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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200335007 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない Z33
審判 全部無効 観念類似 無効としない Z33
管理番号 1103304 
審判番号 無効2003-35006 
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-01-15 
確定日 2004-08-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第4514484号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4514484号商標(以下「本件商標」という。)は、「越後泉山菅名岳」の文字を毛筆風に縦書きしてなり、平成12年12月13日に登録出願、第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として平成13年10月19日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録第2554678号商標(以下「引用商標」という。)は、「菅名岳」の文字を縦書きしてなり、平成3年4月9日に登録出願、第28類「酒類(薬用酒を除く)」を指定商品として平成5年7月30日に設定登録され、その後、平成15年4月1日に商標権の存続期間の更新登録がされているものである。

第3 請求人の主張の要点
請求人は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として甲第1ないし第4号証を提出している。
1 請求人適格
請求人は、酒類の小売業を行っており、また無効請求の対象である本件商標の一部を構成している引用商標の商標権を有している。
したがって、請求人は、本件商標の使用に対して利害関係を有する。
2 本件商標登録の無効理由
(1)本件商標の検討
ア)本件商標は、毛筆文字で「越後泉山菅名岳」と一連に表示されている。そこで商標の類否判断の前提として、本件商標が指定商品に使用された場合に、取引指標としてどのように称呼、観念されるかを考察する必要がある。即ち、いくつかの語の組み合わせからなる商標は、常に必ずしも正確にその全体を以て称呼され或いは観念されて取引の指標となるとは限らず、簡易迅速を尊ぶ取引の実際から、商標構成中その一部が省略されたり、一部を取り出して称呼、観念される場合があることは、多数の審判決で認められている経験則である。
イ)本件商標全体を観察すると、一連の漢字7文字で構成されており、指定商品「酒類」の漢字商標として明らかに冗長といえる。また、商標全体を一連に「エチゴセンザンスガナダケ」「エチゴイズミヤマスガナダケ」と称呼した場合も、明らかに冗長といえる。漢字4文字の商標については、「『白山雲竜』の称呼『ハクサンウンリュウ』は、全体と一連に称呼するにはいささか冗長である」(平成4年12月15日最高裁三小判決:平成4年(行ツ)第35号)、「『宰府寒梅』により生ずる『サイフカンバイ』の称呼は冗長といえない」(平成11年5月27日東京高民18判:平成10年(行ケ)第318号)の認定例がある。これらを踏まえると、本件商標全体は、明らかに冗長である(理由1)。
ウ)本件商標は、「越後泉山菅名岳」と一連に表示されているが、「越後」「泉山」「菅名岳」の語句で構成されている。そして、「越後」は、周知の通り新潟県の地域を示す旧国名であり、「泉山」は、馴染みのある語ではないが、「泉のある山」を意味すると容易に推測できる。
さらに、「菅名岳」は、新潟県五泉市に存在する山の名称で、インターネットのYAHOO!JAPANによる検索でも954件(但し全部が山を示しているものではない)見いだされ(甲第3号証)、ある程度馴染みのある語といえる。
「越後泉山菅名岳」を素直に解釈すると、「越後の国に存在する泉のある山(越後泉山)である菅名岳」と観念される。そこで本件商標の一部が省略されどのように称呼、観念されて取引指標となるのかを推測すると、一般的に商標としての特別顕著性を有しないとされる産地販売地と認められる地名である「越後」を省略した「泉山菅名岳」(想定1)、全体を二分割した「越後泉山」(想定2)及び「菅名岳」(想定3)が想定される。
(想定1の検討)
