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審決分類 審判 全部無効 商3条一般商標の登録要件 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 018
管理番号 1075484 
審判番号 審判1999-35202 
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-04-30 
確定日 2003-04-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第3337725号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3337725号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3337725号商標(以下「本件商標」という。)は、「WORLD CUP SOCCER TEAM」の文字を横書きしてなり、平成5年9月14日に登録出願、第18類「かばん類,袋物」を指定商品として同9年8月8日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求めると申立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第32号証(枝番を含む。)を提出している。
1 「WORLD CUP」「ワールドカップ」は、サッカー、ラグビー、スキー、マラソン、バレーボール等の各スポーツの世界一を決めるため定期的に開かれる国際的な大会の名称として知られている(甲第1ないし第3号証)。
中でもサッカーは、今日世界中で最も競技人口の多い国際的なスポーツであることは広く知られている。請求人である国際サッカー連盟、フェデレイション・インターナショナル・デ・フットボール・アソシエーション(Federation International de Football Associatlon,以下「FIFA」という。)は、サッカーの振興、各国の協会と選手間の親善の促進等を目的として1904年(明治37年)に設立され、現在190ヶ国以上の国がFIFAに加盟している(甲第2号証)。
FIFAは、ワールドカップ及びオリンピックのサッカー競技等の国際的なサッカー競技を直接運営し、その収益を同協会の財源の一部にしている。FIFA が主催する「WORLD CUP」「ワールドカップ」は、単一のスポーツイベントとしては世界最大規模でかつ最も古い大会の名称であり、1930年(昭和5年)を第1回とし、4年に1度、欧州と米州で交互に開かれてきた。2年がかりで世界各地で予選が行われ、代表国のプロ選手らの最高レベルの試合が繰り広げられ、有力企業が競ってスポンサーになり、莫大な金が動き、世界中が熱狂する。
2 本件商標が、FIFAの主催するWORLD CUPに出場するサッカーチームの観念を生ずることについて
本件商標の出願公告に際し、登録異議の申立てがなされて異議理由なしと判断され、本件商標の登録査定がなされたが、該登録異議の決定の理由の中で、本件商標は、前半の「WORLD CUP」 の文字と後半の「SOCCER TEAM」 の文字は外観上まとまりよく一体的に構成され、観念上も全体として「ワールドカップに出場するサッカーチーム」の如き一つの意味合いを把握することのできるものである。...本件商標は、その構成文字に相応して「ワールドカップサッカーチーム」(ワールドカップに出場するサッカーチーム)の称呼、観念のみを生ずるものと判断するのが相当である、との記載がある(甲第13号証)。この、本件商標が唯一生ずる称呼、観念であると判断されたところの「ワールドカップに出場するサッカーチーム」とは、まさに上記で説明した、FIFAが開催、運営するFIFAワールドカップサッカー大会に出場するサッカーチームを唯一意味するものであり、如何なるその他の観念を生ずるものではない。
3 以下、「ワールドカップサッカー」といえば、FIFAが開催、運営するFIFAワールドカップサッカー大会に他ならないということを証明するために、(1)昨年から今年にかけて益々高まったといえる日本におけるFIFAワールドカップサッカー大会の一般の人々の高い認識度に関して、最近のテレビ放映及び新聞報道の資料を基に、説明し、次に、(2)2002年に日韓共催で日本と韓国で行われる第17回大会「2002年FIFAワールドカップサッカー大会」の日本国内における社会的な位置づけ、及び(3)現在世界においてFIFAワールドカップサッカー大会を取り巻く状況の経済的側面について述べ、日本において、一私人たる被請求人が、本件商標を独占的に使用することを認められた商標権者であり続けることは、現在においては、もはや世界のサッカー界、スポーツ界のみならず、世界の経済界の国際信義に反するものとなったといわざるをえない本件審判請求の理由について述べる。
(1)日本における「FIFAワールドカップサッカー大会」の一般の人々の認識度
FIFAワールドカップサッカー大会に関しては、知名度が非常に高いので、独立して、「WORLD CUP」 又は「ワールドカップ」の語のみで、大会名を表示する場合の方が一般的であり、「WORLD CUP」「ワールドカップ」の語のみでFIFAワールドカップサッカー大会として使用・認識されている。
1993年10月、ワールドカップ第15回大会アメリカ'94のアジア最終予選の最終戦イラクとの試合、日本代表は、ロスタイムに同点にされた、いわゆる「ドーハの悲劇」で、'94年のアメリカ本大会出場はならなかったが、ワールドカップ・アメリカ'94本大会は日本ではNHKが衛星放送で全52試合のうち44試合を生中継で、残りは録画で独占的に放映した。全世界では延べ320億人がテレビ観戦したといわれる(甲第1号証及び第5号証の2)。
1998年フランスにおいて開催されたワールドカップ第16回大会フランス'98は、全世界で延べ350億人が見たといわれ、日本では、NHKが全試合を放映した(甲第4号証の2)。日本代表チームは、ワールドカップ・フランス'98に初出場を果たし、最高で60.9 % の高世帯視聴率を記録した(甲第4号証の1)。
次に、近年のFIFAワールドカップサッカー大会に関する新聞報道についてみてみると、ワールドカップ・フランス'98期間中(1998年6月10日〜1998年7月2日)、各紙スポーツ面では、同ワールドカップの記事が毎日大きく掲載されていたことは周知の事実であり、ここでは主に総合全国紙である朝日新聞、読売新聞の第一面に近年掲載された記事(甲第5号証の1)、及び、スポーツ面以外の社会面などに掲載されたシリーズ記事(甲第5号証の2)及び通常記事(甲第5号証の3)を抜粋したものに絞って添付する。
