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審決分類 |
審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 121 |
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管理番号 | 1206666 |
審判番号 | 取消2008-301388 |
総通号数 | 120 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2009-12-25 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2008-10-31 |
確定日 | 2009-10-19 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1887576号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第1887576号商標の第21類「かばん類,袋物,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製の財布,貴金属製のがま口,化粧用具」については,その登録は取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第1887576号商標(以下「本件商標」という。)は,「CHOUINARD」の欧文字を横書きしてなり,昭和58年4月14日に登録出願,第21類「リユツクサツク,肩掛けかばん,手さげかばん,その他本類に属する商品」を指定商品として同61年9月29日に設定登録されたものであり,その後,平成8年11月28日及び平成18年5月16日に商標権の存続期間の更新登録がなされ,現に有効に存続しているものである。 第2 請求人の主張(要点) 請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証を提出した(なお,請求人は,弁駁書において,甲第1号証ないし甲第5号証の号証番号をもって証拠を提出しているが,審判請求書においても,甲第1号証及び甲第2号証を提出しているので,弁駁書において提出された証拠については,順次,号証番号を繰り下げて,甲第3号証ないし甲第7号証として表示する。)。 1 請求の理由 本件商標は,その指定商品中の「かばん類,袋物,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製の財布,貴金属製のがま口,化粧用具」のいずれについても,継続して3年以上,日本国内において使用されておらず,商標原簿にも専用使用権者,通常使用権者の設定登録がないものであるから,商標法第50条第1項の規定に基づき,その商標登録は取消されるべきである。 2 答弁に対する弁駁 答弁書に添付された使用証拠には,以下の点において疑問があり,被請求人は,本件商標を使用しているとはいえない。 (1)使用にかかる商品について 乙第1号証に添付されている写真(1),乙第3号証及び乙第4号証に付された写真の物品が旧第21類に属する「リュックサック」に該当する事実は認めるが,当該物品「リュックサック」が商標法の商品であるか否については後述するように疑問がある。 (2)使用にかかる商標について 被請求人は,乙第1号証,乙第3号証及び乙第4号証の物品「リュックサック」について,欧文字の小文字からなる「chouinard」が刺繍されている旨主張しているが,物品「リュックサック」の側面には,3文字目の「o」と8文字目の「r」に該当する部分がベルトで隠されている為に確認することができない状況にある。請求人としては,これら「リュックサック」の検号証の提出を求め,これを確認した上で商標の同一性について反駁する。 (3)展示による使用について 被請求人は,乙第1号証ないし乙第4号証の書証をもって,展示による商標の使用があり,商標法第2条第3項第2号の使用に該当する旨主張している。 しかしながら,商標法第2条第3項第2号に規定する「展示」とは,「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,」と記載されているように,博物館で資料を公衆に展覧する行為とは異なり,営業行為として商標が付された多数の商品を譲渡する等の目的をもっていなければならない。 被請求人が平成2年2月頃から商品見本として展示していたとするならば,過去20年間において,この「リュックサック」を販売した実績が立証されてしかるべきであるが,提出された証拠には,商標が記載された納品書,請求書又は領収書の写し,20年間に製造された数,販売された数又は卸した数について第三者による証明がなされてしかるべきである。 これらの取引書類が提出されない限り,乙第2号証ないし乙第4号証の陳述書における写真で示された「リュックサック」の使用は,単なる資料の展覧に過ぎず,商標法第2条第3項第2号の使用には該当しないといえる。 