用し、需要者もそのような図形の創作を一体として捉え、それぞれ別個の商標として把握する故、これらの商標に自己の業務上の信用が化体してきた事情については請求人が述べているとおりである。この点は、被請求人の本件商標についても全く同様である。
被請求人のレン リミテッドのレン(REN)は、スウェーデン語で「クリーン」を意味するが、これは創業者の一人であるアントニー・バックの妻が最初の子供を妊娠中に殆ど全ての化粧品に対して拒否反応を起こしたことから、肌に好ましくない化学物質を使わず効果的な製品を作ろうという「Cleanスキンケア」の理念から来たものであり、2000年に英国で設立された。レンは、フランスの化粧品薬理学者コレット・ヘイドン博士の協力のもと幾多の試行錯誤を経て製品化し、合成着色料、石油化学製品、動物性原料、遺伝子組み換え原料などが入らないスキンケア領域を確立し、現在ではロンドンを中心に世界各国のセレブに愛されている(乙第2号証及び同第3号証)。日本でも、かかる理念は確かな支持を受け、創立以来10年を経ていない現在、伊勢丹(新宿)、高島屋(二子高川店)、三越(恵比寿、銀座)、東急ハンズ(銀座店)等一流店に入り、六本木、丸の内、名古屋、福岡等の一等地に出店、また、自社はもとより、伊勢丹等でもオンラインショッピング(乙第4号証)にリストアップされ、好評を博している事実から考えても、わが国の化粧品の需要者には「REN」のブランドとともに、本件図形商標はかなり浸透し、主たる需要者層の間では今や周知に近い域にまできているといえる。
上記したように、本件商標は、引用商標に本来的に類似しない商標であるが、加えて、引用商標の著名性、また、本件図形商標の認識度の故に、本件商標は、引用商標と混同のおそれもないのである。
請求人は、引用商標が「デイジーマーク」と広く認識されている旨述べているが、これは引用商標の著名性の故に、一種の観念と位置付けされるものであるが、本件商標は、そのような観念の生じない商標であるから、このような実情を考慮すると、本件商標は、観念の点でも引用商標とは比較することのできない商標といえる。
また、請求人は、甲第205号証で被請求人のウェブサイト掲載の商品の写真を挙げて、本件商標が引用商標と見間違えるかのように述べているが、実際の化粧品の瓶はこのように小さくはなく、マークももっと大きいはずである。トラベルセットのように、小さい容器の場合もあるが、その場合は、需要者は、容器を手に取って、間近で本件商標に接するはずである。需要者は、識別できるまで近づいてみるのであり、商標を物理的に識別できない状況で商標を選択するような軽率な需要者はここで想定する需要者ではないのである。特に、本件商標を使用している化粧品等の需要者は、商品の品質、特性について関心が高く、注意を払う層である。
以上のように、本件商標は、引用商標との間で出所混同のおそれのない商標であり、商標法第4条第1項第15号に該当するものではないことは明らかである。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、別掲(1)に示したとおり、5つの黒塗りの円状の外周輪郭を有する図形を描き、その図形の中央部分に、白抜きで星の輪郭線を描き、その内部も黒塗りの星形になるように描いた構成の図形からなるものである。
一方、引用商標1は、別掲(2)に示したとおり、図形部分と「MARY QUANT」の文字部分からなるところ、その図形部分は、黒塗りの丸みのある5弁の花柄の如き図形を描き、その中央部分に白抜きで円の輪郭線を描き、その内部も黒塗りの円になるように描いた構成の図形からなるものであり、また、引用商標2は、別掲(3)に示したとおり、引用商標1の図形部分に相当する図形のみからなるものである。
そこで、本件商標と引用商標の図形部分とを比較するに、まず、両者の外周部分についてみるに、両者は、黒塗りの5つの円状の外周輪郭を有するという点においては共通にするといえるが、これとても、前者は、隣接する円状図形の谷が深いことから、隣接した5つの黒塗りの円を認識させるのに対して、後者は、5つの円状の外周輪郭の谷が極く浅いことから、その全体をもって5弁の花柄の如き印象を与えるものである点で相違している。
次に、両者の図形の中央部分の構成をみるに、本件商標の中央部分の構成は、5つの黒塗りの円状の外周輪郭を有する図形の中に、白抜きで星の輪郭線を描いた構成(結果として、その内部も黒塗りの星形になっている)からなるものであるところ、星形の5つの先端が外周部分の互いに隣接する円の谷部分にくるように描かれていることから、星図形と5つの円状図形とが緊密に結合した図形との印象を与えるものであり、しかも、その星図形の図形全体に占める割合がかなり大きいため、この星図形部分は、看者に対して強い印象を与えるものということができる。
一方、引用商標の図形の中央部分の構成は、5弁の花柄様図形の中に、白抜きで円の輪郭線を描いた構成(結果として、その内部も黒塗りの円になっている)からなるものであるところ、該円図形は、図形全体に占める割合はそれ程大きくはなく、むしろ、花心を表したかの如き構成からなるため、全体として、5弁の花柄様図形としての印象を与えるものであって、該円図形部分自体が格別の印象を与えるものとはいえない。
