• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない 117
管理番号 1148305 
審判番号 取消2005-30101 
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-01-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2005-01-28 
確定日 2006-11-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第2244717号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第2244717号商標(以下「本件商標」という。)は、「C’ESTCHIC’A」の欧文字を横書きしてなり、昭和63年5月11日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成2年7月30日に設定登録、その後、同12年7月18日に商標権存続期間の更新登録がなされているものである。

2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める。」と申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第16号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)請求理由
請求人が調査した被請求人の製造・販売に係る女性用コート(以下「イ号物件」という。)及び女性用ジャケット(以下「ロ号物件」という。)の「織りネーム」及び「吊り下げタグ」には、「C’EST CHIC’A/PARIS」の標章が用いられている。また、イ号物件及びロ号物件の内側のタグには「MADE IN CHAINA」との表示が付されている。しかも、一見して理解できる織りネーム等には、「C’EST CHIC’A/PARIS」の文字を表示し、購入に際して需要者の目にふれ難い裏地の小さなタグに「MADE IN CHAINA」と表示されているものである。
上記のように、イ号物件及びロ号物件は、いずれも織りネーム及び吊り下げタグには、「PARIS」の表示を付記しており、一見した際には、あたかもフランス製の被服であるように見受けられるが、実際には中国製の製品である。
このような表示態様は、あたかもフランス製の被服であるかのように需要者・取引者に誤認させることにより、不当に顧客を誘引するものであるから、商標法第51条第1項にいう、「商品の品質(産地)」について「誤認」を生じさせる行為に該当するものと判断するのが相当である。
そして、本件商標とイ号物件及びロ号物件に表示されている商標は、類似すること明らかである。
また、被請求人は、各物件がフランス製ではなく、中国製であることを自ら認識していたことが明らかであり、かかる使用を行ったものであるから、被請求人に「故意」があったことは明らかである。
なお、請求人がイ号物件及びロ号物件を購入した平成17年1月10日時点において、被請求人がイ号物件及びロ号物件を販売したことは、明らかであり、少なくとも、この時点で「C’EST CHIC’A/PARIS」との商標が使用されていた。
さらに、公正取引委員会の「商品の原産国に関する不当な表示」の衣料品に関する運用細則によれば、国産品の吊り下げタグに「NEW YORK」等の表示をすることは、不当な表示(不当景品類及び不当表示防止法第4条)に該当する。
してみれば、被請求人の係る行為は、商標法第51条第1項に定める「商標権者が故意に指定商品又は指定役務について登録商標に類似する商標の使用」であって、「商品の品質(産地)」の「誤認」を生じさせる行為に該当すること明らかであるから、その登録を取り消されるべきである。
(2)答弁に対する弁駁
(ア)「商品の品質(産地)の誤認」を生じさせないとの主張について
被請求人は、「PARIS」を織りネームに表示する行為は、アパレル業界一般に行われているところであり、それが故に、品質の誤認を生じないと主張しているが、被請求人提出に係る乙第3号証の1ないし乙第13号証の4及び乙第14号証の1ないし乙第14号証の34は、いずれも「超有名ブランド」として認識されている商標であり、これらの事例は、永年の実績と名声によって、その歴史的背景を含めた「ブランドイメージ」が、取引者・需要者の間に深く浸透しているものであるから、何ら注意書きがなくとも、「PARIS」「LONDON」等の表示が製造地ではなく、ブランドとの因果関係(例えば、発祥地等)を示す表示として理解されるものであり、故に、商品の出所混同を生じさせないと判断し得るものである。
これに対して、本件商標は、これらの「超有名ブランド」と同程度の著名性を有するとは、認められないものである。
他方、著名性なき商標で地理的表示を含む商標登録出願が、商標法第4条第1項第16号を適用されて拒絶された登録出願は、枚挙にいとまがないほど多数存在する。
したがって、「著名性」という特殊事例を前提として、登録を受けた事例のみを掲げ、「アパレル業界の慣行」と称し、引用標章が商品の品質(産地)の誤認を生じないというのは、畢竟独自の見解である。
さらに、被請求人は、イ号物件及びロ号物件は、パリ在住のフランス人デザイナーのジャン・フィリップ・ブイエ氏のデザインに由来する商品であって、パリと関連性のある商品であるから、品質の誤認を生じない旨主張しているが、かかる事情が購買者に伝達されているという証左は一切見当たらず、請求人の行為は、イ号物件及びロ号物件とパリとの唯一の関連性を伏せたまま、中国製の商品を販売していたにほかならない。
