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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z41
管理番号 1162466 
審判番号 無効2005-89079 
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-06-09 
確定日 2007-08-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第4451668号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4451668号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4451668号商標(以下「本件商標」という。)は、「いけばなむらさき会」の文字と「相生桜」の文字とを上下二段に横書きしてなり、平成11年10月12日に登録出願され、第41類「生け花の教授,生け花の展示,生け花の実演を主とする興行の企画・運営又は開催」を指定役務として、同13年2月9日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第125号証を提出している。
1 請求の理由(要旨)
(1)本件商標は、以下に述べるとおり、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものであるから、その登録は無効とされるべきものである。
(2)請求人の引用する商標
請求人(人物A)は、片仮名文字と漢字を左横書した商標「いけばなむらさき会」(以下「引用商標」という。)を、役務「生け花の教授、生け花の展示,生け花の実演を主とする興行の企画・運営又は開催」に使用しており、当該引用商標は需要者、消費者の間に広く知られている商標である。
2 請求人による引用商標の使用
(1)引用商標について
請求人、人物Aは、昭和40年1月1日、50歳の時に独自の生け花の流派を創流し、その創流した新しい生け花流派の名称として「いけばなむらさき会」を採択し命名した(甲第1及び2号証)。
該「いけばなむらさき会」の活動は、生け花教室の開催、花展の開催、出版活動等多岐に亘っており、活動の原点である生け花教室は、請求人の住所地である神奈川県逗子市に本部を置き、鎌倉教室、紀尾井町教室、資生堂大船教室、自白教室等を運営し、鎌倉教室、紀尾井町教室は現在でも継続して運営されている。
人物Aは、大正2年九州・小倉で生まれ、北九州市在の西南女学院高女卒業後に病を得ていた時に茶の湯の花に魅せられ、病状回復後の昭和6年3月に花道の千家古儀人物C師に入門した。天与の才を発揮した請求人は、昭和15年4月に皆伝である花道千家古儀奥義伝を受けた。昭和16年に逗子へ移転後、古流人物D、石草流人物E、上代古流人物F師の指導を受け、昭和31年5月には、石草流教授資格を受けた(甲第3号証)。
昭和30年代から、姉の人物Bと共に琴と生け花のパフォーマンス「花手前」をテレビ等で実演し(甲第4?6号証)、注目を集めると共に、日本文化普及協会(人物G会長)による日本文化の普及に貢献し、生け花の業界でその名前は次第に広く知られるようになっていった。姉の人物Bと共に行ってきた「花手前」は、日本文化の海外への普及の一翼を担っており、テレビ等でも紹介された結果、人物Aの名前は生け花業界の関係者の間で広く知られようになっていた。
請求人は、それまで所属していた流派の抽象的な創作いけばなに疑問を感じ、昭和40年、50歳の時に独自の生け花の流派「いけばなむらさき会」を創流した。「いけばなむらさき会」の名前の由来は、源氏物語の「紫の上」にちなんだ名称である。
「花手前」や日本文化普及協会の活動等で著名となっていた人物Aが、独自の生け花流派を創流するということで、「いけばなむらさき会」の創設発会式には、多くの著名人が参列した。「いけばなむらさき会家元 人物A」の名前は、多くの新聞、雑誌や書籍で紹介され(甲第7?13号証)、生け花を志す者は勿論、美に関心を持つ多くの人たちの間に「いけばなむらさき会 家元 人物A」の名は浸透していった。
昭和41年から、「いけばなむらさき会展」は、毎年、若しくは隔年開催されており、各回とも多くの著名人が参列している(甲第14?20号証)。
なお、平成の時代に入ってからは、高齢(平成元年、74歳)のため、会展の開催間隔は延びているが、休会することなく続けられている。
