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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Z18
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Z18
管理番号 1195551 
審判番号 無効2006-89074 
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-05-31 
確定日 2007-09-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第4213430号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4213430号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、第18類「かばん類,袋物,傘」、第22類「綿繊維,その他の原料繊維,衣服綿,布団袋,布団綿」、第23類「綿糸類,混紡綿糸,綿より糸,縫い糸,その他の糸」、第24類「綿織物類,混紡綿織物,毛綿文織物,その他の織物,メリヤス生地,タオル,手ぬぐい,ハンカチ,ふろしき,その他の布製身の回り品,ふきん,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,織物製壁掛け,テーブル掛け」、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,マフラー,その他の被服」、第26類「衣服用き章(貴金属製のものを除く。),衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。),ワッペン」、第27類「敷物,壁掛け(織物製のものを除く。)」及び第35類「広告,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供」を指定商品及び指定役務として、平成9年4月1日に登録出願された平成9年商標登録願第101155号に係る商標登録出願を団体商標の商標登録出願に変更し、団体商標として同10年11月20日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第36号証を提出した。
1 請求人適格について
本件審判の請求人である「ウエスト インディアン シー アイランド コットンアソシエーション(インコーポレイテッド)」(以下「WISICA」ともいう。)は、西印度諸島で生産される高級綿花である西印度諸島海島綿(シーアイランドコットン)の品質を管理するべく、1932年に英国王室直属の西印度諸島協会の下部組織として設立されたものであり、以来、海島綿の生産・販売について適切な管理を行ってきた(甲第2号証及び甲第3号証)。請求人は、海島綿製品の品質を保証するべく、世界共通の品質保証マークとして、特定の標章をその製品に付し、英国及び日本等において商標登録出願及び登録(以下、「WISICA標章」ともいう。)も行っていた。
すなわち、英国においては、請求人により、1957年に第23類(登録第772362号)、第24類(登録第772363号)、第25類(登録第772364号)につき、商標登録がなされている(なお、英国登録商標出願の住所は、請求人の代理人の住所地となっている。甲第4号証ないし甲第6号証)。
また、日本においては、昭和48(1973)年6月28日に、旧第15類、旧第16類及び旧第17類について当該標章を商標登録出願しており、旧第15類及び旧第16類については、昭和62(1987)年6月16日に、旧第17類については、昭和63(1988)年4月26日に、商標登録がなされた(商標登録第1960087号、同第1960088号、同第2044731号、甲第7号証ないし甲第12号証)。
請求人は、上記商標登録第1960087号及び第1960088号の存続満了期間の翌日である平成9(1997)年6月17日に、当該標章と同一の商標を第23類及び第24類の商品を指定して、再登録出願したところ(商願平9-128995)、その登録出願日前である平成9(1997)年4月1日に、被請求人による本件商標の登録出願がなされていたため、本件商標を理由として登録を受けることができなかった(甲第13号証及び甲第14号証)。
したがって、本件商標の商標権の存否によって、請求人がその権利に対する法律的地位に直接的な影響を受けるものであるので、請求人が、本件審判を請求する法律上の利益を有するものであることは明らかであって、本件商標の登録を無効にする審判を請求することにつき、利害関係を有する者に該当する。
2 本件商標の無効性
(1)被請求人による本件商標の登録出願の経緯
ア WISICA登録商標の存在
上記1で主張したとおり、請求人は、英国及び日本においてWISICA標章の商標登録出願及び登録も行っており、米国やヨーロッパにおいても同様に登録商標を有している(甲第15号証及び甲第16号証)。
イ 被請求人の発足の経緯
海島綿については、1932年の設立以降、世界的に請求人による品質管理がなされていたが、日本においては、海島綿は若干の輸入がなされていたにすぎなかった。その後、1975年頃、請求人から正式に日本への原綿の輸入が認められ、1976年5月、西印度諸島海島綿協会日本支部が結成された。同支部は、翌1977年2月に請求人の総会において請求人の日本支部として正式に批准され、日本支部発足から4年後の1980年に中小企業組合法に基づき被請求人が設立され事業を開始するに至ったのである(甲第2号証及び甲第3号証)。
なお、被請求人は、請求人の日本支部として発足したが、資本関係等は特になく、請求人の許諾のもと日本における海島綿の輸入に携わっていたにすぎない。
ウ WISICA登録商標の譲渡及び専用使用権の設定
海島綿の生産は、バルバドス政府にとっても重要な産業であったので、同政府は、1986年頃、海島綿の販売、特に日本における販売を促進するべく、バルバドスにおいてカナダ系企業との間で合弁会社であるCaribbean Sea Island Cotton Company Limited(カリビアン シー アイランド コットン コンパニー リミテッド:以下「Carsicot社」という。)を設立し、請求人は、Carsicot社に対し、平成元年(1989年)5月16日、3件のWISICA登録商標にかかる商標権を譲渡し、同年12月4日、特許庁において移転の登録がなされた。