この点について,東京高裁平成4年(行ケ)第144号・平成5年(行ケ)第168号判決(甲第3号証)は,「単に不使用取消の審判を免れる目的で名目的に商標を使用するかのような外観を呈する行為があっただけでは,改正前商標法2条3項3号にいう商品に関する広告に標章を付して展示または頒布する行為には該当せず,したがって同法50条による不使用取消の審判請求を免れることは出来ないと解すべきである」と判示しており,また,知財高裁平成20年(行ケ)第10317号判決(甲第4号証)においては,取消審判事件では,原則は具体的取引書類である例えば,注文書,納品書,支払伝票等の提示がされるべきであることが示唆されている。 これを被請求人が提出した証拠と比較してみれば,リュックサックの具体的取引書類(例えば,注文書,納品書,支払伝票等)の提示がないこと,リュックサックの側面に商標「chouinard」の刺繍は存在するが,被請求人の商号(株式会社キャメル)の記載されたタグが付された写真がないこと,商標「chouinard」が表記されたパンフレットがないこと,被請求人が第三者の販売店において,商標「chouinard」を使用しているとの陳述書がないことの点において,被請求人が提出した証拠は,上記知財高裁が示した要件を満たしていない。 これらのことからみれば,被請求人の行為は,単に不使用取消の審判を免れる目的で,平成2年頃から存在する「リュックサック」を陳列させているに過ぎず,商標の名目的使用に該当するものである。 また,請求人が調査会社(有限会社エム・ディー・エス)を利用して商標の使用調査を行ったところによれば(甲第5号証),「本社ビルはシャッターが降りており,インターフォンを鳴らしても応答はありませんでした。そこで仕方なく電話をしてみると女性が応対してくれました。女性の話によるとショールームは一般公開していない,シュナード製品は販売中止している,取り扱っている店舗は現在ない」と報告書に記載されている。 そうとすれば,甲第5号証の陳述内容と乙第2号証ないし乙第4号証の陳述書との間には大きな隔たりがあり,陳述内容の信憑性には疑問があるので,乙第2号証ないし乙第4号証の陳述者の証人尋問を申請する。 (4)使用の時期について 被請求人は,乙第1号証の使用説明書及び乙第2号証ないし乙第4号証の陳述書により,本件審判の請求登録前3年以内に商標を使用していたことを証明しようとしているが,使用の時期を示すものは,乙第1号証に添付された資料1ないし資料3の調査結果報告書の印画紙に表示された日時だけであるが,当該調査は,特定人の素行調査であって,本件商標の使用調査ではなく,商標法第2条第3号第2号に規定されている「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,」に該当している事実を証明したものとはいえない。 したがって,乙第1号証ないし乙第4号証の書証によっては「使用の時期」の立証に関しても信憑性がない。 (5)まとめ 以上のとおり,被請求人の答弁書の内容では,被請求人等が真実に本件商標を取消請求にかかる商品について使用しているとは言えない。 第3 被請求人の主張(要点) 被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし同第8号証を提出した。 1 答弁の要旨 本件商標の商標権者である被請求人は,本件審判請求の予告登録前3年以内に,我国において,本件商標の指定商品に含まれ,かつ,本件商標が付されている商品を譲渡若しくは引渡のために「展示」している。 (1)使用事実の概要 被請求人は,本件商標を付した登山用のリュックサック(以下「本件商品」という)を製造し,その一部を商品見本として,数年前から現在に至るまで継続して,被請求人の本店所在地の「与右衛門ビル」(以下「本店ビル」という。)1階の街路に面した2つのショーウィンドーに陳列している(乙第1号証ないし乙第4号証)。 (2)使用に係る商標 本件商品に付されている商標は,本件商標そのものである。すなわち,本件商品の正面上部に位置するフタには,ドラゴンを擬人化したキャラクターが金色で刺繍してあるが,その下に,本件商標「CHOUINARD」が同色で刺繍されている。また,本件商品の両サイドには,大きく白色で「CHOUINARD」が刺繍されている。 (3)展示による使用 被請求人は,本件商品の販売目的のために,本件商標が付された本件商品を商品見本として2つのショーウィンドーに陳列している。このことは,当該ショーウィンドーがいずれも,1階にあって,人通りの多い街路に面しており,誰でも見ることができることからも明らかである。 したがって,本件商品の当該ショーウィンドーへの陳列は,「商品に標章を付したもの」の「譲渡もしくは引渡しのため」の「展示」(商標法2条3項2号)に該当する。 (4)使用の時期 被請求人による「展示」は,平成2年から現在に至るまで継続してなされているのであって,当然,本件審判請求前3年以内にもこの「展示」はなされている。 