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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 113
管理番号 1208299 
審判番号 取消2007-300811 
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2007-06-22 
確定日 2009-12-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第1986197号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1986197号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1986197号商標(以下「本件商標」という。)は、「ウオンツ」の片仮名文字を横書きしてなり、昭和59年12月22日に登録出願、第13類「手動利器、手動工具、金具」を指定商品として同62年9月21日に設定登録され、その後、平成9年5月27日及び同19年5月1日の2回に亘り商標権の存続期間の更新登録がされているものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1及び第2号証を提出している。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 弁駁の理由
(1)被請求人は、商標権者及び通常使用権者によって本件審判請求の予告登録日(平成19年7月10日)前の3年間に本件商標が使用されていた事実が存する旨を主張している。
しかしながら、本件商標の商標権者である被請求人自身による使用については、本件指定商品と結びつく使用についての主張・立証が実質なされておらず、被請求人自身による使用は認められない。また、使用許諾の契約書面は存在しないし、立証命題たる3年間の使用を直接裏付ける日付の資料も含まれておらず、被請求人が主張するような通常使用権者による使用といった事実も認められない。以下に、詳述する。
(2)商標権者自身の使用について
(ア)被請求人が本件商標を譲り受けて取得したのは平成19年4月26日である。ところが、被請求人は、その前後いずれの時期においても本件商標を使用していない。
この点、被請求人は乙第4号証をもって、自身の使用でもある旨を主張する。
しかし、乙第4号証は、時期及び商標の使用の2点において、本件の立証命題における証拠としては適切でない。
確かに、同号証の末尾には、「株式会社道下薬局」(以下「道下薬局」という。)と「株式会社ハーティウオンツ」が併記されている。このうち、道下薬局は被請求人たる「ジーニアスワーミンメモリアルラボラトリー株式会社」の旧社名である。しかしながら、乙第1号証のとおり、その社名変更の時期は平成13年1月12日であるから、道下薬局が記載されている乙第4号証は、過去3年の時点よりも遥かに以前である。このことは、その内容をみても明らかである。すなわち、乙第4号証は、1998年の物流センター稼働を全面に打ち出したものであり、現在在籍していない社員の写真が複数枚配されたものであることからしても、古い資料であることは明白だからである。そして、乙第4号証は、平成10年頃に請求人が作成、配布した資料である。その作成目的及び使用目的はあくまで人材募集のためであり、会社案内資料である。実際の配布対象も就職希望の学生や採用応募に関心を示した社会人であった。しかるに、請求人の運営するドラッグストア店舗において商品を購入する顧客に向けて配布した資料ではない。
以上のとおり、そもそも乙第4号証は、何ら商標的使用を果たしてはおらず、本件指定商品と結びついた商標としての使用とはいえないものである。 また、乙第4号証の最終頁には、「ハーティウオンツ」というロゴが表示されてはいるが、「ウオンツ」とは異なり、「Hearty Wants」と「W」の図形、「ハーテイウオンツ」の文字が一体となったものであるので、「ウオンツ」の使用にはあたらない。そして、他に「ウオンツ」を使用している場面は何ら同号証中には見当たらない。
(イ)また、乙第5号証は、請求人作成のリクルート資料であり、被請求人とは無関係である。乙第5号証がリクルート資料であることは、同号証の最後から2枚目に「募集要項」とあることからも明白である。なお、本パンフレットは、請求人が1000部単位で作成し、乙第4号証と同じく就職説明会等で学生や就職希望者に対して配布しているものであるから、店舗内で商品購入者や来店者に配布するものではない。乙第5号証も、請求人会社の説明であって、ここでいう登録商標「ウオンツ」と商品との結びつきが全く見当たらない。よって、本件商標の商標的使用とはいえないものである。
