• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007890151 審決 商標
無効200435028 審決 商標
無効200435027 審決 商標
無効200435030 審決 商標
無効2008890066 審決 商標

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y41
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Y41
管理番号 1206662 
審判番号 無効2007-890149 
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-09-07 
確定日 2009-11-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第4756427号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4756427号商標(以下「本件商標」という。なお、「標章」についてのみいうときは、「本件標章」という。)は、「新極真会」の漢字を標準文字で表してなり、平成14年1月16日に登録出願、第41類「当せん金付証票の発売,技芸・スポーツ又は知識の教授,献体に関する情報の提供,献体の手配,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,ゴルフの興行の企画・運営又は開催,相撲の興行の企画・運営又は開催,ボクシングの興行の企画・運営又は開催,野球の興行の企画・運営又は開催,サッカーの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,音声周波機械器具・映像周波機械器具の貸与,図書の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画の貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,カメラの貸与,光学機械器具の貸与,絵画の貸与,美術用モデルの提供」を指定役務として、同16年3月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、本件商標の登録は無効とする、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第22号証を提出した。
2 請求の理由
(1)本件商標の出願から登録までの経緯は以下のとおりである。
甲第2号証中の平成14年1月16日付け願書の記載によれば、出願時の出願人名義は、住所を東京都新宿区新小川町9番21号、名称を「特定非営利活動法人 国際空手道連盟極真会館」であった。
甲第2号証中の平成15年4月25日付け起案の拒絶理由通知書によれば、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして、文章圭所有の第4027344号「極真会」(以下「引用商標1」という。)、第4027345号「KYOKUSHIN」(以下「引用商標2」という。)、第4027346号「極真会館」(以下「引用商標3」という。)及び第4041083号「極真空手」(以下「引用商標4」という。)の登録商標(以下、引用商標1ないし4をまとめて「引用商標」という。)が先願登録商標として引用された。
甲第2号証中の平成15年6月18日付け意見書によれば、出願人は、本件商標出願を引用商標権者(文章圭)へ譲渡して、本件出願人名義を引用商標権者の名義「文章圭」と一旦一致させ、出願人と商標権者とを便宜上同一名義(同一人)とすることによって一時的に拒絶理由を解消して、登録査定を受け、その後、元の出願人へ譲渡して戻す、との合意が成立した旨が開陳され、同時に、出願人名義変更届を提出する旨が意見書にて上申されている。
甲第2号証中の平成15年6月18日付け出願人名義変更届によれば、上記意見書のとおり、本件商標出願は、出願人名義変更届の提出により、引用商標権者たる「文章圭」名義とされた。
甲第2号証中の平成15年12月1日付け登録査定によれば、本件商標出願は、引用商標権者たる「文章圭」名義にて登録査定を受けた。甲第2号証中の平成16年1月7日付け出願人名義変更届によれば、上記平成15年6月18日付け意見書のとおり、本件商標出願は、再度の出願人名義変更届の提出により、下記の名義人、住所 東京都新宿区新小川町9番21号、名称「特定非営利活動法人 全世界空手道連盟 新極真会」に変更された。
(2)出願時の願書の出願人と登録査定時の出願人との同一性
出願時の出願人「特定非営利活動法人 国際空手道連盟極真会館」と商標登録査定時の出願人、すなわち、平成15年1月7日付け提出の出願人名義変更届による承継人「特定非営利活動法人 全世界空手道連盟 新極真会」は、出願人識別番号「501322092」が両名義人ともに共通(同一)番号であることから同一人であることが容易に推認できる。
(3)商標「極真会」の著名性
商標「極真会(筆縦書:下記の審決謄本の別掲として表示。)」が、空手及び格闘技に興味を持つものの間では、遅くとも平成6年(1994年)4月の時点で広く知られた周知著名商標であったことは、甲3号証として提出の、無効2004-35028の審決謄本の「5 当審の判断」において、特許庁が認定している。
なお、甲第4号証として提出の無効2004-36029、甲第5号証として提出の無効2004-35030、及び、甲第6号証として提出の無効2004-85032の各審決謄本の「5 当審の判断」においても同様である。
