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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z31
管理番号 1099869 
審判番号 無効2000-35715 
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-12-29 
確定日 2004-06-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第4285395号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4285395号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4285395号商標(以下「本件商標」という。)は、昭和50年6月13日に登録出願された昭和50年商標登録願第73323号登録出願を2度にわたり分割し平成10年商標登録願第28373号となった登録出願に係る商標であって、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、第31類「つゆの素,だしの素,みりん風調味料,オイスターソース」を指定商品として、平成11年6月18日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人が、本件商標の登録無効の理由に引用する登録第85292号商標(以下「引用A商標」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成よりなり、大正6年2月25日に登録出願、第39類「味淋」を指定商品として、同6年4月27日に設定登録、その後、5回にわたり商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。同じく、登録第980690号商標(以下「引用B商標」という。)は、別掲(3)に示すとおりの構成よりなり、昭和38年9月4日に登録出願、第28類「酒類(薬用酒を除く)」を指定商品として、同47年9月18日に設定登録、その後、2回にわたり商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第18号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)引用各商標の著名性について
(ア)引用各商標と社会通念上の同一性を有する「寳」商標の著名性
請求人は、大正14年(1925年)9月設立の酒造メーカーである(甲第3号証)。かかる長い歴史を有する請求人が今日に至るまで使用している「寳」商標については、最高裁判所が「タカラ」なる称呼及び観念を生じる商標として、「みりん、焼酎」について著名であると認定している(昭和41年2月22日判決昭和38年(オ)第914号:甲第4号証)。
このように既に著名性が認定されている「寳」商標と引用各商標とは、称呼及び観念において明らかに同一であって社会通念上同一視できるものであり、需要者、取引者は「みりん、焼酎」について使用される「タカラ」商標に接すれば、著名商標である「寳」を容易に連想する。してみれば、「寳」商標の著名性は「みりん」について使用されている引用各商標に継承されているとみるべきである(前掲最高裁判決昭和38年(オ)第914号)。
次に、請求人は、前掲最高裁判決日以降、すなわち、昭和41年2月以降においても、同裁判所が認定した「『寳』商標は、『タカラ』の称呼及び観念を生じるものとして『みりん、焼酎』について著名である」との事実が、引用各商標に吸収され、益々その著名性を高めていることを、以下において、立証する。
(イ)引用各商標の使用
引用各商標はともに、遅くとも昭和44年より、「みりん」(以下「タカラ印商品」という。)について継続的に使用されており、同年から現在に至るまでの使用態様は、請求人製品カタログ(甲第5号証の1ないし17)に示すとおりである。
(ウ)タカラ印商品の宣伝広告の事実
上述のとおり、引用各商標は、「みりん」について、少なくとも30年間もの長期間にわたって使用されてきたものであり、本件商標の登録査定(起案日:平成11年5月21日)前におけるタカラ印商品の宣伝広告について例示すると、以下のとおりである。
(a)テレビコマーシャル
例えば、平成9年4月1日から同月27日まで及び平成10年3月25日から同年4月21日までの間に、タカラ印商品のテレビコマーシャルが北海道から九州に至る各地方で放映された(甲第6号証ないし甲第10号証)。
(b)新聞広告
例えば、平成9年4月22日から同月24日、同年10月30日、同年11月3日、平成10年4月5日から同月11日及び同月17日から22日までの間に、所謂五大紙のほか、「北海道新聞」「中日新聞」等の地方紙にも、タカラ印商品の広告が掲載された(甲第11号証)。
(c)雑誌広告
例えば、平成9年4月17日から同10年9月1日まで繰返し、我が国で広く購読されている「ESSE」「オレンジページ」「きょうの料理」「Dancyu」等の雑誌にタカラ印商品の広告が掲載された(甲第12号証及び甲第13号証)。
(d)まとめ
以上から容易に推認されるように、請求人は、本件商標の登録査定(平成11年5月21日)前まで、少なくとも30年間もの長期間にわたって、相当の宣伝費用を費やし、タカラ印商品をテレビ、新聞及び雑誌を通じて大々的に宣伝してきた。
(エ)タカラ印商品の販売高・販売金額
タカラ印商品の販売高・販売金額は、請求人会社の「有価証券報告書」(甲第14号証の1ないし18)に明示されているとおりであり、第56期(昭和41年4月〜同42年3月)から第89期(平成11年4月〜同12年3月)までの総販売高は約107万キロリットルであり、総販売金額は約4443億円にのぼる。第56期(昭和41年4月〜同42年3月)には、9445キロリットルであったタカラ印商品の販売高は、本件商標の登録査定(平成11年5月21日)前の第88期(平成10年4月〜同11年3月)には、3万9566キロリットルと、4倍以上の伸びとなっている。
