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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z42
管理番号 1199101 
審判番号 取消2008-300829 
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2008-07-04 
確定日 2009-06-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第4285552号の2商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4285552号の2商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第4285552号商標は、平成9年12月25日に登録出願、第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,写真の撮影,オフセット印刷,グラビア印刷,スクリーン印刷,石版印刷,凸版印刷,気象情報の提供,求人情報の提供,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,一般廃棄物の収集及び分別,産業廃棄物の収集及び分別,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),建築物の設計,測量,地質の調査,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,通訳,翻訳,施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行動に関する調査,あん摩・マッサージ及び指圧,きゅう,柔道整復,はり,医業,医療情報の提供,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導,家畜の診療,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,編み機の貸与,ミシンの貸与,衣服の貸与,植木の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,会議室の貸与,展示施設の貸与,カメラの貸与,光学機械器具の貸与,漁業用機械器具の貸与,鉱山機械器具の貸与,計測器の貸与,コンバインの貸与,祭壇の貸与,自動販売機の貸与,芝刈機の貸与,火災報知機の貸与,消火器の貸与,タオルの貸与,暖冷房装置の貸与,超音波診断装置の貸与,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,凸版印刷機の貸与,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与,美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与,布団の貸与,理化学機械器具の貸与,ルームクーラーの貸与」を指定役務として、平成11年6月18日に設定登録されたものである。
その後、登録第4285552号商標は、その指定役務中の「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,計測器の貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与」についての登録が平成18年7月20日付けの審決(審判番号2005-31395)により取り消され、その確定の登録が同年9月25日になされている。
さらに、本権の分割移転の登録が平成20年9月22日になされ、登録第4285552号の1商標は第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として、登録第4285552号の2商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、「飲食物の提供」を指定役務とするものになったものである。
また、本件審判の請求の登録は、平成20年7月24日になされたものである。
なお、登録第4285552号の商標権者は、以下「前商標権者」という。登録第4285552号の2の商標権者は、以下「現商標権者」又は「被請求人」という。

第2 請求人の主張の要旨
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第5号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務中、第42類「飲食物の提供」について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから商標法第50条第1項の規定により、その登録を取り消されるべきである。

