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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X41
管理番号 1199096 
審判番号 無効2008-890039 
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-05-19 
確定日 2009-06-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5053057号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5053057号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、2006年(平成18年)7月14日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づき、パリ条約第4条による優先権を主張して、平成19年1月15日に登録出願、第41類「インターネットその他のコンピュータネットワークを利用した音声・画像ファイルの提供」を指定役務として、同年6月8日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用した商標(甲第11号ないし第14号証)は、次の(1)ないし(4)のとおりである。
(1)登録第4161393号商標は、別掲2のとおりの構成からなり、平成8年12月25日に登録出願、第9類「サングラス・普通眼鏡・防じん眼鏡その他の眼鏡,交換用眼鏡レンズ・つる及び枠・眼鏡ケースその他の眼鏡の部品及び附属品」を指定商品として、平成10年7月3日に設定登録され、その後、商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
(2)登録第4331079号商標は、別掲2のとおりの構成からなり、1998年5月26日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づき、パリ条約第4条による優先権を主張して、平成10年11月25日に登録出願、第14類「身飾品,宝玉及びその模造品,クロノメーター,その他の時計,キーホルダー」を指定商品として、平成11年10月29日に設定登録されたものである。
(3)登録第4337324号商標は、別掲2のとおりの構成からなり、1996年6月27日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づき、パリ条約第4条による優先権を主張して、平成8年12月25日に登録出願、第18類「スーツケース,トランク,キャスター付かばん,旅行用かばん,トートバッグ,スポーツバッグ,リュックサック,その他のかばん類,財布(貴金属製のものを除く。),札入れ(貴金属製のものを除く。),その他の袋物」を指定商品として、平成11年11月19日に設定登録されたものである。
(4)登録第4657852号商標は、別掲2のとおりの構成からなり、平成8年12月25日に登録出願、第25類「帽子・ずきん・ナイトキャップ・ヘルメット・その他の被服,履物」を指定商品として、平成15年4月4日に設定登録されたものである。(以下、一括して「引用商標」という。)

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第0号ないし第132号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、黒色の太線で表された横長楕円形であって、左右が等幅の太線で表され、下部が左右に比してやや狭く表され、上部が特に狭い線で表された図形からなり、指定役務、出願日及び設定登録日は、前記第1に記載のとおりである(甲第0号証)。
しかしながら、本件商標は、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標であるから、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