以上のような事情からすれば、イ号物件及びロ号物件は、パリ在住のデザイナーのデザインによるものであるから、品質(産地)の誤認を生じないとの主張は、著しく妥当性を欠くものである。
なお、被請求人は、景品表示法は、競争法的色彩が強く、その発動基準に比して、商標法第51条の発動基準は、厳格であるべき旨主張している。
しかし、商標法は、不正競争防止法、独占禁止法(とりわけ景品表示法)と一体となって、我が国の競争法秩序を形成しており、法益を共通にするものであるから、景品表示法上の基準を参考の一つにするのは、至当であり、適用基準を異にすると考える合理的な根拠は、見いだせない。
(イ)故意の要件を満たさないとの主張について
網野誠 著「商標(第4版)」によれば、「故意」の要件について「ここにいう『故意』とは、悪意があることを要せず、付記・変更の目的物を認識すれば足りるとしている。すなわち、誤認・混同行為により品質の誤認を生ずるであろう商標の存在を知っておれば、誤認・混同の意思がなくても故意を認め得るものとする。」と説明している。
被請求人の行為は、「故意」の要件を十分に満たすものである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第23号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)商標法第51条第1項は、商標権者の不正使用に対する制裁として、商標権者の財産たる商標権を喪失させる制度である。
したがって、同項に規定する「商品の品質(産地)の誤認を生ずる」かどうかは、商標法第51条第1項の趣旨に照らし、当該商品の取引の実情を考慮して、需要者・取引者が、通常有する注意力を基準に個別具体的に判断されるべきであって、「不当景品類及び不当表示防止法の運用細則」を単純に適用ないし準用することで決せられるべき問題ではない。
(2)「被服」はファッション関連商品である。そして、現在、産業界では生産拠点を製造コストの安い国にシフトさせる傾向があり、アパレル業界では、その傾向が顕著である。
現代用語の基礎知識2005(乙第2号証)のファッションビジネスの項に、「輸入品のブランドは2つに分類される。直輸入とデザイン提携によるリプロダクションである。」と記載されている。
この点「PARIS」、「MIRANO」、「LONDON」、「NEW YORK」といった都市は、ファッションないし流行の発信地ないし中心地であり、例えば「CHANEL」、「HERMES」等多数のブランドが、これらの都市を発祥ないし拠点としており、これらのブランドに「PARIS」、「MIRANO」、「LONDON」、「NEW YORK」等の都市名が付記されることは珍しくなく、この場合の都市名は、当該ブランドの由来を表示するものであって、産地表示として用いられているものではない。したがって、取引者・需要者は、織りネーム等において、商標に付記された「PARIS」等の文字をとらえて、パリ製等と認識するというよりも、むしろ、そのブランドがパリ等に由来するといったように、何らかの意味でその都市に関係していると認識するのが普通である。
事実、著名な都市名を含むブランドであっても、その都市以外の国・地域を産地とする商品は、多数存在する(乙第3号証ないし乙第13号証)。
また、被服等のファッション関連の商品分野では、「PARIS」、「MIRANO」、「NEW YORK」といった都市名を含みながら、フランス製等の商品に限定されることなく、登録されている商標が多数存在している(乙第14号証の1ないし34)。
(3)被請求人は、件外三井物産株式会社を介してパリで活躍しているパリ在住のフランス人デザイナーのジャン・フィリップ・ブイエ氏(フランス法人E.U.R.L.J.P.B.H)から、広い意味でのデザインの供与ないし提案を受けていた。
被請求人は、ブイエ氏から供与ないし提案を受けたデザインを基に商品を企画し、2004年シーズン向けの当該企画商品(イ号物件及びロ号物件を含む。)について「C’EST CHIC’A/PARIS」を使用したのであって、かかる意味において当該商品は、フランス(より具体的にはパリ)との関連性を有するものである。しかも、「PARIS」の文字を付記していた期間は、上述した2004年の契約期間のみであり、2003年及び2005年の商品については、使用されていない。
そうとすれば、被請求人が、イ号物件及びロ号物件に「C’EST CHIC’A/PARIS」を使用しても、品質の誤認は、何ら生じないというべきである。
加えて、イ号物件及びロ号物件には、吊り下げタグ及びケアラベルに「Made in China」の表示がされている。ファッション界の実情よりすれば、イ号物件及びロ号物件が中国産であることが一見して理解可能であって、「PARIS」の文字が、産地表示ではなく、かつ産地表示として認識されるものではないことは、明白である。
(4)上述のように、被請求人は、業界の慣行に従いイ号物件及びロ号物件が中国産であることを吊り下げタグ及びケアラベルにおいて明らかにしているのであるから、本件商標に「PARIS」を付記することによって産地の誤認を生じさせようとする「故意」がないことは、明白である。
(5)被請求人は、商標「プライド/PRIDE」の商標権者であるが、当該商標の使用について請求人と交渉を重ねてきた。請求人が上記商標の交渉を優位に進める目的をもって、故意に本件審判請求を行っているものと考えざるを得ず、かかる経緯に照らせば、本件取消審判の請求が被請求人を害することを目的とすることは明らかであり、かかる審判請求は、明らかに商標法第51条の趣旨を逸脱するものであり、濫訴的請求として認められるべきではない。

4 当審の判断
