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審決分類 審判 一部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない Y03
審判 一部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない Y03
管理番号 1190695 
審判番号 無効2007-890192 
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-12-28 
確定日 2008-12-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第5072478号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5072478号商標(以下「本件商標」という。)は、「流すたびに」の文字を標準文字で表してなり、平成16年7月22日に登録出願、第3類「家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用漂白剤,かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,塗料用剥離剤,靴クリーム,靴墨,つや出し剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布,つけづめ,つけまつ毛」及び第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,おりもの専用シート,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕環,失禁用おしめ,はえ取り紙,防虫紙,乳糖,乳児用粉乳,人工受精用精液,食餌療法用食品及び食餌療法用飲料」を指定商品として、同19年8月24日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標登録はその指定商品中第3類「せっけん類」について無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第23号証を提出した。
1 請求の理由
(1)本件商標は、本件商標に係る指定商品「せっけん類」との関係では、「水に流すたびに」又は「液体であるせっけん類を流すたびに」程度の意味合いを認識させる語として、本件商標の出願前から普通に使用され、そして、その商品が一定の作用、効果を有する品質を有するものであることを想起させている。
ア ここに提出する甲第2号証及び甲第3号証は、「アース製薬」のトイレ洗浄の際に用いる商品であって、株式会社I&S/BBDO企画に係るテレビCFヒストリーであり、甲第4号証は、同じく、「アース製薬」のトイレ洗浄の際に用いる商品であって、ビデオリサーチを出典とするCF素材出稿実績一覧表である。
いずれも商品との関係で「流すたびに」の音声がコマーシャルメッセージとしてテレビを介して流されている。
これらの甲号証に使用されている「流すたびに」の音声は、その商品との関係で、一定の作用・効果を有することを意味する。
例えば、甲第2号証にあっては、「フッ素がツルンツルンの膜を作ってくれる」、甲第3号証にあっては、「2倍のフッ素がパワフルコート」、甲第4号証にあっては、「フッ素がツルンツルンの膜を作ってくれる」、「フッ素でしっかりコートするから水垢、黄ばみを寄せ付けないの」、「2倍のフッ素がパワフルコート。水垢、黄ばみを寄せ付けないの」等の作用に対してのものである。
イ 次に提出する甲第5号証は、請求人が商品を販売するために作成した発表資料、甲第6号証ないし甲第16号証は、商品広告の掲載されている雑誌である。掲載商品は、いずれも請求人の製造販売に係るトイレ便器の洗浄剤「トイレマジックリンパワーリキッド」に関するものである。
甲第5号証には、「水を流すたびに便器の洗浄ができます」とあり、甲第6号証には、「水を流すたびに便器の洗浄ができ、トイレ掃除がグンとらくになります」とあり、甲第7号証には、「水を流すたびに便器を洗浄」とあり、甲第8号証には、「水を流すたびに便器を洗浄」とあり、甲第9号証には、「水を流すたびに適量の洗浄成分が流れます」とあり、甲第10号証には、「水を流すたびに便器表面に効率的に吸着し」とあり、甲第11号証には、「水を流すたびに毎回汚れを洗い流してくれる」とあり、甲第12号証には、「流すたびに洗浄液がまんべんなく流れるので」とあり、甲第13号証には、「水を流すたびに便器の表面に吸着してミクロの水をつくります」とあり、甲第14号証には、「水を流すたびに汚れを落としててくれて」とあり、甲第15号証には、「流すたびに毎回洗浄ができる」とある。これらの記載からしても、その商品との関係で「流すたびに」といえばその商品の作用・効果に対するものであることは明らかである。
ウ さらに、次に提出する甲第16号証ないし甲第20号証は、洗浄剤との関係で「流すたびに」等の語が使用されている商品記事が掲載されている日刊新聞紙である。
甲第16号証には、「水を流すたびに適量の洗浄剤が流れ」とあり、甲第17号証には、「流すだけでトイレ掃除」、「水を流すたびに・・・便器と汚れの間に薄い水の膜を作り」とあり、甲第18号証には、「水を流すたびに徐々にとげだした洗浄成分」とあり、甲第19号証には、「水を流すたびに洗浄成分が徐々に溶け出し」とあり、甲第20号証には、「水を流すたびに香り広がる機能」とある。
ここでも、「水を流すたびに」といえば、その商品との関係で、その商品の作用・効果に対するものであることが分かるのである。