(4)本件商標「新極真会」と周知著名商標「極真会(筆縦書)」との類似性
本件商標「新極真会(標準文字)」は、上記(3)の周知著名商標「極真会(筆縦書)」と類似する商標である。
両商標の類似は、本件商標「新極真会」に対する上記(1)の拒絶理由通知において、類似商標として引用された引用商標中、第4027344号「極真会」が引用されていること(甲第2号証)から明白である。
また、本件商標の出願時の出願人(現商標権者)も、この類似性を否定し難く、容認せざるを得ないがゆえに、上記(1)の意見書のとおり、別件にて係争中の引用商標権者(文章圭)と和解までして、上記(1)の査定時の前後に、二度にわたる出願人名義届提出という回避手段を講じて、本件商標の登録に及んだことで、明白である(甲第2号証)。
(5)引用商標の商標登録の違法性
本件商標に対する上記拒絶理由通知の引用商標は、何れも、引用商標権者たる文章圭の名義で出願されて商標登録査定を受けたものであった。
しかしながら、引用商標については、請求人が極真空手の創始者である大山倍達(本請求人大山喜久子の父)の急逝に乗じて、単に一門弟である文章圭が何の法的根拠もなく自己名義にて登録を受けたものであるから、商標法第4条第1項第7号の「公正な取引秩序を害し、公序良俗に反する」に該当し、商標法第46条第1項により無効とすべきである、と主張して、商標登録無効審判を請求したところ、無効審決が下り、該審決において、「被請求人(文章圭)による極真館関連標章(『極真会』等)についての登録の有効性は認め難いばかりでなく、被請求人は、極真関連標章を出願する際には、既に、極真会館分裂の可能性をも予見して、将来生ずるであろう各派の対立関係を自己に有利に解決する意図を持って、本件商標を始めとする極真関連標章の登録出願をしたものと推認せざるを得ない。してみれば、このような事実関係の下において成された本件商標の登録は公正な取引秩序を害し、公序良俗に反するものといわねばならない(抜粋写)。」と判断されている(甲第3号証の「5 当審の判断」の[2])。
なお、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証の各審決謄本においても同様である。
上記の各審決において、「当審の判断」の根拠とされた証拠方法を、甲第7号証ないし甲第17号証として提出する。
上記4件の無効審判の被請求人(商標権者文章圭)は、無効審決に対して各々審決取消の訴を知財高裁に提起したが、何れも、訴えは棄却され、さらに、最高裁判所に上告したが、何れも平成19年6月28日付けにて、上告は、棄却され、無効審決が確定した。
知財高裁の判決は、何れも、「本件商標の登録は、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないというべきであるから、商標法4条第1項第7号に違反してされたものであるとして、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきであるとした審決の結論に誤りはない(抜粋)。」というものであった。引用商標に対する特許庁の無効審決や知財高裁の判決や最高裁の上告棄却の決定等(甲第3号証ないし甲第22号証)によれば、何れも、本件商標の登録査定時の出願人である「文章圭」名義で商標登録査定がされたことに違法性があると認定されている。
すなわち、「文章圭」名義での商標登録査定は「公正な取引秩序を害し、公序良俗に反し」ていたと認定されたのであるから、引用商標に類似するとされ、商標登録するには引用商標の商標権者でなくてはならない、という、限定された登録要件を満たさねば登録されない本件商標が、便宜上、出願人が同一人とされ、「文章圭」の名義において登録査定を受けたこともまた明らかに違法であり、商標法第4条第1項第7号の「公正な取引秩序を害し、公序良俗に反する」に該当する。
(6)結語
以上のとおり、上記引用商標と類似する本件商標の「文章圭」名義による登録査定は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、商標法第46条第1項により無効とされて然るべきである。
3 請求の理由についての補正
請求人は、平成19年9月11日付け提出の補正書において、無効理由を「商標法第4条第1項第7号」から、「同項第19号」に補正している。
4 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、答弁書「理由」の(2)アにおいて、「・・たまたま本件商標が登録の過程で、一過的に文章圭の名義になった経緯があったとしても、文章圭名義となっただけで、引用商標の特異な評価(無効理由)が本件商標にも付帯又は帯有することになるというようなものではない。」と主張するが、これは、成り立たない。
けだし、被請求人出願の商標「新極真」が拒絶理由において、文章圭所有の登録商標「極真会」に類似すると審査官に認定されたということは、商標「新極真」が登録商標「極真会」と実質的に同じ商標としての機能を有すると認定されたからであり、これは、商標「新極真」が登録商標「極真会」の商標権の禁止権の範疇に属するということである。
商標権は、排他的効力を持つ物権であるこの禁止権と共に、独占排他的効力をもつ専用権とで構成された権利である。
すなわち、文章圭所有の登録商標「極真会」の商標権=専用権(「極真会」)+禁止権(類似商標「新極真会」)という法理である。
この法理から、類似商標「新極真会」は、文章圭の所有する登録商標「極真会」の商標権の範疇に属しており、文章圭が実質的に所有している財産権なのである。
