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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 117 |
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管理番号 | 1108390 |
審判番号 | 審判1998-35263 |
総通号数 | 61 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2005-01-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1998-06-09 |
確定日 | 2004-11-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2608687号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第2608687号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第2608687号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、昭和62年10月27日登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、平成5年12月24日に設定登録、その後、商標登録の取消審判により、平成15年4月23日付けで該商標登録を取り消す旨の審決がされ、同16年4月28日付けで登録の抹消がなされているものである。 第2 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第14号証(枝番号を含む。)を提出した。 請求の理由 本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。 1.商標法第4条第1項第15号 (1)請求人は、米国ニューヨーク州所在のリミテッド パートナーシップであり、その関連会社や販売店等を通して、被服や眼鏡類その他フアッション関連商品の世界的な製造販売に携わっている。 請求人が製造販売している商品は、請求人の主な構成員の一人であり世界的に著名なデザイナーであるラルフ・ローレンによって、主にデザインされたものである。その英国の伝統を基調とし、それに機能性を加えたデザインと、卓越した製造技術並びに一貫した品質管理による良質の製品は、本拠地である米国のみならず日本を含む数十カ国に及ぶ世界の国々において多くの消費者から高い評価を得て、現在では世界的規模で事業を展開している。 (2)請求人は、上記商品の商標として、乗馬の人がポロ競技をしている図形(以下「ポロプレーヤーマーク」という。)と「Polo」又は「Ralph Lauren」の商標を夫々単体又は組合せて使用している。 そして、本件商標と酷似する「ポロプレーヤーマーク」と「Polo」及び「Ralph Lauren」とを組み合わせた別掲(2)の標章(以下「引用標章1」という。)、「ポロプレーヤーマーク」と「Polo」及び「by RALPH LAUREN」の欧文字を組み合わせてなる別掲(3)の標章(以下「引用標章2」という。)を使用しており、本件登録出願前より既に周知・著名となっている(以下、引用標章1及び2を総称して「引用標章」という。)。 (3)商標及び商品の類似性について 本件商標は、「疾走する馬に騎乗しポロ競技をしている人が振り上げたマレットをまさに振り降ろそうとしている瞬間を右前方より描いた図形」とその図形の背後に「POLOCLUB」の欧文字を表してなるものである。 引用標章は、「走行する馬に騎乗しマレットを振り上げポロ競技をしている人を左前方より描いた図形」(ポロプレーヤーマーク)と「Polo」及び「Ralph Lauren」又は「Polo」及び「by RALPH LAUREN」の欧文字とを組み合わせて表わしてなる標章である。 したがって、両者は、図形部分において、いずれも「走行する馬に騎乗しボロ競技用の用具であるマレットを振り上げてポロ競技をしている人」を描いた点で酷似するものであり、さらに、それらの図形と「Polo」と同綴りの文字を含む欧文字とを組合せてなるものであるから、両者は、全体としても非常に近似するものである。 また、本件商標の指定商品は、請求人の業務に係る商品中、主要となっている被服等の商品と同一又は類似するものである。 (4)引用標章の著名性について 引用標章は、本件商標の出願前より既に周知・著名となっているものである。