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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) Y081021
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) Y081021
管理番号 1139821 
異議申立番号 異議2004-90560 
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2006-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2004-09-13 
確定日 2006-06-14 
異議申立件数
事件の表示 登録第4777579号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第4777579号商標の商標登録を取り消す。
理由 1 本件商標
本件登録第4777579号商標(以下「本件商標」という。)は、「MAGFIT」及び「マグフィット」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成15年5月15日に登録出願、第8類「ピンセット」、第10類「医療用機械器具」及び第21類「化粧用具」を指定商品として、同16年6月11日に設定登録されたものである。

2 登録異議の申立ての理由
本件登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第7号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の2の規定により、その登録を取り消されるべきであると申立て、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第41号証を提出した。
(1)商標法第4条第1項第15号の該当性について
(ア)申立人の引用商標と商品
申立人は、本来特殊鋼メーカーであるが、各種モーターやドアロックなど自動車部品用に生産していた高性能磁石(サマリウム・コバルト磁石)を応用し、義歯を固定・着脱する義歯固定用磁性アタッチメント(以下「本件商品」という。)を開発した。磁石の義歯への応用は、田中貴信愛知学院大学歯学部教授(以下「田中教授」という。)と岩間義郎名古屋大学名誉教授(以下「岩間名誉教授」という。)と共同で1988年より開発を進めてきたもので、1992年に厚生省の承認を得て商品化し、「マグフィット600」の商標を付して発売した。
本件商品は、一般的な義歯を固定する方法と比較すると、義歯の安定度が高いほか、金属部分が露出せず、義歯の着脱やメンテナンスも容易などの特徴がある。このような特徴を備えた義歯固定用磁性アタッチメントは、多大な好評を博したが、申立人は、平成6年7月、同商品の厚みを40%縮小する事に成功した。当時、世界最小サイズであり、歯科医や技工士から高い評価を得た。平成6年12月には、高齢化社会に貢献するものとして「中日新聞社賞」を受賞した。申立人は、平成7年7月に、更に商品の磁石構造体の高さを25%薄くし、吸着力を10%向上させた「マグフィット600S」を発売し、平成8年4月、更に新磁石を採用した超小型アタッチメント「マグフィットEX600」「同EX400」を開発、発表した。
この小型化で、歯周病などで歯肉が削られ断面積が縮小した歯や、低い位置にある奥歯にも取りつけることが可能になり、さらに、義歯の異物感が少なく、外見が美しいという利点を有するに至った。
本件商品は、アジア、欧州、北米を含む全世界において販売されており、そのシェアは約80%と推定される。2002年の販売実績は、国内7万個、海外4万個の、計約11万個であり、発売当初からの販売の累計数量は、120万個を越えている。
このように、本件商品は、業界をリードする商品であり、この商品に使用されている商標「MAGFIT」及び「マグフィット」は、申立人の商標として広く認識されているものである。
申立人は、下記に示す「マグフィット600」(登録第2646908号)を平成6年4月28日、「MAGFIT」(登録第3283041号)を平成9年4月18日、「マグフィット」(登録第4221587号)を平成10年12月18日にそれぞれ商標登録している(以下、これらをまとめて「引用商標」という。)。
甲第5号証ないし甲第28号証により、本件商品は、1992年より販売され、高い評価を得ている事実を立証する。この商品には、商標「MAGFIT」、「マグフィット」が使用されており、証拠として提出した記事は、いずれも、「MAGFIT」、「マグフィット」の商標を付した商品が「愛知製鋼」の商品であることを明確に表示している。一般記事において、このように明示されていることは、商標「MAGFIT」、「マグフィット」が申立人の所有にかかるものとして、一般に広く認識されていると断ずる根拠となるものである。株式会社ジーシーが販売元と述べている記事もあるが、単に、販売委託されている事実に言及しているにすぎない。商標「MAGFIT」、「マグフィット」を付した本件商品の出所として認識されるのは、申立人であることは、明らかである。
商標「MAGFIT」は、申立人の有する有名商標と認定され、AIPPI発行にかかる「FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN(日本有名商標集)」に掲載されている(甲第29号証)。
甲第30号証ないし甲第40号証により、申立人の宣伝広告活動の一端を証明する。