ゆえに、類似商標「新極真会」を顕在化(商標権化)する、しないの権能は、文章圭にしか認められないのである。文章圭所有の登録商標「極真会」が商標法第4条第1項第7号(公序良俗)に該当するということは、登録商標「極真会」に係る当該商標権が、商標法第4条第1項第7号(公序良俗)に該当するにもかかわらず与えられたということである。すなわち、文章圭の所有する当該商標権=専用権(商標「極真会」)+禁止権(類似商標「新極真会」)=商標法第4条第1項第7号(公序良俗)該当=無効理由成立ということである。ゆえに、被請求人の「・・たまたま・・一過的に文章圭の名義になった・・としても、文章圭名義となっただけで、・・」という主張は、成り立たず、したがって、また、「特異な評価(無効理由)が本件商標にも付帯又は帯有することになるというようなものではない。」との主張も成立しないのである。
(2)「出願人名義届」について
被請求人が、出願人名義を文章圭に変更せざるを得なかったのは、上記のとおり、登録商標「極真会」の所有者たる文章圭名義でなければ「新極真会」の商標登録を受けられなかったからである。
したがって、被請求人と文章圭との間でされた、「出願人名義変更」(被請求人→文章圭→被請求人)の手続の実質は、文章圭名義で登録査定を受け、文章圭名義で商標登録された後に、文章圭名義から被請求人に登録商標「新極真会」の商標権が譲渡されたこと(登録名義人の変更登録手続がされたこと)になる。
実際の手続は、形式的に、「出願人の名義変更届」という便宜手段によって省略された結果、出願人新極真名義て商標登録(原簿が作成)されたにすぎないのである。
なお、厳密にいえば、出願手続は、登録査定の段階で終了しているのであるから、登録査定後の「出願人名義変更届」は、成立し得ず、登録名義人の変更登録申請によって、商標権者文章圭から被請求人へ商標権を移転するほかないのである。
また、被請求人は「・・換言すれば、本件商標『新極真会』は、大山倍達氏の存命の時代に存在しなかった・・」とも主張するが、本件商標「新極真会」が存在したかしなかったかは、本件無効審判の争点には、なり得ないのである。

第3 被請求人の答弁
1 答弁の趣旨
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第4号証を提出した。
2 答弁の理由
(1)請求人は、商標法第4条第1項第7号を理由として無効審判を請求(請求人は、平成19年9月11日付け提出の補正書において、本号を「19号」に訂正している。)しており、審判請求書において、以下のように主張している。
ア 本件商標は、文章圭の名義で登録査定がされているが、文章圭の名義の他の登録(本願の拒絶理由通知の引用商標)は、登録に違法性があるために商標法第4条第1項第7号に該当すると判断されて無効審決が確定している。
イ 被請求人(原商標出願人)は、本件商標と引用商標との類似性を否定できないために、商標権者である文章圭と裁判上の和解を行い、商標権者である文章圭が出願人とならなければ登録要件を満たさないという登録要件の不備を移転と再移転という特異な手段を用いて本件商標の登録に及んだ。
ウ 「文章圭」名義で登録査定されたことに違法性があるとして無効審決が確定した引用商標と本件商標は類似し、文章圭の名義で登録査定を受けているため、明らかに違法であって、商標法第4条第1項第7号の「公正な取引秩序を害し、公序良俗に反する」に該当するため、本件商標の登録は、無効である。
(2)請求人の主張に対する反論
ア 無効理由の有無
(ア)被請求人は、請求人が主張する(1)アの事実関係は、これを認めるものであるが、かかる事実は、本件商標の登録に無効事由があるかどうかとは、関係のない事実である。登録要件の判断は、各登録について個別具体的に行うものである。(1)アの事実関係に対する評価は、専ら無効の対象である審決書に添付された引用商標についての特異な事情を勘案した上での不登録事由である。たまたま本件商標が登録の過程で一過的に文章圭の名義になった経緯があったとしても、文章圭名義となっただけで、引用商標の特異な評価(無効事由)が本件商標にも付帯又は帯有することになるというようなものではない。付言すれば、本件商標「新極真会」は、大山倍達氏の存命の時代に存在していた商標ではない。
(イ)請求人は、本件商標も、上記(1)ウで主張するような引用商標と同様の不正の目的で登録を受けたものであり、かつ、本件商標は、引用商標に類似するので便宜上であっても「文章圭」の名義で登録を受けた本件商標登録にも無効理由が存在すると主張している。しかしながら、かかる主張は、商標法の理念を曲解した主張であるといわざるを得ない。前記本件商標の審査時に引用された引用商標は、その登録・出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあったとして無効審決が確定しており、文章圭の不正の目的が認定されているが、かかる目的は、該引用商標の登録にのみ該当する特有の判断であり、これをもって本件商標にも同様の不正の目的が存在するということにはならない。
言い換えれば、該引用商標を出願し、登録する際に文章圭が労した不正行為は、該引用商標についてなされたものにすぎず、本件商標の登録出願には、そのように判断される要素は、全くない。本件商標登録の出願の際に不正の目的があったかは、本件の出願、及び、その後の登録に至るまでの経緯を精査して判断することとなる。
