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審決分類 |
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z14 審判 一部無効 称呼類似 無効としない Z14 審判 一部無効 観念類似 無効としない Z14 審判 一部無効 外観類似 無効としない Z14 審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Z14 |
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管理番号 | 1179141 |
審判番号 | 無効2007-890017 |
総通号数 | 103 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2008-07-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2007-02-19 |
確定日 | 2008-04-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4558872号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第4558872号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成13年6月28日に登録出願、第14類「貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器,こしょう入れ,砂糖入れ,塩振出し容器,卵立て,ナプキンホルダー,ナプキンリング,盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶,水盤,針箱,宝石箱,ろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口,靴飾り,コンパクト及び財布,貴金属製喫煙用具,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,時計,記念カップ,記念たて,キーホルダー」を指定商品として、同14年3月5日に登録査定がなされ、同年4月12日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、本件商標の指定商品中の「時計」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第104号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 請求の理由の要旨 本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第11号に違反してされたものである。 (1)請求人の引用する商標 請求人が本件商標の無効の理由に引用している商標は、下記の2件の商標である。 (a)本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同第15号の無効理由に該当するものとして引用している商標は、「CHOOP」の欧文字からなる商標であり、請求人が衣類及び時計類に使用して周知・著名になっていると主張している商標である(以下「引用商標1」という。)。 (b)本件商標が商標法第4条第1項第11号の無効理由に該当するものとして引用している商標は、別掲(2)のとおりの構成からなる商標であり、平成6年12月20日に登録出願、第14類「時計」を指定商品として、同9年5月16日に設定登録された登録第3305786号商標である(以下「引用商標2」という。)。 (2)引用商標1の周知・著名性の獲得について 「CHOOP」の欧文字からなる引用商標1は、1994年頃から使用を開始しており(甲第3号証)、本件商標の出願時点である2001年頃には既に「シュープ」の称呼によって需要者や取引者の間で周知となっていた商標である。周知であることは、以下の証拠によって明らかである。 (ア)雑誌による引用商標1の周知化 引用商標1を使用し始めた頃は、「CHOOP」は「シュープ」と称呼するものであることを特に需要者に印象付けるために、そのための説明を加えるなどの特別の努力を払っていた。 (a)例えば、1994年12月及び1995年1月発行の少女向け雑誌である「Zipper」(甲第4号証及び同第5号証)には、「CHOOP」の文字の下に、「シュープから始めよう」「カジュアルのニューエントリィ(シュープ)」と「シュープ」の称呼をカタカナ文字で表した記載がある。同時期の他の雑誌、例えば、1994年11月発行の「CHECK MATE」(甲第6号証)や1994年12月発行の「mcSister」(甲第7号証)、1995年1月発行の「SEDA」(甲第8号証)にも同様に掲載されている。同じく、1995年5月発行の雑誌「Lemon」(甲第9号証)には、「CHOOP」の文字と「シュープ」が併記されている以外に、囲み枠で「シュープってなーんだ!?」のタイトルの下に当該ブランドについて紹介されている。このような「CHOOP」ブランドの紹介記事は、1994年11月及び1995年4月発行の「Zipper」(甲第10号証及び同第11号証)など数多く掲載されている。 更に、1995年11月発行の「POMME」(甲第12号証)や1995年11月発行の「Lemon」(甲第13号証)でも、「CHOOP」のブランド説明や「CHOOP」を「【シュープ】と読みます!とーぜん知ってた!?」などと「シュープ」の称呼の周知化を図ることを目的とした宣伝広告が行なわれている。 その後、1996年10月に雑誌「Olive」(甲第14号証)が発行される頃には、「CHOOP」即ち「シュープ」であるとの認識が定着したため、初期の頃のような懇切丁寧な「シュープ」のブランド説明などはする必要も無くなり、1997年頃の雑誌広告には省略されるようになった。例えば、1997年4月発行雑誌「たまごクラブ」(甲第15号証)などを見ても、もはやブランド説明などは見当たらなくなり、単にカタカナ文字「シュープ」が併記されるのみになっている。 (b)また、カタカナ文字「シュープ」単独でも商標「CHOOP」としての機能を発揮するようになり、例えば、1998年4月発行の「Olive」(甲第16号証)には、「アクティブに着こなせ!『CHOOP/シュープ』のカラフル旋風。」