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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 X41 審判 全部申立て 登録を維持 X41 審判 全部申立て 登録を維持 X41 |
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管理番号 | 1203969 |
異議申立番号 | 異議2009-900128 |
総通号数 | 118 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2009-10-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2009-04-10 |
確定日 | 2009-08-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第5193442号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第5193442号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5193442号商標(以下「本件商標」という。)は、「スクーデリア」の文字を書してなり、平成19年5月21日に登録出願、第41類「セミナーの企画・運営又は開催,電子雑誌の提供,図書及び記録の供覧,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与」を指定役務として、同20年11月21日に登録査定、同21年1月9日に設定登録されたものである。 第2 登録異議の申立ての理由(要旨) 1 理由 本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第19号及び同第7号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の2第1号によって、その登録を取り消されるべきである。 2 引用商標及び申立人標章 (1)引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録商標は、以下の(a)ないし(c)のとおりである。 (a)登録第4710086号商標(以下「引用商標1」という。)は、「SCUDERIA FERRARI」の欧文字を書してなり、平成11年7月23日に登録出願、第41類「自動車競争の企画・運営又は開催,スポーツ目的の自動車レースエキシビションの企画・運営又は開催,自動車競争を間近で観戦するという興行の企画・運営又は開催,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,ゴルフの興行の企画・運営又は開催,相撲の興行の企画・運営又は開催,ボクシングの興行の企画・運営又は開催,野球の興行の企画・運営又は開催,サッカーの興行の企画・運営又は開催,競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催」、他第3類、第6類、第9類、第14類、第16類、第18類、第24類ないし第26類、第28類及び第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同15年9月12日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 (b)登録第4418984号商標(以下「引用商標2」という。)は、「SCUDERIA FERRARI」の欧文字を書してなり、平成11年8月12日に登録出願、第12類及び第37類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同12年9月22日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 (c)登録第5189097号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲のとおり、上段に数字の「430」を表し、下段に「SCUDERIA」の文字を表した構成よりなり、平成19年5月1日に登録出願、第9類、第12類及び第28類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同20年12月12日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 (2)申立人と申立人標章 ア 申立人は、1947年にイタリア国にて設立された世界有数のスポーツカー製造業者である(甲第5号証)。 申立人は、以下に述べるとおり、申立人のモータースポーツ部門を表す名称として、「SCUDERIA FERRARI」あるいはその略称「SCUDERIA」(以下、合わせて「申立人標章」という。)を、世界中で長年に亘って継続的に使用している。 