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審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y05
管理番号 1157345 
審判番号 無効2006-89090 
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-07-06 
確定日 2007-04-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第4952835号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4952835号商標(以下、「本件商標」という。)は、「IBUNIC」及び「イブニック」の各文字を上下二段に横書きしてなり、平成17年8月8日に登録出願、第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕環,失禁用おしめ,はえ取り紙,防虫紙,乳糖,乳児用粉乳,人工受精用精液」を指定商品として、同18年5月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定商品中、「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第30号証(枝番を含む。)及び資料1、同2を提出している。
1 請求の理由
(1)本件商標の経緯
(ア)本件商標は、「IBUNIC/イブニック」として第5類の薬剤、その他を指定して登録されたものであるが、被請求人は、本件商標の登録より以前にカタカナ文字による登録商標「イブニック」について、薬剤等を指定商品として所有しており(登録第2392061号。以下「前商標登録」という。)、これを鎮痛・解熱剤について不正使用した結果、請求人より、不正使用に基づく登録取消審判の請求を受けている。
この不正使用に対する取消審判の内容は、添付の資料1に示すとおりであるが、被請求人は、不正使用取消審判を請求されるやこれには何ら応答することなく、当該商標登録を抹消登録する一方、他人名義にて再出願し、その後これを被請求人名義に改めたのが本件商標である。
(イ)被請求人が以前所有していた「イブニック」について行なった「不正使用」というのは、要するに、被請求人はカタカナによる「イブニック」を登録しておきながら、使用の実際においては、製品パッケージに登録商標を小さく表示する一方、ローマ字にて「IBUNIC」と大きく表示し、「IBU」の部分のみを目立つ色彩とし、これにより請求人の所有する「鎮痛・解熱剤」についての著名商標「イブ」、「EVE」と同一の称呼を生じさせるべく不正使用を行ったというものである。
(ウ)上記取消審判請求に対して、被請求人は何ら答弁することなく、当該商標登録を放棄により抹消登録した結果、当該取消審判は特許庁にて対象商標消滅との理由で実質審理がされることなく却下された(資料2)。 しかし、登録商標が抹消登録されたからといって、不正使用事実までが消滅するわけではない。むしろ、被請求人のかかる行為は、自ら不正使用事実を自認したものといわねばならない。被請求人は、登録取消しという審決による制裁を避けるため、自発的に当該商標登録を抹消登録する一方、再度実質同一の商標を他人名義にて出願し、その後、これを再び被請求人名義とするといった手の込んだ方法によって登録を得たものであるが、かかる狡猾な方法により商標法の精神をかいくぐり抜けた登録は、商標法で保護する適格性を欠くものであって、当然に無効とされなければならない。
(2)請求人の著名商標及びその使用実績
(ア)請求人が本件無効審判の基礎とし、「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」について著名商標と主張する登録商標は以下のとおりである。
1.甲第4号証……「イブ/EVE」 登録第1598640号 旧第1類
2.甲第5号証……「イブ」 登録第3065022号 第5類
3.甲第6号証……「EVE」 登録第3065023号 第5類
5.甲第7号証……「イブ/IB」 登録第3065024号 第5類
6.甲第8号証……「イブエース」 登録第2468015号 旧第1類
7.甲第9号証……「EVE ACE」登録第2468016号 旧第1類
8.甲第10号証…「EV/イブ」 登録第4570909号 第5類
9.甲第11号証…「EVE及び図形」 登録第4570908号 第5類
(イ)上記各登録商標に示す「イブ/EVE」を使用する商品は、請求人により「鎮痛・解熱剤」について、昭和60年(1985年)12月に販売開始(甲第13号証の1及び同号証の2)がされて以来、需要者より好評を得ている。その商品形態は、請求人製品目録抜粋(甲第15号証の1及び同号証の2)に示すとおりであり、これらは今日においては同業他社により多数販売されている「鎮痛・解熱剤」の中でも日本のトップ4番に入る商品となっており、2003年現在におけるシェアは11.9%で、年商は2003年度で約59億円(小売価格ベース)に上っている(甲第14号証)。
