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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y14
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y14
管理番号 1170738 
審判番号 無効2006-89174 
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-12-14 
確定日 2007-12-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第4985968号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4985968号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4985968号商標(以下「本件商標」という。)は、「IRISSPIRA」の文字を横書きしてなり、平成18年3月9日に登録出願され、第14類「ネックレス,指輪,ブレスレット,イヤリング,ネクタイピン,ペンダント,身飾品,カフスボタン」を指定商品として平成18年9月8日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第61号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)はじめに
本件商標は、請求人が最初に考案し、採用し、使用を開始した結果、当業界及び需要者らに広く知られている商標「IRIS SPIRA」(以下「引用商標A」という。)とスペリングにおいて完全に同一であり、よって外観、称呼において類似し、同じく請求人の商標として広く知られている商標「イリスパイラ」(以下「引用商標B」という。)とは称呼において類似するところ、本件商標は請求人会社の元取締役であった被請求人が、請求人の承諾なく不当に登録したものである。
また本件商標は、請求人が製造販売する天然色の真珠の名称として広く知られている「イリスパイラ」並びに「IRIS SPIRA」と英文字のスペリングにおいて同一であり、同一の称呼が生ずるので、そのような天然色の真珠を使用していない宝飾品について使用された場合、需要者らにおいて商品の品質について誤認混同を生ずるおそれがあるものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第16号の規定に違反して登録されたものであり、その登録は商標法第46条の規定により無効とされるべきである。
(2)請求人及び被請求人について
甲第2号証履歴事項全部証明書に示すように、請求人は、真珠、真珠製品及び宝石の卸、小売り並びに輸出入を主たる業務内容として、平成16年3月16日に設立された法人である。なお登記上の住所は、代表者である邊見隆の自宅住所がある東京都世田谷区太子堂2丁目12番5号になっているが、現在の実質上の住所は宝石サロンを開設し営業を行なっている東京都港区西麻布2-2-2であり、近日中に登記簿を変更登記する予定である。
甲第2号証に示すように、請求人会社の代表取締役は邊見隆であり、取締役として被請求人である松下明弘の名前が見られる。
なお被請求人松下明弘は、平成18年6月27日に辞任届(甲第3号証)を提出しているが、本件商標が出願されたのは同年3月9日であり、すなわち被請求人は、本件商標を登録出願した後の僅か3カ月後に請求人会社を辞任しているのである。もちろん、本件商標を出願したとの事実は、事前には請求人には伝えられていない。
したがって、本件商標が、請求人会社の元取締役によって、その在職中に無断で出願されたことは間違いない。
(3)「イリスパイラ/IRIS SPIRA」について
「イリスパイラ/IRIS SPIRA」とは、希有な天然色の真珠の名称である。日本人のみならず、日本の真珠は世界の女性達の憧れの的となっているが、通常取引される真珠は、大半が養殖真珠である。
しかし、請求人会社代表者の邊見隆(以下「邊見」と指称する。)は、真珠養殖業者である被請求人らと共同して、一般の養殖方法ではなく、赤色系干渉色を有する真珠貝を用いることで、調色を一切施すことなく天然の真珠本来のうすいピンク色を持った高品質の虹色の真珠を養殖する方法を開発した。そして、その発明は、大阪府八尾市の株式会社松下パールを出願人として、平成14年6月24日付けにて特願2002-182560号として特許出願されている(甲第4号証)。
この虹色の色彩を放つ天然色の真珠を邊見は「イリスパイラ/IRIS SPIRA」と命名し、平成11年11月10日に商標登録出願し、商標登録第4422071号として登録した(甲第5号証)。なお権利者名の「栗山隆」は邊見の旧姓である。