また、平成11年4月15日に開催された「第17回いけばなむらさき会展」には、皇后陛下・紀宮内親王殿下の御行啓を賜るなど、皇室にも「いけばなむらさき会」の名称は家元 人物Aの名と共に、知られている(甲第17号証)。
人物Aは、前記会展の他、いけばなむらさき会の家元としても、多数の個展を開催しており、その主なものを列挙すると甲第20号証ないし甲第28号証のとおりである。
さらに、甲第29号証ないし甲第71号証に示すように数多くの雑誌、新聞、書籍でも「いけばなむらさき会家元 人物A」が紹介され、生け花業界の関係者のみならず、いけばなを習おうと考えている需要者の間でも広く知られ、著名となっている。
人物Aは、前記活動の他、制作した生け花の写真やエッセーを掲載した出版物を以下に示すように出版している。該出版物には、「いけばなむらさき会」の名称と共に「家元 人物A」の名前が記載されており、係る出版物を通しても「いけばなむらさき会」の名称が、「人物A」の名前と共に広く知られるに至っている。
刊行年月日 書籍の名称 出版社名 甲号証
昭和51年3月 「暮らしの中の茶花」 失来書院 72
昭和52年4月 「続・暮らしの中の茶花」 失来書院 73
昭和54年10月「人物Aの茶花」 文化出版局 74
昭和57年5月 「花遊び十二月 」 山と渓谷社 75
平成7年3月 作品集「花」 いけばなむらさき会 76
(2)被請求人(人物H)について
被請求人人物Hは、請求人人物Aが主宰する「いけばなむらさき会」の弟子であり、平成2年1月師範の免許を受けており、「***」の雅号を家元人物Aから与えられている(いけばなむらさき会師範名簿(3)甲第77号証)。
平成16年6月9日に開催された「香港花展」では、被請求人、人物Hが弟子として、請求人人物Aの生け花制作をサポートしている(甲第26号証)。
すなわち、被請求人人物Hは「いけばなむらさき会」が請求人である家元人物Aが創流した生け花の流派の名称であること並びに同名称が広く知られているものであることを熟知していたものである。
このことは、人物Hが生け花教室の生徒等に配布した「いけばなむらさき会 会員各位」と題する文書(甲第78号証)からも明らかである。
該文書において、「いけばなむらさき会」が家元人物Aの主宰するいけばな流派の名称であることを知りながら、流派の名称と商標とは別異であるとし、自分が本件商標登録を受ける正当性を強弁している。
しかしながら、本件商標の存在により、本来の名称の正当な使用権限を有している家元人物Aの商標登録が否定される自体となっている。
被請求人とは、係る不合理な事態を回避するために話し合いを求めてきたが、全く交渉打開の可能性が見えないため、請求人は本件無効審判の請求に及んだ次第である。
3 無効理由
(1)商標法第4条第1項第10号に該当する理由
上記2で説明したとおり、「いけばなむらさき会」は、遅くとも本件商標が出願された平成11年10月12日までには、請求人が主宰しているいけばな流派の名称として、我が国の生け花の同業者や需要者、消費者、更には皇室関係の間においても広く知られていた名称であり、同時に請求人が運営している生け花教室の名称としても広く知られていたものである。
よって、本件商標は、家元人物Aの業務に係る生け花教室を表示するものとして需要者の間に広く知られている商標と類似する商標であり、生け花教室について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号に該当する理由
「いけばなむらさき会」は、家元人物Aが主宰し、運営する生け花教室の業務を指称する名称として広く知られているものであるから、これと要部において一致する「いけばなむらさき会 相生桜」を被請求人が勝手に使用した場合、家元人物Aの「いけばなむらさき会」と混同を生ずるものであることは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号に該当する理由
「いけばなむらさき会」の名称は、家元人物Aが主宰し運営する生け花教室を指称するものとして、我が国は勿論のこと外国においても広く認識されている商標であり、本件商標は、係る「いけばなむらさき会」と類似する商標である。
そして、被請求人人物Hは、家元人物Aの弟子であるにもかかわらず、本件商標の登録を得たものである。本件商標の存在により、家元人物Aの業務は著しい制約を受けることは明らかであり、被請求人は係る事態を認識しつつ本件商標を登録したものであるから、被請求人に不正の目的があることは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に該当するものである。
