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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Y03
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y03
管理番号 1190709 
審判番号 無効2007-890070 
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-05-31 
確定日 2008-12-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4809749号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4809749号商標(以下「本件商標」という。)は、「BETOX」及び「ベトックス」の文字を上下2段に横書きしてなり、平成16年2月4日に登録出願、第3類「せっけん類,化粧品,香料類,つけづめ,つけまつ毛」を指定商品として同16年10月15日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第70号証を提出している。
1 請求の理由
(1)証拠について
ア 甲第1号証は、本件商標の詳細を示すものである。
イ 甲第2号証ないし甲第50号証は、請求人の業務内容等及び商品「BOTOX」「ボトックス」に関する各種刊行物、新聞、雑誌、各種資料、登録証等であり、これらにより「BOTOX」「ボトックス」が請求人の著名な商標であることを証明する。
ウ 甲第51号証ないし甲第54号証は、「BETOX/ベトックス」に係る商品が、本件商標の商標権者である株式会社スカンジナビアにより販売されていること、及び、インターネットによる広告において、請求人の著名商標に係る商品と関係があるかの如き文言で当該商品が販売されていることを示すものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 請求人について
(ア)請求人である、「アラーガン インコーポレイテッド(A11ergan,Inc.)」(以下、「アラーガン社」ともいう。)は、医療用医薬品メーカーとして世界的に周知かつ著名な存在である。
請求人の歴史は、1948年に世界有数の製薬会社であった「スミスクライン ベックマン(SmithKline Beckman)」の子会社として設立されたことに始まる。
そして、1989年に、スミスクライン ベックマン社が「ビーチャム グループ(Beecham Group)」と合併して世界最大級の製薬グループ「スミスクライン ビーチャム ピーエルシー(SmithKline Beecham plc)」が設立された際に、株式分配により親会社から分離独立した(甲第2号証ないし甲第5号証)。
2002年には、コンタクトレンズ関連製品と眼科医療機器の製造・販売部門を分離し、「アドバンスド メディカル オプティクス インコーポレイテッド(Advanced Medical Optics,Inc.)」として分社した。
請求人は、スミスクライン ベックマン社の子会社当時から、神経や筋肉の障害治療用の薬品や眼科用薬品、眼鏡レンズ等に特化した事業を世界的規模で展開し、当該分野における主要企業の一角を占めるようになっていた。
分離独立した以降もその業績は順調に成長し、1989年度に8億700万米ドルだった売上高は、1996年度には11億4700万米ドルになり、2003年度には17億5500万米ドルに達している(甲第2号証、甲第3号証及び甲第6号証)。
アラーガン社の製品は100か国以上で販売され、33か国に子会社や関連会社をおき、また世界最高水準の研究施設を4か所に設け、世界中の顧客に商品を提供し続けている。
そして、請求人が現在製造・販売している商品は、神経や筋肉の障害の治療用薬品をはじめとした医療用薬品全般に及んでいることから、医療関係者だけでなく広く一般人をもその需要者としている。
このように、請求人は、世界的な規模で事業を展開する製薬企業であり、特に神経や筋肉の障害の治療用薬品及びその周辺・関連分野においては世界有数の規模を誇る存在となっており、世界中で広く一般にその存在を知悉されている。
(イ)我が国においても、1973年に参天製薬を通じて眼科用薬品及びコンタクトレンズ用品の販売を開始したが、その製品の優秀さから瞬く間にわが国の市場において有力な存在となり、わが国に進出してからわずか3年後の1976年に参天製薬との合弁企業である「参天アラガン株式会社」を設立するに至った。
その後も業績は順調に伸び続け、1985年には新たに「株式会社ハンフリー インスツルメンツ エス・ケー・ビー」をも設立し、1992年にはその社名を「アラガン株式会社」に変更した。
1996年にはアラガン株式会社が参天アラガン株式会社を統合して新たな「アラガン株式会社」となり、その業務の効率化を図ると共に一層の事業拡大を図った。
2002年には、アラーガン社がアドバンスド メディカル オプティクス インコーポレイテッド社を分社したことに伴って、コンタクトレンズ関連製品と眼科医療機器の製造・販売部門を「エイエムオー・ジャパン株式会社」として分社した(甲第7号証)。アラガン株式会社は医療用薬品の製造・販売企業としてわが国の当該市場において確固たる地位を築き、特に神経や筋肉の障害の治療用薬品及びその周辺・関連分野においては極めて重要な存在となった。
今日においては、請求人と事業提携した英国のグラクソ・スミスクライン社の関連会社であるグラクソ・スミスクライン株式会社が請求人製造の「A型ボツリヌス毒素治療薬」にかかる営業をアラガン株式会社から承継して、継続して販売している。
これらの事実に鑑みると、請求人の存在及びその商品は、我が国においても遅くとも1990年代初頭には一般の需要者・取引者の間で広く知られていたということができる。
イ 請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」について
(ア)請求人は、商品の改良や需要者の声に耳を傾けることを怠らず、常により良い商品の開発・販売を志向しており、そのような姿勢もまた、広く知られている。
そして、研究開発にも多額の投資を行っており、その開発力が極めて優秀であることも広く知られている。
特に、分社以前に手がけていた視力矯正等に関連する眼科関連薬品・製品は生活に深く密着し、需要者にとって必要性も高い分野であったことから、請求人の動向に寄せる一般の関心も高かった。
さらに、神経や筋肉の障害は、顔面麻痺等の症状にみられるように老若男女を問うことなく生じるものであり、その症状の大小はあるものの、我が国においても罹患している人はかなり多数存在している。
したがって、請求人が新たに発売する商品の動向は常に注視されており、新商品はいずれも発売と同時に医療関係者及び需要者の間に広く知れ渡っている。
1989年、アラーガン社は眼瞼の痙攣等の顔面痙攣症状を治療するための画期的な商品を開発し、アメリカ合衆国において承認を得た。
この商品は、ボツリヌス毒素を有効成分とする薬剤であり、直接注射して患部に投与するという方法で使用され、筋肉を弛緩することによって患部の痙攣状態を解くという効果をもたらすものであった(甲第8号証)。
そして、当該商品は、その有効成分の特異性もさることながら、何よりもその絶大な効果によって瞬く間に医療関係者の間に知れ渡っていった。
この商品の商品名として請求人が創作し採用したのが商標「BOTOX」である。
これは、ボツリヌス毒素(botulinum toxin)に由来するものであることを取り入れつつも、簡潔でかつ訴求性の高い商標として吟味を重ねた上に創造された、請求人による全くの造語であり、如何なる辞書等にも掲載されていない語である。
前述のとおり、「BOTOX」は、1989年にアメリカ合衆国で承認されて以来、世界各国で続々と承認されていき、1995年1月末迄に37か国で、現在では70か国以上で承認されるに至っている(甲第9号証及び甲第10号証)。
(イ)「BOTOX」はその絶大な効果により、発売開始と同時に大ヒット商品となり、アラーガン社の代表ブランドの一つとして位置付けられるようになり、その売上高が全体の売上高に占める割合も段々と高くなっていき、1996年には約6%であったものが、2003年には約31%を占めるまでになっている(甲第3号証及び甲第7号証)。
我が国においては、「BOTOX」は1995年2月に当時の厚生省により承認され、1997年4月15日から市場において販売が開始された。
甲第11号証が、「BOTOX」の全世界における1998年から2005年までの売上額及び我が国における1997年から2005年までの売上額である。
すなわち、本件商標の登録出願が行われた平成16年(2004年)の前年だけでも全世界での売上は5億6400万ドル、我が国での売上は36億3200万円にも上っているのである。
また、その使用医療機関や主要顧客も、全国各地の大学病院や総合病院等2500余りの施設に及んでいる(甲第12号証)。
さらに、「BOTOX」は、本来の眼瞼や顔面の痙攣、痙性斜頸等の治療に用いられるだけでなく、筋弛緩作用の応用によりしわやたるみの除去などの美容整形にも適応することが判明した。
その結果、一般の美容整形目的でも使用されるようになり、美容整形ブームとも相俟って一種の社会現象を巻き起こすまでに至り、それによって-層広く一般に、とりわけ女性に知悉された存在となった。
