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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007890050 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y05
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y05
管理番号 1168927 
審判番号 無効2007-890056 
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-05-02 
確定日 2007-11-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第4988500号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4988500号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4988500号商標(以下「本件商標」という。)は、「ブテナダッシュ」の片仮名文字を標準文字で書してなり、平成17年12月6日に登録出願、第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕環,失禁用おしめ,はえ取り紙,防虫紙,乳糖,乳児用粉乳,人工受精用精液」を指定商品として、同18年9月15日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録商標は、以下の(1)ないし(22)である。

(1)登録第4462395号商標(以下「引用商標1」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を書してなり、平成12年4月5日に登録出願、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」を指定商品として、同13年3月23日に設定登録されたものである。

(2)登録第4581355号商標(以下「引用商標2」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成13年8月20日に登録出願、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」を指定商品として、同14年6月28日に設定登録されたものである。

(3)登録第4462396号商標(以下「引用商標3」という。)は、「BUTENALOCK」の欧文字を書してなり、平成12年4月5日に登録出願、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」を指定商品として、同13年3月23日に設定登録されたものである。

(4)登録第4581336号商標(以下「引用商標4」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字及び「足ふきシート」の文字を二段に書してなり、平成13年8月10日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート ,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」及び第16類「紙類,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,衛生足ふき」を指定商品として、同14年6月28日に設定登録されたものである。

(5)登録第4581638号商標(以下「引用商標5」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字及び「足除菌ミスト」の文字を二段に書してなり、平成13年8月10日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」及び第16類「紙類,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,衛生足ふき」を指定商品として、同14年6月28日に設定登録されたものである。

(6)登録第4594172号商標(以下「引用商標6」という。)は、「ブテナロック 足ゆびミスト」の文字を書してなり、平成13年10月1日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」、第16類「紙類,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,衛生足ふき」を指定商品として、同14年8月9日に設定登録されたものである。

(7)登録第4601835号商標(以下「引用商標7」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(2)のとおりの構成よりなり、平成13年10月26日に登録出願、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」を指定商品として、同14年9月6日に設定登録されたものである。

(8)登録第4601837号商標(以下「引用商標8」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(3)のとおりの構成よりなり、平成13年10月26日に登録出願、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」を指定商品として、同14年9月6日に設定登録されたものである。

(9)登録第4601838号商標(以下「引用商標9」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(4)のとおりの構成よりなり、平成13年10月26日に登録出願、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」を指定商品として、同14年9月6日に設定登録されたものである。

(10)登録第4605539号商標(以下「引用商標10」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字及び「足洗いソープ」の文字を二段に書してなり、平成13年8月10日に登録出願、第3類「せっけん類」、第5類「日本薬局方の薬用せっけん」及び第16類「紙類,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,衛生足ふき」を指定商品として、同14年9月20日に設定登録されたものである。

(11)登録第4647841号商標(以下「引用商標11」という。)は、「ブテナロック デオドラントミスト」の片仮名文字を書してなり、平成14年5月16日に登録出願、第3類「デオドラント効果を有する霧状のせっけん類,香料類,デオドラント効果を有する霧状の化粧品」、第5類 「デオドラント効果を有する霧状の薬剤,歯科用材料,医療用腕輪,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」及び第16類「デオドラント効果を有する衛生手ふき,デオドラント効果を有する紙製タオル,紙製テーブルナプキン,デオドラント効果を有する紙製手ふき,紙製ハンカチ,デオドラント効果を有する衛生足ふき,デオドラント効果を有するウエットティッシュ」を指定商品として、同15年2月21日に設定登録されたものである。

(12)登録第4647842号商標(以下「引用商標12」という。)は、「ブテナロック デオドラントシート」の片仮名文字を書してなり、平成14年5月16日に登録出願、第3類「デオドラント効果を有するシート状のせっけん類,デオドラント効果を有するシート状の化粧品」、第5類 「デオドラント効果を有するシート状の薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,ばんそうこう,包帯,防虫紙,胸当てパッド」及び第16類「デオドラント効果を有する衛生手ふき,デオドラント効果を有する紙製タオル,紙製テーブルナプキン,デオドラント効果を有する紙製手ふき,紙製ハンカチ,デオドラント効果を有する衛生足ふき,デオドラント効果を有するウエットティッシュ」を指定商品として、同15年2月21日に設定登録されたものである。

(13)登録第4652743号商標(以下「引用商標13」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(5)のとおりの構成よりなり、平成14年5月30日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」及び第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」を指定商品として、同15年3月14日に設定登録されたものである。

(14)登録第4652744号商標(以下「引用商標14」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(6)のとおりの構成よりなり、平成14年5月30日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」及び第16類「紙類,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,衛生足ふき,ウエットティッシュ」を指定商品として、同15年3月14日に設定登録されたものである。

