ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z33 |
---|---|
管理番号 | 1103311 |
審判番号 | 無効2003-35347 |
総通号数 | 58 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2004-10-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2003-08-27 |
確定日 | 2004-08-30 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4311653号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第4311653号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第4311653号商標(以下「本件商標」という。)は、「がんばれニッポン」の文字を横書きしてなり、平成10年6月18日に登録出願、第33類「日本酒」を指定商品として、平成11年9月3日に設定登録されたものである。 第2 請求人の引用標章 請求人が本件商標の無効の理由に引用する、引用標章1(登録第4470504号商標、登録第4481000号商標)、引用標章2(オリンピック・キャンペーン公式マーク)及び引用標章3(登録第4212800号商標)は、別掲に表示したとおりの構成よりなるものである。 第3 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第203号証(枝番を含む。)を提出した。 1 無効の理由 (1)無効審判請求の利害関係について 請求人である財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)は、「がんばれ!ニッポン!」の商標(引用標章1)を平成10年8月13日(商願平10-68804号)登録出願をしたところ、本件商標が引用され、商標法第4条第1項第11号に該当するとして拒絶理由通知を受けた。 そこで、その指定商品中「日本酒」について出願分割をし(商願2000-34765)、その出願は現在、拒絶査定不服審判事件として係属している(査定不服2003-10177)。 よって、請求人は、本件商標登録無効審判を請求することについて、利害関係を有している。 (2)「がんばれ!ニッポン!」キャンペーン事業について (ア)JOCは、1991年(平成3年)に、財団法人日本体育協会(以下「体育協会」という。)から独立した、日本唯一のオリンピック委員会で、選手の育成・強化を中心とした国際競技力の向上とオリンピックムーブメントの普及・啓発を事業とする社会的使命と役割を果たしており、「がんばれ!ニッポン!」(引用標章1)は、JOCが、オリンピックを目標として、JOC事業の推進のための資金調達を図ることを主たる目的として行っている事業に使用する標章である。 (イ)JOCは、前身の体育協会の特別委員会であった、1979年(昭和54年)に「がんばれ!ニッポン!オリンピック・キャンペーン」(以下「オリンピック・キャンペーン」という。)をスタートさせた。 その年の体育協会の月刊誌「体協時報」4月号に初めて「がんばれ!ニッポン!」のマーク(引用標章2)が掲載され(甲第6号証)、同誌6月号には企業の商品広告が掲載され(甲第7号証)、同誌8月号には、東京・銀座における「オリンピック・キャンペーン」募金活動の様子が報じられている(甲第8号証)。 このようなキャンペーンは、1974年に国際オリンピック委員会(IOC)がオリンピック憲章から「アマチュア」の文字を削除するというオリンピック憲章の変化を背景に、日本国内におけるオリンピック標章などの無体財産に関する保護施策の徹底と努力、更に、コーチングスタッフなどの整備と制度化のための財源確保の必要性などの理由から1979年(昭和54年)に「がんばれ!ニッポン!」キャンペーン事業がスタートすると共に、各国内競技団体が行う直接事業についても商業活動が認められることになった。 JOCの「オリンピック・キャンペーン」は、事業がスタートした1979年〜1980年を第1次、1981年〜1984年を第2次、1985年〜1988年を第3次、1989年〜1992年を第4次として、オリンピックの開催に合わせて実施し、かつ、「オリンピック・キャンペーン」の名称を使用した(甲第10号証)。 事業の内容は、キャンペーン事業に協力してもらう協賛企業を募集し、協賛企業には、オフィシャルスポンサーあるいはオフィシャルライセンシーとして、キャンペーンマーク(引用標章2)、キャッチフレーズ(「がんばれ!ニッポン!」)、キャラクターなどと選手の写真、イラストサイン、氏名等の商品化権が認められ、商品の販売促進活動にキャンペーンマーク、キャッチフレーズ(「がんばれ!ニッポン!」)などの使用を認めた。 当時、若者達に圧倒的な人気があったグループの「光GENJI」を起用して、「がんばれ!ニッポン!」オリンピック選手強化キャンペーンのイメージソングも制作された(甲第11号証)。また、オリンピック選手を起用した大手企業を始めとした各企業のコマーシャルの宣伝広告に「がんばれ!ニッポン!」が使用され、JOCのキャンペーン事業は日本各企業の協賛を得て展開され、その結果、一般の人々にも「がんばれ!ニッポン!」の標章が広く知られていった(甲第12号証ないし甲第14号証)。 (ウ)1993年(平成5年)〜1996年(平成8年)の第5次事業及び1997年(平成9年)、1998年(平成10年)の第6次事業では、公式マークから、オリンピックの名称、オリンピックマークを外し、JOCへの国内加盟競技団体のための直接的な事業として「がんばれ!ニッポン!」選手強化キャンペーン事業を行い、キャッチフレーズは「がんばれ!ニッポン!」、公式キャンペーンマークは、引用標章3を使用した。 第5次選手強化キャンペーンでは、1994年(平成6年)3月22日には「がんばれ!ニッポン!」キャンペーンの商品化権についての説明会を開いた(甲第17号証)。 