FIFAが主催するサッカーの国際大会としては、年齢に制限がないワールドカップが頂点にあり、その下に23歳以下の選手による五輪がある(ただし、23歳を超える選手でも1ヶ国3人まで出場が認められている。)。五輪の下に年代別世界選手権があり、20歳以下による世界ユース選手権、その下に17歳以下の世界ジュニア選手権が2年に1度、開催されている(甲第5号証の4)。
今年の4月、ナイジェリアで行われた20歳以下による世界ユース選手権で、日本代表チームは、FIFA主催の国際大会や五輪を通じて初めての決勝進出を果たし、1968年メキシコ五輪の胴メダルを上回る準優勝という快挙を成し遂げ、若い日本チームの活躍は、連日、テレビ、新聞で報道され、2002年のワールドカップサッカー大会につながるものとして高く評価された(甲第5号証の4)。
FIFAワールドカップサッカー大会の一般の人々への認識度を、まとめると、1994年のワールドカップ・アメリカ本大会への出場をかけたアジア予選で、日本代表がいま1歩のところまで健闘したこと、1998年夏、ワールドカップ・フランス'98への日本代表初出場、そして2002年ワールドカップ本大会の日本、韓国への招致、今回ナイジェリアで開催されたワールドユース選手権での日本代表チームの準優勝等により、FIFAワールドカップサッカー大会は、従来のスポーツ、サッカーファンにとどまらず、女性や中高年層を加えた、実に幅広い層に認識されるに至ったといえる。
(2)「2002年FIFAワールドカップサッカー大会」の日本における社会的な位置づけ
2002年第17回FIFAワールドカップサッカー大会は、日韓共催で行われる。(財)2002年FIFAワールドカップ日本組織委員会(JAWOC)は、政官財界をあげて組織され、顧問には、現職内閣総理大臣、元内閣総理大臣、現職両院議長、現職各大臣らが名を連ね、幹部には、経団連副会長や各省庁事務次官経験者ら、現職知事らが就任している。「2002年ワールドカップ推進国会議員連盟」には、合計280名の両院議員らが加盟している(甲第5号証の1及び甲第6号証)。
政府として、平成8年7月に関係各省庁の局長レベルで構成する「2002年ワールドカップサッカー開催準備問題に関する関係省庁連絡会議」を総理府に設置し、大会の準備に関し政府の施策に関連する事項について連絡・調整を図っている。さらに、平成10年5月には、長野オリンピック競技大会と同様、寄附金付郵便葉書等の発行や公務員の組織委員会への派遣に関する特例などを定めた、大会支援のための「平成十四年ワールドカップサッカー大会特別措置法」も制定されている(甲第7号証の1及び2)。文部省では、大会の準備・運営を円滑に進めるために、平成8年6月に「ワールドカップ準備室」を、9年10月には「2002年ワールドカップ専門官」を設置し、支援体制の整備を図っている(甲第8号証の1及び甲第7号証の3)。
文部省体育局監修、保健体育行政の総合専門誌「スポーツと健康」1998年5月号に掲載された「FIFAワールドカップフランス大会」と題する記事において、「FIFA(国際サッカー連盟)が主催するワールドカップは、...サッカーの世界最高峰の大会である。前回のアメリカ大会では、総観客数が約350万人、テレビ視聴者数が延べ約320億人(アトランタ五輪は196億人)を数えるなど、オリンピック競技会に匹敵する規模を有する世界最大級のスポーツイベントである。」との記載がある(甲第8号証の4)。同様の記載が、文部省発行「文部時報」平成8年8月号の「2002年ワールドカップについて」と題する記事にも書かれている(甲第8号証の2)。
このように、日本において「2002年FIFAワールドカップサッカー大会」は、東京オリンピック、長野オリンピックに匹敵する、国をあげてのイベントであるといえる。
(3)世界におけるFIFAワールドカップサッカー大会をとりまく経済的側面
「日本ではまだオリンピックのほうが大規模だと思われがちだが、実際にはワールドカップのほうがスケールは遥かに大きい。」と書く経済誌もある(甲第9号証の2)。
ワールドカップのような世界的で大規模なスポーツ大会では、いくつもの企業がスポンサーとなって、大会の広告、宣伝等のために、係る企業が自己の製品に関して、その大会名を使用することは、よく行われていることであり、知られていることでもある。ワールドカップの場合、このスポンサーには、種類があり、まず、FIFAの公式スポンサーがあり、競技場内に看板を出したり、大会マスコットを使って宣伝したり、オリジナル商品を作ることができる。公式スポンサーは、4年に一度のワールドカップだけでなく、同じくFIFAが主催・運営する20歳までの選手を対象としたワールドユースや17歳までの選手が対象のU-17など年齢別大会や女子、フットサルなどの世界大会などの後援も行う。スポンサーは商品の品目ごとに権利を持ち、権利商品に関しては提供の義務を負う。一業種一社しか認められておらず、順番待ちの企業も多いという。スポンサー契約料は回を追うごとに高騰しているといい、その権利を獲得するには数十億円の契約金が必要だ(甲第5号証の2)。現在、FIFAの公式スポンサーは、12社で、そのうちの3社が日本企業で、JVC、キヤノン、富士フィルムが名を連ねる。キヤノンが、公式スポンサーとなったのは、1978年(昭和53年)のアルゼンチン大会からである。
ワールドカップのスポンサーとして、その他に、大会開催国の組織委員会が独自に選出する、オフィシャル・サプライヤーと呼ばれる形態があり、その大会のみの権利を持っている。こちらも、商品の品目ごとに権利を持ち、権利商品に関しては提供の義務を負い、一業種一社しか認められていない。'98フランス大会では、例えばマンバワーなど。
さらに、それぞれの地域や国の協会が独自のスポンサーを持っている。アジア予選のスポンサーはアジアサッカー協会(AFC)が募り、日本サッカー協会(JFA)は独自に日本代表チームのスポンサーを持ち、例えば、キリンビールは日本代表チームのオフィシャルスポンサーで、アシックスは日本代表のオフィシャルサプライヤーである。
このように、一口にスポンサーと言っても、さまざまな権利が入り乱れており、スポンサーである企業が、どの権利を持っているかによって、展開できるキャンペーンも違ってくる。例えば、キリンビールは、上記、日本代表チームのオフィシャルスポンサーであるが、FIFAの公式スポンサーやワールドカップ大会のオフィシヤル・サプライヤーではないため、ワールドカップ自体には何の権利も持たないため、キャンペーンの中で「ワールドカップ」の文字は使えない。