また、これに伴い、Carsicot社は、日本における海島綿の販売を促進するべく、日本において、日東紡績株式会社(以下「日東紡績」という。)及び被請求人に対し、平成元年(1989年)12月20日、WISICA登録商標にかかる商標権について、専用使用権を許諾し、平成2年(1990年)8月27日に特許庁への登録がなされた。
かかる専用使用権許諾契約において、日東紡績及び被請求人は、Carsicot社に対し、ロイヤルティを支払うこととなっており、ロイヤルティの額については、「1)専用使用権者のうち日東紡績については自己が販売又は自家消費した許諾製品(単糸)の工場渡正味販売価格の12パーセント、2)専用使用権者のうち被請求人については定額払、年間150,000円」となっていた。また、専用使用権の設定期間は、平成元年(1989年)12月20日から平成5年(1993年)7月31日までとされていた(甲第8号証、甲第10号証及び甲第12号証)。
なお、Carsicot社と被請求人の間の平成元年(1989年)4月4日付ライセンス契約によれば、被請求人は、Carsicot社から書面による事前承認を条件に、第三者にサブライセンスする権利を認められており、サブライセンス1件ごとに年間で150,000円を支払うこととなっていた(甲第17号証:第3条3項及び第9条1項)。
エ WISICA登録商標の譲渡に関する紛争とロイヤルティの未払い
請求人は、海島綿について、Carsicot社を通じての販売促進を進めていたものの、バルバドス政府とCarsicot社の間で紛争が生じ、更に、当初のWISICAからCarsicot社へのWISICA登録商標の譲渡の効力についても争いが生じるに至った。このような状況の下で、被請求人は、本来Carsicot社に支払うべき多額のロイヤルティを支払わないままに、日本においてWISICA登録商標を使用し続けていた。
オ WISICA登録商標の不更新と請求人による再登録出願
そして、請求人とCarsicot社の間で、WISICA登録商標に係る商標権の譲渡の有効性について争いが生じている中で、WISICA登録商標の満了期間が近づいてきていた。すなわち、WISICA登録商標のうち、旧第15類、旧第16類及び旧第17類については、それぞれ存続期間が満了することになっていた。
請求人としては、Carsicot社名義となっているWISICA登録商標の更新手続きを行うのではなく、WISICA登録商標をそのまま満了させたうえで、新たにWISICA名義で同一の商標の登録出願を行うべく、WISICA登録商標のうち、旧第15類及び旧第16類の存続期間が満了した日である平成9年(1997年)6月16日の翌日である6月17日に、再登録出願を行い(甲第13号証及び甲第14号証)、被請求人に対しても、過去のロイヤルティを支払うことを条件に、再度その再登録出願商標について、使用許諾をする交渉に応じる旨の提案をした(甲第18号証)。
カ 被請求人による本件商標の登録出願
しかしながら、被請求人は、WISICA登録商標の専用使用権者としてこのような一連の経緯を知っていたにもかかわらず(甲第19号証)、さらには、契約上、Carsicot社に支払うべき多額のロイヤルティを支払っていなかったにもかかわらず、WISICA登録商標についてのもともとの商標権者であった請求人及び、WISICA登録商標の譲渡先となっていたCarsicot社に無断で、WISICAの再登録出願に先立つ平成9年(1997年)4月1日に、すでに自らWISICA登録商標と実質的に同一の本件商標の登録出願を行っていたのである。
その結果、それよりおよそ2ヶ月後の6月17日に登録出願された請求人による再登録出願商標(出願番号:平成9年第128995号)は、先願である本件商標に類似するとして、平成10年(1998年)12月18日及び平成11年(1999年)6月25日に、特許庁より商標法第4条第1項第11号などを理由とする拒絶通知がなされた(甲第13号証及び甲第14号証)。
キ 請求人による本件商標に対する無効審判請求
被請求人は、日本における請求人の下部組織として発足したものの、資本関係等はなく、商標の登録出願について許諾していたことは全くなかった。それにもかかわらず、被請求人は、WISICA登録商標の権利期間満了前に自らの名義で無断で登録出願をし、これにより請求人の再登録出願商標は拒絶された。
そこで、請求人は、本件商標に対して平成11年(1999年)9月24日、商標法第4条第1項第8号及び同第16号を無効理由として無効審判を請求したものの、平成13年(2001年)12月20日、無効審判請求は成り立たないとする審決がなされた(甲第20号証)。これにより、請求人によるWISICA標章の再登録出願商標は、平成14年(2002年)12月6日に拒絶査定がなされた(甲第13号証及び甲第14号証)。
ク 小括
以上のように、被請求人は、WISICA登録商標について、過去において専用使用権の許諾を受けていたことからも明らかなように、WISICA登録商標が請求人により海島綿の品質保証マークとして使用されてきた結果、周知著名であることを知りつつ、WISICAの日本支部として海島綿の販売を促進するべく、WISICA登録商標の使用を開始した。しかしながら、被請求人は、本来支払うべき多額のロイヤルティを支払わずにWISICA登録商標の使用を継続し続けるとともに、請求人とCarsicot社との間でWISICA登録商標の譲渡について紛争が生じていること及びその結果、WISICA登録商標の更新がなされないであろうことを知り、これを奇貨として、自らが権利者となる目的で、WISICA登録商標と実質的に同一な本件商標の登録出願を行ったのである。
この点、他ならぬ被請求人自身も、自ら作成したレターの中で、WISICA登録商標の更新がなされないことを知りつつ、敢えて本件商標の登録出願を行ったこと、及び自らの本件商標の登録自体を是正し、本来の権利者である請求人に商標を移転する旨自認しているのである(甲第19号証)。
なお、請求人とCarsicot社との間で生じていたWISICA標章に係る商標権の譲渡の有効性についての紛争は、最終的に、WISICA標章は本来的に請求人に帰属すべきものであったとして合意し、解決するに至っている(甲第21号証及び甲第22号証)。
3 商標法第4条第1項第7号該当性
(1)商標法第4条第1項第7号は、公序良俗を害する商標については登録できない旨を規定するが、最近の審決・判決(平成16年(行ケ)第7号及び平成17年(行ケ)第10668号:甲第23号証及び甲第24号証)においては、他人の商標を冒用して登録出願されたような商標についても、公序良俗違反として無効とする解釈が定着してきている。
この点、次の学説がある。