以上のとおり、商標権者たる被請求人自身は本件商標を使用していない。
(3)被請求人以外の使用許諾の不存在について
(ア)答弁書によると、請求人は商標使用権者であるとのことである。しかしながら、被請求人が主張するように、被請求人は本件商標について使用許諾の契約書を交わしていないのである。
この点、被請求人は、答弁書において、本件両当事者間での人的、資本的関係を列挙し、かかる関係から、いわば黙示の使用許諾がなされていたと主張していると思われる。
しかしながら、本件商標を被請求人が譲渡により取得したのは平成19年4月である。
他方、請求人は平成7年に「Wants」を店舗名として使用しているのである。被請求人は、12年も経過してから本件商標を譲り受けたのであり、一方的に請求人に対して使用権を許諾していると主張しているにすぎない。請求人が使用し始めた平成7年当時、契約書面も交わさず、標章や指定商品の具体的な明示や特定をすることもなしに、権利者でもない被請求人がなんら法的な権原も備えずして、他人に対して使用権を黙示的に許諾していたというのは、極めて不自然な主張である。
(イ)そもそも、「Wants」というドラッグストアを店舗展開するに際して、被請求人は平成6年に商標調査を実施している。その結果、第三者が指定商品「薬剤」について既に「Wants」商標を登録していることが判明しており、そのことは特許事務所から被請求人の現代表取締役たる福岡太英子(以下「B」という。)宛に商標公報が通知されていた(甲第1号証)。当時被請求人の代表取締役であった福岡慎二(以下「C」という。)は、平成6年当時、当初は「ウオンツ」という名称で登録しようとしていたが、上記の「Wants」が他人に登録されていることの報告に加え、本件商標である「ウオンツ」等2件についても既にクロバー株式会社(以下「クロバー」という。)によって登録されている点を認識するに至った。そこで、Cは種々検討した結果、標章をデザイン化し、図形と組み合わせることで新規に出願することに想到し、平成6年4月に薬剤について「Hearty Wants/ハーテイウオンツ」を商標出願するに至ったのである(甲第2号証)。
(ウ)以上のとおりであるから、平成7年に被請求人はドラッグストアの店舗名として「Wants」を使用しているが、特定小売等役務商標が導入されていなかった平成6、7年当時、ドラッグストアにおける小売業務に関連する主たる指定商品について、「Wants」や「ウオンツ」といった商標登録ができない状況にあることは、請求人のみならず被請求人も認識していたのである。しかるに、請求人が使用開始した時点で、被請求人が請求人に対して本件商標の使用を黙示に許諾するといった意思があったとは到底考えられないところである。
(エ)加えて、現時点においても、被請求人は、本件商標の更新時に書換申請をしておらず、本件商標の次回更新が不可能となっているなど、その管理体制も十分でなく、外形的にも安定的な使用許諾を付与する意思など看取できないのであるから、使用許諾の意思の存在は現時点でも疑わしいところである。
すなわち、被請求人が権利譲渡を受けた平成19年4月は、本件商標の更新時期と重なっていた。被請求人は更新登録申請の翌日に移転登録申請をしているものの、他方、書換登録申請をしないまま書換登録時期を徒過している。書換をしなかった以上、本件商標は10年後の次回更新ができず、存続期間満了をもって消滅することとなる(商標法附則第11条)。もっとも、被請求人は手続に精通した代理人を通じて書換手続についての十分な知見を有していたものと思料される。
してみると、次回以降も更新をして本権利を半永続的に使用していく意図があったのならば、被請求人が書換登録申請をしなかったことは、むしろ不自然といえる。また、被請求人は請求人に通常使用権を許諾をしていると主張しているが、そうであるならば、本件商標の取得に際しては、権利の半永続的な権利の管理維持をするよう強く動機づけられたはずである。被請求人は許諾権者の義務として、本件の書換登録申請をしたはずである。しかしながら、被請求人は現実には書換登録を申請せず、次回更新の機会を現時点で放棄しているのである。このことは、被請求人自身が本件商標の長期的な使用を予定しておらず、使用許諾などする意思も予定もなかったことの証左に他ならない。
したがって、書換をしていないという外形からも、安定的継続的な使用許諾の意思はむしろ否定されるべきものである。
(オ)ところで、平成16年頃には本件当事者間での種々の紛争が顕在化しはじめ、一部は訴訟事件に発展している。具体的事件名を列挙すれば、両当事者が名宛人のものに限っても、広島地方裁判所平成18年(ワ)416株券発行等請求事件、広島高等裁所平成19年(ネ)280株券発行請求控訴事件、広島地方裁判所平成19年(モ)112強制執行停止決定申立書などである。このことは、両当事者が良好な信頼関係を築ける状況にはないことを端的に示している。