また、上記のFIFA、ワールドカップ大会、日本代表チームのスポンサーやサプライヤーに加えて、関連グッズに関する権利があり、これらは個別の商品ごとにライセンスを取るのだが、ワールドカップ、日本代表チーム、双方のライセンスを持つのが、ソニー・クリエイティブフロダクツ(SCP)である。'98フランス大会の権利を取ったSCPが、1995年から日本代表の'98ワールドカップ本大会出場が決まるまでの間にライセンス契約を交わした企業は日本国内で25社ほどだったが、ワールドカップ本大会出場が決まると、一気に倍増したという。ワールドカップは、全世界的スポーツイベントであるので、ワールドカップ・ライセンスビジネスも、全世界的な展開となる。SCPが直接担当するのは、アジア、オセアニア、中近東地域で、南北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ地域は、同系列会社のソニー・シグネチャーズが担当するという。ライセンス対象商品も、スポーツ関連商品に限られず、ゲームソフト、ぬいぐるみ、Tシャツ、帽子といった、いわゆる関連グッズから、メディカルテープ、携帯電話のストラップ、ティッシュペーパー、酒から、大蔵省造幣局がライセンシーとなっている記念貨幣セットや扇子等々、多岐に渡る。これらは、個別の商品ごとにライセンスを取得しなければならない(甲第9号証の1)。
このように、FIFAワールドカップサッカー大会においては、国を超えた全世界的な規模、また、スポーツ関連商品にとどまらないあらゆる商品におけるライセンス・ビジネスが展開されている。そこでは、企業は権利を取得するために、巨額の金額を支払っている。
2002年ワールドカップの場合、その経済波及効果は今まで日本での単独開催なら試算で3兆2484億円とみられていたが、日韓共催の場合、1兆8848億円と試算されている(甲第1号証)。放映権は、すでにISLとキルヒ(ドイツのメディアグループ)が、13億スイス・フラン(1170億円)で獲得している(甲第1号証及び甲第5号証の2)。
4 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するという点について
既にFIFAサッカー・ワールドカップ大会の開催が開始され67年が経過していたが、今日程日本においてそれが一般需要者間に広く認識されてはいなかった1997年(平成9年)に、被請求人は、本件商標の登録を得た。しかしながら、今日のように、同「ワールドカップ」が、一般のあらゆる階層にまで広く浸透するに至った状況には、何ら寄与した訳ではない。選手は「ワールドカップ」の舞台を目指して日々の練習を積み重ね、アマ、プロチームは選手を育成し、FIFAは頂点をなす「ワールドカップ」の下に五輪、20歳以下の世界ユース選手権、17歳以下の世界ジュニアユース選手権などを開催・運営し、例えば財団法人日本サッカー協会は、選手強化の助成や派遣を行い(甲第8号証の3)、多数の支援企業が協賛や寄附の形で資金援助をしたり、物資提供を行ってきた。国からの補助、助成もなされている。選手の育成は、一朝一夕にしてなるものではなく、サッカーの強化には、十年単位の時間がかかる、といわれる。今回のワールドユース選手権での日本代表チームの活躍に対し韓国のマスコミも高い関心を示し、東亜日報は社説で、「日本サッカーの決勝進出は偶然の出来事ではない。この間の努力と精進の結果だ」と報じた(甲第5号証の4)。そうした、多くの人々の永年の鍛錬・努力・援助などの上に、今日のFIFAワールドカップサッカー大会を取り巻く環境が成立し得た。
ところが、被請求人が平成5年に本件商標を出願し平成9年に登録を得たという、唯一その理由のみによって、現在及び将来に亘り、FIFAワールドカップサッカー大会を取り巻く全世界的な枠組みの中において、本件商標の登録を独占的に維持するという手段によって商業的利益を得続けるとしたら、それは、自らが寄与したわけではない、オリンピックに匹敵する又はそれを上回るといわれる現在のFIFAワールドカップサッカー大会のもつ利益吸引力を不当に利用する行為であり、正当な商業秩序及び国際信義に反する行為である、といわざるを得ない。
これは、登録制度を以て正しい商標使用と被保護利益の帰属を確保し公正・円滑な取引秩序を育成・維持しようとする商標法の本旨及び内外の情勢変化に対応することを目的とした平成8年改正商標法の趣旨にも決して適うものではない。さらに、2002年の日本でのFIFAワールドカップサッカー大会の開催に向けて、国内外の経済界はもとより動き出しており、当該商標の存続が、上記で具体的な例を挙げて説明したFIFAワールドカップサッカー大会をめぐるあらゆる商品に亘る世界的な権利ビジネスの混乱を招くことは、必至である。
本件商標の指定商品は、「かばん類、袋物」であり、前記で説明したFIFAの公式スポンサー、日本代表チーム、開催国組織委員会などのオフィシャル・スポンサー、オフィシャル・サプライヤーらが、FIFAワールドカップサッカー大会に関連づけてキャンペーンを展開できる商品の品目、或いはライセンスを取得しなければ使用の権利を得られない個別の関連グッズに、これら本件商標の指定商品も重なる。1904年(明治37年)に設立されたFIFAが、1930年(昭和5年)以来、開催し続けてきた、世界最大規模のイベント、ワールドカップに関連して、自己の商品の広告、宣伝を行うための権利を得るのに、世界各国の企業は、巨額の契約金を支払わなければならない。同大会が、2002年にアジアで初めて開催される運びとなり、日本代表チーム、ユースチームの活躍もあり、2002年FIFAワールドカップサッカー大会に向けての日本におけるライセンス・ビジネスは、これまでの比ではない規模、金額になる。一方で、FIFA主催のワールドカップ大会やその下に位置する年代別大会などには何らの寄与をなしてはいない被請求人が、本件商標の登録を独占的に維持するという手段によって、上記FIFAのワールドカップサッカー大会に関連して、全世界的に展開されるライセンス・ビジネスに大きな混乱を招くこととなれば、取引における公正な商業秩序の維持や需要者及び供給者を保護する観点から、商標法の本旨に反することは明らかである。
以上述べたように、現代のFIFAワールドカップサッカー大会を取り巻く世界の経済界の枠組みをふまえ、また、2002年ワールドカップの日本開催を間近に控え、日本において、一私人たる被請求人が、本件商標を独占的に使用することを認められた商標権者であり続けることは、同大会の権威を損なうと共に、現在においては、もはや世界のサッカー界、スポーツ界のみならず、世界の経済界の国際信義に反するものとなったといわざるをえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するに至った。