「外国商標の国内登録を手段とする不正競争の問題再論(満田車昭)小野昌延先生古稀記念論文集 知的財産法の系譜(株式会社青林書院 2002年8月19日発行:甲第25号証)。
(2)本件商標が他人の標章を剽窃して登録出願された商標であること
上記2(1)ウで主張したとおり、被請求人は、WISICAの下部組織としてWISICA登録商標の使用許諾を受けていたにすぎず、請求人との間に資本関係もなく、商標の登録出願の権限等も付与されていなかった。しかしながら、被請求人は、WISICA登録商標を含むWISICA標章が海外で世界共通の品質保証マークとして周知なものとして機能していたことを知りつつ、請求人及びCarsicot社の許諾を得ず、独自に「(INC)」の部分を除外した実質的に同一の本件商標を登録出願し、団体商標として登録をした。この点、請求人は、請求人とCarsicot社との間でWISICA登録商標の譲渡について紛争が生じている中で、平成9年(1997年)12月16日にロイヤルティの支払いを条件に、再度再登録出願商標の使用許諾に応じる旨の提案レター(甲第18号証)を送付したところ、被請求人は何らこれに応じないばかりか、請求人の無効審判請求に対しても、自らが権利者である旨の反論をするに至った。被請求人のかかる本件商標の登録出願行為は、上記2(1)で主張した被請求人による商標出願の経緯から明らかなように、まさに上記の「HORTILUX事件」(平成16年(行ケ)第7号:甲第23号証)にいう「特定の商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が、その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃した」ものと言うべきであり、そのような登録出願は、著しく社会的妥当性を欠くだけでなく、そもそも商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないものというべきである。
さらに、このような商標登録出願は、WISICA標章が有する海島綿の品質保証機能及び著名性を利用し、国内では組合員から会費を徴収するとともに、海外からはWISICA標章が付された海島綿製品の輸入を不当に阻害し、かつ、請求人から過去のロイヤルティ不払いの請求を避け、将来のロイヤルティの支払いを避けることを意図してなされたものである。すなわち、被請求人は、「本物の『海島綿・シーアイランドコットン』製品には、上記商標が必ず付いております」「海外から供給されている綿製品(含む有名ブランド)に『海島綿・シーアイランドコットン』と表示し販売されているものがあります。これらの製品は原料の産地が特定できないものや、当協会の保証する本物の証の付いている製品とは、似ても似つかない綿花で作られた製品ですので、ご注意下さい。」等の広告(甲第26号証)をし、同様の告知を被請求人のウェブサイト(http://www.kaitoumen.co.jp/)でも行い、被請求人の会員となっていない者に内容証明を送付する等により他者の海島綿製品の販売行為を阻害している。実際、被請求人は、請求人から許諾を得てWISICA標章を付した商品を輸入した者に対しても、その使用の差止及び損害賠償を請求する旨の通告書(甲第27号証及び甲第28号証)を送付しており、同紛争は、現在、東京地方裁判所において係属中である(東京地方裁判所民事第40部3係 平成17年(ワ)第14820号)。このように、被請求人の行為は、公正な商取引の秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、公序良俗を害するおそれのある登録出願として、商標法第4条第1項第7号に該当することは明らかである。
4 商標法第4条第1項第19号該当性
WISICA標章は、少なくとも英国及びバルバドス等においては、請求人が生地の品質を証明する商標として使用してきた周知な商標であり(甲第3号証ないし甲第6号証、甲第15号証及び甲第16号証)、被請求人は、請求人及びCarsicot社から使用許諾を受ける過程で、その周知性を知りつつ、日本における海島綿の販売にWISICA標章を使用していた(甲第2号証及び甲第3号証)。そして、本件商標の登録出願は、国内では組合員から会費を徴収するとともに、海外からはWISICA標章が付された海島綿製品の輸入を不当に阻害し、かつ、請求人から過去のロイヤルティの不払いの請求を避け、さらには将来のロイヤルティの支払いを避けることを意図してなされたものであり、「不正の目的」を有することは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号にも該当する。
5 答弁に対する弁駁
(1)請求人が、海島綿の品質管理団体の本部であること
請求人は、海島綿の品質管理を行う西印度諸島海島綿協会の本部であり、地域における対等の下部組織などではない(甲第29号証)。すなわち、請求人は、海島綿(シーアイランドコットン)の販売を促進し、その品質管理を行い、かつ海島綿でないものが本物として販売されるのを防止することを目的として、海島綿の栽培者らと、アンティグア等西印度諸島の政府の関係者を役員として設立された半政府団体の本部であり、被請求人の上位組織であって、対等の下部組織などではない(甲第29号証及び甲第30号証)。このことは、被請求人自らの加入申込要綱において、設立の経緯に関し、「西印度諸島海島綿協会日本支部」なる表現をし、「西印度諸島アンティグアで開催された西印度諸島海島綿協会の総会において正式に批准された」と記載していること(甲第18号証)、被請求人自らが請求人に対して、「加入会員としての提案」を行っていること(甲第19号証)からしても明らかである。なお、海島綿は、西印度諸島の有力な事業であることから、請求人は、バルバドス政府や近時はジャマイカ政府からの支援を受けている(甲第31号証及び甲第32号証)。
(2)被請求人の本件商標の登録出願経緯に関する反論に理由がないこと
ア WISICA商標は、形式的には、Carsicot社に譲渡されたものの、同譲渡後も実質的権利者は請求人であった。すなわち、請求人は、製品が真正であるかどうかを証明するという請求人自身の役割と矛盾するため海島綿商品の取扱いを禁止されており、このような請求人の活動に対する制約が日本における取引の発展を害していることが明らかになった。これを受けて、昭和61年(1986年)頃、別途、海島綿の販売促進代理店としてCarsicot社が設立された。請求人は、かかかるCarsicot社の代理店としての活動を効率的にするため、形式的にWISICA商標を譲渡したにすぎず、譲渡後もCarsicot社から請求人に対してロイヤルティが支払われる等あくまで実質的な権利者は依然として請求人であった(甲第29号証)。