(15)登録第4652745号商標(以下「引用商標15」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(7)のとおりの構成よりなり、平成14年5月30日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」及び第16類「紙類,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,衛生足ふき,ウエットティッシュ」を指定商品として、同15年3月14日に設定登録されたものである。

(16)登録第4658673号商標(以下「引用商標16」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(8)のとおりの構成よりなり、平成14年5月30日に登録出願、第3類「せっけん類」及び第5類「日本薬局方の薬用せっけん」を指定商品として、同15年4月4日に設定登録されたものである。

(17)登録第4688428号商標(以下「引用商標17」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(9)のとおりの構成よりなり、平成14年9月30日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」及び第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」を指定商品として、同15年7月4日に設定登録されたものである。

(18)登録第4688429号商標(以下「引用商標18」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(10)のとおりの構成よりなり、平成14年9月30日に登録出願、第3類「せっけん類」及び第5類「日本薬局方の薬用せっけん」を指定商品として、同15年7月4日に設定登録されたものである。

(19)登録第4694574号商標(以下「引用商標19」という。)は、「ブテナロック」及び「足指ミスト」の文字を一連に書してなり、平成14年11月12日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」及び第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」を指定商品として、同15年7月25日に設定登録されたものである。

(20)登録第4740784号商標(以下「引用商標20」という。)は、「ブテナロックL」の文字及び「BUTENALOCK L」の欧文字を二段に書してなり、平成15年5月23日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」、第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕環,失禁用おしめ,はえ取り紙,防虫紙,乳糖,乳児用粉乳,人工受精用精液」及び第16類「紙類,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,衛生足ふき,ウェットティッシュ」を指定商品として、同16年1月16日に設定登録されたものである。

(21)登録第4768564号商標(以下「引用商標21」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(11)のとおりの構成よりなり、平成15年7月31日に登録出願、第3類「足用のシート状化粧品」、第5類「足用のシート状薬剤」及び第16類「衛生足ふき」を指定商品として、同16年4月30日に設定登録されたものである。

(22)登録第4791406号商標(以下「引用商標22」という。)は、「ブテナロック」の片仮名文字を包含する別掲(12)のとおりの構成よりなり、平成15年12月15日に登録出願、第5類「スプレー式の薬剤」を指定商品として、同16年7月30日に設定登録されたものである。
以下、引用商標1ないし引用商標22を一括していうときは、単に「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由、答弁に対する弁駁及び上申書において要旨次のとおりに述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第159号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項第1号に基づいて、その登録を無効とされるべきである。

(1)審判請求の利益について
本件商標は、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標である。
そして、請求人は、本件商標の使用により、その営業活動に取り返しのつかない損害を受けるおそれがある。
したがって、請求人は、本件審判を請求することにつき、利害関係を有する。

