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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200489106 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 003
管理番号 1055283 
審判番号 審判1998-35395 
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-08-27 
確定日 2002-02-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第3363367号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3363367号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3363367号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成7年6月8日に登録出願、第3類「化粧品,つや出し剤」を指定商品として、平成9年11月28日に設定登録がされたものである。

第2 請求人の引用商標
(1)請求人が、本件商標は商標法第4条1項11号該当するとして登録無効の理由に引用する登録第2610450号商標(以下、「引用A商標」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成よりなり、平成3年12月26日に登録出願、第4類「せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類」を指定商品として、平成5年12月24日に設定登録されたものである。
(2)同じく、請求人が、本件商標は商標法第4条1項7号、同15号及び同19号に該当するとして登録無効の理由に引用する商標は、別掲(3)(以下、「引用B商標」という。)、別掲(4)(以下、「引用C商標」という。)及び別掲(5)(以下、「引用D商標」という。)に示すとおりの構成よりなるものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第55号証を提出している。
1 請求の理由
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
米国の「Moon Equipment Company」(以下、「ムーン社」という。)・同社の業務を継承した「MOONEYES USA.,INC.」及び請求人は、ドラッグレース(drag race)に出場するレースカー〔ホットロッド(hot rod:市販車をベースとしてエンジンを改造あるいは交換して、意表をつくスタイルで加速性能を徹底的に追求した車。)〕またはドラッグスター(dragster:ホットロッド及びドラッグレース専用の競技車)(甲第3号証乃至甲第6号証)の標章及び自己の製造・販売に係る商品または役務に使用する商標として「目玉を独創的に図案化した図形」(引用B商標)、この「引用B商標」に「MOON」の文字を配した図形(引用C商標)及び「目玉の図」に「MOON Equipped」の文字を配した図形(引用D商標、甲第7号証)など「引用B商標」を基調として創造された図形を標章または商標として使用し、これが本件商標の出願前より広く知られているものである。
本件商標は、米国においては、後述の請求人の子会社の商標として、また日本においては請求人の商標として、本件商標の出願前に広く知られている「引用B商標」及びこれを基調として創造された図形の標章または商標と同一もしくは類似するものである。
ドラッグレース(drag race)は、米国で盛んな自動車レースで、静止状態から発進(スタンディング・スタート)して1/4マイル(402.3メートル)を走行するのに要する時間によって、車の加速性能を競うトーナメント方式の競技で、各地を転戦して行われているものである。岡崎健滋氏は、1992年より、請求人の100%子会社の「MOONEYES USA.,INC.」が、後述するように、米国においてムーン社より継承し所有している「引用C商標」の商標を、本件商標の出願前より、一貫して使用したレースカーで参戦し、その活躍の模様がテレビ・雑誌等で紹介されるなど、日本においても知られているものである(甲第8号証乃至甲第11号証)。
米国のムーン社は、ドラッグレースのレーサーとして、また、ホットロッドのメカニック及び設計者として世界的に知られ、かつ、ドラッグレースの発展に多大な業績を残した偉大な功績者としても世界的に知られているディーン・ムーン(Dean Moon 1927〜1987)氏によって創設された会社である。
ムーン社は、ディーン・ムーン氏が1957(昭32)年にディズニーの商業デザイナーに上述の独創的な引用B商標をデザインさせ、この独創的な引用B商標及びこれを基調とする引用C商標又は引用D商標をムーン社のドラッグレース専用の競技車(ドラッグスター)に使用し、同時にムーン社の製造・販売にかかる各種商品及び役務に統一して使用している商標としても広く知られていたものである(甲第12号証及び甲第13号証)。
また、ディーン・ムーン氏及び彼のグループが1968(昭43)年に日産自動車株式会社からレーシングカー用にレーシングエンジンを製造するよう働きかけられ、このエンジンを搭載したレーシングカーは、日本グランプリで優勝した。更に、1970年代後半には、同氏が「引用B商標」に「MOON」の文字を配した標章(引用C商標)を使用したムーンライナーを塗装し直して広告代理店に貸出し、その広告代理店は、麒麟麦酒株式会社の清涼飲料水「METS」のテレビ広告のために、この塗装し直したムーンライナーを使用してテレビのCMを作成している(甲第12号証及び甲第13号証121,123,124の項)。これらのことは、本件商標の出願前に、日本においても知られているところである。
