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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y43
管理番号 1186076 
審判番号 無効2007-890155 
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-09-20 
確定日 2008-10-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第5038973号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5038973号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第5038973号商標(以下「本件商標」という。)は、「アジエンス」の片仮名文字を標準文字で表してなり、平成18年8月11日に登録出願、第43類「宿泊施設の提供」を指定役務として、同19年4月6日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第41号証を提出した。
(1)引用商標
引用登録第4671421号商標(以下「引用商標」という。)は、「ASIENCE」の欧文字と「アジエンス」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、平成14年7月11日に登録出願、第3類「シャンプー,洗顔料.ボディシャンプー,その他のせっけん類,ヘアコンディショナー,ヘアケア用化粧品(医療用のものを除く。),ヘアスタイリング剤,ヘアカラー(頭髪用化粧品に属するものに限る。),スキンケア化粧品,美白化粧品,保湿効果を有する化粧品,化粧落とし(化粧品に属するものに限る。),美容パック(化粧品に属するものに限る。),ファンデーション,口紅,おしろい,ボディ用化粧品,ボディ用美白化粧品,ハンドクリーム,バスソルト,その他の化粧品,香料類,歯磨き」を指定商品として、同15年5月16日に設定登録されたものである。
(2)引用商標が需要者や取引者の間に広く知られていることについて
請求人は、「アジエンス」の名の下に2003年にシャンプー、コンディショナー、トリートメントを発売した。それ以来、今日まで継続して製造・販売をするとともに広告宣伝に力を入れてきた。その結果「アジエンス」の名は、請求人の製造・販売に係るシャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク等のせっけん類や化粧品を指称するものとして、現在はもちろんのこと、本件商標の出願の前から需要者の間に広く認識されるに至っている。
引用商標を使用したシャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスクは、「花王販売レポート」から明らかなように、請求人によって製造・販売されている(甲第3号証ないし甲第7号証)。そして、これらの商品は、主としてテレビや雑誌等のメディアを通じて広告・宣伝された。これらの広告取扱い費を広告会社別に見てみると、株式会社電通にあっては、2003年10月から2007年6月までに約63億円、株式会社博報堂にあっては、同じく、2003年10月から2007年6月までに約27億円、株式会社I&S BBDOにあっては、同じく、2003年10月から2007年6月までに18億円、株式会社大広にあっては、同じく、2003年10月から2007年6月までに約2億円、株式会社アサツーディ・ケイにあっては、同じく、2003年10月から2007年6月までに約1億円、合計で111億円以上の多きに上っている(甲第8号証ないし甲第12号証)。テレビを媒体として行った宣伝活動は、甲第13号証ないし甲第22号証に示すとおりである。かかる甲号証の映像には、そのいずれにも「ASIENCE」の文字が包装容器に映し出されており、また、「アジエンス」の音声が視聴者に届けられるようになっている。雑誌を媒体として行った宣伝活動としては多数あるが、雑誌の1又は2頁全面を使用して行っている(甲第23号証ないし甲第37号証)。
