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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Z42
管理番号 1198984 
審判番号 取消2007-301413 
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2007-11-02 
確定日 2009-06-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第4437895号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4437895号商標(以下「本件商標」という。)は、「APOLLON」の欧文字を標準文字で表してなり、平成11年4月9日に登録出願、第42類「美容,理容,写真の撮影,求人情報の提供,建築物の設計,測量,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,衣服の貸与」を指定役務として同12年12月8日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標の指定役務中、「第42類 医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証を提出した。
1 請求の理由
請求人が調査したところでは、本件商標は、継続して3年以上日本国内において、その指定役務中、「第42類 医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」について商標権者、専用使用権者若しくは通常使用権者によって使用されている事実を見出すことができない。
したがって、本件商標登録は、その指定役務中の上記役務について、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
被請求人は、本件商標が取消請求に係る役務について使用されていることの証拠として、乙第1号証の1ないし乙第5号証の3を提出しているが、本件商標の使用は立証されていない。
(1)乙第1号証について
(ア)乙第1号証の1及び2として提出された被請求人のホームページのプリントアウトは、本件商標が「第42類 医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」について使用されていることを証明していない。
乙第1号証の1において表示されている「APOLLON meieki店」等の「APOLLON」は、被請求人が有する美容室の店舗の名称として表示されているものである。したがって、乙第1号証の1における「APOLLON」は、本件商標の指定役務中「美容」についての使用であって、「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」についての使用ではない。
また、被請求人が「Apollon」の文字と称している乙第1号証の2に表示されている文字列は、その最初の文字は、文字というよりはむしろ「論理積」を表す数学記号「∧」に見えるし、2番目の文字は略球形の左下に短い棒を付加したものであり判読不可能であり、第3文字目及び第6文字目は略円形であり、第4文字目及び第5文字目は縦棒の下部に右向きの短線を付加したものであり、第7文字目も文字というよりはむしろ「積集合」を表す数学記号「∩」に見える。そうとすれば、乙第1号証の2に表示された変形文字列が標準文字で書された本件商標「APOLLON」の使用であると認めることはできない。
(イ)上記の2つの理由のみをもってしても、乙第1号証の1及び2は、本件商標が「第42類 医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」について使用されていることを証明していないことは明白であるが、被請求人は、「美容用品研究開発」事業において、美容用品の検査サービスを提供しており、その広告に本件商標を使用している証拠が乙第1号証の2である旨主張しているので、この点について意見を述べる。
