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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2013900294 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y43
審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない Y43
審判 全部無効 商品と役務の類否 無効としない Y43
管理番号 1206741 
審判番号 無効2009-890021 
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-03-03 
確定日 2009-10-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第5087657号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5087657号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、第43類「お好み焼きを主とする飲食物の提供」を指定役務として、平成18年8月10日に登録出願、同19年11月2日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第14号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 商標法第3条第1項柱書の該当性について
(1)請求人有限会社いせの取締役会長井畝満夫は、昭和25年頃個人企業として屋号「みっちゃん」の「お好み焼」飲食店を始めた。屋号「みっちゃん」は井畝満夫「イセミツオ」の「ミツオ」に由来するものである。
その後、井畝満夫は「お好み焼」を主として提供する屋号「みっちゃん」の有限会社いせを昭和56年1月26日に広島市中区八丁堀13番4号に設立し、昭和63年4月1日に広島市中区八丁堀6番7号に移転し、今日に至っている(甲第2号証ないし甲第4号証)。
そして会社設立当時の代表取締役井畝満夫は、平成9年7月7日代表取締役を辞任し、井畝満夫の妻の井畝美雪が代表取締役として就任し、現在に至っている。
(2)請求人は、サービスマーク制度が発足し、同日出願として取扱われる平成4年4月1日から同年9月30日までの特例期間内である平成4年9月29日に、別掲2のとおりの構成よりなる商標を、第42類「お好み焼きを主とする飲食物の提供」を指定役務として登録出願し、同8年7月31日に商標登録第3174587号として設定登録された。
また請求人は、店内で飲食する「お好み焼」のほかに平成12年頃からテイクアウト用の「お好み焼」の店頭販売を開始した。そして、請求人は、同商品の包装に別掲3のとおりの構成よりなる商標を使用し、この商標を、第30類「お好み焼」を指定商品として、平成17年10月14日に登録出願し、同18年6月19日に登録料を納付、同年7月14日に商標登録第4968878号として設定登録された。
(3)お好み焼に関しては、店内での飲食、テイクアウト、店の一角での店頭販売が一般的である。
したがって、請求人は「お好み焼」に関しては、商品「お好み焼」と「お好み焼」の店内飲食とは類似する商品及び役務と考えていた。このため、登録第4968878号商標の登録料を平成18年6月19日に納付した時点で、平成19年7月31日まであった登録第3174587号商標の更新登録料の納付を、経費節減のため見送ることにした。勿論、費用を倍額払えば平成20年1月31日まで更新出願をすることが可能であったが、その必要性無しと、平成18年6月19日の時点で判断していた。
(4)被請求人いせや有限会社の代表取締役井畝雅夫氏は、平成11年末迄、長期間に亘り、請求人の会社で従業員としてお好み焼を作るのに働いていた。
そして、請求人会社の暖簾分けを受けて、井畝雅夫氏は「いせや有限会社」を設立し、現在に至っている(甲第8号証)。
また、いせや有限会社の代表取締役井畝雅夫氏は、請求人有限会社いせの取締役会長(元代表取締役)井畝満夫の実弟である。
したがって、被請求人会社の代表取締役井畝雅夫氏は、商標「みっちゃん」が請求人会社の屋号および商標であること及び広島では非常に著名であることを良く知っていた。
