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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z30 |
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管理番号 | 1157550 |
審判番号 | 無効2006-89044 |
総通号数 | 90 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2007-06-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2006-04-10 |
確定日 | 2007-05-07 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4778545号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第4778545号商標(以下「本件商標」という。)は、「HOUSE OF TORAJA」の文字を標準文字で表してなり、平成12年7月26日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,茶,穀物の加工品,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと」を指定商品として、同16年6月11日に設定登録されたものである。 2 請求人の引用商標 請求人は、本件商標の登録無効の理由に、次の(1)ないし(6)の登録商標を引用している。 (1)登録第1311224号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、昭和49年7月22日に登録出願、第29類「コーヒー、紅茶、その他本類に属する商品」を指定商品として、同52年11月14日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録が2回されているものである。 (2)登録第1571998号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(2)のとおりの構成よりなり、昭和52年11月22日に登録出願、第32類「コーヒー豆」を指定商品として、同58年3月28日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録が2回されているものである。 (3)登録第1592682号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲(2)のとおりの構成よりなり、昭和52年11月22日に登録出願、第29類「トラジヤ産コーヒー」を指定商品として、同58年5月26日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録が2回されているものである。 (4)登録第1592685号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲(3)のとおりの構成よりなり、昭和53年1月23日に登録出願、第29類「トラジヤ産コーヒー」を指定商品として、同58年5月26日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録が2回されているものである。 (5)登録第1647734号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲(3)のとおりの構成よりなり、昭和53年1月23日に登録出願、第32類「コーヒー豆、コーヒーを加味した即席菓子のもと」を指定商品として、同59年1月26日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録が2回されているものである。 (6)登録第2588965号商標(以下「引用商標6」という。)は、別掲(4)のとおりの構成よりなり、平成2年8月8日に登録出願、第29類「トラジヤ産の『茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷』」を指定商品として、同5年10月29日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録がされているものである。 