エ このような状況の中で「せっけん類」について、「流すたびに」と表示すれば、その表示に接した需要者は、その商品との関係において、「水」であったり、「商品」であったり、これらを流すたびに一定の作用・効果の生じることを理解すること必然である。
そうすると、本件商標を「せっけん類」例えば「トイレ用洗浄剤」に「流すたびに」の文字を使用しても、一定の作用・効果に対するものであることに疑いはなく、例えば、「洗浄剤を流すたびにトイレの洗浄を行うこと」「水を流すたびに洗浄を行うトイレ用洗浄剤」等のごとき意味合いを端的に直想させる。
したがって、本件商標は、その商品の品質、効能、使用の時期、使用方法等を表示したにすぎず、自他商品識別標識としての機能を有さない。
(2)なお、請求人は、被請求人が、請求人の上記主張に対して、本件商標が拒絶査定の不服の審判でなしたと同様の反論をするであろうことを予測して、かかる反論の相当でないこと、また、かかる反論に影響されての判断の相当でないことを以下に述べることとする。
ア 一つ目は、「本件商標『流すたびに』は、『ナガスタビニ』の自然的称呼が生じる造語商標である」と述べることに対してである。
この論議は、造語とは何かを知らない者の言うことである。
あえて証拠として提出することはしないが、岩波書店発行の「広辞苑」によれば、「造語」の項に「新たにことばを造ること、また、その造ったことば。ほとんどの場合既成の語を組み合わせる。」とある。
ところが、本件商標を構成する「流すたびに」の語は、上述した多数の甲号証に見られるように、本件商標の出願前から指定商品との関係でごく普通に使用されている。
したがって、「流すたびに」の語は、造語ではなく既成語であることは、明らかである。
イ 二つ目は、「単なる『流すたびに』から直ちに水等の液体を認識するとは限らない。
『流す』の語は、水等の液体の他に電気、音楽、情報、噂、企画等のように様々な目的語を伴って一般的に使用されており、本件指定商品においても『電気を流すたびに』『音楽を流すたびに』『宣伝を流すたびに』『噂を流すたびに』など、水等の液体に限らず、複数の意味合いを想起することが考えられる。」と述べることに対してである。
たしかに「流す」という語は他動詞であるから、水等のほか、電気、音楽、情報、噂、企画等のように目的語を伴って、一般的に使用されていることは、そのとおりであろう。
しかしながら、商標は、その商品について使用されるものであることは、殊更に商標法に規定された定義を持ち出すまでもなく明らかなことである。 すなわち、しかるべき語が商品との関係でのみ論じられればよいのである。だからこそ、例えば、甲第2号証に「流すたびにフッ素がツルンツンルの膜を作ってくれるので」とあるように、また、甲第12号証に「流すたびに洗浄液がまんべんなく流れるので」とあるように「流すたびに」の後に目的語を伴わなくても通じるのである。
ところで、我が国では、水洗トイレの普及に目覚ましいものがあり、いまやほとんどの家庭で採用されている。このトイレに使用される洗浄剤は、水とともに流されるのが普通である。
ここで、大変卑近な例ではあるが、子供がトイレから出てきたとき、親が子供に向って「ちゃんと流しなさい」と注意したとき、この注意は目的語を有さなくても排泄物を流すために「水」を「流しなさい」と言っていることは、明らかであり、決して電気を流したり、噂を流したりすることを言っているのではないのである。
このような状況をかんがみても、「トイレ洗浄剤」に「流すたびに」との表示があれば、「流す」の対象物は、「水」であったり、その商品そのものであると考えるのが自然なのである。
誰が、「トイレ洗浄剤」に表示されている「流すたびに」の語に接して「電気を流すたびに」であったり、「音楽を流すたびに」であったり、「宣伝を流すたびに」であったり、「噂を流すたびに」であったりという理解をするであろうか。 通常の理解力を有する者であればまずあるまい。
ちなみに、直す(治す)という語について例示してみると、直す(治す)は、他動詞であるから、「流す」と同様に目的語を伴って色々の句を形成する。
例えば、患者が病院へ行って「直す(治す)」といえば、「病気や怪我を治療する」ことなのである。
決して「世の乱れを直す」ことであったり、「規約を直す」ことであったり、「機嫌を直す」ことではないのである。
同様にせっけん類とりわけ「トイレ洗浄剤」との関係で流すといえば「水」であったり、その商品であったりするのは、当然の道理である。してみると、わざわざ「水」等の目的語を付加しなくてもその意味するところは、明白なのである。
ウ 三つ目は、被請求人が、本件商標に係る拒絶査定不服の審判で過去の審査例を掲記して、登録されるべきであるとした主張と同様の主張をすることが予測されることである。
確かに、本件商標に係る拒絶査定不服の審判において、例示された幾つかの商標が登録されていることはそのとおりであるが、本件商標を構成する「流すたびに」の語とは、いずれも事例を異にするものであることから、これらが登録されていることをもって、「流すたびに」の語に自他商品識別標識としての機能が存在するということにはならないのである。
例えば、例示されている「何度でもテープ」が登録されたことと「流すたびに」が登録されるべきであるとする主張とは、何の結び付きもないのである。
「何度でもテープ」は、甲第21号証及び甲第22号証に示すように、請求人の所有に係る登録商標(以下、請求人登録商標という。)である。
ところが、被請求人は、甲第22号証に示す登録商標に対して、該登録商標は、自他商品識別標識としての機能を有さないと登録異議の申立てをしたが、甲第23号証に示すように、異議決定では、商標登録を維持するとされた。これは、当然のことなのである。
請求人登録商標と本件商標とは、次のような決定的な相違がある。
まず、請求人登録商標は、完全な造語であるのに比し、本件商標は、上述した甲号証に見られるように指定商品との関係で、ごく普通に使用されているのである。