「泉山菅名岳」は、「泉がある山の菅名岳」との観念が生ずるが、「センザンスガナダケ」「イズミヤマスガナダケ」は、称呼上冗長であることは明かである。しかも、指定商品(日本酒)において、「地名+○○」なる商標は多数使用されていることは顕著な事実であり、直裁的に「地名」を排除することは必ずしも適切ではない。逆に「越後泉山」から「エチゴセンザン」が、語呂が良く言いやすい言葉である。
(想定2及び想定3の検討)
「越後泉山」は、「越後の泉を有する山」の特定の観念が生じ、「菅名岳」は特定の山の名称を観念させる。
そして、日本語として「**山」「**岳」が山の名前の表現手段として確立しており、「**山+○○」という用語構成は、「寺院の名称」として馴染み深いものであるが、「○○」部分が寺院の名称とはいえない場合には、「**山+○○」が、日本語として馴染み深い構成であるとはいえない(理由2)。
指定商品「酒類(日本酒)」においては、山の名称が多数登録され使用されており、それらの商標は「**山」「○○岳」(**山が多数)と簡潔に表示されているのが多数である。このため本件商標から、商標(単語)として馴染み易い「越後泉山」や「菅名岳」という語が、分離して容易に認識される(理由3)。
また、請求人らが販売し、被請求人が製造している「日本酒」において、被請求人が引用商標の使用権限があるか否かに関わらず、前記の日本酒のラベルでは、「越後泉山」と「菅名岳」を分離して使用している(甲第4号証)。即ち、「越後泉山」が独立して取引指標となることを請求人及び被請求人らは共に認めていることになる。そうするとその裏返しとして「越後泉山菅名岳」から、「越後泉山」と「菅名岳」が分離して認識される可能性をも同時に認めていることになる(理由4)。
エ)したがって、本件商標からは、上記理由1ないし4により「越後泉山」や「菅名岳」が取引指標として把握され、称呼される場合があることは明かである。
(2)引用商標との類否
引用商標は、新潟県五泉市に存在する「菅名岳」を観念させ、「スガナダケ」の称呼が生ずる。
本件商標は、簡易迅速を尊ぶ取引の実際を考慮すると、必ずしも商標全体を一連に「エチゴセンザンスガナダケ」や「エチゴイズミヤマスガナダケ」の称呼のみで取り引きされるものではなく、上記のとおり「菅名岳」の部分が分離して取引指標とされるおそれが充分にあり、単に「スガナダケ」と称呼され取り引きされる場合も多い。
したがって、本件商標は、「スガナダケ」の称呼及び「菅名岳」の観念も生じ、引用商標と類似するものである。
(3)結語
以上のとおり、本件商標は、引用商標に類似し、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は同一又は類似であるから、商標法第4条1項11号に違背して登録されたものである。よって、その登録は無効とされるべきである。
3 弁駁の理由
(1)請求人適格について
被請求人は、引用商標と本件商標が類似しないことを理由に、請求人適格を否認している。しかし、商標が類似するか否かは審判における審理及び判断によって決せられるものであり、被請求人の主張は本末転倒である。本件審判請求人は酒類小売業を業としており、明らかに利害関係を有する。
なお、乙第1号証の判決は、請求人が弁理士で、利害関係を全く提示せず審判請求を行い、「公益的事由」を無効理由とした場合に、請求人適格の制限は排除されるとの主張を行ったのに対して、これを排斥したもので、本件審判とは全く別事情の判断であり、引用する余地もない。
(2)商標が類似することについて
(a)乙第2ないし第36号証との関係
ア)被請求人の主張について
被請求人は、乙第2ないし第36号証の各商標登録例を挙げて「本件商標が一連の表示及び称呼が可能であり、かつ、商標全体として冗長であるとはいえないと判断されるべきである。したがって、本件商標は『エチゴセンザンスガナダケ』又は『エチゴイズミヤマスガナダケ』のみの称呼が生じ、引用商標の称呼『スガナダケ』とは明らかに非類似である」と主張している。
しかし、本件商標と引用商標の類否は、本件商標を使用した商品が、取引に際して「スガナダケ」の称呼が生じ、商品出所の混同が生ずるおそれがあるか否かで判断されるもので、「本件商標が一連の表示及び称呼が可能であるか否か」は類否判断とは関連の無い主張である。また、一連の表示及び称呼が可能だからといって、当該一連の称呼のみが生ずることにはならない。
イ)商標の称呼について
商標の称呼が冗長であるか否かは、当該商標の構成から一体不可分に一連に商標が把握される場合であり、各商標個別に判断されるもので、単に語長が長い登録例が存在するとの理由をもって本件商標が取引において「スガナダケ」の称呼が生じない根拠とはならない。
審判請求書であげた最高裁判例や東京高裁の認定例は、酒類での商標において、称呼が冗長であるか否か判断がなされた例であり、「ハクサンウンリュウ」「サイフカンバイ」程度の語長であっても、冗長である否か問題となっているものである。この例から本件商標も充分に冗長である可能性が高いといえる。