被請求人会社のホームページにおいて、「会社概要」内の「美容用品製造販売(OEM商品)」(乙第1号証の1)をクリックすると「美容用品研究開発(OEM事業部)」(乙第1号証の2)のページに移動する。「OEM」とは、「相手先ブランドで販売される製品を製造すること。また、製造するメーカー」を意味する語である(甲第1号証)。相手先ブランドで販売される美容用品を製造するに先立っては、研究開発が必要な場合もあるであろう。しかしながら、商標法上の役務とは「他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうるべきもの」と解されているところ、OEM事業において行われる研究開発は、相手先ブランドで販売される美容用品の製造という目的のために、その枠内において付随的に提供されるものであって、「独立して商取引の目的たりうるべきもの」ではない。商標法上の役務という観点からすれば、被請求人が行っているのは、「第40類 委託による化粧品の製造」であって、「第42類 医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」ではない。
(2)乙第2号証ないし乙第4号証について
乙第2号証ないし乙第4号証及びこれらに係る陳述については争わない。
(3)乙第5号証について
被請求人は、自らが提供したサービスに関して取引先に請求した請求書の写しとして乙第5号の1、2及び3を提出している。しかしながら、これらの証拠は、本件商標が「第42類 医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」について使用されていることの証明にはならない。
(ア)使用商標が表示されていない
これらの請求書には、本件商標が全く表示されていない。乙第5号証の1には「株式会社APOLLON」の表示があるが、これは、商号としての使用であり、商標として使用されているものとは認められない。
被請求人の主張によれば、「被請求人はホームページでの広告のみならず、現実に美容用品の検査サービス業務を行っている。」とのことであるが、ここで立証すべきは、本件商標が「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」に使用されていることであって、被請求人会社がこれらの業務を行っていることではない。
(イ)使用役務が不明
これらの請求書には、「スーパーソニックEX&スイートカール テスト」、「装着ボンドテスト(ケラチン)」、「スイートカール」、「ケラチン.ヒアルロン酸テスト」、「human hair(リシン2.5%)テスト」等の項目が記載されているが、これらが何らかの「テスト(試験)」であることは想像できても、何に係る試験なのかが明らかでない。これらの「テスト(試験)」が「医薬品・化粧品又は食品」に係るものであるかは全く不明である。

第3 被請求人の主張の要旨
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第8号証(枝番を含む。)を提出した。
1 平成20年3月28日付け提出の答弁書
被請求人は、平成3年6月24日に設立されて以来、美容室の経営をメイン事業として発展し、今日では、愛知県下に4店舗の美容室を有するに至っている。かかる美容室の発展とともに、被請求人は、自己の業務を、美容室経営をサポートするサロン事業部、美容用品の研究開発をサポートするOEM事業部、ブライダルのサポートをするBloomy事業部、ウェブデザインその他の広告をサポートするmond事業部の4つの部門に分け、各部門ごとにより専門性をもたせたサービスの提供を行っている。
このような業務の発展とともに、被請求人は、自社ブランドとして「APOLLON」の標準文字からなる本件商標の登録を受け、各美容室の店頭、パンフレット、ホームページなどで本件商標を使用してきた。このうち、上述したOEM事業部が美容用品の検査サービスを提供しており、当該サービスの広告を自社のホームページにて行っている(乙第1号証)。かかる美容用品の検査サービスは、本審判の取消対象たる「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」の役務に含まれる役務であり、乙第1号証から明らかなように、ホームページにおける店舗紹介のページや「美容用品研究開発」のページにおいて「APOLLON」の文字商標が表示されている。
上記ホームページを開設するにあたり、被請求人は、2005年7月27日に「apollon-japan.co.jp」のドメイン名を取得し(乙第2号証)、本審判請求の予告登録日前である2005年9月頃にホームページを開設し(乙第3号証)、その後、OEM事業部の設立に伴いホームページに美容用品の研究開発の広告を掲載し(乙第4号証)、今日に至るまで同ホームページにて継続的に「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」との関係で本件商標を使用してきた。