4 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)「いけばなむらさき会」について
「いけばなむらさき会」は、家元である人物Aが50歳のとき、昭和40年1月1日に創流したいけばな流派であり、生け花教室の開催、生け花展の開催、出版活動を行っている。
生け花教室は、神奈川県逗子市に本部を置き、鎌倉教室、紀尾井町教室、資生堂大船教室、目白教室が運営されていたが、現在は、鎌倉教室、紀尾井町教室が継続している。
これら二つの教室だけでも、昭和40年から既に3000回を超える回数の教室が開催され、延べ20万人を超える生徒が指導を受けている。
(2)「いけばなむらさき会」の使用について
「いけばなむらさき会」は、家元の人物Aが創流したいけばな流派であるが、流派の名称は家元の名前と共に、あるいは独立して使用されており、流派の名称と家元の名称は一体性を有して広く知られているものである。 このことは、先に提出した多数の証拠において、「いけばなむらさき会」と「人物A」が同時に併記されていることからも明らかであるが、更に「いけばなむらさき会」の名称のみが独立して使用されていることは、パンフレット(甲第84号証)、昭和63年度免許披露ハガキ(甲第85号証)、「教室案内」パンフレット(甲第86号証)等からも明らかである。
(3)「いけばなむらさき会」の周知性について
「いけばなむらさき会」は、毎年若しくは隔年に会展を開催しており、既に17回を数えるに至っている。これらの会展や個展には、家元「人物A」の名前と共に、あるいは独立して「いけばなむらさき会」の名称が表示されている。これらの事実を証するために、「創流25周年記念第15回いけばなむらさき会会展案内状」(甲第89号証)ほか、甲第90号証ないし甲第100号証を提出する。
また、「いけばなむらさき会」の名称は、先に提出した証拠から明らかなように、家元「人物A」の名前と共に多くの新聞、雑誌で紹介されており、広く知られているものであるが、さらに、新聞、雑誌、刊行物等を周知性を立証する証拠として補充する。
「いけばなむらさき会」の名称は、「人物A」の名前と共に記載され、あるいは紹介されているから、「人物A」の名前のみが記載されているものは、僅かにすぎない。
したがって、「人物Aの周知性が立証されているにすぎず、いけばなむらさき会の名称が周知になっているとはいえない。」との被請求人の非難は到底当てはまらないものである。
また、教室の生徒数が100名以内の比較的小さな生け花教室であるとしても、その流派の名称は、生け花の教授や生け花の展示などの役務の需要者である一般家庭の主婦や女性に広く知られていることは明らかである。
(4)被請求人の商標登録について
被請求人は、自己が経営する生け花教室の名称を法的に保護するために本件商標登録を行ったものであり、その生け花教室の名称は、家元・人物Aの許諾を得ている旨主張する。
しかしながら、かかる名称の使用は、人物Hが「いけばなむらさき会」に所属する師範が運営する生け花教室あることを示す必要上のことにすぎないのであり、「いけばなむらさき会」の名称を独占的に使用することを許諾したものでないことは明らかである。ましてや、会の名称若しくは会の名称を含む標章について、商標登録を行い、その使用を占有するようなことを許諾したものではない。
上記のとおり、被請求人は、「いけばなむらさき会」の一教室の名称として「相生桜」の使用が許諾されたものであるにもかかわらず、本件商標登録を行って「いけばなむらさき会」の独占を図ろうとしたものであり、本件商標登録の存在により、家元である人物Aによる「いけばなむらさき会」の商標登録に支障が生じている。
なお、「いけばなむらさき会」から破門された被請求人が、本件登録商標をこのまま保持する場合、あたかも同会に所属しているかのごとく誤認を生じさせ、同会が正式に行っている生け花教室や生け花展との間で出所の混同を生じるであろうことは明白である。
(5)結び
以上のとおり、本件商標は、周知である引用商標「いけばなむらさき会」と類似し、指定役務も同一又は類似するものであり、かつ、出所の混同を生ずることは明らかである。