選手強化キャンペーン事業は、JOCが加盟競技団体に登録する役員、選手の肖像(パブリシティ一の権利)の付託を受け、企業の広告宣伝に利用する権利を企業へ付与し、企業から協賛金を得て、選手強化事業を資金面で支援するシステムで、オフィシャルスポンサー及びオフィシャルライセンシーには、企業の商品カテゴリーの広告・販促活動にキャンペーンマーク及びキャラクターを使用することができ、商品化をすることができるものであった(甲第19号証及び甲第20号証)。 (エ)第1次〜第4次のオリンピック・キャンペーン事業に引き続き実施した選手強化キャンペーン事業は、各種の商品及びサービスを業務とする日本の各企業による協賛を得たので、収益金は、オリンピックを始めとする国際競技大会に参加する競技団体の選手強化を資金面で支えてきたのであり(甲第21号証)、第5次「がんばれ!ニッポン!」選手強化キャンペーン事業では、スポンサー企業の総数は87社であった(甲第22号証)。 (オ)1998年(平成l0年)の長野冬季オリンピック大会の終了に伴い、長野オリンピック大会を目標にしたマーケティングが終了し、1999年(平成11年)から2000年(平成12年)までの2年間、JOCは、オリンピック・マーケティングの拡大並びに新規事業開発にあたり、新たなマーケティングプログラムを展開した(甲第31号証)。 その中の「JOC オフィシャルスポンサープログラム」において、スポンサーは、JOCのエンブレム及び「がんばれ!ニッポン!」を契約したカテゴリーの商品・サービスの広告や販促に関連して使用することができた(甲第32号証)。 (カ)また、JOCは、2000年4月に、継続的なオリンピックファン、スポーツファンを作り上げることを目的として、個人会員組織日本代表チームサポーター「チーム がんばれ!ニッポン!」をスタートさせ(甲第35号証)、様々なイベントを企画運営し、オリンピックに関する情報を提供し、会員への情報誌を発行している(甲第36号証及び甲第37号証)。そして、2000年4月からシドニーオリンピック期間中、また終了後には東京、大阪を中心として20ヶ所以上において「がんばれ!ニッポン!」イベントを開催した。 (キ)JOCは、2001年(平成13年)から2004年(平成16年)までのプログラムとして、JOC独自のマーケティングプログラムを実施するほか、IOCならびにオリンピック競技大会を始め、JOCが選手団を派遣する国際総合大会の組織委員会と連携した各競技大会に関するマーケティングを展開している(甲第38号証及び甲第39号証)。 その中の「スポンサーシッププログラム」では、オリンピックシンボル、大会マーク等を使用して全世界的に宣伝広告・販促活動ができるTOPスポンサー、ならびにJOCのオフィシャルパートナーに対し、スローガン「がんばれ!ニッポン!」とともに、JOC及び日本代表選手団に関する権利(JOC第2エンブレム、公式呼称、オリンピック関連素材の使用権等)を使用する権利を与えている。 また、「ライセンシングプログラム」でも、ライセンシーには、JOCマーク、「がんばれ!ニッポン!」の標章やオリンピック競技大会マークを使用し商品化する権利を与えている(甲第40号証)。 (ク)以上のとおり、JOCは、JOCの事業に1979年(昭和54年)から「がんばれ!ニッポン!」の標章を使用して、オリンピック・キャンペーン事業や選手強化キャンペーン事業を実施し、更に、スポンサーシッププログラムやライセンシングプログラムを推進する事業を継続している。 それ故、わが国では、「がんばれ!ニッポン!」の標章は、JOCの各種事業に使用している標章として、また、JOCの各種事業に協賛及び参加している多くの企業が、JOCの許諾のもとに、その業務に係る商品若しくは役務に使用していることを通じて、我が国の取引者・需要者の間に広く知られている周知・著名な標章である。 (3)商標法第4条第1項第7号について (ア)JOCは、我が国唯一の国内オリンピック委員会として社会的使命を果たす立場にあるところから、公的な性格を有しているので、第三者がJOCに無断で「がんばれ!ニッポン!」の標章と同一又は類似の商標を自己の商品又は役務に使用するときは、需要者をして、JOCと何らかの関係がある者の取り扱いに係る商品又は役務であるかの如く、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずることになり、商取引の秩序を乱すおそれがある。 (イ)本件商標は、「がんばれニッポン」の文字を書してなるところから、JOCの「がんばれ!ニッポン!」の標章に類似していることは明らかであり、指定商品は「日本酒」としているが、JOCは、多くの業種に係る商品及び役務について「がんばれ!ニッポン!」を使用したマーケテイング事業を展開しているところから、本件商標の使用はJOCと契約をし、使用許諾を受けた商品であるかの如く、需要者が商品の出所につき誤認混同を生ずることは必定である。 そのうえ、本件商標の使用は、JOCの許諾を得たものであろうとの認識のもとに商品を購入する需要者の信頼を裏切ることになり、取引者・需要者に不測の損害を与えることにもなり、取引の秩序を混乱させることになる。 (ウ)かつて、被請求人の他に「がんばれ日本」の商標登録出願が数件なされていたが、それらの出願はすべて、商標法第4条第1項第7号に該当する、と判断され、拒絶されている(甲第41号証の1ないし甲第44号証)。 (4)商標法第4条第1項第15号について 本件商標は、「がんばれニッポン」の文字を書してなり、JOCの「がんばれ!ニッポン!」の標章(引用標章1ないし引用標章3)に類似する商標であることは明らかである。 本件商標の登録査定時はもちろん、登録出願時においても、JOCの「がんばれ!ニッポン!」の標章は取引者・需要者の間に広く知られていた周知著名なものであった。 したがって、本件商標の指定商品である「日本酒」に本件商標を使用するときは、取引者及び需要者は、JOCの「がんばれ!ニッポン!」を想起し、JOCと何らかの関係を有する者の取り扱いに係る商品であると誤認することになり、商品の出所について、混同を生ずることは必定である。 (5)商標法第4条第1項第19号について 本件商標は、平成10年6月18日に登録出願、平成11年6月30日に登録査定をされたが、登録査定時及び登録出願時のいずれにおいても、JOCの「がんばれ!ニッポン!」の標章は取引者・需要者の間に広く知られていた周知著名なものであった。 特に、平成10年(1998年)2月7日から22日まで長野において、冬季オリンピック長野大会が開催され、世界中の注日がわが国に集まり、日本国中が冬のオリンピック競技大会に沸いた。 そして、長野オリンピック競技大会の準備期間中から大会を支えるキャンペーン事業が行われ、多くの企業が協賛した結果、「がんばれ!ニッポン!」の標章は、新聞、雑誌、テレビ、マスコミなどのメディアを通じて広く知られるところとなっていた。 このような、状況の中で、本件商標は、長野冬季オリンピック大会後の平成10年6月18日に登録出願されており、酒造業を業務とする被請求人はJOCの「がんばれ!ニッポン!」の標章の存在を知っていたこと、かつ、本件商標をその指定商品である「日本酒」に使用するときは、JOCの業務に係る「がんばれ!ニッポン!」の標章と商品の出所において誤認混同を生じるおそれがあることを認識していたことは十分窺われる。 それ故、被請求人が不正の利益を得る目的をもって本件商標を出願したことが推認される。 よって、本件商標は、JOCの業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている標章と類似の商標であり、不正の目的をもって使用するものである。 (6)まとめ 以上のとおり、本件商標は、JOCが1979年(昭和54年)から各種事業に継続して使用し、かつ、それらの事業に係る商品及び役務に使用されているものとして、わが国の取引者・需要者の間に広く知られている「がんばれ!ニッポン!」に類似する商標であり、JOCと関係のない被請求人がその指定商品に自己の商標として使用するときは、取引者・需要者にJOCから許諾を受けた者の取り扱いに係る商品であるかの如く、商品の出所につき誤認・混同を与え、ひいては、商取引の秩序を乱すおそれがある。 また、被請求人は、本件商標の登録出願時に、JOCの「がんばれ!ニッポン!」がわが国に広く知られていたことを知っていたことが窺われるところから、本件商標は「不正の目的」をもって出願されたものである。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第15号若しくは同第19号に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項により、その登録は無効にされるべきである。 2 答弁に対する弁駁 (1)請求人標章の著名性及び周知性 請求人は、請求の理由において、「がんばれ!ニッポン!」の標章は、周知著名な標章であることを主張し、使用実績を示す証拠を提出したが、更に、使用実績を示す証拠として甲第45号証ないし甲第203号証を提出する。 使用実績を示す多くの証拠からも明らかなように、請求人の「がんばれ!ニッポン!」の標章は、請求人の事業に使用するものとして我が国では広く知られている周知著名なものである。 (2)商標法第4条第1項第7号について、 (ア)被請求人の使用事実を示す証拠(乙第1号証ないし乙第3号証)によると、本件商標が、サッカー選手がボールを競る図柄とともに、「2002 Gambare Nippon」と表示されていることからして、2002年に開催されたワールドカップをあてこんで本件商標を付した商品が販売されたことは明らかであり、被請求人が本件商標をワールドカップという世界的規模のスポーツ大会に関し、サッカー日本代表との関連性を示す形で使用していることからしても、本件商標の登録が公序良俗に反することは明らかである。 (イ)被請求人は、請求人の寄付行為及び甲第9号証に言及したうえで、「肖像権の使用権の供与は協賛企業との契約により成立するものであって公的性格でも、社会的使命でもない。」と主張している。 請求人が請求人の事業を推進するためには、膨大な資金が必要であり、資金集めのためのマーケティング活動はオリンピック憲章でも認められているところである。 請求人の「スポンサーシッププログラム」や「ライセンシングプログラム」による資金集めは、まさしく、オリンピック憲章に則って、JOCとしての使命と役割を果たすための事業の一つであり、請求人がオリンピック憲章の精神から離れて、一企業が行うようなライセンシング・マーケティングを行っているものではなく、請求人の事業は、全てに亘って、社会性及び公益性を有している。 (ウ)また、被請求人は、「引用標章は、JOCの事業に係る具体的な商品又は役務に関するものではない」と主張しているが、「がんばれ!ニッポン!」は、請求人の事業に使用する標章であり、協賛企業が業務に係る商品又は役務について使用される場合は、協賛企業であること、あるいは、請求人のスポンサーであることなどを明らかにしているので、請求人の事業と密接不可分の標章である。 いずれにしろ、本件商標が本号に該当するか否かを判断するのに、「がんばれ!ニッポン!」が請求人の事業に係る商品又は役務に関するものでなければならないということはない。請求人の事業に関して使用する標章として広く知られている周知著名なものであるということをもって十分である。 (エ)更に、本号は、商標の構成自体がきょう激、卑わいな文字であり、公序良俗を害するおそれがあるものに限られず、商標登録を認めて商標権の行使を許容することが公序良俗を害するおそれがる場合も含まれると解されている。 被請求人は、「がんばれニッポン」は我が国においては、一般的な日本語であること、あるいは、「がんばれ○○○」及び「○○○日本」よりなる商標が多数存在していることを挙げているが、そのことは、本件商標にしろ、請求人の「がんばれ!ニッポン!」にしろ、商標としての登録性を具備していることは明らかであり、そのうえで、請求人の「がんばれ!ニッポン!」との関係で、本件商標の使用を許容することは、公序良俗に反するものであると主張している。 すなわち、「がんばれ!ニッポン!」は、請求人の事業に係る標章として広く知られているところから、請求人と全く関係のない被請求人が本件商標を使用するときは、需要者に請求人の協賛企業あるいはスポンサーであるかの如く、商品の出所について混同を与え、商取引の秩序を乱すおそれが高い。 (2)商標法第4条第1項第15号について、 本号の「出所の混同」には、いわゆる広義の混同も含んで解釈されることは定着しており、それを是認した最高裁判所の判決(平成12年7月11日、最高裁平成10年(行ヒ)第85号)がある。 すなわち、対比する対象は、商品又は役務に使用する商標に限られず、具体的な商品又は役務がない場合の「他人の表示」又は「他人の標章」も含まれる。 また、東京高裁平成10年4月22日判決(東京高裁平成9年(行ケ)第139号)の判決からすれば、請求人の「がんばれ!ニッポン!」標章が「日本酒」に使用された実績がなくとも、本件商標が使用されれば取引者、需要者において、請求人と何らかの組織的又は経済的関連を有する者の販売に係る商品であるものと誤認するおそれがあることは明白である。 (3)商標法第4条第1項第19号について、 被請求人は、請求人の「がんばれ!ニッポン!」の標章を使用するライセンシング事業に興味を示し、請求人と被請求人との間では、平成12年12月から、本件商標の譲渡に関する交渉が持たれた。 平成13年6月、請求人は、本件商標を30万円で譲り受ける代わりに、被請求人に対して、2001年〜2004年の4年間、本件商標の使用許諾を行い、そのロイヤリティを(通常は、ライセンス商品の小売価格の5%のところ特別に)3%とする旨の条件を提示した。しかしながら、これに対して、被請求人は、商標の譲渡対価はもとより、ロイヤリティをさらに優遇してくれなければ、本件商標の譲渡には応じられないと回答してきた。 被請求人は、請求人の著名な標章「がんばれ!ニッポン!」が商品「日本酒」に登録されていないことを奇貨として、請求人に対し不合理なライセンス契約ないし買取契約の締結を要求したものであり、このような経緯からも本件商標が本号にいう「不正の目的をもって使用するもの」に該当することは明白である。 第4 被請求人の主張 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第6号証を提出した。 1 無効の理由に対する答弁 (1)本件商標における使用事実について 本件商標は、被請求人(商標権者)の製造販売に係る商品「日本酒」に使用しているものである(乙第1号証ないし乙第3号証)。 この事実から明らかなように、本件商標は商標権者により、商品「日本酒」に継続して使用しているものである。 (2)商標法第4条第1項第7号について 請求人(JOC)は、社会的使命を果たす立場にあるから、公的な性格を有するので、第三者が無断で「がんばれ!ニッポン!」の標章と同一又は類似の商標を使用することは、需要者をして、JOCと何らかの関係があるかの如く、商品又は役務の出所につき誤認混同を生じさせ、商取引の秩序を乱すおそれがあると主張している。 然しながら、JOCは寄付行為によると「スポーツ選手を育成・強化する事業」と「オリンピックムーブメントを推進する事業」が財団の中心事業であり、その他として「本会の目的達成に必要な事業」があげられている。 そして、収益事業として「本会が保有するマーク等商標権の活用による自主財源の確保を図るために、マーケティング活動を推進する」するとされている(乙第4号証)。 従って、甲号証として提出された証拠のうち具体的な商標権に関するもの以外は全てマーケティング事業に関する資料である。 甲第9号証によると、JOCの収益事業の新たな展開は加盟競技団体の役員・選手の肖像権とオリンピックの呼称、IOCによって認められた商業利用が可能なマークを企業に提供し、その使用による収益を図ること、及びキャンペーンがマーケティングの中身であり、そのキャンペーンの名称が「がんばれ!ニッポン!」であったことが立証されている。 従って、JOCの公的な性格としては、IOCの国内委員会としてオリンピック憲章に基づきオリンピックマークを管理する等にあるのであり、選手強化等のための募金事業を行うことではないとみられ、肖像権の使用権の供与は協賛企業との契約により成立するものであって公的性格でも、社会的使命でもないと思われる。 「がんばれ!ニッポン!」なる標章は国内で周知されたというが、それは該財団の収益事業の一つのキャンペーン名称として用いられたにすぎない。 従って、引用標章は、JOCの事業に係る具体的な商品又は役務に関するものではなく、JOCそのものと密接不可分の標章とはいえない。 需要者又は取引者は、「がんばれ!ニッポン!」の標章が付された広告等により該協賛事業とスポーツの関係をイメージとして受け取るとしても、該企業とJOCとの関係が使用契約に基づくものであること(許諾関係にあること)とは一般的には思い浮かばないはずであるから、商標権者が指定商品「日本酒」に「がんばれニッポン」を使用しても、ただちにJOCとの関係を想起するものではなく、出所の混同も生じないものとみるべきである。 本規定に関する特許庁編工業所有権法逐条解説は「7号は旧法2条1項4号に相当する規定で、なんら変更はない。本号を解釈するにあたっては、むやみに解釈の幅を広げるべきではない」と解説している。 本件商標の「がんばれニッポン」は我が国においては、一般的な日本語であり、日本が他国との関係においてスポーツ、研究、芸術等あらゆる分野で競いあう場合、日本を応援する言葉として誰もが採択使用する可能性のある言葉であり、きょう激、卑わいな文字ではなく、公共の利益に反する事なく、又、社会の一般的道徳観念に反するものでもなく、国際信義に反することもなく、他の法律によって、その使用が禁止されているようなものでもない。 登録例においても「がんばれ〇○○」及び「○○○日本」よりなる商標が多数存在している(乙第5号証及び乙第6号証)。 そうとすれば、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標ではない。 (3)商標法第4条第1項第15号について 請求人は、本件商標査定時において、JOCの「がんばれ!ニッポン!」の標章は取引者、需要者間に広く知られていた周知著名なものであり、本件商標を指定商品「日本酒」に使用するときは、商品の出所について混同を生じさせることは必定であると主張している。 