以下にその事実を示す。 (イ)引用標章と同一の標章及びポロプレーヤーのみの図形標章及び「POLO」の標章が、眼鏡及び被服類の取引関係者、需要者において広く認識されていたことは、東京高等裁判所の判決(「Polo Club事件)及び特許庁における審決において既に認定されているところである(甲第7号証及び甲第8号証)。 (ロ)商品のカタログ誌「男の一流品大図鑑」(昭和53年発行)において、特集記事『一流ブランド物語』の中で、引用標章が著名服飾デザイナーであるラルフ・ローレンによってデザインされた商品を表彰するブランドであり、1968年にポロ社を創立してから僅か10年で世界的著名なブランドになったことが明記されている。 このカタログ誌は、世界的に信用の確立している商品を選別し掲載した年刊誌であり、各商品分野の専門家を選別スタッフにしてその内容について高い信頼性を得ているものである。 このような高い評価をされているカタログ誌の特集記事に引用標章が掲載されたということは、引用標章が被服の分野において一流ブランドであり、この時代(遅くとも1978年)既に著名になっていた事を証明していることに他ならない(甲第3号証)。 なお、引用標章を使用する広告の実例を甲第5、6号証として提出する。 (ハ)日本において、Polo(ラルフ・ローレン)の商品は、西武百貨店が昭和52年(1977年)にライセンシーの権利を取得してその製造、販売を行ってきた。その後、松屋、東急、大丸、阪急等のデパートへ出店し、昭和62年からは鎌倉、東京の銀座、原宿に相次いで大型専門店を開設している(甲第11号証)。 (ニ)このことは、多くの商品分野における異議決定においても請求人の主張が是認され、引用標章の著名性が認められている。その一部を証拠として提出する(甲第9号証の1ないし同号証の10)。 以上述べたように、請求人は、「ポロプレーヤーマーク」及び「POLO」又は「RALPH LAUREN」の各標章を単体として或いは組み合わせて使用しており、それらの標章(引用標章も含む)は、ラルフ・ローレンの服飾業界における活動並びに請求人の企業努力及び世界的規模での事業展開を通じて、遅くとも1978年頃には日本の被服業界、一般消費者の認識に定着し、その著名性が確立したものとなっていた。 したがって、本件商標は、請求人がその業務に係る商品「被服類」に使用して広く一般に知られている引用標章と、その構成の軌を同じくするものであり、また表現態様も酷似するものであるから、これを指定商品に使用するときは、取引者、需要者をして、その商品がラルフ・ローレンによりデザインされ、請求人によって製造販売されている商品の一種であると誤認し、商品の出所について混同を生ずる虞れが多分にあると言うのが相当である。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反してなされたものであるから、無効とされるべきである。 2.商標法第4条第1項第19号 引用標章は、上述した通り請求人の永年にわたる不断の努力により世界的に著名な標章となっており、日本国内においても、取引者、需要者間で広く認識され強力な顧客吸引力を取得している著名標章である。 ところで、著名標章は、そのグッドウイルにただ乗りされたり標章を模倣されることが多々あり、所有者は、その商標管理に腐心しているところである。 本件商標は、「ポロプレーヤーマーク」と細部において微差を有するものの殆ど同じ構図からなる「乗馬の人がポロ競技をしている図形」であり、しかも「POLO」の文字を含む「POLOCLUB」の文字を組合せて表したものであるから、引用標章とその構成の軌を同じくするものであり、また全体の表現態様も近似するものである。 そして、その指定商品は、請求人の業務に係る商品中主要となっている被服等の商品である。 したがって、本件商標は、請求人が永年使用し不断の努力をしたことによって周知・著名となっている引用標章と酷似するものであって、しかも同一の商品に使用するものであるところから、被請求人がこのような商標を採択使用することが偶然の一致などということは到底できないことであり、引用標章の著名性に便乗して不当の利益を得る目的で出願されたものと言わざるを得ない。 さらに、本件商標をその指定商品に使用する行為は、請求人が多大の努力と費用を費やし永年かけて築いた引用標章のグッドウイルを剽窃することであり、結果として引用標章に化体されたグッドウイルが希釈化され、その名声が棄損されるものであって、国際信義にも反するものである。 よって、本件商標登録は、商標法第4条第1項第19号の規定にも違反してなされたものであるから、無効とされるべきである。 3.