請求人代表者の菅沼繁博は、ディーン・ムーン氏と1983年に最初に会い、その後親交を深め、「日本ではお前がこのマークを勝手に使っていい」とまでいわれるようになっていた(甲第14号証)。
請求人は、この時以来、ムーン社の製品の輸入・販売を始め、1986(昭和61)年5月に同社の自動車部品及びアクセサリー等の輸入・販売店を横浜市中区元町に開店し、従来の「港栄株式会社」(昭和31年3月に設立)の名称を昭和63(1988)年6月に現在の名称の「ムーンオブジャパン株式会社」に改称した。請求人は、小売部門を独立させるために、1989(平成1)年8月に「ムーンアイズ株式会社」を設立し、また、ハンバーガーショップ等の飲食業を開始するなど、本件商標の出願前より、その業務も多岐わたっているものである(甲第14号証及び甲第19号証乃至甲第24号証)。また、請求人は、その業務が雑誌等によって紹介され(例えば、甲第18号証に示すとおり、請求人のプロショップが一流のプロショップとして紹介されている。)など、本件商標の出願前より、広く知られているものである。
請求人は、ディーン・ムーン氏が逝去(1987)された後、米国のホットローダー(hot rodders:ホットロッドに乗る人々)のため、また、ホットロッドの発祥の地のカリフォルニアにディーン・ムーン氏のムーン社を残すため、ムーン社の買収交渉を開始し、1991(平3)年に同社が所有していた土地建物・製造工場及び商標権の買収のエスクロウ(escrow)(条件付捺印証書)の作成に入り、同時に現地法人の「MOONEYES USA.,INC.」を100%出資の子会社として1991年1月に設立し、1992(平4)年8月に買収が成立したので米国内の自動車部品等の製造・販売の業務を継承し再開した。
請求人は、ムーン社及びその業務を継承した請求人の子会社の「MOONEYES USA.,INC.」の米国で製造した各種商品(甲第17号証)の輸入・販売及び請求人が日本国内で製造した各種商品の販売または飲食業等の各種の役務に係る業務を、本件商標の出願前より、継続して行い、これら自己の業務に係る各種の商品及び役務に、ディーン・ムーン氏がディズニーの商業デザイナーにデザインさせた上記の引用B商標及びこれを基調とした引用C商標又は引用D商標を継続して使用しているものである(甲第14号証及び甲第19号証乃至甲第24号証)。これらの商標は、本件商標の出願前に、既に、日本国内において、請求人の業務に係るものとして、自動車及びその部品・同装飾品等の取引者・需要者はもとより一般においても広く知られているところである。
上述のとおり、ディーン・ムーン氏が1957(昭32)年にディズニーの商業デザイナーにデザインさせた独創的に図案化した引用B商標であり、かつ、この引用B商標及びこれを基調とする引用C商標又は引用D商標をムーン社及び同社の業務を継承した請求人の子会社の「MOONEYES USA.,INC.」が米国においてドラッグレースのレースカー及び自社の製造・販売に係る商品または役務に商標として登録及び使用し、また、日本国内においては本件商標の出願前より、請求人が自己の業務に係る商品及び役務に継続して商標として使用していることが広く知られているところである。
被請求人は、これらの事情及び上記の各商標と本件商標が同一または類似することを充分に認識していながら、本件商標の指定商品に、請求人または請求人の子会社が登録していないことを奇貨として、剽窃的に出願し、登録したものといっても過言ではない。
このことは、国際的な商取引秩序の信義に反し、また、社会の一般的な道徳観念に反するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に該当することから、登録されるべきものでなかった。
(2)本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
本件商標は、甲第1号証に示すとおり、目玉を図案化した図形内に「MOON」の欧文字を配した構成よりなるものであり、「MOON」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能をはたすものであるから、この「MOON」の文字部分に相応した「ムーン」(月)の称呼・観念を生ずることが明らかである。
他方、引用A商標は、甲第25号及び甲第26号証に示すとおり、やや図案化した「MOON」の文字と商品の品番・記号等として使用されている数字の範疇に属する数字「24」とを連綴して「MOON24」と表示してなることが一瞥して把握し得るものであることから、図案化した「MOON」の文字部分より「ムーン」(月)の称呼・観念を生ずるものである。
そうしてみると、本件商標と引用A商標とは「ムーン」(月)の称呼・観念を共通にする類似の商標といえるものであり、その指定商品においても抵触することが明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に該当することから、登録されるべきものでなかった。
(3)本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
請求人は、上述の引用B商標及び引用C商標を甲第27号証乃至甲第49号証に示すとおり、本件商標の出願前より、多数の類に出願し登録された商標を所有しているものである。