また、家元である人物Aの登録を阻害することを知りながら、商標登録を得たものであるから、不正の目的が存していたものといわざるを得ない。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に該当するから、商標登録を受けることができないものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び弁駁に対する答弁を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証を提出している。
1 経緯
(1)請求人が生け花の流派である「いけばなむらさき会」を創設し、これまで活動を行ってきたことは事実であり、また、被請求人がその一員あるいは師範として活動を行ってきたこともそのとおりである。
よって、被請求人は、「いけばなむらさき会」を知らないなどというつもりは毛頭ないが、被請求人が知らないふりをして本件商標登録を行ったわけでもなく、ましてや「いけばなむらさき会」を害するつもりで行ったわけでもない。単に自身の主宰する生け花教室の名称を商標登録したにすぎない。
(2)被請求人は、平成元年に「いけばなむらさき会」の師範の免状を受け、その後自身が開いた教室で「いけばなむらさき会」の名のもと、生け花の指導をするようになった。
そして、平成6年には請求人の命名により「桜会」という名称をも使用するようになり、被請求人の指導する教室はその後増え、さらに平成10年には「相生桜」と称し、本件商標でもある「いけばなむらさき会/相生桜」を名乗るようになったのである。
このように、被請求人は、請求人の明白な承認のもと「いけばなむらさき会」の師範として、自身の教室に「いけばなむらさき会/相生桜」の名称を付け、活動を行ってきたのであるが、知人から商標登録という制度を聞き、「いけばなむらさき会」を害する意図もなく、ただ自身が築き上げてきた教室の名称並びにこれに係る信用を守ろうとの思いより、本件商標を登録出願したにすぎない。
(3)被請求人の登録出願は、平成13年2月に登録となったが、一方、これとは別に請求人からも「いけばなむらさき会」の登録出願がなされ、その拒絶理由に本件商標が引用された。
そして、本件審判請求に係る一連の流れが始まるのである。もちろん、これに関連して話し合いも行われたが、被請求人からは、生け花の家元制度と商標登録制度とは全く別物であり、迷惑はかけない旨伝えたつもりが誤解され、有効な解決策も見出せないまま、本件審判請求に至ったのである。
なお、請求人は、話し合いを求めてきたところ、全く交渉打開の可能性が見えなかったというが、被請求人は引き続き話し合いによる解決を望んでいたのであり、このような主張は請求人の一方的な主観である。
2 無効理由について
(1)「いけばなむらさき会」の周知性
請求人は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号を主張するところ、いずれも請求人の「いけばなむらさき会」が周知性を有するというのが根拠となっている。
しかしながら、上記規定が適用されるほど周知となっているものではない。
請求人は、一見すると多くの資料を提出し、「いけばなむらさき会」の周知性を証明しているかのようであるが、実のところ提出された甲各号証は、その殆どが請求人個人、すなわち「人物A」に関する資料であって、「いけばなむらさき会」がこれにより周知性を有するとは認められないものである。
「いけばなむらさき会」が単独で登場するものには、甲第56号証の新聞記事があるが、記事の内容は同会自体に関するものではなく、主催者である請求人自身のものとなっている。
その他、請求人の提出する主な雑誌記事の中には、「いけばなむらさき会」の文字が見えるものもあるが、いずれも請求人個人を扱ったものであり、
「人物A」の名前の前後に小さく「いけばなむらさき会主宰」などの文字が記載されているものである。
結局のところ、請求人が証明しているのは、「人物A」の周知性であつて、これらの資料は、全く「いけばなむらさき会」の周知性を証明するものとはなっていない。
ところで、ウエブ百科事典の「Wikipedia」(乙第7号証)によれば、日本生け花芸術協会(生け花の振興を目的とする財団法人)に2005年3月現在登録されている流派の数は392ということである。もちろん、流派の数もこれに止まるものではない。
生け花の流派としては、池坊や小原流が極めて著名であり、新興の「いけばなむらさき会」は、生け花の世界においてこれを知る者は非常に少ない。
現在の会員数も50?60名にすぎず、残念なことではあるが、「いけばなむらさき会」は、生け花の世界では未だ小さな集団にすぎないのである。