2 引用商標の著名性について
ア 請求人について
(a)請求人であるオークリー・インコーポレイテッドは、主としてスポーツ用サングラスのメーカーとして、1975年に設立された米国企業であり、80年代からスポーツ用サングラスの販売を開始し、現在では多くの著名アスリートが請求人の商品を使用している。スポーツの分野では、需要者の絶大な信頼を獲得しているメーカーである(甲第1号証)。
(b)請求人の商品の信頼性については、多くの著名アスリートがこれを使用している事実からも明らかであるが、請求人商品に対する賛辞の一部を採り上げても、
・「最高の品質を世界に発信」(甲第1号証)、
・「不可能を可能に変える」(甲第2号証)、
・「もはや説明がいらないほど、アイウェア界の帝王として君臨するオークリー。…」(甲第3号証)、
・「…ファッションと技術を融合させてアイウェアに革命を起こした会社だ。」(甲第4号証)、
・「…独特の世界は、いまだ人々を魅了し続けている。…」(甲第5号証)等々である。
(c)なお、請求人は1998年頃から、サングラスその他のスポーツ関連商品に留まらず、時計・靴・アパレル商品の分野においても、商品展開している。また、我が国では、1997年に同社の日本法人であるオークリージャパン株式会社が設立されている(甲第1号証)。
イ 請求人の商標(引用商標)について
(a)請求人は、そのハウスマークとして黒色の太線で表された横長楕円形の引用商標(甲第11号証:別掲2)を採用している。引用商標は、我が国において日本法人が設立された1997年頃から使用が開始され、現在に至るまで継続的にその使用がされている。
(b)引用商標は、我が国では「Oマーク」などと称されており、請求人の略称である「Oakley」や「オークリー」などの他の商標が併せて付されていない状態でも、単独で十分に強い自他識別力を発揮している。例えば「〈O〉といえばアイウェア、アイウェアといえば〈O〉、これはもうジョーシキなんだけど…」(甲第15号証)、「拡がり続ける『O』のマーク」(甲第16号証)などの記載、また、商品の出所を表示するものとして引用商標のみが大きく表されている(甲第17号ないし第19号証)。
(c)次に、著名アスリートが請求人の商品を使用し、引用商標がメディアに露出した例を示す。
a.ゴルフ界
A選手は請求人のサングラスを愛用している(甲第20号証)。その事実は新聞などでも多く採り上げられており(甲第21号証)、また、一般の女性向け雑誌においても、請求人のサングラスが「気分はAちゃん!?かけるだけでアスリート!」(甲第22号証)と紹介されるなど、一般に認知されている。A選手は国内プロツアー参戦直後から引用商標の付されたサングラスを着用しており、プロとしての初戦においても引用商標の付された商品を着用していた(甲第23号証)。本格的にプロツアーに参戦した後も、メディアに採り上げられる際にはほとんど常に引用商標が付されたサングラスを着用している。
なお、ゴルフ界において、請求人商品を着用しているのはA選手のみではない。多くのメジャー大会に優勝している著名な女子プロゴルファーであるS外国選手も、引用商標が付されたサングラスを着用した状態で多くのメディアに登場している(甲第30号ないし第32号証)。A選手の兄であるB選手、その他、C選手等々も、引用商標が付されたサングラスを着用した状態でメディアに登場している(甲第33号ないし第35号証)。
b.野球界
メジャーリーグのD選手が請求人のサングラスを愛用していることは、非常に良く知られている。「オークリーのサングラスを着用し、すっかりその姿が定着したD選手」などのように紹介されている記事があることがその証左である(甲第36号証)。
D選手がメディアに登場する際にも、引用商標が露出する。例えば甲第37号ないし第42号証までのように、D選手が特にユニフォームを着ている姿においては、常にテンプル部分に引用商標が現れている。
野球界において請求人の商品を愛用しているのはD選手に留まらない。E選手(甲第43号証)、F選手(甲第44号証)、G元監督(甲第44号ないし第45号証)、H選手(甲第46号証)、I選手(甲第47号証)等々、著名な現役及び元野球選手によって愛用され、引用商標とともに、これら選手等の写真が雑誌等に掲載される機会は多い。
c.スケート界
J選手も、請求人のサングラスをした状態で多くメディアに紹介されている。スケート選手は滑走中、必ずサングラスを着用する。したがって、滑走中のJ選手の表情を捉える写真には、常に引用商標が現れることになる。現に、そのような写真を掲載した新聞・雑誌は枚挙に暇がない(甲第48号ないし第55号証)。なお、スケートの分野においても、例えば、K選手、L選手等も、請求人商品を着用している(甲第56号ないし第57号証)。
d.その他のスポーツ分野
スキー(甲第58号ないし第60号証)やスノーボード(甲第61号ないし第63号証)などのウィンタースポーツ、サーフィンなどのマリンスポーツ(甲第64号証)、トライアスロンやマラソン(甲第65号ないし第66号証)などの陸上競技のように、あらゆるスポーツの分野で請求人の商品は愛用されており、そして、引用商標が付された状態で、これら商品が多くメディアで採り上げられている。
(d)以上のように、引用商標は、我が国の著名トップアスリートが愛好し、それがメディアに多く露出したことにより、少なくともスポーツ関連商品の分野においては、本件商標の登録時点で、絶大な著名性を獲得するに至っていたとするのが相当である。
ウ 請求人の業務範囲
(a)スポーツ関連商品
請求人の商品は、上記のとおり、主にスポーツ関連商品を中心とする。具体的には、所謂スポーツサングラスの他、ウィンタースポーツ用のゴーグル、ウエア、グラブ、スノーボード(甲第67号ないし第74号証)、モータースポーツ用のゴーグル、バッグ(甲第75号ないし第76号証)、マリンスポーツ用のゴーグル、バッグ、シューズ(甲第77号ないし第79号証)、ゴルフ用のシューズ、キャディーバッグ(甲第80号ないし第83号証)、バスケットボール用のシューズ(甲第84号証)等々である。
(b)ファッション関連商品
また、請求人の時計を紹介する雑誌記事は多くあるが(甲第85号ないし第91号証)、特に近年では、スポーツブランドとしての枠を超えてファッションアイテムとしてこれが紹介されている例が多い(甲第92号ないし第94号証)。
この傾向は、時計だけではなく、サングラス、靴、服などでも同様の傾向がある。当初はスポーツ用のものだけだったこれらアイテムが、近年では通常のファッションアイテムとしてメディアに採り上げられている。
例えば、甲第95号ないし第96号証は、請求人商品が出品されたニューヨークコレクションの様子を紹介したものである。また、甲第97号証は「エレガントな女性向け」のファッションアイテムとして請求人のサングラスが紹介されている例である。
シャネルやグッチなどのような著名ファッションブランドと同列で請求人商品が扱われることも多く(甲第98号ないし第100号証)、このような傾向は、男性用女性用にかかわらず、多くのファション系の雑誌において共通している(甲第101号ないし第114号証)。これらの雑誌においては、スポーツという文脈を完全に離れて、請求人商品が(引用商標とともに)注目されるファッションアイテムとして盛んに紹介されている。
さらに、請求人の商品ラインの拡大に基づく引用商標のファッションブランドとしての認知度は、アスリート以外の著名人がこれを着用することによってより高まっている。甲第115号証は、著名なミュージシャンのMが請求人のサングラスを着用している写真が掲載された雑誌である。若い需要者に人気の高い俳優であるN、P、Q等がこれを着用等している写真を掲載した雑誌もある(甲第116号ないし第118号証)。
以上に加えて、世界的なバイオリニストであるRが請求人商品を着用して雑誌「AERA」の表紙を飾っている事実(甲第119号証)、また、週刊ポストのような所謂大衆紙において請求人商品が採り上げられている事実を踏まえると(甲第120号証)、請求人商品並びに引用商標が、スポーツの域を超えて、一般的な認知を得るに至っているとするに無理はないものと思われる。
(c)小括
以上のとおり、請求人の商品は、特にスポーツ用サングラスその他のスポーツ関連商品の分野で需要者から強い信頼を得ている。このような強い信頼を得ている商品を表彰しているのが、引用商標である。著名アスリートによって着用された請求人商品にこれが付された状態でメディアが多く採り上げており、引用商標が著名性を獲得していることは明白である。
さらに、近年、請求人はスポーツ関連商品に留まらず所謂ファッションアイテムの分野にも進出し、これも多くのメディアで採り上げられている。引用商標は、スポーツ愛好者のみならず、幅広い需要者の間で浸透するに至っている。