(2)商標法第4条第1項第11号について
(ア)本件商標と引用商標との類否
(a)本件商標と引用商標1との類否
本件商標は、「ブテナダッシュ」の片仮名文字よりなるものであるから、「ブテナダッシュ」の称呼を生じる。
一方、引用商標1は、「ブテナロック」の片仮名文字よりなるものであるから、「ブテナロック」の称呼を生じる。
そこで、「ブテナダッシュ」の称呼と「ブテナロック」の称呼とを対比すると、両称呼はいずれも、6音の構成よりなり、語頭部分の第1音「ブ」、第2音「テ」、第3音「ナ」及び第5音の「ッ」を共通にしている。
このように、両称呼は、6音中の4音を共通にし、第4音の「ダ」と「ロ」、第6音の「シュ」と「ク」が異なっているにすぎない。
しかも、前記第4音及び第6音の差異音は、称呼上極めて印象が弱いとされる中間及び語尾に位置する音である。
さらに、両称呼において共通する「ブテナ」の音についてみると、語頭音の「ブ」の音は強く発音され聴取される濁音であり、続く第2音の「テ」も強く発音される破裂音であり、さらに、第3音の「ナ」の音は口を大きく開いて発音される母音[a]を帯有する音であるから、「ブテナ」の音全体が極めて強い語感をもって聴取されるものである。
したがって、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、称呼上重要な位置を占める語頭部の「ブテナ」が、聴者に強く印象付けられ、上記差異音は弱い印象しか与えないものである。
このように取引者、需要者に語頭部の「ブテナ」の称呼が強く印象付けられることは、水虫薬の商品名(商標)においては請求人が調査した限り、本件商標の出願当時から現在に至るまで「ブテナ」の文字及び称呼を有する商標としては、請求人の「ブテナロック」しか存在していないことからもいえるところである。
なお、取引の実際において、引用商標1「ブテナロック」は、周知著名なこともあり、簡便かつその親しみから、「ブテナ」と略称されている事実がある(甲第101号証)。
さらに、語調の上からも、「ブテナダッシュ」と「ブテナロック」は、強く発音される語頭部を共通にし、中間音がいずれも促音化していることから、全体のイントネーションやリズムも全く同じである。
そうとすると、両称呼においては、それぞれを一連に称呼した場合において、その語感語調が極めて近似するから、称呼上彼此相紛らわしく類似するものである。
また、引用商標1「ブテナロック」が、強い印象を与える語頭部「ブテナ」に相応して、単に「ブテナ」と略称される場合があることは前述のとおりであるところ、本件商標「ブテナダッシュ」に接する者も同様にその語頭部「ブテナ」に着目して単に「ブテナ」と略称することもあるというべきである。
そうとすると、両商標にあっては、その略称「ブテナ」が一致するから、彼此区別が困難というべきである。
したがって、この点においても、両商標は称呼上類似するものである。
次に、両商標の外観について検討すると、両商標は何れも片仮名文字よりなり、語頭部の「ブテナ」の文字と、第5文字の「ッ」を共通にし、中間部「ダ」の文字と「ロ」の文字、語尾の「シュ」の文字と「ク」の文字の差異があるにすぎない。
そして、引用商標1が周知著名な商標であることも考慮すると、本件商標と引用商標1とは、その外観も相紛らわしく類似するものである。
さらに、観念について検討すると、両商標において共通する語頭部の「ブテナ」は、引用商標1をはじめとする「ブテナロック」商標が使用されている水虫薬の有効成分である前記「塩酸ブテナフィン」を暗示させる強いイメージをもった造語要素である。
さらに、引用商標1が「ブテナ」と略されているほどであるから、本件商標に接する者は、その語頭の「ブテナ」に着目し、「塩酸ブテナフィン」を暗示させる引用商標1「ブテナロック」を直ちに連想することは想像に難くない。
したがって、両商標は、その観念やイメージにおいても相紛らわしく類似するものである。
以上検討した称呼、外観、観念の共通性を総合的に考察し、かつ、引用商標1「ブテナロック」が水虫薬について周知著名商標となっている取引の実情を考慮した場合においては、本件商標がその指定商品、特に「水虫薬」に使用されたときには、取引者、需要者は、本件商標から観念において引用商標1を連想し、かつ、両者はその称呼においても相紛らわしいところから、その商品の出所を混同する蓋然性は極めて高いといわなければならない。
したがって、本件商標は、引用商標1と類似するものである。
また、商品についても、本件商標の指定商品と引用商標1の指定商品は、抵触するものである。

(b)本件商標と引用商標2との類否
引用商標2は、図形中に、ロゴデザイン化した「ブテナロック」の文字を顕著に表してなる商標であるから、当該「ブテナロック」の文字部分を要部とする商標であり、引用商標1と同様に「ブテナロック」の称呼を生じる。
そして、本件商標と引用商標2から生じる「ブテナロック」の称呼が類似すること及び本件商標と引用商標2とが、観念上類似することは、上記(a)で述べた、引用商標1の場合と同様である。
かつ、本件商標の指定商品と引用商標2の指定商品は、「薬剤」等につき抵触する。

(c)本件商標と引用商標3ないし引用商標22との類否
引用商標3ないし引用商標22は、普通書体の片仮名文字「ブテナロック」を要部とする商標、ロゴデザイン化した片仮名文字「ブテナロック」を要部とする商標、又は、欧文字の「BUTENALOCK」を要部とする商標であるから、いずれの商標からも「ブテナロック」の称呼を生じる。
そして、本件商標より生じる「ブテナダッシュ」の称呼と引用商標3ないし引用商標22より生じる「ブテナロック」の称呼が類似すること及び本件商標と引用商標3ないし引用商標22とが、観念上類似することは、上記(a)及び(b)で述べた、引用商標1及び引用商標2の場合と同様であり、かつ、本件商標の指定商品と引用商標3ないし引用商標22の指定商品は、「薬剤,日本薬局方の薬用せっけん,デオドラント効果を有する霧状の薬剤,足用のシート状薬剤,スプレー式の薬剤」等につき抵触する。

