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審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない 025
管理番号 1192337 
審判番号 無効2008-890019 
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-02-27 
確定日 2009-01-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第4056857号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4056857号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成6年12月2日に登録出願、第25類「イギリス製のジャケット,イギリス製のその他の洋服,イギリス製のコート,イギリス製の雨着,イギリス製の帽子,その他のイギリス製の被服,イギリス製のズボンつり,イギリス製のバンド,イギリス製のベルト,イギリス製の靴類,その他のイギリス製の履物,イギリス製の運動用特殊衣服,イギリス製の運動用特殊靴」を指定商品として、同9年9月12日に設定登録され、その後、同19年8月7日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第26号証を提出している。
1 理由
本件商標は、その構成中に「ゴム引き防水布で作ったレインコート」を意味する「MACKINTOSH」及び当該商品が「スコットランド製の商品」であることを直感させる「Scotland」の各文字を有してなるものであるから、これをその指定商品中「スコットランド製のゴム引き防水布で作ったレインコート」以外の商品に使用した場合には、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められるから、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。
(1)利害関係
請求人は、アイルランド製のゴム引き防水布で作ったレインコート「MACKINTOSH of Ireland」を輸入販売していたところ、本件商標の商標権者から商標権侵害の警告書を受けた。
(2)理由の要旨
ア 「MACKINTOSH」の語について
「MACKINTOSH」は、商品の区分第25類の指定商品中「レインコート」を示し、特に「ゴム引き防水布で作ったレインコート」を示す技術用語であり、普通名称である事は、需要者が何時でも検索できる各種辞典「デイリーコンサイス英和辞典(三省堂)」(甲第3号証)、「現代英和辞典(研究社)」(甲第4号証)、「新英和中辞典(研究社)」(甲第5号証)、「スーパー・アンカー英和辞典(学研)」(甲第6号証)、「ワードパル英和辞典(小学館)」(甲第7号証)、「Webster’s Third New Internationa1 Dictionary(a Merriam-Webster)」(甲第8号証)、「エッセンシャル英和辞典」(甲第9号証)、の各種英和辞典、「広辞苑(岩波書店)」(甲第10号証)、「朝日現代用語・知恵蔵(朝日新聞社)」(甲第11号証)、「現代用語の基礎知識2007年版(自由国民社)」(甲第12号証)、の各種現代用語辞典、「国語大辞典言泉 GENSEN(小学館)」(甲第13号証)、「日本語になった外国語辞典第2版(集英社)」(甲第14号証)、「コンサイスカタカナ語辞典(三省堂)」(甲第15号証)、服飾評論家の著書「英國紳士はお酒落だ(株式会社飛鳥新社)」(甲第16号証)、インターネット検索サイトのGoogleの検索結果(甲第17号証)においても、「マッキントッシュ」、「Macintosh」又は「mackintosh」は「レインコートの一種、また、それに使用される布地(マッキントッシュ・クロス)のこと。織物の裏にゴムを引き、綿布を貼り合わせてある。加工法の考案者チャールズ・マッキントッシュ」と解説されており、シャープ株式会社のe-dictionary電子辞書ジーニアス英和辞典に、1、(もとゴム引きの)雨コート、2、ゴム引きの防水布、レインコートと掲載されている(甲第18号証)、同じく、シャープ株式会社のe-dictionary電子辞書スーパー大辞林に、「ゴム引きの防水布で作ったレーンコート」と掲載されている(甲第19号証)。
イ 服飾に関する辞書、辞典について
服飾業界では、業界人が参考にしている「ファッション辞典 FASHION DICTIONARY(文化出版局)」(甲第20号証)、「ファッション/アパレル辞典(繊研新聞社)」(甲第21号証)、「新・田中千代 服飾辞典(同文書院)」(甲第22号証)、「THE FASHION DICTIONARY 新・実用服飾用語辞典(文化出版局)」(甲第23号証)、「新ファッションビジネス基礎用語辞典(チャネラー)」(甲第24号証)、「増補新版図解服飾用語辞典(杉野学園/ドレスメーカー学院出版局)」(甲第25号証)、にも「マッキントッシュ」「Macintosh」は、「ゴム引き防水布またはこれを用いて作った雨外套(がいとう)」の事と記載されている。
ウ 特許庁の見解について
請求人の登録出願した商願2007-046815号、アルファベットで「MACKINTOSH」「OF IRELAND」と二段に横書きし、下段に、王冠を戴いた盾の中に獅子を描いた図形と「BY FRANCIS CAMPELLI」と横書して構成された商標出願に対する拒絶理由通知書(甲第26号証)において、「この商標登録出願に係る商標は、その構成文字中に『ゴム引き布防水雨外套』を意味する『MACKINTOSH』及び当該商品が『アイルランド製の商品』あることを直感させる『IRELAND』の各文字を有してなるものですから、これをその指定商品中『アイルランド製のゴム引き布防水雨外套』以外の商品に使用した場合には、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められる。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。」としてこの出願を拒絶している。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第16号について