また、タカラ印商品の販売金額についてみても、第56期(昭和41年4月〜同42年3月)には、約24億7150万円であったが、本件商標の登録査定(平成11年5月21日)前の第88期(平成10年4月〜同11年3月)には、約168億0400万円となっており、約7倍の伸びとなっている。なお、このように、販売高が4倍以上の伸びを示していることより、貨幣価値の変動を考慮しても、販売金額の伸びが4倍以下にならないことは明白である。
前掲「有価証券報告書」(甲第14号証の1ないし18)及び上記に示した販売高は、キロリットルを単位としているが、これを家庭向けの標準サイズとして販売される1リットル容器に換算して、販売本数を示すと、例えば、第85期(平成7年4月〜同8年3月)の販売本数は、1リットル入り容器で約3856万本に及んでいる。ちなみに、平成7年10月1日現在のわが国の世帯数は4407万2480世帯であるから(甲第15号証の1)、同年には、1世帯あたり、1リットル入りのタカラ印商品を約0.87本購入し、使用していた計算になる。また、本件商標の登録査定(平成11年5月21日)前の第88期(平成10年4月〜同11年3月)の販売本数は、1リットル入り容器で約3956万本に及んでいる。ちなみに、平成11年3月31日現在の我が国の世帯数は4681万1712世帯であるから(甲第15号証の2)、同年には、1世帯あたり、1リットル入りのタカラ印商品を約0.84本購入し、使用していた計算になる。そして、平成7年及び同11年のいずれの時期においても、タカラ印商品の容器には目立つように「タカラ」及び「寳」と表示されていたことは、請求人カタログ「Takara製品のご案内」95年版、「Takara Product Guide Takara製品のご案内」から明らかである(甲第5号証の13及び同15)。
してみれば、上記事実より、需要者、取引者間で「タカラ」及び「寳」が請求人の商品「みりん」の出所を表示するものとして、広く認識されていたことが容易に推認される。
(オ)タカラ印商品の市場におけるシェア
タカラ印商品は、本件商標の出願(昭和50年6月13日)前より、登録査定時(平成11年5月21日)に至るまで、約33年間もの長期間にわたって、市場において高いシェアを占め続けていたことは、(株)日刊経済通信社調査部編「酒類食品産業の生産・販売シェア=需給の動向と価格変動=」昭和47年版52頁表2-18「本みりんの生産集中度」、同昭和52年版84頁表4-24「本みりん生産(出荷)集中度」、同昭和56年版102頁表4-25「本みりん生産(出荷)集中度」、同昭和62年版128頁表4-28「本みりん生産(出荷)集中度」、同平成3年版134頁表4-29「本みりん生産(出荷)集中度」、同平成7年版117頁表4-27「みりん一種生産(出荷)集中度」、同平成11年版122頁表4-31「みりん一種生産(出荷)集中度」(甲第16号証の1ないし7)に示されているとおりである。なお、「酒類食品産業の生産・販売シェア=需給の動向と価格変動=」の表中の表された年度表示で表される期間は、同年10月から翌年9月までである。
すなわち、請求人のタカラ印商品は、本みりん(みりん一種)市場において、昭和41年度には67.9%、昭和44年度には64.9%、昭和47年度には57.2%、昭和50年度には61.5%、昭和53年度には60.0%、昭和56年度には58.9%、昭和59年度には59.4%、昭和62年度には59.4%、平成2年度には58.7%、平成5年度には54.6%、平成8年度には51.2%、平成10年度には48.8%と、高いシェアを維持している。そして、甲第16号証より明らかなように、タカラ印商品は、少なくとも、昭和40年度から平成10年度まで、30年以上にわたり、本みりん(みりん一種)市場において、第1位のシェアを維持しており、第2位(シェア約19〜25%)と比べても、約2倍〜3.5倍という圧倒的に高いものである。
このように、市場での約33年間という長期間にわたる継続的な高いシェアは、需要者、取引者間で「タカラ」が請求人の商品「みりん」の出所を表示するものとして、いかに広く認識されているかを如実に表わすものである。
(カ)まとめ
以上より、引用各商標が、本件商標の出願(昭和50年6月13日)前より、登録査定時(平成11年5月21日)に至るまで、商品「みりん」について著名であったことは明らかである。
(2)混同のおそれについて
(ア)「みりん」についての一般需要者の認識
タカラ印商品、すなわち「みりん」は、「酒類」に属するものであるが、その主たる需要者は、プロの料理人や主婦等の料理を担当する者であり、料理の際に、煮物やつゆ等に旨みとともに甘味を加えたり、焼物等に照りを付ける等の目的で使用される。かかる「みりん」の用途から、一般的な需要者は、「みりん」を「調味料」の一種と認識していると推認される。
(イ)本件指定商品と「みりん」との関連性
上述のとおり、一般需要者は、「みりん」を「調味料」の一種と認識して、使用している。
加えて、本件指定商品中「みりん風調味料」は、「みりん」よりも安価であることから、「みりん」の代用品として使用されているのが実情である。また、本件指定商品中「つゆの素」は、これらを使って汁を作る場合でも、好みに合わせて、こくや旨みを増すために、「みりん」が使われる。さらに、指定商品中「だしの素」は、手間をかけずに、だしを作るために使用されるが、「だしの素」を使って作っただしは、通常、これに、「醤油、砂糖」等とともに、「みりん」を加えて、煮物やそばつゆ等を作るために使用される。そして、「みりん」は、日本料理に限らず、さまざまな料理に使用されるものであり、本件指定商品中「オイスターソース」とともに使用されることもある。
してみれば、本件指定商品と「みりん」とは、需要者、用途を共通にするものであり、両者の間に密接な関係を有する。
