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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 007
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない 007
管理番号 1073473 
審判番号 無効2000-35447 
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-08-24 
確定日 2003-02-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第4370184号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4370184号商標(以下、「本件商標」という。)は、後掲(1)に表示したとおりの構成よりなり、平成9年2月5日に登録出願、第7類「農業灌水用・排水用・園芸用・高圧スプリンクラー用・洗浄用・土木関連汚泥排水用のポンプ」を指定商品として、同12年3月24日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 請求人が本件商標を商標法第4条第1項第11号に該当するものとして引用する登録第1521462号商標(以下、「引用商標1」という。)は、後掲(2)に表示したとおりの構成よりなり、昭和48年4月17日に登録出願、第9類「産業機械器具、動力機械器具、風水力機械器具、事務用機械器具、その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品及び附属品、機械要素」を指定商品として、同57年6月29日に設定登録されたものであるが、その後、指定商品については、商標権一部取消し審判があった結果、「風水力機械器具」について登録を取り消す旨の審決がなされ、その登録が平成13年8月8日になされているものである。同じく、登録第1521488号商標(以下、「引用商標2」という。)は、「キューピー」の片仮名文字を横書きしてなり、昭和50年6月20日に登録出願、第9類「産業機械器具(但し、かいばおけ、印刷または製本機械器具を除く)水車、風車、風水力機械器具、その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品及び附属品、機械要素」を指定商品として、同57年6月29日に設定登録されたものである。同じく、登録第1544380号商標(以下、「引用商標3」という。)は、「KEWPIE」の欧文字を横書きしてなり、昭和53年3月8日に登録出願、第9類「産業機械、その他本類に属する商品」を指定商品として、同57年10月27日に設定登録されたものである。同じく、登録第2345560号商標(以下、「引用商標4」という。)は、「Q.P.Corporation」の欧文字を横書きしてなり、昭和63年9月20日に登録出願、第9類「産業機械器具、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成3年10月30日に設定登録されたものであるが、その後、指定商品については、商標権一部取消し審判があった結果、「風水力機械器具」について登録を取り消す旨の審決がなされ、その登録が平成13年8月8日になされているものである。同じく、登録第2647366号商標((以下、「引用商標5」といい、これらを一括して「第1引用商標」という。)は、やや小さめな「キューピー」の片仮名文字と「野菜工場」の漢字とを二段に横書きしてなり、平成4年1月31日に登録出願、第9類「産業機械器具、動力機械器具(電動機を除く)風水力機械器具、事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)機械要素」を指定商品として、同6年4月24日に設定登録されたものであるが、指定商品については、商標権一部取消し審判があった結果、「風水力機械器具」について登録を取り消す旨の審決がなされ、その登録が平成13年8月8日になされているものである。
2 請求人が本件商標を商標法第4条第1項第15号に該当するものとして引用する登録第595694号商標(以下、「引用商標6」という。)は、後掲(3)に表示したとおりの構成よりなり、昭和35年5月31日に登録出願、第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」を指定商品として、同37年8月24日に設定登録がなされているものである。同じく、登録第832283号商標(以下、「引用商標7」といい、これらを一括して「第2引用商標」という。)は、「キューピー」の片仮名文字を横書きしてなり、昭和41年8月11日に登録出願、第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」を指定商品として、同44年9月24日に設定登録がなされているものである。
3 そして、上記引用各商標はいずれも商標権の存続期間の更新登録がなされているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効にする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第23号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用各商標との類否について
本件商標は、別掲(1)に示す通りの構成よりなるところ、その前半の部分は、欧文字の「Q」と「P」とを「Q」の文字の右下に突き出す線を右横に突き出す様にし、「P」の文字と結合させたモノグラム(組み合わせ文字)と看取されるものであり、その組み合わせが簡易であることからすれば、誰もが容易に「Q」と「P」とのモノグラム化した文字よりなるものであると認識し得るものである。
この点に関しては、請求人の商品パンフレット(甲第7号証の1ないし甲第7号証の7)において、本件商標中のモノグラム化した「QP」と共に、菱形輪郭中に普通の書体の「QP」の文字を書した社章、普通の書体で書した「QP」の文字よりなる商標を現に使用しているものであり、かつ被請求人が本件商標の出願の審査時の手続(甲第8号証)において、拒絶理由通知に対して提出した意見書に添付した証拠(新聞、雑誌の紹介記事等)においても「QPポンプ」・「QP水位センサー」「QP高圧洗浄機「QPエンジンポンプ」「QP超細霧システム」というように普通の書体で書した「QP」の文字を使用して紹介されていることから見ても、取引者、需要者は、モノグラム化した「QP」の文字よりなるものと容易に認識し得るものであり、かつ現に認識されているといわざるを得ないものである。そうとすれば、本件商標は、モノグラム化した「QP」文字と「ポンプ」の片仮名文字とを連綴したものと認識されるものである。