(ウ)まず、被請求人は、文章圭と関係のない団体であり、同氏による引用商標の出願・登録やその後の権利行使に一切関与していない。「国際空手道連盟 極真会館」は、大山倍達氏が創設した空手の流派である極真空手道の団体であり、同氏が亡くなった後は、同氏の弟子であり、同団体の構成員である支部長の協議により運営されており、同団体が法人格を取得したものが被請求人である。この間、一部の者が脱会し、別会派を構成して活動しているが、被請求人が、大山倍達氏が創設した「国際空手道連盟 極真会館」を真に承継するものである。文章圭も、大山倍達氏が亡くなった当初は、支部長の協議による当該運営に参加していたが、支部長の多数決により代表者を解任されるや、脱会し、自ら「国際空手道連盟 極真会館」を名乗り、活動しているにすぎず、文章圭による該活動は、被請求人とは、全く関係がない。また、同氏は、支部長の承認や報告をすることなく無断で引用商標を出願・登録したものであり、被請求人もその前身である団体も同出願・登録には、一切関与していない。
さらに、被請求人の構成員である支部長らを含め、文章圭を支持しない各支部長らに対して同氏は、引用商標の排他的独占権を行使したため、NTTのタウンページに極真会の名称を掲載することが差し止められる事態となっていた。このように、被請求人は、同氏による引用商標の権利行使により「極真会」「極真会館」等の使用を妨害されたものであって、同権利行使に関与するものではない。これに対して、被請求人は、旧団体名で文章圭に対して、使用差止不存在確認請求訴訟を東京地方裁判所に「平成11年(ワ)第12483号」として提起した。
(エ)被請求人は、文章圭の団体と区別するために、自己の業務を表示する名称として「新極真会」の名称の採用を意図として、平成14年1月16日に第41類の役務を指定役務として、商標「新極真会」を出願した(商願2002-2125)。当該出願は、後日、請求人が指摘するとおり、文章圭の所有する引用商標を引用されて拒絶理由通知を受けたものである。
被請求人は、引用商標には無効原因があることを指摘して拒絶理由に対する応答とは別に、引用商標1、3、4に対して無効審判を請求している(審判平11-35279(引用商標3)、35280(引用商標1)、35289(引用商標4):東京高裁平成13年(行ケ)第316号ないし第318号)。
上記の不存在確認訴訟は、長期の審理を経て平成15年に最終的な和解の合意が成立し、平成15年4月15日付で和解調書が作成されたものである(乙第1号証)。
和解に至るまで、大山倍達氏から支部道場の開設を許可されていた旧来からの多くの支部長等も「極真」の名称の使用の行方について心配していた。もちろん、文章圭の平成6年の引用商標の出願以前からに広く道場名として使用されていた役務商標であるので、少なくとも旧来から認定を受けていた支部長には先使用権が認められる状況になっていたことは、衆目の一致するところであった。ただし、先使用権が正式に認められるまでは、その後数年も法廷闘争が必要であったのが実情である。
(オ)当該和解調書の和解条項には、「1.原告法人は、平成15年7月15日限り、その名称を『特定非営利活動法人 全世界空手道連盟 新極真会』に変更する」、「4.被告松井(文章圭)は、別紙商標目録2記載の商標を同目録記載の指定商品及び指定役務について、原告法人の費用により原告法人が指定する弁理士を代理人として、本和解成立後、原告の要請に応じて商標登録出願し、同商標が商標登録出願後は、同商標が商標登録されるために必要不可欠な手続を行い、同商標が商標登録された後は、速やかに同商標登録による商標権を原告法人に移転するとともに、同移転登録を原告法人が単独申請することを承認する。・・・」ことが明記されている。
(カ)本件商標は、かかる裁判上の和解により、被請求人は、文章圭に本件商標に係る出願人の地位を一時的に移転し、登録後に再度移転を受けたものである。確かに本件商標は、本件商標に係る出願が拒絶理由を受けた後に、引用商標の商標権者と同一となったため、他人の登録商標と類似するとして商標法第4条第1項第11号に該当するとした拒絶理由を回避した上で登録を受けたものである。
(キ)被請求人がこのような手続きを取ったのは、上記の裁判上の和解が存在しているからであり、文章圭も当該和解条項に沿って行動したものにすぎない。和解は、文章圭の所有する引用商標の存在はそのままにして紛争を回避する方法を示している。文章圭は、紛争解決の手段として本件商標を登録するために便宜的に介在させられたにすぎない。文章圭には、元々本件商標を出願する意思も、登録後に使用する意思も存在していなかったというのが実情である。
(ク)文章圭の所有していた引用商標について無効審決が確定した理由は、「その登録出願は、極真会館のために善良な管理者の注意をもって代表者としての事務を処理すべき義務に違反し、事前に団体内部においてその承認を得ると共に、その経過を直ちに報告するなど、極真会館内部の適正な手続を経るべき義務を怠り、個人的な利益を図る不正の目的で、秘密裏に行ったと評価できる」「本件遺言が確認審判申立ての却下決定の確定により効力が認められず、原告(文章圭)は、少なくとも内部的には、正当な代表者であると主張する根拠を欠くに至っていた」からである(平成17年(行ケ)第10030号)。また、無効審決の理由は「松井章圭の館長就任が承認される前提となった危急時遺言の確認を求める申立てが却下された事実と極真会館の分裂に至る経緯及び松井章圭による極真関連標章の商標権の行使により、他会派に所属する支部長らの業務に支障が生じている事実をも併せ考慮すると、被請求人による極真関連標章についての登録の有効性は認め難いばかりではなく、被請求人は、極真関連標章を出願する際には、既に、極真会館分裂の可能性をも予見して、将来生ずるであろう各派の対立関係を自己に有利に解決する意図をもって、本件商標をはじめとする極真関連標章の登録出願をしたものとは推認せざるを得ない。してみれば、このような事実関係の下においてなされた本件商標の登録は、公正な取引秩序を害し、公序良俗に反するものといわなければならない。」とされている。