3 請求人の業務と本件商標の指定役務の関連性について
ア 請求人の新商品について
引用商標が、主としてスポーツ用サングラスその他のスポーツ関連商品において特に顕著な著名性を獲得していることは以上のとおりである。また、近年、請求人は商品ラインを拡張しており、時計やカジュアルシューズなどのアイテムによって、ファッションブランドとしても我が国需要者における認識が確立されてきている。
ところで、請求人は、一昨年来、サングラスの分野において新たな商品を販売している。甲第121号ないし第130号証に記載されている商品がそれである(以下この商品を「請求人新商品」という。)。同商品は、サングラスのテンプル部分にMP3ファイルその他のデジタルオーディオファイルを再生する装置を搭載しているものである。
なお、請求人は、このような事業展開を想定し2005年の時点で、第9類「MP3プレーヤー付きサングラス」を指定商品とする商標登録出願を行っている(甲第131号証)。
請求人新商品は、(i)スポーツをしながら音楽を楽しむことができるというその機能がサングラスの機能としては特に斬新であること、(ii)幅広いメディアで採り上げられたこと(甲第121号ないし第130号証)、また、(iii)請求人のそもそもの著名性並びに請求人サングラスに対する絶大な信頼性とが相俟って、我が国の需要者の間でも、相当程度知られるに至っているものと推測される。
イ 本件商標の指定役務について
本件商標の指定役務は「インターネットその他のコンピュータネットワークを利用した音声・画像ファイルの提供」である。
この指定役務表示中の「音声」には、概念的にむろん「音楽」が含まれる。したがって、本件商標の指定役務には、(市場で用いられている一般的な用語で言えば、所謂)「インターネット音楽配信」サービスが含まれていることになる。
上記請求人新商品に搭載されているオーディオ再生装置は、音楽その他の音声データを再生する装置である。請求人新商品は、甲第121号証等に記載されているように、音声データ再生装置として略世界標準とも言い得るほどに浸透している米国アップル社の「ipod」にも対応している。その性質上、当然に請求人新商品はインターネットを通じて音声データの配信を受けることが可能である。
すなわち、本件商標の指定役務と請求人新商品に係る業務は、いずれも「(インターネットを通じてやり取りされる)音声データ」に関連する点で共通する。