(ウ)「イブ」、「EVE」の宣伝広告に費やした費用は以下のとおりである(甲第16号証)。
平成10年度……1億円
平成11年度……7300万円
平成12年度……1億2500万円
平成13年度……1億100万円
平成14年度……5500万円
平成15年度……5400万円
(エ)さらに、請求人は「総合感冒薬」に関して「エスタックイブ/S.TAC EVE」(商標登録第1598641号、甲第12号証)を所有している。請求人の当該「総合感冒薬」の商品形態は、請求人製品目録抜粋の甲第17号証及び甲第18号証に示されるとおりである。当該総合感冒薬は、多数販売されている総合感冒薬の中でも需要者に対し最も人気ある商品の一つとして知られていることは誰もが認めるところである。
したがって、総合感冒薬について、単に「イブ」といえば、請求人の上記総合感冒薬を指すものとして認識されており、現実に薬局等で『「イブ」を下さい』と言えば、何らの説明も要せず、直ちに請求人の「鎮痛・解熱剤」としての「イブ」、「EVE」、あるいは総合感冒薬の「エスタックイブ/S.TAC EVE」を示すものとして理解される状況となっているのである。
(オ)以上のことから、本件商標のように著名商標の称呼「イブ」をそっくり取り込み、「イブ」の称呼を主要部とする商標が「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」等に使用されるときは、「イブ」の名称で著名となっている請求人の商標及び商品との間で関連性を想起せしめるものであり、少なくとも、このような商標が、「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」について使用されるときは、需要者に対し、あたかも請求人の商品との関連商品であるか、あるいは請求人と何らかの業務上の関連を有する者により提供される商品であるかのごとく誤認、混同を生じることは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものとして無効とされなければならない。
(3)特許庁における著名性の認定
請求人の使用する登録商標「イブ/EVE」、「イブ」、「EVE」等が「薬剤」について著名となっていることから、「薬剤」に関して、「イブ」の発音を含む商標が数多く出願される状況にある。
そして、一見、非類似と思われるような構成のため、登録されることがあるが、登録後、実際に使用されるのは「薬剤」の中でも請求人の著名商標が用いられるのと同一、同種の商品であることが多く、請求人としては、その対処に苦慮しているのが実態である。
以下は、登録後、特許庁にて請求人の著名商標と混同のおそれがあるとして登録が取り消され、あるいは無効とされた事案である。
(ア)請求人が「イブ」の語を含み「薬剤」を指定商品として登録された「恵快イブ」に対し異議申立をしたところ、商標「イブ/EVE」は「鎮痛・解熱剤」に関し著名であることを認定し、登録を取消している(甲第19号証)。
(イ)同じく、「イブ」、「IBU」の語を含み「ホワイトイブ/WHITEIBU」として構成された商標が、「薬剤」を指定商品として登録されたが、かかる登録商標に対する無効審判において、請求人の商標「イブ/EVE」についての著名性を認め、かかる商標登録を無効としている(甲第20号証)。
(ウ)さらに、「オムニンイブ」(登録第4685932号 第5類)、「オール・イブ」(登録第号4790085 第5類)についても、請求人の商標「イブ」、「EVE」についての著名性を認め、これらと混同のおそれがあると認定し登録を無効としている(甲第21号証及び甲第22号証)。
(4)最高裁判決、高裁判決にみる「混同のおそれ」の認定
(ア)最高裁は、平成10年(行ヒ)第85号に関する判決(甲第23号証)にて、商標法第4条第1項第15号(著名商標の保護)にいう「混同のおそれ」の解釈について判示している。
この判決の趣旨は、他人の著名な商標と同一、類似の商標をその著名な商標が使用されている商品、役務等(以下「商品等」という。)に使用した場合に、その著名な商標権者の商品等との間で現実に混同が生じるおそれがある場合(狭義の混同)のみならず、著名商標の商標権者との間に何らかの営業上の関係(親子関係であるとか関連企業であるとか)があるかのように誤信されるおそれがある場合(広義の混同)も含むというものである。要するに、商標法第4条第1項第15号(著名商標の保護)は、上記の「狭義の混同」及び「広義の混同」の両方について規定していると見なければならないという趣旨である。