これに対し、本件商標の出願から登録までの経緯は、上記(ウ)ないし(キ)で述べたとおりであり、本件商標には、引用商標について存在した上記のような事情は、一切存在していない。文章圭は、裁判上の和解に基づいて被請求人の求めにより本件商標の一時的な出願人となり、登録査定後に被請求人に戻したにすぎず、それ以外の事実は存在しない。
(ケ)請求人は、文章圭の引用商標が公序良俗違反として無効審決が確定したのであるから、同氏が一時的な出願人となっていた本件商標登録も無効であると主張しているが、無効理由の判断は、登録ごとに個別に判断されるものであり、無効事由が付帯するものではない。本件商標の出願から登録に至るまでの経緯に文章圭の不正の目的は認められず、商標法第4条第1項第7号には該当することはない。すなわち、引用商標の出願から登録に至るまで有していた他人を欺くという属性は、あくまでも引用商標についてだけの属性であり、他の商標にその属性が転移したり、まして、本件商標に引き継がれたり、本件商標まで同一の属性が拡大するような性質のものではない。
(コ)また、和解調書の記載は、確定判決と同一の効力を有している(民事訴訟法第267条)。調書に記載した事項が履行されなければ、債務不履行あるいは強制執行の対象ともなる。文章圭も被請求人も、債務不履行・強制執行の対象となることを避けるべく、和解内容である本件商標の登録を忠実に実現させただけにすぎない。請求人は、文章圭が本件の出願から登録に至るまでの間に不正の目的が存在していたことを何ら立証していない。単に、文章圭の不正の目的がそのまま引き継がれるといった、法理論にない解釈を自己の都合の良いように持ち出して無効の主張をしているにすぎない。
この点において、請求人の主張は、失当である。
イ 拒絶理由の回避
(ア)確かに、請求人が指摘するように、本件商標は文章圭の所有していた引用商標が引用されて拒絶理由通知を受けている。しかしながら、上記(1)イのように、引用商標との類似性を否定できないがために、言葉を換えれば逃げの手段で、文章圭と和解したものではない。商標法第4条第1項第11号の拒絶理由を解消する手段としては、引用商標との非類似を争う、重複する指定商品又は役務を削除する、引用商標に係る商標権を無効又は取消す、引用商標を買い取る、又は、出願人の地位を移転する、等の手段が考えられるが、そのいずれを選択するかは、個別の出願の状況や戦略により異なる。
(イ)本件商標を出願すると文章圭の登録商標を引用商標とされることは、予測の範囲内であり、本件を登録するには、文章圭の引用商標を無効にするとの手段も考えられた。上記のように被請求人は、現に無効審判を請求し、東京高等裁判所にて係争中であった。しかし、裁判上の和解に応じたのは、紛争の長期化を回避するとともに、被請求人及び被請求人の構成員である支部長等が「新極真会」の商標の使用を妨害されることなく安心して使用できるようにする為のやむを得ない最終判断であり、単に拒絶理由を解消することを目的として裁判上の和解を求めたものでないことは、明確である。和解の一方当事者が和解によって以降使用する商標について登録を確保することは、常道であり、被請求人側が少なくとも本件商標の登録を和解の必要条件とし、和解条項の中に協力を求める旨を盛り込んだのは、当然のことである。 紛争の抜本的な解決を図るために裁判所の指導の下に和解条項は、作成されている。本件商標を登録する最適な手段として合意の下に選択された手段にすぎない。
また、不正の目的の有無は、商標ごと(出願ごと)に判断されることを考慮すれば、本件商標と文章圭の引用商標とが同一でない以上、本件商標について不正の目的が存在するか否かを別個に考慮しなければならないのであって、本件商標と引用商標の類否は、不正の目的の有無に関しては、何ら関係がないものであることを付言する。
ウ 本件商標と引用商標の並存
請求人は、本件被請求人が引用商標との類似性を否定できないがために一時的に文章圭に出願人の地位を移転したと主張している。すなわち、審判請求書では、本件商標は、「これら4つの引用商標に類似するとされ、商標登録するには引用商標の商標権者でなくてはならない、という限定された登録要件を満たさねば登録されない」と主張している(審判請求書第9頁)。しかしながら上記のように、被請求人は、無効審判を請求して引用商標1、3、4の消滅に鋭意努力していたのが現実であり、和解は、紛争解決のための最適な手段を選択したにすぎない。これにより実現されたのは、本件商標と引用商標1、3、4との並存である。すなわち、一旦登録された商標の移転は自由であることが容認されている法制であり、コンセント制度が認められていない現行の法制度での矛盾のない解決方法であり、また、合理的解釈と考えられる。
引用商標と本件商標が類似することと無効事由があることは、峻別して考察されなければならない。引用商標に無効事由があれば、文章圭の出願であったことが一時期でもある以上、当然類似する商標登録も無効であるというような何の論拠もない理論は、到底容認できない。また、類似の中でも、語頭に「新」の付加されている別商標をとりあげて、類似しているから無効というような考え方は、存在しない。引用商標が無効である以上、文章圭名義で登録査定を受けた「極真」に関連する商標登録は、全てが無効であると主張したいものと思われる。
第一に留意すべき点は、引用商標と同一の商標ではない事実である。引用商標については、無効原因が内在すると判断されているが、類似商標については、何も判断されていないのである。引用商標と本件商標が類似するか否かと本件商標登録に無効事由が存在するかとは、全く次元の異なる判断であり、このような理論を展開する根拠がどこにあるのか疑問である。