なお、登録764537号(甲第29号証)の登録商標(引用B商標と同一商標)は、ムーン社が日本に登録商標を有していないことを奇貨として剽窃的に、被請求人がドラッグレースと密接な関係にある「自動車」を含んでいる旧第12類「輸送用機械器具」を指定商品として出願し、登録したものといえる。請求人は、この登録の事実を確認できたのは昭和61(1986)年であり、既に除斥期間が経過して無効審判を請求することができなかったことから、その商標調査に基づいて不使用による商標登録の取消しの審判を請求すると共に、被請求人と当該登録商標の譲渡交渉の後に取得したものである。
これらの登録商標は、ディーン・ムーン氏がディズニーの商業デザイナーにデザインさせた上記の引用B商標及びこれを基調とする図形の創造商標であり、また、ムーン社の業務を継承した請求人の100%子会社の「MOONEYES USA.,INC.」は、これらの商標を登録商標として米国において現在所有し、使用しているものである(甲第12号証乃至甲第14号証・甲第17号証及び甲第19号証乃至甲第24号証)。
上述した事情及び各書証によっても明らかなとおり、上記の引用B商標及びこれを基調とする引用C商標又は引用D商標は、日本においては、請求人が自己の業務に係る商品または役務に使用するものとして、本件商標の出願前に、既に著名な商標となっていること、また、請求人の業務も多岐にわたっていること、かつ、本件商標がこれらの商標と同一または類似のものであることから、被請求人が、本件商標をその指定商品に使用するときは、直ちに請求人または請求人の業務に係る商品を想起し、恰も請求人の業務または請求人と関連のある者の業務にかかる商品の一種として誤認させることが必定であり、その商品の出所について混同を生ずることが明白である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に該当することから、登録されるべきものでなかった。
(4)本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
上記に種々の書証を挙げて詳述したとおり、本件商標は、日本国内においては請求人の商標として、米国においては請求人の子会社の商標として取引者・需要者の間に広く知られている商標と同一または類似するものであり、被請求人が、その指定商品に登録されていないことを奇貨とし、不正の目的で出願し、登録したものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号の規定に該当することから、登録されるべきものでない。
(5)以上述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第11号及び同第15号または同第19号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により無効にされるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
被請求人は、答弁書において請求人の主張が理由のないものである旨縷々述べている。しかしながら、被請求人の答弁は何等理由のないものである。 その理由を以下にのべる。
(1)本件商標は、請求書において述べたとおり、本件商標の登録出願前より米国の「Moon Equipment Company」、同社の業務を継承した「MOONEYES USA.,INC.」及び請求人がドラッグレース(わが国においてもレースが開催され、また、放映もされている。)に出場するレースカーまたはドラッグスターに使用している標章として、また、自己の製造・販売に係る商品または自己の業務の役務に米国及び国内において使用している商標としても広く知られている「引用B商標」及び引用C商標と同一または類似の商標であることが明らかである。
この点について、被請求人は何等触れていない。
被請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しない旨述べると共に、「商標法では原則的に類似範囲について効力を認めており、非類似範囲については効力を認めていない。」と主張しているが、このことは商標法第4条第1項第11号に該当するか否かの問題であって、他人の業務に係るものと混同を生ずるおそれがあれば足りる商標法第4条第1項第15号についての問題ではなく、論理に矛盾がある。
本件商標は、その指定商品に被請求人が使用した場合には、請求人等の業務に使用するものとして広く知られている標章・商標と類似するものであるから、請求人の業務に係るものと混同を生ずるおそれを十分に有しているものであり、当然に商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
被請求人は、昭和32年当時の商標登録出願について略40年前に判断された審決(乙第3号証の1・2)を引用して述べるところがあるが、当時の経済情勢と今日では格段の違いがあり、今日においては各企業が多角的な経営を行っているのが常識であることから、この審決は不適当なものである。 また、乙第4号証における「MIZUNO」は、ありふれた氏の「水野」を普通に用いられる方法で表示したものであるから、この「MIZUNO」の部分のみをもっては権利行使のできないものである。更に乙第5号証は、権利者の「エヌ・シー・アール・コーポレーション」が、連合商標の表示よりみても明らかように昭和初期よりわが国においても「National」の商標を所有し、その指定商品の「金銭登録機」に使用するものとして世界的に知られているものである。このようなことからも明らかなように、被請求人の乙第3号証乃至乙第6号証は、被請求人の商標法第4条第1項第15号に該当しない旨の主張の証左とはならない。
(2)被請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号及び同第19号に該当しない旨縷々述べている。