本号は、商標登録出願に係る商標の不登録事由の一つとして、商品の品質について誤認を生ずる虞のある商標は登録できない旨を定めたものである。
本号は、商標登録出願の拒絶理由及び登録異議申立理由並びに登録無効理由でもあり(商標法第15条第1号第43条の2第l号、第46条第1項第1号)、公益保護規定と位置づけられて無効審判の請求には除斥期間がなく(商標法第47条)、また、平成8年改正以前の商標法下では商標権存続期間の更新登録出願の拒絶理由及び更新登録の無効理由でもあったことから判るように、商標法の目的の一つである公益観点から需要者保護を目的とする規定である。
特許庁の実務として、本号に該当する商標は、出願商標が全体として指定商品の普通名称または品質等を表示として自他識別性を欠き、かつ、その指定商品以外の商品について使用すると品質の誤認のおそれのあるものは本号に該当するとしている。
商品の品質とは、商品の種類を表わす普通名称のみならず、産地・原材料・品質・用途・生産方法・加工方法・使用方法等も該当する場合がある。
本件商標は、その構成中に「ゴム引き防水布で作ったレインコート」を意味する「MACKINTOSH」及び当該商品が「スコットランド製の商品」であることを直感させる「Scotland」の各文字を有してなるものである。
これをその指定商品中「スコットランド製のゴム引き防水布で作ったレインコート」以外の商品に使用した場合には、特許庁の審査基準によれば、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められるものである。
単にスコットランドの文字を含む場合において、指定商品を「イギリス製の」と表現することは特許庁の審査実務に適合しているとの主張は見当はずれであり、「MACKINTOSH」は「ゴム引き防水布で作ったレインコート」を意味することは先の審査官の拒絶理由(甲第26号証)でも明らかなので、指定商品を「スコットランド製のゴム引き防水布で作ったレインコート」と指定すべきである。
指定商品を「スコットランド製のゴム引き防水布で作ったレインコート」以外の商品「イギリス製のジャケット、イギリス製のその他の洋服、イギリス製のコート、イギリス製の雨着、イギリス製の帽子、その他のイギリス製の被服、イギリス製のズボンつり、イギリス製のバンド、イギリス製のベルト、イギリス製の靴類、その他のイギリス製の履物、イギリス製の運動用特殊衣服、イギリス製の運動用特殊靴」を指定した本件商標は、「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」となり、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号により無効とすべきである。
(2)商標法第3条第1項第1号について
商標法第3条第1項第1号は商品又は役務の普通名称についての規定である。
商品「時計」について「時計」、役務「航空機による輸送」について「空輸」等がこれに該当する。なお、普通名称とは、取引界においてその名称が特定の業務を営む者から流出した商品又は特定の業務を営む者から提供された役務を指称するのではなく、その商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているものをいうのである。しかし、一般の消費者等が特定の名称をその商品又は役務の一般的名称であると意識しても普通名称ではない。
「問題は特定の業界内の意識の問題」であり、それ故に、例えば、ある商標が極めて有名となって、それが一般人の意識ではその商品の普通名称だと意識され、通常の小売段階での商品購入にその商品の一般的名称として使われても、それだけではその商標は普通名称化したとはいえないのである。つまり、取引界において特定の業務に係る商品又は役務であることが意識されないようになった名称をその商品又は役務について使っても出所表示機能あるいは自他商品または自他役務の識別力がないことは明らかであるから、これを不登録理由として掲げたのである。
したがって、被請求人が電話聞取調査の結果、「MACKINTOSH」が「ゴム引き布防水雨外套」と回答したものはいなかったという報告は特許庁の普通名称の審査基準から無意味なアンケートである。
(3)甲第26号証に示すように、アルファベットで「MACKINTOSH」「OF IRELAND」と二段書きした商標を、その構成中に「ゴム引き布防水雨外套」を意味する「MACKINTOSH」及び当該商品が「アイルランド製の商品」であることを直感させる「IRELAND」の各文字を有してなるものであるから、これをその指定商品中「アイルランド製のゴム引き布防水雨外套」以外の商品に使用した場合には、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められる。としてこの商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。と特許庁は審査基準に従いこの出願を拒絶している。
(4)「MACKINTOSH」の普通名詞について
請求人は既に、広く一般人が参考にする英語のデイリーコンサイス英和辞典、現代英和辞典、新英和中辞典、スーパー・アンカー英和辞典、ワードパル英和辞典、 Webster’s Third New Internationa1 Dictionary、エッセンシャル英和辞典、及び日本語の広辞苑、朝日現代用語・知恵蔵、現代用語の基礎知識2007年版、国語大辞典言泉GENSEN、日本語になった外国語辞典、コンサイス・カタカナ語辞典、電子辞書ジーニアス英和辞典、電子辞書スーパー大辞林並びにファッション関連業者が参考にする、ファッション辞典 FASHION DICTIONARY、ファッション・アパレル辞典、新・田中千代服飾辞典、 THE FASHION DICTIONARY 新・実用服飾用語辞典、新ファッションビジネス基礎用語辞典、増補 新版図解服飾用語辞典、誰でもアクセスできるインターネット検索サイトGoogle、インターネットで検索できる Savile Row C1ub,服飾評論家の著書「英國紳士はお洒落だ」に、「マッキントッシュ」「Mackintosh」又は「mackintosh」は、「レインコートの一種、またそれに使用される布地(マッキントッシュ・クロス)のこと。織物の裏にゴムを引き、綿布を貼り合わせてある。加工法の考案者チャールズ・マッキントッシュ」また「ゴム引き防水布で作ったレインコート」の事と記載されていることを甲第3号証ないし甲第25号証で明らかにした。