また、本件譲渡の効力については、後に、請求人とCarsicot社間において争いが生じており、最終的にWISICA商標は本来的に請求人に帰属すべきものであったとして合意し、解決に至っている(甲第21号証、甲第22号証及び甲第29号証)。
この点について、被請求人は、請求人が証拠として提出した甲第22号証に対し、奇怪な書面などと主張するが、同書を作成したディビッド・アンソニー・C・シモンズは、バルバドスの元最高裁長官であり(甲第33号証)、かかる同氏の経歴からしても甲第22号証の信用性が極めて高いことは明らかである。
イ 請求人が本件商標の登録出願当時、WISICA商標の実質的権利者が請求人であると知っていたこと
請求人の商標法第4条第1項第7号の主張に対し、被請求人は、「本件商標(WISICA商標)は、一度請求人が日本国で登録を得たものの、これを第3者に譲渡し、この第3者が商標登録更新せず失効させた事態に当該商標の専用使用権者である被請求人が当該商標の再使用許諾を受けている組合員と需要者の混乱を避けるため、登録を得たのであって、決して剽窃行為ではなく正常な商標登録手続である。」旨主張する。
しかし、被請求人は、Carsicot社が設立された1987年頃、イギリスにおけるWISICA商標の登録をアメリカの会社が無効にしようとした手続の過程で、WISICAの代理人である英国事務弁護士(ソリシター)ピーター・マーティン(以下「マーティン」という。)による請求人の防御を支援したことがあり、請求人の活動については十分認識していた。また、請求人からCarsicot社へのWISICA商標の譲渡及びWISICA商標の被請求人への専用使用権の設定は、日本における販売促進に向けた一連のものとして行われており、被請求人は、上記イギリスでのWISICA商標の無効手続で請求人が防御に成功した後、来日したマーティン、請求人代表者及びCarsicot社代表者とも会っていること、Carsicot社と被請求人とのライセンス契約も、マーティンが交渉し草案を作成していることから、被請求人は、上記譲渡の経緯を含め請求人がWISICA商標の実質的な権利者であることを十分に認識していたのである(甲第29号証)。さらに、請求人とCarsicot社との間のWISICA商標の譲渡の効力は裁判手続において争いとなっているが、被請求人は、本件商標の登録出願を行った平成9年(1997年)4月1日当時、その事実を知っていたのであり、この点については被請求人自身もこれを認めている。このように、本件は、被請求人が主張する請求人から第三者に単純に商標が譲渡された事案などではなく、請求人は譲渡後も実質的権利者として関わっており、被請求人もそれらの事情を十分認識していたものである(甲第29号証)。
ウ 被請求人が本件商標の登録出願当時、WISICA商標の専用使用権者ではなかったこと
また、被請求人は、自らがWISICA商標の専用使用権者であり、再使用許諾権利者の権利を保全するため、本件商標の登録出願を行った旨主張する。
しかし、被請求人が受けたWISICA商標の専用使用権は、平成5年(1993年)7月31日で期間満了しており(甲第8号証、甲第10号証及び甲第12号証)、本件商標の登録出願時点である平成9年(1997年)4月1日時点において被請求人が使用権限を有していたかどうかも明らかではない。被請求人は、本件商標の登録出願の理由について、組合員の商標再使用権を守るためなどと主張するが、平成5年(1993年)7月31日以降、平成9年(1997年)4月の本件商標の登録出願までの約4年間もの間、専用使用権を更新していないといった被請求人の対応からしても、かかる主張が理由のないことはいうまでもない。
エ 被請求人の本件商標の登録出願理由が不合理であること
さらに、被請求人は、「カリビアン社が本件商標(WISICA商標)の登録更新を行わないことが判明した」ことから登録出願を行ったなどと登録出願の理由について縷々主張する。しかし、被請求人は、この点について何ら証拠を提出しておらず、何時ごろ、誰から、どのような理由でCarsicot社が登録更新しない旨を聞いたのかについて全く明らかにしていない。この点からも、被請求人の登録出願の理由についての主張が、およそ主張として、不十分であることはいうまでもない。
また、被請求人は、平成9年(1997年)4月1日に、本件商標の登録出願を行っているが、WISICA商標の存続期間の満了日は、旧第15類及び旧第16類については、平成9年(1997年)の6月16日であり、登録出願時点では期間満了までに2箇月の期間があった。また、旧第17類については、平成10年(1998年)4月26日が期間満了日であり、登録出願時点では期間満了まで1年以上もの期間があった。この点、被請求人は、「当該商標の再使用許諾を受けている組合員と需要者の混乱を避けるため、登録を得たのであって」、「重要な団体商標秩序を維持する目的で急遽被請求人の名義で本件商標の登録出願手続を行い登録を得たものであって」などと主張しているが、上記のように、被請求人の登録出願時点においてWISICA商標の存続期間満了までは時間があったのであり、請求人の登録出願に先立ち自ら登録出願をすることによって、当該権利を剽窃する目的以外に急遽この時点で登録出願を行わなければならない合理的理由などない。さらにいえば、仮に、被請求人が、Carsicot社から更新をしない旨の連絡等を受けていたとしても、WISICA商標の実質的権利者が請求人であることを知っていたことからすれば、被請求人自らの名前で登録出願する前に請求人に事情を確認する等の対応を採るべきである。しかしながら、被請求人は、かかる確認を何ら行わず、平成9年(1997年)4月1日に、自らの名義で登録出願を行った。さらに、請求人は、被請求人に対し、平成9年(1997年)12月16日に手紙(甲第19号証)を送付し、請求人が同年単独名義で商標の登録申請をした旨を伝え、手紙の受領後、29日以内にライセンスの希望の有無等について返信するよう促したにも関わらず、これを無視し、登録が完了するまで自らの登録出願行為について請求人に説明することもしなかった。被請求人は、WISICA商標が有する価値を利用して、第三者からロイヤルティを取得しておきながら、自らはロイヤルティの支払いを怠り、請求人とCarsicot社間のWISICA商標の譲渡に関する紛争に乗じて本件商標を剽窃するに至ったのであり、被請求人の登録出願が、商標法第4条第1項第7号公序良俗に反する登録出願及び同第19号の不正な目的での登録出願にあたることは明らかである。
(3)商標法第4条第1項第19号周知性について