「IRIS SPIRA」とはギリシャ語で「虹の珠」を意味する。正に、天然の虹色に輝く真珠がイメージされているのである。「IRIS SPIRA」は、正しくは「イリス スパイラ」と発音されるが、邊見は商標的には「イリスパイラ」のカタカナ表記を採用し、使用している。
邊見は、商標登録第4422071号「イリスパイラ」を代理人弁理士を立てずに自社出願したため、その指定商品は第14類「宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品」だけに限定され、「イヤリング、指輪、ネックレス」などの真珠の宝飾品が含まれていなかったが、その間隙を縫って被請求人によって登録されたのが本件商標である。
「イリスパイラ真珠」の養殖法を完成させた後、邊見は「イリスパイラ真珠」をテーマとした「ネックレス、指輪、イヤリング、ブローチ」などをデザインして商品化し、「イリスパイラ/IRIS SPIRA」のブランドの下に、平成12年(2000年)1月よりその販売を開始した。
当初は、個人企業として「ジェムハウス辺見」と称して営業を行なっていたが、発売開始から4年が経過した平成16年3月16日に請求人会社「有限会社イリスパイラ」が設立され、今日に至っている。
甲第6号証は、邊見が運営する宝石サロン「イリスパイラ」のホームページの写しである。そのドメインは「www.iris-spira.com」であり、その要部には本件商標と同一のスペリングである「iris-spira」の英文字が使用されている。
また甲第7号証は、「イリスパイラ」商品の購入者に渡される保証書である。これらの証拠方法から、請求人会社の英文名称が「IRIS-SPIRA Co.,Ltd.」であることが理解される。
また後述のように、「IRIS SPIRA/イリスパイラ」は、請求人が販売する天然色の真珠のアクセサリー類を示すものとしてファッション業界並びに需要者である女性達に広く知られるところとなっているが、この度、その品質の秀逸性が認められ、フランスの名門ホテルである「ホテルリッツ パリ」のショッピングアーケードに出店が許されるまでになっている。甲第8号証はこれを紹介するパンフレットであるが、「ホテルリッツ パリ」に出店を許されるということは、「IRIS SPIRA」が世界の宝飾ブランドの仲間入りしたことの証しであり、日本国民にとっても非常に名誉なことである。
名門ホテルによるこのような名誉ある扱いは、まして日本企業に対しては簡単に与えられるものではなく、甲第6号証のホームページに記載されているように、請求人は、これまで2回にわたりパリの「ホテル ル・ブリストル」において「イリスパイラコレクション イン パリ」を開催し、世界の宝飾業者からその品質が絶賛されたからに他ならない。
甲第8号証パンフレットに示すように、ホテルリッツ パリのショッピングアーケードには「IRIS SPIRA」の商標が掲げられ、商品が展示されている。この英文字の商標が中心の商標であり、「IRIS」と「SPIRA」との間に円図形が配置されているが、これは「真珠」をイメージしたものである。したがって、商標としては「IRIS SPIRA」の文字商標となる。
また甲第9、10号証「家庭画報/KATEIGAHO INTERNATIONAL EDITION」は「日本の心」を世界に伝えるために世界文化社より発刊されている英文雑誌であり、日本にいる外国人のみならず、全世界の英語圏の人達を読者としている雑誌である。
このような日本の心を伝える英文雑誌に「IRIS SPIRA」が、しかも2度にわたって紹介されたという事実は、「IRIS SPIRA」として紹介される請求人の真珠商品が、まさに日本を代表する商品と認められ、そして世界の人々に知ってもらいたいからに他ならない。
このように、商標「イリスパイラ」、「IRIS SPIRA」、そして「IRIS-SPIRA」は、請求人会社が製造販売する宝玉類、身飾品の商標として日本国内において広く知られている外、請求人会社を表示する商号商標としても広く知られているのである。
(4)「イリスパイラ/IRIS SPIRA」の周知性
上述のように、引用商標「イリスパイラ/IRIS SPIRA」は、請求人会社の代表者である邊見隆により平成12年1月より「真珠」並びに天然色の真珠を用いた「身飾品」の商標として使用開始され、現在の請求人会社へと使用が引き継がれてきて居り、本件商標が出願された平成18年3月9日の時点において、ファッション界及びその需要者である女性達の間において引用商標「イリスパイラ/IRIS SPIRA」は広く知られているのである。このことは、上記の「ホテルリッツ パリ」に出店を許されたことからだけでも十分に理解されるが、さらに、以下にこれを立証する。