3 請求人の主張 請求人は、本件商標は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第409号証を提出した。 (1)請求の理由 (ア)請求人が使用する商標「TORAJA」「トラジャ」の著名性について 請求人が商品「コーヒー」に使用する商標「TORAJA」「トラジャ」は、請求人及び東食株式会社(以下、「請求人ら」という。)がインドネシアのトラジャ地方で生産が途絶え、枯死寸前になっていたトラジャコーヒーを、現地法人を設立して道路造りや土地開墾から手がけて再興させ、復活させたものである。 請求人らが商品「コーヒー」に使用する商標「TORAJA」「トラジャ」は、以下に述べるとおり、単なる原産地名として知られているものではなく、あくまでも請求人らが長年の努力により、周知・著名となった請求人らのコーヒーブランドとして知られているものである。 「トラジャ・コーヒー」は、「香り高い柔らかな苦味の中に若干酸味があって、ブレンドにもストレートにも向く逸品」として、戦前はブルーマウンテン以上の高級品として愛飲されていたものの、原産地であるインドネシアまで及んだ戦禍により、消滅の危機に瀕していた。 それを再建しようと試みたのが、木村コーヒー店(現請求人)であり、請求人は、戦禍によって消えようとしていた「トラジャ・コーヒー」の復活を目的として、昭和48年から4年の歳月をかけて徹底的な調査を行い、復活の可能性を感じたため、現地に合弁会社のトアルコ・ジャヤを設立し、株式会社東食と共同でおよそ15億円もの費用を投入して、昭和53年インドネシアのスラウエシ島における「トラジャ・コーヒー農園開発事業」に着手した。 「トラジャ・コーヒー農園開発事業」は、コーヒーの絶品といわれた「トラジャ・コーヒー」を放置することは、コーヒー産業に携わる者ばかりでなく、世界のコーヒーファンの損失であるという高い理想のもとに進められ、また同時に、単に資源の安定確保を目指すだけではなく、良品質のコーヒー豆の開発を通じて、同じアジア人の手による現地の地域開発の一助を目的としていた。なお、かかる事業は戦後の日本のコーヒー業界では初めての海外栽培事業であった。また、同時に、高品質の「トラジャ・コーヒー」をより一層安定生産するために、直営農園の造成も並行して進められ、農園までの道路の造成から、基地の建設、ジャングルの伐採、テラス造りや植え付けなど、請求人らの「トラジャ・コーヒー農園開発事業」は、地道な自然との闘いの歴史でもあった。 昭和52年9月に最新鋭の工場を竣工させ、住民栽培のコーヒーを厳選し、最高品質のコーヒーのみを製造・加工して、昭和53年3月最初に発売に踏み切った。請求人らは、その昭和53年の発売以来、今日まで一貫して「TORAJA」「トラジャ」標章を付して商品「コーヒー」を販売するとともに、請求人の戦略商品として広告宣伝にも多大の費用を掛けてきた。その広告費は、平成9年までに計34億円にものぼり、その結果、昭和58年ごろには、「トラジャと言えばKEYCOFFEE」のように、「トラジャ・コーヒー」は、請求人らが製造・販売するものとして、また、「幻のコーヒー」「今甦る幻のコーヒー」として、日本全国に知られるに至ったものである。 以上の事実を立証するため、請求人は甲第19号証ないし甲第405号証を提出する。 以上のように、永年生産が途絶えて、枯死寸前になっていた「トラジャ・コーヒー」が見事に復活したのは、まさに請求人らが多額の年月と費用と労力をかけた結果であり、引用商標1「TORAJA」「トラジャ」は、20年以上も使用し続けているものである。また、請求人は、「TORAJA」「トラジャ」を含む商標を多数有しているほか(甲第2号証ないし甲第7号証)、他の区分においても「TORAJA」「トラジャ」を含む商標を出願・登録している(甲第8号証ないし甲第18号証)。 さらに、請求人らは、請求人らに無断で「TORAJA」「トラジャ」標章を使用する者に対しては、商標権侵害である旨のクレームレターを送付するなど、請求人らが築き上げた信用を守るための活動も行い、そのブランド維持に努めている。 以上のように、請求人が商品「コーヒー」に使用する引用各商標は、本件商標の出願及び査定時である2004年には既に、請求人らの業務に係る商品である「コーヒー」を表示するものとして、「TORAJA」「トラジャ」=「KEYCOFFEE」というほどに、日本全国に極めて高い信用が形成され、著名に至っているというべきものである。 (イ)出所混同について 本件商標は、アルファベットで「HOUSE OF TORAJA」からなり、その構成中の「TORAJA」の文字は、請求人らが商品「コーヒー」に使用して著名に至っている商標「TORAJA」と同一である。