しかして、本件商標の構成中「ポンプ」の文字の部分は、指定商品との関係において、商品の普通名称普通に用いられる方法で表示するものであるから、自他商品識別標識としての機能を有しないものであり、前半のモノグラム化した「QP」の文字の部分が自他商品識別標識としての機能を果たすというのが相当である。そうしてみると、本件商標は、その構成に応じて「キューピーポンプ」の称呼を生じるほか、自他商品識別標識としての機能を果たすモノグラム化した「QP」の文字の部分より「キューピー」の称呼をも生じるといわざるを得ない。
また、本件商標は、「キューピー」と発音、称呼されるものであることからすれば、電話、口頭等の取引において、これに接する取引者、需要者は、「キューピー」と呼ばれ広く親しまれたキューピー人形を想起し得るものであるから、「キューピー(人形)」の観念をも生じるというのが相当である。
上述の請求人の主張については、モノグラム化された構成からは特定の称呼を生じないとした審決の判断は誤りであると判断し、審決を取り消した東京高裁・平成3年(行ケ)第91号判決(甲第9号証)、モノグラム化された「GE」の文字より「ジーイー」の称呼を生じるものであるから、「ジーイー」の称呼を生じないと判断した審決の判断は誤りであると判断し、審決を取り消した東京高裁・平成9年(行ケ)第163号判決(甲第10号証)、「Q.P.KOWA」の文字よりなる商標の「Q.P.」の文字の部分より、「キューピー」又はキューピー人形の称呼、観念を生じないとはいえないと判断し、審決を取り消した東京高裁・昭和63年(行ケ)第84号判決(甲第11号証)、大きく書された「QP」の文字の部分より「キューピー」の称呼を生じるものであるから、「キューピー」の称呼の生じること明らかな引用商標とは、称呼上類似の商標であると判断した異議決定(甲第12号証ないし甲第15号証)がある。
そうとすれば、本件商標の構成中のモノグラム化した「QP」の文字の部分より、「キューピー」「キューピー人形」の称呼、観念を生じるものである。
これに対して、引用商標1は、別掲(2)に示すとおり、やや図案化した「QP」の文字と小さく書した「キューピー」の文字よりなるものであり、引用商標2は「キューピー」の文字よりなるものであり、引用商標3は「KEWPIE」の文字よりなるものであり、引用商標4は「Q.P.Corporation」の文字よりなるものであり、引用商標5は「キューピー」の文字と「野菜工場」の各文字を上下2段に書してなるものであるから、これら引用各商標は、その構成上「キューピー」「キューピー人形」の称呼、観念の生じること明らかである。
したがって、本件商標と第1引用商標とは、その称呼、観念を共通にするものであり、互いに相紛らわしい類似の商標というべきものである。
(2)本件商標の指定商品と第1引用商標の指定商品について
本件商標の指定商品は、何れも第1引用商標の指定商品中に包含されていること明らかであるから、本件商標の指定商品と上記引用各商標の指定商品とは、同一又は類似の商品である。
よって、本件商標と上記引用各商標とは、その称呼、観念において相紛らわしい互いに類似の商標であり、かつ指定商品も同一又は類似のものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)請求人の商標の著名性
請求人は大正8年(1919年)に設立された会社であり、大正14年に我が国初の国産マヨネーズの製造を開始し、「キューピー」「KEWPIE」の文字及び「キューピー人形の図」よりなる商標を付して発売してより今日に至るまで、商標の書体、形態に多少の変更を加えつつも、一貫してこの商標を使用し続けてきた(甲第16号証の1、甲第16号証の2、甲第17号証)。そして、戦後の国民の食生活の欧風化に伴い、欧風食に合うマヨネーズが爆発的に売れるようになったことにより、「キューピー」、「KEWPIE」、「キューピー人形の図」の商標は日本全国津々浦々にまで知れわたるに至ったものである。請求人は、「キューピー」、「KEWPIE」「キューピー人形の図」の商標を付したマヨネーズが全国的なシェアを獲得するに至ったことから、昭和32年には社名を「キューピー株式会社」に変更し、以来、今日までその社名を使用し続けてきたものである(甲第16号証の1)。また、請求人は、マヨネーズのみならず各種ドレッシング、ミートソース、タルタルソース、マスタード等の調味料、ベビーフード、卵加工品等の加工食料品にも「キューピー」、「キューピー人形の図」の商標を付して次々に発売し、これらが全国的な規模で売れたこと、そしてこれらの商品には全て製造者としての「キューピー株式会社」の商号が表示されていたことから、本件商標の出願の前までには「キューピー」といえば直ちに上述の商品の商標、或いは請求人を指称するものと認識されるほどに広く知られるに至っていたものである(甲第16号証の1、甲第16号証の2、甲第17号証)。このような請求人の新商品開発、製造・販売及び商品宣伝の努力により、引用各商標が著名となったことから、他の分野の商品について、この商標を他人が使用した場合、請求人の業務に係る商品であるかの如く混同を生じさせるおそれがあるとの理由により、食品の分野のみならず、本件商標の指定商品をも包含する様々な商品分野において、その著名性故に防護標章の登録が認められている(甲第18号証及び甲第19号証)。そして、サービスマーク登録制度を採用した改正商標法の施行後の役務の第35類〜第41類の全ての区分について防護標章の登録が認められている程の著名性を獲得している(甲第19号証)。
上述したことからすれば、第2引用商標は、本件商標の出願の日前には極めて著名であったといわなければならないものである。
(2)本件商標と第2引用商標との類否について
本件商標は、上述したとおり「キューピー」「キューピー人形」の称呼、観念を生じるのに対して、第2引用商標は、「キューピー」「キューピー人形」の称呼、観念の生じること明らかである。そうしてみると、本件商標と第2引用商標は、「キューピー」「キューピー人形」の称呼、観念を共通にする類似の商標といわなければならない。
3 請求人及びその関連会社の業務の多様性について