被請求人の答弁に対する弁駁 (1)商標法第4条第1項第15号 被請求人は、本件商標は「POLOCLUB」の文字と図形部分とが一体のものと認識され、かつ、文字部分は「ポロクラブ」のみの称呼を生じ、被服等に使用して周知著名であるから引用標章とは混同を生じない、と主張し証拠を提出している。 しかしながら、被請求人の主張は何ら根拠のないものである。 即ち、既に商標「POLO CLUB」に対する審決取消請求事件において、東京高等裁判所の平成3年7月11日判決(甲第7号証)で、「引用標章(POLO)がラルフ・ローレンのデザインに係る被服類及び眼鏡製品を表す標章として引用標章の著名性が広く需要者及び取引関係者の間に確立していたと認められる以上、かかる需要者及び取引関係者が、本件商標(Polo Club)に接すれば、引用標章との構成上の相違にもかかわらず、『Club』が広く同好の士の集団を意味するごくありふれた日常用語にすぎないことから『Polo』の部分に着目して引用標章を連想するか、あるいはこれを一体のものと観察しても、引用標章の付された前記商品群の愛用者集団を意味するものと観念して引用標章を連想するものと認めるのが相当である。」と認定し「Polo Club」は「POLO」と混同すると判示している。 さらに、本件商標の図形部分は、請求人が本件商標出願以前から使用して既に著名となっている「ポロプレーヤーマーク」と酷似するものである。 被請求人は、本件商標が周知著名なものであって請求人使用の引用標章(被請求人も引用標章が著名であることを認めている)とは、個別のブランド として認識され取引されているから、商品の出所について混同を生じさせるおそれはないと主張し、その根拠として乙第4号証乃至乙第8号証を提出している。しかし、以下の理由により、その成立は認められない。 (イ)乙各号証の成立は否認する。即ち、乙第4号証は1993年5月20日発刊、乙第5号証は1994年8月調査、乙第6号証は1998年調査、乙第7号証は1993年3月31日発刊の書証であって、本件商標が登録出願時に周知・著名であったとの証拠とはならない。 (ロ)乙第4号証は、矢野経済研究所発行のブランド調査レポートであるが、その記事の中で唯一ブランドの著名性が推測できる280億円の小売販売したとの記録は’92年であり、本件登録出願の昭和62年(1987年)は、それほど高い売上げを計上していたとは考えられず、したがって、登録出願時における本件商標の著名性を推認することはできない。 (ハ)乙第5号証は、参加企業がアパレル業界の極く一部であり、応募者数も極く小人数であるところから、客観性、信憑性に欠けるデータである。 (ニ)乙第6号証は、ブランドの知名率、所有率についての調査分析であるが、その商品の所有率やその知名率が2年前或は4年前より低下することは有り得ないことである。したがって、信憑性に欠けるデータである。 (2)商標法第4条第1項第19号 被請求人は、本件商標を不正の目的では使用していなく、かつ、引用標章と非類似であるから本条に該当しないと述べているが、本件商標は、請求人の著名な引用標章と類似すること上述の通りであり、被請求人が本件商標を不正の目的で使用すること明らかである。 即ち、引用標章又はポロプレーヤーマークを付した請求人の商品が人気商品となりつつあった昭和60年代から平成の初頭にかけて、本件商標及び本件商標を微妙に変更した商標、本件商標の図形部分のみの商標を被服類に登録出願し、平成3年頃から本件商標を微妙に変更した商標の宣伝広告を積極的に開始しているのである。 さらに、被請求人は、同時期に「POLO」「Polo」の文字ないしポロ競技者の図形を含む商標を「被服」や多数の商品区分に登録出願している(甲第14号証)。 被請求人は、本件商標を自己の所有する「POLOCLUB」と図形を結合して採択した商標であると主張するが、請求人の「POLO」「Polo」及びポロプレーヤーマークに類似する商標を多数出願している理由は、被請求人が自己の商標と請求人の商標との区別を暖昧にし、被請求人の商標と請求人の商標との混同を促し引用標章の著名性に便乗して不当の利益を得る目的で出願したに他ならないのである。 よって、被請求人の答弁は何ら理由のないものである。 第3 被請求人の主張 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由及び請求人の弁駁に対する答弁を要旨次のように述べるとともに、証拠方法として乙第1号証ないし乙第8号証(枝番号を含む。)を提出した。 理由 請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同第19号に該当するので無効にされるべきである旨主張している。 