被請求人は、請求人のWISICA商標が生地の品質を証明する商標として使用された周知な商標であるとの主張に対し、商標を周知にさせた主体は被請求人のように実際に地域で果敢な団体商標使用の普及を試みた地域団体であること等を根拠にこれを否定する旨の主張をしている。
しかし、被請求人は、その設立に際し、WISICA商標が海外で世界共通の品質保証マークとして周知なものとして機能していたことを知りつつ、WISICA商標を使用し始めたのであり、かかる被請求人の行動自体がWISICA商標の周知性の何よりの証左である。この点、被請求人は、自らの広報誌の創刊号(甲第3号証)において、「海島綿(シーアイランドコットン)製品には世界共通に図のような織ネームがついています。これは、カリブ海に浮かぶ6つの島だけで収穫され、古くから英国王室に寵用されてきたという、いわば“世界最高級品”としての証明でもあります。(下げ札にも、図のような“West Indian Sea Island Cotton”のマークが必ず表示されています。)」と記載し、WISICA商標を併せて掲載しており、WISICA商標が海外等において周知であったことを自認している。また、請求人は、上記1において主張したとおり、アンティグア等西印度諸島の政府関係者を役員として設立された団体であり、海島綿は国家の主要事業であることからすれば、WISICA商標が少なくともこれら西印度諸島において周知であったことは明らかである。また、海外における請求人登録標章については、現在もウェブサイトをはじめとして、その広告がなされており(甲第34号証ないし甲第36号証)、この点からも本件商標の登録出願時において海外において周知性があったといえる。
なお、被請求人は答弁書中において、甲第2号証及び甲第3号証が被請求人の作成・配布したものであることを理由に、「海島綿の生産・販売の適切な管理を行って来たのは被請求人であり、請求人ではない。」と主張する。 しかし、請求人は、被請求人の設立に先立つ1932年の設立以来、請求人が、海島綿の生産・販売の適切な管理を行ってきたことを主張し、その根拠として、その旨が記載された甲第2号証及び甲第3号証を提出しているにすぎないのであり、かかる被請求人の反論は不適切である。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第19号に該当するというべきであり、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第4号証を提出した。
1 被請求人は、過去に何れも存続期間満了により失効した登録第1960087号商標(甲第8号証)、登録第1960088号商標(甲第10号証)並びに登録2044731号商標(甲第12号証)の専用使用許諾をこれらの商標登録権利者であった請求外Carsicot社から受け、設定登録を得たのであって、請求人とは何らのかかわりもなく、請求人に対し「不正の目的」を持つ必然性もない。
2 請求人適格について
(1)先ず、海島綿の生産・販売の適切な管理を行ってきたのは被請求人であり、請求人ではない。蓋し、請求人がその主張事実を立証するために提出している甲第2号証の「加入申込要綱」及び甲第3号証の「WISICA NEWS」は、何れも被請求人が作成し、配布しているものであって、とりわけ甲第2号証の「加入申込要綱」に記載される商標登録第4213430号は正しく被請求人の所有に係る本件商標に他ならない。
(2)請求人が英国で商標登録を得たかどうかは不知。ただし、登録無効審判請求に何の関係もない(パリ条約第6条第3項、商標法第77条第4項、特許法第26条)。
商標が登録されている事実は、当該商標が周知である事実を立証することにはならない。
(3)請求人が、かつて商標登録第1960087号、同第1960088号並びに同第2044731号の登録(甲第7号証ないし甲第12号証)を得た事実の主張は認めるが、これらの登録は何れもその後請求外Carsicot社に平成元年12月4日付けで移転登録されており、請求人は本件商標とは無関係の状態となっている。
商標登録を受けるための要件を規定した商標法第4条第1項第11号、同法第8条の規定、ひいては同法第15条の規定を無視する請求人の主張は許されず、そもそも虚偽の主張を前提とする請求人に本件無効審判請求を行なう適格性はなく、本件請求は商標法第43条の14、特許法第133条の2の規定により請求手続を却下すべきである。
請求人の日本国における商標登録出願及び登録手続の経緯は認めるが、他国における手続の主張は、不知。
(4)被請求人の設立の経緯について
被請求人は、日本国及び極東地域において、高品質で純正な西インド諸島海島綿を取扱う業者を統括管理することにより偽物の市場への侵入を阻止し、常に純正な海島綿を消費者に提供することを目的として、1980年2月1日に協同組合西印度諸島海島綿協会(英文名 WEST INDIAN SEA ISLAND COTTON ASSOCIATION)の名義のもとに設立され(乙第1号証)、そして、純正な海島綿であることを象徴する標識として本件商標を選択し、組合の設立以来、協会に所属する組合員及び賛助会員に使用させてきた(乙第2号証及び甲第3号証)。つまり、本件商標は、純正な現地産海島綿であることを証明する象徴として機能し、日本国において多くの会員により守られてきた品質証明商標である。
請求人もまた請求人が管理責任を負う欧米の地域において被請求人と同様の目的を持って設立され、同様の役割を果たしているものと思われる。
優れた原産地品を世界の市場に普及させ、かつ市場を守るためにその拠点となる地域に同種同名の団体が形成され、独自にまたは連携して活動する例は、以下に例示するまでもなく産業界に多く存在する。
(a)Internationa1 Mohair Association
(b)The Woolmark Company(旧国際羊毛事務局)
(c)IWS Nominee Company Limited
(d)日本エキストラファインウール協会(Japan Extra Fine Woo1 Association)
(e)英国羊毛公社(British Woo1 Marketing Board)
被請求人と請求人との存在も前記と同類型のものであって、先に述べたとおり1980年2月1日の組合結成以来26年間にわたり、37社以上におよぶ組合員及び賛助会員の支持のもとに、本件商標を品質保証の象徴として使用して需要者の信頼に応えているのであって、請求人の主張する商品の品質表示の誤認等はあり得ない。