(イ)むすび
以上のとおり、本件商標は、引用商標との関係で、商標法第4条第1項第11号に該当する。

(2)商標法第4条第1項第15号について
(ア)請求人が、「ブテナロック」を商標登録するに至った経緯
「水虫、いんきんたむし、ぜにたむしに対する治療薬」(以下、これらを総称して「水虫薬」という。)の有効成分として高い薬効を有する薬の一つとして「塩酸ブテナフィン」がある。
この「塩酸ブテナフィン」の原薬は、科研製薬株式会社(以下「科研製薬」という。)が新薬として開発したものである。
そして、科研製薬と請求人は、この「塩酸ブテナフィン」を配合した外用薬(クリーム剤、液剤及び噴霧剤)を共同開発し、平成4年1月21日に、厚生労働省より、クリーム剤と液剤について、医療用医薬品(医者の処方築や薬剤師等の指導が必要な医療機関等によって処方される薬剤)としての製造承認(現在の製造販売承認に相当)を取得した。
そして、請求人は、平成4年4月17日に、医療用医薬品としての「塩酸ブテナフィン」配合の外用薬(販売名称「ボレー」)を新薬として製造、販売し、現在に至っている(甲第118号証)。
さらに、請求人は、「塩酸ブテナフィン」を有効成分として配合した外用薬を医者の処方箋なく一般の大衆に広く使ってもらえるように、一般用医薬品としての製造販売承認を取得した。

(イ)「ブテナロック」の著名性
(a)「ブテナロック」の使用態様
請求人は、平成15年2月5日より、一般用医薬品として「クリーム状・液状の水虫薬」を販売している。
そして、当該指定商品には、当初から現在に至るまで、普通書体で表示してなる「ブテナロック」の商標及び別掲(13)の書体よりなる「ブテナロック」の商標(以下、両商標を一括して「使用商標」という。)を使用している(甲第11号証ないし甲第24号証)。

(b)水虫薬「ブテナロック」に対する市場の評価
水虫薬「ブテナロック」は、一般用医薬品では初めて「塩酸ブテナフィン」が配合された水虫薬であることもあって、注目を浴びた(甲第13号証ないし甲第15号証、甲第25号証及び甲第26号証)。
そして、水虫薬「ブテナロック」は、医者や薬剤師等によって高い薬効をもつことが認められた医療用医薬品をスイッチした一般用医薬品であるという、極めて画期的なものであることもあって、発売開始から僅か3ヶ月で市場シェア第2位の地位を占めるほどのヒット商品となり、2003年度の医薬品に限らないあらゆる商品の中での「ヒット商品ベスト30」にランクインされた(甲第27号証ないし甲第29号証)。

(c)「ブテナロック」の広告実績
請求人の水虫薬「ブテナロック」の発売が開始された、平成15年2月以降、本件商標の出願時点までの期間の広告宣伝だけでも53億円の費用をかけて、テレビコマーシャル、新聞広告、雑誌広告、電車のステッカー、駅構内でのポスター等の広告、薬局の店頭でのPOP広告等を行っている。

(d)水虫薬「ブテナロック」の売上高と市場占有率
水虫薬「ブテナロック」の売り上げは、発売当初の平成15年度において約19億円強であり(甲第67号証)、発売開始である平成15年2月から本件商標の出願時である平成17年12月までのトータルで約58億円に達している(甲第68号証及び甲第69号証)。
水虫薬(一般用医薬品)の市場規模は、年間約200億円であり、そのことからも「ブテナロック」の前記売上高が、水虫薬(一般用医薬品)としては画期的なものであることがわかる。
そのために、「ブテナロック」は、大ヒット商品としてランクされ、注目されてきたのである(甲第27号証及び甲第28号証、甲第37号証)。
また、水虫薬(一般用医薬品)が100品目以上ある中で、「ブテナロック」商品の市場占有率は、発売から僅か3ヶ月で11.8%に達し(甲第27号証)、その後も飛躍的にシェアを高め、本件商標の登録出願時である平成17年12月当時で約16%(全国第2位)であり、現在では、19.2%(全国第1位)までに達し、水虫薬(一般用医薬品)でのシェアは抜きん出ている(甲第70号証)。
このことからも、「ブテナロック」の周知著名性が伺い知れるところである。
そして、請求人は、水虫薬「ブテナロック」の周知著名性を背景に、「足洗用の石けん、消臭スプレー、足ふきシート」等の関連商品についても「ブテナロック」の使用を拡大してきている(甲第71号証)。
以上から明らかなように、請求人は、上記(c)で述べたとおり「ブテナロック」に、莫大な広告宣伝費用を投じて、そのブランドの浸透を図ってきたものであり、その結果、少なくとも本件商標の出願時点においては、「ブテナロック」は、取引者及び需要者間で周知、著名となっていたものである。そして、その周知著名性は、そして現在に継続している(甲第140号証ないし甲第159号証)。