以上のとおり、引用商標は、申立人が本件商品に関して使用する商標であり、その事実は、我が国において周知著名になっているものである。
(イ)本件商標及び指定商品
本件商標は、欧文字「MAGFIT」と片仮名文字「マグフィット」の2段併記の商標であるから、引用商標と称呼、観念において共通し、実質的に同一の商標であるというべきである。
本件商標の指定商品は、第8類「ピンセット」、第10類「医療用機械器具」及び第21類「化粧用具」である。
申立人の商標「MAGFIT」、「マグフィット」を付した商品は、上述のとおり、「歯根に磁性金属を取りつけ、入れ歯に超小型磁石を埋め込んで、磁石の力で入れ歯を吸着する義歯固定用磁性アタッチメント」である。その使用にあたっては、「診断用ゲージ、石こうダミー、キーパーキャリア、歯ブラシ、ピンセット」等が関連商品となる。
2001年当時、申立人と商標権者により作成、配布された、上記関連商品も掲載されている商品カタログを提出する(甲第41号証)。これらの関連商品は、第5類に属する「義歯固定用磁性アタッチメント」の専用材料と理解されるものである。
しかし、一方、これらの関連商品は、本件商標の指定商品との関連性が容易に想起されるおそれがあるといえる。
商標権者は、このような事実を知りながら、指定商品について本件商標の出願をしたものである。また、商標権者は、申立人との契約が終了した後も、同種商品を取り扱う可能性が高いと見られる。
してみると、商標権者が、申立人の商標として著名な「MAGFIT」、「マグフィット」と実質的に同一の本件商標を、上記関連商品に関連する指定商品について使用する場合には、それらの商品は、申立人の商品であるかのように理解され、商品の出所に関し誤認混同が生ずることは、必至である。
(ウ)以上の次第であって、本件商標がピンセット、診断用ゲージ・石こうダミー・キーパーキャリアのような医療機械器具、歯ブラシ等の化粧用具に使用された場合には、その商品が申立人の業務に係る商品であると誤認され、出所混同を招来するおそれが極めて高いというべきである。
よって、本件商標は、第4条第1項第15号に該当し、その登録は、取り消されるべきである。
(2)商標法第4条第1項第7号の該当性について
商標権者は、平成15年5月15日付けで、本件商標を出願したところ、平成15年10月1日付けで、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する旨の拒絶理由通知が発せられた。
商標権者は、拒絶理由通知に対する意見書の中で、平成4年6月30日に両者が交わした売買基本契約に言及し、商標権者は、「独占販売権」を有すると主張し、申立人が「製造する商品『義歯固定用磁性アッタチメント』等に商標『MAGFIT』、『マグフィット』を付して、継続して独占的に販売すると共に、この商標『MAGFIT』『マグフィット』を付した商品『義歯固定用磁性アタッチメント』等が、業務上の信用を需要者より得られるように企業努力を継続してきたことにより、この愛知製鋼株式会社が製造する商標『MAGFIT』、『マグフィット』を付した商品『義歯固定用磁性アタッチメント』等が、株式会社ジーシーが独占的に販売する商品であることが需要者に広く知られるまでに至ったのであります」と述べ、申立人と商標権者の連名による広告を提出して、「したがって、本願商標『MAGFIT』『マグフィット』を出願人である株式会社ジーシーが本願指定商品に使用したとしても、愛知製鋼株式会社の業務にかかる商品と混同を生ずるおそれはないので、本願商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものではないのであります。」と結論付けている。
しかしながら、商標権者は、あたかも「独占販売権」を本件商標の出願時点またそれ以降も継続して有しており、販売を唯一独占に継続していたように主張するが誤りである。すなわち、平成11年6月30日付け申立人と商標権者の売買基本契約によって、商標権者に与えられる権利は次のように、「通常販売権」に変更されている。第3条(販売権、購入の義務)は、「乙は製品の通常販売権を持つものとし、甲は乙に対して製品供給に努める。乙は覚書において別途定めた年度購入契約量の達成に努める。乙は原則として、製品と類似商品を生産してはならないし、あるいは第三者から購入する場合には事前に甲に了解を求める。」(甲は愛知製鋼株式会社、乙は株式会社ジーシー)と規定している。なお、既に両者間の売買基本契約は、終了となっている。
平成11年以降は、申立人自身も商標「MAGFIT」、「マグフィット」を付した本件商品を継続販売している。
したがって、商標「MAGFIT」、「マグフィット」を付した本件商品について商標権者のみが取扱い、商品の出所として認識されたという事実はない。
上記の売買基本契約の第10条(商標の取扱)は、「商標および商標を使った資料については、甲と乙が相互に利用しあうものとする。取扱の細部については、商標の取扱契約で別途定める。」とあり、商標は、両者が使用していたのである。
なお、両者間には、別途、甲(愛知製鋼株式会社)から乙(株式会社ジーシー)に対する「マグフィット600」、「MAGFIT」、「マグフィット」の通常使用権の設定契約が存在したが、2003年5月12日付けの甲からの通知書により解約されている。
以上の事実にもかかわらず、商標権者は、商品「義歯固定用磁性アタッチメント」に商標「MAGFIT」、「マグフィット」を独占的に使用を継続した結果、需要者において商品の出所に関し誤認混同が生じないと断じて本件商標の登録を得たが、審査官に提示された事実には、上記のとおり虚偽があり、このようにして登録された本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当し、その登録は取り消されるべきである。