(1)商標法第51条第1項は、商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務について登録商標若しくはこれに類似する商標の使用をして一般公衆を害した場合についての制裁規定である。すなわち、商標権者は指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有するが、指定商品又は指定役務についての登録商標に類似する商標の使用は、法律上の権利として認められていない。ただ、他の権利と抵触しない限り事実上の使用ができるだけである。そこで、このような商標の使用であって、商品の品質若しくは役務の質の誤認又は商品若しくは役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものの使用を故意にしたとき、つまり、誤認、混同を生ずることの認識があったときは、請求により、その商標登録を取り消すこととした(特許庁編 工業所有権法逐条解説第16版)ものと解される。
(2)これを本件について見ると、本件商標は、「C’ESTCHIC’A」の欧文字を横書きしてなるものであるところ、該文字は、特段意味を有しない造語と認められるものである。
他方、被請求人が、イ号物件及びロ号物件(以下、あわせて「被請求人使用商品」という。)に使用する標章(以下「被請求人使用標章」という。)は、上段に「C’EST CHIC’A」の文字を大きく書し、下段にやや小さく「PARIS」の文字を書してなるものである〔例えば、イ号物件(婦人用コート)の吊り下げタグ(甲第4号証の5)に使用する標章は、別掲のとおりである。〕ところ、その構成全体を、外観上、一体とすべき特段の理由がないものであり、上段の「C’ESTCHIC’A」の文字は、上記のとおり、特段意味を有しない造語と認められるものであり、下段の「PARIS」の文字は、フランスの首都として、また、被請求人使用商品の分野に係るファッションの中心地としても知られているから、単に地名として認識されるにすぎず、「C’ESTCHIC’A」と「PARIS」とを、称呼及び観念上も、構成全体をもって、一体とすべき理由はないものである。
そうとすると、被請求人使用標章は、本件商標と社会通念上同一と認められる「C’ESTCHIC’A」の文字を上段とし、下段に、単に「PARIS」の文字を付記してなるにすぎないものと認められる。
そして、商標法第51条第1項は、上記のように解されることよりすれば、登録商標の使用に当たって、付記されている文字等の付記的部分があり、このような付記的部分によって、商品の品質若しくは役務の質の誤認又は商品若しくは役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものまで、その対象としているものではないというべきである。
そうとすると、被請求人使用標章の上段部分である「C’ESTCHIC’A」の文字部分が、本件商標と類似する商標といい得るとしても、「PARIS」の文字部分は、商標法第51条第1項にいう本件商標に「類似する商標」であるか否かにかかわりなく、全く無関係の部分であるというのが相当であるから、結局、被請求人使用標章と本件商標とは、同項にいう「類似する商標」とまでは、いうことができないものといわなければならない。
また、被請求人が中国製の商品に「PARIS」の文字を有する被請求人使用標章を使用し、仮に、フランス製の商品であると商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとしても、本件商標と類似する商標の使用により、上記誤認を生じさせるおそれがあるものとは、いうことができない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第51条第1項の規定により、取り消すべき限りでない。
なお、請求人は、平成18年4月19日付け上申書において、被請求人と和解(具体的には、本件審判請求の取り下げ等)に向けた交渉を開始することとなった旨述べ、被請求人は、平成18年6月8日付け上申書において、交渉が継続中であり、和解の気運が高まっている等、述べているが、相当の期間が経過した現在に至るも交渉が成立した旨の申し出もなく、本件審判請求の取下げがなされた事実もない。加えて、本件審判の請求は、結論のとおり判断でき、その結果、本件商標の登録は維持されるものとなるが、上記それぞれの上申書によれば、両者による交渉がまとまった場合には、本件審判請求を取り下げるとし、結果として、本件商標の登録は維持されるものとなるから、本件については、これ以上、交渉の進展を待つことなく審決する。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (別掲)
被請求人使用標章(イ号物件の吊り下げタグに使用する標章)


審理終結日 2006-03-31 
結審通知日 2006-04-06 
審決日 2006-10-06 
出願番号 商願昭63-52112 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (117)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 新五川津 義人 
特許庁審判長 大場 義則
特許庁審判官 内山 進
柳原 雪身
登録日 1990-07-30 
登録番号 商標登録第2244717号(T2244717) 
商標の称呼 セトシカ、セストチックエイ、セストチック、セシッカ 
代理人 一色国際特許業務法人 
代理人 森下 賢樹 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