また、既に海外においては、南アフリカ共和国で「WORLD CUP」の商標登録を所有する一私人である商標権者と上記FIFAとの間で争われた事件で、「WORLD CUP」 が、サッカー等のスポーツの世界選手権大会の名称であることを理由に、1993年に係る標章の使用権は本来的に上記大会の事業主に帰属するとする趣旨の司法判断がなされている(甲第12号証の1)。フランスにおいては、FIFA以外の第三者による商標出願に際し国立工業所有権庁が行った拒絶査定に対する査定不服審判事件で、1998年2月5日付でリヨン高等裁判所が国立工業所有権庁の拒絶査定を維持する旨の判決を下している(甲第12号証の2)。アジアで初めて、2002年第17回FIFAワールドカップサッカー大会を日本と共催する韓国においては、FIFA以外の第三者による「ワールドカップ」関連商標の登録出願に対し、FIFAが該当分類で「ワールドカップ」商標の先登録を有しているかいないかに拘わらず、FIFAによる異議申立を認める旨の大韓民国特許庁による登録異議決定が、多数の分類において確定している(甲第12号証の3ないし5)。
このように、本件商標が、商標法第4条第1項第7号に該当するという点についての本件審判請求は、商品及びサービスの取引の国際化、企業活動のボーダーレス化の進展に伴い、商標制度の国際的な調和の面からも、必然である。
5 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するという点について
本件商標がその指定商品に使用された場合、係る商品があたかもFIFAワールドカップサッカー大会のスポンサー、ライセンシーらの業務に係る商品であるかの如く混同を生じるおそれがある。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
6 本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当するという点について
本件商標がその指定商品に使用された場合、係る商品があたかもFIFAワールドカップサッカー大会に出場するサッカーチームに関する又はそれをまねたものであると誤認を生じるおそれがある。例えば、かばんや袋物などに、本件商標が使用された場合には、あたかも、ワールドカップサッカー大会を主催・運営するFIFAが認可し、同大会に出場するサッカーチームが使用する、又はそれをまねたものであるとの誤認を生じるおそれがある。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。
7 むすび
以上述べたように、本件商標は、商標法第4条第1項第7に該当するに至り、また同第15号及び同第16号に該当するので、商標法第46条の規定により、無効とされるべきものである。
8 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)「WORLD CUP」の言葉の由来・歴史
既に述べたように、請求人であるFIFAは、サッカーの振興、各国の協会と選手間の親善の促進等を目的として設立され、「WORLD CUP」とともに70年の歴史を歩んできたのであり、このような歴史があったからこそ、世界のスポーツ界はもとより世界中に「WORLD CUP」なる言葉を普及させることに成功したのである。もとより、その成功には、選手の個々の努力があったことをも認めるのに吝かではない。
その結果、世界のスポーツ界においては、「WORLD CUP」といえば、「世界サッカー大会」を意味し、「世界サッカー大会」といえば、「WORLD CUP」を直ちに想起させるほどに広く認識されてきたのである。
上述の「WORLD CUP」についての正しい歴史観を踏まえつつ、なぜ、サッカー以外の世界のスポーツ界に「WORLDCUP」の言葉が使用されてきたのか、以下にその理由を述べる。
つまり、FIFAが開催、運営する「WORLD CUP」が大成功したからである。その成功にあやかって(決してフリーライドではない。世界の各スポーツ団体の共存共栄の精神からである)、他のスポーツの各団体が、FIFAの運営方法を踏襲して、4年に一度の「WORLD CUP」を開催するようになったのである。
例えば、スキーは1967年から、ラグビーは1987年から開催されている。バレーボールは、日本の提唱で始まり、オリンピックの前年に開催されている。これらを開催する際、FIFAと主催する各団体との間で、各大会の名称を、それぞれ「WORLDCUP SKI/ワールドカップ・スキー」、「RUGBY WORLD CUP/ラグビー・ワールドカップ」若しくは「WORLD CUP RUGBY/ワールドカップ・ラグビー」、「WORLD CUP VOLLEYBALL/ワールドカップ・バレーボール」、にするとの合意がなされたのである。
すなわち、この合意により、各世界のスポーツ団体は、「WORLD CUP/ワールドカップ」の言葉を単独で使用することを自ら禁止し、この言葉を使用する場合、この言葉に各スポーツ名を付して、上述に例示したような大会名称を使用してきたというのが実情なのであり、世界のスポーツ界において、FIFAのみが単独で、「WORLD CUP/ワールドカップ」を独占的に使用する権利を有していることを確認しあったのである。
事実、FIFAは、サッカーに次いで人気のあるラグビーのワールドカップの主催者であるインターナショナル・ラグビー・ボード及びラグビー・ワールドカップ・リミテッドとの間で、全世界をテリトリーとする「WORLD CUP」商標の取扱に関する詳細な契約を締結している(甲第14号証)。
このように、FIFAが、「WORLD CUP/ワールドカップ」の言葉を独占的に使用できる権利を有しているということを、他の各スポーツ団体がつぶさに認めているという厳然たる事実が存在するのである。ただ、各スポーツ団体との共存共栄のために、また、よりサッカーの世界大会を世界中の人々に認識させるために、FIFAは、「WORLD CUP SOCCER/ワールドカップ・サッカー」、「WORLD CUP + 開催年度」、「WORLD CUP + 図形」等を、「WORLD CUP」とともに使用してきたというのが実情なのである。
(2)被請求人の主張に対する反論
上述の 「WORLD CUP」についての正しい歴史観を大前提にして、被請求人の主張に対し、以下に、反論する。