(5)これら日本語辞典・カタカナ語辞典・英和辞典・英英辞典・ファッション辞典は英語圏で出版されたものではなく、日本語圏である我が国において出版され、販売されている辞典類である。被請求人は大辞林(乙第2号証)を提出して「MACKINTOSH」の語の記載がないと主張しているが、請求人が提出した電子辞書スーパー大辞林(甲第19号証)には記載がある。
したがって、結局被請求人が提出した「MACKINTOSH」の語の記載のない辞典は、岩波国語辞典(乙第3号証)、新明解国語辞典(乙第4号証)、新潮国語辞典(乙第5号証)の3冊だけで、数ある辞典のなかで80%以上の辞典は「マッキントッシュ」「Mackintosh」又は「mackintosh」は、「レインコートの一種、またそれに使用される布地(マッキントッシュ・クロス)のこと。織物の裏にゴムを引き、綿布を貼り合わせてある。加工法の考案者チャールズ・マッキントッシュ」また「ゴム引き防水布で作ったレインコート」の事と記載している。
これら辞典類は、本件商標の登録査定時に日本において出版され、広く一般人はもとより当業者も参考にできたことは明らかである。
(6)イギリスの小説「回想のシャーロック・ホームズ」の日本語訳書において「MACKINTOSH」を「雨外套」と翻訳したのは、日本語の辞書には「MACKINTOSH」を「雨外套」又は「レインコート」の一種と記載しているので、当然日本人は「MACKINTOSH」は「雨外套」又は「レインコート」の事と認識したことは明らかである。
現在でも、インターネット検索サイトのGoogleの検索結果では、「マッキントッシュ」「Mackintosh」又は「mackintosh」は、「レインコートの一種、またそれに使用される布地(マッキントッシュ・クロス)のこと。織物の裏にゴムを引き、綿布を貼り合わせてある。加工法の考案者チャールズ・マッキントッシュ」また「ゴム引き防水布で作ったレインコート」の事と記載しているので、拒絶理由を発行した審査官はもとより、通常の日本人は「マッキントッシュ」「Mackintosh」又は「mackintosh」の意味を充分認識する状態にある。
3 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第61号証を提出した。
1 利害関係について
請求人の主張するように、被請求人は請求人に対し、本件商標に基づいて侵害警告を行なった。したがって、被請求人は、利害関係の有無については争わない。
2 本件商標が商標法第4条第1項第16号及び同法第46条第1項第1号に該当しないことについて
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効にすべきであると主張しているが、請求人の主張は何ら根拠のないものであり、被請求人は以下のとおり答弁する。
なお、請求人の主張を分析すると、請求人は本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当する根拠として、(a)本件商標中に含まれる「MACKINTOSH」の語との関係で、本件商標を商品「ゴム引き防水布で作ったレインコート」以外の指定商品について使用した場合に品質誤認を生ずるおそれがある、(b)本件商標中の「Scotland」の語との関係で、本件商標を「スコットランド製の商品」以外の指定商品について使用した場合に、生産地等について品質の誤認を生ずるおそれがある、と主張していると解されるので、それぞれについて答弁する。
(1)「MACKINTOSH」の語との関係について
ア 辞書・辞典等の記載について
請求人は、「MACKINTOSH」の語が「ゴム引き防水布で作られたレインコート」の普通名称に該当するとの主張の主要な根拠として、いくつかの日本語・カタカナ語・英和の辞書・辞典及びファッション辞典等を証拠として提出している(甲第3号証ないし甲第25号証)。
しかしながら、普通名称とは、「取引界においてその名称がその商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているものをいう」とされるところ(乙第1号証)、辞書・辞典等で普通名称であるかのように記載されているという事実だけでは足りないというべきである。
この点については、後に詳述する商標権侵害差止請求訴訟において、「辞書、事典の記載をもって、我が国においても『マッキントッシュ』や『mackintosh』の語が一般的に『ゴム引き防水布地製の防水レインコート』の意味で用いられていると認めることはできない」と判示され、また控訴審でも同様の判断がされているのであって、既に裁判で決着がついているのである。
請求人が提出した証拠(甲第3号証ないし甲第19号証)によれば、確かに、辞書・辞典等の一部には、「MACKINTOSH」の語が「ゴム引き防水布で作ったレインコート」を意味するように記載するものもある。
しかしながら、これらの記載は、あくまでも英語圏(特にイギリス)での言語認識を紹介するにすぎず、日本国内で「MACKINTOSH」の語が「ゴム引き防水布で作られたレインコート」の意味で用いられていることを何ら裏付けるものではない。
すなわち、「MACKINTOSH」商標と「ゴム引き防水布で作られたレインコート」の結びつきは、1822年にスコットランドのチャールズ・マッキントッシュが発明した「ゴム引きの防水布」を使用した「ゴム引きレインコート」に由来するものであるが、この「ゴム引きレインコート」が当時の防水コートとしては革新的なものであったがために、英語圏の国々の一部(特にイギリス)において、「MACKINTOSH」の語が「ゴム引きレインコート」の一般名称のように取り扱われたことがあった。
