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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない 003
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 003
管理番号 1053650 
審判番号 審判1998-35408 
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-08-27 
確定日 2002-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第4136790号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4136790号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲に表示したとおりの構成よりなり、第3類「せっけん類、化粧品」を指定商品として平成5年3月12日に登録出願され、同10年4月17日に設定登録されたものである。

2 請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する商標
請求人が、本件商標の登録無効の理由に引用する登録第525665号商標(以下「引用商標」という。」)は、「cool」の欧文字と「クール」の片仮名文字とを二段に書してなり、第2類「眉墨、練紅、アイシャドウ、その他本類に属する化粧用染料及び顔料」を指定商品として、昭和32年8月8日に登録出願、同33年8月18日に設定登録され、その後3回に亘り商標権存続期間更新の登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証の1ないし同第5号証の3を提出している。
(1)無効理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
(2)無効原因
イ 本件商標の概要
本件商標は、英文字KOOLの4文字を、2つの「O」をからませ、黒色の矩形の中に白抜きで表示し、黒色の矩形の外周に二重の輪郭線を巡らしてなり、第3類の「せっけん類、化粧品」を指定商品とするものである。
ロ 引用商標
請求人は商標登録第525665号を所有する。
この商標は、英文字小文字の「cool」とその下に片仮名文字「クール」を併記したもので、第2類の「眉墨、練紅、アイシャドウその他本類に属する化粧用染料及び顔料」を指定商品とするものである。
ハ 比較
a)本件商標は「クール」の称呼を有するものである。
b)弁理士会発行の登録文字商標集の第1巻〜第10巻には、甲第2号証に示す通り「KOOL」または「KOOL」に他の語を結合した次の商標が「ク」に分類されている。このことは「KOOL」は「クール」と称呼することを示している。
c)上記商標のうち次の商標は、甲第3号証の公報に示す通り、英文字とその称呼を片仮名文字で併記している。
そして、いずれもがKOOLの称呼を「クール」と表示している
d)前記商標の内、甲第4号証に示すとおり、次の「KOOL」または「KOOL・・」の商標は、「クール」または「クール」商標の連合商標として登録されている。
e)甲第5号証の1は、アメリカ合衆国製で日本で輸入販売されている煙草「KOOL(MILDS)」のケースで、甲第5号証の2は同じく「KOOL(FILTERS)」のケースである。これらの煙草ケースには、本件商標の英文字部分と同じ構成の英文字KOOLの4文字で、2つの「O」を横にからませ、緑色矩形に白抜きとし、茶色の輪郭線で囲ったマーク、および、緑の帯状の部分に上記構成のKOOL商標の白抜きマークが表示されている。
甲第5号証の3は、上記2つの煙草を拡販するために、上記2つの煙草とライター1個およびパンフレットをセットし、一般の煙草店で一般消費者に頒布している「クールBOX」の写真である。この「クールBOX」には本件商標の英文字部分と同じ構成の英文字KOOLの4文字で、2つの「O」を横にからませた商標が表示され、中に収納されたライターおよび煙草ケースには、緑色の矩形の中に上記構成のKOOLの文字を白抜きで表示し、緑色矩形の外周を茶色の矩形輪郭線で囲ったマークが表示されており、それらのマークはボックスの透明部分より外から看取できるようになっている。
甲第5号証の4はパンフレットである。このパンフレットはクールスプラッシュサマーキャンペーンのためのもので、緑色矩形にKOOLの文字を白抜きにし茶色の輪郭線で囲ったマークが各所に表示されると共に、「クール」「クールBOX」「クールソフトパック」「クールマイルド」の語が記載されている。そしてこのパンフレットは、前記「クールBOX」に入れられ、またはパンフレット単独で頒布されている。
f)上記の事実から、本件商標は通常一般人は「クール」と称呼することが明らかである。
g)一方引用商標は、英語coolはクールと発音し、片仮名「クール」と相まって、「クール」の称呼のみを有するものである。
h)結論
上記のとおり本件商標および引用商標は、共に「クール」の称呼を有するものであり、従って、本件商標と引用商標とは称呼は同一であり、両商標は類似する。
しかして、引用商標の指定商品は、商品分類第3類の「化粧品」に属する商品であることは商標法施行規則の別表に示す通りであるので、本件商標の指定商品と類似する。電話による取引においては両者は全く区別がつかず誤認混同される虞れがある。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。また、本件商標の指定商品中「せっけん類」には「化粧せっけん」があるのでも判るように、一般の化粧品店では「せっけん」も販売しているところが多い。従って、「せっけん類」に本件商標が使用されると、一般需要者は、引用商標を使用した化粧品と商品の出所が同じであろうと誤認混同する虞れがある。よって本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)答弁に対する第1回弁駁
被請求人の平成11年2月10日提出の答弁書に対して以下のとおり弁駁する。
イ 弁駁の要点
本件商標は、引用商標とは称呼同一であり、同一および類似の商品を指定商品とするものである。
現今、電話での取引やラジオ等音声による宣伝が頻繁に行われている。かかる場合に、称呼同一の商標では区別がつかず、混同誤認が生ずることは明白である。これに対して、被請求人の答弁は何ら理由をなしていない。
ロ 被請求人の答弁に対する具体的弁駁
a)引用商標の顕著性について、
請求人は、引用商標は顕著性がないから商標の類似の根拠として引用し得ないものであると主張している。