現に、アメリカ合衆国についてみると、2003年には全米でおよそ643万2000件行われた非外科手術的方法による美容整形のなかで、「BOTOX」が使用されたのはおよそ227万2000件に達しており、これは他を圧倒して非外科手術的方法による美容整形の第1位を占めている(甲第13号証)。
しかも、この件数は前年に比して約37%の伸び率を示しているのであり、今後なお一層「BOTOX」を使用した非外科手術的方法による美容整形の件数が増加することが予想されている(甲第13号証)。
(ウ)「BOTOX」「ボトックス」については、医療専門誌紙はもとより、一般の各種媒体でも取り上げられており、また、インターネットの検索によっても数多くのサイトが抽出される(甲第14号証ないし甲第23号証)。
インターネット上のサイトのほとんどは、請求人が直接開設するものではないが、その多数を占めている美容整形に関するサイトにおいては、「BOTOX」「ボトックス」のもたらす驚異的な効果について記載されている。
甲第24号証ないし甲第26号証は、現在我が国で「BOTOX」に係る商品の輸入販売を行っているグラクソ・スミスクライン株式会社の経営企画部長である本田昭彦氏が作成した「BOTOX」に係る商品の「新聞記事に基づく報告書」「新聞・雑誌以外の文献に基づく報告書」及び「雑誌記事に基づく報告書」である。
これらのいずれの媒体においても、「BOTOX」「ボトックス」が固有特定の商品名として摘示されており、また当然ながら記載される際には「ボトックス」が表音として普通に使用されている。
(エ)以上のような請求人の精力的な企業活動及び努力の結果、さらには商品の優秀性により、「BOTOX」「ボトックス」の語は、請求人の商標として、本件商標の登録出願日である平成16年2月4日のはるか以前から我が国はもとより世界中で、米国アラガン社が製造し、アラガン株式会社ないしグラクソ・スミスクライン株式会社が日本で輸入販売している医療用ないし美容外科用医薬品の商標として、全国各地の需要者・取引者を始め広く一般人の間に知悉された、極めて周知かつ著名なものとなっていたことは明らかである。
しかも、「BOTOX」「ボトックス」は上述のとおり完全な造語であり、請求人の製造・販売に係る商品を指称する以外に使用されることのない語であるから、これが商品や役務に使用された場合、「BOTOX」「ボトックス」は極めて強い指標力で請求人との関連を表示する。
したがって、ある商品に「BOTOX」「ボトックス」の語が使用されている場合、現実の商品流通・取引の場で需要者あるいは取引者として「BOTOX」の語に接する者は誰でも、それを請求人の商標であると認識するのであり、それ以外の認識を生じる余地はない。
(オ)さらに、他の異議申立事件(異議2004-90287号)においても、請求人の「BOTOX/ボトックス」は、請求人の取り扱いに係る「眼瞼痙攣治療薬」を表示するものとしてその異議申立事件にかかる商標の登録出願日(平成15年7月10日)にはその需要者に広く認識されていた旨が認定されている(甲第27号証)。
(カ)また、他者が出願した商標登録出願(商願2006-1861号)について、その商標登録出願に対する拒絶理由通知の中で、請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」は、請求人の商品「神経筋治療薬」等に使用して広く一般に知られている旨が述べられ、これを根拠として当該商標は商標法第4条第1項第15号に該当するとして拒絶されている(甲第28号証ないし甲第30号証)。
ウ 本件商標について
本件商標は前述の構成からなるから、これから「ベトックス」の称呼が生じることは明らかである。
エ 本件商標と請求人の商標「BOTOX/ボトックス」の類似性
(ア)外観における類似性
本件商標を構成する英文字部分及び請求人の著名商標「BOTOX」及びそれぞれの片仮名文字部分を対比すると、本件商標の上段の英文字は著名な請求人の商標「BOTOX」と第2文字が異なるだけで第1文字の「B」と第3文字目から第5文字までの「TOX」を共通にする。さらに、下段の片仮名文字は第1文字の「べ」と「ボ」が相違するが、第2文字から第5文字までの「トックス」までを共通にする。すなわち、本件商標は、英文字部分及び片仮名文字部分の両者とも、5文字中4文字までを請求人の著名商標と共通にする極めて近似するものである。
しかも、「BOTOX」「ボトックス」は請求人が創造した造語であるから、他に存在しない言葉であり、これを構成する文字の種類及び文字の配列においても極めて強い指標力を有する言葉である。その結果、5文字中4文字までを共通にするこれらの商標に接する需要者、取引者は、わずか「O」と「E」、「ボ」と「べ」が相違する程度では、その違いを直ちに認識することはできないから、両者を外観上混同する可能性は極めて高い。
さらに、後述するように、本件商標が使用される商品は、請求人の著名商標が使用されている商品と近似した目的の商品であることから、時と所を変えて本件商標に接する者は、商標の構成においても請求人の著名商標と関連付けて認識し、本件商標を請求人の著名商標である「BOTOX」「ボトックス」であると外観上誤認することは疑いない。
よって、本件商標と請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」は外観上類似する商標である。
(イ)称呼における類似性
本件商標から生じる称呼「ベトックス」と請求人の著名商標「BOTOX」から生じる称呼を比較すると、両者の差異は語頭音の「べ」と「ボ」に過ぎないから、両称呼は極めて近似した称呼である。
すなわち、「べ」と「ボ」は、母音において「エ」と「オ」の相違はあるものの、共に「バ」行に属する音である。さらに、これらは「ハ」行の音の濁音であるから、極めて近似した音質を有するものである。また、「ベトックス」及び「ボトックス」は共に第2音の「ト」が促音「ッ」を伴っていることから、第2音の「トッ」が両称呼中で最も強く発音されるから、「トッ」が特に聴者の印象に残る。さらに、第2音「トッ」が特に強く発音されることから、両称呼は抑揚をもって発音され、特に「トックス」が聴者の印象に残る。したがって、両称呼は共に同じ語調、語感を有するものである。しかも、両称呼は、「トックス」まで全く共通にしており、また英文字では「E」と「O」の差にすぎない。
しかも、「BOTOX」「ボトックス」は請求人が創造した造語であるから、他に存在しない言葉であり、その称呼である「ボトックス」は、その語調、語感においても極めて強い指標力を有する称呼である。その結果、5音中4音までを共通にし、しかもその相違音も子音を共通にし、さらに両者の語調、語感も共通する。したがって、これらの称呼に接する需要者、取引者は、わずか1音のみの違い程度では、その違いを直ちに認識することはできないから、両者を称呼上混同する可能性は極めて高いというべきである。
さらに、後述するように、本件商標が使用される商品は、請求人の著名商標が使用されている商品と近似した目的の商品であることから、時と所を変えて本件商標に接する者は、商標の構成においても請求人の著名商標と関連付けて認識し、本件商標を請求人の著名商標である「BOTOX」「ボトックス」であると称呼上誤認することは疑いない。
以上のような、両称呼の微少な差異とその一方での共通性の高さ、「BOTOX」「ボトックス」が請求人の創造した他に存在しない造語であること、及びその著名性に鑑みると、本件商標から生じる称呼「ベトックス」と、請求人の著名商標から自然に生じる称呼「ボトックス」を、聴者において明確に聴別して認識することは極めて困難というべきである。したがって、本件商標は請求人の周知、著名な商標「BOTOX」「ボトックス」と類似する商標である。
したがって、本件商標に接する一般の需要者及び取引者は、それを請求人の著名商標「BOTOX/ボトックス」と称呼において混同して認識するものであるから、これらの商標は称呼上類似するか、極めて近似した称呼を生じる商標である。
(ウ)さらに既述のとおり、「BOTOX」は請求人の著名な商標であるから、本件商標に接する一般の需要者及び取引者は、そこから容易に、かつほぼ確実に、わが国はもとより世界において周知著名で強い自他商品の識別力を有する請求人の商標である「BOTOX」を認識する。
現実にも、本件商標権者の製造に係る前記商品のインターネットにおける広告において「BETOX」の商品広告において、かつては、「BETOX-Menu」「ボトックスってなに」「世界中で定番になっている美容外科でのシワ治療「ボトックス」…、この治療法と同様の効果を、ただ塗るだけで……、それがベトックスです」、「自宅でできるシワ消しボトックス」、等の文句で、現在では「話題の塗るボトックス注射成分を2種類W(ダブル)配合」等の文句で商品を宣伝広告している。このように、本件商標の商品は、現実にも請求人の商標と関連付け、あたかも「BOTOX」と関係があるかのような方法で宣伝広告がされているのである(甲第51号証ないし甲第54号証)。
したがって、本件商標は、請求人の使用する著名商標である「BOTOX」と何らかの関連性を持って認識されることが不可避のものである。
(エ)そして、請求人の製造・販売に係る商品の需要者層は、前述のとおり神経や筋肉の障害が老若男女を問うことなく生じるものであることから、極めて幅広く、医療関係者等のみに限定されることはない。
また、「BOTOX」商標を付した商品は美容整形の分野においても一大ヒット商品となっており、当該分野の需要者及びそれに関心を寄せる層は、近年の「プチ整形」ブームに端的に現れているように、いまや一部の女性に限らず、性別・年齢を問わなくなっている。