これは、「ゴム引きレインコート」が先駆的商品であったが故の、需要者・取引者の誤解によるものであり、またあくまでもイギリス国内での歴史的事情に基づくもので、決して我が国の言語事情を反映したものではない。そして、一度辞書等に掲載された単語は、よほどのことがない限り削除されることはないから、このような辞書等の記載は、我が国の状況とそぐわないまま放置されているにすぎないし、広辞苑と並ぶ大型辞書として定評のある「大辞林」(乙第2号証)や、普及版である小型の一般的な国語辞典「岩波国語辞典第四版」(乙第3号証)、「新明解国語辞典 第四版」(乙第4号証)、「新装改訂 新潮国語辞典」(乙第5号証)のように、「MACKINTOSH」の語がかかる商品の名称であるとの記載がないものも存在する。
一方、請求人は、服飾業界の業界人が参考にしているファッション辞典(甲第20号証ないし甲第25号証)も証拠として提出しているが、これらファッション辞典は、主として海外から発信されたファッション情報を原語で読み解くために用いられるものであって、我が国の業界人ですら通常は用いないような用語も多数掲載されている。したがって、ファッション辞典に掲載されているからといって、服飾業界において「MACKINTOSH」の語が「ゴム引き防水布で作られたレインコート」の意味をもって使用されているわけでない。
以上、辞書・事典等の記載のみでは、普通名称であるとの主張の根拠として十分ではないし、さらに、全てのものに普通名称であると記載されている訳ではないから、かかる証拠に基づく「『MACKINTOSH』が商品『レインコート』、特に『ゴム引き防水布で作ったレインコート』を示す技術用語であり、普通名称である」との請求人の主張は失当である。
イ 「MACKINTOSH」の語に関する需要者・取引者の認識
請求人は、「MACKINTOSH」の語が商品「ゴム引き防水布で作ったレインコート」を意味するものであり、また普通名称であるとして、本件商標が商品の品質誤認を生ずると主張している。
しかしながら、普通名称とは、「取引界においてその名称がその商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているか否か」で判断されるべきであるところ、本件商標の査定時において、「MACKINTOSH」の語が日本国内の需要者・取引者の間で、商品「ゴム引き防水布で作ったレインコート」の一般的な名称であると認識されていた事実はない。
この点については、後に詳述する商標権侵害差止請求訴訟において、「今日の標準的な日本人の国語的な意味において、『マッキントッシュ』の語が、ゴム引き布地又はゴム引き布地製コートとして、認識されているとは認められることができない」と判示されており、また控訴審でも同様の判断がされているのであって、既に裁判において決着がついているところである。
そもそも、本件商標は、コートの襟ネーム等において、明らかに識別力を有する商標として使用されているのであって、品質誤認を生じることはあり得ない(乙第6号証及び乙第7号証)。加えて、本件商標を付した商品は、日本においては1988年から販売が開始され、現在では八木通商株式会社を正規代理店として輸入・販売されているが、2007年3月期の「MACKINTOSH」商標に係る製品の売上高は、卸価格で約10億円を計上するまでに至っている。このように売上高を拡大できたのは、本件商標が本質的・生来的に「品質誤認を生ずるおそれのない、識別力ある商標」として機能するからに他ならない。したがって、本件商標のかかる使用態様・使用実績に鑑みても、本件商標が商品の品質誤認を生ずるおそれはない。
(ア)ファッション雑誌の記事
本件商標は、登録査定時より一貫して「品質誤認を生ずるおそれのない、識別力ある商標」として使用され、また認識されている。一般には「MACKINTOSH(マッキントッシュ)」と称呼されているが、本件商標の登録査定時に近い1999年?2000年においても、「MACKINTOSH」の語はファッション雑誌において、被請求人の「商標」として紹介・掲載されており、決して、「ゴム引き防水布で作られたコート」を意味する語として用いられていた訳ではない(乙第6号証及び乙第8号証ないし乙第13号証)。
また、最近1年間(2007年5月以降)においても、引き続き「商標」として紹介・掲載されている(乙第14号証ないし乙第41号証)。いずれの雑誌においても、「MACKINOTSH」の語は、商品写真とともに、通常はその商品のブランド名が記載される位置に記載されている。
例えば、これらの雑誌には次のように記載がある。
・「MEN‘S CLUB 7月号」(乙第15号証)
「あのコートの名ブランドからも大人ポロ」
・「Rea1 Design 8月号」(乙第17号証)
「英国を代表するアウターウェアブランド『マッキントッシュ』」
・「MISS 11月号」(乙第27号証)
「初の防水布を生み出した、英国ブランド、マッキントッシュ」
・「MEN‘S CLUB 11月号」(乙第28号証)
「英国の老舗マッキントッシュ」
さらに、最近においても、「MEN‘S EX 6月号」(乙第41号)において、「MACKINTOSH」は、「今、注目のブランドBEST150」という特集記事の中で紹介されている。
仮に、請求人が主張するように、「MACKINTOSH」の語が「ゴム引き防水布で作られたレインコート」の意味で認識されているのであれば、「Begin 9月号」(乙第20号証)の「『MACKINOTSH』の『ゴム引きコ一ト』」という表現はそもそもおかしいものとなるし、「MEN‘S CLUB7月号」(乙第15号証)のように、「MACKINTOSH」の下に「ポロシャツ」が紹介されることは考えられない。
以上より、「MACKINTOSH」の語は、「ゴム引き防水布で作られたコート」を意味するものとして認識されていた事実はなく、逆に、本件商標は「識別力ある商標」として今日まで信用を蓄積してきているのである。
(イ)インターネットの記載
乙第42号証ないし乙第49号証は、インターネット通信販売業者のウェブサイト(写)である。いずれも、通常は商標が表示される位置に「MACKINTOSH」と記載されている。例えば、通信販売サイト「UKism」(乙第42号証)、「BRANDKUN」(乙第44号証)では、ウェブページ中の「ブランド名」が列記されている箇所に「マッキントッシュ」が記載されているし、その他のサイトにおいても、「マッキントッシュ」はブランド名として紹介されている。