請求人は、以上のようにしてテレビコマーシャルメッセージや雑誌広告を継続的に行うことにより、「アジエンス」の広告宣伝に努めてきた。そして、具体的には、商品を掲載した販売レポートやカタログをもって具体的内容を示しながら販売に努めたのである(甲第3号証ないし甲第7号証)。このような広告宣伝活動が功を奏し、現在ではもちろんのこと本件商標の出願前においても、上述したシャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク等のせっけん類や化粧品「アジエンス」の名は広く需要者や取引者に知られるようになった。「アジエンス」の名が広く需要者や取引者に知られていることについては、請求人が毎年行っているベンチマーク調査によっても確認されている。ここに提出する甲第38号証は、株式会社マーケティング・リサーチ・サービスが行ったベンチマーク調査の説明書であり、甲第39号証は、ベンチマーク調査結果における知名率トレンドの推移表である。ここで、非助成知名(MA)は、問いかけに対して知っているシャンプー、コンディショナーの中で「アジエンス」を挙げた率、助成知名は、「アジエンス」を知っているかとの問いかけに対して知っていると答えた率である。この推移表から明らかなように、本件商標の出願前の2006年5月においてさえも非助成知名で24.6%の知名率があり、助成知名率に至っては、80.9%もの知名率を誇っている。その傾向は、現在も続いている。してみると、「アジエンス」は、需要者や取引者の間に広く認識されているとすることに寸疑の余地もないのである。
(3)請求人が多角経営を行っていることについて
請求人は、明治20年の創業に係るもので、以来、主として石鹸、洗剤、化粧品等の製造販売をし、更には、定款に見られるように種々の業務を行っている(甲第40号証)。具体的には、花王商事株式会社会社案内に見られるように関係会社を通じて旅行業務も行っている(甲第41号証)。
(4)商標法第4条第1項第7号について
「アジエンス」は、上述したように需要者や取引者の間に広く知られているから、宿泊施設の提供を業務とする者にとって、これを知らないはずはないのである。言い換えると、宿泊施設には、浴場があり、浴場ではシャンプー、コンディショナー、トリートメント等が使用される。したがって、これら商品は、いわば宿泊施設にとっては、必需品なのである。このような状況の下で、商標権者が造語である「アジエンス」の文字を商標として採択することの偶然性は、皆無といってよい。むしろ商標権者は、「アジエンス」の文字や称呼が、上述したように需要者や取引者の間に広く知られていることを承知の上で、「アジエンス」についての商標登録出願をしたものと考えるのが自然である。そうすると、商標権者の行為は、宿泊施設の提供という役務に「アジエンス」という文字を使用することにより、宿泊設備中の浴場において使用される「アジエンス」とを結び付け、「アジエンス」の名声に便乗せんとする意図によるものであることが見え見えなのである。
してみると、本件商標は、公の秩序、善良の風俗を害する商標といわなければならないから、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものといわなければならない。
(5)商標法第4条第1項第15号について
多くの企業が多種多様の業務を営み、特定の一つの商標を複数の商品や役務にそれぞれ使用していることのあることはよく知られている。請求人もまた上述したように多種多様の業務を行っている(甲第40号証)。具体的には、関係会社を通じて旅行業務も行っている(甲第41号証)。宿泊施設の手配が旅行業務における業務の一つであるということはいうまでもない。このようなとき、手配された宿泊施設の名称が「アジエンス」であったとき、その宿泊施設の利用者は、どのように感じるであろうか。また、上述したように宿泊施設には、浴場があり、シャンプー、コンディショナー、トリートメント等は、浴場で使用される必需品であるから、宿泊施設の名称とシャンプー、コンディショナー、トリートメントの名称とに同時に接することになる需要者は、どのような反応をするであろうか。念のため「アジエンス」についての周知・著名性について再述すると、上述したように、本件商標の出願前、登録後を通じて、いずれも80%以上の助成知名率を誇っているのである。されば当然ながら、宿泊施設の名称に接した宿泊施設の利用者は、宿泊施設の浴場で使用されるシャンプー、コンディショナー、トリートメント等「アジエンス」の周知・著名性にかんがみ、本件商標が使用されている役務の提供者についても請求人又は請求人の関係者ではないかと誤認・混同をするのである。
してみると、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標といわなければならないから、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものである。
(6)答弁に対する弁駁
ア 商標法第4条第1項第7号について
(ア)被請求人は、請求人が「アジエンス」の名の下に2003年にシャンプー、コンディショナー、トリートメントを発売して以来、継続して製造・販売をするとともに広告宣伝に力を入れてきた結果、「アジエンス」の名は、せっけん類や化粧品を指称するものとして現在はもちろんのこと、本件商標の出願前から、需要者の間に広く認識されるに至っているとの意味合いの証拠を提出して述べたことに対して、「この使用、広告の対象は、全て女性の頭髪に関するものに限られており、その使用期間は、4年程度である」から、「女性の頭髪用の美容品についてのみ、一部の需要者や取引者にのみ知られている程度のものである」と主張している。