(ウ)使用商標の独創性
使用商標「ブテナロック」の語頭部である「ブテナ」は、水虫薬の有効成分として評価の高い「塩酸ブテナフィン」を暗示させる強い印象を与える造語要素である。
この「ブテナ」に結合された「ロック」は、「閉じ込める」等の意「ロック(lock)する。」及び「妨害」等の意「ブロック」に由来するものであり、そのことから「ブテナロック」全体としては「塩酸ブテナフィンを配合した、水虫菌を閉じ込めたりブロックする薬」という意味やイメージを暗示させる造語商標として創造されたものである。
このように「ブテナロック」は、独創性の高い造語商標であり、市場に存在する水虫薬の商標としては、語頭部に「ブテナ」を有する商標は「ブテナロック」のみであることからも、その独創性の高さが示されている。

(エ)後発品と悪意(不正競争の意図)によるフリーライド商標の存在
後発品の製造・販売自体は薬事法上では違法な行為ではないが、商標法上問題となるのは、このような後発品に先発品と混同を生じるような類似の商標が採択され、使用されることである。
水虫薬「ブテナロック」(クリーム・液)と同時期に、一般用医薬品へスイッチされた水虫薬として商品「スコルバダッシュ」(クリーム・液)がある(甲第31号証、甲第121号証ないし甲123号証、製造:科研製薬、販売:武田薬品工業株式会社)。
そして、当該「スコルバダッシュ」は、請求人が、「塩酸ブテナフィン」を有効成分とした初の医療用医薬品「ボレー」を開発した際の共同開発者である科研製薬が、「ボレー」とは別ブランドで、自ら製造承認を取得した医療用医薬品「メンタックス」(クリーム・液)(甲第124号証)を基に、一般用医薬品へスイッチした水虫薬である。(つまり、請求人の「ブテナロック」と科研製薬等の「スコルバダッシュ」は、いずれも有効成分を「塩酸ブテナフィン」とする医療用医薬品から一般用医薬品への初のスイッチOTC薬(医療用医薬品から一般用医薬品になった薬品)である)。
「ブテナダッシュ」は、先発商品である「ブテナロック」の語頭部である「ブテナ」と、同じく先発品商標である「スコルバダッシュ」の語尾部である「ダッシュ」を寄せ集めてつくった商標であって、いかにも先発品のブランド力(信用力)にフリーライド(ただ乗り)せんとする、いわゆる「あやかり商標」なのである。
このように、本件審判においては、後発品におけるフリーライド商標使用という問題が背景にある。

2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号について
被請求人は、本件商標「ブテナダッシュ」と引用商標「ブテナロック」とが類似しない旨主張している。
しかしながら、被請求人は、引用商標「ブテナロック」が著名商標であるという事実を、故意に無視している。
引用商標が著名であるという前提事実によって、商標の類否判断は異なってくるのであり、被請求人が述べている類否の主張は、そのような前提を無視した画一的な類否の主張にすぎない。

(2)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号は、著名商標の保護に関しては、画一的な類似の範囲を超えて生じる出所の混同を防止することを目的として解釈・運用されていることは誰もが知る顕著な事実であり、商標法第4条第1項第15号の適用における混同は「広義の混同」であることが確立している(「レールデュタン事件判決」、甲第103号証)。
したがって、仮に画一的判断からすれば商標として類似しない場合についても、著名商標を連想させることによって何らかの営業上の関連性やシリーズ商品であるかのような関係性を想起させ、出所の混同のおそれがあれぱ、
類似性を実質的に解して商標法第4条第1項第15号が適用されるのである。

(3)薬事法の製造承認について
被請求人は、「厚生労働省は、販売名『ブテナダッシュ』が先行する製造承認を受けた水虫薬『ブテナロック』の名称と誤認・混同することはないと判断した。」旨主張する。
しかしながら、このような被請求人の主張は、事実に反する。
なぜならば、厚生労働省は、医薬品の製造承認申請において、先行する商標権に抵触するかどうかを判断できる機関ではないからである。
このことは、「医薬品製造販売指針」(甲第125号証)に明記されている。
すなわち、「商標との関係については、薬事法の規制の範囲外であるが、他社が商標権を有する名称はその者の承諾のない限りその名称の使用はできないことは当然で、他社との無用の争いを避けるためにも、販売名をつける場合には商標権の有無を十分に調査すべきである。」とされている。
つまり、厚生労働省は、申請された販売名が他社の商標権に抵触しているかどうかの審査は行わず、あくまでも、当該販売名の申請が他社の商標との関係で適切かどうかは申請者(製造販売業者)の自己責任に委ねられているのである。

(4)「ブテナ」について
被請求人は、「ブテナロック」の語幹部分「ブテナ」は、原材料の略称であると誤認しているようである。
しかしながら、「ブテナ」は、原材料である「塩酸ブテナフィン」に由来するものの、原材料の略称ではなく、識別力を認められた造語である(商標登録されている事実がそれを示している)。
また、原材料の略称として使用されている事実もない。
すなわち、「ブテナ」は、それ自体が強い識別力を有する語幹部分である。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第14号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 審判請求の利益について
被請求人は、請求人の審判請求の利益については争わない。