しかしながら、本件商標は、請求書においても示すとおり、米国のディーン・ムーン氏がディズニー社の商業デザイナーにデザインさせ、同氏の経営していた米国の「Moon Equipment Company」社、同社の業務を継承した「MOONEYES USA.,INC.」及び請求人が使用するものとして、本件商標の登録出願前より広く知られている独創的な創造標章及び商標と同一または類似することが明らかである。
すなわち、請求書に添付した各甲号証よりみても明らかなように、被請求人は、これらが上記の「Moon Equipment Company」社、同社の業務を継承した「MOONEYES USA.,INC.」及び請求人がドラッグレースのレースカーまたはドラッグスターに使用していること及び自己の製造・販売に係る商品または自己の業務の役務に使用するものとして知られていること等の事情を十分に認識していながら、本件商標の指定商品及び請求人または請求人の子会社が登録していない区分に、これを奇貨として、剽窃的に登録出願をし、登録したものといっても過言ではない。
また、被請求人は、本件商標の登録出願の動機・採択の経緯について何等触れるところがない。
したがって、本件商標は、上述のとおり他人の広く知られているものと同一または類似の商標を剽窃的に登録出願をし、登録したものといっても過言ではないことから、国際的な商取引秩序の信義に反し、また、社会の一般的な道徳に反するものであり、商標法第4条第1項第7号及び同第19号に該当するものである。
(3)被請求人は、引用A商標より「ムーン」の称呼がでないから、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当しない旨述べている。
しかしながら、甲第50号証乃至甲第53号証においても明らかなとおり、今日では、相当程度図案化した商標であっても読み込むことができるものについては、それより称呼を生じさせて類否を判断しているところである。
事実、請求人の登録出願(商願平9ー152553)が引用A商標を引用した拒絶理由通知を現在受けている(甲第54号証及び甲第55号証)ことからも明らかなように、この登録商標より「ムーン」の称呼をも生ずるものであるから、この点についての被請求人の主張は理由がないものである。
上記のことからも明らかなとおり本件商標の「MOON」の文字より「ムーン」の称呼を生じ、引用A商標からも「ムーン」の称呼を生ずるものであるから、両商標は称呼上において類似し、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
(4)したがって、本件審判の請求書及び弁駁書によっても明らかなとおり、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同第11号、同第15号及び同第19号に何等該当するものでないとする被請求人の答弁は、何等理由のないものである。
以上のとおり本件商標は、上記の法条に違反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項の規定により無効にされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証(枝番を含む。)及び乙第21号証ないし乙第23号証(枝番を含む。)を提出している。
1.理由
(1)商標法第4条第1項第15号について
以下の理由により、この「引用B商標」が周知・著名であるとは到底思えない。
理由1:請求人は「引用B商標」が周知・著名であることにつき、幾つかの資料により証明している。
しかし、これら資料は周知性・著名性証明の資料としては余りに貧弱であり、これら資料からは到底「引用B商標」が周知・著名であるとは思えない。
また、この程度の資料しか提出できないと言うことは、請求人自ら周知・著名でないことを証明しているようなものである。
理由2:また、請求人は今後、周知性・著名性を証明する資料を多少追加することもあるかもしれないが、それでも商標法第4条第1項第15号の適用を受け得るほどに著名でないことは明白である。
商標法では原則的に類似範囲について効力を認めており、非類似範囲については効力を認めていない。即ち、「引用B商標」と本件商標とは指定商品が類似しないため、「引用B商標」の効力は本件商標には及ばない。しかし、高い知名度のある商標(著名商標)については類似範囲を超えて非類似範囲についても効力を認め、商標法第4条第1項第15号を適用することとしている。では、商標の原則である類似範囲を超えて、非類似範囲にまで効力が及ぶ商標とはどの程度の知名度(レベル)を有する商標を言うのか。以下、審査例・審決例を参考にこのレベルについて考察する。
(イ)乙第3号証の1は「麒麟」という商標に関する審決公報である。
「麒麟」という商標は言うまでもなくビール等の酒類において非常に有名な商標であり、これが著名商標であることに全く疑いはない。
一方、乙第3号証の2はビールとは非類似の商品(食料品、加味品)を指定商品とした商標「麒麟」に関する出願であり、著名商標「麒麟」と出所混同が生じるのではないかとして争われた事件である。
この審判では最終的に「出所混同は生じない」と認定され、乙第3号証の2について商標登録は認められた。そして、その審決理由を要約すると「ビールと食料品とは非類似商品であり、例え販売場所が同じであるとしても、取引実状を考慮すると出所混同は生じない」というものである。即ち、「麒麟」のように明らかな著名商標であり、しかも「酒類」と「食料品」という一定の関連性がある商品同士であっても、商標法第4条第1項第15号の適用を受けることができないのである。この例から商標法第4条第1項第15号の適用を受けるためのレベルは大変高いことが解る。
よって、このレベルの高さを考慮すると、「麒麟」よりも圧倒的に知名度の劣る「引用B商標」について商標法第4条第1項第15号の適用を受けることができないことは明白である。