(ウ)まとめ
以上より、「みりん」について著名な引用各商標と同一の「タカラ」からなる本件商標を、被請求人がその指定商品に使用すると出所について混同を生ずるおそれがある。
(3)結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録は無効とされるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件商標の周知・著名性の不存在
(ア)被請求人は、本件外登録第120188号商標「宝」、登録第120189号商標「寶」他が被請求人の業務に係る「醤油」を表示する商標として取引者、需要者間に広く知られていると主張する。
しかしながら、請求人が知り得るかぎり、前記本件外商標が「醤油」について、取引者、需要者の間で広く知られているとは到底思料し難い。たとえ、前記本件外商標中「寶」又は「宝」の文字よりなる商標が安永元年(1772年)から現在に至るまで「醤油」について使用されてきたとしても、そのことが直ちに本件商標の無効理由を排除するものではない。けだし、上記「寶」又は「宝」の文字よりなる商標の「醤油」についての長年にわたる使用の事実と、「つゆの素,だしの素,みりん風調味料,オイスターソース」を指定商品とする本件商標の無効理由との間には何ら直接的関係はないからである。
(イ)また、被請求人は、本件外登録第802099号商標「TAKARA」、登録第2724216号商標「宝」他は盛大に使用された結果、被請求人の業務に係る「食酢,ウースターソース,ケチャップ,マヨネーズソース,ドレッシング,酢の素,ホワイトソース」を表示する商標として取引者、需要者間に広く知られていると主張する。
しかしながら、何ら具体的な立証をせずに「盛大に使用された」と主張するのみでは、その使用期間さえ不明であり、請求人が知り得るかぎり、前記「TAKARA」又は「宝」からなる商標が「食酢,ウースターソース,ケチャップ」等について、取引者、需要者の間で広く知られているとは到底思料し難い。
ちなみに、請求人としては、本件商標が「食酢,ウースターソース,ケチャップ」等について取引者、需要者の間で広く知られているとの被請求人の主張の根拠は、カタログ及びちらしを少部数、数種類作成したことがあるという程度のもので、しかも、その頒布数量も「盛大」といえるには程遠いものであると認識している。
(ウ)もし、被請求人が、本件商標が「つゆの素,だしの素,みりん風調味料,オイスターソース」について取引者、需要者の間で広く知られていると主張するのであれば、電波媒体による広告をした事実を明示されたい。特に、テレビコマーシャルは、一般に、情報の伝達に関して強制的浸透力を有し、効果的であるとされるが、請求人は、本件商標を使用した被請求人の「つゆの素,だしの素,みりん風調味料,オイスターソース」のテレビコマーシャルに接したことがない。
なお、被請求人が本件商標を付した「つゆの素,だしの素,みりん風調味料,オイスターソース」の商品カタログを数十点頒布しただけでは、本件商標の出願日(昭和50年6月13日)前から本件商標が引用各商標の著名性を凌駕するほど著名であるとは到底いえない。
(2)「みりん」と本件指定商品との関連性に関する被請求人の詭弁
(ア)被請求人は、「みりん」が酒税法上「酒類」に分類されるのに対して、本件指定商品中「みりん風調味料」が酒税を課されない「調味料」に分類されることをもって、直ちに「みりん」と「みりん風調味料」との関連性が否定されるわけではない。けだし、かかる区別は、課税上の問題にすぎないからである。
一方、「みりん」と「みりん風調味料」に対する需要者の認識如何に焦点を当てれば、両者はともに、「略同効の調味料」として認識され、使用されているのが実情であり、何人もこれを否定することはできない。なお、被請求人提出の「食材図典」334頁「みりんの種類」の欄にも「食品に分類されているみりん風調味料は、高濃度の糖類液にアミノ酸などの調味料を加えたアルコール分を含まない味醂類似の液体で」ある旨明示されている(乙第12号証)。また、被請求人提出の「調味料・香辛料の事典」321頁8行目ないし9行目には、「一般消費者において,酒類であるみりんと醗酵性調味液やみりん風調味料などのみりん類似調味料とは,ほとんど区別されることなく使用されている」と記載されている(乙第13号証)。
(イ)答弁書で被請求人が述べているように、平成8年の「みりん」の販売に関する規制緩和措置により「みりん小売業免許」を取得した者により販売が可能となった後、現在に至るまで、「みりん」は、酒販店のみならず、上記免許を取得したスーパーマーケット、コンビニエンスストア等でも販売されていることは明らかな事実である。加えて、スーパーマーケット等において、「みりん」が販売される場合には、本件指定商品「つゆの素,だしの素,みりん風調味料,オイスターソース」と同様に、いわゆる「調味料」コーナーで販売されることも少なくない。
ちなみに、本件商標がその出願日(昭和50年6月13日)当時において、商標法第4条第1項第15号に該当していたか否かの判断は、引用各商標が昭和50年6月13日以前に我が国で著名となっていたか否かの事実を認定してなされるべきものであって、前記平成8年の規制緩和措置とは直接関係のないことである。
(ウ)「みりん」が、本件指定商品中「つゆの素」の原材料であることは、被請求人も認めているところである。
(エ)小括
本件指定商品「つゆの素,だしの素,みりん風調味料,オイスターソース」と「みりん」とは、ともに調味に使用されるものであり、その用途、需要者を共通にする互いに極めて密接な関連性を有する商品である。
なお、工藤莞司著「実例でみる商標審査基準の解説 第三版」(甲第17号証)に明記されているとおり、商標法第4条第1項第11号が一般的、類型的に生ずる出所の混同のおそれを対象としているのと異なり、請求人が本件審判請求の根拠とする同法第4条第1項第15号においては、具体的な著名商標との関係等、個別具体的な事情の下での出所の混同のおそれを対象とするものである。