ところが、被請求人は登録第3174587号商標の存続期間が終了した平成18年7月31日の僅か10日後の同年8月10日に「お好み焼きを主とする飲食物の提供」を指定役務として本件商標の登録出願をして、同19年11月2日にその登録を受けている。
なお、請求人と被請求人の飲食店の所在地は、歩いても500m離れていない。
(5)請求人の元従業員で現在は独立してお好み焼き店を営業している者は、分かっている範囲で、「一銭食堂」広島市中区東白島町、「貴家」広島市中区富士見町、「かんらん車」広島市中区猫屋町などとそれぞれ異なった店名を使用しており、いずれも「みっちゃん」を使用していない。
被請求人に店名として「みっちゃん」を認めているのは、現会長の実弟であり、暖簾分けしたからである。
しかし、被請求人の名前で、本件商標を出願し登録することまで予想していなかった。
被請求人主張の理由で出願したのならば、出願したときにその旨、請求人に知らせておくべきであったと考える。被請求人は、請求人が「みっちゃん」の店名を使用しているのを良く知っていたのであるから、少なくとも本件商標の出願を、出願前に請求人に通知していれば、請求人としても再考していたと考える。
(6)本件商標構成中の「お好み焼」の部分は、提供役務「お好み焼きを主とする飲食物の提供」に関しては識別力が無く(商標法第3条第1項第1号ないし第3号)、「みっちゃん」の部分は、広島市で著名であり、暖簾分けを認めた総本家の屋号に相当する部分であるから、民法第1条第2項及び第3項の信義誠実違反に該当し、商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る役務について使用する商標」とはいえないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効にされるべきものである。

2 商標法第4条第1項第11号の該当性について
本件商標は、上述したとおりの手続の経緯により登録されたものであるが、請求人の登録第4968878号商標(以下「引用商標」という。)はその先出願に係るものであって、両商標は類似しており、その指定役務も類似するものである。
(1)商標の類似について
本件商標と引用商標とを比較する。
本件商標の出願日は平成18年8月10日であり、引用商標の出願日は平成17年10月14日なので、引用商標は本件商標の先願である。
本件商標構成中の「お好み焼」の文字部分は、広辞苑(第6版 岩波書店)に記載された一般的名称であるので出所識別力がない。さらに、「お好み焼」は横書きの「みっちゃん」の上部に2段書で小文字で、楷書で「お好み焼」と横書きされており、「みっちゃん」が大文字で毛筆体で強調させているため、これに接した需要者は「みっちゃん」を強く認識することになり、本件商標の要部は「みっちゃん」である。
両商標の要部を比較すると、両商標とも、「みっちゃん」で、字数が5文字で、全文字がひらがなで、字体も毛筆体で、横書きであり、このうち「み、ち、ん」の3文字が大きく、「っ、ゃ」はの2文字が小さく表記されており、外観上類似する。また、ともに称呼は「ミッチャン」であるので称呼も同一である。さらに両商標はともに「みっちゃん」のひらがな表記であるので観念も同一である。
以上から、本件商標は、引用商標と類似する。
(2)商品と役務の類似について
本件商標の指定役務「第43類 お好み焼きを主とする飲食物の提供」と引用商標の指定商品「第30類 お好み焼」とを審査基準に記載された「商品と役務の類否判断基準」に照らすと、以下の(イ)ないし(ニ)の理由により、本件商標の指定役務と引用商標の指定商品とは類似する(甲第7号証及び甲第13号証)。
(イ)お好み焼きを提供する店は、来られたお客様から注文を受けた「お好み焼き」をその場で料理して店内で提供するとともに、来られたお客様から注文を受けた「お好み焼き」を「持ち帰り商品」として販売しているのが一般的である。例えば「麗ちゃん 炎の鉄板」(甲第12号証)に示すお好み焼き店においても、店内でのお好み焼きの提供と、お好み焼きの「持ち帰り」が同じ店で行われている。したがって、商品である「お好み焼きの製造・販売」と、役務の提供である「お好み焼きを主とする飲食物の提供」が同一事業者によって行われるのが一般的である。