(1)請求人は、上述した通り、マヨネーズを中心としてドレッシング、ミートソース、タルタルソース等の調味料を主として製造、販売しているものであるが、それらの原料として多く用いられる卵に関する技術を発展させ、業務用の錦糸卵、液卵、乾燥卵等の卵製品及びカルシウム強化食品等のヘルスフードをも製造、販売しているものであり、さらにその技術を発展させたファインケミカル製品(化学品、医薬品原料)、食品添加物(卵殻カルシウム)の製造、販売を昭和57年頃より開始し、これについても業界の注目を浴び、広く知られているものである(甲第16号証の1)。さらに、請求人は、自社の各種食品製造機械器具を開発してきた技術を生かして、総菜製造装置、連続殺菌装置、割卵機、炊飯装置、輸液一貫製造装置、立体自動倉庫、業務用缶処理装置、サラダ充填機、サラダミキサー、加湿機、ISO・HACCP対応用フットキーシステム、蒸煮装置等のフードエンジニアリングの分野及び医薬品(輸液)の点滴用ソフトバッグの製造・充填シールのエンジニアリングの分野にも進出したばかりでなく、マヨネーズ、ドレッシング等と関連の深い葉菜類、イチゴ、キュウリ等の農業の分野において、工場生産の可能な水耕栽培の技術を開発して、農水省の補助事業であるTSファームの分野にも進出し、これらのことが新聞においても大きく取り上げられ、広く知られるに至っているものである(甲第16号証の1、甲第20号証の1ないし甲第20号証の15、甲第21号証の1ないし甲第21号証の76)。そしてこれらの装置、機械についても第1引用商標を使用しているものである。また、請求人の商号の英文表記として、「キューピー」の文字を「Q.P.」に置き換えた「Q.P.Corporation」の文字を会社案内及び機械、装置のパンフレットに使用しているばかりでなく、割卵機の商標として「QP」の文字を主要部とする「QP-N600」の文字よりなる登録第4074814号の商標を使用しているものであり、このことも取引者、需要者間に広く知られているものである(甲第16号証の1、甲第16号証の2、甲第20号証の2、甲第20号証の4、甲第20号証の12、甲第22号証)。
(2)請求人は,食品製造技術を活かすべく設立したキューピータマゴ(株)、(株)全農・キューピー・エッグステーション、キューピー醸造(株)、(株)キューピー流通システム(現在は、「キューソー流通システム」に商号を変更した。)等の「キューピー」の文字を商号の一部に用いた関連会社のみならず、多くの関連会社を有し、極めて広い分野の食品の製造、加工、販売を行っているばかりでなく、運送(流通)、食品生産ラインのメンテナンス、レストランの経営をも行ってものである(甲第16号証の1、甲第21号証の75、甲第21号証の76、甲第23号証の1、甲第23号証の2)。
4 本件商標を使用した場合の混同のおそれについて
(a)本件商標と第1引用商標の商標とは類似の商標であること(b)請求人の使用する引用商標6は、あらゆる商品分野、役務の分野において、他人が使用した場合、請求人の業務に係る商品若しくは役務であるかの如く混同を生じさせるおそれがある程に極めて著名であることから全ての商品又は役務の区分において防護標章の登録が認められているものであり、また、引用商標7は多くの商品分野、役務の分野において、他人が使用した場合、請求人の業務に係る商品若しくは役務であるかの如く混同を生じさせるおそれがある程に著名であることから大多数の商品又は役務の区分において防護標章の登録が認められているものであり、本件商標は第2引用商標と類似の商標であること(c)請求人及びその関連会社の業務は、食品、化学品、農業といった商品の分野のみならず、フードエンジニアリングの分野における機械、装置を製造し、医薬品(輪液)の点滴用ソフトバッグの製造・充填シールのエンジニアリングの分野にも広がり、レストラン、輸送(物流)の分野にも広がっているいるものであること(d)請求人は、商号の英文表記として、「キューピー」の文字を「Q.P.」に置き換えた「Q.P.Corporation」の文字を会社案内及び機械、装置のパンフレットに使用しているばかりでなく、割卵機の商標として「QP」の文字を主要部とする「QP-N600」の文字よりなる登録第4074814号の商標を使用しているものであり、このことも取引者、需要者間に広く知られているものである。そして、本件商標は前述したとおりモノグラム化した「QP」の文字を主要部とするものであって、「QP」の文字において共通するものであるから、本件商標をその指定商品に使用した場合には、その商品が請求人若しくは請求人の関連会社の業務に係る商品であるかの如く混同を生じさせるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
5 答弁に対する弁駁(第1回)
(1)被請求人は、倒産した株式会社トウカイポンプ製作所の施設を競売(破産競売)により取得したに過ぎず、株式会社トウカイポンプ製作所の債権、債務を引き継いだとはいえないものである。また、被請求人代表者及び従業員も株式会社トウカイポンプ製作所に在籍していた者が、別の新しい会社を設立し、そこに勤務したに過ぎず、「QPエンジンポンプ」「QPトラッシュポンプ」の名称も株式会社トウカイポンプ製作所より譲渡されたものでなく、株式会社トウカイポンプ製作所の倒産を奇貨として勝手に使用しているに過ぎないものである。さらに、取引先も株式会社トウカイポンプ製作所の倒産を機に、株式会社トウカイポンプ製作所に在籍にしていた者が株式会社トウカイポンプ製作所在籍時の取引上の関係を利用して、取引を開始したに過ぎないというべきものである。そうしてみると、被請求人が昭和40年代から「QPエンジンポンプ」「QPトラッシュポンプ」の名称を使用して、農業用、土木用のポンプを製造、販売をしていた株式会社トウカイポンプ製作所の施設、人員、取引先を引き継いだ企業形態として、事業を開始したとはいえないものであるから、この点に関する被請求人の主張は適切ではない。
したがって、被請求人の「QPエンジンポンプ」「QPトラッシュポンプ」の名称の使用については、株式会社トウカイポンプ製作所の使用との継続性は無いというべきものである。
(2)被請求人の示す表2の1及び表2の2に記載されている企業は僅か4社であり、その内「三菱重工中部販売」は、中部地方のみの販社に過ぎず、これを以て農業用、土木用ポンプ全体のシェアとの比較はできない。そしてその売り上げは、昭和61年度から平成11年度間での14年間で約163億2千万円程度であり、1年平均では僅か11億6千万円程度の額であり、農業用、土木用ポンプ全体から見れば微々たるものに過ぎず、この程度では、需要者、取引者間に広く知られるに至っているとは到底いえない。