確かに、引用商標の使用期間は4年程度であり、引用商標を使用した商品は、主として女性を対象とするものであることはそのとおりではある。しかしながら、商標の知名度は、その商標の使用期間が4年程度であることや主として女性を対象とする商品についてであることにより否定されるものではない。先に提出した甲第8号証ないし甲第12号証によって明らかなように、広告取扱い費は、わずか4年で111億円の多きに上っており、その広告媒体もテレビや雑誌というメディアを通じてのものである。テレビを媒体として行う宣伝活動は、テレビの視聴者を男性であるか女性であるかを区別しない。このような状況の中で、需要者を対象とした知名率調査において、甲第39号証に示したように助成知名率は、2006年5月には、80.9%、2006年11月には、79.9%となっている。すなわち、「アジエンス」の名は、需要者の5人に4人は知っているのであるから、これを需要者の間に広く知られているといわなければ何を広く知られているというのであろうか。「アジエンス」が需要者の間に広く知られていることは、余りにも明白である。したがって、「一部の需要者や取引者にのみ知られている程度のものである」とする被請求人の認識は、いささか見当違いである。
(イ)被請求人は、請求人が、宿泊施設には浴場があり、浴場ではシャンプー、コンディショナー、トリートメント等が使用されるから、これらの商品は、いわば宿泊施設にとっては、必需品であると述べたことに対して、「宿泊の利用者が個人(一般消費者)向けの『シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク等の商品に付された商標の使用者』と、『宿泊施設の提供の役務者』とを同一であると誤認・混同をすることは、常識では考えられない」と主張している。
しかしながら、何故常識では考えられないのかの具体的な説明はない。ところで、昨今、役務提供者が、その役務に関連して、その提供の用に供される物品に施設に付されたと同様の標章を付して利用者の便に供されることは、ごく普通に行われていることとしてよく知られている。例えば、ホテルに宿泊すれば浴室や浴場には、必ずといって良いほど、せっけん、シャンプー、リンス、トリートメント等のせっけん類や化粧品が常備されており、その包装紙や包装用袋には、その施設名が表示されている。この標章は、施設に付随する業務における役務商標である場合もあり、また、販売されることにより、商品商標でもある場合もあるであろう。かかる意味合いにおいて、本件商標に係る指定役務と引用商標に係る指定商品とは関係があるのである。なお、被請求人は、請求人があたかも「商標又は役務の類似範囲を故意的かつ主観的に過大拡張した」と指摘するが、請求人は、本件商標に係る指定役務と引用商標に係る指定商品とが類似であるとは、一言も述べていない。述べていないからこそ商標法第4条第1項第11号の規定に問うてはいないのである。
(ウ)被請求人は、本件商標は、「日本国内において周知のアジアン(Asian:アジアの)とエッセンス(essence)との2語を連結して『アジエンス』なる名称を創造」と述べるとともに「創作性、独創性の高いものではない」と述べている。
しかしながら、「アジアン」の文字と「エッセンス」の文字を結合しても「アジエンス」にはならない。仮に「アジアン」の文字を案出するとすれば「アジアン」の語頭2文字と「エッセンス」の語頭の1文字、2文字とばして語尾の「ンス」の2文字とを結合したことになる。造語には大きく分けて二通りあり、既成語の複数を結合した結合商標、全く観念を有さない本当の意味での造語とがあり、「アジエンス」は後者に属する。被請求人は、「アジエンス」を「アジアン」と「エッセンス」との2語を連結したと述べるが、先に指摘したように「アジエンス」は、2語を結合したような既成語によるものではなく、完全な造語なのである。このような造語が、指定商品との関係で需要者の間に広く知られている請求人の引用商標と無関係に創作されるはずはないのである。
(エ)以上のことを総合すると、被請求人が造語である「アジエンス」の文字を商標として採択することの偶然性は皆無といってよく、むしろ、既述したように、「アジエンス」の文字や称呼が、指定商品との関係で需要者や取引者の間に広く知られていることを承知の上で商標登録を受けたことになるのである。
イ 商標法第4条第1項第15号について
(ア)被請求人は、「甲第41号証において関連会社(花王商事株式会社)が旅行業務を行っていると主張しているが、業務の一部として会社案内に記載されている程度で、『かかる事実は世に知られている。』とは、到底いえない」と述べている。