然しながら、JOCが「がんばれ!ニッポン!」よりなる標章をオリンピック大会を支えるキャンペーンにおいて使用して周知であることは否定するものではないが、あくまでもキャンペーンのための標章としての使用にすぎない。 本来、商標は商品に付して商品の出所を明らかにすることにより、取引者、需要者に自己の商品と他人の商品との品質の違いを認識させる自他商品識別機能を有するものである。 ところが、JOCによる「がんばれ!ニッポン!」は、JOCにより具体的な商品に使用して周知著名となっているものとは到底言い難いものであり、また、そのような事実も認められず、あくまでも協賛企業がオリンピックキャンペーンに参加している事実を表わすために使用している標章にすぎないものである。 したがって、本件商標を指定商品「日本酒」に使用しても、JOCが「がんばれ!ニッポン!」を業務に係る商品又は役務に使用して周知著名であるとの事実が認められず、商品の出所について混同を生ずることはありえないものである。 (4)商標法第4条第1項第19号について 請求人は、本件商標査定時において、冬季オリンピック長野大会のキャンペーン事業に多くの企業が参加し「がんはれ!ニッポン!」の標章は新聞、雑誌、テレビ、マスコミ等のメディアを通じて広く知られるところとなっており、被請求人は不正の利益を得る目的をもって本件商標を出願したことが推認されると主張している。 然しながら、本件商標は、我が国において誰もが理解出来る一般的な日常語の組み合わせであって、誰もが採択する可能性のある言葉である。 しかも、本件商標は登録商標として認められ、商品に付して使用されているものであり、これまでに出所の混同を生じさせるといった事実も存在せず、通常の商標権の行使としての使用である。 更に、JOCの「がんばれ!ニッポン!」がJOCの業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標としての使用事実が認められず、不正の目的をもって使用するものでは断じてない。 2 弁駁に対する答弁 (1)請求人標章の著名性及び周知性について 「がんばれ!ニッポン!」なる標章は該財団の収益事業のキャンペーン名称として用いられているものであることは疑う余地のない事実である。 (2)商標法第4条第1項第7号について (ア)請求人は、被請求人の本件商標の使用(乙第1号証及び乙第2号証)をもって、本件商標の登録が公秩良俗に反すると主張するが、本件商標「がんばれニッポン」は酒のラベルの構成中に使用されているものであって、本件請求の趣旨は「がんばれニッポン」が無効とされるべきというものであって、ラベル商標としての全体をもって無効であるか否かが判断されるべきものではなく、本件商標の上記乙号証に示す使用をもって本件商標の登録が公秩良俗に反するとする主張は妥当なものとは認め難い。 (イ)請求人は、「がんばれ!ニッポン!」は請求人の事業に使用する標章であり協賛企業が業務に係る商品又は役務について使用される場合は、協賛企業であること、あるいは請求人のスポンサーであることなどを明らかにしているので請求人の事業と密接不可分の標章であると主張しているが、「がんばれ!ニッポン!」は請求人がキャンペーン名称として採択し、単に、協賛企業が協賛金を出している事実を明らかにしているにすぎないものであり、協賛企業においても「がんばれ!ニッポン!」をその企業の業務に係る商品又は役務を指称する商標として使用している事実は認められない。 従って、「がんばれ!ニッポン!」は請求人の事業に係るキャンペーン名称として知られているものであって、これを企業広告において使用することは協賛企業、スポンサーであることを表示するにすぎないものである。 (ウ)一方、本件商標の使用は商品の出所混同を生じさせ、商取引の秩序を乱した事実もなく、正当な商標権の行使であり商標権の濫用といえる事実もない。 (3)商標法第4条第1項第15号について 請求人は最高裁判決を引用し「出所の混同」については、広義の混同を含んで解釈されると述べると共に、対比する対象は、商品又は役務に使用する商標に限られず、具体的な商品又は役務がない場合の「他人の表示」又は「他人の標章」も含まれるものであると主張している。 然しながら、ここでいう「他人の表示」とは営業表示をさすものであると思われる。 このことは不競法第2条においても規定されている「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装、その他の商品又は営業を表示するものをいう。)」からみても、「他人の表示」にはキャンペーン名称は含まれないものと思われる。 しかも、本件商標は、これを直接商品に付して使用しているのに対し、被請求人はキャンペーン名称として協賛企業の協賛広告に表示されているものであり、今日まで本件商標を指定商品に使用していて誤認混同を生じたこともなく、正当な商標権の行使として取引者、需要者に認識されているものである。 (4)商標法第4条第1項第19号について 請求人からの本件商標の譲渡の申し入れに対し、被請求人は譲渡条件において合意に至らなかったためこれを拒否したものであるが、譲渡申し入れがあった平成13年段階で請求人側が役員交代に伴う方針変更等の事情から交渉を打ち切り中断したまま現在に至っているものであり、その後交渉再開の連絡のないまま一方的に本件審判請求事件に至ったものである。 従って、請求人が言うところの被請求人が「請求人に対し不合理なライセンス契約ないし買取契約の締結を要求した」ことは事実無根であり、交渉は請求人の事情から打ち切られたものであるから、その主張は不当である。 本件商標が「不正の目的をもって使用するもの」とする請求人の主張は本規定の解釈を誤ったものであり、妥当なものとは認め難いものである。 3 よって、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同第15号及び同第19号に該当するとの請求人の主張は妥当なものではない。 第5 当審の判断 1 「がんばれ!ニッポン!選手強化事業」について (1)JOC発行の「OLYMPIAN」第6巻第11号(平成9年11月20日、株式会社ベースボール・マガジン社発行)の「寄付からマーケティングへの道のり」の記事(甲第9号証)、オリンピックキャンペーン「がんばれ!