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審決分類 審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない Z09
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Z09
管理番号 1067764 
審判番号 無効2001-35450 
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-10-15 
確定日 2002-10-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第4392563号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.本件商標
本件登録第4392563号商標(以下「本件商標」という。)は、平成11年5月7日に登録出願、「アタックボール」の片仮名文字を横書きしてなり、第9類「防犯用塗料封入ボール」を指定商品として、同12年6月16日に設定登録されたものである。

第2.請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」と申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。
1.請求の理由
(1)請求人は、本件商標の登録出願に先立つ平成11年3月に「アタックボール」の商品名で、本件商標の指定商品である「防犯用塗料封入ボール」を発売した(甲第1号証)。
この「防犯用塗料封入ボール」は、割れ易い樹脂性のボールに塗料を封入した商品で、強盗や検問突破等があった場合に犯人や車両に投げつけて塗料を付着させ、追跡を容易にすることを目的として作られたものである。
この請求人の「防犯用塗料封入ボール」の発売にあたって、請求人は特許調査を行い、その過程でシンロイヒ株式会社(以下「シンロイヒ」という。)が有する実用新案登録第1862032号「投てき用マーキング物品」(甲第2号証、以下「本件実案」という。)の存在が明らかとなった。請求人は、本件実案が公知文献からみて無効であると考えたが、形式的に本件実案の文言に抵触する可能性があるため、平成11年3月17日にシンロイヒに対して話合いを申し入れた(甲第3号証及び甲第4号証)。これに対し、シンロイヒは話合いを拒絶し、同年3月29日付で請求人に対して防犯用塗料封入ボールの販売中止を求めてきた(甲第5号証)。なお、この時点でシンロイヒが本件商品の商品名を「アタックボール」であると認識していたことは甲第5号証中の「貴社は『アタックボール』と称する投てき用マーキング物品を販売しておりますが」との記載からも明らかである。
(2)被請求人は、シンロイヒが製造した「防犯用塗料封入ボール」である「クラックボール」の販売元である。シンロイヒと被請求人との関係については、シンロイヒが請求人に対して提起した本件実案に基づく製造販売等差止請求事件(東京地裁平成12年(ワ)第1930号)において述べている、「原告は、…『投てき用マーキング物品』に関する実用新案権を保有して、これを実施した商品を製造し、全量、訴外サンエス技研株式会社に譲渡している。なお、右サンエス技研株式会社は右物品を『クラックボール』の名称にて需要者に販売している」(甲第9号証)。このように、シンロイヒが製造した防犯用塗料封入ボールは全量被請求人が販売しているのであり、この「クラックボール」だけを取ればシンロイヒと被請求人は同じ会社の製造部門と販売部門と同様な密接な関係にある。したがって、被請求人とシンロイヒとは極めて密接な関係にあり、一方で請求人とは競合関係にある。被請求人は、シンロイヒの警告にもかかわらず、請求人が防犯用塗料封入ボールの販売を止めないのを見て、請求人に対して平成11年5月12日に、防犯用塗料封入ボールの販売が不正競争防止法に違反するとの書状を送付してきた(甲第6号証)。ここでも、防犯用塗料封入ボールの名称は「アタックボール」として明確に表示されている。この書状が出された直前に被請求人は本件商標「アタックボール」の出願を行っているのであり、被請求人とシンロイヒとの関係からしても、被請求人が請求人の商品名を知って本件商標の登録出願を行ったことは明らかである。
(3)請求人は、本件実案に対して平成11年3月31日に無効審判の請求を行い、一方シンロイヒは、平成11年6月に請求人に対して本件実案に基づいて東京地裁に仮処分申請を行った。
シンロイヒの仮処分は、裁判所が無効の蓋然性が高いと判断したため、同年11月には取り下げられたが、さらに平成12年2月にはシンロイヒから請求人に対して差止めの訴訟が提起された。
その後、特許庁は本件実案について、平成12年4月24日付け審決でその登録を無効とし(甲第7号証)、この無効審決は東京高裁でも確認された。 また、前記訴訟は、無効審決が出た後取り下げられている。