ファッション界には、ファッション雑誌とのタイアップ広告ということが普通に行なわれている。ファッション雑誌においては、ファッションに関する話題や最新情報を提供することは当然のことであるが、それと同時に、読者である女性達の美的好奇心をそそり、商品の購買意欲を高めるべく、美しい女優や最先端のモデルを起用して最先端のファッションを着せ、高価な時計やアクセサリー類で着飾った写真が多数掲載されている。読者である女性達はそれらの写真をめくっているだけでも楽しいようであるが、さらに、それらの女優やモデルたちが着用している商品には非常に敏感に反応している。つまり、私も着てみたい、私も身につけてみたい、という感情である。請求人においても、このファッション雑誌とのタイアップ広告を最大限に利用しているのである。
この種のタイアップ広告には広告代理店の存在は欠かせないものであるが、請求人においては、平成14年(2002年)2月より現在まで一貫して有限会社リュディック・インターナショナル(現有限会社リュディック)に委託している。
甲第11号証請求書と貸出伝票は、第1回目のものである。請求書の宛先は、請求人会社の前身である「ジェムハウスHENMI」であり、内訳は「2002年2月分プレス業務」とされて居り、添付の貸出伝票には、「ブランド名」として「IRIS SPIRA(イリスパイラ)」と記載され、講談社発行の雑誌「カジュアルだからこそのジュエリー&Watch」の6月号掲載の写真撮影用に、ネックレス(105万円)、バングル(腕輪)(28万円)、ピアス(6万5千円)の3点が貸し出されている。
なお第1回目のタイアップ広告をリュディックに依頼する際に、邊見は現在請求人が使用している「IRIS SPIRA」のロゴマーク(甲第6、7、8号証外)のデザインの作成をリュディックに依頼し、これを通じて博報堂によって制作された複数のデザイン案の中から邊見が選択したのが、現在メインとして使用している「IRIS SPIRA」のロゴマークである。正にその文字書体が本件商標においてもそのまま使用されているのである。
甲第12号証は、本件商標が出願される直前の2005年12月の請求書と貸出伝票である。
これは2006年3月号の雑誌に掲載する写真撮影のためのものであり、「ブランド名」としてはすべて「IRIS SPIRA(イリスパイラ)」と記載されている。小学館発行の雑誌「Precious」3月号用にはネックレス(43万5百円)が、主婦の友社発行の雑誌「my 40’s」3月号用にはネックレス(37万8千円)、同(39万9千円)、ピアス(15万7干5百円)、Cリング(18万9千円)、その他が貸し出されている。
このタイアップ広告が、2002年(平成14年)より現在まで毎月継続していることは、甲第13号証として提出する有限会社リュディックの「報告書」並びに甲第32ないし第61号証として提出する多数の雑誌(写)より明らかである。
甲第32ないし第61号証はその実際の雑誌のコピーであるが、2002年6月号から2006年12月号までの分で、出来るだけ異なる雑誌を抽出して提出している。
以上のように、請求人の商品は、希少な天然色の真珠を素材として使用しているため、甲第6号証ホームページに210万円のネックレスも掲載されているように、非常に高価な商品となって居り、これらファッション雑誌の読者にとっては、正に憧れのブランド商品であり、「虹の珠」を意味する「イリスパイラ/IRIS SPIRA」は請求人が販売する商品の商標として、そして請求人自身の著名な略称として、ファッション業界及びファッション雑誌の読者である女性達に広く知られるところとなっているのである。
さらに、請求人は、自社の宝石サロンや提携している宝飾販売店で商品を販売するほか、最近ではテレビ通販でも販売を行なっている。甲第14号証は、24時間テレビショッピング専門チャンネルであるQVCにおいて先月の平成18年11月17日と24日に放映された際の「プログラムガイド」である。
次に、甲第15ないし第27号証は、インターネット上での記事である。
以上の証拠方法より、引用商標B「イリスパイラ」、引用商標A「IRIS SPIRA」、そして請求人の英文名称の略称である「IRIS-SPIRA」は、請求人が販売する商品の商標として、そして請求人自身の著名な略称として、ファッション業界及びファッション雑誌の読者である女性達に広く知られることが十二分に立証されるのである。
(5)被請求人による誤認混同惹起行為
上述のように、被請求人は、請求人会社の取締役として在職中に本件商標を登録出願したが、本件商標が請求人会社を意味し、請求人の周知商標である以上、被請求人は本件商標を使用することはできないし、もし本件商標を使用して需要者間に出所の混同のおそれを生じた場合には不正競争防止法によって使用差止、損害賠償請求などの民事的法的措置の対象となるほか、刑事罰の対象ともなっている。
そのため、被請求人は、「IRIS」が共通ずる商標である「IRIS PARURE」を登録している(甲第28号証)。甲第28号証に示すように、商標「IRIS PARURE」の書体は普通のゴシック体で表記されているが、本件商標の書体は正に請求人が使用する商標の書体と同一であるので、このことからも本件商標が被請求人によって冒用出願されたことは明らかである。