念のため付言すると,乙第1号証の添付資料(1)から(3)の中に掲載されている写真には,それぞれ撮影年月日が記録されているところ,それらがいずれも2006年(平成18年)であることから,平成18年における「展示」は明白である。なお,上記各写真は,ショーウィンドーを写すために撮影されたものではないため,ショーウィンドーの中身が見え難いものがあるが,乙第1号証の添付写真(1)から(6)の各写真(平成20年12月撮影)のショーウィンドーと比較すれば,2006年(平成18年)に展示されている商品が平成20年12月に展示されている商品と変わらないことは明らかである(ただし,2006年では,向かって左側のショーウィンドーに赤色の本件商品が展示されており,向かって右側のショーウィンドーには紫色の本件商品が展示されていたのであるが,現在では,逆に,向かって左側のショーウィンドーに紫色のものが展示されている)。 (5)以上のとおり,被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内に,我国において,その請求に係る指定商品中の「かばん類」について,本件商標を使用していることは明らかである。 2 平成21年7月9日付けの審尋に対する回答 (1)ライセンシーによる使用 ア ライセンシーについて 被請求人は,平成15年1月1日付けで被請求人の100%子会社である株式会社クロスター(以下「本件ライセンシー」という。)に対し,その有する商標権等の実施及び使用を独占的に許諾している(乙第5号証)。また,本件ライセンシーは,カバン類あるいはアウトドア用品を扱う卸売や小売等の業者を主な顧客とする被請求人の製造する商品の販売会社であることから,本件商品の販売とともに前記商品のクレーム処理・交換,修繕・加工なども行っている。 イ ライセンシーによる本件商標の使用 本件ライセンシーは,以前販売した本件商品の修繕・加工(本件商標部分の破損,ほつれ,汚れなどを含む。)を行い,それが不可能なものについては新品と交換をしている。 本件ライセンシーが本件商品について行う修繕・加工・交換は,長期間にわたって継続使用する本件商品の性質上,売主として求められる必要不可欠な行為であるから,本件商品の販売に付随する取引行為として,本件商標を付した商品を「譲渡する行為」に該当し,本件商標の使用に該当する。 ウ 要証期間における使用 要証期間内においては顧客である業者から本件商品の引き合いがなかったため,販売実績は存在しないが,本件商品にかかる修繕・加工を行った事実は存在する(乙第6号証)。 本件ライセンシーが本件商品にかかる修繕・加工を行っている以上,要証期間において本件商標を使用していることは明白である。 (2)保管について 商標をある物品に「付する」行為を行ったものが,商標を付したままの状態で当該物品を保管している場合,商標を「付する行為」をした者の使用行為は,保管の間中,存続することから,被請求人が本件商標を付したままの状態で本件商品を保管している以上,被請求人が本件商品に対して商標を付した行為は継続していることになる。 被請求人は,遅くとも平成2年から現在に至るまで,本件商品を保管していることから,要証期間内に本件商標の使用が継続的になされていることは明白である。 (3)展示について 被請求人が本件商品をショーウィンドーに展示していることは,展示する目的が本件商品の販売目的であることは明らかであって,要証期間内に本件商標の使用が継続的になされていることは明白である。 4 当審の判断 1 被請求人は,リュックサックのショーウィンドーへの陳列をもって,商標法第2条第3項第2号における「譲渡もしくは引渡しのための展示」にあたるとして,乙第1号証ないし乙第4号証を提出している。 そして,その乙第1号証ないし乙第4号証によれば,以下の事実を認めることができる。 (1)乙第1号証は,「登録商標の使用説明書」と題する書面であり,本件商標についての使用の状況が記載されている。商標の使用者として,商標権者である「株式会社キャメル」と記載されており,商標の使用に係る商品として「かばん類(リュックサック)」,商標の使用時期として「現在使用中」,商標の使用場所として「東京都台東区浅草1丁目6番2号与右衛門ビル1階ショーウィンドー」,使用の事実を示す書類として,写真(1)から(6)及び資料(1)から(3)と記載されている。 (ア)その写真の(1)は,撮影年月日を平成20年12月15日とする「紫色を基調にしたリュックサック」の写真であり,リュックサック正面上部のカバー部分には,金色で刺繍してある図形の下に,やゝ不鮮明ではあるが,「chouinard」の文字が同色で刺繍されており,リュックサックの片側にも,白色で「chouinard(「o」と「r」の文字は一部がベルトにより隠れている)」の文字が刺繍されている。 写真の(2)から(6)までは,いずれも,撮影年月日を平成20年12月18日とするリュックサックを展示しているとされるビルの2つのショーウィンドーの写真である。