2 答弁書に対する弁駁
(1)被請求人は、「本件商標をその請求に係る指定商品について、本件不使用取消審判の請求の登録前に、善意かつ正当に承継したもの」と主張している。
しかしながら、商標を承継することが商標法第2条第3項に定める商標の「使用」に該当しないことは明らかである。
さらに、提出されているいずれの証拠によっても、本件審判の請求の登録日である平成20年7月24日以前に、被請求人が前商標権者から本件取消審判の請求に係る指定役務を承継していたことは立証されていない。
なお、登録第4285552号の1商標の経過情報によると、商標権分割移転登録申請書が提出されたのは、平成20年9月8日である(甲第2号証)。実際の提出日と特許庁データベースにおけるこの日付に若干のタイムラグがあるとしても、登録第4285552号の分割移転手続が行われたのは、本件審判の請求の登録日以後であることは明らかである。
また、被請求人は、「前商標権者と平成20年7月中旬頃から、本件商標権譲渡の交渉を開始し、同意を得られた」と主張しているが、同様に「平成20年7月中旬」から開始したことを立証する証拠は何ら提出していない。
(2)被請求人は、「『MOST』使用の準備を開始し、8月15日開店用の横浜駅構内の電柱広告用チラシを作成(中略)9月3日開店用の横浜駅構内の電柱広告用のチラシを作成し、同様に横浜駅構内の電柱に展示した。」と主張し、乙第2号証を提出しているが、乙第2号証がいつから使用されていたかを示す具体的な証拠は何ら提出されていない。
結局、被請求人は、本件商標が本件審判の請求の登録前3年以内に使用されていたことは何ら立証していない。
さらに、乙第2号証において使用されている商標は「the MOST」であるが、本件商標は、「MOST」と横書きした下段に「Medical Oriented Super Terminal」と併記してなるものであり、乙第2号証における使用態様と本件商標とが社会通念上同一とは到底認められない。
すなわち、本件商標は、「Medical Oriented Super Terminal」の各単語の頭文字を併せて「MOST」としているところに特徴のある商標であることから、「MOST」と「Medical Oriented Super Terminal」は常に一体に使用されるべきものである。
登録商標と実際の商標の使用態様が異なる場合があることは、請求人も認めるところではあるが、本件商標の場合は、少なくとも同一ラベル面に「MOST」と「Medical Oriented Super Terminal」が表示されていない限り、本件商標、若しくは本件商標と社会通念上同一の商標とはいえないものである。
結局、本件商標の特徴部分である「Medical Oriented Super Terminal」を含まない被請求人の使用態様は、本件商標とは明らかに異なり、また本件商標と社会通念上同一と認められる商標とは認められず、乙第2号証をもって、本件商標を使用した証拠とはならないものである。
よって、乙第2号証が、本件審判の請求の登録前から使用されていたとしても、本件商標を使用している証拠とはなり得ない。
(3)被請求人は、「不使用期間は、前商標権者と、現商標権者(被請求人)とは、善意無過失の場合は、連続して考えるのは正当でなく、分断して考えるのが適切と考える。」と主張し、各種学説、判例を挙げている(平成17年(行ケ)第10095号、平成14年(行ケ)第50号)。
しかしながら、学説はあくまで学説にすぎない。
なお、乙第5号証は、雑誌ジュリストの解説文であり、平成17年(行ケ)第10095号の判決ではなく、この解説を参照すべき根拠は存在しない。
本事案に近いものとして、商標権の移転があった場合にも不使用期間は継続するとした判決に昭和55年(行ケ)329号(甲第5号証)がある。
被請求人は、「前商標権者が指定役務のなかで、『飲食物の提供』については使用していないし、各種使用権を設定していないことを調査した。」と述べていることから、前商標権者であるメディカルデータベース株式会社の不使用期間の存在を認識していたことは明らかであり、当然、不使用を理由として取り消される可能性も認識して取引に当たるべきものである。結局、上記判決を本事案に当てはめても、不使用期間は連続して判断されるべきものであることは明らかである。
よって、被請求人の「両者の不使用期間は分断して考えるべきである」との主張は失当である。
仮に、前商標権者と被請求人の不使用期間が分断されると考えられるとしても、本事案において本件商標の使用を証明すべき期間は本件審判の請求の登録日である平成20年7月24日より前3年であり、平成20年7月24日以降における被請求人の商標使用の準備若しくは使用を証明したとしても、それが平成17年7月24日から平成20年7月24日の間における商標の不使用についての「正当理由」になり得るはずがない。

3 以上のとおり、被請求人提出の証拠によっては、本件商標若しくは本件商標と社会通念上同一と考えられる商標が、「飲食物の提供」について、本件審判の請求の登録前3年以内に使用された事実は何ら証明されていない。
したがって、本件商標は、商標法第50条の規定により、その指定役務中、第42類「飲食物の提供」についての登録を取り消されるべきである。