そこで本件商標についてみると、「越後泉山管名岳」が、「越後」「泉山」「菅名岳」が互いに関連し合って一連の語句として認識される根拠が見いだせないので、必ずしも一連に称呼観念されるとは限らないし、単に「菅名岳」の観念並びに「スガナダケ」の称呼をもって取り引きされるおそれも充分認められる。
ウ)乙第2ないし第36号証について
商標の評価は、商標使用商品の取引の実情を考慮すべきである点から、商標が冗長であるか否かの参考例として、被請求人が提出した乙第2ないし第36号証のうち、本件商標の指定商品と関連のない商標は参考にならないし、また前述したとおり、商標の称呼が冗長であるか否かは、当該商標の構成から一体不可分に一連に商標が把握される場合であるから、各商標個別に検討されるべきである。
そこで提出された登録例をみると、指定商品が一致し、かつ、先後出願順が一致している例についてのみ、以下に請求人の意見を述べる。
「野尻湖黒姫高原」と「野尻湖/のじりこ」(乙第2及び第3号証)については、請求人は誤って登録された例であると思料する。
「六甲銘酒倶楽部」と「六甲」(乙第14及び第15号証)については、「**倶楽部」は一連に称呼観念され、「**」のみが独立して称呼されるものではないと認められる。
「美濃屋松五郎」と「松五郎」(乙第22及び第28号証)については、「**屋○○」という語句は、従前より屋号と名前の組み合わせから人を特定することに使用されている用語構成であるから、「美濃屋松五郎」の商標は一連に称呼観念される。
「越後鄙の雪蔵」と「雪蔵/ゆきぐら」(乙第30及び第31号証)については、「**の○○」という語句構成は、修飾語を使用する一般的手法であるから、修飾語を除外すると意味が不明になる場合があるので、通常は「**」を省略せず一連に称呼観念されると認められる。
したがって、被請求人が提出した乙第2ないし第36号証の登録例は、本件商標と引用商標の非類似の根拠とはならない。
(b)乙第37ないし第64号証について
ア)本件商標の観念
請求人は、本件商標からは、「越後の国に存在する泉のある山(越後泉山)である菅名岳」という観念が生ずることを指摘したが、しかし前記の単一の観念が一体的に一連に生じ、「越後の国に存在する泉のある山:越後泉山」や、単なる「管名岳」の観念が生じないとはいえないと指摘し、その根拠として語句としての馴染みがないので、一連に称呼観念されずに、馴染みやすい部分を捉えて称呼観念されると指摘したものである。
イ)乙第37号証について
乙第37号証の判決例は、必ずしも本件商標の直接の参考にはならないが、「二つの語が結合してなるものであっても、・・・二つの語のうち一方が日常使用されない特殊な語である等その語自体が特別顕著な印象を与えるとか、その称呼が全体として冗長であるなどの特段の事情がないときは、・・・」と判示している点を考慮すると、本件商標は、「**山○○岳」という馴染みのない組み合わせであり、逆に一連解釈して称呼観念する者が少数で、「越後泉山」と「菅名岳」を各別に称呼観念することが多数であると認められる。
ウ)乙第38ないし第53号証について
被請求人は、「**山」+「○○」の商標について乙第38ないし第53号証を提出しているが、本件商標の指定商品とする登録商標46624件中、「**山」なる商標は529件であり、「**山○○」は9件にすぎない。したがって、「**山○○」が馴染みのない表現形式であるといえる。
また、本件商標のように特に「**山」と「○○岳」の結合は全く存在しないし、結合自体が一般的ではない。
したがって、本件商標から、簡易迅速を尊ぶ取引の実際を考慮すると、必ずしも商標全体を一連に「エチゴセンザンスガナダケ」や「エチゴイズミヤマスガナダケ」の称呼のみで取り引きされるものではなく、前記したとおり「菅名岳」の部分が分離して取引指標とされる可能性が高いというべきである。
エ)乙第54ないし第64号証について
乙第54ないし第64号証は、商標中に「月山」の文字を含む登録例を示しているが、各商標は、「**月山」と冗長とは言えず、簡易迅速を尊ぶ取引の実際を考慮しても、「**月山」を単に「月山」と称呼して取り引きする可能性は低いというべきであり、本件商標の類否判断の参考例にはならない。
オ)乙第66及び第67号証について
甲第4号証を請求人も使用していること並びに乙第66及び第67号証の存在も否定するものではない。
しかしながら、「甲第4号証に示す商標態様については、請求人は他の会員に通知することなく、平成4年10月12日の公告を経て引用商標の権利者となり、『菅名岳』の使用とそこから生ずる利益を独占しようと目論んだ」と指摘しているが、乙第67号証の名簿に示されている会員には、請求人が引用商標の商標権者であることが十分に知られおり、上記の指摘は請求人に対する明らかな中傷である。