前述の株式会社トウカイポンプ製作所及び被請求人の「QPエンジンポンプ」「QPトラッシュポンプ」等の「QP」の文字を主要部とする標章の使用は、請求人の保有に係る引用各商標の商標権を侵害する状態での使用であり、その違法状態の下における使用が、法律上、被請求人の正当な使用による周知、著名性を獲得したものとは認められるべくもないものである。
(3)被請求人の使用する「QPエンジンポンプ」、「QP超細霧システム」等の各種「QP」の表示形態において明らかなごとく、「QP」と商品名又は商品の品質、機能を表示する語との結合であることは誰が見ても明瞭であるから、この点に関する被請求人の主張は、失当である。また、被請求人のパンフレット表紙面には、菱形輪郭内に若干図案化した「QP」の文字を表示した商標を顕著に表示していることから見ても、「QP」の文字を使用していると誰もが容易に理解し、認識し得るところである。
(4)本件商標と引用各商標とは、「キューピー」の称呼において類似の商標であることは、極めて妥当な理由であるとして誰もが認め得るところである。そして、本件商標の審判の請求書が被請求人に送達された後、被請求人が本件審判の請求の理由に第1引用商標に対して、取消審判の請求をしている事実があることから見ても、被請求人自身が本件商標と引用各商標との類似を認識しているといわざるを得ない。すなわち、被請求人は、本件登録無効審判事件においては、本件商標と引用各商標との類似を表面上は否定しつつも、類似の判断は避けられないと自覚、認識し、その後に再出願した場合又は商標権の侵害訴訟を提起された場合を考慮し、その障害となる引用各商標を取り消すことにより、その障害を除去することを目的して、前述の取消審判の請求に及んだといわざるを得ないものである。
(5)被請求人が昭和40年代から「QPエンジンポンプ」「QPトラッシュポンプ」の名称を使用して、農業用、土木用のポンプを製造、販売をしていた株式会社トウカイポンプ製作所の施設、人員、取引先を引き継いだ企業形態として、事業を開始したとはいえないものであるから、株式会社トウカイポンプ製作所の使用との継続性は無いというべきものである。したがって、この点に関する被請求人の主張は、採用できない。そして、前述の株式会社トウカイポンプ製作所及び被請求人の「QPエンジンポンプ」「QPトラッシュポンプ」等の「QP」の文字を主要部とする標章の使用は、請求人の保有に係る引用各商標の商標権を侵害する状態での使用であり、その違法状態の下における使用が、法律上、被請求人の正当な使用による周知、著名性を獲得したものとは認められないものである。請求人は、食品分野のみならず、食品製造に係る機械、設備、装置のエンジニアリング業務、さらには農業分野のTSファームに係る機械、装置の製造、販売をも行っているところであり、これらの業務に関しては、ポンプ及びポンプの範疇に属するフィーダーの販売をも行っているところであり、これらのポンプ及びポンプの範疇に属するフィーダーには、請求人の業務に係る商品であることを表示する商標として「KEWPIE」「キューピー人形の図」「キューピー」の文字が使用されている。
請求人が食品製造機械に係る業務を行い、農業の分野のTSファームに係る機械、装置の製造、販売をも行っていることは、各種雑誌、新聞においても大きく取り上げられ、広く知られている。特にTSファームは農業の分野に係るものであり、被請求人の業務に係る農業用のポンプとはその分野を同じくするものである。そうしてみると、本件商標をその指定商品について使用するときは、請求人の業務に係る商品であるかのごとく混同を生じること必至であるといわざるを得ないものである。
被請求人は、主として取引先の証明書を提出して、本件商標の使用によって混同の生じていないことを証明しようとしているが、商標法第4条第1項第15号の「混同を生ずるおそれがある商標」とは、取引関係にある当業者のみならず一般需要者における混同のおそれをも包含するものであり、この点から見ても、これら証明書は、混同を生ずるおそれがないことを立証しているとはいえない。
6 答弁に対する弁駁(第2回)
別件であるが請求人の商標登録出願に係る別添甲第24号証の1に示す商願2001-049779の商標「Q.P.Corporation」(商品の区分第7類及び第9類)が、別添甲第24号証の2に示す平成14年5月20日(起案日)付け拒絶理由通知書により、本件商標「登録第4370184号」(商願平9-010499)を引用し、商標法第4条第1項第11号に該当する旨、認定された。
翻って、請求人が本件審判請求事件における請求の理由の一つ、商標法第4条第1項第11号における引用商標として示した第1引用商標のうち、引用商標4の「Q.P.Corporation」(登録第2345560号)は、上記商標と社会通念上同一の商標であり、それが原審において引用商標4と類似の商標と認定されたことは、当然のことながら本件における商標法第4条第1項第11号の判断にも、法の安定性の見地から同一の結論が下されなければならない。
上記事実によれば、請求人が引用する第1引用商標と本件商標とは、称呼を共通にする類似の商標であり、指定商品も互いに同一又は類似するものであること明らかであり、その事実を示す補強証拠を甲第24号証の1及び2として提出する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第21号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標の周知性
被請求人は、昭和61年3月設立されたが(乙第1号証)、被請求人代表者は、前記設立前には、株式会社トウカイポンプ製作所(本店所在:三重県松阪市大口町1162番地、以下、「トウカイポンプ」と略称する。)に勤務していた。トウカイポンプは、その名称が示すように、各種のポンプの製造販売を主たる業務としていたが、昭和40年代から既に、「QP【『QP』は、後掲(1)中のモノグラム図形である。以下、これについても『QP』とする。】エンジンポンプ」、「QPトラッシュポンプ」、又はその簡略化した記号である「QPエンジンポンプ」、「QPトラッシュポンプ」の名称を使用して、農業用、土木用のポンプの製造販売を行っていた。しかるにトウカイポンプは、昭和61年倒産し、かつ破産手続に至ったことから、被請求人代表者は、被請求人会社を設立した。被請求人は、トウカイポンプの設備、資材などを前記破産手続による競売(破産競売)に基づいて購入し、営業活動を開始した。そして、トウカイポンプの従業員のうち、少なからぬ人員が被請求人に移行し(現時点においても、合計11名が被請求人の従業員として残留している。)、かつトウカイポンプの代理店と引き続き取引を行うに至った。即ち、被請求人はトウカイポンプとの間において形式的な営業譲渡契約を締結した訳ではないが、施設、人員、取引先などを引き継いだ状態にて営業を行ったため、少なくとも対外的にはトウカイポンプを引き継いだ企業形態として事業を開始したのである。