(イ)これを本件についていうならば、請求人の「イブ/EVE」、「イブ」、「EVE」は、「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」について、すでに著名商標となっていることは客観的事実であるから、これと類似する商標を著名となった上記「解熱・鎮静剤」及び「総合感冒薬」について使用する場合(狭義の混同)のみならず、著名商標が用いられている他の関連する「薬剤」について使用するときにも請求人の業務との関係で関連を想起せしめるおそれ(広義の混同)があるという趣旨に解釈できるものである。
(ウ)実際問題として、「薬剤」に関して「イブ/EVE」、「イブ」、「EVE」といえば、請求人の「薬剤」を指すものとして著名となっている状況からすれば、本件商標のごとく需要者に対し「イブ」の部分を強く印象づける称呼を主要部とする商標は、少なくとも指定商品中の「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」については「狭義の混同」を生じるおそれは明らかであり、それ以外の「薬剤」についても混同のおそれ(広義の混同)があることは否定できない。
よって、少なくとも、本件商標の指定商品中の「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」については、商標法第4条第1項第15号に基づき無効とされなければならない。
(5)請求人商標の著名性を認め、自発的に使用を中止した例
請求人の登録商標「イブ/EVE」、「イブ」、「EVE」等が、請求人の「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」において著名であるため、これに不正に乗ずべく、「イブ」、「IBU」、「EV」に他の語を結合させた商標を出願し、登録を受けるや、実際の使用の段になると「イブ」、「IBU」、「EV」等の部分を殊更強調し、しかも請求人の著名商標が用いられているのと同種の「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」に使用される例が後を絶たないのが実情である。
これらに対して、請求人は、内容証明その他の文書により使用中止、名称変更等を申し入れた結果、これまでに数社は名称変更及びパッケージ変更等を約束し、請求人との間に「覚書」の締結を行っている。
これは、「薬剤」等については、その開発から市場で需要者に信頼され、定着するまでには並々ならぬ営業努力が必要であることは、同業者であれば十分理解できることを示した事例であり、本件においても当然理解されるべきことである。事実、請求人が「イブ/EVE」、「イブ」、「EVE」等を著名にするまでに費やした営業努力、宣伝広告費(甲第16号証)には計りしれないものがある。しかし、上述のような狡猾な方法で審決による取消を免れ、再度登録を得るような被請求人に対しては、かかる認識を期待することはできない。
(6)まとめ
以上のように、被請求人は、過去に使用権者を通じて不正使用を行った経緯があり、これを指摘されても正すことがなく、請求人より不正使用に基づく取消審判が提起されるや、当該商標登録を放棄により抹消する一方、狡猾な方法で実質的に同一の本件商標について再登録したものである。
しかしながら、不正使用取消審判の審決が下りた場合は、少なくとも5年間は登録できなかった筈のものであり、巧みに法をかいくぐって登録を受けたものといわねばならない。かかる商標は、商標法の保護に値するものではないというべきであって、少なくとも、その指定商品中「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」については、商標法第4条第1項第15号に基づき無効とされなければならない。
2 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)被請求人の使用権者による「前登録商標」の不正使用
(ア)前記1(1)(イ)で述べたように、被請求人の使用権者は、「IBUNIC」の文字のうち「IBU」を殊更に強調して使用していたものであり、請求人は、使用権者に対して内容証明にて不正使用を正すよう要求した(甲第24号証)が、使用権者はこれを拒絶している。
したがって、被請求人が答弁書で「警告書が被請求人にも回送されてきたので、直ちに商品『イブニック』のパッケージの表示を変更するよう申し入れ、平成17年7月からは『IBUNIC』の文字全体を同一色彩で表示するようにパッケージを改めさせた。しかし、請求人は、そのパッケージの変更を待たずに商標法第53条第1項の取消審判を請求するに至った。」とあたかも、使用権者に対して、使用態様を改めさせる行為を取ったかのように述べているが、被請求人は、請求人の指摘を一切拒絶したものであり、これと異なる回答はされていない。
よって、被請求人及びその使用権者による不正使用は、「故意」に基づく不正使用であり、被請求人は、登録商標を適正に使用すべき監督義務も果たしていない。