(4)このように、シンロイヒおよび被請求人と請求人は防犯用塗料封入ボールを巡って激しく対立し、営業的にも競争関係にある。そのような中で、被請求人は請求人の防犯用塗料封入ボールの商品名と同じ商標を、それと知って登録出願しており、その目的がもっぱら請求人の営業を妨害するためであり、被請求人に本件商標を使用する意思のないことは明らかである。
(5)請求人は、現在でも「アタックボール」の商品名の下に防犯用塗料封入ボールを販売している(甲第8号証)。シンロイヒおよび被請求人による無効な本件実案を用いた請求人の営業に対する妨害は結果的に成功しなかったが、いつ被請求人が本件商標の商標権に基づいて同様な妨害を請求人に対して行うかは分からない。被請求人が、請求人によって本件商標が侵害されているとの主張を行い、請求人の客先にもその旨を告げた場合、請求人はその対応に追われることになり、請求人の被る被害は甚大である。
被請求人が本件商標を取得した目的は、このような請求人の営業を妨害し、あるいは本件商標が侵害されていると主張して請求人の信用を毀損すること以外には考えられない。このような目的をもって商標登録を行うことは商標法の趣旨に反し、正常な商道徳ないし公正な取引秩序を著しく乱すものである。
また、被請求人による本件商標の取得は、上記のような動機からなされたものであり、被請求人が同商標を「自己の業務に係る商品又は役務について使用」しないことは明らかである。
(6)むすび
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第3条第1項柱書きに違反するから、同法第46条第1項第1号によって無効とされるべきものである。
2.答弁に対する弁駁
(1)被請求人の認識
請求人は、本件商標の出願に先立って請求人が本件商標の指定商品である「防犯用塗料封入ボール」を商品名「アタックボール」の下で発売した事実、被請求人が請求人の商品を十分に認識しながら本件商標を登録出願した事実、また一方で被請求人がシンロイヒの本件実案を用いて請求人による上記商品の販売を止めようとした事実を主張したが、被請求人はこれらの事実について一切反論していない。
(2)被請求人の抗弁について
被請求人は、被請求人が現在「クラックシリーズ」と「アタックシリーズ」の商品化を考えており、本件商標もこの「アタックシリーズ」の一環として使用する意図があると反論している。
しかし、本件商標の指定商品は、「防犯用塗料封入ボール」のみである。防犯用塗料封入ボールは、樹脂製の割れやすいボールに塗料を封入しただけの構成をもつ商品であるから、商品として多様な構成を取れるものではなく、被請求人が現在使用している「クラックボール」の他に別のシリーズとして「アタックボール」の商標を用いることは考えられない。
また、被請求人が防犯用塗料封入ボールに「アタックボール」の商標を用いるとすれば、それは既に市場に出ており、被請求人も本件商標の登録出願前から熟知していた請求人の商品と混同を来す行為であり、それ自体極めて商道徳上許されない行為である。もし、被請求人が防犯用塗料封入ボールに「アタックボール」の商標を使用する意図で本件商標を取得したとすれば、それ自体が商標法4条1項7号に該当するものである。

第3.被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証(枝番含む。)を提出した。
1.本件商標に対する請求人の請求理由によれば、本件商標は、請求人の営業を妨害し、あるいは本件商標が侵害されていると主張して請求人の信用を毀損することのみを目的として取得したものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第3条第1項柱書に違反するので、同法第46条第1項第1号によって無効とされるべきであると主張する。
しかしながら、被請求人は、本件商標を使用の目的をもって登録出願し権利化したものであり、商標法第4条第1項第7号に該当することはなく、また同法第3条第1項柱書に違反するものでもない。
2.すなわち、被請求人は、乙第1号証にも示すように、交通安全・防犯・火災等に関する多数の商品を企画、製造、販売しており、その販売先も、警視庁、国税庁、総務庁その他の全国官公庁、日本銀行その他の金融機関、全国百貨店、スーパー、新聞社等、多岐に亘っている。
3.ところで、各販売先においては、例えば同一の防犯用塗料封入ボールであっても、その使用目的が異なる場合があり、この場合にはボールの大きさや塗料封入量を変える必要があるとともに、外面形状等も変える必要がある。
そこで、被請求人は、販売先等の要求に応じた商品をグループ化するため、商品をシリーズ化することを考え、現在「クラックシリーズ」及び「アタックシリーズ」の商品シリーズ化を図っている。
