ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Z30 |
---|---|
管理番号 | 1070854 |
審判番号 | 無効2000-35324 |
総通号数 | 38 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2003-02-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-06-16 |
確定日 | 2003-01-17 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4291052号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第4291052号商標(以下「本件商標」という。)は、「ひとつった外郎」(標準文字による)の文字を横書してなり、平成10年2月3日登録出願、第30類「ういろう」を指定商品として平成11年7月9日に設定登録されたものである。 2 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は、被請求人の負担とするとの審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第19号証を提出している。 本件商標は、「ひとつった」と「外郎」との文宇からなる商標であるが、そのうち「外郎」は、請求人の氏姓である。しかも、日本に唯一つしかない、顕著な請求人の氏名の一部(姓)そのものでもある。したがって、本件商標は、請求人(他人)の氏名(姓)を含む商標であり、商標法第4条第1項第8号に該当し、商標登録は許されないものである。 (1)請求人外郎藤右衛門は、室町時代の陳外郎こと陳延祐に始まる外郎家の現在の当主である。外郎家の始祖は、陳延祐である。陳延祐は陳外郎と称し「ちんういろう」と名乗った。その子大年宗奇が、明から薬「雲宝丹」を取り寄せ国内に伝えた。その効能は顕著で、時の天皇から「透頂香」の名前を賜ったのである。この薬がその後、陳外郎の薬といわれ、「外郎(ういろう)」と呼ばれるようになった。他方、宗奇は、外国信使の接待に際し菓子を提供し、その菓子が有名となり、その菓子を顧客に対する接待としても使用していたようで、その菓子も有名になり、外郎の菓子として「外郎(ういろう)」と呼ばれるようになっていったのである。 請求人の外郎家は、上述のような著名な家系であり、「外郎」は、その著名な氏姓「外郎」である。そして、本件商標は、請求人の著名な氏名(姓)を含む商標である。 (2)被請求人は、あるいは、「外郎」という文字は「菓子の名。米の粉を黄などに染め、砂糖を加えて蒸し、四角に切ったもの。山口・名古屋の名産」を意味する言葉であると主張し、広辞苑第4版の「ういろう」の項を引用するかも知れない。しかし、広辞苑第4版の「ういろう」の項の記述は誤りであり、お菓子の「ういろう」は、請求人である、外郎藤右衛門の外郎家の製品であり、「外郎」・「ういろう」の言葉は、その外郎藤右衛門の外郎家に由来する言葉である。 お菓子の「ういろう」「外郎」が、請求人の製品であることは、以下の著書には、はっきりと記載されている。 (ア)「和菓子」(株式会社学研(学習研究社) 昭和51年6月10日発行)に「ういろう 小田原市、外郎藤右衛門の製品である。」と記載されている。 (イ)「茶と美 第12号」(茶と美舎 昭和57年5月10日発行)に「ういろう 小田原市の外郎藤右衛門の製品である」と記載されている。 また、「ういろう」を最初に作ったのが外郎家である旨の記載は、以下の著書にもある。 (ウ)「伝統の銘菓句集」(女子栄養大学出版部 昭和52年9月初版発行)に「ういろう・神奈川 今から約600年前、中国出身の外郎家の先祖が良薬「透頂香ういろう」の口直しに創製したのが菓子のういろうの始まりです。その栄誉は『東海道中膝栗毛』の小田原のくだりや、歌舞伎十八番の『外郎売り』に書かれています。」と記載されている。 (エ)「お菓子風土記」(株式会社早川書房 1965年8月15日発行)に「菓子ういらう 東海道を箱根に向かう小田原の町筋、右側に一六菊花と五七の桐をのれんに「ういらう本舗」の大看板が目につく。本来は外郎と書く。」と記載されていることから明らかなとおり、「ういろう」「外郎」は、小田原市の外郎藤右衛門(請求人)の製品である。即ち外郎家の製品(菓子)である。それ故に姓である外郎から「外郎」・「ういろう」といわれるようになった呼称である。 (3)本来「外郎」・「ういろう」は、請求人の氏名に由来する言葉であり、礼部員外郎に由来する言葉ではない。もともと、漢字の「外」を「うい」と読むのは、外郎家の始祖である陳延祐が日本に来朝して陳外郎と称し、唐音で陳外郎(ちんういろう)と名乗ったことに由来する。礼部員外郎の読み方は、「れいぶいんがいろう」と読むのであって、「ういろう」とは読まない。したがって、「礼部員外郎(れいぶいんがいろう)」という官職名から「外郎(ういろう)」という言葉はできる筈がない。