左側のショーウィンドーの写真には,ショーウィンドーのガラス部分と思われるところに縁取りがなされており,その左肩部分に,「山水花鳥を絵きて/宇宙を感じそこに作者を観る」との表題が表示されている。内部には,壁面に大きな山岳風景写真が貼られており,その写真には,「WENZEL」,「トランスロッキー/TRANS ROCKY?ロッキー山脈を越えて?」,「株式会社クロスター」等の文字が表示されている。そして,該写真の両脇には白樺様の木が配されており,リュックサックは,左側の白樺様の木の中程の位置に掛けられた状態で展示されており,リュックサックの左側にはランプが下げられている。 また,右側のショーウィンドーの写真には,写真(1)に撮影されているリュックサックと同様のものにして赤色を基調にしたリュックサックが,大きな山岳風景写真を背景にして,その風景写真の左側の白樺様の木の中程の位置に掛けられた状態で展示されている(右側のショーウィンドーの写真には,左側のショーウィンドーにみられる表題は表示されていない)。 (イ)資料の(1)から(3)は,いずれも,別件訴訟のために探偵事務所に依頼した調査結果報告書の一部と認められるものであり,報告書中に,乙第1号証の写真のショーウィンドーが写り込んでいるとして,数枚の写真が提出されている。 それらの写真中,No.21,No.113,No.114には,乙第1号証の写真(2)に写し出されているビルと同様のビルが写されてはいるが,ショーウィンドーの内部を確認することはできない。また,No.12の写真(「2006.10.30 19:01:18」の日時が写し込まれている)には,ビルのショーウィンドーの下三分の一程度が写し出されており,赤色のリュックサックの一部分も写ってはいるが,この写真をもってしては,該リュックサックが「chouinard」の文字が付されているリュックサックであることを確認することはできない。 (2)乙第2号証は,本件商標の商標権者である株式会社キャメルの代表取締役である樋口孝四郎の陳述書(平成21年1月5日付)であり,該陳述書には,「弊社は,私が昭和54年に設立した会社で,登山用具の製造,仕入および販売等を目的としております。与右衛門ビルには,1階の外壁に2つのショーウィンドーが並んでいます。このショーウィンドーには,昭和54年の創業当時から,弊社の商品を陳列し展示しています。本件商標である『CHOUINARD』を付したリュックサックは,時期は確定できませんが,平成2年頃から現在に至るまで継続して展示しております。」旨記載されている。 (3)乙第3号証は,平成2年2月から与右衛門ビルの地下1階の一部を賃借し,居酒屋を営んでいる者からの陳述書(平成20年12月24日付)であり,該陳述書には,「このビルには,1階の外壁に2つのショーウィンドーが並んでいます。このショーウィンドーには,私が地下1階を借りて飲食店を始めた当初から,添付写真中の登山用リュックサックが商品見本として展示されています。」旨記載されている。 (4)乙第4号証は,平成9年12月から与右衛門ビルの地下1階の一部を賃借し,イタリアンレストランを営んでいる者からの陳述書(平成20年12月22日付)であり,該陳述書には,「このビルには,1階の外壁に2つのショーウィンドーが並んでいます。私は毎日バイクで通勤して,このショーウィンドーの近くにバイクを停めています。バイクを停めるときに,ショーウィンドーが目に入るのですが,私が不動産を借りた当初から,この中には,添付写真中の登山用リュックサックが商品見本として展示されています。」旨記載されている。 2 そこで,上記において認定したビルのショーウィンドーに掲げられている登山用リュックサックの展示が商標法第2条第3項第2号に規定されているところの「譲渡もしくは引渡しのための展示」に該当するか否かについて判断する。 この点について,被請求人は,当該リュックサックが販売目的のために陳列してあることは当該ショーウィンドーがいずれも1階にあって,人通りの多い街路に面しており,誰でも見ることができることからも明らかである旨述べている。 確かに,乙第1号証等に添付されている写真によれば,該ビルのショーウィンドーは,街路に面した1階にあって,誰でも見ることができる場所にあり,ショーウィンドー内には,本件商標と社会通念上同一と認められる「chouinard」の商標が付された登山用リュックサックが展示されていることを認めることができる。 しかしながら,そのことから直ちに,該リュックサックが販売目的のために展示してあるものとはいえない。該リュックサックが販売目的のための展示であるならば,例えば,リュックサックについての製造者や材質,サイズ,価格等を表示したプレートなどが併せ示されているとか,商品についての照会のため電話番号等が表示されている等,販売のための具体的な商品情報が示されているのが自然であるところ,乙各号証に添付されている写真には,そのような表示は見当たらない。また,乙第2号証によれば,株式会社クロスターは被請求人の製造する商品の販売会社である旨記載されてはいるが,少なくとも,乙各号証に添付されている写真には,該ビルに被請求人である株式会社キャメルや株式会社クロスターの社名を確認できる表示はなく,該ショーウィンドーにも被請求人や株式会社クロスターの電話番号の表示も確認できない(ショーウィンドー内の山岳風景写真に株式会社クロスターの表示は認められるが,連絡先は確認できない。)