• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 商4条1項15号出所の混同 登録しない Z25
管理番号 1127701 
審判番号 審判1998-19206 
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2006-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-12-07 
確定日 2005-11-07 
事件の表示 平成9年商標登録願第115798号拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1 本願商標
本願商標は、「JOSEPH VALENTINO」及び「ジョセフバレンチノ」の文字を二段に横書きしてなり、平成9年5月12日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品とするものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定は、「本願商標は、イタリア国ローマ市在住の『Valentino Garavani』(オランダ国在の関連企業『バレンチノ グローブ ベスローテン フェンノートシャップ社』)が『婦人・紳士物の衣料品』等に使用している著名な商標『VALENTINO』の文字を含むものであるから、これを出願人がその指定商品に使用するときは、需要者が上記会社もしくは上記会社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがある。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
VALENTINO等の表示の周知・著名性について
当審における審尋(平成13年12月6日付け)及び証拠調べ通知(平成17年3月31日付け)において示した証拠よりすれば、以下の(1)ないし(6)の事実を認めることができる。
(1)ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)は、1932年イタリアに生まれ、ミラノとパリでファッションを勉強した上、パリのギ・ラローシュの下で働くなどした後、1959年にイタリアに戻り、ローマにデザイン工房を設け、1967年にフィレンツェで白一色の「白のコレクション」を発表し、「ニューズ・ウィーク」、「タイム」、「ライフ」などの雑誌等、マスコミに大きく取り上げられるなどして、一躍その名を高め、同年には、ニーマン・マーカス賞(ファッション界のオスカー賞に相当するといわれる。)を受賞した。婦人、紳士物の衣料品、毛皮、靴、革製バッグ、革小物、ベルト、ネクタイ、アクセサリー、香水、ライター、インテリア用品などをデザインし、エリザベス・テイラー、オードリー・ヘップバーン、ジャクリーヌ・ケネディ、モナコ公国グレース妃などの著名人を顧客に持ち、世界の高級ブランドとして知られるに至っている。
(2)我が国においては、昭和49年に株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンを設立し、婦人、紳士物の衣料品の輸入販売を本格的に開始し、昭和51年には、東京、大阪を中心に20のブティックにおいて、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品を販売した。
(3)ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品は、多くの雑誌等において、繰り返し紹介されており、その商標として、「VALENTINO GARAVANI/ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」、「valentino garavani」、「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」又は「valentino garavani」若しくは「VALENTINO GARAVANI」と「V」を図案化した図形とを組み合わせたもの以外に、「ヴァレンティーノ」、「valentino」等が使用されている。
(4)辞典類において、ヴァレンティノ・ガラヴァーニを指して、「ヴァレンティーノ」、「valentino」との表示がされているものがある。
(文化出版局「服飾辞典」昭和63年9月5日第10刷発行(第1号証)、研究社「英和商品名辞典」1991年(平成3年)第3刷発行(第2号証)。特に、岩波書店「岩波=ケンブリッジ世界人名辞典」1997年(平成9年)11月21日第1刷発行(第3号証)は、「通称ヴァレンティノ Valentino」と明記している。
(5)雑誌において、「ヴァレンティノ」、「VALENTINO」との表示がされたものとして、次のものがある。
(ア)「今シーズンのヴァレンティノのデザイン傾向はクラシック。」、「輸入物ネクタイの中では最も人気があるヴァレンティノのネクタイは、紳士服店から出しているだけあって上品なセンスの本格派。」との記載(講談社「ライフカタログVOL.1 世界の一流品大図鑑」昭和51年6月5日発行(第4号証))