「クラックシリーズ」については、乙第2号証に示すように、防犯用塗料封入ボール及びその練習用ボールにつき、クラックボールとして商品化しており、また「アタックシリーズ」については、乙第1号証及び乙第2号証に示すように、催涙スプレーにつき、アタックスプレーとして商品化しているとともに、乙第3号証に示すように、商標登録第4496820号として商標権も取得している。
本件商標も、前記「アタックシリーズ」の一環として権利取得したものであり、現段階では商品化はされていないものの、来年の商品化に向けて準備を進めているところである。したがって、当然のことながら使用の目的をもって権利取得したものである。
4.以上のように、本件商標が、専ら請求人の営業を妨害する意図の下に登録を受けたものである旨の請求人の主張は、全く理由がないと断ぜざるを得ず、これは本件審判請求に先立つ商標登録異議申立(異議2000-90985)における決定からも明らかである。

第4.当審の判断
1.商標法第4条第1項第7号について
(1)請求人は、「本件商標出願に先立つ平成11年3月に『アタックボール』の商品名で、本件商標の指定商品である『防犯用塗料封入ボール』を発売した。」旨主張し、その事実を証する書面として甲第1号証を提出しているが、甲第1号証には日付の記載がなく、該書証によっては平成11年3月時点において、「アタックボール」が商品「防犯用塗料封入ボール」に使用されたという事実を確認できない。
(2)次に、請求人は、「現在でも『アタックボール』の商品名の下に『防犯用塗料封入ボール』を販売している。」旨主張し、その事実を証する書面として甲第8号証を提出しているが、甲第8号証にも日付の記載がないから、その主張事実を確認し得ないこと前記と同様である。
(3)また、請求人は、「アタックボール」を付した商品「防犯用塗料封入ボール」の取引の事実を証する書面を一切提出していない。
(4)その他、請求人が、「アタックボール」を付した商品「防犯用塗料封入ボール」を、本件商標の出願前及び現在において製造、販売していた事実を認めるに足る証拠資料を発見し得ない。
(5)さらに、本件商標は上記に示すとおりの構成よりなるところ、その構成自体が矯激、卑猥、差別的な印象を与えるような文字又は図形からなるものでなく、また、本件商標を指定商品について使用することが社会公共の利益、一般道徳観念に反するものとすべき事実は認められず、他の法律によってその使用が禁止されている事実も認められない。
(6)してみれば、「被請求人が本件商標を取得した目的は、請求人の営業を妨害し、あるいは本件商標が侵害されていると主張して請求人の信用を毀損することであり、このような目的をもって商標登録を行うことは商標法の趣旨に反し、正常な商道徳ないし公正な取引秩序を著しく乱すものである。」とする請求人の主張は、理由がないものというべきである。
2.商標法第3条第1項柱書きについて
請求人は、「被請求人が本件商標を取得した目的は、請求人の営業を妨害し、あるいは本件商標が侵害されていると主張して請求人の信用を毀損することであり、被請求人がこのような動機から取得した本件商標を『自己の業務に係る商品又は役務について使用』しないことは明らかである。」旨主張している。
しかしながら、本件商標は、前記したとおり、平成11年5月7日に登録出願され、第9類「防犯用塗料封入ボール」を指定商品として、同12年6月16日に設定登録されたものである。そして、本件商標の登録出願時に同時に添付の被請求人の「会社案内」によれば、被請求人は、本件商標の指定商品である商品「防犯用塗料封入ボール」を製造、販売していることが認められる。また、この点について、請求人は被請求人が自己の業務を行っていない旨主張するのみで、具体的証拠を提出しているものでもない。
したがって、本件商標が商標法第3条第1項柱書きに該当するという請求人の主張は採用できない。
3.したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同法第3条第1項柱書きに違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-08-19 
結審通知日 2002-08-22 
審決日 2002-09-06 
出願番号 商願平11-40115 
審決分類 T 1 11・ 18- Y (Z09)
T 1 11・ 22- Y (Z09)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 中嶋 容伸
茂木 静代
登録日 2000-06-16 
登録番号 商標登録第4392563号(T4392563) 
商標の称呼 アタックボール、アタック 
代理人 窪田 英一郎 
代理人 吉田 聡 
代理人 小原 二郎 
代理人 駒津 敏洋 

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