また、本件商標の審判請求は、「越後泉山」の登録無効を主張しているものではなく、請求人が所有する引用商標が含まれる本件商標の存在によって、引用商標の識別性が希釈化されるのを防止するために行ったものである。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論掲記のとおりの審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第67号証を提出している。
1 請求人適格について
請求人は、本件商標の使用に対して利害関係を有すると述べているが、後述する理由により、本件商標は引用商標と非類似の商標であるため、商標法第4条第1項第11号に違背して登録されたものではない。
したがって、請求人は本件商標権の無効審判を請求する利益を有せず、「利権なければ訴権なし」という民事訴訟上の原則により、本件請求人による無効審判の請求は不適法であるので、本件審判請求は却下されるべきである(乙第1号証:東京高裁平成11年(行ケ)第105号)。
2 商標法第4条第1項第11号に基づく無効理由について
(1)請求人は、本件商標は引用商標に類似し、本件商標の指定商品は引用商標の指定商品と同一又は類似のものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違背して登録されたものであり、無効とされるべきであると主張し、その根拠として、「平成4年12月15日最高裁三小判決:平成4年(行ツ)第35号」及び「平成11年5月27日東京高民18判:平成10年(行ケ)第318号」の2判決例を挙げている。
これらの判決から、商標が漢字のみで構成される場合、外観上4文字、称呼上8音以上であると称呼上・外観上冗長と判断され、商標構成中その一部が省略されたり、一部を取り出して称呼、観念される旨、請求人は主張したいものと類推するが、請求人が挙げた判決は一例に過ぎず、必ずしもこの様な判断基準が明確に存在するものではない。
なお、類似の商品を指定商品とするものにおいて、漢字4文字以上、称呼8音以上で一連称呼が生じると判断された審査例及びその商標構成中の一部が独立して並存登録している例は、「野尻湖黒姫高原」と「のじりこ\野尻湖」(乙第2及び第3号証)、「びぜんふくおかいちもんじ\備前福岡一文字」と「一文字」(乙第4及び第5号証)ほか、乙第6ないし第36号証のとおりである。
この中で特に乙第2、第4、第6、第8、第10、第14及び第16号証は、本件商標と同じ漢字7文字で一連に表示・称呼が可能であると認められた登録例であり、その根拠として乙第3、第5、第7、第9、第11ないし第13、第15又は第17号証が並存登録されていることが挙げられる。
さらに、乙第2及び第3号証、乙第8及び第9号証からは、漢字7文字からなる登録商標と、その登録商標構成中、地名等の名称からなる3文字の商標部分を用いた登録商標が並存している関係が読み取れ、ここから本件商標が一連の表示及び称呼が可能であり、かつ、商標全体として冗長であると必ずしもいえないと判断されるべきである。
したがって、本件商標は「エチゴセンザンスガナダケ」又は「エチゴイズミヤマスガナダケ」のみの称呼が生じ、引用商標の称呼「スガナダケ」とは明らかに非類似のものであるといえる。
(2)請求人は、本件商標を「越後の国に存在する泉のある山(越後泉山)である菅名岳」の観念が生じるものとしている。実際、新潟県五泉市に存在する菅名岳は泉を有する山である(甲第4号証)。
本件商標は、酒どころである新潟県を示す「越後」の文字部分からはその品質の良さを、「泉を有する菅名岳」の観念を生じる「泉山管名岳」の文字部分からは、そこから湧き出る清らかな水や清涼感に加えて品質の良さを感じさせ、本件商標全体で一体的な観念が生じているため、本件商標は称呼だけでなく、観念的にも一体不可分の商標であるといえる(乙第37号証:東京高裁昭和55年(行ケ)第366号)。
したがって、本件商標から生じる観念は、引用商標から生じる観念「菅名岳」とは非類似のものである。
なお、請求人は「日本語として『**山+○○』という用語構成は、『寺院の名称』として馴染み深いものであるが、『○○』部分が寺院の名称とはいえない場合には、『**山+○○』日本語として馴染み深い構成であるとはいえない。」と主張しているが、その根拠が明らかではない。なぜなら、ある商標が登録を受けるための審査基準として、「日本語として馴染み深い構成」であるかを問う必要はなく、むしろ個々の商標が商品識別機能を有し、特別顕著性を有するか否かが登録の審査基準になるものであるからである。