そして、被請求人の「IRIS PARURE」のインターネットサイト(甲第29号証)では、これを使用するに当たり「IRIS」と「PARURE」との間に真珠をイメージさせる円図形を配置するなど、請求人のロゴマークを真似た構成で使用している。これも、あたかも被請求人の商品「IRIS PARURE」が請求人の商品と関連性があるような偽装をしていることに他ならない。
同じく「IRIS PARURE」のサイト(甲第30号証)では、正に「イリスパルーレはイリスパイラと姉妹ブランドです。」と記載し、YAHOO検索サイト(甲第31号証)においても、「フランス語でIRISは虹、PARUREは真珠を意味します。イリスパルーレはイリスパイラと姉妹ブランドです。」と紹介されているのであるからして、被請求人は本件商標を冒用して登録した上、自社ブランド用にイメージの類似する商標を登録し、それを請求人と同じような態様で使用し、そして「姉妹ブランドです。」と明記することによって、請求人会社の商品と積極的な誤認混同惹起行為を行なっているのである。
(6)適用法条
(ア)商標法第4条第1項第7号
本件商標は、被請求人によって、請求人会社の取締役に在職中、請求人会社の名称の一部であり、そして周知商標であったものを、請求人に無断で商標登録出願したものである。
取締役と会社との関係は委任であるから、民法第644条の規定に従い受任者である取締役は善良なる管理者の注意義務を負い、さらに会社法第355条によって、取締役は株式会社のため忠実にその職務を行う義務を負う上、会社法第357条によって、取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を株主に報告する義務を負っているものである。
然るに、被請求人は、本件商標を出願することによって、これらの忠実義務や報告義務という法令違反を行なったものであり、このような行為は商標法第4条第1項第7号が規定する「公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する。
商標審査基準では、本号の公序良俗に違反する商標とは、商標自体が本号に該当するもののほか、当該商標を指定商品に使用することが社会公共の利益に反し、また社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれると解説されているのである。つまり、社会道徳に反するものが公序良俗に違反すると規定されている以上、民法や会社法という道徳以上の法令に違反する行為が公序良俗に違反することは疑うべくもない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものであり、その登録は無効とされるべきである。
(イ)商標法第4条第1項第8号
上述のように、「イリスパイラ」「IRIS SPIRA」「IRIS-SPIRA」は、請求人が販売する商品の商標として広く知られているだけではなく、請求人自身を表示するものとして広く知られているのである。
請求人の正式名称は「有限会社イリスパイラ」であり、英文名称として「IRIS-SPIRA Co.,Ltd.」を使用しているが、その略称として「イリスパイラ」「IRIS SPIRA」「IRIS-SPIRA」などもファッション業界や需要者層である女性達に広く知られているのである。
而して、本件商標は、「IRISSPIRA」よりなるところ、請求人の略称として著名である「イリスパイラ」と称呼において同一であり、同じく「IRIS SPIRA」とはスペリングが同一であり、相違といっても中間にスペースがあるか否かという微細なものに過ぎず、同様に「IRIS-SPIRA」についても同一のスペリングである上に、中間のハイフンの有無に過ぎないので、本件商標に接したファッション業界の人々並びに需要者らは、請求人を表示したものと理解するのである。
よって、本件商標は、他人である請求人の著名な略称を含む商標であり、請求人の承諾を得ているものではないので、商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたものであり、その登録は無効とされるべきである。
(ウ)商標法第4条第1項第10号
上述のように、請求人は「イリスパイラ」「IRIS SPIRA」などの引用商標を「ネックレス、指輪、ブレスレット、イヤリング、ブローチ」などの商品について、平成12年1月から使用開始し、以来今日まで6年以上にわたって継続して日本を代表するファッション雑誌各誌に商品提供することで宣伝広告し、これらの引用商標は請求人の業務に係る高級真珠宝飾品を表示するものとしてファッション界並びに需要者である女性達に広く知られるところとなっているものである。その最大の証しが、フランスの名門ホテルである「ホテルリッツ パリ」のショッピングアーケードへの出店を許可されたことである。