しかし、引用商標は、現に登録されている商標であり、先に提出した甲第1号証の1の登録原簿写で明らかなように、昭和33年8月18日付で中山善肋氏が登録し使用していたのを、請求人が昭和63年3月24日付で譲り受け、以後継続して使用しており、消費者および業者間でよく知られている。また、引用商標は3回更新登録をしている。
被請求人は、化粧品について次の語が商品の色彩(寒色)、品質・効果等を表す語として使用されていると説明している。「クールで華やかな目の覚める色」「クールなパステルカラー」「クールな色、ブルーグレー」「クールな印象」「クールな目元」
しかしながら、これらの表現は比喩的、文学的表現であって、商品の色彩、品質、効果を直接的に表現したものではない。
また、請求人は、引用商標の顕著性がないとの主張の根拠として、「COOL」、「クール」の文字を構成中に含む商標が併存登録されているので、引用商標は顕著性を失っていると主張しているけれども、それらの商標は「COOL」、「クール」単独の商標でなく、他の称呼、観念を有するものである。
煙草等に関する第27類においても、被請求人と第三者の次の商標が併存登録されている。
審判請求書第4頁のりストで明らかなように、「11類」「29類」では、「KOOL」の商標と「KOOL」に他の語を結合した商標が併存登録さている。
これらのことを以て「KOOL」単独の商標の顕著性が失われただろうか。他にも、或る語単独の商標と、その語に他の語を加えた商標が併存して登録されている事例はいくらでもある。この場合において、或る語単独の商標が顕著性を失ったと決めつける事は出来ない。被請求人の主張が間違っていることは明らかである。
ハ 本件商標と引用商標との顕著性の差について
被請求人は、本件商標は著名な「たばこ」の「KOOL」商標と同一であって極めて自他識別力を有し、その顕著性において雲泥の差があると主張している。しかし、被請求人の主張は独りよがりである。「たばこ」の「KOOL」商標を知っているのは喫煙者だけであり、その喫煙者も減少している。そして、審判請求書の第3(第4頁)に記載したように、「KOOL」商標および「KOOL」と他の語と結合した商標が多数登録されている。上記のとおり煙草に関係する商品についても「KOOL」商標および「クールクール」の商標が併存して登録されている。そして、これらの商標のほとんどが、被請求人以外の登録である。
これらの事実から明らかなように、我が国の人々は被請求人の商品以外の多くの商品に「KOOL」または「KOOL」に他の語を結合した商標を付された商品に日常接しており、「KOOL」商標から「たばこ」商品を思い浮かべるのは限られた人々である。従って、本件商標および引用商標の顕著性について、被請求人が言う程の差はない。
ニ 類似判断に当たって称呼のみを取り上げるべきでないとの主張
被請求人は、最高裁昭和39年(行ツ)第110号判決等を引用して、商標の類否判断に当たっては商標の外観、観念または称呼等の全体から総合的に判断すべきであり、本件商標は、引用商標とは外観、観念の二点において著しく相違し、かつ、取引の実情に鑑みて、著名なたばこ「KOOL」に使用されている商標と同一のものと認識され、商品の出所に誤認混同を来すおそれはないと主張している。
請求人は判決の趣旨を否認するものではない。しかし何れの判決においても称呼同一の商標について認定したものではない。判決においては、両商標の称呼において一般には類似と考えられるもの(同一のものではない)でも、外観、観念において顕著に相違し、取引において外観、観念が重視される場合においては、両商標は識別され、商品の出所が誤認混同されるおそれがないと認定したものである。これらは、取引上特殊な事情があり、外観、観念が顕著に相違し、称呼においても幾分の差があるからである。本件商標は引用商標と称呼は全く同一である。化粧品の取引において、称呼よりも外観や観念を重視するというような慣行はない。
最高裁昭和39年(行ツ)第110号判決当時に比べて、現在では電話取引や音声による宣伝活動は極めて活発である。前記したとおり、電話取引や音声による宣伝において、称呼が同一の場合には混同誤認されることは疑う余地がない。なお、被請求人は、答弁書において本件商標を「たばこの『KOOL』」商標であると強調しているが、前記のとおりKOOLまたはKOOLに他の語を結合した商標が多数存在するので、本件商標に接した人が必ずたばこのKOOL商標と認識するものでもなく、本件商標は「タバコノクール」の称呼のみを生ずるものではない。また、本件商標をその指定商品に関して、電話取引やラジオ宣伝で一々「タバコノクール」と称呼するとは到底考えられない。そのように称呼すれば、商品「たばこ」について言っていると考えられ、商品の品質について誤認混同を生ずる。
ホ 被請求人のその他の主張
被請求人が挙げるその他の事例も本件の場合と事情が異なり、当を得たものではない。
ヘ 商標法第4条第1項第15号について、
被請求人は、本号を根拠とする請求人の主張は前提を欠いていると主張している。しかしながら、「前提を欠いている」とする被請求人の主張の根拠は前記のとおり誤っている。従って、本件商標は、本号に該当する。
(4)答弁に対する第2回弁駁
被請求人は、平成11年9月30日付けで第2回審判答弁書を提出し、種々反論を試みている。
しかしながら、引用商標は現に登録されて存在しているいるものであり、本件商標も引用商標も称呼は「クール」と全く同一であり、取引上称呼の区別が付かないことは否定することはできない。被請求人が言うように、たとえ「KOOL」商標が「煙草」について著名な商標であったとてしも、そのことで上記の事実を否定することはできない。従って、本件商標は引用商標と類似することは否定できない。本件商標の指定商品中「化粧品」は引用商標の指定商標と同一または類似することも否定出来ない事実である。また、本件商標の指定商品中「せっけん類」については、審判請求書で説明したとおり、引用商標を使用した商品と出所の混同を生ずるおそれがある。
従って、本件商標の指定商品中「化粧品」について本件商標は商標法第4条第11号に該当し、「せっけん類」について本件商標は商標法第4条第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。

4 被請求人の主張
(1)被請求人は「結論同旨の審決を求める」と答弁し、その理由を概略次のとおり述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第45号証までを提出している。
イ 審判請求人は、「cool」の欧文字及び「クール」の片仮名文字からなる登録第525665号を引用し、本件商標及び引用商標から「クール」の称呼が生ずるから、本件商標は引用商標と称呼において類似し、従って本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当すると主張している。