申立人標章は、申立人の創始者であるエンツォ・フェラーリが、1929年にアルファ・ロメオ社のレーシングチーム運営のために設立した会社を「スクーデリア・フェラーリ(Scuderia Ferrari)」と名付けたことを由来とする。フェラーリがアルファ・ロメオ社を退社し、1947年に申立人を設立した後、申立人は、「スクーデリア・フェラーリ」の名称を使用して自動車レースに参戦するようになった。1950年に、F1(フォーミュラ・ワン)レースに初参加した。その後現在に至るまで継続的に、申立人はモータースポーツ部門の名称として申立人標章を使用している。なお、「SCUDERIA」は、「スクーデリア」と発音され、イタリア語での「厩舎」の意味合いから転じて「チーム」に相当する語として採択されたものである(甲第5号証及び甲第6号証)。 甲第7号証の1及び2は、申立人ウェブサイトの写しである。モータースポーツ部門を紹介するページに、「Scuderia」及び「Scuderia Ferrari」の文字が表示されている。 イ 上述のとおり、申立人標章は、申立人のモータースポーツ部門の名称として使用されている。 レーシングチーム「スクーデリア・フェラーリ」(現在の正式名称「スクーデリア・フェラーリ・マールボロ」)は、世界最高峰の自動車レース「フォーミュラ・ワン(F1)」に、1950年から現在に至るまで、60年近くに亘って参加し、トップクラスの成績を上げている。 F1は、熱心なモータースポーツ愛好家のみならず、広く一般の老若男女に知られる、世界中で最も人気のある自動車レースである。米国、英国、フランス、モナコ、オーストラリア、マレーシア、ドイツ、イタリアなど、一年に亘って世界各国を転戦するようにして毎年開催されており、年1回は「日本グランプリ」の名称で日本においても開催されている。 現在まで、レーシングチーム「スクーデリア・フェラーリ」は、F1レースに778回出走し、そのうちポールポジション(予選レースの結果に基づいて決勝レースにおいて先頭のスタート位置を獲得すること)を203回、優勝は209回を数えている(甲第8号証)。また、甲第9号証の1ないし8は、2000年から2007年までの日本グランプリにおける競走結果を示し、日本グランプリにおいて、同チームは、2000年から2004年まで5年間連続で優勝している。これまで、アラン・プロスト、ジャン・アレジ、ミハエル・シューマッハ、キミ・ライコネンといった有名ドライバーを擁してきたことからも、数あるF1レーシングチームの中でも非常に人気の高いチームである。特に、2000年から2004年までの日本グランプリでの同レーシングチームの活躍が、申立人の日本における名声の向上に与えた影響は計り知れないものである。 3 商標法第4条第1項第15号該当性 (1)商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」を登録商標登録を受けることができないものと規定し、同号に該当するか否かの判断について商標審査基準を設けている。 (2)申立人標章の周知・著名性 ア 前述するように、申立人標章は、申立人の創始者であるエンツォ・フェラーリによって独自に採択され、申立人のモータースポーツ部門の名称として、申立人の自動車レース事業はおろか、市販用スポーツカー及び自動車用品の販売や、自動車レース関連グッズの販売にも幅広く用いられている。 具体的には、以下のとおりである。 申立人の自動車レースにおける活動歴は、上述のとおりである(甲第5号証ないし甲第9号証)。 甲第10号証の1ないし23は、申立人のF1レーシングチームに関連するニュース記事です。「スクーデリア・フェラーリ(・マールボロ)」の名称が申立人のレーシングチームを示すものとして実際に多数使用されていることが分かる。 また、単に「スクーデリア」と略称される例も散見され、「スクーデリア」の文字が申立人のレーシングチームの愛称として認識されていることが窺える。 甲第11号証は、申立人の運営するオンラインショツプ(http//store,ferrari.com)を示し、ここにおいて多種多様な商品が販売されている。なお、同オンラインショップでは、日本からも商品を購入することも可能である。甲第12号証は、当該ウェブストアにおいて「scuderia」のキーワードにて検出された商品の一覧であって、ここで検出された商品は、商品タイトルあるいは商品紹介ページに「scuderia ferrari」あるいは「scuderia」の文字を含むものである。 一覧からも分かるように、キーホルダー、サングラス、ぬいぐるみ・模型自動車等、マウスパッド、衣服類、財布、自転車、靴類等、幅広い商品が、申立人標章を用いて販売されていることが分かる。甲第13号証は、そのうちの任意に選択した商品の紹介ページを示す。甲第13号証に示すように、各商品紹介ページにも「scuderia ferrari」あるいは「scuderia」の文字が使用されており、特に、各商品に付される「SF」の頭文字を含む楯型の跳ね馬の紋章が、「scuderia ferrari logo」と称されている。このように、申立人標章「SCUDERIA FERRARI」又は「scuderia」は、幅広い分野の商品の販売に使用されていることが分かる。 