被請求人が製造販売を行っている製品のほとんどは、農業用ポンプ及び土木用ポンプであり、かつこれらのポンプは、本件商標の指定商品である排水用・園芸用・高圧スプリンクラー用・洗浄用ポンプとしても使用可能であるが、前記の如き事業の引継ぎ状態を反映し、その名称として「QPポンプ」、「QP PUMP」、又はその簡略形として「QPポンプ」、「QPPUMP」の名称、更には「QP」、「QP」と「ポンプ」、「PUMP」との間に、「エンジン」又は「ENGINE」を挿入したことによる名称を使用し、今日に及んでいる(以下、これらの形態による商標を「本件全商標」と略称し、かつ、本件全商標を使用し、かつ被請求人が製造販売を行っているポンプを「本件ポンプ」と略称する)。そして前記の点は、乙第2号証(トウカイポンプの元代表取締役作成の陳述書及びその添付書類)、乙第3号証の1、2(トウカイポンプの元取締役作成の陳述書)及び乙第4号証(トウカイポンプの元従業員であり、かつ現在被請求人の従業員であるメンバー作成の陳述書及びこれと一体をなす15年間の決算報告書抜粋)によって明らかにする。
被請求人における、製造販売の対象物の殆どは、本件全商標を使用しており、本件商標はこれらの商標の典型的な1つのタイプに該当する。
乙第4号証の1〜14は、昭和61年度〜平成11年度における被請求人の過去15年間の決算報告書であり、前記期間における売上金による販売実績は、別紙表1記載の通りである。別紙表1からも明らかなように、被請求人は、昭和61年度〜平成11年度において、合計金181億3,260万0,420円の売上実績に至っている。被請求人における売上金額の内、本件ポンプが占める割合は、少なくとも9割に至っており、従って、本件ポンプの売上実績による合計金額は、少なくとも金163億1,934万0,378円である。但し、乙第4号証の1〜14においては、ポンプの販売台数が記載されている訳ではない。昭和62年、昭和63年及び平成元年における農業用ポンプ及び土木用ポンプの総販売金額及び総販売数量、更にはこれらによる平均単価は乙第6号証の1(甲第 8 号証の「意見書」に添付され、かつ審査段階における「甲第11号証」と同じ)の通りである。
前記各表からも明らかなように、本件ポンプの昭和61年〜平成5年当時の上台価格による平均単価は、約金2万円であるが、本件ポンプの前記平均単価は、殆ど変動していない。従って、本件ポンプの平均単価は、最大限見積もったとしても、金2万5,000円以下であることは明らかである。
従って、これまでの合計販売金額が、金163億1,934万0,378円であることを考慮するならば、本件ポンプは、被請求人によって少なくとも既に合計652,774台の販売が行われていることが判明する。ポンプにおいては、大抵の場合駆動力源を必要としており、本件ポンプにおいてもその例外ではあり得ない。農業用及び土木用のポンプの相当部分は、駆動源として電気モーターではなく、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンを使用している(使用部所において、必ずしも電力供給源が存在するとは限らないから。)。
乙第5号証の1〜4は、我が国における著名なエンジン製造企業である本田技研工業株式会社、富士重工業株式会社、三菱重工中部販売株式会社、ヤンマーディーゼル株式会社が、平成7年〜平成12年(但し、三菱重工中部販売株式会社及びヤンマーディーゼル株式会社の場合には、平成8年〜平成12年)におけるポンプ用エンジンの合計集荷台数、及びこのうちの被請求人に対する販売台数を示しており、その集計は別紙表2の1及び2の2にそれぞれ集計する通りである。別紙表2の1に示す業界全体のポンプに使用するエンジンの出荷台数と、別紙表2の2に示す本件ポンプ使用のために出荷されたエンジンの台数との比率は、1,204,190対153,383であり、本件ポンプは、出荷されたエンジンを基準とする限り、全体のシェアのうち、約13.0%程度を占めていることが判明する。尚、別紙表2の2に示す被請求人に購入されたエンジンの台数は、被請求人がこの当時製造販売したポンプの一部に使用されている以上、エンジンの購入台数よりも、対応する期間において請求人が製造販売を行った本件ポンプの数の方が相当多いという関係にある。本件ポンプの主たるユーザーは、農業経営者及び土木業者であるが、当該ユーザーに対しては、被請求人→代理店→末端の販売店のルートを経ている。前記販売ルートにおいて、代理店、末端販売店及びユーザーを含む需要者においては、そのほとんどが業界の約13.0%のシェアを占めている本件ポンプの存在及び出所表示機能を表示している本件全商標、更にはそのうちの一形態である本件商標を知悉している確率は極めて高いものと解される。
乙第6号証の1〜10は、被請求人が扱っている製品の紹介、又は宣伝広告に関する業界新聞及び雑誌の記事における掲載事項を示し、その記載内容は別紙表3に集約する通りである(これらの乙号証の殆どは、甲第8号証として提出されているが、甲第8号証が極めて整理されていないので、被請求人においては改めて提出する)。
被請求人の製品の殆どは本件ポンプであるが、別紙表3からも明らかなように、被請求人が扱っている製品の全てが「QP」、又は「QP」が表示されている。即ち、これらの表示は被請求人製品を表すものとして、少なくともポンプ業界において定着している。前記乙第6号証において紹介されている「QP超細霧システム」、「QP水位センサー」などは、被請求人においては主たる製品に該当する訳ではない。しかしながら、本件ポンプにおいて、「QP」、「QP」の表示が伴っていることから、被請求人の他の製品においても「QP」、「QP」の表示が行われている。乙第6号証の1は、本件ポンプについて「QPポンプ」として広く親しまれていることを紹介しており(末尾の記載部分参照)、同様に、乙第6号証の8は、被請求人が扱っている「QP超細霧システム」を紹介するに際し、「QPエンジンポンプでおなじみの株式会社マツサカエンジニアリング…」と記載し、本件全商標による本件ポンプが、少なくとも業界おいて著名であることを端的に証明している。被請求人は、業界誌又は一般誌などにおいて継続的に本件ポンプの広告宣伝を行っている訳ではない。にも拘らず、前記乙第6号証の1及び同第6号証の8の如き紹介が行われているのは、正に、被請求人が業界の約13.0%のシェアに裏付けられているような販売実績を有しているからに他ならない。