また、一般の化粧品店では「せっけん」も販売しているところが多く、「せっけん類」に本件商標が使用されると、一般需要者は、引用商標を使用した化粧品との関係で出所の混同を生ずるおそれがあるから、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するとも主張している。
ロ しかしながら、請求人の主張は失当であるので、ここに答弁書を提出する。
第一に、本件商標が引用商標に類似するとの請求人の主張は、引用商標を構成する「cool/クール」の文字が顕著性を有するとの前提に立っている。然るに、後述の取引実情、併存登録例等に鑑みて、引用商標はその指定商品につき顕著性が無いから、本来、商標の類似の根拠として引用し得ないものである。第二に、仮に引用商標に何がしかの顕著性を認めたとしても、取引実情に鑑みて、その顕著性は著しく低いものである。本件商標は著名なたばこ「KOOL」に使用されているのと同一商標であるから、極めて高い自他商品識別力を有し、その顕著性において引用商標とは雲泥の差がある。商標の類否は、外観、称呼、観念の類否判断の三要素を総合的に勘案すべきであって、称呼において類似するからといって、直ちに本件商標を引用商標と類似であると断定する根拠とはなし得ない。第三に、請求人の商標法第4条第1項第15号を根拠とする主張は、その前提を欠いている。
以下、第一ないし第三の趣旨に従って、理由を詳述する。
ハ 「cool」の文字は、「(色が)冷たい、冷色の、(見た目に)涼しそうな、さわやかな」等の意味合いを有する英語であり(乙第1号証)、遅くとも中学校程度において習得され、ほぼ日常語として定着していると言える。よって、「クール」の文字は、その片仮名表記である旨、難なく理解される。引用商標の指定商品は、第2類「眉墨、練紅、アイシヤドウ、その他本類に属する化粧用染料及び顔料」であるところ、「cool/クール」の文字は、上記の意味合いを有するものであるから、引用商標はその指定商品のうち、寒色の指定商品(青色のアイシャドウ等)、或いは涼しげな印象・冷めた印象等を与えるメーキャップに使用する商品につき、本来顕著性がなく、これ以外の指定商品(真紅の練紅等、寒色に非ざる商品や、情熱的な印象を与えるメーキャップに使用する商品)については、品質の誤認を生じさせるおそれがある過誤登録であるといえる。
乙第2号証ないし同第7号証から明らかな通り、「口紅(リップスティック、ルージュ)」、「頬紅(チーク)」、「アイシャドウ」等、引用商標の権利範囲に属する商品その他の化粧品について、「クールでいて華やかな目の覚めるような色」、「クールなパステルカラー」、「クールな色、ブルーグレー」、「クールな印象」、「クールな目元」等、商品の色彩(寒色)、品質・用途・効果等(爽快感・清涼感・涼しげな印象を与えるメーキャップ、情熱的でなくどちらかというと冷めた大人の印象を与えるメーキャップに用いる)を表す語として「クール」の語が一般に使用されている。よって、取引の実際においても、引用商標は、その指定商品について顕著性を有しない語として需要者、取引者に認識され、使用されていることが明らかである。更に、「COLOR」、「STORY」の欧文字を二段に横書し、顕著に表された「COOL」の欧文字及び「ACID HAIR COLOR」の欧文字を2本の横線とともに黒い長方形中に白抜きしてなる商標が、第3類「酸性の染毛剤」を指定商品とし、登録第3049141号として登録されている(乙第8号証)。
「染毛剤」は、引用商標の指定商品中に含まれる「染毛料」(乙第9号証)と同一商品であると思料される。登録第3049141号商標が引用商標と併存登録されたという事実は、引用商標が、その指定商品について、査定時には既に色彩、品質等を表わす語として顕著性を失っているとの前提に立った、至極正当な判断がなされたためである。
ニ 更に、「化粧品」一般について、「COOL」、「クール」の文字をその構成中に含む乙第10号証ないし同第16号証の商標が併存登録されている。また、請求人は、「クール」及び「COOL」の文字を横書してなる商標を、第4類「せっけん類(薬剤に属するものを除く。)、化粧品(薬剤に属するものを除く。)、香料類」を指定商品として出願したところ(商願昭63-65280号)、当該商標は顕著性を有しないとの趣旨の拒絶理由及び拒絶査定を受けている(乙第17号証)。乙第14号証は、「F-in」の欧文字及び「COOL & COOL」の欧文字を二段に横書してなり、指定商品を旧第4類「せつけん類、その他本類に属する商品」とする登録第2718666号商標の商標公報であるが、登録第2718666号の出願中に、これが登録第1856600号商標(乙第12号証)に類似するから、商標法第4条第1項第11号に該当するとの理由に基づく登録異議の申立があった。登録第1856600号商標(乙第12号証)は、楕円輪郭内に表した「Kowa」の欧文字、「クールアンドクール」の片仮名文字、「COOL&COOL」の欧文字を3段に横書し、第4類「せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類」を指定商品とするものである。然るに、異議決定において、化粧品等を取り扱う業界においては、爽快感、清涼感を強調する商品が多数存在し、これら商品に前記感覚をアピールするため、「COOL」若しくは「クール」の文字を、それ自体あるいは他の商品標識に使用する文字と組み合わされて普通に採択使用されているのが実情であるから、登録第1856600号の「COOL&COOL」の文字部分並びに上記出願商標の「クールアンドクール」、「COOL&COOL」の文字部分に顕著性はないとの判断がなされている(乙第18号証)。
乙第19号証及び乙第20号証は、顕著性がないとして拒絶になった出願を集成した拒絶文字商標集(旧第4類)の一部抜粋写しである。その中にも、「COOL」、「クール」「クール & クール」等の文字が列挙されている。引用商標は、本件商標における査定時には既にその指定商品について取引の実際上顕著性を失っていたという上記事実、第3類「酸性の染毛剤」を指定商品とする登録第3049141号の存在、その他上記併存登録の存在、数年来にわたり特許庁において「cool/クール」の語が顕著性なしとの判断がなされてきている事実を綜合勘案すれば、引用商標は本件商標の査定時には既に顕著性がなく、本件商標との類否を争う根拠と為し得ないものである。
査定時に顕著性がないものと認められる語を類否判断の対象とすべきでないことは、「杵屋うどんすき」に係る商標登録無効審判に対する審決取消訴訟事件[東京高裁平成9年(行ケ)第62号(平成9年11月27日判決)、最高裁平成10年(行ツ)第94号(平成10年12月17日判決)]からも類推し得る。当該事件では、商標「杵屋うどんすき」において、「うどんすき」の語が査定時に普通名称化していたために、これを類否判断の要部とすべきでない旨の判断がなされ、判決が確定している。