したがって、商標法第4条第1項第15号においては、非類似商品であるとしても、販売者、用途、需要者等における共通性ないしは関連性があり、商品間に密接な関係が認められれば、出所の混同を生ずるおそれがあることを否定することはできない。このことは、東京高裁昭和63年(行ケ)第100号平成1年3月14日判決において、「同一の用途に使用されるような商品同士であれば、原告主張のような共通要素がなくとも出所の混同を生ずるおそれのあることは否定できない」と説示されているところである(甲第18号証)。
してみれば、本件指定商品と「みりん」はともに、調理という同一の用途に使用されるから、本件商標をその指定商品に使用しても出所の混同を生ずるおそれがないとは到底いえない。
(3)結語
本件商標の出願日(昭和50年6月13日)前からの「みりん」についての引用各商標の著名性と、本件指定商品「つゆの素,だしの素,みりん風調味料,オイスターソース」と「みりん」との間に極めて密接な関連性があることを合わせ考えれば、本件商標の登録査定時のみならず、その出願時においても、本件商標をその指定商品に使用すると出所の混同を生ずるおそれがあったことは明らかである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第28号証を提出した。
1 理由
(1)被請求人の前身は野田の高梨兵左衛門であって、寛文元年(1661年)に「醤油」の製造を始め(乙第1号証及び乙第2号証)、安永元年(1772年)から「宝」及び「寶」の各商標を「醤油」に使用し始めたものである(乙第2号証)。
そして、天保11年(1841年)制作の「関東醤油古番付」には、前頭の欄として「宝・高梨兵左衛門」の名が、また幕末制作の「関東醤油古番付」には、行司の欄に「寶・高梨兵左衛門」の名が見られるものである(乙第2号証)。
(2)そして、商標登録制度ができるや高梨兵左衛門(代々襲名)は、「醤油」を指定商品として、「宝」の文字よりなる商標を登録第241号(更新により登録第120188号となる。)として、「寶」の文字よりなる商標を登録第242号(更新により登録第120189号となる。)として登録したものである(乙第3号証及び乙第4号証)。
その後、高梨、茂木一族八家の大合同に伴い、野田醤油株式会社に登録名義を変更し、さらに被請求人(宝醤油株式会社)にその名義が変更されたものである。
この商標登録は、明治17年10月1日施行の太政官布告第19号商標条例第1条によれば、商標権の存続期間は、登録の日から15年であるから、登録第241号商標の登録は明治18年6月ということになる。
すなわち、上記商標は、我が国に商標登録制度が施行されてすぐに第37類「醤油」を指定商品として出願され、登録されたものであり、明治33年に第69類「醤油」として更新登録され、大正9年に第41類「醤油」として更新登録され、以後昭和15年、同34年、同55年、平成2年、同12年に更新登録されて現在に至るものであって、登録後110年を経ているものである。
すなわち、被請求人は、「宝」、「寶」の文字よりなり、「タカラ」と称呼される商標を「醤油」について約230年もの長きにわたって使用を継続しているものであり、「宝」、「寶」、「タカラ」といえば被請求人の取扱業務に係る商品を表示する商標として取引者、需要者間に広く知られているものである。
(3)また、被請求人は、前述の登録商標の外に乙第5号証ないし乙第10号証の登録商標を保有し、盛大に使用しているものである。
これらの商標は、「宝」、「TAKARA」、「タカラ」の文字よりなり、又は「タカラ」の文字をその主要部としてなるものであって「タカラ」の称呼を生じるものであり、これらの登録商標も盛大に使用された結果、被請求人の取扱業務に係る商品を表示する商標として取引者、需要者間に広く知られているものである。
(4)被請求人は、焼き鳥のたれ、蒲焼きのたれ等の各種調味用たれ及びそばつゆ、出汁つゆに用いられる調味用つゆを製造、販売するとともに、そばつゆ、出汁つゆに用いられる「つゆの素、だしの素」等の商品をも製造、販売しているものであるが、「つゆの素」は醤油をベースに出汁、うまみ調味料、みりん、酒などを加えて作ったもの、みりんと醤油に砂糖を加えて煮立たせたものに出汁を加えて調合したもの若しくは煮出し汁に醤油・酒・砂糖等で調味したもの等である。
「だしの素」は昆布、鰹節等から作られるうまみ調味料である。
「オイスターソース」は、牡蠣を塩漬け発酵させたものの上澄み液又は牡蠣エキスに砂糖や醤油などを加えて作った中華風調味料である(乙第11号証)。
「みりん風調味料」は、食品に分類されるもので、アルコール度1%未満のもので、アルコール発酵がなく、アルコール存在下における糖化・熟成工程もほとんど有しないものであり、糖、アミノ酸、有機酸などを混合して製造されるもので、みりんや発酵調味液などの醸造調味料とは、その種類を全く異にするものである(乙第12号証ないし乙第14号証)。
そうしてみると、本件商標の指定商品は、醤油をベースとした「塩味料」及び「うまみ調味料」、「中華風調味料」、食品に分類される「甘味料」というべきものである。
そして、本件商標の指定商品は、主として醤油メーカー又は食品メーカーによって製造され、一般の食料品店で販売されているものである。
これに対して、「みりん」は、焼酎又はアルコールに米麹と餅米を原料として醸造した甘い酒であって、砂糖よりも高級な「甘味料」として日本料理の甘味付けに用いられるものである。
そして、「みりん」は、酒類に位置づけられ、酒税法により許可を受けた者が製造、販売できるもので、その販売店は、所謂酒屋での販売が大半を占めていたものである。
そして、平成8年の販売に関する規制緩和措置がなされた後も、「みりん小売業免許」を得た者が販売できるというように、酒税法により販売店が規制されている商品である。