ニッポン!」の趣意書(甲第10号証、JOC、株式会社電通が作成、作成時期の記載はないが、協賛企業募集の受付期間を「1989年12月より」と記載、また「当面アルベールビル及びバロセロナ(1992年)を目標として」との記載からすると、おそくとも、平成元年12月ころ第4次キャンペーンに際して作成されたものと推認される。)の「オリンピックキャンペーン計画の概要」の記事、「JOC’91 日本のオリンピック・ムーブメント」(平成3年4月JOC発行)(甲第138号証)、「がんばれ!ニッポン!」キャンペーンに関する新聞記事(甲第15号証ないし同第18号証)、「第6次 がんばれ!ニッポン! 選手強化キャンペーン」「スポンサーシップのご案内」(JOC及び株式会社電通平成8年12月発行、甲第20号証)、「DENTSU OLYNPIC NEWS」(1995年10月20日ないし1996年5月20日(株)電通発行、乙第23号証ないし同第28号証)、「SPORTS in JAPAN '98」、「SPORTS in JAPAN '99-00」(JOC発行)、「JOC オフィシャルスポンサーシップ プログラムのご案内」(JOC及びジャパン・オリンピック・マーケティング株式会社発行、発行時期は明記されていないが、その記載内容にオフィシャルスポンサーの期間として「1999年1月1日〜2000年12月31日」とあることから1999年1月以前に発行されたものと推認される。甲第32号証)及び請求人の主張からすると、以下のことが認められる。 a)オリンピック選手育成事業について JOCは、オリンピック選手の育成を中心として国際競技力の向上とオリンピックムーブメントの普及・啓発を主な事業として、平成3年に体育協会から独立したものである。 しかして、JOCは、オリンピック選手の育成に関し、昭和54年当時、前身の体育協会(競技力向上委員会)は、東京オリンピック大会以降の選手育成事業に関して、オリンピック大会における金メダル獲得数で比較して、東京大会をピークに降下し、1976年(昭和51年)のモントリオール大会では、東京大会以来初めて2桁台の金メダル獲得数を割ることとなり、これらの成績に危機意識をもち、選手の育成を強化し競技力向上を図ることとし、各競技団体がそれぞれ実施する選手育成を強化するため、交付される選手強化事業の国庫補助事業の内、自己負担金を、従来の「寄付金等募集」という資金調達の仕組みに加え、協賛企業に対し選手又は役員の肖像権、キャンペーンマーク、キャッチフレーズ等の使用許諾をして、その対価を資金として各競技団体に交付(甲第69号証)し、またオリンピックムーブメントの啓蒙と国際スポーツ事業への援助及び参加選手の強化等のために活用する新しい形での「スポーツマーケティング」により自主的な財源の確保をするためのキャンペーンを展開したものである(甲第10号証)。 このようなオリンピック選手育成のための資金確保のキャンペーンが生まれた背景は、オリンピック憲章のオリンピック参加資格を従来のアマチュア規定を改正して、実質上オリンピックへの参加を各国際競技連盟(IF)の協議者規定に委ねられることとなり、現実的にはプロフェッショナルとアマチュアが混在することとなったこと、また日本国内においてオリンピック表章等無体財産権の保護管理の努力がされたこと、さらに、各競技団体が行う選手強化事業の整備と制度化が不可欠となり、その財源を捻出する必要があったことである(甲第9号証)。 b)オリンピック選手育成・強化のためのキャンペーンについて JOCは、オリンピック選手育成事業における、キャンペーンのキャッチフレーズとして、「がんばれ!ニッポン!」を採択し、「『がんばれ!ニッポン!』選手育成・強化キャンペーン」として、昭和54年にスタートさせ、それ以来、JOCが各オリンピックの周期に合わせて4年ごとに第1次ないし第5次として、それぞれ実施してきている。 そして、甲第10号証の趣意書によると、キャンペーンの目的として、「1.将来のスポーツの振興と広範な普及をふまえ、これを可能とするスポーツ界および一般の理解と相互の強力、支援関係の確立を図る。 2.事業の長期的実施計画の中で、当面アルベールビルおよびバロセロナの両オリンピック(1992年)を目標として、オリンピックムーブメントの啓蒙と国際スポーツ事業への援助及び参加選手の強化とJOC事業推進のため調達を図る。」と記載している。 また、同趣意書によると、キャンペーンの運営・推進主体は、JOC及びJOC加盟競技団体が設置するオリンピックキャンペーン委員会であり、その委員会の委員としてJOC役員及び学識経験者の中から選出、構成することとしている。その後、2001年6月発行の「Sports in Japan '00-'01」(甲第38号証)によると、長野オリンピック大会(平成10年)終了後、「がんばれ!ニッポン!」選手強化キャンペーン委員会を発展的に解消して、マーケティング委員会を専門委員会として設置し、展開内容及び方針を決定することとした。 c)引用標章1、引用標章2及び引用標章3について 甲第10号証及び同第20号証によると、キャンペーンの名称を「オリンピックキャンペーン」とし、キャッチフレーズを「がんばれ!ニッポン!」、公式マークを引用標章2又は引用標章3、そして公式マスコット(公式キャラクター、キャラクターネーム)を指定している。 そして、甲第47号証ないし同第80号証の体育協会発行の「体協時報」(昭和54年5月ないし平成6年3月発行)、JOC発行の「OLYNPIC」(平成4年3月ないし同12年7月発行)その他の甲号証よりすると、「がんばれ!ニッポン!」、「がんばれ!ニッポン!に協賛しています。」、「『がんばれ!ニッポン!オリンピック』選手強化キャンペーン」と記載、そして引用標章1の「がんばれ!ニッポン!」の文字を含む引用標章2又は引用標章3は広告や関連記事に継続的に掲載されていることが認められる。 してみれば、「がんばれ!ニッポン!」の文字からなる引用標章1は、オリンピック選手育成・強化のためのキャンペーンのキャッチフレーズとしてまた、JOCの公式マーク(引用標章2又は引用標章3)中にキャッチフレーズを表す部分として、昭和54年以来、継続して使用されてきていることが認められる。