さらに、請求人の商品に関する宣伝広告は、一般の各種媒体を通じて展開され、生活の各場面でそれらに接する機会は数限りない。
特に、本件商標の指定商品は「化粧品」等であるところ、これらの商品はまさしく「BOTOX」商標を付した商品と近似した商品である。しかも、現実にも本件商標の使用に係る商品は「美容液」として販売されており、当該商品は「目の周囲に塗布して使用する美容液」であり、化粧品と薬剤の違いはあっても用途は同じである。したがって、本件商標の指定商品の需要者層は、全て請求人の需要者と重なり合い包含されている。
以上の実情を勘案すると、本件商標と請求人の著名商標「BOTOX」が一般の需要者・取引者において混同して認識される可能性が極めて高いことは、合理的かつ明白な事実というべきである。
さらに、前述したように、本件商標の使用に係る商品の宣伝文句には「BETOX-Menu」「ボトックスってなに」「世界中で定番になっている美容外科でのシワ治療「ボトックス」…、この治療法と同様の効果を、ただ塗るだけで……、それがベトックスです」、「自宅でできるシワ消しボトックス」、「話題の塗るボトックス注射成分を2種類W(ダブル)配合」と述べられ、その結果、これに接する者は、「注射をすることなく、目元に塗るだけで目元のシワを消すことができる新しいタイプのボトックス」といったように認識することは明らかである。言い換えれば、本件商標の商標権者は、請求人の著名商標「BOTOX」「ボトックス」の有する顧客吸引力を不当に利用して、利益をあげようとしていることは疑いない。
(オ)請求人は自己のブランドイメージを維持し、より一層の発展をさせるため、世界中で展開するあらゆる事業においてその製造に係る商品について厳重な品質管理を行っている。
すなわち、商標「BOTOX」は、請求人に係る商品を表示するものとして、わが国はもとより世界中で一般の需要者・取引者の間に広く認識されている著名商標であり、請求人の提供する商品に係る絶大な信用が化体した重要な財産である。
現に、請求人は「BOTOX」からなる商標を世界各国で出願し、160件を超える登録を得ている。甲第31号証はその一覧を示し、甲第32号証ないし甲第50号証はその一部の登録証等である。
したがって、万が一、本件商標の登録が維持されると、請求人と何ら関係のない者により、請求人の意図と無関係に、請求人が現にその商標を付して使用している商品とその需要者層等を同一にする商品について、商標「BOTOX」と極めて近似する類似商標である本件商標が自由に使用されてしまうことになり、その結果として劣悪な品質の商品が請求人の「BOTOX」と類似する商標によって提供されるという事態が生じ得ることも否定できない。
このような事態が生じた場合、請求人が永年にわたり多大な努力を費やして培ってきた「BOTOX」のブランドイメージは著しく毀損され、請求人が多大な損害を被ることは明白である。
すなわち、かかる見地からも本件商標の登録が維持されるべきではない。 (カ)以上より、本件商標がその指定商品「第3類 化粧品」について使用された場合には、当該商品は、請求人の業務に係る商品であるかの如く認識され、あるいは請求人と経済的又は組織的・人的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く誤認され、その出所について混同を生じるおそれのあることは明らかである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第19号について
ア 商標「BOTOX」は、請求人の製造・販売に係る商品を表示するものとして、わが国において一般の需要者・取引者の間に広く認識されている著名商標であり、請求人の提供する商品に係る絶大な信用が化体した重要な財産である。
本件商標は、上述のように当該著名商標と明らかに類似するにも関わらず、請求人の同意を得ることなく無断で登録されたものである。さらに、前述したように、本件商標の使用に係る商品の宣伝文句には「BETOX-Menu」「ボトックスってなに」「世界中で定番になっている美容外科でのシワ治療「ボトックス」…、この治療法と同様の効果を、ただ塗るだけで……、それがベトックスです」、「自宅でできるシワ消しボトックス」「話題の塗るボトックス注射成分を2種類W(ダブル)配合」というように(甲第53号証及び甲第54号証)あたかも請求人の商品と関係があるかのように商品を宣伝広告して販売しているのである。
本件商標の商標権者は、本件商標に係る商品の販売に際して、前述のような宣伝文句を用いていることからして、本件商標の商標権者は、請求人の著名な商品及び商標「BOTOX」「ボトックス」の存在について当然熟知している者である。したがって、「BOTOX」に類似する本件商標が、単に偶然に構成されたものであるとは到底いい得ないという事実を意味している。
それにも関わらず、商標権者は「BOTOX」「ボトックス」の称呼に類似する本件商標を出願し登録を得たのであり、しかも前述の宣伝文句を広告上で使用していることは、明らかに請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」が有する著名性を不当に利用し、本件商標が、「BOTOX」「ボトックス」と混同を生じ、かつその著名性に乗じようとしていることを、商標権者が自認していることを示す事実に他ならない。
換言すれば、本件商標の商標権者は、請求人の著名商標「BOTOX」が名声、信用を有することを十二分に理解し認識した上でそれにあやからんとし、「BOTOX」が持つ高い顧客誘因力を利用することを目的として、「BOTOX」の語頭音「BO/ボ」を「BE/べ」とわずかに変形させたにすぎない本件商標を創作したというべきである。
このようなわずかな構成文字の変形及び本件商標を付した商品の販売に関するこれらの記載に鑑みれば、商標権者が著名商標「BOTOX」の名声、信用、顧客誘因力に乗じて不当な利益を得るという、極めて悪質な意図を有して本件商標を出願し、登録を得て使用していることは間違いない。
このような商標の登録が維持され使用を認容するということは、不正な目的を持った商標権者による不当な商標の独占的な使用を放置することになり、到底許されるべきものではない、
イ したがって、本件商標はわが国における公正な商取引の秩序を害し、信義則に反するものであるから、上記商標に化体した請求人の信用・名声・顧客誘因力等に内在する計り知れない価値を毀損するおそれのあることは、疑う余地がない。
すなわち、本件商標はそのような不正な目的をもって登録されたものである。
かかる目的をもった本件商標について、その登録・使用を認めることは、著名商標についてのいわゆる“ただ乗り”行為を是認することとなり、商標法及び産業財産権法上の秩序を乱すという問題のみならず、社会経済上の一般的秩序を乱すものであるというべきである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたものである。
(4)むすび
以上述べたように、本件商標がその指定商品に使用された場合、一般の需要者・取引者において請求人の業務に係る商品との間に商品の出所について誤認・混同を生じるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
さらに、本件商標は公正な取引の秩序を害し不正な目的をもって使用されるものであるから商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項(審決注:請求人は審判請求書において、商標法第43条の2第1号を請求の理由としているが、これは、請求書の全趣旨から、同法第46条第1項の誤記と認める。)の規定により無効とされるべきである。
2 弁駁の理由
(1)商標法第4条第1項第15号に関する主張について
ア 本件商標と「BETOX」「ベトックス」の類否について
(ア)被請求人は、本件商標と使用商標の英文字は、構成文字1文字の違いにより、両商標は外観上識別できると主張している。
両商標から生じる称呼に関しても、両者の相違音である母音の「エ」と「オ」の音質の相違により、両商標は称呼上も類似しないと主張し、さらに本件と同様に対比する両商標の相違音が「べ」と「ボ」の商標が非類似と判断された審決例を挙げている。
しかしながら、かかる被請求人の主張は、商標が現実に商取引において使用された場合における、需要者、取引者の認識を無視した主張であって、全く理由のないものである。
商標の類否に関する審決例の多く及び登録例は、対比するそれぞれの商標の著名性やそれらが使用されている具体的な商品の関係を検討することなく判断されたものである。したがって、被請求人が答弁書で挙げた「べ」と「ボ」が相違するにすぎない商標が非類似と判断されて登録されている先行例が存在することは全く不思議なことではない。しかしながら、本件は、上記被請求人が挙げた一般的な先行例とは全く事案を異にするものである。
すなわち、本件商標は、請求人の著名な商標「BOTOX」「ボトックス」と用途を同じくする商品をその指定商品として登録されたものであり、かつ、かかる商品について現実に使用されているものである。しかも、本件商標の指定商品の需要者、取引者において、請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」は著名な商標であり、さらに本件商標にかかる商品の宣伝広告においても、被請求人は自ら請求人の商標を用いているのである。したがって、かかる事情を考慮すれば、本件が被請求人が挙げた一般的な先行例とは全く事案を異にするものであることは明らかであり、本件商標が請求人の「BOTOX」「ボトックス」と類似する商標であることは疑いない。