2 本件登録商標の手続の経緯
本件商標の手続の経緯は、概ね審判請求書の記載で正しいが、本件商標が、審査において、引用商標1ないし引用商標22のいずれとも類似しないとして登録されたという事実が欠落している。

3 商標法第4条第1項第11号について
(1)外観について
請求人は、本件商標「ブテナダッシュ」と引用商標が外観上類似する旨を主張するが、両商標は中間部に位置する「ダ」と「ロ」及び語尾に位置する「シュ」と「ク」において相違する。
しかして、向かって右上から左下の斜めの形であり、かつ、濁点を有する「ダ」と四角く括った形の「ロ」とは、看者が誰であっても一見して明らかに外観上の差異が感得されるものである。
また、全体として逆三角形であり、かつ、拗音の「ュ」を伴なっている「シュ」と向かって右上から左下の斜めの形の「ク」とは、看者が誰であっても一見して明らかに外観上の差異が感得されるものである。
加えて、「ブテナロック」は促音の「ッ」を含めてもわずか6文字の短い商標であり、「ブテナダッシュ」も促音の「ッ」と拗音の「ュ」を含めてもわずか7文字の短い商標であることも考え併せれば、「ダ」と「ロ」、「シュ」と「ク」の相違は重大な相違となり、「ブテナロック」と「ブテナダッシュ」とが外観上類似する、ことはありえない。

(2)観念について
本件商標「ブテナダッシュ」も引用商標の「ブテナロック」も「造語商標」であって、辞書類や百科辞典類を調べてみても全く掲載されていない。
特定の意味を有しない言葉について、観念(意味)の同一や類似は議論する余地がないのは明らかであって、請求人が、「ブテナロック」を「造語商標」と自認していながら、引用商標の「ブテナロック」と「観念上類似する」旨断言しているのは理解に苦しむ。

(3)称呼について
本件商標「ブテナダッシュ」から生じる「ブテナダッシュ」の称呼と引用商標「ブテナロック」から生じる「ブテナロック」の称呼は、強く響く有声破裂音の濁音「ダ」と響きが弱い歯茎音の弾音「ロ」の差異及び歯茎音の無声摩擦音「シュ」と軟口蓋音の破裂音「ク」の差異を有する。
そして、両商標は、わずか6音節から7音節しかない商標において、決定的な差異が2音も存在するするから、称呼上、明らかに異なるものである。
また、「図/グリンロック/グリーンロック」(乙第3号証)と「グリーンダッシュ」(乙第4号証)及び「シューロック」(乙第5号証)と「シュウダッシュ」(乙第6号証)が、商品が抵触しているにもかかわらず、相互に異なった者によって出願され登録され併存している事実もある。

(4)結論
以上論じたように、本件商標「ブテナダッシュ」と引用商標の「ブテナロック」とでは、外観及び称呼を異にし、かつ、両者とも観念の無い造語であるから、相互に商標として異なり、商標法第4条第1項第11号には該当しないものである。

4 商標法第4条第1項第15号について
(1)使用商標の広告宣伝の影響について
使用商標が、仮に、取引者、需要者の間において広く認識されているとしても、本件商標「ブテナダッシュ」と使用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれからみても充分に区別される非類似の商標であるから、本件商標をその指定商品に使用しても商品の出所について混同を生じるおそれはない。

(2)薬事法の製造承認について
「医薬品」の製造承認については、その「販売名」も審査の対象となっていて、「医薬品」の誤認・混同から誤投薬が生じることがないよう、製造承認の審査の過程で、先行する製造承認を受けた他の「医薬品」と「販売名」が誤認・混同すると判断された場合には、そのままの「販売名」では製造承認を与えない(「販売名」の変更が要求される)こととなっている。
厚生労働省は、先行して製造承認を受けた、水虫薬「ブテナロック」の存在することは確実に知っていた筈である。
それにもかかわらず、厚生労働省は、「ブテナダッシュ」の「医薬品」に対して製造承認を与えているのである(甲第76号証)。
この事実は、厚生労働省が、「ブテナダッシュ」は、先行する製造承認を受けた水虫薬「ブテナロック」の名称と誤認・混同することはないと判断したことを示している。

(3)「フリーライド商標」との不当非難について
本件商標「ブテナダッシュ」と使用商標とでは、商標が異なり、取引者、需要者は十分に区別するから、本件商標に対するフリーライドとの非難は失当である。
請求人は、「ブテナ」がつく商標は、総て、「ブテナロック」と類似すると認めよという要求しているが、係る要求は、商標法に照らして容認される余地はない。