さらに、被請求人は、ホームページでの広告のみならず、現実に美容用品の検査サービス業務を行っている。乙第5号証の1ないし3は、被請求人が本審判請求の予告登録日前3年以内に、美容用品のテストを取引先のために行い、取引先に出した請求書の写しである。
以上のとおり、被請求人は、美容用品のテストサービスとの関係で本件商標を継続的に使用しているものであるから、本件商標は、商標法第50条第1項の規定によって取り消されるべきものではない。
2 平成20年9月25日付け提出の答弁書
(1)「Apollon名駅店」等の表示は美容室の店舗の名称ではあるが、店舗の看板等に「Apollon名駅店」と表示されている場合と、「美容用品研究開発」の広告を行っているホームページ上で「Apollonmeieki店」と表示されている場合とを同列に考えることはできない。前者のケースは、確かに「美容」について商標を使用するものと見ることもできるが、後者の場合は、同じホームページ上に「美容」だけではなく、「美容用品研究開発」の広告も行っているのであるから、「Apollon」の商標が「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」に関する広告として使用されているものと考えるべきである。もっとも、この点、請求人はそもそも当該ホームページでは「美容用品研究開発」の広告をしていないと主張しているが、当該ホームページにおいて「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」に関する広告がなされている。
(2)不使用取消審判に対抗するためには、登録商標と同一の商標を使用していることが必要となるが、商標法第50条第1項においては、登録商標と社会通念上同一と認められる商標までを実質同一の商標としている。したがって、乙第1号証の2の左上部に表示された「Apollon」の文字が、「APOLLON」の標準文字と社会通念上同一と言えるかどうかが問題となる。この点、「APOLLON」と「Apollon」とは、大文字と小文字とを変更したにすぎないものであるから、これが社会通念上同一の範疇に含まれることは言うまでもないが、乙第1号証の2の左上部に表記した程度の変形であれば、通常誰もが「Apollon」と記載されていることが認識できる程度の変更であるから、やはり登録商標と社会通念上同一の商標の範疇に入るものと言える。
(3)乙第1号証の2に示されているように、当該ページの大枠左サイドにおいては、「美容用品研究開発」の大項目が表記されており、その下段に小さく「OEM事業部」の記載がある。一方、右サイドには小さな文字で「OEMでヒット商品を作ります」と表記され、その下に、「ヒアリング」「マーケッティングサポート」「規格戦略立案」「ブランドコンセプト立案」「ネーミング」「容器パッケージ」「製造ライン」「販売チャンネル」「拡販フォロー」などのOEM事業の具体的内容が列挙されている。
請求人は、弁駁書の中で『(被請求人のホームページ上における)OEMの具体的業務内に「試験・検査又は研究」に関連する業務が全く記載されていない。これでは、「…当該サービスの広告を自社のホームページにて行っている。」との主張は採用することができない』と主張する。しかしこれは当然である。この右サイドのOEM事業の具体的内容の一つに「美容用品研究開発」のサービス挙がっていないのは、まさに「美容用品研究開発」がOEM業務の一環として行われている業務ではないからである。
当該ホームページの構成を素直に見れば、大枠左サイドの大項目(美容用品研究開発)をメインの業務として捉えるのが通常であり、右サイドに細かく表記されたOEM事業は、美容用品をテストした結果、クライアントには製造能力がないなどの理由から、クライアントから製造の依頼があれば、その延長線上で製品の委託製造まで行うことが可能であることを広告しているにすぎない。独立したサービスとして行ったテスト結果を受けて、委託製造の依頼を新たに受注するのであるから、当然、OEM事業の具体的内容の一つに「美容用品研究開発」のサービス挙がってくるはずがない。逆に言えば、委託製造の依頼を受けなければ、テストの結果を報告したところで本サービスは完結するのであるから、「美容用品研究開発」のサービスは、あくまでも試験や検査の報告を最終目的として行われるサービスである。したがって、請求人が主張するように、製品を製造してそれを引き渡すことを最終目的として製品製造の過程で行われる製品テストとは全く性質が異なるのである。