(イ)不正使用の取消審判制度とは、商標法上で定める商標権者の適正使用義務違反を問う制度である。しかるに、不正使用の認定が下された場合の不利益を避けるために、自ら問題の商標権を放棄する一方、他人名義で再出願させ、後に、これを譲り受けるというのは脱法行為であって、商標法の基本精神に反するものである。
したがって、本件のような脱法行為が商標法上の正当な権利行使だとすれば、不正使用取消審判制度は、いとも簡単にくぐり抜けられてしまい、商標法において不正使用取消審判制度を設けた意義がないことになる。
よって、本件商標は、商標法第53条第2項にも違反して登録されたものであり、無効とされなければならない。
(2)混同のおそれ
被請求人は、請求人が引用する登録商標の「EVE」、「イブ」等が「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」等について著名であることを認めるにはやぶさかでないと述べているが、他方、本件商標「IBUNIC/イブニック」とは非類似であり、混同のおそれはないと主張する。
しかしながら、特許庁商標課編の「商標審査基準」(改訂第7版:甲第6号証の1及び2)は、他人の周知・著名商標を含んでなる商標に関する出所混同のおそれ及び類否判断について、「・・・その外観構成がまとまりよく一体に表示されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して取り扱うものとする。」、また、「・・まとまりよく一体に表示されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の商標と類似するものとする。」としている。
したがって、本件商標は、商標審査基準に照らし、請求人の著名商標に類似し、これと混同を生ずるおそれがある商標といわなければならない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号により、少なくとも「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」について無効とされるべきであり、また、本件商標は、同法第53条第2項の精神にも違反して登録されたものであり、無効とされなければならない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
(1)被請求人は、商標登録第2392061号として、「イブニック」の文字を横書きしてなり、昭和35年法、第1類「薬剤その他本類に属する商品」を指定商品とする商標権を有していた。
そして、被請求人は、登録商標「イブニック」を東京都文京区音羽2丁目1番4号、株式会社大木(以下、単に「大木」という。)に対し、商品、解熱・鎮痛剤の大衆薬について使用させるべく、通常使用権を許諾し、大木は、請求人が甲第3号証として提示するパッケージの展開図に示すようなデザインのパッケージに収容して、イブプロフェン製剤よりなる、鎮痛・解熱剤を大衆薬として販売していた。
大木の販売する解熱・鎮痛剤のパッケージには、登録商標「イブニック」の文字に「丸囲みのR」の表示を付して、大きく5ヵ所に表示すると共に、商標登録はされていないが、「イブニック」の文字に相当する欧文字である「IBUNIC」の文字を併記して、該商品を販売していたところ、請求人は、平成18年5月10日付の大木に対する警告書により、「IBUNIC」の文字のうち、「IBU」の文字は濃青色で書され、「NIC」は水色で書されており、「IBU」の文字が目立つ色で記載されているから、請求人の登録商標「EVE」又は「イブ」と紛らわしいとして、大木の解熱・鎮痛剤のパッケージの使用中止を求めた。
その警告書が被請求人にも回送されたので、被請求人は、敢えて紛争を避けるために、大木に対し、直ちに商品「イブニック」のパッケージの表示を変更するように申し入れ、平成17年7月からは「IBUNIC」の文字全体を同一色彩で表示するようにパッケージを改めさせた。
しかし、請求人は、そのパッケージの変更を待たず、登録第2392061号(イブニック)の商標登録に対し、平成17年6月28日付で商標法第53条第1項の規定による取消審判を請求するに至ったのである。
(2)そもそも「イブニック」の商標は、以下のような経緯で採択された商標である。
解熱・鎮痛剤の主剤として、従来アスピリンのようなピリン系の薬剤が主として使用されてきたが、ピリン系の薬剤には、胃腸障害等の副作用発生のおそれがあり、医師の処方する解熱・鎮痛剤として、効能が極めて優れ、かつ副作用の少ない「イブプロフェン(ibuprofen)」を主剤とする薬剤が優先して使用されるようになってきている。その「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤が、一般薬局で販売される大衆薬としても、厚生労働省により認められるようになった結果、大衆薬を販売する多数の製薬会社から、「イブプロフェン」を主剤とする、大衆薬としての解熱・鎮痛剤が多種販売されるようになってきた。