(イ)「ヴァレンティノはイタリアのオートクチュール出身のメーカー・・・いいものがわかる人なら誰でもがヴァレンティノを愛してしまう。」との記載(「an・an臨時増刊Fall&Winter 1976-’77」(昭和51年-52年)(第5号証))
(ウ)「ヴァレンティノ」とした上でベルトの商品説明をする記載(「アイリスマガジン第71号」1977年(昭和52年)1月1日発行(第6号証))、
(エ)「ローマだけでもヴァレンティノの店は四店ある。」などとの記載(講談社「EUROPE一流ブランドの本」昭和52年12月1日発行(第7号証))、
(オ)「永遠にエレガンスを追求するヴァレンティノにとって・・・ヴァレンティノの高度なファッション感覚に色づけされたハンドバッグは・・・」との記載(講談社「世界の一流品大図鑑’81年(昭和56年)版」(第8号証))
(カ)「女性らしさを愛し、魅惑的で優美な衣裳作りを心がけているというヴァレンティノ」、「シーズン毎にカジュアルシューズも発表しているヴァレンティノですが・・・」との記載(講談社「世界の一流品大図鑑’85年(昭和60年)版」(第9号証))
(キ)「オフタイムこそ、ヴァレンティノで洒落てみたい」との記載(講談社「男の一流品大図鑑’85年(昭和60年)版」(第10号証))
(ク)「ヴァレンティノの服は、このスカート丈とニット素材・・・」との記載(婦人画報社「ヴァンサンカン 25ans 1987年(昭和62年)10月号」(第11号証))
(ケ)「衿もとや袖口を飾るラッフルはヴァレンティノらしい遊び。」との記載(世界文化社「Miss[ミス]家庭画報 1989年(平成元年)5月号」(第12号証))
(コ)「ヴァレンチノ、ソニア・リキエルから、若々しいbisブランドがデビュー。」、「・・・この秋デビューしたヴァレンチノの『オリバー・ドンナ』」、「ヴァレンチノらしさとかわいい感じがうまくミックスした雰囲気がとてもシャレている。」との記載(集英社「non・no ’89 No.23」(平成元年)(第13号証))
(サ)「ヴァレンティノが得意とする、着る人の知性をひきだす服づくり」との記載(世界文化社「Miss[ミス]家庭画報 1990年(平成2年)5月号」(第14号証))
(シ)「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ・ミスV:ヴァレンティノがデザインする、若い女性のためのディフュージョンブランド。」との記載(世界文化社「Miss[ミス]家庭画報 1990年(平成2年)7月号」(第15号証))
(ス)「さすがヴァレンティノです。」との記載(婦人画報社「ヴァンサンカン 25ans 1994年(平成6年)4月号」(第16号証))
(セ)「ウエストシェイプされたラインにヴァレンティノらしい格好よさが表現されています。」との記載(世界文化社「Miss[ミス]家庭画報 1994年(平成6年)6月号」(第17号証))
(ソ)「ストッキングはいつもヴァレンティノなのよ」との記載(婦人画報社「ヴァンテーヌ Vingtaine 1994年(平成6年)12月号」(第18号証))
(タ)「ヨウジ ヤマモトやジョルジオ・アルマーニ、ヴァレンティノ、ジョン・ガリアーノなどでは、・・・」との記載、写真に付された「VALENTINO」との記載(アシェット婦人画報社「ELLE 1997年(平成9年)8月号」(第19号証))
(チ)「ウエスタンをテーマに、フェミニン、ロマンティシズム、エレガンス、強さ、そしてユーモアといったヴァレンティノが敬愛する女性の資質を表現した春夏コレクション。」との記載(「DONNA giappone 1998年(平成10年)4月号」(第20号証))
(6)新聞記事においては、次のものがある。
(ア)「ヴァレンティノ秋冬ショー」との見出しの記載(昭和51年9月28日付け繊研新聞(第21号証))
(イ)「ヴァレンティノ・コレクション」との見出し、「この秋のバレンティノの個性を強調したものと見うけられた。」との記事の各記載(「同月29日センイ・ジャァナル」(第22号証))
(ウ)「ヴァレンティノのショーから」との見出しの記載(「同月30日読売新聞」(第23号証))、「バレンティノ・ショー」との見出し、「かつて、白一色だけのショーを開き、注目を浴びたバレンティノが」、「もっともバレンティノにいわせると」との記事の各記載(「同日付け、同年10月2日付け及び同月5日付け朝日新聞」(第24号証ないし第26号証))
(エ)「バレンチノ作品展から」、「バレンチノのトータルファッション」、「バレンチノの作品群」、「バレンチノの芸術」、「バレンチノの作品群から」、「バレンチノの秋冬新作」、「バレンチノの作品群」などのそれぞれの見出し、「惜しみなく絶賛!を贈れるバレンチノだった。」との記事の各記載(同年9月30日付け秋田さきがけ新聞(第27号証)、同年10月1日付け河北新報(第28号証)、同月4日付け東奥日報(第29号証)、同日付け山陰中央日報(第30号証)、同日付け福島民友新聞(第31号証)、同月12日付け徳島新聞(第32号証)、同月18日付け夕刊フクニチ(第33号証)、同年11月3日付け千葉日報(第34号証))
(オ)「イタリアのデザイナーヴァレンティノ」との記事の記載(同年10月1日付けセンイ・ジャァナル(第35号証))
(カ)「ヴァレンティノ・コレクション発表」との見出しの記載(同月2日付け日刊ゲンダイ(第36号証))