元来、「外」の漢字の読み方には、「うい」という読みはないのであり、「外郎」を「ういろう」と読むのは、請求人の始祖である陳延祐が、役職名の一部「外郎」をとって陳外郎(ちんういろう)と名乗ったことに由来する。 (4)薬の「外郎」、お菓子の「外郎」とも、外郎家の薬、外郎家の菓子という言葉に由来する呼称であって、お菓子の「外郎」が、薬の外郎に似ているから「外郎」と呼ばれるようになったものではない。薬の外郎こと「透頂香」は、小さな銀色の丸薬である。一部の書物に、薬の「外郎」と菓子の「外郎」の類似性を云々する説があるが、これも誤りである。元来、お菓子の「ういろう」は、外郎家が客の接待用に製造して、客に提供していたものが有名になって、外郎家の菓子から、「ういろう」と言われるようになったものである。 (5)広辞苑には、外郎は「菓子の名。米の粉を黄などに染め、砂糖を加えて蒸し、四角に切ったもの。山口・名古屋の名産」と記載されている。これによると、山口の「ういろう」も米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子でなければならない。しかし、この記載は誤りである。 (ア)「全国和菓子風土記」(株式会社昭文社 1999年3月発行)によると、山口の「外郎」は、「わらびの粉と精製した小豆あんを主原料にして蒸し上げたもの」 (イ)「山口市の市史」(昭和46年3月30日発行)によっても、山口の「外郎の材料は、古来小豆と砂糖のほかに『せん』という蕨の根からとる澱粉が用いられている。」とのことである。そうすると、山口の「外郎」は、「わらびの粉(せん)と小豆あんを主原料とした蒸し菓子」であり、「米粉を原料とした」蒸し菓子ではく、前記広辞苑にいう「ういろう」ではないことになる。そうすると、「ういろう」は山口の名物との記載は違っていることとなる。 また、上記「全国和菓子風土記」によれば、名古屋では「外郎」ではなく「外良」「ういろ」が巷間使われていたことが推察できる。名古屋の名物は「ういろう」ではなく「外良」「ういろ」である。 したがって、三省堂発行『大辞林』の『ういろう』の項の「菓子の一種。米の粉に黒砂糖などで味つけした蒸し菓子。名古屋・山口などの名産。外郎餅。」の記載についても、また、講談社発行の「日本語大辞典」の「ういろう」の項の「米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子。名古屋・山口などの名物」の記載についても同様であり、いずれも誤った記載であることは明白である。 そうすると、それぞれ「ういろう」は類似の菓子であっても、しかも、名前が同じでも別個の菓子である。したがって、「ういろう」「外郎」は普通名詞ではなく、外郎家の菓子である。 (6)結論として、菓子の「ういろう」は、神奈川県小田原市の外郎藤右衛門の製品である。もともと、漢字の「外」を「うい」と読むのは、外郎家の始祖である陳延祐が日本に来朝して陳外郎と称し、唐音で陳外郎と名乗ったことに由来する。そして、外を「ウイ」と読む言葉は、どの事典を見ても、「外郎」だけであり、しかも、「ういろう」「外郎」の説明では、どの事典でも、歌舞伎十八番の外郎売りか、薬の「外郎」「ういろう」こと透頂香のことか、菓子の「ういろう」のことだけである。そして、薬の透頂香は、外郎家の伝来の薬であり、歌舞伎十八番の外郎売りは、外郎家にまつわる話である。お菓子の「ういろう」についても、前述の岩波書店の広辞苑には、薬の「ういろう」に似ていると記載しており、外郎家に関する記載である。なお、一部に、外郎は、陳延祐の官職名であるとする説もあるが、陳延祐の官職は、礼部員外郎であるが、この礼部員外郎の読み方は「れいぶいんがいろう」であって、「れいぶいんういろう」とは読まない。したがって、「ういろう」「外郎」は、官職名に由来するとする説も誤りである。しかも、外郎を「ういろう」と呼称するのは、外郎家の姓のみであり、「外郎」・「ういろう」には、請求人の氏姓のほか、本来何の意味も持っていない。 したがって、外郎の呼称は、外郎家に由来する言葉であり、請求人の著名な氏姓である。菓子の「ういろう」は、神奈川県小田原市の外郎藤右衛門の製品あることは、明白であり、「外郎」が菓子の普通名詞であるとする説は失当である。 3 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判請求に対して何ら答弁するところがない。 4 当審の判断 よって、本件商標の登録を無効とすべき理由の有無について検討する。 本件商標の構成は、「ひとつった外郎」の文字よりなり、第30類「ういろう」を指定商品とするものである。 (1)請求人は、「外郎」の文字は請求人の外郎家の著名な姓名であり、由緒ある外郎薬の商品表示であると述べるので、これについて検討する。 「ういろう(外郎)」に関する各辞典の記載をみると、 (ア)「広辞苑第四版」(株式会社岩波書店 1991年11月15日第四版第一刷発行)の「ういろう【外郎】」の項には「・・・陳宗敬が・・・創製した薬。・・・透頂香(とうちんこう)」の記載とともに「菓子の名。・・・山口・名古屋の名産。ういろうもち。」