そして、「みりん」が酒類に位置づけられていたことは、請求人の提出に係る甲第14号証の1ないし18(有価証券報告書)の内容を詳細に見れば、請求人の第83期の有価証券報告書までは、「みりん」が酒類に分類されていることから見ても明らかである(なお、第85期の有価証券報告書から、「みりん」を「調味料」に分類しているが、酒税法上は「酒類」である。)。
(5)以上述べたように、商標「宝」、「寶」は、被請求人が長年にわたって調味料である醤油に使用してきた商標であり、我が国の商標登録制度の施行後すぐに登録され、醤油に使用してきた商標であって、「宝」、「寶」、「タカラ」といえば被請求人の取扱業務に係る調味料たる「醤油」を表示する商標として取引者、需要者間に広く知られているものであること、被請求人は、「ソース及び酢の類」「しょうゆ、食酢、ウースターソース、ケチャップ、マヨネーズソース、ドレッシング、酢の素、ホワイトソース」等の調味料を指定商品として「宝」、「タカラ」、「Takara」の文字よりなり、若しくはこれらの文字を主要部とする登録商標を保有し、これらも被請求人によって盛大に使用された結果、被請求人の業務に係る調味料を表示する商標として取引者、需要者間に広く知られているものであること、本件商標の指定商品は、醤油をベースとした「塩味料」及び「うまみ調味料」、「中華風調味料」、食品に分類される「甘味料」というべきものであり、請求人の業務に係る酒類に分類される「甘味料」としての「みりん」とは、その製法、原材料、用途、用法、販売店を異にする商品であり、かつ、本件商標の指定商品は、主として醤油メーカー、食品メーカーによって製造され、一般の食料品店で販売されるものであるのに対して、請求人の業務に係る「みりん」は、酒税法の規制のもと、主として酒類メーカーによって製造され、酒の小売業免許を得た者のみが販売できることから主として酒屋で販売されるというように、販売場所も異なることが多い商品であることからすれば、本件商標をその指定商品について使用しても、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれはないというのが相当である。
(6)「宝」の文字は、「貴重な品物、大切な財物、宝物、財宝、金銭、財貨」を意味し、縁起の良いものとされ、以前より多くの者によって商標として採択され、使用されてきた文字であり、現在も様々な会社によって「宝」、「タカラ」、「TAKARA」の文字よりなり、若しくはこれらの文字を有する商標が多く登録され、使用されているものであり、このことは一般の需要者にも広く理解、認識されていることからすれば、なおのこと混同を生じるおそれはないというべきものである。
(7)上述した被請求人の主張については、商標登録第2724213号(商願昭50-73324号、商公昭58-2206号)及び商標登録第2724216号(商願昭50-101277号、商公昭58-53331号)の商標が、出願公告後に請求人より本件審判事件における理由と同様の理由をもって登録異議の申し立てがなされ、その異議の理由により異議決定がなされ、出願が拒絶され、その査定不服審判事件(平成8年審判第10954号及び平成8年審判第10955号)において、いずれも他人(登録異議申立人・本件審判の請求人)の業務に係る商品と混同を生じるおそれはないと判断され、「登録すべきものとする」とする審決がなされていることから見ても、被請求人の主張は、極めて妥当なものである。
(8)したがって、本件商標をその指定商品について使用しても、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれはないから、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたとはいえないものである。
よって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきものでない。
(9)なお、請求人は、本件商標の登録査定時には、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当すると主張しているが、上記で述べたとおり、現時点においても、本件商標をその指定商品について使用しても、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれはないというべきものであり、かつ、同法第4条第1項第15号の規定の適用は、同法第4条第3項により、出願時に該当しないものについて適用しないとされていることから、この点に関する請求人の主張は、採用されるべくもないものである。
2 弁駁に対する答弁
(1)被請求人の業務に係る商品についての商標の長年にわたる使用の状況及びその周知性について
(ア)被請求人は、平成13年3月16日付けの「審判事件答弁書」において述べたとおり、その前身である野田の高梨兵左衛門が寛文元年(1661年)に「醤油」の醸造を始め、安永元年から「宝」、「寶」の商標を使用し始め、天保11年制作の「関東醤油古番付」には、前頭の欄に「宝・高梨兵左衛門」の名が、また、幕末の「関東醤油古番付」には、行司の欄に「宝・高梨兵左衛門」の名が見られるというように、古来より我が国のこの種商品の分野では広く知られていたというべきものである(乙第1号証及び乙第2号証)。
特に江戸時代から明治時代にかけては、政治、経済、文化の中心は、江戸・東京にあったものであることからすれば、単に使用しているだけでなく、このような番付に掲載されるということは、業界内はもとより一般にも広く知られていたというべきものである。
(イ)そして、明治に至って、我が国に商標登録制度ができるや、「宝」の文字よりなる商標を登録第241号(更新により登録第120188号となる。)として、「寶」の文字よりなる商標を登録第242号(更新により登録第120189号となる。)として登録し、以来今日まで、長年にわたって継続して使用してきたものである(乙第3号証及び乙第4号証)。
(ウ)また、被請求人は、前述の登録商標の外に「宝」、「TAKARA」、「タカラ」の文字よりなり、または「タカラ」の文字を主要部とする登録商標を保有しているものである(乙第5号証ないし乙第10号証)。