(ロ)お好み焼きを購入した需要者は例えば自宅でお好み焼きを食し、またお好み焼きの提供を受けた来店者は店内でお好み焼きを食する。したがって、「お好み焼き」の商品の用途と、「お好み焼きを主とする飲食物の提供」の役務の提供の用途とは一致する。
(ハ)お好み焼きを提供する店は、来られたお客様から注文を受けた「お好み焼き」をその場で料理して店内で提供するとともに、来られたお客様から注文を受けた「お好み焼き」を「持ち帰り商品」として販売しているところも多い。したがって、商品である「お好み焼き」の販売場所と、役務の提供である「お好み焼きの持ち帰り」場所は一致する。
(ニ)お好み焼き店の店内でお好み焼きを注文して食する需要者と、お好み焼き店に来てお好み焼きを注文し持ち帰る需要者とは、ともにお好み焼きを食したいと欲する需要者である。したがって、「お好み焼き」の役務を受ける需要者と、「お好み焼き」の商品を購入して持ち帰る需要者とは、需要者の範囲が一致する。
(ホ)請求人は、お好み焼きの役務の提供をしている同一店舗で、ショーケース等に展示した見本のお好み焼きと同じものを、その場で新たに見本通りのものを作り、自己の商標を印刷した包装紙で包んで、持ち帰り用商品として販売している。
したがって、甲第6号証の1ないし3の登録商標の指定商品に対し、本件商標の指定役務は、類似商品及び役務の関係にあり、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)取引実情
広島市の東区、中区、南区の電話帳(平成20年度版の231ページないし233ページ(甲第9号証)に掲載されている「お好み焼き店」の数は約400店あり、その中で「みっちゃん」は需要者の間では周知の店である。例えば、インターネットで「広島お好み焼き」で検索して表示された「お好み焼きランキング」には「5つ星グルメ評論」の10/24ページに「みっちゃん」について「誰もが知る超有名店」「お好み焼き屋さんとしては広島一の大型店といっていいだろう」と掲載されている(甲第10号証)。
また、請求人は昭和56年1月23日に広島市中区八丁堀13番4号に会社を設立し(甲第2号証及び甲第3号証)、昭和63年4月1日に広島市中区八丁堀6番7号に移転し今日に至っている(甲第4号証)。一方、被請求人は平成12年1月18日に広島市中区紙屋町一丁目6番1号に会社を設立した(甲第8号証)。八丁堀の審判請求人の店と紙屋町の本件商標登録人の店とは直線距離で450m弱しか離れていない(甲第11号証)。
したがって、本件商標の看板を目にした需要者は、請求人所有に係る引用商標の店と誤認混同を生ずる懸念がある。

3 商標法第4条第1項第15号の該当性について
(1)標章の類否
請求人が使用している権利消滅した登録第3174587号商標と本件商標とを比較すると、本件商標の要部は前述したように「みっちゃん」の部分であるから、両標章は「みっちゃん」で、字数が5文字で、全文字がひらがなで、字体も毛筆体で、横書きであり、このうち「み、ち、ん」の3文字が大きく、「っ、ゃ」の2文字が小さく表記されており、外観上類似する。また、ともに称呼は「ミッチャン」であるので称呼も同一である。さらに両商標はともに「みっちゃん」のひらがな表記であるので観念も同一である。
(2)役務の類否
請求人がお好み焼き店においてお好み焼きを店内で提供したり、お好み焼きの店頭販売する業務は、本件商標の指定役務「お好み焼きを主とする飲食物の提供」と同一又は類似である。
請求人は昭和56年1月23日会社設立のときより、商公平7-105380号公報掲載の権利消滅した登録第3174587号商標(甲第5号証の2)を使用している。そして、請求人は広島市内にお好み焼き店を4店展開していることは広島市においては周知である。
(3)混同のおそれ
被請求人の会社設立は請求人の会社設立から約19年遅れて平成12年1月18日になされ、かつ請求人の店から直線距離で450m弱しか離れていない場所である広島市中区紙屋町一丁目6番1号に設立した。
したがって、お好み焼きを食したいという需要者が、「お好み焼き みっちゃん」の看板を目にしたとき、審判請求人のお好み焼き店と関連のあるお店の一つであるという出所の誤認混同を生じる懸念がある。