また、本件商標の指定商品「つや出し剤」と引用B商標がよく使われている商品「自動車」とは一定の関連があるとも考えられ、この商品同土の関連性から商標法第4条第1項第15号の適用を受け得るとも考えられる。
しかし、「麒麟」の例のように「食料品」と「酒類」についてもこの適用を受けることができないのであれば、当然に「つや出し剤」と「自動車」程度の関連性では商標法第4条第1項第15号の適用を受けることができないことは明白である。
(ロ)前述の「麒麟」と同様の審査例は他にも多数存在する。
例えば、乙第4号証は「MIZUNO」(指定商品:身節品、宝玉、かばん類)という商標であり、昭和62年に商標登録が認められている。この「MIZUNO」は、言うまでもなく著名なスポーツ用品メーカー「ミズノ(MIZUNO)」と同一商標であるが、出所混同するとは認められず商標登録が認められている。また、乙第4号証の指定商品にはスポーツ用具と一定の関係のある「かばん類(スポーツバッグ)」が含まれるにも拘わらず出所混同は生じないと認定されている。とするならば、「ミズノ」よりも圧倒的に知名度の劣る「引用B商標」について商標法第4条第1項第15号の適用を受けることができないことは明白である。
更には乙第5号証では著名商標「NATIONAL」と同一の商標(指定商品:金銭登録機)が商標登録され、乙第6号証では著名商標「Lion」と同一の商標(指定商品:菓子、パン)が商標登録されている(商標法第4条第1項第15号の適用を受けていない)。
よって、これら審査例からも「引用B商標」について商標法第4条第1項第15号の適用を受けることができないことは明白である。
理由3:請求人は主に「引用B商標」が有名であることを証明しており、「引用B商標」十「MOON」に関する資料は殆どない。
しかし、本件商標は「引用B商標」の上に「MOON」という文字を表したものであり、本質的に「引用B商標」とは異なる。また、この他にも両商標を比較すると、幾つもの相違点がある。
よって、商標の側面からみても両商標は全く異なり、商標法第4条第1項第15号が適用されるべきでないことは明白である。
(2)商標法第4条第1項第7号について
商標法第4条第1項第7号は、前述の商標法第4条第1項第15号と同様、高い知名度のある商標(著名商標)については類似範囲を超えて適用される規定である。よって、前述の理由と同様の理由により商標法第4条第1項第7号の適用を受けることができないことは明白である。即ち、次の理由により商標法第4条第1項第7号の適用を受けることができないと考えられる。
理由1:請求人提出の周知性・著名性証明資料は余りに貧弱であり、これら資料からは到底「引用B商標」が周知・著名とは思えないからである。
理由2:また、前述の「麒麟」「MIZUNO」「NATIONAL」「Lion」について取引秩序を乱すとは認定されず(商標法第4条第1項第7号が適用されず)商標登録されている(乙第3号証〜乙第6号証)。
よって、これら商標より圧倒的に知名度の劣る「引用B商標」については当然に商標法第4条第1項第7号を受けることはできないと考えられるからである。
理由3:商標の側面からみても両商標は全く異なるからである。
(3)商標法第4条第1項第19号について
本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当しないことは明らかであり、以下その理由を述べることとするが、その前にまず、商標法第4条第1項第19号の性格について明らかにする。
商標法第4条第1項第19号は、外国又は日本で周知な商標が不正目的で商標登録されることを防止するための規定である。この第4条第1項第19号は最近になって新たに加えられた規定であるが、ここで注意すべきは、この19号は規定としては新しくても登録要件としては従来からあったものである、という点である。即ち、従来、外国等での周知商標を不正目的で使用するものは第4条第1項第7号又は15号に該当するとして拒絶・無効になっていたが、この点を明確にするために法改正により新たに19号を規定したにすぎず、登録要件としては従来より第4条第1項第7号又は15号に含まれていたものである(乙第7号証)。
よって、19号については前述の7号、15号の場合と全く同じ理由(以下の理由)により、19号の適用を受けることはできないと考えられる。
理由1:請求人提出の周知性・著名性証明資料は余りに貧弱であり、これら資料からは到底「目玉マーク」が周知・著名とは思えないからである。
理由2:また、前述の「麒麟」「MIZUNO」「NATIONAL」「Lion」のように高度の著名性を有する商標と同一の商標ですら商標法第4条第1項第7号、15号(現在の19号)が適用されず商標登録が認めている(乙第3号証〜乙第6号証)。
よって、これら商標より圧倒的に知名度の劣る、「引用B商標」については当然に商標法第4条第1項第19号の適用を受けることはできないと考えられるからである。
理由3:商標の側面からみても両商標は全く異なるからである。
(4)商標法第4条第1項第11号について
本件商標の商品と引用A商標の商品とは、「化粧品」で一致するだけで、「つや出し剤」とは全く無関係である。即ち、「つや出し剤」については商標法第4条第1項第11号が適用される余地は全くない。この点につき注意を要する。確かに、引用A商標は一見「MOON24(ムーン24)」という商標であるとも考えられる。
しかし、引用A商標は「MOON24」ではなく、「M」と「∞(無限大に似た図形)」と「N」と「24」とを組み合わせた商標であり、「ムーン」という称呼を生じさせる商標ではないと考えるべきである。以下、その理由を述べる。