(キ)「ヴァレンティノ・コレクション」との見出し、「ことし四十四歳になるヴァレンティノは、・・・」との記事の各記載(同月5日付けサンケイ新聞(第37号証))
(ク)「惜しみなく絶賛を贈れるバレンチノです。」との記事の記載(同日付け宮崎日日新聞(第38号証))
(ケ)「伊の鬼才ヴァレンティノ」との見出しの記載(同月6日付け日経産業新聞(第39号証))、
(コ)「来春からヴァレンティノブランドのインテリア小物を売り出す。」との記事の記載(同月7日付け日経流通新聞(第40号証))
(サ)写真に付された「バレンティノ」とのタイトルの記載(「同月12日付けデイリースポーツ(第41号証))
(シ)「無地が売り物のヴァレンティノ」との見出し、「欧州イタリアのヴァレンティノの秋冬物が公開されました。」との記事、写真に付された「ヴァレンティノのスポーティー・ルック」とのタイトルの各記載(同月14日付け公明新聞(第42号証))
(ス)「リズの花嫁衣装はバレンチノ」との見出し、「イタリアの有名デザイナー、バレンチノが作ることになった。」などとの記事の各記載(平成3年7月29日付け報知新聞(第43号証))
(7)一方、本願につき請求人が提出した全証拠をみるも、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのブランド以外の他人のブランドで、単に「VALENTINO」、「ヴァレンティノ」との表示で通用しているものがあることは認められない。
(8)上記(1)ないし(7)の事実よりすれば、「VALENTINO」、「Valentino」、「ヴァレンティノ」、「ヴァレンティーノ」又は「バレンチノ」の表示(以下「『VALENTINO』等の表示」という。)は、本願商標の出願日(平成9年5月12日)前から、「valentino garavani(ヴァレンティノ・ガラヴァーニ)」(以下「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」という。)又はそのデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すものとして、我が国の取引者及び需要者の間において広く認識されており、その状態は現在においても継続しているものと認められる。
(9)商品の出所の混同を生ずるおそれについて
(ア)商標法第4条第1項第15号の規定は、周知又は著名表示へのただ乗り及び当該表示の希釈化を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるから、同号にいう「他人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品等に使用したときに、当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当であり、上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきであると判示した判決がある(最高裁判所平成10年(行ヒ)第85号 同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
(イ)そこで、これに照らし、本願について考察するに、VALENTINO等の表示は、上記(1)ないし(8)までにおいて認定判断したように、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ又はそのデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すものとして、我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されているものであって、周知著名性の程度が極めて高いものである。
そして、本願商標の指定商品は、「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であるところ、これらは、いわゆるファッション関連商品であるということができるから、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのVALENTINO等の表示が現に使用されている商品と本願指定商品とは関連性が強く、両者の商品の取引者及び需要者の相当部分は、共通していると認められる。
しかも、本願指定商品の大多数が含まれるファッション関連商品は、日常的に消費される性質の商品であり、その主たる需要者は、老人から若者までを含む特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であって、当該商品についての商標ないしブランドに詳しくない者も多数含まれており、このような需要者が当該商品を購入する際は、恒常的な取引やアフターサービスがあることを前提にメーカー名や信用などを検討して購入するとは限らず、そのような検討もなく、いきなり小売店の店頭に赴き、ときには通りすがりにバーゲンの表示や呼び声につられて立ち寄るなどして、短い時間で購入商品を決定することも少なくないものであり、その商品を購入するに際して払われる注意は、さほど緻密なものではないと考えられる。
したがって、本願商標についての混同のおそれの判断に当たっては、以上のような経験則、及び取引の実情における需要者の注意力を考慮して判断すべきものといえる。
(10)そこで、本願商標及び請求人の主張について、以下、判断する。