この「イブプロフェン」の効能については、被請求人が医師の処方する医療用の解熱・鎮痛剤として販売している、「ブルファニック」という名称のイブブロフェン錠の商品に添付する「能書」を拡大した写しを提示する(乙第1号証)。医療用薬剤に添付する「能書」は、薬事法および厚生労働省の指導により、それに記載する事項について、極めて詳細な規定があり、法令等により規制された事項を正確に、かつ、全ての情報を誤りなく記載することが求められており、この「能書」の記載は、間違いがなく正確なものである。
乙第1号証によれば、「イブプロフェン」は、急性炎症抑制作用がアスピリンの約9倍、慢性炎症抑制作用がアスピリンの約10倍、鎮痛作用がアスピリンの約30倍に達し、解熱作用がアスピリンよりも優れていることが記載されている。これらの記載は勿論、学術文献に基づき、薬学界で認められたものである。
上記のとおり、「イブプロフェン」は、解熱・鎮痛剤として優れた効果を有する薬剤であるので、大衆薬として使用が認められてからは、各製薬会社が、競って同剤を主剤とする解熱・鎮痛剤を発売したのである。その際に、その「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤の商標として、効能の優れた同剤を主剤とすることを暗に表示するために、「イブ○○○」、「IBU○○○」あるいは「IB○○○」という形の商標が多数採択され、多数の商標登録出願がなされ、後述のごとく多数の商標が登録されている。
(3)上記の「イブ○○」の形の登録商標であって、薬剤を指定商品とする登録商標の一覧を提示する(乙第2号証)。これは、特許庁のインターネットのホームページの特許電子図書館の商標出願・登録検索ページを用い、商標として「イブ?」、類似群として「01B01」(薬剤)をそれぞれ条件として検索した結果をダウンロードした印刷物であるが、ここに57件の登録済みの商標が検出されている。
これらの各登録商標について、それぞれの登録の詳細なデータを、特許電子図書館の商標出願・登録検索ページからダウンロードして添付する。これらの「イブ○○○」の形の商標は、そのほとんどが、「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤用の商標としての使用を目的として、出願、登録されたものと考えられ、実際に、このうちのかなりの数の商標が、同剤を主剤とする解熱・鎮痛剤の商標として使用されている。
上記の57件の登録商標中、一覧表に○印を付した11件のみが請求人の登録商標であり、残りの46件は他社の登録商標である。
したがって、「イブ○○」の形の商標が全て請求人の登録商標ではなく、多数の製薬会社が「イブ○○」の形の商標を薬剤について登録しているのである。
すなわち、解熱・鎮痛剤を販売する医薬品業界にあっては、その薬剤が「イブプロフェン」を主剤とする効能の優れた解熱・鎮痛剤であることを示唆し、連想させるために「イブ○○○」、「IBU○○○」あるいは「IB○○○」の形の商標が広く採択されて使用され、登録されているのである。
(4)請求人が「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤に「EVE」、「イブ」の商標を付して、大々的に宣伝、販売したために、「EVE」、「イブ」の商標は、請求人の販売に係る解熱・鎮痛剤の商標として広く知られていることを認めるにやぶさかではない。
しかし、「イブ○○○」、「IBU○○○」の如く、文字商標の語頭に「イブ」の音が存在しているからといって、請求人が他社のそのような商標の使用を何とか妨害せんとする、横暴な行為は到底認めることはできない。
甲第3号証に示される、大木の解熱・鎮痛剤「イブニック」のパッケージに表示された「IBUNIC」の「IBU」の部分と「NIC」の部分は、色の濃淡の差異はあるが、両方とも青色の同系統に属する色であり、全体が同じ字体、同じ大きさの文字を等間隔に並べて一連に表示してあり、特に「IBU」の文字のみが目立つ表示ではない。
大木は、請求人の警告を受け、敢えて争いを避けるために、「IBUNIC」の表示全体を同一の色彩で表示するようにパッケージの表示を変更する準備を進めていたにもかかわらず、請求人は、「イブ○○○」、「IBU○○○」の形の商標も、すべて、その使用を妨害しようとして、商標法第53条第1項の規定による不正使用取消審判を請求したのである。
(5)この取消審判に対して、被請求人は、不正使用ではないこと、商標権者は通常使用権者の商標の使用について、充分注意をしていたが、実際の使用態様については、熟知していなかったとして、答弁が可能であったが、審判事件の審理の長期化、審判費用の増大のおそれにかんがみ、敢えて答弁せず、その取消審判の対象とされた登録商標を、放棄により抹消登録すると共に、実際に使用している商標である「IBUNIC/イブニック」の商標を再度商標登録出願する方法を選択した。