乙第7号証の1〜21は、被請求人、その代理店、更にはその代理店を経して本件ポンプを取り扱っている業者によるカタログ、パンフレットを示す。これらのカタログ及びパンフレットにおいても、本件ポンプにつき、本件全商標によって本件ポンプが紹介されている。もとより、これらのカタログ及びパンフレットは、被請求人を出所とする本件全商標の表示を伴う本件ポンプが、業界において継続的に販売されたことを示すと共に、これらのカタログ及びパンフレットが業界又はユーザーに配布され、本件商標の著名化に寄与していることを裏付けている。
乙第8号証の1〜29は、本件ポンプの取扱説明書の抜粋であるが、これには、「QPエンジンポンプ」の表示が行われている。即ち、本件ポンプにおいては、ユーザーに対する取扱説明書においても、本件商標と「エンジン」とを結合した商品名が使用されている。このような状況は、需要者たるユーザーに対する技術的な取扱説明においてさえ、「QP」の表示が被請求人を表すことを客観的に印象付ける機能を発揮していることを証明している。
乙第9号証の1〜7は、本件ポンプの展示会における展示、及び末端の販売業者による本件ポンプに関するポスターの展示状況を示しており、その具体的内容は別紙表4に示す通りである。また、被請求人又はその代理店においては、本件全商標の表示を伴って本件ポンプの展示を行い、他方、本件ポンプの末端小売業者は、本件全商標の表示を伴って本件ポンプに関するポスターを掲載しているが、これらの状況は本件全商標の表示を伴う本件ポンプの製造販売が業界において定着していることを客観的に証明している。
乙第10号証の1、2は、被請求人の代理店が使用している封筒を示し、乙第10号証の3〜5は、当該代理店の従業員が使用している名刺を示す(但し、乙第10号証の5は、3名の名刺を示すが、裏面については、1枚の共通した表示を示す。)。これらの乙第10号証においては、何れも前記各封筒及び名刺には「QPエンジンポンプ」、即ち本件商標の中間位置に「エンジン」が付加された表示が行われている。このような表示は、「QP」、又は「QP」の表示を伴う本件ポンプが、被請求人の代理店において代表的な商品であることを示すだけでなく、代理店の販売活動を通じて本件ポンプが「QP」、又は「QP」の表示を伴うことを需要者である業界の取引業者及びユーザーに広く知らせることに寄与していることを証明しているのである。
乙第11号証の1、2は、平成9年1月当時ロシアタンカーの沈没によって、石川県の珠洲市海岸に漂流・漂着した重油の回収・除去のために被請求人が本件ポンプを珠洲市及び石川県に寄贈したことを示す書証である。
これらの書証においては、本件ポンプが地方公共団体などに寄贈され、社会的に有意な貢献を行っていることを証明している。そして、乙第11号証を参照しても明らかなように、各感謝状においては何れも「QP」を使用した本件ポンプのタイプが記載されている。このような事実は、本件ポンプが本件全商標の使用を必然的に伴っていることを示している。
前記本件全商標の表示を伴った本件ポンプの紹介、宣伝広告、展示、寄贈の各事実は多岐に亘っており、このような事実は本件全商標の使用に伴う本件ポンプが、被請求人の出所を示すものとして業界に定着していることを客観的に証明しているものという他はない。本件全商標は「QP」、又はその簡略形体である「QP」と、「ポンプ」又は「PUMP」の結合であり、本件商標はその内の一形体である。但し、「QP」は、「QP」の簡略化した表示であり、当該表示もまた、「ポンプ」、「PUMP」と結合することによって、被請求人を表示するものとして既に業界に定着していることは、前記2において明らかにした通りである。「PUMP」が「ポンプ」を表し、かつ発音においても同一であることは当たり前の事項である。このような場合、例えば、被請求人によって「QPポンプ」、又は「QPPUMP」(更には、「QPエンジンポンプ」、又は「QPENGINE PUMP」)による本件全商標を一定期間使用した後、本件商標たる「QPポンプ」を使用したとしても、前記の如き各結合要素の共通性により、需要者(但し、取扱業者を含む)においては、後者による表示もまた、請求人を示すものとして理解するのは必然的な帰結である。とすれば、本件ポンプの販売、宣伝広告において常に本件商標が使用された訳ではなく、上記の如き共通性を有している「QPポンプ」、「QPPUMP」(更には、「QPエンジンポンプ」、又は「QPENGINE PUMP」)の使用が行われたとしても、これらの使用の蓄積は、本件商標の連想の蓄積を意味しており、結局本件全商標の著名化は、正に本件商標の著名化を意味するものに他ならない。
本件商標のうちの「ポンプ」は、明らかに製造販売の商品自体であり、商標法第3条第1項第3号の商品の「品質」に該当する。
商標法第3条第2項が、商標法第3条第1項第3号に該当する商標であっても、使用の結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる場合には、商標登録が可能であることを規定している。
前記商標法第3条第2項は、対象となる商標の使用実績が周知又は著名である場合には、当該商標が商品の品質を表示したとしても、前記周知性又は著名性によって当該商標の識別機能を肯定しているからに他ならない。
このような同条同項に即するならば、本件商標においては、「QP」の部分と「ポンプ」の部分との結合形態が、既に需要者間に定着しており、かつ被請求人を出所とする商品を表す識別機能を発揮しているものと解すべきである。かくして、本件商標は「QP」を要部とし、「ポンプ」を商品の品質部分とするのではなく、「QPポンプ」一体による表示形態として理解されねばならない。
2 商標法第4条第1項第11号の該当性
前記の点については、結局出所の混同を生ずるおそれがあるか否かという基準によって判断すべきであり(乙第12号証:最高裁判所昭和43年2月27日判決 民集22巻2号399頁の「氷山印」事件参照)、そのためには具体的な取引の実情を参酌するのが不可欠である。
本件商標の「QP」の部分は、アルファベットの「Q」と「P」との結合字体ではなく、あくまでモノグラム化した表示である。しかも、当該表示は、既に昭和40年代からトウカイポンプが使用していた表示形態を、被請求人が取引関係を引き継いだことに伴って承継した表示であり、前記モノグラム化表示を使用しているのは、被請求人のみである。