<引用商標>
(ア)登録第2646908号商標は、「マグフィット600」の文字を横書きしてなり、平成3年10月18日に登録出願、第1類「人工歯用材料」を指定商品として、同6年4月28日に設定登録、その後、同16年9月21日に商標権存続期間の更新登録、さらに、同年12月15日に指定商品を第5類「人工歯用材料」とする書換の登録がされたものである。
(イ)登録第3283041号商標は、「MAGFIT」の文字を横書きしてなり、平成6年6月30日に登録出願、第5類「歯科用材料」を指定商品として、同9年4月18日に設定登録されたものである。
(ウ)登録第4221587号商標は、「マグフィット」の文字(標準文字による商標)を横書きしてなり、平成9年9月2日に登録出願、第5類「歯科用材料」を指定商品として、同10年12月18日に設定登録されたものである。

3 本件商標の登録の取消理由
(1)申立人の提出に係る甲各号証及び申立理由の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア)申立人は、本来特殊鋼メーカーであるが、本件商品を開発して、1992年(平成4年)に厚生省の承認を得て商品化し、「マグフィット600」の商標を付して発売した。そのニュースは、平成4年6月16日付けの各新聞で取り上げられた(甲第5号証ないし甲第9号証)。
(イ)本件商品は、業界で多大な好評を博したが、申立人は、その後も本件商品の改良を加え、小型化を達成した「マグフィット400」を発売し、各新聞に報道された(甲第11号証ないし甲第16号証)。本件商品は、歯科医や技工士から高い評価を受けるとともに、業界をリードし、高齢化社会に貢献する商品として中日新聞社賞を受賞した(甲第17号証ないし甲第20号証)。平成7年7月には、更に小型・強力化品「マグフィット600S」を発売し、さらに、平成8年4月には、超小型入れ歯固定装置「マグフィットEX600」、「マグフィットEX400」の開発を発表し、各新聞に報道された(甲第21号証ないし甲第28号証)。
(ウ)本件商品は、アジア、欧州、北米を含む全世界において販売されており、そのシェアは、約80%と推定され、発売当初からの販売累計数量は、120万個を超えているものである。この一群の本件商品には、商標「マグフィット」のほか、「MAGFIT」の商標も使用されている。
(エ)引用商標中の「MAGFIT」は、AIPPI・JAPAN発行の「FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN (日本有名商標集)」に掲載されている(甲第29号証)。
引用商標を用いた本件商品については、業界誌において宣伝広告されているほか(甲第30号証ないし甲第37号証)、申立人の商品カタログ及びリーフレットにも付して頒布されている(甲第38号証ないし甲第40号証)。
(オ)申立人と本件商標の商標権者とは、平成4年6月30日に売買基本契約を交わし、該契約に基づき本件商標の商標権者は、独占的に本件商品を販売していたが、平成11年6月30日付けの売買基本契約により、本件商標の商標権者に与えられる権利は、「通常販売権」に変更され、さらに、現在では、両者間の売買基本契約は終了している。
また、両者間に存在していた引用商標についての通常使用権の設定契約は、2003年(平成15年)5月12日に解約されている。
なお、上記(ア)及び(イ)の新聞記事においては、本件商品が本件商標の商標権者を通じて販売される旨報道されているほか、(エ)の雑誌広告においても、申立人とともに、発売元として、本件商標の商標権者が表示されている。
(カ)本件商品は、歯根に磁性金属を取り付け、入れ歯に超小型磁石を埋め込んで、磁石の力で入れ歯を吸着する義歯固定用磁性アタッチメントであり、その使用にあたっては、その使用の適否を確認するための「診断用ゲージ」、義歯床内に磁石構造体のスペースを確保するための「石こうダミー」、キーパー付根面板の試適、合着をスムーズに行うための「キーパーキャリア」、特殊な「ピンセット」や「歯ブラシ」等と関連して使用されている(甲第41号証)。
そして、これらの関連商品は、本件商標の指定商品とは密接な関係を有するものといえる。
(2)以上の認定事実によれば、引用商標は、本件商標の登録出願(平成15年5月15日)時点においては、既に、本件商品について、申立人又は申立人と何らかの関係を有する者により使用される商標として、我が国におけるその取引者、需要者間において広く認識されていたものというべきであり、その状態は、登録査定(平成16年5月21日)時においても継続していたものと認められる。
ところで、引用商標が本件商品のほか歯科用材料関連の商品分野において周知性を獲得するに至る過程においては、本件商標の商標権者も関与していたものといえるから、当事者といえなくもない。
しかしながら、本件商標は、本件商標の商標権者と申立人との間の通常使用権の設定契約が解約された平成15年5月12日からわずか3日後の同月15日に登録出願されていることからすると、少なくとも、本件商標の登録出願時においては、本件商標の商標権者は、申立人と無関係の立場にあったものといわざるを得ない。
そうすると、前記契約の解約時点以降、申立人と無関係な立場にある本件商標の商標権者が本件商標をその指定商品、すなわち、第8類「ピンセット」、第10類「医療用機械器具」及び第21類「化粧用具」に使用するときは、これらの商品中には、上述の本件商品と密接な関連を有する商品が含まれていることもあって、その指定商品に接する取引者、需要者は、既に、本件商品について周知・著名となっている申立人の引用商標を連想、想起し、該商品が申立人又は申立人と組織的、経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものといわなければならない。