また、被請求人は、請求人と被請求人との資本的関係あるいは人的関係について縷々主張している。しかしながら、乙第1及び第3号証にみられるとおり、平成17年6月の退任もしくは12月の解任をもって、当事者間での役員人事がクロスしていた状況は解消され、兼任は終了していたのである。
したがって、被請求人が権利を取得した平成19年4月時点では、両当事者間には、使用許諾関係を想起する前提たる信頼関係はもはや全く存在していないのであるから、請求人が被請求人のいわば傘のもとで使用していたといった主張は、失当である。
(カ)そもそも、請求人は、会社設立直後の平成7年の時点で、店舗名称として「Wants」を使用しており、広島を中心に中国地方全域で広く店舗展開した結果、平成19年には、既に「ウオンツ」は請求人を出所とするドラッグストアの名称として広く需要者に知られていたところである(乙第2、第5及び第7号証参照)。
(キ)被請求人が請求人と訴訟で係争しているなかで、クロバーから本件商標を譲り受けたのであるから、請求人は、自己が広く実施しているドラッグストア事業に対して何らかの不利益が及ぶかもしれないと危倶するのは当然のことであり、不使用取消を請求することも致し方ないことである。使用許諾を受けておきながら、当該権利自体の消滅を狙って提起するといったような背信的事情を有するものではないことを付言する。
(4)請求人による使用について
なお、念のため、請求人の使用についての各乙号証についても以下簡単に申し述べる。
(ア)乙第4及び第5号証は、前述のとおり請求人が作成したリクルート用の配布資料であり、配布対象者は就職希望者に限られている。また、会社案内として店舗への来客者に配布したりはしておらず、商品の広告として商品と結びつくものではない。そして、乙第4号証は配布時期が平成10年頃である。
(イ)乙第6号証については、撮影時期は不明である。また、請求人が展開するドラッグストア「Wants」の店舗名、小売店としての使用を示しているに止まるものである。請求人は小売店として商品を取り扱っているものの、これらの写真は個々具体的な指定商品に「Wants」と付して使用していることが何ら示されたものではない。商標の使用とは、あくまで指定商品と結びついた使用であるべきであるところ、同号証の写真は、特定小売役務としての使用を示すに止まるものであるから、商標の使用の証拠として十分とはいえない。そして、写真に示された看板には、日用品、台所用品といった列挙はあるが、本件商標の指定商品については、看板上に列挙されていない。
したがって、乙第6号証の看板が本件商標の使用と結びつかないことは明白である。
(ウ)乙第7号証は、請求人が管理運営するウェブサイトの抜粋であって、被被請求人のホームページではないから、被請求人の答弁書4頁における主張は事実と相違する誤記である。また、乙第7号証は、請求人の業務内容と事業展開を示しているにすぎず、「株式会社ハーテイウオンツ」という法人が95店舗のドラッグストアを展開とは書かれているものの、「ウオンツ」を本件商標の指定商品について使用していることは何ら明示するものではない。
(エ)乙第8号証は、請求人のドラッグストアの店舗の内外を撮影した写真であるが、これは、乙第9号証と相侯って、本件商標の指定商品たる手動利器の一例として、「子供用はさみ」が販売されており、購入可能であった事実を示す意図であろうと思料される。しかしながら、乙第9号証のレシートの日付は平成19年10月30日であるかるから、本件審判請求の登録前3年という本件における立証命題との観点からは、使用の証拠として不十分かつ不適切であり、直接的なものではない。また、乙第9号証の上部に記載されているのは「Wants」であって、「ウオンツ」という本件商標の使用とはいえないものである。
以上からすると、不使用取消審判においては、本件商標の使用の時期は重要な立証命題であるが、被請求人は、その点について、具体的に商品の使用と結びついた使用の証拠を何ら明確に提示できていない。
(5)結論
以上に述べたとおり、被請求人自身の使用は見当たらず、また、請求人は商標使用権の許諾を受けていない。請求人の使用は特定小売役務の使用であって、個々具体的商品に商標を付しての使用はしておらず、また、被請求人の示す乙各号証は使用の日付についての立証が暖昧もしくは欠落しており、到底採用できるものとはいえない。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第9号証を提出している。
(1)本件商標は、以下のとおり、商標権者及び通常使用権者により本件審判請求の登録日である平成19年7月10日前の3年以内に使用されている。
(2)本件商標は、商標権者である被請求人がクローバーより譲り受け、平成19年4月26日付けで登録名義人変更登録がなされたものである。