第3 被請求人の答弁の要旨
被請求人は、「審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した(なお、被請求人は以下のよう「乙第2号証の1及び乙第2号証の2」と主張しているが、乙第2号証には「枝番号」の表記がない。)。
1 請求人の主張に対する反論
被請求人は、本件商標をその請求に係る指定役務について、本件審判の請求の登録前に、善意かつ正当に承継したもので、本件商標権者は、前商標権者の不使用期間は承継しないものと解する。
不使用は「正当な理由」に該当するものと考える。不使用期間は、前商標権者と、現商標権者(被請求人)とは、善意無過失の場合は、連続して考えるのは適切でない。両者の使用は分断して考えるべきである。
これについて、以下説明する。
(1)被請求人である株式会社横浜岡田屋は、別紙会社案内(インターネットホームページ:乙第1号証)に記載されるように、各店舗で、顧客のニーズに合わせた商品、各種飲食店を経営するショッピングセンターを運営している。被請求人が、レストランを含む多品種商品の販売を業態とするショッピングセンターであることは、上記乙第1号証の記載から、川崎店、横浜店、横須賀店、相模大野店などの店舗の営業態様からも明白である。
被請求人は、上記会社案内の会社概要に記載されているように、明治23年11月に川崎市内の堀之内に「岡田屋」を創業して、昭和26年に「株式会社岡田屋」に組織変更し、平成19年に「株式会社横浜岡田屋」に組織を統一し、百貨店業態からショッピングセンターへと地位を確立してきた。
被請求人が、株式会社岡田屋時代、昭和55年に神奈川県川崎市に川崎店(「川崎モアーズ」「川崎MORE’S」)を開店し、昭和57年に同横浜市に横浜店(「横浜モアーズ」「横浜MORE’S」)を開店し、平成4年に神奈川県相模原市に相模大野店(「相模大野モアーズ」「相模大野MORE’S」)を開店し、平成9年に横須賀市に横須賀店(「横須賀モアーズシティ」「横須賀MORE’S CITY」)を開店し、上記会社案内にも明記されているように、各店舗では、各種商品の販売とともに飲食業を営んでいる。
被請求人は、飲食業に関して当該商標「MOST」を使用するに相応しい法人である。これに対して、請求人は、「MOST」の名称で、飲食業あるいはその準備をしている事実は見受けられない。
(2)被請求人が本件商標の譲渡を受けるに至った経過
被請求人は、7月初旬頃から、レストラン街の名称として、「MOST」を企画し、企画の骨子が固まった段階で、商標権の先登録調査を致した。その結果、上記の商標登録第4285552号が、「MOST」に類似する商標として検索された。特許庁の電子図書館の商標登録情報を検索し、商標権が有効に存在しているのを確認した。さらに、前商標権者が、指定役務のなかで、「飲食物の提供」については使用していないし、各種使用権を設定していないことを調査した。
そこで、前商標権者と平成20年7月中旬頃から、本件商標権譲渡の交渉を開始し、同意を得られた。同意に併せて、「MOST」使用の準備を開始し、8月15日開店用の横浜駅構内の電柱広告用チラシ(乙第2号証の1)を作成し、これを電柱に展示した。続いて、9月3日開店用の横浜駅構内の電柱広告用チラシ(乙第2号証の2)を作成し、同様に横浜駅構内の電柱に展示した。これらの一連の準備段階では、本件商標は、商標登録原簿(乙第3号証)に示すように、本件不使用取消審判が7月4日に請求され、7月24日に本件審判の請求の登録がされている事実が表記されていることは感知できない状況下にあった。社会通念上、譲渡交渉で、この状況を把握することは極めて困難なことになる。このように被請求人は、譲り受け交渉の際には、まったく知りえない状況にあった。被請求人は、「MOST」を使用する意思で、譲渡の交渉を前商標権者に打診し、前商標権者は、「飲食物の提供」について使用していない状況を考慮して、譲渡に合意した。この譲渡は、現商標権者(被請求人)が「MOST」を、「飲食物の提供」について使用することを前提とするものである。このような状況の中で、前商標権者の不使用を理由に当該商標を取り消すことは、現商標権者が使用の準備をしている段階では、社会通念上、現商標権者に過酷な要求となる。不使用期間は、前商標権者と、現商標権者(被請求人)とは、善意無過失の場合は、連続して考えるのは正当でなく、分断して考えるのが適切と考える。
(3)「継続して3年以上の不使用」の意味
商標権の移転があった場合に、前商標権者の不使用期間を現商標権者は、承継するか否かについては賛否両論がある。移転が相続・合併の包括移転は同一の法的地位に立ち不使用期間を承継すると解するが、譲渡など個別的移転の場合は、前商標権者の不使用は承継しないと考える。
この見解について、学説としては、平尾正樹著「商標法」(乙第4号証)、また、網野誠「商標(第6版)」』が挙げられ、「正当理由」を広く解釈されている。
(4)「正当な理由」の判例の立場
知財高裁・平成17年(行ケ)第10095号判決で、「正当な理由」の意義(乙甲第5号証)について述べている。
ほかに、平成14(行ケ)50号〔プルー事件〕、東京高判平成8・11・26 判時1593号97頁〔PRINCESS CRUISE事件〕、東京高判昭和60・7・30 判タ615号121頁〔FAMILIAR事件〕なども同様な趣旨の判断を示している。
これらのように解するなら、被請求人は、本件商標をその請求に係る指定商品について、本件審判の請求の登録前に、善意かつ正当に承継の意思を明確にしたものは、前商標権者の不使用期間は承継しないものとなる。不使用期間は、前商標権者と、現商標権者とは、善意無過失の場合は、連続して考えるのは正当でないと考える。すなわち、両者の使用は分断して考えるべきである。