また、本件商標の商標権者は、申立人の本件商品及び引用商標に関する上記諸事情を熟知していながら、本件商品の関連商品について、引用商標と同一又は類似といい得る本件商標が登録されていないことを奇貨として、申立人に無断で本件商標を出願し登録を受けたものといわざるを得ないので、かかる本件商標の商標権者の行為は、公正な取引秩序を乱し、社会一般の道徳観念に反するものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号にも該当するものというべきである。
(3)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第7号のそれぞれの規定に違反して登録されたものであるから、その登録を取り消すべきものである。

4 商標権者の意見
(1)商標法第4条第1項第15号に該当しない理由
(ア)本件商品開発当初に商標権者が果たした役割
本件商標の商標権者である株式会社ジーシーは、大正10年(1921年)に創業し、歯科用機器や歯科用材料等の歯科関連商品の開発・製造・販売を業とする会社であり、申立人が製造する本件商品が開発された昭和63年(1988年)頃には、歯科関連商品の国内における売上げが業界一位となっていたのであり、現在においてもその地位を維持している(乙第1号証及び乙第2号証)。
申立人は、本来は、特殊鋼メーカーであり、歯科業界において全くノウハウがなく、すなわち歯科関連商品の技術的・法律的な知識経験や、歯科関連商品の販売チャンネル・営業力等の販売面での経験や資源等を全く有していなかったので、申立人は、商標権者の歯科業界における知識経験や営業資源等を利用して、本件商品の開発・商品化及び拡販を行うために、商標権者と手を組むことになったのである。
そして、商標権者は、本件商品開発当初より、申立人や田中教授と岩間名誉教授と共に、本件商品に関する打合せ等に参加し、本件商品の開発に多大な貢献をし、さらに、厚生省の医療機器としての承認取得に多大な貢献をした。例えば、1993年配布の「マグフィット600のカタログ」(乙第3号証)に記載の本件商品の関連商品として必要不可欠な「診断用ゲージ」、「根面板試適・合着用キャリア」や「石膏ダミー」(以下、これらをまとめて「本件関連商品」という。また、本件商品及び本件関連商品をまとめていうときは、「本件商品等」という。)は、商標権者が独自に開発したものである。
商標権者が本件商品の開発及び商品化に全く関与していないがごとき、申立人の主張は、全く事実と異なるものである。
(イ)商標権者による引用商標の周知性獲得のための企業努力
前記のように、1988年(昭和63年)頃より、商標権者が申立人等と共に開発・商品化した本件商品等に関して、平成4年(1992年)6月30日に商標権者が申立人の製造する本件商品等を独占的に販売する旨の売買基本契約が締結された後に、平成4年(1992年)7月項より、商標権者は、申立人の製造し、引用商標が付された本件商品等を独占的に販売してきた。
なお、引用商標は、それぞれその指定商品を「第5類 歯科用材料」としたものであるが、本件商品「義歯固定用磁性アタッチメント」は、「第10類 医療用機械器具」と同一又は類似する商品であるから、引用商標の指定商品と本件商品とは、非類似の関係にあるので、実際には、本件商品に引用商標を付す行為自体は、商標法上の商標の使用に該当するものではないが、以下、説明のため本件商品に商標「マグフィット」、「MAGFIT」等を付す行為を便宜上、引用商標を使用する行為として述べる。
このように、引用商標が付された本件商品等を発売した平成4年(1992年)7月頃以降、商標権者は、商標権者が有する歯科関連商品の販売チャンネル・営業力等の販売面での豊富な経験や人的・金銭的な資源、歯科医院・歯科技工所や歯学の研究に携わる人々とのネットワークを全面的に活用し、本件商品等の販売促進活動に邁進してきたのである。
このような商標権者による積極的な販売促進活動の一例として、商標権者は、本件商品等を発売した平成4年(1992年)7月項以降から近年に至るまで、長年にわたり、定期的に複数の歯科業界専門誌へ引用商標を付した本件商品等の広告を掲載してきた。それらの広告の中の僅か一部であるが、乙第9号証ないし乙第79号証として提出する。
これらの歯科業界専門誌に掲載された上記の広告には、発売元として、商標権者の名称である株式会社ジーシーと、製造元として、申立人の名称である愛知製鋼株式会社とがそれぞれ併記されているが、これらの広告は、総て商標権者による独自の販売促進活動の一環として、商標権者が自費により各広告代理店に広告掲載の発注を行ったものである(乙第80号証ないし乙第82号証)。
さらに、商標権者は、商標権者が有する歯科医院・歯科技工所や歯学の研究に携わる人々とのネットワークを駆使して、本件商品等に関する歯科医や歯科技工士等向けのセミナーや講習会等を幾度となく定期的に開催し、実際に臨床の場に携わる人々に対し、新規な商品である本件商品等の存在やその有効性を知らしめることによって、本件商品等の普及に多大な貢献をしてきたのである(乙第83号証ないし乙第90号証)。
このように、本件商品の売上げが飛躍的に向上したのは、商標権者がその歯科業界において築き上げた周知性や信用、商標権者によるセミナー等の継続的で地道な宣伝普及活動や、商標権者により費やされた莫大な広告費等に起因するものであり、言い換えれば、一義に商標権者の企業努力によって成し遂げられたものである。何故ならば、商標権者の独占販売権は、平成11年6月30日まで有効であったから、前記国内における販売は、総て商標権者の企業努力によるものであることが明白である。