被請求人は、請求人の文章を適当に編集して審理をミスリードするようなことをしている。請求人は、「多くの企業が多種多様な業務を営み、特定の一つの商標を複数の商品や役務にそれぞれ使用していることはよく知られている。」と述べたのであって、また、請求人もまた多種多様な業務を行っており、関係会社を通じて旅行業務も行っていると説明をしたのである。すなわち、世に知られているのは、多種多様の業務を行っていることである。旅行業務については、多種多様の業務を行っているうちの一つの業務であること、旅行業務と宿泊施設の提供とは密接な関係にあることを述べたのである。
(イ)被請求人は、「請求人は、商品『シャンプー、コンディショナー、トリートメント』の名称が、『宿泊施設の名称』と宿泊施設を利用する利用者が混同すると主張している」と述べている。
しかしながら、この陳述は、請求人には何をいっているのかさっぱり分らない。請求人は、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であると主張しているのである。念のため、先の主張を繰り返すが、昨今、役務提供者がその役務に関連して、その提供の用に供される物品に施設に付されたと同様の標章を付して利用者の便に供されることがごく普通に行われていることはよく知られている。例えば、ホテルに宿泊すれば、浴室や浴場には必ずといって良いほど、せっけん、シャンプー、リンス、トリートメント等のせっけん類や化粧品が常備されており、その包装紙や包装用袋にはその施設名が表示されている。このような状況の中で、施設名が「アジエンス」で浴室や浴場に常備されているせっけん、シャンプー、リンス、トリートメントが「アジエンス」であれば、その施設を利用した利用者は、役務も商品も同一人の業務に係るものと混同を生ずるおそれがあるのである。まして、引用商標が指定商品との関係で需要者の間で広く知られていることを併せ考えればなおさらである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁及び弁駁に対する答弁をし、その理由を以下のように述べた。
(1)商標法第4条第1項第7号について
ア 「請求人が使用して需要者や取引者の間に広く知られている引用商標」について
請求人が引用商標の商標権者であり、2003年から、商標「ASIENCE/アジエンス」を商品「シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク」に使用、広告を始めていることは認められる。しかし、この使用、広告の対象は、全て女性の頭髪に関するもの(シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク)に限られており、その使用期間は4年程度である。よって、「需要者や取引者の間に広く知られている」との請求人の主張は、「女性の頭髪用の美容品(シャンプー、コンディショナー、ドノートメント、ヘアマスク)についてのみ、一部の需要者(これら美容品の使用者)や取引者(販売業者)にのみ知られている」程度のものであると考えるのが妥当である。
イ 「引用商標の文字と同一性を有する文字と同一の称呼からなり」について
本件商標が「アジエンス」であり、請求人が使用している商標の一部に「引用商標の文字と同一性を有する文字と同一の称呼からなるもの」が存在することは認める。
ウ 「請求人の業務と密接に関係のある役務」について
請求人の使用、広告している商品は、女性の頭髪の美容品(シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク)に限られており、しかも、個人(一般消費者)向けであり、通常の宿泊施設に設置されている業務用の商品ではない。女性の頭髪の美容に使用されている個人向けの「シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク」に付された商標が、第43類「宿泊施設の提供」なる役務に「密接に関係がある」との請求人の主張は、商標又は役務の類似範囲を故意的かつ主観的に過大拡張したものである。すなわち、女性の頭髪用の「シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク」の販売にかかわる「請求人の業務」と、本件商標の「宿泊施設の提供」なる役務とが全く関係がないとはいえないまでも「密接に関係がある」とは、現実を無視した論理である。宿泊施設の提供なる役務は、宿泊施設に入浴施設が付設されている場合が多いにしても、宿泊の利用者が個人(一般消費者)向けの「シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク等の商品に付された商標の使用者」と、「宿泊施設の提供の役務者」とを同一であると誤認・混同することは常識では考えられない。