商標の類否は、時代と共に変化するものであり、今後、本件商標と引用商標とが、オリジンは、同根ではあるが別の主体によって運営されていることが世間に明確になる日がくれば、次第に非類似と判断される可能性が増すことも否定できない。しかし、この事と本件商標登録に無効事由がないこととは、関連ない。
エ 瑕疵の不存在
被請求人の名称である「新極真会」は、被請求人が独自に選択した団体名であり、引用商標のようにその出願及び登録が文章圭の抜け駆けにより極真会館内部の適正な手続きを経るべき義務を怠った瑕疵のある出願に係る名称とは、全く異なる。該引用商標は、手続的瑕疵が存在すること、及び、個人的な利益を図る不正の目的が認定され、遺言が確認審判申立ての却下決定の確定により効力が認められなくなったことを理由として無効審決を受け、無効が確定している。この点で、本件商標は、商標選択の動機及び使用の正当性の承認の過程において、著しく相違している。
以上詳述したとおり、新たな商標(団体名)についての登録(出願)であって、登録までの手段が複雑ではあっても引用商標のような瑕疵を包含しない登録商標ということができる。本件商標と引用商標の出願の経緯には、大きな差異があり、文章圭が出願から登録までに有していたような不正の目的は、本件商標の出願から登録に至るまでの間に存在していないことはもちろん、被請求人にもそのような意図が存在しなかったことは、明白である。したがって、この点において審判請求人の主張は、失当である。
ちなみに、本件商標選択の重要なポイントとして、常に被請求人側が模索していたのは、引用商標との差別化である。商標権取得に関する背信行為、たまたま獲得した商標権に基づいた大山倍達氏の弟子である旧来からの師範や支部長に対する商標使用の妨害行為を考えた場合、袂を別って全く別の団体であることを表明することが重要なことである。
(3)請求人の不当な目的
ア 被請求人は、第41類の本件商標の他にほぼ同一の構成の商標を他の区分に出願している。その業務上の必要性から商品分類(第25類、第6類、第9類、第14類・・・等)について、商標「(図)新極真会」を出願している(乙第2号証:商願2005-98689)。当該出願について、平成18年3月30日付で商標法第4条第1項第11号に該当する旨の拒絶理由を受けているが、その引用商標の1つとして、請求人が出願した商標が引用されている(乙第3号証及び乙第4号証:商願2004-96659)。商願2004-96659「新極真会/SINKYOKUSINKAI」出願人:大山喜久子 出願日:平成16年10月22日 商品:第25類「被服,空手衣」
イ 本件商標(第41類)の出願日は、平成14(2002)年1月16日であり、登録日が平成16年3月19日となっている。請求人の出願した第25類、商願2004-96659より2年ほど先願である。請求人の出願した商標は、被請求人が出願した商標および本件商標と全く同一の漢字の構成であり、「新/SIN」と「極真会/KYOKUSINKAI」の間に1文字半程度のスペースを設けている。被請求人の団体名である本件商標に極めて類似する態様で、先登録である本件商標を避けて他の区分に出願している。新極真会の名称は、他の団体の名称であり、出願すること自体が他人の名称を横取りする意図であり、かつ、被請求人の商標登録を妨害するためにする意図的な嫌がらせ出願以外のなにものでもない。
かかる出願に登録を認めれば、被請求人が商標「新極真会」に蓄積させてきた信用の剽窃を許すばかりでなく、需要者の利益を害することともなる。被請求人は、請求人の当該出願に対して、悪意を持ってなされた出願であるとして、商標法第4条第1項第8号、商標法第4条第1項第7号を始めとする情報提供を行った。本件とは、直接関連がある事項ではないが、請求人がどのような意図を持って本件商標に対して無効審判を請求したかが推し量れる事実と考えられる。
(4)本件商標の維持の必要性
平成6年の大山倍達氏の逝去の後、平成19年末の現在まで、13年間もの長きにわたり極真関連の商標の使用については、混乱状態が続いている。前記引用商標の登録については、昨今無効が確定したことにより、極真商標の統一的な管理者が不在となり、なお混乱状態は、今後も継続すると予測されるのが実情である。被請求人は、本件商標を登録していることにより、少なくとも、本件商標の使用だけは、確保している。その結果、ここ数年の被請求人の活動は、活発化し、各所の道場が隆盛に活動しているとともに、毎年の世界大会も「新極真会」の名称で世界各地からの代表が集合して大々的に執り行われている。また、その地道な活動は、高く評価されており、テレビ、新聞、雑誌等でも紹介され、「新極真会」は、極真空手武道の流派として広く知られる存在となっている。他の極真関連の活動が混乱を来している中で、整然と組織を運営し、地に根を張った企画経営となって来ており、その限りにおいては、この混乱の極真関連商標の中では、唯一商標を大事に使用している団体であるとも評価される。本件商標は、成立に何の欠陥もない登録商標であり、極真関連の商標であって平穏に存在する権利と考えられる。この点で、無効審判を提起してきた請求人の意図が図り知れない闇の中にあると想像せざるを得ない。
今後、引用商標が誰の手中に落ちようと、また、誰も登録できない状況に今後も陥ることがあったとしても、本件商標の有効な存在とは、無関係である。本件商標登録を無効にしたとしても、再度、引用商標との併存を画策せざるを得ないことになり、問題を再燃させるだけとなる。これにより利を得るのは、請求人であるとしても、それが本件商標登録を無効にする理由になるとは、到底考えられない。これは、長年の混乱状態の中で、引用商標の権利者の横暴に辛抱強く耐えてようやく勝ち取った和解のお陰とも考えられる。