そのような小さな会派が周知であるというのは、やはり無理があるというべきで、主宰者である請求人は、個人としては知られているかもしれないが、それが「いけばなむらさき会」の知名度には直接結びついていない。
(2)商標法第4条第1項第10号について
上記(1)のとおり、請求人が引用するところの「いけばなむらさき会」という名称は、いわゆる周知商標ということができないため、上記条項の規定が適用される要件を欠くものである。
また、被請求人の「いけばなむらさき会/相生桜」は、請求人との関係で混同を生ずるというものではなく、むしろ、同一グループを表していることにこそ意味があるのであるから、本号を適用するケースとは全く趣旨を異にするものである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
請求人の「いけばなむらさき会」が周知性を有することはないのであるから、本規定適用の要件を欠くものであり、さらに、同じ主体が提供する役務であるので、本件商標の使用が出所の混同を生ずるおそれは全くない。
よって、本件商標は、本号の無効理由には該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号について
請求人は、「いけばなむらさき会」の名称が請求人の主宰する生け花教室を指称するものとして、わが国はもちろんのこと外国においても認識されているとするが、わが国において広く知られているとはいえないものである。 ましてや、これが僅かの実演のみで外国で広く認識されていようはずもなく、ここでも本号の適用の前提条件を欠くものである。
また、被請求人は、請求人の「いけばなむらさき会」という名称に対しては、苦情をいう権利も、そのつもりもないことを本件審判請求前より明言している。
被請求人は、正規の段取りを踏んで指導することとなった自身の生け花教室の名称を、その指導者としての責任において登録出願したにすぎず、そこには何らの不正の目的もないものである。
よって、本件商標は、本号の無効理由にも該当しない。
3 請求人の弁駁に対する答弁
(1)「いけばなむらさき会」について
請求人は、「いけばなむらさき会」の周知性を弁駁書で主張したいようであるが、同会の生け花教室が最も多い時期で全国に4カ所しかなく、現在に至っては2カ所しかないことは、むしろ、同会の周知性を否定すべき材料である。教室の開催が3000回におよび、生徒数も延べ20万人との主張も証拠が示されておらず、仮にそうであつたとしても、一定期間教室を開催していれば到達容易な数である。
(2)「いけばなむらさき会」の周知性
請求人は、「いけばなむらさき会」の周知性を立証しようとして(弁駁書3頁ないし8頁)、甲第89号証から甲第125号証を提出している。
このうち、甲第89号証から甲第100号証は、「いけばなむらさき会」の名称が表示されているが、同会の花会の案内や内部的な師範免状の写しであったり、自身で名称を表示するにすぎず、客観性を欠くものである。
なお、甲第96号証、甲第97号証、甲第104号証から甲第109号証
までは、本件商標の出願日以降の資料であるから、考慮に値しない。
また、甲第113号証から甲第118号証の「巨福」という冊子も同様に発行時期が遅いため、証拠としての価値はない。
結局のところ、ここでも請求人が立証しているのは、「人物A」の周知性であって、上記資料から「いけばなむらさき会」の周知性が立証されることはない。
すなわち、請求人提出の資料は、いずれも「人物A」に関するものであって、同会自体の活動がクローズアップされることはないのである。
また、請求人は、生け花流派の名称の周知性判断の基準となるべき需要者層は、中高年の男女、一般家庭の主婦や女性というが、これは正しくない。
生け花教室は、生け花の業界・分野で催されるものであるため、その世界に携わる者が需要者というのは当然である。
周知性を主張するのであれば、生け花の世界における「いけばなむらさき会」の周知性が主張され、これを裏付ける証拠が提出されるべきであるが、
漫然と一般主婦層向けの雑誌を中心とした証拠を提出するのみである。
なお、「いけばなむらさき会」を大手インターネット検索サイトで検索すると、僅か6件のみであり、現代のネット社会において、あまりに少ないため、この点からも「いけばなむらさき会」は、周知であるとはいえない。
(3)本件が話し合いにより解決していないのは、請求人側の感情面に大きな原因が存在する。
なお、被請求人は、現在、「いけばなむらさき会」を破門されているが、これにより、本件商標登録の不当性を帯びるものでは勿論ない。