また、引用各商標は、上述のとおり、請求人が商品「コーヒー」に20年以上もの間使用した結果、日本全国に極めて広く知られるに至っている商標であり、本件商標はその「TORAJA」の文字を含むものである。 さらに、本件商標の指定商品は、「コーヒー及びココア,茶,穀物の加工品,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと」であって、請求人が使用して著名な引用各商標の使用に係る商品である「コーヒー」を含むことは明らかであり、その需要者・取引者を同一にするものである。 以上の要素を総合的に勘案すると、請求人の業務にかかる商品に使用される商標として著名な引用商標をその構成中に含む本件商標が、引用各商標の指定商品と同一の指定商品に使用された場合、本件商標に接する取引者・需要者は、恰も請求人若しくは請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。 なお、過去においては、本件商標と同様にその構成中に著名商標と同じ文字を含む甲第406号証及び甲第407号証の商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとして、拒絶または無効となっている。 上記の審査・審決例にかんがみれば、本件商標についても商標法第4条第1項第15号に該当するというべきである。 (ウ)結び 以上の理由から、本件商標はその指定商品に使用された場合、その商品の需要者が請求人の業務に係る商品と出所について混同するおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当し、本件商標の登録は商標法第46条第1項第1号によって無効とされるべきものである。 (2)答弁に対する弁駁 (ア)被請求人は、「TORAJA」の文字がインドネシアのスラウェシ島に現存する地名であることを根拠として、該文字が商標として独占されるべきでないと主張する。 しかしながら、そもそも、「TORAJA」の文字がわが国において広く知られるところとなったきっかけは、請求人が戦火で途絶えた「トラジャ・コーヒー」を「幻のコーヒー」として復活させ、請求人の業務に係る「コーヒー」の名称として採択し、「TORAJA」標章の普及に努めたからである。 すなわち、わが国では、「TORAJA」の文字は、単なるインドネシアのトラジャ(地名)としてのみならず、請求人が生産するコーヒーのブランドを表示する標章として広く知られているのであり、たとえば、スラウェシ島の情報を掲載したウェブサイト(甲第408号証)には、「トラジャのコーヒー産業は衰退し、長らく『幻のコーヒー』と言われていた。トラジャ・コーヒーを再興したのはキーコーヒーの大木氏で、農民たちに近代的な栽培技術や品質管理を教え、20年の歳月をかけてコーヒー農園事業を軌道にのせた」との記載で請求人の功績が紹介されていることからも、明らかである。 加えて、請求人は、「TORAJA」「トラジャ」の文字を自社の商標としてその商品「コーヒー」の宣伝・広告活動において永年使用している。 たとえば、「TORAJA」の欧文字を下部に大きく表示した甲第108号証、甲第124号証、甲第143号証、甲第146号証、甲第159号証、甲第250号証の新聞広告には、「かくてトラジャは語りだす。」、「『トラジャ』の名を冠する珈琲をつくるからには、自らに甘えがあってはならない。」、「『トラジャ』ラインナップが充実し」、「トラジャは、私たちが実現した理想の珈琲の姿。」等の記載があり、「トラジャ」の文字が地名としてではなく、「コーヒー」について自他商品識別機能を発揮する態様で使用されていることは明らかである。 さらに、請求人は、「トラジャ」シリーズとして、「トラジャブレンド」「トアルコトラジャファーストクロップ」等、毎年新商品を展開し、かかる「トラジャ」シリーズは、需要者の間で人気を博しているものである(甲第409号証)。 また、このような営業努力と同時に、請求人は、指定商品「コーヒー」について「TORAJA」「トラジャ」の文字を含む多数の登録商標を有しており(甲第2号証ないし甲第18号証)、「TORAJA」ブランドの普及と保護に努めているのである。 (イ)上記で述べた「TORAJA」標章に関する歴史的背景および該標章に蓄積された請求人の業務上の信用を考慮すれば、わが国の需要者・取引者は「TORAJA」「トラジャ」の文字を、「トラジャ産のコーヒー豆」あるいはその産地として認識するというよりも、むしろ、請求人の業務に係る商標として認識すると考えるのが自然である。 