(ア)本願商標は、外観上、「JOSEPH」と「VALENTINO」との間に1字分のスペースを有する欧文字「JOSEPH VALENTINO」を上段に、かつ、下段に「ジョセフバレンチノ」の片仮名文字をいずれも横書きした構成よりなるから、「ジョセフバレンチノ」と称呼され、かつ、特定の姓名を表示するものとして観念される場合があることを必ずしも否定するものではない。
しかしながら、本願商標は、欧文字で15文字、そして、8音の称呼からなり、外観及び称呼が比較的長い商標であること、しかも、「VALENTINO」等の表示に関する上記(1)ないし(8)の事実及び認定判断並びに(9)(イ)の実情の存在よりすると、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、本願商標中の「VALENTINO」の文字部分のみによって簡略表記ないし称呼される場合があり得るだけでなく、また、1個の商標から複数の観念を生ずることはしばしばあり、本願商標において、たとえ、前記のように、特定の姓名を表示するものとして観念される場合があるといい得ても、これ以外の観念が生じ得ないと考えるべき的確な理由は見いだせない。
むしろ、商標については、簡易迅速を尊ぶ取引の実際において、各構成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどにまで不可分的に結合していない限り、常に、その構成部分全体によって称呼、観念されるというわけではなく、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、その結果、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところであると判示した判決もある(最高裁判所昭和37年(オ)第953号 同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。
(イ)しかるに、請求人は、「本願商標の外観構成上、『JOSEPH』と『VALENTINO』とは一体のものであって、観念上も、全体としてイタリア国の男性の姓名を表したものと認識されるから、その構成中の『VALENTINO』のみが分離して把握されるおそれはなく、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの『VALENTINO』等の表示と誤認混同される余地はないし、加えて、本願商標より生ずる『ジョセフバレンチノ』の称呼も冗長でなく、よどみなく一連に称呼されるので、本願商標が、その後半部のみで『バレンチノ』と略称されることはあり得ない。そもそも、本願商標の構成は、冗長散漫でなく一気に称呼し得ることから、常に全体を一体のものとして把握し、観察されるというのが自然であり、簡易迅速を尊ぶ商取引の実際を考慮しても、これから『VALENTINO』が分離して認識されるものではない。したがって、本願商標は、VALENTINO等の表示とは明らかに別異のものとして認識されるので、両者は類似せず、本願商標をその指定商品に使用しても、その出所について混同を生ずることはあり得ない。」旨述べている。
しかしながら、請求人が提出した本願に係る全証拠をもってしても、本願商標中の欧文字部分「JOSEPH VALENTINO」が全体として特定の姓名ないしはブランドを表すものとして我が国の一般的な取引者、需要者によく知られ、通用していると認めるべき証拠は見いだせず、また、「VALENTINO」以外の「JOSEPH」が格別強く取引者、需要者の関心を惹くであろうと考えさせる証拠も見いだせない。
してみると、上記文字相互の結びつきは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどまでに不可分的に結合していると認めることはできないものというべきである。
さらに、本願商標の構成中の上記欧文字部分には、1字分のスペースがあることよりして、その構成上も明らかに「JOSEPH」と「VALENTINO」とに二分されており、これに接する取引者、需要者が「VALENTINO」の部分を可分なものとして認識することは、ごく自然なことであって、下段の「ジョセフバレンチノ」という片仮名文字が存在するとしても、「VALENTINO」等の表示に関する上記(1)ないし(8)の事実及び認定判断並びに(9)(イ)の実情を請求人の上記主張が左右するものではない。
むしろ、本願指定商品とヴァレンティノ・ガラヴァーニの「VALENTINO」等の表示に係る商品とに共通するファッション関連商品の取引者、需要者は、外観及び称呼の比較的長い商標について、例えば、デザイナー名の略称等をもって簡易迅速に表記ないし称呼することも少なからずあり得るというのが当該商品分野における取引の実情であることからすると、このような取引者、需要者が本願商標中の「VALENTINO」の文字部分に着目し、それをもって簡易迅速に表記ないし称呼することも少なからずあり得るものというべきである。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
(ウ)請求人は、「ヴァレンティノ・ガラヴァーニのVALENTINO等の表示が婦人服、紳士服等をはじめとするファッション関連商品の分野において、取引者及び需要者の間に広く認識されていない。」旨主張する。