他方、「QPポンプ」自体が、被請求人を表示する識別機能を有した状態にて著名であるが、前記のように、「QPポンプ」の独占的な使用状態を考慮するならば、これによる本件商標は、「QPポンプ」よりも更に識別機能を有した状態にて著名というべきである。
前記(1)において明らかにしたように、本件商標は、本件ポンプの出所である被請求人を表すものとして、「QP」と「ポンプ」とが不可分一体の状態にて結合している。「QP」のモノグラム化した部分を、「キューピー」という称呼が生ずることについては、多少の疑問の余地があるが、仮にこのような称呼を有するとしても、前記不可分一体性を考慮するならば、本件商標の要部は、正に「QPポンプ」であって、「QP」と「ポンプ」とを分離することはできない。前記事項を考慮するならば、たとえ本件商標において称呼が生ずるとしても、当該称呼は「キューピーポンプ」である。
これに対し、引用各商標の各称呼は、「キューピー」(引用商標1、2、3の場合)、「キューピーコーポレイション」(引用商標4の場合)、「キューピーヤサイコウジョウ」(引用商標5の場合)であり、本件商標の称呼である「キューピーポンプ」と、称呼上明らかに相違している。かくして、本件商標と第1引用商標とは、称呼非類似の関係にある。
「QPポンプ」の不可分一体構成である本件商標から発生する観念は、あくまで「QP」という表示を伴う被請求人の出所とするポンプであり、「キューピー人形」の観念は生じ得ない。因みに、「QP」は、「QUICK PRIME」(クイックプライム)の略語であり、「素早い水の吸引」の趣旨である。かくして、本件商標と第1引用商標とは、観念上非類似の関係にある。前記のように、本件商標と第1引用商標とが非類似である旨の関係は、結局、本件商標が、被請求人を出所とするポンプであることを表示する識別機能を伴って著名であることに由来しているが、判例もまた、使用に伴って著名な商標については形式上の類似の判断を排除し、非類似の結論に至っている(乙第13号証、乙第14号証)。
本件商標と引用各商標とは、称呼類似及び観念類似であるとする請求人の主張は、要するに、本件商標を「QP」と「ポンプ」とに分離した形式論に由来している。しかしながら、本件商標の被請求人を表示する識別機能を伴なった著名性を考慮するならば、このような形式論は、明らかに需要者における認識及び印象と相反している。特許庁の審査過程において、本件商標が第1引用商標を含む先願による登録商標と類似する旨の査定が審判(平成10年審判第14096号)において覆され、本件商標が登録されたのは、正に本件商標の前記不可分一体性が認定されたからに他ならない。
本件商標の著名性を考慮するならば、敢えて「QP」と「ポンプ」とを分離した場合には、「QP」が著名な状態であることに帰する。即ち、モノグラム化した「QP」の部分は、被請求人を表示する要因として需要者間に既に定着していることに帰する。しかも、「QP」の表示を使用している業者は、農業用ポンプ及び土木用ポンプの業界においては存在しない。とすれば、「QP」もまた、被請求人を表示する標章の要部として既に需要者間に定着していることに帰する。そして、被請求人においては、本件ポンプ以外に「QP」を使用した超細霧システム及び水位センサーなどの商品の販売を行っていることもまた、前記著名性を助長していることは間違いない。「QP」が、被請求人を表示する識別機能を有していることは、逆にポンプ業界において、第1引用商標による表示と充分識別可能であり、双方が外観上非類似であることを裏付けている。
モノグラム化された「QP」から、たとえ「キューピー」の称呼が生じたとしても、本件ポンプの取引は、カタログ・パンフレットなどの外観を判断したうえで履行される(現に、本件ポンプについては、テレビ又はラジオなどによる音声による宣伝広告は行われていない。)。とすれば、たとえ「QP」の部分から「キューピー」の称呼が生ずるとしても、当該称呼は「QP」の外観に伴って、被請求人を出所として表現する称呼であって、決して第1引用商標に示すような被請求人を表現する称呼に該当する訳ではない。にも拘らず「QP」と第1引用商標とが、称呼の共通性を以って類似関係にあるのであれば、第1引用商標が、ポンプ又はこれと類似する商品の業界において、請求人を表示するものとして、本件商標と比肩できる程度にその存在が著名であることを不可欠とする。しかるに、このような事実はなく、それ故に、「QP」が「キューピー」の称呼を生ずるとしても、第1引用商標と非類似である旨の結論に変わりはない。
前記のように、「QP」と「ポンプ」とを敢えて分離したとしても、「QP」は、「ポンプ」又は「PUNP」によって表示されるポンプ類に使用される標章部分として需要者間に定着しているという事実に変わりはない。とすれば、需要者間においては「QP」から被請求人が扱っているポンプを想起させるのであって、決してキューピー人形を想起させる訳ではない。にも拘らず、「QP」が客観的事実としてキューピー人形を想起させるためには、ポンプ業界において第1引用商標又はキューピー人形を表示した商標が、「QP」と比肩できる程度に著名であることを不可欠とする。しかしながら、このような事実は客観的に存在しない。このように、取引の実情に即して、出所の誤認混同を生ずるおそれがあるかの点に照らすならば、たとえ、「QP」と「ポンプ」とを切り離して考察しても、本件商標と第1引用商標とは非類似の関係にある。
3 商標法第4条第1項第15号の該当性
第2引用商標は、何れも旧31類に属し、指定商品を調味料、香辛料、食料油脂、乳製品としているが、請求人が取り扱う商品との関係における著名性は、正にこれらの商品の取扱業者としての著名性に過ぎない。そして、本件商標の指定商品である農業用ポンプ及び土木用ポンプなどの特殊ポンプと前記特定の食品に関する指定商品とは全くかけ離れた分野であることは改めて指摘するまでもない。しかも、広義の混同が生ずるか否かは、農業用ポンプ及び土木用ポンプなどの特殊ポンプの需要者(取扱業者を含む)を基準として判断されるべきであるが、これらの需要者においては、本件商標に接した段階では、被請求人を出所とする商品であることを印象付けられ、かつ想起するも、食品の特定分野を扱っている請求人を想起することは客観的にあり得ない。
被請求人は、トウカイポンプの事業を引き継ぎ、かつその際、前記結合形態に伴う表示をも引き継いだ状態で営業活動を継続している。従って、前記表示に基づく本件商標は、前記第2引用商標の各防護標章の登録が行われる前から特定のポンプ業者による商品であることを客観的に表現しており、このような本件商標と第2引用商標との間に混同のおそれなど生ずる訳がない。