(エ)被請求人は、これらの登録商標をその指定商品中の商品について、長年にわたって使用を継続してきたことから、「宝」、「寶」、「TAKARA」、「タカラ」といえば、被請求人の取扱業務に係る商品(醤油、たれ、つゆ等の塩味調味料、うまみ調味料)を表示する商標として取引者、需要者間に広く知られるに至っているものである。
(オ)その使用の実情は、次のとおりである。
被請求人が安永元年から「宝」、「寶」の商標を使用し始め、現在までの長年にわたってその使用を継続していることは、上述したとおりであるが、昭和33年には「みりん入り醤油」の発売を開始し、同35年には「すきのもと」(すき焼き用たれ・つゆ)の発売を開始し、同36年には「酢」(粕酢)の発売を開始し(現在は、製造中止となっている。)、同38年には「うなぎ蒲焼きのたれ」の発売を開始し、同41年には「そばつゆ」の発売を開始し、同43年には「焼き鳥たれ」「白書油」の発売を開始し、同53年には「から揚げ粉」の発売を開始し、同58年には「甘酢たれ等中華惣菜シリーズ」の発売を開始する等、その主たる業務に係る商品「醤油」をベースにした塩味調味料、うまみ調味料等の調味料についての業務を順次拡大してきたところである(乙第15号証ないし乙第17号証及び乙第18号証の1ないし85)
(カ)宣伝、広告の実情
被請求人は、その業務に係る商品の宣伝、広告のため、会社案内、会社概要、商品案内を作成し、日常的な営業活動においてこれを顧客に配布するとともに、新聞に継続して広告を掲載するなどして、その普及に努めてきたところである(乙第19号証ないし乙第25号証)。
(キ)売上げ実績
上述した被請求人の新商品開発の努力及び営業上の努力の結果、「うなぎ蒲焼きのたれ」の発売直後の昭和39年の売上高が2億0800万円であったものが、本件商標を出願した同50年の売上高は9億5100万円にも達するというように、売上高が伸び、業績が順調に推移していることから見ても、被請求人の業務係る商品に使用されている商標も取引者、需要者間に広く浸透しているといえるものである(乙第26号証及び乙第27号証)。
そして、その後も順調に業績が拡大し、本件審判の請求の前年である平成12年の売上高は38億5900万円にも達しているものである(乙第28号証)。
(ク)以上の述べたとおり、被請求人が230年もの長きにわたって営々と使用を継続し、かつ、新商品開発の努力と宣伝、広告及び営業上の努力の結果、事業範囲(取扱商品の範囲)も拡大し、その売上げも順調に推移していること明らかであるから、被請求人がその業務に係る商品に使用している「宝」、「寶」、「TAKARA」、「タカラ」の商標は、被請求人の取扱業務に係る商品(醤油、たれ、つゆ等の塩味調味料、うまみ調味料)を表示する商標として取引者、需要者間に広く知られるに至っているというべきものである。
(2)混同のおそれについて
(ア)商品の品質及び製造者、販売場所の相違について
平成13年3月16日付けの「審判事件答弁書」において述べたとおり、本件商標の指定商品は、醤油をベースとした「塩味料」、及び「うまみ調味料」、「中華風調味料」、食品に分類される「甘味料」というべき商品である。
そして、これらの商品は醤油メーカー、食品メーカーにより製造され、一般の食料品店で販売されるものである。
これに対して、「みりん」は、焼酎又はアルコールに米麹と餅米を原料として醸造した甘い酒であって、砂糖よりも高級な「甘味料」として日本料理の甘味付けに用いられる商品で、酒類に位置付けられ、酒税法に基づき許可を受けた者のみが製造、販売できる商品であることは、広く世間に周知の事実である。
そして、平成8年にみりんの販売に関する規制緩和措置がなされた後も、「みりん小売業免許」を得た者が販売できるというように酒税法により販売店が規制されている商品である。
この点に関しては、請求人の提出に係る甲第14号証の1ないし14の記載に徴すれば、請求人が酒類に分類していることから見ても明らかである。
なお、請求人は甲第14号証の15(第85期有価証券報告書)以降は、「みりん」を調味料として分類しているが、これは請求人独自の分類付けであって、酒税法のみならず一般には酒類として分類されているものである。
以上述べたように、本件商標の指定商品とみりんとは、その品質に大きな相違があるばかりでなく、その製造者、販売場所も異なるものである。
そればかりでなく、本件商標の指定商品には、商品にうまみ若しくは甘味を出すためにみりんが使用されることがあるとしても、みりんそのものは加味品的に使用されるにすぎず、しかもみりんは使用しなくても済むといった違いもあるものである。
(イ)商標「宝」、「タカラ」のこれまでの採択、使用状況
「宝」の文字は、「貴重な品物、大切な財物、宝物、財宝、金銭、財貨」を意味することから、縁起の良いものとされ、以前より多くの者によって商標として採択され、使用されてきた文字であり、現在も様々な会社によって「宝」、「タカラ」、「TAKARA」の文字よりなり、若しくはこれらの文字を有する商標、商号が多く使用されているところであり、このことは世間一般にも広く認識されているところであり、現におもちゃ、ゲーム機については、有名な「タカラ株式会社」も存在しているところである。
そうしてみると、「宝」の文字に由来する商標については、その付せられた商品によって、需要者も注意して識別しているというのが取引の実情であるというべきものである。
(ウ)以上述べたとおり、被請求人がその業務に係る商品に使用している「宝」、「寶」、「TAKARA」、「タカラ」の商標は、被請求人の取扱業務に係る商品(醤油、たれ、つゆ等の塩味調味料、うまみ調味料)を表示する商標として取引者、需要者間に広く知られるに至っているものであり、本件商標の指定商品とみりんとは、商品の品質及び製造者、販売場所が異なることは世間一般に広く知られているものであり、かつ、「宝」は縁起の良い文字とされ、「宝」、「タカラ」、「TAKARA」の文字よりなり、若しくはこれらの文字を有する商標は多くの者によって商標として使用されていることから、需要者も商品の種類によって充分に注意して識別しているという実情があることからすれば、本件商標をその指定商品について使用しても、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれはないというべきものである。