さらに、商標権者は、このような販売促進活動のみならず、本件商品の改良に多大な貢献をしてきたのであり、このような一例として「マグフィットD900・650」のカタログ(乙第91号証)に記載の改良型の本件商品は、「マグフィットDタイプに関する覚書」(平成12年(2000年)11月30日締結、乙第92号証)に記載されているように、商標権者の要望を取り入れて申立人と共同で開発したものである。
このように、本件商品は、次々と改良化されることにより、商標権者は、本件商品等の周知性獲得及び売上げの飛躍的向上に多大な貢献をしてきたのである。
ところで、申立人は、「株式会社ジーシーが販売元と述べている記事もあるが、単に販売委託されている事実を言及しているにすぎない。商標『MAGFIT』、『マグフィット』を付した商品『義歯固定用磁性アタッチメント』の出所として認識されるのは、申立人であることは明らかである。」と主張しているが、前記したように、商標権者は、本件商品等の開発段階から技術的・法律的な側面において、多大な貢献をしており、そして、本件商品等の周知性獲得及び売上げの飛躍的向上のために甚大な企業努力を行い、更には、本件商品及び本件関連商品の改良に多大な貢献をしてきたのは、前記複数の証拠により明らかであり、このような商標権者による企業努力が単に「販売委託」であるということは、事実を大きく歪めた主張であるばかりか、商標権者は、一般的な「販売元」が果たさなければならない義務責任よりも大きな貢献をしてきたのであり、更に言えば、このような商標権者の企業努力により本件商品等の周知性獲得及び売上げの飛躍的向上が成し遂げられたのであり、しかして、需要者である歯科医や歯科技工士等は、引用商標を付した本件商品等の出所が商標権者であると認識するに至ったものであるので、引用商標を付した本件商品の出所として認識されるのは申立人であるということは、事実に反するものであり、このことは、以下に述べる事実により明らかである。
(ウ)商標権者が本件商標を使用しても出所の混同が生じない理由
前記したように、商標権者は、本件商品等の周知性獲得及び売上げの飛躍的向上に多大な貢献しており、その結果、需要者である歯科医や歯科技工士等は、引用商標を付した本件商品等の出所が商標権者であると認識するに至ったのである。
このことは、本件商品等について記述された数々の歯科関係の文献(例えば、乙第93号証ないし乙第100号証)において、引用商標「マグフィット」を付した本件商品等の出所として、商標権者である「株式会社ジーシー」の名称のみが記載されていること、簡単に言い換えれば、引用商標「マグフィット」と商標権者である「株式会社ジーシー」とが併記されており、申立人の名称が全く記載されていないことからも判るように、需要者である歯科医や歯科技工士等は、引用商標を付した本件商品等の出所が商標権者であると認識するに至ったのは、明白な事実なのである。
そして、申立人は、平成11年(1999年)6月30日付けの売買基本契約にて、商標権者が本件商品に関して有する販売権は、通常販売権へと変更されたと主張しているが、これ以降、申立人は、本件商品である義歯固定用磁性アタッチメントに関して、商標権者以外の新たな複数の販売ルートを設け、本件商品に付された引用商標「マグフィット」とは別の複数種類の商標を付した義歯固定用磁性アタッチメントを商標権者以外の競合他社より発売したのである(乙第101号証及び乙第102号証)。
このように、申立人が本件商品である義歯固定用磁性アタッチメントを商標権者以外の競合他社より発売するに際し、商標権者が引用商標に対して有する権利は、通常使用権であったにもかかわわらず、本件商品に付された引用商標「マグフィット」とは別の複数種類の商標を付したのは、既に需要者である歯科医や歯科技工士等は、引用商標「マグフィット」を付した本件商品や本件関連商品の出所が商標権者であるという認識が周知の事実であることや、引用商標「マグフィット」を付した本件商品や本件関連商品を商標権者以外の競合他社より発売した場合には、商標権者の企業努力により引用商標に化体した信用を失うおそれがあるということを申立人自身が把握していたからにほかならないのである。
そして、本件商品に付された引用商標「マグフィット」とは別の複数種類の商標を付した義歯固定用磁性アタッチメントが商標権者以外の競合他社より発売されたことにより、引用商標「マグフィット」を付した本件商品等の出所が商標権者であるという認識を希釈化されかねない非常に不利な状況下であっても、需要者である歯科医や歯科技工士等は、なおも、引用商標「マグフィット」を付した本件商品等の出所が商標権者であるという認識を有していることは、例えば、平成11年(1999年)以降においても前記乙第97号証ないし乙第100号証のごとく引用商標「マグフィット」を付した本件商品や本件関連商品の出所として、商標権者である「株式会社ジーシー」の名称のみが記載されている数多くの文献が存在することからも明白なのである。
上述したように、商標権者の企業努力により引用商標が周知となり、その結果、需要者である歯科医や歯科技工士等が引用商標を付した本件商品等の出所が商標権者であると広く認識されるに至ったことは、添付した証拠により明白な事実であるから、引用商標は、商標権者が周知・著名とし商標権者の業務に係る商品を想起させるものであるので、商標権者が本件商標をその指定商品に使用したとしても、需要者が商品の出所について混同を生じるおそれは、全くないのである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
(2)商標法第4条第1項第7号に該当しない理由