ホ 仮に引用商標に顕著性があったとしても、上記したところから、その顕著性の程度は極めて低いものであると言える。一方、本件商標は、米国のブラウン・アンド・ウイリアムソン・タバコ・コーポレーションが製造する著名なたばこ「KOOL」に使用されている商標と同一である(乙第21号証ないし同第30号証)。出願人は、同社の関連会社であり、「KOOL」、「LUCKY STRIKE」、「KENT」といった同社のたばこについての商標を、たばこ以外の各種商品、役務に使用して事業展開すべく設立された法人である。本件商標とほぼ同一構成に係る商標を出願、登録しているので(登録第2564614号、同第2642397号、同第2690599号)、その公報を乙第31号証として提出する。
両社が関連会社であることは、登録第2690599号の出願中に、「出願商標はブラウン・アンド・ウイリアムソン・タバコ・コーポレーションがたばこに使用して著名な商標『KOOL』との関係で、商品の出所に付いて混同を生じさせるおそれがあるものと認めるから、商標法第4条第1項第15号に該当する」との趣旨の拒絶理由通知がなされたが、これに対する意見書においても主張されている。平成5年3月19日付の拒絶理由通知書及び平成5年6月21日付の意見書一部抜粋写しを乙第32号証の1及び乙第32号証の2として提出する。而して、上記のたばこ「KOOL」は、我が国において、遅くとも乙第26号証の発行年度である昭和59年迄には「若者や女性の間で人気」(乙第26号証)を呼んでいた。また、たばこ「KOOL」は、近年テレビコマーシャルや電車内の吊り広告等においても宣伝広告され、店頭キャンペーンも行われている(乙第33号証ないし同第34号証)。
上記のたばこは、長年、我が国の需要者、取引者に親しまれてきている上に、これに使用されている商標も、「O」の欧文字2文字が、リング2つを絡ませたような独特の表現方法を取っており、請求人が甲第2号証ないし同第4号証の7として提出する第三者の商標とは構成態様を全く異にする。よって、本件商標に接した需要者、取引者は、これが著名なたばこ「KOOL」の商標であると認識する。当該たばこが著名であり、たばこの「KOOL」に使用されている商標と本件商標とを同一視し得るが故に、本件商標は、極めて高い自他商品識別力を有している。請求人も、著名なたばこ「KOOL」に関する甲第5号証の1乃至甲第5号証の4を提出して、「本件商標の英文字部分と同じ構成の英文字KOOLの4文字で、2つの『O』を横にからませ、緑色矩形に白抜きとし、茶色の輪郭線で囲ったマーク、および、緑の帯状の部分に上記構成のKOOL商標の白抜きマークが表示され」云々と述べている。
上記のたばこに使用されている商標の構成態様の特異性及び著名性から、本件商標に接した需要者、取引者が、被請求人の関連会社であるブラウン・アンド・ウイリアムソン・タバコ・コーポレーションがたばこ「KOOL」について使用している商標と同一のものと認められる証左である。このように、本件商標は、自他商品識別力において引用商標とは雲泥の差を有するのである。
ヘ 本件商標と引用商標との類否について
まず、本件商標は、2つの「O」の文字をリングを絡ませたような独特の書体で表した「KOOL」の欧文字を、二重の枠線で囲った長方形の中に白抜きして横書した構成に係るものである。引用商標は、「cool」の欧文字及び「クール」の片仮名文字を2段に横書してなる。よって、本件商標は、引用商標とは外観上明白に非類似である。
なお附言すれば、今日、取引実情に鑑みて、引用商標の登録はもはや形骸化しているが、仮にその登録の実質的意義を認めねばならないとすれば、引用商標は、これが登録されたと同一の形態(外観)にのみ僅かに権利範囲が存するというべきである。
ト 本件商標からは、「たばこの『KOOL』」の観念を生ずる。引用商標からは、その指定商品との関係で色彩、品質、用途を表す「(色が)冷たい、冷色の、(見た目に)涼しそうな、さわやかな」の観念が生ずる。従って、本件商標は、引用商標と観念においても非類似である。
チ 本件商標並びに引用商標からは、「クール」の称呼が生ずる。而して、商標法第4条第1項第11号は、一般的出所の混同を防止する規定であるところ、類否判断に当たっては、称呼のみ取り上げるべきではなく、対比される商標の顕著性の程度をも考慮して、外観、称呼、観念の全体から総合的に判断すべきである。そして、商標が現実の取引社会において使用され、機能を発揮する以上、取引実情も考慮して類否判断を行うべきである。本件商標は、引用商標とは、上述の通り、外観、観念の二点において著しく相違し、かつ取引の実情に鑑みて、著名なたばこ「KOOL」に使用されている商標と同一のものと認識される。
よって、本件商標は極めて高い自他商品識別力を有しており、著しく顕著性の低い引用商標との関係で商品の出所に誤認混同をきたすおそれは認めがたいから、本件商標は引用商標と類似するものではない。
リ このような類否判断の手法は、以下の先例に鑑みても決して突出したものではない。
最高裁昭和39年(行ツ)第110号に係る昭和43年2月27日第3小法廷判決(乙第35号証)は、「しょうざん」の称呼を生ずる商標と「ひょうざん」の称呼を生ずる商標とは類似しないとしたが、以下の通り判示されている。
「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。…商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違する事その他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。」
この判決は、対比される商標を非類似と判断した数多くの判決に引用されている。以下はその数例である。
[ギベルテイー vs.ギバルテイ](乙第36号証)(東京高裁平成6年(行ケ)第150号 平成7年3月29日判決)。
[スパ vs. スパ-](乙第37号証)(東京高裁平成7年(行ケ)第52号 平成8年4月17日判決)。
[ココ vs ココ](乙第38号証)(東京高裁平成8年(行ケ)第269号 平成9年7月29日判決)。
ヌ 尚、乙第39号証も、同一の称呼「タカラ」を生ずる商標を非類似とした判決である(東京高裁昭和58年(行ケ)第215号 昭和60年10月15日判決)。当該事件では、出願人の使用する商標が周知、著名となっていたことに鑑み、商品の出所につき混同を生ぜしめるおそれがあるとは認め難いから、第三者の所有する登録商標と類似しないと判示されている。叙上の通りであるから、本件商標は引用商標とは非類似であって、法第4条第1項第11号に該当するものではない。本件商標の審査において、引用商標が引用されたが、上申書の形式で意見書を提出することにより、本件商標は登録されている。