エ 「需要者や取引者の間に広く知られている引用商標の名声に便乗しようとする」について
被請求人は、いずれも日本国内において周知のアジアン(Asian:アジアの)とエッセンス (essence)との2語を連結して「アジエンス」なる名称を創造して商標登録し、店舗内外装、備品などをアジアの風味、妙味に設定した宿泊施設を提供する役務を行っているものである。「アジエンス」は、アジアンとエッセンスとを連結した造語ではあるが、通常の一般人が「アジア的な風味、妙味」という語義を連想できる程度のものである。すなわち、女性の頭髪用の「シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク」と「宿泊施設の提供」とを混同するほど創作性、独創性の高いものではない。よって、アジアのエッセンスや妙味を施設内外装、備品のコンセプトとした宿泊施設を提供する役務を行っている被請求人が、女性の頭髪の個人向け美容品(シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク)に限られて使用されている請求人の商標「ASIENCE」ないし「アジエンス」などに便乗しても、なんの利益もないことは自明である。もちろん、使用しているシャンプー、リンス等も他メーカーの紅茶のにおいをテーマにしたアジアンティストな容器のものである。
オ 本件商標の「公の秩序、善良の風俗を害するおそれ」について
以上のごとく、被請求人が「アジエンス」なる本件商標を、役務「宿泊施設の提供」に使用しても、需要者が女性の頭髪の個人向け美容品(シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアマスク)を製造販売している請求人の業務と混同することはない。よって、本件商標の使用が公の秩序、善良の風俗を害するおそれがあるとの請求人の主張は全く根拠がない。
カ 弁駁に対する答弁
請求人はあくまで、「アジエンス」なる本件商標が、TVコマーシャルなどによる広告取り扱いの費用が多額なることを主張することのみにより、需要者に広く知られていると主張している。しかしながら、その広告費用の用途・割合(TV局に支払われるCM放送費用の「アジエンス」なる本件商標にかかる部分の実績などの内訳)は開示されておらず、TVコマーシャルの放映時間も短時間である。また、雑誌などへの広告に関しても、情報、商品が氾濫している現代において、読み手の年齢、性別、嗜好で不特定多数には無視される確率が高く、限られた年代・性別のみをターゲットとして提供されるものであることは広告の常識である。
よって、「アジエンス」なる本件商標を全国の幅広い年代の消費者が知っていることは有り得ず、「アジエンス」なる本件商標が宿泊施設の提供など関係の薄い商品、サービスと混同するほど周知、著名ではないことは自明である。
さらに、請求人は「需要者を対象とした知名率調査を行った」と主張しているが、知名率調査が行われた日時・場所・規模の開示がなく、その「需要者」については「女性の頭髪用の美容品の需要者」、すなわち主に女性の若い世代であると推定される。
このような請求人の主導による「女性の頭髪用の美容品に興味を示し易い年代」を主体とした限定的調査により、あたかも全国の日本人の5人に4人が知っているような表現は明らかに過大であり、さらに性別を間わない幅広い年齢層の知名率調査であるがごとき請求人の主張は、事実を無視した誇張である。
したがって、請求人が「需要者を過大に大きな枠組みで表現している以上、様々なメーカーによる多種多用な美容品情報が氾濫する現在、被請求人の「一部の需要者や取引先にのみ知られている程度のものである」とする表現は、極めて妥当であり、いささかも見当違いではない。
請求人は「ホテルに宿泊すれば浴室や浴場には必ずといってよいほど、石鹸、シャンプー、リンス、トリートメント等のせっけん類や化粧品が常備されており、その包装紙や包装用袋には、その施設名が表示されている」とし、「この標章は、施設に付随する業務における役務商標である場合もあり、また販売されることにより商品商標でもある場合もあるであろう。」と断定しているが、長年にわたって宿泊施設を営業している被請求人は、このような事実は空想の産物にすぎず、請求人が宿泊施設を本当に調査したのか、大いに疑問であると思料する。
また、請求人は、「アジエンス」なる本件商標を付した一般需要者向けの女性の頭髪用の美容品である「シャンプー、リンス、トリートメント等」が、業務用の頭髪用の美容品の使用が一般的である宿泊施設の必需品である」と断定した上で、調査もせずに最初から「宿泊施設の提供の役務」と誤認・混同する旨を主張している。しかしながら、長年の宿泊施設の提供者である被請求人は、「一般需要者向けの女性の頭髪用の美容品であるシャンプー、リンス、トリートメント等が宿泊施設の必需品である」という断定も、「宿泊施設の提供の役務」と誤認・混同するとの断定も非常識であるため、「宿泊施設の提供の役務者とシャンプー、リンス、トリートメント等の製造販売業者とを宿泊者が誤認混同するなどということは常識では考えられない」と主張したものである。