かかる点に鑑みれば、「TORAJA」の文字は、少なくとも本件商標の出願時にはすでに、請求人の業務に係る「コーヒー」について使用される商標として周知・著名に至っていたというべきである。したがって、「TORAJA」の文字がインドネシアの地名を表示する事実のみを以って、「商標の独占権が及ぶべきでない」とする被請求人の主張は妥当でないというべきである。 (ウ)そこで、上記の点を踏まえ、本件商標が引用商標との間で出所の混同を生じる恐れがあるか否かを検討する。 被請求人は、本件商標が「HOUSE OF TORAJA」の商標を一連一体に表示してなり、産地表示である「TORAJA」の文字を抽出して識別力があるとしなければならない特段の理由はない、と主張する。しかしながら、上述したとおり、「TORAJA」の文字には、請求人の業務上の信用が化体しているというべきであるから、本件商標がたとえ外観上まとまりよく「HOUSE OF TORAJA」の文字をあらわしてなるとしても、本件商標に接する取引者・需要者は、「TORAJA」の文字部分に着目し、請求人の業務に係る「トラジャ」シリーズの新商品であろうと容易に認識するおそれが高いというべきである。 また、被請求人は、過去の審査例(甲第406号証)および審決例(甲第407号証)について、本件とは事例を異にし、参照すべきではないと主張する。 しかしながら、インドネシアの地名である「TORAJA」の文字は、本来は識別力を有さない文字であったとしても、請求人の永年の営業努力により、請求人の業務に係る「コーヒー」について顕著性を具備するに至った商標であるから、甲第406号証及び甲第407号証でそれぞれ引用された「三井」の文字及び「GOOD NIGHT」の文字と事例を異にするとはいえない。 (エ)以上のことから、本件商標がその指定商品に使用された場合に、本件商標に接する取引者・需要者は、恰も請求人若しくは請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかと誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当し、その登録を無効にすべきものと考える。 4 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求める。と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証及び乙第2号証(枝番を含む。)を提出した。 (1)請求人は、請求人らが商品「コーヒー」に使用する商標「TORAJA」「トラジャ」は、単に原産地名として知られているものではなく、あくまでも請求人らが長年の努力により、周知・著名となった請求人らのコーヒーブランドとして知られているものであると主張し、その理由として、戦禍によって消えようとしていた「トラジャ・コーヒー」を復活させたことが述べられている。 請求人らが、昭和53年にインドネシアのスラウェシ島で「トラジャ・コーヒー農園開発事業」に着手したこと、この事業は、良品質のコーヒー豆の開発を通じて、アジア人の手による現地の地域開発の一助を目的としていたこと、高品質の「トラジャ・コーヒー」をよりいっそう安定生産するために、直営農園の造成、ジャングルの伐採、など自然との闘いを経て、幻のコーヒーといわれた「トラジャ・コーヒー」を復活させたという請求人らの事業には賛美を惜しまないし、否定するようなものはなにもない。 しかしながら、「TORAJA」「トラジャ」はインドネシア、スラウェシ島(セレベス島)にある地名であることは事実であり、地名として広く知られている。 請求人らの事業が賞賛しても余りあるものであっても、地名として知られている名称を商標として独占することはできないし、すべきではない。 甲各号証には請求人らの「トラジャコーヒー」復活事業が紹介されているが、「トラジャコーヒー」については、「トラジャコーヒーはインドネシア・スラウェシ島(セレベス島)の中央山岳地トラジャ県一帯でごく少量産出されるアラビカ種のコーヒー豆である。」、「トラジャコーヒーはインドネシアがオランダの占領地だったころ、オランダ人の経営する農園で生産され、ヨーロッパをはじめ、わが国にも輸入されたもので、…」(甲第24号証)と説明されている。 そして、「トラジャー地区では戦前、オランダ資本のコーヒー園で同国最良品質のコーヒー豆が生産されていたが、大戦でオランダ資本が撤退後今に至るまで、コーヒー園は一部を除いて荒廃にまかされ、トラジャーコーヒーは“幻のコーヒー”とさえ呼ばれている。」