然しながら、本件商標は、以下に述べる理由により充分に登録適格を有し、無効にされるべきものではない。 1.商標法第4条第1項第15号 (1)本件商標は、別掲(1)の構成からも明らかなように「POLOCLUB」の欧文字を同書、同大、等間隔をもって一連に表わし、該構成文字の「O」と「C」に重なる様な構図をもって疾走する馬上でスティックを振りかざしているポロ競技者の躍動する姿を描いてなるものである。 そして、該構成中の「POLOCLUB」の文字は、本件被請求人が「Polo Club」「ポロクラブ」の文字よりなる商標を所有し(乙第1号証の1乃至乙第3号証の2)、「被服類」に使用して我国において周知著名なものとして現在に至っているものである(乙第4号証乃至乙第7号証)。 (イ)乙第4号証及び乙第5号証による周知著名性 乙第4号証は、(株)矢野経済研究所発行の1993年5月号の「マンスリー ブランド マーケット レポート」である。 その24頁には、有名ブランド分析として「ポロクラブ(Polo Club)」が紹介されており、ポロクラブは、1971年に上野衣料でスタートを切った同社のオリジナルブランドであるが、そもそもは、その商標は日本綜合(株)という企業が持っていたところ、それを1980年5月に正式に上野衣料へ譲渡され上野衣料が商標権者となったものである。 その後、1989年2月には(株)ポロクラブジャパンが設立され上野衣料より専用使用権を取得し、ライセンス展開も活性化し始めたのである。 現在は、ライセンシーも13社で構成されており、小売りベースで280億円の販売高を誇っているとされている。 乙第5号証は、日本経済新聞社1993年3月の「’92ファッション・ブランドアンケート」と称するレポートである。 その4〜5頁には、各商標毎の左側の上段に所有率が、下段に購入意向率が、右側の上段に知名率、下段に一流評価率が示されている。 そして、同5頁上方に日本経済新聞社がコメントするように、メンズカジュアル分野において「POLO CLUB」は、知名率を含めた全てのデータにおいてトップと評価されているのである。 この日本経済新聞社の調査では、3割の人が「POLO CLUB」商標を付した商品を現に購入・保有しており、全国平均で7割の人が同商標を知悉しており、更に地域的にはその知名度は8割にも及ぶ一方、商品購入主体とも見られる女性及び比較的若年層には、全国平均で同じく8割に及ぶ知名度を有しているという結果である。 (ロ)乙第6号証による周知著名性 乙第6号証は、株式会社イングラム発行の「’98ブランド&キャラクター調査」と称するレポートである。その29〜30頁には、各商標毎の左側に調査対象全体よりみた集計率が示されている。32頁下から3行目に「ポロクラブ」のデータが示され、知名率においては、’94年は76.6%、’96年は80.6%、’98年は69.8%、所有率においては、’94年は20.6%、’96年は31.4%、’98年は25.7%であると示されている。 32頁下から2行目には「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」のデータが示され、知名率においては’94年は81.8%、’96年は81.6%、’98年は56.7%、所有率においては’94年は47.2%、’96年は62.2%、’98年は31.4%であると示されている。 このことは、「POLOCLUB」商標が請求人の商標と同様に高い評価を受けている事が認められるものである。 また、126頁の総合ブランド知名率ランキングにおいても69.8%の人が「POLOCLUB」商標を知っているとされている。 更に、166頁の総合ブランド所有率ランキングにおいても25.7%の人が「POLOCLUB」商標を付した商品を現に購入保有しているとされている。 この調査においては、「POLOCLUB」商標が比較的若年層を中心として幅広い人気を得て、「被服」を中心とした商品に周知著名となっている事が認められる。 (ハ)乙第7号証による業界認識 乙第7号証は、1993年3月31日付け繊研新聞の記事「日本の有力ライセンスビジネス一覧(50音順)」である。 その3頁右欄には「ポロクラブ」商標が示されており、該商標について、14社のメーカーから商品が発売されている事が示されている。 繊研新聞は、メーカー、デザイナー、小売業の各関係者が購読している業界を代表する日刊紙である。 この繊研新聞が数多くの他社商標とともに「ポロクラブ」商標を「有力」ブランドと評価しているものである。換言すれば「ポロクラブ」商標を「有力」と評価するのが業界に定着した業界認識である。 (ニ)前記乙第4号証乃至乙第6号証による周知著名性を有する「ポロクラブ」は、この乙第7号証によって、業界においても他の周知著名ブランドとともに高い評価を受けている事がおのずと判明するところである。 そうとすれば、本件商標は構成中の「POLOCLUB」の文字が同書、同大、等間隔をもって表わされており、全体より生ずる称呼「ポロクラブ」が冗長なものではなく、取引者、需要者間において「ポロクラブ」の称呼をもって親しまれ周知著名となっていることからみても「ポロクラブ」と一連によどみなく称呼されるものであり、しかも全体として「ポロ競技という目的をもって集まった人の集団」を認識させるものとの観念をもって理解されるものである。 その結果、「POLOCLUB」が周知著名なものとなっているため今日に至るまで混同を生じさせるようなトラブルもなく、併存しているものであることからしても、前半部の「POLO」の文字部分が独立して認識されなければならないという特段の事情も存在しない。現に、そのように認識された事実もなく、請求人の使用に係る「POLO」「ポロ」との間に出所の混同を生じ得ないものである。 (ホ)特許庁における本件商標の登録までの経緯にあっても、本件審判請求人他3件の異議甲立があり、本件審判請求人の異議の申立に対して、特許庁は「異議の申立は理由がないものと決定する。」(乙第8号証)との判断をしているものである。 (2)また、図形部分においても、本件商標が写実的な摘出方法であるのに対し引用標章の図形部分は非写実的であって、輪郭及び細部においても明確さを欠くものであり摘出方法、細部においては人、馬の動作、向き等に明らかな差異が認められるものである。 さらに、本件商標が文字と図形が一部重なり合う構成をもって表わしてなる事により、全体として一体のものとして認識され、「ポロクラブ」の称呼のみをもって取引されるのに対し、引用標章は図形と文字が独立した構成をもって表わされているものであることからみても、図形部分における出所の混同は生じ得ないものである。 (3)以上のことから、本件商標と引用標章をみた場合、両者はそれぞれに周知著名なものとして「被服」等に使用し、取引者、需要者が、それぞれ別個のブランドとして確立され認識し、取引されているものであり、商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわざるを得ない。 2.商標法第4条第1項第19号 本件商標は、上述した通り被請求人の所有に係る「POLOCLUB」商標と図形を結合して採択した商標であって、不正の目的をもって使用するものではない。 しかも、本件商標と引用標章は上述した通り非類似の商標であって出所の混同をも生じさせないものであるから、該規定に該当するものではない。 3.請求人の弁駁に対する答弁 (1)請求人は、混同を生ずる理由として、東京高等裁判所判決(甲第7号証)を示しているが、判決で示している商標「Polo Club」と本件商標とは構成上において顕著な差異を有するものであって、該判決をもって、本件商標が無効とされるべき根拠とはなり得ない。 さらに、請求人は、図形部分についても「両図形を並べて対比すれば判別できるが、時と所を異にして同一商品である被服に付された場合、両図形の異同の識別は難しいというベきである。」と述べているが、本来商標が著名であれば、その商標を熟知しているものであって、外観上この程度の差異を有すれば充分識別できるものである。 (2)請求人は、本件商標の使用は、不正の目的である旨述べているが、本件商標と引用標章が非類似の商標であることは既に述べた。 そして、被請求人が本件商標を指定商品に使用することは、正当な商標権の行使であり、厳正な審査を経て登録された登録商標の使用を不正目的の使用と主張することは登録審査制度を否定するものである。 よって、請求人の弁駁は何ら理由がないものである。 第4 当審の判断 1.引用商標の著名性について (1)請求人が提出した甲第3号証(株式会社講談社・昭和53年7月20日発行「男の一流品大図鑑」)によれば、以下の事実が認められる。 1974年の映画「華麗なるギャッビー」で主演したロバート・レッドフォードの衣裳デザインを担当したのがポロ社の創業者でアメリカのファッションデザイン界の騎手ラルフ・ローレンである。 ラルフ・ローレンは、1967年高卒後、ネクタイメーカーにデザーイナーとして迎え入れられ、そこで幅広ネクタイを発表し圧倒的に若者に支持され世界的に広がった。 翌1968年に独立。社名を「ポロ・ファッションズ」とし、ネクタイ、シャツ、セーター、カバン等のデザインを引き受け、ニューヨークの有名デパート、ブルーミングデールにブティックを有し、レッドフォード等の大物も客についている。「ポロ」のネーミングは、もちろんポロ競技からとったものである。 