まず、第一に、被請求人は、「『ワールドカップ』の言葉だけではサッカー、ラグビー、スキー、スケート、バレーボール、テニスのうち、どのスポーツ種目を特定しているのかわからないので、当然サッカーも特定することはできない。」と述べている。 しかしながら、上述したように、世界のスポーツ界においては、「WORLD CUP/ワールドカップ」といえば、「世界サッカー大会」を意味し、「サッカー」を特定することができるのである。被請求人のかかる言は、「ワールドカップ」の言葉の由来・歴史を全く無視したものである。また、サッカーと他のスポーツを同列に論じているが、これは、大会の規模、観客動員数、世界の注目度、テレビ観戦者数・視聴率等を比較衡量して正当に論じたものではない。「ワールドカップ」は、大会の規模等において世界中が熱狂する世界最大のスポーツ一大イベントなのであり、他のスポーツ大会の追随を許さないのである。
ちなみに、世界のスポーツの祭典といわれているオリンピックのアトランタ大会では、延べ約196億人がテレビ観戦したといわれており、テレビ観戦者数は「ワールドカップ」をはるかに下回っているのである。
したがって、「ワールドカップ」の言葉だけで、「世界サッカー大会」を特定することができ、その大会とは、「FIFAが開催、運営するFIFAワールドカップサッカー大会」に他ならないのであるから、被請求人の主張は成り立たない。
第二に、乙第9号証の意見書で「FIFAが主催するこの国際的サッカー競技大会は少なくとも1930年以来世界的に知られている。その競技会は普通『WORLD CUP』という言葉で知られており、それに加えて、各々の4年ごとの競技会はその競技会の開催年度により特定され特徴づけられている。」と述べているように、「WORLDCUP」の言葉で十分にFIFAを特定することはできるのである。
したがって、被請求人の主張する「つまり、ワールドカップに関する競技会は、冒頭に記載した通り数多のスポーツ競技がその対象になっているので、ワールドカップの言葉だけではFIFAを特定できないから、云々(以下省略)」との議論には、その前提に誤りがある。
第三に、被請求人は、本件商標を前半と後半とに分離して、「WORLD CUP」と「SOCCER TEAM」のそれぞれの言葉からは、FIFAを特定することはできないとし、本件商標からは、請求人が述べている「FIFAが開催、運営するFIFAワールドカップ」の意味は生じない、と結論づけている。
ところが、被請求人は、同答弁書で後に本件商標を全体として認識すべきであると主張しているのである。
被請求人は、本件商標を分離して論じてはいるが、本件商標を前半部と後半部とに分離して論ずべき格別の理由はそもそも存在しないのである。けだし、甲第13号証の登録異議の申立てについての決定において述べているとおり、本件商標は、前半部と後半部とを分離して認識されるべきものではなく、「ワールドカップサッカーチーム」(ワールドカップに出場するサッカーチーム)の称呼、観念のみを生ずるものなのである。そもそも本件商標を分離して論ずること自体に無理があるのである。
したがって、「ワールドカップサッカーチーム」(ワールドカップに出場するサッカーチーム)の意味するところは、「WORLD CUP」についての正しい歴史観によると、「FIFAが主催する『ワールドカップ』に出場するサッカーチーム」ということになる。そのサッカーチームとは、各国のサッカーの代表チームということになる。
そうとすれば、本件商標からは、「FIFAが主催するFIFAワールドカップ」を特定することができるのである。
被請求人は、「『ワールドカップに出場するサッカーチーム』或いは『ワールドカップを目指すサッカーチーム』の観念を生ずる。決して『FIFAが主催するワールドカップに出場するサッカーチーム』の観念を生ずることはない。」と主張している。しかしながら、各国のサッカーの代表チームは、一体誰が主催する「ワールドカップ」に出場するというのであろうか。また、FIFA以外の主催する「ワールドカップ」が存在するというのであろうか。
このように、被請求人の主張は、現実をまったく無視したものというべきである。
第四に、被請求人は本件商標を前半部と後半部とに分離して論を展開しているのにもかかわらず、これを全く無視して、本件商標は全体として認識されるべきであると主張している。すなわち、被請求人は、「同様に『WORLD CUP SOCCER TEAM』についても、『ワールドカップサッカーチーム』(ワールドカップに出場するサッカーチーム)の称呼、観念のみを生ずるだけであるから、『FIFAが主催するワールドカップに出場するサッカーチーム』の観念は生じない。」と述べている。このことは、本件商標を恣意的に解釈して、請求人の主張に反論しているということであり、民法第1条2項の信義則の派生原則である禁反言の原則に反するものというべきである。
第五に、被請求人は、「その時、にわかファンが急増したのは紛れもない事実である。それまでサッカーに見向きもしなかった、サッカー音痴の老若男女までが日本初出場ということで深夜のテレビにかじりついたのである。決してテレビの視聴率の数字がサッカーのルール、ワールドカップの存在、FIFAの存在を知る数には該当するものではない。」と述べている。しかしながら、この被請求人の主張は、サッカーファン及びテレビ視聴者を著しく不当に評価するものであり到底容認することはできない。また、テレビの視聴率の高さは、即FIFAが主催するワールドカップについての関心度の高さを示すものなのである。被請求人は、請求人がテレビ放映だけではなく新聞報道についても証拠を添付して、FIFAが主催するワールドカップの関心度の高さを証明し、あわせて、「FIFAワールドカップサッカー大会」が広く認識されていることを証明しているにもかかわらず、これを全く無視して視聴率の数字のみを一方的に取り上げて論断していることは到底容認することはできない。
したがって、「決してテレビの視聴率の数字がサッカーのルール、ワールドカップの存在、FIFAの存在を知る数には該当するものではない。」との被請求人の主張は公正さに欠けるものといわざるを得ない。
第六に、政府の支援について、日本で開催される東洋で初めての日韓「2002年ワールドカップ」は、東京オリンピック、長野オリンピックに匹敵する、いやそれ以上の国をあげての一大スポーツイベントであるといえ、さらにいえば、単にスポーツイベントにとどまらず、社会的現象であるとさえいえるのである。
したがって、被請求人の主張は失当であるといわざるを得ない。
第七に、FIFAが主催する「ワールドカップ」に関する経済的側面について、本件商標は、その構成上、「WORLD CUP」の言葉を有しており、かつ、「SOCCER TEAM」という「サッカー」を特定する言葉を有していることから、「WORLD CUP」の文字部分を独立して認識するまでもなく、全体として、本件商標は、「FIFAの主催するワールドカップに出場するサッカーチーム」の意味を有するのである。