さらに、被請求人は、登録第3174587号商標の商標権が消滅した日の平成18年7月31日からわずか10日後にあたる平成18年8月10日に本件商標を出願している。このことは登録第3174587号商標の商標権が更新されず消滅したことを確認して直ちに出願したものと思われ、被請求人による出願には、請求人が有する「みっちゃん」なる商標の広島における周知性ただ乗りしようとしたものと思わざるを得ない。つまり、審判被請求人は、審判請求人が使用している「みっちゃん」の周知性ただ乗りしようとして、審判請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあることを認識して商標登録出願したものと考えられる。
(4)平成21年4月9日発行の「中国新聞」7ページには、高木潤記者の記事として、「カルビー(東京)は、広島の人気お好み焼き店『みっちゃん総本店』(広島市中区)が監修した『ポテトチップスみっちゃん広島お好み焼味』を発売した。表面にお好み焼き用のソースを塗り、瀬戸内海産の青のりを載せた。みっちゃん総本店の井畝満夫会長からソース味の濃さなどで指導を受けた。」と掲載されている(甲第14号証)。
このことから明らかなように、請求人は「みっちゃん」の店名で、広島市においては超有名なお好み焼店である。
被請求人に対し暖簾分けで認めた業務内容と本件商標権とは無関係であり、本件商標権に関しては、被請求人に対し、請求人は商標法第4条第1項第15号の他人に該当すると考える。
(5)以上によれば、本件商標は、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に該当するので、商標法第4条第1項第15号に該当する。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
本件審判請求書における「請求の理由」を整理すると、
1 請求人の登録第3174587号商標「みっちゃん」(商公平7-105380号)〔指定役務は、旧第42類の「お好み焼きを主とする飲食物の提供」〕は、請求人が更新申請時期に、経費節減のため必要性がないと判断し、更新申請をしなかったため、当該権利は消滅した。
2 その更新申請をしなかった理由は、同一商標「みっちゃん」〔指定商品は、第30類の「お好み焼」〕が登録されたため、この登録商標で、第42類の「お好み焼きを主とする飲食物の提供」に使用している「みっちゃん」もカバーでき、該商標と類似するものと判断した。
3 その後、被請求人は、登録第3174587号商標と類似する本件商標を、第43類「お好み焼きを主とする飲食物の提供」を指定役務として登録出願し、設定登録を受けた。
4 それを不服として、暖簾分けした弟の本件商標について無効審判を請求した。
とのことである。
しかしながら、これらの請求人による各主張は、商標法上、認められるものではない。
(1)商標法第3条第1項柱書の該当性について
請求人は、請求書の4ページ下から5行目、5ページ12行目に、それぞれ「暖簾分け」と述べているが、そもそも、「暖簾分け」とは、広辞苑〔乙第1号証〕によると、「長年忠実に勤めた奉公人に、店を出させて同じ屋号を名のることを許すこと。」とあり、したがって、条理によると、その奉公人が、例え、他人であっても、暖簾分けの段階で同じ屋号を名のることを許されたものである。
たしかに、本件請求人と被請求人とは、それぞれ別法人であり、この関係で法律的には他人であっても、それぞれ法人の前代表者と法人の代表者とは個人的には、切っても切れない兄と弟の関係にあり、また、請求人の現代表者とは、義姉弟の関係にあり、古くからお好み焼きにおける「みっちゃん」ブランドを守り育て、地元の他のお好み焼き店グループやお好み焼き店やに対して、暖簾をまもり、両者は、商品・役務の品質の誤認や、出所の混同など生じないよう守り続けている者同士である。
このような関係からして、奉公人であった本件の被請求人に対して、元雇い主である本件請求人は、旧第42類の「みっちゃん」の商標権存続期間満了時に際しては、暖簾分けした元奉公人らが今後も安心して営業を継続できるよう、率先して更新手続きをしておくことが必要であった。
それは、元雇い主である請求人が暖簾分けした元奉公人である被請求人に対しての義務であり、これこそが請求人の述べる民法第1条第2項及び第3項の「信義誠実」の原則であると思料する。
被請求人は、請求人が更新申請を断念されたことに畏怖を感じ、本件商標である「お好み焼/『みっちゃん』」を登録することにより、同商標が、第三者に取られることを阻止するため、緊急避難的に出願し、登録をしたものである。