の表題の下「シュープ」単独の表記が商品の出所を示す機能を果たしており、その証拠として「リストウォッチ左¥3,800右¥4,800(共にシュープ/シチズン商事)」等の記載が、又、1998年10月発行の「sesame」(甲第17号証)にも、「時計¥3,800シュープ(シチズン商事)」、「時計¥3,800シュープ 下・右」等の記載が頻出している。 このように、既にこの頃にはカタカナ文字「シュープ」という表記をすれば当然、商標「CHOOP」のことを指し示しているものと一般的に理解されており、カタカナ文字「シュープ」単独で使用されても商標的機能を発揮し、その信用が商標「CHOOP」に蓄積されていったのである。 なお、前述のシチズン商事は、請求人から引用商標1の使用の許諾を受けた法人である。 (c)その後も、引用商標1「CHOOP」は、カタカナ表記「シュープ」を併記したり、単にカタカナ表記「シュープ」のみでも使用され、例えば、1999年4月号の少女向け雑誌の学研「ピチレモン」(甲第18号証)には、「春のオシャレはCHOOP/シュープにそろってるよ!」の表題の下で、「リスのマークがトレードマークで、みんなに大人気のシュープ。」「オシャレするならシュープにおまかせ!」の記載があり、その他にも、1999年5月号の同雑誌(甲第19号証)、2000年4月号の雑誌「nicola」(甲第20号証)、2000年6月号の雑誌「Happie/ハピー」(甲第21号証)、2001年4月号の雑誌「ピチレモン」(甲第22号証)においても、「シュープ」を併記したり、「シュープ」単独でも記載されている。 (d)上述したような変遷を経て、引用商標1「CHOOP」は、「シュープ」の称呼で周知になっており、その周知性は、引用商標1を使用するファッション関連商品である「時計」にまで広く及んでいる。 例えば、1997年9月号の雑誌「JUNIE」(甲第23号証)には、「時計は今やアクセサリー。服のテイストに合わせて選びたいね。このCHOOPの時計はポップなカットソーにツートンの色がピッタリ!文字盤のロゴ+花のデザインもいい。」の宣伝文句と共に「CHOOP」の衣類を身に着けたモデルが「CHOOP」の時計を着用している写真が掲載されているが、これを見ると時計がファッションの一部として宣伝されていることが明らかである。同様の宣伝広告は、1997年5月号の雑誌「JUNIE」(甲第24号証)、1997年12月号の雑誌「Lemon」(甲第25号証)、1997年11月号「JUNIE」(甲第26号証)、1998年5月号「JUNIE」(甲第27号証)にも載せられている。 この他、1996年5月号の雑誌「Wink up」(甲第28号証)、1996年6月発行の「sesame」(甲第29号証)、1997年9月号の雑誌「Cawaii」(甲第30号証)、1997年4月号の雑誌「Cawaii」(甲第31号証)、1997年8月号の雑誌「Lemon」(甲第32号証)等の広告文を見れば、「時計」が衣類等と密接な関わりを持っている商品であることが明白である。「時計」は、衣類やカバン、靴などのファッション関連商品と共にコーディネートされて広告宣伝されるのが大部分であり、この事実は甲第33号証ないし同第43号証等をみれば首肯できるところである。 そして、ファッション関連商品をトータルにコーディネートして雑誌広告に載せることにより、衣類などの商品について「CHOOP」が「シュープ」の称呼で周知になると同時に、それらの商品とコーディネートして同時に用いられる商品である時計についても、「CHOOP」は「シュープ」の称呼で周知になっていくのである。 (イ)テレビコマーシャルによる引用商標1の周知化 引用商標1「CHOOP」の全てのテレビコマーシャルにおいて、「CHOOP」の英文字の画面と共に「ストリートカジュアル・シュープ」という音声(甲第44号証、同第45号証)が流されているが、この音声の表現内容は、「カジュアルなストリートファッションブランドのシュープ」というメッセージを需要者に送るものであり、衣類並びにそれに関連する商品に関し、商標「CHOOP」を付した商品を統合することによって提案するファッションスタイルをも広告宣伝しているのである。 その結果、需要者は、衣類並びにそれに関連する商品である時計類等について、商標「CHOOP」の称呼は「シュープ」であると認識するのである。 テレビコマーシャルとしては、「リスを置く」編、「待ち合わせ」編、「リスとおおかみ」編、「愛すべきリスたち」編、「99年 シュープ春」編のスポット広告が作成され放映された(甲第44号証及び同第45号証)。例えば、「リスを置く」編は、リスの図形と「CHOOP」の英文字の画面が出て「ストリートカジュアル・シュープ」の音声が流される内容の広告である。そして、これらの広告は、甲第46号証ないし同第62号証のとおり、各放送局より提供された。 更に、上述したテレビコマーシャルの提供とは別に、主な需要者である小・中学生・高校生が休みとなる春休みや夏休みを狙って特別番組を制作し放送した。例えば、1998年8月には、「シュープ/CHOOP」の文字をそのタイトルの最初に付したテレビ番組が日本テレビ系列全国28局ネットで「シュープ/CHOOP夏休みスペシャル『入道雲は白,夏の空は青』」(甲第63号証の1ないし同第63号証の4、同第64号証)として放映されている。このような特別番組は、続いて1999年3月に「シュープ/CHOOP春休みドラマスペシャル『卒業旅行』」(甲第65号証の1及び同第65号証の3)、2000年4月に「CHOOP春休みドラマスペシャル『空のかけら?MESSAGE from the sky』」(甲第66号証の1及び同第66号証の2、同第67号証)として放映された。 (ウ)新聞広告による引用商標1の周知化 1998年8月15日付け読売新聞のテレビ番組欄のページに掲載されている前記提供番組『入道雲は白,夏の空は青』の広告(甲第63号証の2及び同第63号証の4)中や、1999年3月22日付け読売新聞のテレビ・ラジオ番組欄のページに掲載されている前記提供番組「卒業旅行」の広告(甲第65号証の3)中、2000年3月30日付けの日経流通新聞の全面広告(甲第66号証の2)中、及び2000年6月21日付の繊研新聞の全面広告(甲第68号証)で「シュープ」の称呼をカタカナで併記することによって引用商標1「CHOOP」が「シュープ」と称呼することを周知化している。 (エ)業界新聞による引用商標1の周知化 業界新聞として周知の繊研新聞において、1997年9月29日付の「岐路に立つライセンス事業既存ブランドのてこ入れ本格化」の記事(甲第69号証)をはじめ、甲第70号証ないし同第78号証の繊研新聞の各記事において、引用商標1「CHOOP」の拡大展開の内容が書かれている。