4 引用商標と本件商標の類似性
引用商標は、黒色の太線で表された横長楕円形である。左右及び上下の線幅はそれぞれ等しく、左右の幅に比して上下の幅はいくぶん狭く表されている。
他方、本件商標も、同様に、黒色の太線で表された横長楕円図形である。やはり左右の線幅は等しく上下の幅は左右に比して狭い。
本件商標と引用商標との相違は、上部の幅が他に比して特に狭く表されている点のみであり、このように、本件商標と引用商標はそもそもその構成の軸が共通していて紛らわしい。
両者の類似性は、以下の事情を踏まえると、なお明らかである。
すなわち、請求人は、添付の各書証中において多く示されているとおり、サングラスその他の商品に直接的に引用商標を付すことが多く、サングラスのテンプル部分など商品に直接付された引用商標は、当然に、これをどの方向から見るかにより見え方が変化する。特に、引用商標が曲面に表されている場合に、それをやや斜め下から見上げるときは、本件商標と極めて近似した態様となる。
甲第132号証は、引用商標を緩やかな曲面に表してやや斜め下方から見た様子を表している。もちろん、サングラスのテンプル部分などは、単なる平面状ではなく、曲面状に形成されるのが通常である。
すなわち、本件商標と引用商標は、黒色の太線によって表された横長楕円形である点で共通し、また、左右の線幅に比して上下の幅が狭くなっている点で共通しており、そもそもの構成において極めて近似しているが、さらに以上のような引用商標の具体的な使用態様及び需要者に対する見え方を考慮するときは、需要者が、引用商標と本件商標の間に何らかの関連性を推認する可能性が高いことは否定できない。

5 結論
本件商標は、他人の著名商標である引用商標と紛らわしいものであり、また、当該他人が近年新たに進出した業務分野と密接に関連するサービス分野で使用がされるものであるから、これに接する需要者においては、同商標の下で「請求人自身(又は請求人と経済的あるいは組織的に関係のある者)によって、請求人の新商品に対応した音声データをネット配信するサービスが提供される」旨の誤認が生じる可能性がある。つまり、本件商標の下でのサービスが、請求人の業務に係るサービスであると誤認され、需要者において両者の間に出所の混同が生じるおそれがある。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから、本件商標の登録は同法第46条第1項第1号の規定に基づき無効とされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、請求人の上記第3の主張に対し何ら答弁するところがない。

第5 当審の判断
1 本件商標と引用商標との類似について
(1)本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、左右の部分及び下の部分をやや肉太の帯状の線で表し、上部は左右から中央に向かって極端に先細りさせた不等間隔の破線で表した一種の楕円図形と認められるものであるが、一見して広がりと距離感など、遠近差を知覚させる図形である。
(2)引用商標
引用商標は、別掲2のとおり、上下左右を対称にしたやや肉太の帯状の線をもって描き、上下の線が左右に向かって対称的に漸次肉太に横長楕円を形成するように描いた図形と認められるものであって、特定の具象物を想起し得ないとしても、均整のとれた印象を受ける図形である。
(3)両者の比較
ア 外観
本件商標と引用商標とを比較するに、両者は共に横長楕円形状の図形を描いてなる点において共通するとしても、本件商標の上部が同下部と比べて極端に先細りの破線で表され、遠近差を感じさせる図形であるのに対し、引用商標は、左右及び上下の各部の線幅が対称的に等しく均整をとって表されており、長径と短径の比もさほど大きくなく、全体としてバランス良く描かれている点などにおいて相違するものであるから、それぞれの形状からして、両者は構成の軌を一にするものということはできない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、その構成態様において十分に区別し得る差異を有しており、この差異は、比較的簡潔な構成からなるこれら図形の外観に与える影響は大きく、視覚的な印象も全く異にするものといえるから、これらを時と処を異にして離隔的に観察した場合においては、外観において相紛れるおそれはないといわなければならない。
イ 観念、称呼
本件商標は、上述のとおり、横長楕円形状の図形であるという以上に具象物の種類を特定できないものであり、一見して広がりと距離感など遠近差を知覚させる図形であるとの観念的な印象を持たせるとしても、本件商標からは、特定の称呼を生ずるものとは認められない。
他方、引用商標からも、均整のとれた印象を受ける横長楕円形状のリング図形であるという以上に特定の観念や称呼が生じるものということはできない。
そして、引用商標が、たとえ「Oマーク」などと称されていることを認め得るとしても、本件商標と引用商標とは、称呼及び観念の点については比較すべくもないものである。
(4)小括
したがって、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であると言わざるを得ない。