(甲第19号証)という「トラジャコーヒー」を請求人らが復活させたとしても、古くから「トラジャコーヒー」は、トラジャ地方で生産されるコーヒー豆を指称していたのであり、「TORAJA」といえば、「トラジャ産のコーヒー豆」を想起、認識するのである。 (2)請求人は、引用各商標は、請求人らの業務に係る商品である「コーヒー」を表示するものとして、日本全国に極めて高い信用が形成され、著名に至っていると主張している。 しかし、甲各号証に掲載されている請求人の商品表示をみると(不鮮明な複写が多いが)、「トラジャコーヒー」の表示もあるものの、包装用容器に使用されている商標は、多くが「トアルコ トラジャ」、「TOARCO/TORAJACOFFEE」、「トアルコ トラジャコーヒー」、「TOARCO TORAJA」等の使用態様となっている。 「トアルコ」「TOARCO」とは、甲号証によれば、請求人らが投資会社として設立したスラウェシ興産とインドネシアの輸出入業者であるウテスコ社と共同で事業を開発するために設立した会社であるとのことである(甲第19号証)。 また、請求人の「トラジャコーヒー」に関するウェブサイトをみると、請求人が販売するトラジャコーヒーは、「トアルコトラジャ」と称されていることが印象付けられる。 すなわち、「インドネシア共和国、南スラウェシ州トラジャ県にある自社コーヒー農園で生産された『トアルコトラジャコーヒー』は、1978年3月、日本国内で発売を開始しました。」(乙第2号証の2)、「トラジャ地方という、ごく限られた地域で産出されるコーヒーの中でも、キーコーヒーが認めた、ごくわずかなコーヒー生豆に冠されるのが『トアルコ』の称号です」(乙第2号証の3)、「『トアルコトラジャコーヒー』として市場に登場したのは事業を開始してから5年後の1978年3月のことでした。」(乙第2号証の4)、「長い間消滅したと思われていたトラジャコーヒーは、40年の時を得て、キーコーヒーの手により再び市場にトアルコトラジャコーヒーとして登場したのです。」(乙第2号証の5)等の記載から明らかなように、請求人がトラジャ地方で開発生産した「トラジャコーヒー」に使用している商標は、「トアルコ トラジャコーヒー」、「TOARCO TORAJACOFFEE」であると認識される。 このように、請求人の商品「コーヒー」は、単に、「TORAJA」、「トラジャ」のみが継続して使用されている訳ではなく、「トアルコ」、「TOARCO」あるいは、請求人の「KEY」の表示と共に使用されており、それらの表示をもって自他商品の識別力が発揮されているものと考えられる。 従って、請求人が取り扱う商品の「コーヒー」であっても、「トラジャコーヒー」といえば、インドネシアのトラジャ産のコーヒー、あるいはトラジャ産のコーヒー豆を使用したコーヒーであると認識されるのである。 (3)請求人の引用各商標をみると、甲第2号証は「TORAJA/トラジャ」のみの文字からなり、出願時(昭和49年7月22日)及び登録査定時(昭和52年7月20日)の審査状況は不明であるが、該商標はすでに商標法第26条第1項第2号の規定に該当し、商標権の効力が及ばないものと考えられる。 甲第3号証は、指定商品が「コーヒー豆」となっており、請求人の商標である「KEY」の部分が識別力を有すると認識される。甲第4号証、甲第5号証及び甲第7号証は、指定商品が「トラジャ産のコーヒー」とされているので、「TORAJA」、「トラジャ」は産地名を表示したものであることが明らかにされている。甲第6号証は、「トラジャ産の」との限定はないが、図形及び「TOARCO」の文字を含んでいるので、「TORAJA」のみが識別力を有するとは認識されない。 請求人の商標の使用態様及び引用各商標は上記のとおりであるが、請求人が「コーヒー」について使用する各商標が、継続して使用された結果、わが国で周知著名性を有しているとしても、本件商標は請求人の業務に係る商品と出所の混同を生じさせるおそれは全くない。 すなわち、本件商標は、「HOUSE OF TORAJA」の欧文字を同書・同大に外観上まとまりよく表わしてなるもので、これより「ハウスオブトラジャ」の称呼が淀みなく一連に称呼されるものである。 観念においては、「HOUSE」は「家」を意味するところから、「トラジャ地方の家」、「トラジャ族の家」の意味合いを容易に認識し得るものである。そのうえ、インドネシアに所在する被請求人にとって、「TORAJA」の文字は、当然にトラジャ地方を表し、商品の産地表示名として使用することができると認識しているのである。 