理由1:引用A商標は「M」と「N」との間に「∞」に似た図が配置されている。この「∞」を自然に読めば「無限大」を表す記号、又は「8の字」が横になったような図と理解される。即ち、請求人主張のようにこれを「MOON(ムーン)」と読むこととすると「∞」の左右の部分を無理に引き離すことになり、非常に不自然な読み方になってしまう(「∞」を引き離す必然性はどこにもない)。よって、引用A商標は「M」と「図形」と「N」と「24」の組み合わせであり、「ムーン」という称呼は生じない、と考えるべきである。
次に、審決例を参照しながらこの点について明らかにする。
(イ)乙第8号証は「N」と「D」の一部を重ね合わせた図を「ND(エヌディー)」と読むか否かで争われた事件である。この審決では、この図形を「ND(エヌディー)」とは読めない旨を認定し、その理由を「一部重ね合わせているから単なる図形と認識すべき(特定の称呼は生じない)」としている。即ち、この審決でも重ね合わせた部分を引き離して読んではいない。
よって、「〇」と「〇」とを重ね合わせたような図である引用A商標についても「MOON(ムーン)」とは読むべきでないことが解る。
(ロ)乙第9号証の審決でも同様であり、「NMB」の「N」の部分が、この文字を囲む二重丸の一部と重なり合っているため、これを「NMB」と読めない旨が認定されている。
よって、この例からも引用A商標を「ムーン」と読むべきでないことが解る。
(ハ)乙第10号証は、表された商標が単なる図形であり何ら称呼の生じない商標であるのか、それとも「COOP」を図案化したものであり、これを「COOP」読むべきかで争われた事件であり、最終的にはこれを「COOP(コープ)」とは読まない旨認定している。この例では、図形全体を総合判断した結果、「コープ」とは読まないと判断している。しかし、この審理においては「∞」の部分を普通に読んだならば「OO」とは読めないことが大きな要因となって、「コープ」とは読めないと判断されたと考えられる。
よって、これと同様に引用A商標の「∞」の部分も「OO」と読むべきでないため、これから「ムーン」という称呼が生じないことは明白である。
理由2:アルファベットの「O(オー)」という文字は、他の文字と間違われやすい文字であるという特殊な事情がある。即ち、この「O(オー)」という文字を明確に「O」と書いても、これを「マル」や「ゼロ」と誤って認識される場合が多々ある。このように明確に「O」と表したとしても「マル」等の図形と誤認されるのであれば、引用A商標のように図案化されたものであれば、尚更「O(オー)」とは読まれず何らかの図形と認識されると考えられる。
よって、このことからも引用A商標を「ム-ン」と読むべきでないことは明白である。
また、このことは乙第11号証の審決例からも明らかになる。乙第11号証は「RIO」という文字を図案化した商標であり、これが「リオ」と読めるか否かで争われた事件である。審決ではこれを「リオ」とは読めない旨認定し、その理由として「O」を図案化している点を挙げている。
よって、引用A商標についても「OO」を図案化しているため、「ムーン」と読むべきでないことが解る。
以上のことから、引用A商標からは「ムーン」という称呼は生じず、本件商標とは類似しないことは明白である。
以上の通り、請求人の主張には全て理由がない。
2 弁駁に対する答弁
(1)「引用B商標」は周知・著名な商標であるかについて。
請求人は「引用B商標」が有名な商標である旨を繰返し主張している。
しかし「引用B商標」が周知・著名な商標であるとは到底考えられない。その理由は平成10年11月10日提出の第1回答弁書において述べた通りである。即ち、請求人提出の資料は周知・著名性を証明する資料としては余りに貧弱であり、この程度の資料しか提出できないと言うことは、請求人自ら周知・著名でないことを証明しているようなものである。また、我々がこのような主張をしたにも拘らず、その後請求人から資料の追加等は全くされていない。よって、この程度の資料しか提出できないということは、やはり「引用B商標」は周知でも著名でもない商標と考えるべきである。
因みに、被請求人代理人は何度も商標の周知性証明を行った経験がある。そして周知性証明の作業において、本当に周知となっている商標の周知性を証明する場合は通常何の苦労もなく大量の資料(周知性証明のための資料)を集めることができるという経験則がある。即ち、「引用B商標」が本当に周知であれば請求人が提出した資料の何倍もの資料を容易に集めることができるものである。しかし、請求人提出の周知性証明資料はごく僅かなものであり、きわめて貧弱な資料と言うほかない。
よって、「引用B商標」は周知でも著名でもないことは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第15号、同第7号、同第19号の適用について。
まず、繰返しになるが請求人は「引用B商標」は自動車レースにおいて有名であると主張している。
しかし、本件商標の指定商品は「化粧品、つや出し剤」であり、自動車レースとは全く関係のない商品である(即ち、非類似商品である)。そこで、請求人は非類似商品にも適用される商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第19号の適用を主張してきた。これに対し、我々は「麒麟」「NATIONAL」「LION」等の例を示しつつ商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第19号が適用されるためには相当の著名度(非常に高レベルの知名度)が必要である旨を述べた。そして、これに対し請求人は「麒麟」「NATIONAL」等の例は適切でない旨を弁駁書において主張してきた。しかし、「麒麟」「NATIONAL」等の例は適切であり、その理由は後述するが、その前にまず重要なことを確認する。