第5 当審の判断
1 引用各商標について
(1)甲第3号証ないし甲第16号証(枝番を含む。)によれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人は、大正14年(1925年)に設立された酒造メーカーであり、昭和44年版(1969年)から平成12年版(2000年)までの請求人製品のカタログから明らかなように、商品「みりん」について、引用各商標をともに又は引用B商標を単独で継続的に使用してきたこと、平成9年4月1日から同月27日までの間、平成10年3月25日から同年4月21日までの間、北海道から九州に至る全国の放送局でテレビコマーシャルを放映したこと、平成9年4月22日から同月24日までの間、同年10月30日、同年11月3日、平成10年4月5日から同月11日までの間、同年4月17日から同月22日までの間に、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞及び産経新聞の5大紙のほか、地方紙にも広告を掲載したこと、平成9年4月17日から同10年9月1日までの間、繰返し、雑誌「ESSE」、「オレンジページ」、「きょうの料理」、「dancyu」等に広告を掲載したこと、請求人の製造に係るみりんの販売高、販売金額が第56期(昭和41年4月〜昭和42年3月)において既に9445キロリットル、約24億7150万円であり、第88期(平成10年4月〜平成11年3月)には3万9566キロリットル、約168億0400万円であること、本みりん市場におけるシェアが昭和40年度から平成10年度までの30年以上にわたり第1位であったことが認められる。
(イ)前記(ア)で認定した事実によれば、引用各商標は、本件商標の登録出願時(昭和50年6月13日)及び登録査定時(平成11年6月7日)において、請求人の取扱いに係る商品「みりん」を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることができる。
(2)引用各商標の指定商品又は指定商品に包含される「みりん」は、我が国において、家庭でも一般に使用される馴染みのある調味料であるということが、乙第12号証における「最近、アルコール飲料では甘みは尊重されない傾向があり、みりんの飲用は少なくなったが、甘味調味料としてのみりんはほかの味を引き立てる効果など、隠し味として人気がある。料理の甘みは、砂糖よりみりんのほうが上品に仕上がり、蒲焼き、照り焼き、煮びたし、甘露煮をはじめ、あらゆる調理に利用されている。みりんの特徴は、材料の肉質を緊密にし、仕上がりの照り(光沢)を増す点にある。」とする記載、及び乙13号証における「一般の消費者において、酒類であるみりんと発酵性調味液やみりん風調味料などのみりん類似調味料とは、ほとんど区別されることなく使用されている」とする記載からも明らかである。
2 本件商標について
乙第1号証ないし乙第10号証及び乙第15号証ないし乙第17号証によれば、以下の事実が認められる。
(1)被請求人の創業者である高梨兵左衛門は、江戸時代の寛文元年(1661年)から、野田(現在の千葉県野田市)で、しょうゆの製造を始め、安永元年(1772年)から、その製品に「宝」(以下「被請求人宝商標」という。)及び「寶」(以下「被請求人寳商標」という。)の各商標を「醤油」に使用したこと、被請求人は、上記被請求人宝商標及び被請求人寳商標のほかに、「宝」、「TAKARA」、「タカラ」の文字からなる、あるいはこれらを要部とする登録商標として、第41類「ソース及酢ノ類」を指定商品とする登録第384418号商標(昭和23年1月16日登録出願、同25年5月26日設定登録)、第31類「しようゆ,食酢,ウースターソース,ケチヤップ,マヨネーズソース,ドレツシング,酢の素,ホワイトソース」を指定商品とする登録第802099号商標(昭和37年9月8日登録出願、同43年12月23日設定登録)、第31類「しょうゆ」を指定商品とする登録第2721367号商標(昭和50年6月13日登録出願、平成9年5月16日設定登録)、第31類「しようゆ,食酢,ウースターソース,ケチヤップ,マヨネーズソース,ドレツシング,酢の素,ホワイトソース」を指定商品とする登録第2722885号商標(昭和54年4月9日登録出願、平成9年8月29日設定登録)、第31類「焼鳥のたれ」を指定商品とする登録第2724213号商標(昭和50年6月13日登録出願、平成10年11月13日設定登録)及び第31類「焼肉用のたれ」を指定商品とする登録第2724216号商標(昭和50年8月5日登録出願、平成10年11月20日設定登録)を有していること、被請求人は、昭和35年にすき焼き用たれ・つゆの発売を始め、昭和38年にうなぎ蒲焼きたれ、昭和43年に焼き鳥たれ、昭和58年に甘酢たれ等の発売を開始するなど、主たる業務に係る商品のしょうゆをベースにした塩味調味料、うまみ調味料等の調味料にも業務を進展させたことなどが認められる。
(2)しかし、上記事実のみによっては、被請求人主張の、本件商標の登録出願時(昭和50年6月13日)及び登録査定時(平成11年6月7日)において、本件商標を含む、「宝」、「寳」、「TAKARA」、「タカラ」の文字からなる、あるいはこれらを要部とする商標が、被請求人の業務に係る商品「しょうゆ、たれ、つゆ等の塩味調味料、うまみ調味料」を表示するものとして、本件商標の指定商品の取引者、需要者の間に広く認識されていたとの事実を推認するに十分であるとはいえない。