被請求人も請求人も特定の管理地域において、西インド諸島産の海島綿の市場開発及び品質維持を行う共通の目的のもとに設立され、それぞれ責任を果たしているのであって、「西印度諸島海島綿」ないしは「WEST INDIAN SEA ISLAND COTTON」自体は、単に商品の品質や産地を表示する表現にすぎず、独占的保護法益を有しないものである(商標法第3条第1項第3号、不正競争防止法第19条第1項第1号)。例えば、本件商標の香港での商標登録出願時に「CERTIFIED BY WEST INDIAN SEA ISLAND COTTON ASSOCIATION(INC)」の文字については権利化できないので削除して出願手続をしたほうがよいとの現地代理人の助言(乙第3号証)に従い、これらの文字を削除したかたちで登録を受けた経緯がある(乙第4号証)。
(5)登録商標の譲渡及び専用使用権の設定について
請求人と被請求人との間に本件商標に関し何らの債権債務関係も存在しない。
被請求人は多くの組合員と賛助会員の営業を守るため純正な海島綿であることを証明する象徴として機能する本件商標を守る絶対的な責務があり、先登録権利者と新登録権利者とが説明のないまま理由不明な紛争を始めて登録商標を存続期間の延長手続もせずに放置してしまったと理解する他なく、本件商標の登録を得たことは正当な行為である。
請求人による本件商標に対する無効審判請求が認められなかった経緯の主張は認めるが、請求人も被請求人も地域における対等の下部組織である。
(6)本件商標を日本国内において周知な状態に置いたのは、ひとえに被請求人の長年に及ぶ着実な営業努力の成果であり、早い機会に登録商標を第3者に譲渡した請求人は何ら関与していない。
本件商標に関し、請求人と被請求人との間に一切の関わりはなく、また請求人に本件商標に関する何の法的地位もない。
なお、請求人は、「請求人とCarsicot社との間で生じていたWISICA標章に係る商標権の譲渡の有効性についての紛争は、最終的に、WISICA標章は本来的に請求人に帰属すべきものであったとして合意し、解決するに至っている(甲第21号証及び甲第22号証)。」と主張しているが、これも虚偽表現である。請求人と請求外Carsicot社との訴訟は未だ係属中であり、そもそも甲第21号証の書面は、請求人の代理人の作成に係る準備書面であり、また、甲第22号証として提出されている奇怪な書面にも、「私が2002年1月1日にバルバドスの最高裁長官に就任した後、私は商標の状況について連絡を受けておらず、また法務長官の事務所に保管されている関連ファイルへのアクセスも有しないので、私は当該商標の現在の状況については存じません。」と誓言されていて請求人の主張を裏付けるものは何も存在しない。
3 商標法第4条第1項第7号について
請求人が力説する判例も学説も本件商標に何の関係もない。本件商標は、一度請求人が日本国で登録を得たものの、これを第3者に譲渡し、この第3者が商標登録更新せず失効させた事態に当該商標の専用使用権者である被請求人が当該商標の再使用許諾を受けている組合員と需要者の混乱を避けるため、登録を得たのであって、決して剽窃行為ではなく正常な商標登録手続である。仮に商標の譲受人である請求外Carsicot社が譲渡人である請求人との紛争の影響を受けて存続期間の更新を行わず商標登録を失効させたとしても、商標権利者としての自由な意志であり、被請求人が関与し得る問題ではない。
本件商標は、まず請求人が昭和62年6月16日付けで登録を受け、その後この登録を請求外Carsicot社に平成元年12月4日付けで移転登録し、被請求人はこのCarsicot社から平成2年8月27日付けで専用使用権の設定登録を得、その後本件商標を37社におよぶ組合員及び賛助会員に再使用許諾して使用していたところ、請求人とCarsicot社との間に紛争が発生して訴訟手続が開始され、Carsicot社の要望により商標使用料の一部をプールして訴訟の解決を待期していたところ、Carsicot社が本件商標の登録更新を行わないことが判明したことから、組合員の商標再使用権を守り、安定した営業継続ができるよう本件商標を自ら登録するための出願手続を行い平成10年11月20日付けで登録第4213430号として登録された。この登録手続につきCarsicot社からは、何らの異議も受けていない。
被請求人と組合員との間では本件商標の使用につき長年にわたり、円滑な本件商標の使用秩序が維持され各組合員の正常な営業が保証されている。本件商標に何の関係もない請求人の意図は、このような善意に確立された秩序を破壊しようと企むものである。
4 商標法第4条第1項第19号について
請求人は「被請求人は、請求人及びCarsicot社」から使用許諾を受ける過程で…」と主張するが、無権利者である請求人から被請求人が使用許諾を受けるべきものは何も存在せず、請求人の主張は全くの虚偽である。
被請求人は、本件商標につきその登録権利者である請求外Carsicot社から正規な契約により専用使用許諾を受け(甲第8号証、甲第10号証及び甲第12号証)、組合員及び賛助会員に団体商標として使用させていたところ、商標登録権利者が商標権の存続期間更新手続を行わなかったため、重要な団体商標使用秩序を維持する目的で急遽被請求人の名義で本件商標の登録出願手続を行い登録を得たものであって、請求人のいうような「不正な目的」などない。
そもそも、本件商標は、その指定商品及び指定役務につき、登録を受けているのであって、これらの商品及び役務について請求人の商標が外国及び日本国において周知である事実の証明などどこにもない。商標を周知させた主体は、請求人ではなく、被請求人のように実際に地域で団体商標使用の普及を試みた地域団体である。
5 総括
請求人の本件商標の登録無効審判請求の理由は、様々な論旨の矛盾と虚偽表現を呈しながら捏造されたフィクションであり、商標登録無効審判請求権の濫用である。したがって、このような請求は理由がないものとして直ちに棄却されるより、むしろ請求の利益がないのであるから、請求人適格に欠けるものとして請求を却下すべきである。

第4 当審の判断
甲各号証、乙各号証、請求人及び被請求人主張の全趣旨によれば、以下のとおりである。
1 請求人適格について
被請求人は、本件審判の請求について、請求人は本件無効審判請求を行う適格性がなく、本件請求は商標法第43条の14、特許法第133条の2の規定により請求手続を却下すべきである旨主張しているが、請求人は、本件商標と酷似(本件商標の下部枠体の「ASSOCIATION」の文字に「(INC)」の文字を付加した商標)する商標(以下「請求人商標」という。)を昭和48年6月28日に登録出願し、同62年6月16日に登録第1960087号商標として設定登録されていた事実(甲第7号証及び甲第8号証)、同様の経緯の登録商標を他に2件(甲第9号証ないし甲第12号証)所有していたことが認められる。さらに、請求人は、これらの登録商標が商標権の存続期間満了後に、請求人商標(商願平09-128995)を商標登録出願したが、商標法第4条第1項第11号に該当するとして拒絶査定された経緯(甲第13号証及び甲第14号証)が認められる。