第1回答弁書中で主張した重要なポイントは、類似範囲を超えて非類似範囲にある商標を排除するには(即ち、商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第19号が適用されるには)相当高レベルの知名度(著名性)が必要であるという点である。即ち、圧倒的に知名度があり、明らかに著名である「麒麟」「NATIONAL」「LION」等でさえ容易に非類似範囲にある他人の商標を排除できないのであれば、これらより知名度が圧倒的に劣る「引用B商標」が非類似範囲にある本件商標を排除できるはずがないのである。
次に、請求人の弁駁に対し反論する。
請求人は「麒麟」「NATIONAL」等の例は適切でない旨を弁駁書において主張している。
しかし、前述の通り、ここでの重要なポイントは各々の証拠が適切であるか否かではなく、非類似範囲にある他人の商標を排除するためのレベルの高さを考察することにある。よって、もし「麒麟」「NATIONAL」等の例が適切でないのであれば、以下に示すとおりこれに代る同様の例は数限りなくある(これらの例はほんの少しだけ調査しただけで容易に発見できたものである)。
・自動車の商標として著名な「SUNNY」でも乙第21号証の1を排除できない。
・万年筆の商標として著名な「PILOT」でも乙第21号証の2を排除できない。
・家庭電化製品の商標として著名な「タイガー」でも乙第21号証の3を排除できない。
・事務用品等の商標として著名な「PLUS」でも乙第21号証の4を排除できない。
よって、これらの例からも類似範囲を超えて商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第19号が適用されるためには相当高レベルの著名性が必要であることが判る。即ち、請求人の「引用B商標」程度ではどう考えても商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第19号が適用される訳がないことが判る。
次に、「麒麟」の例が適切である点につき説明する。
請求人はこの「麒麟」の審決がなされた当時と現在とは経済情勢が異なるため証拠として適切でない旨を主張している。確かに、請求人の主張するように多少の状況の変化はあると思う。
しかし、当時より「麒麟」が圧倒的に有名であったことに変わりはなく、著名商標である「麒麟」が乙第3証の2を排除できなかったのであれば、「麒麟」より遙かに知名度の劣る「引用B商標」が非類似範囲にある本件商標を排除できない旨の結論は当然に導き出されるものである。
また、請求人は「NATIONAL」の例について、昭和初期のエヌ・シー・アール・コーポレーションの周知商標と連合関係にあることを理由に適切でないと主張している。
しかし、乙第5号証が松下電器の著名商標「NATIONAL」と出所混同が生じるか否かが判断されたのは、乙第5号証の登録時(平成5年)であり、乙第5号証がエヌ・シー・アール・コーポレーションの周知商標と連合であることとは全く関係ない。
よって、著名商標である「NATIONAL」が乙第5号証を排除できなかったのであれば、「NATIONAL」より遙かに知名度の劣る「引用B商標」が本件商標を排除できない旨の結論は当然に導き出されるものである。
(3)引用A商標は「ムーン24」と読めるか否かについて。
請求人は図案化した商標であっても読込むことができるものは、それより称呼が生じるとして、幾つかの証拠を示した(甲第50号証等)。確かに、図案化してあってもそれなりの称呼が生じるものも存在し、それを否定するつもりはない。
しかし、我々が主張しているポイントは、ポイント1:引用A商標の「∞」の部分は自然に読めば「無限大」と読めるものを何故不自然に「OO(オーオー)」と読むのか。ポイント2:「O(オー)」は「〇(マル)」等と間違われやすい文字でり、これが図案化されたのであれば当然に「OO(オーオー)」とは読めない。という点である。しかし、請求人はただ甲第50号証等を提出するのみでこれに対して何らの反論もない。
なお、上記のポイント1及びポイント2につき念のため追加の説明をする。
<ポイント1について>
引用A商標の「∞」の部分は自然に読めば「無限大」と読むべきであり、これを不自然に「OO(オーオー)」と読むべき必然性は全くない。
その理由は次のA、Bの通りである。
A.このことは乙第22号証をみれば一目瞭然である。
乙第22号証の(ア)は「MOON24」と明朝体で表したものである(明朝体の特徴は細線と太線とが交互に表されている点にある)。(イ)は引用A商標であり、「M」や「N」の構成から明朝体形式で表されていることが判る。(ウ)は無限大の記号を明朝体で表したものである。ここで(ア)と(イ)とを対比すると一見して引用A商標を「ムーン」と読むことが如何に不自然であるかが判る。具体的には、乙第22号証の(ア)は同一間隔で同一書体(明朝体)で表されているので一連の商標として自然に「ムーン」という称呼が生ずる。一方、(イ)は中央の「O」と「O」が重なっていて同一間隔でないことに加え、「OO」の部分が明朝体で表されていない。即ち、明朝体であれば(ア)のように「O」の左右の部分が太線で表され、上下の部分が細線で表されているはずであるが、引用A商標は全て太線で表されており、書体が異なることが判る。
よって、引用A商標は一連の商標ではなく、これを「ムーン」と読むことは非常に不自然であることが判る。また、乙第22号証の(ア)(イ)(ウ)とを比較すると、如何に引用A商標の「∞」の部分が「OO」ではなく無限大を表す記号に近いものかがよく分る。
B.引用A商標を「ムーン」と読むべき請求人の主張が不自然であることは、「∞」以外の他の記号に置換えれば更に明らかになる。
例えば「#(シャープを表す記号)」は自然に「シャープ」と読むべきものである。しかし、請求人の主張に置換えると、請求人はこれを不自然に井戸の「井」と読むべきことを主張しているのと同視できる。よって、このことからも請求人の主張には無理があることがよく判る。また、「%(パーセントを表す記号)」も自然に「パーセント」と読むべきであって、これを「ゼロ スラッシュ ゼロ」と読むことは非常に不自然である。よって、引用A商標の「∞」の部分も「無限大」と自然に読むべきで、不自然に「OO(オーオー)」と読むべきではない。