と記載されている。 (イ)「大辞林」(株式会社三省堂 1993年11月25日第二四刷発行)の「ういろう【外郎】」の項には「・・・薬の一種・・・透頂香(とうちんこう)。外郎薬。」の記載とともに「菓子の一種。・・・名古屋・山口などの名産。外郎餅。」と記載されている。 (ウ)「日本語大辞典」(株式会社講談社 1989年12月22日第七刷発行)の「ういろう【外郎】」の項には「・・・痰切りの妙薬。」の記載とともに「米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子。名古屋・山口の名物。」と記載されている。 (エ)「国語大辞典」(株式会社小学館 昭和57年2月12日第一版第七刷発行)の「ういろう【外郎】」の項には「・・・陳宗敬が創製したという薬。」の記載などとともに「米の粉に、水、砂糖を加えてかきまわし、蒸籠で蒸しあげた菓子・・・名古屋、山口、小田原の名物。」と記載されている。 (2)これらの事実を総合すれば、本件商標の登録査定時である平成11年4月7日には、既に「ういろう」及び「外郎」の語が菓子の一種である「ういろう(外郎)」を意味する普通名詞となっていたと認められるから、本件商標中「外郎」の文字部分は、指定商品の「外郎(ういろう)」そのものを表示する語として取引者、需要者の間に認識されていたものといわなければならない。 請求人は、上記辞典の記載について、前記「2 請求人の主張」に記載した誤りがあると主張する。 しかしながら、上記辞典の記載に請求人の指摘する誤りがあると仮定しても、少なくとも「ういろう」及び「外郎」の語が菓子の一種である「外郎(ういろう)」を表すものであることは上記各辞典に共通して記載されているところである。 また、請求人の提出に係る「サライ 1997年第12号」(甲第12号証)にも、「ういろう」として「ういろう」「ういろ」「外郎」「外良」。呼び名も様々なら味も個性的。室町時代に京都で生まれ、小田原や山口、名古屋で育って全国的な銘菓となった、単純にして奥の深い、蒸し菓子…」と記載されており、「ういろう」、「外郎」が菓子の名称である点、上記各辞典に符合するものである。 以上からすると、請求人の指摘する各辞典における記載の誤りの存否は上記認定を左右するものではないと認められる。 (3)請求人は、本件商標中の「外郎」の文字が外郎家の姓に由来し、外郎家の製品であることを示す商標であると主張するので、更に検討するに、 請求人の提出に係る甲各号証によれば、本件商標中の「外郎」の文字が外郎家の姓に由来し、かつて、外郎家の製造する薬や菓子を示す固有名詞であったことが認められる。 しかしながら、当初特定の商品の出所を表示する固有名詞であった語が、時代とともに次第にその商品の種類を表示する普通名詞となることは、決してまれなことではなく、「外郎」の語についても、当初は外郎家の製造する菓子であることを示す固有名詞であったものが、次第に菓子の一種である「外郎(ういろう)」を意味する普通名詞となったものと解することができるから、請求人の主張する「ういろう」「外郎」の由来は、これらの語が本件商標の登録査定の時において既に普通名詞になっていたとする上記認定を左右するものではないと認められる。 (4)そうすると、本件商標中の「外郎」の語が指定商品の「外郎(ういろう)」そのものを示す普通名詞である以上、本件商標をその指定商品である「外郎(ういろう)」に使用しても、単に菓子の一種を表す語として取引者、需要者に認識されるにとどまり、請求人の外郎家の姓名を含むものと認識されるものではないものと判断するのが相当である。 (5)してみれば、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすることはできない。 (6)なお、請求人は、弁駁書において、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号の規定にも違反してされたものであるから、無効にすべきである旨主張する。しかしながら、該法条に係る請求の理由は、当初の請求書に記載されていなかったものである。したがって、弁駁書における該法条についての請求の理由に関する請求書の補正は、その要旨を変更するものであるから、商標法第56条において準用する特許法第131条第2項の規定に違反するから、認められない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-02-20 |
結審通知日 | 2002-02-25 |
審決日 | 2002-03-12 |
出願番号 | 商願平10-8578 |
審決分類 |
T
1
11・
23-
Y
(Z30)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岩本 和雄 |
特許庁審判長 |
茂木 静代 |
特許庁審判官 |
小林 和男 佐藤 久美枝 |
登録日 | 1999-07-09 |
登録番号 | 商標登録第4291052号(T4291052) |
商標の称呼 | ヒトツッタウイロー、ヒトツッタ |
代理人 | 藤井 冨弘 |