してみれば、既に述べたように、「FIFAワールドカップ」が世界最大の一大スポーツイベントであること、ワールドカップ・ライセンスビジネスが全世界的に展開されていること、加うるに、「FIFAワールドカップ」が開催された際に全世界的な経済波及効果があることから、本件商標が、その指定商品に使用された場合、あたかも、著名なFIFA主催の「ワールドカップ」のスポンサー、ライセンシー等の業務に係る商品であるかのように出所について混同を生ずるのは必至である。
したがって、被請求人が述べているように、「本件商標は、決して、FIFAが主催する『WORLD CUP』の競技会名称を損なうものではない」とは到底いえない。よって、被請求人の主張は商取引の実情をまったく無視したものといわざるを得ない。
(3)諸外国における異議の決定及び刑事事件判決の事例
本審判請求書において、「WORLD CUP」を含む商標が拒絶された事例を示したが、さらに、請求人は、以下の諸外国の事例を示すことにより、請求人の主張が、我田引水でないことを証明する。
ア)フランスにおける異議の決定の事例(甲第15ないし第17号証)
イ)フランスにおける刑事事件判決の事例(甲第18及び第19号証)
ウ)韓国における異議の決定の事例(甲第20ないし第32号証)
上記の韓国における事例について、異議決定書で述べられている、特に次の点を強調しておきたい。すなわち、「WORLD CUP」は、FIFAが所有する商標であり、4年に一度国際的に開催される「ワールドカップサッカー大会」を表すものとして、国内において一般の消費者及び取引者の間で周知であって、著名な商標である。したがって、出願人の商標が登録され、その指定商品に使用された場合、その商品がFIFAの関係者の製造によるもの、或いはFIFAの承認をうけたものと出所について混同を生ずるおそれがあり、公正で信頼性ある商取引の秩序を害するものである、とした点である。さらに、引用登録商標と類似する出願人の商標において、引用登録商標により化体された名声や信用にフリーライドしようとする不正な意図がなかったとは信じがたい、とした点である。
上述の諸外国の異議決定書及び刑事事件判決は、本件商標が、世界の経済界において国際信義に反するものとなったことの証左である。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第13号証を提出している。
1 スポーツ競技会の種類には、ワールドカップ以外にオリンピック、世界陸上選手権、ユニバシアードなど数多ある。これらの各競技会は単独のスポーツ種目についての競技会ではなく、複数のスポーツ種目について世界一を決める競技会である。例えばワールドカップの場合、スポーツ種目としてサッカー、ラグビー、スキー、スケート、バレーボール、テニスなどがある。このように複数のスポーツ種目からなるワールドカップの場合、「ワールドカップ」の言葉だけではサッカー、ラグビー、スキー、スケート、バレーボール、テニスのうち、どのスポーツ種目を特定しているのかわからないので、当然サッカーも特定することはできない。
ワールドカップの競技会の一般的な表示は、スポーツ種目の名称(以下〜と略す)とWORLD CUP/ワールドカップを適当に並べた「〜のワールドカップ」、「ワールドカップ〜」、「W杯〜」の形態が慣習になっているが、このような形態によって、スポーツ種目が特定可能になっている。
わが国におけるワールドカップの競技会の一般的な表示についての具体例を下記に示す。
「サッカーのワールドカップ」、「ワールドカップサッカー」、「W杯サッカー」(甲第1号証を援用)、「ノルディック距離ワールドカップ(W杯)」或いは「ノルディック距離W杯」(乙第1号証)、「ノルディックスキーのワールドカップ(W杯)ジャンプ」或いは「W杯ジャンプ」(乙第2号証)、「アルペンスキーのワールドカップ(W杯)男子回転」或いは「W杯回転」(乙第3号証)、「ノルディックスキーのワールドカップ(W杯)複合」或いは「W杯複合」(乙第4号証)、「スピードスケートのワールドカップ(W杯)或いは「W杯スピード」(乙第5号証)、「W杯ラグビー」(乙第6号証)或いは「W杯バレーボール」(乙第7号証)の表示になっている。
上記ワールドカップの各種競技会における一般的な表示形態から明らかであるが、ワールドカップの各種競技会の表示は、「ワールドカップ」と「スポーツ種目の名称」の二つの言葉によって成っている。その二つの言葉を分析すると、例えば「ワールドカップサッカー」の場合、前段の「ワールドカップ」の言葉は、冒頭に記載した幾種類かある競技会の中から一つの競技会を指定した言葉、つまり競技会の種類名であり、後段の「サッカー」、「ラグビー」、「バレーボール」他は、ワールドカップに関する複数のスポーツ種目の中から一つのスポーツ種目を指定した言葉、つまりスポーツ種目の名称である。一般的に競技会を表示する場合、競技会の種類名と、スポーツの種目名を並列的に記載することは常識であり、またその記載表示がなければ競技会を特定することができない。このような「競技会の種類名 + スポーツ種目名」の表示形態は、競技会を特定する上において必要最小限の言葉、かつ必要不可欠の言葉であるから、この形態はワールドカップの各種競技会を表示するのに最大公約数的表示というべきである。
したがって、上記表示形態は、サッカーに限らずどのスポーツ種目についても同様の表示形態になっているから、一般的には前段の「ワールドカップ」の言葉は、競技会の種類名として認識するのが相当である。ワールドカップの言葉よりサッカーの運営者は誰か、バレーボールの運営者は誰か、はたまたラグビーの運営者は誰かなどの発想はこの言葉からは生ずるものではない。また、請求人が主張している、「『ワールドカップサッカー』と言えば、FIFAが開催、運営するFIFAワールドカップサッカー大会に他ならない」という内容については、上記の言葉は、前述のワールドカップの各種競技会の表示の形態とまったく同様であって、何ら特徴的記載はないから、「ワールドカップ」の言葉が競技会の種類名として、また競技会の総称として一般的に認識されている現実がある限り、請求人の主張は余りにも無理があるといわざるを得ない。「ワールドカップ」の言葉は決してFIFAが独占的に使用できるものではない。
2 「WORLD CUP/ワールドカップ」の言葉に対するFIFAの認識を、FIFA関係者出願人イーエスエル フートバル アクチェンゲゼルシャフトによる下記の商標登録出願(乙第8号証)の拒絶引用例に対する意見書(乙第9号証)より検証する。