請求人は、被請求人が「狡猾な方法により商標法の精神をかいくぐり抜けた登録は商標法で保護する適格性を欠くものであって、当然に無効とされなければならない。」と主張するが、全く失当である。取消審判に答弁しなかったからといって、請求人の主張を認めたわけではなく、これに反論して争うよりも、法的に認められた別の方法を選択したにすぎない。取消審判に対して審決が出されていない以上、審決まで争えば、どのような審決がなされたかは、誰も確言することができず、本件無効審判の対象である商標の出願に対して、商標法第53条第2項の適用がなかったのは、当然である。
本件商標の登録には、商標法上何らの瑕疵もなく、本件商標は商標法の厳正な適用により、登録されたものである。
(6)商標「EVE」、「イブ」が如何に請求人の使用する商標として、周知、著名であるとしても、それがために請求人の商標「EVE」又は「イブ」と本件商標との間の類否関係が変るものではない。
商標「EVE」又は「イブ」からは「イブ」の称呼のみを生ずるのに対し、本件商標「IBUNIC/イブニック」からは、「イブニック」の称呼のみを生ずるから、両商標は称呼上明らかに非類似である。本件商標から生ずる称呼「イブニック」は、促音を除くと4音からなる短い音よりなり、全体がまとまりよく一連に称呼し得る称呼であり、これを「イブ」と「ニック」に不自然に分断して称呼すべき特段の理由は全くない。
本件商標は、「IBU」の文字から「イブプロフェン」の主剤を連想させるものの、全体としては造語商標であり、特定の観念を有しないから、商標「EVE」又は「イブ」とは明らかに観念上互いに非類似の商標である。
また、本件商標と商標「EVE」又は「イブ」は、外観上、互いに明らかに非類似であるから、本件商標と請求人の使用する商標「EVE」又は「イブ」とは、称呼、観念及び外観のいずれの点からも互いに非類似であり、両商標は互いに非類似の商標であるといわざるを得ない。請求人の使用する商標と本件商標とは、商標自体が互いに非類似であるから、本件商標は請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはない。

第4 当審の判断
1 請求人の使用する商標の周知性について
請求人提出の証拠(甲第13号証ないし甲第22号証)によれば、請求人に係る「EVE」、「イブ」、あるいは「EVE」と「イブ」とを二段に表してなる商標(以下「請求人使用商標」という。)は、昭和60年12月に発売された鎮痛・解熱剤に使用され、以来継続して使用され、本件商標の登録時はもとより、その出願時において、請求人の前記商品を表示する商標として、その需要者の間に広く認識されているに至っていたものと認め得るところである。
また、総合感冒薬については、「イブ」の文字部分を顕著にした「エスタックイブ」、「エスタックイブエース」の商標を使用し(甲第17号証及び甲第18号証)、「イブ」の文字を含む商標を展開していることが認められる。
そして、被請求人も、鎮痛・解熱剤について、「イブ」及び「EVE」が請求人の商標として広く知られていることを認めるにやぶさかでないと述べており、この点については明らかに争っていない。
2 「イブプロフェン(Ibuprofen)」等について
被請求人提出の証拠によれば、「イブプロフェン(Ibuprofen」を主剤とした解熱・鎮痛剤が販売されていることが認められ、同「イブプロフェン」は、アスピリンに比して、約9倍の急性炎症抑制作用、約10倍の慢性炎症抑制作用、約30倍の鎮痛作用があり、解熱作用も優れているとされている(乙第1号証)。
また、「イブ」「IB(U)」「EVE」を語頭とする「イブ○○○」「IB(U)○○○」「EVE○○○」の形の商標が、請求人のもの以外にも、薬剤を指定商品として相当数登録されていることが認められる(乙第2号証)。
そして、商標の採択に際して、薬効成分等を暗示させるために主剤となる医薬品等の名称の一部を用いることは、この種業界で一般に行われている実情の一といい得るところである。
3 商標の類似性の程度について
請求人使用商標は、「EVE」、「イブ」、あるいは「EVE」と「イブ」とを二段に表してなるものと認められるところ、これらからは、いずれも「イブ」の称呼、「前夜祭、旧約聖書に登場する人類最初の女性」の観念を生じるものと認められる。
他方、本件商標は、「IBUNIC」と「イブニック」の文字を二段に表してなるものである。そして、いずれの文字も同じ書体で等間隔にまとまりよく表されており、これらが「IBU」と「NIC」、あるいは「イブ」と「ニック」とを結合したものとみなければならない格別の理由は見い出せないから、一連の造語として看取されるとするのが相当である。また、片仮名文字「イブニック」を欧文字「IBUNIC」の表音としてみた場合にも、極めて自然なものと認められ、これらを一連に称呼した「イブニック」も、よどみなく一気に称呼し得るものである。