商標権者と申立人との本件商品に関する平成4年(1992年)6月30日付けの売買基本契約によって、独占販売の契約した後に、商標権者の企業努力により、本件商品等の売上げも年を追う毎に飛躍的に向上した。
しかしながら、申立人は、更なる、商標権者にとって無理な販売個数計画(すなわち、商標権者が申立人より購入する本件商品の個数の契約)を突き付けてきたのであるが、商標権者がこのような販売個数計画は承知できないと拒絶したのを機に、商標権者の企業努力により本件商品等の売上げが飛躍的に向上した実績を全く無視して、上記販売個数計画を承知できないのであれば、販売権を通常販売権へと変更するという契約を強要してきたのであり、これが、前記、平成11年(1999年)6月30日付けの売買基本契約に至る経緯である。
そして、この売買基本契約を締結したのを機に、商標権者の企業努力により、需要者に広く認識されるようになった本件商品による利益を独占したいがために、前記したように、本件商品である義歯固定用磁性アタッチメントに関して、本件商品に付された引用商標とは別の複数種類の商標を付した義歯固定用磁性アタッチメントを商標権者以外の競合他社より発売したのであり、このような申立人による、商標権者の企業努力や社会通念を無視した方法にもかかわらず、商標権者は、その企業努力を継続し、引用商標を付した本件商品等は周知性を高めると共に引用商標を付した本件商品等の出所が商標権者であるとの認識を維持し続けてきたのであるが、両者の信頼関係は、低下の一途をたどったのである。
そして、商標権者が販売する本件商品と比して、引用商標とは別の商標権者以外の競合他社より販売された複数種類の商標を付した義歯固定用磁性アタッチメントの売上げは低迷していたので、平成11年(1999年)以降、申立人は、商標権者の企業努力により周知性を獲得した引用商標を付した本件商品等を申立人自身で販売するようになり、そして商標権者の企業努力により周知性を獲得した引用商標による利益を独占したいがために、平成15年(2003年)5月12日付けにて、申立人からの通知書により、引用商標の通常使用権は、一方的に解約されたのである。
このように、申立人は、商標権者の企業努力や社会通念を無視した方法により、商標権者の企業努力により周知性を獲得した引用商標より得られる利益を独占しようとしているのであり、言い換えれば、申立人による行為は、商標権者の企業努力により引用商標に化体した周知性フリーライドしようとしているものであるから、かかる申立人による行為こそが、公正な取引秩序を乱し、社会一般の道徳観念に反するものなのである。
そして、かかる申立人による行為により、公正な取引秩序を乱し、商標権者のみならず需要者をも混乱に落しめたため、商標権者は、平成15年(2003年)4月15日付けの「日本歯科新聞」に告知広告「歯科用磁性アタッチメント『マグフィット』に関するお知らせ」を行った(乙第103号証)。
これは、申立人が商標権者の企業努力により引用商標に化体した周知性フリーライドしようとして、引用商標を付した本件商品等を申立人自身で販売したことに起因しており、多くの需要者は、引用商標を付した本件商品等が商標権者の販売に係るものであるとの認識を有しているから、引用商標を付した本件商品等を申立人自身で販売した、商標権者とは全く関係ない商品のクレームの殆どが、商標権者の元へやってくることに業を煮やし、商標権者以外の者が販売した本件商品については商標権者の品質保証外である旨の告知広告を掲載したのである。
このように、申立人による行為は、商標権者の企業努力により引用商標に化体した周知性フリーライドしようとしている行為により、商標権者のみならず需要者をも混乱に落しめたことは、明らかに公正な取引秩序を乱し、社会一般の道徳観念に反するものである。
また、現在でも、上記クレームの殆どが商標権者の元へやってくるという事実は、商標権者の企業努力により引用商標を付した本件商品等は、商標権者の販売するものであるという周知性を獲得していると共に、引用商標を付した本件商品等の出所が商標権者であると広く認識されることの証拠でもあるのである。
しかして、商標権者は、申立人が商標権者の企業努力により引用商標に化体した周知性フリーライドしようとしている行為を阻止すると共に、歯科市場において、需要者にこれ以上の混乱を招く事態を回避するため、本件商標を登録出願したのであるから、このような商標権者による行為は、逆に公正な取引秩序を守る行為であり、社会一般の道徳観念に沿ったものなのである。
なお、審判官は、本件商標登録出願の出願日が申立人との通常使用権の設定契約解除後であることを指摘しているが、引用商標を付した本件商品等の販売を中止した後も、製品のクレームに対処したり、製品のクレームを受けて欠陥の無い製品を納品したりすることは、販売者の義務であり、新たな製品の販売を中止したからといって、直ちに従来販売していた製品との関連が無くなるものではないので、本件商標登録出願の出願日が申立人との通常使用権の設定契約解除後であることが、すなわち商標「マグフイット」を付した本件商品等との関係が全く無くなったことを意味するものではない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。

5 当審の判断
(1)申立人並びに商標権者の主張及び提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)申立人は、本来、特殊鋼メーカーである。申立人は、1988年に愛知学院大学平沼謙二教授が申立人に小型で腐食しにくい磁性アタッチメントの開発を持ちかけたのをきっかけに(甲第19号証)、本件商品を田中教授及び岩間名誉教授と共同開発し、1992年(平成4年)に厚生省の承認を得て、「マグフィット600」の商標を付して商品化し、商標権者を通じて、同年7月より発売した。そのニュースは、平成4年6月16日付けの各新聞で取り上げられた(甲第5号証ないし甲第9号証)。