ル 請求人は、更に、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当すると主張し、その根拠として、一般の化粧品店では「せっけん」も販売しているところが多く、「せっけん類」に本件商標が使用されると、一般需要者は、引用商標を使用した化粧品との関係で商品の出所の混同を生ずるおそれがあることを挙げる。しかしながら、引用商標との関係で、本件商標が具体的出所の混同を生ずるおそれがあるとする主張の根拠が薄弱である。ましてや、上述の通り、「せっけん」について「cool」、「クール」の文字が顕著性なしとの判断が、特許庁において繰り返しなされてきているところである。請求人の主張は、趣旨不明であって理由がない。
ル 本件商標は引用商標と非類似であり、商品の出所の混同を生ずるおそれもないから、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に該当しない。本件審判の申立は理由がないものとして、その請求を棄却すべきである。
(2) 弁駁に対する第2答弁
イ 請求人は、弁駁の理由第(2)項「被請求人の答弁に対する具体的弁駁1)」において、引用商標は顕著性なき故に本件商標との類否主張の根拠と為し得ないとの被請求人の第一論点に対し、反論を試みているが、全く失当という他はない。殊に、弁駁書第2頁下から第7行目ないし第3頁第19行目にかけて、請求人は、既に消滅した登録第1620743号商標(第27類)「クール クール」の存在を指摘したり、「KOOL」や「KOOL」に他の語を結合した商標が「11類」、「29類」に併存登録されているのに「KOOL」単独の商標の顕著性が失われただろうか等と述べている。しかしながら、被請求人は、本件商標は自己の企業グループに属するブラウン・アンド・ウイリアムソン・タバコ・コーポレーションが製造する著名なたばこ「KOOL」に使用されている商標と同一であり(乙第21号証ないし乙第30号証)、請求人も審判請求書で指摘している通り、本件商標は当該たばこに使用されている商標と同一で、二つの「O」が絡み合ったような独特の構成に係るものであって、本件商標は極めて顕著性が強いから、引用商標に仮に顕著性があったとしても、本件商標とは顕著性に雲泥の差があると主張しているのである。自己の「KOOL」商標に顕著性が無いなどとは一言も言っていない。請求人の主張は、被請求人の主張の論旨の誤解乃至曲解に基づくものであって、不当な論旨のすり替えである。
被請求人は、平成11年2月10日付の審判答弁書(「第一答弁書」)の答弁の理由(3)で述べた通り、商標法第4条第1項第11号に係る請求人の主張に対しては、三段階の論法で反論しているのである。第一に、請求人の引用商標はその指定商品につき顕著性がないから、本来、本件商標と類似する旨の主張の根拠と為し得ない。第二に、仮に引用商標に何がしかの顕著性を認めたとしても、その顕著性は著しく低く、取引実情に鑑みたとき、顕著性において引用商標を遥かに凌駕する本件商標は、外観、称呼、観念の類否判断の三要素を総合勘案すれば、引用商標とは非類似である。
ロ 被請求人の上記第一論点、即ち、引用商標の顕著性についての被請求人の主張をもう一度整理する。「COOL」、「クール」の語は、本件商標査定時には既にその指定商品について取引の実際上顕著性を失っていたという事実、第3類「酸性の染毛剤」を指定商品とする登録第3049141号(乙第8号証)の存在、その他引用商標の指定商品を含む商品について「COOL」、「クール」の語を含む併存登録が多数存在する事実、数年来にわたり特許庁において「cool/クール」の語が顕著性なしとの判断がなされてきている事実を綜合勘案すれば、引用商標は本件商標の査定時には既に顕著性がなく、本来、本件商標との類否を争う根拠と為し得ないものである。「cool」の文字は、「(色が)冷たい、冷色の、(見た目に)涼しそうな、さわやかな」等の意味合いを有する英語であり(乙第1号証)、遅くとも中学校程度において習得され、ほぼ日常語として定着していると言える。よって、「クール」の文字は、その片仮名表記である旨、難なく理解される。引用商標の指定商品は、第2類「眉墨、練紅、アイシヤドウ、其の他本類に属する化粧用染料及び顔料」であるところ、「cool/クール」の文字は、上記の意味合いを有するものであるから、引用商標はその指定商品のうち、寒色の指定商品(青色のアイシャドウ等)、清涼感ある色調の指定商品、或いは涼しげな印象、冷めた印象等を与えるメーキャツプに使用する商品につき、本来顕著性がなく、これ以外の指定商品、寒色に非ざる商品、清涼感のない色調の商品、情熱的な印象を与えるメーキャップに使用する商品等)については、品質の誤認を生じさせるおそれがある過誤登録であるといえる。
請求人は、引用商標の指定商品を含む化粧品について「クール」の語が記述的に使用されている証左として第一答弁書において被請求人が摘示し、「クールでいて華やかな目の覚める色」、「クールなパステルカラー」、「クールな色、ブルーグレー」、「クールな印象」、「クールな目元」等の使用実例につき、これを比喩的、文学的表現であると反論する。しかしながら、需要者は、自己を如何に装うかという化粧品の使用目的、用途等に即して、当該目的、用途等に適った化粧品を選択するのである。「クールな色」、「クールな印象」、「クールな目元」等の語は、文学的表現ではなく、正に化粧品の色彩、色調、用途、効果等の記述である。乙第2号証ないし乙第7号証に記載の用例を総合勘案すれば、「クール」の語が色彩(寒色)、色調を表す話として使用されており、また、商品の用途・効果等(爽快感・清涼感・涼しげな印象を与えるメーキャップ、甘さ、可愛らしさや情熱を抑えて冷めた大人の印象を与えるメーキャップをするために用いる)を表す語としても使用されていることは明白である。以下はその数例である。
a)「地中海を思わせるブルー&グリーン、クールな印象に仕上げたいときに。」(1997年1月31日をカタログ有効期限とする乙第3号証3頁目「EYE SHADOW/アイシャドウセレクト」の項)。「クールな色、ブルーグレーは、目元を涼しく見せる以上にノーブルな印象に」(乙第4号証4頁目右下)。「ピンクのニットにピンクメークでは甘すぎる。ブルーの目元でクールに」(乙第6号証2頁目右下)。「クール」の語は、「ブルー」、「グリーン」、「ブルーグレー」等の色が寒色であること、および当該色のアイシャドウは、目元を涼しく見せ、気高い印象を与えるために使用するという、商品の用途、効果を表す語として使用されている。
b)「色の傾向を一言でまとめるなら ”クールパステル“ 甘さだけが前面に出るのではなく、本来の明るさとクールさを併せ持つ軽やかな色が中心です。」(乙第7号証4頁目右下)。「クールなパステルカラー」、「クールな2色」(1997年1月31日をカタログ有効期限とする乙第3号証2頁目)。