なお、引用標章2は、昭和54年ないし平成4年(第1次ないし第4次キャンペーン)に使用され、また引用標章3は平成5年以降(第5次キャンペーン以降)に使用されている。 d)企業協賛の仕組み 企業協賛の仕組みは、JOC加盟競技団体の役員又は選手の肖像権、オリンピックの呼称、IOCによって認められた商業利用が可能なマーク(引用標章1ないし引用標章3)を企業に提供するものである。 そして、「がんばれ!ニッポン!」選手育成・強化キャンペーンを展開する上で、JOCが独占的に選手の肖像を協賛企業へ許諾することにより、より高いマーケティング価値を生むことから、その権利をこのキャンペーンだけの商業利用に限定し、JOCとJOCに加盟している各競技団体との合意の上で、登録選手及び役員の肖像に関する商業利用の覚書が取り交わされている。 甲第20号証によると、協賛企業には、オフィシャルスポンサーとオフィシャルライセンシーがあり、オフィシャルスポンサーは、オフィシャルスポンサーの呼称の使用、またキャンペーンマーク、キャッチフレーズ、キャラクター及び選手の映像等を広告や各種販売促進での使用等(規定の商品カテゴリーにおける商品化優先権)が許可される。また、オフィシャルライセンシーは、商品ごとにオフィシャルライセンシーの呼称の使用、キャンペーンマーク、キャッチフレーズ、キャラクターの商品化権等が許可さられる。そして、オフィシャルスポンサーによる使用態様についてはJOCのキャンペーン委員会の事前承認を受ける必要がある。 同第20号証の「選手の起用についての手続き」によると、スポンサー(協賛企業)から要請のあった選手については、選手の了解、JOC加盟各競技団体及びキャンペーン委員会等の承認がある場合に当該スポンサーが選手を起用することができるものである。 請求人作成の報告書である甲第193号証によると、「がんばれ!ニッポン!」選手強化キャンペーンにおける協賛企業数(スポンサー数)は、第1次キャンペーン(昭和54年及び同55年)では17社(甲第138号証)であったものが、第2次キャンペーン(昭和56年ないし同59年)では23社、第3次キャンペーン(昭和61年ないし同63年)では28社(甲第69号証の「体協時報 7/’89」によるとオフィシャルスポンサー31社、オフィシャルライセンシー4社、合計35社が企業名と共に掲載されている。)、第4次キャンペーン(平成元年ないし同4年)では49社(甲第91号証の「DENTSU OLYNPIC NEWS」(1992年4月20日株式会社電通発行)によると、承認番号とスポンサー名を掲載したオフィシャルスポンサーリスト('92年4月1日現在)が掲載されていて、それによると50社となっている。)、第5次キャンペーン(平成5年ないし同8年)では31社、第6次キャンペーン(平成9年ないし同12年)では18社、となっている。 そして、それらの協賛企業は、運動具、運動靴・履物、衣服、バッグ、飲料、生理用品、菓子、綿製品、自動車、医薬品、フィルム、カラーテレビ、ビデオテープ、繊維、加工肉類、プラスチック製品、遊具、ビール、百貨店、鉄鋼、せっけん洗剤、出版物、パスタ類、住宅全般、納豆、ビデオソフト、醤油・味噌、産業用・家庭用紙、コンピュータ情報機器、乳製品、リテールフードサービス、保険、証券、信託、不動産、クレジット、放送局、貨物・旅客輸送、人材派遣、国際通信、小売通信販売等の分野の商品製造販売事業者又はサービス事業者である(甲第193号証)。 2 引用標章1ないし引用標章3の著名性について 請求人提出の甲第47号証ないし同第53号証、甲第54号証ないし同第56号証、甲第59号証ないし同第68号証、甲第70号証ないし同第77号証、甲第100号証ないし同第106号証 甲第140号証ないし同第151号証 甲第153号証ないし同第157号証、甲第158号証ないし同第160号証、甲第191号証、甲第192号証、甲第107号証ないし同第127号証、甲第161号証、甲第163号証ないし同第176号証、甲第188号証及び甲第196号証によると、引用標章1である「がんばれ!ニッポン!」の文字は、前項1で述べたとおり、JOCが、オリンピック選手育成事業における選手強化キャンペーンのキャッチフレーズとして、また引用標章2及び引用標章3の構成中に配して、昭和54年以来、継続して、オリンピックの普及・啓発や選手の激励会等のイベント、また新聞雑誌の宣伝等の記事に使用されてきており、またJOCの定める公式マークである引用標章2は昭和54年ないし平成4年の期間、その後は引用標章3(平成5年以降)が継続的にキャンペーン関連のイベントや新聞雑誌に掲載されて使用されていることが認められる。 JOCは、オリンピックを始めとする国際総合競技大会の日本代表選手に対する応援を通して、選手団との一体感、感動の共有、会員同士の連帯感を図り、継続的なオリンピックファン、スポーツファンを作り上げることを目的として、2000年4月に個人会員組織日本代表チームサポーター「チーム がんばれ!ニッポン!」をスタートさせ(甲第35号証)、様々なイベントを企画運営し、オリンピックに関する情報を提供し、会員への情報誌を発行していること(甲第36号証及び甲第37号証)。 また、協賛企業も、引用標章1ないし引用標章3を、昭和54年以来、オリンピック選手への激励イベント、またオリンピック選手を起用した協賛企業の取り扱う商品や役務の宣伝広告や企業広告に使用し、又は商品自体にそれぞれ表示して使用していたものであり、協賛企業の取り扱う商品又は役務の分野も、前項1のd)のとおり、飲料、食品の分野の商品を含め相当の範囲のものに及んでいる。 さらに、平成4年2月及び同5年11月に、人気アイドルグループが「がんばれ!ニッポン!オリンピック強化キャンペーン」のイメージソングを発表し、オリンピックキャンペーンや協賛企業のコマーシャル等で使用されている(甲第11号証、同第90号証、同第187号証)。 しかして、引用標章1ないし引用標章3は、別掲1ないし3のとおりの構成であるところ、引用標章1は、「がんばれ!ニッポン!」の文字からなるものであり、また引用標章2及び引用標章3も、そのいずれも「がんばれ!