(イ)本件商品は、従来の義歯に比べて、着脱の容易性、審美性、使用感などに優れたことから、売上げを伸ばし、さらに、申立人は、その後も本件商品の改良を加え、小型化を達成した「マグフィット400」を発売し、各新聞に報道された(甲第11号証ないし甲第16号証)。本件商品は、歯科医や技工士から高い評価を受けるとともに、業界をリードし、高齢化社会に貢献する商品として、中日産業技術賞の中日新聞社賞を受賞した(甲第17号証ないし甲第20号証)。平成7年7月には、更に小型・強力化品「マグフィット600S」を発売し、さらに、平成8年4月には、超小型入れ歯固定装置「マグフィットEX600」、「マグフィットEX400」の開発を発表し、各新聞に報道された(甲第21号証ないし甲第28号証)。
(ウ)商標権者は、昭和63年当時、歯科関連商品の国内における売り上げが、業界第1位であった(乙第2号証)。
(エ)本件商品は、申立人と商標権者の間において、平成4年(1992年)6月30日に商標権者が申立人の製造する本件商品を独占的に販売する旨の売買基本契約が締結され、その後、平成11年6月30日付けの両当事者の売買基本契約が締結されるまでの間は、商標権者によって独占的に販売されてきた。
(オ)商標権者は、本件商品開発当初より、田中教授及び岩間名誉教授と共に、本件商品に関する打ち合わせ等に参加し、商標権者の歯科及び歯科関連商品に関する知識、経験等を生かし、申立人の本件商品及び関連商品開発、改良、厚生省の承認取得等に協力した。
「マグフィットD900/650」は、商標権者からの「強力な吸引力」、「脱落防止形状」等の要望を受け、商標権者と申立人が共同開発した製品として、申立人が製品投入した(乙第91号証及び乙第92号証)
(カ)商標権者は、歯科業界専門誌への広告、歯科医や歯科技工士等向けセミナーの開催、営業活動など、積極的な販売活動を行った(乙第3号証及び乙第4号証、乙第9号証ないし乙第91号証)。これらの広告等の費用は、商標権者が負担した。
(キ)本件商品は、アジア、欧州、北米を含む全世界において販売されており、そのシェアは、約80%と推定され、2002年の販売実績は、国内7万個、海外4万個の、計11万個であり、発売当初からの販売累計数量は、120万個を超えている。
(ク)平成11年6月30日付けの売買基本契約により、本件商標の商標権者に与えられる権利は、「通常販売権」に変更され、この契約において、商標権者は、覚書において別途定められた年度購入契約料の達成に努めることとされている。この契約締結以降は、申立人も本件商品を販売している。なお、現在では、両者間の売買基本契約は終了している。また、両者間に存在していた引用商標についての通常使用権の設定契約は、2003年(平成15年)5月12日に解約された。
(ケ)商標権者は、本件商標を本件商品を含む「医療機械器具」等を指定商品として、平成15年5月15日に登録出願した。
(2)商標法第4条第1項第7号について
(ア)上記(1)で認定した事実によれば、以下のことが認められる。
(a)本件商品は、「MAGFIT」及び「マグフィット」の文字を含む商標(以下「使用商標」という。)を使用し、申立人により発売された平成4年7月以来、商標権者が独占販売してきたが、平成11年6月30日の商標権者と申立人の売買基本契約締結後は、商標権者は、相当量の年度購入契約料の達成の努力を求められた「通常販売者」として引き続き販売し、申立人も独自に販売を開始した。
(b)この間、契約日は定かではないが、商標権者は、申立人より、使用商標と同一又は類似し、「歯科用材料」を指定商品とする引用商標に係る通常使用権許諾を受けていた。そして、上記契約は、申立人が本件商品に使用する商標と同一の構成よりなるものであるから、申立人が、本件商品に使用する商標の商標権と認識し、契約していたと推認でき、同時に、このことは、商標権者も認識していたものと推認できるところである。そして、平成15年5月12日に、その通常使用権設定契約が解除され、上記売買基本契約も、契約終了日は定かではないが、既に終了していることが認められる。
(c)商標権者は、上記通常使用権設定契約が解除された3日後の平成15年5月15日に、本件商品に使用し、需要者に広く知られている使用商標と同一又は類似する本件商標を申立人の同意又は承諾を受けずに、登録出願した。
(イ)ところで、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,1)商標の構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字、図形、又は、当該商標を指定商品あるいは指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、あるいは、社会の一般道徳観念に反するような商標、2)特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標、3)特許法以外の法律によって、その使用等が禁止されている商標等が含まれる、と解すべきである。そして,上にいう、社会の一般道徳観念に反するような場合には、ある商標をその指定役務について登録し、これを排他的に使用することが、当該商標をなす用語等につき当該商標出願人よりも、より密接な関係を有する者等の利益を害し、剽窃的行為である、と評することのできる場合も含まれ、このような商標を出願し登録する行為は、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきである(東京高裁 平成14年7月16日 平成14年行(ケ)第94号)と解される。