。 してみれば,該ショーウィンドーは,それのみをもってしては,リュックサックについて関心を持った者がいたとしても,具体的な商品情報を知る術もなく,商品についての問い合わせを行うこともできない状態のものであるといわなければならない。 しかして,元来,ショーウィンドーは,個別商品の販売目的のための展示というよりは,看者の関心を惹くための飾り付けに力点が置かれていることが多く,ショーウィンドーに隣接されているショールームや店舗において,個別具体的な商品情報とともに商品が展示され,あるいは販売されていることがしばしば見受けられるところである。 本件の場合も,乙第1号証の写真(3)にみられるように,該ショーウィンドーは,「山水花鳥を絵きて/宇宙を感じそこに作者を観る」との表題のもとに,山岳風景写真を中心にして,白樺様の木やランプそして登山用リュックサック等を用いた全体が一つの作品となるように制作された展示物の観を呈しているものであって,該リュックサックについては,その占める位置付けは大きいとしても,販売のための展示というよりは,むしろ,展示物の一構成要素となっているものというべきである。そして,上述のように,ショーウィンドーに隣接されているショールームや店舗において,個別具体的な商品情報とともに商品が展示されていたのであれば,その状況を示した写真が提出されるべきである。 しかるに,被請求人は,ショーウィンドーにおける展示のみを主張しており,ショールームや店舗における使用等の事実については何ら言及していない。 この点について,請求人の提出に係る甲第5号証(有限会社エム・ディー・エスの平成20年9月23日付調査報告書)によれば,「本社ビルはシャッターが降りており,インターフォンを鳴らしても応答はありませんでした。そこで仕方なく電話をしてみると女性が応対してくれました。女性の話によるとショールームは一般公開していない,シュナード製品は販売中止している,取り扱っている店舗は現在ない。」旨記載されている。 そうとすれば,当該ショーウィンドーに展示されている登山用リュックサックは,販売目的のために展示してあるものとはいい難く,商標法第2条第3項第2号に規定されているところの「譲渡もしくは引渡しのための展示」に該当するもとは認められない。また,該展示行為に販売目的のための展示の要素が全く無いとはいえないとしても,ショーウィンドーにおける展示以外に使用の事実を示す証拠が何ら提出されていない状況のもとにあっては,上記の如きショーウィンドーにおいて,リュックサックの展示がされていたとしても,その展示行為は,商標の名目的な使用にとどまるものといわなければならない。 3 加えて,先に認定したとおり,乙第1号証の資料の(1)から(3)として提出されている写真(別件訴訟のために探偵事務所に依頼した調査結果報告書の一部)の中には,乙第1号証の写真(2)に写し出されているビルと同様のビルが写し出されているものもあり,その中のNo.12の写真(「2006.10.30 19:01:18」の日時が写し込まれている)には,ビルのショーウィンドーの下三分の一程度が写されており,赤色のリュックサックの一部分も写ってはいるが,この写真をもってしては,該リュックサックが「chouinard」の文字が付されているリュックサックであることを確認することができない。 したがって,乙第1号証の資料の(1)から(3)の写真が2006年(平成18年)に撮影されたものであるとしても,「chouinard」の文字が付されているリュックサックが2006年(平成18年)当時から乙第1号証の添付写真(1)から(6)が撮影された平成20年12月18日まで,継続して,該ビルのショーウィンドーに展示されていた事実,すなわち,要証期間内に展示されていた事実が証明されたものとはいえない。 4 被請求人は,乙第2号証ないし乙第4号証の陳述書を提出しているが,登録商標の使用の事実の証明は,新聞,雑誌等への広告の事実,取引の際使用される納品伝票,仕入伝票等の取引書類の呈示その他,登録商標が使用されていた事実を客観的に認め得るに足るような資料によってなされるべきであると解されるところ,私人の陳述書は,それが真実,各陳述者の認識を述べたものであるとしても,上記のような取引資料等を補強するためには有効なものとはなり得ても,私人の陳述のみによっては,登録商標の使用の事実を客観的に把握することは困難である。そして,上記したとおり,該ビルのショーウィンドーに展示されている登山用リュックサックは,販売目的のために展示してあるものとはいい難いものである。 5 被請求人は,審尋に対し審判事件答弁書(2)として,次のように述べ,乙第5号証ないし乙第8号証を提出している。 (1)被請求人は,株式会社クロスターは,被請求人の製造する商品の販売会社であって,本件商品の販売とともに以前販売した本件商品の修繕・加工を行っている。