道下薬局(被請求人の旧名称)は、道下和民(以下「A」という。)により昭和33年10月2日に設立された(乙第1号証)。Aの他界により、Aの娘のBの夫であるCが昭和63年4月に道下薬局の代表取締役となった(乙第2号証第13頁)。その後、同社の営業権を分離独立させ、平成7年4月11日に請求人である株式会社ハーティーウオンツが設立され、Cが請求人の代表取締役となった(乙第2及び第3号証)。これにともない、Cは被請求人の取締役になり、Cの妻であるBが被請求人の代表取締役となった。そして、Cは平成17年12月29日まで、被請求人の取締役を務めた。Cは、請求人が設立されて以来現在まで代表取締役を務めており、その妻であるBは、請求人の取締役となり、平成17年6月28日まで請求人の取締役を務め、請求人の株式の約40%を現在でも所有し、さらに被請求人は請求人の株式の約5%を所有している(乙第2号証第3頁)。また、請求人の代表取締役であるCは、被請求人の株式の12%を所有している。
しかして、本件商標は、被請求人及び請求人によって使用されている。すなわち、請求人と被請求人は夫婦によって経営され、本件商標は請求人と被請求人によって使用されているのである。
(3)乙第4及び第5号証には、当該資料に係る会社として請求人と被請求人の両者が記載され、両者が紹介されている。被請求人と請求人は、本件商標の使用許諾について書面による契約を交わしていない。しかしながら、そもそも請求人は被請求人から分離独立して設立された会社であること、請求人と被請求人の各代表取締役が夫婦であることや、さらに、両者が互いの取締役になっていたこと、被請求人の代表取締役が請求人の株式の40%を所有し、さらに被請求人が請求人の株式を5%所有していること、請求人の代表取締役が被請求人の株式の12%を所有していること、及び両者の沿革からもわかるように、もともと商標「ウオンツ」は両者で使用することを意図して採用されたものであり、被請求人は請求人に商標「ウオンツ」の使用を許諾してきたのである。
したがって、書面による契約書は存在しなくとも、請求人は本件商標についての通常使用権者であるということができる。
(4)しかして、乙第4及び第5号証は、請求人及び被請求人の会社案内であるとともに店舗及び商品に関する広告である。そして、その広告物には、本件商標の指定商品であるドラッグストアが記載されている。
乙第6号証は、請求人が経営するドラッグストア「ウォンツ/Wants」の店舗及び看板の写真であり、そこには取り扱い商品として「日用品」の記載がなされている。
乙第7号証は、被請求人のホームページからの抜粋であり、ここには95の店舗があることが記載されている。
乙第8号証は、請求人が経営するドラッグストアの看板及び店内の写真であり本件商標の指定商品中の手動利器に属する商品「はさみ」が陳列されている。
乙第9証は、これを購入した際に発行されたレシートである。このレシートの日付は、審判請求の登録日より後であるが、乙第4ないし第7号証の記載及びドラッグストアが日用品や台所用品等日常生活において使用する商品を広く一般に扱っていること等から総合して判断すれば、被請求人が本件商標を譲り受けた後から本件審判請求の登録日までの間においても指定商品について使用されていたことは明らかである。
(5)以上述べた理由により、本件商標は、商標権者及び通常使用権者により、本件審判請求の登録前3年以内に指定商品について使用されていたものであるから、商標法第50条第1項の規定により、その登録を取り消されるべきものではない。
よって、本件審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る乙号証について
被請求人は、本件商標は商標権者たる被請求人及び通常使用権者としての請求人の両者により使用されているとして証拠を提出しているので、提出に係る各乙号証について検討する。
(1)乙第1ないし第3号証は、被請求人又は請求人の登記簿の履歴事項全部証明書の写し及び株式会社帝国データバンクの作成に係る「調査報告書」の写しと認められるところ、これらによれば、以下の事実が認められる。
(ア)被請求人は、平成13年1月22日に「株式会社道下薬局」から現商号に変更登記された。
(イ)Cは、昭和63年4月に道下薬局の代表取締役に就任したが、その後、平成7年4月11日に請求人が設立された際に、請求人の代表取締役に就任し、同時に被請求人の取締役となり平成17年12月29日まで兼務し、現在も請求人の代表取締役を努めている。
(ウ)Bは、上記請求人の設立に伴い、被請求人の代表取締役に就任し、同時に請求人の取締役となり平成17年6月28日まで兼務し、請求人の株式の約40%を所有している。Bは被請求人の代表取締役を現在も努めている。
(エ)被請求人は、請求人の株式の約5%を所有している。