c)「青みを含んだピンクローズ。クールなトーンだけれど、甘さもあるので決まりすぎない。グラスを持つ指先も、自然と女らしくふるまえそう。」(1995年発行の乙第2号証2頁目左下「10 イヴ・サンローラン ネイルラッカー」の項)。「クールなトーン」とは、青みを含んだピンクローズのネイルラッカー」の項)。
上記のような使用例に照らし、本件商標の査定時以前から、取引の実際において、引用商標は、最早その指定商品について顕著性を有しない語として需要者、取引者一般に広く認識され、使用されてきていることが明らかである。尚、第一答弁書に添付の乙第3号証の最終ページに記載の「カタログ有効期限 1997年1月31日」の文字が綴じ方の関係で見えづらいため、ここに改めて最終頁の当該文字を見易いように綴じた乙第3号証を再提出する。
d)更に、第一答弁書において述べた通り、「COLOR」、「STORY」の欧文字を二段に横書し、顕著に表された「COOL」の欧文字及び「ACID HAIR COLOR」の欧文字を2本の横線とともに黒い長方形中に白抜きしてなる登録第3049141号商標が、第3類「酸性の染毛剤」を指定商品として登録されている(乙第8号証)。
「染毛剤」は,引用商標の指定商品中に含まれる「染毛料」(乙第9号証)と同一商品であると思料される。染毛剤には、髪をブルーやグリーン等の寒色に染める為に使用する商品が存在する。登録第3049141号商標が引用商標と併存登録されたという事実は、引用商標が、その指定商品について、査定時には既に色彩、色調、品質等を表わす語として顕著性を失っているとの前提に立った、至極正当な判断がなされたためである。被請求人は、当該事実を不当に等閑視している。
ハ 第一答弁書においても述べた通り、査定時に顕著性がないものと認められる語を類否判断の要部と認定すべきでないことは、「杵屋うどんすき」に係る商標登録無効審判に対する審決取消訴訟事件[東京高裁平成9年(行ケ)第62号(平成9年11月27日判決)、最高裁平成10年(行ツ)第94号(平成10年12月17日第1小法廷判決)](乙第40号証の1および乙第40号証の2)からも類推し得る。
当該事件では、商標「杵屋うどんすき」において、「うどんすき」の語が査定時に普通名称化していたために、これを類否判断の要部とすべきでない旨の判断がなされ、判決が確定している。乙第41号証の審決においても、商標「MASPROの/GPSナビゲータ一」中に含まれる「ナビゲーター」の語は顕著性がないから、上記商標は、登録商標「ナビゲーター」/NAVIGATOR」と非類似であるとの判断がなされている。
ニ 請求人は、被請求人の第二論点、即ち、仮に引用商標に顕著性があったとしても、上記の通り、引用商標の顕著性の程度は極めて低いのに対し、本件商標の顕著性は極めて強く、両商標の顕著性の程度には雲泥の差があるところ、商標の類否は、外観、称呼、観念の類否判断の三要素を総合的に勘案すべきであって、称呼において類似するからといって、本件商標を引用商標と類似であると主張する根拠と為し得ないとの被請求人の主張に対しても反論を試みる。
外観、称呼、観念の一において類似する商標であっても、取引実情に鑑みて商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては、類似商標と判断すべきでないこと(乙第36号証ないし乙第38号証)、同一称呼を生ずる商標であっても、対比される商標の一の著名性に鑑み、非類似の判断がなされ得ること(乙第39号証)は、第ー答弁書に記載の通りである。
請求人は、たばこの「KOOL」商標を知っているのは喫煙者だけであり、その喫煙者も減少していること、「KOOL」商標が被請求人側の商標権者以外の名義で登録されていることを挙げ、引用商標と本件商標の顕著性について、被請求人が主張するほどの差はないと反論する。請求人は、本件商標の著名性につき疑義をはさんでいるが、乙第32号証の1及び乙第32号証の2からも明らかな通り、特許庁においても本件商標と同一構成の商標が著名商標と認定されているところである。
昭和59年発行の乙第26号証からも、遅くとも昭和59年迄には、本件商標と同一構成の商標を使用したたばこが著名商標となっていたことが明らかである。また、たばこの「KOOL」に関する広告は、全国に頒布される新聞や雑誌に掲載されてきた。テレビ広告も行っており、全国各地の鉄道の駅、空港、野球場、ビル等にも広告が掲示されている。乙第42号証は、上記たばこの売上数量、広告費その他の広告資料であり、当該たばこの製造者であるブラウン・アンド・ウイリアムソン・タバコ・コーポレーションの関連会社たるブラウン・アンド・ウイリアムソン・ジャパン・インコーポレーテッドの報告になるものである。新聞、雑誌、テレビ、屋外広告等、一貫して二つの「O」の文字を絡ませた独特の書体からなる「KOOL」商標が使用されていること、広告費、広告媒体の種類、掲示場所等に鑑み、これら広告物が非喫煙者を含む広範な人々の目に触れることは、当該証拠から明白である。また、たばこ「KOOL」自体や、甲第5号証の4、乙第33号証のような上記たばこのキャンペーンからしても、スーパーマーケット、コンビ二等のレジの近くの目立つ所に陳列してあり、これらは容易に非喫煙者の目に入る。現に、乙第33号証は、被請求人代理人の事務所のビルの1階売店の公衆電話の横に置いてあったものである。被請求人の指摘する第三者の「KOOL」商標にしても、登録第655376号のみが僅かに存続しているに過ぎず、他は既に消滅している。二つの「O」の文字を絡ませてなる、他に類を見ない独特の書体を用いた被請求人側の「KOOL」商標の著名性に比肩し得るような第三者の商標は、存在しない。
ホ 本件商標と引用商標の類否判断に際しては、本件商標の著名性に加えて、以下の商品取引の実情も考慮すべきである。化粧品の分野においては、雑誌その他により膨大な商品情報が流布されており、昨今の需要者等は豊富かつ詳細な商品知識を有している。また、化粧品に係る事故が過去に多発していたため、需要者等は、化粧品の製造者、販売者、即ち商品の出所に細心の注意を払って商品を購入する。需要者等は、自己の使用目的、流行、肌質等に適した商品を選択するため、商品を手に取って、その色彩、品質、製造者、価格等を吟味して購入するのが常態である。所謂対面販売であれば、販売員が商品説明を行ったり、試用させる。然らざる場合であっても、引用商標の指定商品に属する商品を例に取れば、需要者等は、口紅やアイシャドウ等の色彩、のびの良し悪しといった品質は言うに及ばず、製造者、価格等をも総合的に考慮して商品を購入するのである。例えば、商品が廉価であれば、所謂著名ブランドや大会社の商品でなくとも、多少の冒険をして奇抜な色彩の商品を購入したりする訳である。需要者等は、上記のように様々なファクターを考慮に入れ、商品を購入するのである。よって、今日の需要者等の注意力は、極めて高度なものとなっている。取引者にしても、製造者の数や商品の種類が膨大であるため、複数の製造者の商品を扱う取引者が、商品名のみに頼って取引することは希であろう。受注、発注に際し、商品の製造者を限定した上で、更に商品名、品番等を限定するのが常態であると思料される。伝票等による取引確認を行うことは言うまでもない。本件商標と引用商標との顕著性の差及び上記商品取引の実情に鑑みれば、本件商標は、引用商標との関係で、乙第36号証乃至乙第39号証の判決にいうところの商品の出所に誤認混同をきたすおそれがないから、本件商標は引用商標とは非類似である。