(4)結論
以上論じたように、本件商標と使用商標とは、商品の出所につき混同を生じるおそれはないから、商標法第4条第1項第15号には該当しないものである。

5 請求人の主張が根本的に誤っている点は、次の事項を故意に無視している点にある。
(ア)原材料名が需要者の記憶に残りにくいのと同様に、原材料名の略称も需要者の記憶に残りにくい事実。

(イ)仮に「ブテナ」が原材料の略称でないと仮定しても、意味のない「無意味綴」よりは「有意味語」の方がはるかに強く需要者の記憶に残る事実。

(ウ)「有意味語」の内でも、一般人に馴染みの深い語は、より強く容易に需要者の記憶に残る事実。

(エ)請求人の盛んな宣伝・広告によって「有意味語」の「ロック」の部分の意味が繰り返し示されたため、さらに強く需要者の記憶に「有意味語」の「ロック」の部分が残っている事実。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号について
商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無は、「当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需用者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需用者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。」(最高裁判所第三小法廷、平成10年(行ヒ)第85号)。
そこで、上記基準に沿って、本件商標が、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であるか否かについて、以下検討する。

2 使用商標の周知著名性
(1)甲各号証及び請求の理由によれば、次の事実を認めることができる。

(ア)水虫薬の有効成分として高い薬効を有する薬の一つとして「塩酸ブテナフィン」がある。
この「塩酸ブテナフィン」の原薬は、科研製薬が新薬として開発したものである。
そして、科研製薬と請求人は、この「塩酸ブテナフィン」を配合した外用薬(クリーム剤、液剤及び噴霧剤)を共同開発し、平成4年1月21日に、厚生労働省より、クリーム剤と液剤について、医療用医薬品としての製造承認(現在の製造販売承認に相当)を取得した。
また、請求人は、平成4年4月17日に、医療用医薬品としての「塩酸ブテナフィン」配合の外用薬(販売名称「ボレー」)を新薬として製造、販売し、現在に至っている(甲第118号証)。
さらに、請求人は、「塩酸ブテナフィン」を配合の薬品について、一般用医薬品としての製造販売承認を取得した。

(イ)請求人は、平成15年2月5日に一般用医薬品として販売した、「クリーム状・液状の水虫薬」に、使用商標を使用し(甲第11号証ないし甲第16号証)、その後現在に至るまで、当該商標を継続的に使用している(甲第17号証ないし甲第24号証)。

(ウ)水虫薬「ブテナロック」は、一般用医薬品では初めて「塩酸ブテナフィン」が配合された水虫薬であることもあって、注目を浴びた(甲第13号証ないし甲第15号証、甲第25号証及び甲第26号証)。
そして、水虫薬「ブテナロック」は、発売開始から3ヶ月で市場シェア第2位となった(甲第27号証ないし甲第29号証)。
水虫薬「ブテナロック」は、ヒット商品の例として、一般誌、経済誌、薬事関係の業界誌等でしばしば紹介されている(甲第30号証ないし甲第36号証)。
また、経済誌等においては、製薬業界各社が製造・販売する水虫薬が対比紹介されることも多くあるが、水虫薬「ブテナロック」は、商品対比でも取り上げられている(甲第37号証)。
さらに、全国の薬局・薬店・ドラッグストアなどで販売されている一般用医薬品を紹介する家庭用医薬品ガイド「くすりやさん(甲第38号証ないし甲第41号証)にも水虫薬「ブテナロック」が、その発売以来常に紹介されており、水虫薬「ブテナロック」を取り扱う通信販売業者も多数に上っている(甲第42号証ないし甲第46号証)。

(エ)請求人の水虫薬「ブテナロック」の発売が開始された、平成15年2月以降、本件商標が商標登録出願される平成17年12月6日の間においても、26,350GRPを超えるテレビコマーシャル、6,604万部の新聞広告、及び816万部の雑誌広告がなされている。
さらに、電車のステッカーや駅構内でのポスター等の広告、薬局の店頭でのPOP広告等も日本全国を網羅する規模でなされている。
これらの広告宣伝に要した費用は、発売当初から現在までで約72億円を超えており、本件商標の出願時点までの期間の広告宣伝費用だけでも53億円の規模に達している。