そして、引用商標1「CHOOP」については、その称呼のカタカナ表記「シュープ」で記載されており、時計を含むファッション関係の人々に対して「シュープ」の称呼の周知化が確実に図られた。 (オ)広告宣伝費用及び売上実績 これまで述べてきたような広告宣伝の費用は、時計及び衣類等に関するものについて、市場価格ベースで1994年において715万円、1995年において1億円、1996年において8800万円、1997年において1億4300万円、1998年において4300万円、1999年において1億1400万円、2000年において1億1000万円、2001年において5600万円であり、合計約6億6000万円であった。 また、引用商標1を使用した時計類は、市場価格ベースで1995年から2001年において、合計約9億9300万円の売上実績があった。 (カ)以上のとおり、引用商標1「CHOOP」は、「シュープ」の称呼として、雑誌により、テレビコマーシャルにより、新聞の広告や記事によって、1994年頃から本件商標の出願時である2001年頃まで精力的に宣伝広告と販売を行い、本件商標出願時には全国的に周知になっているものである。 (3)商標法第4条第1項第10号について 本件商標は、その指定商品が引用商標1の使用商品に類似し、その構成文字「Shoop」から明らかに「シュープ」の称呼を生ずるので、需要者の間で周知になっている引用商標1「CHOOP」の称呼「シュープ」と類似する。 したがって、本件商標は、請求人の周知引用商標1と類似するので商標法第4条第1項第10号に該当し登録されるべきではない。 (4)商標法第4条第1項第15号について 本件商標は、その構成文字「Shoop」から、明らかに「シュープ」の称呼を生ずるので、全国的に需要者の間で周知になっている引用商標1「CHOOP」の称呼と同一であり、時計(審判注:「時計及びこれらの類似商品」と主張するが、平成19年12月27日付け手続補正書により、請求の趣旨を「本件商標の登録は、その指定商品中、時計についてこれを無効とする」旨補正した結果、請求人の主張も、また、これに対する被請求人の答弁も「時計」について、以下主張及び答弁したものする。)を指定商品としているので、本件商標をその指定商品について使用した場合には、これに接する需要者・取引者は、その構成中に「シュープ」と称呼する文字「Shoop」を含むことから、同じ「シュープ」の称呼で広く知られている引用商標1「CHOOP」を連想・想起し、請求人若しくは同人と組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務にかかる商品であるかのように商品の出所の混同を生じるおそれがある。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当し登録されるべきではない。 (5)商標法第4条第1項第11号について 引用商標2の文字部分「CHOOP」は、前述した周知となっている引用商標1と同一の称呼「シュープ」を生ずるものと一般の需要者に広く認識されていることから、本件商標と引用商標2とは称呼上類似するものであり、本件商標の指定商品は、引用商標2の指定商品と共通にするものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し登録されるべきではない。 2 答弁に対する弁駁の要旨 (1)商標法第4条第1項第10号について (ア)引用商標1の周知性について 被請求人は、需要者が請求人の業務に係る商品であると認識し得るのは「リス図形」と一体化した「CHOOP」である旨主張している。 しかしながら、引用商標1「CHOOP」は、英文字「CHOOP」単独で使用されている例や「花」の図形と一緒に使用されている場合など、リスの図形と共に使用されない例は多数あり、既に提出した証拠等においても明らかであるが、甲第84号証ないし同第87号証(ファッション雑誌)、甲第92号証ないし同第98号証(繊研新聞、ファッション雑誌等)及び同第103号証(ライセンスブランド名鑑2004)を追加提出する。 確かに、この商標が使用され始めた初期の頃は、甲第10号証や同第33号証のブランド説明にも示すとおり、CHOOPブランドは「愛と平和」のシンボルとして「花」と「リス」の図形が多く用いられており、ロゴマークの中にも花の模様を配しているが、被請求人は、意識的にその年代のリスの図形と共に使用されている引用商標1「CHOOP」のみを選び出しているものである。 (イ)本件商標について 商標法第4条第1項第10号の趣旨は、出所の混同防止である。かかる観点から、本件商標の出願時において、既に引用商標1という周知商標が存在する以上、たとえ本件商標が周知であろうとも登録されるべきではないが、本件商標は周知商標どころか全く使用実績の無い商標である。 被請求人が本件商標の周知の事実を示すために提出した証拠の中で、10号の時期的な判断基準時である本件商標の出願時までの証拠は、乙第5号証ないし乙第17号証、同第23号証及び同第25号証のみである。そして、当該証拠中に、本件商標をその指定商品である「時計」に使用している例は全く見当たらない。 したがって、本件商標は、使用されていない以上信用の蓄積もありえず非周知商標である。 (ウ)時計類等の取引の実情について (a)主たる需要者層、商品の分類特性、趣向性、 被請求人は、本件商標と引用商標1における主たる需要者層(「20代?30代」と「ティーン層」)、商品の分類特性(「B系ファッション」と「ストリートカジュアル」)、趣向性(「セクシー系」と「可愛い系」)が異なるから、両者は出所混同のおそれがない旨述べている。 しかし、時計を含むファッション関連商品の取引分野において、上記のような境界などは曖昧なものであり、需要者が明確に区別しているとは考えられない。主たる需要者層の相違に関しても、その区別などは流動的であり容易に変遷し得るものである。例えば、今日のファッション関連企業のブランド展開においては、メインブランドに加えて複数のサブブランドを展開している場合が少なくなく、一般需要者もそのことを認識していることは周知の事実である。現に、被請求人は「CHOOP」のサブブランドとして、乳児や幼児層を主な需要者層にとした登録商標「CHOOPLAND」や成人層をターゲットとする登録商標「CHOOP SPORTIVE」、「CHOOP CLASSIC」を有してブランド展開を行なっている(甲第103号証)。 (b)現時点における商標の具体的使用態様等は、将来変動する可能性もあるのであるから、商標の類否判断において考慮される取引の実情においては、そのような個別事情を過大に考慮すべきではない。 