また、請求人登録商標は、請求人によってはじめて使用されたのに比し、本件商標は、上述した甲号証に見られるように、被請求人が本件商標を商標登録出願する以前から商品との関係で被請求人以外の者によって使用されているのである。
そうすると、請求人が自ら創作し、そして請求人によって初めて使用された請求人登録商標と、既成語であり、しかもこの既成語が本件商標に係る指定商品中「せっけん類」との関係で、被請求人以外の者によって使用されている語と同一の語からなる本件商標とは、事例を異にするばかりか、軌を一にするものでないことは多言するまでもなく明白である。
したがって、このような状況をかんがみることなく、請求人の所有する登録商標「何度でもテープ」を引き合いに出して、本件商標の自他商品識別性を主張することの相当でないことは、疑う余地はないのである。
(3)叙上のとおりであるから、本件商標「流すたびに」は、指定商品せっけん類との関係で、その商品の作用・効果に対するものであることは、明らかであるから、その商品の品質、効能、使用の時期、使用方法等を表示したにすぎないことは、明らかである。
してみると、本件商標「流すたびに」をせっけん類、例えば、「水を流すたびに洗浄を行うトイレ用洗浄剤」等「流すたびに」に照応する商品に使用するときは、単に商品の品質、効能、使用の時期、使用方法等を表示するにすぎないものであって、商標法第3条第1項第3号の規定に該当するものであるにもかかわらず、また、せっけん類のうち前記以外のせっけん類に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるものであって、同法第4条第1項第16号の規定に該当するものであるにもかかわらず、誤って登録されたものといわなければならない。
(4)結び
よって、本件商標は、その指定商品中第3類「せっけん類」については、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するので、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とされるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人の主張
被請求人の主張は、およそ以下の、アないしエに集約される。
ア 請求人の提出した甲号証に記載されている「流すたびに」は、文章中に前後の文章又は音声とともに使用され、「流すたびに」が単独で使用されているものではなく、前後の文章や音声と一体となって意味をなすものであるから、該甲号証をもってしては、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
イ 本件商標の効力が及ぼすか否かは、商標法第26条第1項が働くか否かという点において論じる問題となり得るか否かということである。
ウ 審査登録例に倣って、本件商標も同様に扱われるべきである。
エ 本件商標は、造語である。
(2)答弁に対する具体的弁駁
ア 被請求人は、審査において、「流すたびに」について、「電気を流すたびに」「音楽を流すたびに」「宣伝を流すたびに」「噂を流すたびに」など水等の液体に限らず、複数の意味合いを想起することが考えられると述べるが、少なくとも本件商標が使用される水洗トイレ等においては、水を流すか、又は、液体等のせっけん類を流すかのいずれかであるはずである。
そして、この度、被請求人は、請求人の提出した甲号証に対して、その多くは、「流すたびに」の前後に作用・効果等の記述的表現が付されているものであるとの指摘をしている。
確かに、請求人の提出した甲号証の多くは、「流すたびに」の前後に作用・効果等の記述的表現の付されていることは、そのとおりである。
しかしながら、これほど多くの甲号証に「流すたびに」の動作を表現する語が作用・効果等を表現する語とともに使用されるということは、とりもなおさず、この種商品に接する者にとって、指定商品であるせっけん類についての意味合いの特定のために使用されていると理解することに難くないのである。
ちなみに、せっけん類に「洗う」という語、染毛剤に「染める」という語が、品質として使用されたとすると、その前後に作用・効果等を表現する語が伴うことは、ごく自然に見られるところである。
このような場合、被請求人の言を借りれば、「洗うときれいになる」「顔を洗う」「髪を染める」「きれいに染めた髪」等は、いずれもその前後に記述的な語を伴っているから、「洗う」「染める」のみでは、品質の表示ではないことになってしまうのである。
更にいえば、被請求人の言は、「洗う」についていえば、「悪事から足を洗う」「身許を洗う」「心を洗う」「水辺を洗う」等に用いられるから、また、「染める」についていえば、「夕日が空を染める」「筆を染める」「心を染める」「慣れない仕事に手を染める」等として用いられるから、「洗う」といい、「染める」といい、種々の用法のあることをもって、これらは、いずれも自他商品識別力なしとは、いい得ないとの理に等しくなってしまうのである。
してみると、「流すたびに」が審判請求書において十分に述べたように、本件商標の出願前から、甲号証に多数せっけん類との関係で使用されていることが立証されていることにかんがみれば、該語の付されているせっけん類に接した需要者や取引者は、該語がその商品の品質を表示するものと理解するであろうことは、多言するまでもなく明らかなのである。
イ 被請求人は、本件商標権の効力が及ぶか否かは、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じる問題だと述べている。 しかしながら、被請求人は、本件商標が、甲号証の記載に及ぶかどうかについては、何ら論じていない。