2 以上のことから、本件審判の請求の登録前に、善意かつ正当に承継したもので、本件商標権者は、前商標権者の不使用期間は承継しないものと解する。不使用期間は、前商標権者と、現商標権者とは、善意無過失の場合は、連続して考えるのは正当でないと思料する。両者の不使用期間は分断して考えるべきである。

第4 当審における審尋の要旨
請求人は、本件審判請求書の「請求の趣旨」において、商標登録第4285552号の指定役務中「飲食物の提供、及びこれに類似する役務」について、その登録の取消しを請求しているところ、取消審判は、当該請求に係る指定役務の記載に基づいて、審判請求の審理の対象となる範囲が決められるものである。
しかし、上記指定役務中「及びこれに類似する役務」の表示は、一部取消しの審決が確定した場合、登録商標の効力の及ぶ指定役務の範囲が曖昧となることから、その請求の趣旨は不明確なものである。
したがって、当該「及びこれに類似する役務」の表示を要旨変更とならない範囲内で明確な表示に補正するか又は当該表示を削除する補正をされたい。

第5 審尋に対する請求人の手続
請求人は、平成21年3月25日付けの手続補正書をもって、本件審判請求書の請求の趣旨を「商標法第50条第1項の規定により、登録第4285552号の2商標の指定役務『第42類 飲食物の提供』について取り消す。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と補正したものである。

第6 当審の判断
1 請求の趣旨の補正について
請求人が、請求の趣旨を上記第5のように補正した結果、不明確な請求の趣旨は、明確になったものと認める。そして、本件商標の商標登録原簿に徴すれば、平成21年3月31日付けで、請求の趣旨について、更正の登録がされたものである。

2 商標法第50条の立法趣旨
商標法第50条の立法趣旨は、次のように解される。
商標法上の保護は、商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるのが本来的な姿であるから、一定期間登録商標を使用しない場合には保護すべき信用が発生しないか、あるいは発生した信用も消滅してその保護の対象がなくなると考え、他方、そのような不使用の登録商標に対して排他的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し、かつ、その存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなるから、請求をまってこのような商標登録を取り消そうというのである。
したがって、商標法第50条による商標登録の取消審判の請求があったときは、同条第2項の規定により、被請求人において、その請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明し、又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしない限り、その登録の取消しを免れない。