しかしながら、上記(1)ないし(8)の事実及び認定判断並びに(9)(イ)の実情ないし(10)(ア)及び(イ)の認定判断に照らすと、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品は、婦人服、紳士服に限られることなく、婦人、紳士物の衣料品、毛皮、靴、革製バッグ、革小物、ベルト、ネクタイ、アクセサリー、ライター、インテリア用品など、ファッション関連商品の各種分野にまで及んでいるのであって、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのVALENTINO等の表示は、これらの商品群に使用されるブランドの略称を表すものとして認識されていたものというべきである。
そうすると、VALENTINO等の表示は、ファッション関連商品のほぼ全般にわたる取引者及び需要者の間に広く認識されているということができるから、請求人の上記主張は、採用することができない。
(エ)請求人は、「当審の審尋(平成13年12月6日付け)及び証拠調べ通知(同17年3月31日付け)において提示した証拠(刊行物、辞典、新聞、雑誌等)が、いずれも本願商標の出願日(平成9年5月12日)より何年も前のものであり、流行による栄枯盛衰の激しいファッション関連商品の分野について、このような古い証拠をもって、『・・・著名性は、現在も同様であって、特段の変更事情は見いだせない。』と認定することはできないし、本願商標の出願時(平成9年5月12日)はもとより、それに引き続く現時点までの取引者、需要者の認識を認定することはできない。」とか、「辞典、雑誌又は新聞の記載は、編集者、雑誌記者、新聞記者等の主観を避けることができず、これらに記載のあることをもって、商品に使用される商標が取引者・需要者に、どのように認識されるかを客観的に判断することはできない。」とか、「商標の周知・著名性は、少なくとも宣伝広告の実績、商品の売上高、取引者・需要者、業界団体及び公共団体の証明がなくては認定することはおろか推定することさえもできず、当審で提示のあった証拠は、これらの事項を全く含んでいないから、それらに基づき周知・著名性の認定をすることはできない。」とか、「商品が上市されていることを示す記事があるからといって、商標の周知・著名性の根拠とすることはできない。」といった旨述べている。
しかしながら、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのブランドとして、「VALENTINO」等の表示が単独で使用され、我が国の取引者、需要者の間において周知著名となっていることは、前記において認定判断したとおりであって、そのことは、上記(1)ないし(6)とほとんど同じ証拠について、「・・・・VALENTINO等の表示は、本件(登録第4658091号)商標の出願日(平成14年6月18日)・・・の当時、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ又はそのデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すものとして、我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されており、その状態が現在(口頭弁論終結時は平成16年12月22日)においても継続していると認められる。」と認定した東京高等裁判所(知的財産第四部)平成16年(行ケ)第335号 同17年2月24日判決においても支持されている。
また、「VALENTINO」を含む商標が唯一でない状況下において、前記新聞の各記事が「VALENTINO GARAVANI」(ヴァレンティノ・ガラヴァーニ)を略すに当たり、「ガラヴァーニ」とせず、「ヴァレンティノ」としていることからすれば、上記各記事の筆者は、「ヴァレンティノ」という表示によりヴァレンティノ・ガラヴァーニを表現し得るものと考えたからにほかならないということができ、その余の雑誌等も、ほぼ同様のことがいえるものであり、また、全国紙を含む各新聞の見出し記事に「ヴァレンティノ」とのみ記載されていることは、新聞の見出し記事の影響度よりして、どの新聞も「ヴァレンティノ」の表示によって読者がヴァレンティノ・ガラヴァーニと理解するとの了解があるからこそ、そのような記載をしているものと推察し得る。
(オ)このように、上記(1)ないし(10)(エ)の事実及び認定判断によれば、既に昭和50年代には、「VALENTINO」等の表示がヴァレンティノ・ガラヴァーニ又はそのデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すものという認識が一般に広まっていたことが認められ、後に、上記認識が崩壊したと認めるに足りる証拠もなく、また、上述のとおり、東京高等裁判所(知的財産第四部)の判決において、本願商標の出願時(平成9年5月12日)はもとより、それに引き続く現時点においても、「VALENTINO」等の表示が周知著名性であることは認められており、上記認識の状況は、今日においても継続しているものと認められる。
