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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y30
審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y30
管理番号 1206731 
審判番号 無効2009-890020 
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-26 
確定日 2009-10-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第5044714号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5044714号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5044714号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1に示したとおりの構成からなり、平成18年6月26日に登録出願され、第30類「かつお節を使用した液体だし調味料」を指定商品として、平成19年4月27日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用した登録第4697198号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2のとおり、「追いがつお」の文字を毛筆風書体で縦書きしてなり、平成12年2月25日に登録出願され、平成15年5月21日に商標法第3条第2項の要件を具備するものとして登録すべき旨の審決がなされ、第30類「かつおを使用してなるつゆ」を指定商品として、同年8月1日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし第13号証(枝番を含む。但し、枝番の全てを引用する場合は、その枝番の記載を省略する。)を提出した。
1 請求の理由
(1)本件商標と引用商標の類似性について
本件商標は、別掲1とおり、左上に被請求人のハウスマークの表示が存するとしても、被請求人が数十種類の「だし」や「つゆ」を製造販売している実情からすると(甲第3号証)、中央部に大きく表された「だし」の文字は指定商品そのものであり、また、右側の四角内に表された「液体」の文字も、この「だし」が液体であることを説明しているにすぎないから、本件商標を付した商品を特定する場合、取引者、需要者は、中央に記載された「追い鰹」の表示に頼らざるを得ないのである。
したがって、本件商標は、この「追い鰹」の文字が、中央に大きく書され、かつ、被請求人の商品群を識別するための識別標識として十分機能する部分というべきであるから、該文字部分に照応して「オイガツオ」の自然な称呼をも生ずる商標である。
これに対し、引用商標は、別掲2のとおり、「追いがつお」の文字を毛筆体で記載してなるところ、「オイガツオ」としか読み得ない構成の商標であるから、両者は、称呼及び観念上、類似する商標といわざるを得ない。
そして、本件商標の指定商品「かつお節を使用した液体だし調味料」と、引用商標の指定商品「かつおを使用してなるつゆ」とは、生産者、販売者、取引者及び需要者のすべてを共通にする類似商品である。
したがって、本件商標は、引用商標とは商標において明らかに類似し、指定商品においても類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、商標法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
(2)本件商標の登録査定時における識別力について
ア 引用商標の著名性の持続
引用商標は、1991年に使用が開始され、甲第4号証末尾にあるグラフの如く右肩上がりに売り上げが伸びており、この開始時期については甲第5号証及び第6号証のテレビ広告の開始時期や、甲第7号証の販促物の製造年度等からも理解できるものと思われる。
また、その著名性については、甲第8号証に挙げたPOSデータにおける金額ベースの順位及び甲第9号証に挙げた容量ベースの順位の如く、商品「追いがつおつゆ」は「めんつゆ市場」において、金額・容量の両面から8?9年間1位を独占し、これと併存して2001年商品「クッキング追いがつお」を発売、更に、2007年商品「追いがつお節つゆ」を発売し、「追いがつお3兄弟」といわれるシリーズ商品として、後発の2商品も150?180以上の競合商品群中で、30?50位の好位置につけているところである。
イ 他社の競合商品のネーミング
甲第8号証及び第9号証のランキングは、競合商品が、1996.12-2000.11「186品目」、2001.12-2002.11「183品目」、2003.12-2006.11「170品目」、2006.8-2007.8「151品目」の如く、極めて数多くの商品が登場したが、本件商標が登録査定を受けた時点(2007年3月19日)においても、安定した上位を占め、識別性が保たれていたことが証明されているものである。
これらPOSデータ表に掲載された使用商標は、ほとんどが社名に品質表示用語又は普通名称を結合したものが多いとしても「オイガツオツユ」のように、「ビミサン」、「ソノママツユ」、「シキツユ」、「カデンツユ」、「メンドロボウ」及び「シキノイロドリ」等、同じ欄に識別力が認められると思われる商標も多く含まれており、これにより各社の商品ランキングが識別されており、これらと同等の欄に記載されたことが、直接、識別力の解釈に影響するものでもない。
そして、これだけ多種類の、かつ、10年間の各社の使用商標を見ても、「追いがつお」なる使用例は、他に1社も見当たらないところである。
第3条第2項適用商標の観念
引用商標は、その出願時の拒絶査定において指摘された事実は現在でも残っており、当時、職人間で僅かに使用されていた「料理用語」の「古語」に属する使用であり、これが「ファーストミーニング」であることは否定しないところである。
しかるに、これは料理上使用される「料理用語」としての意味合いであり、こと「調味料関連商品」の業界用語に限れば、請求人の使用の結果、請求人の「めんつゆ」商品を指し示す識別力ある「商標」として認識され「商標法第3条第2項」の適用がなされ、その事実状況から独占使用が認められたものである。
したがって、「料理用語」として使用される場合には、ファーストミーニングで理解されるとしても、同一称呼で、かつ、その意味合いを商品「めんつゆ又はこれに類似する『だし』」等に使用した場合には、請求人の製造販売する商品を想起させるのであり、その観念が「料理用語」として通用するか否かと、セカンダリーミーニングとして商品の出所の混同の領域で判断されるか否かとは、全く分けて判断がなされなければならない。
エ 現在の識別性
甲第10号証の1は、2009年2月4日抽出の「追いがつお」をキーワードとした検索エンジン「google」での結果で、283,000件ヒットしたが、重複排除され477件がプリントアウトできた。
甲第10号証の2は、甲第10号証の1の不明確なウェブのサイトを一部除いたものであり、甲第10号証の3は、甲第10号証の1を一覧表にまとめたものである。
この結果、甲第10号証の3の上部にも記載してあるように、
289件が請求人の商品を示したサイト
44件が市場商品名「追いがつお」を用いるもメーカー不明のもの
36件が料理用語として使用しているが語意を解説しているもの
79件が料理用語として使用しているもの
17件が戯れ語的に使用しているが意味不明なもの
12件が明らかに間違いヒットであるもの(末尾に多い)の如き状況であった。
そして、積極的に「追いがつお」の表示が、他社と関連することは全く見当たらないことが確認できた。
そこにあって、請求人の商品のヒット率「289件(+44件‥請求人製品以外考え難い)」は、圧倒的であり、他に追従者のいない唯一性も明らかで、前記、甲第8号証及び第9号証の立証期間と2年間空白があるとしても、本件商標の登録査定時点(2007年3月19日)に、引用商標の識別性が何ら損なわれていなかった事実を十分推認できるものと考えられる。