このように、現在の流通過程においても、「MACKINTOSH」の語が「ゴム引き防水布で作られたコート」の意味として用いられていないのは、本件商標が本質的・生来的に「品質誤認を生ずるおそれのない、識別力ある商標」として機能するからに他ならない。したがって、「MACKINTOSH」は登録査定時において、「ゴム引き防水布で作られたコート」を意味する語として認識されていたとはいえない。
(ウ)電話聞取調査の結果について
乙第50号証は、被請求人が2007年8月に、マーケティングリサーチ業者(株式会社アーキテクト)を通じて、当該業者が無作為に抽出した20代・30代・40代・50代の男女各20名ずつ、計160人を対象に実施した、電話聞取調査の報告書である。この調査は、一般的な成人向けコートの需要者の間で、「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」の語が、「ゴム引き防水布地」または「ゴム引き防水布地製の防水コート」の普通名称として浸透しているか否かを調査するために行われた。
当該調査は、被請求人の代理人によって実施されたが、調査の中立性を保つため、当該業者には、被請求人が「マッキントッシュ(MACKINTOSH)の語が普通名称である」という主張を肯定する側であるのか、あるいは否定する側であるのかについての情報は、一切与えてはいない。また、調査方法は、調査対象者が辞書やインターネット等を参照して回答することを防止するため、電話により即答する方式が採用された。さらに、調査対象者が特定の回答をするように誘導されることがないように、選択型の質問と非選択型の質問を組み合わせて段階的に質問する形式とした。
結果によれば、「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」の語が「ゴム引き防水布地」又は「ゴム引き防水布地製の防水コート」の普通名称であると回答した者はいなかった。最も近い回答で、「コート」(30代の男性1名と40代の女性1名が回答)、「イギリスの洋服。背広のようなカチッとしたもの」(50代の男性1名が回答)である。
この調査は最近行ったものではあるが、日本人の言語認識が10年程度の短い間に大きく変化することは極めて稀であるし、調査対象者が過去に一度記憶した「普通名称」としての意味を容易に忘れてしまうとも考えにくい。
したがって、かかる電話聞取調査の結果を見ても、本件商標の登録査定時において、「MACKINTOSH」の語が「ゴム引き防水布で作られたレインコート」の意味で認識されていたとはいえない。
(エ)一般書籍における記載
イギリスの小説「回想のシャーロック・ホームズ」の訳書(1960年初版発行)(乙第51号証)及びその原文(乙第52号証)を比較すると、原文の「mackitosh」の語が、「雨外套」と翻訳されている(原書で「mackitosh」が用いられているのは、前述したように、あくまでもイギリスでの言語認識によるものである)。
仮に、請求人が主張するように、我が国において「MACKINTOSH」の語が「ゴム引き防水布で作ったレインコート」の普通名称として認識されているのであれば、「回想のシャーロック・ホームズ」の原文「he pul1ed on his large mackintosh」との表現は、「彼は大きなマッキントッシュに身をつつんで出て行ってしまった。」と翻訳されていたはずである。しかしながら、訳書において「彼は大きな雨外套に身をつつんで出て行ってしまった」と翻訳されているのは、通常の日本人には「マッキントッシュ」の意味が知られていないからである。
また、イギリスの童話「ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし」の訳書(1983年初版発行)(乙第53号証)及びその原文(乙第54号証)を比較しても、原文の「mackintosh」は「あまがっぱ」と翻訳されている。
これらの書籍は、本件商標の登録査定時において、日本国内に流通していたものであるから、かかる記載をみても「マッキントッシュ」の語が「ゴム引き防水布で作ったレインコート」の意味で認識されていたとはいえない。
ウ 特許庁の見解について
請求人は、商標「MACKINTOSH OF IRELAND BY FLANCIS CAMPELLI」(商願2007-046815号)に対する拒絶理由通知書(甲第26号証)における審査官の判断を「特許庁の見解」として、本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当すると主張している。
しかしながら、下記のように、審査官の「MACKINTOSH」の語に関する認識は一定しておらず、拒絶理由通知書における審査官の判断は審査における一時的・中間的な判断にすぎない。
(ア)同拒絶理由通知書においては、審査官は、商標法第4条第1項第16号に基づく理由1において、「MACKINTOSH」の語に識別力がないかのように認定している。
しかしながら、審査官は同時に、商標法第4条第1項第11号に基づく理由2において、本件商標を、類似する先行登録商標として挙げているのである。出願商標と本件商標との間で共通する要素が「MACKINTOSH」の語であることを考えると、審査官は、理由2においては「MACKINTOSH」の語を識別力ある要部であると認定しているわけであり、審査官の「MACKINTOSH」の語に関する認識は矛盾しているといえる。
(イ)同様に「MACKINTOSH」の語を一部に含む、被請求人の他の商標登録 「MACKINTOSH/PHILOSOPHY」(登録番号第5024210号)(乙第55号証)の審査過程においては、商標法第4条第1項第16号に該当するとの拒絶理由通知は発せらず(乙第56号証)、その後登録になっている。
このような審査官の判断の不一致を見ても、請求人が提出した拒絶理由通知書(甲第26号証)はあくまでも特許庁の一時的・中間的な判断であることは明らかであって、特許庁による確定した判断ではない。
また、そもそも、この拒絶理由通知は最近のものであって、本件商標の登録査定時の特許庁の見解を示すものでもない。
以上、請求人が、かかる判断をただちに特許庁の最終的・絶対的な見解であるかのように主張するのは失当である。
エ 関連する侵害訴訟について