(カ)そして、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのVALENTINO等の表示の周知著名性の程度や、本願商標とVALENTINO等の表示とのそれぞれの商品の関連性並びに取引者及び需要者の共通性に照らすと、本願商標をその指定商品に使用した場合には、その外観、称呼及び観念上、「VALENTINO」の部分が、これに接する取引者及び需要者の注意を特に強く惹くであろうことは容易に推測することができ、「VALENTINO」の部分のみによって簡略表記ないし称呼され、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ若しくはその関与する会社又はこれらと緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であるとの観念が生じる可能性は、極めて高いということができる。
そうであれば、請求人が本願商標をその指定商品に使用するときには、これに接する取引者、需要者をして、VALENTINO等の表示を連想させ、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるものというべきであって、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものといわなければならない。
(キ)請求人は、「『VALENTINO』には、ファーストネームとセカンドネームでの観念上の差がある。」とか、「『VALENTINO』がローマのキリスト教殉教者の名であり、イタリア国では男子のありふれた(標準的な)姓名を表すものとして容易に理解されるから、一般的には個人を特定し得ず、これをその指定商品に使用しても、自他商品識別機能を有しないし、これが識別力を発揮するためには、その前又は後に表示を必要とし、必ずそれを含めて称呼されるので、本願商標からは、人名というまとまった意味合いが感知される。」とか、「『VALENTINO』なる名で代表的に有名なのは、イタリア生れのアメリカの映画俳優で絶世の美男とうたわれ、空前の人気スターとなった『Rudolph Valentino』であって、現在のファッション関連商品の分野において、『Valentino』といえば、『Rudolph Valentino』(又は『Valentino Rudy』)や『Mario Valentino』のほうが有名となっており、被服の商標としても使用されているそれらが『VALENTINO』を含むことから、『VALENTINO』の部分よりヴァレンチノ・ガラバーニが想起されるというものではなく、姓名が特定されてはじめて、どの『VALENTINO』であるのかが取引者、需要者にわかるのである。」とか、「我が国のみならず外国においても、『VALENTINO 〜』あるいは『〜 VALENTINO』という商標が『ヴァレンティノ』とのみ略称されることはない。」とか、「『VALENTINO』が特定の人名を表すとは認められないとした過去例もある。」とか、「インターネットには、『VALENTINO』『バレンチノ』を含む商標に係る商品が多数掲示されており、新聞においても同様であり、多数の者が『VALENTINO』を含む商標に係る商品を広告し、販売している。」とか、「ヴァレンティノ・ガラバーニと出所を異にする『VALENTINO』を含む商標が、かなり以前から被服等を含む多種のファッション関連商品の取引市場で流通しており、その販売額が多額であることからすると、『VALENTINO』を含む商標に接する取引者、需要者は、その構成中の『VALENTINO』等の表示をみて商品を購入することはなく、まして、それからヴァレンティノ・ガラヴァーニ又はその関連企業を想起することはないし、それらと経済的若しくは組織的に関連を有する者の業務に係る商品の商標と出所の混同を生ずるおそれもないし、『VALENTINO』を含む商標の出願・登録も多数存在する。」旨述べている。
しかしながら、「VALENTINO」がイタリア人に多い姓名であるからといって、そのことが必ずしも我が国で周知ではなく、また、「VALENTINO」を含む商標が多数存在するからといって、我が国において、「VALENTINO」等の表示が取引者、需要者の間でヴァレンティノ・ガラヴァーニのブランドの略称であるとの認識が成立し得ないわけではない。
なおかつ、「VALENTINO」を含む商標がヴァレンティノ・ガラバーニによって使用される「VALENTINO」等の表示と関係ないものとして明確に区別され、単に「VALENTINO」等の表示のみで通用し、著名性を獲得しているというような事実は、請求人提出の本願に係る全証拠をもってしても、認めることができない。
さらに、たとえ、ヴァレンティノ・ガラヴァーニとは関係のない多数の他人がファッション関連商品のかなりの範囲につき出願し、登録を受け、実際に、VALENTINOを含む商標をその商品に使用している状況があるからといって、そのことが本願商標の出願時はもとより、それに引き続く現時点においても、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの「VALENTINO」等の表示と前述の広義の混同を生ずるおそれがないといえるほどの事情をそなえるに至っていると認めることはできない。