2 答弁に対する弁駁(要旨)
(1)乙第2号証ないし第18号証が、一般読者に向けて家庭用として発行された書籍であるとの点は理解できるとしても、これに記載されていることをもって「一般に多く使用されている料理用語」と短絡的に結び付けることはできないこと明らかである。
また、その他の文献においても「二番だし/…新しくたす削り節のことを追いがつおと呼びます。」(乙第10号証)、「二番だし/…(さしがつお、または追いがつおという)…」(乙第11号証)及び「二番だし/…これを「追いがつお」と言います。」(乙第18号証)の如く、わざわざ解説中に説明するような言葉でしかなく、辞書的書籍以外の文献は、全て見出し項目を「二番だし」と記載していることからも、「二番だし」程度は一般に知られた範囲と考えられたとしても、「追いがつお」の語句が「料理用語」の分野で、一般に多く使用されている実情は、殆ど見当たらないところである。
(2)被請求人は、甲第10号証の1に対し、料理用語として使用されている事実を指摘しているが、請求人としても、僅かに「料理」の分野で使用されている実態が存することは認めているところである。
なお、「追いがつお」や「追い鰹」が該乙号証のように辞書等に掲載されている事実は、本件の争点というよりは商標法第3条第2項の適用場面で考慮されるべきものであって、本件の争点は、その識別力が認められ、登録されている本件商標と引用商標が類似するか否かを争うものであることをここで確認すべきである。
したがって、甲第10号証の1での検索結果477件中、「追いがつお」の認識は、「請求人の商品」333件(289+44件)と「料理用語」115件(36+79)を比較検討すると、「商標としての認識」又は「料理用語としての認識」につき、何れが一般に多く認識、使用されているかを示す証左、或いは、請求人の登録商標「追いがつお」の著名性を示す証左である。
(3)被請求人は、請求人が主張する引用商標から生じる称呼、観念は間違ったものであると主張し、甲第10号証の1を根拠としている。
しかし、甲第10号証の1は、商品「だし調味料」について「追いがつお」を商標として使用している例が、289件+44件の333件あるにもかかわらず、この商標使用に関連して第三者の使用例が全く見当たらないこと、又、甲第8号証及び第9号証の同業社の150?180にも及ぶ商品「だし調味料」において、「追いがつお」の商標使用例が全く見当たらないことが、自他商品識別力を有していること及び著名性の根拠となったもので、webに「ミツカン」が付されて記載されていることは、明確な証拠を示すものであり、商品「だし調味料」に他人の使用例が全く見当たらないことも識別性の根拠となったものである。