当該ホームページ左サイドにおいては、確かに、「美容用品研究開発」の下に「OEM事業部」と小さく書かれているが、前記したように当該ページの全体の構成を見れば、独立したサービスとして「美容用品研究開発」を行っているものとして把握できるのであって、どの部門が「美容用品研究開発」を行っているかは、当該サービスを独立した業務として行っていることを否定する根拠になり得るものではない。
また、現実的にも、検査・研究サービス(のみ)に対する請求書(乙第5号証)をクライアントに発行しているように、試験・検査・研究サービスをそれのみで完結する独立した業務として行っているのであって、OEM業務の一環として付随的に検査・研究サービスを行っているならば、OEM商品製造の対価としての請求に含まれるはずであってこのような形で請求書を出すことはない。
被請求人が提出した乙第1号証や5号証を素直にみれば、試験・検査・研究サービスが独立した役務として捉えられるのは必然であり、これまでに当該ホームページに接した需要者や取引者も同様に捉え、委託製造とは別に各種テストの実施のみを依頼してきている。よって、乙第1号証は委託製造しか広告していないとする請求人の主張は失当である。
(4)請求書中に本件商標が使用されているとは被請求人は何ら主張していない。すなわち、乙第5号証は、試験・検査・研究サービスをそれのみで完結する独立した業務として行っていることを証する目的で提出したにすぎないものである。
(5)テスト内容が明らかではないので、指定役務について商標を使用するものかどうか不明であるとの主張がなされているので、テスト内容について簡単に説明する。
主に女性が髪を長く見せる場合に、最近ではエクステンションとよばれる「つけ毛」を装着することが頻繁に行われている。エクステンションは自毛につけ毛用の特殊なボンドによって装着し、装着後に本来の髪と一緒にパーマネントをあてて一体的にウェーブを付けることによって見た目がより美しくなる。よって、パーマ液と装着ボンドとの相性が重要であって、ボンドがパーマ液によって溶けてしまうようでは意味がない。そこで、かかる視点から装着ボンドのテストをしたものが「装着ボンドテスト」である。このエクステンション用特殊ボンドは美容や理容に関する商品として化粧品の範疇でカバーされる商品と解される以上、エクステンション用特殊ボンドについての成分テストは「化粧品の試験・検査又は研究」に該当するサービスである。なお、「スーパソニックEX」とは特定のエクステンションのことを示しており、「スイートカールテスト」とは、パーマ液との相性テストのことを示している。
一方、「ケラチン・ヒアルロン酸テスト」とは、ボンドではなくパーマ液の方をテストしたものである。すなわち、パーマ液がケラチンやヒアルロン酸によって髪にどのような影響を与えられるのかをパーマ液について様々な条件下でテスト(スイートカールテスト)したものである。一方、「高分子ポリマーテスト」とは、パーマ液がスーパーソニックエクステンションに及ぼす影響を様々な条件下でテスト(スーパンニックEX&スイートカールテスト)したものである。そして、パーマ液は類似群コード04C01に該当する化粧品の範疇に含まれる商品であるから、パーマ液の成分テストは、「化粧品の試験・検査又は研究」に該当するサービスである。
また、「human hair(リシン2.5%)テスト」とは、人毛(中国輸入毛)におけるカール形成に適した一浴式パーマ剤の還元効率試験のことである。このテストは、パーマ剤に通常用いられている成分「チオ」と比較して、髪を傷めこくい成分である「リジン」を2.5%使用した場合の一浴式パーマ剤の還元効率試験である。ここに、ー浴式パーマ剤とは、パーマ剤を一回塗布してウェーブを形成し、その後熱をあてることによってウェーブをその形成した状態に記憶させるデジタルパーマと呼ばれるパーマに使用されるパーマ剤である。これに対し、二浴式パーマとは、パーマ剤の一回目の塗布によりウェーブを形成し、異なる成分からなる二回目のパーマ剤の塗布によってウェーブをその形成した状態に記憶させる方式である。また、還元効率試験とは、言いかえればウェーブのかかり具合の試験である。このように、被請求人は、成分として「リジン」を2.5%含んだ一浴式パーマ剤を条件を変えて人毛に使用した場合のウェーブのかかり具合をテストしているのであるから、これもやはりパーマ液の成分テストであって「化粧品の試験・検査又は研究」に該当するサービスである。
(6)本件商標の使用事実として、被請求人は新たに乙第6号証を提出する。乙第6号証には極秘事項が含まれるため、前回の答弁時にはあえて提出しなかったが、本件商標が指定役務に使用されていることをより明確に証明し、本事件を早期に解決すべく今回は提出に踏み切ったものである。かかる事情から一部マスキングさせていただいた。