そうすると、我が国において、「VALENTINO」等の表示がイタリアの服飾デザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニ又はそのデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すものとして、取引者、需要者の間において広く認識されていたことは、前述のとおり、十分に認められるものであるから、請求人の上記主張は、採用することができない。
(ク)ところで、請求人が示した過去例中には、その後、判決によって先の判断が一蹴され、無効又は取消しが確定し、既に抹消登録されたもの、あるいは、拒絶査定が確定したものも含まれているだけでなく、上記(1)ないし(10)(キ)において認定判断したとおり、「VALENTINO」等の表示が周知著名である事実に照らせば、需要者等が「VALENTINO」を含む本願商標に係る商品をヴァレンティノ・ガラバーニのデザインに係る商品を示すものと理解し、周知著名なヴァレンティノ・ガラバーニの「VALENTINO」等の表示ないしその兄弟ブランドであるなどと誤解する可能性は、十分にあり得るものといわなければならないから、請求人が本願商標をその指定商品に使用するときには、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの「VALENTINO」等に係る商品と、出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
なお、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが過去の登録商標の商標権者でないことは、本願商標に係る商品の出所について混同を生ずるおそれがあることの判断に何ら影響を及ぼすものではない。
したがって、この点についても、請求人の主張は、採用することができない。
(ケ)また、「MARIO VALENTINO」(マリオ・バレンチノ)については、少なくとも、本願につき請求人が提出した証拠をみる限り、フルネームによる表示を使用しており、「VALENTINO」等の表示でマリオ・バレンチノを表すものとして通用している証拠は見いだせない。
さらに、他の「VALENTINO」を含む商標、例えば、「RUDOLPH VALENTINO」(ルドルフ・ヴァレンティノ)等がヴァレンティノ・ガラバーニのデザインに係る商品群に使用されているブランドの略称を表すものとして我が国において広く認識されている「VALENTINO」等の表示の周知著名性を凌ぐ程に、我が国において広く認識されているものと認めることもできない。
(コ)したがって、請求人の上記各種主張によって、本願商標の出願日(平成9年5月12日)はもとより、それに引き続く今日においても、本願指定商品の取引者、需要者の間において、「VALENTINO」等の表示がヴァレンティノ・ガラバーニのデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すものとして認識されていたとの認定が妨げられるものではない。
(サ)一方、上記(1)ないし(10)(コ)において認定判断したとおり、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの「VALENTINO」等の表示が我が国において周知著名であって、強い顧客吸引力を有していること、さらに、取引の実情における需要者の注意力等を併せ考えると、請求人のこれまでの主張や、それに関わる諸状況は、本願商標が商標法第4条第1項第15号の対象とする広義の混同を生ずるおそれがあるとの認定判断を左右するものではなく、ほかに、本願商標に接する取引者及び需要者をして、商品の出所について混同を生ずるおそれはないと判断すべき証拠は、見当たらないので、請求人のこれについての主張も採用することができない。
(11)してみると、請求人が本願商標をその指定商品である「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」に使用した場合には、これに接する取引者、需要者をして、イタリアの服飾デザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニが婦人服、紳士服、アクセサリー、バッグ等のファッション関連商品に使用して取引者、需要者の間に広く認識されているVALENTINO等の表示を連想、想起させる場合があるから、上記デザイナー又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
以上のとおりであるから、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当し、登録することができないとした原査定は妥当であって、取り消すべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2005-08-29 
結審通知日 2005-09-09 
審決日 2005-09-27 
出願番号 商願平9-115798 
審決分類 T 1 8・ 271- Z (Z25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯島 袈裟夫 
特許庁審判長 大場 義則
特許庁審判官 鈴木 新五
末武 久佳
商標の称呼 ジョセフバレンチノ 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