ヘ 乙第36号証、乙第38号証、乙第39号証の事案は、対比される商標がいずれも顕著性を有することが明瞭な事案である。乙第37号証は、「SPA」の語の顕著性に多少問題のあった事案である。然るに、顕著性に問題のある商標に係る類否判断につき、最近、注目すべき新たな判決が出ている。大阪地裁平成9年(ワ)第5752号商標権侵害差止請求事件において、大阪地裁は、「河内ワイン」の文字のみからなる商標(以下の引用判決文中「別紙第二目録記載」の「本件第二商標」)他一件の商標に係る商標権に基づく差止請求を認めないとしたが、その判決(平成11年1月26日判決)(乙第43号証)において、以下の判示がなされている。「原告は、本件登録商標の類似の範囲は、その態様を問わず、『河内ワイン』の文字を使用したものすべてに及ぶと主張するので、まず、この点について検討する。・・・認定した事実に寄れば、本件第一商標及び本件第二商標中の『河内ワイン』の文字(その称呼及び観念)は、河内地方で産出したぶどうから作られたぶどう酒又は河内地方で醸造されたぶどう酒を指す普通名称ないし産地表示あるいはそのような商品の内容を説明的に記述したものであって、この文字部分は自他商品識別機能を有しないものと認められるから、この文字部分を本件登録商標の要部ということはできない。・・・本件登録商標の構成中、『河内ワイン』の文字部分については、前記2で判断したとおり、自他商品識別機能を有せず、本件登録商標の要部ということはできないので、本件登録商標が自他商品識別機能を有するとしても、本件第一商標については、『河内ワイン』の文字の配置態様、外形及び背景の図柄等の別紙第一商標目録記載の全体の構成が一体となって、また、本件第二商標については、『河内ワイン』の文字の具体的配置態様、外観等からなる別紙第二商標目録記載の全体の構成が一体となって、初めて自他商品識別機能を有するに至っているものというべきである。・・・そこで、本件登録商標と被告標章を対比すると,本件登録商標と被告標章とは、本件登録商標の『河内ワイン』の文字部分と被告標章の『河内ワイン』及び『Kawachi Wine』の文字部分の称呼、観念が同一であるのみであり、その他に共通する部分はないと認められる。そして、本件登録商標中の『河内ワイン』の文字部分は、前記2で認定したとおり、自他商品識別機能が認められない部分であるから、右の部分を共通するだけで、他に共通する部分がない本件登録商標と被告標章が類似するものということはできない。したがって、商標権に基づく原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。」との判旨は、「本来的に顕著性なき商標についての登録は、過誤登録であるから類否判断の根拠とすべきでない。仮に当該登録商標に顕著性を認めるにしても、擬制された顕著性は、当該商標が登録された通りの具体的構成態様(外観)にのみ限定的に存すると判断すべきである。当該登録商標と同一の称呼、観念を生ずる商標であっても、外観において非類似であれば、外観、称呼、観念の三要素の総合判断において、当該登録商標とは全体として非類似と判断すべきである。」との趣旨であろう。「杵屋うどんすき」の事件においても、「うどんすき」の語は引用商標1乃至3と同一の称呼、観念を生ずるものである。殊に引用商標1は、「うどんすき」の片仮名文字をも含んでいる。東京高裁判決では、登録商標「杵屋うどんすき」と引用商標1乃至3との類否判断に当たり、「うどんすき」の文字は査定時に普通名称化しており、その指定商品との関係においては自他商品の識別機能を有しないから、「杵屋うどんすき」と引用商用1乃至3は外観、称呼、観念において非類似である旨認定されている。上記判示においては、引用商標1及び引用商標2、並びに引用商標3中の「うどん寿貴」の文字は、その登録された通りの具体的構成態様(外観)にのみ顕著性が存するとの認定が前提となっているものと思料する。「河内ワイン」に関する大阪地裁判決は、「杵屋うどんすき」事件に係る東京高裁判決の底流をなす上記認定を、正面から判示したものである。第3類「酸性の染毛剤」を指定商品とし、「COOL」の文字を構成中に含む録第3049141号(乙第8号証)が登録されているのも、「杵屋うどんすき」、「河内ワイン」に係る上記事件以前に、既に特許庁において、東京高裁、最高裁、大阪地裁におけると同様の判断がされていたためである。本件においても、同様の判断がなされたため、外観、観念において引用商標とは全く異なる本件商標が登録されたのである。その登録に何らの瑕疵はない。
第一答弁書において、被請求人は、答弁の理由第(7)項、第9頁下から4行目ないし最終行にかけて、「今日、取引実情に鑑みて、引用商標の登録はもはや形骸化しているが、仮にその登録の実質的意義を認めねばならないとすれば、引用商標は、これが登録されたと同一の形態(外観)にのみ僅かに権利範囲が存するというべきである」と述べた。大阪地裁の上記判決は、「杵屋うどんすき」に係る東京高裁判決及び最高裁判決を受け、その流れに沿ったものであり、これら判決における判示は、被請求人の上記主張を補強するものである。
ト 尚、更に附言すれば、請求人は、弁駁書第2頁第5行目乃至第9行目にかけて、引用商標は現に登録されている商標であること、継続して使用しており、消費者、業者間でよく知られていること、3回更新登録をしていることを挙げ、これをもって引用商標は外観、称呼、観念の全ての点において顕著性があると主張しているようである。しかしながら、「杵屋うどんすき」事件において、引用商標1乃至3は、登録商標であり、殊に引用商標1及び2は、設定登録後2回にわたり更新登録がなされている。「河内ワイン」事件においても、引用商標は登録商標である。引用商標が登録商標であっても、また更新登録されていても、これに拘わりなく上述の通りの判決がなされている。請求人の主張は、全く根拠がない。請求人は、登録商標であれば全てこれに基づく類似の主張が可能であるかのような誤解をしているようであるが、登録商標が全て他の商標との類否判断の根拠となる訳ではないことは、上記乙第41号証の審決からも明らかである。登録商標といえども、判断基準時において顕著性を失ったものとして認識される場合が存することは、乙第44号証および乙第45号証からも窺われる。乙第44号証の事件においては、登録商標「ORGANIC」と「ORGANIC BEER」を非類似と判断し、乙第45号証の事件においては、登録商標「SYSTEMDIARY」および「システムダイアリー」に基づく「システムダイアリー」の語の使用に対する権利行使を認めないとしている。