このことは、商標法においても、更新申請をせずに存続期間が満了した商標と同一の商標を、他人が出願し、登録することに対して、禁止しているわけでもなく、適法に取得しており、何ら、商標法上、問題もなく、不正競争防止法上も問題はないものと確信する。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に該当せず、同法第46条第1項第1号により、無効にされることはない。

(2)商標法第4条第1項第11号の該当性について
本件請求人は、指定商品の第30類の「お好み焼」と、指定役務の第43類の「お好み焼きを主とする飲食物の提供」とを比較検討しているが、それは徒労に過ぎない。
すなわち、法は、第30類の「お好み焼」と、指定役務の第43類の「お好み焼きを主とする飲食物の提供」との間に、他類間類似は認めていないことは明らかである。
類似する場合の例として、例えば、本件と同じ第30類における「砂糖」は、第1類の「人工甘味料」及び第5類の「乳糖」と類似するとして、他類間類似を規定している。このように、法は、商品が紛らわしいと判断した場合には、他類間であっても類似としている。しかしながら、第30類の「お好み焼」はもちろん、「すし」、「ラーメン」、「うどん」に関しても、第43類の「飲食物の提供」とは類似しないのが実状である。
以上、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定にも該当せず、同法第46条第1項第1号により、無効にされることはない。

(3)商標法第4条第1項第15号の該当性について
本件の被請求人は、広島市内では、下記の4店舗にて営業を行っている。 〔住所〕広島市中区紙屋町1丁目6番1号〔店名〕紙屋町本店、〔住所〕広島市中区胡町5番26号〔店名〕えびす店、〔住所〕広島市中区大手町地下街312号〔店名〕シャレオ店、〔住所〕広島市中区紙屋町2丁目2番18号〔店名〕サンモール店、そして、郊外では、〔住所〕広島県豊田郡本郷町大字善入寺平岩64-31〔店名〕広島空港店と広島空港の空港ビル内でも営業し、県内5店舗にて盛業中である。
本件請求人は、審判請求書でも述べているとおり、被請求人に対して、暖簾分けをしたものであり、今更、出所の混同を持ち出すのは、民法の原則である「信義誠実」の原則に悖るものである。
もともと、第30類の「お好み焼」と、第42類(現在第43類)の「お好み焼きを主とする飲食物の提供」とが、類似関係にないにも係わらず、該登録商標の存続期間の更新手続きを、経費節減のため見送ることにしたのであれば、民法第1条の信義誠実より派生する「禁反言」の原則があるように、請求人は、後に発生する不測の事態よりも、審判請求書に記載のある「経費節約を優先し・・・」、「お好み焼きを主とする飲食物の提供」に対して、独占権である登録第3174587号商標を放棄してしまったのであり、無効審判請求をすること自体が、意味が不明である。
この更新申請を見送った登録商標(甲第5号証の2)に関しては、出願時には代理人も付いており、代理人に相談すれば、第30類の「お好み焼」と、第42類(現在第43類)の「お好み焼きを主とする飲食物の提供」とが、類似関係にないこと及び更新登録をしておくことの大切さについてのアドバイスも充分受けられたはずである。
さらに、被請求人は、請求人より暖簾分けを許された関係から、第30類の「お好み焼」については、請求人の登録商標「みっちゃん」の商標は使用するものの、請求人とは、出所の混同をさけるため、名刺(乙第2号証)をはじめ、看板には「みっちゃん/いせや」と記載して使用している。
以上、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定にも該当せず、同法第46条第1項第1号により、無効にされることはない。
したがって、本件商標について、請求人の主張するすべての無効理由はない。

第4 当審の判断
1 商標法第3条第1項柱書の該当性について
請求人は、被請求人が本件商標を登録出願した行為は、広島市で著名な暖簾分けを認めた請求人の有名商標「みっちゃん」を無断でしたものであるから、民法第1条第2項及び第3項の信義誠実に該当し、商標法第3条第1項柱書の自己の業務に係る役務について使用する商標とは言えないない旨主張しているので、この点について検討する。