そのため、被請求人あるいはインドネシアの人が、自国のトラジャ産の商品に「TORAJA」の表示を使用して日本に輸出した場合、日本では産地名である「TORAJA」、「トラジャ」の使用が禁止されることになれば、インドネシアの人々は多大な不利益を蒙ることになるので、わが国で、「TORAJA」、「トラジャ」に商標としての独占権を認めるべきではない。 (4)そこで、請求人が商品「コーヒー」に使用する引用各商標及び現実に使用されている「トラジャ」、「TORAJA」の文字を含む各商標が、長年の使用により、わが国の取引者・需要者に広く認識されているとしても、本件商標は、「HOUSE OF TORAJA」の商標を一連一体に表示してなり、請求人の各商標の表示とは著しく異なっていることと相まって、産地表示である「TORAJA」の文字を抽出して識別力があるとしなければならない特段の理由はない。 よって、本件商標をコーヒーを始めとする指定商品に使用しても、該商品が請求人又は請求人と何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について、取引者、需要者に混同を生じさせるおそれはないものである。 請求人は、本件商標に対して、登録異議申立てを行った経緯があるが、乙第1号証の「異議の決定」においても、「TORAJA」の文字は、「トラジャ産のコーヒー豆」を想起、認識するとされており、更に、本件商標から、殊更「TORAJA」の文字部分を分離抽出して観察しなければならない特段の理由はないとされ、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではないと明確に認定判断されており、この判断は本件無効審判事件にもそのまま当てはまるものである。 (5)請求人は、過去の審査例(甲第406号証)及び審決例(甲第407号証)を提出して、審査・審決例にかんがみれば、本件商標についても商標法第4条第1項第15号に該当するというべきであると主張している。 しかしながら、それらは本件商標とは事例を異にしており、参照されるべきではない。すなわち、甲第406号証は、わが国の取引者、需要者であれば、「三井の家」、「三井の館」などの観念から、当然、わが国有数の三井グループとの関連を想起することになるので、審査の結果は至極当然のことと思われる。 また、甲第407号証の事例は、「GOODNIGHT/グッドナイト」の文字は、それ自体で識別力を有し、かつ、引用商標が商品との関係で取引者、需要者間に広く知られている商標であれば、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると認定判断された審決の結論は妥当である。 しかし、本件商標に含まれる「TORAJA」はインドネシアのスラウェシ島に現存する地名であり、商品に使用するときは、商品の産地表示として認識されるもので、商標としての独占権には本来なじまないものである。 (6)以上のとおり、請求人が商品「コーヒー」について使用する引用各商標がわが国の取引者、需要者の間に広く認識されているとしても、本件商標は「HOUSE OF TORAJA」の文字を一連一体に表示してなり、産地表示として認識される「TORAJA」の文字を分離抽出して対比しなければならない格別の理由はないので、本件商標をその指定商品に使用しても、該商品が請求人又は請求人と何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について、取引者、需要者に混同を生じさせるおそれは決してない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではなく、商標法第46条第1項第1号によって登録が無効とされるべきではない。 5 当審の判断 本件商標は、「HOUSE OF TORAJA」の欧文字を同じ書体、同じ大きさで外観上まとまりよく表されてなるものであるところ、これより生ずると認められる「ハウスオブトラジャ」の称呼も淀みなく一連に称呼し得るものである。 また、構成中の「HOUSE」の文字は、「家」を意味する平易な英語であり、「TORAJA」の文字は、「インドネシア共和国のスラウェシ島山間部の地名若しくはそこに住む民族の総称」であって、本件商標の指定商品中「コーヒー」との関係では、「コーヒー」の原材料である「コーヒー豆」の産地または「トラジャ産のコーヒー豆」を想起、認識するから、その全体の文字よりは「トラジャ地方の家」及び「トラジャ族の家」の意味合いを容易に理解し得るものである。 