甲第14号証及び甲第15号証は、日本において申立人の関連グッズを販売するオンラインショップのウェブサイトにおいて、甲第12号証と同様に、「スクーデリア」「scuderia」のキーワードにて検出された商品の一覧である。「スクーデリア・フェラーリ」「スクーデリア」の文字が、商品のタイトルあるいは説明文に用いられていることが分かる。 甲第16号証の1ないし3は、「フェラーリ・オフィシャル・カレンダー」の発売に関するニュース記事である。 2005年度版のタイトルには、「スクーデリア・フェラーリ」の文字が採用されたことが分かる。 甲第17号証は、2005年に発売されたスポーツカー「F430スパイダー」に関するニュース記事である。甲第18号証は、2006年に発売されたスポーツカー「612スカリエッティ アニバーサリー」に関するニュース記事である。記事文中に、「スク-デリア・エンブレム・シールド」「スクーデリア・フェラーリエンブレム」との記述があり、申立人標章「スクーデリア」「スクーデリア・フェラーリ」が市販用スポーツカーに装備される楯型の跳ね馬紋章の名称としても使用されていることが分かる。 甲第19号証の1ないし3は、申立人のスポーツカー「エンツォ・フェラーリ」に標準採用されるブリヂストン製タイヤ「POTENZA RE050 SCUDERIA」に関する記事である。このように、申立人標章「SCUDERIA」は、申立人のスポーツカーに装備されるタイヤについても用いられていることが分かる。 甲第20号証の1ないし10は、申立人のスポーツカー「430スクーデリア」に関する記事である。甲第20号証の11は、申立人のスポーツカー「スクーデリア・スパイダー16M」に関する記事である。このように、申立人は、「スクーデリア」の文字をスポーツカーの車種名にも用いている。また、スポーツカー「430スクーデリア」は、日本国内において、2008年に84台、2009年(1月から3月)に19台販売されている。同スポーツカーの市販価格は、30,261,000円と非常に高価であることを考慮すると(甲第20号証の12)、これらは、決して少なくない数量である。 イ 以上のように、申立人のレーシングチーム「スクーデリア・フェラーリ(・マールボロ)」がF1レースに参戦し、活躍していることは、日本のみならず、世界中で周知の事実であり、申立人標章は、申立人のレーシングチームの名称として、申立人の各種事業において、また、跳ね馬の紋章をあしらった商品の販売において、広く使用されている。その結果、少なくとも我が国のモータースポーツファン、特に、申立人のファンの間で、申立人標章が申立人の業務に係る商品及び役務を示す表示として、広く知られていることは明らかである。 よって、「SCUDERIA FERRARI」あるいはその略称「SCUDERIA」は、申立人の業務に係る商品または役務を表示するものとして、関連する需要者及び取引者の間で周知著名というべきである。また、その周知・著名性は、本件商標の登録出願日である平成19年5月21日はもちろん、現在に至るまで維持されている。 (3)申立人標章と本件商標との類似性 本件商標からは、「スクーデリア」の称呼が生じ、これは、申立人標章の構成中「SCUDERIA」の文字部分から生ずる称呼と共通する。 この点、「フェラーリ」「FERRARI」の文字が申立人のハウスマークとして極めて著名であること、「スクーデリア・フェラーリ」の称呼は音数が10音(長音を含む。)とやや冗長であること等を考慮すると、「SCUDERIA」と「FERRARI」の部分とは分離して看取される結果、著名なフェラーリブランドの一系統として「SCUDERIA」の部分に着目して取引に供されることも十分に想像可能である。 上述のとおり、「SCUDERIA」の文字単独での使用例が実際に数多く見受けられることからすれば、当該文字が申立人のモータースポーツ部門の出所を識別する表示として需要者及び取引者に認識されていることは容易に推測可能であり、よって、申立人標章からは、「スクーデリア」の称呼も生じ得るというべきである。 よって、申立人標章と本件商標とは、称呼が共通し、互いに相紛れる可能性が高いというべきである。上述した申立人標章の周知・著名性、および世間一般の日本人のイタリア語力を考慮すれば、「SCUDERIA」およびそれに対応する片仮名文字「スクーデリア」の文字からは、イタリア語の本来の意味合いよりはむしろ、申立人のモータースポーツ部門それ自体を想起させる蓋然性が非常に高いといえる。よって、本件商標と引用商標又は申立人標章とは、観念が共通する。 なお、本件商標に係る出願は、平成20年3月14日付起案に係る拒絶1由通知を受けている(甲第21号証)。その拒絶理由の内容は、本件商標が、引用商標1と同一または類似し、引用商標1に係る指定役務と同一または類似する役務について使用するものである、とするものである(商標法第4条第1項第11号)。本件商標権者は、平成20年4月16日付及び平成20年10月24日付手続補正書にて、引用商標1に係る指定役務と類似群コードの共通する指定役務「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,音楽の演奏,放送番組の制作,スポーツの興行の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催」を削除して、商標法第4条第1項第11号の拒絶理由を解消している(甲第22号証ないし甲第24号証)。 