以上の経緯よりすると、請求人は、本件商標の存在によって不利益を被る関係にある者といえ、本件商標の登録を無効にする審判を請求することにつき、利害関係を有する者に該当するというのが相当である。
2 請求人と被請求人との関係
(1)甲第8号証、甲第10号証及び甲第12号証の商標登録原簿よりすると、請求人は、登録第1960087号商標外2件の商標登録権利者であったが、これらの登録を「Carsicot社(カリビアン シー アイランド コットン コンパニー リミテッド)」に譲渡し、その移転登録が平成元年12月4日になされている。
被請求人は、日東紡績とともに、上記登録第1960087号商標外2件の商標権について、平成2年8月27日に専用使用権の設定登録を得、その専用使用権の設定期間は、平成元年12月20日から平成5年7月31日までとされていたものである。
(2)その後、被請求人は、上記第1のとおり、本件商標を平成9年4月1日に登録出願し、団体商標として同10年11月20日に設定登録を得ている者である。そして、被請求人の法人としての成立は、昭和55年2月1日であり(乙第1号証)、その所属する組合員及び賛助会員は、平成12年4月1日現在、「外村株式会社」、「藤井毛織株式会社」など始め37社以上におよんでいる(乙第2号証)。
3 甲第2号証及び甲第3号証について
請求人の提出に係る甲第2号証の「加入申込要綱」(日付不明)は、被請求人の作成したものであり、「1.協会の主旨、2.新規加入申請者の審議、3.ブランド使用及び、附属・販促副資材等の使用説明」を項目としている。また、同じく請求人の提出に係る甲第3号証の「WISICA/海島綿/NEWS」の創刊号について請求人は、上記「加入申込要綱」、「WISICA/海島綿/NEWS」創刊号をもって、「海島綿の生産・販売について適切な管理を行ってきた(甲第2号証及び甲第3号証)。」と主張している。
一方、被請求人は、海島綿の生産・販売について適切な管理を行ってきたのは被請求人自身であり、「加入申込要綱」及び「WISICA/海島綿/NEWS」創刊号は何れも被請求人が作成し配布したものであると述べ、特に「加入申込要綱」の「3.ブランド使用及び、附属・販促副資材等の使用説明」の項目中に記載されている商標登録第4213430号は被請求人の所有に係る本件商標にほかならないと述べている。
上記甲各号証によれば、以下の事実が認められる。
「SEA/ISLAND/COTTON/Q&A」の見出しの下の頁において
(1)「西印度諸島海島綿」が高級素材で希少性があることの説明の他に、その生産量の殆どが英国向けに積み出されたが、1976年に日本への輸出が許可され、現在、海島綿から糸を紡ぐライセンスを持っているのは、英国のカーリントン・ビエラ社と、日本の「同興紡績」の2社であり、国内でも海島綿を使用した商品には品目ごとにライセンスを与え、事前に協会の品質管理基準にパスした商品のみ本件商標が使用される旨徹底していることが記載されている。
(2)「WISCAとは」は「英王室直属の西印度諸島協会の下部組織」、また、「西印度諸島海島綿協会」(WEST INDIAN SEA ISLAND COTTON ASSOCIATION)は、1750年に創立された英王室直属の西印度諸島協会の下部機構として昭和7年に設立したことが記載されている。
(3)協会は、海島綿の作付、耕作、収穫から梱包、さらには出荷に至るまで一貫した管理をします。さらに、肌着から靴下、アウターウェアー、寝装品に至る35品目、30社が結束して、「協同組合・西印度諸島海島綿協会」を組織しています。原則的に1品目1社。しかも厳重な資格審査をパスしたもののみが、ロンドンの協会本部から製品化のライセンスを与えられる旨、が記載されている。
(4)「007なんかに負けてたまるか」の見出しの下の頁の下欄に、本件商標に酷似した標章、即ち本件商標の構成中の「ASSOCIATION」の文字を「ASSOCIATION(INC.)」と表示し、さらに本件商標の矩形枠体の上部に「west indian」と「sea island cotton」を2行に表示した文字をそれぞれ加えた構成よりなる標章を表示し、その右側に「世界最高級の証明です」、「海島綿(シーアイランドコットン)製品には、世界共通に図のような織ネームがついています。これは、カリブ海に浮かぶ6つの島だけで収穫され、古くから英国王室に籠用されてきたという、いわば、“世界最高級品”としての証明であります。(下げ札にも図のような“West Indian Sea Island Cotton”のマークが必らず表示されています。お買い求めの際にお確かめ下さることをお奨めします)」と記載している。
(5)協同組合・西印度諸島海島綿協会会員の表題の下、「同興紡績株式会社」、「福助株式会社」など31社の会員会社名が掲載されている。
しかして、この甲第2号証及び甲第3号証の「加入申込要綱」及び「WISICA/海島綿/NEWS」創刊号には、いずれも被請求人の名称である「協同組合西印度諸島海島綿協会」名が明確に表示されており、このことからも被請求人が作成し配布したものと推認できるものである。
4 上記1ないし3よりすると、請求人は、過去に登録第1960087号商標外2件の商標権を所有していたとしても、これらの登録商標を請求外「Carsicot社(カリビアン シー アイランドコットン コンパニー リミテッド)」に譲渡し、その移転登録が平成元年12月4日になされているものであるから、現在においては、被請求人とは直接的には関係を有しない者であるといわざるを得ない。
そしてまた、請求人と請求外「Carsicot社(カリビアン シー アイランドコットン コンパニー リミテッド)」との関係についても、基本的には両当事者間の問題であり、被請求人とは直接的には関係がないものである。また、被請求人が本件商標を登録出願した経緯についても、登録第1960087号商標外2件の商標権の存続期間が満了したにもかかわらず、商標登録権者であった請求外「Carsicot社(カリビアン シー アイランドコットン コンパニー リミテッド)」が存続期間の更新登録の申請を行わなかったことに起因するものともいえ、専用使用権の設定登録を得ていた被請求人ら、特に被請求人である「協同組合西印度諸島海島綿協会」が法人として、昭和55年(1980年)2月1日に成立し、「(1)組合員の取り扱う西印度諸島海島綿の共同購入(2)組合員のためにする商標(トレードマーク等)の管理及びその共同事業」等を事業目的(乙第1号証)とし続けてきていることよりすると、同人が本件商標を登録出願し、商標登録を取得した行為はあながち不当、不徳義と評価することはできないし、また上記経緯からすると、被請求人の本件商標の登録出願が「不正の目的」をもってなされたというのは妥当ではない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第616号)。