なぜなら、一般の宿泊施設の提供者は、石鹸、シャンプー、リンス、トリートメント等のせっけん類や化粧品はもちろんのこと、歯ブラシ、かみそり、くし、ヘアバンドにいたる一切の業務用備品(アメニティ商品)を多数の各種製造メーカーから仕入れ、そのまま提供しており、これら業務用備品の製造メーカーと宿泊施設の提供者とが同一または関連すると誤認するということは生じ得ないからである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 「請求人は種々の業務を多角的に行っており、かかる事実は世に知られている。」について
甲第40号証において「宿泊施設の運営」が記載されているが、実績の開示、証明がなく、甲第41号証において関連会社(花王商事株式会社)が旅行業務を行っていると主張してるが、業務の一部として会社案内に記載されている程度で「かかる事実は世に知られている。」とは到底いえない。
イ シャンプー、コンディショナー、トリートメントの名称と宿泊施設の名称との誤認・混同について
請求人は、商品「シャンプー、コンディショナー、トリートメント」の名称が、「宿泊施設の名称」と宿泊施設を利用する利用者が混同すると主張している。
しかしながら、宿泊施設には宿泊者の必要とする多種類の物品が使用されており、宿泊者が単に浴室などに設置されている女性の頭髪用品「シャンプー、コンディショナー、トリートメント」と宿泊施設の名称とが同一であると誤認・混同するとは、「宿泊施設で使用される宿泊者の必要とする多種類の物品の全て」が「宿泊施設の名称」との誤認・混同すると同一の論理である。すなわち、女性の頭髪にのみ使用される「シャンプー、コンディショナー、トリートメント」の名称「アジエンス」を宿泊施設の利用者が知っていたと仮定しても、「アジエンス」なる名称(本件商標)の宿泊施設が、同一又は関連する営業主体のものであると誤認・混同することは、通常は起こり得ない。
ウ 弁駁に対する答弁
請求人は「旅行業務については多種多様の業務を行っているうちの一つの業務であること、旅行業務と宿泊施設の提供とは密接な関係にあること」と述べているが、不適切な三段論法により商標又は役務の類似範囲を故意的かつ主観的に拡大主張しているにすぎない。すなわち、旅行業務者と、シャンプー、コンディショナー、トリートメントの名称とは、およそ関連性を想像することは困難である。
また、請求人はごく普通に行われていることとして、「その提供者の用に供される物品に施設に付されたと同様の標章を付して利用者の便に供される」としているが、一部のメジャー施設を除き、日本における圧倒的大多数の一般的施設においてそのような事実は存在せず、圧倒的大多数の一般的施設は、歯ブラシメーカー、剃刀メーカーなど、その施設に統一されていない業務用備品(アメニティ商品)製造メーカー別の包装のものをそのまま使用している。
また、圧倒的大多数の一般的宿泊施設におけるせっけん類、美容品類についても、業務用備品(アメニティ商品)製造メーカー別の包装がそのまま使用されているのが現状であり、請求人の主張する「施設に付されたと同様の標章を付す」という提供方法は費用がかさむため、ごく少数の高級施設でのみ散見されるにすぎない。
すなわち、「その施設を利用した利用者が、役務も商品も同一の業務に係るものと混同するおそれがある」とする請求人の見解は、まさしく事実を認識しない見当違いのものであり、「請求人は商標又は役務の類似範囲」を故意的かつ主観的に拡大主張していることは明白である。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知・著名性について
ア 請求人の提出に係る証拠に請求人の主張を併せみれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人は、明治20年の創業に係る法人であり、以来、主として石鹸、洗剤、化粧品などの製造販売を行い、更には、食品・日用雑貨品・衣料品・医薬品・家庭用電器製品の製造販売、ヘアサロンの経営、不動産の売買・賃貸・管理、保険代理業、旅行業、研修所・宿泊施設の運営など種々の業務を行っている(甲第40号証)。旅行業については、関係会社である花王商事株式会社を通じて行っている(甲第41号証)。
(イ)2003年秋以降、請求人が商品「シャンプー、コンディショナー、トリートメント、等」(以下「シャンプー等」という。)を取り扱い、その商品に引用商標を使用してきた(甲第3号証ないし甲第7号証)。
(ウ)本件商標の出願日前に上記商品の宣伝・広告がテレビ放映、ラジオ放送、雑誌掲載を通じて盛大に行われ、これらの広告取扱い費が2003年10月から2007年6月までに、広告会社である株式会社電通、株式会社博報堂、株式会社I&S BBDO、株式会社大広、及び、株式会社アサツーディ・ケイを通じて、合計で111億円以上の多きに上っている(甲第8号証ないし甲第12号証)。