(2)乙第4号証は、「夢は一緒です。いよいよ第2ステージへ」と題するパンフレットの写しと認められるところ、その内容は請求人及び被請求人のドラッグストア及び会社案内ともいうべきものであり、代表取締役としてのCの挨拶文が掲載されると共にドラッグストア等について説明され、従業員等のコメントも掲載され、「ハーティウォンツの取り扱う商品は、医薬品・健康食品・化粧品・ベビー用品・日用雑貨と多岐にわたる」旨記載されているが、具体的な個々の商品についての記載はない。
当該パンフレットの裏表紙には、「株式会社道下薬局」及び「株式会社ハーティウォンツ」の文字が住所と共に連記され、その上部に図形と二段書きされた「Hearty Wants」及び「ハーティウォンツ」の文字とからなる標章が表示されているが、印刷・発行日を確認し得る記載は見当たらない。
(3)乙第5号証は、「美と健康をサポートする、地域のベストパートナーでありたい夢の大きい企業です」と題するパンフレットの写しと認められるところ、これには、代表取締役としてのCの挨拶文が掲載されると共にドラッグストアの店舗写真が掲載され、会社やドラッグストア、従業員等について説明されているが、具体的な個々の商品についての記載はない。当該パンフレットの表紙最下段には、図案化された「Hearty Wants」の文字が記載され、裏表紙には、図形と二段書きされた「Hearty Wants」及び「ハーティウォンツ」の文字とからなる標章が表示されているが、印刷・発行日を確認し得る記載は見当たらない。
乙第5号証の最後に「募集要項」と題する両面印刷の一枚紙が添付されているが、上記パンフレットには一連の頁数が付されているのに対し、該一枚紙には頁数の記載がないことから、該パンフレットと一体のものとは認め難く、別途印刷されたものとみるのが自然である。なお、この一枚紙には、その表側左下に図形と二段書きされた「Hearty Wants」及び「ハーティウォンツ」の文字からなる標章が表示されており、会社概要欄に請求人の名称が記載され、従業員及び店舗数については「2005年1月現在」と記載され、事業内容として「医薬品・健康食品・化粧品・日用雑貨・ベビー用品小売」等と記載されているが、具体的な個々の商品についての記載はない。
(4)乙第6及び第8号証は、ドラッグストアの店舗及びその内部を撮影した写真と認められるところ、店舗の看板には、「Wants」及び「ウォンツ」の文字が記載されているほか、「くすり」、「化粧品」、「日用品」、「ベビー用品」の各文字等が併せて記載されている。店頭に設置された清涼飲料の自動販売機にも二段書きされた「ウォンツ」及び「Wants」の標章が表示されているが、店内に陳列された商品には「Wants」の表示も本件商標の表示もない。そして、この写真の撮影日、撮影者、撮影場所等を示すものは一切ない。
(5)乙第7号証は、請求人のインターネットホームページを2007年10月27日にプリントアウトしたものの写しと認められるところ、1枚目の左上に「Wants」の表示とそれに続いて「地域社会の夢と健康に奉仕するドラッグストア『ウォンツ』」との表示が見られるものの、それ以外に本件商標及び具体的な商品の記載はない。
(6)乙第9号証は、ドラッグストア「ウォンツ皆実町店」が2007年10月30日に発行した商品レシートの写しと認められるところ、最上部に「Wants」の標章が付され、商品の一つとして「コドモヨウハサミ アオ」が記載されている。
(7)以上の他に、被請求人が請求人に対し本件商標について使用許諾をしたことを具体的に示す証左はない。
2 使用許諾の有無及び本件商標の使用について
上記1において認定した事実及び両当事者の主張の全趣旨によれば、以下のように認定、判断するのが相当である。
(1)被請求人と請求人は、少なくとも平成17年6月28日及び同年12月29日頃までは役員をお互いに兼務するなどして良好な信頼関係にあったものと推認され、商標の使用許諾等については明示規定を置くまでもなかったものと推認される。しかし、請求人の主張によると、両当事者間には平成16年頃に紛争が顕在化し一部は訴訟にまで発展したのであり、平成17年末頃には両者間の信頼関係は破綻していたものと推認される。
加えて、両当事者の主張及び当庁備え付けの商標登録原簿の記載によれば、被請求人は平成19年4月26日に特定承継による本権の移転の登録をしたのであるから、その登録前は被請求人が本件商標の商標権者でないこと明らかであり、かつ、かかる移転の登録をする前の商標権者から被請求人又は請求人が本件商標の使用について許諾を受けていたことを示す証左もない。
そうすると、少なくとも平成19年4月26日前に被請求人が請求人に対して、本件商標の使用を許諾したものということはできない。
さらに、被請求人が商標権者となった同年4月26日には既に、請求人とは信頼関係が破綻していたとみるのが自然であり、その後に本件商標について黙示の使用許諾があったものともいい難いから、被請求人は本件商標についての使用を請求人に許諾したものとは認められず、請求人は本件商標に係る通常使用権者ということはできない。