仮に、被請求人が論じるとすれば、被請求人自身、本件商標が本件商標の出願前に「流すたびに」の語が普通に使用されていることを知っての上でのことであるから、本件商標についての自他商品識別標識としての機能を有さないことを前提とすることとなり、きわめて滑稽な話でもある。
ウ 被請求人は、請求人対し、審査登録例において示された事例は、本件とは事例を異にするとし、「何度でもテープ」について反論するのみであると述べている。
審判は、請求があって開始されるのであるから、請求人は、請求の理由を述べることはできるが、被請求人の答弁が開示されていない段階で、被請求人の主張に対して反論することはできない。
せいぜい、請求人の主張に対して被請求人がどのような反論をするであろうかを想定しての反論である。
したがって、想定に対する反論は、請求人自身の選択の範囲内である。 被請求人は、今回の答弁書において「飲むほどに」「気になる時に」「飛び始めるその前に」「勝手にキレイ」「とりさる」等が登録されているから、「流すたびに」も自他商品識別機能を発揮するとの主旨の主張をしている。
確かに、例示された幾つかの商標が登録されていることは、そのとおりであるが、本件商標を構成する「流すたびに」の語とは、いずれも事例を異にしている。
そればかりか、本件商標に係る「流すたびに」は、本件商標の出願前に既に使用されている語である。
ところが、被請求人は、「飲むほどに」「気になる時に」「飛び始めるその前に」「勝手にキレイ」「とりさる」等の語が、これらの登録出願前に使用されていたという事実についての何らの証明もしていない。
被請求人は、これらの語は、文章表現の中で常識的に使用されると述べるが、仮にそうであったとしても、例えば、被請求人がインターネットから抽出した該語は、いずれもこれらの語が商標登録出願された後のものであるから、本件商標の審査の対象とはなるものではない。
一方、本件商標「流すたびに」については、「流すたびに」の語がこの商標登録出願前にせっけん類との関係で使用されていたのであるから、審査、審判の対象となるのであって、当然ながら事例を異にするのである。
そうすると、被請求人の例示した登録例は、いささかも、本件商標についての審査、審理に影響を与えるものではない。
エ 被請求人は、本件商標を構成する「流すたびに」は、造語であると主張する。
審判請求書において詳述したように、造語とは、「新たにことばを造ること、その造ったことば」である。既成語として存在する語は、どのような使い方をしても造語とはいわないのである。
仮に、使い方が新規なものであったとしてもせいぜい既成語の転用でしかないのである。
被請求人は、既成語であっても指定商品との関係において品質・用途等を表示するものといえない場合は造語商標であるという意味合いの主張をするが、かかる理屈をそのまま適用すると商標登録されている語はすべて造語商標ということになってしまうのである。
(3)叙上のとおり、また、審判請求書に詳述したとおりであるから、本件商標「流すたびに」をせっけん類、例えば、「水を流すたびに洗浄を行うトイレ用洗剤」等「流すたびに」に照応する商品に使用するときは、単に商品の品質、効能、使用の時期、使用方法等を表示するものであるにもかかわらず、また、せっけん類のうち前記以外のせっけん類に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるものであるにもかかわらず、誤って登録されたものであることは、寸疑の余地もない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を以下のように述べた。
1 甲各号証についての検討
(1)甲第2号証について
株式会社I&S/BBDO企画に係るテレビCFヒストリーを示したものである。「(収録日)98・10・05」と記載されているが、〔タレント〕欄は空白であり、実際に放映されたことは証明されていない。
甲第4号証においてビデオリサーチを出展とするCF素材出稿実績一覧表を提示しているが、第1欄のCFについて出稿期間は、「1998.10.4?1999.12.31」の記載が見られる。
しかしながら、甲第2号証では、「(収録日)98・10・05」とされており、収録日よりも先に出稿されているという奇異な証明内容となっており、甲第2号証のCFヒストリーに沿ったCFが放映されたことは、証明されていないというべきである。
次に、請求人は、このCFにおいて「流すたびに」の音声がコマーシャルメッセージとしてテレビを介して流されているとし、「フッ素がツルンツルンの膜を作ってくれる」という作用・効果を有することを意味すると主張している。
しかしながら、「流すたびに」の音声のみが独立して流されているのではなく、映像を伴いながら、商品について「きちんと掃除しても汚れてきちやうんですよね。フッ素コートセボン、ついに出ました。
流すたびにフッ素がツルンツルンの膜を作ってくれますので、どんな汚れも粉々に弾いて、寄せ付けません。
『弾いてる!』フッ素で弾く。トイレにセボン」と説明しているものであり、映像と音声とが相まって商品の記述的説明が行われているにすぎない。 どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを映像と音声で説明しているものであり、一連の音声表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは誤りである。
このようなCF上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とは、なり得ない。
(2)甲第3号証について
ア 株式会社I&S/BBDO企画に係るテレビCFヒストリーを示したものである。「(収録日)2003年12月11日」と記載されているが、実際に放映されたことは証明されていない。