以下に、本件商標と引用商標が類似する商標であることを詳述する。
(イ)請求人が請求書において詳細に述べたように、「BOTOX」「ボトックス」は、本来は、眼瞼の麻痺等の顔面麻痺症状を治療するために開発された薬剤であるが、その後、眼目蓋の周辺のしわ取りについての驚異的な効果を有することが認められた。その結果、請求人の「BOTOX」「ボトックス」に係る商品は、「眼瞼の麻痺等の顔面麻痺症状の治療」を目的とするばかりでなく、特に、しわ取りの目的で世界の70カ国以上の国において使用されている請求人の著名な商品となった。これは、請求人が請求書において提出した証拠においても明らかである。
その結果、請求人の「BOTOX」「ボトックス」は、特に美容整形の分野においては、「眼瞼の麻痺等の顔面麻痺症状を治療するための薬剤」というよりはむしろ、「眼目蓋の周辺のしわ取りの薬剤」として有名なものとなっていったのである。しかして、本件商標に係る商品の使用が開始されてからの数年、すなわち1990年代の前半あるいは中頃までは、請求人の商標の著名性は「薬剤」の分野に限られていたかもしれない。
しかしながら、「BOTOX」「ボトックス」に係る商品は「薬剤」ではあるが、これを用いる者の多くは、病気を治すことを目的として使用するのでなく、美容を目的として使用するのであるから、商品のカテゴリーとしては「薬剤」に属するものであっても、商品の内容としては「化粧品」とも極めて近いものである。
したがって、請求人の商品の流通経路が病院等の医療関係者に限られているとはいっても、「BOTOX」「ボトックス」を用いてしわ取りの治療を受けた者の多くは美容目的で受けているのであるから、「BOTOX」「ボトックス」と同一あるいはこれと類似する商標が「しわ取りを目的とする化粧品」について使用された場合、かかる商標に接する者は、これを請求人の「BOTOX」「ボトックス」との関係で認識することは明らかである。
さらに、かかる事実は、請求人が提出した証拠中においても、「BOTOX」「ボトックス」に関係する記事が、医療関係の雑誌、新聞等ばかりでなく、一般の新聞や一般の週刊誌等に頻繁に掲載されていることからも明らかである(甲第24号証及び甲第26号証の添付資料)。これら甲第24号証及び甲第26号証で提出した資料はその多くが一般大衆向けの雑誌である。すなわち、甲第24号証及び甲第26号証の添付資料からわかるように、「BOTOX」「ボトックス」の紹介が頻繁になされており、その結果、既に「BOTOX」「ボトックス」による治療を受けた者に限らず、まだ「BOTOX」「ボトックス」を知らなかった者にも「BOTOX」「ボトックス」が、請求人或いはある特定の者に係る商品「しわ取り用の薬剤」の商標として広く知られているということができる。
したがって、「BOTOX」「ボトックス」が使用されている商品の内容、商品の需要者及び新聞、雑誌における掲載記事に照らしても、「BOTOX」「ボトックス」は本件商標の指定商品である化粧品の分野において著名な商標であることは疑いない。
(ウ)さらに被請求人が提出した証拠において、被請求人が述べるように「塗るボトックス」なる言葉が多くの「しわ取りを目的とする化粧品」の広告物において頻繁に使用されている。しかして、これは、「BOTOX」「ボトックス」が商標として広く知られていることを示すものに他ならない。
すなわち、しわ取り用の化粧品において「塗るボトックス」という言葉が使用されていることは、「注射によってしわを取るボトックス」との対比で用いられているものである。前述のように、「BOTOX」「ボトックス」に係る商品は、主に美容整形外科等で使用されるものであり、注射によって体内に注入されるものである。
しかして、「しわ取りの効果を有するボトックス」といえば、世界中で請求人の商品しか存在しないのであるから、しわ取り用の化粧品の広告文においては、注射をすることなく手軽にしわを取ることができる化粧品という意味で、「塗る」という言葉を「ボトックス」に付して「塗るボトックス」と言っているのである。そして、その「ボトックス」は、唯一請求人の著名商標「BOTOX」「ボトックス」を示すものであり、請求人の著名商標「BOTOX」「ボトックス」以外を示すものでないことは明らかである。
もし、「BOTOX」「ボトックス」なる言葉が、薬剤の分野のみでしか知られていないのであれば、このような広告物はあり得ないはずである。すなわち、しわ取りの効果を有する薬剤は他にもあるにもかかわらず「BOTOX」「ボトックス」という言葉が用いられていることは、請求人の「BOTOX」「ボトックス」に係る商品が他の商品と比べて特に優れた効果を有し、かつ、「BOTOX」「ボトックス」が誰にでも知られた商標であるからこそ、商品の広告に「BOTOX」「ボトックス」を用いることにより、その商品が特に優れた効能を有するものであることをアピールしていることに他ならない。言い換えれば、「ボトックス」という言葉なくして、単に「塗るしわ取り化粧品」といっただけでは、何ら商品の宣伝広告にはならないからである。
さらに、甲第53号証及び乙第12号証に示すように、被請求人自らも、本件商標に係る商品の広告において「自宅でできるシワ消しボトックス」「世界中で定番になっている美容外科のシワ治療「ボトックス」」という広告で販売している。これは、被請求人自らも「ボトックス」を用いることによって、商品の宣伝広告をしているのであり、請求人の商標が著名なものであり、多大な顧客吸引力を有していることを熟知しているのである。
言い換えれば、しわ取り用の薬剤や化粧品は、「ボトックス」に係る商品の他にも多く存在するのであるから、「ボトックス」に強い顧客吸引力があることを知っていなければ「ボトックス」を商品の宣伝に用いるはずはない。被請求人は「ボトックス」がある者の著名商標であり、それが化粧品の分野でも広く知られているからこそ、そのような言葉を広告物に用いているのである。それにもかかわらず、自らこのような宣伝広告をしておきながら、「ボトックス」が請求人の商標として化粧品の分野では周知、著名でない、というのは明らかに矛盾しているといわざるを得ない。
(エ)被請求人は、答弁書において、多くの資料において、「BOTOXというA型ボツリヌス菌を注射するしわ取り手術」「ボトックス注射」等の記述があることから、「BOTOX」「ボトックス」は「しわ取り治療法」の総称として認識されているにすぎないと主張している。しかしながら、これは全く事実を誤認した認識であって全く理由のない主張である。
すなわち、第一に、商標「BOTOX」「ボトックス」及び「BOTOX」「ボトックス」を含む商標について請求人は、登録第2720907号、第3270950号を初め、第5類、第3類、第10類等において我が国において16件の商標権を有しており、さらに、外国においても70カ国以上の国において「BOTOX」について登録を取得している(甲第31号証ないし甲第50号証及び甲第55号証ないし甲第70号証)。
すなわち、かかる事実は「BOTOX」「ボトックス」に関して、我が国をはじめ世界中において「BOTOX」「ボトックス」は請求人が独占的に使用することができる商標であることを示すものにほかならない。そして、請求人は、甲第8号証等に示すように、「BOTOX」「ボトックス」にかかる商品のパッケージや印刷物には常にRの表示を付し、それらが登録商標であることを示し、独占的に使用している。
第二に、現在発行されている印刷物等において、「BOTOX」「ボトックス」に関して被請求人が述べるような記述があるが、これらは第三者が請求人の許可を得て書いているものではない。このような記事を書く者は、記事に用いている言葉の全てが登録商標であるか否かを調査してその言葉を使用しているわけではない。
したがって、当該広告等において、上記資料における記載があることをもって直ちに「BOTOX」「ボトックス」が「しわ取り治療法」の総称として認識されているようなことはあり得ない。むしろ、前述したように、「塗るボトックス」をはじめとする第三者による広告物における「BOTOX」「ボトックス」は、これを作成した者が「BOTOX」「ボトックス」が請求人の商標であることまでを明確に認識しているかは知らないが、全てが特定の者を出所とする商品の商標、すなわち、請求人の「BOTOX」「ボトックス」を示すものである。これは、被請求人による本件商標に係る商品の広告においても同様である。甲第53号証の広告文「自宅でできるシワ消しボトックス」「世界中で定番になっている美容外科のシワ治療「ボトックス」における「ボトックス」も明らかに請求人の商標に係る商品を示すものである。
すなわち、被請求人が主張するように「BOTOX」「ボトックス」が「しわ取り治療法」の総称であるとすると、これらの広告文中「BOTOX」を「しわ取り治療」に置き換えることができるはずであるが、置き換えると、被請求人の上記広告文は「自宅でできるシワ消ししわ取り治療法」、「世界中で定番になっている美容外科のシワ治療『しわ取り治療法』」というおかしな文章になってしまう。しかも後者の広告文においてはBOTOXをあえて括弧でくくり「BOTOX」としているのである。