(2)乙第4及び第5号証のパンフレットは、会社案内というべきものであり、具体的な商品について説明・記載したものではない。そして、これらのパンフレットの印刷・発行日は明らかでない。特に、乙第4号証には、被請求人の旧商号が記載されているのであるから、同人が商号変更した平成13年1月22日前に印刷・発行されたものとみるのがむしろ自然である。他に、乙第4号証のパンフレットが本件審判請求の登録日(平成19年7月10日)前3年以内に発行、頒布されたことを示す証左はない。
また、乙第5号証のパンフレットは、請求人によって発行されたものと認められ、被請求人は関与していないものといわざるを得ないし、それに続く一枚紙は、上記のとおり、該パンフレットとは別に印刷発行されたものとみるのが自然であるから、その一枚紙に「2005年1月現在」の表示があるとしても、そのことによって、該パンフレットが2005年1月に印刷発行されたものと認めることはできない。
さらに、上記一枚紙は、請求人による人材募集のための「募集要項」にすぎず、具体的な商品との関連性はなく、商品についての広告、取引書類等という性格のものではないから、その表側左下に標章が記載されているとしても、その標章が商品について使用されているということもできない。
しかも、乙第4及び第5号証のパンフレット中に表示された「Hearty Wants」又は「ハーティウォンツ」の標章は、一連一体のものとして認識し把握されるというべきであって、「ウオンツ」の文字からなる本件商標とは構成態様を異にするものであり、本件商標と社会通念上同一のものとはいえない。
(3)乙第6及び第8号証の写真は、撮影日、撮影場所、撮影者が一切不明であり、本件審判請求の登録前3年以内に存在していたものとは認められない。
したがって、上記写真中の看板に「Wants」及び「ウォンツ」の文字が記載されており、これらの文字が本件商標と社会通念上同一のものと認められ得るとしても、これをもって、本件商標が本件審判請求の登録前3年以内に使用されていたものと認めることはできない。
(4)乙第7号証のインターネットホームページの写し及び乙第9号証の商品レシートの写しも、本件審判請求の登録日後のものであるから、たとえ、これらに「Wants」又は「ウォンツ」の文字が記載されているとしても、本件審判請求の登録前3年以内における本件商標の使用を立証する証左となるものではない。
(5)結局、乙第4ないし第9号証によっても、本件商標がその指定商品について本件審判請求の登録前3年以内に使用されたことを認めることはできない。
(6)なお、被請求人は、請求人との間で係争中のロイヤリティ支払等請求事件が結審する見込みであり、その訴訟が確定すれば、本件審判の請求は取り下げられるものであるとして、審理の猶予を主張している。
しかしながら、被請求人の上記主張を裏付けるような請求人からの審理猶予の申し出が何らないばかりでなく、請求人が本件審判の請求を取り下げることを窺わせる証左もないものであるから、上記被請求人の主張は、独自の観測にすぎないとみるのが相当である。よって、被請求人の上記主張は、採用することができない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、被請求人の提出に係る証拠によっては、本件商標がその指定商品について本件審判の請求の登録前3年以内に使用されていたことを被請求人が立証したものとは認められない。
したがって、本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても、その指定商品について使用されていなかったものというべきであり、かつ、その使用をしていないことについて正当な理由があるものとも認められないから、商標法第50条第1項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2008-05-14 
結審通知日 2008-05-19 
審決日 2008-06-04 
出願番号 商願昭59-132346 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (113)
最終処分 成立  
特許庁審判長 中村 謙三
特許庁審判官 前山 るり子
末武 久佳
登録日 1987-09-21 
登録番号 商標登録第1986197号(T1986197) 
商標の称呼 ウオンツ 
代理人 横井 知理 
代理人 藤倉 大作 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 中村 稔 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 松尾 和子 

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