(4)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に該当しないものであり、請求人の主張はいずれも失当である。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものであるから、その登録は無効とされるべきである旨主張しているので、まず、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するか否かについて判断する。
1 引用商標「いけばなむらさき会」の周知性について
請求人より提出された甲各号証によれば、以下の事実が認められる。
(1)請求人、人物Aは、昭和40年1月に独自の生け花の流派を創流し、その新しい生け花流派の名称として「いけばなむらさき会」を採択し命名したこと(甲第1号証、甲第2号証)。
(2)活動の原点である生け花教室は、昭和40年から請求人の住所地である神奈川県逗子市に本部を置き、鎌倉教室、紀尾井町教室、資生堂大船教室、目白教室等を運営し、現在は、鎌倉教室、紀尾井町教室において継続して運営されていること(甲第28号証、他)。
(3)「いけばなむらさき会 人物A」の名前は、請求人がこの流派の創流前から、姉と共に行った琴と生け花のパフォーマンス(「花手前」)や日本文化普及協会の活動等ですでに知られていたこともあり、多くの新聞、雑誌及び書籍で紹介され、生け花を志す者は勿論、美に関心を持つ多くの人たちに浸透していったこと(甲第7号証ないし甲第13号証)。
(4)生け花の展示(役務)としての「いけばなむらさき会展」は、昭和41年から毎年若しくは隔年開催されており、平成になってからは請求人が高齢になったため、開催間隔は延びているが、休会することなく続けられていること(甲第14号証ないし甲第20号証)。
(5)請求人は、上記の活動の他、制作した生け花の写真やエッセーを掲載した数種の出版物を出版しており、例えば、人物A「花」の出版記念会が「いけばなむらさき会」の主催で平成4年4月20日に赤坂プリンスホテルにおいて大々的に開催されていたこと(甲第24号証及び甲第25号証)。
(6)1990年代においても、たとえば、雑誌「クロワッサン」1991年3月10日発行(甲第57号証)、同誌1993年6月10日発行(甲第68号証)、同誌1993年12月25日発行(甲第70号証)、同誌1997年1月25日発行(甲第121号証)等において、請求人が「いけばなむらさき会主宰」として紹介されていること。
また、冊子「巨福」平成9年第64号、同第65号(甲第111号証及び甲第112号証)、週間花百科「Fleur フルール」1997年1月23日発行(甲第120号証)、「行事と節句の迎え花」婦人画報社1998年11月25日発行(甲第122号証)等においても、請求人が「いけばなむらさき会家元」として紹介されていること。
(7)一方、花会等についても、「第16回いけばなむらさき会」30周年記念として、平成8年4月17日に鎌倉建長寺において開催し(甲第91号証)、「第17回いけばなむらさき会華展」を平成11年4月15日に網町三井倶楽部において開催し(甲第93号証)、「春の花寄せ茶会」を平成10年3月2日に東京美術倶楽部において開催したこと(甲第95号証)等が認められ、その招待状には、いずれも請求人と共に「いけばなむらさき会」が表示されていること。
(8)以上の事実からすれば、引用商標「いけばなむらさき会」は、昭和40年代から、神奈川県及び東京都を中心に生け花教室、花会、花展などにおいて広く使用されていたと認め得るものである。
また、家元「人物A」と共に「いけばなむらさき会」についても、新聞、雑誌等に多数取り上げられていることが窺われ、特に雑誌「クロワッサン」等は、全国版であることからすれば、引用商標「いけばなむらさき会」は、本件商標の登録査定時はもとより、登録出願時においても、神奈川県及び東京都を中心に日本国内において、請求人「人物A」の業務に係る「生け花の教授,生け花の展示」等の役務を表示するものとして、生け花関係者、一般主婦、生け花愛好家等(需要者)の間に広く認識されるに至った商標であると判断するのが相当である(なお、周知性の範囲については、「狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって少なくともその同業者商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべきである。」とした判決がある〔東京高判昭和58年6月16日判決言渡 昭和57年(行ケ)第110号〕)。