そして,商品に係る修理・加工・交換は商品の販売に付随する取引行為として商品を「譲渡する行為」に該当するから,株式会社クロスターが本件商品に係る修繕・加工を行っている以上,要証期間内において本件商標を使用していることは明白である旨述べている。 確かに,乙第5号証は,実施許諾契約書であり,該契約書には商標権者である株式会社キャメルが株式会社クロスターに対し,商標権等の実施及び使用を独占的に許諾する旨記載されていることから,株式会社クロスターが本件商標の使用権を有することが認められ,また,乙第6号証は,修理を依頼した業者から株式会社クロスターに宛てた納品書及び修理を依頼した商品の写真であって,当該納品書の日付欄に20年2月28日,同年8月1日及び同年8月11日の記載,品名の欄に「シュナード 修理」の記載があることから,株式会社クロスターが要証期間内において本件商品の修理に関わっていたことが推認できる。 しかしながら,本件商品の修繕・加工は,役務の提供にあたるものであって,第37類「かばん類又は袋物の修理(商標法施行規則別表(第6条関係))参照のこと」の範疇に含まれるものである。 したがって,仮に株式会社クロスターが本件商品の修繕・加工について本件商標を使用したとしても,それをもって,本件商標を付した商品を「譲渡する行為」に該当するものとは認められない。 (2)被請求人は,遅くとも平成2年から現在に至るまで,本件商品を保管していることから,要証期間内に本件商標の使用が継続的になされている旨述べている。 確かに,乙第7号証の被請求人が保管しているとする本件商品の写真に「chouinard」の文字が表示されていることが確認できる。 しかしながら,仮に商標を付した商品の保管が商標の使用行為にあたる場合があるとしても,譲渡・引渡し等の目的もなく単に所持するための保管を使用行為とみるべきではない。 そして,本件については,被請求人自らが認めているように,(要証期間内において)本件商品の販売実績が存在しないことからすると,株式会社クロスターが本件商品を譲渡引渡しのために保管していたものとは認められず,また,これを認めるに足る証拠もない。 (3)被請求人は,本件商品をショーウィンドーに展示していることは,展示する目的が本件商品の販売目的であることは明らかであると述べているところ,本件商品についての展示行為が商標の名目的な使用にとどまるものといわなければならないことは,前述した判断のとおりであるから,その主張は採用できない。 6 したがって,乙第1号証ないし乙第8号証をもってしては,本件審判の請求の登録(平成20年11月18日)前3年以内に,被請求人が本件商標(本件商標と社会通念上同一と認められる商標を含む)を「かばん類(リュックサック)」について使用していたものとは認められない。 そして,他に,該リュックサックについてのカタログやパンフレット,あるいは,該リュックサックが具体的に取引された事実を示す注文書,納品書,支払伝票等の取引書類等,本件商標を取消請求に係る指定商品について使用をしていたことを認めるに足る証拠も提出されていない。 なお,請求人は,乙第2号証ないし乙第4号証の陳述者及び甲第5号証の調査報告作成者に対する証人尋問を要求しているが,本件については,証人尋問を行うまでもなく,上記のとおり判断し得るところであるから,証人尋問は行わないこととした。 7 まとめ 以上のとおり,被請求人の答弁の全趣旨及び乙各号証を総合的に判断しても,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが取消請求に係る指定商品のいずれかについての本件商標(本件商標と社会通念上同一と認められる商標を含む)の使用をしていたことを証明したものとは認められない。 したがって,本件商標の登録は,商標法第50条第1項の規定により,請求に係る第21類「かばん類,袋物,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製の財布,貴金属製のがま口,化粧用具」についての登録を取り消すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-10 |
結審通知日 | 2009-08-12 |
審決日 | 2009-09-08 |
出願番号 | 商願昭58-33532 |
審決分類 |
T
1
32・
1-
Z
(121)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 深沢 美沙子 |
特許庁審判長 |
石田 清 |
特許庁審判官 |
久我 敬史 小林 由美子 |
登録日 | 1986-09-29 |
登録番号 | 商標登録第1887576号(T1887576) |
商標の称呼 | シュイナード、チョウイナード、チョウイナルド |
代理人 | 井奈波 朋子 |
代理人 | 山本 隆司 |
代理人 | 永田 玲子 |
代理人 | 西山 修 |
代理人 | 紺野 正幸 |
代理人 | 山川 茂樹 |
代理人 | 黒川 弘朗 |
代理人 | 山川 政樹 |