甲第4号証においてビデオリサーチを出展とするCF素材出稿実績一覧表を提示しているが、第3欄のCFについて出稿期間は、「2001.09.26?2004.04.12」とされている。
すなわち、「2001.09.26」から出稿されたCFの内容が「2003年12月11日」に収録されたということになるが、奇異といわざるを得ず、結局、甲第3号証のCFヒストリーに沿ったCFが放映されたことは、証明されていないというべきである。
イ 次に、請求人は、このCFにおいて、「流すたびに」の音声がコマーシャルメッセージとしてテレビを介して流されているとし、「2倍のフッ素がパワフルコート」という作用・効果を有することを意味すると主張している。
しかしながら、「流すたびに」の音声のみが独立して流されているのではなく、映像を伴いながら、商品について「『お掃除しよ』『いてて。ゴシゴシしないでよ』新しいセボンは流すたびに2倍のフッ素がパワフルコート。水垢、黄ばみを寄せ付けないの。香りもいいのよ。『トイレはいつもツルツルピカピカ。フッ素コート』トイレにセボン?おくだけ。」と説明しているものであり、映像と音声とが相まって商品の記述的説明が行われているにすぎない。
どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを映像と音声で説明しているものであり、一連の音声表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは誤りである。
このようなCF上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(3)甲第4号証の第2欄について
ビデオリサーチを出展とするCF素材出稿実績一覧表の第2欄において1年間程度の出稿期間で、CFが流されたとする内容が示されている。
しかしながら、「流すたびに」の音声のみが独立して流されているのではなく、映像を伴いながら、商品について「『あ?、トイレ掃除面倒くさい。』『いいものあるのよ。』『はい?』アースのフッ素コートセボンなら流すたびに、フッ素でしっかりコートするから水垢、黄ばみを寄せ付けないの。『トイレはいつもツルツルピカピカ。じゃね。』フッ素コートなら トイレにセボン?」と説明しているものであり、映像と音声とが相まって商品の記述的説明が行われているにすぎない。
どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを映像と音声で説明しているものであり、一連の音声表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは、誤りである。
このようなCF上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。 ちなみに、ここで使用されている「しっかり」についても登録第2715102号で商標登録されていることを付言する。
(4)甲第5号証について
請求人が商品新発売について表した資料である。トイレそうじをより簡単に、手間をかけずにすませたいという消費者ニーズに従い開発した商品について、「これまでのようにブラシ洗いをしなくても、いつも清潔できれいな便器に保てる『トイレマジックリン パワーリキッド』を開発いたしました。トイレの手洗い付きタンクに設置するだけで、成分ZPによる『スライドイン洗浄』で、水を流すたびに便器の洗浄ができます。」と説明したものである。
やはり、前述と同様に、商品の記述的説明が行われているにすぎない。
どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを説明しているものであり、一連の文章表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは、誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(5)甲第6号証について
雑誌における商品広告を引用している。流すだけのトイレ掃除!と題して、「トイレマジックリン パワーリキッド」の商品内容について画像を伴って文章説明、ユーザー談話を掲載しているものである。
商品画像の下部において「水を流すたびに便器の洗浄ができ、トイレ掃除がグンとらくになる。」と記述し、便器内の画像の上に「流すたびに便器内の汚れを浮かせて落とし、水面にできやすい汚れの黒い輪や黄ばみ、それに菌の発生によるニオイも防いでくれる。」と記述説明がなされている。
要するに、前述と同様に、商品の記述的説明が行われているにすぎない。 どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを説明しているものであり、一連の文章表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。 なお、文章説明中において、「『常に勝手に便器内をお掃除してくれる新しい発想のトイレ掃除用品』です。」「流すだけで勝手にお掃除してくれる『パワーリキッド』は、」等の説明がなされている。
請求人は、登録第4766091号において「勝手におそうじ」の登録商標を有しているが、勝手にお掃除とは、上記説明からも明らかなとおり、格別に人為的手段を施さなくとも、ひとりでに掃除ができることを意味するにすぎず、そのような意味合いを示すものとして請求人自ら記述的に使用しているものであるが、請求人の弁を借りれば、当該商標登録も無効理由を有することを付言する。
(6)甲第7号証について
雑誌「レタスクラブ」における商品広告を引用している。主婦の味方だ!!手間なしトイレ掃除と題して、上記と同様に、「トイレマジックリン パワーリキッド」の商品内容について画像を伴ってユーザー対談形式で商品説明を掲載しているものである。