一方で、本件商標は、被請求人にとって、ようやく手に入れた生命線としての商標登録であり、被請求人が団体として今後活動するのに不可欠な権利である。かつて、平穏無事に使用していた商標を文章圭に横取りされて使用の差し止めを食らうような散々な苦労から開放される大事な商標であって、商標権の死守は、組織保存繁栄の第一歩で基本の基と考えている。
(5)文章圭との関係
文章圭の行為については、引用商標の出願及び登録について不適切な手続きが存在していたようであるが、これは、専ら引用商標に関するものであって、本件商標とは、直接関係はない。関係を探すとすれば、文章圭には、いかに引用商標の私的独占を他者に認めさせるか、及び、自分に独占を認めさせるための懐柔策としてどの程度の使用までを他者に認めるかを画策することに腐心があったと考えられる。本件商標の登録は、引用商標を登録することと、引用商標の私的独占を確保するために他人と結んだ方策とは、本質的に視点が異なる。また、見方を変えて、引用商標が無効となったとしても、本件商標までが一蓮托生に無効になるとは、当然考えられない。引用商標の文章圭による私的独占は本来的に認められないものであったのであるが、本件商標は、別組織として峻別するための新たな識別標識であって、何らの不正目的も存在しないものである。要するに、文章圭の「極真」又は「極真会」「極真会館」と決別して混同の生じない名称を選択した結果である。
(6)本件無効審判の不合理性
本件商標出願時に、引用商標が無効とされていれば、本件商標は、拒絶理由としてこれらの商標を引用されることもなく、何らの問題なく商標登録となったものであり、元々引用商標の無効は、本件商標の登録に何らの影響を及ぼすものではなかったのである。このように引用商標が無効とされていれば拒絶されることなく登録となる本件商標について、引用商標が無効とされたからといって、登録を無効とすることは、不合理である。
(7)結語
上記詳述したとおり、請求人の審判請求書における主張は、いずれも失当である。本件商標は、商標戦略の便宜上、一時的に文章圭に出願人の地位を移転していたものであるが、本件商標については、文章圭に何らの不正な意図もなく、不正の目的をもって出願又は登録がなされたものではない。したがって、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」ではなく、商標法第4条第1項第7号の規定に反して登録されたものではない。

第4 当審の判断
請求人は、平成19年9月11日付け提出の補正書において、請求の理由の適用条文を「商標法第4条第1項第7号」から、「同第19号」に訂正しているが、適用条文以外の請求の理由がそのままであることが認められる。そして、本件審判の請求の理由全体からすれば、「本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第19号に該当する。」との請求をしているものと認められるから、本件商標が商標法第4条第1項第7号及び同第19号に該当するか否かについて審理した。
1 「極真関連標章の権利」について
極真関連標章に係る判決等によれば以下の事実が認められる。
(1)請求人の父親でもある請求外「大山倍達」は、極真空手と呼ばれる空手の流派の創始者であり、昭和39年、同空手に関する団体として国際空手道連盟極真会館(極真会館)を設立し、平成6年4月26日の死亡時まで、その代表者として、極真会館の館長ないし総裁と呼ばれていた。極真会館は、代表者である「大山倍達」の下で規模を拡大し、世界各地に多数の支部等を置くほか、日本国内においても、総本部のほか、全国各地に支部等を置いた。支部は、それぞれ担当する地区が定められており、「大山倍達」によって任命された支部長が、各担当の地区において、道場を開設し、極真空手の教授を行っていた。国内支部の支部長は、極真会館が開催する大会に選手を派遣する等大会の運営に協力する義務、極真会館の総本部に会費等を納める義務、支部長会議に出席する義務等を負っていた。
他方、支部長は、担当地区内に道場を開設して、極真空手に入門した道場生に対し、極真空手の教授を行い、極真空手の級位や初段の段位を与えることができ、また、担当地区内に、分支部を設けることができた。極真空手を学ぶ者は、本部直轄道場や各支部の道場に入門して、極真会館の会員となり、場生として、極真空手の教授を受けた。「大山倍達」が死亡した平成6年4月当時、極真会館は、日本国内において、総本部、関西本部のほか、55支部、550道場、会員数50万人を有し、世界130か国、会員数1200万人を超える勢力に達していた。極真会館は、毎年、全日本空手道選手権大会及び全日本ウェイト制空手道選手権大会と呼ばれる極真空手の大会を開くと共に、4年に一度、全世界空手道選手権大会と呼ばれる極真空手の大会を開催していた。「大山倍達」及び極真会館の支部長らは、極真会館及び極真空手を示す標章として、本件商標を含む極真関連標章を、空手の教授の際に使用するほか、極真会館が開催する空手大会の開催等にも、極真関連標章を使用していた。なお、支部規約上、支部長は、極真会館を表示する標章を無断で使用することを禁止されていたが、極真会館の活動趣旨に沿う限り、道場等において、その教授等に際し、極真関連標章を自由に使用することができた。そして、前記のような極真会館の規模の大きさやその活発な活動から、「大山倍達」が死亡した平成6年4月時点においては、本件商標を含む本件関連登録商標は、少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では、「大山倍達」の極真会館というまとまった一つの団体を出所として表示する標章として広く知られていた(甲第18号証 知財高裁平成17年(行ケ)第10030号判決)。