3 商標登録不使用取消制度の趣旨及び「継続して3年以上の不使用」について
(1)被請求人は、「継続して3年以上の不使用」の意味について、「商標権の移転があった場合に、前商標権者の不使用期間を現商標権者(被請求人)は、移転が相続・合併の包括移転は同一の法的地位に立ち不使用期間を承継すると解するが、譲渡など個別的移転の場合は、前商標権者の不使用は承継しないと考える。」と主張し、さらに、「学説、判例を挙げ、本件商標をその請求に係る指定商品について、本件審判の請求の登録前に、善意かつ正当に承継の意思を明確にしたものは、前商標権者の不使用期間は承継しないものとなり、不使用期間は、前商標権者と、現商標権者とは、善意無過失の場合は、連続して考えるのは正当でなく、両者の使用は分断して考えるべきである。」旨主張している。
(2)しかしながら、「ある商標が使用されていないという事実がある場合、その後に商標権が譲渡されたとしても、その事実自体が消滅するものではなく、また、その商標権について、保護すべき対象である信用がなく、それを存続させることが、商標制度の趣旨にそわないものであるのみならず、他人による同一又は類似商標の使用を阻み、他人の流通秩序への寄与を妨げることになって、国民一般の利益を不当に侵害するという状態も、譲渡によって変動するものでもない。」と解すべきであるから、本件商標の譲渡を受けるに至った経緯は、同人と前商標権者との当事者間の問題であり、また、被請求人が実際に使用をしていなった登録商標中の特定の役務(本件の場合は第42類中の「飲食物の提供」)を知っていながらそれを譲り受けていることが善意無過失であるとする被請求人の主張には疑義を持たざるを得ない。
したがって、この点に関する被請求人の主張は、採用の限りでない。
(3)また、同様のことが、請求人が提出する甲第5号証(昭和56年11月25日判決言渡 東京高裁 昭和55年(行ケ)第329号)において、以下のように判示されている。
「商標制度は、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とし、設定された商標権を通じて、商品流通の過程、競争関係に一定の秩序をもたらそうとするものである。そして、商標権が設定された後であっても、この目的ないし要請に積極的に答えるに足りない事実、例えば、当該商標の一定期間の継続した不使用の事実が、現にあれば、正にこの事実によって、その商標権は、商標制度存在の趣旨にそわず、かえって、他人による同一又は類似の商標の使用を阻み、ひいて、他人の流通秩序への寄与を妨げることになり、消極的な意味しか有しないものとして否定されるべきものとするのが、現行不使用による商標登録取消制度の趣旨と解される。
したがって、商標権を譲り受ける場合には、その商標の従前の使用状況についての事実、例えば、指定商品の一部又は全部について、一定の期間使用されていない事実があるときには、その事実自体は、消滅するはずのものではないから、当該商標権に当然に伴うものとして、譲受人もまた、そのような事実を伴いないしはそのような状況下にある商標権を承継し、したがつて、当該商標権の譲り受けにより、譲渡前の不使用の事実が不問に付され、不使用の期間が譲受人との関係で新たに起算されるというようなものではないと解すべきであることは、商標法第50条第1項、第2項の規定の前示趣旨に鑑み明らかである。そして、このことは、商標権者が通常使用権を許諾した場合における通常使用権者との関係においても全く同様である。
したがつて、商標権を契約によつて取得しようとする者又は商標権者から通常使用権の許諾を受けようとする者は、その際に当該登録商標の使用の事実ないし状況のいかんを調査すべきであり、例えば、不使用の状態が相当期間継続しているような場合には、その商標権の登録がその不使用の期間に応じて取消される可能性を包蔵したものであることを予想して取引に当るべきである。それ故に、不使用についての正当な理由の有無を判断するに当つてもまた、商標権の移転又は通常使用権の許諾がされた場合には、単にその移転又は許諾後の事情のみならず、それ以前の継続した不使用の事実ないし状況が、商標登録取消審判請求の登録前3年内の不使用事実として、前後通じて判断されるべきものである。
そうすると、商標権の譲渡又は使用権の許諾後のみについてみると、当該登録商標の使用の前提として必要な行為がたとえ遅滞なく行われたとしても、そのことだけでは、直ちに不使用についての正当な理由があるものということはできない。」
(4)そして、甲第5号証より後の判決(平成12年6月27日判決言渡 東京高裁 平成12年(行ケ)第44号)においても、以下のように判示されている。
「商標制度は、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とするものである。商標権が設定された後であっても、一定期間登録商標が使用されていない場合には、保護すべき対象である信用がないのであるから、その商標権は、商標制度の趣旨にそわないものであるのみならず、他人による同一又は類似商標の使用を阻み、他人の流通秩序への寄与を妨げることになって、国民一般の利益を不当に侵害するものである。そこで、請求により、このような商標登録を取り消そうとするのが、商標登録不使用取消制度の趣旨と解すべきである。
ある商標が使用されていないという事実がある場合、その後に商標権が譲渡されたとしても、その事実自体が消滅するものではない。また、その商標権について、保護すべき対象である信用がなく、それを存続させることが、商標制度の趣旨にそわないものであるのみならず、他人による同一又は類似商標の使用を阻み、他人の流通秩序への寄与を妨げることになって、国民一般の利益を不当に侵害するという状態も、譲渡によって変動するものでもない。そうである以上、商標登録不使用取消制度の趣旨からすれば、商標法50条1項にいう『継続して三年以上』とは、商標権の移転の有無にかかわらないものであって、移転があった場合には前商標権者と現商標権者を通しての期間をいうものと解すべきである。」