被請求人が本件商標の登録出願をしたのは、被請求人会社の代表取締役井畝雅夫の実兄井畝満夫が代表者であった請求人会社の「お好み焼きを主とする飲食物の提供」を指定役務とする商標「みっちゃん」の商標登録第3174587号に係る商標権の存続期間が満了して同商標権が消滅した平成18年7月31日の後である同年8月10日であることが認められる。
被請求人会社の代表取締役井畝雅夫は、実兄の経営する請求人会社で永年お好み焼きの仕事に従事していたが平成11年末に同社を退職し、請求人会社の暖簾分けを受けて、平成12年1月18日広島市に被請求人会社を設立し、「みっちゃん」の文字を含む商標を使用して、お好み焼き店を広島市内に4店舗のほか郊外の広島空港ビル内の1店舗を併せて計5店舗で営業していることが認められる(甲第8号証及び甲第9号証、乙第2号証)。
そして、請求人が前記商標登録第3174587号に係る商標権の存続期間の更新登録をしなかったのは、商品「お好み焼」と役務「お好み焼きの提供」とは類似するから、いずれか一方について商標権があれば他の商品又は役務にまで保護の範囲が及ぶと考えていたこと、第30類「お好み焼」を指定商品とする商標「みっちゃん」の商願2005-096011(後の商標登録第4968878号)について登録査定がなされていたので登録料さえ支払えば登録されることが見込まれていたこと及び経費節減を削減できると考えたことを理由に、同登録出願の登録料を納付した平成18年6月19日の時点で商標登録第3174587号の更新登録料の納付を見送ることにしたためである。
このような事情の下で、被請求人が本件商標の登録出願をし商標登録を取得したことは、請求人会社の暖簾分けに伴い請求人から登録第4968878号商標「みっちゃん」の使用が認められ、その後相当期間が経過し、5店舗で行っている「お好み焼きの提供」の営業について、「みっちゃん」の商標を安心して継続使用できるようにするため、請求人が更新登録をすることが理想であるとしても、請求人が更新登録をしないためやむを得ず講じた安全策といえるものであって、被請求人が本件商標の登録出願をし商標登録を取得した一連の行為を信義誠実の原則に反する行為又は権利を濫用する行為とはいえないものである。
請求人は、被請求人が本件商標を自己の業務に係る役務について使用するものとは言えないない旨を主張する一方、請求人会社の暖簾分けを受けて、井畝雅夫氏は「いせや有限会社」を設立し、現在に至っている(甲第8号証)(請求書4ページ下5行ないし4行)との主張、請求人と被請求人の飲食店の所在地は、歩いても500m離れていない(請求書5ページ8行)との主張、八丁堀の請求人の店と紙屋町の被請求人の店とは直線距離で450mしかはなれていない(甲第11号証)(請求書8ページ2行ないし4行)との主張及び被請求人に店名として「みっちゃん」を認めているのは、現会長の実弟であり、暖簾分けしたからである(弁駁書2ページ5行ないし6行)との主張をしており、被請求人が「お好み焼きを主とする飲食物の提供」を行っていることを知っていると解される。
これらに加え、請求人の提出した平成20年版広島市の電話帳「グルメ(お好み焼き店)」部分の233ページ(甲第9号証)には「みっちゃん・いせや」として紙屋町店、胡町店、シャレオ店及びサンモール店の電話番号が掲載されていることが認められ、また、被請求人の提出した被請求人会社代表者の名刺裏側(乙第2号証)には、「広島名物/お好み焼/みっちゃん/いせや」の表示を左側にし、右側には紙屋町本店、えびす店、シャレオ店、サンモール店のほか広島空港店の住所・電話番号が表示されていることが認められる。
したがって、被請求人は平成12年1月18日広島市に被請求人会社を設立した当初より現在に至るまで、「みっちゃん」の文字を含む商標を「お好み焼きを主とする飲食物の提供」に使用していたものと認められるから、本件商標は商標法第3条第1項柱書の自己の業務に係る役務について使用する商標とは言えないない旨の請求人の主張は採用することができない。
なお、請求人は、請求書2ページ16行及び17行において「[3]無効原因[3.1]商標法第3条第1項第1号に該当」と記載するが、この点については、具体的事実の主張がなされていないので判断することができない。

2 商標法第4条第1項第11号の該当性について
本件商標の指定役務は、第43類「お好み焼きを主とする飲食物の提供」であるのに対し、引用商標の指定商品は、第30類「お好み焼」である。