「トイレ掃除の手間をグンと軽くする新タイプの洗剤『トイレマジックリン ハワーリキッド』が発売されました。
水を流すたびに便器を洗浄、キレイにキープしてくれるスグレモノです。」という説明文中から一部分をピックアップしたもので、どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを説明している一連の文章表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(7)甲第8号証について
雑誌「saita」における商品広告を引用している。
トイレ掃除はラクしてキレイがあたりまえ!と題して、上記と同様に、「トイレマジックリン パワーリキッド」の商品内容について画像を伴ってユーザーの体験リポート形式で商品説明を掲載しているものである。
商品画像の下部において「手洗いタンクにセットするタイプのトイレ用洗剤。『スライドイン洗浄』で、水を流すたびに便器を洗浄。」と記述的説明がなされている。
また、「汚れ落としパワーのヒミツ」の左横においてイラストを伴って、「水を流すたびにZPが便器に吸着し、水の膜をつくる。」「水を流すと、新たなZPを含んだ水が便器と汚れのミクロのすき間に浸透。」「汚れを流したあと、新たなZPが便器に吸着。」などの説明がなされている。
「流すたびに」「流すと」「流したあと」は、いずれも状況を説明する際に文章中においては普通に用いられるものであり、要するに、前述と同様に、商品の記述的説明が行われているにすぎない。
どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを説明しているものであり、一連の文章表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(8)甲第9号証について
雑誌「MINE」における「トイレマジックリンパワーリキッド」の商品広告を引用している。
「流すだけのカンタン掃除で、ウチのトイレはいつでもキレイ!」と題して、上記と同様に、「トイレマジックリンパワーリキッド」の商品内容について画像を伴ってユーザーレポートを交えた商品説明を掲載しているものである。
商品画像の上部において、「『トイレマジックリン パワーリキッド』は、水を流すたびに、適量の洗浄成分が流れます。」と記述的説明がなされている。
どのような目的の下に、どのような状況において何を流すのかを説明しているものであり、一連の文章表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは、誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(9)甲第10号証について
雑誌「レタスクラブ」における「トイレマジックリンパワーリキッド」の商品広告を引用している。
「水を流すだけで洗浄ができる新タイプのトイレ用洗剤登場」と題して、「トイレマジックリン パワーリキッド」の商品内容について画像、イラストを伴って商品説明を掲載しているものである。「この“ZP”は、水と結びつく特性と便器表面に結びつく2つの特性をあわせもっているので、水を流すたびに便器表面に効率的に吸着し、ミクロの水の膜をつくります。」と記述的説明がなされている。
要するに、商品の記述的説明が行われているにすぎない。
どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを説明しているものであり、一連の文章表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは、誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(10)甲第11号証について
雑誌「ひよこクラブ」における商品広告を引用している。
「トイレ掃除はこれでスッキリ、ラクラク」と題して、「トイレマジックリンパワーリキッド」の商品内容について画像、イラストを伴って商品説明を掲載しているものである。
「洗浄成分が毎回汚れをスッキリ洗い流す」という表題の下、「毎日お掃除しても、使うたびにするのは大変。でも汚れは目に見えなくても、少しずつ便器の表面にたまっていき、それが次の汚れをさらにつけやすくしてしまいます。
水を流すたびに毎回汚れを洗い流してくれるから、いつも清潔。汚れを寄せつけません。」という文章表現中から「流すたびに」を取り上げているのであるが、商品を記述的に説明した一連の文章表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(11)甲第12号証について
雑誌「COMO」における商品広告を引用している。「トイレのラクラクおそうじ大革命」と題して、イラスト及び画像を伴って「トイレマジックリン パワーリキッド」の商品内容について商品説明を掲載しているものである。
ユーザー談話として「流すたびに洗浄液がまんべんなく流れるので、汚れがつかずに助かります。」を取り上げているが、商品の使用状況、使用方法、作用、効果などについて詳しく記述的に説明されている広告記事内において、「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは、誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とは、なり得ない。
(12)甲第13号証について
雑誌「たまごクラブ」における商品広告を引用している。「流すだけでキレイにお掃除」と題して、イラスト及び画像を伴って「トイレマジックリン パワーリキッド」の商品内容について商品説明を掲載しているものである。「スライドイン洗浄とは?」の表題の下、「独自の洗浄成分ZPが、水を流すたびに便器の表面に吸着してミクロの水の膜を作ります。水を流すとすきまに成分が浸透。汚れを溶かして落とします。」と記載されている。