すなわち、「BOTOX」「ボトックス」が「しわ取り治療法」の総称として一般に認識されているのであれば、被請求人は上記広告文で「シワ消し」「シワ治療」という言葉を省略して、「自宅でできるボトックス」「世界中で定番になっている美容外科の『ボトックス』」で十分であったはずである。それにもかかわらず上記広告文に「しわ消し」「シワ治療」を用いてもこれが自然な文章となっているのは、「BOTOX」「ボトックス」は、「シワ取り治療法」の総称ではなく、請求人の商標であるからである。そして、「BOTOX」「ボトックス」に係る商品が、しわ取り用の薬剤の中で優れた商品であるからであり、「BOTOX」「ボトックス」に係る商品の優秀性にあやかり、当該商品の購買意欲を喚起するために単に「シワ消し」「シワ治療」で終わらせずその後に「BOTOX」を付したのである。これは、まさに「BOTOX」を単なる「しわ取り治療法」ではなく、請求人の商標であることを示すものに他ならない。このように、被請求人自らも「BOTOX」「ボトックス」を特定の者にかかる商品の商標として認識して使用しているのである。
(オ)被請求人が挙げたように、特にインターネットにおけるシワ取りを目的とした商品の広告において「BOTOX」「ボトックス」が第三者により頻繁に使用されていることは請求人も知るところである。
しかしながら、これらの広告物において使用されている宣伝文句において使用されている「BOTOX」「ボトックス」は全て請求人の「BOTOX」「ボトックス」を示すものである。すなわち、前述したように「しわ取りを目的とした薬剤」について商標「BOTOX」「ボトックス」は、唯一請求人のみが独占的に使用できる商標であり、乙第12号証ないし乙第18号証の2に掲載されている商品の広告文は、当該広告にかかる商品を注射によって注入する請求人の「BOTOX」「ボトックス」との関係で広告しているのである。
例えば、乙第17号証の3においては、「塗るボトックスとは、…、塗るだけでボトックスと同じ効果があるため、…、…ボトックスの様に強い作用はありません。」と述べている。もし、「BOTOX」「ボトックス」が、「しわ取り治療法」の総称であるとすると、全てのしわ取り治療法が強い作用を持つことになってしまう。すなわち、このような宣伝文に照らしても、「BOTOX」「ボトックス」が「しわ取り治療法」の総称であるというようなことはあり得ず、特定の商品を示すものである。これらの広告物は、「BOTOX」「ボトックス」が請求人の製造、販売に係る商品を引用しつつ自己の商品を宣伝しているのである。
言い換えれば、これらの広告物は、「BOTOX」「ボトックス」が請求人の著名な商標であると広く知られているからこそ、自己の商品の宣伝文において使用しているのであるから、これらの広告物があることは、「BOTOX」「ボトックス」が請求人の商標として、化粧品の分野においても広く一般に知られている著名商標であることを示すものに他ならない。
(カ)以上述べたように、「BOTOX」「ボトックス」は、被請求人が述べるような「しわ取り治療法」の総称ではなく、「しわ取りの効果を有する薬剤」の商標として、薬剤の分野ばかりでなく「化粧品」の分野においても著名な請求人の商標である。
(キ)このように、「BOTOX」「ボトックス」は、「眼瞼の麻痺等の顔面麻痺症状等の治療用薬剤」として有名なばかりでなく、「しわ取り用の薬剤」として有名であり、顔面のしわを取ることが特に女性の間では多大な関心ごとであることはいうまでもない。
そして、「BOTOX」「ボトックス」が化粧品の分野に広く知られている事実は、前述のように「塗るボトックス」というような広告が化粧品の広告物で不特定多数のものによって行われ、化粧品の分野においても、広告物に請求人の「BOTOX」「ボトックス」が頻繁に登場していることからも明らかである。
これに関し、被請求人は、本件商標にかかる商品をエステティックサロンで販売することから、本件商品の需要者はエステティックサロンのお客とのことである。しかして、本件商標が使用される商品も請求人の著名商標「BOTOX」「ボトックス」に係る商品もともに「しわ取りを目的」とするものである。
しかして、その違いは、注射をすることで体内に注入してしわを取るか、塗ることでしわを取るかの違いで、最終の需要者は全く同じであり、しかも、顔のしわを取ろうとすることを予定している者である。言い換えれば、本件商標の商品の需要者が次に請求人の商品の需要者になることもあり、その逆に、請求人の商品の需要者が次に本件商標の商品の需要者になることもある。
しかして、薬剤ばかりでなく、化粧品の需要者、取引者は「BOTOX」「ボトックス」を構成する文字を全て正確に記憶しているわけではない。本件商標は、請求人の著名商標「BOTOX」「ボトックス」とわずか1文字しか相違しないものであり、これに接する者は、当該商標を請求人の商標と見間違えることが当然起こり得ることである。また、称呼においてもわずか1音しか相違しないものであり、その相違音も共に「バ」行に属するものである。
したがって、請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」の著名性に照らせば、本件商標がその指定商品、少なくとも、特に「しわ取り用の化粧品」に使用された場合、需要者、取引者は、本件商標を請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」であるかの如く誤認することは疑いない。
さらに、甲第53号証に示すように、被請求人は本件商標に係る商品の広告において「自宅でできるシワ消しボトックス」「世界中で定番になっている美容外科のシワ治療『ボトックス』」という広告で販売している。これは、被請求人は本件商標の採用の過程においても、請求人の商標にわずか1文字変更を加えることにより、需要者、取引者に本件商標を請求人の「BOTOX」「ボトックス」と関連付けさせて認識させることにより、請求人の商標が有する顧客吸引力を利用して、需要者の購買意欲を喚起することを意図していることは容易に想像できる。このように、被請求人自ら、本件商標を請求人の商標と関連付けて採用したのである。
したがって、請求人の商標が薬剤の分野のみならず化粧品の分野においても広く知られた著名商標であること、さらに、被請求人による本件商標の採用の意図及び被請求人の本件商標に係る商品の広告方法に照らせば、本件商標に接する需要者、取引者が、本件商標を請求人の商標と外観上も称呼上も混同を生じることは明らかである。
よって、本件商標と請求人の著名商標が類似であると判断することは、何ら特許庁における多くの先行例と反するものではない。
(ク)したがって、本件商標と請求人の使用商標は、外観上及び称呼上類似する商標である。
イ 混同の可能性について
(ア)前述したとおり、商標「BOTOX」「ボトックス」は、薬剤の分野のみならず、化粧品、特に「しわ取りを目的とした化粧品」の分野においては、請求人の商標として、取引者、需要者の間で著名な商標である。そして、本件商品は「しわ取りを目的とした化粧品」であり、請求人の商品は「しわ取り用の薬剤」であることから、需要者は、しわ取りに興味がある者、しわ取りを予定している者、しわ取りを行っている者であって、両商品の需要者は全く一致する。これに関し、被請求人は、答弁書において、「BOTOX」「ボトックス」が医療関係者以外の一般の消費者等の間においては識別標識として周知・著名性がないと主張する。しかしながら、被請求人は、さらに答弁書において、「その混同のおそれの主体は当然、本件商標が使用された商品の需要者であると考えるのが、同号の趣旨に合致する。」と述べている。
しかして、本件商標は「しわ取り用化粧品」について使用される商標であるから、請求人は商標「BOTOX」「ボトックス」は、「しわ取り用化粧品」の需要者、取引者の間で著名であれば十分である、しかして、請求人及び被請求人が提出した多くの広告物において明らかなように、本件商標が使用される商品「しわ取り用化粧品」の需要者、取引者間において請求人の「BOTOX」「ボトックス」が著名な商標であることは明らかであり、まさに本件においては、混同の主体、すなわち被請求人がいう「本件商標が使用された商品の需要者」が互いに一致している。
しかして、前述のように本件商標と請求人の著名商標「BOTOX」「ボトックス」は、1文字しか相違せず、またその相違音も同じバ行に属する音であり、それが1音相違するのみであるから、両商標は類似するか極めて近似する商標である。しかも、被請求人は商品の宣伝文句に請求人の「BOTOX」「ボトックス」を用いて、請求人の「BOTOX」「ボトックス」の顧客吸引力を利用していることから、本件商標に接する者が、本件商標にかかる商品が、請求人の製造・販売に係る「塗るタイプのボトックス」であるとか、請求人から使用許諾を得て製造・販売をしている商品「塗るタイプのボトックス」であるとか、商品の出所について誤認を生じることは明らかである。
また、請求人の「BOTOX」「ボトックス」の顧客吸引力を利用している被請求人の本件商標に係る商品の宣伝方法や本件商標の構成に照らすと、仮に本件商標を請求人の「BOTOX」「ボトックス」でないと認識した者であっても、当該商品が、請求人の「BOTOX」「ボトックス」に係る商品と関連があるものであるかの如く混同する可能性があることは疑いない。
以上述べた理由により、本件商標がその指定商品中「化粧品」、特に「しわ取り用化粧品」について使用された場合、需要者・取引者がその出所につき、誤認、混同を生じることは明らかである。
(イ)よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第19号に関する主張について