出願商標:「WORLD CUP’94」の文字と図形
VS
拒絶引用商標:・「WORLD CUP/ワールドカップ」
・「ワールドカップ/WORLD CUP」
FIFAが開催するサッカーのワールドカップの大会名称は、「WORLD CUP」の表示と開催年度がそれぞれの大会名称として使用されている。以下に表示する(意見書第7頁15行目〜第8頁2行目)。
「WORLD CUP 66 England」
「WORLD CUP 70 Mexico」
「WORLD CUP 74 Germany」
「WORLD CUP 78 Argentina」
「WORLD CUP 82 Spain」
「WORLD CUP 86 Mexico」
「WORLD CUP 94 US」
「WORLD CUP 98 France」
したがって、出願人は、本出願商標においても「『'94』の数字は1994年に開催される競技会を特定する上で重要な機能を果たしているというべきであり、『WORLD CUP』の文字とその開催年度の数字とにより、その表示がFIFAにより管理される4年ごとの競技会を表示するものとして世界中に知られているというべきである。
以上のことから、本願商標中の『WORLD CUP '94』は常に一体的に把握されるべきであるから、本願商標はわが国においては常に『ワールドカップナインティフォー』或いは『ワールドカップキュウジュウヨン』と称呼されるべきである。したがって、本願商標の称呼は、単なる『ワールドカップ』とは区別できるというべきである。」と述べている。
つまり、ワールドカップに関する競技会は、冒頭に記載したとおり数多のスポーツ競技がその対象になっているので、ワールドカップの言葉だけではFIFAを特定できないから、本出願人は、FIFAが開催するサッカーのワールドカップであることを特定するのに、開催年度は必要不可欠の言葉であると十分認識しているのである。
上記の意見書内容については、FIFA自身もサッカーのワールドカップの長き歴史からの経験則に基づき、十分認識しているものと思料する。また、「WORLD CUP+ '94(開催年度)」の形態がFIFA特有のものとして、出願人或いはFIFAが認めている限り、被請求人はこの表示形態からFIFAが開催運営するワールドカップを認識できると判断することにやぶさかでない。
3 本件商標からFIFAを特定することができない理由を以下に述べる。
本件商標の構成「WORLD CUP SOCCER TEAM」の前段の「WORLD CUP」からはFIFAを特定することはできない。また後段の「SOCCER TEAM」は、例えば「少年サッカー、高校或いは大学、実業団そしてJリーグなどのサッカーチーム」のように身近で、かつなれ親しんだ言葉として確立しており、この言葉からもFIFAを特定することはできない。したがって本件商標の構成からは「ワールドカップに出場するサッカーチーム」或いは「ワールドカップを目指すサッカーチーム」を意味するのが最も自然である。しかし前段の「ワールドカップ」の言葉はあくまで競技会の種類名を表示する言葉としての認識を逸脱するものではないから、請求人が述べている「FIFAが開催運営するFIFAワールドカップ」の意味は生じない。
したがって、本件商標の構成からはFIFAを特定できる言葉は皆無であるから、「ワールドカップ」の言葉を競技会の種類名として認識するだけで、「ワールドカップに出場するサッカーチーム」或いは「ワールドカップを目指すサッカーチーム」の観念を生ずる。決して「FIFAが主催するワールドカップ出場するサッカーチーム」の観念を生ずることはない。
なお、一般世人は、ワールドカップが各種スポーツの競技会を行っていることを知っているが、ワールドカップの言葉は各種競技会の総称的名称であるから、「ワールドカップ」の言葉から、スポーツ種目を想定して、主催者がだれかなどの発想は慣習上ない。ワールドカップの言葉は、一般的に競技会の種類名として、かつ各競技会の総称として認識しているのが実体である。現実の状況と実体を無視して、「ワールドカップ」の言葉をわが物顔的に独占的に使用することは極めて遺憾である。
4 本件商標と基本的に同じ構成である登録例を下記に記載する。
・「WORLDCUP TENNISTEAM」(乙第10号証)
(商標登録第1531550号)
・「WORLDCUP SKITEAM」(乙第11号証)
(商標登録第1531551号)
上記の登録商標の構成から、前者は「ワールドカップテニスチーム」(ワールドカップに出場するテニスチーム)の称呼、観念のみを生じ、また後者は「ワールドカップスキーチーム」(ワールドカップに出場する、或いはワールドカップを目指すスキーチーム)の称呼、観念のみを生ずる。この登録商標からテニスまたはスキーのワールドカップの運営者(仮にA者とする)を連想することは困難であり、またA者が主催するワールドカップに出場するテニスチームの観念は生ずることはない。同様に「WORLD CUP SOCCER TEAM」についても、「ワールドカップサッカーチーム」(ワールドカップに出場するサッカーチーム)の称呼、観念のみを生ずるだけであるから,「FIFAが主催するワールドカップに出場するサッカーチーム」の観念は生じない。
本件商標は上記登録例と構成が基本的に同じであるから、本件商標が無効になる理由はない。
5 請求人が無効理由に掲げた3(1)ないし(3)について若干意見を述べる。
サッカーのワールドカップの場合、わが国における歴史は日が浅く、ワールドカップの競技会種目について、サッカーは後発的といえる。わが国においてサッカーのワールドカップに関心を持ったのは、特にこの何年かはJリーグのテレビ放映もほとんどなくなり、サッカー熱は下火になっていたが、先のフランス大会において日本がアジアの代表として選ばれたことが契機になったからである。その時、にわかファンが急増したのは紛れもない事実である。それまでサッカーに見向きもしなかった、サッカー音痴の老若男女までが日本初出場ということで深夜のテレビにかじりついたのである。決してテレビの視聴率の数字がサッカーのルール、ワールドカップの存在、FIFAの存在を知る数には該当するものではない。
請求人は、2002年サッカーワールドカップ(日韓共催)について種々述べているが、政府は別段サッカーのワールドカップそのものを支援しているわけではない。これまでにそのような事実はない。日韓共催であるから、将来の両国における友好関係を2002年のサッカーワールドカップを好機として築き上げようとする政治的背景があっての支援である。