乙第6号証は被請求人が通常使用しているファックス用カバーシートである。これによると「APOLLON」の標準文字が枠内左上部に白抜き文字で記載されている。送信日時は2006年(枠内右上部に白抜き文字で「2006」と記載)8月8日であり、期間的な要件を満たしている。当該ファックスは既に提出した乙第5号証の3に関する書簡で、パーマ剤の試験について記載されたものである。なお、「製造メーカーは御社か他社になるのか?又は当社から手配するのか?」といった記載があるように、請求人が主張するようなOEM製造の一環としてテストを請け負っているのではないこともここから読み取ることができる。
さらに、被請求人は乙第7号証を提出する。乙第7号証の1は被請求人において長年にわたって使用してきた長封筒であり、テスト報告書などの関係書類は当然この封筒に入れて郵送されている。当該封筒には片仮名文字で「アポロン」の表記がなされている。これは、商標法第50条第1項に規定された「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」であるから、本件登録商標と実質同一の商標である。乙第7号証の2はこの長封筒を発注したときの発注書及び納品書・請求書の写しである。これにより、発注日が2005年7月7日、納品日が同年7月20日であることが確認できる。
(7)請求人の弁駁書には、使用している商標を譲渡するとは信じ難い申出だ。使用されていないからこそ商標譲渡の申出がなされたに違いないといった趣旨の主張がなされているが、この点について申し上げる。
推測するに、出願人は国際登録第844308号「APOLLO」の商標を国内登録するにあたって本件商標が障害となり、審査段階での非類似の主張に失敗したために、引用された被請求人の商標に対して平成19年11月2日に不使用取消審判を請求し、三日後の同年11月5日に拒絶査定不服審判を請求したものと思われる(乙第8号証)。
そうであるとするなら、請求人が本当に必要としている商標は「APOLLO」であって、たとえ被請求人が商標「APOLLON」を譲渡したとしても、被請求人は譲渡された商標の使用は欲しないであろうから、譲渡といっても障害を克服するための一時的な譲渡で用は足るであろうことは被請求人にも容易に予想できた。実務においては、他人の商標を引用して拒絶理由通知を受けた場合、当該引用商標を譲り受け、登録後にそれを再び返却する、いわゆるアサインバックの方法が取られることがしばしば行われているが、このアサインバックの方法によって請求人が一時的にでも譲渡を受ければ、請求人は「APOLLO」の商標を確実に国内登録に持っていけるのであり、国内登録によって請求人が商標「APOLLO」を指定役務たる精神病の研究サービスの分野で使用したところで業務分野が異なる被請求人にとってはさほど問題ではない(請求人も審査段階で並存登録を望んでいたのであれば同様と思われる)。むしろ、不使用取消審判で争うことによって、それにかかる手間や費用、なにより開示したくない書類の提出の必要性などのデメリットを考えれば、将来の返却を条件とした一時的な権利譲渡によって穏便な解決を図った方が得策と考えたために譲渡を申し出たのである。しかしながら、アサインバックや金銭負担の問題などの具体的な条件を話し合う前に断られたというのが実情であって、請求人が主張するように、使用していないから譲渡を申し出たのではないことは、譲渡にあたっては、被請求人が今後とも継続して商標を使用できる形で譲渡することを絶対条件にしていることからも明らかである。それにも関わらず、継続使用を絶対条件としていることをいわず、譲渡の申出がなされたことばかりを強調して自己に有利な審決を得ようがごときは、被請求人が全く予測していなかった主張である。
(8)結論として、不使用取消審判の請求は何人にも認められた権利である以上、それを請求したことについて文句を言えないことは承知している。しかし、「APOLLO」と「APOLLON」の差があれば、うまく争えば拒絶査定不服審判で非類似の審決を得ることは十分可能なはずと思われるのに、その点を十分に争うことなく安易に不使用取消審判を請求し、これまで平穏無事に使用してきた登録商標が取り消されてしまったのでは被請求人とって全く適わないものであるから、被請求人はこれまで複数回にわたって答弁を行ってきた。このようにしてこれまでに提出してきた証拠書面によって被請求人が本件商標を継続的に使用してきたことは証明されたのであるから、本件商標は商標法第50条第1項の規定によって取り消されるはずはないものと確信している。よって、答弁の趣旨の通りの審決を求める次第である。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る乙各号証によれば、以下の事実を認めることができる。