(3)なお、被請求人は、本件商標を含む、「宝」、「寳」、「TAKARA」、「タカラ」の文字からなる、あるいはこれらを要部とする商標の周知性を立証する証拠として、乙第18号証ないし乙第28号証(枝番を含む。)を提出しているが、乙第18号証の1ないし85は、いずれも被請求人の商品のラベルの印刷納品に係る証明書であり、これにより、被請求人が製造、販売したしょうゆ、たれ、つゆ等の塩味調味料の商品に、「宝」、「TAKARA」、「タカラ」の文字を構成に含む商標を使用していたことが認められるとしても、上記ラベルに係る商品のほとんどが業務用調味料に関するものであるから、その宣伝効果が大きいものとは認め難い。
乙第19号証ないし乙第22号証は、被請求人の商品案内、会社案内及び会社概要の印刷納品に係る証明書であるが、これらの配付時期及び配布先は不明であり、また、その内容自体からいずれも一般の需要者を対象として配布したものとは認められない。
乙第23号証は、被請求人が「日刊食料新聞」に昭和49年以降、乙第24号証は、同じく「全国食鳥新聞」に昭和51年以降、乙第25号証は、同じく「日本養殖新聞」に昭和54年以降、いずれも継続的に広告を掲載したことの証明書であるが、上記各新聞の発行部数は明らかではなく、その内容自体から一般の需要者を対象としたものとは認められない。
乙第26号証ないし乙第28号証は、被請求人の昭和39年、昭和50年及び平成12年の各事業報告書であって、いずれも被請求人の売上げ実績等を示すものであるが、被請求人主張の上記各商標を使用した商品の個別具体的な売上げ実績・販売金額等は不明であるから、その周知性を認定する的確な証拠ということはできない。
以上によれば、本件商標を含む、「宝」、「寳」、「TAKARA」、「タカラ」の文字からなる、あるいはこれらを要部とする商標は、本件商標の登録出願時において、しょうゆの製造、販売等を業とする特定の限られた範囲の取引者、需要者の間においてのみ、被請求人の業務に係る商品(しょうゆ、たれ、つゆ等の塩味調味料)を表示するものとして認識されていたものと認めるのが相当である。
(4)そして、本件商標の指定商品には、家庭で消費される調味料も含まれるから、その需要者には、主婦等の一般の消費者が含まれるものというべきである。
3 出所の混同について
本件商標は、別掲(1)のとおりの構成よりなるものであるから、これより「タカラ」の称呼を生ずるものであって、「宝」の観念を生ずるものである。
これに対して、引用各商標は、別掲(2)及び(3)のとおりの構成よりなるものであるから、これより「タカラ」の称呼及び「宝」の観念を生ずるものであって、前記認定のとおり、請求人の取扱いに係る商品「みりん」を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されているものである。
また、本件商標の指定商品の需要者には、主婦等の一般の消費者が含まれることは前記2(4)のとおりであり、引用各商標の指定商品又は指定商品に包含される「みりん」の需要者も主婦等の一般の消費者が含まれることは前記1(2)のとおりであるから、両者は需要者を共通にするものである。
さらに、引用各商標の指定商品又は指定商品に包含される「みりん」は、「蒸した餅米と米麹とを焼酎またはアルコールに混和して醸造し,滓をしぼりとった酒。甘味があり,主に調味用」(株式会社岩波書店発行「広辞苑 第5版」)とあるように、酒類の一種ではあるが、家庭において調味料として一般に使用されるものであることは前記1(2)のとおりであるから、本件商標の指定商品とは、用途を共通にするものである。
そうすると、本件商標を「みりん」と需要者、用途を共通にするその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、本件商標と称呼及び観念を同一にする周知・著名な請求人に係る引用各商標を想起して、その商品が請求人と同一の営業主体の業務に係る商品、又はその親子会社や系列会社等の密接な営業上の関係若しくは同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
なお、被請求人は、「宝」の文字は、以前より多くの者によって商標として採択、使用されてきた文字であり、現在も様々な会社によって「宝」、「タカラ」、「TAKARA」の文字からなる、あるいはこれらの文字を有する商標、商号が多数存在しており、このことは世間一般にも広く認識されているところであって、当該商標の付された商品に接する需要者も注意して識別しているのが取引の実情であると主張するが、たとえ、上記「宝」等の文字からなる、あるいはこれらの文字を有する商標、商号が多数存在するとしても、そのことから直ちに、当該商標の付された商品に接する需要者が注意して識別しているのが取引の実情であるとか、ひいては本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者において引用各商標との間に誤認混同を生ずるおそれがないとまで推認することは困難である。
4 むすび
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標

(2)引用A商標

(3)引用B商標

審理終結日 2004-04-20 
結審通知日 2004-04-22 
審決日 2004-05-07 
出願番号 商願平10-28373 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Z31)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩崎 和夫中村 欽五 
特許庁審判長 小池 隆
特許庁審判官 山本 良廣
半田 正人
登録日 1999-06-18 
登録番号 商標登録第4285395号(T4285395) 
商標の称呼 タカラ 
代理人 青山 葆 
代理人 神谷 巖 
代理人 大西 育子 
代理人 矢崎 和彦 
代理人 小泉 勝義 
代理人 樋口 豊治 
代理人 吉武 賢次 

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