してみると、本件商標は、「イブニック」のみの称呼を生じるものであり、前記(2)のイブプロフェンとの関連性を想起させる場合が全くないとまではいえないけれども、特定の観念を生じさせない一連の造語からなるものというべきである。
しかして、本件商標の称呼「イブニック」と請求人使用商標の称呼「イブ」とを対比すれば、後半の「ニ」「ッ」「ク」の音の有無という明らかな差異を有しており、彼此相紛れることなく判然と区別し得るものである。
また、本件商標と請求人使用商標とは、外観構成においては相当に相違するものがあり、さらに、観念においては比較することができない。
してみれば、本件商標は、その外観、称呼及び観念のいずれからみても、請求人使用商標に類似する商標ということはできない。
そして、本件商標の片仮名文字部分の語頭に「イ」「ブ」の文字が配されているけれども、本件商標の前記構成態様にあって、当該「イブ」部分のみが他の構成部分に比して強く認識されるとすべき理由はないから、この「イ」「ブ」の文字が配されていることをもって、直ちに両商標間の類似の程度が高いとみることはできないというのが相当である。
結局、本件商標を請求人使用商標に関連づけてみるべき理由はなく、両者は、別異の商標として看取されるものというべきである。
4 出所混同のおそれについて
請求人使用商標が需要者の間に広く認識されている商標であり、本件商標と請求人使用商標とが同じ商品に使用され得るものであって、その需要者を共通にするとしても、上記した商標の類似性の程度からみれば、本件商標をその指定商品中「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」について使用しても、これに接する需要者が請求人使用商標あるいは総合感冒薬に使用されている請求人の商標を想起し、連想して、当該商品を請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく誤信し、商品の出所を混同するおそれがあるとはいえないと判断されるものである。
5 審査例、その他について
(1)請求人は、審査例を挙げ、本件商標も同様に判断されるべきである旨主張する。
しかしながら、「恵快イブ」「ホワイトイブ」等の事例は、いずれも、当該商標における「イブ」と結合した文字と商品との関係、結合された他の文字との関係を勘案して、請求人の使用商標を引用したものであって、欧文字「IBUNIC」と片仮名文字「イブニック」とが一体的に表された本件商標とは、事案が異なるといわざるを得ないものである。
また、請求人は、被請求人が放棄した商標権に係る商標「イブニック」の使用及びその取消審判事件について論及しているが、当該商標の登録後における現実の使用態様等を問うた事柄に係ることであるから、出所の混同のおそれの有無に関し、本件商標の登録の適否をいう本件には、直接的ではないというべきである。
(2)請求人は、弁駁書において、本件商標は商標法第53条第2項にも該当するから無効とされるべきである旨述べている。
しかしながら、これは新たに無効理由を追加し、請求の要旨を変更するものであるから、商標法第56条第1項で準用する特許法第131条の2第1項本文の規定により認められない。
なお、仮に上記条項を無効理由とする審判請求が正当になされていたとしても、該条項は、「・・・商標登録を取り消すべき旨の審決が確定した日から五年を経過した後でなければ・・・商標登録を受けることができない。」と規定しており、その前提条件として、商標登録を取り消すべき審決が存在しなければならないところ、本件については、取り消すべき審決がなされていないのであるから、結局、上記請求人の主張は採用することができない。
6 結語
以上のとおり、本件商標は、その指定商品中「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」について、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものとは認められないから、同法第46条第1項によって、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-02-08 
結審通知日 2007-02-15 
審決日 2007-03-05 
出願番号 商願2005-78272(T2005-78272) 
審決分類 T 1 12・ 271- Y (Y05)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 斎 
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 久我 敬史
鈴木 新五
登録日 2006-05-19 
登録番号 商標登録第4952835号(T4952835) 
商標の称呼 イブニック、アイブニック 
代理人 小出 俊實 
代理人 鈴江 武彦 
代理人 石川 義雄 
代理人 小山 義之 

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