要するに、前述と同様に、商品の記述的説明が行われているにすぎない。 どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを説明しているものであり、一連の文章表現中において「流すたびに」が使用されているからといって、本件商標が自他商品識別力を発揮し得ないとするのは誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(13)甲第14号証について
雑誌「ESSE」における商品広告を引用している。
「水を流すたびに洗浄。菌の発生を抑える効果も。」「何しろタンクの上に『置く』だけですからね。それで水を流すたびに汚れを落としてくれて、菌の発生も抑えてくれるなんて、ラクラクお掃除、というよりお掃除じゃないみたいです」などの記載が存在する。
要するに、商品の具体的使用状況を通常の具体的表現で説明しているにすぎず、商品説明としての一連の文章表現中において「流すたびに」が状況説明として他の説明用語とともに使用されているとしても、抽象的文言としての「流すたびに」のみからなる本件商標をこれらと同一視して自他商品識別力を発揮し得ないとするのは誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(14)甲第15号証について
雑誌「こっこクラブ」における商品広告を引用している。
「新タイプのトイレ洗剤がおすすめ!」と題して、イラスト及び画像を伴って「トイレマジックリン パワーリキッド」の商品内容について商品説明を掲載しているものである。
「独自の洗浄成分ZPによるスライドイン洗浄で、水を流すたびに便器についた汚れを浮かせて落とします。」「子どものためにもいつも清潔なトイレにしておきたいので、流すたびに毎回洗浄ができる『トイレマジックリン パワーリキッド』は、とても重宝。」などの記載が存在する。
要するに、商品の具体的使用状況を通常の具体的表現で説明しているにすぎず、商品説明としての一連の文章表現中において「流すたびに」が状況説明として他の説明用語とともに使用されているとしても、抽象的文言としての「流すたびに」のみからなる本件商標を、これらと同一視して自他商品識別力を発揮し得ないとするのは誤りである。
このような文章上の表現態様に対して、本件商標権の効力が及ぶか否か、換言すれば、商標法第26条第1項が働くか否かという観点において論じ得る問題になるとしても、本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(15)甲第16号証、甲第17号証について
「トイレマジックリン パワーリキッド」に関する商品記事であり、「流すたびに」が通常の用法に従って使用されていることを示すにすぎない。
どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを説明しているものであり、一連の文章表現中において「流すたびに」が使用されているのであって、上記商品広告と同様に本件商標の顕著性を否定する根拠とはなり得ない。
(16)甲第18号証、甲第19号証について
商品ヌメリとり剤に関する記事で、「水を流すたびに、徐々に溶け出した洗浄成分が、排水ロ全体にいきわたるので、排水ロ全体をきれいにできます。」「本体を排水ロに置くだけで、水を流すたびに洗浄成分が徐々にとけだし、排水口全体にいきわたる。」などの記載がなされているが、これとても、特定の状況を説明するために通常用いられる文章表現がなされているにすぎず、このような文章表現中にたまたま本件商標と同一の文言が混じっているからといって、本件商標の顕著性を否定する根拠となり得ない。
(17)甲第20号証について
「ダックリン」の商品記事であるが、上記新聞記事と同様に本件商標の顕著性を否定する根拠とは、なり得ない。
(18)結び
以上のとおり、甲各号証で示される「流すたびに」の用法は、商品の品質、機能、用途などを示すものとして使用されているのではなく、商品説明文中において、どのような状況において何を流すのか、そして流せばどのような効果があるのかを説明する一連の文章表現中において他の説明文言を伴って使用されているものであり、いわば文章表現として通常用いられる表現を行っているにすぎず、抽象的表現としての「流すたびに」が品質表示用語、機能表示用語、用途表示用語などとして用いられていることを示すものではない。
2 審査登録例について
(1)請求人は、審査登録例において示された事例は、本件とは事例を異にするとし、「何度でもテープ」について述べているが誤りである。
また、請求人は、登録第5097898号において「勝手にキレイ」を第3類において所有しているが、せっけん類との関係においては、つけ置き洗い、すなわち漬けておくだけでひとりでにキレイにしてくれる洗剤については、例えば「漬けておくだけで勝手にキレイにしてくれる」という文章表現が常識的に考えられるが、このような文章表現を根拠にすれば、請求人の弁によれば「勝手にキレイ」は、自他商品識別機能を発揮し得ないこととなる。
ちなみに、ウェブサイトにおいて、「銀の力でせんたくものキレイ」という商品が紹介されているが、商品説明文中において、「銀の力でせんたくものキレイで洗濯槽内もキレイにしてみませんか?お洗濯の時に洗濯物と一緒に洗濯機に入れるだけでOKです。後は勝手にキレイにしてくれます。」という説明文が存在する。
また、ウェブサイトにおいて、「くるりんポイ排水口 お湯を抜くたび勝手にキレイ!」が使用されている。