<ポイント2について>
第1回答弁書において「O(オー)」は「〇(マル)」等と間違われやすい文字でり、これが図案化されたのであれば当然に「OO(オーオー)」とは読めない旨を主張し、その際に「RIO」(乙第11号証)という商標の例を示した。
今回はこれに以下の証拠を追加する(乙第23号証の1〜3)。
・「SATO」の「O」は図案化されているので「サトー」とは読めない。
・「COMBI」の「O」は図案化されているので「コンビ」とは読めない。
・「BIO」の「O」は図案化されているので「バイオ」とは読めない。
特に、「SATO」(乙第23号証の1)の審決理由『簡易迅速とする商取引においては「SAT」のみの称呼が生じる(最後の文字は「O」とは読めない)』という部分は非常に参考になる。
よって、これら証拠からも「O(オー)」という文字は少しでも図形化されると「O(オー)」とは読めないことが明らかになる。
なお、請求人は第1回答弁書に関し一部誤解をしているようなので、最後にこの点につき説明する。
A.請求人は第1回答弁書について論理矛盾がある旨を述べている。
しかし、『商標の効力は原則として類似範囲→例外的に非類似範囲→では、その例外となる非類似範囲まで効力が及ぶ商標とはどういう商標を言うのか』ということ、即ち商標法第4条第1項第15号のことを述べているものである。この点誤解があるので注意されたい。
B.請求人は本件商標と「引用B商標」とは類似する旨主張したが、被請求人からは何の反論もないと言っている。
しかし、被請求人は、第1回答弁書においてこの点にも触れている。また、そもそも「引用B商標」は周知でも著名でもなく、更には本件商標とは指定商品が全く異なる。よって、商標の類似を問題にする必要もない。
C.請求人は甲第54号証等を示して本件商標が「ムーン」と発音できる旨を主張している。
しかし、被請求人が「ムーン」と読めないと主張しているのは引用A商標に対してであり、誰も本件商標が「ムーン」と読めないことを主張していない。上記ABCのような誤解があるので、これらの点につき念のため明らかにした。
以上のように、「引用B商標」は周知・著名な商標ではなく、商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第19号の適用の余地も一切なく、引用A商標は「ムーン24」とは読めず、本件商標とは類似しない、と考えられる。即ち、請求人の主張には全て理由がないと考えられる。

第5 当審の判断
本件商標は、別掲(1)に示すとおり、図形と文字の組み合わせよりなるものである。
他方、請求人の提出に係る甲第12号証及び甲13第号証の「SIXTY YEARS OF HOT ROD PHOTO MEMORIES」及びその訳文、甲第19号証ないし甲第24号証の請求人の「MOONEYES Catalog」等甲各号証を総合勘案すれば、引用B商標は、米国のディーン・ムーン氏が1957(昭和32年)年にディズニーの商標デザイナーにデザインさせた独創的な図形であり、この引用B商標を基調とする引用C商標及び引用D商標をドラッグレース専用の競技車に使用していたものと認められる。
さらに、同氏の創設したムーン社より業務を承継した請求人及び請求人の子会社「MOONEYES USA.,INC.」は、引用B商標、引用C商標及び引用D商標を本件商標の登録出願前より、継続して自己の業務に係る商品「ドラッグレースに出場するレースカー」等の商標として使用してきた結果、取引者、需要者の間おいて広く認識されていたものと推認することができ、また、引用C商標は、わが国においても少なくともドラッグレースの分野においては、請求人の業務に係る商品の商標として知られていたものと推認することができる。
そして、本件商標と引用C商標とは、本件商標は、黒地の長方形内に白抜きの特異な幾何図形を有する目玉と思しき上部が二重の白抜き楕円線になっている2つの図形と、籠字風の「MOON」の欧文字をこの2つの図形内の左右に差し渡すように配してなるものである。
これに対して、引用C商標は、極細かい部分はともかく、上記上部が二重の白抜き楕円線の部分が一本の太字となっているのみで、他の特異な幾何図形の表し方、目玉の楕円の傾きの程度及び籠字風の「MOON」の欧文字の配置位置等をほとんど同じくするものといえるから、本件商標と引用C商標とを、時と処を異にして観れば外観上互いに合い紛れるおそれのある酷似する類似の商標と認める。
してみれば、本件商標は、これをその指定商品について使用するときは、請求人の業務に係る商品、若しくは、同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

(1) 本件商標




(2) 引用A商標




(3) 引用B商標




(4) 引用C商標




(5) 引用D商標


審理終結日 2001-11-28 
結審通知日 2001-12-03 
審決日 2001-12-27 
出願番号 商願平7-56301 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (003)
最終処分 成立  
前審関与審査官 八木橋 正雄 
特許庁審判長 寺島 義則
特許庁審判官 宮下 行雄
野本 登美男
登録日 1997-11-28 
登録番号 商標登録第3363367号(T3363367) 
商標の称呼 ムーン 
代理人 神田 正紀 
代理人 吉田 隆志 
代理人 八嶋 敬市 
代理人 瀧野 秀雄 

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