被請求人が知りうる限り、「MACKINTOSH」商標を用いてコート類を販売してきた業者は被請求人以外になかったところ、近年になって、被請求人の本件商標と類似する商標「MACKINTOSH OF IRELAND BY FLANCIS CAMPELLI」なる商標を付したコートが輸入されて日本国内に出回るようになり、需要者の間で出所混同が生じるようになってきていた。
かかる事態を憂慮した被請求人は、輸入業者の中で最も大規模に輸入・販売を行っていた請求人らに対し、平成19年3月12日に、本件商標に基づき、東京地方裁判所に商標権侵害差止請求訴訟(平成19年(ワ)第6214号)を提起した。裁判では、被告らは「『MACKINTOSH』なる語は『ゴム引き布地又はゴム引き布地製コート』の普通名称であり要部とは成り得ないから、商標は非類似である」と主張していた。
これに対し、東京地方裁判所は、平成19年12月21日に言い渡した判決において、「普通名称の判断においては、辞書、事典その他の刊行物で普通名称であるかのように使用されているだけでは足りず、商品自体の名称として普及して使用された事実が認められることが必要である」とした上で、「我が国においては、英国におけるようにゴム引き防水コートが国内に広く普及したことを示す証拠は無く」、「今日の標準的な日本人の国語的な意味において、『マッキントッシュ』の語が、ゴム引き布地又はゴム引き布地製コートとして、認識されているとは認められることができない」と判示し、原告(被請求人)の請求を認容したのである(乙第57号証)。
この地裁判決に対し、被告(請求人)は知的財産高等裁判所に控訴したが(平成20年(ネ)第10014号)、平成20年6月24日に言い渡された知財高裁判決は東京地裁の判決を支持し、「MACKINTOSH」の部分に識別力を認め、控訴棄却となった(乙第58号証)。
本件審判において請求人が証拠として提出している証拠の大部分(甲第5号証ないし第8号証、甲第10号証ないし甲第12号証、甲第14号証ないし甲第17号証、甲第20号証ないし甲第26号証)は、上記侵害訴訟においても提出されて審理されており、また、本件審判請求で新たに提出された証拠はいずれも辞書の類にすぎず、何ら新しい事実を提示するものではない。
したがって、裁判所におけるほぼ同一の証拠に基づいた上記判決を尊重し、本件審判においても同様の判断がなされるべきである。
オ 以上のとおり、本件商標の登録査定時において、「MACKINTOSH」は「ゴム引き防水布で作ったレインコート」を意味する語であったとはいえない。したがって、本件商標を「ゴム引き防水布で作ったレインコート」以外の指定商品について使用したとしても、商品の品質誤認を生じることはないのであるから、請求人の主張は失当である。
(2)「Scot1and」の語との関係について
請求人の主張によれば、本件商標の指定商品は「イギリス製のジャケット」等となっているため、その指定商品中「スコットランド製の商品」以外の商品について使用した場合には、その商品の品質についての誤認を生じさせるおそれがあると主張する。すなわち、本件商標に含まれる「Scotland」の文字との関係で、「イギリス国内であってスコットランド以外の地域で生産された商品について本件商標を使用した場合には、品質誤認のおそれが生じるという趣旨であると理解する。
この点については、特許庁の審査で用いられている「商標審査便覧41.103.01『外国の地名等に関する商標』について」(乙第59号証)によれば、出願された商標が国家名、地名等を含む商標である場合には、「例えば、『シャンゼリーゼ』又は『フランス』などの文字を含むときは、商品については『フランス産(製)』のように補正させる」とある。したがって、商標中に「Scotland」の文字を含む場合において、指定商品を「イギリス製の○○」と表現することは特許庁の審査実務に適合したものである。
参考までに、イギリスの首都「ロンドン」の文字を一部に含む商標「Pepe Jeans LONDON」は、指定商品「イギリス製のジーンズパンツ」で登録が認められているし(乙第60号証)、また、米国の州名である「Califo1nia」の文字を一部に含む「Califo1nia/B★F★W」も、指定商品「アメリカ製の洋服」等の記載で登録が認められている(乙第61号証)。これらは、本件商標と同時期に登録査定がされたものであって、やはり上記審査実務に沿って登録されたものである。
以上のとおり、本件商標中の「Scotland」の部分について、指定商品との関係で品質誤認を生じるとはいえず、請求人の主張は失当である。
3 以上述べたとおり、本件商標が商標法第4条第1項第16号及び同法第46条第1項第1号に該当するという請求人の主張は失当であり、答弁の趣旨のとおりの審決を求める。

第4 当審の判断
1 利害関係について
請求人は、「MACKINTOSH of Ireland」なる商標を付したコートを輸入販売していたところ、被請求人より商標権侵害の警告書を受けた者である。
そして、請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、当審も、請求人は本件審判の請求人適格を有するものと判断するので、以下、本案に入って審理する。
2 商標法第4条第1項第16号について
(1)請求人は、「特許庁の実務として、商標法第4条第1項第16号に該当する商標とは、出願商標が全体として指定商品の普通名称または品質等を表示として自他識別性を欠き、かつ、その指定商品以外の商品について使用すると品質の誤認のおそれのあるものは本号に該当する。そして、商品の品質とは、商品の種類を表わす普通名称のみならず、産地・原材料品質・用途・生産方法・加工方法・使用方法等も該当する場合がある。
本件商標は、その構成中に『ゴム引き防水布で作ったレインコート』を意味する『MACKINTOSH』及び当該商品が『スコットランド製の商品』であることを直感させる『Scotland』の各文字を有してなるものである。
これをその指定商品中『スコットランド製のゴム引き防水布で作ったレインコート』以外の商品に使用した場合には、特許庁の審査基準によれば、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められるものである。