ニッポン!」の文字を含む構成よりなり、その文字も顕著に表されていて、「ガンバレニッポン」と称呼され、オリンピックのキャンペーンのキャッチフレーズを表しているものと認識され得るものであり、いずれの引用標章も「がんばれ!ニッポン!」を基調とした標章となっているものと認められる。 以上からすると、「がんばれ!ニッポン!」の文字からなる引用標章1は、「がんばれ!ニッポン!」の文字を含む引用標章2(昭和54年ないし平成4年)又は引用標章3(平成5年以後)と共に使用がされ、昭和54年以来、「がんばれ!ニッポン!」の表示が一貫して継続的に使用されていて、少なくても、本件商標の登録出願以前には「がんばれ!ニッポン!」の表示はJOCが展開しているオリンピック選手育成・強化事業におけるキャンペーンを表す表示(キャッチフレーズ)として、国民の間に広く周知・著名となっていたものと認められるものである。 3 商標法第4条第1項第7号について 以上の事実よりすれば、JOCは、昭和54年以来、国家的事業として展開しているオリンピック選手育成強化事業におけるキャンペーンのキャッチフレーズとして「がんばれ!ニッポン!」を使用し、その「がんばれ!ニッポン!」の文字よりなる引用標章1及びその文字を含み顕著に表されている引用標章2又は引用標章3を継続的に使用し、またJOCから引用標章1ないし引用標章3の使用許諾を受けた協賛企業が協賛企業若しく参加企業であることを表すために継続的に使用してきた結果、引用標章1ないし引用標章3は、JOCが行うオリンピック選手育成強化事業ないしオリンピック・キャンペーンを表すものとして、少なくても、本件商標の登録出願時以前より、国民の間に広く知られた周知著名なものとなっていた標章であり、その周知著名性はその後も継続しているものと認められる。 そこで、本件商標についてみると、本件商標は、「がんばれニッポン」の文字よりなるものであるのに対し、「がんばれ!ニッポン!」の構成よりなる引用標章1及び「がんばれ!ニッポン!」の文字を含みそれが顕著に表されている引用標章2及び引用標章3と感嘆符「!」の有無の差異はあるとしても、「がんばれニッポン」の文字を同じくするものであり、かつ「ガンバレニッポン」の称呼及び「がんばれ日本」の観念を共通にする類似のものと認められる。 そして、被請求人の採択した本件商標「がんばれニッポン」は、JOCに係るオリンピック選手育成強化事業におけるキャンペーンのキャッチフレーズを表すマーク(各引用標章)に使用されている「がんばれ!ニッポン!」と偶然一致したものとは認めが難く、JOC及びJOCが展開しているキャンペーンの協賛企業が「がんばれ!ニッポン!」を使用していることを知り得て、本件商標を採択し登録出願したものと優に推認できるものである。 そうとすれば、被請求人が本件商標を登録出願した行為は、恰も、JOCの展開しているオリンピック選手育成強化事業のキャンペーンの協賛企業であると誤信させ、協賛企業の使用に便乗し、オリンピック又は国際スポーツ事業への援助及び参加選手の育成等JOCの事業に参加して、社会的に貢献していることの企業イメージを得ようとする意図をもってされたものといわざるを得ないものであるから、本件商標は、社会通念上商道徳に反するものであり、公正な商取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、しいては、公の秩序を害するおそれがあるものというべきである。 なお、被請求人は、本件商標を商品「日本酒」に使用している事実(乙第1号証及び乙第2号証)があり、また「がんばれ!ニッポン!」は一般的日本語であり、日本が他国との関係においてスポーツ、研究、芸術等あらゆる分野で競いあう場合、日本を応援する言葉として誰もが採択する可能性のある言葉である等と述べ、本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標でない旨主張している。 しかしながら、被請求人がすでに本件商標を使用している事実をもって、前記の判断を左右するものではない。むしろ、その商品に接した需要者はJOCのオリンピック選手強化のキャンペーンに参加している商品と誤認しているおそれが十分あるものとみられる。また、引用標章1の「がんばれ!ニッポン!」の語は、JOCが昭和54年以来、長期にわたり国家的事業であるオリンピック選手育成強化事業のキャンペーンを表す言葉(キャッチフレーズ)として全国で継続的に使用し、多数の協賛企業が相当な分野の商品等に使用して、国民の間に広く知られ、相当程度周知著名となっていることからすると、たとい、被請求人が主張するように「がんばれ!ニッポン!」の語が一般的な言葉であるとしても、本件商標に接する需要者及び一般国民が、上記認定のとおり、JOCが展開しているオリンピック選手育成強化事業におけるキャンペーン、少なくとも、JOCが国家的に展開しているオリンピックキャンペーンに参加しているものと認識するとみるのが自然であることからすると、被請求人の上記主張は採用できない。 したがって、本件商標は、商標法第4条1項7号に違反して登録されたものであるから、他の無効理由について判断するまでもなく、商標法第46条第1項の規定により無効とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 <引用標章1> ![]() <引用標章2> ![]() <引用標章3> ![]() |
審理終結日 | 2004-06-29 |
結審通知日 | 2004-07-01 |
審決日 | 2004-07-20 |
出願番号 | 商願平10-51207 |
審決分類 |
T
1
11・
22-
Z
(Z33)
|
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
宮下 正之 |
特許庁審判官 |
富田 領一郎 小川 有三 |
登録日 | 1999-09-03 |
登録番号 | 商標登録第4311653号(T4311653) |
商標の称呼 | ガンバレニッポン |
代理人 | 岡村 憲佑 |
代理人 | 川村 恭子 |
代理人 | 佐々木 功 |
代理人 | 畠 豊彦 |