然るに、本件商標は、周知商標である引用商標Aとはスペリングが完全に同一であり、称呼においても引用商標Aや同じく周知商標である引用商標Bと同一であり、使用される商品も「ネックレス、指輪、ブレスレット、イヤリング、ネクタイピン、ペンダント、身飾品」など引用商標が使用されている商品と同一又は類似するものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものであり、その登録は無効とされるべきである。
(エ)商標法第4条第1項第15号
繰り返すように、引用商標A及び引用商標Bは、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間において広く知られているものである。
一方、請求人会社の取締役であった被請求人は、請求人の商標ともいえる本件商標を、その在職中に請求人に無断で冒用出願して登録したものである。
すなわち、本件商標は正に請求人自身を意味しているのであり、これを請求人とは無関係の被請求人が、本件商標の指定商品である「ネックレス、指輪、ブレスレット、イヤリング、ネクタイピン、ペンダント、身飾品、カフスボタン」について使用した場合、それらの商品があたかも請求人の業務にかかる商品であるかのように、需要者らにおいて誤認混同を生ずることは避けられないのである。
よって本件商標は、商標法4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであり、その登録は無効とされるべきである。
(オ)商標法第4条第1項第16号
上述のように、「イリスパイラ/IRIS SPIRA」は請求人らが開発した養殖方法によって作られ、請求人が商品化して社会に広く知らしめた虹色に輝く希有な天然色の真珠の名称である。
したがって、「イリスパイラ/IRIS SPIRA」の名称が付せられた宝飾品や「イリスパイラ」の称呼で呼ばれる宝飾品に接した需要者らは、当該宝飾品が「イリスパイラ」と呼ばれる天然色の真珠によって製造された商品であると理解するのである。
而して、本件商標は、天然色の真珠の名称として広く知られる「イリスパイラ/IRIS SPIRA」と英文字のスペリングにおいて同一であり、称呼においても同一であるので、本件商標がそのような虹色に輝く希有な天然色の真珠を使用していない宝飾品について使用された場合、需要者において商品の品質について誤認混同を生ずることになる。
よって本件商標は、商標法第4条第1項第16号の規定に違反して登録されたものであり、その登録は無効とされるべきである。
(7)むすび
以上に述べた通り、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第16号の規定に違反して登録されたものである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、請求人の上記2の主張に対し、何ら答弁していない。

4 当審の判断
(1)甲第1ないし第61号証(枝番を含む。)及び請求の理由によれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人「有限会社イリスパイラ」は真珠、真珠製品及び宝石の卸、小売り並びに輸出入を主たる業務内容として、平成16年3月16日に設立され、登記上の住所は、代表取締役邊見隆の住所と同一である。また、取締役として被請求人である「松下明弘」の名前が記載されている(甲第2号証)。
(イ)平成18年6月27日付けで、被請求人である松下明弘が、請求人会社の取締役を辞任する旨の辞任届と認められる(甲第3号証)。
(ウ)請求人の代表取締役邊見隆は、真珠養殖業者である被請求人らと共同して、赤色系干渉色を有する真珠貝を用いることで、調色を一切施すことなく天然の真珠本来のうすいピンク色を持った虹色の真珠を養殖する方法を開発した。そして、この発明は、大阪市八尾市の株式会社松下パールを出願人として、平成14年6月24日付けで特願2002ー182560として特許出願されている(甲第4号証)。
(エ)請求人の代表取締役邊見隆と同一住所の「栗山隆」が権利者(「栗山」は邊見の旧姓と推認される。)であって、「イリスパイラ」の文字からなり、平成11年11月10日に登録出願され、第14類「宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品」を指定商品として、平成12年10月6日に設定登録された登録第4422071号商標の存在が認められる(甲第5号証)。
(オ)請求人は、本件商標の登録査定後であるが、平成18年10月5日にフランスの名門ホテルである「ホテルリッツ パリ」のショッピングアーケードに出店が許され、そこには「IRIS」「SPIRA」との間に円図形が配された商標が掲げられ、ネックレス等の商品が展示されている(甲第8号証)。