更に、本件商標の指定商品である時計等についての需要者は、子どもから大人までも含む一般大衆であるという取引の実情を考慮すると、その需要者がこれらの時計等を購入する際に払う注意力はさほど高くないので、上記の要素を明確に区別するとは考えられない。 (エ)出所の混同について したがって、本件商標は、引用商標1に対し、重要な類否判断要素である「称呼」が類似し、主たる需要者層、商品の分類特性、趣向性の点においてはその境界が暖昧であって明確に区別されるものではないから、需要者等に対し出所混同を生じさせるものである。 そして、引用商標1に類似する本件商標が並存する結果、引用商標の信用の希釈化、あるいは、需要者の引用商標に対する期待を裏切るような商品と誤認することによる信用の汚染化、ひいては被請求人の業務上の信用の低下という結果を招来しかねないのである。 (2)商標法第4条第1項第11号について 電話や口頭による取引が頻繁に行なわれ、テレビ・ラジオなどによる広告や宣伝が一般化している現状の下では、商標は観念よりも称呼によって使用されているのが実情であるから、商標の類否判断の要素の中でも称呼の占める割合は非常に大きいものといえる。 しかも、本件商標の指定商品である時計等は、日常的に消費される性質の商品であり、ことにその需要者は特別な専門知識経験を有しない一般大衆であって、これを購入するに際して払われる注意力はさほど緻密なものではないと考えられる。 したがって、簡易迅速性を重んじる取引の実際において、単に商品に付される商標の称呼である「シュープ」だけを頼りに商品を流通させるようなことも十分起こり得るのである。 一般に、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、商標は、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどまでに不可分的に結合していない限り、常に必ずその構成部分全体によって称呼、観念されるというわけではなく、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、その結果、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(最高裁判所第一小法廷昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁参照)。 したがって、常に「リス図形」と一体的な態様の「CHOOP」として観察すべき必要はなく、文字商標「CHOOP」の部分からも称呼が生じており、既に立証したように引用商標1「CHOOP」が本件商標出願時点において「シュープ」の称呼で周知であることが明白である。 (3)商標法第4条第1項第15号について 前述のとおり、仮に、需要者の趣向性が大きく異なっていても、本件商標と引用商標1の間に具体的な出所の混同を生じるおそれがある以上、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にも該当するものである。 第3 被請求人の答弁の要旨 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第48号証を提出した。 (1)引用商標1について 請求人は、引用商標1「CHOOP」が時計について、「シュープ」の称呼によって需要者や取引者の間で周知となっている旨主張しているが妥当ではない。 (ア)引用商標1と「リス」との関係 請求人提出の証拠を検討するに、「CHOOP」に対して「シュープ」のルビを配して宣伝活動をしていることが見受けられるものの、雑誌、テレビコマーシャル、新聞広告等のいずれにおいても、その殆どは、「CHOOP」の文字が「リス図形」と一体的、又は、同一枠内、同一頁内に配置された態様での使用であるか、あるいは、「リス」を想起させるキャッチコピーと併用した使用である(甲第4号証ないし同第45号証、同第63号証等)。 したがって、需要者が請求人の業務に係る商品であると認識し得るものは、「リス図形」と一体化した「CHOOP」であり、すなわち、「リスのシュープ」として親しまれていることが明らかである。 (イ)引用商標1の使用商品について 引用商標1が新聞記事等にて記載される際には、「ストリートカジュアル」という商品の特性と共に記載されている。例えば、「カジュアルブランドを中心に成長してきたライセンスブランド」(甲第69号証)、「多彩なカジュアルブランドを着こなしてシーンを彩り」(甲第71号証)、「レディスカジュアルの『シュープ』」(甲第73号証)等のように「カジュアルブランドのシュープ」として表示されている実情が認められる。 (ウ)してみれば、時計における需要者が引用商標1「CHOOP」のみで、直ちに「シュープ」との称呼を生じ得るとは考え難く、時計について、直ちに「シュープ」の称呼が生じるとする十分な証拠も無い。 むしろ、「リス図形が付加された態様」若しくは「リスのマークのCHOOP」等の表示、もしくは、「カジュアルファッション」の表示と共に使用された際に、主たる需要者は、請求人の業務に係る商品であると認識し得ると判断するのが相当である。 (2)本件商標について (ア)本件商標の態様について 本件商標は、横向きの女性図形と欧文字「Shoop」からなるところ、「Shoop」とは、R&B(リズム・アンド・ブルース)、ソウルミューソック、ヒップホップに代表されるブラックミュージック愛好者の間では「タメ息の音」を意味するものとして親しまれ、「セクシーさ」を想起させることから、本件商標は、全体として「セクシーな黒人女性」の観念を生じさせるものである。そして、その構成から「シュープ」の称呼が自然に生じるものである。 (イ)本件商標の周知性の獲得 (a)商品特性と主たる需要者層 1996年以降、ダンス・ブーム、クラブ・ブームと共にブラックミュージック・ファッションブームが到来し、現在においては、「Bガール」若しくは「B-GIRL」、「B系」と称されて、一つのカテゴリーとして取り扱われる程度にブラックミュージック系のファッション(以下「B系ファッション」という。)は、特別な市場として確立している(乙第4号証)。 本件商標に係る商品(B系ファッション)は、セクシーさを趣向とする特徴を有することから、成熟した女性層をターゲットとしている。そして、本件商標のブランドは、本件商標の出願前より、DJがヒップホップやR&Bの音楽を流し、客がフロアで踊るという「クラブ」向けのダンスファッションとして高く支持されていることが認められる(乙第5号証ないし同第7号証)。 上記のとおり、本件商標における主たる需要者は、20代から30代のブラックミュージックやクラブ文化を愛好する女性又はB系ファッションを愛好する層である。 (b)販売実績・宣伝広告等について 本件商標は、本件商標の出願前から、アクセサリーや被服といったファッション関連商品について使用をしており、これらのファッション関連商品について、B系ファッション雑誌において宣伝広告を展開している(乙第8号証ないし同第13号証)。また、出願後も現在に至るまで継続して宣伝広告を掲載しているものである(乙第14号証ないし同第18号証)。 また、本件商標のファッションブランドの店舗は、本件出願前から、渋谷、横浜、新宿、池袋といったB系ファッションを愛好する需要者が集まる地域に7店舗の直営店を展開しており(乙第12号証)、さらに、査定時までに12店舗にまで拡大している(乙第19号証)。 このことは、被服類をはじめとした「Shoop」ブランドの商品販売高が平成12年度は約8億円、平成13年度は約11億円、平成14年度は約15億円、平成15年度は約19億円であることからも認められるものである(乙第20号証)。 そして、人気を博するに従って、「Shoop」ブランドの模倣品が流出し始めたことから、広告において、「直営店のみでの販売」との注意を需要者に対して喚起するまでに至っている(乙第18号証)。また、模倣品が発生した際には、警察側から取締対象として真正品確認の照会を受けるまでに至っている(乙第21号証、同第22号証)。 また、「SHOOP」ブランドの広告宣伝費は、平成13年には約1千万円、査定時の平成14年には約5千万円であり、権利取得後においても、平成15年には約8千万円、平成16年には約7千万円もの金額を宣伝広告費として支出し、例えば、JR渋谷駅、新宿駅エリアでの大看板広告・映像掲出(乙第25号証ないし同第28号証)、繁華エリアを走行するバス外装広告(乙第29号証ないし同第31号証)、音楽専門チャンネルにおけるコマーシャル(乙第32号証ないし同第35号証)、音楽イベントや企画CD(乙第36号証ないし同第42号証)等、「B系ファッション」を愛好する層が好む地域や媒体に対して集中的に宣伝・広告やイベントを展開している。 以上のとおり、本件商標は、本件商標の出願時及び査定時において、被服、アクセサリー、時計類といったファッション関連商品について、「B系ファッションのSHOOP」として周知性を獲得していたものである。 (3)商標法第4条第1項第10号及び同第15号について 上記のとおり、時計について、引用商標1「CHOOP」から「シュープ」の称呼が生じる程に周知性が獲得されていたものとはいえない。また、引用商標1が時計について使用されているとしても、本件商標とは、その趣向性及び需要者層が「カジュアル」と「セクシー」、「ティーン世代」と「20代から30代のブラックミュージックやクラブを愛好する女性」のように全く相違するものである(乙第43号証)。 また、時計類の取引の実情を考慮すると、ファッションの分野においては、趣向性(好み)が極めて大きく左右するところであり、需要者は充分に注意力を発揮する。そして、例えば、デパートでは、販売フロアが異なる例からも明らかなように、性別のみならず、需要者の年代が異なれば、販売場所(地域、店舗)が異なるという特殊性を有する分野である。 このように、その市場・販売経路は全く異なるものであり、需要者・取引者をして明確に区別せしめるものである。 これらの事情を考慮しつつ、本件商標と引用商標1との出所の混同のおそれの有無を検討すると、引用商標1は「ティーン層の可愛い系ストリートカジュアル」において「リス」の観念と強固に結合して親しまれていることから「リスのシュープ」と称され「リス」を強く想起しつつ取引に資されること、本件商標は「B系ファッション」として広く親しまれていること、そして、本件商品の分野の需要者は外観に極めて強く注意力を発揮すること、需要者層が全く相違すること(「20代?30代」に対して「ティーン層」)の各要素を総合的に鑑みれば、本件商標と引用商標1とは、彼此相紛れるおそれはなく、需要者等に出所の混同を招来させるおそれはないものである。 以上のとおり、本件商標は、商標法第4項第1項第10号及び同第15号に該当するものではない。 (4)商標法第4条第1項第11号について 引用商標2は、大きなリス図形の下部に「CHOOP」と表示してなる態様であり、商標全体から「リスのCHOOP」と理解されるものであり、周知性を獲得している請求人使用商標と相侯って、「リスのシュープ」の称呼及び観念が生じるものである。 一方、本件商標は、横向きの女性図形と欧文字「Shoop」からなる外観であって、本件商標は「セクシーな黒人女性的なB系ファッションブランド」を示すものとして広く親しまれている事情から、本件商標に接した需要者は、「セクシーな黒人女性」、「B系ファッション」のイメージを強く認識しつつ「シュープ」と称呼するものである。 してみれば、引用商標2と本件商標とは、外観、観念、称呼のいずれにおいても明確に区別し得る非類似の商標というべきである。 仮に、引用商標2から「シュープ」の称呼が生じることがあるとしても、引用商標1が「リス」、「リス図形」と強固に結びついて親しまれた実情に鑑みると、引用商標2に接した需要者は、「リス」を強く想起しつつ称呼するのに対して、本件商標については、「セクシーな黒人女性」を想起しつつ称呼することから、需要者は、本件商標と引用商標2とを明確に区別し得るものである。そして、かかる「観念」の相違が強く発揮され、称呼の共通性を凌駕するものである。 したがって、本件商標は、引用商標2との関係において、明確に区別し得る非類似の商標であるから、商標法第4条第1項第11号に該当しないものである。 第4 当審の判断 請求人は、本件商標と請求人が「衣類及び時計類」について使用して周知・著名になっている引用商標1とは「シュープ」の称呼を同一にする類似の商標であり、また、本件商標と引用商標2とも「シュープ」の称呼を同一にする類似の商標であるとして、そのことを前提に、本件商標の登録は商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第11号に違反してされたものである旨主張している。 そこでまず、本件商標と引用各商標との類否について検討する。 1 本件商標と引用各商標の外観、称呼及び観念についての検討 (1)本件商標と引用各商標の外観について (ア)本件商標は、別掲(1)に示したとおり、黒人系女性の横顔をシルエット状に大きく描き、耳及び大きなイヤリング、鼻部の一部(鼻ピアス)を白抜きで表し、その顔の下に、黒色の太字をもって「Shoop」の欧文字を横書きした構成からなるところ、図形部分は、文字部分に比べて数倍大きく描かれており、また、「Shoop」の欧文字部分については、該欧文字中の「hoop」の文字部分について、その一部を髪のウェーブに呼応するようなギザギザの形状をもって表すとともに、鋭利な刃物で縦と横に切り傷を入れたかの如き斜線と横線が入れられており、「hoo」の文字部分については、その下半分をやや右にずらしたかのように表されているものであって、図形部分と文字部分とに一体感を感じさせるような描写方法をもって表現されているものということができる。 (イ)他方、引用商標1は、前記したとおり、「CHOOP」の欧文字からなるものであり、また、引用商標2は、別掲(2)に示したとおり、全体を黒塗りにして、目と片方の耳を白抜きにしたリスの図形を大きく表し、その下に、「CHOOP」の欧文字を書した構成からなるものである。 (ウ)上記した構成からみれば、本件商標は、シルエット状の黒人系女性の横顔からなる図形部分と「Shoop」の文字部分から構成されているのに対して、引用商標1は、「CHOOP」の欧文字のみからなるものであるから、この両商標は、全体の外観において顕著な差異を有するものということができる。また、本件商標と引用商標2との関係についても、引用商標2は、リスの図形と「CHOOP」の欧文字からなるものであるから、この両商標も全体の外観において顕著な差異を有するものである。 また、本件商標の欧文字部分と引用各商標の欧文字部分とを比較しても、その表現方法において差異があるばかりでなく、文字構成においても、看者の注意を強く惹く語頭の文字において明らかに字形の異なる「S」と「C」の文字の差異を有し、これに続く文字も、本件商標にあっては「hoop」が小文字で表記されているのに対して、引用各商標にあっては「HOOP」が大文字で表記されているものであるから、通常の注意力をもってすれば、両者の欧文字部分の外観を見誤ることはないものというべきである。 そうとすれば、本件商標と引用各商標とは、外観において顕著な差異を有する商標といわなければならない。 (2)本件商標と引用各商標の観念について (ア)本件商標の観念について、被請求人は、「Shoop」の語は「R&B(リズム・アンド・ブルース)」、「ソウルミュージック」、「ヒップホップ」に代表されるブラックミュージック愛好者の間では「タメ息の音」を意味するものとして親しまれており、「セクシーさ」を想起させる語であるから、全体として「セクシーな黒人女性」の観念を生じさせる旨述べている。しかしながら、「Shoop」の語が上記の如き意味合いを表す語として一般的に知られているものとはいえないから、この語から特定の観念を生ずるものとはいえないが、少なくとも、その図形部分からは、「黒人女性の横顔」程の観念を把握し得るものということができる。 (イ)他方、引用商標1は、「CHOOP」の文字からなるところ、「CHOOP」の語も特定の意味合いを表す成語とは認められないものであるから、この語からも特定の観念を生ずるものとはいえない。また、引用商標2は、リスの図形と「CHOOP」の文字からなるものであり、「CHOOP」の文字部分については、上記したとおり、特定の観念を生ずるものとはいえないが、少なくとも、その図形部分からは、「りす」の観念を生ずるものということができる。 (ウ)そうとすれば、本件商標と引用各商標の欧文字部分は、いずれも特定の意味合いを理解・認識させるものではないから、観念においては比較し得ないものである。また、本件商標と引用商標2の図形部分については、文字部分とは別に、上記したとおりの観念を生じ得るものではあるが、その観念も、「黒人女性の横顔」程の観念と「リス」の観念であるから、観念において紛れるおそれはないものといわなければならない。 (3)本件商標と引用各商標の称呼について (ア)本件商標は、前記したとおり、図形部分と文字部分とが一体感をもって構成されているものではあるが、その構成中の欧文字部分からは称呼を生じ得るものであるところ、「Shoop」の語(文字)は、特定の意味合いを有する成語とは認められない語であるから、一定の称呼をもって認識されるものとはいえないが、例えば、親しまれている「Shoot」の英語が「シュート」と発音される用例に倣えば、該構成文字に相応して「シュープ」の称呼を生ずるものとみるのが自然である。 (イ)他方、引用商標1は、前記したとおり、「CHOOP」の欧文字からなるところ、この語も親しまれた成語とは認められないことから、直ちに、特定の称呼をもって認識されるものとはいえない。例えば、親しまれている「Choose」の英語が「チューズ」と発音され、あるいは、「Choice」の英語が「チョイス」と発音される用例に倣えば、該構成文字に相応して「チュープ」あるいは「チョープ」の称呼を生ずるものとみるのが自然である。しかし、後述のとおり、請求人は、「CHOOP」の語を「シュープ」と読ませるべく宣伝・広告に努めてきた結果、少なくとも、ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッションに関心を抱く需要者層においては、「シュープ」の称呼をもって取引に供されていたものということができる。 してみれば、引用商標1は、あらゆる需要者層において広く「シュープ」の称呼を想起させるものとはいえないが、請求人の取扱い商品との関係においてみれば、上記した一部の需要者層の間において「シュープ」の称呼をもって取引に供されていたものと判断するのが相当である。また、引用商標2については、親しまれている「リス」の図形部分から「リス」の称呼を生ずるとともに、その欧文字部分については、上記したところと同様の理由により、一部の需要者層の間において「シュープ」の称呼をもって取引に供されていたものということができる。 (ウ)そうとすれば、本件商標と引用各商標とは、称呼の点においては、「シュープ」の称呼を共通にする場合のあることを否定することはできない。 2 本件商標と引用各商標との類否判断について (1)ところで、最高裁昭和39年(行ツ)第110号判決によれば、「商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。・・」と判示されており、また、「・・・商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、右三点のうちその一つにおいて類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。・・」と判示されている。 そこで、この最高裁判決に沿って両商標の類否について判断するに、請求人は、引用商標1は「衣類及び時計類」について使用されて周知・著名になっている旨主張しており、被請求人は、本件商標はB系ファッション界において周知性を獲得している旨主張しているので、まず、それぞれの使用状況について検討する。 (2)引用商標1の使用状況について (ア)甲第3号証(ボイス情報株式会社発行に係る「’99ライセンスブランド&キャラクター名鑑」)によれば、プロパティー名「シュープ Choop」の頁には、国内ライセンシーの欄に「CROWN F.G. CO.,LTD」が記載されており、開始年は平成6年とあり、また、ライセンス状況の欄には「セーター、パジャマ、バッグ、レディスアンダー、雑貨小物」等とともに「時計類」が記載されている。 甲第4号証ないし同第43号証、同第84号証ないし同第87号証及び同第94号証ないし同第96号証は、本件商標の出願前の1994年から2000年にかけて発行された「Zipper」、「Lemon」、「POMME」、「Olive」、「ピチレモン」、「nicola」等の少女向けのファッション雑誌である。これらの各雑誌に掲載されている広告には、「CHOOP」の欧文字と共に同一頁において「シュープから始めよっ」、「シュープってな?んだ」等の記載のあるもののほか「シュープ」の文字が併記されている例が多数あり、1996年以降においては、「シュープ」の文字単独で使用されている例も増えていることが認められる。 甲第46号証ないし同第62号証(枝番号を含む。)は、請求人が広告主として放映したと認められる「テレビCM放送証明書、テレビタイム放送確認書」等であり、これらによれば、1995年、1997年、1998年、1999年に「CHOOP」のテレビコマーシャルが「シュープ」の文字及び音声と共に全国各地において放映されたことが認められる。また、1998年8月、1999年3月及び2000年4月には「シュープ」が作ったドラマとして請求人会社が提供したドラマが読売新聞、産経新聞、日経流通新聞、繊研新聞等(甲第63号証の1ないし同第66号証の2、同第71号証等)に取り上げられ、これらにおいても「CHOOP」の文字及び「シュープ」の文字が併記され、又は、「シュープ」の文字が単独で記載されている。 甲第68号証ないし同第78号証、同第92号証及び同第93号証は、1997年9月29日から2001年3月9日にかけて発行された業界紙である繊研新聞であり、これらにおいて、ファッションブランドとしての「シュープ」の記事が多数掲載されており、さらに、ボイス情報株式会社2003年10月24日発行の「ライセンスブランド名鑑2004」(甲第103号証)にも「CHOOP」の文字及び「シュープ」の文字が併記されている。 そして、証拠の提出はないが、請求人の主張によれば、広告費用として、1994年においては715万円であったものが1995年には1億円となり、その後も、年により増減はあるものの1994年から2001年までの合計金額は約6億6000万円となっている旨、また、引用商標1を使用した時計類は、市場価格ベースで1995年から2001年において、合計約9億9300万円の売上実績があった旨述べられている。 (イ)上記した各事実を総合すれば、請求人又はそのライセンシーの使用に係る引用商標1「CHOOP」は、本件商標の出願前から、主として「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」に関心を抱く需要者層をターゲットに雑誌、テレビ、業界誌等において広告宣伝されるとともに、雑貨小物、キッズウェア、パジャマ、レディスカジュアルウェア、時計類などの商品に幅広く使用されてきたということができるから、引用商標1は、遅くとも、本件商標の出願時には、既に請求人の業務に係る商品を表示するものとして、主として上記需要者の間において広く認識されていたものと認めるのが相当である。 (3)本件商標の使用状況について (ア)被請求人の主張及び乙各号証によれば、本件商標に係る商品の主たる需要者は、R&B(リズム・アンド・ブルース)、ソウルミュージック、ヒップホップに代表されるブラックミュージックやクラブ文化を愛好する20代から30代の女性層であり、乙第4号証ないし同第7号証(「河北新報」、雑誌「WOOFIN」)によれば、B系ファッションは、特別な一つの市場を形成しているものと認められる。 そして、乙第23号証(株式会社文化企画による読者アンケート結果)によれば、「今、好きなブランド」部門において、「Shoop」は第3位を占めており、雑誌「WOOFIN」や雑誌「LUIRE」(乙第5号証ないし同第17号証)には、被服を始め、マフラー、ベルト、サンダル、ポシェト、ピアスやネックレス等について、「SHOOP(Shoop)」の文字のみからなる商標が使用されているばかりでなく、広告頁の裏表紙等(乙第10号証ないし同第17号証)には、本件商標と略同一の構成からなる商標が大きく表示されていることが認められる。 また、平成12年から同18年にかけて、本件商標を付した大型看板や大型映像広告を渋谷駅や新宿駅に設置し(乙第25号証ないし同第28号証)、東京都内(渋谷?新宿)、名古屋市内及び仙台市内にラッピングバスを走らせ(乙第29号証ないし同第31号証)、更に、音楽専門チャンネルでコマーシャルを流し(乙第32号証ないし同第35号証)、音楽イベントや企画CDを展開し(乙第36号証ないし同第42号証)、それらにも、本件商標とほぼ同一の構成からなる商標が使用されている事実を認めることができる。 そして、被請求人は、本件商標に係る商品を扱うファッションブランド店舗を、本件出願時までに、渋谷、横浜、新宿、池袋、横浜といったB系ファッションを愛好する需要者が集まる地域に7店舗の直営店を展開しており(乙第12号証)、その後、査定時までに名古屋、京都等を含めて12店舗にまで拡大している(乙第19号証)。 また、帝国データバンク企業情報(乙第20号証)によれば、被請求人の業務に係る商品の販売高は、平成13年度において約8億円、平成14年度は約11億円、平成15年度は約15億円、平成16年度は約19億円であったことが認められる。 更に、乙第21号証及び同第22号証(大阪府警察署からの捜査関係事項照会書)によれば、被請求人は、「Shoop」ブランドに係る模倣品が発生した際、警察側から真正品であるか否かの確認の照会を受けていたことが認められる。 (イ)上記した乙各号証を総合してみれば、被請求人の使用に係る本件商標(略同一の商標を含む)は、B系ファッションを対象とするブランドというコンセプトの下、セクシーさを趣向するものとして、20代から30代の成熟した女性層やいわゆるクラブにおけるダンス愛好者をターゲットとして、被請求人による本件商標の使用及び広告宣伝活動が継続された結果、本件商標の出願時及び査定時には、本件商標は「セクシーなB系ファッションブランド」を想起させるものとして、被服を始め、マフラー、ベルト、サンダル、ポシェト、ピアスやネックレス等の商品について、需要者層を開拓していたものと認められる。 