第4 被請求人の答弁
1 請求の趣旨
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし第18号証を提出した。
2 答弁の理由
(1)「追いがつお」及び「追い鰹」について
「追いがつお」及び「追い鰹」は、「二番だしをとる時に、旨みを増すために、さらにかつお節を加える」調理法を意味する料理用語である。
また、特許庁においても、「追いがつお」及び「追い鰹」は、「二番だしをとる時に、旨みを増すために、さらにかつお節を加える」調理法を意味する料理用語であると認定している。
上記のとおり、「追いがつお」及び「追い鰹」が調理法を意味する料理用語であることは、被請求人、請求人及び特許庁の何れもが認めている事実である。
(2)「追いがつお」及び「追い鰹」が「古語」であるとする主張について
請求人は、「追いがつお」及び「追い鰹」は、職人間で僅かに使用されていた「料理用語」の「古語」に属すると主張しているが、これは誤りである。
被請求人提出の乙第2号証ないし第18号証から明らかなように、1986年?現在(2009年)に至るまで、「追いがつお」及び「追い鰹」は、普通に使われている料理用語である。乙各号証中には、比較的専門書に近い書籍も含まれているが、その殆どが調理人が使用する専門書ではなく、一般読者に向けて家庭用として発行された書籍である。
このことから、「追いがつお」及び「追い鰹」は、職人間のみで僅かに使用されていた「料理用語」ではなく、一般に多く使用されている料理用語である。
また、請求人は、「Google」の検索結果を提出し(甲第10号証の1)、「追いがつお」をキーワードとして検索した結果の477件中、実に115件(料理用語として使用しているが語意を解説しているもの36件、料理用語として使用しているもの79件)もの検索結果が、「追いがつお」を料理用語として使用しているものである旨述べている。
この事実からみても、「追いがつお」及び「追い鰹」が、一般的に利用されている料理用語であることが分かる。
(3)引用商標から生じる称呼及び観念について
ア 請求人は、引用商標は「追いがつお」の文字を毛筆風書体で記載してなり、「オイガツオ」としか読み得ないため、「オイガツオ」の称呼が生じると主張している。
しかし、上述のように、「追いがつお」及び「追い鰹」は、一般的に使用されている料理用語であって、単に「オイガツオ」と称呼しただけでは、需要者、取引者は、だしの料理法を想起するだけで、その商品の出所が何処かを理解することはできない。よって、引用商標からは、識別性のある称呼は生じない。
イ また、請求人は、甲第10号証の1として「Google」の検索結果を提出し、「追いがつお」をキーワードとして検索した結果の477件中、289件が請求人の商品であるため、請求人の商品は著名であり、「オイガツオ」と称呼すれば請求人の商品を想起するかのように主張している。
該甲号証には、請求人の主張するように同人の商品に関する検索結果が289件ある。
しかし、その殆ど(9割以上)が、
「ミツカン 追いがつおつゆ」、
「ミツカン 追いがつお 節つゆ」、
「ミツカン 追いがつお 料理だしつゆ」
「ミツカン 追いがつお 料理白だし」と記載されたものである。
これらは、何れも、請求人会社の商品名そのものであるが、このように、単に「追いがつお」と普通の書体で記載するだけでは、それが請求人会社の商品であると認識することができないため、殆どの検索結果において、上記のとおりに記載されている。
ウ してみると、引用商標が使用により識別力を得ているのは、毛筆風書体で記載された縦書きの「追いがつお」の外観のみであり、称呼及び観念までもが識別力を得ているものではないため、引用商標からは、識別性のある称呼及び観念は生じない。
(4)本件商標から生じる称呼及び観念について
請求人は、本件商標からは「オイガツオ」の自然な称呼が生ずると主張している。
しかしながら、上記したように、「追い鰹」の語は、一般的に利用されている料理用語であるため、この語から単独で識別性のある称呼及び観念は生じない。
よって、本件商標から生じる識別性のある称呼は、「ヤマキ オイガツオダシ」、「ヤマキ エキタイオイガツオダシ」又は「ヤマキ」であり、本件商標から生じる観念は、「ヤマキ株式会社の追い鰹だし」又は「ヤマキ株式会社の液体の追い鰹だし」である。
(5)まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼、外観、観念の何れもが類似していない非類似の商標であるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。