単に、『スコットランド』の文字を含む場合において、指定商品を『イギリス製の』と表現することが特許庁の審査実務に適合しているとの主張は見当はずれであり、指定商品を『スコットランド製の』と指定すべきであって、指定商品を『スコットランド製のゴム引き防水布で作ったレインコート』以外の商品である『イギリス製の』と表現した本件商標は、『商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標』となる。」旨主張し、本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当するとしている。
(2)「MACKINTOSH」の語について
そこで、先ず「MACKINTOSH」の語が普通名称であるか否かについて、以下検討する。
ア 商標法第3条第1項第1号普通名称について、「工業所有権逐条解説 第17版 特許庁編」によれば、「普通名称とは、取引界においてその名称が特定の業務を営む者から流出した商品又は特定の業務を営む者から提供された役務を指称するのではなく、その商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているものをいうのである。しかし、一般の消費者等が特定の名称をその商品又は役務の一般的名称であると意識しても普通名称ではない。問題は特定の業界内の意識の問題であり、それ故に、例えばある商標が極めて有名となって、それが一般人の意識ではその商品の普通の名称だと意識され、通常の小売段階での商品購入にその商品の一般名称として使われても、それだけではその商標は普通名称化したとはいえないのである。つまり、取引界において特定の業務に係る商品又は役務であることが意識されないようになった名称をその商品又は役務について使っても出所表示機能あるいは自他商品又は自他役務の識別力がないことは明らかであるから、これを不登録理由として掲げたのである。」(乙第1号証)と記載されている。
上記よりすれば、商標法上の普通名称とは、「取引界においてその名称がその商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているもの」と解すべきところであるから、「普通名称」は、取引界においてその商品の一般的な名称と認められていることが必要であり、また、その判断にあっては、辞書、事典その他の刊行物で普通名称であるかのように使用されているだけでは足りず、商品自体の名称として普及して使用された事実が認められることが必要である。
イ そこで、請求人の提出に係る証拠をみると、甲第3号証ないし甲第15号証による「英和辞典、国語辞典」等によれば、「mackintosh」又は「マッキントッシュ」は、例えば、「ゴム引き防水布;防水外とう」(甲第3号証)、「ゴム引き防水布;『英』レインコート,防水外套(mac(k)ともいう)」(甲第4号証)、「『英』マッキントッシュ,レインコート,防水加工した生地。」(甲第5号証)、「【mackintosh】(考案者名に因む)ゴム引き防水布製レーン・コート。転じてレーン・コートの別称。」(甲第10号証)、「[mackintosh](1)防水織布の一種.ゴム引き防水布.(2)(1)で作られたレーンコート.ゴム引き防水雨外とう.考案者のC.Mackintosh(1766-1843)の名にちなむ」(甲第15号証)と記載されている。
また、甲第20号証ないし甲第25号証による「ファッション関係の辞典」等によれば、「ゴム引き防水コート、およびゴム引き防水素材のこと、…英国ではレインコートと同義にもつかわれるが、現在では綿素材などに押され、本来のものはあまりみられない。」(甲第20号証)、「mackintosh 単に『マック』ともいう。英国で『レインコート』をいう。…スコットランドの化学者『チャールズ・マッキントッシュ Charles Macintosh(姓のスペルにはkがない)(1766?1843年)』が発明し、大ヒットしたことによる。…」(甲第21号証)、「[mackintosh]ゴム引防水布またはこれを用いてつくった雨外套(がいとう)のこと。…」(甲第22号証)、「マッキントッシュ[mackintosh]チャールズ・マッキントッシュが1823年に開発したゴム引きの布地,またはこの布地でで作られたレイン・コートをさす.英国では広くレイン・コートのことをさす,…」(甲第25号証)と記載されている。
以上の例のように、甲第3号証ないし甲第15号証、甲第20号証ないし甲第25号証についてみるに、これらはいずれも、辞書・事典の記載であって、「mackintosh」又は「マッキントッシュ」は、先ず考案者に因んで命名された名称であり、これらの辞書における意味を有するとしても、「取引界においてその名称がその商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているもの」とする根拠として十分とはいい難いものである。そして、実際の取引界において、商品自体の名称として普及して使用された事実を明らかにする証拠の提出はない。
ウ 次に、被請求人の提出に係る証拠をみると、乙第6号証及び乙第8号証ないし乙第13号証によると、本件商標の登録査定時に近い1999年1月から2000年10月の間において、別掲の「本件商標」、「マッキントッシュ」及び「MACKINTOSH」のいずれかの表示が商品「被服」の商標として紹介されている。
そして、乙第14号証ないし乙第41号証によると、最近1年間(2007年5月以降)においても、別掲の「本件商標」、「MACKINTOSH」及び「マッキントッシュ」のいずれかの表示が商品「被服」の商標として紹介されており、例えば、「英国を代表するアウターウェアブランド『マッキントッシュ』」(乙第17号証)、「初の防水布を生み出した、英国ブランド、マッキントッシュ。」(乙第27号証)の記載がある。
また、被請求人は、「本件商標を付した商品は、日本においては1988年から販売が開始され、現在では八木通商株式会社を正規代理店として輸入・販売されているが、2007年3月期の『MACKINTOSH』商標に係る製品の売上高は、卸価格で約10億円を計上するまでに至っている。」と述べている。