なお、乙各号証をみる限りにおいては、本件商標は無効の請求に係る商品である「時計」について使用されている事実は見当たらないものの、「時計」もファッション関連商品として、衣類等と密接な関わりを持っている商品であり、請求人も引用商標1に関する主張の中で、「衣類などの商品について『CHOOP』が『シュープ』の称呼で周知になると同時に、それらの商品とコーディネートして同時に用いられる商品である時計についても、『CHOOP』は『シュープ』の称呼で周知になっていくのである。」と述べているところである。 (4)本件商標と引用各商標との類否について そこで、上記した本件商標と引用商標1の各使用状況をも踏まえて、本件商標と引用商標1及び引用商標2との類否について判断するに、前記したとおり、本件商標と引用各商標とは、外観においては顕著な差異があり、観念については、その文字部分については比較し得ないものであるが、図形部分については「黒人女性の横顔」程の観念と「リス」の観念であるから紛れるおそれはない。 そして、両商標は、称呼の点においては、「シュープ」の称呼を共通にする場合のあることは否定できない。 しかしながら、引用商標1の使用された商品に関心を示す「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」を好む需要者層と本件商標の使用された商品に関心を示す、いわゆる「セクシーなB系ファッション」を好む需要者層とは、被服の趣向(好み、テイスト)や動機(着用目的、着用場所等)において相違することが認められ、このことは、被服などの商品とコーディネートして用いられることの多い時計についても当てはまることである。 そしてまた、引用商標1から「シュープ」の称呼が生じる旨認識している需要者は、請求人が広告宣伝を行ってきた「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」に関心を抱く需要者層であって、本件商標が使用された商品に関心を抱く「セクシーなB系ファッション」の需要者層やそれ以外の一般消費者ではないといえるから、請求人が広告宣伝を行ってきた需要者層以外の消費者については、引用各商標から「シュープ」の称呼が生じると認識することはなく、結局、上記認定した取引の実情等を総合すれば称呼を共通にすることによる混同は生じないということができる。 してみれば、取引の実情を踏まえたうえ、外観、称呼及び観念を総合して考察した場合には、本件商標と引用各商標とは、その称呼が共通することのみをもって類似する商標であるとすることはできない。 3 商標法第4条第1項第11号について 本件商標は、別掲(1)のとおりの構成からなり、また、請求人が商標法第4条第1項第11号の無効の理由に引用している引用商標2は、別掲(2)のとおりの構成からなるところ、上記したとおり、両商標は、外観、称呼及び観念を総合して考察した場合、「シュープ」の称呼を共通にすることのみをもって類似する商標であるとすることはできないものである。 したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものとはいえない。 4 商標法第4条第1項第10号について 前記したところから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の要件のうち、「他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標・・・について使用をするもの」の要件を充足しているものとはいえない。 したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものとはいえない。 5 商標法第4条第1項第15号について (1)本件商標と引用商標1との関係及び本件商標と引用商標1の取引の実情に関しては、前記のとおりであるから、被請求人が本件商標をその指定商品中の「時計」に使用した場合においても、これに接する取引者・需要者をして、引用商標1を連想又は想起させるものとは認められず、その商品が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものというべきである。 (2)なお、請求人は、弁駁書において、引用商標1に類似する本件商標が並存する結果、引用商標の信用の希釈化、信用の汚染化、ひいては請求人の業務上の信用の低下という結果を招来しかねない旨主張している。 しかしながら、前記のとおり、本件商標と引用商標1とは、「シュープ」の称呼において共通にする場合のあることを否定できないとしても、外観において顕著な差異を有し、主たる需要者層等の取引の実情等をも併せみれば、商品の出所について混同を生じさせるおそれのない非類似の商標と認められるものであって、被請求人による本件商標の採択の意図と請求人による引用各商標の採択の意図とは全く別異のものというべきである。 そして他に、引用各商標の希釈化をきたしたとするに足りる証拠も存在しない。 そうとすれば、本件商標は、引用各商標との関係において、広義の混同を生ずる商標ということもできないものである。 (3)したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものとはいえない。 6 むすび 以上のとおり、本件商標の登録は、その指定商品中の「時計」について、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 (1)本件商標 (2)引用商標2 |
審理終結日 | 2008-02-08 |
結審通知日 | 2008-02-14 |
審決日 | 2008-02-27 |
出願番号 | 商願2001-59062(T2001-59062) |
審決分類 |
T
1
12・
25-
Y
(Z14)
T 1 12・ 262- Y (Z14) T 1 12・ 261- Y (Z14) T 1 12・ 263- Y (Z14) T 1 12・ 271- Y (Z14) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井岡 賢一 |
特許庁審判長 |
田代 茂夫 |
特許庁審判官 |
伊藤 三男 酒井 福造 |
登録日 | 2002-04-12 |
登録番号 | 商標登録第4558872号(T4558872) |
商標の称呼 | シュープ |
代理人 | 小山 輝晃 |
代理人 | 吉田 芳春 |