このように、30歳になるかならないかで一流デザーイナーの仲間入りを果たし、わずか10年でポロ・ブランドを世界に通用させた秘密は、ニュートラディショナル、伝統重視にあるといえる。 (2)同じく、甲第5号証(株式会社講談社・昭和55年11月20日発行「男の一流品大図鑑’81年版」)によれば、厳選311ブランド・一流商品1466点収録のなかに、商品「ジャケット及び眼鏡」について、「POLO」(ポロ)が掲載されており、以下のように紹介されている。 「アメリカのファッション界に君臨し、名実ともにニューヨークのトップデザイナーであるラルフ・ローレンが経営するポロ・ファッションズ。高品質で英国的な伝統的カスタムテーラーの要素を基本にスポーティーでソフトなファッション感覚を調和させた作品で、ニュートラディショナルの第一人者といわれている。」 (3)そして、前記の講談社・昭和53年7月20日発行の「男の一流品大図鑑」(甲第3号証)、同昭和55年11月20日発行の「男の一流品大図鑑’81年版」(甲第5号証)、同昭和56年5月25日発行の「世界の一流品大図鑑’81年版」(甲第6号証)の各書証に、被服及び眼鏡について、引用標章に示された「ポロプレーヤー」の図形と、「POLO」、「polo」、「by RALPH LAUREN」等の組み合わせからなる商標が厳選ブランド・一流商品の一として掲載され、使用されている事実が認められる。 (4)また、わが国における「POLO」「ポロ」ブランドの展開については、甲第11号証(日経流通新聞1988年(昭和63年)10月29日発行の記事)として、以下のように紹介されている。 「西武百貨店は、1977年に紳士服、1978年に婦人服の輸入、製造、販売の権利を取得し日本国内でポロ・ラルフローレンのライセンスビジネスを手掛けてきた。現在、ネクタイ、眼鏡を除くポロ・ラルフローレンブランドは西武百貨店がもつ。当初は、西武百貨店の店舗内を中心にショップを展開したが、現在では松屋、東急日本橋、大阪の大丸、阪急などグループ外への出店が増えている。」 そして、上記記事によれば、ポロ・ラルフローレン事業部を独立させ100%子会社のポロ・ラルフローレン・ジャパンを設立し、ファッション製品に加えてハンカチ、ナイトウェアなど新しい商品群を導入してポロ・ラルフローレンブランドをトータル展開するとの記載がある。 さらに、その売上げについては、1987年が330億円だったが、5年後には800億円に拡大する予定とされている。 (5)以上のことから、1968年にラルフ・ローレンがニューヨークにおいてポロ社を設立し、「POLO」(ポロ)ブランドをファッション関係の商品に使用開始して、またたく間に知られるに至ったこと、1980年(昭和55年)わが国で発行された「世界の一流品大図鑑」に、名実とともにニューヨークのトップデザイナーであるラルフ・ローレンが経営するポロ・ファッションズとして「POLO」(ポロ)ブランドが紹介されていること、引用標章に示された態様の商標が、「被服及び眼鏡」について使用され、厳選されたブランドとして「男の一流品大図鑑’81年版」や「世界の一流品大図鑑’81年版」に掲載されていること、さらに、わが国においては、西武百貨店が1977年に紳士服、翌年に婦人服の輸入、製造、販売の権利を取得し日本国内でポロ・ラルフローレンのライセンスビジネスを手掛けてきたこと、及び1987年のポロブランドの売上げは、330億円だったこと等が認められる。 そうとすると、請求人の引用標章は、被服、眼鏡等に使用され、少なくとも本件商標の出願時である昭和62年10月27日までには、わが国において、上記商品の取引者、需要者間において、広く知られるに至ったものとみるのが相当であり、また本件商標の登録時はもとより、その後においても著名な商標であるということができる。 2.商品の出所の混同のおそれについて 本件商標は、別掲(1)に示すとおり、「POLOCLUB」の文字を背景に、該文字中「O」と「C」の各文字の下半部にやや重なるようにして馬に乗った一人のポロプレーヤーがマレットを振り上げてポロ競技をしている図形を配してなるものである。 一方、引用標章は、別掲(2)及び(3)に示すとおりの構成よりなるところ、ポロプレーヤーの図形と「polo」、「by ralph lauren」、「by RALPH LAUREN」の各組み合わせからなり、当該標章、及び「POLO」、「ポロ」の各商標は、ラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示するものとして著名な商標となっていることは前記1の認定のとおりである。 