「**山+○○」という構成をもつ登録商標のうち、ビール又は酒類を指定商品とするもののみに限定しても、「由加山往来」、「富士山徐福」、「二波山松緑」、「越乃山都登」、「天王山竹林」、「八海山高原」といった登録例が存在する(乙第38ないし第43号証)。
さらに請求人は、「指定商品『酒類(日本酒)』においては、山の名称が多数登録され使用されており、それらの商標は『**山』『○○岳』(**山が多数)と簡潔に表示されているのが多数である。」と主張しているが、この主張と本件商標において「『越後泉山』や『菅名岳』という語が分離して容易に認識される」という主張の関連性が不明である。
確かに、指定商品「酒類(日本酒)」において「**山」と簡潔に表示された登録商標は多いが、乙第38ないし第43号証のように「**山」の前後に文字を有するものも数多くあり、「由加山往来」と「由加山」(乙第38及び第44号証)、「富士山徐福」と「富士山」(乙第39及び第45号証)ほか乙第46ないし第53号証に掲げる登録商標が並存している。これらの商標は、山の名前を使用した登録商標、及びその山の名前を商標構成中に有する登録商標が並存する例である。
さらに、「月山」(乙第54ないし第56号証)、「銀嶺月山」、「出雲月山」、「晶風月山」、「雪中\月山」、「霊峰月山」、「秀峰月山」、「エコー月山」、「出羽三山の月山」(乙第57ないし第64号証)といった登録商標が並存していることから、山の名称を用いた登録商標の権利者は、類似の商品を指定商品とするものにおいて、その山の名称を商標として使用する独占排他的な権利を有するものではなく、また、山の名称をその商標構成中に有するものにおいて、その山の名称の部分は独立分離して認識されるものではなく、全体で一体不可分の商標として認識されるべきものだといえる。
したがって、本件商標において「越後泉山」や「菅名岳」という語が分離して容易に認識されるという請求人の主張は全くの誤りである。
さらに、請求人の主張するように、指定商品「酒類(日本酒)」において「**山」「○○岳」と簡潔に表示された登録商標が多数存在することから、ある商品の出所識別性を判断する際、称呼上又は観念上の差異のみでなく、乙第54号証と乙第55号証の並存登録例のように外観上の差異が重要になってくるものである。
本件商標は行書体で「越後泉山菅名岳」と縦書きに漢字7文字で一連に書されているのに対し、引用商標は明朝体で「菅名岳」と縦書きに漢字3文字で書されている。また、本件商標と引用商標の「菅名岳」の部分のみを比較した場合でも、本件商標が行書体であるのに対して、引用商標が明朝体と明らかに異なっているため、本件商標と引用商標は外観上、非類似である。
なお、本件商標は、「泉やブナの原生林を有する菅名岳」をイメージして書された文字商標であるため、活字で書された引用商標と異なり、そこから菅名岳のもつ観念をも想起させるという相乗効果を持つものである。
したがって、本件商標と引用商標は外観上、明らかに非類似のものである。
(3)請求人は、「請求人が販売し、被請求人が製造している『日本酒』において、被請求人が引用商標の使用権限があるか否かに関わらず、前記の日本酒のラベルでは、『越後泉山』と『菅名岳』を分離して使用している(甲第4号証)。即ち『越後泉山』が独立して取引指標となることを請求人及び被請求人らは共に認めていることになる。そうするとその裏返しとして『越後泉山菅名岳』から、『越後泉山』と『菅名岳』が分離して認識される可能性をも同時に認めていることになる。」と主張している。
しかしながら、本件商標は同一大きさの7文字を一連に縦書きしてなるものであるので、本件と関係のない甲第4号証を引用しての請求人の主張は当たらない(乙第65号証)。
ところで、請求人が引用した甲第4号証に関し、請求人は、被請求人と新潟県五泉市市内の35の酒販店とともに平成4年に発足した「越後泉山会」と称する会(乙第66及び第67号証)の会員(発足時の会長でもあった)であって、その会則に基づいて、被請求人の製造する清酒に「菅名岳」という商標を付して販売することにして、甲第4号証に示すパンフレットに掲載されている態様で使用してきたもので、請求人自らも使用していたにすぎない。
この甲第4号証に示す商標態様について、請求人は他の会員に通知することなく、平成4年10月12日の公告を経て引用商標の権利者となり、「菅名岳」の使用とそこから生じる利益を独占しようと目論んだのである。
以上の事実から、請求人は、本件商標の無効を請求しても何らの利益を有しないばかりか、自ら属する上記「越後泉山会」の利益を損なわせるものであり、請求人が無効審判を請求した意図が全く理解できないものである。
したがって、本件審判請求に関しては、以上の経緯も勘酌して判断されるべきである。
3 結論