(9)この点について、被請求人は、甲各号証の多くは「人物A」に関係するものであり、引用商標「いけばなむらさき会」のみが単独で掲載されたものは少なく、よって、引用商標は周知であるとはいえない旨主張している。
しかしながら、人物Aは、「いけばなむらさき会」の創始者であり、前記1のとおり、昭和40年以来現在に至るまで、一環して家元として活動してきたのであり、同会が開催する花会、花展等の案内状には、必ず「人物A」の名前と共に「いけばなむらさき会」も併記されている事実を認めることができる。
また、新聞、雑誌等の紹介においても、確かに「人物A」個人にウェートが置かれたものとなってはいるが、同人が創始者でもある「いけばなむらさき会」の紹介も併せて掲載されている例も決して少なくないものであり、そうとすれば、このことのみをもって、引用商標「いけばなむらさき会」の周知性が否定される根拠とはなり得ないものというべきである。
さらに、被請求人は、生け花教室の教室数の少なさや延べ生徒数の信憑性等について言及し、この程度では周知性は認められない旨主張している。
たしかに、教室数は少ないものであるが、昭和40年代から現在に至るまで永年にわたり継続していること、及びこの期間を考慮すれば、生徒数が延べ20万人に達しても決して不自然とはいえないものである。
したがって、引用商標が周知性を欠くと主張する被請求人の主張は、いずれも採用することができない。
2 本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、前記第1に示したとおり、「いけばなむらさき会」の文字を上段に横書きし、下段に「相生桜」の漢字を横書きしてなるものである。
そして、各文字は、二段に横書きしてなるところから、視覚上分離して把握され、かつ、これらが一体となって特定の意味合いを有する成語を形成するものとも認められないから、上段、下段の各文字が独立して自他役務の識別標識としての機能を果たすものというべきである。
そうすると、上段の「いけばなむらさき会」の文字部分に相応して「イケバナムラサキカイ」の称呼をも生ずるものといわなければならない。
他方、引用商標は、「いけばなむらさき会」の文字よりなるものであるから、「イケバナムラサキカイ」の称呼を生ずること明らかである。
してみれば、本件商標と引用商標とは、観念においては比較できないものであるし、また、両商標の外観上の相違を考慮しても、共に「イケバナムラサキカイ」の称呼を同一にする類似の商標といわざるを得ない。
次に、本件商標の指定役務は、前記第1のとおり、「生け花の教授,生け花の展示,生け花の実演を主とする興行の企画・運営又は開催」であるところ、請求人が引用商標を使用している役務は、生け花教室における「生け花の教授」、また、花会、花展における「生け花の展示」であり、さらに、「生け花の実演を主とする興行の企画・運営又は開催」をも行っていることが窺われるから、そうとすれば、本件商標は、引用商標と同一または類似の役務について使用するものということができる。
3 結語
上記1及び2からすれば、本件商標は、その登録査定時はもとより、その登録出願時においても、需要者に広く認識されていた請求人の引用商標と類似するものであり、かつ、その指定役務も引用商標と同一又は類似の役務に使用するものである。
したがって、請求人のその余の主張(商標法第4条第1項第15号及び同第19号)について判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-06-01 
結審通知日 2007-06-07 
審決日 2007-06-20 
出願番号 商願平11-91387 
審決分類 T 1 11・ 25- Z (Z41)
最終処分 成立  
前審関与審査官 須藤 祀久 
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 中村 謙三
井岡 賢一
登録日 2001-02-09 
登録番号 商標登録第4451668号(T4451668) 
商標の称呼 イケバナムラサキカイアイオイザクラ、イケバナムラサキカイ、ムラサキカイ、アイオイザクラ、イケバナムラサキ、ムラサキ 
代理人 竹内 裕 
代理人 小長井 雅晴 
代理人 小谷 武 
代理人 木村 吉宏 

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