ア 被請求人は、「ボトックス」が「シワとり」との関係で何人もが自由に使用している事実があり、被請求人による本件商標の使用には全く不正の目的がないと述べている。
しかしながら、前述したように、「BOTOX」「ボトックス」は、世界的に著名な請求人の商標であり、請求人が提出した資料において、「BOTOX」「ボトックス」は請求人の商品を表示するものとして使用されているのである。被請求人は「ボトックス」が「シワとり」との関係で何人もが自由に使用していると述べているが、被請求人の本件商標に関する商品の広告における宣伝広告文の記載によれば(甲第53号証及び乙第12号証)、被請求人は「BOTOX」「ボトックス」が、請求人或いは少なくともある特定の者の商品を表示する商標であることを熟知していたことは明らかである。
そして請求人は、請求人の「BOTOX」「ボトックス」に係る商品と同じ目的を有する「しわ取り用化粧品」について使用する商標として、請求人の「BOTOX」「ボトックス」にわずか1文字変更を加えたにすぎない「BETOX」「ベトックス」である本件商標を採用したのである。しかも、その広告物において被請求人は「BOTOX」「ボトックス」の顧客吸引力を利用しているのである。
したがって、このようなわずかな構成文字を変形した商標の採用及び本件商標を使用した商品の販売に関するこれらの記載に鑑みれば、商標権者が著名商標「BOTOX」「ボトックス」の名声、信用、顧客吸引力に乗じて不当に利益を得るという極めて悪質な意図を有して本件商標を出願し、登録を得て使用していることは間違いない。そして、かかる登録が存在することは、請求人の著名商標「BOTOX」「ボトックス」の極めて強い出所表示力が希釈化されることは疑いない。
このような商標の登録が維持され使用を認容するということは、不正な目的をもった商標権者による不当な商標の独占的な使用を放置することになり、到底許されるべきものではない。
したがって、本件商標は我が国における公正な商取引の秩序を害し、信義則に反するものであるから、上記商標に化体した請求人の信用・名声・顧客誘因力等に内在する計り知れない価値を毀損するおそれのあることは疑う余地がない。
すなわち、本件商標はそのような不正な目的をもって登録されたものである。
かかる目的をもった本件商標について、その登録・使用を認めることは、著名商標についてのいわゆる“ただ乗り”行為を是認することとなり、商標法及び産業財産権法上の秩序を乱すという問題のみならず、社会経済上の-般的秩序をも乱すものであるというべきである。
イ よって、本件商標は商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたものである。
(3)したがって、被請求人の答弁書における主張は、全く合理的理由のないものである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第18号証(枝番を含む。)を提出している。
請求人は、「本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号(審決注:請求人は審判請求書において、商標法第43条の2第1号を請求の理由としているが、これは、請求書の全趣旨から、同法第46条第1項の誤記と認める。)により、本件商標の登録は取り消されるべきである。」旨述べている。
そこで、被請求人は、以下、本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当しないことを論述する。
1 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しないことについて
同号にいう「混同を生ずるおそれ」については、最高裁判所が「いわゆるレールデュタン事件」(最高裁平10(行ヒ)85号)でその判断基準を示しており、被請求人は、当該判断基準に本件商標を当てはめた場合、本件商標は同号の「混同のおそれがある商標」には該当しないものと思料する。以下、詳述する。
(1)本件商標と請求人の使用商標(以下「使用商標」という)との類似性の程度について
請求人は、その請求の理由において、本件商標と使用商標とが外観及び称呼において類似し、かつその使用商標が著名商標であることから、本件商標と使用商標とは極めて近似した商標であると主張している。
ア 外観類似について
請求人は、欧文字部分「BETOX」と片仮名文字部分「ベトックス」との2段併記からなる本件商標につき、欧文字部分と片仮名文字部分とに分断した上でその各構成要素と使用商標との外観上の類否を論じている。
しかしながら、本件商標の場合、欧文字部分と片仮名文字部分とが一体となって、外観上本件商標を構成しているのであって、各構成要素毎に外観上商標として機能するものではないことから、請求人の外観類似の判断方法自体妥当ではない。
そもそも、欧文字「BETOX」と「BOTOX」とは、いずれも5文字という少ない文字構成からなっていることから、その中の1文字が相違することで看者をして十分に外観上識別し得るものであるところ、その相違している文字「O」と「E」とは外観上全く見間違える文字ではなく、両者は区別が可能である。
同様に、「ボトックス」と「ベトックス」とは、片仮名文字の場合、左から右に読んでいくものであるところ、その最初の文字が相違していることから、看者をして十分に識別し得るものである。
このように、本件商標と使用商標とは外観上区別し得ることから、本件商標と使用商標とは外観上混同する可能性が極めて高いとの請求人の主張は到底受け入れ難いものであり、本件商標と使用商標とは外観上当然に識別が可能である。
イ 称呼類似について
請求人は、本件商標から生じる称呼「ベトックス」と使用商標から生じる称呼「ボトックス」とは、語頭音「べ」と「ボ」とが相違するに過ぎず、「べ」と「ボ」は、母音において「エ」と「オ」の相違はあるものの、共に「バ」行に属する音であり、更に、これらは「ハ」行の音の濁音であるから、極めて近似した音質を有するものであると主張する。
しかしながら、称呼において最も聴別が可能な部分は商取引の経験則上、両称呼が相違する語頭音である。
そして、「べ」と「ボ」とは、各々帯有母音が「エ」と「オ」であるにすぎず、「エ」と「オ」とは、「エ」が前舌面を平らにして歯茎を後ろに近づけ、舌先をひっこめ、声をロ腔内に響かせるのに対して「オ」は唇の両端を中央に寄せ、舌を後方にひき、後舌面を軟口蓋に向かって高め声帯を振動させることから、両音は音質を異にするものである。
更に、請求人は、両称呼の相違音が共に「バ行」に属することをも称呼上類似する理由として挙げているが、審決例において、相違音が「バ行」に属しているとしても称呼上非類似と判断したもの、例えば、称呼「キャビプラス」VS称呼「キャブプラス」(乙第1号証の1)、称呼「ビッグブックス」VS称呼「ビッグボックス」(乙第1号証の2)等、いくつも存在する。
このように、称呼「ベトックス」と称呼「ボトックス」とは語頭音「べ」と「ボ」とが相違することから称呼上も当然非類似である。
現に称呼上語頭音「べ」と「ボ」のみが相違しているにもかかわらず併存登録されている登録商標が乙第2号証の1ないし乙第8号証の2のように存在する。
そもそも、本件商標と使用商標とが称呼上類似するとの請求人の主張は、本件商標の指定商品に含まれる商品「化粧品」につき、使用商標を構成要素とする登録商標「BOTOX/ボトックス」(乙第9号証)が商標登録された後に本件商標が商標登録されたという事実を無視するものであり、かかる事実は、特許庁においても本件商標と使用商標とが称呼上類似しないと判断していることの証左である。
まして、請求人の称呼「ベトックス」と称呼「ボトックス」とは「トックス」を共通にすることから、称呼上類似するとの主張は、商品「化粧品」につき、登録商標から生じる称呼中、「トックス」を含むものが幾つも存在している事実(乙第10号証)を無視するものであって、到底受け入れ難いものである。
このようなことから、本件商標から生じる称呼「ベトックス」と使用商標から生じる称呼「ボトックス」とは、十分に聴別が可能であり非類似である。
ウ 小括
以上より、本件商標と使用商標とは外観及び称呼の点で非類似であることから、両者は相紛れるおそれがなく非類似である。
(2)使用商標の周知著名性について
請求人は、甲第11号証ないし甲第23号証並びにかかる証拠方法に添付された添付資料に基づき使用商標が医療用ないし美容外科用医薬品の商標として全国各地の需要者・取引者を始め広く一般人の間に知悉された極めて周知かつ著名な商標であると主張している。
被請求人は、請求人のいう全国各地の需要者・取引者がいかなる者を意味するのかは理解できないが、被請求人も、使用商標が眼瞼痙攣及び片側顔面痙攣に関する医療用医薬品或いは美容外科用医薬の商標として専門医及びその患者間においてのみ知られていることを否定するものではない。
けだし、甲第8号証において、請求人の使用商標が付された「眼瞼痙攣治療薬」「商品の添付説明書」及び「商品案内」には、医師の処方箋・指示により使用することとされ、授与は講習を受けた医師で、本剤の安全性及び有効性を十分に理解し、本剤の施注手技に関する十分な知識経験のある医師が行うこと、更には本剤の有効成分はボツリヌス菌によって産出されるA型ボツリヌス毒素であるため使用上の注意を熟読した上で用法及び用量を厳取し、眼瞼痙攣及び片側顔面痙攣以外には、安全性が確立していないので絶対に使用しないことといった「警告」が表示されており、これらの記述は、使用商標が付された商品が医療関係者のみを対象としていることを示すものである。