更にまた、ウェブサイトにおいて、「そんな時嬉しいのが、フィルター(プレフィルター)のお掃除を勝手にしてくれる空気清浄機。最近ではエアコンでも、フィルターのお掃除を勝手にしてくれるエアコンが大人気ですよね。フィルター(プレフィルター)を勝手にキレイにしてくれるから、お手入れが要らないですし、目詰まりがなくなるから、性能低下も防げます。」と説明されている。
すなわち、「勝手にキレイ」という文言は、商品説明文章中においては常識的に用いられるものであり、請求人の弁によれば、登録第5097898号「勝手にキレイ」も自他商品識別力を発揮し得ないこととなる。
更にまた、請求人は、登録第4778290号において、「とりさる」を第3類「化粧用コットン」において所有しているが、「とりさる」は、「とりのぞく。とりすてる。」を意味する一般的な通用語として広辞苑にも掲載されており、また、化粧品関係においても「とりさる」は、商品に関する文章説明中において常識的に使用されている。
例えば、ウェブサイトにおいて、「ハーピュアウオッシュオフクレンジング 弱酸性の洗い流し専用クレンジング。肌に必要な保護成分をとりすぎず汚れをとりさるリキッドタイプ。」などにその例を見ることができる。
すなわち化粧用コットンなどの化粧品関係において「とりさる」は、商品説明の文章表現中において常識的に使用されるものであり、請求人の弁を借りれば、登録第4778290号「とりさる」は、自他商品識別力を有しないこととなる。
3 本件商標「流すたびに」の造語性
本件商標「流すたびに」は、それのみをもってしては抽象的な表現にすぎず、商品の品質・用途等を表示するものではなく、その意味において指定商品との関係においては、一種の造語商標といい得るものである。
請求人は、広辞苑から「造語」の意味を引用し、被請求人が本件商標を造語商標であると主張することに対して、造語とは何かを知らない者の言うことであるとしている。
逆に指摘すると、請求人は、造語商標とは何かを知らない者ということができる。
たとえ、国語的に一般的に理解可能な語であっても、指定商品との関係において品質・用途などを表示するものとはいえず、また実際にそのような語として使用されていない語を商標として採択している場合、そのような商標を一種の造語商標と称するのである。
4 結び
以上のとおり、本件商標は、一種の造語商標を構成するものであり、商品「せっけん類」との関係において、商標法第3条第1項第3号に該当するものではなく、また、商品の品質の誤認を生じさせるおそれもないものであって、商標法第4条第1項第16号にも該当するものではない。

第4 当審の判断
本件商標は、「液体を低いほうへ移動させる。」ことを意味する「流す」の文字と、他の語と結合して「・・・するごとに。」の意味を形成する「たびに」(いずれも、株式会社岩波書店発行 広辞苑第五版)の文字とを連綴してなる「流すたびに」の文字よりなるものであるところ、請求人は、本件に係る指定商品中「せっけん類」に使用する時は、「洗浄剤を流すたびにトイレの洗浄を行うこと。」または「水を流すたびに洗浄を行うトイレ用洗浄剤」のごとき意味合いを直感させるものであり、自他商品の識別力を有しない旨主張し、甲第1号証ないし甲第20号証を提出している。
そこで、請求人の提出した甲各号証をみるに、それらは全て、音声又は文章の前後の関係の中で「水を流すたびに便器を洗浄」、「水を流すたびに便器の表面に吸着して」、「水を流すたびに汚れを落としてくれて、」等々、商品説明文中において、どのような状況において何を流すのか、そして、流した後どのような効果があるのかを、他の語を伴って使用されているものであり、「流すたびに」の文字が単独で請求人説示のごとき語として機能している証左は見出せない。
そうすると、「流すたびに」の語は、その前後に他の語を伴って始めて具体的な意味合いを明確にする語であり、それ単独では、「流すたびごとに」または「流すときはいつでも」程の漠然とした意味合いを暗示させることはあるとしても、「水を流すたびに洗浄を行うトイレ用洗浄剤」等の意味合いを直ちに理解、把握させるものとはいい難く、また、特定の商品の品質等を直接的かつ具体的に表示したものとはいえないと判断するのが相当である。
してみれば、本件商標は、自他商品識別標識としての機能を十分に果たし得るものであり、これを請求に係る指定商品、第3類「せっけん類」について使用しても、商標法第3条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件商標がその指定商品について使用された場合、商品の品質について誤認を生ずるおそれはなく、同法第4条第1項第16号に該当するものでもない。
したがって、本件商標は、同法第46条第1項の規定により、その指定商品中、第3類「せっけん類」についての登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2008-10-16 
結審通知日 2008-10-22 
審決日 2008-11-06 
出願番号 商願2004-67914(T2004-67914) 
審決分類 T 1 12・ 13- Y (Y03)
T 1 12・ 272- Y (Y03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 順子酒井 福造 
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 小川 きみえ
手塚 義明
登録日 2007-08-24 
登録番号 商標登録第5072478号(T5072478) 
商標の称呼 ナガスタビニ 
代理人 後藤 誠司 
代理人 稗苗 秀三 
代理人 大島 泰甫 
代理人 小原 順子 
代理人 宇野 晴海 

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