(カ)「家庭画報・KATEIGAHO INTERNATIONAL EDITION」の2006WINTER ISSUE VOL.10及び2006SPRING ISSUE VOL.11には、請求人に係る真珠の身飾り品に使用されている「Iris Spira」が紹介されている(甲第9及び10号証)。
(キ)請求人は、有限会社リュディックの広告代理店を介し、各種雑誌において「ネックレス、指輪、ピアス、ブレスレット」等に、「イリスパイラ」及び「IRIS SPIRA」の各商標を使用したタイアップ広告を、平成14年より平成18年12月に至るまで継続して掲載されていることが認められる(甲第13及び32乃至61号証)。
なお、「イリスパイラ」及び「IRIS SPIRA」の各商標を総括して、以下「引用商標」という。
(ク)甲第15ないし第27号証には、インターネット上に引用商標に関する紹介記事が掲載されていることが認められる。
(2)以上のとおり、引用商標は、請求人が、「ネックレス、指輪、ピアス、ブレスレット」等に、使用する商標として、各種ファッション雑誌に平成14年より平成18年12月に至るまで継続して掲載され、インターネット上でも紹介されたり、また、平成18年10月には、「ホテルリッツ パリ」のショッピングアーケードに出店し、引用商標に円形図形を配した商標を付したネックレス等の商品が販売されたことが認められる。
そうしてみると、引用商標は、請求人が販売する商品「ネックレス、指輪、ピアス、ブレスレット」等の商標として、本件商標の登録出願前より使用され、本件商標の登録査定時には、我が国における上記商品の取引者、需要者の間において、周知性を獲得していたものと認めることができる。
一方、甲第2及び第3号証によれば、被請求人は、平成18年6月27日に辞任届を提出するまで請求人の取締役の一人であったと認められ、本件商標が登録出願されたのは同年3月9日であり、本件商標を登録出願した後の僅か3か月後に辞任しているのであって、被請求人は、本件商標の登録出願前より、商品「ネックレス、指輪、ピアス、ブレスレット」等に使用される引用商標の存在について十分知っていたものといわざるを得ない。
(3)商標法第4条第1項第第7号の該当性について
本件商標は、前記1のとおり、「IRISSPIRA」の文字よりなるものであって、引用商標と称呼を同じくするか、又は、綴り字を同じくする実質的に同一商標ということができる。
そして、被請求人は、上記(2)のとおり、商品「ネックレス、指輪、ピアス、ブレスレット」等に使用される引用商標の存在を知りながら、引用商標が該商品に登録がされていないことを奇貨として、周知性を獲得していた引用商標と実質的に同一の本件商標を、請求人の承諾を得ずに登録出願し、登録を受けたものといわざるを得ず、本件商標の登録出願には著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることは、商取引の秩序を乱し、一般道徳観念に反するものであって、公の秩序を害するおそれのあるものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
(4)商標法第4条第1項第第15号の該当性について
本件商標は、引用商標と実質的に同一商標ということができるものであって、前記(2)のとおり、引用商標が請求人が販売する商品「ネックレス、指輪、ピアス、ブレスレット」等の商標として、本件商標の登録査定時には、我が国における上記商品の取引者、需要者の間において、周知性を獲得していたと認められるものであるから、本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者が引用商標を印象、連想、想起するというべきであり、該商品が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同するおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(5)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-10-03 
結審通知日 2007-10-10 
審決日 2007-10-25 
出願番号 商願2006-21221(T2006-21221) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Y14)
T 1 11・ 22- Z (Y14)
最終処分 成立  
前審関与審査官 泉田 智宏 
特許庁審判長 小林 和男
特許庁審判官 石田 清
小川きみえ
登録日 2006-09-08 
登録番号 商標登録第4985968号(T4985968) 
商標の称呼 アイリススパイラ、アイリススピラ、イリススパイラ、イリススピラ 
代理人 小谷 武 
代理人 木村 吉宏 

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