(ウ)これを本件について見ると、商標権者は、申立人が本件商品に使用する使用商標に係る商標権を当該商品を含むものと考えられる「医療機械器具」及びその範疇の商品を指定商品として取得していないことを奇貨として、申立人の同意又は承諾を受けずに本件商標を登録出願し、本件商標をその指定商品に使用する権利を専有しようとするものであるから、その行為は、申立人の利益を害するおそれがあり、剽窃的であって、公序良俗に反するものといわざるを得ない。
(エ)商標権者は、申立人が商標権者の企業努力により使用商標に化体した周知性フリーライド使用としている行為を阻止すると共に、歯科市場において、需要者にこれ以上の混乱を招く事態を回避するため、本件商標を登録出願したものであるから、商標権者の行為は、公正な取引秩序を守る行為であり、社会一般の道徳観念に沿ったものである旨、主張している。
しかしながら、仮に、商標権者が本件商品の広告、セミナーの開催など多大な営業活動を行い、本件商品及び使用商標が需要者に広く知られるようになったとしても、このような被告の営業活動は、被告が自己の取り扱う商品の販売増を図る通常の企業活動であって、このことをもって、本件商品に係る商標権を商標権者に帰属するとすべき理由とはならないし、申立人に無断で本件商標の出願を行った行為を正当化することはできない。また、商標権者の販売に係る商品以外の商品のクレーム等が商標権者に寄せられた事実があるとしても、このことと商標権者による本件商標の出願及び登録における不法性とは、別異のことであり、これによっても、商標権者が本件商標の登録を受けることについて、正当化できるものとはいえない。
(オ)以上のとおり、本件商標に係る商標権者の登録出願行為は、著しく妥当性を欠くものであり、また、不正の目的をもってされたものと認められるから、このような登録出願に基づく本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する商標といわなければならない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
上記(1)で認定した事実によれば、使用商標は、申立人の製造に係る本件商品に使用され、申立人を製造元として、報道、広告されてきたものであり、本件商標の出願時には、申立人の取扱いに係る商品を表すものとして需要者に広く知られていたものと認められるものである。
そうとすると、商標権者が申立人以外の者の製造、取扱いに係る商品に本件商標を使用したときは、需要者をして、申立人又は申立人と組織的又は経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわなければならない。
商標権者は、本件商品の需要者である歯科医や歯科技工士等は、使用商標を付した本件商品の出所が商標権者であると認識するに至ったとし、このことは、本件商品や関連商品について記述された歯科関係の文献の記載からも明白である旨、主張している。
しかしながら、商標権者による本件商標に係る広告について見ても、製造元として申立人が記載されているばかりでなく、使用商標は、上記認定のとおり、申立人の取扱いに係る商品を表すものとして、需要者に広く知られているものであって、商標権者の示す論文記事中に商標権者の名称のみを記載している部分があるとしても、論文等においては、限られたスペースの中で商品等を特定できるように記載すれば足りるのであって、製造元や販売元を正確に記載する必要はないし、論文中の磁性アタッチメントの一覧表には、同一商品について、販売元として商標権者、製造元として申立人の名称が記載している(乙第99号証、乙第101号証及び乙第102号証)ことから見ても、需要者に使用商標を付した商品が申立人又はその関係者の取扱いに係る商品でもあると広く認識されていることを否定できないから、商標権者の主張は、採用することができない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(4)なお、前記2の取消理由通知では、引用商標を本件商品に使用する商標であるとして、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第15号に該当するとしているところ、引用商標の指定商品中に本件商品が含まれないとも考えられる点において、必ずしも正しいものではないが、その趣旨は、使用商標が本件商品に使用されている商標であることを前提としているものであり、商標権者もこれを前提として意見を述べているものと認められるから、改めて取消通知をすることなく審理を進めることとする。
(5)以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同第15号に違反してされたものであるから、同法第43条の3第2項により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2006-04-20 
出願番号 商願2003-39505(T2003-39505) 
審決分類 T 1 651・ 271- Z (Y081021)
T 1 651・ 22- Z (Y081021)
最終処分 取消  
特許庁審判長 田代 茂夫
特許庁審判官 内山 進
柳原 雪身
登録日 2004-06-11 
登録番号 商標登録第4777579号(T4777579) 
権利者 株式会社ジーシー
商標の称呼 マグフィット、マグ、エムエイジイ 
代理人 島田 富美子 
代理人 島田 康男 
代理人 野間 忠之 

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