乙第1号証は、被請求人のホームページの一部をプリントアウトしたものと認められるものであり、乙第1号証の1には、被請求人の会社概要が掲載されている。また、乙第1号証の2には、被請求人の業務に係る「美容用品研究開発/OEM事業部」に関する事項が記載されており、概略として、「OEMでヒット商品を作ります」の見出しのもとに「ヒアリング、マーケティングサポート、企画戦略立案、ブランドコンセプト立案、ネーミング、容器パッケージ、製造ライン、販売チャネル、拡販フォロー」の各種業務が掲載されている。そして、乙第1号証の1及び2の左上部には、別掲に示すとおりの構成からなる商標が表示されている。
乙第2号証は、株式会社日本レジストリサービスが提供する「ドメイン情報」と認められるものであり、「APOLLON-JAPAN.CO.JP」のドメイン名は、株式会社アポロンの所有にかかるものであって、2005年7月27日に登録されたものであることが示されている。
乙第3号証は、BINS-HostingService<お申し込み内容のご案内>と題する書面であり、「お客様情報」として、ご契約日・登録日として「2005年9月23日」、ご契約プランとして「プランA」、メールアカウント数として「10アカウント」、ご提供URLとして「http://www.apollon-japan.co.jp」等の情報が記載されている。
乙第4号証は、乙第1号証の「OEM事業部」に係るホームページを開設する際に作成した画像を記録したファイルと認められるものであり、当該画像が2006年10月15日に作成され、保存さていることが示されている。
乙第5号証の1ないし3は、被請求人による取引先に対する請求書の写しであり、乙第5号証の1は、株式会社ガモウに対する平成18年12月分の請求書であって、例えば、1の欄には、平成18年12月8日の日付があり、「スーパーソニックEX&スイートカール テスト」とあり、その右欄には「装着ボンドテスト(ケラチン)」とあり、その請求金額が記載されており、他の欄には、「装着ボンドテスト(人体装着)」、「装着ボンドテスト(アセトン)」等のテスト名が記載されている。乙第5号証の2は、株式会社ガモウに対する平成19年2月分の請求書であって、例えば、1の欄には、平成19年2月6日の日付があり、「スイートカール」、「ケラチン・ヒアルロン酸テスト」とあり、その請求金額が記載されており、他の欄には、「高分子ポリマーテスト」等のテスト名が記載されている。乙第5号証の3は、有限会社ステップグループに対する平成18年11月分の請求書であって、例えば、1の欄には、平成18年11月12日の日付があり、「human hair(リシン 2.5%)テスト」とあり、その請求金額が記載されており、他の欄には、「human hair(アルギニン 2.5%)テスト」、「human hair(チオ 2.5%)テスト」、「human hair(アルギニン 3%)テスト」等のテスト名が記載されている。
乙第6号証は、2006年8月8日に送信されたファックスカバーシートの写しであり、左上部及び左下部に黒地で白抜き文字「APOLLON」が確認できる。
乙第7号証の1は、長封筒の見本であり、表面の下部に赤地正方形内に白抜きの片仮名文字「アポロン」及び別掲に示す文字と同じ態様の英文字が表されている。乙第7号証の2は、長封筒を印刷発注したとされる発注書及び納品書・請求書の写しと認められる。印刷発注書の発注日は2005年7月7日となっており、納品書の売上日は、2005年7月20日となっている。これらは、いずれも本件審判の請求の登録(平成19年11月20日)前3年以内である。
2 上記において認定した事実によれば、乙第1号証の被請求人のホームページには、プリントアウトした日付以外に、情報の更新日等の日付は認められないが、乙第2号証(株式会社日本レジストリサービスが提供する「ドメイン情報」)、乙第3号証(BINS-HostingService<お申し込み内容のご案内>)及び乙第4号証(「OEM事業部」に係るホームページの画像ファイル)によれば、2005年9月頃には、被請求人のホームページが開設され、2006年10月頃には、該ホームページ上に乙第1号証の2のOEM事業部のホームページ(ウェブページ)が開設され、この時点以降において、乙第1号証の2のホームページ(ウェブページ)は閲覧できる状態にあったものと推認することができる。