例え、本件商標中の「QP」が「キューピー」の称呼を生ずるとしても、被請求人を出所とするポンプとしての称呼であり、第2引用商標のような請求人を出所とする商品としての称呼に該当しない以上、単なる称呼の同一性は決して混同の原因とはなり得ない。「QP」の標章部分はあくまで被請求人が取り扱っているポンプの観念を想起させる以上、キューピー人形の観念と共に、請求人を出所とする商品を表しているに過ぎない第2引用商標と観念を共通することはあり得ない。
本件商標が既に、被請求人において扱っているポンプを表示する旨の識別機能を有している以上、請求人が扱っている食品、化学品、農業に関する商品などの主たる商品又は役務との間において混同など生ずる訳がなく、現に生じていない。このような状況は、今後本件商標を指定商品である特殊用ポンプに使用したとしても、請求人が扱っている商品又は役務との間において混同が生ずるおそれがないことを証明している。特に、請求人が食品の製造、保管などに関する装置、機械の製造販売を行っていること(甲第20号証の1ないし15、同第21号証の1ないし76)との関係について言及するに、請求人は、これらの装置、機械の製造販売においては、決して第2引用商標について指定されている特殊食品分野ほど著名という訳ではない。しかも、請求人が扱っている前記装置及び機械は、何れも食品に関連する分野の装置及び機械であって、明らかに本件商標の指定商品とは相違していると共に、商品としての類似性も成立していない。
さらに、たとえ請求人が「Q.P.Corporation」の文字による会社案内を機械装置のパンフレットとして使用し、かつ「QP-N600」の文字からなる割卵機に関する登録商標を有しているとしても、本件商標が既に被請求人を表示するものとしてポンプ業界において著名化している以上、前記パンフレットの使用及び前記登録商標の所有は何ら同条項の広義の趣旨による混同を裏付け得ない。また、本件ポンプの被請求人から末端需要者に至る営業ルートは、代理店が小売販売店に至るまで確立している。このような状況下において、本件商標の表示を伴うポンプに接した需要者においては、請求人を想起する以前に、被請求人を想起するのであって、たとえ需要者が食品分野において著名である請求人を知悉したとしても、被請求人のポンプが恰も請求人が扱っている商品であるが如き混同を生じない。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しないものである。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、別掲(1)に表示したとおり、欧文字の「Q」と「P」の文字を組み合わせてなるモノグラム図形(以下、「本件図形」という。)と「ポンプ」の片仮名文字とを結合してなるものである。
ところで、被請求人は、昭和61年3月設立され(乙第1号証)、農業用ポンプ及び土木用ポンプを中心に本件商標の指定商品に係る商品を製造販売する会社であり、設立当時倒産した請求外「株式会社トウカイポンプ製作所」の事業を引継ぎ(正当に引き継いだものであるか否かはさておき。)、その使用に係る商標と略同一の本件商標を被請求人の製造に係る上記ポンプ等に盛大に使用し、この種の業界においては、既に、「QP(エンジン)ポンプ」と言えば被請求人の商品であると需要者間に広く認識されているものであることは、答弁の全趣旨に照らして是認できるところであり、本件商標及び本件図形もまた、これに付随して使用され、広く知られるに至っているものであることが同様に認められる。
してみれば、本件図形が「Q」と「P」との組み合わせよりなり、これより「キューピー」の称呼を生じ得るとしても、上記取引の実情に照らして、本件図形は、ローマ字の「QP」又は請求人の採択使用に係る「キューピー」並びに「キューピー人形」に通ずるものというよりは、請求人の業務に係る商品を表すものというを相当とする。
けだし、ローマ字二文字のみよりなるものは、一般的には、商品の記号、符合を表すために用いられ、自他商品識別機能を果たし得ない(従って、かかる称呼をもって取引に資されることはない。)ものであるところ、本件図形のごとく、ローマ字二文字を組み合わせたモノグラムよりなる商標は、その組み合わせにより表された形状をもって、需要者に与える印象、記憶、連想等により、商標として機能し得るものというべきだからである。
他方、第1引用商標は、「キューピー」の称呼及び「キューピー人形」の観念をもって取引に資されるものであり、また、外観においては、本件商標と第1引用商標とは、判然と区別し得る差異を有するものである。
したがって、その外観、称呼、観念等が需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して考察すれば、本件商標と第1引用商標とは、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれはないものというを相当とし、結局、非類似の商標であるというべきである。
2 商標法第4条第1項第15号について
第2引用商標の周知、著名性を認め得るとしても、本件商標と第2引用商標とが商標において類似するものでないことは、上記1認定と同様である。
また、請求人の「割卵機の商標」等が著名なものということもできない。
その他、本件商標をその指定商品について使用したときに、請求人又は請求人と何らかの関わりのある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとみるべき理由はない。
3 結論
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件商標


(2)引用登録第1521462号商標


(3)引用登録第595694号商標


審理終結日 2002-12-05 
結審通知日 2002-12-10 
審決日 2002-12-24 
出願番号 商願平9-10499 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (007)
T 1 11・ 26- Y (007)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 栄二 
特許庁審判長 三浦 芳夫
特許庁審判官 井岡 賢一
柳原 雪身
登録日 2000-03-24 
登録番号 商標登録第4370184号(T4370184) 
商標の称呼 キュウピイポンプ、キュウピイ 
代理人 吉武 賢次 
代理人 赤尾 直人 
代理人 神谷 巖 
代理人 小泉 勝義 
代理人 佐藤 一雄 

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