そうすると、本件商標は、その構成文字の全体をもって一体不可分のものと認識、把握されるとみるのが相当である。 他方、請求人の提出に係る証拠についてみると、甲各号証に掲載されてい標章は、「トラジャコーヒー」の表示もあるものの、包装用容器に使用されているものは、多くが「トアルコ トラジャ」、「TOARCO/TORAJACOFFEE」、「トアルコ トラジャコーヒー」及び「TOARCO TORAJA」等である。 また、請求人の「トラジャコーヒー」に関するウェブサイトをみると、請求人が販売するトラジャコーヒーは、「トアルコトラジャ」と称されていることが窺われる。 そして、「…十日全国一斉(…)に発表される“トアルコ・トラジャコーヒー”だ。…」(甲第23号証)、「…五十三年春から商品名を『トアルコ・トラジャコーヒー』として、木村コーヒー店が日本で販売している。…」(甲第25号証)等の記載のほか、被請求人の提出に係る証拠には、「インドネシア共和国、南スラウェシ州トラジャ県にある自社コーヒー農園で生産された『トアルコトラジャコーヒー』は、1978年3月、日本国内で発売を開始致しました。」(乙第2号証の2)、「トラジャ地方という、ごく限られた地域で産出されるコーヒーの中でも、キーコーヒーが認めた、ごくわずかなコーヒー生豆に冠されるのが『トアルコ』の称号です」(乙第2号証の3)、「『トアルコトラジャコーヒー』として市場に登場したのは事業を開始してから5年後の1978年3月のことでした。」(乙第2号証の4)、「長い間消滅したと思われていたトラジャコーヒーは、40年の時を得て、キーコーヒーの手により再び市場にトアルコ トラジャコーヒーとして登場したのです。」(乙第2号証の5)等が記載されている事実があることから、請求人がトラジャ地方で開発生産した「トラジャコーヒー」に使用している標章は、「トアルコ・トラジヤコーヒー」及び「トアルコ トラジヤコーヒー」であるといえる。 このように、請求人の販売に係る商品「コーヒー」は、単に「TORAJA」又は「トラジャ」のみが継続して使用されているとはいえず、「トアルコ」及び「TOARCO」の表示と共に使用されているものと認められる。 してみれば、請求人の引用する「TORAJA」の文字を有する引用商標1ないし引用商標6が、本件商標の登録出願時を経て登録査定時に至るまで継続して使用された結果、仮に、周知著名であったとしても、前記のとおり本件商標の構成にあっては、殊更「TORAJA」の文字部分を分離抽出して観察しなければならない特段の理由はないものであるから、請求人の前記使用の実情と相俟って、本件商標をその指定商品について使用しても、該商品が請求人又は請求人と何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について、取引者、需要者に混同を生じさせるおそれはないというのが相当である。 なお、請求人は、甲第406号証及び甲第407号証を提出し、「審査・審決例にかんがみれば、本件商標についても商標法第4条第1項第15号に該当するというべきである。」旨主張しているが、いずれも本件とは事案を異にするものであり、本件の判断に影響を及ぼすものではないから、この点に関する請求人の主張は採用の限りでない。 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものではなく、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲(1) 引用商標1 別掲(2) 引用商標2及び引用商標3 別掲(3) 引用商標4及び引用商標5 別掲(4) 引用商標6 |
審理終結日 | 2007-02-15 |
結審通知日 | 2007-02-20 |
審決日 | 2007-03-22 |
出願番号 | 商願2000-82438(T2000-82438) |
審決分類 |
T
1
11・
271-
Y
(Z30)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岩内 三夫、岩本 和雄 |
特許庁審判長 |
中村 謙三 |
特許庁審判官 |
寺光 幸子 石田 清 |
登録日 | 2004-06-11 |
登録番号 | 商標登録第4778545号(T4778545) |
商標の称呼 | ハウスオブトラジャ、トラジャ |
代理人 | 川村 恭子 |
代理人 | 田中 景子 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 佐々木 功 |
代理人 | 佐藤 俊司 |
代理人 | 中村 勝彦 |
代理人 | 稲葉 良幸 |