その上、甲第12号証で提示されている使用商標が使用された商品の取引先、主要顧客が大学の附属病院及びその他の病院に限られていることから、使用商標で特定される医薬品は医療関係者のみに流通するもので有り、本件商標の指定商品である商品「化粧品」とはその流通経路が全く異なるものである。
更に、請求人提出に係る各甲号証の添付資料を詳細にみるに、医科向け若しくは薬の専門家向けと考えられる「日刊薬学」「薬事日報」「化学工業日報」「Phama week」といった雑誌並びに「日本美容外科学会会報」といった学術誌においては、使用商標「ボトックス」「BOTOX」が請求人の商品名或いは登録商標であることが明記されている反面、日本経済新聞等の全国紙(その提出量としては、多くはないが)、山陰新聞等の地方紙、女性セブン等の週刊誌では、「ボトックス」が商品名であるといった記述は殆どなく、たとえば「BOTOX=ボツリヌス菌の毒素をシワに注入する方法」とか「BOTOXというA型ボツリヌス菌を注射するしわ取り手術」「ボツリヌス療法」「ボトックス注射」「ボツリヌス菌の毒素から作るタンパク質の一種『ボトックス』で顔やみけんのしわを取る方法」「ボトックスって何ですか?ボツリヌス毒素を注入して筋肉を弛緩させる施術です」といった記述ばかりであり、これら雑誌等の読者、請求人の表現を借りれば一般需要者は、これらの記述に接しても「ボトックス」「BOTOX」をいわゆる出所識別標識として認識することはなく、これらの者は「ボトックス」「BOTOX」を「ボツリヌス療法」「しわ取り療法」といった意味合いで認識するにすぎない。
そもそも、請求人の提出に係る新聞記事における自社広告においても「注射による薬物治療」(甲第24号証添付資料90)「薬物治療についての記述」(甲第24号証添付資料91)、「眼瞼痙についてのみの記述」(甲第24号証添付資料93)であって、使用商標が同社の提供に係る商品名であるといった記述は全くなされていない。
このように、請求人の主張にもかかわらず、一般需要者間においては「ボトックス」「BOTOX」は、商品名としてよりもむしろ「しわ取り治療法」の総称として認識されているにすぎないことを意味しており、かかる事実は、使用商標が一定の出所を認識せしめる標章として周知・著名性を獲得しているとは言えないことをも意味するものである。
なお、請求人は、甲第27号証及び甲第28号証ないし甲第30号証により、使用商標の著名性が認められた旨主張しているが、これら各甲号証であげられている商標は一方が「ボトックスアライク」であり、他方が「ボトックス/BOTOX」であって、いずれもその構成要素中に「ボトックス」「BOTOX」を含んでいるものである点で本件商標とは事例を異にするものである。
(3)混同の有無の判断者について
請求人は、その製造・販売に係る商品の需要者層は、神経や筋肉の障害が老若男女を問うことなく生じるものであることから、医療関係者のみに限定することなく、性別・年齢を問うことなく幅広い人々の間で使用商標は知られていることから、一般需要者を基準に同号にいう混同の有無が判断されると主張しているように思われるが、同号の混同の有無の判断主体は使用商品の需要者である。
けだし、同15号が、本件商標をして使用商標との間の混同のおそれを規定するものであることから、その混同のおそれの主体は当然、本件商標が使用された商品の需要者であると考えるのが、同号の趣旨に合致する(同旨田村善之・「商標法概説」第2版61頁)(乙第11号証)。
そこで、本件商標が使用された商品の需要者を考えるに、本件商標は、権利者である株式会社スカンジナビアの化粧品のメインブランドである「SnowWhiteシリーズ」の1つとして2004年1月から販売が開始されたものである(乙第12号証)。
同社は、1998年よりエステサロン向け美容機器製品の販売を日本で開始し、その後、この美容機器製品と共に化粧品をエステティックサロンで販売をするというビジネスを展開することで現在に至っている(乙第13号証の1及び乙第13号証の2)。
ここに、「スノーホワイト取扱いショップの一覧」(乙第14号証)及び同社が定期的にエステサロン向けに発行している情報誌を乙第15号証として提出する。
かかるビジネス展開で使用されている本件商標の需要者は、本件商標が使用された商品の提供先のエステサロンのお客様ということになる。
(4)結論
上記で述べたように、本件商標と使用商標とは非類似であること、使用商標自体も、医療関係者以外の一般の消費者等の間においては識別標識としては周知・著名性はなく、かつ、本件商標が使用された商品の需要者の場合、その販売態様から、本件商標をして株式会社スカンジナビアの提供に係る商品であることが当然に認識でき、需要者の商品選択に際して、本件商標と使用商標とを比較検討するという事態は全く生じないものである。
したがって、請求人の主張にもかかわらず、本件商標の使用に係る商品「化粧品」につき、使用商標との間でその出所につき誤認混同を生じることはなく、本件商標は商標法第4条第1項第15号には該当しないものである。
2 本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当しないことについて
同号は、日本国内又は外国で周知・著名な商標であること、この周知・著名商標と出願商標が同ー又は類似の商標であること、出願商標が不正の目的をもって使用するものであること、以上の要件を出願商標が具備している場合には、出願商標が登録されない旨規定している。
そこで、本件商標が、上記各要件を具備するか検討するに、先にも述べたように、本件商標と使用商標とは非類似である。
したがって、このことのみをもって本件商標は、同号には該当しないものである。
しかしながら、請求人は、被請求人の本件商標の使用が使用商標との関係で不正の目的があると主張しており、被請求人はかかる主張を到底容認できないことから、以下、その理由を述べることとする。
先にも述べたように、「ボトックス」「BOTOX」の語は、「女性自身」「週刊女性」「女性セブン」等の女性をターゲットとした週刊誌で取り上げられている。
しかしながら、これら週刊誌上では、これらの語は「ボツリヌス菌という毒素を注射することでシワを取る治療法」、ひいては、「シワ取り治療法」そのものを意味する語として使用されているといえる。
現に、「ボトックス」「BOTOX」をGoogleでキーワード検索をすると、例えば「アルジルリンとは、表面じわを浅くする有効成分、アルジルリン(アルジレリン)成分名ヘキサプチドー3は、6個のアミノ酸が結合した物質でシワを改善する化粧品成分として欧米を中心に人気が高まっています。アルジルリンのこのような働きが、美容整形などで人気のあるボトックス注射と同じ効果があるためアルジルリンが入っている化粧品のことは『塗るボトックス』とも呼ばれています」といった記述があり(乙第16号証の1)、「アルジレリンがボトックスと同様に神経伝達経路に働きかけ、筋肉の緊張をほどき、表情ジワの軽減を促進。注射の使用が困難なまぶたや首筋のシワにもご使用できます-この記述では「ボトックス」はいわば成分として把握されている-」(乙第16号証の2)、「塗るボトックスとは-塗るボトックスの主成分は、スペインで開発されたアルジルリンです。そのアルジルリンを配合した化粧品を塗るボトックスと呼んでいます。アルジルリンには、ボトックスと同様に筋肉の動きの元である神経伝達物質の放出を抑制する効果が有るため、ボトックス注射と似た効果が期待できます。」(乙第16号証の3)といった具合に「ボトックス」の語は「シワ取り」そのものを意味する語として広く使用されているといえる。
ここにウェブ上で「ボトックス」をキーワード検索した結果ヒットしたホームページの幾つかを乙第17号証の1ないし乙第17号証の12として提出する。
そして、当然のことながら、「ベトックス」で特定される被請求人の化粧品にも、この「アルジルリン」がその成分として含まれているが、「ボツリヌス毒素」は全く含まれていない(乙第18号証の1及び乙第18号証の2)。
これらの証拠資料からは、「ボトックス」の語が「シワ取り」との関係で何人もが自由に使用している事実があり、被請求人による本件商標の使用が全く不正の目的がないものである。
以上述べたことから、本件商標は商標法第4条第1項第19号には該当しないものである。
3 むすび
以上、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものではないので、商標法第46条第1項(審決注:被請求人は答弁書において、商標法第43条の2第1号と記載しているが、同法第46条第1項の誤記と認める。)の規定により無効とされるべきものではない。

第4 当審の判断
1 請求人の使用に係る商標「BOTOX」及び「ボトックス」(以下、これらを一括して「使用商標」という。)の著名性について
(1)請求人の業務に係る商品「眼瞼痙攣・片側顔面痙攣症状を治療するための薬剤」の商標としての使用商標について
請求人の主張の理由及び請求人の提出に係る甲第14号証ないし甲第21号証の医療専門誌及び新聞記事(1998年ないし2004年発行)、及び、甲第24号証ないし甲第26号証の使用商標を付した商品「眼瞼痙攣・片側顔面痙攣症状を治療するための薬剤」に関しての「新聞記事に基づく報告書」[添付資料1ないし161(1996年5月14日ないし2005年12月19日発行)]、「新聞・雑誌以外の文献に基づく報告書」[添付資料2-1ないし2-5(2003年3月15日ないし2005年12月10日発行)]及び「雑誌記事に基づく報告書」[添付資料1ないし102(1993年10月22日ないし2006年2月1日発行)]等の記事を総合すると、使用商標は、請求人が製造し、アラガン株式会社ないしグラクソ・スミスクライン株式会社が日本で輸入販売している商品「眼瞼痙攣・片側顔面痙攣症状を治療するための薬剤」の商標として、本件商標の登録出願時には既に我が国において、取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