そして、本件商標「POLOCLUB」の文字は、世界的に著名なデザイナーであるラルフ・ローレンのデザインに係る被服及び眼鏡等のファッションに関連する商品に使用して著名性を得ている「POLO」の文字を含むものであり、かつ、本件商標に接する取引者、需要者は、「CLUB」の文字が広く同好の士の集団を意味するものとして、一般に親しまれた語にすぎないことから、「POLO」の文字部分に強い注意力が注がれ、引用標章を想起、連想するものとみるのが相当である。 さらに、本件商標構成中の図形と引用標章構成中の図形とは、人馬の向き、ポロプレーヤーの姿勢、マレットの角度等においてわずかな差異は認められるものの、いずれもポロプレーヤーの図形であって、マレットを振り上げたポロプレーヤーを疾走する馬とともに正面側やや斜め方向から描いたものである点において基本的な構成を共通にしているので、時と所を異にして観察する場合には、酷似しているというべきである。 そうとすると、本件商標は、その構成中に世界的に有名なデザイナーであるラルフ・ローレンのデザインに係る被服類及び眼鏡製品等のファッションに関連する商品に使用して著名な「POLO」の文字と同一の文字を含むものであり、かつ、請求人のラルフ・ローレンに係る著名なポロプレーヤーの図形と酷似するポロプレーヤの図形を有してなるものである。 そして、本件商標の指定商品は、引用標章の使用に係る被服、眼鏡等のファッション関連商品と同一又は類似する商品か、あるいは密接に関連する商品と認められる。 してみれば、本件商標をその指定商品に使用する場合には、これに接する取引者、需要者は、「POLO」の文字及びポロプレーヤーの図形に着目してラルフ・ローレンのデザインに係る商品であると連想、想起し、その商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的、経済的に何等かの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない。 なお、被請求人は、本件商標「POLOCLUB」は、被請求人が「Polo Club」「ポロクラブ」の文字よりなる商標を所有し、「被服類」に使用して我国において周知著名なものとして現在に至っているものであるから、請求人の使用に係る「POLO」「ポロ」との間に出所の混同を生じ得ないものであり、商標法第4条第1項第15号には該当しない旨主張し、乙第1号証ないし乙第7号証(枝番号を含む。)を提出している。 しかしながら、被請求人が「Polo Club」「ポロクラブ」の商標を被服類に使用して周知著名であるとして提出した乙第4号証、同第5号証、同第7号証は、何れも本件商標の出願日(昭和62年10月27日)後の1990年代前半に発行又は調査されたものであり、また、乙第6号証の「’98ブランド&キャラクター調査」も1998年2月から3月にかけて調査されたものである。 してみれば、上記証拠をもって、本件商標の出願時に「Polo Club」「ポロクラブ」の商標が周知著名となっていたとすることはできない。 また、本件商標の登録時(平成5年12月24日)について、被請求人提出の「ポロ・クラブ」ブランドの売上高を示す証拠(乙第4号証)をみるに、平成5年(1993年)については、その売上げ予測値が記載されているにすぎず、これらの書証を総合勘案しても、本件商標の出願時及び登録時の何れにおいても、本件商標が引用標章と同程度に著名性を有するに至ったとまでは断定できないから、この点に関する被請求人の主張は採用できない。 3.結論 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから、商標法第46条第1項第1号により、無効とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲(1) 本件商標 別掲(2) 引用標章(1) 別掲(3) 引用標章(2) |
審理終結日 | 2004-09-28 |
結審通知日 | 2004-09-29 |
審決日 | 2004-10-14 |
出願番号 | 商願昭62-120956 |
審決分類 |
T
1
11・
271-
Z
(117)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小宮山 貞夫、佐藤 敏樹、沖 亘 |
特許庁審判長 |
山田 清治 |
特許庁審判官 |
小林 薫 岩崎 良子 |
登録日 | 1993-12-24 |
登録番号 | 商標登録第2608687号(T2608687) |
商標の称呼 | ポロクラブ、ポロ |
代理人 | 曾我 道照 |
代理人 | 黒岩 徹夫 |
代理人 | 岡村 憲佑 |
代理人 | 岡田 稔 |