このように、特許庁も、引用商標1と本件商標とが類似する旨判断している。また、類似群コードの重複する役務を直ちに削除するという本件商標権者の対応からは、引用商標1と本件商標との類似性を自認していることが推測される。 以上のことから、本件商標と申立人標章とは、その称呼、外観、観念において、相紛れるおそれがあり、その類似性は極めて高いというべきである。 (4)申立人標章が使用される商品・役務と本件商標の指定役務との関連性 ア 申立人標章は、上述のとおり、申立人のモータースポーツ部門の名称及びその略称として周知であり、すなわち、申立人のモータースポーツ部門に係わる業務の出所を表示する商標として、広く認識されているものである。 申立人のモータースポーツ部門に係わる業務は、レーシングカーの開発という自動車産業としての側面と、F1レース等、エンターテインメントとしての側面を備えており、自動車関連の商品のみならず、広く娯楽関連の役務と密接に関連するといっても過言ではない。 また、申立人は、レーシングチームに因んだ多種多様な関連グッズを販売しており、これは、申立人の事業が、多角的に展開される可能性を示している。 イ 本件商標に係る指定役務のうち、「電子出版物の提供」は、電子出版物の題材がスポーツカーあるいはレーシングチームに関するものである場合には、需要者の範囲が完全に一致することも十分にあり得る(後述するように、本件商標権者は申立人のスポーツカーあるいはレーシングチームに関する雑誌を、本件商標を用いて実際に発行している。)。 また、「図書及び記録の供覧、書籍の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」についても、同じエンターテインメント分野としての申立人のモータースポーツ事業と密接に関連するほか、その図書、書籍、記録、ビデオの題材が、スポーツカーあるいはレーシングチームに関するものである場合には、需要者の範囲が完全に一致することも十分にあり得る。 さらに、「興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競鴨・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」は、スポーツや小型自動車競走の興行に関するものが除外されているとはいえ、モータースポーツ事業とは「興行」というエンターテインメントサービスとして密接に関連する。 さらにまた、「セミナーの企画・運営又は開催」は、セミナーの題目がスポーツカーあるいはレーシングチームに関するものである場合には、需要者の範囲が完全に一致することがあり得る。 ウ 以上のとおり、本件商標に係る指定役務はいずれも、申立人の業務に係る役務と密接に関連するものである。 (5)以上のように、(ア)申立人標章が、創始者によって独自に採択され、申立人の運営するモータースポーツ部門の名称及びその略称として、モータースポーツ業界の需要者及び取引者に広く認識されていること、(イ)申立人標章と本件商標との類似性が極めて高いこと、(ウ)申立人標章に係る申立人の業務は、モータースポーツ事業を中心として関連グッズの販売など多岐に亘り、多角的に展開されている事情が存在すること、(エ)申立人標章に係る申立人の業務と、各指定商品・役務とは密接に関連性していることなどを考慮すれば、本件商標をその指定役務に使用した場合、これに接した需要者及び取引者は、申立人、または同人と資本関係または業務提携関係を有する者の業務に係る商品または役務であるかのようにその出所について混同を生ずるおそれは十分に存在する。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、その登録は取り消されるべきである。 4 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性 (1)商標法第4条第1項第19号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用するもの」を登録商標登録を受けることができないものと規定し、同号に該当するか否かの判断について商標審査基準を設けている。 (2)申立人標章の周知・著名性及び顧客吸引力について 上述のとおり、申立人は、申立人標章を、申立人のモータースポーツ部門の名称及びその略称として、モータースポーツ事業、自動車販売事業及び関連グッズ販売事業に、長年に亘って使用している。 また、申立人は、世界各国において、申立人標章に関連する商標登録を所有している(甲第24号証)。さらに、申立人の業務に係る商品の販売業者を通じて、自動車及び関連グッズを販売している。甲第25号証は、世界各国における申立人自動車を取り扱うディーラー企業のリストである。