(オ)水虫薬「ブテナロック」の売上高と市場占有率
水虫薬「ブテナロック」の売り上げは、発売当初の平成15年度において約19億円強であり(甲第67号証)、発売開始である平成15年2月から本件商標の出願時である平成17年12月までのトータルで約58億円に達している(甲第68号証及び甲第69号証)ところ、水虫薬(一般用医薬品)の市場規模は年間約200億円であることから、水虫薬「ブテナロック」は大ヒット商品としてランクされ、注目されてきた(甲第27号証、甲第28号証及び甲第37号証)。
また、水虫薬(一般用医薬品)が100品目以上ある中で、「ブテナロック」商品の市場占有率は、発売から僅か3ヶ月で11.8%に達し(甲第27号証)、その後もシェアを高め、本件商標の登録出願時である平成17年12月当時で約16%(全国第2位)であり、現在では、19.2%(全国第1位)までに達し、水虫薬(一般用医薬品)でのシェアは抜きん出ている(甲第70号証)。
そして、請求人は、水虫薬「ブテナロック」の周知著名性を背景に、「足洗用の石けん、消臭スプレー、足ふきシート」等の関連商品についても「ブテナロック」の使用を拡大してきている(甲第71号証)。

(2)以上の事実を総合勘案すれば、使用商標は、請求人により継続して使用され、宣伝、広告された結果、本件商標の出願時には、請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたと判断するのが相当である。
そして、その周知性は、本件商標の登録時を含め、それ以降にも継続していたと認められ(甲第140号証ないし甲第159号証)、これを覆すに足りる証拠はない。

3 使用商標の独創性の程度
使用商標「ブテナロック」の語は、全体としては特定の意味合いを有さない造語であること、及び市場に存在する水虫薬の商標としては、語頭部に「ブテナ」を有する商標は「ブテナロック」以外発見できないことを考慮すれば、独創性の程度の高い商標であるということができる。

4 本件商標と使用商標との類似性の程度
本件商標は、「ブテナダッシュ」の片仮名文字よりなるところ、「ブテナ」は、特定の意味合いを有さない語であるのに対して、「ダッシュ」は、「突進」の意味を有する語として一般に親しまれている英語「dash」を想起させる語であるから、観念上「ブテナ」と「ダッシュ」の結びつきは極めて弱く、両文字は分離して観察されやすいものといえる。
使用商標は、「ブテナロック」の片仮名文字よりなるところ、「ブテナ」は、特定の意味合いを有さない語であるのに対して、「ロック」は、「鍵」の意味を有する語として一般に親しまれている英語「lock」及び「岩」の意味を有する語として一般に親しまれている英語「rock」を想起させる語であり、加えて、水虫薬「ブテナロック」が単に「ブテナ」と略称されている事実(甲第101号証)も認められることから、観念上「ブテナ」と「ロック」の結びつきは極めて弱く、両文字は分離して観察されやすいものといえる。
そして、本件商標「ブテナダッシュ」と使用商標「ブテナロック」は、比較的印象が強いといえる語頭部分において「ブテナ」の文字部分を共通にしており、また、「ブテナ」の文字部分は、水虫薬「塩酸ブテナフィン」を暗示させるものであり、さらに、使用商標は水虫薬に使用され、上記2で述べたとおり、需要者に広く認識されており、単に「ブテナ」と略称されて称呼されている実例もある。
以上の点よりすれば、本件商標「ブテナダッシュ」及び使用商標「ブテナロック」に接した取引者、需要者は、両商標を記憶するに当たって、両商標中の「ブテナ」の文字部分の外観及び当該「ブテナ」の文字部分より生ずる「ブテナ」の称呼に強い印象を受けるというの相当である。
してみれば、本件商標と使用商標は、離隔観察する場合には極めて類似性の程度が高い商標であるということができる。

5 請求人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
使用商標が使用されている「水虫薬」と本件商標に係る指定商品「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕環,失禁用おしめ,はえ取り紙,防虫紙,乳糖,乳児用粉乳,人工授精用精液」とは、同一商品若しくは類似商品又は極めて関連性の強い商品である。

6 結論
以上を総合勘案すると、本件商標に接する取引者、需要者は、普通に払われる注意力において、使用商標を連想、想起するものといえる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同第11号に該当するか否かについて論及するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲


(1)引用商標2





(2)引用商標7





(3)引用商標8





(4)引用商標9





(5)引用商標13





(6)引用商標14





(7)引用商標15





(8)引用商標16





(9)引用商標17





(10)引用商標18





(11)引用商標21





(12)引用商標22





(13)使用商標




















審理終結日 2007-09-11 
結審通知日 2007-09-18 
審決日 2007-10-02 
出願番号 商願2005-114129(T2005-114129) 
審決分類 T 1 11・ 26- Z (Y05)
T 1 11・ 271- Z (Y05)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神田 忠雄 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 岩本 和雄
鈴木 修
登録日 2006-09-15 
登録番号 商標登録第4988500号(T4988500) 
商標の称呼 ブテナダッシュ 
代理人 工藤 莞司 
代理人 吉村 仁 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 吉村 悟 
代理人 黒川 朋也 
代理人 佐藤 英二 

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