そして、乙第1号証の2のホームページには、被請求人の業務の一つである「美容用品研究開発/OEM事業部」に係る業務として「ヒアリング、マーケティングサポート、企画戦略立案、ブランドコンセプト立案、ネーミング、容器パッケージ、製造ライン、販売チャネル、拡販フォロー」の各種業務が掲載されている。また、該ホームページには、別掲に示したとおり、やゝデザイン化された欧文字からなる商標が表示されているところ、近年、構成文字をデザイン化して表現することが少なくない実情にあることからみれば、該欧文字部分は、容易に「Apollon」の欧文字を表したものと理解・認識し得るものであるから、被請求人の使用に係る商標は、本件商標と社会通念上同一と認識し得る商標ということができる。
そしてまた、乙第5号証の1ないし3の取引書類(請求書)によれば、平成18年11月から平成19年2月にかけて、被請求人は、顧客に対して、「スーパーソニックEX&スイートカール テスト/装着ボンドテスト(ケラチン)」、「スイートカール/ケラチン・ヒアルロン酸テスト」、「高分子ポリマーテスト」、「human hair(アルギニン 2.5%)テスト」等々の試験(テスト)を行い、その対価を請求していたことが認められる。
上記各テストの具体的な内容については、上記(5)で説明するとおり「ケラチン・ヒアルロン酸テスト」、「高分子ポリマーテスト」及び「human hair(アルギニン 2.5%)テスト」は、パーマ液の成分テストと認められる。
乙第6号証において表示されている「APOLLON」の文字及び乙第7号証の1の長封筒に表示されている「アポロン」の片仮名文字及び別掲と同じ態様で表示されている英文字は、本件商標と社会通念上同一と認識し得る商標ということができる。乙第6号証のファックスカバーシートは、本件審判の請求の登録(平成19年11月20日)前3年以内に使用されたものである。長封筒は、2005年7月20日に2000枚納品されたものであり、被請求人が本件審判の請求の登録前3年以内である2006年に行われた取引において使用されたものと推認できる。
また、近年、「形状記憶パーマ(デジタルパーマ)」と称されるパーマ技法が人気を博しており(2008年3月13日付毎日新聞東京朝刊、2006年10月11日付日本工業新聞 外多数)、その技法の一つとして、「スイートカール」と呼ばれる髪のカール施術が行われている。これは、例えば、hair salon nanoのホームページ(http://nano.oops.jp/sweetcurl.html)によれば、「アミノ酸(アルギニン)を塗布して髪の毛をパーマがかかりやすくなるようにアルカリ性に傾け、ダメージの進行を抑えるために、低中高混合型のケラチンタンパク質を塗布し、化粧品などでおなじみのヒアルロン酸を塗布し、浸透させ、髪の毛の内部にしっかり吸着させて保湿性を高め、スイートカールの薬液を塗布し、そのまま専用ロッドを巻き、低温にてロッドを加温10?15分、冷風で1?3分冷やします。シャンプー&トリートメントをして乾かして終了です。」旨記載されている。
これらの記述からみれば、被請求人の行っている上記各試験(テスト)は、「スイートカール」と呼ばれる髪のカール施術に用いられるパーマネント用液等についての試験(テスト)とみることができる。そして、これらのパーマネント用液等は、「化粧品」の範疇に属する商品と認められるものである。
3 以上を総合してみれば、被請求人は、本件審判の請求の登録(平成19年11月20日)前3年以内である2006年(平成18年)10月頃に、OEM事業部のホームページ(乙第1号証の2)を開設し、それ以降、閲覧できる状態にあったものと推認される該ホームページ上において、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示して、被請求人の業務に係る「美容用品研究開発/OEM事業部」に係る情報を掲載するとともに、平成18年11月から平成19年2月にかけて、顧客に対して、「スイートカール」と呼ばれる髪のカール施術に用いられるパーマネント用液等(化粧品)に関する試験を行い、各試験に対する対価を請求していたものということができる(乙第5号証の1ないし3)。
4 請求人の主な反論について
(1)乙第1号証の2に表示されている変形文字列は、標準文字で書された本件商標「APOLLON」の使用とは認められない旨の主張について