これらのディーラー企業は、イタリア本国はもちろん、欧州諸国(ベルギー・ルクセンブルグ・北欧・ドイツ・スペイン・フランス・オランダ・ギリシヤ・スイス・ポルトガル・トルコ・英国等)、アメリカ大陸諸国(米国・ベネズエラ・ブラジル)、中東諸国(バーレーン・クウェート・オマーン・UAE・レバノン)、極東諸国(日本・オーストラリア・中国・香港・マカオ・シンガポール・マレーシア・タイ・台湾)、アフリカ諸国(南アフリカ)にて、所在している。 申立人の世界各国におけるモータースポーツ関連活動並びに申立人及び各国の販売業者による自動車及び関連グッズの販売を通じて、申立人標章が、申立人の業務に係る商品及び役務を示すものとして、国内外における需要者及び取引者の間で、広く知られているということは容易に推測可能である。 さらに、モータースポーツ事業以外に、申立人標章を用いた市販用スポーツカーや多種多様な関連グッズの販売に展開されている事情からも、申立人標章は、非常に高い顧客吸引力を有することが分かる。また、その周知・著名性は、本件商標の出願日である平成19年5月21日は勿論、現在に至るまで維持されている。 (3)申立人標章と本件商標の類似性について 上述のとおり、本件商標と引用商標または申立人標章とは、その称呼、外観、観念において相紛れるおそれがあり、よって、同一又は類似するというべきである。 (4)不正の目的について 本件商標権者は、雑誌、書籍の出版を業とする法人である(甲第26号証)。本件商標権者の発行する雑誌には、自動車やモータースポーツに関するものが多く(甲第27号証)、本件商標権者は、正にフェラーリに関するスポーツカー専門誌の題号として「SCUDERIA」を使用している(甲第28号証)。また、本件商標権者は、本件商標をタイトルとしたウェブサイトを運営し、ここにおいて、当該雑誌に関連して、インターネット上でフェラーリに関する情報を提供するとともに、当該雑誌のオンライン販売を行っている(甲第29号証)。 また、本件商標権者は、当該題号「SCUDERIA」についても、商標登録出願し、登録を受けており(甲第30号証)、申立人は、当該登録に対しても、異議申立てを行っている。 さらに、申立人以外の自動車製造業者の所有する商標についても、同様に商標登録出願を行い、登録を取得している。甲第31号証の1ないし5に示す商標「TIPO」「ティーポ」は、イタリア国の自動車メーカーであるフィアット社の製造販売する自動車の名称と共通する(甲第32号証)。また、甲第33号証の1及び2に示す商標「ラグナ」「LAGUNA」は、フランス国の自動車メーカーであるルノー社の製造販売する自動車の名称と共通する(甲第34号証)。 以上の事実を考慮すると、本件商標権者は、自動車関係、特に、申立人に関する知識に非常に明るく、申立人に何ら依拠することなく、偶然に「SCUDERIA」の文字を採択したとは考えられない。実際、甲第28号証によれば、「SUPERCAR CLASSICS」なる題号のスポーツカー専門雑誌をフェラーリ専門誌とする際に、題号を「SCUDERIA」に変更した経緯が説明されている。すなわち、本件商標権者は、「SCUDERIA」の文字が申立人のレーシングチームに関する語であることを知りながら、申立人のスポーツカーあるいはレーシングチームの専門誌を発行するために、申立人標章の顧客吸引力に乗じて、本件商標を採択したことは明らかである。よって、雑誌販売よりもさらに事業範囲を広げ、本件商標を本件商標に係る指定役務に使用するにあたり、本件商標について登録出願したということができる。 かかる経緯に基づく本件商標に係る登録出願は、申立人の著名な標章が有する顧客吸引力に不当にフリーライドするものであって、本件商標について独占権を得ることにより、申立人による当該分野進出を阻止し、その独占利益を不当に占奪することを目的としたものに他ならない。 また、申立人が、常習的に、著名な自動車製造業者の所有する商標の登録を取得している事情を合わせ見ると、本件商標は、著名な申立人標章が、本件商標に係る指定役務について登録されていないことを奇貨として、先取り的に出願したものであることが容易に推測される。 (5)以上より、本件商標は、申立人の業務に係る商品または役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている申立人標章と類似し、また、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであり、その登録は取り消されるべきである。 5 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について (1)商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」を登録商標登録を受けることができないものと規定し、同号に該当するか否かの判断について商標審査基準を設けている。商標審査基準に記載されている「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合」には、当該登録出願の経緯が、信義誠実の原則に反し、社会的相当性を欠くものである場合を含むと解され、たとえば、他人の標章が未登録であることを奇貨として、不正の利益を得る意図で出願する行為は、公正な取引秩序を乱すおそれがあり、その独占使用を認めることは、取引秩序の維持という商標法の目的に反するというべきである。 (2)上記のとおり、本件商標権者は、申立人標章が、申立人のモータースポーツ部門の名称として使用されていることを知りながら、それが未登録であることに乗じて、それと酷似する本件商標を、申立人標章の有する顧客吸引力を不当に占奪する目的で、登録出願したものである。かかる本件商標の独占使用を認めることは、社会公共の秩序を著しく混乱させるおそれがあり、取引秩序の維持を目的とする商標法の予定するところではなく、保護に値しないというべきである。 また、かかる使用によって、本件商標権者と申立人との関係が誤認され、申立人名声・信用が損なわれるおそれかおるばかりでなく、また、誤認した需要者及び取引者にまで損害が生じる可能性も否定できない。 (3)以上より、本件商標の登録出願は、その経緯において社会的相当性を欠くものであって、また、本件商標の指定役務についての本件商標の使用は、社会公共の利益に反するというべきである。 よって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであり、その登録は取り消されるべきである。 6 以上のように、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第19号又は同第7号に違反して登録されたものであるから、その登録は取り消されるべきである。 第3 当審の判断 1 申立人標章の周知、著名性について 申立人は、同人のモータースポーツ部門を表す名称「SCUDERIA FERRARI」及びその略称「SCUDERIA」の両商標(申立人標章)が共に周知、著名である旨主張し、甲第5号証ないし甲第20号証(枝番号を含む。)を提出している。 そこで、甲第5号証ないし甲第20号証(枝番号を含む。)についてみるに、以下のとおりである。 (1)甲第5号証は、「フェラーリ」に関するフリー百科事典「ウィキペディア」の写しで、その記述内容はほとんど「フェラーリ」に関する事項であって、わずかに「フェラーリ」の沿革の項に、「スクーデリア・フェラーリ」が1947年に「アルファ・ロメオ」のレース運営を主目的とする会社として創立された旨の記述及び現行車種の項に、「430スクーデリア‐MR・2シーター」が車種名の一種として掲載されているのみである。 (2)甲第6号証は、「スクーデリア・フェラーリ」に関するフリー百科事典「ウィキペディア」の写しで、「スクーデリア・フェラーリ(Scuderia Ferrari)」がフェラーリのモータースポーツ部門であること、現在はメインスポンサーであるタバコブランド「マールボロ」の名を冠して「スクーデリア・フェラーリ・マールボロ(Scuderia Ferrari Marlboro)」が正式名称になっていること、「スクーデリア(Scuderia)」がイタリア語の厩舎から転じた「チーム」に当たる言葉であること等が掲載されている。 (3)甲第7号証の1及び2は、申立人の英文のウェブサイトで「Scuderia」及び「Scuderia Ferrari」の表示が認められる。 (4)甲第8号証は、「スクーデリア・フェラーリ・マールボロ」に関するウェブサイトの写しで、「スクーデリア・フェラーリ・マールボロ」に関するチーム戦歴等が掲載されている。 (5)甲第9号証の1ないし8は、2000年から2007年の「Formula1」の日本グランプリ決勝結果で、2000年から2004年まで5年間で「フェラーリ」のチームが連続で優勝していることが掲載されている。 (6)甲第10号証の1ないし17は、2000年9月29日付けから2006年10月31日付けのF1のスポーツニュース記事で、「スクーデリア・フェラーリ」、「スクーデリア・フェラーリ・マールボロ」、「スクーデリア・コカコーラ・フェラーリ」の表示とともに「・・・最後のグランプリもフェラーリが勝利し、伝統のスクーデリアは見事21年ぶりのコンストラクターズとドライバーズのタイトルを獲得した」のように、単に「スクーデリア」(「チーム」の意味で用いられているか、略称か前後の記述からしても明らかではない。)と記述中に用いられている。また、甲第10号証の18ないし23は、2002年5月24日から2008年6月30日付けのF1のスポーツニュースの新聞記事で、記述中に「スクーデリア・フェラーリ」又は「スクーデリア・フェラーリ・マールボロ」チーム名の表示が挙げられている。 (7)甲第11号証ないし甲第13号証は、申立人の運営するオンラインショップの英文のウェブサイトである。また、甲第14号証及び甲第15号証は、日本における申立人の関連グッズを販売するオンラインショップのウェブサイトで、「スクーデリアデサイン ネオンサイン」、「スクーデリアフェラーリ」、「スクーデリアフェラーリ プーマチームポロシャツ」、「フェラーリ Modena フェラーリチーム・サングラス」等の表示がその商品の写真とともに掲載されている。 (8)甲第16号証の1ないし甲第20号証の12は、各種新聞記事であつて、甲第16号証の1ないし3が「フェラーリ・オフィシャル・カレンダー」の発売に関するニュース記事、甲第17号証が2005年に発売されたスポーツカー「F430スパイダー」に関するニュース記事、甲第18号証が2006年に発売されたスポーツカー「612スカリエッティ アニバーサリー」に関するニュース記事、甲第19号証の1ないし3が申立人のスポーツカーに標準採用されるブリヂストン製タイヤ「POTENZA RE050 SCUDERIA」に関する記事で、「スクーデリアフェラーリ」等の表示が主として用いられており、単独での「スクーデリア」の表示は見当たらない。 (9)甲第20号証の1ないし10は、申立人のスポーツカー「430スクーデリア」に関する記事で、主として「430スクーデリア」の表示が用いられている。 2 以上の甲各号証を総合すると、単独での「SCUDERIA」又は「スクーデリア」の表示はほとんど見当たらず、むしろ、「フェラーリ」、「スクーデリアフェラーリ」、「SCUDERIA FERRARI」又はスポーツカーの一車種としての「430スクーデリア」の表示をもって紹介記事が掲載されているといえるものである。 そうすると、「申立人標章」のうちの「SCUDERIA」(以下「申立人使用標章SCUDERIA」という。)は、この程度の証拠では本件商標の登録出願時及び登録査定時において既に、申立人のレーシングチーム名の略称又は申立人の業務に係る商品又は役務を示す表示として、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識され、周知、著名性を獲得するに至っていたとは認め難いものである。 3 商標法第4条第1項第15号及び同第19号について (1)「申立人使用標章SCUDERIA」は、上記認定のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において申立人のレーシングチーム名の略称又は申立人の業務に係る商品及び役務を示す表示商標として、需要者の間に広く認識されるに至っていたものとはいい難いものであるから、本件商標に接する需要者等が「申立人使用標章SCUDERIA」を想起することは極めて少ないというべきである。 してみれば、本件商標からは、直ちに申立人のレーシングチーム名の略称、あるいは申立人又は同人と何らの関係を有する者であることを想起するとはいえないから、本件商標をその指定役務に使用しても、申立人又は同人と関係のある者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について誤認混同するおそれがあるとはいえないというべきである。 (2)また、上記1のとおり、「申立人使用標章SCUDERIA」は、申立人のレーシングチーム名の略称又は申立人の業務に係る商品及び役務を示す商標として、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識され、周知、著名性を獲得するに至っていたとはいい難いものであるし、さらに、申立人の提出に係る甲第24号証ないし甲第34号証(枝番号を含む。)をもってしても、商標権者が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものであるとまでは認め難いものである。 (3)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号又は同第19号に該当するものでない。 4 商標法第4条第1項第7号について 本件商標、上記甲各号証をもってしても、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標でもなく、かつ国際社会における信義に反するものともいえないばかりでなく、その採択の経緯において社会的相当性を欠くとはいえないものである。さらに、本件商標の指定役務についての本件商標の使用は、社会公共の利益に反するとはいえないものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものでない。 5 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第19号及び同第7号に違反して登録されたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲 引用商標3 |
異議決定日 | 2009-08-05 |
出願番号 | 商願2007-55623(T2007-55623) |
審決分類 |
T
1
651・
222-
Y
(X41)
T 1 651・ 271- Y (X41) T 1 651・ 22- Y (X41) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 榎本 政実、大島 康浩、滝口 裕子、堀内 真一 |
特許庁審判長 |
渡邉 健司 |
特許庁審判官 |
鈴木 修 井出 英一郎 |
登録日 | 2009-01-09 |
登録番号 | 商標登録第5193442号(T5193442) |
権利者 | 株式会社ネコ・パブリッシング |
商標の称呼 | スクーデリア |
代理人 | 勝見 元博 |
代理人 | 寺田 花子 |
代理人 | 河野 敬 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 田中 光雄 |