第5 当審の判断
商標の類否についての判断は、「対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的取引状況に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。」と判示されている。
そこで、以上の見地に立って、本件商標と引用商標の類否について検討する。

1 本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、黒い粉末が蒔かれたような地模様の上に、赤色の逆さになった蒲鉾形の図形と、その右側に蒲鉾形図形に接して同色からのぼかしが施された短冊を構成要素とする背景図形を描いてなるところ、その左上には、小さな入山形と「キ」の文字とを組み合わせた暖簾記号及びその下段に「ヤマキ」の片仮名文字からなる被請求人の代表的出所表示といえるロゴを表し、また、該蒲鉾形図形上には大きく縦書きした商品表示であると容易に把握、理解させる「だし」の文字と、該短冊上には商品の性状を把握、理解させる「液体」の文字をやや小さ目に縦書し、かつ、前記「だし」と「液体」の文字の間に、1文字ほど高く頭が出るように縦書きされた「追い鰹」の文字からなるものである。
そして、該「追い鰹」の文字部分にしても、被請求人の代表的出所表示「ヤマキ」の文字及び商品の性状又は商品表示と把握、理解される「だし」及び「液体」の文字とは、視覚上、分離して看取できる構成であって、かつ、熟語ないし意味的にも常に一体不可分のものとして認識され取引に資されるような格別の事情も見出し難いものである。
そうとすれば、本件商標に接する需要者は、その構成中、それ自体が顕著であり、かつ、親しみ易く馴染み易い文字部分である「追い鰹」の部分に着目するとともに、同文字部分を独立した商品識別の標識(個別的な商標)と捉え、そこから特定の出所を認識するとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、「追い鰹」の文字部分が他の構成要素から独立して自他商品の識別標識としての機能を果たす部分であって、該文字部分に相応して単に「オイガツオ」の称呼及び「二番だしをとる時に、旨みを増すために、さらにかつお節を加える調理法」程の観念をも生ずるものといわなければならない。

2 引用商標について
引用商標は、別掲2のとおり、「追いがつお」の文字を、毛筆風の書体で縦書きしてなるところ、その指定商品である「かつおを使用してなるつゆ」に永年使用された結果、その需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができるに至ったものとして、すなわち、商標法第3条第2項の要件を具備するものと認定、判断され(平成15年5月21日登録審決)、商標登録されたものである。
そして、甲各号証によれば、引用商標の使用状況は、本件商標の登録査定時(平成19年3月19日)を含む現在に至るまで、広告宣伝や販売活動などが継続して行われていたものと推認でき、それにより引用商標が需要者一般に広く親しまれているところの周知、著名商標と認めて差し支えないといえる。
また、テレビCMにおいては、リズムに乗った「オイガツオ」などのフレーズが耳に残り、それが映像とともに一般需要者に広く親しまれ、かつ、その称呼が請求人の当該商品を認識させる主要な取引指標ということができるものである。
加えて、請求人の「かつおを使用してなるつゆ」に使用されている引用商標は、その使用開始時(1991年)より現在に至るまでの間、請求人のみが当該商品を表示する商標として使用されてきたということができるものであり、かつ、本件商標及び引用商標の指定商品が、ともに含まれる調味料において「追い鰹」又は「追いがつお」の表示が、商品「調味料」について品質等を表すものとして、同業他社に使用されているような状況は見当たらない。
そうすると、引用商標に接する取引者、需要者は、縦書きで表してなる毛筆風書体の外観のみを自他商品の識別標識と捉えるものと断定するのは困難であり、むしろ、これより生ずる「オイガツオ」の称呼と、「二番だしをとる時に、旨みを増すために、さらにかつお節を加える調理法」程の観念をもって取引に資する場合も決して少なくないものとみるのが相当である。
したがって、引用商標は、自他商品の識別標識としての機能を果たすものであるから、その外観に限らず、前記した称呼及び観念をもって商取引に資されるものといわなければならない。
なお、同法3条第2項の規定に基づいて登録された商標が、もともと識別性を有する他の商標と比較して、その効力等に差異がないことはいうまでもない。