確かに、被請求人の使用に係る商標は、本件商標そのものの使用とはいえない。しかしながら、商標の使用は、商標を付する対象に応じて、適宜に変更を加えて使用されるのがむしろ通常であり、上記したとおり、被請求人の使用に係る商標は、容易に「Apollon」の欧文字を表したものと理解・認識し得るものであって、本件商標と被請求人の使用に係る商標とは、デザイン化や大文字・小文字の差異等、その表現方法に若干の差異があるとしても、いずれも、構成する綴り字を同じくし、「アポロン」の称呼を生ずるものであるから、この程度の変更がなされているとしても、社会通念上同一の商標と認識し得る範囲内の使用と認めて差し支えないものというべきである。
(2)乙第1号証のホームページには、「美容用品研究開発(OEM事業部)」とあるところ、「OEM」とは「相手先ブランドで販売される製品を製造すること」等を意味する語であり、OEM事業において行われる研究開発は、相手先ブランドで販売される美容用品の製造という目的のために、その枠内において付随的に提供されるものであって、「独立して商取引の目的たりうるべきもの」ではない旨の主張について
OEM事業として行われる製品開発に伴う「試験・検査」は、それ自体、独立して商取引の目的たりうるべきものといえないことは請求人の主張のとおりであるといえる。しかしながら、OEM事業部という名称の事業部であるからといって、必ずしも相手先ブランドで販売される製品の開発のみを行っているものとはいえないばかりでなく、OEM事業として行われる製品開発について、顧客に対して対価の請求をするときは、相手先ブランドのもとに開発された製品の対価の中に、試験・検査又は研究のための費用をも含めて(明細が示されるか否かは別にして)請求されるものとみるのが自然であり、乙第5号証の1ないし3にみられるような、個別のテスト毎に、その都度、試験(テスト)の対価の請求を行うものとは考え難いところである。
そうとすれば、乙第5号証の1ないし3のような請求書があるということは、被請求人は、「スイートカール」と呼ばれる髪のカール施術に用いられるパーマネント用液等(化粧品)に関する個別・独立した試験・検査の依頼に対して試験・検査を行い、その対価を顧客に請求していたものとみるのが自然であり、このことからみれば、被請求人は、それ自体、独立して商取引の目的たりうるべき「化粧品の試験・検査」の役務を行っていたものとみるのが相当である。
(3)乙第5号証の1ないし3の請求書には、本件商標が全く表示されていない旨の主張について
確かに、乙第5号証の1ないし3の請求書には、本件商標の表示は認められない。
しかしながら、先に認定したとおり、被請求人の業務の一つと認められる「美容用品研究開発/OEM事業部」が掲載されたホームページ(乙第1号証の2)には、本件商標と社会通念上同一と認められる商標が表示されており、この乙第1号証の2のホームページと乙第5号証の1ないし3の請求書とを併せみれば、被請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を「化粧品の試験・検査」の役務について使用していたものということができる。
してみれば、請求人の主張は、いずれも採用できない。
5 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を取消請求に係る第42類の指定役務中の「化粧品の試験・検査」について使用していたことを証明したものということができる。
したがって、本件商標の指定役務中、取消請求に係る第42類「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」についての登録は、商標法第50条の規定により取り消すことはできな
別掲 別掲




審理終結日 2009-01-07 
結審通知日 2009-01-13 
審決日 2009-01-26 
出願番号 商願平11-31808 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (Z42)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 直樹 
特許庁審判長 林 二郎
特許庁審判官 小畑 恵一
杉山 和江
登録日 2000-12-08 
登録番号 商標登録第4437895号(T4437895) 
商標の称呼 アポロン 
代理人 坪倉 道明 
代理人 大崎 勝真 
代理人 石田 正己 
代理人 渡邉 千尋 
代理人 川口 義雄 
代理人 石田 喜樹 
代理人 小野 誠 
代理人 金山 賢教 

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