これを本件についてみるに、本件商標は、別掲のとおり、海、島影、椰子の木、上昇する太陽と雲を組み合せた図形の上部に英文字「SEA ISLAND」を表示し、その下部に「WISICA」の文字を配し、さらに、これらの構成要素全体を矩形枠体で取囲み、その左側枠体に「CERTIFIDE BY」の文字を、上部枠体に「WEST INDIAN SEA ISLAND」の文字を、右側枠体に「COTTON」の文字を、下部枠体に「ASSOCIATION」の文字をそれぞれ配置をしてなる構成のものであり、商標自体に公序良俗違反のないものである。
そして、本件商標は、上記第1のとおり団体商標として設定登録されており、同じく第3のとおり、被請求人の本件商標を登録出願し、商標登録を取得した行為は、あながち不当、不徳義と評価することはできないし、また、被請求人の本件商標の登録出願が「不正の目的」をもってなされたともいえないし、さらには国際信義に反する商標であるともいえないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。
6 商標法第4条第1項第19号該当性について
上記2ないし4を総合すると、被請求人は、本件商標を「不正の目的」をもって使用するものとはいい難いものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。
7 請求人の主張について
(1)請求人は、英国、米国及びヨーロッパに登録商標を所有し(甲第4号証、甲第6号証、甲第15号証及び甲第16号証)、世界的に海島綿の品質管理をしてきた旨述べている。
しかし、被請求人においても、請求人が本件商標を譲渡した正式の商標権利者であった「Carsicot社(カリビアン シー アイランドコットン コンパニー リミテッド)」から専用使用権の設定登録を得ていた者であり、また、海島綿の品質管理も行ってきている者である(乙第1号証、乙第2号証、甲第2号証及び甲第3号証)から、一方的に請求人のみが海島綿の品質管理をしてきたとは認め難く、この点に関する請求人の主張は、採用できない。
(2)請求人は、被請求人が自らの本件商標の登録自体を是正し、本来の権利者である請求人に商標を移転する旨自認している(甲第19号証)と述べるが、該甲第19号証の各記述からは、「請求人に商標を移転する旨自認している」とは理解できない。
(3)請求人は、「Carsicot社(カリビアン シー アイランドコットン コンパニー リミテッド)」との間で生じていたWISICA標章に係る商標権の譲渡の有効性についての紛争は、最終的に、WISICA標章は本来的に請求人に帰属すべきものであったとして合意し、解決するに至っている(甲第21号証及び甲第22号証)旨主張しているが、甲第21号証はいわゆる「召喚状」段階であり、甲第22号証はその訳文よりすると、政府の関係者であったとしても、一私人のレターであるから、該紛争に関して合意され、解決が実際に行われたかの、裏付けになる公的証拠とはいえない。
したがって、この点に関する請求人の主張も採用できない。
(4)請求人は、近時はジャマイカ政府からの支援を受けている(甲第31号証及び甲第32号証)旨主張するが、本件の無効審判請求事件とは直接関係するものではない。
(5)請求人は、Carsicot社の代理店としての活動を効率的にするため、形式的にWISICA商標を譲渡したにすぎず、譲渡後もCarsicot社から請求人に対してロイヤルティが支払われる等あくまで実質的な権利者は依然として請求人であった(甲第29号証)旨主張する。
しかし、甲第29号証に「WISICAからCarsicot社への商標権の譲渡は、あくまで、形式的な譲渡であって、…商標権をWISICAに返還される取り決めになっていました。…」とあるが、この点の契約書等は何ら示されておらず、他にも裏付けになる具体的証拠の提出はない。
したがって、この点に関する請求人の主張も採用できない。
(6)請求人は、WISICA商標が少なくともこれら西印度諸島において周知であったことは明らかである。また、海外における請求人登録標章については、現在もウェブサイトをはじめとして、その広告がなされており(甲第34号証ないし甲第36号証)、この点からも本件商標の登録出願時において海外において周知性があったといえる旨主張する。
しかしながら、請求人のみが、ウェブサイトを掲載し、広告したとは認め難いし、この程度の証拠をもって、直ちに周知性を取得している商標ともいえない。
したがって、この点に関する請求人の主張も採用できない。
8 むすび
以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第19号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項により無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲 本件商標





審理終結日 2007-04-06 
結審通知日 2007-04-11 
審決日 2007-04-25 
出願番号 商願平9-180952 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (Z18)
T 1 11・ 22- Y (Z18)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井岡 賢一 
特許庁審判長 小林 和男
特許庁審判官 石田 清
寺光 幸子
登録日 1998-11-20 
登録番号 商標登録第4213430号(T4213430) 
商標の称呼 サーティファイドバイウエストインディアンシーアイランドコットンアソシエーション、シーアイランドウイシカ、ウイシカ、ダブリュウアイエスアイシイエイ、シーアイランド、ウエストインディアンシーアイランドコットンアソシエーション、ウエストインディアンシーアイランドコットン、ウエストインディアンシーアイランド 
代理人 宮川 美津子 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 浜田 治雄 
代理人 太田 知成 
代理人 田中 克郎 
代理人 石田 良子 

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