そこで、「お好み焼きを主とする飲食物の提供」と「お好み焼き」との類否について検討する。
商標法第2条第6項には、「この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。」と規定され、「類似商品・役務審査基準」(甲第7号証、甲第13号証)には、「商品と役務の類否を判断するに際しては、例えば、次の基準を総合的に考慮した上で、個別具体的に判断するものとする。ただし、類似商品・役務審査基準に掲載される商品と役務については、原則として同基準によるものとする。(イ)役務の提供と商品の製造、販売が同一の事業者によって行われているのが一般的であるかどうか。(ロ)役務と商品の用途が一致するかどうか。(ハ)役務の提供場所と商品の販売場所が一致するかどうか。(ニ)需要者の範囲が一致するかどうか。」と記載されている。
そして、上記「類似商品・役務審査基準」において、飲食物の提供の役務と該飲食物の商品とは、類似の関係にあるとする例示の掲載は一件もなく、
「お好み焼きを主とする飲食物の提供」と「お好み焼き」との関係についても、具体的に掲載していないことから、一般的には非類似の関係にあるものとしていると解されるものである。
請求人は、お好み焼きに関しては、店内での飲食、テイクアウト、店の一角での店頭販売が一般的であるとし、これを立証するものとして、中国新聞の開設するウェブサイト「炎の鉄板」掲載のJR広島駅ビルにあるお好み焼き店「麗ちゃん」(甲第12号証)を提出しているが、同店舗では「持ち帰り 可(容器無料)」と掲載されていることが認められ、甲第10号証によれば請求人も「お好み焼きを主とする飲食物の提供」と「お好み焼き」の商品販売をしていると認められるが、この程度の証拠方法のみによって、前記類似商品・役務審査基準の商品と役務の類否を判断する際の基準(イ)ないし(ニ)が一致するものとして、日本全国において、役務の提供と商品販売が同時になされている実状が一般的に行われていることを認定するのは困難である。
そうすると、「お好み焼きを主とする飲食物の提供」と「お好み焼き」とは類似するとはいえず、非類似の関係にあるといわざるを得ない。
したがって、本件商標の指定役務と引用商標の指定商品とは非類似として扱わざるを得ないものであるから、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当する旨の請求人の主張は採用することができない。

3 商標法第4条第1項第15号の該当性について
商標法第4条第1項第15号は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであって、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」を登録できないと規定している。
ところで、広島市において「みっちゃん」の商標は、昭和25年頃より井畝満夫がお好み焼き飲食店の屋号として使用を開始し、昭和56年1月からは井畝満夫が設立した請求人会社が少なくとも八丁堀総本店、福屋店及び新幹線口店の3店舗(甲第9号証)の店名及び「お好み焼きを主とする飲食物の提供」の商標として現在まで継続して使用しているが、平成12年1月からは請求人会社で永年お好み焼きの仕事に従事していた井畝満夫の弟井畝雅夫が請求人会社から暖簾分けを受けて被請求人会社を設立し市内4店舗及び郊外の広島空港1店舗の計店舗の店名及び「お好み焼きを主とする飲食物の提供」について請求人会社とともに相当の期間使用していることが認められる。
インターネット「お好み焼きランキング 5つ星グルメ評論 ?広島風お好み焼き編? 更新日2007年年8月」(甲第10号証)の「みっちゃん」については、評論の冒頭に「誰もが知る、超有名店。かつ、姉妹店を多く持つ、企業体。・・・お好み焼き屋さんとしては広島一の大型店といっていいだろう。」と掲載している。
これらの事実からすれば、本件商標について登録出願がなされた平成18年8月10日及び登録査定がなされた同19年9月28日当時、広範囲にわたる周知性は認められないが、広島市においては少なくとも「お好み焼きの提供」について「みっちゃん」の商標は周知性を獲得していたものと認められる。