加えて、被請求人は、乙第50号証の「特定商標に関する電話調査 調査結果報告書」(作成日2007年8月20日)の結果として、「『マッキントッシュ(MACKINTOSH)』の語が『ゴム引き防水布地』または『ゴム引き防水布地製の防水コート』の普通名称であると回答した者はいなかった。最も近い回答で、『コート』(30代の男性1名と40代の女性1名が回答)、『イギリスの洋服。背広のようなカチッとしたもの』(50代の男性1名が回答)である。」と述べている。
エ 以上からすれば、「MACKINTOSH」とは、英国では、ゴム引き防水布地又は同布地製コートを意味する場合があり、我が国においても、辞書等において、英国における用例に倣った意味を掲載する例が存在する。
しかし、英国において「MACKINTOSH」が「ゴム引き防水布地又は同布地製コート」をも意味するようになったのは、その開発者である英国スコットランドのチャールズ・マッキントッシュ(Charles Macintosh。1766年?1843年)の名前に由来し、その製造に係るゴム引き防水布地製コートが、当時の英国において大ヒットし、「MACKINTOSH」の語が、その開発者の人名から転じて、ゴム引き防水布地又は同布地製コート一般を意味するようになったものである。ところが、ゴム引き防水布地製コート自体は、1900年代初期に登場した綿素材のコートに取って代わられるようになった。このような経緯に照らすと、英国においては、「MACKINTOSH」が、ゴム引き防水布地又は同布地製コート一般を意味するとしても、今日、我が国においては、そのような製品が幅広く取引の対象となることが想定されない以上、取引者、需要者の間で、一般的にそのような意味に用いられることは考え難いものである。
してみれば、「MACKINTOSH」及び「マッキントッシュ」の語は、本件商標の登録査定時に、「ゴム引き防水布で作られたレインコート」の意味で取引界においての商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているものとはいえないというのが相当である。
したがって、「MACKINTOSH」の語は、我が国において、本件商標の登録査定時に「ゴム引き防水布で作ったレインコート」の意味を有する普通名称とはいえないといわざるを得ない。
(3)本件商標中の「Scotland」の語について
本件商標中の「Scotland」の語は、「スコットランド【Scotland】:イギリス、グレート‐ブリテン島北部の地方。古くはカレドニアと称。1707年イングランドと合併。中心都市エディンバラ。」を意味するものであり、確かに「イギリス」、「英国」を直ちに表示するものではないといえる。
しかし、「イギリス」(英国)の語は、「イギリス(The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland):ヨーロッパ大陸の西方、大西洋上にある立憲連合王国。グレート‐ブリテン島・北アイルランドおよび付近の9百余の島々からなる。首都ロンドン。英国。」を意味する(ともに「広辞苑第五版」:株式会社岩波書店)ものであるところ、我が国においては、よく知られている国であって、通常、「スコットランド(Scotland)」が「イギリス(英国)」(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)の一部地域であることは容易に想起されるものであって、両者を明確に区別してイギリスとスコットランドとに分けて理解しているものではないというのが相当である。
そして、提出に係る証拠をみると、例えば、乙第32号証では、雑誌(47頁)の記事中に、本件商標が使用されたジャケットの裏地の織りネーム(「Made in Scotland」の文字を含む)について、「今の気分を反映した英国製のジャケット」の記載がある。乙第44号証では、ウェブページの「MACKINTOSH」の項目中に、「現在ではエルメス・ヴィトンの別注もこなす、英国(スコットランド)の伝統あるファクトリーブランドです。」の記載がある。
そうとすれば、本件商標の指定商品について、「イギリス製の商品」としていることが商標法第4条第1項第16号でいう「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」であるか否かという観点からすると、その構成中に「Scotland」の文字を有するからといって、「スコットランド製の商品」以外の商品について使用した場合にのみ、その商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるというよりは、むしろ、「イギリス製の商品」として使用した場合であっても、商品の品質の誤認を生じないものというべきであり、例えば、「イギリス製」「英国製」等の商品表示をもってすれば足りるといえるものであるから、本件商標は、本号でいう「商品の品質の誤認を生ずるおそれ」がないものというのが相当である。
(4)してみれば、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、その取引者、需要者をして、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるとはいえないものである。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)



審理終結日 2008-11-26 
結審通知日 2008-12-02 
審決日 2008-12-15 
出願番号 商願平6-122400 
審決分類 T 1 11・ 272- Y (025)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 箕輪 秀人 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 鈴木 修
井出 英一郎
登録日 1997-09-12 
登録番号 商標登録第4056857号(T4056857) 
商標の称呼 マッキントッシュメードインスコットランド、マッキントッシュ 
代理人 工藤 莞司 
代理人 若林 拡 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 浜田 廣士 
代理人 尾関 孝彰 
代理人 小暮 君平 
代理人 鰺坂 和浩 

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