引用商標はその指定商品のうち、寒色の指定商品(青色のアイシャドウ等)、清涼感ある色調の指定商品、或いは涼しげな印象・冷めた印象等を与えるメーキャップに使用する商品につき、本来顕著性がないこと前述の通りである。称呼同ーであることのみをもって、本件商標が引用商標と類似であるとする請求人の主張は、先例に逆らう主張であって、全く根拠がない。ましてや、上記以外の指定商品(真紅の練紅等、寒色に非ざる商品、清涼感ある色調に非ざる商品、情熱的な印象を与えるメーキャップに使用する商品等)については、品質の誤認を生じさせるおそれがある過誤登録であるから、なおさらこれを類否判断の根拠とすべきでない。
チ 以上要するに、引用商標はその指定商品につき顕著性がなく、また商品の品質の誤認を生ずるおそれのある商標であるから、本来的に類否判断の根拠とすべきでない。仮に引用商標に顕著性を認めるとしても、登録された通りの文字の具体的構成態様、即ちその外観にのみ顕著性が存すると解すべきである。
一方、本件商標は著名商標であって、顕著性の程度において引用商標を遥かに凌駕する。取引の実情を勘案し、かつ外観、称呼、観念を総合判断すれば、本件商標は引用商標とは一般的出所の混同を生ずるおそれが全くない非類似商標である。
リ 商標法第4条第1項第15号に基づく請求人の主張は、何ら具体的根拠が示されていないからその理由が無いことは、第一答弁書に記載の通りである。
ヌ 本件商標は引用商標と非類似であり、商品の出所の混同を生ずるおそれもないから、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に該当しない。本件審判の申立は理由がないものとして、その請求を棄却すべきである。

5 当審の判断
(1)本件商標と引用商標との類否を判断するに、本件商標は、別掲に表示したとおり長方形の図形内にレタリング化した欧文字を表してなるものであるが、レタリング技術が発達した今日、該商標に接する取引者・需要者は、該文字部分は欧文字の「KOOL」を表したものと容易に看取するとみるのが相当である。
そうとすれば、本件商標は、「KOOL」の文字に相応して「クール」の称呼を生じ、特定の観念を生じさせない造語を表したものとみるのが相当である。
他方、引用商標は「cool」「クール」の各文字を二段に書してなるものであるから、これよりは「クール」の称呼と「涼しい、冷たい」等の意味合いを看取させるものというのが相当である。
そうとすれば、本件商標と引用商標は「クール」の称呼を同じくする商標ということができる。
(2)しかしながら、商標の称呼、外観、観念の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、上記三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違する事その他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。このことは「最高裁判所の昭和39年(行ツ)第110号判決」(「しょうざん」「ひょうざん」)判決でも「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。・・・商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違する事その他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。」と判示しているところである。
(3)そして、本件商標と引用商標とは、共に「クール」の称呼を生ずる商標であるが、両商標は、上記のとおりの構成よりなり、その外観及び観念が著しく相違するものである。
(4)本件商標は、被請求人若しくは同人と関係を有する企業が「タバコ」に使用する商標として、一般需要者に広く認識されている商標と認められるものである。
(5)加えて、化粧品は、その商品が自己の肌質に合うか否かを直接手に取り、品質、色彩、製造者、価格等を慎重に吟味し購入する傾向が強い商品であるところから、商標の類否判断における称呼の類似性の評価は相対的に低いといい得るものである。また、被請求人の提出している乙第2号証ないし同第7号証をみるに、「見た目には涼しそうな、さわやかな」等の意味を有する英語の「COOL」に通ずる「クール」の語は、本件商標の登録査定時に、化粧品を取り扱う業界において、「クールな色」「クールでかつシックなメーク」等、「口紅、アイシャドウ」の品質を表現する語の一つとして普通に使用されているものであるから、自他商品の識別標識としての機能を有しないか、その機能が極めて弱いものであるということができる。
(6)以上の事項を総合勘案すれば、化粧品又はこれに類似する商品について本件商標と引用商標が使用されても、需要者は同じ出所に係る商品であるかのように誤認混同するおそれはないものと判断するのが相当であるから、本件商標は引用商標と非類似の商標というべきである。
(7)本件商標と引用商標とは、上記認定のとおり非類似の商標であって、化粧品又はこれに類似する商品について使用しても、出所混同のおそれがなく、また、請求人は引用商標に関しその著名性を立証していないから、本件商標を引用商標の指定商品と生産者、需要者等を異にする非類似の商品と認められる「せっけん類」に使用しても、取引者、需要者が、本件商標より請求人の引用商標を連想想起し、その商品が請求人の商品であるが如く、その商品の出所について誤認混同するおそはないものと認められる。
(8)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号および同第15号に違反して登録されたものではなく、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する
審理終結日 2001-08-02 
結審通知日 2001-08-07 
審決日 2001-11-20 
出願番号 商願平5-24852 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (003)
T 1 11・ 271- Y (003)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八木橋 正雄 
特許庁審判長 寺島 義則
特許庁審判官 佐藤 久美枝
上村 勉
登録日 1998-04-17 
登録番号 商標登録第4136790号(T4136790) 
商標の称呼 クール 
代理人 中田 和博 
代理人 鈴木 薫 
代理人 柳生 征男 
代理人 青木 博通 
代理人 足立 泉 
代理人 西沢 茂稔 

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