請求人は、請求人の使用する商標「みっちゃん」が広島市で著名であると主張しているが、上述したとおり、平成12年1月18日からは被請求人も請求人会社から暖簾分けを受けて適法に商標「みっちゃん」の使用をしているところ、請求人は被請求人の使用開始前に周知性を獲得していたこと又は被請求人の使用が周知性獲得に貢献していないことを主張・立証していないので、被請求人の使用が周知性獲得に大きく貢献してきたと解されるばかりでなく、広島市における需要者も前記「5つ星グルメ評論」において「姉妹店を多く持つ、企業体」と記載していることにみられるように、本件商標の出願前より広島市の需要者には、請求人会社の店舗の使用する「みっちゃん」と被請求人会社の店舗の使用する「みっちゃん」とを区別することなく、緊密な営業上の関係を有する姉妹店又は同一の表示による事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務のように理解されていたと解されるので、本件商標の登録出願時及び登録査定がなされた当時、請求人の使用する商標「みっちゃん」のみが著名であるとの主張は採用することができない。
また、請求人は、本件商標は需要者が請求人のお好み焼き店と関連のあるお店の一つであるという出所の誤認混同を生じる懸念がある旨主張しているが、この問題は被請求人が本件商標の登録出願をし商標登録を取得したことに直接的原因があるのではなく、請求人会社が被請求人会社の代表者井畝雅夫に暖簾分けをして「みっちゃん」の屋号及び商標の使用をお好み焼きの提供などに認めたこと及び請求人が登録第3174587号商標「みっちゃん」に係る商標権の存続期間の更新登録をせず被請求人の経営に不安を与えたことにあり、本件商標の出願前より広島市の需要者は、上述したとおり、請求人会社の店舗「みっちゃん」と被請求人会社の店舗「みっちゃん」とを姉妹店と理解しており、被請求人が、「みっちゃん」商標の使用状況を変更することなく、本件商標の登録出願をし商標登録を取得したことによって、新たに被請求人の提供する役務と請求人の提供する役務とが混同することはないというべきであるから、この点の主張も採用できない。
更に、請求人は、被請求人の出願行為は請求人が有する「みっちゃん」なる商標の広島における周知性ただ乗りしようとしたものである旨主張しているが、広島市における「お好み焼きの提供」について商標「みっちゃん」の周知性は被請求人の業績のみに基づくものではなく、被請求人は適法に商標「みっちゃん」の使用を平成12年より開始し本件商標の登録出願当時はもとより現在も継続して使用しており、本件商標の登録出願をしなければならなかった理由も、請求人が登録第3174587号商標「みっちゃん」に係る商標権の存続期間の更新登録をしなかったため、被請求人が既に使用をしている「みっちゃん」の商標を安心して継続使用できるようにするためにしたものと認められるものであるから、この点の主張も採用の限りでない。 したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標とは認められず、商標法第4条第1項第15号に該当しないものである。

4 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第11号及び同第15号のいずれにも違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 (本件商標)

(色彩については原本参照)

別掲2 (請求人の権利消滅した登録第3174587号商標)


別掲3 (引用商標)



審理終結日 2009-09-01 
結審通知日 2009-09-04 
審決日 2009-09-15 
出願番号 商願2006-74961(T2006-74961) 
審決分類 T 1 11・ 18- Y (Y43)
T 1 11・ 265- Y (Y43)
T 1 11・ 271- Y (Y43)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 板谷 玲子 
特許庁審判長 鈴木 修
特許庁審判官 平澤 芳行
井出 英一郎
登録日 2007-11-02 
登録番号 商標登録第5087657号(T5087657) 
商標の称呼 オコノミヤキミッチャン、ミッチャン、ミッ 
代理人 古田 剛啓 
代理人 田村 善光 
代理人 三原 靖雄 

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