(2)「大山倍達」の死後、同人が率いていた極真会館は、複数の会派に分裂したものとみるのが相当であり、被告が館長を承継した極真会館から原告らが離脱したものということはできない。・・・商標は、自分の商品と他人の商品、自分の役務と他人の役務を区別するために、事業者が商品又は役務につける標章である。しかるところ、複数の事業者から構成されるグループが特定の役務を表す主体として需要者の間で認識されている場合、その中の特定の者が、当該表示の独占的な表示主体であるといえるためには、需要者に対する関係又はグループ内部における関係において、その表示の周知性・著名性の獲得がほとんどその特定の者に集中して帰属しており、グループ内の他の者は、その者からの使用許諾を得て初めて当該表示を使用できるという関係にあることを要するものと解される。そして、そのような関係が認められない場合には、グループ内の者が商標権を取得したとしても、グループ内の他の者に対して当該表示の独占的な表示主体として商標権に基づく権利行使を行うことは、権利濫用になるというべきである。(甲第14号証 大阪地裁平成14年(ワ)第1018号判決)。
(3)大山倍達死亡後の一連の経緯及び事実を総合してみれば、極真関連標章は、遅くとも大山倍達が死亡した平成6年4月の時点では、少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では、「極真会館」、「極真空手」を表す標章として広く認識されるに至っていたことが認められる。そして、極真関連標章が極真会館ないし極真空手を表す標章として広く認識されるに至ったのは、大山倍達と大山倍達存命中の極真会館に属する各構成員の努力により、極真会館及び極真空手を全国に普及し、発展させた結果であるから、極真関連標章が表示する出所は、極真会館であることは明らかである。そうすると、大山倍達が死亡したことにより、大山倍達及び同人から認可を受けた支部長らによる永年の努力により醸成された信用等が化体されている極真関連標章に係る権利は、極真会館に所属する支部長ら構成員全体に、共有的ないし総有的に帰属していたものと解するのが相当である(甲第3号証 無効2004-35028審決)。
(4)以上の事実を総合すると、大山倍達死亡後も、極真関連標章に係る権利は、「大山倍達」存命中の極真会館に所属していた支部長ら構成員全体に共有的ないし総有的に帰属し、支部長ら構成員は、その利益を享受し得るべきものというを相当とする。
2 被請求人の地位及び本件標章の帰属について
被請求人が「大山倍達」存命中の極真会館に所属していた支部長らによって構成されていること、及び、本件標章が上記極真関連標章として使用されていたものでないことについては、争いがない。
3 本件商標が登録に至る経緯
本件商標は、東京地裁平成11年(ワ)第12483号使用差止不存在確認請求訴訟(ほか1件)等による極真関連標章に紛争が生じていた当時の平成14年1月16日に商標登録出願され、「極真会」を始めとする引用商標に類似するとする商標法第4条第1項第11号の拒絶理由通知を受けた後、裁判上の和解により、引用商標の商標権者である文章圭に本件商標に係る出願人の地位を一時的に移転し、登録料納付時に再度移転を受ける形で商標登録を得たものであることは、その手続の経緯に照らして明らかである。
4 結び
以上の事実を総合すると、本件商標は、請求外「松井章圭」こと「文章圭」その他の極真会館の空手の技術を継承する各派が乱立していた状況の中で自己の会派と他の会派を峻別する目的をもって、被請求人によって出願され、当事の引用商標の権利者であった文章圭と裁判上の和解により、法律上やむを得ず、再度の名義変更の手続きを経て、被請求人に登録されたものと認められる。
してみれば、本件商標は、やや特異な経緯を辿って登録に至っているが、これが「その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ない」というべきものではない。
また、本件商標は、その構成自体に矯激・卑猥なところのないものである。
さらに、本件商標は、「不正の目的」(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他の不正目的をいう。)による出願ということもできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当しないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2008-06-04 
結審通知日 2008-06-10 
審決日 2008-07-25 
出願番号 商願2002-2125(T2002-2125) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (Y41)
T 1 11・ 222- Y (Y41)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩本 明訓 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 鈴木 修
酒井 福造
登録日 2004-03-19 
登録番号 商標登録第4756427号(T4756427) 
商標の称呼 シンキョクシンカイ、キョクシンカイ、キョクシン、シンキョクシン 
代理人 鈴木 正勇 
代理人 首藤 俊一 
代理人 木村 晋介 
代理人 今井 秀智 
代理人 広瀬 文彦 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