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼上、観念上、外観上ともに非類似の商標であるため、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。

第5 当審の判断
1 請求人適格について
本件審判請求に関する請求人適格について当事者間に争いがあるので、先ず、この点について判断する。
本件審判は、引用商標の商標権者である請求人が、本件商標と引用商標とが類似するものであることを理由として、本件商標の登録の無効を求めるものである。
してみれば、請求人は、自己の商標の障碍たる本件商標を排除しようとするものであって、本件審判の請求をする法律上の利益を有することが明らかであるから、本件審判請求について請求人適格を有するものといえる。
2 本件商標と引用商標との類否について
本件商標は、第1の項で述べたとおり、同書、同大の文字をまとまりよく毛筆風に縦書きしてなるものであり、いずれの文字も軽重の差なく、外観上、一体的に看取されるものであるばかりでなく、全体の構成が極めて冗長というほどのものでもないというべきであって、これから生ずると認められる「エチゴセンザンスガナダケ」又は「エチゴイズミヤマスガナダケ」の称呼も語呂良く一気一連に称呼し得るものである。そして、かかる構成において「菅名岳」の文字部分のみを抽出して観察しなければならない格別の理由も見出し難いものである。つまり、「菅名岳」は実在する山の名称としてある程度知られているとしても、本件商標にあっては「菅名岳」の文字が全体に融合しており、観念上も、両当事者が述べるように、全体として「越後の国に存在する泉のある山である菅名岳」ほどの意味合いを想起せしめるものというべきである。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「エチゴセンザンスガナダケ」又は「エチゴイズミヤマスガナダケ」の一連の称呼のみを生ずるものというべきである。
この点に関し、請求人は、本件商標の一部が省略されて称呼、観念されるとして、本件商標の構成部分をいくつかに分離分断して種々述べている。
しかしながら、本件商標の指定商品を取り扱う分野において、現実に本件商標の一部が省略されて取り引きされている事実は見出し得ないし、請求人もその証左を提出していない。むしろ、日本酒等を取り扱う分野においては、相当程度長い構成からなる商標であっても、一部省略されることなく一連に称呼、観念され、取引に資されている実情があることからすると、簡易迅速を尊ぶ取引の実際を考慮したとしても、本件商標は「スガナダケ」(菅名岳)とのみ簡略称呼、観念され、取引に資されるというべきではないから、請求人の主張は採用することができない。
一方、引用商標は、その構成に照らし、「スガナダケ」の称呼及び山名としての「菅名岳」の観念を生ずるものである。
しかして、本件商標から生ずる「エチゴセンザンスガナダケ」又は「エチゴイズミヤマスガナダケ」の称呼と引用商標から生ずる「スガナダケ」の称呼とは、「エチゴセンザン」又は「エチゴイズミヤマ」の音の有無により明瞭に区別できるものであり、両商標から生ずる観念も、上記のとおり、別異のものである。また、両商標は、それぞれの構成からして、外観上区別し得る差異を有するものである。
してみれば、本件商標と引用商標とは、称呼、観念及び外観のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似するものではなく、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではないから、その登録を無効にすべきものではない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2004-06-29 
結審通知日 2004-07-01 
審決日 2004-07-20 
出願番号 商願2000-134202(T2000-134202) 
審決分類 T 1 11・ 263- Y (Z33)
T 1 11・ 262- Y (Z33)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀内 仁子 
特許庁審判長 宮下 正之
特許庁審判官 富田 領一郎
小川 有三
登録日 2001-10-19 
登録番号 商標登録第4514484号(T4514484) 
商標の称呼 エチゴセンザンスガナダケ、エチゴイズミヤマスガナダケ、センザンスガナダケ、イズミヤマスガナダケ、スガナダケ 
代理人 近藤 彰 

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