2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)混同のおそれ
上記1で述べたとおり、本件商標と引用商標とは、外観において相違し、称呼及び観念ついては比較することができない別異の商標である。
してみれば、引用商標が主としてスポーツ用サングラスやゴーグル等に使用され、かつ、これが著名アスリートによって着用した状態で、各種メディアに取り上げられたり、その他、広告宣伝において喧伝し、当該図形が請求人に係る商標として本件商標の登録出願前に我が国のスポーツ愛好者のみならず、幅広い需要者の間に浸透するに至っていることを考慮しても、本件商標を商標権者がその指定役務に使用した場合、これに接する取引者、需要者をして、引用商標を連想又は想起させるとはいえないものであって、その役務が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
(2)請求人の主張
請求人は、サングラスのテンプル部分など、引用商標が曲面に表されている場合に、それをやや斜め下方から見上げるときは、本件商標と極めて近似した態様となり、その具体的な使用態様及び需要者に対する見え方を考慮するとき、需要者が引用商標と本件商標の間に何らかの関連性を推認する可能性が高いことは否定できない旨述べている。
しかしながら、引用商標は、上述のとおり均整のとれた楕円形状のリング図形として、取引者や需要者に印象付けられ、かつ、記憶されて商取引に資されるものであって、常識的にみて商品に付された商標を捉え、これを認識する場合にあって、その需要者が一時的あるいは一方的な方向性からの標章の態様を恒常的に把握して、その商標本来の機能(自他商品の識別機能)から離れて商取引に当たるものとは認め難いところである。
そして、そもそも図形の態様を異にすれば、自ずとその出所表示についての機能及び役割も異なるものであるから、その点を無視して述べる請求人の主張は、単に自己の登録商標についての事情を述べるに止まるものであって採用の限りでない。その他、上記認定を覆すに足りる証拠はない。

3 請求人の業務と本件商標の指定役務の関連性について
請求人は、引用商標が主としてスポーツ用サングラスその他のスポーツ関連商品において著名性を獲得していること、また、近年、時計やカジュアルシューズなどのアイテムによってファッションブランドとしても我が国需要者における認識が確立されてきているとし、また、サングラスのテンプル部分にMP3ファイルその他のデジタルオーディオファイルを再生する装置を搭載した請求人新商品を一昨年来、サングラスの分野において販売し、我が国の需要者の間でも相当程度知られるに至っているものと推測されると述べ、さらに、請求人は、本件商標の指定役務には「インターネット音楽配信」サービスが含まれており、請求人新商品に搭載されているオーディオ再生装置は、音声データ再生装置である米国アップル社の「ipod」にも対応している旨述べて、その性質上、当然に請求人新商品はインターネットを通じて音声データの配信を受けることが可能であって、本件商標の指定役務と請求人新商品に係る業務は、いずれも「(インターネットを通じてやり取りされる)音声データ」に関連する点で共通すると主張している。
しかしながら、本件商標の指定役務「インターネットその他のコンピュータネットワークを利用した音声・画像ファイルの提供」は、提供される各種情報の部門や種類によって、その取引者及び需要者は異なり、また、送受信におけるデータ圧縮などの通信技術の専門性を要求される分野に係る役務であり、上記請求人に係る専用アダプターに接続した「ipod」を介して音楽も聴くことができる再生装置を搭載したサングラスに係る商品(甲第121号証等)とは、その取引対象を全く異にするものであり、前記役務と前記商品との間の性質、用途又は目的における関連性も希薄なものである。
してみると、請求人が述べるところの本件商標の指定役務と請求人新商品に係る業務は、いずれも「(インターネットを通じてやり取りされる)音声データ」に関連する点で共通する旨述べているが、その需要者が共通するとの点は定かでなく、その主張は採用できない。
そして、請求人の業務は上述のとおりであって、請求人がこの種の役務分野にまでその業務を拡張しあるいは多角経営を図っているというような状況もなく、かつ、その証拠も見出せない。

4 結語
そうすると、たとえ、請求人に係る引用商標が、スポーツ用サングラスやゴーグルにおいて広く認識されたものであるとしても、その周知・著名性が、直ちに本件商標の指定役務の分野にまで及ぶとみるのは困難というべきであり、本件商標をその指定役務「インターネットその他のコンピュータネットワークを利用した音声・画像ファイルの提供」に使用しても、これより、直ちに上記請求人に係る引用商標を連想又は想起し、その役務が請求人又は請求人と組織的、経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)

別掲2(引用商標)


審理終結日 2009-01-09 
結審通知日 2009-01-16 
審決日 2009-01-28 
出願番号 商願2007-1960(T2007-1960) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (X41)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大井手 正雄 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 小川 きみえ
佐藤 達夫
登録日 2007-06-08 
登録番号 商標登録第5053057号(T5053057) 
代理人 足立 泉 
代理人 石塚 勝久 
代理人 青木 博通 
代理人 中田 和博 
代理人 世良 和信 
代理人 柳生 征男 
代理人 松倉 秀実 
代理人 川口 嘉之 
代理人 遠山 勉 

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