3 本件商標と引用商標との類否について
前記1及び2のとおり、本件商標と引用商標とは、「オイガツオ」(二番だしをとる時に、旨みを増すために、さらにかつお節を加える調理法)の称呼及び観念を共通にする点において類似する商標であるといわなければならない。
また、外観についても、本件商標構成中の「追い鰹」の文字部分と引用商標「追いがつお」の文字とは、その書体において、後半部の文字が漢字と平仮名に差違があるとしても、前半の「追い」の文字を同じくし、相違する「鰹」と「かつお」の両文字にしても、共に前記した観念からして「かつお節」を想起させるに過ぎず、相互に互換性の強い語であるから、両者をそれぞれ時と処を異にして離隔的に観察した場合、需要者は全体の記憶、印象において彼此相紛れるおそれのある近似した外観ということができる。
加えて、本件商標の指定商品「かつお節を使用した液体だし調味料」と、引用商標の指定商品「かつおを使用してなるつゆ」が属する「調味料」における取引実情についてみるに、その需要者は、食品業者のみでなく、一般消費者も当然に含まれ、これらの者が取引に際し商標に払う注意力は特に高いものではなく、かつ、引用商標を使用した請求人商品の市場での売上げ規模をも考慮してみれば、本件商標と引用商標との間で誤認混同するおそれは否定できないものである。
してみれば、本件商標と引用商標が同一又は類似の指定商品に使用された場合には、前記したとおり、両商標は互いに類似する商標であると判断でき、その結果、取引者、需要者がその商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認められる。
よって、本件商標は、引用商標との間において、商標法第4条第1項第11号に該当するものというのが相当である。

4 被請求人の主張について
(1)被請求人は、乙第1号証ないし第18号証の各種料理に関する辞書類などの書籍及び甲第10号証を根拠として、「追いがつお」及び「追い鰹」は、職人間のみで僅かに使用されていた「料理用語」ではなく、一般に多く使用されている料理用語である旨主張している。
確かに、「追いがつお」及び「追い鰹」の語が料理用語であることは、これを認めることはできる。
しかしながら、引用商標は、上記第5の2のとおり、その需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができる標章として商標登録されたものであり、その状況は現在に至るまで継続している周知、著名な商標ということができる。
そして、本件審判は、本件商標と引用商標との類否を検討し、かつ、それが調味料という限られた商品分野の取引において使用された場合に、両者間において商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべき事案であるから、たとい、「追いがつお」及び「追い鰹」の語が、料理用語であるとしても、引用商標がその指定商品に関して識別力を有するものであることは、前記認定のとおりであるから、この点に係る被請求人の主張は採用できない。
(2)被請求人は、「追い鰹」の語は、一般的に利用されている料理用語であるため、この語から単独で識別性のある称呼及び観念は生じないとして、本件商標から生じる識別性のある称呼は、「ヤマキ オイガツオダシ」、「ヤマキ エキタイオイガッオダシ」又は「ヤマキ」であり、本件商標から生じる観念は、「ヤマキ株式会社の追い鰹だし」又は「ヤマキ株式会社の液体の追い鰹だし」である旨主張している。
しかしながら、本件商標は、前記第5の1のとおり、背景的な図形部分と左上の被請求人の代表的出所表示や、これに比して顕著に表された「追い鰹」の文字と、その左右に「だし」と「液体」の商品表示ないしその性状を表した文字とを配した構成からなるものであるが、入山形に「キ」の記号と「ヤマキ」の代表的出所表示と、「追い鰹」の文字とは、視覚上、自ずと分離して看取されるばかりでなく、その代表的出所表示部分を省略して、個別的な商標部分である「追い鰹」の文字をもって簡便に取引に資されることがあるというのが、この種商品(調味料)の一般需要者における取引の実情とみるのが自然である。
そうすると、本件商標については、被請求人が述べるところの称呼が生じるほか、「追い鰹」の文字部分に相応した称呼及び観念をも生じるものと認められるから、この点に係る被請求人の主張は、採用することができない。
その他、被請求人の主張を認めるに足りる証拠ないし事由は見出せない。

5 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであって、その登録は同法条の規定に違反してされたものといわざるを得ないから、同法第46条第1項により、これを無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)

(色彩については原本参照のこと。)

別掲2(引用商標)


審理終結日 2009-08-26 
結審通知日 2009-08-31 
審決日 2009-09-14 
出願番号 商願2006-59262(T2006-59262) 
審決分類 T 1 11・ 262- Z (Y30)
T 1 11・ 263- Z (Y30)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田口 善久冨澤 武志 
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 野口 美代子
小川 きみえ
登録日 2007-04-27 
登録番号 商標登録第5044714号(T5044714) 
商標の称呼 エキタイオイガツオダシ、オイガツオダシ、オイガツオ、イリヤマキ、キ、ヤマキ 
代理人 平井 輝一 
代理人 浜野 孝雄 
代理人 特許業務法人松田特許事務所 

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