そうとすれば、両商標の図形は、これを構成する各構成要素において明らかな差異を有しているばかりでなく、図形全体としてみても、判然とした差異を有しており、この差異から受ける視覚的印象も明らかに異なるものであるから、これを時と処を異にして離隔的に観察するも、外観において紛れるおそれはないものといわなければならない。
また、請求人が主張しているように、引用商標の図形部分から「5弁の花弁のマーク」の観念が生じ、「デイジー、デイジーマーク」の愛称をもって使用されているとしても、本件商標は、上記したとおりの構成からなるものであり、これより、直ちに、特定の観念及び称呼を生ずることはないものというべきであるから、両商標は、観念及び称呼においては比較すべくもないものである。
してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
なお、請求人は、甲第192号証及び同第193号証の異議決定例を提出しているが、該異議事件で争われている商標は、本件商標とはその構成・印象を明らかに異にするものであって、事案を異にするものというべきであるから、上記認定に影響を及ぼすものとは認められない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものとはいえない。
2 商標法第4条第1項第15号について
請求人の提出に係る甲各号証によれば、「MARY QUANT」が英国の女性デザイナーとして広く知られており、又、デイジーマーク(引用商標の図形部分と同一の構成からなる商標)は、請求人の業務に係る「被服をはじめ、化粧品、かばん類、袋物、化粧用具」等を表示する商標として、本件商標の登録出願時においては既に我が国における取引者・需要者の間においても広く認識されるに至っていたものであることを認めることができる。そして、この点については、被請求人も争ってはいない。
しかしながら、前記したところと同様の理由により、本件商標とデイジーマークとは、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、全く別異の商標というべきものであり、他に、両者を関連づけてみなければならないとする理由もないから、結局、両者は、別異の出所を示すものとして看取されるものといわざるを得ない。
そうとすれば、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者をして、デイジーマーク(引用商標)を連想又は想起させるものとは認められず、その商品がマリークワントあるいは請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものというべきであり、また、デイジーマーク(引用商標)を希釈化させ、あるいはそのブランド価値を損なわせることにもならないものといわなければならない。
なお、請求人は、本件商標は甲第205号証(被請求人のウェブページの打出し資料)に示す態様で化粧品に使用されており、少し離れて見た場合、5弁の花弁に強く印象付けられ、中央の部分はあたかも円のように認識される旨述べている。
確かに、該ウェブページ資料において、多数の化粧瓶を並べて表示しているページをみれば、化粧瓶に表示されている商標はかなり小さいとはいえる。
しかしながら、該ウェブページ自体には、大きく表示された「REN」の商標とともに、本件商標も明瞭に把握し得る大きさをもって表示されているばかりでなく、化粧瓶が大きめに表示されているページをみれば、化粧瓶にも「REN」の商標と本件商標が明瞭に把握し得る態様で表示されていることが認められる。しかも、多数の化粧瓶を並べて表示されているページにしても、各商品をクリックすれば、大きめの化粧瓶が表示されるのがウェブページにおいては通常のことであるから、この点についての請求人の主張は採用できない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反してされたものではないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標(登録第5102508号商標)




(2)引用商標1(登録第831590号商標)




(3)引用商標2(登録第831592号商標)




審理終結日 2009-08-12 
結審通知日 2009-08-17 
審決日 2009-09-01 
出願番号 商願2007-60570(T2007-60570) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (X03)
T 1 11・ 261- Y (X03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 斎 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 小林 由美子
久我 敬史
登録日 2007-12-28 
登録番号 商標登録第5102508号(T5102508) 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 中村 稔 
代理人 松尾 和子 
代理人 志賀 正武 
代理人 渡邊 隆 
代理人 鈴木 博久 
代理人 高柴 忠夫 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