FIFAが主催するワールドカップに関する経済的側面については、乙第9号証の第11頁3行目〜12行目において述べられているように、いわゆる大会マーク(乙第12号証、同第13号証)がライセンシー及びスポンサーに許諾されているのである。このマークは、サッカーのワールドカップの開催年度或いは開催地が含まれていて、FIFAを唯一特定できる特徴のあるマークであるから、ライセンシー或いはスポンサーにとって経済価値がある。しかし、本件商標の構成はFIFAを特定できる開催地及び開催年度の記載はないだけでなく、FIFAのマークとして認識されていないSOCCER TEAMの言葉が表示されているので、FIFAのマークとしての認識は得られない。また、本件商標は「ワールドカップに出場する(或いはワールドカップを目指す)サッカーチーム」の観念が生ずるので、決してWORLDCUPの競技会名称を損なうものではない。
6 以上、本件商標は、商標法第4案第1項第7号、第15号及び第16号に該当しないので、無効にされる理由は一切ない。

第4 当審の判断
1 請求人は、FIFA が開催、運営する国際的なサッカー競技大会であるFIFAワールドカップ大会の経緯及び我が国における同大会に対する認識度等について述べると共に、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張しているので、この点について検討する。
請求人の提出に係る甲各号証によれば、以下の事実が認められる。
(1)「World Cup」「ワールドカップ」は、サッカー、ラグビー、スキー、マラソン、バレーボール等のスポーツの国際的な大会の名称である(甲第1ないし第3号証)。
(2)中でもサッカーは、最も古く、2年がかりで世界各地で予選が行われ、選ばれた代表国によって4年に1度欧州と米州で交互に開かれてきた。
(3)FIFAは世界のサッカーの中心となる国際組織であり、ワールドカップ、ワールドユースなどの大会を主催している。
(4)1994年に米国で開催されたワールドカップ・サッカーUSA94では我が国は最終予選まで進んだものの、いわゆる「ドーハの悲劇」で本大会出場は果たせなかった。1998年にフランスで開催されたワールドカップ・サッカー・フランス98で我が国は初出場を果たしたが、決勝トーナメントには進めなかった(以上、甲第1及び第2号証)
(5)FIFAが主催するワールドカップ・サッカー大会には、それを後援する公式スポンサーがあり、該スポンサーは、一業種一社に限られ、商品の品目ごとにライセンスが必要である。ライセンス対象商品はスポーツ関連商品に限られず、多岐に亘る(甲第5号証の2、9号証の1)。
(6)米国大会開催の頃から我が国においてもワールドカップ・サッカー大会に対する関心が高まり、我が国が初出場したフランス大会の際には、我が国においても、同大会についての報道が盛んに行われていた(甲第4及び第5号証)。
(7)2002年のワールドカップ・サッカー大会の日本及び韓国への招致が決まると、財団法人2002年FIFAワールドカップ日本組織委員会が政官財界をあげて組織されたほか、大会支援のために平成十四年ワールドカップサッカー大会特別措置法が制定され、文部省では2002年ワールドカップ準備室及び2002年ワールドカップ専門官を設置し支援体制の整備が図られた(甲第6号証、第7号証の1ないし3、第8号証の1及び2)。
さらに、2002年に我が国と韓国の共催で行われた2002年ワールドカップ韓国/日本大会では、我が国でも札幌、新潟を始め各地で試合が行われ、連日マスコミで大きく取り上げられ、全国民の耳目を集めることとなり、長野オリンピックに次いで国をあげてのイベントとなったことは、記憶に新しく周知の事実といえる。
以上からすれば、FIFAが主催するワールドカップ・サッカー大会は、本件商標の登録出願が行われた平成5年頃には我が国の需要者間にはそれ程知られていなかったとしても、現在においては、その存在は需要者間に広く認識されており、「WORLD CUP SOCCER」といえば、同大会を直ちに想起するほどになっているというべきである。
しかして、本件商標は、「WORLD CUP SOCCER TEAM」の文字からなるものであり、その構成中に「WORLD CUP SOCCER」の文字を有することから、これに接する取引者、需要者がFIFAの主催するワールドカップ・サッカー大会を連想、想起するであろうことは推認するに難くないところである。
そうすると、上記FIFA及び上記大会と何ら関係のない一私人たる商標権者が本件商標をその指定商品について独占的に使用することは、取引における公正な商業秩序を乱すおそれがあり、また、国際的組織たるFIFA及び上記大会の権威を損ない、ひいては国際信義に反することとなるものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものとなっているといわなければならないから、請求人のその余の主張について検討するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にするべきである。
被請求人は、サッカー以外の各種競技会の例を示すと共に、当庁における登録例を挙げ、本件商標の構成からは、FIFAを特定することはできず、「ワールドカップサッカーチーム」の称呼及び「ワールドカップに出場するサッカーチーム」又は「ワールドカップを目指すサッカーチーム」の観念のみを生ずるから、本件商標はWORLD CUPの競技会名称を損なうものではない旨主張している。
しかしながら、上記のとおり、今やFIFAの主催するワールドカップ・サッカー大会は、我が国においても一般に広く知られており、本件商標は該大会を直ちに連想、想起させるものといえるし、被請求人が掲げる登録例は、本件商標とは商標の構成態様が相違し事案を異にするものであって本件の審理に影響を及ぼすものではないから、被請求人の主張は採用することができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2003-02-06 
結審通知日 2003-02-12 
審決日 2003-02-27 
出願番号 商願平5-93967 
審決分類 T 1 11・ 1- Z (018)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 実小松 裕中嶋 容伸 
特許庁審判長 大橋 良三
特許庁審判官 滝沢 智夫
高野 義三
登録日 1997-08-08 
登録番号 商標登録第3337725号(T3337725) 
商標の称呼 ワールドカップサッカーチーム 
代理人 黒田 健二 
代理人 秋山 重夫 

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