(2)請求人の業務に係る「しわやたるみの除去等の美容整形に使用される商品」(以下、「使用商品」という。)の商標としての使用商標について
ア 甲第13号証の米国美容形成外科学会(ASAPS)発行に係る2003年度美容形成データ集によると、2003年には全米でおよそ643万2千件行われた非外科手術的方法による美容整形のなかで、「BOTOX」に係る使用商品が使用されたのはおよそ227万2千件におよび、これは他を圧倒して非外科手術的方法による美容整形の第1位を占めていることが認められる。
イ 甲第14号証ないし甲第21号証の医療専門誌及び新聞記事(1998年ないし2004年発行)には、使用商標及び商品「眼瞼痙攣・片側顔面痙攣症状を治療するための薬剤」が取り上げられているが、使用商品についての使用商標の記載はない。
ウ 甲第22号証及び甲第23号証のインターネットの記事情報によると、美容外科クリニック等において、使用商品について使用商標の記載が認められるとしても、その中で請求人の表示が認められるものはわずか2件である。しかも、これらの情報がインターネットにアクセスして出力されたのは登録査定時の直前の2004年10月1日であり、本件商標の登録出願前から掲載されていたという証拠とはなり得ない。
エ 甲第24号証の「添付資料1ないし161」の新聞記事(1996年ないし2005年発行)には、使用商品について使用商標を表示したものが認められるものの、その大半は、請求人又はアラガン株式会社の記載が認められないもの或いは本件商標の登録出願日又は登録査定の後に発行されたものである。また、使用商品について使用商標及び請求人又はアラガン株式会社の記載がされている記事(例えば、添付資料28、29、30、38、39、43、50、60、65、66、85、102、108、121、139、153、156及び160)には、請求人の業務に係る商品「眼瞼痙攣・片側顔面痙攣症状を治療するための薬剤」について、「米国では、2002年4月に美容向け(眉間や額のしわを改善する)薬剤として効能追加の承認を得て2002年中に発売予定であること、また、日本国内においては、同じく美容向け薬剤として2001年5月より臨床試験を始め、2004年現在においても臨床試験中であり2005年後半に試験結果を出して効能追加の承認を申請する予定であること」等の記載がなされているにすぎず、しかも、上記の添付資料中、102、108は本件商標の登録出願日後に発行された記事であり、121、139、153、156及び160は本件商標の登録査定後に発行された記事である。
オ 甲第25号証の「添付資料2-1ないし2-5」の記事(2003年3月15日ないし2005年12月10日発行)中で、使用商品について使用商標及び請求人又はアラガン(株式会社)の記載がされている記事は、わずかに1件(添付資料2-3)であり、しかも当該記事は本件商標の登録査定時後に発行されたものである。
カ 甲第26号証の「添付資料1ないし102」の雑誌記事(1993年10月22日ないし2006年2月1日発行)は、単にポツリヌス菌の効能の一つとしてしわ取り効果が上げられているにすぎないもの、また、使用商品について使用商標を表示したものが認められるものの、その大半は請求人又はアラガン(株式会社)の記載が認められないものである。そして、使用商品について使用商標及び請求人又はアラガン(株式会社)の記載がされている記事は、わずかに7件(添付資料14、21、38、42、45、57、63)であり、しかも、これらの記事中(添付資料21、45、57)には、日本国内においては「適応症は眼瞼痙攣と片側顔面痙攣のみに限られていること」「シワ取り薬として第2相の臨床試験段階にあって、厚生労働省の承認は2004?2005年とみられていること」「美容目的の使用は厚生労働省の承認を得ていないため、その入手は医師の個人輸入に頼らざるを得ないこと」等の記載がなされているものである。
キ そうとすると、請求人の提出に係る証拠によると、使用商標は、使用商品を表示する商標として、米国においては、その著名性が認められるとしても、我が国においては、本件商標の登録出願時に取引者・需要者の間に広く認識されていたものとまでは認めることはできないというべきである。
2 本件商標と使用商標との類否について
本件商標は、上記第1のとおりの構成からなるものであるから、その構成文字に照応して「ベトックス」の称呼を生ずること明らかである。
他方、使用商標は、「BOTOX」又は「ボトックス」の文字からなるものであるから、その構成文字に照応して「ボトックス」の称呼を生ずるとみるのが自然である。
しかして、この「ベトックス」の称呼と「ボトックス」の称呼とは、称呼における識別上重要な要素を占める語頭において「ベ」と「ボ」の音の差異を有するものであるから、これらの音の差異が比較的短い音構成からなる両称呼に与える影響は決して小さいものとはいえず、それぞれを一連に称呼するも、語調・語感を異にし、互いに聞き誤るおそれはないものというべきである。
また、本件商標を構成する「BETOX」の文字と使用商標を構成する「BOTOX」の文字とは、第2文字目において「E」の文字と「O」の文字の差異を有するものであるから、本件商標と使用商標とは、通常の注意力をもってすれば、両商標の外観を見誤ることはないものということができる。
さらに、本件商標と使用商標とは、いずれも親しまれた既成の観念を有する成語を表したものとは認められないから、観念において両者を比較すべくもない。
してみれば、本件商標と使用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない別異の商標と認められるものである。
3 商標法第4条第1項第15号について
使用商標が請求人の使用に係る商品「眼瞼の痙攣等顔面痙攣症状を治療するための薬剤」を表示する商標として取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められるとしても、当該商品は、医科用・医療用の薬剤であって、本件商標の指定商品「せっけん類,化粧品,香料類,つけづめ,つけまつ毛」とは、その取引者・需要者を著しく異にするものといわざるを得ない。
そして、上記1(2)のとおり、使用商標が使用商品を表示する商標として、我が国において本件商標の登録出願時に取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできず、さらに、本件商標と使用商標とは、上記2のとおり、十分に区別し得る別異の商標であることをも併せて判断すると、商標権者が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者をして、使用商標を連想又は想起させるものとはいい難く、その商品が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
4 商標法第4条第1項第19号について
使用商標が使用商品を表示する商標として、米国内において需要者の間に広く認識されていたとしても、本件商標は、上記3のとおり、使用商標とは十分に区別し得る別異の商標というべきものであり、しかも、被請求人の提出に係る乙第12号証の本件商標に係る商品の販売開始時のパンフレットには、本件商標の登録出願日より後の「2004年4月1日新発売」との記載が認められるが、その発行日を特定することはできず、また、請求人の提出に係る甲第53号証及び甲第54号証のインターネットにおける記事情報はいずれも本件商標の登録査定後に出力されたものであること等を総合的に勘案すると、これらの証拠をもってしては、商標権者において、公正な取引秩序を害し、不正の目的をもって使用するものであることを認めるに足る証拠とはいい得ないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同項第19号のいずれにも違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2008-07-10 
結審通知日 2008-07-16 
審決日 2008-07-30 
出願番号 商願2004-9184(T2004-9184) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (Y03)
T 1 11・ 271- Y (Y03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 久美枝松浦 裕紀子 
特許庁審判長 林 二郎
特許庁審判官 杉山 和江
小畑 恵一
登録日 2004-10-15 
登録番号 商標登録第4809749号(T4809749) 
商標の称呼 ベトックス 
代理人 浜田 廣士 
代理人 黒川 朋也 
代理人 中村 稔 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 松尾 和子 
代理人 熊倉 禎男 

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