4 したがって、商標登録不使用取消制度の趣旨及びこれらの判決の趣旨からすれば、商標法50条1項にいう「継続して3年以上」とは、商標権の移転の有無にかかわらないものであって、移転があった場合には前商標権者と現商標権者を通しての期間をいうものと解すべきことからすると、被請求人の上記「継続して3年以上の不使用」についての主張も、失当というべきである。

5 そして、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件請求に係る指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明し、使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしなければならないところ、被請求人は同人の「会社案内」(乙第1号証:インターネットホームページ)を提出するとともに、平成20年7月頃レストラン街の名称として、「MOST」の使用の準備をし、本件審判の請求の登録日である平成20年7月24日以降の平成20年8月15日に開店用の横浜駅構内の電柱広告用チラシ(乙第2号証の1)を作成・展示し、続いて、同年9月3日開店用の横浜駅構内の電柱広告用チラシ(乙第2号証の2)を作成し、同様に横浜駅構内の電柱に展示した旨述べている。
(1)そこで、被請求人の提出に係る乙各号証についてみるに、乙第1号証中には被請求人の会社沿革が詳細に挙げられているが、本件審判の請求の登録日以前はもとより、その後も本件商標を指定役務「飲食物の提供」に使用しているとする箇所は見当たらないものである。
(2)乙第2号証の1枚目は、「飲食店」のチラシと認められるところ、「8F the DINING」の表題、その下に「8.15/FRI/OPEN!」、右下角に「レストランフロア 9F the MOST/9月3日(水)オープン!」の文字が記載されているものの、作成年の記載はないものである。
そして、「レストランフロア 9F the MOST」の標章及びその構成中の「the MOST」の記載は、本件商標と社会通念上同一の商標ということができないものである。
(3)乙第2号証の2枚目ないし4枚目は、インターネットホームページの写しと認められるところ、乙第2号証の2枚目の右上には「1/3ページ」及び「Last up date:2008.8.22.Fri」の文字が記載されており、上部中央にホークとスプーンの図のとともに「the MOST/9F RENEWAL OPEN」の文字が記載されている。
しかしながら、「the MOST」の記載は、本件商標と社会通念上同一の商標ということができないものである。
乙第2号証の3枚目には、本件商標が記載されていないものである。
乙第2号証の4枚目の右上には「1/1ページ」及び「Last up date:2008.8.25.Mon」の文字が記載されており、上部左にホークとスプーンの図のとともに「the MOST/9F RENEWAL OPEN」の文字が記載されている。
しかしながら、「the MOST」の記載は、本件商標と社会通念上同一の商標ということができないものである。
(4)乙第2号証の5枚目及び6枚目には、「最上階のレストランフロア the MOST」の文字、「じんまる ディ フェッロ」をはじめとする6店の飲食店の名称及び料理の写真並びに「9F the MOST/9.3/WED/OPEN」の文字が記載されている。
しかしながら、「最上階のレストランフロア the MOST」の標章、「9F the MOST」の標章及びこれらの構成中の「the MOST」の記載は、本件商標と社会通念上同一の商標ということができないものである。

6 したがって、被請求人は、商標法第50条第2項の規定により、その請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明し、又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしていないものと認めることができるから、登録第4285552号の2商標の登録は、商標法第50条の規定により取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標(登録第4285552号の2商標)





審理終結日 2009-04-14 
結審通知日 2009-04-17 
審決日 2009-04-28 
出願番号 商願平9-190646 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Z42)
最終処分 成立  
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 杉山 和江
小畑 恵一
登録日 1999-06-18 
登録番号 商標登録第4285552号の2(T4285552-2) 
商標の称呼 モースト、エムオオエステイ、メディカルオリエンテッドスーパーターミナル、メディカルオリエンテッド、スーパーターミナル 
代理人 南 敦 
代理人 須山 佐一 
復代理人 川津 義人 

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