(エ)上記商品に関する広告記事が本件商標の出願日前に実際に雑誌に多数掲載された(甲第23号証ないし甲第37号証)。
(オ)株式会社マーケティング・リサーチ・サービスが実施したベンチマーク調査によれば、本件商標の登録出願前である2006年5月において非助成知名率(問いかけに対して知っているシャンプー、コンディショナーの中で「アジエンス」を挙げた率)が24.6%、助成知名率(「アジエンス」を知っているかとの問いかけに対して知っていると答えた率)が80.9%であり、その傾向はその後も続いている(甲第38号証、甲第39号証)。
イ 以上の事実を総合すれば、2003年秋以降、請求人が引用商標をシャンプー等に使用し、テレビ、ラジオ及び雑誌を通じて、盛大に宣伝・広告に努め、その結果、本件商標の出願日(平成18年8月11日)前において、請求人の商品を表すものとして、取引者・需要者間に広く知られるに至っていたものであることが認められ、その状態は登録査定時(平成19年2月19日)においても継続していたものと認められる。
(2)本件商標と引用商標との類似の程度について
本件商標は、「アジエンス」の文字を標準文字で表してなるのに対し、引用商標は、「ASIENCE」の欧文字と「アジエンス」の片仮名文字よりなるものであるから、両商標は、「アジエンス」の称呼を共通にし、かつ、本件商標と引用商標中の片仮名文字も同じくするものであるから、外観においても近似する類似の商標というべきである。
(3)本件商標の指定役務と引用商標の使用商品との関連性について
引用商標の使用に係るシャンプー等は、宿泊施設に常備されている商品であり、その包装紙や包装用袋には、その施設名が表示されている場合もあることは、経験則に照らして是認できるところであり、シャンプー等と本件商標の指定役務「宿泊施設の提供」とは、その需要者を共通にすることからも密接な関連性を有しているものと認められる。
(4)商標法第4条第1項第15号について
上記(1)ないし(3)で認定したとおり、引用商標は、請求人の業務に係る商品「シャンプー等」を表示するものとして、我が国において広く認識されている商標であり、かつ、本件商標と引用商標とは類似する商標であって、本件商標の指定役務は、引用商標の使用商品と密接な関連性を有しているものである。
そうすると、本件商標は、これをその指定役務について使用したとき、これに接する取引者・需要者をして、請求人の使用に係る著名な引用商標を連想・想起し、該役務が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。
してみれば、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものである。
(5)被請求人の主張について
被請求人は、「本件商標権者は、いずれも日本国内において周知のアジアン(Asian:アジアの)とエッセンス(essence)との2語を連結して『アジエンス』なる名称を創造して商標登録し、店舗内外装、備品などをアジアの風味、妙味に設定した宿泊施設を提供する役務を行っている」と述べ、「『アジエンス』なる名称は、通常の一般人が『アジア的な風味、妙味』という語義を連想できる程度のものであり、創作性、独創性の高いものではない。」旨述べているが、「アジエンス」は、被請求人も述べるとおり、特定の観念を有さない造語であるというべきであり、独創性が高いあるいは低いともいえるものではない上に、商標の採択において偶然に一致したものであるとしても、前記認定、判断が左右されるべきものではない。
(6)結び
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、請求人の主張するその余の理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2008-07-30 
結審通知日 2008-08-05 
審決日 2008-08-21 
出願番号 商願2006-75668(T2006-75668) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Y43)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平山 啓子 
特許庁審判長 伊藤 三男
特許庁審判官 岩崎 良子
酒井 福造
登録日 2007-04-06 
登録番号 商標登録第5038973号(T5038973) 
商標の称呼 アジエンス 
代理人 石黒 健二 
代理人 宇野 晴海 

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